配線基板装置
【課題】本発明は、互いに並行して配線される2本の差動信号線からなり、互いの配線路長が異なる領域が形成される差動信号線対に対し配線路長の相違を吸収して、信号伝播の遅延時間差を解消し、信号伝送品質の向上化を得る配線基板装置を提供する。
【解決手段】配線基板1に複数の電子部品Sa,Sbを実装し、この配線基板に、第1の差動信号線Gaおよび第2の差動信号線Gbからなる差動信号線対Gを互いに並行して配線し、この差動信号線対の中途部に分断領域Zを形成し、この分断領域に遅延配線体10を実装し、この遅延配線体に、互いの配線路長を同一に設定した第1の遅延配線路11および第2の遅延配線路12を設け、これら遅延配線路のそれぞれ端部と、分断された一対の差動信号線とを接続した。
【解決手段】配線基板1に複数の電子部品Sa,Sbを実装し、この配線基板に、第1の差動信号線Gaおよび第2の差動信号線Gbからなる差動信号線対Gを互いに並行して配線し、この差動信号線対の中途部に分断領域Zを形成し、この分断領域に遅延配線体10を実装し、この遅延配線体に、互いの配線路長を同一に設定した第1の遅延配線路11および第2の遅延配線路12を設け、これら遅延配線路のそれぞれ端部と、分断された一対の差動信号線とを接続した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば携帯電話等に搭載され、差動信号伝送方式により2つの電子部品間に信号を伝送する配線基板装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的には、2つの電子部品間に信号を伝送するのに、いわゆる「シングルエンド伝送方式」が採用されている。これは、1本の信号線を2つの電子部品相互に接続していて、ドライバ側の電子部品からハイレベルの電位信号(以下、「H信号」と呼ぶ)と、ローレベルの電位信号(以下、「L信号」と呼ぶ)を、交互に前記1本の信号線に送る。
【0003】
前記信号線は、レシーバ側の電子部品に、H信号とL信号を交互に伝送する。レシーバ側の電子部品においては、これらH信号とL信号を受けて、たとえばLSIロジック回路を作動する。
【0004】
このシングルエンド伝送方式は、信号伝送の手段として何らの支障もないが、H信号とL信号との電位差が大であり、信号振幅が大きく、信号切換え時の波形が鮮明でない。そのため、ノイズが発生し易いとともに、単位時間に多くの信号数をとることができない。すなわち、大量の情報を、速く伝送できないという不具合がある。
【0005】
そこで、近年は、「差動信号伝送方式」と呼ばれる信号伝送手段が採用されるようになった。これは、2つの電子部品間を、Pチャンネル配線とNチャンネル配線との2本の差動信号線で結線する。
はじめに、ドライバ側の電子部品からPチャンネル配線にH信号を送るとともに、Nチャンネル配線にL信号を送る。そのあと、ドライバ側の電子部品からPチャンネル配線にL信号を送るとともに、Nチャンネル配線にH信号を送る。
【0006】
それぞれ信号はPチャンネル配線とNチャンネル配線を介して、レシーバ側の電子部品に送られる。レシーバ側の電子部品においては、これらH信号とL信号を受けて、たとえばLSIロジック回路を作動する。
具体的には、図8(A)に示すように、ドライバ側の電子部品から互いに論理値を逆転した逆位相(「逆相」とも呼ぶ)となる信号を、図8(B)に示すように、対となる2本の差動信号線Ga,Gbに入力する。レシーバ側の電子部品においては、図8(C)に示すように、差動信号線Ga,GBから伝送された信号の電位差でデータを識別する。
【0007】
このような差動信号伝送方式においては、シングルエンド伝送方式と比較して、それぞれの差動信号線が伝送する信号の振幅幅が小さくてすむ。外部からノイズがあっても、その差分に対しては保証されるので、ノイズに強い特徴がある。単位時間に多くの信号を送ることができ、より大量の情報を、より速く伝送できる利点がある。
【0008】
しかしながら、この差動信号伝送方式には、以下に述べるような制約がある。
すなわち、2本の差動信号線Ga,Gbを用いて信号を送るので、互いの差動信号線Ga,Gbとの間で、何らかの事情により信号の伝送時間に差が生じ、もしくはタイミングずれなどの、いわゆるスキューと呼ばれる現象が生じることがある。
【0009】
図9に示すように、本来は、H信号に対してL信号はスキューがない状態(実線で示す)で伝送されるのが理想のタイミングである。しかしながら、後述する理由により、b線(一点鎖線)で示すようなa時間のスキューが生じ、あるいはc線(二点鎖線)で示すような2a時間のスキューが生じることがある。
【0010】
図10は、図9に示した2本の差動信号線に流れる信号の電位差の波形であり、太線で示す波形線Aはスキューが無い状態、一点鎖線で示す波形線Bは前記b線で示すスキューがあるとき、二点鎖線で示す波形線Cは前記c線で示すスキューがあるときである。H信号とL信号を識別するのに閾値E,Fを定めていて、H信号は閾値E以上、L信号は閾値F以下とする。
【0011】
いずれの波形線A〜Cであっても、閾値F以下では充分な時間があるので判別するのに支障がない。また、閾値F以上のH信号を識別するのに、波形線Aで示すスキューの無い状態では、閾値Fを越える時間Daが長い。したがって、データを判別するためのトリガ信号をかけるのに充分な時間があり、データ伝送品質を高く保持できる。
【0012】
しかしながら、波形線Bでは閾値Fを越える時間Dbが短くなり、さらに波形線Cでは閾値Fを越える時間Dcが極めて短い。このようにスキューが大きくなるにしたがって、データを判別するためのトリガ信号をかける時間が不足し、データを判別できる時間が短縮して、信号伝送の品質が低下してしまう。
【0013】
差動信号伝送方式において、スキューが発生する原因として、2つの電子部品相互間を接続する2本の差動信号線の長さが互いに相違している場合と、2本の差動信号線の長さは互いに完全同一ではあるけれども、電子部品と差動信号線対とを接続するコネクタの構造自体に問題がある場合が考えられる。
【0014】
後者のコネクタの構造に問題がない場合、[特許文献1]は、前者の2つの電子部品間を接続する2本の信号線の長さが互いに相違しているのに近い状態で対応している。すなわち、この発明は、プリント配線基板に形成される複数組の差動信号線対をジグザグ状に蛇行形成して、遅延配線路長を実質的に同一としている。
【特許文献1】特開2004−325820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、[特許文献1]の技術は、2つの電子部品間に何らの障害物(電気部品等)も存在せず、整然と、複数組の差動信号線対をジグザグ状に蛇行形成できる場合に限る。実際には、2つの電子部品間に他の電子部品や電気部品が介在することは、ごく普通の構成である。
【0016】
このときは、プリント配線のレイアウト上、差動信号線対の中途部を屈曲して迂回する。あるいは、一方の差動信号線は直状で、他方の差動信号線のみ屈曲しなければならない。いずれにしても、一方の差動信号線の長さと、他方の差動信号線の長さが相違することが多く、前記したスキューの発生要因となってしまう。
【0017】
たとえば、図11に示す配線基板装置がある。すなわち、第1の電子部品Saと、第2の電子部品Sbが配線基板上の互いに離間した位置に実装される。これら第1、第2の電子部品Sa,Sb相互を電気的に接続する第1の差動信号線Gaと、第2の差動信号線Gbとからなる、差動信号線対Gがプリント配線されている。
【0018】
第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbのほとんど大部分は互いに直状で、かつ互いに並行に形成されている。したがって、この並行部分を[特許文献1]のように蛇行形成することで、2本の差動信号線Ga,Gb間における配線路長を実質的に同一とすることはできる。
【0019】
しかしながら、ここでは第1の差動信号線Gaのみ、この両端部に屈曲部Kが設けられる。第1の差動信号線Gaの配線路長をL1(mm)、第2の差動信号線Gbの配線路長をL2(mm)とすると、第1の差動信号線Gaは2つの屈曲部Kが形成されるので、この配線路長L1は、第2の差動信号線Gbの配線路長L2より長い。
【0020】
以上の条件において、第1の差動信号線Gaにおいて第1の電子部品Saから第2の電子部品Sb間に伝送(伝播)される信号の伝送時間(t1:s)と、第2の差動信号線Gbにおいて第1の電子部品Saから第2の電子部品Sb間に伝送(伝播)される信号の伝送時間(t2:s)を求める。
第1の差動信号線Ga: t1(s) = L1(mm)/Vg(m/s)
第2の差動信号線Gb: t2(s) = L2(mm)/Vg(m/s)
前記Vg(m/s)は位相速度である。すなわち、信号が単位時間あたりに進む(変化する)位相量であって、配線基板の物性値と差動信号線の線路幅で決まる値である。このように、対となる差動信号線の長さL1,L2が異なると、伝送時間t1,t2も異なることとなり、先に説明したスキューの発生要因となる。
【0021】
[特許文献1]の技術を用いて、差動信号線Ga,Gb相互のほとんど大部分の配線路長を同一にできたとしても、互いの差動信号線Ga,Gbの一部に配線路長が少しでも相違する箇所(屈曲部Kなど)があれば、結果として配線路長全体が相違してしまう。そのため、各差動信号線における位相速度が相違して、差動信号伝送の品質劣化を防止するには至らない。
【0022】
本発明は上記事情にもとづきなされたものであり、その目的とするところは、互いに並行して配線される2本の差動信号線からなり、互いの差動信号線の配線路長が異なる部位が形成される差動信号線対に対して配線路長の相違を吸収し、信号伝播の遅延時間差を解消して、信号伝送品質の向上化を得る配線基板装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を満足するため本発明は、配線基板に複数の電子部品を実装し、この配線基板に一対の差動信号線からなる差動信号線対を互いに並行して配線し、この差動信号線対の中途部に分断された領域を形成し、この分断された領域の配線基板に遅延配線体を実装し、この遅延配線体に互いの配線路長を同一に設定した第1の遅延配線路および第2の遅延配線路を設け、これら遅延配線路のそれぞれ端部と、分断された一対の差動信号線とを接続した。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、互いの差動信号線の配線路長が相違する部位における信号伝播の遅延を解消して、差動信号配線のバランス乱れを最小限に止め、信号伝送品質の向上化を得るという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を、図面にもとづいて説明する。
図1(A)は、配線基板装置の基本構成を説明する図である。
いわゆる、「差動信号伝送方式」と呼ばれる信号伝送手段を採用するため、第1の電子部品Saと、第2の電子部品Sbとの間を、一対(2本)の差動信号線からなる差動信号線対Gで結線する。いずれか一方の差動信号線を、「第1の差動信号線Ga」と呼び、他方の差動信号線を、「第2の差動信号線Gb」と呼ぶ。
【0026】
第1の電子部品Saと第2の電子部品Sb間を最短距離で結線するため、差動信号線対Gを直状に配線できれば、第1の差動信号線Gaの配線路長と、第2の差動信号線Gbの配線路長とが互いに同一となり、信号伝播時間が同一でスキューの発生はない。
しかしながら、配線基板1には多くの電子部品が実装されていることから、図に示すように中途部に屈曲部Kが形成されてしまう。前記屈曲部Kにおいて、外側配線を第1の差動信号線Gaとし、内側配線を第2の差動信号線Gbとすると、屈曲部Kでの第1の差動信号線Gaの配線路長Laは、第2の差動信号線Gbの配線路長Lbよりも長い。
【0027】
ただし、第1の電子部品Saから屈曲部Kの一端部に至る間の距離Lcにおける、第1、第2の差動信号線Ga,Gbの配線路長は互いに同一である。さらに、屈曲部Kの他端部から第2の電子部品Sbに至る間の距離Ldにおける、第1、第2の差動信号線Ga,Gbの配線路長は互いに同一である。
【0028】
このように、屈曲部Kを除く両側部位において差動信号線対Gを構成する第1の差動信号線Gaと、第2の差動信号線Gbの合計配線路長Lc+Ldは互いに同一であるので、屈曲部Kにおいても互いの差動信号線Ga,Gbの配線路長La,Lbを実質的に同一に形成しなければならない。
【0029】
図1(B)は、本発明における第1の実施の形態に係る、配線基板装置一部の模式的な説明図である。
配線基板1の板面に、第1の電子部品Saと、第2の電子部品Sbが互いに離間した位置に実装される。第1の電子部品Saから第2の電子部品Sbに、互いに並行して第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbからなる差動信号線対Gが接続される。
【0030】
前記差動信号線対Gの中途部に形成される屈曲部Kに相当する部位が分断されて、分断領域Zが設けられる。したがって、第1の電子部品Saから分断領域Zに至るまでの差動信号線対Gの線方向と、分断領域Zから第2の電子部品Sbに至るまでの差動信号線対Gの線方向とが相違し、ここでは互いに直角状(90°)に交差する。
【0031】
前記分断領域Zに、遅延配線体10が当て嵌められ、かつ配線基板1に実装される。前記遅延配線体10は、後述するように複数の構成が考えられるが、いずれも2つの配線パターンである第1の遅延配線路11と、第2の遅延配線路12を備えている。これら第1の遅延配線路11の配線路長と、第2の遅延配線路12の配線路長は互いに同一に設定されていることが特徴である。
【0032】
第1の遅延配線路11の両端には接続部g1,g2が設けられていて、一端側の接続部g1は、第1の電子部品Saから配線される第1の差動信号線Gaの分断領域端部に接続される。他端側の接続部g2は、第2の電子部品Sbに至る第1の差動信号線Gaの分断領域端部に接続される。
【0033】
第2の遅延配線路12の両端にも接続部h1,h2が設けられていて、一端側の接続部h1は、第1の電子部品Saから配線される第2の差動信号線Gbの分断領域端部に接続される。他端側の接続部h2は、第2の電子部品Sbに至る第2の差動信号線Gbの分断領域端部に接続される。
【0034】
第1の電子部品Saから分断領域Zに至るまでの差動信号線対Gの線方向と、分断領域Zから第2の電子部品Sbに至るまでの差動信号線対Gの線方向とが互いに直交している。そのままの配線であれば、屈曲部Kにおいて、外側配線である第1の差動信号線Gaの配線路長と、内側配線である第2の差動信号線Gbの配線路長が相違する。
【0035】
しかしながら、前記屈曲部Kに相当する部位を分断し、この分断領域Zに前記遅延配線体10を実装している。前記遅延配線体10は、互いに同じ長さの配線路長に形成される第1の遅延配線路11と、第2の遅延配線路12を備えている。
前述したように、第1の電子部品Saから分断領域Z(すなわち、遅延配線体10)に至るまでの第1の差動信号線Gaの配線路長および第2の差動信号線12の配線路長が互いに等く、分断領域Z(遅延配線体10)から第2の電子部品Sbに至る第1の差動信号線Gaの配線路長および第2の差動信号線12の配線路長が互いに等しい。
【0036】
したがって、第1の電子部品Saから第1の差動信号線Gaと、遅延配線体10の第1の遅延配線路11および第1の差動信号線Gaを介して第2の電子部品Sbに至るまでの全配線路長と、第1の電子部品Saから第2の差動信号線Gbと、遅延配線体10の第2の遅延配線路12および第2の差動信号線Gbを介して第2の電子部品Sbに至るまでの全配線路長とが、互いに等しい。
【0037】
このような構成を採用して、たとえば第1の差動信号線GaをPチャンネル配線とし、第2の差動信号線GbをNチャンネル配線として、ドライバ側の電子部品である第1の電子部品Saから第1の差動信号線GaにH信号を送るとともに、第2の差動信号線GbにL信号を送る。
【0038】
そのあと、第1の電子部品Saから第1の差動信号線GaにL信号を送るとともに、第2の差動信号線GbにH信号を送る。さらに、第1の電子部品Saから第1の差動信号線GaにH信号を送るとともに、第2の差動信号線GbにL信号を送る。
交互に送られるL信号とH信号は、第1の差動信号線Gaと第1の遅延配線路11および、第2の差動信号線Gbと第2の遅延配線路12を、それぞれ介して、レシーバ側の電子部品である第2の電子部品Sbへ送られる。
【0039】
第2の電子部品Sbにおいては、これら2本の差動信号線Ga,Gbおよび第1、第2の遅延配線路11,12からH信号とL信号を交互に受け、伝送された信号の電位差でデータを識別して、たとえばLSIロジック回路を作動し信号処理をなす。
このように、第1の電子部品Saから第2の電子部品Sbに至るまでの差動信号線対Gの中途部に、互いの差動信号線Ga,Gbの配線路長が異なる部位があっても、そこに遅延配線体10を備えることで、第1、第2の差動信号線Ga,Gb相互の配線路長の相違を吸収するので、互いの配線路長が等しくなる。
【0040】
したがって、配線基板1の物性値と線路幅で決まる、信号の単位時間当たりに進む位相量である位相速度(Vg[m/s])が、互いに同一となる。第1の電子部品Saから差動信号線対Gおよび遅延配線体10を介して第2の電子部品Sbへ、L信号とH信号がスキューの無い状態で交互に導かれ、鮮明な波形が得られて、データ伝送品質の向上化を図れる。
【0041】
以下、より具体的な構成を説明する。
図2(A)(B)は、第1の実施の形態に係る第1実施例の、基板配線装置一部の斜視図と、基板配線装置の分解した斜視図である。
ここでは、第1の電子部品Saおよび第2の電子部品Sbを省略しているが、これらは先に図1(A)(B)で説明したように実装されているものとする。第1の電子部品Saから第2の電子部品Sbに、第1の差動信号線Gaおよび第2の差動信号線Gbからなる差動信号線対Gが接続される。
【0042】
前記差動信号線対Gの中途部に分断領域Zが形成されていて、第1の電子部品Saから分断領域Zに至るまでの差動信号線対Gの線方向と、分断領域Zから第2の電子部品Sbに至るまでの差動信号線対Gの線方向とが相違し、互いに直角状に交差する。前記分断領域Zに遅延配線体10Aが当て嵌められ、かつ配線基板1に実装される。
【0043】
前記遅延配線体10Aは、所定の板厚を有し、平面視で矩形状をなすブロック体からなる。この遅延配線体10Aに、後述する第1の遅延配線路11aおよび第2の遅延配線路12aが設けられる。
すなわち、前記第1の電子部品Saと対向する遅延配線体10Aの側面m1に、第1の遅延配線路11aおよび第2の遅延配線路12aの一方の接続部g1,h1が設けられる。また、第2の電子部品Sbと対向する遅延配線体10Aの他側面m2に、第1の遅延配線路11aおよび第2の遅延配線路12aの他方の接続部g2,h2が設けられる。
【0044】
前記それぞれの接続部g1,g2,h1,h2の具体的構造は特に図示していないが、遅延配線体10Aの側面から外方へ突出する舌片でよい。したがって、第1の遅延配線路11aの両接続部g1,g2は、第1の差動信号線Gaの分断された端部に確実に接続される。第2の遅延配線路12aの両接続部h1,h2は、第2の差動信号線Gbの分断された端部に確実に接続される。
【0045】
前記遅延配線体10Aにおいて、第1の遅延配線路11aの両接続部g1,g2相互間は、配線基板1への実装面である主面m3に設けられていて、ここでは分断される以前の屈曲部Kにおける外側差動信号線と全く同一の直角状に形成される。
なお説明すると、前記第1の遅延配線路11aは、一方の接続部g1から主面m3において第1の電子部品Saに接続する第1の差動信号線Gaの線方向に沿って延長される。中途部で、第2の電子部品Sbに接続する第1の差動信号線Gaの線方向に沿うよう屈曲され、他方の接続部g2に至る。
【0046】
一方、前記第2の遅延配線路12aは、接続部h1から側面m1を直上して横断し、さらに前記主面m3と対向する主面m4に延長される。この主面m4において、分断される以前の屈曲部Kを形成する内側差動信号線と全く同一の直角状に屈曲形成される。さらに、側面m2を直下して横断し、前記接続部h2に至る。
【0047】
このように、前記遅延配線体10Aに設けられる第1の遅延配線路11aは、一方の主面m3のみに屈曲形成されるだけの配線路長となる。これに対して前記第2の遅延配線路12aは、90°存した2つの側面m1,m2に設けられる部分と、他方の主面m4に屈曲形成される部分との、合計の配線路長である。
【0048】
そのため、第2の遅延配線路12aが第1の遅延配線路11aの内側配線になっているにもかかわらず、第2の遅延配線路12aの配線路長は第1の遅延配線路11aの配線路長と互いに同一となる。
以上の構成の配線基板装置において、たとえば、第1の差動信号線GaをPチャンネル配線とし、第2の差動信号線GbをNチャンネル配線として、ドライバ側の電子部品である第1の電子部品Saからレシーバ側の電子部品である第2の電子部品Sbに、H信号とL信号を同時に送り、そのあと、交互に、かつ同時に送る。
【0049】
第2の電子部品Sbにおいては、これら2本の差動信号線Ga,Gbと2つの遅延配線路11a,12aからH信号とL信号を交互に受ける。そして、伝送された信号の電位差でデータを識別し、たとえばLSIロジック回路を作動して信号処理をなす。
第1の電子部品Saから第2の電子部品Sbに至るまでの間に、本来、差動信号線対Gの配線路長が異なる部位があっても、遅延配線体10Aを備えることで配線路長の相違を吸収でき、信号伝播の遅延時間差であるスキューを解消して、差動信号線対Gのバランスを最小限に止め、信号伝送品質の向上を得られる。
【0050】
図3は、第1の実施の形態に係る第2実施例の、基板配線装置一部の斜視図である。
ここでは、第1の電子部品Saと第2の電子部品Sbおよび配線基板1を省略しているが、配線基板1に対し第1の電子部品Saと第2の電子部品Sbは先に図1で説明した位置に実装されている。
【0051】
第1の電子部品Saから第2の電子部品Sbに、第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbとからなる差動信号線対Gが接続される。この差動信号線対Gの中途部に分断領域Zが形成され、第1の電子部品Saから分断領域Zに至るまでの差動信号線対Gの線方向と、分断領域Zから第2の電子部品Sbに至るまでの差動信号線対Gの線方向とが、互いに直角状に交差する。
【0052】
前記分断領域Zに遅延配線体10Bが当て嵌められ、かつ配線基板1に実装される。この遅延配線体10Bは、所定の板厚を有し平面視で矩形状をなす遅延配線層を、複数枚(ここでは3枚)積層して、互いを一体化したブロック体をなしている。
配線基板1に直接実装される最下部の遅延配線層を「第1の遅延配線層10b1」と呼び、中間部の遅延配線層を「第2の遅延配線層10b2」と呼び、最上部の遅延配線層を「第3の遅延配線層10b3」と呼ぶ。
【0053】
このように、第1の遅延配線層10b1と第2の遅延配線層10b2および第3の遅延配線層10b3を積層し一体化してなる遅延配線体10Bに、第1の遅延配線路11bと第2の遅延配線路12bが設けられる。
すなわち、第1の電子部品Saと対向する第1の遅延配線層10b1の側面m1に、第1の遅延配線路11bと第2の遅延配線路12bの一方の接続部g1、h1が設けられる。また、第2の電子部品Sbと対向する第1の遅延配線層10b1の他側面m2に、第1の遅延配線路11bと第2の遅延配線路12bの他方の接続部g2、h2が設けられる。
【0054】
前記第1の遅延配線路11bは、一方の接続部g1から第1の遅延配線層10b1の側面を直上して横断し、配線基板1に実装される主面と対向する主面(上面)m5において屈曲形成される。屈曲形状は、分断される以前の屈曲部Kの外側配線と全く同一の直角状である。この主面m5から側面m2を直下して横断し、他方の接続部g2に至る。
【0055】
前記第2の遅延配線路12bは、一方の接続部h1から第1の遅延配線層10b1および第2の遅延配線層10b2のそれぞれ側面m1を直上して横断し、第2の遅延配線層10b2の主面(上面)m6において屈曲形成される。屈曲形状は、分断される以前の屈曲部Kの内側配線と全く同一である。この主面m6から第2の遅延配線層10b2と第1の遅延配線層10b1のそれぞれ側面m2を直下して横断し、他方の接続部h2に至る。
【0056】
図2に示す例と相違する点は、複数(3枚)の遅延配線層10b1〜10b3を重ね合わせて遅延配線体10Bを構成することと、第1の遅延配線路11bと第2の遅延配線路12bがともに、第1の遅延配線層10b1と第2の遅延配線層10b2の互いに異なる側面m1,m2に形成されることである。
【0057】
結果として、図2に示す例と同一の作用効果を有するとともに、第1の遅延配線路10b1および第2の遅延配線路10b2が、ともに遅延配線体10Bの側面に露出するので、それぞれの接続部g1,g2と第1の差動信号線Gaの分断端部に対する接続位置と接続状態の確認がし易いとともに、接続部h1,h2と第2の差動信号線Gbの分断端部に対する接続位置と接続状態の確認がし易く、作業性の向上を図ることができる。
【0058】
前記第3の遅延配線層10b3には、第1、第2の遅延配線路10b1,10b2が設けられていないが、これら第1、第2の遅延配線路10b1,10b2と、第1、第2の遅延配線層10b1,10b2を覆うカバーの機能を有し、電気的な事故を防止する点で有利である。
【0059】
なお、第1の遅延配線路11bの屈曲部位を第1の遅延配線層10b1の上面m5に形成したが、第2の遅延配線層10b2の下面に設けてもよい。また、第2の遅延配線路12bの屈曲部位を第2の遅延配線層10b2の上面に設けたが、第3の遅延配線層10b3の下面に設けてもよい。
【0060】
図4は、第1の実施の形態に係る第3実施例の、配線基板装置一部を示す斜視図である。第1の電子部品Saと第2の電子部品Sbおよび配線基板1は省略しているが、ここでは配線基板1に対し第1の電子部品Saと第2の電子部品Sbが、互いに同じ位置に実装されている。
【0061】
第1の電子部品Saから第2の電子部品Sbに、第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbとからなる2本の差動信号線である差動信号線対Gが接続される。この差動信号線対Gの中途部に分断領域Zが形成され、第1の電子部品Saから分断領域Zに至るまでの差動信号線対Gの線方向と、分断領域Zから第2の電子部品Sbに至るまでの差動信号線対Gの線方向とが互いに平行する。
【0062】
前記分断領域Zに遅延配線体10Cが当て嵌められ、かつ配線基板1に実装される。遅延配線体10Cは、所定の板厚を有し平面視で矩形状をなすブロック体からなり、後述する第1の遅延配線路11cおよび第2の遅延配線路12cが設けられる。
すなわち、遅延配線体10Cの一側面m1で、かつ幅方向の一端側に第1の遅延配線路11cおよび第2の遅延配線路12cの、それぞれ一方の接続部g1,h1が設けられる。そして、同じ側面m1で、かつ幅方向の他端側に第1の遅延配線路11cと第2の遅延配線路12cの、それぞれ他方の接続部g2,h2が設けられる。
【0063】
前記遅延配線体10Cにおいて、第1の遅延配線路11cの両接続部g1,g2相互間は、配線基板1に実装される遅延配線体10Cの主面m3に設けられている。なお説明すると、それぞれの接続部g1,g2から第1の差動信号線Gaの線方向に沿って延長され、かつ所定部位において延出端部相互が連結され、第1の遅延配線路11cは主面m3において略U字状に形成される。
【0064】
第2の遅延配線路12cの両接続部h1,h2相互間は、側面m1を直上して横断し、さらに主面m3と対向する主面m4に亘って設けられている。それぞれの接続部h1,h2から第2の差動信号線Gbの線方向に沿って延長され、かつ所定部位において延出端部相互が連結される。すなわち、第2の遅延配線路12cは側面m1に2度に亘って設けられるとともに、主面m4において略U字状に形成される。
【0065】
第2の遅延配線路12cは第1の遅延配線路11cの内側に形成されるところから、主面m3と主面m4における略U字形状だけを比較すると、第2の遅延配線路12cの配線路長は第1の遅延配線路11cの配線路長よりも短い。しかしながら、第2の遅延配線路12cは側面m1を2度に亘って横断し、その分の配線路長が加算される。
【0066】
すなわち、第1の遅延配線路11cおよび第2の遅延配線路12cの配線路長は互いに同一であり、したがって第1の電子部品Saから遅延配線体10Cを介して第2の電子部品Sbに至る、第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbの全配線路長は互いに同一となる。
【0067】
結果として、以上説明した例と同一の作用効果を奏する。また、配線基板1に実装される電子部品に対し、配線パターンのレイアウト上、差動信号線対Gを所定の部位においてUターン形成する場合がある。そこで上述したように、Uターン部分の差動信号線対Gを分断し、その分断領域Zに上記遅延配線体10Cを設ける。
【0068】
遅延配線体10Cに設けられる第1の遅延配線路11cと第2の遅延配線路12cは、90°に屈曲された部位を2つ連続形成することで、180°屈曲する形状、すなわちUターン形状を得られ、90°に屈曲された部位を有する配線基板と同一の作用効果を得られる。
【0069】
つぎに、本発明における第2の実施の形態であって、その第1実施例を図5(A)(B)にもとづいて説明する。
図5(A)は、遅延調整体10Dの斜視図である。この遅延調整体10Dは、たとえば合成樹脂材もしくはセラミック材からなり、所定の厚みを有し、平面視が矩形状のブロック体に形成される。
【0070】
一方の主面m8である、図の上面から下面への厚み方向で、かつ厚みの範囲内に、平面視で略L字状の座ぐり部15aが設けられる。このような遅延配線体10Dを用いる際は、図5(A)に示す状態から上下面を反転させ、座ぐり部15aが設けられる主面m8を下面側とする。
【0071】
図5(B)は、配線基板装置一部である、配線基板1に実装される遅延配線体10Dの斜視図である。第1の電子部品Saと第2の電子部品Sbを省略しているが、これらは先に図1(A)(B)で説明したように実装されている。
第1の電子部品Saから第2の電子部品Sbに、第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbとからなる差動信号線対Gが配線されている。配線基板1における配線パターンのレイアウトの関係上、この差動信号線対Gの中途部には屈曲部Kが設けられている。そのままでは、第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbの互いの配線路長が異なる。
【0072】
前記遅延調整体10Dを、図5(A)の状態から上下面を反転させて配線基板1上に対向し、かつ実装する。詳しくは、反転した状態で遅延配線体10Dの下面(主面G8)が配線基板1に形成される屈曲部K上に載る。
そして、遅延配線体10Dに設けられる座ぐり部15aを外側配線である第1の差動信号線Gaに沿わせる。座ぐり部15a以外は平坦面15bであるので、内側配線である第2の差動信号線Gbに遅延調整体10Dの平坦面15bが密に接触する。座ぐり部を「第1の対向部15a」と呼び、平坦面を「第2の対向部15b」と呼ぶ。
【0073】
前記屈曲部Kにおいて、外側配線である配線路長の長い第1の差動信号線Gaは、第1の対向部15aで覆われるところから、第1の差動信号線Gaと第1の対向部15aとの距離が大である。したがって、第1の差動信号線Gaは第1の対向部15aに充満する空気層に晒される。
【0074】
これに対して、屈曲部Kにおいて、内側配線である配線路長の短い第2の差動信号線Gbは、第2の対向部15bが密着するところから、第2の差動信号線Gbと第2の対向部15bとの距離がゼロ(短い)である。したがって、第2の差動信号線Gbは遅延配線体10Dそのもので覆われる。
【0075】
先に説明したように、2つの電子部品Sa,Sbを接続する差動信号線Ga,Gbに伝播する信号の伝播時間tは、その差動信号線Ga,Gbの配線路長に対する位相速度Vg(m/s)の割合から決定される。前記位相速度は、単位時間当たりに進む位相量であり、配線基板の物性値と配線の線路幅で決まる。
【0076】
配線基板の物性値は、その配線基板を構成する部材の誘電率に影響される。一対の差動信号線相互の配線路長が互いに同じであっても、誘電率が高い(大)部材から構成される配線基板の差動信号線に導かれる信号の伝播時間は、誘電率が低い(小)部材から構成される配線基板の差動信号線に導かれる信号の伝播時間よりも長く(大)なる。
【0077】
図5の構成では、第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbともに、たとえば誘電率4の部材(セラミック材や合成樹脂材)からなる配線基板1に設けられている。そして、遅延配線体10Dもまた、誘電率4の部材から形成されるものとする。なお、空気は誘電率1である。
【0078】
屈曲部Kにおいて、第1の差動信号線Gaが誘電率4の遅延配線体10Dで覆われるが、実際には、第1の対向部15aが対向し、充満する誘電率1の空気に晒される。その一方で、第2の差動信号線Gbには誘電率4の遅延配線体10Dそのものである第2の対向部15bが密着する。
【0079】
したがって、屈曲部Kにおいては、第1の差動信号線Gaが設けられる配線基板1部分の誘電率よりも、第2の差動信号線Gbが設けられる配線基板1部分の誘電率が小になる。このような誘電率の関係から、第1の差動信号線Ga側の見かけ上の配線路長が短くなる。
【0080】
したがって、第1の差動信号線Gaに伝送される信号の位相速度が下がって、信号伝播時間が短縮する。外側配線である第1の差動信号線Gaに導かれる信号の伝播時間が、内側配線である第2の差動信号線Gbに導かれる信号の伝播時間と同一になり、スキューの発生がない。
【0081】
つぎに、本発明における第2の実施の形態であって、第2実施例を図6にもとづいて説明する。
図6は、配線基板装置一部の斜視図である。第1の電子部品Saおよび第2の電子部品Sbは省略しているが、これらは先に図1(A)(B)で説明したように実装されている。
【0082】
第1の電子部品Saから第2の電子部品Sbに、第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbとからなる差動信号線対Gが配線されている。ここでは、内側配線である第2の差動信号線Gbのみ中途部に屈曲部Kを有し、外側配線である第1の差動信号線Gaにおいては分断領域Zとしている。
【0083】
遅延調整体10Eは、その両端部が第1の差動信号線Gaの分断部相互と接続されるが、この両端部相互間は空中配線が架設される。前記空中配線は、第1の差動信号線Gaの分断された屈曲部Kと略同様の屈曲形状をなす。すなわち、遅延配線体10Eの両端部間は、配線基板1との距離が無限大に対向する対向部となっている。
【0084】
これに対して、記配線路長が短い第2の差動信号線Gbは、この第2の差動信号線Gbそのものを遅延調整体10Eに兼用させていて、配線基板1との距離がゼロの対向部を備えることになる。
【0085】
前記遅延配線体10Eの空中配線は、配線基板1の配線パターン形成面と間隔を存しているので、遅延配線体10Eと配線基板1面との間に空気層が形成される。したがって、遅延配線体10Eは、誘電率1の空気層に影響される。
その一方で、遅延配線体10Eの一部を兼用する第2の差動信号線Gbは全長に亘って配線基板1に形成されているので、たとえば誘電率4の配線基板1部材に影響される。屈曲部Kにおいて第1の差動信号線Gaは誘電率が小になり、第2の差動信号線Gbは配線基板1の物性そのままで誘電率が大である。
【0086】
第1の差動信号線Gaの誘電率が小さくなることで、信号の位相速度が下がって信号伝播時間が短縮し、見かけ上の配線路長が短くなる。したがって、第1の差動信号線Gaの配線路長は、第2の差動信号線Gbの配線路長と同一にみなされることとなり、互いの差動信号線Ga,Gbに導かれる信号の伝播時間が同一であって、スキューの発生がない。
【0087】
つぎに、本発明における第3の実施の形態を図7にもとづいて説明する。
図7は、配線基板装置一部の分解した斜視図である。第1の電子部品Saおよび第2の電子部品Sbは省略しているが、これらは先に図1(A)(B)で説明したように実装されている。
前記配線基板1Aは、互いに積層される複数枚(ここでは2枚)の積層基板1a,1bから構成され、積層した状態で一体化されている。上部側の第1の積層基板1aに前記第1の電子部品Saと第2の電子部品Sbが実装される。
【0088】
第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbには、屈曲部Kが設けられる。第1の差動信号線Gaは、第1の積層基板1aにおける一方の主面(図の上面)m10に屈曲部Kを含めて、全長に亘って形成される。
第2の差動信号線Gbは、屈曲部Kのみ第1の積層基板1aにおける一方の主面m10に設けられる。この屈曲部Kの両端は所定の間隔を存して中断する中断部Yaとなっていて、これら中断部Yaから第1の電子部品Saと第2の電子部品Sbまでは同じ主面m10に設けられる。
【0089】
第1の積層基板1aにおける中断部Yaの両端は、そのまま積層基板1aの板厚を貫通して、前記主面m10と対向する主面(図の下面)m11に突出する。なお、これら貫通部分は、スルーホールに代えてもよい。
下部側の積層基板1bにおける一方の主面(図の上面)m12には、第1の積層基板1aにおける中断部Yaと対応する配線パターンである中断対応部Ybが設けられ、第1の積層基板1aに設けられる貫通部分と接続される。
【0090】
ここでは、第2の差動信号線Gbに、第1の積層基板1aに設けられる4ヶ所の貫通部分と、第2の積層基板1bに設けられる2ヶ所の中断対応部Ybとで構成される迂回部Yが設けられる。迂回部Yの合計長さは、図1で説明したように、屈曲部Kにおける第1の差動信号線Gaの配線路長と、第2の差動信号線Gbの配線路長との差分に相当する。
【0091】
換言すれば、配線路長が短い部位を有する第2の差動信号線Gbは、配線路長が長い方の第1の差動信号線Gaと配線路長を同一とする迂回部Yを備えている。互いの差動信号線Ga,Gbの配線路長が同一であるので、これら差動信号線Ga,Gbに導かれる信号の伝播時間が同一になり、スキューの発生がない。
【0092】
なお、本発明は上述した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。そして、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の組合せにより、さらに種々の発明を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の配線基板装置の基本構成を説明する図。
【図2】本発明における第1の実施の形態に係る、第1実施例の基板配線装置一部の斜視図と、基板配線装置一部の分解した斜視図。
【図3】同実施の形態に係る、第2実施例の基板配線装置一部の斜視図。
【図4】同実施の形態に係る、第3実施例の基板配線装置一部の斜視図。
【図5】本発明における第2の実施の形態に係る、第1実施例の遅延調整体の斜視図と、基板配線装置一部の斜視図。
【図6】同実施の形態に係る、第2実施例の基板配線装置一部の斜視図。
【図7】本発明における第3の実施の形態に係る、基板配線装置一部の斜視図。
【図8】差動信号伝送方式を説明する図。
【図9】差動信号伝送方式を採用した場合の、スキュー現象を説明する図。
【図10】スキューにより起こる問題を説明する図。
【図11】スキューの原因を説明する図。
【符号の説明】
【0094】
Sa…第1の電子部品、Sb…第2の電子部品、1…配線基板、Ga…第1の差動信号線、Gb…第2の差動信号線、G…差動信号線対、Z…分断領域、10…遅延配線体、11…第1の遅延配線路、12…第2の遅延配線路、g1,g2,h1,h2…接続部、15a…第1の対向部、15b…第2の対向部、Y…迂回部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば携帯電話等に搭載され、差動信号伝送方式により2つの電子部品間に信号を伝送する配線基板装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的には、2つの電子部品間に信号を伝送するのに、いわゆる「シングルエンド伝送方式」が採用されている。これは、1本の信号線を2つの電子部品相互に接続していて、ドライバ側の電子部品からハイレベルの電位信号(以下、「H信号」と呼ぶ)と、ローレベルの電位信号(以下、「L信号」と呼ぶ)を、交互に前記1本の信号線に送る。
【0003】
前記信号線は、レシーバ側の電子部品に、H信号とL信号を交互に伝送する。レシーバ側の電子部品においては、これらH信号とL信号を受けて、たとえばLSIロジック回路を作動する。
【0004】
このシングルエンド伝送方式は、信号伝送の手段として何らの支障もないが、H信号とL信号との電位差が大であり、信号振幅が大きく、信号切換え時の波形が鮮明でない。そのため、ノイズが発生し易いとともに、単位時間に多くの信号数をとることができない。すなわち、大量の情報を、速く伝送できないという不具合がある。
【0005】
そこで、近年は、「差動信号伝送方式」と呼ばれる信号伝送手段が採用されるようになった。これは、2つの電子部品間を、Pチャンネル配線とNチャンネル配線との2本の差動信号線で結線する。
はじめに、ドライバ側の電子部品からPチャンネル配線にH信号を送るとともに、Nチャンネル配線にL信号を送る。そのあと、ドライバ側の電子部品からPチャンネル配線にL信号を送るとともに、Nチャンネル配線にH信号を送る。
【0006】
それぞれ信号はPチャンネル配線とNチャンネル配線を介して、レシーバ側の電子部品に送られる。レシーバ側の電子部品においては、これらH信号とL信号を受けて、たとえばLSIロジック回路を作動する。
具体的には、図8(A)に示すように、ドライバ側の電子部品から互いに論理値を逆転した逆位相(「逆相」とも呼ぶ)となる信号を、図8(B)に示すように、対となる2本の差動信号線Ga,Gbに入力する。レシーバ側の電子部品においては、図8(C)に示すように、差動信号線Ga,GBから伝送された信号の電位差でデータを識別する。
【0007】
このような差動信号伝送方式においては、シングルエンド伝送方式と比較して、それぞれの差動信号線が伝送する信号の振幅幅が小さくてすむ。外部からノイズがあっても、その差分に対しては保証されるので、ノイズに強い特徴がある。単位時間に多くの信号を送ることができ、より大量の情報を、より速く伝送できる利点がある。
【0008】
しかしながら、この差動信号伝送方式には、以下に述べるような制約がある。
すなわち、2本の差動信号線Ga,Gbを用いて信号を送るので、互いの差動信号線Ga,Gbとの間で、何らかの事情により信号の伝送時間に差が生じ、もしくはタイミングずれなどの、いわゆるスキューと呼ばれる現象が生じることがある。
【0009】
図9に示すように、本来は、H信号に対してL信号はスキューがない状態(実線で示す)で伝送されるのが理想のタイミングである。しかしながら、後述する理由により、b線(一点鎖線)で示すようなa時間のスキューが生じ、あるいはc線(二点鎖線)で示すような2a時間のスキューが生じることがある。
【0010】
図10は、図9に示した2本の差動信号線に流れる信号の電位差の波形であり、太線で示す波形線Aはスキューが無い状態、一点鎖線で示す波形線Bは前記b線で示すスキューがあるとき、二点鎖線で示す波形線Cは前記c線で示すスキューがあるときである。H信号とL信号を識別するのに閾値E,Fを定めていて、H信号は閾値E以上、L信号は閾値F以下とする。
【0011】
いずれの波形線A〜Cであっても、閾値F以下では充分な時間があるので判別するのに支障がない。また、閾値F以上のH信号を識別するのに、波形線Aで示すスキューの無い状態では、閾値Fを越える時間Daが長い。したがって、データを判別するためのトリガ信号をかけるのに充分な時間があり、データ伝送品質を高く保持できる。
【0012】
しかしながら、波形線Bでは閾値Fを越える時間Dbが短くなり、さらに波形線Cでは閾値Fを越える時間Dcが極めて短い。このようにスキューが大きくなるにしたがって、データを判別するためのトリガ信号をかける時間が不足し、データを判別できる時間が短縮して、信号伝送の品質が低下してしまう。
【0013】
差動信号伝送方式において、スキューが発生する原因として、2つの電子部品相互間を接続する2本の差動信号線の長さが互いに相違している場合と、2本の差動信号線の長さは互いに完全同一ではあるけれども、電子部品と差動信号線対とを接続するコネクタの構造自体に問題がある場合が考えられる。
【0014】
後者のコネクタの構造に問題がない場合、[特許文献1]は、前者の2つの電子部品間を接続する2本の信号線の長さが互いに相違しているのに近い状態で対応している。すなわち、この発明は、プリント配線基板に形成される複数組の差動信号線対をジグザグ状に蛇行形成して、遅延配線路長を実質的に同一としている。
【特許文献1】特開2004−325820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、[特許文献1]の技術は、2つの電子部品間に何らの障害物(電気部品等)も存在せず、整然と、複数組の差動信号線対をジグザグ状に蛇行形成できる場合に限る。実際には、2つの電子部品間に他の電子部品や電気部品が介在することは、ごく普通の構成である。
【0016】
このときは、プリント配線のレイアウト上、差動信号線対の中途部を屈曲して迂回する。あるいは、一方の差動信号線は直状で、他方の差動信号線のみ屈曲しなければならない。いずれにしても、一方の差動信号線の長さと、他方の差動信号線の長さが相違することが多く、前記したスキューの発生要因となってしまう。
【0017】
たとえば、図11に示す配線基板装置がある。すなわち、第1の電子部品Saと、第2の電子部品Sbが配線基板上の互いに離間した位置に実装される。これら第1、第2の電子部品Sa,Sb相互を電気的に接続する第1の差動信号線Gaと、第2の差動信号線Gbとからなる、差動信号線対Gがプリント配線されている。
【0018】
第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbのほとんど大部分は互いに直状で、かつ互いに並行に形成されている。したがって、この並行部分を[特許文献1]のように蛇行形成することで、2本の差動信号線Ga,Gb間における配線路長を実質的に同一とすることはできる。
【0019】
しかしながら、ここでは第1の差動信号線Gaのみ、この両端部に屈曲部Kが設けられる。第1の差動信号線Gaの配線路長をL1(mm)、第2の差動信号線Gbの配線路長をL2(mm)とすると、第1の差動信号線Gaは2つの屈曲部Kが形成されるので、この配線路長L1は、第2の差動信号線Gbの配線路長L2より長い。
【0020】
以上の条件において、第1の差動信号線Gaにおいて第1の電子部品Saから第2の電子部品Sb間に伝送(伝播)される信号の伝送時間(t1:s)と、第2の差動信号線Gbにおいて第1の電子部品Saから第2の電子部品Sb間に伝送(伝播)される信号の伝送時間(t2:s)を求める。
第1の差動信号線Ga: t1(s) = L1(mm)/Vg(m/s)
第2の差動信号線Gb: t2(s) = L2(mm)/Vg(m/s)
前記Vg(m/s)は位相速度である。すなわち、信号が単位時間あたりに進む(変化する)位相量であって、配線基板の物性値と差動信号線の線路幅で決まる値である。このように、対となる差動信号線の長さL1,L2が異なると、伝送時間t1,t2も異なることとなり、先に説明したスキューの発生要因となる。
【0021】
[特許文献1]の技術を用いて、差動信号線Ga,Gb相互のほとんど大部分の配線路長を同一にできたとしても、互いの差動信号線Ga,Gbの一部に配線路長が少しでも相違する箇所(屈曲部Kなど)があれば、結果として配線路長全体が相違してしまう。そのため、各差動信号線における位相速度が相違して、差動信号伝送の品質劣化を防止するには至らない。
【0022】
本発明は上記事情にもとづきなされたものであり、その目的とするところは、互いに並行して配線される2本の差動信号線からなり、互いの差動信号線の配線路長が異なる部位が形成される差動信号線対に対して配線路長の相違を吸収し、信号伝播の遅延時間差を解消して、信号伝送品質の向上化を得る配線基板装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を満足するため本発明は、配線基板に複数の電子部品を実装し、この配線基板に一対の差動信号線からなる差動信号線対を互いに並行して配線し、この差動信号線対の中途部に分断された領域を形成し、この分断された領域の配線基板に遅延配線体を実装し、この遅延配線体に互いの配線路長を同一に設定した第1の遅延配線路および第2の遅延配線路を設け、これら遅延配線路のそれぞれ端部と、分断された一対の差動信号線とを接続した。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、互いの差動信号線の配線路長が相違する部位における信号伝播の遅延を解消して、差動信号配線のバランス乱れを最小限に止め、信号伝送品質の向上化を得るという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を、図面にもとづいて説明する。
図1(A)は、配線基板装置の基本構成を説明する図である。
いわゆる、「差動信号伝送方式」と呼ばれる信号伝送手段を採用するため、第1の電子部品Saと、第2の電子部品Sbとの間を、一対(2本)の差動信号線からなる差動信号線対Gで結線する。いずれか一方の差動信号線を、「第1の差動信号線Ga」と呼び、他方の差動信号線を、「第2の差動信号線Gb」と呼ぶ。
【0026】
第1の電子部品Saと第2の電子部品Sb間を最短距離で結線するため、差動信号線対Gを直状に配線できれば、第1の差動信号線Gaの配線路長と、第2の差動信号線Gbの配線路長とが互いに同一となり、信号伝播時間が同一でスキューの発生はない。
しかしながら、配線基板1には多くの電子部品が実装されていることから、図に示すように中途部に屈曲部Kが形成されてしまう。前記屈曲部Kにおいて、外側配線を第1の差動信号線Gaとし、内側配線を第2の差動信号線Gbとすると、屈曲部Kでの第1の差動信号線Gaの配線路長Laは、第2の差動信号線Gbの配線路長Lbよりも長い。
【0027】
ただし、第1の電子部品Saから屈曲部Kの一端部に至る間の距離Lcにおける、第1、第2の差動信号線Ga,Gbの配線路長は互いに同一である。さらに、屈曲部Kの他端部から第2の電子部品Sbに至る間の距離Ldにおける、第1、第2の差動信号線Ga,Gbの配線路長は互いに同一である。
【0028】
このように、屈曲部Kを除く両側部位において差動信号線対Gを構成する第1の差動信号線Gaと、第2の差動信号線Gbの合計配線路長Lc+Ldは互いに同一であるので、屈曲部Kにおいても互いの差動信号線Ga,Gbの配線路長La,Lbを実質的に同一に形成しなければならない。
【0029】
図1(B)は、本発明における第1の実施の形態に係る、配線基板装置一部の模式的な説明図である。
配線基板1の板面に、第1の電子部品Saと、第2の電子部品Sbが互いに離間した位置に実装される。第1の電子部品Saから第2の電子部品Sbに、互いに並行して第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbからなる差動信号線対Gが接続される。
【0030】
前記差動信号線対Gの中途部に形成される屈曲部Kに相当する部位が分断されて、分断領域Zが設けられる。したがって、第1の電子部品Saから分断領域Zに至るまでの差動信号線対Gの線方向と、分断領域Zから第2の電子部品Sbに至るまでの差動信号線対Gの線方向とが相違し、ここでは互いに直角状(90°)に交差する。
【0031】
前記分断領域Zに、遅延配線体10が当て嵌められ、かつ配線基板1に実装される。前記遅延配線体10は、後述するように複数の構成が考えられるが、いずれも2つの配線パターンである第1の遅延配線路11と、第2の遅延配線路12を備えている。これら第1の遅延配線路11の配線路長と、第2の遅延配線路12の配線路長は互いに同一に設定されていることが特徴である。
【0032】
第1の遅延配線路11の両端には接続部g1,g2が設けられていて、一端側の接続部g1は、第1の電子部品Saから配線される第1の差動信号線Gaの分断領域端部に接続される。他端側の接続部g2は、第2の電子部品Sbに至る第1の差動信号線Gaの分断領域端部に接続される。
【0033】
第2の遅延配線路12の両端にも接続部h1,h2が設けられていて、一端側の接続部h1は、第1の電子部品Saから配線される第2の差動信号線Gbの分断領域端部に接続される。他端側の接続部h2は、第2の電子部品Sbに至る第2の差動信号線Gbの分断領域端部に接続される。
【0034】
第1の電子部品Saから分断領域Zに至るまでの差動信号線対Gの線方向と、分断領域Zから第2の電子部品Sbに至るまでの差動信号線対Gの線方向とが互いに直交している。そのままの配線であれば、屈曲部Kにおいて、外側配線である第1の差動信号線Gaの配線路長と、内側配線である第2の差動信号線Gbの配線路長が相違する。
【0035】
しかしながら、前記屈曲部Kに相当する部位を分断し、この分断領域Zに前記遅延配線体10を実装している。前記遅延配線体10は、互いに同じ長さの配線路長に形成される第1の遅延配線路11と、第2の遅延配線路12を備えている。
前述したように、第1の電子部品Saから分断領域Z(すなわち、遅延配線体10)に至るまでの第1の差動信号線Gaの配線路長および第2の差動信号線12の配線路長が互いに等く、分断領域Z(遅延配線体10)から第2の電子部品Sbに至る第1の差動信号線Gaの配線路長および第2の差動信号線12の配線路長が互いに等しい。
【0036】
したがって、第1の電子部品Saから第1の差動信号線Gaと、遅延配線体10の第1の遅延配線路11および第1の差動信号線Gaを介して第2の電子部品Sbに至るまでの全配線路長と、第1の電子部品Saから第2の差動信号線Gbと、遅延配線体10の第2の遅延配線路12および第2の差動信号線Gbを介して第2の電子部品Sbに至るまでの全配線路長とが、互いに等しい。
【0037】
このような構成を採用して、たとえば第1の差動信号線GaをPチャンネル配線とし、第2の差動信号線GbをNチャンネル配線として、ドライバ側の電子部品である第1の電子部品Saから第1の差動信号線GaにH信号を送るとともに、第2の差動信号線GbにL信号を送る。
【0038】
そのあと、第1の電子部品Saから第1の差動信号線GaにL信号を送るとともに、第2の差動信号線GbにH信号を送る。さらに、第1の電子部品Saから第1の差動信号線GaにH信号を送るとともに、第2の差動信号線GbにL信号を送る。
交互に送られるL信号とH信号は、第1の差動信号線Gaと第1の遅延配線路11および、第2の差動信号線Gbと第2の遅延配線路12を、それぞれ介して、レシーバ側の電子部品である第2の電子部品Sbへ送られる。
【0039】
第2の電子部品Sbにおいては、これら2本の差動信号線Ga,Gbおよび第1、第2の遅延配線路11,12からH信号とL信号を交互に受け、伝送された信号の電位差でデータを識別して、たとえばLSIロジック回路を作動し信号処理をなす。
このように、第1の電子部品Saから第2の電子部品Sbに至るまでの差動信号線対Gの中途部に、互いの差動信号線Ga,Gbの配線路長が異なる部位があっても、そこに遅延配線体10を備えることで、第1、第2の差動信号線Ga,Gb相互の配線路長の相違を吸収するので、互いの配線路長が等しくなる。
【0040】
したがって、配線基板1の物性値と線路幅で決まる、信号の単位時間当たりに進む位相量である位相速度(Vg[m/s])が、互いに同一となる。第1の電子部品Saから差動信号線対Gおよび遅延配線体10を介して第2の電子部品Sbへ、L信号とH信号がスキューの無い状態で交互に導かれ、鮮明な波形が得られて、データ伝送品質の向上化を図れる。
【0041】
以下、より具体的な構成を説明する。
図2(A)(B)は、第1の実施の形態に係る第1実施例の、基板配線装置一部の斜視図と、基板配線装置の分解した斜視図である。
ここでは、第1の電子部品Saおよび第2の電子部品Sbを省略しているが、これらは先に図1(A)(B)で説明したように実装されているものとする。第1の電子部品Saから第2の電子部品Sbに、第1の差動信号線Gaおよび第2の差動信号線Gbからなる差動信号線対Gが接続される。
【0042】
前記差動信号線対Gの中途部に分断領域Zが形成されていて、第1の電子部品Saから分断領域Zに至るまでの差動信号線対Gの線方向と、分断領域Zから第2の電子部品Sbに至るまでの差動信号線対Gの線方向とが相違し、互いに直角状に交差する。前記分断領域Zに遅延配線体10Aが当て嵌められ、かつ配線基板1に実装される。
【0043】
前記遅延配線体10Aは、所定の板厚を有し、平面視で矩形状をなすブロック体からなる。この遅延配線体10Aに、後述する第1の遅延配線路11aおよび第2の遅延配線路12aが設けられる。
すなわち、前記第1の電子部品Saと対向する遅延配線体10Aの側面m1に、第1の遅延配線路11aおよび第2の遅延配線路12aの一方の接続部g1,h1が設けられる。また、第2の電子部品Sbと対向する遅延配線体10Aの他側面m2に、第1の遅延配線路11aおよび第2の遅延配線路12aの他方の接続部g2,h2が設けられる。
【0044】
前記それぞれの接続部g1,g2,h1,h2の具体的構造は特に図示していないが、遅延配線体10Aの側面から外方へ突出する舌片でよい。したがって、第1の遅延配線路11aの両接続部g1,g2は、第1の差動信号線Gaの分断された端部に確実に接続される。第2の遅延配線路12aの両接続部h1,h2は、第2の差動信号線Gbの分断された端部に確実に接続される。
【0045】
前記遅延配線体10Aにおいて、第1の遅延配線路11aの両接続部g1,g2相互間は、配線基板1への実装面である主面m3に設けられていて、ここでは分断される以前の屈曲部Kにおける外側差動信号線と全く同一の直角状に形成される。
なお説明すると、前記第1の遅延配線路11aは、一方の接続部g1から主面m3において第1の電子部品Saに接続する第1の差動信号線Gaの線方向に沿って延長される。中途部で、第2の電子部品Sbに接続する第1の差動信号線Gaの線方向に沿うよう屈曲され、他方の接続部g2に至る。
【0046】
一方、前記第2の遅延配線路12aは、接続部h1から側面m1を直上して横断し、さらに前記主面m3と対向する主面m4に延長される。この主面m4において、分断される以前の屈曲部Kを形成する内側差動信号線と全く同一の直角状に屈曲形成される。さらに、側面m2を直下して横断し、前記接続部h2に至る。
【0047】
このように、前記遅延配線体10Aに設けられる第1の遅延配線路11aは、一方の主面m3のみに屈曲形成されるだけの配線路長となる。これに対して前記第2の遅延配線路12aは、90°存した2つの側面m1,m2に設けられる部分と、他方の主面m4に屈曲形成される部分との、合計の配線路長である。
【0048】
そのため、第2の遅延配線路12aが第1の遅延配線路11aの内側配線になっているにもかかわらず、第2の遅延配線路12aの配線路長は第1の遅延配線路11aの配線路長と互いに同一となる。
以上の構成の配線基板装置において、たとえば、第1の差動信号線GaをPチャンネル配線とし、第2の差動信号線GbをNチャンネル配線として、ドライバ側の電子部品である第1の電子部品Saからレシーバ側の電子部品である第2の電子部品Sbに、H信号とL信号を同時に送り、そのあと、交互に、かつ同時に送る。
【0049】
第2の電子部品Sbにおいては、これら2本の差動信号線Ga,Gbと2つの遅延配線路11a,12aからH信号とL信号を交互に受ける。そして、伝送された信号の電位差でデータを識別し、たとえばLSIロジック回路を作動して信号処理をなす。
第1の電子部品Saから第2の電子部品Sbに至るまでの間に、本来、差動信号線対Gの配線路長が異なる部位があっても、遅延配線体10Aを備えることで配線路長の相違を吸収でき、信号伝播の遅延時間差であるスキューを解消して、差動信号線対Gのバランスを最小限に止め、信号伝送品質の向上を得られる。
【0050】
図3は、第1の実施の形態に係る第2実施例の、基板配線装置一部の斜視図である。
ここでは、第1の電子部品Saと第2の電子部品Sbおよび配線基板1を省略しているが、配線基板1に対し第1の電子部品Saと第2の電子部品Sbは先に図1で説明した位置に実装されている。
【0051】
第1の電子部品Saから第2の電子部品Sbに、第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbとからなる差動信号線対Gが接続される。この差動信号線対Gの中途部に分断領域Zが形成され、第1の電子部品Saから分断領域Zに至るまでの差動信号線対Gの線方向と、分断領域Zから第2の電子部品Sbに至るまでの差動信号線対Gの線方向とが、互いに直角状に交差する。
【0052】
前記分断領域Zに遅延配線体10Bが当て嵌められ、かつ配線基板1に実装される。この遅延配線体10Bは、所定の板厚を有し平面視で矩形状をなす遅延配線層を、複数枚(ここでは3枚)積層して、互いを一体化したブロック体をなしている。
配線基板1に直接実装される最下部の遅延配線層を「第1の遅延配線層10b1」と呼び、中間部の遅延配線層を「第2の遅延配線層10b2」と呼び、最上部の遅延配線層を「第3の遅延配線層10b3」と呼ぶ。
【0053】
このように、第1の遅延配線層10b1と第2の遅延配線層10b2および第3の遅延配線層10b3を積層し一体化してなる遅延配線体10Bに、第1の遅延配線路11bと第2の遅延配線路12bが設けられる。
すなわち、第1の電子部品Saと対向する第1の遅延配線層10b1の側面m1に、第1の遅延配線路11bと第2の遅延配線路12bの一方の接続部g1、h1が設けられる。また、第2の電子部品Sbと対向する第1の遅延配線層10b1の他側面m2に、第1の遅延配線路11bと第2の遅延配線路12bの他方の接続部g2、h2が設けられる。
【0054】
前記第1の遅延配線路11bは、一方の接続部g1から第1の遅延配線層10b1の側面を直上して横断し、配線基板1に実装される主面と対向する主面(上面)m5において屈曲形成される。屈曲形状は、分断される以前の屈曲部Kの外側配線と全く同一の直角状である。この主面m5から側面m2を直下して横断し、他方の接続部g2に至る。
【0055】
前記第2の遅延配線路12bは、一方の接続部h1から第1の遅延配線層10b1および第2の遅延配線層10b2のそれぞれ側面m1を直上して横断し、第2の遅延配線層10b2の主面(上面)m6において屈曲形成される。屈曲形状は、分断される以前の屈曲部Kの内側配線と全く同一である。この主面m6から第2の遅延配線層10b2と第1の遅延配線層10b1のそれぞれ側面m2を直下して横断し、他方の接続部h2に至る。
【0056】
図2に示す例と相違する点は、複数(3枚)の遅延配線層10b1〜10b3を重ね合わせて遅延配線体10Bを構成することと、第1の遅延配線路11bと第2の遅延配線路12bがともに、第1の遅延配線層10b1と第2の遅延配線層10b2の互いに異なる側面m1,m2に形成されることである。
【0057】
結果として、図2に示す例と同一の作用効果を有するとともに、第1の遅延配線路10b1および第2の遅延配線路10b2が、ともに遅延配線体10Bの側面に露出するので、それぞれの接続部g1,g2と第1の差動信号線Gaの分断端部に対する接続位置と接続状態の確認がし易いとともに、接続部h1,h2と第2の差動信号線Gbの分断端部に対する接続位置と接続状態の確認がし易く、作業性の向上を図ることができる。
【0058】
前記第3の遅延配線層10b3には、第1、第2の遅延配線路10b1,10b2が設けられていないが、これら第1、第2の遅延配線路10b1,10b2と、第1、第2の遅延配線層10b1,10b2を覆うカバーの機能を有し、電気的な事故を防止する点で有利である。
【0059】
なお、第1の遅延配線路11bの屈曲部位を第1の遅延配線層10b1の上面m5に形成したが、第2の遅延配線層10b2の下面に設けてもよい。また、第2の遅延配線路12bの屈曲部位を第2の遅延配線層10b2の上面に設けたが、第3の遅延配線層10b3の下面に設けてもよい。
【0060】
図4は、第1の実施の形態に係る第3実施例の、配線基板装置一部を示す斜視図である。第1の電子部品Saと第2の電子部品Sbおよび配線基板1は省略しているが、ここでは配線基板1に対し第1の電子部品Saと第2の電子部品Sbが、互いに同じ位置に実装されている。
【0061】
第1の電子部品Saから第2の電子部品Sbに、第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbとからなる2本の差動信号線である差動信号線対Gが接続される。この差動信号線対Gの中途部に分断領域Zが形成され、第1の電子部品Saから分断領域Zに至るまでの差動信号線対Gの線方向と、分断領域Zから第2の電子部品Sbに至るまでの差動信号線対Gの線方向とが互いに平行する。
【0062】
前記分断領域Zに遅延配線体10Cが当て嵌められ、かつ配線基板1に実装される。遅延配線体10Cは、所定の板厚を有し平面視で矩形状をなすブロック体からなり、後述する第1の遅延配線路11cおよび第2の遅延配線路12cが設けられる。
すなわち、遅延配線体10Cの一側面m1で、かつ幅方向の一端側に第1の遅延配線路11cおよび第2の遅延配線路12cの、それぞれ一方の接続部g1,h1が設けられる。そして、同じ側面m1で、かつ幅方向の他端側に第1の遅延配線路11cと第2の遅延配線路12cの、それぞれ他方の接続部g2,h2が設けられる。
【0063】
前記遅延配線体10Cにおいて、第1の遅延配線路11cの両接続部g1,g2相互間は、配線基板1に実装される遅延配線体10Cの主面m3に設けられている。なお説明すると、それぞれの接続部g1,g2から第1の差動信号線Gaの線方向に沿って延長され、かつ所定部位において延出端部相互が連結され、第1の遅延配線路11cは主面m3において略U字状に形成される。
【0064】
第2の遅延配線路12cの両接続部h1,h2相互間は、側面m1を直上して横断し、さらに主面m3と対向する主面m4に亘って設けられている。それぞれの接続部h1,h2から第2の差動信号線Gbの線方向に沿って延長され、かつ所定部位において延出端部相互が連結される。すなわち、第2の遅延配線路12cは側面m1に2度に亘って設けられるとともに、主面m4において略U字状に形成される。
【0065】
第2の遅延配線路12cは第1の遅延配線路11cの内側に形成されるところから、主面m3と主面m4における略U字形状だけを比較すると、第2の遅延配線路12cの配線路長は第1の遅延配線路11cの配線路長よりも短い。しかしながら、第2の遅延配線路12cは側面m1を2度に亘って横断し、その分の配線路長が加算される。
【0066】
すなわち、第1の遅延配線路11cおよび第2の遅延配線路12cの配線路長は互いに同一であり、したがって第1の電子部品Saから遅延配線体10Cを介して第2の電子部品Sbに至る、第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbの全配線路長は互いに同一となる。
【0067】
結果として、以上説明した例と同一の作用効果を奏する。また、配線基板1に実装される電子部品に対し、配線パターンのレイアウト上、差動信号線対Gを所定の部位においてUターン形成する場合がある。そこで上述したように、Uターン部分の差動信号線対Gを分断し、その分断領域Zに上記遅延配線体10Cを設ける。
【0068】
遅延配線体10Cに設けられる第1の遅延配線路11cと第2の遅延配線路12cは、90°に屈曲された部位を2つ連続形成することで、180°屈曲する形状、すなわちUターン形状を得られ、90°に屈曲された部位を有する配線基板と同一の作用効果を得られる。
【0069】
つぎに、本発明における第2の実施の形態であって、その第1実施例を図5(A)(B)にもとづいて説明する。
図5(A)は、遅延調整体10Dの斜視図である。この遅延調整体10Dは、たとえば合成樹脂材もしくはセラミック材からなり、所定の厚みを有し、平面視が矩形状のブロック体に形成される。
【0070】
一方の主面m8である、図の上面から下面への厚み方向で、かつ厚みの範囲内に、平面視で略L字状の座ぐり部15aが設けられる。このような遅延配線体10Dを用いる際は、図5(A)に示す状態から上下面を反転させ、座ぐり部15aが設けられる主面m8を下面側とする。
【0071】
図5(B)は、配線基板装置一部である、配線基板1に実装される遅延配線体10Dの斜視図である。第1の電子部品Saと第2の電子部品Sbを省略しているが、これらは先に図1(A)(B)で説明したように実装されている。
第1の電子部品Saから第2の電子部品Sbに、第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbとからなる差動信号線対Gが配線されている。配線基板1における配線パターンのレイアウトの関係上、この差動信号線対Gの中途部には屈曲部Kが設けられている。そのままでは、第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbの互いの配線路長が異なる。
【0072】
前記遅延調整体10Dを、図5(A)の状態から上下面を反転させて配線基板1上に対向し、かつ実装する。詳しくは、反転した状態で遅延配線体10Dの下面(主面G8)が配線基板1に形成される屈曲部K上に載る。
そして、遅延配線体10Dに設けられる座ぐり部15aを外側配線である第1の差動信号線Gaに沿わせる。座ぐり部15a以外は平坦面15bであるので、内側配線である第2の差動信号線Gbに遅延調整体10Dの平坦面15bが密に接触する。座ぐり部を「第1の対向部15a」と呼び、平坦面を「第2の対向部15b」と呼ぶ。
【0073】
前記屈曲部Kにおいて、外側配線である配線路長の長い第1の差動信号線Gaは、第1の対向部15aで覆われるところから、第1の差動信号線Gaと第1の対向部15aとの距離が大である。したがって、第1の差動信号線Gaは第1の対向部15aに充満する空気層に晒される。
【0074】
これに対して、屈曲部Kにおいて、内側配線である配線路長の短い第2の差動信号線Gbは、第2の対向部15bが密着するところから、第2の差動信号線Gbと第2の対向部15bとの距離がゼロ(短い)である。したがって、第2の差動信号線Gbは遅延配線体10Dそのもので覆われる。
【0075】
先に説明したように、2つの電子部品Sa,Sbを接続する差動信号線Ga,Gbに伝播する信号の伝播時間tは、その差動信号線Ga,Gbの配線路長に対する位相速度Vg(m/s)の割合から決定される。前記位相速度は、単位時間当たりに進む位相量であり、配線基板の物性値と配線の線路幅で決まる。
【0076】
配線基板の物性値は、その配線基板を構成する部材の誘電率に影響される。一対の差動信号線相互の配線路長が互いに同じであっても、誘電率が高い(大)部材から構成される配線基板の差動信号線に導かれる信号の伝播時間は、誘電率が低い(小)部材から構成される配線基板の差動信号線に導かれる信号の伝播時間よりも長く(大)なる。
【0077】
図5の構成では、第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbともに、たとえば誘電率4の部材(セラミック材や合成樹脂材)からなる配線基板1に設けられている。そして、遅延配線体10Dもまた、誘電率4の部材から形成されるものとする。なお、空気は誘電率1である。
【0078】
屈曲部Kにおいて、第1の差動信号線Gaが誘電率4の遅延配線体10Dで覆われるが、実際には、第1の対向部15aが対向し、充満する誘電率1の空気に晒される。その一方で、第2の差動信号線Gbには誘電率4の遅延配線体10Dそのものである第2の対向部15bが密着する。
【0079】
したがって、屈曲部Kにおいては、第1の差動信号線Gaが設けられる配線基板1部分の誘電率よりも、第2の差動信号線Gbが設けられる配線基板1部分の誘電率が小になる。このような誘電率の関係から、第1の差動信号線Ga側の見かけ上の配線路長が短くなる。
【0080】
したがって、第1の差動信号線Gaに伝送される信号の位相速度が下がって、信号伝播時間が短縮する。外側配線である第1の差動信号線Gaに導かれる信号の伝播時間が、内側配線である第2の差動信号線Gbに導かれる信号の伝播時間と同一になり、スキューの発生がない。
【0081】
つぎに、本発明における第2の実施の形態であって、第2実施例を図6にもとづいて説明する。
図6は、配線基板装置一部の斜視図である。第1の電子部品Saおよび第2の電子部品Sbは省略しているが、これらは先に図1(A)(B)で説明したように実装されている。
【0082】
第1の電子部品Saから第2の電子部品Sbに、第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbとからなる差動信号線対Gが配線されている。ここでは、内側配線である第2の差動信号線Gbのみ中途部に屈曲部Kを有し、外側配線である第1の差動信号線Gaにおいては分断領域Zとしている。
【0083】
遅延調整体10Eは、その両端部が第1の差動信号線Gaの分断部相互と接続されるが、この両端部相互間は空中配線が架設される。前記空中配線は、第1の差動信号線Gaの分断された屈曲部Kと略同様の屈曲形状をなす。すなわち、遅延配線体10Eの両端部間は、配線基板1との距離が無限大に対向する対向部となっている。
【0084】
これに対して、記配線路長が短い第2の差動信号線Gbは、この第2の差動信号線Gbそのものを遅延調整体10Eに兼用させていて、配線基板1との距離がゼロの対向部を備えることになる。
【0085】
前記遅延配線体10Eの空中配線は、配線基板1の配線パターン形成面と間隔を存しているので、遅延配線体10Eと配線基板1面との間に空気層が形成される。したがって、遅延配線体10Eは、誘電率1の空気層に影響される。
その一方で、遅延配線体10Eの一部を兼用する第2の差動信号線Gbは全長に亘って配線基板1に形成されているので、たとえば誘電率4の配線基板1部材に影響される。屈曲部Kにおいて第1の差動信号線Gaは誘電率が小になり、第2の差動信号線Gbは配線基板1の物性そのままで誘電率が大である。
【0086】
第1の差動信号線Gaの誘電率が小さくなることで、信号の位相速度が下がって信号伝播時間が短縮し、見かけ上の配線路長が短くなる。したがって、第1の差動信号線Gaの配線路長は、第2の差動信号線Gbの配線路長と同一にみなされることとなり、互いの差動信号線Ga,Gbに導かれる信号の伝播時間が同一であって、スキューの発生がない。
【0087】
つぎに、本発明における第3の実施の形態を図7にもとづいて説明する。
図7は、配線基板装置一部の分解した斜視図である。第1の電子部品Saおよび第2の電子部品Sbは省略しているが、これらは先に図1(A)(B)で説明したように実装されている。
前記配線基板1Aは、互いに積層される複数枚(ここでは2枚)の積層基板1a,1bから構成され、積層した状態で一体化されている。上部側の第1の積層基板1aに前記第1の電子部品Saと第2の電子部品Sbが実装される。
【0088】
第1の差動信号線Gaと第2の差動信号線Gbには、屈曲部Kが設けられる。第1の差動信号線Gaは、第1の積層基板1aにおける一方の主面(図の上面)m10に屈曲部Kを含めて、全長に亘って形成される。
第2の差動信号線Gbは、屈曲部Kのみ第1の積層基板1aにおける一方の主面m10に設けられる。この屈曲部Kの両端は所定の間隔を存して中断する中断部Yaとなっていて、これら中断部Yaから第1の電子部品Saと第2の電子部品Sbまでは同じ主面m10に設けられる。
【0089】
第1の積層基板1aにおける中断部Yaの両端は、そのまま積層基板1aの板厚を貫通して、前記主面m10と対向する主面(図の下面)m11に突出する。なお、これら貫通部分は、スルーホールに代えてもよい。
下部側の積層基板1bにおける一方の主面(図の上面)m12には、第1の積層基板1aにおける中断部Yaと対応する配線パターンである中断対応部Ybが設けられ、第1の積層基板1aに設けられる貫通部分と接続される。
【0090】
ここでは、第2の差動信号線Gbに、第1の積層基板1aに設けられる4ヶ所の貫通部分と、第2の積層基板1bに設けられる2ヶ所の中断対応部Ybとで構成される迂回部Yが設けられる。迂回部Yの合計長さは、図1で説明したように、屈曲部Kにおける第1の差動信号線Gaの配線路長と、第2の差動信号線Gbの配線路長との差分に相当する。
【0091】
換言すれば、配線路長が短い部位を有する第2の差動信号線Gbは、配線路長が長い方の第1の差動信号線Gaと配線路長を同一とする迂回部Yを備えている。互いの差動信号線Ga,Gbの配線路長が同一であるので、これら差動信号線Ga,Gbに導かれる信号の伝播時間が同一になり、スキューの発生がない。
【0092】
なお、本発明は上述した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。そして、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の組合せにより、さらに種々の発明を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の配線基板装置の基本構成を説明する図。
【図2】本発明における第1の実施の形態に係る、第1実施例の基板配線装置一部の斜視図と、基板配線装置一部の分解した斜視図。
【図3】同実施の形態に係る、第2実施例の基板配線装置一部の斜視図。
【図4】同実施の形態に係る、第3実施例の基板配線装置一部の斜視図。
【図5】本発明における第2の実施の形態に係る、第1実施例の遅延調整体の斜視図と、基板配線装置一部の斜視図。
【図6】同実施の形態に係る、第2実施例の基板配線装置一部の斜視図。
【図7】本発明における第3の実施の形態に係る、基板配線装置一部の斜視図。
【図8】差動信号伝送方式を説明する図。
【図9】差動信号伝送方式を採用した場合の、スキュー現象を説明する図。
【図10】スキューにより起こる問題を説明する図。
【図11】スキューの原因を説明する図。
【符号の説明】
【0094】
Sa…第1の電子部品、Sb…第2の電子部品、1…配線基板、Ga…第1の差動信号線、Gb…第2の差動信号線、G…差動信号線対、Z…分断領域、10…遅延配線体、11…第1の遅延配線路、12…第2の遅延配線路、g1,g2,h1,h2…接続部、15a…第1の対向部、15b…第2の対向部、Y…迂回部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電子部品が実装される配線基板と、
この配線基板に互いに並行して配線され、中途部に分断された領域を有する一対の差動信号線からなる差動信号線対と、
前記配線基板における、前記差動信号線対の前記分断された領域に実装される遅延配線体と、
この遅延配線体に設けられ、前記分断された差動信号線対を構成する一対の差動信号線のそれぞれ端部に接続されるとともに、互いの配線路長が同一に設定される第1の遅延配線路および第2の遅延配線路と
を具備することを特徴とする配線基板装置。
【請求項2】
前記差動信号線対は、
前記分断された領域まで配線される一方の差動信号線対と、前記分断された領域から配線される他方の差動信号線対との、それぞれの差動信号線対相互の線方向が互いに異なって設けられ、
前記遅延配線体は、
この一面に、前記分断された領域まで配線される一方の差動信号線対と接続する接続部を備え、
この接続部が設けられる面とは異なる面に、前記分断された領域から配線される他方の差動信号線対と接続する接続部を備える
ことを特徴とする請求項1記載の配線基板装置。
【請求項3】
前記差動信号線対は、
前記分断された領域まで配線される一方の差動信号線対と、前記分断された領域から配線される他方の差動信号線対との、それぞれの差動信号線対相互の線方向が互いに平行に設けられ、
前記遅延配線体の一面に、前記分断された領域まで配線される一方の差動信号線対と接続する接続部を備え、
前記遅延配線体の前記接続部が設けられる面と同一の面に、前記分断された領域から配線される他方の差動信号線対と接続する接続部を備える
ことを特徴とする請求項1記載の配線基板装置。
【請求項4】
電子部品が実装される配線基板と、
この配線基板に互いに並行に配線され、中途部に互いの配線路長が異なる部位が形成される、第1の差動信号線および第2の差動信号線からなる差動信号線対と、
前記配線基板における、前記差動信号線対の配線路長の異なる部位に設けられ、差動信号線対を構成する前記第1の差動信号線および前記第2の差動信号線のそれぞれに対する距離を異ならせて対向する対向部を有し、見かけ上の配線路長を同一にする遅延配線体と
を具備することを特徴とする配線基板装置。
【請求項5】
前記遅延調整体は、
前記差動信号線対を構成する第1の差動信号線および第2の差動信号線のいずれか配線路長の長い方の差動信号線と距離を存して対向する第1の対向部と、いずれか配線路長の短い方の差動信号線に密着する第2の対向部とを有する
ことを特徴とする請求項4記載の配線基板装置。
【請求項6】
前記遅延調整体は、
前記配線路長が長い方の差動信号線を分断し、かつこの分断部位を連結することで、前記配線基板との距離を無限大とする対向部を有する空中配線と、
前記配線路長が短い方の差動信号線は、前記差動信号線そのものを兼用させて、配線基板との距離がゼロの対向部を備えた
ことを特徴とする請求項4記載の配線基板装置。
【請求項7】
互いに積層される複数枚の積層基板からなり、最上部の積層基板に電子部品が実装される配線基板と、
この配線基板に互いに並行に配線され、互いに配線路長が異なる部位を有する一対の差動信号線からなる差動信号線対と、
この差動信号線対を構成する一対の差動信号線のうち、配線路長が短い部位を有する差動信号線は、配線路長が長い方の差動信号線と配線路長を同一となすよう、複数の積層基板に亘って迂回部を備える
ことを特徴とする配線基板装置。
【請求項1】
複数の電子部品が実装される配線基板と、
この配線基板に互いに並行して配線され、中途部に分断された領域を有する一対の差動信号線からなる差動信号線対と、
前記配線基板における、前記差動信号線対の前記分断された領域に実装される遅延配線体と、
この遅延配線体に設けられ、前記分断された差動信号線対を構成する一対の差動信号線のそれぞれ端部に接続されるとともに、互いの配線路長が同一に設定される第1の遅延配線路および第2の遅延配線路と
を具備することを特徴とする配線基板装置。
【請求項2】
前記差動信号線対は、
前記分断された領域まで配線される一方の差動信号線対と、前記分断された領域から配線される他方の差動信号線対との、それぞれの差動信号線対相互の線方向が互いに異なって設けられ、
前記遅延配線体は、
この一面に、前記分断された領域まで配線される一方の差動信号線対と接続する接続部を備え、
この接続部が設けられる面とは異なる面に、前記分断された領域から配線される他方の差動信号線対と接続する接続部を備える
ことを特徴とする請求項1記載の配線基板装置。
【請求項3】
前記差動信号線対は、
前記分断された領域まで配線される一方の差動信号線対と、前記分断された領域から配線される他方の差動信号線対との、それぞれの差動信号線対相互の線方向が互いに平行に設けられ、
前記遅延配線体の一面に、前記分断された領域まで配線される一方の差動信号線対と接続する接続部を備え、
前記遅延配線体の前記接続部が設けられる面と同一の面に、前記分断された領域から配線される他方の差動信号線対と接続する接続部を備える
ことを特徴とする請求項1記載の配線基板装置。
【請求項4】
電子部品が実装される配線基板と、
この配線基板に互いに並行に配線され、中途部に互いの配線路長が異なる部位が形成される、第1の差動信号線および第2の差動信号線からなる差動信号線対と、
前記配線基板における、前記差動信号線対の配線路長の異なる部位に設けられ、差動信号線対を構成する前記第1の差動信号線および前記第2の差動信号線のそれぞれに対する距離を異ならせて対向する対向部を有し、見かけ上の配線路長を同一にする遅延配線体と
を具備することを特徴とする配線基板装置。
【請求項5】
前記遅延調整体は、
前記差動信号線対を構成する第1の差動信号線および第2の差動信号線のいずれか配線路長の長い方の差動信号線と距離を存して対向する第1の対向部と、いずれか配線路長の短い方の差動信号線に密着する第2の対向部とを有する
ことを特徴とする請求項4記載の配線基板装置。
【請求項6】
前記遅延調整体は、
前記配線路長が長い方の差動信号線を分断し、かつこの分断部位を連結することで、前記配線基板との距離を無限大とする対向部を有する空中配線と、
前記配線路長が短い方の差動信号線は、前記差動信号線そのものを兼用させて、配線基板との距離がゼロの対向部を備えた
ことを特徴とする請求項4記載の配線基板装置。
【請求項7】
互いに積層される複数枚の積層基板からなり、最上部の積層基板に電子部品が実装される配線基板と、
この配線基板に互いに並行に配線され、互いに配線路長が異なる部位を有する一対の差動信号線からなる差動信号線対と、
この差動信号線対を構成する一対の差動信号線のうち、配線路長が短い部位を有する差動信号線は、配線路長が長い方の差動信号線と配線路長を同一となすよう、複数の積層基板に亘って迂回部を備える
ことを特徴とする配線基板装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−224489(P2009−224489A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66242(P2008−66242)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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