説明

配線の形成方法

【課題】導電性ペーストを用いた配線を、導通を損ねることなく形成する配線の形成方法を提供する。
【解決手段】金属粉末、ガラス粉末、及び、バインダー樹脂を含み、該バインダー樹脂を脱バインダー焼成により除去した後、脱バインダー焼成温度以上の温度で本焼成を行う高温焼成型の導電性ペースを用いた配線の形成方法であって、金属粉末が銀あるいは銅からなり、更に、ホウ素あるいはホウ素合金粉末を含み、導電性ペーストを、絶縁性の基体上に配線の形状に塗布する工程と、脱バインダー焼成を、酸素を含んだ雰囲気で行い、その後、本焼成を、不活性ガス雰囲気で行い、導電性ペーストを用いた配線を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペーストを用いた配線の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ペーストを用いて、配線等のパターンを形成する技術が古くから知られている。導電性ペーストに用いられる金属粉末としては、Ag、Cu、Au、Ni、Pt、Pd等の金属、あるいはこれらの合金、または、これらの金属と合金との組み合わせが知られている。コスト及び抵抗の低さから、導電性金属としては、銀(Ag)あるいは銅(Cu)を用いる導電性ペーストが一般的に用いられている。
【0003】
また、導電性ペーストには、低温焼成型の導電性ペーストと、高温焼成型の導電性ペーストとがある。低温焼成型の導電性ペーストは、導電性金属の粉末、バインダー樹脂及び溶剤とから構成されている。
【0004】
一方、高温焼成用の導電性ペーストは、特許文献1に開示される、銅粉末と有機樹脂バインダーとからなるタイプと、特許文献2に開示されている銅粉末、ガラス粉末、および、有機樹脂バインダーから構成されているタイプとがある。
【0005】
低温焼成性型の導電性ペーストの焼成は、バインダー樹脂の硬化温度、即ち、低温(200℃以下)で焼成できることから、プリント基板等の、樹脂製の基板に使用される。
【0006】
これに対し、高温焼成型の導電性ペーストは、特許文献1に開示される、銅粉末とバインダー樹脂とからなるタイプでは450℃以上の高温でバインダー樹脂の除去と焼成を行うことが開示されている。これに対し、特許文献2に開示されている導電性金属の粉末、ガラス粉末、有機樹脂バインダーからなるタイプの場合、焼成を450℃以上の温度で行う本焼成よりも低い温度でバインダー樹脂を除去する脱バインダー焼成を行った後、本焼成を行うことが好ましいことが開示されている。
【0007】
高温焼成型の導電性ペーストの場合、高温で焼成が行われるため、セラミック基板等の高温(450℃以上)に耐えられる基板に対して用いられることが多い。
【0008】
更に、高温焼成型の導電性ペーストは、低温焼成型の導電性ペーストよりも低抵抗な配線を得ることができることが知られている。
【0009】
しかしながら、銀・銅は、酸化し易いことから、焼成により酸化し抵抗が高くなることがあった。このために、特許文献1に、焼成を窒素雰囲気中で行うことが開示されている。
【0010】
これに対し、低温焼成型の導電性ペーストではあるが、導電性金属(銀)粉末に加えて、ホウ素系成分を配合する技術が特許文献3に開示されている。特許文献3の導電性ペーストは、熱可塑樹脂からなるバインダー樹脂を、樹脂が硬化する温度で、大気中で硬化させる。硬化時に、大気中の酸素によりホウ素系の成分が酸化され、導電性ペーストの硬化面に緻密なホウ素の酸化被膜が形成され、その結果、導電性金属粉末の酸化を防止するとともに、ペースト硬化物内部への湿気の侵入が防止されることが開示されている。
【特許文献1】特開2000−76631号公報
【特許文献2】特開2004−29839号公報
【特許文献3】特開平06−162819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、基板上に高温焼成型の導電性ペーストを用いた配線を形成する場合、導電性の金属が銅あるいは銀のように酸化し易い金属の場合、その後の熱処理工程、あるいは、使用中に抵抗が高くなる場合があった。さらに、基板上に形成された、銅あるいは銀を主体とする配線上に、銅あるいは銀を用いた高温焼成型の導電性ペーストからなる配線を形成する場合も同様に、焼成過程、あるいは、使用中に、接触抵抗が高くなる、あるいは、電気的な導通が取れなくなるという問題が発生する場合があった。
【0012】
この原因は、高温焼成型の導電性ペーストからなる配線、あるいは、高温焼成型の導電性ペーストからなる配線と基板上に形成された配線との接合部の界面が酸化されたことが原因と思われる。
【0013】
本発明は、高温焼成型の導電性ペーストを用いた配線を、導通を損ねることなく形成する配線の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、金属粉末、ガラス粉末、及び、バインダー樹脂を含み、該バインダー樹脂を脱バインダー焼成により除去した後、脱バインダー焼成温度以上の温度で本焼成を行う高温焼成型の導電性ペーストを用いた配線の形成方法であって、
金属粉末が銀あるいは銅からなり、更に、ホウ素あるいはホウ素合金粉末を含み、
導電性ペーストを、配線の形状に塗布する工程と、
脱バインダー焼成を、酸素を含んだ雰囲気で行い、
その後、本焼成を、不活性ガス雰囲気で行い、導電性ペーストを用いた配線を形成することを特徴とする配線の形成方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高温焼成型の導電性ペーストを用いた配線を、導通を損ねることなく形成する配線の形成方法を提供することができる。更に、本発明の配線の形成方法を用いることで、基板上に形成された、銅あるいは銀のように酸化されやすい配線と接合する導電性ペーストを用いた配線を、導通を損なうことなく形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
ガラス粉末、バインダー樹脂、及び、銀あるいは銅のように酸化しやすい金属からなる金属粉末と、更に、ホウ素あるいはホウ素合金粉末と、を含む高温焼成型の導電性ペーストを用い、絶縁性の基体上に配線を形成する場合、
バインダー樹脂を、酸素を含んだ雰囲気で除去(脱バインダー焼成と称す)した後、窒素雰囲気(アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気であっても良い)中で脱バインダー焼成温度以上の温度で、本焼成を行うことで配線の形成を行うことで配線の酸化が防止できることを知見した。
【0017】
これは、酸素雰囲気で脱バインダー焼成を行うことで、バインダー樹脂が除去された配線表面に、表面が酸化したホウ素あるいはホウ素合金粉末の膜が形成される。この膜が、その後の窒素あるいは不活性ガス雰囲気中で行う本焼成によっても維持されると思われる。
【0018】
絶縁性の基体としては、本焼成の温度に耐える絶縁性の基板、あるいは、該絶縁性の基板、半導体基板、あるいは、導電性基板上に設けられた絶縁膜であることが好ましい。
【0019】
絶縁性の基板としては、セラミック基板、ガラス基板を用いることが好ましく、半導体基板としては、シリコン基板、あるいはGaAs等のIII−V族化合物半導体用の基板等が好ましく、導電性基板としては、ニッケル、アルミ等の金属性基板が好ましい。また、絶縁性の基板、半導体基板、導電性基板に設けられる絶縁膜としては、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜等のシリコン系の絶縁膜あるいは、ガラスからなる絶縁膜であることが好ましい。
【0020】
ガラス基板としては、無アルカリガラス基板、ホウケイ酸ガラス基板、ソーダライムガラス基板等を使用することができる。
【0021】
本発明の配線の形成方法によれば、絶縁性の基体上に形成された銅あるいは銀のような酸化され易い金属からなる配線上に、上述の導電性ペーストを用いた配線を形成しても接合部の導通が劣化することを防止することができる。これは、脱バインダー焼成のように低温で行われる焼成では、配線の酸化が、ほとんど進行せず、本焼成のように高温で行われる焼成が窒素あるいは不活性雰囲気中で行われることによるものと思われる。
【0022】
更に、基板上に形成された配線の側面を導電性ペーストによる配線が覆うようにすることで、導電性ペーストによる配線と、基板上に形成された配線との接合部の酸化の進行を更に防止できることが知見された。
【0023】
また、基板上に形成された上述の配線と導電性ペーストを用いた配線とを形成した後、配線の接合部に絶縁性ペーストを配することも、接合部の酸化の進行を防止する効果があることが知見された。
【0024】
即ち、本発明は、
金属粉末、ガラス粉末、及び、バインダー樹脂を含み、該バインダー樹脂を脱バインダー焼成により除去した後、前記脱バインダー焼成温度以上の温度で本焼成を行う高温焼成型の導電性ペーストを用いた配線の形成方法であって、
金属粉末が銀あるいは銅からなり、更に、ホウ素あるいはホウ素合金粉末を含み、
導電性ペーストを、絶縁性の基体上に配線の形状に塗布する工程と、
脱バインダー焼成を、酸素を含んだ雰囲気で行い、
その後、本焼成を、不活性ガス雰囲気で行い、導電性ペーストを用いた配線を形成することを特徴とする配線の形成方法である。
【0025】
導電性ペーストを用いた配線は、導電性ペーストを、配線の形状に塗布する工程で、導電性ペーストが、絶縁性の基体上に形成された、銀あるいは銅を主成分とする配線上、あるいは、銀あるいは銅を主成分とする配線の端部に導電性ペーストを塗布することで形成することができる。
【0026】
この際、絶縁性の基体上に形成された、銀あるいは銅を主成分とする配線は、絶縁性の基体上にめっき法を用いて形成された配線であっても良く、銀あるいは銅を主成分とする配線上に、更に、ニッケル、金、あるいは、プラチナからなる層がめっき法を用いて形成されていても良い。
【0027】
導電性ペーストを用いた配線を、絶縁性の基体上に形成された、銀あるいは銅を主成分とする配線の端部に形成する場合、銀あるいは銅を主成分とする配線の側面を覆う様に形成されていることが好ましい。
【0028】
さらに、少なくとも脱バインダー焼成を行った後、導電性ペーストを用いた配線と銀あるいは銅を主成分とする配線の接合部を覆うように絶縁性ペースト塗布し、その後、絶縁性ペーストの焼成を行っても良い。この場合、本焼成により絶縁性ペーストの焼成を行っても良い。
【0029】
上述の、導電性ペーストを用いた配線が、電子放出素子を用いた画像表示装置用のパネルの電子源基板に形成される走査線あるいは信号線であっても、走査線あるいは信号線と接続された引き出し線であっても良い。更に、電子放出素子は、表面伝導型電子放出素子であることが好ましい。
【0030】
<第1の実施形態>
以下、本発明の配線の形成方法の第1の実施形態である引き出し線を、図面を用いて説明する。実施形態としては、引き出し線を用いて説明するが、基板上に形成する配線であっても良いことは言うまでもない。
【0031】
尚、基板以外に、基板上に形成された、絶縁膜上であっても良い。
【0032】
図1に示すように、基板A3上に形成された、配線A1上に導電性ペーストを用いた引き出し線A2が形成されている。図2は、配線A1と引き出し線A2との接合部の断面を示す図である。
【0033】
基板A3としては、ガラス基板、セラミック基板、あるいは、シリコン基板のように、高温焼成型の導電性ペーストの焼成温度に耐えうる材料であれば他の材料であっても良い。基板A3上に形成される、配線A1は、抵抗の低い導電性の材料であればどの様な材料を用いても良いが、配線抵抗が小さくできることから、銅、銀、あるいは、銅あるいは銀を主成分とすることが好ましい。平面型の画像表示装置に使用される、ソーダライムガラスからなるガラス基板上に配線を形成する場合、低抵抗な材料である銅めっき配線を用いることが多い。
【0034】
図2では、基板上にチタン層A1−3、銅層A1−2、及び、ニッケル層A1−1がこの順で積層された銅めっきを用いて形成した第1の配線が形成され、第1の配線の引き出し線となる、銀層A2−1からなる第2の配線が第1の配線上に形成されている。チタン層A1−3は、スパッタ法で形成され、銅層A1−2、及び、ニッケル層A1−1はめっき法を用いて形成される。めっきは、無電解めっき、または、電解めっき、あるいはその両方を併用して配線層を形成することができる。
【0035】
チタン層A1−3が形成されていることで、基板と銅層A1−2との密着強度を上げることができる。
【0036】
銅は酸化し易い性質があるため、銀ペーストなどの焼成が必要な層を直接上に形成すると銅表面で酸化が進行して正常なコンタクトを得ることができない場合がある。このため、銅層A1−2に、図2のように、銅よりも酸化し難い材料であるニッケル、銀、金、プラチナ等のめっきを行うことも有効である。
【0037】
尚、図1および図2では配線A1を基板上に直接形成しているが、基板上に形成された絶縁膜上に形成しても良い。
【0038】
引き出し線A2を形成するための導電性ペーストは、導電性金属粉末、ホウ素単体あるいはホウ素合金粉末、ガラス粉末、及び、バインダー樹脂を含む高温焼成型の導電性ペーストである。
【0039】
高温焼成型の導電性ペーストは、脱バインダー焼成と本焼成との2段階の焼成が行われる。脱バインダー焼成とは、導電性ペースト中のバインダー樹脂を除去する焼成で、脱バインダー焼成後に、樹脂が残留していないことが好ましい。
【0040】
本発明では、脱バインダー焼成を大気中(酸素を含有する雰囲気中)で行い、本焼成を窒素あるいは不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0041】
脱バインダー焼成を酸素含有する雰囲気中で行うことで、ホウ素単体あるいはホウ素合金粉末が、脱バインダー焼成時に、選択的に酸化され、導電性ペーストの表面に緻密なホウ素あるいはホウ素合金の酸化被膜が形成される。その結果、銅あるいはニッケルを含む配線と引き出し線との接合面の酸化が起きにくいという効果を有する。
【0042】
導電性金属粉末としては、Ag、Cu、Au、Ni、Pt、Pd、あるいはこれらの合金、あるいは、これらの2以上を組み合わせることができるが、抵抗が低いことから、AgあるいはCuを用いることが好ましい。
【0043】
ホウ素単体あるいはホウ素合金粉末は、導電性金属に対して、0.5重量%以上、10重量%以下であることが好ましい。0.5重量%以上であれば、配線表面に酸化したホウ素単体あるいはホウ素合金の緻密な膜が形成され、10重量%以下であれば、配線の抵抗値を上げることがない。
【0044】
ホウ素合金としてはホウ素と鉄、あるいは、ニッケル等との合金が好ましい。
【0045】
ホウ素単体あるいはホウ素系の合金は、の粒径は、粒度分布計による50%平均粒径で、1μm以上、10μm以下であることが好ましい。
【0046】
また、バインダー樹脂としては、エチルセルロース系樹脂、ポリスチレン系樹脂、及び、アクリル系樹脂等の脱バインダー性の良好な樹脂を用いることが好ましい。
【0047】
脱バインダー焼成温度は300℃から450℃、本焼成温度は450℃以上が好ましく、上限はガラス基板を用いる場合、ガラスの歪点以下であることが好ましい。
【0048】
尚、めっき法を用いて形成された配線に接続される引き出し線は、配線の側面も覆うように形成することがより好ましい。配線の側面を覆うことで、接合部の露出が抑えられ、接合部の酸化を更に抑えることができる。
【0049】
尚、本実施形態は、基板上に設けられためっき法を用いて形成された配線上に、導電性ペーストからなる配線を形成した例を示したが、基板上に導電性ペーストからなる配線を形成することもできる。
【0050】
<第2の実施形態>
本実施形態では、第1の実施形態で説明した、引き出し線と配線との接続領域を絶縁層で被覆した。この結果、接合部端面の露出が抑えられ、接合部の酸化を更に抑えることができる。
【0051】
絶縁層の形成は、引き出し線の脱バインダー焼成工程の後であれば、本焼成の前であっても良い。
【0052】
絶縁層は、ガラス粉末及びバインダー樹脂とからなる高温焼成型の絶縁性ペーストを用いたガラス層であっても良い。この場合、引き出し線の本焼成工程と絶縁層の焼成工程とを兼ねた焼成により絶縁層と配線とを焼成することができる。また、引き出し線の本焼成後に、積層領域を絶縁層で被覆し、その後、絶縁層を焼成してもよい。
【0053】
絶縁層としては、通常のガラスペースト等を用いることができる。
【0054】
本実施形態によれば、引き出し線の焼成工程の後に、酸素を含む雰囲気中で加熱を行う工程がある場合でも、配線と引き出し線、あるいは、配線と引き出し線との接合部の酸化を防止することができる。
【0055】
(実施例)
以下、本発明の配線の形成方法を、平面型の画像表示装置を構成する基板上に形成される配線を用いて説明する。
【0056】
電子放出素子を用いた平面型の画像表示装置は、マトリックス状に形成された走査線と信号線と、走査線と信号線とに接続した電子放出素子とが形成された電子源基板と、電子線を受けて赤(以下、Rと略す)、緑(以下、Gと略す)、青(以下、Bと略す)を発光する蛍光体が塗布された発光体基板からなる画像表示装置用のパネルが搭載されている。
【0057】
画像表示装置用のパネルは、電子源基板と発光基板とを、電子基板に形成された電子放出素子と発光基板に形成された蛍光体とが対向するように配置し、基板の間を一定の間隔に保持するため外周囲にスペーサーを設け、基板の間の空間が高真空になるように構成されている。また、走査線及び信号線の端部は、駆動回路に接続されている。
【0058】
本発明の配線は、走査線あるいは信号線あるいは基板周辺に形成された、走査線あるいは信号線と駆動回路とを接続するための引き出し線であっても良い。
【0059】
実施例では、基板上にめっき法等を用いて形成された信号線、及び、走査線が設けられ、基板端部には、信号線、及び、走査線と接続された引き出し線が形成されている。引き出し線は、基板外部に設けられた、駆動回路部等と、フレキシブル基板上に設けられた配線を介して接続されている。フレキシブル基板に形成された配線と引き出し線とを接続する場合に、電気的接続の信頼性や強度の問題から、引き出し線の材質は制約される場合がある。
【0060】
尚、信号線、及び、走査線に接続された電子放出素子が設けられていることは言うまでもない。電子放出素子としては、スピント型電子放出素子、あるいは、表面導電型電子放出素子を用いることができる。
【0061】
走査線、信号線の材料として、低抵抗な材料である銅が挙げられる。しかし、銅は酸化し易い性質があるため、銀ペーストなどの焼成が必要な層を直接上に形成すると銅表面で酸化が進行して正常なコンタクトを得ることができない場合がある。
【0062】
そこで、走査線、信号線の材料としては、銅よりも酸化し難い材料であるニッケル、銀、金、あるいは、プラチナ等でめっきされた銅めっき配線で構成することも有効である。
【0063】
基板の材質は、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス等が用いられている。ここではソーダライムガラスからなるガラス基板を選択する。
【0064】
走査線を形成するため基板へブランケット状に銅めっきおよびニッケルめっきを施す。めっきの下地層には、チタンやタンタルの薄膜を約100nm、スパッタ等で成膜しておく。
【0065】
めっきは、無電解めっき又は電解めっき、あるいはその両方を併用して配線層を形成することができる。
【0066】
その後、フォトレジストを塗布して、所望のパターン形成を行い、銅およびニッケルのエッチングを施し、フォトレジストを剥離し、走査線、あるいは、信号線が得られる。
【0067】
(実施例1)
図1は、電子線放出を利用したディスプレイの電子源基板として用いる、走査線および引き出し線が形成された基板の例である。
【0068】
A1は主に銅およびニッケルから成る走査線、A2は銀ペーストからなる引き出し線、A3はソーダライムガラスからなるガラス基板である。
【0069】
走査線A1および引き出し線A2の積層部の拡大図を図2に示す。
【0070】
基板上にチタン層A1−3、銅層A1−2、及び、ニッケル層A1−1がこの順で積層された配線が形成され、配線の引き出し線となる、銀層A2−1が配線上に形成されている。スパッタ法により膜厚100nmのチタン層A1−3、および、膜厚1μmの銅を形成する。次に、電解銅めっき10μm、ニッケルめっき1μmを施し、ニッケル層A1−1、および、銅層A1−2が形成される。銅層A1−2は、スパッタ膜とめっき膜の積層構造となっている。
【0071】
次に、フォトレジストを塗布、露光、現像して、エッチングマスクを形成し、反応性イオンエッチング法を用いて走査線パターンを形成する。
【0072】
走査線と信号線との間の層間絶縁層には、CVD法を用いて、膜厚1μmのシリコン窒化膜を形成することができる。
【0073】
信号線は走査線と直交する配線として層間絶縁層上に走査線と同様な工程の繰返しにて形成することができる。
【0074】
画素に対応する電子放出素子は走査線および信号線と電気的につながる様に形成される。電子放出素子としてはスピント型電子放出素子あるいは表面伝導型電子放出素子等が使用できる。
【0075】
引き出し線形成領域に、高温焼成型の導電性ペーストを印刷、乾燥、脱バインダー、本焼成を施した。乾燥は大気中で、150℃20分行った。
【0076】
高温焼成型の導電性ペーストとしては、ノリタケカンパニー製の高温焼成型の銀ペーストに平均粒径5μmのホウ素粉末を、銀粉末に対し0.5重量%になるように添加したものを用いた。
【0077】
脱バインダー焼成は、バインダー樹脂の成分によるが、大気中で350℃20分行い、その後、雰囲気ガスを切り替え窒素雰囲気とし、本焼成を窒素雰囲気で、480℃20分行った。
【0078】
本焼成は、窒素ガス以外のヘリウム、アルゴン等の不活性ガスであっても良い。
【0079】
引き出し線と走査線、あるいは引き出し線と信号線の間の電気抵抗は0.1Ω以下となった。
【0080】
以上により電子源基板を完成する。
【0081】
電子線を受けて赤(以下、Rと略す)、緑(以下、Gと略す)、および、青(以下、Bと略す)を発光する蛍光体が塗布された発光体基板は、スペーサーと周辺部のガラス枠を挟んで、溶解したインジウムをガラス枠および各基板間に充填して封着する。これらの組み立ては高真空中、150℃以上の高温のチャンバー中で実施される。図2のA4−1のオーバーラップ長さは20mmとした。
【0082】
上記走査線および信号線と接続されている引き出し線を、駆動用の集積回路と接続し画像表示装置のパネルが完成する。
【0083】
引き出し線と走査線、あるいは引き出し線と信号線の間の電気抵抗は0.1Ω以下となった。
【0084】
(実施例2)
実施例1と同様、図3は電子線放出を利用したディスプレイの電子源基板として用いる、走査線の配線が形成された基板の例である。
【0085】
ソーダライムガラスからなる基板B3上に、銅層上にニッケルからなる層が形成された走査線B1、銀ペーストからなる引き出し線B2が形成され、走査線B1と引き出し線B2との接合部にはガラスコート層B4が形成されている。
【0086】
B1走査線およびB2引き出し線の積層部の拡大図を図4に示す。ここで、B1−1はニッケル層、B1−2は銅層、B1−3はチタン層、B2−1は銀層、B4−1はガラスコート層である。スパッタによりチタン100nmおよび銅1μmを成膜する。また、電解銅めっき10μm、ニッケルめっき1μmを施す。フォトレジストを塗布、露光、現像して、反応性イオンエッチングで走査線パターンを形成した。
【0087】
引き出し線形成領域に、実施例1と同じ銀ペーストを印刷、乾燥、脱バインダー焼成、および、本焼成を施し引き出し線を形成した。
【0088】
尚、脱バインダー焼成、および、本焼成の条件は実施例1と同じ条件で行った。
【0089】
その後、ポリシラザンをヘキサン溶媒に溶かし、これをスピンコート法で5μm程度の厚みに塗布した。その後、300℃の温度で溶媒を乾燥し、更に400℃で焼成することにより、厚み2μmのシリコン酸化膜が形成された。
【0090】
尚、シリコン酸化膜に変えて、ガラス粉末及びバインダー樹脂とからなる高温焼成型の絶縁性ペーストを用いたガラス膜であっても良い。
【0091】
図4の配線と引き出し線とガラスコート層との積層領域(オーバーラップ長)B5−1の長さは20mmとした。
【0092】
以下、実施例と同様の方法を用いて信号線および信号線と接合する引き出し線を形成した。
【0093】
その後、信号線と引き出し線との接合領域にガラスコート層を上述した方法で形成し電子源基板が完成する。
【0094】
電子線を受けてR、G、Bを発光する蛍光体が塗布された発光体基板は、スペーサーと周辺部のガラス枠を挟んで、溶解したインジウムをガラス枠および各基板間に充填して封着する。これらの組み立ては高真空中、150℃以上の高温のチャンバー中で実施される。
【0095】
上記走査線および信号線と接続されている引き出し線を、駆動用の集積回路と接続し画像表示装置のパネルが完成する。
【0096】
引き出し線と走査線、あるいは引き出し線と信号線の間の電気抵抗は0.1Ω以下となった。
【0097】
(実施例3)
実施例2と同様に引き出し線を形成するが、実施例3では、引き出し線の脱バインダー焼成を行った後、実施例2と同様の方法を用いてガラスペーストを引き出し線と走査線との接合部に形成した。その後、本焼成を窒素雰囲気中で480℃20分行った。
【0098】
引き出し線と走査線、あるいは引き出し線と信号線の間の電気抵抗は0.1Ω以下となった。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の配線の形状を示す斜視図。
【図2】本発明の配線の接合部の断面図。
【図3】本発明の配線の形状を示す斜視図。
【図4】本発明の配線の接合部の断面図。
【符号の説明】
【0100】
A1 走査線
A2 引き出し線
A3 ガラス基板
A1−1 ニッケル層(走査線)
A1−2 銅層(走査線)
A1−3 チタン層(走査線)
A2−1 銀層(引き出し線)
A4−1 引き出し線と走査線の積層領域
B1 走査線
B2 引き出し線
B3 基板
B4 ガラスコート層
B1−1 ニッケル層(走査線)
B1−2 銅層(走査線)
B1−3 チタン層(走査線)
B2−1 銀層(引き出し線)
B4−1 ガラスコート層
B5−1 引き出し線と走査線の積層領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末、ガラス粉末、及び、バインダー樹脂を含み、該バインダー樹脂を脱バインダー焼成により除去した後、前記脱バインダー焼成温度以上の温度で本焼成を行う高温焼成型の導電性ペーストを用いた配線の形成方法であって、
前記金属粉末が銀あるいは銅からなり、更に、ホウ素あるいはホウ素合金粉末を含み、
前記導電性ペーストを、絶縁性の基体上に配線の形状に塗布する工程と、
前記脱バインダー焼成を、酸素を含んだ雰囲気で行い、
その後、前記本焼成を、不活性ガス雰囲気で行い、前記導電性ペーストを用いた配線を形成することを特徴とする配線の形成方法。
【請求項2】
前記導電性ペーストを、配線の形状に塗布する工程で、前記導電性ペーストが、前記絶縁性の基体上に形成された、銀あるいは銅を主成分とする配線上に塗布することを特徴とする請求項1に記載の配線の形成方法。
【請求項3】
前記銀あるいは銅を主成分とする配線の端部に前記導電性ペーストを塗布することを特徴とする請求項2に記載の配線の形成方法。
【請求項4】
前記銀あるいは銅を主成分とする配線が、前記絶縁性の基体上にめっき法を用いて形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の配線の形成方法。
【請求項5】
前記銀あるいは銅を主成分とする配線上に、更に、ニッケル、金、あるいは、プラチナからなる層がめっき法を用いて形成されていることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の配線の形成方法。
【請求項6】
前記導電性ペーストを、配線の形状に塗布する工程で、前記導電性ペーストを用いた配線が、前記銀あるいは銅を主成分とする配線の側面を覆う様に塗布されていることを特徴とする請求項3に記載の配線の形成方法。
【請求項7】
少なくとも前記脱バインダー焼成を行った後、前記導電性ペーストを用いた配線と前記銀あるいは銅を主成分とする配線の接合部を覆うように絶縁性ペースト塗布し、その後、前記絶縁性ペーストの焼成を行うことを特徴とする請求項1に記載の配線の形成方法。
【請求項8】
前記本焼成により前記絶縁性ペーストの焼成を行うことを特徴とする請求項7に記載の配線の形成方法。
【請求項9】
前記絶縁性の基体が、絶縁性の基板、あるいは、該絶縁性の基板、半導体基板、あるいは、導電性基板上に設けられた絶縁膜であることを特徴とする請求項1から8に記載の配線の形成方法。
【請求項10】
前記絶縁性の基板が、ガラス基板であることを特徴とする請求項9に記載の配線の形成方法。
【請求項11】
前記絶縁膜がガラスペーストを焼成したガラス膜であることを特徴とする請求項9に記載の配線の形成方法。
【請求項12】
前記導電性ペーストを用いた配線が、電子放出素子を用いた画像表示装置用のパネルの電子源基板に形成された、走査線あるいは信号線であることを特徴とする請求項1に記載の配線の形成方法。
【請求項13】
前記導電性ペーストを用いた配線が、電子放出素子を用いた画像表示装置用のパネルの電子源基板に形成された、走査線あるいは信号線に接続された引き出し線であることを特徴とする請求項12に記載の配線の形成方法。
【請求項14】
前記電子放出素子が、表面伝導型電子放出素子であることを特徴とする請求項12または13に記載の配線の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−200407(P2009−200407A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42918(P2008−42918)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】