説明

酢酸菌の菌体外水溶性多糖を含む免疫調節組成物

【課題】安全性が高いながらも、より強い免疫調節作用を有する物質を含む食品を提供する。
【解決手段】アセトバクター・トロピカリス(Acetobactor tropicalis)を培養することにより、該菌が菌体外に生産する水溶性ヘテロ多糖を含有することを特徴とする免疫調節組成物であって、アセトバクター・トロピカリス(Acetobactor tropicalis)が、アセトバクター・トロピカリス(Acetobactor tropicalis)SKU1100株(寄託菌株番号NBRC101654)であるものであり、また、水溶性へテロ多糖が、少なくともグルコース及びラムノースから構成される分子量が40万以上の水溶性ヘテロ多糖を含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸菌アセトバクター・トロピカリス(Acetobacter tropicalis)が菌体外に生産する水溶性へテロ多糖を有効成分として含有する免疫調節組成物並びにその組成物を含有する免疫調節剤、飲食品及び飼料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リンパ球には細胞性免疫を司るT細胞と、液性免疫が中心的役割のB細胞があり、T細胞は細胞性免疫の担い手であるとともに、免疫調節の面でも重要な役割を果たし、特にヘルパーT細胞が重要といわれている。ヘルパーT細胞にはインターフェロン(IFN)ガンマやインターロイキン−2(IL−2)を分泌するTh1細胞、及びIL−4、IL−10を分泌するTh2細胞があることが見出されている。Th1細胞の分泌するIFN-ガンマはTh2細胞を抑制し、逆にTh2細胞の分泌するIL−4、IL−10はTh1細胞を抑制する。Th1細胞とTh2細胞は相互に抑制し、両者は一定のバランスを保っている。
【0003】
また、Th1細胞の分泌するIL−2およびIFN-ガンマは細胞性免疫を亢進し、逆にTh2細胞の分泌するIL−4、IL−5、IL−10は液性免疫を亢進する。Th1細胞優位では、結核、リステリアなど防御に細胞性免疫の関与する感染症に抵抗性であり、Th2細胞優位では易感染性となる。また、細胞性免疫の関与する臓器特異的自己免疫疾患の発症にはTh1細胞優位が、また、液性免疫の関与が大きい全身性自己免疫疾患やIgEの関与する気管支喘息などにはTh2細胞優位が関与するとされている。
【0004】
Th2細胞が産生するIL−4とIL−10は、TH1細胞の反応を阻害し、逆にTh1細胞が産生するIFN-ガンマは、Th2細胞の反応を阻害する。つまり、IFN-ガンマの生成が促進され、IL−4の生成が抑制されることは、Th2細胞優位の状態からTh1細胞優位の状態への転換を示唆している。
【0005】
アレルギー疾患は環境抗原に対するTh2細胞の応答によって発症すると考えられており、この場合、アレルゲンに対するTh2細胞有意の応答をTh1細胞有意の応答へ転換することは、アレルギー疾患の新たな治療法として期待されている。このようにTh1/Th2バランスをTh1細胞有意に転換するような食品成分としては、乳酸菌(特許文献1参照)やキノコ由来のベータグルカン(特許文献2参照)などが知られており、免疫細胞からのIFN-ガンマ誘導能やインターロイキン−12(IL−12)誘導能を有している。IFN-ガンマ、IL−12の誘導によりNK細胞などを含む細胞性免疫が活性化され、ガンの発生に対する抵抗力が増すことが明らかとなっている(特許文献1参照)。
【0006】
一方、積極的なIFN-ガンマ産生誘導がアレルギーの原因となるIgEの産生を抑制することもすでに明らかになっている(特許文献3参照)。したがって、強力なIFN-ガンマ誘導能をもつ食品成分は、抗腫瘍作用および抗アレルギー作用を有しているといえる。
【0007】
アセトバクター属の酢酸菌は花弁や果実の表面に広く分布するグラム陰性の微生物である。古来より世界的に食酢やビネガー、漬物、ヨーグルトなどの発酵食品などの製造に用いられており、食経験が豊富で非常に安全性が高い微生物である。アセトバクター属の酢酸菌が生産する菌体外の水溶性多糖としてはグルコース:ガラクトース:マンノース:グルクロン酸=10:3〜6:0.5〜2:0.5〜2の構成糖のもの(特許文献4参照)や、グルコース:マンノース:ラムノース:グルクロン酸=4:0.9〜1.1:0.9〜1.1:0.9〜1.1の構成糖のもの(特許文献5参照)、及びグルコース:マンノース:ラムノース:グルクロン酸=4:1:1:1の構成糖からなるアセタン(非特許文献1参照)などが挙げられる。
【0008】
またアレルギー調節活性を有する酢酸菌由来の多糖として、アセトバクター・ポリサッカロゲネス(Acetobacter polysaccharogenes)やアセトバクター・ザイリナム(Acetobacter xylinum)が菌体外に産生する多糖が知られている(特許文献6参照)。該明細書実施例で開示されている菌体外水溶性へテロ多糖はグルコース、マンノース、グルクロン酸を構成糖とするものであり、IgE産生やIL−4産生を抑制する効果や、Th2細胞への分化を抑制するIL−12の産生を促進する効果などがあるとされている。
【0009】
【特許文献1】特開2002−80364号公報
【特許文献2】特開2005−97308号公報
【特許文献3】特開2005−139160号公報
【特許文献4】特開昭58−78596号公報
【特許文献5】特開昭59−203498号公報
【非特許文献1】Carbohydr.Res.,Vol.245,No.2,p.303−310,1993
【特許文献6】特開2004−59547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、これらの物質を摂取して効果が発現するためには、より多くの摂取量や長期間の摂取が必要とされており、摂取者にとって十分な効果を得ることは困難であった。そこで、安全性が高いながらも、より強い免疫調節作用を有する物質を含む食品の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、自然界より分離された酢酸菌の水溶性多糖が有する免疫調節活性について検討を進め、アセトバクター・トロピカリスを好気条件下で液体培養することにより菌体外に生産される水溶性ヘテロ多糖類が、優れたIFN-ガンマ産生促進活性などの免疫調節活性を有し、免疫細胞のIFN-ガンマの産生を促進して免疫調節活性を高め、ガンに対する抵抗を改善したり、花粉症やハウスダストアレルギーなどのアレルギー症状を緩和する効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明の第一は、アセトバクター・トロピカリス(Acetobactor tropicalis)を培養することにより、該菌が菌体外に生産する水溶性ヘテロ多糖を含有することを特徴とする免疫調節組成物を要旨とするものであり、好ましくは、アセトバクター・トロピカリス(Acetobactor tropicalis)が、アセトバクター・トロピカリス(Acetobactor tropicalis)SKU1100株(寄託菌株番号NBRC101654)であるものであり、また好ましくは、水溶性へテロ多糖が、少なくともグルコース及びラムノースから構成される水溶性ヘテロ多糖であり、また好ましくは、水溶性ヘテロ多糖が、分子量40万以上の水溶性ヘテロ多糖であり、さらにまた好ましくは、免疫調節が、免疫細胞のインターフェロン−ガンマ産生誘導である免疫調節組成物である。
【0013】
本発明の第二は、本発明の第一の免疫調節組成物を有効成分として含有することを特徴とする免疫調節剤を要旨とするものである。
【0014】
本発明の第三は、本発明の第一の免疫調節組成物を有効成分として含有し、免疫調節活性を有することを特徴とする飲食品を要旨とするものである。
【0015】
本発明の第四は、本発明の第一の免疫調節組成物を有効成分として含有し、免疫調節活性を有することを特徴とする飼料。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る免疫調節組成物は、従来のものと比較してより強い免疫調節作用を有しており、とりわけ免疫細胞からのIFN-ガンマ誘導能を有している。IFN-ガンマはNK細胞を活性化することで抗腫瘍作用を発揮する。一方、IFN-ガンマはTh1細胞を活性化し、Th2細胞を不活性化することでIgEの産生を抑制し、結果としてIgEの関与するアレルギー症状を緩和することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いられるアセトバクター・トロピカリスは、花弁や果実表面に付着して広く自然界に存在する酢酸菌である。アセトバクター・トロピカリスについては、既にNBRC16470株やDSMZ274株が公的機関に保存されており、容易に入手可能である。中でも本発明者らが自然界より分離した一菌株であるアセトバクター・トロピカリスSKU1100株は好気条件下で液体培養することにより、水溶性のヘテロ多糖を菌体外に生産する(Microbiology,vol.151,p.4111−4120,2005)。このヘテロ多糖は、分子量が40万以上で、グルコース、ラムノース、ガラクトースから構成されている。なお、本発明者らが既に報告しているアセトバクターsp.SKU1100株の菌体膜結合型へテロ多糖(Biosici.Biotechnol.Biochem.,vol.65,p777−783,2002)(特開2002−95493号公報参照)と本発明で用いる水溶性へテロ多糖とは、その構成糖がグルコース、ラムノース、ガラクトースから成る点では同じであるものの、分子量(膜結合型へテロ多糖では12万)やその糖組成比率が異なることが明らかにされている。膜結合型ヘテロ多糖はアセトバクター・トロピカリスを静置培養した際に培養液表面に形成され、一方、本発明の水溶性へテロ多糖は同株を好気条件下で液体培養した際に培地中に産生される。
【0018】
さらに、本発明の水溶性へテロ多糖は、アセトバクター・トロピカリスSKU1100株の野生株だけでなく、その多糖合成遺伝子オペロンのうちの polEが欠損したPel-株や、多糖合成遺伝子オペロンのうちのガラクトース合成遺伝子のみが欠損したΔgalE株などの遺伝子組換体を用いても生産することが可能である(Microbiology, vol.151,p.4111−4120,2005)。
【0019】
本発明における水溶性へテロ多糖は少なくともその構成糖としてグルコースとラムノースを有していれば良く、ガラクトースやマンノース、グルクロン酸などをさらに構成糖として含んでもよいが、好ましくはグルコース、ラムノース、ガラクトースからなる水溶性へテロ多糖である。またその構成割合については特に限定するものではない。
【0020】
本菌株を培養して水溶性へテロ多糖を得る場合、公知の培地組成(例えば0.5%酵母エキス、0.5%ポリペプトン、1%グリセリンなどを含むYPG液体培地)及び培養温度(27〜40℃)、pH5〜7を用いて、振盪培養など好気条件下で液体培養することにより、菌体外に水溶性へテロ多糖を産生させることができる。産生された水溶性ヘテロ多糖は、培養液から菌体を除去した後、公知の方法、例えばアルコール類やアセトンなどを用いて沈殿させるなどの方法で容易に分離回収できる。
【0021】
以上のようにして得られたアセトバクター・トロピカリスの菌体外水溶性へテロ多糖は、そのままで、あるいは必要に応じて他の成分を加えることで本発明の免疫調節組成物とすることができる。
【0022】
組成物に含まれ得る他の成分としては、本発明における免疫調節活性を低下させないものであれば混合することが可能であり、例えば従来から用いられている薬学的に許容された界面活性剤、溶媒、増粘剤、安定剤、保存料、酸化防止剤、香味料、等のような添加剤と混合されることができる。
【0023】
本発明の免疫調節組成物の形態としては、粉末、錠剤、カプセル、軟カプセル、ペースト若しくはトローチ、ガム又は飲用可能な溶液若しくは乳濁液、ドライ経口サプリメント、ウェット経口サプリメントなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの形態は従来から知られている方法によって作製することができる。摂取方法も、経口投与、直腸投与、静脈注射、点滴等の一般的な投与経路を経て投与できる。
【0024】
本発明の免疫調節剤は、上記した本発明の免疫調節組成物を有効成分として含むものである。有効成分の含有量としては、摂取する対象者の年齢、体重などによって変わり得るが、成人1日あたり0.01〜100mg/kg服用できるように含有するのが好ましく、さらに0.1〜10mg/kgが好ましく、0.5〜5mg/kgが最も好ましい。
【0025】
本発明の免疫調節剤に含まれる各種添加剤としては、界面活性剤、賦形剤、着色料、保存料、コーティング助剤ならびにこれらの組合せが挙げられる。これら添加剤は、通常の医薬品製造における添加剤であれば特に限定されず、より具体的な例としては、ラクトース、デキストリン、スクロース、マンニトール、コーンスターチ、ソルビトール、結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、デキストリン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩、ステアリン酸及びその塩、タルクなどの添加剤であり、これらの組合せが挙げられる。さらに、香辛料、甘味料などを添加してもよい。またさらに、必要に応じて他の薬剤や食品粉砕物、食品抽出物を添加してもよい。
【0026】
本発明の免疫調節剤の投与剤形も特に限定されず、日本薬局方に従って適切な剤形に製造される。具体的には、カプセル剤、錠剤、粉剤、除放剤などの剤形に製造される。
【0027】
本発明の免疫調節活性を有する飲食品は、上記した本発明の免疫調節活性を有する組成物を含有するものである。有効成分の含有量は1日あたりの摂取量が0.01〜100mg/kgになるようそれぞれの飲食品の形態に合わせて設定すればよく、さらには0.1〜10mg/kgが好ましく、0.5〜5mg/kgが最も好ましい。
【0028】
本発明の免疫調節活性を有する飲食品は、上記した免疫調節組成物を含むものである。本発明の飲食品に混合され得る他の材料としては、一般に食品用材料として使用され得るものが挙げられる。例としては、米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、昆布などから得られる多糖類、大豆や乳製品、動物原料などから得られるタンパク質、グルコース、ラクトース、フルクトース、スクロース、マンニトール、キシリトールや各種オリゴ糖などの糖類、ならびにこれらの組合せが挙げられる。さらに、香辛料、着色料、甘味料、酸味料、食用油、ビタミンや他の食品破砕物、食品抽出物などを添加してもよい。これら適切な材料及び添加剤は単独又は組合せて使用される。またさらに、必要に応じて水を添加して所望の形状に加工してもよい。また本発明の免疫調節活性を低下させない限りにおいては、免疫調節活性を有すると考えられる他の食品素材、例えばキノコ類由来のベータグルカンや、乳酸菌などを添加しても問題はない。
【0029】
飲食品の具体例としては、菓子類(ガム、キャンディー、キャラメル、チョコレート、クッキー、スナック菓子、ゼリー、グミ、錠菓等)、麺類(そば、うどん、ラーメン等)、乳製品(ミルク、アイスクリーム、ヨーグルト等)、調味料(味噌、醤油等)、スープ類、飲料(ジュース、コーヒー、紅茶、茶、炭酸飲料、スポーツ飲料等)をはじめとする一般食品や健康食品(錠剤、カプセル等)、栄養補助食品(栄養ドリンク等)などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、インスタント食品に本発明の抽出物を添加してもよい。例えば、抽出物を粉末セルロースとともにスプレードライまたは凍結乾燥したものを、粉末、顆粒、打錠又は溶液にすることで容易に飲食品に含有させることができる。
【0030】
本発明の免疫調節活性を有する飼料は、上記した本発明の免疫調節組成物を含有するものであり、すべての家畜や家禽、愛玩動物に適用することが可能である。本発明の飼料を適用し得る家畜や家禽類としては、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ等の家畜、ニワトリ、七面鳥、カモ、ウズラ等の産業上飼育する動物のことである。また本発明を適用しうる愛玩動物とは犬、猫、ハムスターや小型の鳥類等の個人の趣味で飼育する動物や鳥類のことである。飼料組成物としてこれ単独で投与しても良く、さらには飼料 に直接添加しても良く、この使用形態は特に限定されない。飼料 に添加する場合、添加方法、添加時期等は特に限定されるものではない。
【0031】
本発明の飼料に含まれる有効成分の含有量は、1日あたりの有効成分の給餌量として0.01〜100mg/kgになるようそれぞれの飼料の形態に合わせて設定すればよく、さらには0.1〜10mg/kgが好ましく、0.5〜5mg/kgが最も好ましい。
【0032】
本発明の飼料に混合され得る他の材料としては、例えばトウモロコシ、マイロ、大豆、大豆粕、小麦、大麦、米、燕麦、魚粉、脱脂粉乳、ビートパルプペレット、ふすまペレット、グレインスクリーニングペレット、アルファルファペレット、タピオカペレット、コーンコブミール、コットンハルペレット、甘藷チップ、ホミニフィード、ビール粕、ヘイキューブ、ミニキューブ、アルファルファ ベールドヘイ、スーダングラス、稲わら、ライグラスストロー、フェスキューストロー、バミューダストロー、チモシーヘイ、オーツヘイ、糖蜜、ルーピン、カノーラ、菜種粕、綿実、コーングルテンミール、コーングルテンフィード、ソイハルペレット、ホエイパウダー、ビール酵母、コレステロールなどのほか、薬学的に許容され得るビタミン類やミネラル類、飼料添加物、動物医薬品などが挙げられ、特に限定されるものではない。
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、何らこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
<菌体外水溶性へテロ多糖の回収及び精製方法>
アセトバクター・トロピカリスSKU1100野生株、及びアセトバクター・トロピカリスSKU1100のPel-株(野生株の多糖合成遺伝子オペロンのpolE遺伝子が欠損した遺伝子組換体)、ΔgalE株をYPG液体培地で数日間培養後、その培養液を遠心分離(9,000 X g, 10 min)して菌体を除いた培養上清を得た。この培養上清に2倍量のイソプロピルアルコールを添加して、-20℃で24 時間放置した後(4℃で一晩放置でもよい)、遠心分離(8,000 X g, 30 min)で沈殿を回収した。この沈殿を少量の蒸留水に懸濁し、25 mM Tris-Hcl (pH 8.5) に対して透析した。この透析液を遠心(9,000 X g, 10 min)の後、同じ緩衝液で平衡化したDEAE-セルロースカラムにかけ、その素通り画分を得た。この画分を上述したようにイソプロピルアルコールで沈殿させ、少量の0.1%SDSを含む0.1 M NaClに懸濁し、ゲル濾過(Sephacryl S-400)カラムにかけ、同じ溶液で溶出した。目的の多糖を含むピーク画分を合わせて、凍結乾燥して最終精製多糖とした。
【0035】
〔参考例〕
<菌膜結合型へテロ多糖の回収・精製方法>
アセトバクター・トロピカリスSKU1100株をYPG液体培地(0.5%グルコース、0.5%ポリペプトン、1%グリセロール)にて30℃で数日間静置培養後に菌体を集菌し、リン酸緩衝液で洗浄の後、同じ緩衝液に懸濁した。得られた菌体懸濁液を最大出力で超音波処理を10分間ほど施し、その後、遠心分離により、上澄みを回収し、さらに超遠心分離(150,000 X g, 90 min)にかけた。この超遠心分離の上澄みに、DNase と RNase をそれぞれ 50μg/ml になるように加えて、37℃で24時間処理し、引続き、プロテアーゼ(Proteinase K)を最終濃度が 0.1 mg/ml になるように添加し、24時間37℃にて放置した。この溶液を0.1%SDSを含む蒸留水に対して24時間透析後、この透析液を遠心分離で沈殿を除き、上澄みに2倍量のイソプロピルアルコールを添加して、-20℃で24 時間放置した後(4℃で一晩放置でもよい)、遠心分離(8,000 X g, 30 min)で沈殿を回収した。この沈殿(粗多糖 画分)を少量の蒸留水に懸濁し、超遠心分離(150,000 X g, 90 min)で沈殿を除いた後、ゲル濾過(Superdex S-200)カラムにチャージした。カラムは0.1%SDSを含む0.1 M NaCl 溶液で溶出し、目的の多糖を含むピーク画分を合わせて、凍結乾燥して最終精製多糖とした。
【0036】
<免疫調節作用の測定方法>
Balb/cマウス雌性6週齢(日本チャールスリバー)に2mgの水酸化アルミニウムゲルに20μgのOVAを吸収させた生理食塩水溶液200μlを腹腔内投与し、10日目に脾臓を回収した。脾臓細胞を回収・調整し、20%FBSを含むRPMI−1640培養液に懸濁し、100μg/mlのOVA共存下でアセトバクター・トロピカリスSKU1100株の菌膜結合型及び水溶性へテロ多糖を10μg/mlとなるように添加して共培養した。7日後、培養上清を回収し、IFN-ガンマをELISA法で定量した。(n=3)
【0037】
アセトバクター・トロピカリスSKU1100株の産生する多糖のIFN-ガンマ誘導活性を図1に示した。結果、アセトバクター・トロピカリスSKU1100株の野生株及びPel-株が産生する菌体外水溶性へテロ多糖(グルコース、ラムノース、ガラクトースから構成、分子量40万以上)は、ネガティブコントロールに対して33倍以上のIFN-ガンマ誘導活性が、ΔgalE株が産生する菌体外水溶性へテロ多糖(グルコースとラムノースから構成、分子量40万)はネガティブコントロールに対して20.5倍のIFN-ガンマ誘導活性が見出された。一方、野生株の膜結合型へテロ多糖(グルコース、ラムノース、ガラクトースから構成、分子量12万)にはIFN-ガンマ誘導活性は見出されず、強いIFN-ガンマ誘導活性は水溶性多糖特有のものであった。なお、この菌株はNBRCへの寄託を行っており、その受託番号はNBRC101654である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明におけるアセトバクター・トリピカリスの菌体外水溶性へテロ多糖は、免疫調節作用を有する医薬品や飲食品あるいは飼料として利用可能である。したがって、本発明は食品産業や医薬品産業、飼料産業に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】アセトバクター・トロピカリスSKU1100株が産生する水溶性へテロ多糖のIFN-ガンマ産生誘導活性の比較を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトバクター・トロピカリス(Acetobactor tropicalis)を培養することにより、該菌が菌体外に生産する水溶性ヘテロ多糖を含有することを特徴とする免疫調節組成物。
【請求項2】
アセトバクター・トロピカリス(Acetobactor tropicalis)が、アセトバクター・トロピカリス(Acetobactor tropicalis)SKU1100株(寄託菌株番号NBRC101654)であることを特徴とする請求項1記載の免疫調節組成物。
【請求項3】
水溶性へテロ多糖が、少なくともグルコース及びラムノースから構成されることを特徴とする請求項1又は2記載の免疫調節組成物。
【請求項4】
水溶性ヘテロ多糖が、分子量40万以上である請求項1〜3のいずれかに記載の免疫調節組成物。
【請求項5】
免疫調節が、免疫細胞のインターフェロン−ガンマ産生誘導であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の免疫調節組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の組成物を有効成分として含有することを特徴とする免疫調節剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の組成物を有効成分として含有し、免疫調節活性を有することを特徴とする飲食品。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の組成物を有効成分として含有し、免疫調節活性を有することを特徴とする飼料。


【図1】
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【公開番号】特開2007−290978(P2007−290978A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117944(P2006−117944)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】