説明

酢酸イリジウムを調製するための工程

本発明は、(a)プロトン性溶媒中でイリジウム化合物をアルカリ性化合物と反応させ、イリジウム含有沈殿物を得るステップであって、前記反応は、(i)シュウ酸、シュウ酸塩、ギ酸およびギ酸塩から選択される、少なくとも1つの成分の存在下で行われる、ステップと、(b)少なくとも(i)シュウ酸、シュウ酸塩、ギ酸およびギ酸塩から選択される1つの化合物と、(ii)酢酸イリジウム含有溶液を生じさせるためのCHCOHおよび/またはCH(CO)O(CO)CHとの存在下で沈殿物を反応させるステップとを含む、酢酸イリジウムを調製するための工程に関する。本発明はまた、低ハロゲン化物含有量を有する酢酸イリジウム、イリジウム含有沈殿物、ならびに本発明のイリジウム含有沈殿物および本発明の酢酸イリジウムの利用法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸イリジウムを調製するための工程に関し、その工程により得られる酢酸イリジウムに関する。さらに、本発明は、イリジウム含有沈殿物を調製するための工程、および沈殿物および酢酸イリジウム(固体として、または溶液中)の適用に関する。
【0002】
本発明はまた、固体として、または溶液として、低ハロゲン化物含有量を有する酢酸イリジウム、低ハロゲン化物含有量を有するイリジウム含有沈殿物、およびこれらの生成物を調製するための工程に関する。
【0003】
本発明はまた、電気メッキにおける、または不均一触媒作用のための触媒を調製するための、カルボニル化反応、ヒドロホルミル化反応、カップリング反応、酸化反応、水素化反応、およびヒドロシリル化反応から成る群から選択される、均一または不均一な触媒反応における触媒または触媒前駆体としての、本発明の低ハロゲン化物含有量を有する酢酸イリジウム、および対応する酢酸イリジウム溶液の利用法に関する。
【背景技術】
【0004】
イリジウムおよびイリジウムの化合物または錯体の幅広い適用は、異性化反応、ヒドロホルミル化反応またはカルボニル化反応などの様々な化学反応のための触媒としての利用法である。近年、特にイリジウムまたはその化合物によって触媒作用されるカルボニル化反応は、重要性を増してきている。1つの例は、Cativa工程と称され、酢酸またはその反応性誘導体となるメタノールのイリジウム触媒カルボニル化(一酸化炭素とともに)である。とりわけ緑色の酢酸イリジウムは、その工程のための適切なイリジウム化合物とされている(特許文献1)。
【0005】
イリジウムカルボン酸塩を調製するための工程はこれまでにすでに説明されてきた。例えば、特許文献2からの工程が知られており、ここでは少なくとも1つのイリジウムの塩化物または臭化物化合物を、カルボン酸含有培地でアルカリまたはアルカリ性土類カルボン酸塩と反応させ、イリジウムカルボン酸塩含有溶液を生じさせる。触媒目的用に溶液を使用することができるように、反応の副生成物としてこの工程で得られるアルカリおよびアルカリ性土類の塩化物および臭化物を、イオン交換カラムを使用して分離し、ここではアルカリ金属またはアルカリ性土類金属イオンは、カチオンイオン交換樹脂を使用して分離し、また塩化物または臭化物イオンは、アニオンイオン交換樹脂を使用して分離する。
【0006】
前記工程は、塩化物含有量が0.0020重量%未満の酢酸イリジウム溶液を生成し、ここではこれらの値はイリジウム含有溶液に基づいている。しかしながら、説明している溶液は、1.65Ir重量%のイリジウム含有量(実施例2)および0.62Ir重量%(実施例3)を有し、それぞれイリジウムの割合に基づき、1212ppmおよび3225ppm塩化物の含有量をもたらす。これらの塩化物含有量は、触媒作用における特定の適用にはまだ高すぎる。
【0007】
特許文献2による工程は、触媒目的を妨げる塩化物および臭化物イオンを分離するのに必要なイオン交換体の費用が高いというさらなる不利点を有する。さらに、前記工程は、二重イオン交換に必要な時間および必要なカラム材料の生成のために多くの時間を要する。さらに、イオン交換は収率において損失につながる場合がある。
【0008】
特許文献3より、酢酸イリジウムを調製するための工程が知れらており、ここでは水酸化イリジウムは、アルカリ金属水酸化物、炭酸塩または炭酸水素塩の水溶液を使用して、イリジウムクロロ化合物の水溶液から沈殿させ、沈殿水酸化イリジウムを分離し、酢酸または無水酢酸の混合物と反応させ、酢酸イリジウム含有溶液を生じさせ、そして溶液から酢酸イリジウムを固体として単離する。低塩化物含有量を有する酢酸イリジウムを得るために、水酸化イリジウムは酢酸と反応させる前に再沈殿させることが好ましい。このために、水酸化イリジウムは硝酸または硝酸と過酸化水素の混合物に溶解させ、アルカリ金属水酸化物、炭酸塩または炭酸水素塩の水溶液を加えることによって水酸化イリジウムを形成溶液から再沈殿させる。濃緑色の溶液から単離された酢酸イリジウムは、濃緑色で光沢のある固体として説明している。しかしながら、前記工程は、固体として水溶液中にまず得られた酢酸イリジウムの単離を必要とし、これは通常随意的に真空下で、蒸発によって実行する。この単離ステップは、水溶液の蒸発に長時間を要する(従って、生成物の価格に不利に影響する)ので不都合となるだけでなく、生成物の分解または変化の危険を生み出す。さらに、報告された収率は改善の余地を残す。
【0009】
さらに、本発明を導く研究の過程において、何らの正確な値を提示することなく「塩化物含有量が低い」として特許文献3に説明されている酢酸イリジウムは、塩化物含有量を低減するためにその説明に推奨されている再沈殿を実行した後でさえ、塩化物不純物量をまだ含有していることが分かった。得られた塩化物不純物の量は多すぎであり、ひいては特に触媒目的用の望ましい適用に関する改善が必要である。
【特許文献1】欧州特許出願公開第0849248号明細書
【特許文献2】国際公開第96/23757号パンフレット
【特許文献3】欧州特許出願公開第1046629号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの発見に基づき、高収率および高純度の酢酸イリジウムを得ることができる、酢酸イリジウムを調製するための、費用のかからない工程を提供することは、本発明の目的であった。
【0011】
本発明の別の目的は、低ハロゲン化物含有量を有する酢酸イリジウムを提供することであり、またそれを調製するための、費用のかからない工程を提供することであった。高収率および高純度の、特に低ハロゲン化物含有量を有する酢酸イリジウムが得られるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
特許請求の範囲で定義されている工程が、シュウ酸、シュウ酸塩、ギ酸およびギ酸塩(以降、シュウ酸、シュウ酸塩、ギ酸およびギ酸塩は簡潔に「成分(i)」と称す)から選択される少なくとも1つの化合物の存在下で行われる場合は、高収率および高純度の酢酸イリジウムを得ることができるという驚くべき発見によって、これらの目的が達成された。
【0013】
このようにして本発明は、
(a)プロトン性溶媒中でイリジウム化合物をアルカリ性化合物と反応させ、イリジウム含有沈殿物を得るステップであって、前記反応はシュウ酸、シュウ酸塩、ギ酸およびギ酸塩から選択される少なくとも1つの化合物の存在下で行われる、ステップと、
(b)
(i)シュウ酸、シュウ酸塩、ギ酸およびギ酸塩から選択される少なくとも1つの化合物と、
(ii)CHCOHおよび/またはCH(CO)O(CO)CH(以降、簡潔に成分(ii)と称す)と
の存在下で、分離した後随意的に、前記沈殿物を反応させ、酢酸イリジウム含有溶液を生じさせるステップと、
(c)溶液から酢酸イリジウムを固体として随意的に単離するステップ
とを含む、酢酸イリジウムを調製する工程に関する。
【0014】
本発明はまた、イリジウム含有沈殿物を調製するための工程であって、上に定義したステップ(a)を含む前記工程と、その工程により得られるイリジウム含有沈殿物とに関する。
【0015】
さらに本発明は、例えば、本発明の工程によって得られる、1000ppm未満、好ましくは800ppm未満(Irに基づく)のハロゲン化物含有量を有する酢酸イリジウムに関する。さらに本発明は、例えば、本発明の工程の中間体として得られる、1000ppm未満、好ましくは800ppm未満(Irに基づく)のハロゲン化物含有量を有するイリジウム含有沈殿物に関する。
【0016】
さらに本発明は、カルボニル化反応、ヒドロホルミル化反応、カップリング反応、酸化反応、水素化反応、およびヒドロシリル化反応、または異性化反応から選択される、均一または不均一な触媒反応における触媒または触媒前駆体としての、本発明の酢酸イリジウムまたはイリジウム含有沈殿物の利用法、および電気メッキにおける利用法に関する。
【0017】
本発明では、用語「(記載されている可能性)から選択される少なくとも1つの化合物」とは、記載されている可能性から1つの化合物が存在することを必要とし、また記載されている可能性から2つ以上の化合物、すなわち、例えば、記載されている可能性の2つまたは3つ以上の混合物が存在してもよいことを指す。
【0018】
本発明の用語「アンモニウム」とは、式[NRによって表される第4級アンモニウムイオンを指し、式中R、R、R、およびRは、水素原子および直鎖型、分岐鎖型または環状型であってもよい低級アルキル基(好ましくはCからCアルキル基)から独立して選択される。好ましくは、少なくとも1つのRからRは水素原子を表し、特に好ましくはRからRのすべてが水素原子を表す。
【0019】
本発明では、用語「酢酸イリジウム」とは、イリジウム原子および酢酸塩を有する化合物を指し、この広義において理解されるものとする。
【0020】
本発明では、用語「プロトン性溶媒」とは、プロトンを含有する、プロトンを放出することができる、および/または水素結合を形成することができる溶媒を指す。本発明において有用なプロトン性溶媒の例は、水およびアルコール、例えばC−Cアルカノール(好ましくはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール)、および2つ以上のこれらの溶媒の混合物である。本発明の目的のために好ましいプロトン性溶媒は、水および水とC−Cアルカノール(好ましくはメタノール)の混合物である。しかしながら、本発明はこれらの特定の溶媒に限定されない。適切な混合比は、当業者によって容易に決定することができる。
【0021】
本発明では、用語「不活性ガス」とは気体雰囲気を指し、出発化合物、反応混合物または反応生成物それぞれに対して不活性であり、すなわち、化学的または物質的にそれらを変化させない。特に、不活性ガスは好ましくは、基本的に無酸素である。本発明の目的に適当な不活性ガスは、例えば、窒素、アルゴンまたは他の希ガスおよびそれらの混合物を含むが、それらに限定されない。本明細書では、用語「基本的に無酸素」は、不活性ガス雰囲気中に存在する可能性がある酸素の量が、中間体および最終生成物の反応の経過、収率および純度に悪影響を与えない範囲にあることを指す。
【0022】
本発明の目的のための、それでも許容できる不活性ガス雰囲気中の酸素の量は、約2容量パーセントである。通常、不活性ガス雰囲気中の酸素の量は約1000ppm未満、より好ましくは約500ppm未満(観念的な体積分率、すなわちモルによる)である。
【0023】
これは、例えば、約99.99容積%の純度を有する工業用不活性ガスを使用して達成することができる。使用される不活性ガス中に含有される酸素の量は、例えば、約100ppm未満であり得るが、これに限定されない。
【0024】
本発明の工程を以下に説明する。ステップ(a)および(b)を詳細に説明する。
【0025】
(ステップ(a))
ステップ(a)は、プロトン性溶媒中でイリジウム化合物をアルカリ性化合物と反応させ、イリジウム含有沈殿物を得るステップを含む。本発明によれば、反応は、シュウ酸、シュウ酸塩、ギ酸およびギ酸塩(成分(i))から選択される少なくとも1つの化合物の存在下で行われる。
【0026】
シュウ酸塩およびギ酸塩は特に限定されない。基本的に、シュウ酸またはギ酸のどんな塩を使用してもよい。通常、選んだ反応条件下でプロトン性溶媒に溶解できるように塩が選択される。
【0027】
適切なシュウ酸塩は、シュウ酸のアンモニウム塩、アルカリ塩(すなわち、リチウム、ナトリウム、カリウムおよびセシウム塩)およびアルカリ土類塩(すなわち、マグネシウム、カルシウム、バリウムおよびストロンチウム塩)を含むが、これらに限定されない。好ましい例は、シュウ酸のナトリウム塩、マグネシウム塩およびアンモニウム塩を含む。
【0028】
適切なギ酸塩は、ギ酸のアンモニウム塩、アルカリ塩(すなわち、リチウム、ナトリウム、カリウムおよびセシウム塩)、ならびにアルカリ土類塩(すなわち、マグネシウム、カルシウム、バリウムおよびストロンチウム塩)を含むが、これらに限定されない。好ましい例は、ギ酸のナトリウム塩、カルシウム塩およびアンモニウム塩を含む。
【0029】
ステップ(a)を実行するために、成分(i)から選択される1つの単一化合物、または成分(i)から選択されるいくつかの化合物の混合物を使用してもよい。
【0030】
好ましい実施態様では、ステップ(a)はシュウ酸および/またはシュウ酸アンモニウムの存在下で行われる。
【0031】
出発物質として使用されるイリジウム化合物は特に限定されない。従って、本明細書で使用する用語「イリジウム化合物」は、広義に解釈するものとし、イリジウムの化学量論的および非化学量論的化合物のどちらも含む。イリジウム化合物はまた、イリジウム錯体のような化合物であってもよい。
【0032】
本発明の実践では、反応に使用されるプロトン性溶媒中に溶解させることができる、出発物質としてイリジウム化合物を使用することが有用であることが証明されている。
【0033】
イリジウム化合物中のイリジウムの酸化状態は限定されない。好ましくは、イリジウムは、酸化状態(0)、(+I)、(+III)または(+IV)、好ましくは(+III)または(+IV)、特に好ましくは酸化状態(+IV)にある。出発物質として使用されるイリジウム化合物が、第2の(第1と異なる)酸化状態でのイリジウムと第1の酸化状態でのイリジウムを、例えば、酸化状態(+IV)と酸化状態(+III)でのイリジウムを含有することもまた可能である。かかるイリジウム化合物の例として、混合イリジウム(III)/イリジウム(IV)ハロゲン化物およびそれらの水和物に言及することができる。
【0034】
経済的視点から、すぐに利用入手できる、例えば、市販で費用のかからないイリジウム化合物を使用することは望ましい。
【0035】
好ましい実施態様では、イリジウム化合物は、イリジウム(III)塩化物、イリジウム(III)臭化物、イリジウム(III)ヨウ化物、イリジウム(III)塩化物水和物、イリジウム(III)臭化物水和物、イリジウム(III)ヨウ化物水和物、イリジウム(IV)塩化物、イリジウム(IV)臭化物、イリジウム(IV)ヨウ化物、イリジウム(IV)塩化物水和物、イリジウム(IV)臭化物水和物、イリジウム(IV)ヨウ化物水和物、イリジウム(III)/イリジウム(IV)塩化物、イリジウム(III)/イリジウム(IV)臭化物、イリジウム(III)/イリジウム(IV)ヨウ化物、イリジウム(III)/イリジウム(IV)塩化物水和物、イリジウム(III)/イリジウム(IV)臭化物水和物、イリジウム(III)/イリジウム(IV)ヨウ化物水和物を含むが限定されないイリジウムハロゲン(すなわち、塩素、臭素、またはヨウ素、好ましくは塩素)化合物、ヘキサクロロイリジウム(III)酸ならびにそのアンモニウム、アルカリ(好ましくはナトリウムおよびカリウム)およびアルカリ性土類(好ましくはマグネシウムおよびカルシウム)塩、ヘキサブロモイリジウム(III)酸ならびにそのアンモニウム、アルカリ(好ましくはナトリウムおよびカリウム)およびアルカリ性土類(好ましくはマグネシウムおよびカルシウム)塩、ヘキサクロロイリジウム(IV)酸ならびにそのアンモニウム、アルカリ(好ましくはナトリウムおよびカリウム)およびアルカリ性土類(好ましくはマグネシウムおよびカルシウム)塩、ヘキサブロモイリジウム(IV)酸ならびにそのアンモニウム、アルカリ(好ましくはナトリウムおよびカリウム)およびアルカリ性土類(好ましくはマグネシウムおよびカルシウム)塩から選択される。さらに、電荷等化(例えば、アルカリ、アルカリ性土類、または塩化物イオン)のための1つ以上の対イオンを随意的に有する式[IrCl(NH6−n(3−n)+のアミンクロロ錯体(式中nは1から5の整数である)、または[Ir(CO)Cl]、Ir(CO)12またはIr(acac)などの化合物も適当である。
【0036】
使用されるプロトン性溶媒中の溶解度について、また経済的視点から、ヘキサクロロイリジウム(III)酸ならびにそのナトリウム、カリウムおよびアンモニウム塩、ヘキサクロロイリジウム(IV)酸ならびにそのナトリウム、カリウムおよびアンモニウム塩、ならびに混合イリジウム(III)/イリジウム(IV)ハロゲン化物およびその水和物を使用することは好ましい。NaIrCl、KIrCl、(NHIrCl、HIrCl、NaIrCl、KIrCl、(NHIrCl、HIrClおよびイリジウム(+III)/イリジウム(+IV)塩化物(水和物)を使用することは特に好ましい。
【0037】
2つ以上の異なるイリジウム化合物の混合物もまた使用してもよい。
【0038】
本発明のステップ(a)において有用なプロトン性溶媒の例は、水およびアルコール、例えば、C−Cアルカノール(好ましくはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール)、および2つ以上のこれらの溶媒の混合物である。好ましくは、水または水とC−Cアルカノール(好ましくはメタノール)の混合物がプロトン性溶媒として使用される。
【0039】
アルカリ性化合物は、物質から選択され、その溶液は使用されるプロトン性溶媒の存在下でアルカリ性反応を示す。本発明において適当なアルカリ性化合物の例は、アンモニウム、アルカリ金属(すなわち、Li、Na、K、Rb、Cs)もしくはアルカリ性土類金属(すなわち、Mg、Ca、Ba、Sr)の水酸化物、アンモニウム、アルカリ金属(すなわち、Li、Na、K、Cs)もしくはアルカリ性土類金属(すなわち、Mg、Ca、Ba、Sr)の炭酸塩および炭酸水素塩、または式NRのアミン(式中R、RおよびRは水素原子およびC−Cアルキル基から独立して選択される)(アンモニア、トリエチルアミンおよびトリメチルアミンなど)である。アルカリ性化合物として、好ましくはアルカリ金属水酸化物が使用され、より好ましくはナトリウム水酸化物またはカリウム水酸化物、最も好ましくはカリウム水酸化物が使用される。2つ以上のアルカリ性化合物の混合物もまた使用してもよい。
【0040】
アルカリ性化合物は、上に定義したように、そのようなものとして、または1つ以上のプロトン性溶媒中に溶解させるものとして使用してもよい。好ましくはアルカリ性化合物は、プロトン性溶媒(混合物)中に少なくとも一部分は溶解する。
【0041】
沈殿物を生成するために、使用されるプロトン性溶媒に基づき、少なくとも1重量%の濃度の、好ましくは少なくとも5重量%、より好ましくは10から30重量%の濃度のプロトン性溶媒(好ましくは水)中の溶液としてアルカリ性化合物を使用することが有利であることは証明されている。
【0042】
アルカリ性化合物は好ましくは、化学量論的量よりは有意に高い、イリジウムに基づく量が使用される。イリジウム(モル)に対するアルカリ性化合物(一水酸基を有するアルカリ性化合物に基づくモル単位)の比率は、例えば、2以上、好ましくは3から20、特に好ましくは7から14であり得る。イリジウム化合物の適当な量は、使用される出発溶液に基づき、例えば、0.5から15重量%、好ましくは1から8重量%、特に好ましくは1.5から5重量%である。
【0043】
成分(i)から選択される化合物は好ましくは、少なくともおおよそ等モル量(例えば、イリジウムに基づき、少なくとも0.8モル当量、より好ましくは少なくとも1.0モル当量、さらに好ましくは1.05から1.5モル当量)が使用される。成分(i)の化合物の混合物を使用する場合は、示している量は、選択された化合物のモルの総量を指す。
【0044】
ステップ(a)は好ましくは、不活性ガスの雰囲気下で行われる。従って、好ましい実施態様では、反応装置および使用される反応物質は、本来知られている方法で不活性ガスによりパージすることによって無酸素にされる。
【0045】
優れたろ過性を有するイリジウム含有沈殿物を得るために、ステップ(a)は好ましくは、約6から約10のPh、好ましくは約7から約9、特に好ましくは約7.5のpHで行われる。
【0046】
例えば、50から120℃、特に60から110℃、より好ましくは70から95℃に加熱しながらステップ(a)を行うこともまた有利であると証明された。ステップ(a)を加熱しながら行うならば、ステップ(b)を実行する前に冷却するか、または反応混合物を室温まで冷ますことは好ましい。
【0047】
イリジウム化合物、アルカリ性化合物、成分(i)から選択される前記少なくとも1つの化合物、およびプロトン性溶媒は、任意の順序で加えてもよい。例えば、プロトン性溶媒をまず加えて、イリジウム化合物、アルカリ性化合物および成分(i)から選択される化合物を任意の順序で、または同時に加えてもよい。
【0048】
イリジウム化合物およびアルカリ性化合物は任意の順序で加えてもよいが、プロトン性溶媒中にイリジウム化合物および成分(i)から選択される少なくとも1つの化合物を含む混合物(好ましくは溶液)をまず形成することは有利となる場合がある。
【0049】
従って、本発明の好ましい実施態様では、ステップ(a)はサブステップ(al)および(a2)を含む。本発明では、ステップ(a)に対するすべての言及は、別に記載のない限り、同様にサブステップ(al)および(a2)を含む好ましい実施態様に対する言及であると理解するものとする。
【0050】
(サブステップ(al))
サブステップ(al)は、随意的に加熱しながら、イリジウム化合物および成分(i)から選択される少なくとも1つの化合物、ならびにプロトン性溶媒含む混合物(好ましくは溶液)を形成するステップを含む。
【0051】
サブステップ(al)では、任意の順序で加えてもよい。例えば、それぞれを上に定義した、イリジウム化合物およびプロトン性溶媒を含む混合物(好ましくは溶液)をまず形成し、随意的にプロトン性溶媒中に溶解した、成分(i)から選択される少なくとも1つの化合物を加える。逆の順序も同様に好ましい。ステップ(a)のために次に定義した条件下の順序とは無関係に加えてもよい。
【0052】
サブステップ(al)は好ましくは、例えば50から120℃、特に60から110℃、より好ましくは70から95℃に加熱しながら実行する。特に好ましくは、ステップ(al)で上昇した温度は、長時間、例えば数分、特に10分より長く、好ましくは30分より長く、さらに好ましくは約45分から3時間維持する。
【0053】
サブステップ(al)は好ましくは、不活性ガスの雰囲気中で行われる。
【0054】
(サブステップ(a2))
サブステップ(a2)は、ステップ(al)で得られた混合物(好ましくは溶液)をアルカリ性化合物(上に定義したように)と反応させ、随意的に加熱して、イリジウム含有沈殿物を得るステップを含む。
【0055】
サブステップ(a2)では、任意の順序で加えてもよい。例えば、サブステップ(al)で得られた混合物(好ましくは溶液)をまず加えてもよく、また随意的にプロトン性溶媒中に溶解した、アルカリ性化合物をそこに加えることができ、または逆に、それぞれ上に定義した、アルカリ性化合物およびプロトン性溶媒を含む混合物(好ましくは溶液)をまず形成し、サブステップ(al)で得られた混合物を加えてもよい。
【0056】
好ましい実施態様では、サブステップ(a2)は、サブステップ(al)で得られた混合物(好ましくは溶液)をまず調製し、アルカリ性化合物およびプロトン性溶媒を含む溶液を加えるように実行する。
【0057】
サブステップ(a2)は好ましくは、例えば約50から約120℃、好ましくは約60から約110℃、より好ましくは約80から約95℃に加熱しながら実行する。特に好ましくは、サブステップ(a2)で上昇した温度は、長時間、例えば数時間、特に10時間より長く、好ましくは15時間より長く、さらに好ましくは30時間より長く維持する。反応時間には上限がないが、通常100時間未満、好ましくは90時間未満、特に好ましくは80時間未満である。最も好ましくは、反応時間はおおよそ40時間である。
【0058】
サブステップ(a2)は好ましくは、不活性ガスの雰囲気中で行われる。
【0059】
イリジウム化合物、アルカリ性化合物および成分(i)から選択される化合物を加える順番とは無関係に、ステップ(a)ならびにサブステップ(al)および(a2)は通常攪拌しながら加える。加える順番とは無関係に、例えば、一度に(すなわち、できるだけ速く)加えるか、または滴下もしくは少量で、それぞれ数秒から数時間内、例えば、10秒から3時間内、好ましくは1分から60分内にわたって加えられる物質を加えることによって加えてもよい。
【0060】
本発明の一実施態様では、反応混合物のpHは、ステップ(a)を完了した後(すなわち、イリジウム含有沈殿物を得た後)、およびステップ(b)を実行する前に、約6から約9、好ましくは約7から約8.5の値に調整される。pHは、上に定義した、アルカリ性化合物の追加量を加えるか、または希酢酸または塩酸およびそれらの混合物などの弱酸性化合物を加えることによって調整してもよい。
【0061】
触媒として後で使用するためにハロゲン化物含有量を少量に維持するために、pHは好ましくは、ハロゲン化物イオンを反応混合物へさらに取り込む可能性がある酸によって調整しない。
【0062】
本発明の実践では、約0.5から100重量%、好ましくは35から65重量%、特に好ましくは約50重量%の濃度(水中)の酢酸は、pHを調整する手段として有用であることが証明された。
【0063】
ステップ(a)は、得られたイリジウム含有沈殿物を分離するステップ、洗浄するステップおよび再沈殿するステップから選択される1つ以上の随意的なサブステップを含んでもよい。
【0064】
特に、ハロゲン化物含有イリジウム化合物を使用する場合は、イリジウム含有沈殿物を分離するステップおよび洗浄するステップを実施することは、イリジウム含有沈殿物およびそこから得られる酢酸イリジウムの両方のハロゲン化物含有量に有利に作用する場合がある。均一または不均一な触媒反応のための触媒または触媒成分として後に適用するために特に、ハロゲン化物含有量はできる限り低くあるべきである。
【0065】
沈殿物を随意的に分離する、また随意的に洗浄するための適当な条件は、一般的な試験によって当業者によって決定することが可能である。従って、以下の条件は、本発明を限定するよう解釈されるものではない。
【0066】
得られる沈殿物の随意的な分離は、ろ過、吸引ろ過、沈降または遠心分離などの動作によって行ってもよい。沈殿物を分離する場合は、沈殿物を完全に乾燥させることを避けることが有利であると分かる場合がある。
【0067】
沈殿物を随意的に洗浄するステップは、例えば、適当な洗浄液を用いて行ってもよい。洗浄液として、水酸化イリジウムの沈殿に対して不活性である、すなわちそれと反応しない、または溶解させない、どんな液体を使用してもよい。適当な洗浄液は、例えば、水、酢酸、塩酸およびそれらの混合物である。
【0068】
しかしながら、ハロゲン化物イオンを沈殿物へ取り込むことを避けるために、水および酢酸ならびにそれらの混合物(例えば、5から20重量%酢酸、特に好ましくは8から12重量%酢酸)などの、ハロゲン化物の入っていない洗浄液が、洗浄液として好ましく使用される。とはいえ、ハロゲン化物含有量が重大でない場合は、水で希釈した塩酸など、ハロゲン化物含有洗浄液もまた使用してもよい。洗浄液は随意的に、わずかに、例えば、25と65℃との間、好ましくは40と60℃との間(例えば、約50℃)の温度に加熱してもよい。
【0069】
本発明の好ましい実施態様では、ステップ(a)はイリジウム含有沈殿物を分離ステップおよび洗浄するステップを含む。特に好ましくは、ハロゲン化物イオン(特に塩化物イオン)が、ろ液中にもはや検出できなくなるまで、沈殿物を繰り返し洗浄する。ろ液中のハロゲン化物イオンの検出は、例えば、銀イオンを使用して、当業者に知られている方法で実行することができる。
【0070】
塩化銀沈殿物としての塩化物イオンの検出は、非常に慎重を期する。肉眼で塩化物イオンが50ppmの量に下がるのを検出することができ、すなわち、銀イオンを加えた場合に濁度がないことは通常、約50ppm未満の塩化物含有量を示す。
【0071】
適当な溶媒中にイリジウム含有沈殿物を溶解させることによって、またアルカリ性化合物(上の定義したように)で再び沈殿させることによって、再沈殿を随意的に行ってもよい。溶媒として、上に定義したような、随意的にプロトン性溶媒との混合剤中にある、例えば、有機酸(例えば、酢酸)または無機酸(例えば、塩酸、硝酸)を使用してもよい。
【0072】
必要な場合は、再沈殿は成分(i)から選択される少なくとも1つの化合物の存在下で行ってもよい。これは好ましいことである。再沈殿のステップは随意的に、1度または数回(例えば、2回、3回)行ってもよい。好ましくは、再沈殿のステップは、不活性ガスの雰囲気中で行われる(上の説明したように)。
【0073】
通常、驚くことに再沈殿のステップを行わなくても高純度を示す沈殿物がステップ(a)で得られ、得られた沈殿物に関して詳細を続いて説明する。このようにして、より好ましい実施態様は、イリジウム含有沈殿物の再沈殿のステップを含まない。
【0074】
沈殿物を分離する、洗浄する、および再沈殿する随意的なステップは好ましくは、不活性ガスの雰囲気中で行われる。
【0075】
ステップ(a)で得られたイリジウム含有沈殿物は、イリジウムに基づき(すなわち、モルIr(抽出物)/モルIr(生成物))、通常約92から95%またはそれ以上の非常に優れた収率で得られる場合がある。
【0076】
一実施態様では、ステップ(a)はイリジウム含有沈殿物を放置して熟成させるステップを含む。用語「熟成する」とは、当技術分野で知られており、保存の間に物質の物理的性質および/または化学的性質における変化を指す。変化は自然に発生する場合があり(例えば、物質の周囲条件の作用により)、または例えば、温度上昇の作用により人工的に生成してもよい。
【0077】
しかしながら、本発明では、イリジウム含有沈殿物を熟成させるまで放置することは好ましくない。むしろ、新たに沈殿したイリジウム含有沈殿物が好ましくは、さらなる反応(例えば、ステップ(b)での反応)のために使用される。用語「新たに沈殿した」とは、沈殿物の化学的性質および物理的性質における変化をもたらす(すなわち、沈殿物を成熟させるまで放置する)条件にさらすことを好ましく阻止するといった方法で、理解されるものを指す。かかる条件は、例えば、長時間放置しておくこと(例えば、数時間、特に3時間より長く)、酸素(例えば、空気の形で)の作用、プロトン性溶媒の除去、水和水の除去または同等のものから選択される1つ以上の条件であり得る。
【0078】
特に好ましい実施態様では、不活性ガスの雰囲気中の室温で3時間より長く、(特に2時間より長く、より好ましくは1時間より長く、さらに好ましくは30分より長く)放置しておくこと、酸素(例えば、特に30分より長く、空気の形で)の作用、および完全に乾燥させることから選択される1つ以上の条件を避ける。この好ましい実施態様で、用語新たに沈殿したは、かかる条件下で得られた沈殿物を指す。
【0079】
この実施態様では、ステップ(a)で得られた沈殿物は、上に説明したように、随意的に再沈殿し、随意的に分離し、随意的に洗浄し、また望ましい適用のために、例えば、ステップ(b)での反応のために速やかに使用する。沈殿物は好ましくは、反応混合物から分離した時間から測定して、3時間未満の時間内、より好ましくは2時間の時間内、さらに好ましくは1時間の時間内、最も好ましくは30分の時間内に、望ましい適用のために使用する。
【0080】
(ステップ(b))
ステップ(b)は、ステップ(a)で得られたイリジウム含有沈殿物の反応を含み、酢酸イリジウム含有溶液を生じさせる。
【0081】
本発明によると、ステップ(b)は、シュウ酸、シュウ酸塩、ギ酸およびギ酸塩(すなわち、成分(i))から選択される少なくとも1つの化合物の存在下で、ならびに(ii)酢酸(CHCOH)および/または酸無水物(CH(CO)O(CO)CH)(すわなち、成分(ii))から選択される少なくとも1つの化合物の存在下で行われる。
【0082】
シュウ酸塩およびギ酸塩は特に限定されない。基本的には、シュウ酸のどんな塩およびギ酸のどんな塩もステップ(b)で使用してもよい。通常、選んだ反応条件下で反応混合物に溶解できるように塩が選択される。シュウ酸塩の適当な例およびのギ酸塩の適当な例は、ステップ(a)に例示した化合物を含むが、それらに限定されない。
【0083】
ステップ(b)で使用される成分(i)から選択される化合物は、ステップ(a)と同じ化合物であってもよい。あるいは、成分(i)から選択される異なる化合物または異なる化合物の混合物をステップ(a)および(b)で使用してもよい。
【0084】
ステップ(b)は好ましくは、ギ酸またはその塩の存在下で行われる。
【0085】
本発明によると、ステップ(b)は、CHCOHおよび/またはCH(CO)O(CO)CH(成分(ii))から選択される少なくとも1つの化合物の存在下で行われる。好ましくは、ステップ(b)は、CHCOHの存在下で、またはCHCOHとCH(CO)O(CO)CHの混合物の存在下で、特に好ましくはCHCOHの存在下で行われる。
【0086】
成分(ii)は、ステップ(b)での反応のためにどんな形で提供されてもよい。例えば、成分(ii)は、1つ以上のプロトン性溶媒との混合物の形で、およびそれ自体で存在してもよい。好ましい実施態様では、成分(ii)は、それ自体、すなわちプロトン性溶媒を加えることなく使用する。適当なプロトン性溶媒は、ステップ(a)で記載した例を含み、プロトン性溶媒として水を好ましいものとする。成分(ii)とプロトン性溶媒との混合比は、99:1から1:99の範囲内にあってもよい。かかる一混合物の例として、例えば、体積で、10:90から50:50の比率での氷酢酸と水の混合物を例示し得る。成分(ii)がプロトン性溶媒(混合物)との混合物として提供される場合、ステップ(a)および(b)で使用するプロトン性溶媒は同じであっても、または異なってもよい。好ましくは両方のステップで同じプロトン性溶媒(混合物)を使用する。ステップ(a)で定義したように、水およびC−Cアルカノールから選択されるプロトン性溶媒を有する混合物の形での成分(ii)を使用することは、有用であると証明された。
【0087】
特に好ましい実施態様では、ステップ(b)は100重量%から95重量%の酢酸(水中)の存在下で行われる。
【0088】
ステップ(b)では、成分(i)から選択される少なくとも1つの化合物は好ましくは、少なくとも約等モル量(例えば、イリジウムに基づいて、少なくとも0.8モル当量、より好ましくは少なくとも1.0モル当量、さらに好ましくは1.05から1.5モル当量)が使用される。成分(i)の化合物の混合物を使用する場合には、示している量は選択された化合物のモルの総量を指す。
【0089】
ステップ(b)では、成分(ii)から選択される少なくとも1つの化合物は、化学量論的比率より有意に高い、成分(ii)から選択される化合物のイリジウムに対するモル比で使用される。このようにして、成分(ii)から選択される少なくとも1つの化合物は、酢酸イリジウムを得るための反応物質および溶媒の両方として役立ち得る。
【0090】
ステップ(b)での反応の過程において、反応混合物は、イリジウム含有沈殿物の懸濁液から酢酸イリジウムの溶液へ変わる。
【0091】
従って、反応時間の最後に、実質的に固体の量を含有しない(好ましくは目に見えない)本質的に澄明な溶液が形成されるように、ステップ(b)の反応時間を選ぶ。ステップ(b)の好ましい反応時間は、約8から約50時間、好ましくは約10から約25時間、より好ましくは約12から約17時間である。
【0092】
好ましい実施態様では、ステップ(b)は、加熱しながら、例えば、約80から120℃、特に好ましくは約90から105℃の温度領域で行われる。
【0093】
還流するために加熱しながらステップ(b)を実行することは特に好ましい。正確な温度は、大抵の場合は使用される成分(ii)から選択される化合物によって決まる。通常、適当な温度は約100℃より高く、例えば、60重量%酢酸水溶液では約101から約112℃、100重量%酢酸(氷酢酸)では約118℃、および100重量%無水酢酸では約139℃となる。
【0094】
ステップ(b)は好ましくは、不活性ガスの雰囲気中で行われる。
【0095】
随意的に、酢酸イリジウムを含むステップ(b)で得られる溶液をろ過し、溶液中に場合により含有される不溶性のいかなる残渣を除去してもよい。しかしながら、通常目に見える残渣がフィルター上に見られないと、それはステップ(b)での反応が完了したことを示す。随意的にろ過するステップは、当業者に知られている手段によって、例えば、様々なフィルター(例えば、Blauband、または膜)を通してろ過するステップ、または/および様々なフィルター(例えば、好ましくは5μmから20μmより大きな細孔を有するナイロンフィルター)を通してろ過の仕上げをするステップによって実行してもよい。
【0096】
ろ過はまた、圧力下、例えば1バールと5バールの間、好ましくは約2バールの圧力下で実行してもよい。ろ過は、任意の温度、例えば、20から30℃の温度領域で実行してもよい。ろ過は、ガラスフロスト、活性炭、セルロース(例えば、Hyflow)などのろ過助剤の有無に関わらず実行してもよい。ろ過は好ましくは、不活性ガスの雰囲気中で行われる。
【0097】
ステップ(b)を加熱しながら行うならば、ろ過またはステップ(c)などの随意的なステップを実行する前に冷却するか、または溶液を室温まで冷ますことは好ましい。
【0098】
(ステップ(c))
必要に応じて、酢酸イリジウムは固体として溶液から単離してもよい。分離は、本来知られている方法、例えば、随意的に真空下でおよび/または上昇温度で、反応混合物を濃縮することによって、または反応混合物に含有される揮発性成分を蒸留することによって実行してもよい。しかしながら、本発明は、例示したこれらの単離方法に限定されない。ステップ(c)は不活性ガスの雰囲気中で行ってもよいが、しかしながら、これは必要でも、好ましいわけでもない。
【0099】
本発明の工程では、酢酸イリジウムは、非常に優れた収率で生成することができる(イリジウム(モル単位)に基づき、全工程に関して、約95%以上)。
【0100】
さらに、本発明の酢酸イリジウムは、以下により詳細に示すように、その高純度を特徴とする。
【0101】
(酢酸イリジウム)
一実施態様では、本発明は、請求項18から22のいずれかに説明している工程により得られる酢酸イリジウムに関する。
【0102】
本発明のステップ(a)および(b)を行った後、酢酸イリジウムを含有する溶液が得られる。一実施態様では、本発明は酢酸イリジウムを含有するかかる溶液に関する。
【0103】
上に説明するように、必要に応じて酢酸イリジウムはまた、固体として溶液から単離されてもよい。別の実施態様では、本発明は固体としての酢酸イリジウムに関する。
【0104】
このようにして、本発明によると、本発明の酢酸イリジウムは、固体として、または適当な溶媒中に溶解して存在してもよい。適当な溶媒は、プロトン性溶媒を含むがそれに限定されない。適当なプロトン性溶媒は、例えば、水およびアルコール、例えば、C−Cアルカノール(好ましくはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール)、および2つ以上のこれらの溶媒の混合物である。酢酸イリジウムが溶液として存在する場合、この溶液はその組成に関して限定されない。
【0105】
好ましい溶液は、本発明の酢酸イリジウムに加えて、成分(i)から選択される少なくとも1つの化合物、成分(ii)から選択される少なくとも1つの化合物、および随意的にプロトン性溶媒(混合物)を含む(好ましくはそれらから成る)。この好ましい溶液はその組成に関して限定されない。
【0106】
より好ましい実施態様では、酢酸イリジウム溶液は以下の成分を含む(好ましくはそれらから成る)。
【0107】
−2から20重量%の酢酸イリジウムと、
−20から90重量%の成分(ii)(好ましくは酢酸)と、
−1から20重量%の成分(i)(好ましくはギ酸)と、
−5から70重量%のプロトン性溶媒(混合物)(好ましくは水)。
【0108】
本発明の酢酸イリジウム(固体として、および溶液として)は、不純物の低含有量を特徴とする。かかる不純物は、例えば、アンモニウム、アルカリもしくはアルカリ土類イオンまたはハロゲン化物イオンなどの、使用される出発化合物に含有されるイオン成分であり得る。
【0109】
本発明の酢酸イリジウムは、空気に対して安定している単離固体の形と同様に溶液の形であり、物理的性質および化学的性質におけるいかなる変化もなく、長期間(例えば、数ヶ月から2年の期間)保存され得る。
【0110】
さらに、固体として存在する酢酸イリジウムは、水、酢酸(CHCOOH)およびメタノール、ならびに1つ以上のこれらの溶媒の混合物などの溶媒中での非常に優れた溶解度を特徴とする。
【0111】
通常、本発明の酢酸イリジウム(固体として、および溶液として)は青緑色であるが、従来技術は、一貫して「緑色の酢酸イリジウム」と報告している。欧州特許出願公開第0l046629号(EP−A−0l 046 629)のすべての実施例では、濃緑色の固体が蒸発によって得られる、酢酸イリジウムの濃緑色の溶液または懸濁液が得られている。国際公開第96/23757号(WO−A−96/23757)の実施例1で得られた酢酸イリジウムの溶液はまた、「緑色」であると説明されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0112】
図1および図2に示すスペクトルの比較は、本発明の酢酸イリジウムの最大吸収(λmax)が、欧州特許出願公開第0l046629号(EP−A−0l 046 629)の工程により得られる酢酸イリジウムと比較して、短波長へ変化することを示す。これは、本発明の酢酸イリジウムの特定の化学構造を示す。一般に、本発明の酢酸イリジウムの最大吸収(λmax)は、可視/紫外スペクトルにおいて、680nmより短い、好ましくは675nmより短い、より好ましくは670nmより短い波長に変化する。
【0113】
その他の局面では、本発明は、低ハロゲン化物(好ましくは塩化物)含有量を特徴とする酢酸イリジウム(上に説明するように、固体として、または溶液として)に関する。具体的には、本発明の酢酸イリジウムは、1000ppm未満、より好ましくは800ppm未満(全Irの重量ppm値)の非常に低いハロゲン化物(好ましくは塩化物)含有量を有することを特徴とする。
【0114】
本発明の特に好ましい実施態様では、上に説明するように、200ppmを下回る、特に100ppmを下回る、または、例えば、50ppmをさらに下回るハロゲン化物含有量を得られる(全Ir重量ppmのppm値)。
【0115】
他の不純物(特にアンモニウム、アルカリまたはアルカリ土類イオン)の含有量は、ハロゲン化物不純物に対して得られる結果と同じオーダーである。
【0116】
好ましい実施態様では、他の不純物の含有量、特にアンモニウム、アルカリ(すなわち、Li、Na、K、Rb、Cs、好ましくはK)またはアルカリ性土類(すなわち、Mg、Ca、Ba、Sr、好ましくはMgおよびCa)イオンのそれぞれは通常、1000ppmを下回り、好ましくは500ppmを下回り、特に好ましくは300ppmを下回る(Irに基づく)。
【0117】
ハロゲン化物含有量(本出願では、共有結合と同様にイオン結合している、サンプルのハロゲン化物を含む、総ハロゲン化物含有量として理解されている)は、当業者に知られている方法を使用して決定してもよい。本発明では、使用するのに好ましい決定方法(中間体において、また最終生成物において)は、実施例で説明するように、いわゆる「WICKBOLDによる総ハロゲン化物含有量の分析」である。
【0118】
他の可能性のあるイオン成分(中間体において、また最終生成物において)(アンモニウム、アルカリまたはアルカリ土類イオンなど)の含有量の決定はまた、当業者の1人に知れらており、例えば、ICP分析(ICP=Inductive Coupled Plasma、誘導結合プラズマ)を使用してもよい。
【0119】
好ましい実施態様では、本発明の低ハロゲン化物含有量を有する酢酸イリジウムは、請求項18から22のいずれかに定義している工程によって得ることができる。
【0120】
(イリジウム含有沈殿物)
別の局面では、本発明はまたイリジウム含有沈殿物に関する。
【0121】
本明細書で使用する用語「イリジウム含有沈殿物」とは、アルカリ性化合物を加えることによって(すなわち、OH-−イオンの存在下で)、ステップ(a)でイリジウム化合物から得られるイリジウム含有沈殿物を指し、この広義において理解されるものとする。
【0122】
どんな特定の理論にも縛られず、沈殿物は化合物成分としてのイリジウム原子に加えて、ヒドロキソ基、オキソ基および水和基ならびに水和物成分から選択される1つ以上の化合物成分を有するイリジウム酸素化合物であり、ここでイリジウム原子は、唯一の酸化状態(例えば、すべてがIr(III)酸化物水和物に対応する(+III)、またはすべてがIr(IV)酸化物水和物に対応する(+IV))で存在してもよく、またはイリジウム原子はお互い異なる酸化状態、例えば、一部が酸化状態(+III)、残りが酸化状態(+IV)で存在してよいと考えられている。遷移金属酸素化合物の当業者であれば誰でも、かかる化合物は通常非化学量論的化合物であることを知っている。
【0123】
好ましい実施態様では、用語「イリジウム含有沈殿物」は、上に説明したように、新たに沈殿物した沈殿物を指す。
【0124】
ステップ(a)を行うことによって得られるイリジウム含有沈殿物は、優れたろ過性を特徴とする。
【0125】
さらに、驚くことに、成分(i)から選択される少なくとも1つの化合物の存在下でステップ(a)を行うことによって、例えば、鉱酸(例えば、塩酸または硝酸)などの無機酸、および酢酸(または無水酢酸)などの有機酸において非常に優れた溶解度を特徴とする沈殿物を得られる場合があることが発見された。
【0126】
通常、沈殿物は、前述の酸またはそれらの混合物中で完全に溶解させることができる(通常95重量%より多い)。成分(i)の存在が果たす役割はまだ不明確であるが、しかしながら、優れた溶解度をもたらすと思われる。本発明によるイリジウム含有沈殿物の非常に優れた溶解度はまた、収率、従って酢酸イリジウムを調製するための工程の生産性の向上を意味する。不溶性の不純物を最小限にすることによって、ステップ(b)で得られる酢酸イリジウムの純度および安定性は有意に向上する。
【0127】
一実施態様では、イリジウム含有沈殿物は、請求項9から17のいずれかによる工程によって得られる。
【0128】
本発明によると、本発明のイリジウム含有沈殿物は、特に不純物の低含有量を特徴とする。
【0129】
かかる不純物は、例えば、アンモニウム、アルカリもしくはアルカリ土類イオンまたはハロゲン化物イオンなどの、使用される出発化合物に含有されるイオン成分であり得る。触媒または触媒前駆体として後に使用するために、特にハロゲン化物イオン(例えば、塩化物、臭化物またはヨウ化物イオン、特に塩化物イオン)の存在は望ましくない。
【0130】
従って、好ましい実施態様では、本発明は、低ハロゲン化物(好ましくは塩化物)含有量を有するイリジウム含有沈殿物に関する。
【0131】
本発明のイリジウム含有沈殿物は、非常に低いハロゲン化物含有量(特に塩化物含有量)を特徴とする。通常、ハロゲン化物含有量は1000ppmを下回り、より好ましくは800ppmを下回る(Irに基づく)。
【0132】
本発明の特に好ましい実施態様では、上に説明したように、200ppmを下回る、特に100ppmを下回る、または、例えば、50ppmをさらに下回るハロゲン化物含有量が通常得られる。得られたppm値は、イリジウムに基づく(重量で)。
【0133】
沈殿物は他の点でも同様に非常に高い純度を特徴とする。他の不純物の含有量は、ハロゲン化物不純物で得られた結果と同じオーダーである。かかる他の不純物は、例えば、アンモニウム、アルカリまたはアルカリ土類イオンなどの、使用される出発化合物に含有されるイオン成分であり得る。
【0134】
他の不純物の含有量、特にアンモニウム、アルカリ(すなわち、Li、Na、K、Rb、Cs、好ましくはK)またはアルカリ性土類(すなわち、Mg、Ca、Ba、Sr、好ましくはMgおよびCa)イオンは通常、1000ppmを下回り、好ましくは500ppmを下回り、特に好ましくは300ppmを下回る(Irに基づく)。
【0135】
本発明の低い総ハロゲン化物含有量を有するイリジウム含有沈殿物は、例えば、請求項9から17のいずれかに説明したように、工程による中間体として得ることができる。
【0136】
驚くことに、本発明の生成物および中間体におけるこれらの高度な純度は、好ましく本発明において、従来技術(例えば、硝酸または硝酸と過酸化水素の混合物中で溶解させることによる、および欧州特許出願公開第1046629号(EP−A−1046629)によるアルカリ金属水酸化物、炭酸塩または炭酸水素塩を加えることによって沈殿させることによるイリジウム含有沈殿物の再沈殿など)で教示されている、望ましくない不純物(特にハロゲン化物)を低減するための面倒な手段を省略したときでさえ得られる。
【0137】
本発明の好ましい実施態様による、再沈殿のステップを行わず得られる本発明の工程の生成物および中間体(すなわち、酢酸イリジウムおよびイリジウム含有沈殿物)が、かかる再沈殿のステップ(ここでは、Irに基づく重量%で、約6%のハロゲン化物含有量が得られる)を含む従来技術の工程により得られるイリジウム生成物よりさらに低いハロゲン化物含有量を有するという事実は特に驚くべきことである。
【0138】
(利用法)
本発明はまた、本発明の酢酸イリジウム(固体として、または溶液中)の利用法、また均一または不均一な触媒反応における触媒または触媒前駆体としての、本発明のイリジウム含有沈殿物の利用法に関する。
【0139】
好ましくは、触媒反応は、カルボニル化反応、ヒドロホルミル化反応、カップリング反応、酸化反応、水素化反応、ヒドロシリル化反応および異性化反応から成る群から選択される反応であり、好ましくはカルボニル化反応ある。
【0140】
特に好ましい実施態様は、均一な触媒反応、特にカルボニル化反応における触媒または触媒前駆体としての利用法に関する。好ましいカルボニル化反応は、メタノールの酢酸へのカルボニル化を含む。
【0141】
本発明の酢酸イリジウム(固体として、または溶液中)および本発明のイリジウム含有固体はまた、電気メッキにおいて、および不均一触媒作用のための触媒を調製するために使用してもよい。
【0142】
好ましい実施態様では、本発明は以下の項目に関する。
1.イリジウム含有沈殿物を調製するための工程であって、
(a)プロトン性溶媒中でイリジウム化合物をアルカリ性化合物と反応させ、イリジウム含有沈殿物を得るステップであって、該反応はシュウ酸、シュウ酸塩、ギ酸およびギ酸塩から選択される少なくとも1つの化合物の存在下で行われる、ステップを含む工程。
2.前記イリジウム化合物はイリジウムハロゲン化合物である、項目1に記載の工程。
3.ステップ(a)は、前記得られた沈殿物を前記反応混合物から分離するステップを含む、項目1または2に記載の工程。
4.前記分離した沈殿物を洗浄するステップをさらに含む、項目3に記載の工程。
5.前記洗浄するステップは、洗浄液中にハロゲン化物イオンがなくなるまで行われる、項目4に記載の工程。
6.ステップ(a)の前記反応は加熱しながら行われる、項目1から5のいずれか1つに記載の工程。
7.前記アルカリ性化合物は、アンモニウム、アルカリおよびアルカリ性土類水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩ならびに式NRのアミン(式中R、RおよびRは、水素原子およびC−Cアルキル基から独立して選択される)、ならびにそれらの混合物から選択される、項目1から6のいずれか1つに記載の工程。
8.酢酸イリジウムを調製するための工程であって、
(a)項目1から7のいずれか1つに記載の工程により、プロトン性溶媒中でイリジウム化合物をアルカリ性化合物と反応させ、沈殿物を得るステップと、
(b)(i)シュウ酸、シュウ酸塩、ギ酸およびギ酸塩から選択される少なくとも1つの成分と、
(ii)CHCOHおよびCH(CO)O(CO)CHから選択される少なくとも1つの化合物と
の存在下でイリジウム含有沈殿物を反応させ、酢酸イリジウム含有溶液を生じさせるステップと
を含む工程。
9.(c)前記溶液から前記酢酸イリジウムを固体として単離するステップ、
をさらに含む、項目8に記載の工程。
10.ステップ(b)は加熱しながら行われる、項目8または9のいずれか1つに記載の工程。
11.ステップ(a)および(b)における前記シュウ酸塩および/または前記ギ酸塩は、アンモニウム、アルカリ金属およびアルカリ性土類金属塩から独立して選択される、項目1から10のいずれか1つに記載の工程。
12. ステップ(a)および/または(b)において使用される前記プロトン性溶媒は、水、C−Cアルカノールおよびそれらの混合物から独立して選択される、項目1から項目11のいずれか1つに記載の工程。
13.ステップ(b)において使用される前記イリジウム含有沈殿物は、新たに沈殿した沈殿物である、項目8から12のいずれか1つに記載の工程。
14.項目9から13のいずれか1つに記載の工程により得られる、固体としての酢酸イリジウム。
15. 項目8から13のいずれか1つに記載の工程により得られる、酢酸イリジウムを含有する溶液。
16.(A)酢酸イリジウム、(B)シュウ酸、シュウ酸塩、ギ酸およびギ酸塩から選択される少なくとも1つの化合物、(C)CHCOHおよびCH(CO)O(CO)CHから選択される少なくとも1つの化合物、および(D)随意的なプロトン性溶媒を含む溶液。
17.項目1から7のいずれか1つに記載の工程により得られる、イリジウム含有沈殿物。
18.カルボニル化反応、ヒドロホルミル化反応、カップリング反応、酸化反応、水素化反応、およびヒドロシリル化反応から選択される、均一または不均一な触媒反応における触媒または触媒前駆体としての、項目14に記載の酢酸イリジウムの利用法、または項目15もしくは16に記載の溶液の利用法、または項目17に記載の沈殿物の利用法。
19.電気メッキにおける、項目14に記載の固体の利用法、または項目15もしくは16に記載の溶液の利用法、または項目17に記載の沈殿物の利用法。
20.不均一触媒作用のための触媒を調製するための、項目14に記載の固体の利用法、または項目15もしくは16に記載の溶液の利用法、または項目17に記載の沈殿物の利用法。
21.低ハロゲン化物含有量を有するイリジウム含有沈殿物を調製するための、項目1から7のいずれかに定義された工程。
22.前記イリジウム化合物はイリジウム塩素化合物である、項目21に記載の工程。
23.ステップ(a)は、前記反応混合物から前記得られた沈殿物を分離するステップをさらに含む、項目21または22に記載の工程。
24.ステップ(a)は、前記ハロゲン化物含有量が1000ppm未満になるまで、好ましくは前記ハロゲン化物含有量が800ppm未満になるまで(Irに基づく)、前記分離した沈殿物を洗浄するステップをさらに含む、項目21または22に記載の工程。
25.低ハロゲン化物含有量を有する酢酸イリジウムを調製するための、項目1から13および21から24のいずれかに定義された工程。
26.1000ppm未満、好ましくは800ppm未満(Irに基づく)のハロゲン化物含有量を有することを特徴とする酢酸イリジウム。
27.アンモニウムイオン、アルカリイオン(すなわち、Li、Na、K、Rb、Cs)またはアルカリ土類イオン(すなわち、Mg、Ca、Ba、Sr)の含有量を有し、それぞれ、1000ppmを下回る、好ましくは500ppmを下回る、特に好ましくは300ppmを下回る(Irに基づく)ことを特徴とする、項目26に記載の酢酸イリジウム。
28.可視/紫外スペクトルにおいて680nmより短い、好ましくは675nmより短い、さらに好ましくは670nmより短い最大吸収波長(λmax)を有することを特徴とする、項目26または27に記載の酢酸イリジウム。
29.前記酢酸イリジウムは固体である、項目26から28のいずれか1つに記載の酢酸イリジウム。
30.項目26から29のいずれか1つに記載の酢酸イリジウムおよび適当な溶媒を含む溶液。
31.前記溶媒はプロトン性溶媒である、項目30に記載の溶液。
32.(i)シュウ酸、シュウ酸塩、ギ酸およびギ酸塩から成る群から選択される少なくとも1つの化合物と、
(ii)CHCOOHおよびCH(CO)O(CO)CHから選択される少なくとも1つの化合物と
をさらに含む、項目30または31に記載の溶液。
33.1000ppm未満、好ましくは800ppm未満(Irに基づく)のハロゲン化物含有量を有することを特徴とする、イリジウム含有沈殿物。
34.カルボニル化反応、ヒドロホルミル化反応、カップリング反応、酸化反応、水素化反応、およびヒドロシリル化反応から選択される、均一または不均一な触媒反応における触媒または触媒前駆体としての、項目26から29のいずれか1つに記載の酢酸イリジウムの利用法、または項目30から32のいずれか1つに記載の溶液の利用法、または項目33に記載の沈殿物の利用法。
35.メッキ技術における、または不均一触媒作用のための触媒を調製するための、項目26から29のいずれか1つに記載の酢酸イリジウムの利用法、または項目30から32のいずれか1つに記載の溶液の利用法、または項目33に記載の沈殿物の利用法。
【実施例】
【0143】
(実施例)
以下の実施例は、本発明をさらに説明するのに役立ち、限定するものと解釈されるものではない。本発明では、「水」は、脱イオン化構造にある水(「DI水」)であるとして理解される。
【0144】
(測定方法/分析)
可視/紫外スペクトル:
可視/紫外スペクトルの測定は、200nmから1100nmの測定範囲において、UVスペクトロメータ「Jena Specord200」(タングステン電球(VIS)、重水素放電管(UV))および1cmのキュベット(シリカガラスキュベット「Soprasil」、Helma製)を使用して室温で行われた。固体の酢酸イリジウムは、図1および図2に示す濃度でDI水中に溶解させた。
【0145】
ハロゲン化物含有量の測定:
ハロゲン化物(好ましくは塩化物)含有量の測定は、(1)適当な溶媒にサンプルを溶解させる、(2)酸水素炎中で燃焼する、(3)水酸化ナトリウムの溶液中に凝縮物を収集する、(4)イオンクロマトグラフィ(IC)によってハロゲン化物含有量を測定するステップを含む方法に従い行った。この方法は、「WICKBOLDによる総ハロゲン化物含有量の分析」という名称で知られている。
【0146】
アルカリイオンおよびイリジウムの含有量の測定:
イリジウム含有量および随意的に含有されたアルカリイオンの含有量の測定は、当業者に知られている方法のICP分析で行った。
【0147】
(実施例1)
イリジウム含有沈殿物の調製(ステップ(a))
装置: 1Lの標準攪拌装置(凝縮器、機械的攪拌器、不活性)
約4重量%のHIrCl溶液としての50gのイリジウムを攪拌しながら、4.0gのシュウ酸とともに約95℃まで加熱し、その温度を約2時間維持した。KOH(水中10重量%、Irに基づくと約10当量)を加えた後20分以内に、反応混合物は室温まで冷ました。pHはおおよそ7.5の値まで酢酸(水中50重量%)で再調整した。Blaubandにより室温でろ過し、続いて洗浄水に塩素がなくなるまで酢酸(水中10重量%)およびDI水により懸濁液を洗浄して、小さな黒色の固体として生成物を得た。
【0148】
イオンクロマトグラフィによるろ液の分析により、1%未満、すなわち、ろ過ケーキに含有されるイリジウムに基づいた収率は99%より大きいイリジウム含有量を得た。
【0149】
(実施例2)
酢酸イリジウムの調製(ステップ(b))
装置: 500mLの標準攪拌装置(凝縮器、機械的攪拌器、不活性)
200gの氷酢酸とともにステップ(a)で得られたろ過ケーキを装置に設置し、2gのギ酸を加えた。攪拌しながら、反応混合物を還流するために加熱した。この温度で反応混合物を10時間溶解させておいた。室温まで冷却し、Blaubandによるろ過の後、生成物を濃青緑色の溶液として得た。真空下で溶媒を除去すると、濃緑色の結晶として固体のIr酢酸塩が生成した(収率:約78〜80%、イリジウムに基づく)。
【0150】
ステップ(b)で得られた溶液の分析により、以下の結果を得た:Clは50ppm未満、Kは50ppm未満、Irは約2.5〜3重量%。
【0151】
生成物の可視/紫外スペクトルは、λmax=668.4nmの最大吸収を示す(図2を参照)。DI水中の酢酸イリジウムの濃度は、51,9mg/50ml(=1,038mg/ml)である。
【0152】
(実施例3)
ステップ(a)において、約4重量%のHIrCl溶液としての50gのイリジウムを4.0gのシュウ酸とともに約95℃まで加熱し、その温度を約90分維持することが唯一の違いである実施例1を繰り返した。
【0153】
実施例2に関して説明したようにステップ(b)を実行することにより、固体の酢酸イリジウムを濃緑色の結晶(収率:78〜80%、イリジウムに基づく)として得た。得られた酢酸イリジウムをDI水中に溶解させる。得られた溶液の濃度は、Irの3,53重量%であった。
【0154】
分析結果
a)WICKBOLDによる総塩素含有量:
Cl含有量(溶液に基づく): Cl=28ppm
Cl含有量(Ir含有量に基づく): Cl=793ppm
b)ICPを使用したカリウム含有量:
K含有量(溶液に基づく) K<10ppm(検出限界)
K含有量(Ir含有量に基づく) K<283ppm(検出限界)
生成物の可視/紫外スペクトルは、λmax=668.4nmの最大吸収を示す。
【0155】
(実施例4)
イリジウム含有沈殿物の調製(ステップ(a))
装置: 1Lの標準攪拌装置(凝縮器、機械的攪拌器、不活性)
50gのイリジウムを攪拌しながら、HIrClの約4重量%溶液を4.0gのシュウ酸で約98℃まで加熱し、その温度を約90分間維持した。KOH(水中10重量%、Irに基づくと約10当量)を加えた後20分以内に、反応混合物を室温まで冷ました。pHはおおよそは7.5の値まで酢酸(水中50重量%)で再調整した。Blaubandにより室温でろ過し、続いて洗浄水に塩素がなくなるまで酢酸(水中10重量%)およびDI水により懸濁液を洗浄して小さな黒色の固体として生成物を得た。
【0156】
イオンクロマトグラフィによるろ液の分析により、1%未満、すなわち、ろ過ケーキに含有されるイリジウムに基づいた収率は99%より大きいイリジウム含有量を得た。
【0157】
酢酸イリジウムの調製(ステップ(b))
装置: 500mLの標準攪拌装置(凝縮器、機械的攪拌器、不活性)
200gの氷酢酸とともにステップ(a)で得られたろ過ケーキを装置に設置し、2gのギ酸を加えた。攪拌しながら、反応混合物を還流するために加熱した。この温度で反応混合物を12時間溶解させておいた。室温まで冷却し、Blaubandによるろ過の後、生成物を濃青緑色の溶液として得た。真空下で溶媒を除去すると、濃緑色の結晶として固体のIr酢酸塩が生成した(収率:約78%、イリジウムに基づく)。得られた酢酸イリジウムをDI水中に溶解させる。溶液の濃度はIrの4,06重量%であった。
【0158】
分析結果
a)WICKBOLDによる総塩素含有量:
Cl含有量(溶液に基づく): Cl=30ppm
Cl含有量(Ir含有量に基づく): Cl=739ppm
生成物の可視/紫外スペクトルはλmax668.2nmの最大吸収を示す。DI水中の酢酸イリジウムの濃度は0,744mg/mlである。
【0159】
(比較実施例)
(欧州特許出願公開第1046629号(EP1046629)による実施例2)
装置: 100のmL標準攪拌装置(凝縮器、攪拌器)、不活性ガス雰囲気
8.7gの約23重量%溶液のHIrClを、粘性油を形成するまで55℃の真空下で凝縮した。室温に冷却後黒色の固体が生じた。これを60mlの水中に溶解し、80℃まで加熱した。暗色の溶液が形成され、1n KOH溶液をpH7.3になるまで滴下して調整した。ここでろ過して形成した黒色の沈殿物は、Blaubandを通してもまだ熱かった。次いで一回分100mlの水を使用して、ろ過ケーキを塩素がなくなくまで洗浄した。ろ過ケーキを乾燥吸収した。得られた固体を60mlの氷酢酸でけん濁し、還流するために23時間加熱した。還流時間終了の2時間前に15mlの氷酢酸をさらに加えた。室温まで冷却した後、得られた濃緑色溶液をG4ガラスフリットにより細かくろ過した。真空下で溶液を凝縮した後、2.5gの緑色の固体(収率:65%、イリジウムに基づく)を形成した。
【0160】
イオンクロマトグラフィによる生成物の分析により、56.6重量%のイリジウム含有量を得た(固体に基づく)。
【0161】
分析結果
WICKBOLDによる総塩素含有量:
Cl含有量(固体に基づく): Cl=6重量%(60000ppm)
Cl含有量(Irに基づく) Cl=10.6重量%(106000ppm)
これらの値は、本発明の酢酸イリジウムのCl含有量より著しく高かった。
【0162】
生成物の可視/紫外スペクトルは、λmax=682nmの最大吸収を示す(図1を参照)。DI水中の酢酸イリジウムの濃度は0,61mg/mlである。
【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】図1は、比較実施例1で得られる化合物の可視/紫外スペクトルを示す(EP−A−0l 046 629による)。
【図2】図2は、本発明による酢酸イリジウムの可視/紫外スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1000ppm未満、好ましくは800ppm未満(Irに基づく)のハロゲン化物含有量を有することを特徴とする、酢酸イリジウム。
【請求項2】
アンモニウムイオン、アルカリイオン(すなわち、Li、Na、K、Rb、Cs)またはアルカリ土類イオン(すなわち、Mg、Ca、Ba、Sr)の含有量を有し、各イオンのそれぞれが1000ppmを下回る、好ましくは500ppmを下回る、特に好ましくは300ppmを下回る(Irに基づく)ことを特徴とする、請求項1に記載の酢酸イリジウム。
【請求項3】
可視/紫外スペクトルにおいて680nmより短い最大吸収波長(λmax)を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の酢酸イリジウム。
【請求項4】
前記酢酸イリジウムは固体である、請求項1から3のいずれか1つに記載の酢酸イリジウム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の酢酸イリジウムおよび適当な溶媒を含む溶液。
【請求項6】
前記溶媒はプロトン性溶媒である、請求項5に記載の溶液。
【請求項7】
(i)シュウ酸、シュウ酸塩、ギ酸およびギ酸塩から成る群から選択される少なくとも1つの化合物と、
(ii)CHCOOHおよびCH(CO)O(CO)CHから選択される少なくとも1つの化合物と
をさらに含む、請求項5または6に記載の溶液。
【請求項8】
1000ppm未満、好ましくは800ppm未満(Irに基づく)のハロゲン化物含有量を有することを特徴とする、イリジウム含有沈殿物。
【請求項9】
イリジウム含有沈殿物を調製するための工程であって、
(a)プロトン性溶媒中でイリジウム化合物をアルカリ性化合物と反応させ、イリジウム含有沈殿物を得るステップであって、前記反応はシュウ酸、シュウ酸塩、ギ酸およびギ酸塩から選択される少なくとも1つの化合物の存在下で行われる、ステップ
を含む工程。
【請求項10】
前記イリジウム化合物はイリジウムハロゲン化合物である、請求項9に記載の工程。
【請求項11】
前記イリジウム化合物はイリジウムクロロ化合物である、請求項10に記載の工程。
【請求項12】
ステップ(a)は、前記得られた沈殿物を前記反応混合物から分離するステップを含む、請求項9から11のいずれか1つに記載の工程。
【請求項13】
前記分離した沈殿物を洗浄するステップをさらに含む、請求項12に記載の工程。
【請求項14】
ステップ(a)は、前記ハロゲン化物含有量が1000ppm未満になるまで、好ましくは該ハロゲン化物含有量が800ppm未満になるまで(Irに基づく)、前記分離した沈殿物を洗浄するステップをさらに含む、請求項12に記載の工程。
【請求項15】
前記洗浄するステップは、洗浄液中にハロゲン化物イオンがなくなるまで行われる、請求項13または14のいずれか1つに記載の工程。
【請求項16】
ステップ(a)の前記反応は加熱しながら行われる、請求項9から15のいずれか1つに記載の工程。
【請求項17】
前記アルカリ性化合物は、アンモニウムと、アルカリおよびアルカリ性土類水酸化物と、炭酸塩および炭酸水素塩と、式NRのアミン(式中R、RおよびRは、水素原子およびC−Cアルキル基から独立して選択される)と、それらの混合物とから選択される、請求項9から16のいずれか1つに記載の工程。
【請求項18】
酢酸イリジウムを調製するための工程であって、
(a)請求項9から17のいずれか1つに記載の工程に従い、プロトン性溶媒中でイリジウム化合物をアルカリ性化合物と反応させ、沈殿物を得るステップと、
(b)(i)シュウ酸、シュウ酸塩、ギ酸およびギ酸塩から選択される少なくとも1つの成分と、
(ii)CHCOHおよびCH(CO)O(CO)CHから選択される少なくとも1つの化合物と
の存在下で該イリジウム含有沈殿物を反応させ、酢酸イリジウム含有溶液を生じさせるステップと
を含む工程。
【請求項19】
(c)前記溶液から前記酢酸イリジウムを固体として単離するステップ
をさらに含む、請求項18に記載の工程。
【請求項20】
ステップ(b)は加熱しながら行われる、請求項18または19のいずれか1つに記載の工程。
【請求項21】
ステップ(a)および(b)における前記シュウ酸塩および/または前記ギ酸塩は、アンモニウム、アルカリ金属およびアルカリ性土類金属塩から独立して選択される、請求項9から20のいずれか1つに記載の工程。
【請求項22】
ステップ(a)および/または(b)において使用される前記プロトン性溶媒は、水、C−Cアルカノールおよびそれらの混合物から独立して選択される、請求項9から21のいずれか1つに記載の工程。
【請求項23】
ステップ(b)において使用される前記イリジウム含有沈殿物は、新たに沈殿した沈殿物である、請求項18から22のいずれか1つに記載の工程。
【請求項24】
カルボニル化反応、ヒドロホルミル化反応、カップリング反応、酸化反応、水素化反応、およびヒドロシリル化反応から選択される、均一または不均一な触媒反応における触媒または触媒前駆体としての、請求項1から4のいずれか1つに記載の酢酸イリジウムの利用法、または請求項5から7のいずれか1つに記載の溶液の利用法、または請求項8に記載の沈殿物の利用法。
【請求項25】
電気メッキにおける、または不均一触媒作用のための触媒を調製するための、請求項1から4のいずれか1つに記載の酢酸イリジウムの利用法、または請求項5から7のいずれか1つに記載の溶液の利用法、または請求項8に記載の沈殿物の利用法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−542223(P2008−542223A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512762(P2008−512762)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【国際出願番号】PCT/EP2006/004964
【国際公開番号】WO2006/125628
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(505446895)ユミコア アクチェンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (13)
【Fターム(参考)】