説明

配管用支持金具

【目的】 配管を床、壁面に対して所定の間隔に容易に調整できて精度よく支持することが可能となり、配管の荷重に対して十分な強度を有して確実に固定することができる配管用支持金具を提供することにある。
【構成】 斜め方向に開口した第1の長孔を一つ以上有したL字形状の固定体と、前記第1の長孔と対をなし、その開口方向と交差する方向に開口した第2の長孔を有した逆L字形状の可動体とを、前記固定板と可動板とを重ね合わせて略コの字形状とし、前記第1の長孔と第2の長孔の交差部分に形成される貫通孔に挿通するボルトと該ボルトに螺着するナットにより締結した構成に前記固定体に対する可動体の水平移動を抑止する抑止手段を具備した構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はコンクリート構造物の床面や壁面に沿って所望の間隔で配管を支持、固定するための配管用支持金具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の金具として、第11図に示すように、断面略コの字形状の本体の上板に配管を固定するUボルトを取付けるための長孔を形成し、下板にはアンカー固定用透孔を形成したベース金具があり、下板のアンカーの固定孔を介して、コンクリートに埋設したアンカーにボルト止めして固定すると共に、上板に配管を載置し、その上からUボルトを挿着し、長孔を介して締付ナットにより固定して使用するものである。
また、この種の配管支持金具において支持する配管の高さを調整する方法として、例えば、特開昭56−59083号や特開平06−193772号に開示されているように、2枚の板材を重合し、一方に鉛直方向の長孔、他方に同様の長孔あるいは丸孔を設けて、それら長孔が重なり合って形成される貫通孔にボルトを挿入、反対側から締付ナットを螺着して、ボルトと締付ナットの緊緩により2枚の板材の接合位置を変えて高さを調整する方法が一般的である。
また、別の方法として、特開2001−32807号、特開2003−335477号が開示されており、2枚の板材の一方に斜め方向に開口した長孔を設け、他方にはその長孔と開口方向が反対となる長孔を設け、その交差部に形成される貫通孔にボルトを挿入、反対側から締付ナットを螺着して、それらボルトと締付ナットの緊緩により2枚の板材の接合位置を変えて調整する方法が開示されている。
【特許文献1】特開昭56−59083号
【特許文献2】特開平06−193772号
【特許文献3】特開2001−32807号
【特許文献4】特開2003−335477号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の方法の課題について、従来、一般的に使用されているベース金具は高さ調整ができないため配管の高さ位置に合わせたものを用意して使用していたが、コンクリート床に部分的な段差が生じた場合など数種類の高さのものを用意する必要があり、非常に不便で、しかも、微細な高さ設定ができないので施工精度が確保できない問題点があった。
また、断面L字形状の固定部と断面逆L字形状の支持部により、互いの側板を重合し、それら側板にそれぞれ設けた鉛直の長孔の重合部分となる貫通孔にボルトを挿入、反対側から締付ナットを螺着して、それらボルトと締付ナットの緊緩により固定部と支持部の接合位置を変えて調整するという従来から採用されている接合方法からなる構成も考慮した。
しかし、この方法では長孔が鉛直方向に設けられるために、配管を載置する支持部に掛かる鉛直方向の荷重に対してボルト及び締付ナットの緊締力のみで支えることとなり支持強度が不足するという問題が発生した。
そこで、前記固定部と支持部の両側板にそれぞれ設けた鉛直の長孔を一方に斜め方向に開口した長孔を設け、他方にはその長孔と開口方向が反対となる長孔に変更した方法も考慮した。
この方法であれば、鉛直方向の荷重に対してボルトの側面が長孔の周縁に当接するので下方へのすべりが抑制され、鉛直の長孔を設けた場合と比較して支持強度が有利になるが、固定部と支持部が調整方向として必要とする上下方向以外の水平方向や斜め方向にも移動して配管の長手方向の芯位置がずれてしまい、水平方向の位置調整が必要となり非常に作業の手間になるなどの問題点があった。
【0004】
この発明は上記従来の課題に鑑みなされたもので、その目的は、配管を床、壁面に対して所定の間隔に容易に調整できて精度よく支持することが可能となり、配管の荷重に対しても十分な強度を有して確実に固定することができる配管用支持金具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
その手段として、本発明の請求項1は、斜め方向に開口した第1の長孔を一つ以上有した固定板を基板の一端から上方に向かって垂設したL字形状の固定体と、前記第1の長孔と対をなし、その開口方向と交差する方向に開口した第2の長孔を有した可動板を配管支持板の一端から下方に向かって垂設した逆L字形状の可動体とを、前記固定板と可動板とを重ね合わせて略コの字形状とし、前記第1の長孔と第2の長孔の交差部分に形成される貫通孔に挿通するボルトと該ボルトに螺着するナットにより締結した構成に前記固定体に対する可動体の水平移動を抑止する抑止手段を具備したことを特徴とする。
【0006】
本発明の請求項2は、前記抑止手段として、前記固定板又は可動板のどちらか一方の両端にもう一方の両端縁が内側に納まるL字状の突出片を屈曲して設けた構成であることを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項3は、前記抑止手段として、前記固定板に上下方向に伸延する凹溝部又は突起部のどちらか一方を設けると共に、前記可動板には他方となる前記凹溝部に嵌合する突起部又は突起部に外嵌する凹溝部を設けた構成であることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項4は、前記固定板の第1の長孔又は可動板の第2の長孔の近傍にはボルトの頭部が当接する当接部を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1によれば、支持金具本体を斜め方向に開口した第1の長孔を一つ以上有した固定板を基板の一端から上方に向かって垂設したL字形状の固定体と、前記第1の長孔と対をなし、その開口方向と交差する方向に開口した第2の長孔を形成した可動板を配管支持板の一端から下方に向かって垂設した逆L字形状の可動体とを、前記固定板と可動板とを重ね合わせて略コの字形状とし、前記第1の長孔と第2の長孔の交差部分に形成される貫通孔に挿通するボルトと該ボルトに螺着するナットにより締結したことによりボルトとナットの緊緩により上下に移動可能となるので、無段階の高さの調整が可能となり、精度よく配管を支持することができる。
【0010】
前記固定板に対する可動板の水平移動を抑止する抑止手段を具備したことにより重合する固定板と可動板とを摺動させて高さ調整する際に、可動板の水平方向への移動を規制し、上下方向にのみ移動させることができるために配管の長手方向の位置調整が不要となる。
【0011】
固定体と可動体を固定体の固定板に設けた斜め方向に開口した第1の長孔と可動体の可動板に設けた前記第1の長孔と交差する方向に開口した第2の長孔の交差部分に形成される貫通孔に挿通するボルトと該ボルトに螺着するナットにより締結したことにより、鉛直方向の荷重に対してボルトの側面が各長孔の周縁に当接するので下方へのすべりが抑制され、鉛直の長孔を設けた場合と比較して支持強度が有利になる。
【0012】
本発明の請求項2によれば、前記抑止手段として、前記固定板又は可動板のどちらか一方をもう一方の両端縁が内側に納まるようにL字状の突出片を両端に屈曲して設けた構成であることにより、重合する固定板と可動板とを摺動させて高さ調整する際、例えば、可動板の両端に突出片を設けた場合であれば、固定板の両端縁が可動板の両端に設けたL字状に屈曲する突出片に沿わせて上下方向にのみ移動させることができるために配管の長手方向の位置調整が不要となる。
また、固定板の両端に突出片を設けた構成の場合であっても同様の効果を得ることができる。
【0013】
本発明の請求項3によれば、前記抑止手段として、前記固定板に上下方向に伸延する凹溝部又は突起部のどちらか一方を設けると共に、前記可動板には他方となる前記凹溝部に嵌合する突起部又は突起部に外嵌する凹溝部を設けた構成であることにより、重合する固定板と可動板を摺動させて高さ調整する際、例えば、固定板に凹溝部を設け、可動板に突起部を設けた場合であれば、前記凹溝部に前記突起部が嵌合することで水平方向の移動を規制して上下方向にのみ移動させることができるために配管の長手方向の位置調整が不要となる。
また、固定板に突起部を設け、可動板に凹溝部を設けた構成の場合であっても同様の効果を得ることができる。
【0014】
本発明の請求項4によれば、前記固定板の第1の長孔近傍にはボルトの頭部が当接する当接部を形成したことで、ボルトの頭部の一片が当接部に当接して回転を規制することで、ナットを締付ける際にボルトの共回りを防止することができ、作業効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の好適な実施形態を添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係る配管用支持金具の第1実施例を示す斜視図であり、図2はその正面図、図3はその側面図、図4は説明図である。
【0016】
10は鋼板を略L字形状に折り曲げて形成した固定体であり、基板11と固定板12とから構成され、基板11にはボルトを挿通してコンクリートに埋設するアンカーに螺着、固定するためのアンカー止め用透孔13、13を設ける。
14、14は固定板に設けたほぼ45度斜め方向に開口した第1の長孔であり、ハの字型に形成されるように2ヶ所設ける。
また、図5に示すように、第1の長孔をほぼ45度斜め方向に開口すると共に、平行な状態で2ヶ所に設けてもよい。
15、15は第1の長孔14、14の近傍を長手方向に沿って膨出して設けた当接部であり、該第1の長孔に挿入する六角ボルト30の、六角形状の頭部の一辺が当接することで、ナット31を締め込んだ際の共回りをすることができる。
16、16は突出片であり、固定板12の両端を可動板22側にL字状に屈曲して形成する。
【0017】
20は鋼板を略L字形状に折り曲げて形成した可動体であり、配管支持板21と可動板22とから構成され、配管支持板21には配管を固定するUボルトの両脚を挿入して固定するための配管固定用長孔23、23を設ける。
24、24は固定板12にハの字型に設けた第1の長孔14、14と90度に交差する方向に開口する第2の長孔である。
25、25は両端に設けた突出片であり、固定板12の両端に形成した突出片16、16の内壁に安定して沿うことができる。
30は六角ボルトであり、第1の長孔14、14と第2の長孔24、24の交差部分の貫通孔に挿入して、反対側からワッシャ32を挿入し、更にその外側からナット31を螺着して固定体10と可動体20を締結する。
【0018】
第1の長孔と第2の長孔の開口の角度及び交差する角度について、長孔の斜め方向の角度が45度より大きくなれば、高さ方向の調整代は大きくなるが、ボルトのすべりに対する抵抗力は弱くなり、反対に45度より小さくなれば高さ方向の調整代は小さくなるがボルトのすべりに対する抵抗力は強くなる。
また、第1の長孔と第2の長孔の水平方向の交差角度が小さく、垂直方向の交差角度が大きくなれば、高さ方向の調整代は短くなるがボルトのすべりに対する抵抗力は強くなり支持強度が増加するが、反対に水平方向の交差角度が大きく、垂直方向の交差角度が小さくなれば、高さ方向の調整代は長くなるがボルトのすべりに対する抵抗力は小さくなり支持強度は減少する。
すなわち、第1の長孔と第2の長孔の開口角度、交差角度は支持金具を使用する目的、用途、場所等により必要とされる高さの調整範囲、配管の支持強度から設定することができる。
【0019】
次に、本発明の第2実施例を説明する。
図6は本発明の第2実施例を示す斜視図であり、図7はその正面図、図8はその側面図、図9は説明図である。
50は鋼板を略L字形状に折り曲げて形成した固定体であり、基板51と固定板52とから構成され、基板51にはボルトを挿通してコンクリートに埋設するアンカーに螺着、固定するためのアンカー止め用透孔53、53を設ける。
54は固定板の中央に設けたほぼ45度斜め方向に開口した第1の長孔である。
55は第1の長孔54の近傍を長手方向に沿って膨出して設けた当接部であり、該第1の長孔に挿入する六角ボルト30の、六角形状の頭部の一辺が当接することで、ナット31を締め込んだ際の共回りをすることができる。
56、56は突起部であり、固定板52の第1の長孔54の両側に重合する可動板62の方向に縦長状に膨出して一体的に形成する。
【0020】
60は鋼板を略L字形状に折り曲げて形成した可動体であり、配管支持板61と可動板62とから構成され、配管支持板61には配管を固定するUボルトの両脚を挿入して固定するための配管固定用長孔63、63を設ける。
64は固定板52の中央に設けた第1の長孔54と90度に交差する方向に開口する第2の長孔である。
65、65は凹溝部であり、固定板52の突起部56、56にそれぞれ対向する位置にへこませて一体的に形成し、それら突起部56、56に嵌合させることで可動体60の水平移動を抑止することができる。
30は六角ボルトであり、第1実施例と同様に、第1の長孔54と第2の長孔64の交差部分の貫通孔に挿入して、反対側からワッシャ72を挿入し、更にその外側から締付けナット71を螺着して固定体50と可動体60を締結して構成する。
【0021】
次に本発明の使用方法を第1実施例により詳細に説明する。
図10は本発明の第1実施例の使用状態図であり、コンクリートスラブA上の所定位置に本発明の支持金具を配置し、予めコンクリートスラブA内に埋設したアンカーに固定体10の基板11に設けたアンカー止め用透孔13、13を介して固定ボルトBを締付けて固定する。
可動体20を上下に摺動して所定の高さに調整を行い、第1の長孔と第2の長孔に貫通孔に挿入した六角ボルト30に螺着したナット31をそれぞれ締付けて固定する。
配管支持板21に配管Cを載置し、その配管Cの上方からU型ボルトDを配管固定用長孔23に挿通して、下面から締付ナットEをそれぞれ締付けて配管Cを所定の高さで支持、固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施例を示す斜視図
【図2】本発明の第1実施例を示す正面図
【図3】本発明の第1実施例を示す側面図
【図4】本発明の第1実施例を示す説明図
【図5】本発明の長孔の別形態を示す正面図
【図6】本発明の第2実施例を示す斜視図
【図7】本発明の第2実施例を示す正面図
【図8】本発明の第2実施例を示す側面図
【図9】本発明の第2実施例を示す説明図
【図10】本発明の第1実施例の使用状態図
【図11】従来例を示す斜視図
【符号の説明】
【0023】
10 固定体
11 基板
12 固定板
13 アンカー止め用透孔
14 第1の長孔
15 当接部
16 突出片
20 可動体
21 配管支持板
22 可動板
23 配管固定用長孔
24 第2の長孔
25 突出片
30 六角ボルト
31 ナット
32 ワッシャ
A コンクリートスラブ
B 固定ボルト
C 配管
D Uボルト
E 締付ナット





【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜め方向に開口した第1の長孔を一つ以上有した固定板を基板の一端から上方に向かって垂設したL字形状の固定体と、前記第1の長孔と対をなし、その開口方向と交差する方向に開口した第2の長孔を有した可動板を配管支持板の一端から下方に向かって垂設した逆L字形状の可動体とを、前記固定板と可動板とを重ね合わせて略コの字形状とし、前記第1の長孔と第2の長孔の交差部分に形成される貫通孔に挿通するボルトと該ボルトに螺着するナットにより締結した構成に前記固定体に対する可動体の水平移動を抑止する抑止手段を具備したことを特徴とする配管用支持金具。
【請求項2】
前記抑止手段として、前記固定板又は可動板のどちらか一方の両端にもう一方の両端縁が内側に納まるL字状の突出片を屈曲して設けた構成であることを特徴とする請求項1に記載の配管用支持金具。
【請求項3】
前記抑止手段として、前記固定板に上下方向に伸延する凹溝部又は突起部のどちらか一方を設けると共に、前記可動板には他方となる前記凹溝部に嵌合する突起部又は突起部に外嵌する凹溝部を設けた構成であることを特徴とする請求項1に記載の配管用支持金具。
【請求項4】
前記固定板の第1の長孔又は可動板の第2の長孔の近傍にはボルトの頭部が当接する当接部を形成したことを特徴とする請求項1から3に記載の配管用支持金具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−281083(P2008−281083A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124824(P2007−124824)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000157197)丸井産業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】