説明

酵母の脱苦味処理装置及び脱苦味処理方法

【課題】発酵工程後に回収した泥状酵母の脱苦味処理能力を向上させることができる酵母の脱苦味処理装置を提供する。
【解決手段】発酵工程後に回収した泥状酵母から苦味物質を除去する酵母の脱苦味処理装置10において、泥状酵母を保管する泥状酵母タンク11と、泥状酵母タンク11から取り出された泥状酵母とアルカリ水溶液とを混合することにより泥状酵母に対する脱苦味を行う脱苦味装置12、13と、脱苦味後の酵母のデッケ分を除去するデッケ除去手段としての振動式ふるい機14とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵工程後に回収した泥状酵母の苦味物質を除去する酵母の脱苦味処理装置及び脱苦味処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビール・発泡酒等の発泡性麦芽飲料や雑酒等のビール様飲料の製造工程内での発酵工程後に回収された酵母は、余剰酵母として乾燥酵母や酵母エキスの原料にされ、その含有たんぱく質、ビタミン等の有価物に着目して、調味料・健康食品等の食品、医薬品、動物飼料等として利用されている。しかし、余剰酵母は発酵工程後に回収された酵母であるため、発泡性麦芽飲料やビール様飲料の原料であるホップ樹脂等が付着しており、苦味が強いという特徴がある。酵母から苦味物質を除去する方法としては、酵母をアルカリ水溶液で洗浄する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。その他に、余剰酵母をエタノール溶液に接触させて脱苦味処理する方法、余剰酵母を水蒸気蒸留、又は水蒸気蒸留と有機溶剤処理とによって脱苦味処理する方法も知られている(例えば特許文献2、3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開昭55−162983号公報
【特許文献2】特開昭61−31083号公報
【特許文献3】特開昭63−22177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のアルカリ水溶液を用いた脱苦味処理方法では、発酵工程後に泥状状態で回収された酵母(泥状酵母)を振動式ふるい機にかけてデッケ分を除去し、その後にアルカリ水溶液を酵母に添加して脱苦味を行っている。この方法では、デッケ分の除去時の泥状酵母のろ過性が悪いため、振動式ふるい機のメッシュ径を細かく設定することができない。このため、細かいデッケ分を除去することが困難であった。
【0005】
本発明は、発酵工程後に回収した泥状酵母の脱苦味処理能力を向上させることが可能な酵母の脱苦味処理装置及び脱苦味処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の酵母の脱苦味処理装置(10)は、発酵工程後に回収した泥状酵母から苦味物質を除去する酵母の脱苦味処理装置であって、前記泥状酵母を保管する保管タンク(11)と、前記保管タンクから取り出された泥状酵母とアルカリ水溶液とを混合することにより前記泥状酵母に対する脱苦味を行う脱苦味手段(12、13)と、前記脱苦味後の酵母のデッケ分を除去するデッケ除去手段(14)とを備えることにより、上述した課題を解決する。また、本発明の酵母の脱苦味処理方法は、発酵工程後に回収した泥状酵母から苦味物質を除去する酵母の脱苦味処理方法であって、前記泥状酵母とアルカリ水溶液とを混合することにより前記泥状酵母に対する脱苦味を行う脱苦味工程と、前記脱苦味後の酵母のデッケ分を除去するデッケ除去工程とを備えることにより、上述した課題を解決する。
【0007】
本発明の脱苦味処理装置及び脱苦味処理方法によれば、発酵工程後に回収した泥状酵母からデッケ分を除去する前に、その泥状酵母とアルカリ水溶液とを混合しているので、泥状酵母がアルカリ水溶液中に分散され、デッケ除去時における酵母とデッケ分との分離性あるいは濾過性が改善される。これにより、泥状酵母からデッケ分を効率よく除去して脱苦味処理能力を向上させることができる。
【0008】
本発明の一形態においては、デッケ除去手段が振動式ふるい機(14)であってもよい。さらに、その振動式ふるい機のふるいのメッシュ径が#60又はそれよりも細かいものとしてもよい。これにより、デッケ分を酵母から効率よくかつ確実に分離して、脱苦味処理能力を顕著に高めることができる。
【0009】
さらに、前記デッケ分が除去された酵母の冷水による洗浄及び脱水を実施するアルカリ成分除去手段(15、16、17、18)を備えてもよい。この場合は、酵母に加えられたアルカリ成分を水洗して、酵母色の変色を抑えることができる。
【0010】
なお、以上の説明では本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記したが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0011】
以上に説明したように、本発明の脱苦味処理装置及び脱苦味処理方法によれば、泥状酵母からのデッケ除去に先立って、泥状酵母にアルカリ水溶液を添加するため、従来よりも細かいデッケ分を除去することが可能となり、泥状酵母の脱苦味処理能力を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明の一形態に係る酵母の脱苦味処理装置を示す。脱苦味処理装置10は、酵母の脱苦味処理の順序に従って、保管タンクとしての泥状酵母タンク11と、炭酸ナトリウム溶解タンク12と、第1の操作タンク13と、振動式ふるい機14と、第2の操作タンク15と、第1の遠心分離機16と、第3の操作タンク17と、第2の遠心分離機18と、脱苦味泥状酵母タンク19とを備えている。以下、これらの構成について、脱苦味処理の手順とともに説明する。
【0013】
泥状酵母タンク11は、例えば、ビール・発泡酒等の発泡性麦芽飲料や雑酒等のビール様飲料の製造工程内での発酵工程後に回収された泥状酵母を保管する。脱苦味処理のために保管される酵母は、デッケ分が付着した酵母であれば、ビール酵母・発泡酒酵母といった発泡性麦芽飲料用酵母、雑酒等のビール様飲料用酵母に限定されるものではなく、ワイン酵母、パン酵母、清酒酵母、ウイスキー酵母、その他の醸造用酵母等いずれでもよい。ビール酵母としては、例えばサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等がある。泥状酵母は、できるだけ10°C前後で保管することが好ましい。一方、炭酸ナトリウム溶解タンク12は、アルカリ水溶液として所定濃度の炭酸ナトリウム水溶液を保管する。固形炭酸ナトリウムを水に溶解すると経時的に分解するため、炭酸ナトリウム溶解タンク12では、一日の処理で使用される量の固形炭酸ナトリウムが投入されて水による溶解作業が行われる。但し、炭酸ナトリウムは常温の水では溶解し難いため、炭酸ナトリウム溶解タンク12にはまず40°C程度の温水が導入されて固形炭酸ナトリウムが溶解され、その後に常温の水が炭酸ナトリウム溶解タンク12に導入されて溶液が所定濃度に希釈される。泥状酵母タンク11に投入される泥状酵母の量が一日辺り25KL(キロリットル)の場合、250gの固形炭酸ナトリウムが2.5mの水により溶解される。この場合、炭酸ナトリウム溶解タンク12の容量は3m程度でよい。
【0014】
第1の操作タンク13は、泥状酵母タンク11から取り出された泥状酵母が投入される。その泥状酵母には、炭酸ナトリウム溶解タンク12に保管された炭酸ナトリウム水溶液が添加される。これにより、操作タンク13内において泥状酵母が炭酸ナトリウム水溶液中に分散され、後述するデッケ処理時における濾過性が改善される。添加する炭酸ナトリウム水溶液の量は適宜に設定してよいが、例えば泥状酵母10KLにつき炭酸ナトリウムを100kgを添加する。添加後は、泥状酵母と炭酸ナトリウム水溶液とを撹拌するとよい。
【0015】
第1の操作タンク13にて所定時間(例えば1.5時間)洗浄された泥状酵母は、続いて振動式ふるい機14に供給される。振動式ふるい機14では、網目のメッシュ径が#60(目開250μm、線径φ0.173mm)のふるい上に泥状酵母が投入され、そのふるいに振動が与えられてデッケ分除去処理が行われる。これにより、泥状酵母のデッケ分(ホップ樹脂等)がふるいの網目上に捕捉され、デッケ分が除去された泥状酵母が網目を通過する。
【0016】
振動式ふるい機14にて濾過された泥状酵母は第2の操作タンク15に導入される。濾過後の泥状酵母には冷水が添加される。冷水は、振動式ふるい機14から第2の操作タンク15に泥状酵母を導く管路中で添加されてもよいし、あるいは、泥状酵母の導入に先行して、予め第2の操作タンク15に注入されてもよい。なお、冷水は滅菌処理されたものを用いる必要がある。第2の操作タンク15ではデッケ分が除去された泥状酵母と冷水とが撹拌されて泥状酵母が洗浄される。
【0017】
第2の操作タンク15で冷水により洗浄された泥状酵母は、続いて第1の遠心分離機16に供給される。遠心分離機16では、第2の操作タンク15にて洗浄された泥状酵母が遠心力を利用して脱水される。脱水後の酵母は第3の操作タンク17に導入される。第3の操作タンク17の酵母には冷水が添加される。冷水は、遠心分離機16から第3の操作タンク17に酵母を導く管路中で添加されてもよいし、あるいは、酵母の導入に先行して、予め第3の操作タンク17に注入されてもよい。第3の操作タンク17では脱水後の酵母が冷水と撹拌されて洗浄される。なお、冷水は滅菌処理されたものを用いる必要があり、その温度は10°C程度が望ましい。冷水の温度が高い(例えば30°C以上)であると、酵母重量の減少率が高くなるおそれがある。
【0018】
第3の操作タンク17による洗浄後は、再び酵母が遠心分離機16へ戻されて脱水され、脱水後の酵母は再び第3の操作タンク17に導入されて冷水により洗浄される。遠心分離機16及び第3の操作タンク17による処理が所定回数(例えば3〜4回)繰り返された後、第3の操作タンク17から取り出された酵母は第2の遠心分離機18に供給される。その遠心分離機18にて酵母の最終的な水分調整のための脱水処理が行われる。脱水処理後は、酵母のpHが検査される。pHが8.0未満であれば脱アルカリの洗浄が完了したものとして、脱水処理された酵母が脱苦味泥状酵母タンク19に導入される。pHが8.0以上であれば、第3の操作タンク17による洗浄を再び実施し、遠心分離機18にて脱水処理を行って再度pHを検査する。なお、炭酸ナトリウムが添加された酵母は茶褐色に変色するので、第3の操作タンク17から遠心分離機18に酵母を受け入れる際には、酵母色を確認することが望ましい。
【0019】
脱苦味泥状酵母タンク19に保管された酵母はその後適宜に取り出されて乾燥酵母製造設備、酵母エキス製造設備等へと送られる。
【0020】
以上に説明した酵母の脱苦味処理装置・方法によれば、振動式ふるい機14においてデッケ分を除去する前に、泥状酵母に炭酸ナトリウム水溶液を添加して酵母を分散させているので、振動式ふるい機14における目詰まりが生じ難く、ふるいのメッシュ径を#60の細かいサイズに設定することができる。炭酸ナトリウム水溶液を添加せずにデッケ分除去を先行させた場合には、ふるいのサイズが#32程度に制限される。これとの比較において、本形態によれば、デッケ除去量が約10倍、振動式ふるい機14のデッケ処理能力が約2倍に改善される。これにより、脱苦味処理能力を大幅に向上させることができる。
【0021】
また、上記の形態では、デッケ分の除去後、冷水を加えつつ遠心分離機で酵母を水洗しているので、アルカリ成分を直ちに除去して酵母色の変色を抑えることができる。また、冷水温度を適切に設定することにより、酵母重量の減少を抑えることができる。
【0022】
以上の形態では、炭酸ナトリウム溶解タンク12及び第1の操作タンク13が脱苦味手段に、振動式ふるい機14がデッケ除去手段に、第2の操作タンク15、第1の遠心分離機16、第3の操作タンク17及び第2の遠心分離機18の組み合わせがアルカリ成分除去手段にそれぞれ相当する。但し、本発明は上記の形態に限ることなく、適宜の形態にて実施してよい。例えば、泥状酵母に添加するアルカリ水溶液は炭酸ナトリウム水溶液に限らず、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液等でもよい。デッケ除去手段は振動式ふるい機に限らず、泥状酵母内に存在するデッケ分を除去できる限りにおいて適宜に変更可能である。振動式ふるい機14のふるいのメッシュ径は#60に限らず、これよりも小さい(細かい)ものでもよい。水洗手段は、泥状酵母の冷水による洗浄と脱水とを実施できる限り適宜の構成としてよい。第2の操作タンク15及び第3の操作タンク17は兼用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一形態に係る酵母の脱苦味処理装置の概要を示す図。
【符号の説明】
【0024】
10 脱苦味処理装置
11 泥状酵母タンク(保管タンク)
12 炭酸ナトリウム溶解タンク(脱苦味手段)
13 第1の操作タンク(脱苦味手段)
14 振動式ふるい機(デッケ除去手段)
15 第2の操作タンク(アルカリ成分除去手段)
16 第1の遠心分離機(アルカリ成分除去手段)
17 第3の洗浄タンク(アルカリ成分除去手段)
18 第2の遠心分離機(アルカリ成分除去手段)
19 脱苦味泥状酵母タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵工程後に回収した泥状酵母から苦味物質を除去する酵母の脱苦味処理装置において、
前記泥状酵母を保管する保管タンクと、前記保管タンクから取り出された泥状酵母とアルカリ水溶液とを混合することにより前記泥状酵母に対する脱苦味を行う脱苦味手段と、前記脱苦味後の酵母のデッケ分を除去するデッケ除去手段と、を備えたことを特徴とする酵母の脱苦味処理装置。
【請求項2】
前記デッケ除去手段が振動式ふるい機であることを特徴とする請求項1に記載の酵母の脱苦味処理装置。
【請求項3】
前記振動式ふるい機のふるいのメッシュ径が#60又はそれよりも細かいことを特徴とする請求項2に記載の酵母の脱苦味処理装置。
【請求項4】
前記デッケ分が除去された酵母の冷水による洗浄及び脱水を実施するアルカリ成分除去手段を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の酵母の脱苦味処理装置。
【請求項5】
発酵工程後に回収した泥状酵母から苦味物質を除去する酵母の脱苦味処理方法において、
前記泥状酵母とアルカリ水溶液とを混合することにより前記泥状酵母に対する脱苦味を行う脱苦味工程と、前記脱苦味後の酵母のデッケ分を除去するデッケ除去工程とを備えたことを特徴とする酵母の脱苦味処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−131881(P2008−131881A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320225(P2006−320225)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【Fターム(参考)】