説明

酢酸ビニルを製造するための触媒および方法

【課題】エチレン、酢酸および酸素または酸素含有ガスから気相中でパラジウムおよび/またはそれの化合物、金および/またはそれの化合物並びにアルカリ金属化合物を担体に担持する触媒によって酢酸ビニルを製造する方法において、二酢酸エチリデン、エチレングリコールおよびそれの酢酸エステルまたはジアセトキシエチレン等の高沸点成分の選択性を著しく改善する方法を提供する。
【解決手段】パラジウムおよび/またはそれの化合物、金および/またはそれの化合物、アルカリ金属化合物を担体に担持する触媒において、該触媒に追加的にバナジウムおよび/またはその化合物を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパラジウムおよび/またはその化合物、金および/またはそれの化合物、アルカリ金属化合物およびバナジウムおよび/またはその化合物を含有する触媒およびそれを酢酸、エチレンおよび酸素または酸素含有ガスから酢酸ビニルを製造するために用いることに関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウム/金/アルカリ金属を含有する固定触媒床を用いて気相においてエチレンを酢酸および酸素または酸素含有ガスと反応させて酢酸ビニルを得ることができることは公知である。
【0003】
パラジウム/金/アルカリ金属を含有する触媒は一般に、これら貴金属を担体粒子上のシェル部に存在させ、粒子のコアが相当な程度まで貴金属不含状態であるという特別な貴金属分布を有している。シェル部のこの貴金属分布は含浸処理しそして次いで貴金属をアルカリ化合物で析出させることによって達成される。この貴金属分布を有する触媒は良好な活性を示しそして一般に少量の二酸化炭素および酢酸エチルを生じさせる。この触媒の他の長所は、この触媒を使用した際に僅かな量の高沸点成分しか生じない点である。この量が僅かであるにもかかわらず、環境衛生上および方法技術上に問題がある。かゝる高沸点成分は例えば二酢酸エチリデン、エチレングリコールおよびそれの酢酸エステルまたはジアセトキシエチレンである。
【0004】
米国特許(A)第3,775,342号明細書には、担体をパラジウム−および金塩の溶液で含浸処理し、次いで、水不溶性のパラジウム−および金化合物を担体の上に析出させるアルカリ溶液で処理しそして続いて金属化合物を相応する貴金属に還元することによって、パラジウム、カリウムおよび金を含有する触媒を製造する方法が開示されている。アルカリ金属酢酸塩溶液での担体材料の処理を還元段階の前または後で行なうことができる。
【0005】
米国特許第4,048,096号明細書は、パラジウム−および金塩より成る混合物を含有する水溶液で最初に担体材料を含浸処理する、パラジウム、カリウムおよび金を含有する触媒の製造方法を開示している。この場合には、含浸溶液の容量は担体材料の空隙容積に相応する。次に湿った担体をアルカリ溶液、例えばメタ珪酸ナトリウム水溶液で完全に覆いそして室温で12時間放置する。この様に金属塩を水不溶性化合物に転化し、こうして担体材料に固定(fix)している。還元剤での後続の処理によってパラジウム−および金化合物は相応する金属に還元される。この目的のために例えばヒドラジン水溶液を静かに攪拌しながら添加しそしてこの混合物を添加後4時間放置する。洗浄および乾燥の後で、パラジウムと金を担持した担体材料をアルカリ金属酢酸塩溶液で処理しそして再度乾燥する。得られる触媒はシェル構造を有しており、パラジウムおよび金が担体材料の表面上の約0.5mmの厚みのシェル部に分布している。
【0006】
米国特許(A)第5,332,710号明細書に開示された、パラジウム、金およびカリウムを含有するシェル触媒の製造方法においては、パラジウム−および金塩水溶液で含浸処理された担体を水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを含有する固定用(fixing)水溶液に浸漬しそしてその中で少なくとも0.5時間に渡って攪拌する。開示されたこの固定技術は、固定用溶液で完全に覆われた担体を固定用溶液で処理し始めから回転運動させることに特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許(A)第3,775,342号明細書
【特許文献2】米国特許第4,048,096号明細書
【特許文献3】米国特許(A)第5,332,710号明細書
【特許文献4】米国特許第3,939,199号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきことに本発明者は、バナジウムおよび/またはそれの化合物を添加することがこの種の触媒の高沸点成分の選択性を著しく改善することを見出した。高沸点成分の選択率とは、酢酸ビニル合成で生じる高沸点成分の量と反応したエチレンの量との比を意味する。高沸点成分とはなかでも前述の化合物を意味する。
【0009】
本発明の対象は、エチレン、酢酸および酸素または酸素含有ガスから気相中でパラジウムおよび/またはその化合物、金および/またはその化合物並びにアルカリ金属化合物を担体に担持する触媒を用いることによって酢酸ビニルを製造する方法において、触媒が追加的にバナジウムおよび/またはその化合物を含有する、上記方法である。
【0010】
更に本発明の対象は、パラジウムおよび/またはその化合物、金および/またはその化合物並びにアルカリ金属化合物を担体に担持する触媒において、該触媒が追加的にバナジウムおよび/またはその化合物を含有することを特徴とする、上記触媒にも関する。
【0011】
本発明の触媒を製造するためには次の様に行なうのが有利である:
1.担体を可溶性バナジウム化合物で含浸処理し、次いで乾燥し;
2.予備処理した担体を、可溶性のパラジウム−および金化合物で含浸処理し;
3.可溶性パラジウム−および金化合物をアルカリ反応性溶液によって担体上で不溶性化合物に転化し;
4.担体上の不溶性パラジウム−および金化合物を還元剤で還元し;
5.担体を洗浄しそして次に乾燥し;
6.担体を可溶性のアルカリ金属化合物で含浸処理し;そして
7.次いでその担体を最高150℃で乾燥する。
【0012】
上記方法段階2〜7は例えば米国特許第3,775,342号明細書(特許文献1)、同第4,048,096号明細書(特許文献2)および同第5,332,710号明細書(特許文献3)から公知である。
【0013】
可溶性のバナジウム−、パラジウム−および金−並びにアルカリ金属化合物での担体の含浸処理の他に、触媒活性物質を担体に適用するために当業者に良く知られている他の技術、例えば多重蒸着、噴霧処理または場合によっては超音波の使用下での浸漬処理も使用することができる。
【0014】
同様に方法段階1と2とを交換することもできる。即ち、担体を最初にパラジム−および金化合物を含有する溶液で含浸処理しそして乾燥を行なった後に、その処理済み担体にバナジウム化合物を適用することもできる。
【0015】
担体としては公知の不活性担体材料、例えば珪酸、酸化アルミニウム、アルミノ珪酸塩、珪酸塩、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸塩、炭化珪素およびカーボン物質が適している。40〜350m/gの比表面積(BET−法で測定)および50〜2000Å(水銀ポロシメーターを使用して測定)の平均孔径を有する担体、なかでも珪酸(SiO)およびSiO−Al−混合物が特に適している。これらの担体はあらゆる形状、例えば球状、タブレット状、環状、星型または成形された他の粒子形状で使用でき、その直径あるいはその長さおよび厚さは一般に3〜9mmである。
【0016】
かゝる担体は、例えば四塩化珪素または四塩化珪素/三塩化アルミニウム−混合物を酸水素炎中で火炎加水分解(flame hydrolyse)することによって製造できるエーロゲニック(aerogenic)SiOまたはエーロゲニックSiO/Al−混合物から製造できる(米国特許第3,939,199号明細書(特許文献4))。
【0017】
段階1に従う方法段階で塗布するバナジウム化合物としてはバナジウム塩、例えばバナジル塩、バナジウム酸塩およびバナジウム酸イソプロピルを使用するのが有利である。特にバナジル塩、例えば塩化物、硫酸塩、蓚酸塩、酢酸塩およびアセチルアセトナートを使用するのが有利である。複数種のバナジウム塩および/またはバナジル塩を適用することもできる。一般に1種類だけのバナジウム塩またはバナジル塩を適用する。
【0018】
段階2に従う方法段階でそれぞれに適用される元素のパラジウムおよび金は好ましくは塩溶液の状態で無関係の順序で個々にまたは一緒に適用する。塗布すべきこれらの各元素を塩の状態で含有する単独の溶液を使用するのが有利である。適用すべきこれらの元素のそれぞれの唯一の塩を含有する唯一の溶液を使用するのが特に有利である。
【0019】
しかしこの場合、妨害するアニオン、例えば塩化物の場合には、これらのアニオンは触媒を使用する前に大部分除かなければならない。これはドープされた担体を例えば水で洗浄し、その後で例えば塩化物として塗布されたパラジウムおよび金を不溶性の状態に、例えばアルカリ反応性化合物での固定処理によっておよび/または還元反応によって転化する(方法段階3および4)。
【0020】
パラジウムおよび金の塩としては可溶性であるあらゆる塩が適している。塩化物、クロロ錯塩およびカルボキシレート、好ましくは炭素原子数2〜5の脂肪族モノカルボン酸の塩、例えば酢酸塩、プロピオン酸塩または酪酸塩が特に適する。更に例えば硝酸塩、亜硝酸塩、酸化物水和物、蓚酸塩、アセチルアセトナートまたはアセトアセテートが適している。溶解性が良好でそして入手が容易であるために、パラジウムおよび金の塩化物およびクロロ錯塩、特にパラジウム−および金塩が有利である。
【0021】
アルカリ金属化合物としては中でもナトリウム−、カリウム−、ルビジウム−またはセシウム化合物の少なくとも1種類、特にカリウム化合物を使用するのが有利である。中でもカルボキシレート、特に酢酸塩およびプロピオン酸塩がかゝる化合物として適している。反応条件のものでアルカリ金属酢酸塩に転化する化合物、例えば水酸化物、酸化物および炭酸塩も適している。
【0022】
パラジウム−、金−、アルカリ金属−およびバナジウム化合物のための溶剤としては、選択された化合物を溶解しそして含浸処理後に乾燥によって容易に再び除くことができるものが適している。パラジウム−、金−、アルカリ金属−およびバナジウム化合物を選択した場合には、アセテートおよびアセチルアセトナートのためには、なかでも炭素原子数2〜10の非置換カルボン酸、例えば酢酸、プロピオン酸、nーおよびイソ−酪酸および種々のバレリン酸が適している。カルボン酸のなかでも、その物理的性質および経済的理由から酢酸を使用するのが有利である。塩化物、クロロ−、アセテート錯塩およびアセチルアセトナートのためには中でも水が適している。他の溶剤を追加的に使用することも、該塩が酢酸または水に十分に溶解しない場合に有利である。例えば塩化パラジウムは氷酢酸よりも水性酢酸に実質的により良好に溶解する。追加的溶剤としては、不活性でありそして酢酸あるいは水と混和し得るものが適する。酢酸のための添加物としては、ケトン類、例えばアセトンおよびアセチルアセトン、更にエーテル類、例えばテトラヒドロフランまたはジオキサン、または炭化水素、例えばベンゼンが挙げられる。
【0023】
以下で“塩の溶液”について一般的に説明する場合、適用すべき塩全体量の一部だけを、およびそれぞれに含有する複数の溶液を順次使用する場合のいずれについても同様なことが言える。その際に個々の量の合計量は担体に適用すべき塩の全体量である。段階1および2に従う方法段階を実施するためには、この溶液で一度または複数回の浸漬処理を行うことによって担体粒子に塩の溶液を適用する。その際に溶液の全容量を一度にまたは二つ以上の部分量に分けて使用することができる。しかし塩の溶液の全量を一度に使用して、担体粒子を一度の浸漬処理によって適用すべき所望の量の元素を含浸させるのが有利である。その際に乾燥処理を直ちに実施してもよい。複数の部分量で一連の浸漬処理を行なう場合には各浸漬処理の後直ちに乾燥処理を行なう。
【0024】
この発明において、“直ちに”乾燥とは含浸させた粒子の乾燥が遅滞なく開始されなければならないことを意味する。この場合、一般に浸漬の終了後遅くとも1/2時間後に粒子の乾燥を開始すれば一般に十分である。
【0025】
適用される塩の溶液での担体粒子の浸漬は、担体粒子が溶液で被覆されそして場合によっては過剰の溶液を注ぎ出すかまたは濾去する様にして行なう。溶液の損失を考慮して触媒担体の全空隙容積に相当する量の溶液しか使用しないのが有利である。含浸溶液の容量が触媒担体の空隙容積の98〜100%に相当するのが有利である。
【0026】
浸漬の間に担体粒子を、例えば回転式フラスコまたは攪拌式フラスコまたは混合ドラム中で十分に良く混合するのが有利である。その際に乾燥をそれに後続して直ちに行なってもよい。回転速度または攪拌強度は、一方では、担体粒子の良好な完全混合および湿潤を保証するのに十分な大きさであり、もう一方では、担体粒子が著しく摩耗する程に大きくあるべきでない。
【0027】
方法段階1および2に従って浸漬処理した担体粒子をアルカリ反応性溶液で処理することによって適用される元素の塩を水不溶性化合物に転化しそして担体表面に固定する(方法段階3)。
【0028】
固定用溶液としては例えばアルカリ反応性水溶液が使用される。この種の溶液の例にはアルカリ金属珪酸塩、アルカリ金属炭酸塩および−炭酸水素塩、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属メタ硼酸塩の水溶液がある。
【0029】
アルカリ金属水酸化物の水溶液、特に水酸化カリウムまたは−ナトリウムの水溶液が有利である。硼素化合物を含有する水溶液もアルカリ反応性水溶液として使用することができる。この場合には硼砂(四硼酸ナトリウム・10水和物)、四硼酸カリウムまたは苛性アルカリと硼酸との混合物の水溶液も特に適している。アルカリ溶液は緩衝特性を有していてもよい。
【0030】
固定用溶液中に含まれるアルカリ反応性化合物の量は適用される可溶性パラジウム−および金化合物が化学量論的に反応して水不溶性化合物となるのに少なくとも十分である様に決めるのが有利である。
【0031】
しかしながら固定用溶液中に含まれるアルカリ反応性化合物を過剰量で使用しても良く、この過剰量は化学量論的に必要とされる量を基準として一般に1〜10倍量である。
【0032】
固定用溶液の容量は、少なくとも含浸される担体を固定用溶液で完全に覆うのに十分である様に決める。この固定は米国特許第5,332,710号明細書(この明細書をここに全文記載したものとする)から公知の“回転浸漬”技術に従って行なうのが好ましい。この技術は、固定用溶液で完全に覆われた担体を処理の始めから固定用溶液と一緒に回転攪拌させることに特徴がある。
【0033】
担体粒子を運動させ続けるあらゆる種類の回転または類似の処理手段を利用することができる。何故なら厳密な方法は重要でないからである。しかしながら運動の強さは重要である。この強さは、含浸処理される担体の全表面がアルカリ性固定用溶液で一様に湿潤されるのに十分であるべきである。
【0034】
次いで処理される担体を、適用されたパラジウム−および金化合物が触媒用担体に水不溶性化合物の状態で完全に析出することを保証するために、室温で固定用溶液中に16時間まで放置する。
【0035】
しかしなら担体上での反応は室温または高められた温度、例えば70℃でも実施できる。
【0036】
不溶性のパラジウム−および金化合物の続く還元の際(段階4)の処理は気体還元剤で実施するかまたは液体還元剤で実施するかどうかに依存している。
【0037】
液体還元剤で実施する場合には、場合によっては上澄み固定用溶液を流し出した後で、固定の終了後に液状還元剤を添加する。
【0038】
還元反応は0℃〜90℃、好ましくは15〜25℃の温度で行なう。還元剤としては例えばヒドラジン、蟻酸またはまたはアルカリ金属硼化水素塩の各水溶液、例えば硼化水素ナトリウムの水溶液を使用することができる。
【0039】
還元反応の後に、処理された触媒担体を妨害化合物を除くために、例えば含浸処理段階で発生する塩化物および貴金属の固定および還元によって放出される塩化物の残留物を除くために何度も洗浄しなければならない(段階5)。
【0040】
この目的のためには処理された担体を室温で洗浄液、好ましくは流動性の脱塩水で、邪魔なアニオン、例えば塩化物が除かれるまで連続的に洗浄する。この洗浄工程で、使用される還元剤の残留物も除かれる。
【0041】
次いで湿った触媒前駆体を最高150℃の温度で乾燥させる(段階5)。
【0042】
気体還元剤の存在下で実施する場合には、固定の終了後に初めて上澄み固定用溶液を注ぎ出す。次いで固定段階の後で得られる処理済み担体を還元段階の前に、処理済み担体上のある可溶性化合物、例えば固定段階から放出されるアルカリ金属塩化物および場合によっては存在する、固定用溶液中に含まれる過剰のアルカリ反応性化合物を除くために洗浄するのが有利である。
【0043】
この目的のためには処理済み担体を室温で洗浄液、好ましくは流動する脱イオン水で連続的に洗浄する。この洗浄は邪魔なアニオン、例えば塩化物が担体から十分に除かれるまで継続する。次いで湿った含浸処理済み触媒担体を気体還元剤で実施する還元反応の前に乾燥させるのが有利である。この乾燥は最高150℃の温度で実施する。
【0044】
続く還元反応は一般に40〜260℃、好ましくは70〜200℃で行なう。還元反応のためには不活性ガスで希釈された、0.01〜50容量%、好ましくは0.5〜20容量%の還元剤含有量の希釈済み還元剤を使用するのが有利である。不活性ガスとしては例えば窒素、二酸化炭素または希ガスを使用することができる。還元剤としては例えば水素、メタノール、ホルムアルデヒド、エチレン、プロピレン、イソブチレン、ブチレンまたは他のオレフィンが適している。
【0045】
還元反応を気体還元剤の存在下にまたは液体還元剤を用いて行なうかどうかに無関係に、還元剤の量は還元当量が酸化当量と少なくとも同量になるように決めなければならないが、更に多量の還元剤を用いても害にはならない。
【0046】
還元段階では、固定された水不溶性貴金属化合物を相応する貴金属に還元する様に還元条件を選択することが重要である。他方、バナジウム化合物中に存在するバナジウムも選択された還元条件のもとで元素状バナジウムに転化するかどうかは重要ではない。何故ならばこのことは酢酸ビニルを製造するための本発明の触媒の適性にとって重要ではないからである。
【0047】
還元段階および場合によっては乾燥段階の後で得られる触媒前駆体は方法段階6に従ってアルカリ金属化合物の溶液で一回または複数回処理し、好ましくは含浸処理し、その際に溶液の全容量が一度にまたは一部分づつに別けて使用する。しかしながら溶液の全ての容量を一度に使用するのが有利であり、一度の浸漬処理によって担体粒子を所望の量の適用すべきアルカリ金属化合物で含浸処理する。アルカリ金属化合物の溶液容量は一回の含浸処理でまたは複数回の含浸処理で空隙容積の一般に60〜110%、好ましくは80〜100%である。
【0048】
アルカリ金属化合物の溶液は一回または複数回の噴霧、蒸発または浸漬によっても触媒前駆体に適用することができる。
【0049】
アルカリ金属化合物の溶液での処理の後に触媒前駆体を次いで最高150℃までで乾燥する(方法段階7)。
【0050】
アルカリ金属化合物は、乾燥後に完成触媒が0.1〜10重量%のアルカリ金属を含有する様な量で使用する。
【0051】
処理済み触媒担体または触媒前駆体の乾燥段階は熱い空気流中でまたは不活性ガス流、例えば窒素ガス流または二酸化炭素流中で行なう。この場合、乾燥の際の温度は一般に60〜150℃、好ましくは100〜150℃であるべきである。この場合、場合によっては減圧下に、一般に0.01MPa〜0.08MPaで乾燥する。
【0052】
パラジウム、金、アルカリ金属およびバナジウムを含有する完成シェル触媒は次の金属含有量を有している:
パラジウム含有量: 一般に 0.5〜2.0重量%
好ましくは 0.6〜1.5重量%
金含有量: 一般に 0.2〜1.3重量%
好ましくは 0.3〜1.1重量%
アルカリ金属含有量: 一般に 0.3〜10 重量%
カリウムを使用するのが有利である。
カリウム含有量: 一般に 0.5〜4.0重量%
好ましくは 1.5〜3.0重量%
バナジウム金属含有量: 一般に 0.01〜1 重量%
好ましくは 0.05〜0.5重量%
上記の%表示は常に触媒の全重量(活性元素+アニオン+担体材料)を基準とする、完成触媒中に存在する元素(パラジウム、金、アルカリ金属およびバナジウム)の量を意味する。
【0053】
本発明の触媒の場合には貴金属は担体粒子上にシェルの状態で存在する。
【0054】
酢酸ビニルの製造は一般に酢酸、エチレンおよび酸素を含有するガスを導入しながら100〜220℃、好ましくは120〜200℃の温度で0.1〜2.5MPa、好ましくは0.1〜2.0MPaの圧力で完成触媒の使用下に行なう。その際に未反応成分は循環供給してもよい。時には窒素または二酸化炭素の様な不活性ガスで希釈することも有利であり得る。二酸化炭素は反応の間に僅かな量生じるから、希釈するには特に二酸化炭素が適している。
【0055】
本発明の触媒によって、活性および選択率を向上させることができ、それによって特に高沸点成分の生成が著しく低減される。高沸点成分には特に、環境衛生上にも方法技術的にも問題のある冒頭に記載の化合物がある。
【0056】
従って、本発明の触媒を使用して実施される酢酸ビニルの製法は、酢酸ビニルを高収率でもたらし、それによって得られる酢酸ビニルの後処理が容易にされる。何故ならば反応器流出物中の酢酸ビニル含有量が多いからである。このことで更に後処理段階でのエネルギーが節約できる。適する後処理法は例えば米国特許第5,066,365号明細書に掲載されている。
【0057】
以下の実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。パラジウム、金、カリウムおよびバナジウムの各元素の%表示は触媒の全重量を基準とする重量%である。
【実施例】
【0058】
いずれの実施例でも担体材料としては、ベントナイトをベースとするSued−Chemie社のKA160珪酸製の7mmのペレットを使用する。
【0059】
実施例1
0.17g(0.0007モル)のバナジルアセチルアセトナートを32mLの脱塩水に溶解しそして52.4gの担体材料に適用する。その後にこの処理済み担体を100℃で2時間乾燥する。
【0060】
2.15g(0.0066モル)のKPdClおよび0.77g(0.002モル)のKAuClを一緒に秤量しそして32mLの脱塩水に溶解する。静かに攪拌しながらこの溶液の全部を予備処理済み担体に適用する。次いで100℃で2時間乾燥する。
【0061】
貴金属シェルを形成させそして貴金属塩を不溶性化合物に転化するために、32mLの脱塩水に1.74g(0.031モル)の水酸化カリウムを溶解した溶液を上記前処理済み担体に注ぎかける。反応を完了させるためにこの混合物を14時間にわたって室温で放置し、次に脱塩水で洗浄し、塩化物を除く。水溶液中の塩化物イオンのAgNO−検出法によって、塩化物を含まないことをチェックする。次いで100℃の温度で2時間にわたって乾燥させる。
【0062】
次いで、希釈エチレン(窒素中5容量%)で貴金属の還元を行なう。この目的のためにこのガス混合物を150℃の温度で5時間にわたって触媒に通す。次いで4g(0.041モル)の酢酸カリウムを32mLの脱塩水に溶解し、触媒前駆体に回分的に添加しそして再度100℃の温度で2時間にわたって乾燥する。
【0063】
完成触媒は1.21重量%のパラジウム、0.69重量%の金、2.75重量%のカリウムおよび0.06重量%のバナジウムを含有している。
【0064】
実施例2
0.42g(0.0016モル)のバナジルアセチルアセトナートを40mLの脱塩水に溶解しそして65.5gの担体材料に適用する。その後にこの処理済み担体を100℃で2時間乾燥する。
【0065】
2.69g(0.0082モル)のKPdClおよび0.96g(0.0025モル)のKAuClを一緒に秤量しそして40mLの脱塩水に溶解する。静かに攪拌しながらこの溶液の全部を予備処理済み担体に適用する。貴金属シェルを形成させそして貴金属塩を不溶性化合物に転化するために、150mLの脱塩水に1.91g(0.034モル)の水酸化カリウムを溶解した溶液を上記前処理済み担体に注ぎかけ、全部の反応混合物を反応を完了させるために、回転式蒸発器で5回転/分の回転速度で2.5時間攪拌する。この反応混合物を14時間にわたって室温で放置して反応を完結させ、次に脱塩水で洗浄し、塩化物を除く。水溶液中の塩化物イオンのAgNO検出法によって、塩化物を含まないことをチェックする。次いで100℃の温度で2時間にわたって乾燥させる。
【0066】
次いで、希釈エチレン(窒素中5容量%)で貴金属の還元を行なう。この目的のためにこのガス混合物を150℃の温度で5時間にわたって触媒に通す。次いで5g(0.051モル)の酢酸カリウムを32mLの脱塩水に溶解し、触媒前駆体に回分的に添加しそして再度100℃の温度で2時間にわたって乾燥する。
【0067】
完成触媒は1.21重量%のパラジウム、0.69重量%の金、2.75重量%のカリウムおよび0.11重量%のバナジウムを含有している。
【0068】
比較例1
5.37g(0.0164モル)のKPdClおよび1.92g(0.005モル)のKAuClを一緒に秤量しそして80mLの脱塩水に溶解する。静かに攪拌しながらこの溶液の全部を131gの担体材料に適用する。次に100℃で2時間乾燥させる。
【0069】
貴金属シェルを形成させそして貴金属塩を不溶性化合物に転化させるために、80mLの脱塩水に3.81g(0.068モル)の水酸化カリウムを溶解した溶液を上記前処理済み担体に注ぎかける。反応を完了させるためにこの反応混合物を14時間にわたって放置し、次に脱塩水で洗浄し、塩化物を除く。水溶液中の塩化物イオンのAgNO−検出法によって、塩化物を含まないことをチェックする。次いで100℃の温度で2時間にわたって乾燥させる。
【0070】
次いで、希釈エチレン(窒素中5容量%)で貴金属の還元を行なう。この目的のためにこのガス混合物を150℃の温度で5時間にわたって触媒に通す。次いで10g(0.102モル)の酢酸カリウムを77mLの脱塩水に溶解し、触媒に回分的に添加しそしてこれを再度100℃の温度で2時間にわたって乾燥する。
【0071】
完成触媒は1.21重量%のパラジウム、0.69重量%の金および2.75重量%のカリウムを含有している。
【0072】
比較例2
2.69g(0.0082モル)のKPdClおよび0.96g(0.0025モル)のKAuClを一緒に秤量しそして40mLの脱塩水に溶解する。静かに攪拌しながらこの溶液の全部を65.5gの担体材料に適用する。貴金属シェルを形成させそして貴金属塩を不溶性化合物に転化するために、150mLの脱塩水に1.91g(0.034モル)の水酸化カリウムを溶解した溶液を上記前処理済み担体に注ぎかけ、全部の反応混合物を反応を完了させるために、回転式蒸発器で5回転/分の回転速度で2.5時間攪拌する。この反応混合物を14時間にわたって放置して反応を完結させ、その後で脱塩水で洗浄し、塩化物を除く。水溶液中の塩化物イオンのAgNO−検出法によって、塩化物を含まないことをチェックする。次いで100℃の温度で2時間にわたって乾燥させる。
【0073】
次いで、希釈エチレン(窒素中5容量%)で貴金属の還元を行なう。この目的のためにこのガス混合物を150℃の温度で5時間にわたって触媒に通す。次いで4g(0.041モル)の酢酸カリウムを32mLの脱塩水に溶解し、触媒に回分的に添加しそして再度100℃の温度で2時間にわたって乾燥する。
【0074】
完成触媒は1.21重量%のパラジウム、0.69重量%の金および2.75重量%のカリウムを含有している。
【0075】
酢酸ビニルの製造での上記触媒の性能を評価するために、Berty−反応器で8.0容量%の酸素、37.5容量%のエチレン、15.7容量%の酢酸および38.8容量%の窒素よりなる供給組成物を用いて試験を実施する。結果を表1に総括掲載する。
【0076】
表1:触媒試験


空時収量: g(酢酸ビニル)/L(触媒)・時
高沸点成分選択率:反応したエチレンの量を基準とするモル%
上記表のデータが実証する通り、パラジウム、金およびカリウムを含有する公
知の触媒に少量のバナジウムを添加した場合でも酢酸ビニル製造における高沸点
成分の顕著な減少とともに触媒の性能(空時収量)を向上させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン、酢酸および酸素または酸素含有ガスから気相中でパラジウムおよび/またはそれの化合物、金および/またはそれの化合物並びにアルカリ金属化合物を担体に担持する触媒によって酢酸ビニルを製造する方法において、触媒が追加的に少なくともバナジウムおよび/またはそれの化合物を含有することを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
触媒が少なくとも1種類のカリウム化合物を含有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
触媒が触媒の全重量を基準として0.01〜1重量%のバナジウムを含有する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
触媒が触媒の全重量を基準として0.05〜0.5重量%のバナジウムを含有する請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
パラジウムおよび/またはその化合物、金および/またはそれの化合物並びにアルカリ金属化合物を担体に担持する触媒において、該触媒が追加的にバナジウムおよび/またはそれの化合物を含有することを特徴とする、上記触媒。
【請求項6】
触媒が少なくとも1種類のカリウム化合物を含有する請求項5に記載の触媒。
【請求項7】
触媒が該触媒の総重量を基準として0.01〜1重量%のバナジウムを含有する請求項5または6に記載の触媒。
【請求項8】
触媒が該触媒の総重量を基準として0.05〜0.5重量%のバナジウムを含有する請求項5〜7のいずれか一つに記載の触媒。

【公開番号】特開2011−16809(P2011−16809A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177844(P2010−177844)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【分割の表示】特願2000−615138(P2000−615138)の分割
【原出願日】平成12年4月22日(2000.4.22)
【出願人】(398010667)セラニーズ・ケミカルズ・ヨーロッパ・ゲゼルシヤフト・ミト・ベシユレンクテル・ハフツング (11)
【Fターム(参考)】