説明

配線基板

【課題】 絶縁層の上下面の複数の配線導体を電気的に接続する貫通導体が貫通孔の内側面から剥がれることを抑制することが可能な配線基板を提供する。
【解決手段】 セラミック焼結体からなり、貫通孔3を有し、貫通孔3の内側面が、セラミック焼結体が部分的に溶融した後に固化してなる溶融改質層1aとされた絶縁層1と、絶縁層1の上下面に形成された配線導体2と、貫通孔3の内側面に被着され、絶縁層1の上下面の配線導体2同士を互いに電気的に接続する貫通導体4とを備え、貫通導体4は、溶融改質層1aの表面に被着された密着層4aと、密着層4aの表面に被着された導体層4bとからなり、密着層4aに、溶融改質層1aと導体層4bとの間に部分的な空隙を生じるような切れ目Aが形成されている配線基板である。貫通導体4に作用する熱応力を切れ目Aの部分において吸収して、熱応力による貫通導体4の剥がれを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚み方向に貫通する貫通孔を有する絶縁層と、絶縁層の上面および下面に形成された配線導体と、貫通孔の内側面に被着されて、絶縁層の上下面の配線導体を電気的に接続する貫通導体とを備える配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品搭載用等に使用される配線基板として、セラミック焼結体からなり、上面および下面に配線導体が形成された絶縁層と、その絶縁層を厚み方向に貫通する貫通孔と、貫通孔の内側面に被着された貫通導体(ビア導体)とを備えたものが用いられている。絶縁層の上下面の配線導体は、貫通孔が形成された位置で上下に重なり合う部分を有し、この部分で貫通導体を介して上下に電気的に接続されている。
【0003】
このような配線基板は、例えば絶縁層の上面の配線導体に電子部品の電極や電子部品の電気検査を行なうためのプローブが接続され、下面の配線導体が回路基板等の外部電気回路基板に接続される。そして、絶縁層の上面の配線導体と、貫通導体と、絶縁層の下面の配線導体とを介して、電子部品が外部電気回路と電気的に接続され、信号の送受や、電子部品に対する電気的な検査等が行なわれる。
【0004】
貫通導体は、セラミック焼結体からなる絶縁層の所定位置にレーザ加工によって開口が円形状等の貫通孔を形成し、この貫通孔の内側面にスパッタリング法によって密着層を被着させ、その後、密着層の表面にめっき法によって導体層を被着させることによって形成されている。密着層は、絶縁材料からなる絶縁層の貫通孔の内側面に対する、めっき法による導体層の被着を可能とするためのものである。
【0005】
なお、レーザ加工に伴いセラミック焼結体が溶融するため、絶縁層の貫通孔の内側面には、セラミック焼結体が部分的に溶融した後に固化した層(溶融改質層)が生じているため、実際の貫通導体の剥がれは、貫通導体の密着層と溶融改質層との界面で生じやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−155680号公報
【特許文献2】特開平10−275874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような配線基板においては、絶縁層と貫通導体との熱膨張率の差により熱応力が生じ、この熱応力で貫通導体が貫通孔の内側面から剥がれる可能性があるという問題点があった。
【0008】
特に、近年、電子部品の電極の高密度化に対応して同時にプローブが接続される配線導体の数が増える傾向にあり、これに応じて配線基板に対する加熱時間が長くなっているため、上記のような熱応力に起因する貫通導体の剥がれが発生しやすくなってきている。
【0009】
本発明は上記従来の技術の問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、絶縁層の上下面の複数の配線導体を電気的に接続する貫通導体が貫通孔の内側面から剥がれることを効果的に抑制することが可能な配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の配線基板は、セラミック焼結体からなり、厚み方向に貫通する貫通孔を有し、該貫通孔の内側面が、前記セラミック焼結体が部分的に溶融した後に固化してなる溶融改質層とされた絶縁層と、該絶縁層の上面および下面に形成された配線導体と、前記貫通孔の内側面に被着され、前記絶縁層の上面の前記配線導体と下面の前記配線導体とを電気的に接続する貫通導体とを備える配線基板であって、前記貫通導体は、前記溶融改質層の表面に被着された密着層と、該密着層の表面に被着された導体層とからなり、前記密着層に、前記溶融改質層と前記導体層との間に部分的な空隙を生じるような切れ目が形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の配線基板は、上記構成において、前記溶融改質層の表面に凹部が形成されており、該凹部に対応して前記密着層の切れ目が形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の配線基板は、上記構成において、前記切れ目は、前記貫通孔の深さ方向の中央部分において上下端部分よりも多いことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の配線基板によれば、貫通導体が、溶融改質層の表面に被着された密着層と、密着層の表面に被着された導体層とからなり、密着層に、溶融改質層と導体層との間に部分的な空隙を生じるような切れ目が形成されていることから、貫通導体と絶縁層との間で両者の熱膨張率の差に起因する熱応力が生じたとしても、その熱応力は、密着層が切れ目に隣接する部分で伸縮することによって吸収することができる。そのため、熱応力による貫通導体の剥がれを効果的に抑制することができる。したがって、絶縁層の上下面の複数の配線導体を電気的に接続する貫通導体が貫通孔の内側面から剥がれることを効果的に抑制することが可能な配線基板を提供することができる。
【0014】
また、本発明の配線基板によれば、上記構成において、溶融改質層の表面に凹部が形成されており、この凹部に対応して密着層の切れ目が形成されている場合には、溶融改質層の側においても、切れ目の部分における熱応力の吸収に対応して同様に、凹部付近においても熱応力を吸収することができる。そのため、熱応力による貫通導体の剥がれをより効果的に抑制することができる。
【0015】
また、本発明の配線基板は、上記構成において、密着層の切れ目が、貫通孔の深さ方向の中央部分において上下端部分よりも多い場合には、貫通導体と絶縁層との熱膨張率の差に起因する熱応力が上下端部側から集中して大きくなる傾向がある中央部分において、より効果的に熱応力を吸収して、貫通導体の剥がれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は本発明の配線基板の実施の形態の一例を示す上面図であり、(b)は(a)のA−A線における断面図である。
【図2】図1に示す配線基板の貫通孔部分を拡大して示す要部断面図である。
【図3】図2の貫通孔部分における要部をさらに拡大して模式的に示す要部拡大断面図(斜視図)である。
【図4】図1〜図3に示す配線基板の密着層の表面の一例を示す要部拡大側面図(透視図)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の配線基板を添付の図面を参照しつつ詳細に説明する。図1(a)は本発明の配線基板の実施の形態の一例を示す上面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A線における断面図である。また、図2は、図1に示す配線基板の貫通孔部分を拡大して示す要部断面図であり、図3は図2の貫通孔部分における要部をさらに拡大して示す要部拡大断面図(斜視図)である。図1〜図3において、1は絶縁層,2は配線導体,3は貫通孔,4は密着層4aおよび導体層4bからなる導通導体である。
【0018】
絶縁層1は、酸化アルミニウム質焼結体や窒化アルミニウム質焼結体,ムライト質焼結体,ガラスセラミック焼結体,ガラス母材中に結晶成分を析出させた結晶化ガラスまたは雲母やチタン酸アルミニウム等の微結晶焼結体からなる、金属材料とほぼ同等の精密な機械加工が可能なセラミック材料(いわゆるマシナブルセラミックス)等のセラミック材料により形成されている。
【0019】
絶縁層1は、例えば酸化アルミニウム質焼結体からなる場合であれば、次のようにして製作することができる。すなわち、酸化アルミニウムおよび酸化ケイ素等の原料粉末に適当な有機バインダおよび有機溶剤を添加混合して作製したスラリーをドクターブレード法やリップコータ法等のシート成形技術でシート状に成形することによってセラミックグリーンシートを作製して、その後、セラミックグリーンシートを切断加工や打ち抜き加工によって適当な形状および寸法とするとともに、これを約1300〜1500℃の温度で焼成することによって製作することができる。
【0020】
絶縁層1は、例えば四角板状や円板状等であり、例えば上面が、実装や電気チェックを行なう電子部品(図示せず)を搭載(電子部品を配線基板に電気的および機械的に接続して電子装置とするための実装、または電子部品に対して電気的なチェックを施すための一時的な載置)するための部位として使用される。電子部品7としては、ICやLSI等の半導体集積回路素子およびLED(発光ダイオード)やPD(フォトダイオード),CCD(電荷結合素子)等の光半導体素子を含む半導体素子,弾性表面波素子や水晶振動子等の圧電素子,容量素子,抵抗器,半導体基板の表面に微小な電子機械機構が形成されてなるマイクロマシン(いわゆるMEMS素子)等の種々の電子部品7が挙げられる。
【0021】
この絶縁層1の上面および下面には、それぞれ配線導体2が形成されている。配線導体2は、例えば電子部品と電気的に接続されて、この電子部品に対する信号の送受や、電子部品に対する電気的なチェックを行なうためのプローブを接続するための端子として機能する。絶縁層1の上下面の配線導体2は、絶縁層1を厚み方向に貫通する貫通孔3の内側面に形成された貫通導体4を介して互いに電気的に接続されている。
【0022】
配線導体2と電子部品との電気的な接続は、例えば配線導体2の所定部分に電子部品の電極(図示せず)を半田等の導電性接続材を介して接合することによって行なわれる。この場合、半田等を配線導体2の表面から貫通孔3内の貫通導体4の表面にかけて接合させるようにして半田の接合面積をより広くして、電気的な接続の信頼性を向上させるようにしてもよい。
【0023】
なお、図2に示したのは絶縁層1の上面側の配線導体2であるが、絶縁層1の下面側にも、この上面側と同様に配線導体2が所定のパターンで形成されている。この下面側の配線導体2のパターンは、上面側と同様であってもよく、異なっていてもよい。
【0024】
貫通孔3は、セラミック焼結体からなる絶縁層1にレーザ光の照射による孔あけ加工(レーザ加工)を施すことによって形成されている。貫通孔3について、(未焼成の上記セラミックグリーンシートの状態ではなく)セラミック焼結体からなる絶縁層1に孔あけ加工を施して形成しているので、焼成時の収縮に起因する寸法精度の低下の影響を受けない。そのため、この配線基板においては、絶縁層1における貫通孔3の位置精度が高い。
【0025】
このレーザ加工の際に、貫通孔3の内側面は、レーザ光によって加熱されていったん部分的に溶融し、その後冷却(自然冷却等)されて固化する。したがって、絶縁層1のうち貫通孔3の内側面は、セラミック焼結体が部分的に溶融した後に固化してなる溶融改質層1aとなっている。
【0026】
溶融改質層1aにおいては、いったん溶融したガラス成分が絶縁層1との界面や密着層4aとの界面等にケイ酸系ガラス等のガラス成分が層状になっている。また、酸化アルミニウムや酸化ケイ素の再結晶化して成長した粒子が、ガラス層中に分散している。
【0027】
貫通孔3は、例えば、直径が300μm〜700μm程度の円形状であり、この内側面に密着層4aおよび導体層4bが順次被着されて貫通導体4が形成されている。
【0028】
密着層4aおよび導体層4bは、例えば、銅や銀,パラジウム,金,白金,アルミニウム,クロム,ニッケル,コバルト,チタン,タングステン,モリブデン,マンガン等の金属材料またはこれらの金属材料の合金材料からなる。
【0029】
密着層4aは、導体層4bを貫通孔3の内側面に被着させるためのものであり、導体層4bは絶縁層1の上下面の配線導体2同士を低抵抗で接続するためのものである。
【0030】
密着層4aはスパッタリング法によって貫通孔3の内側面に被着されている。密着層4aを形成する金属材料としては、スパッタリング法によって貫通孔3の溶融改質層1a(ケイ酸系ガラス等)に強固に被着させることが可能な、チタンやクロム等の金属材料が特に適している。このような密着層4aの厚みは約0.05〜5μm程度に設定すればよい。
【0031】
また、密着層4aは、1層だけではなく、複数の層からなるものでもよい。例えば、まず上記の溶融改質層1aに対する密着性が特に高いチタンからなるスパッタリング膜(図示せず)を被着させ、その後、その表面にめっき層からなる導体層4bとの密着性が良好な銅からなるスパッタリング膜(図示せず)を被着させて、これらのチタンおよび銅のスパッタリング膜で密着層4aを形成するようにしてもよい。
【0032】
導体層4bは、上下の配線導体2を低電気抵抗で接続するためのものであるため、例えば約5〜20μm程度と比較的厚いめっき層によって形成されている。また、この導体層4bを形成する金属材料としては、めっき法による被着が容易であり、電気抵抗が低い、銅や銀,金等の金属材料からなるものが好ましく、生産性やコスト,マイグレーションの抑制等を考慮すれば銅が特に好ましい。また、導体層4bは、銅めっき層(図示せず)の酸化防止や、実装時に上記のように貫通導体4の表面に半田を接合させるときの半田の濡れ性等を考慮して、銅めっき層の表面にニッケルおよび金めっき層(図示せず)を順次被着させたものとするのが好ましい。
【0033】
導体層4bは、めっき時の金属材料の広がりの抑制や生産性等を考慮して、電解めっき法で被着させることが好ましい。例えば、導体層4bを密着層4aの表面に順次被着された銅めっき層,ニッケルめっき層および金めっき層で形成する場合であれば、以下のようにすればよい。
【0034】
まず、密着層4aを被着させた絶縁層1を硫酸銅またはシアン化銅を主成分とする電解銅めっき液中に浸漬し、配線導体2を介して密着層4aにめっき用の電流を供給して、密着層4aの表面に銅めっき層を被着させる。そして、密着層4aに銅めっき層を被着させた絶縁層1を、順次、硫酸ニッケル等を主成分とする電解ニッケルめっき液およびシアン化金カリウムを主成分とする電解金めっき液に浸漬するとともに、銅めっき層の場合と同様にめっき用の電流を供給して、銅めっき層の表面にニッケルめっき層および金めっき層を順次被着させる。以上の工程により、上記めっき層構成の導体層4bを密着層4aの表面に被着させることができる。
【0035】
なお、上記の配線導体2も、これらの密着層4aおよび導体層4bと同様の材料を用い、同様の方法で形成することができる。すなわち、まず絶縁層1の上面および下面の所定部位に、貫通孔3内の密着層4aを形成するのと同様の材料および方法で密着層(符号なし)を被着させ、次に、その密着層の表面に、貫通孔3の導体層4bを形成するのと同様の材料および方法で導体層(符号なし)を被着させるようにすれば、絶縁層1の上面および下面に所定パターンで配線導体2を形成することができる。
【0036】
このような配線基板において、例えば、絶縁層1の上面の配線導体2に電子部品(図示せず)の電極や電子部品の電気検査を行なうためのプローブ(図示せず)が接続され、下面の配線導体2が回路基板等の外部電気回路基板(図示せず)に接続される。そして、絶縁層1の上面の配線導体2と、貫通導体4と、絶縁層1の下面の配線導体2とを介して、電子部品が外部電気回路と電気的に接続され、信号の送受や、電子部品に対する電気的なチェック等が行なわれる。なお、電子部品に対する電気的なチェックは、例えば半導体集積回路素子の集積回路が正常に作動するか否かの検査である。この場合には、半導体基板(シリコンウエハ等)に形成された多数の半導体集積回路素子(図示せず)に対して、個片に切断する前に一括して検査を行なうために、例えば図1に示したような配線基板が、半導体基板と同じ程度の大きさの母基板に配列形成されたものが使用される。この場合の配線基板(多数個配列された配線基板)は、いわゆるプローブカードとして使用することができる。
【0037】
本発明の配線基板においては、上記のように貫通導体4が密着層4aと導体層4bとからなり、密着層4aに、溶融改質層1aと導体層4bとの間に部分的な空隙を生じるような切れ目Aが形成されている。このような切れ目Aが形成されていることから、貫通導体4と絶縁層1との間で両者の熱膨張率の差に起因する熱応力が生じたとしても、その熱応力は、密着層4aが切れ目Aに隣接した部分で伸縮することによって吸収することができる。そのため、熱応力による貫通導体4の剥がれを効果的に抑制することができる。
【0038】
また、本発明の配線基板によれば、上記構成において、溶融改質層1aの表面に凹部Bが形成されており、この凹部Bに対応して溶融改質層1aの切れ目Aが形成されている場合には、溶融改質層1aの側においても、切れ目Aの部分における熱応力の吸収に対応して同様に熱応力を吸収することができる。そのため、熱応力による貫通導体4の剥がれをより効果的に抑制することができる。したがって、絶縁層1の上下面の配線導体2を電気的に接続する貫通導体4が貫通孔3の内側面(実際には溶融改質層1aの表面)から剥がれることを効果的に抑制することが可能な配線基板を提供することができる。
【0039】
このような切れ目Aは、上記のように熱応力を効果的に吸収することだけを考慮した場合には大きいほどよいが、大きくなり過ぎると、密着層4aと溶融改質層1aおよび導体層4bとの接合面積が小さくなって、この接合の強度自体が低下し、かえって貫通導体4が剥がれやすくなってしまう可能性がある。そのため、切れ目Aは、貫通導体4の表面に対して垂直な方向から見た(側面視した)ときの面積の合計が、溶融改質層1aと導体層4bとの間の接合面積に対して5〜10%程度の範囲であることが好ましい。なお、個々の切れ目Aは、側面視したときの大きさが0.1〜50μm程度であり、密着層4aを厚み方向に貫通している。
【0040】
また、切れ目Aの側面視したときの形状は、楕円形状や、楕円形状であって長軸方向の両端部分が尖ったような形状や、帯状等である。切れ目Aの上記形状について、貫通導体4と絶縁層1との間の熱応力を効果的に吸収する上では、熱応力が貫通導体4の長さ方向に大きく作用する傾向があるため、長軸が貫通導体4の長さ方向に沿うような楕円形状であることが好ましい。
【0041】
なお、密着層4aに切れ目Aが形成されている部分において、導体層4bにも切れ目Aと同様の切れ目(符号なし)が、導体層4bの厚み方向の一部、または厚み方向に貫通するように形成されていても構わない。密着層4aの切れ目Aは、密着層4aを貫通孔3の内側面の一部に限定されるような大きさであるため、このような部分において導体層4bに切れ目が生じていたとしても、導体層4bの電気抵抗等の電気的な特性に大きな影響が生じることはない。
【0042】
このような切れ目Aを有する密着層4aは、例えば、密着層4aを被着させる際に、密着層4aとなるチタン等のスパッタリング膜の溶融改質層1a表面への被着を妨げるようなセラミック粒子等(図示せず)を溶融改質層1aの表面に付着させておき、その後、セラミック粒子を洗浄除去するようにすればよい。
【0043】
また、絶縁層1にレーザ加工で貫通孔3を形成する際に、レーザ光の照射の角度や強度,ショット数等を調整して、貫通孔3の内側面に凹部Bを形成しておいて、この凹部Bの上には密着層4aが被着されないようにする方法でも、切れ目Aを密着層4aに形成することができる。例えば、レーザ光の強度を強くし、ショット数を多くするように調整すれば、貫通孔3の内側面に溶融したガラス成分が飛散後付着し、この内側面がいわゆるササクレ状になって溶融改質層1aに凹部Bが形成される。
【0044】
この場合には、溶融改質層1aの表面に凹部Bが形成されており、この凹部Bに対応して密着層4aの切れ目Aが形成されていることになる。そして、このような場合には、上記のように溶融改質層1aの側においても、切れ目Aの部分における熱応力の吸収に対応して同様に、凹部B付近においても熱応力を吸収することができる。そのため、熱応力による貫通導体4の剥がれをより効果的に抑制することができる。
【0045】
凹部Bは、例えば側面視したときの形状(密着層4aとの界面における開口形状)が切れ目Aと同様であり、溶融改質層1aのうち密着層4aとの界面(密着層4aを被着させる際の露出表面)から溶融改質層3の内側に向かって形成されている。凹部Bは、溶融改質層1aを厚み方向に貫通している場合には、上記のような熱応力を吸収する効果をより大きく得ることができる。
【0046】
ただし、凹部Bが溶融改質層1aを厚み方向に貫通していなくても、少なくとも上記のように密着層4aとの界面から凹部Bが形成されていれば(この界面に凹部Bの開口部分があれば)、密着層4aに切れ目Aを形成することはできる。
【0047】
また、凹部Bは、密着層4aとの界面から溶融改質層1aの内側に向かって同じ断面(凹部Bの深さ方向に直交する方向における断面)寸法であってもよく、しだいに狭くなったり、広くなったりしていてもよいが、溶融改質層1a内部でのクラック等の機械的な破壊を抑制する上では、しだいに狭くなっているものが好ましい。
【0048】
なお、凹部Bは、必ずしも、密着層4aとの界面における開口の全部が切れ目Aにつながっている必要はなく、上記開口の一部が密着層4aで塞がれていても構わない。
【0049】
また、本発明の配線基板は、上記構成において、例えば図4に示すように、密着層4aの切れ目Aが、貫通孔3の深さ方向の中央部分において上下端部分よりも多い場合には、貫通導体4と絶縁層1との熱膨張率の差に起因する熱応力が上下端部側から集中して大きくなる傾向がある中央部分において、より効果的に熱応力を吸収して、貫通導体4の剥がれを抑制することができる。なお、図4は、図1〜図3に示す配線基板の密着層4aの表面の一例を示す要部拡大側面図(透視図)である。図4において図1〜図3と同様の部位には同様の符号を付している。また、図4において密着層4aの一部を断面として示している。
【0050】
この場合、切れ目Aは、上記のような方法で一括して密着層4aに形成されているため、その形状および寸法が同様であり、切れ目Aの個数に応じて、切れ目Aの側面視したときの面積の合計が変化する傾向にある。そのため、切れ目Aの個数を多くしたり少なくしたりすることによって、切れ目Aの側面視したときの面積を大きくしたり小さくしたりすることができる。したがって、切れ目Aが、貫通孔3の深さ方向の中央部分において上下端部分よりも多い場合には、中央部分において上下端部分よりも側面視したときの切れ目Aの合計の面積をより大きくすることができ、上記のようにより効果的に熱応力を吸収することができる。
【0051】
切れ目Aについて、貫通孔3の深さ方向の中央部分において上下端部分よりも多くする割合は、例えば、密着層4aがチタンと銅のスパッタリング膜からなる厚さが約0.3〜3μmのものであり、導体層4bが銅のめっき層からなる厚さが約5〜10μmのものであり、貫通孔3の直径が約300〜700μmで深さが約1500〜3000μm程度の場合であれば、中央部分において上下端部分の約1.5〜3倍程度に設定すればよい。
【実施例】
【0052】
酸化アルミニウム質焼結体からなるセラミック基板に直径が約680μmで長さが約2500μmの貫通孔をレーザ加工で形成し、この貫通孔の内側面に順次、厚さが約3μのチタンと銅からなる密着層と、厚さが約10μmの銅からなる導体層とを、それぞれスパッタリング法および無電解めっき法とにより順次被着させて貫通導体を形成し、実施例の配線基板を100個作製した。
【0053】
貫通孔の内側面には、レーザ加工を施す際のレーザ光の照射強度を調整して凹部を形成し、この凹部に応じて密着層に切れ目が生じるようにした。切れ目は、それぞれの側面視における形状がほぼ楕円形状であり、長軸の寸法が約10〜20μm程度で、短軸の寸法が約2〜6μm程度であった。このような切れ目が、密着層の表面の面積に対してそれらの面積の合計の占める割合が約10%程度で形成されていた。なお、これらの切れ目の形状や大きさの確認は、導体層を密着層の表面に被着させる前に2個の配線基板を抜き取り、これを貫通孔の部分において貫通孔の長さ方向に切断して密着層の表面を目視(20〜400倍に拡大)で確認することにより行なった。
【0054】
また、比較例として、切れ目を設けない従来技術の配線基板を100個準備した。比較例の配線基板も、上記実施例の場合と同様に2個を抜き取って、目視(20〜400倍に拡大)によって密着層に切れ目が形成されていないことを確認した。
【0055】
これらの実施例および比較例の配線基板について、約300℃に加熱した後、貫通導体における剥がれの有無を目視(20〜400倍に拡大)により確認した。
【0056】
その結果、実施例の配線基板では貫通導体における剥がれの発生が見られなかったのに対し、比較例の配線基板では1個の配線基板において2つの貫通導体に、他の1個の配線基板において1つの貫通導体に、それぞれ剥がれが発生していた。
【0057】
以上の結果により、本発明の配線基板における、貫通導体の剥がれを抑制する効果を確認することができた。
【符号の説明】
【0058】
1・・・絶縁層
1a・・溶融改質層
2・・・配線導体
3・・・貫通孔
4・・・貫通導体
4a・・密着層
4b・・導体層
A・・・密着層の切れ目
B・・・溶融改質層の凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック焼結体からなり、厚み方向に貫通する貫通孔を有し、該貫通孔の内側面が、前記セラミック焼結体が部分的に溶融した後に固化してなる溶融改質層とされた絶縁層と、該絶縁層の上面および下面に形成された配線導体と、前記貫通孔の内側面に被着され、前記絶縁層の上面の前記配線導体と下面の前記配線導体とを電気的に接続する貫通導体とを備える配線基板であって、前記貫通導体は、前記改質層の表面に被着された密着層と、該密着層の表面に被着された導体層とからなり、前記密着層に、前記溶融改質層と前記導体層との間に部分的な空隙を生じるような切れ目が形成されていることを特徴とする配線基板。
【請求項2】
前記溶融改質層の表面に凹部が形成されており、該凹部に対応して前記密着層の切れ目が形成されていることを特徴とする請求項1記載の配線基板。
【請求項3】
前記切れ目は、前記貫通孔の深さ方向の中央部分において上下端部分よりも多いことを特徴とする請求項1記載の配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−114103(P2011−114103A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268219(P2009−268219)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】