説明

酵素含浸方法及び食品製造方法

【課題】本発明は、食品に酵素を短時間で含浸することが可能な酵素含浸方法及び、当該酵素含浸方法を用いて高齢者、咀嚼困難者、嚥下困難者等に適した食品を製造する食品製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明に係る酵素含浸方法は、食品1を構成する組織を分解するための酵素を、食品1に含浸する方法である。当該酵素含浸方法は、食品1を、過熱水蒸気発生装置2の過熱水蒸気を用いて乾燥する工程と、乾燥させた食品1を、酵素を含有する溶液3に浸して減圧ポンプ6で減圧する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素含浸方法及び食品製造方法に関し、特に、高齢者、咀嚼困難者、嚥下困難者等に適した食品を製造するための酵素含浸方法及び食品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化社会の進展に伴い、加齢又は脳梗塞等の後遺症による咀嚼困難者、嚥下困難者等が増加している。従来、高齢者、咀嚼困難者、嚥下困難者等に提供する食品には、咀嚼困難者、嚥下困難者等が食べやすいように食品を切り刻んでトロミを付けた液をかけた食品や、食品をミキサーに掛けてペースト状に製造した食品がほとんどであった。
【0003】
しかし、食品を切り刻んでトロミを付けた液をかけた食品や、食品をミキサーに掛けてペースト状に製造した食品は、食品が自然な形状や色調を保持しておらず、咀嚼困難者、嚥下困難者等が食品内容を認識することができず、唾液の分泌が少なくなり、食欲が湧かなくなる。そのため、一日に必要なカロリーを摂取し難くなるという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献1では、食品を凍結、解凍した後に、減圧下で食品を構成する組織(例えば、細胞組織、細胞間の結合組織等)を分解するための酵素を食品に含浸する酵素含浸方法が開示されている。また、特許文献2では、食品を構成する組織を分解するための酵素を含む溶液中に食品を浸け、1.04〜50気圧以下で加圧処理して食品に酵素を含浸する酵素含浸方法が開示されている。特許文献1又は特許文献2に記載の酵素含浸方法を用いて食品に酵素を含浸して、食品を構成する組織を分解することで、自然な形状や色調を保持しながら、口腔内においては歯茎や舌で押し潰すことが可能な食品を製造することができる。特許文献1又は特許文献2に記載の酵素含浸方法を用いて製造した食品は、自然な形状や色調を保持しながら、口腔内においては歯茎や舌で押し潰すことが可能であるため、高齢者、咀嚼困難者、嚥下困難者等が食品内容を認識することができ、唾液の分泌が多くなり、食欲が湧き、一日に必要なカロリーを摂取し易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−284522号公報
【特許文献2】特開2004−89181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、食品を凍結、解凍しなければならず、食品に酵素を含浸するための時間が長くなるという問題があった。特に、食品は、急速凍結するよりも緩慢凍結する方が細胞膜を破壊するため、含有している水分がより食品外に漏出する。そのため、食品に酵素を効率良く含浸するには、急速凍結を行うのではなく緩慢凍結を行う必要があり、食品に酵素を含浸するためにかかる時間がさらに長くなる。
【0007】
また、特許文献1では、酵素の活性を停止させないように食品を解凍するため、温度を酵素活性温度(例えば65度)以下にしなければならず、食品は、一般細菌や食中毒菌等が繁殖する温度(10℃〜40℃)に保持されている時間が長くなる。したがって、食品に酵素を含浸する間に、一般細菌や食中毒菌等が繁殖する危険性がある。そのため、特許文献1に記載の酵素含浸方法は、食品を製造する際の管理手法であるHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)やISO22000に基づく管理が必要な調理場や工場において採用することが困難な方法であるという問題があった。
【0008】
さらに、特許文献2に記載の酵素含浸方法は、加圧処理のみで食品に酵素を含浸するので、食品の種類(植物性食品(キノコ素材を含む)及び動物性食品)によっては食品の内部にまで酵素を含浸するためにかかる時間が長くなるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、食品に酵素を短時間で含浸することが可能な酵素含浸方法及び、当該酵素含浸方法を用いて高齢者、咀嚼困難者、嚥下困難者等に適した食品を製造する食品製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために第1発明に係る酵素含浸方法は、食品を構成する組織を分解するための酵素を、前記食品に含浸する酵素含浸方法であって、前記食品を、過熱水蒸気を用いて乾燥する工程と、乾燥させた前記食品を、前記酵素を含有する溶液に浸して減圧する工程とを含む。
【0011】
また、第2発明に係る酵素含浸方法は、第1発明において、前記食品は、少なくとも植物性食品及び動物性食品のいずれか一方を含む。
【0012】
また、第3発明に係る酵素含浸方法は、第2発明において、前記食品に前記植物性食品が含まれている場合、前記酵素を含有する溶液は、フェルラ酸又はフェルラ酸の塩類、キレート作用を有する物質のうち、少なくとも1種を含有する。
【0013】
また、第4発明に係る酵素含浸方法は、第3発明において、前記酵素は、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、マセレイチィングエンザイム、キシラナーゼ、マンナナーゼ、キチナーゼ、グルカナーゼ、カタラーゼ、α−ガラクトシダーゼ、ラッカーゼ、フィターゼ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、中性プロテアーゼ、中性ペプチダーゼ、リパーゼ、ホリホリパーゼのうち、少なくとも1種を含む。
【0014】
また、第5発明に係る酵素含浸方法は、第3又は第4発明において、前記キレート作用を有する物質は、クエン酸、乳酸、シュウ酸、グリシンのうち、少なくとも1種を含む。
【0015】
また、第6発明に係る酵素含浸方法は、第2発明において、前記食品に前記植物性食品が含まれ、前記植物性食品がキノコ素材である場合、前記酵素は、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素を含む。
【0016】
また、第7発明に係る酵素含浸方法は、第2発明において、前記食品に前記動物性食品が含まれている場合、前記酵素は、タンパク質分解酵素を含む。
【0017】
また、第8発明に係る酵素含浸方法は、第2又は第7発明において、前記食品に前記動物性食品が含まれている場合、乾燥させた前記食品を、所定の湿度及び温度の雰囲気下で湿潤する工程を含み、湿潤させた後に、前記酵素を含有する溶液に浸して減圧する。
【0018】
また、第9発明に係る酵素含浸方法は、第2、第7、第8発明のいずれか一つにおいて、前記食品に前記動物性食品が含まれている場合、前記食品を、過熱水蒸気を用いて乾燥する前に、前記動物性食品の表面に前記酵素を含有する溶液又は粉体を塗布する工程を含む。
【0019】
また、第10発明に係る酵素含浸方法は、第2乃至第9発明のいずれか一つにおいて、前記酵素を含有する溶液は、増粘剤を含有する。
【0020】
また、第11発明に係る酵素含浸方法は、第10発明において、前記増粘剤は、アルギン酸塩、ペクチン、キサンタンガム、グァーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、グルコマンナン、カードラン、デンプン、αーデンプンのうち、少なくとも1種を含む。
【0021】
また、第12発明に係る酵素含浸方法は、第2乃至第11発明のいずれか一つにおいて、前記酵素を含有する溶液は、トレハロースを含有する。
【0022】
また、第13発明に係る酵素含浸方法は、第2乃至第12発明のいずれか一つにおいて、前記酵素を含有する溶液は、前記食品に対して強化する成分を含有する。
【0023】
また、第14発明に係る酵素含浸方法は、第2乃至第13発明のいずれか一つにおいて、前記酵素を含有する溶液は、グリセリンを含有する。
【0024】
また、第15発明に係る食品製造方法は、第1乃至第14発明のいずれか一つの酵素含浸方法を用いて、前記食品に前記酵素を含浸する工程と、含浸した前記酵素を前記食品に対して作用させ、前記食品を構成する組織を分解する工程と、所定の時間経過後、前記食品に対する前記酵素の作用を停止させる工程とを含む。
【0025】
また、第16発明に係る食品製造方法は、第15発明において、前記食品に対する前記酵素の作用を停止させた後に、前記食品を凍結する工程を含む。
【0026】
第1発明では、過熱水蒸気を用いて乾燥させた食品を、酵素を含有する溶液に浸して減圧することで食品に酵素を含浸するので、食品を凍結、解凍することなく過熱水蒸気を用いて短時間に乾燥することが可能となり、食品に酵素を含浸する時間を短縮することができる。また、過熱水蒸気を用いて食品を乾燥するので、食品に一般細菌、食中毒菌等が存在していても殺菌することができ、HACCPやISO22000に基づく管理が必要な調理場や工場でも採用することが可能になる。さらに、過熱水蒸気を用いて食品を乾燥するので、食品を低酸素状態で加熱することができ、食品の風味や自然な形状、色調が失われにくく、酸化している食品の切り口を還元することで、新鮮な切り口を維持することもできる。
【0027】
第2発明では、食品は、少なくとも植物性食品及び動物性食品のいずれか一方を含み、食品の種類(植物性食品(キノコ素材を含む)及び動物性食品)に関わらず短時間で食品に酵素を含浸することができる。例えば、植物性食品と、動物性食品とを一緒に調理した後に、酵素を含浸する。
【0028】
第3発明では、食品に植物性食品が含まれている場合、酵素を含有する溶液は、フェルラ酸又はフェルラ酸の塩類、キレート作用を有する物質のうち、少なくとも1種を含有するので、植物性食品にフェルラ酸又はフェルラ酸の塩類を含浸することで植物性食品の退色を防止し、植物性食品にキレート作用を有する物質を含浸することで、キレート作用を有する植物性食品を製造することができる。
【0029】
第4発明では、酵素は、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、マセレイチィングエンザイム、キシラナーゼ、マンナナーゼ、キチナーゼ、グルカナーゼ、カタラーゼ、α−ガラクトシダーゼ、ラッカーゼ、フィターゼ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、中性プロテアーゼ、中性ペプチダーゼ、リパーゼ、ホリホリパーゼのうち、少なくとも1種を含むことにより、植物性食品を構成する組織を分解することができる。
【0030】
第5発明では、キレート作用を有する物質は、クエン酸、乳酸、シュウ酸、グリシンのうち、少なくとも1種を含むことにより、キレート作用を有する植物性食品を製造することができる。
【0031】
第6発明では、食品に植物性食品が含まれ、植物性食品がキノコ素材である場合、酵素は、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素を含むことにより、キノコ素材を構成する組織を分解することができる。
【0032】
第7発明では、食品に動物性食品が含まれている場合、酵素は、タンパク質分解酵素を含むことにより、動物性食品を構成する組織を分解することができる。
【0033】
第8発明では、食品に動物性食品が含まれている場合、乾燥させた食品を、所定の湿度及び温度の雰囲気下で湿潤させた後に、酵素を含有する溶液に浸して減圧することにより、食品に酵素を効率良く含浸することができる。
【0034】
第9発明では、食品に動物性食品が含まれている場合、食品を、過熱水蒸気を用いて乾燥する前に、動物性食品の表面に酵素を含有する溶液又は粉体を塗布することにより、動物性食品の表面を構成する組織を予め分解して、食品に酵素を効率良く含浸することができる。
【0035】
第10発明では、酵素を含有する溶液は、増粘剤を含有することにより、食品に増粘剤を含浸することができ、唾液等による食品のまとまり感が向上して嚥下時に適度な速度で咽頭を通過させることが可能となる。
【0036】
第11発明では、増粘剤は、アルギン酸塩、ペクチン、キサンタンガム、グァーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、グルコマンナン、カードラン、デンプン、αーデンプンのうち、少なくとも1種を含むことにより、唾液等による食品のまとまり感が向上して嚥下時に適度な速度で咽頭を通過させることが可能となる。
【0037】
第12発明では、酵素を含有する溶液は、トレハロースを含有することにより、食品にトレハロースを含浸することができ、食品の栄養成分の分解を抑制し、糊化したデンプンが水に不溶性となり、部分的に天然デンプンの状態に戻るデンプンの老化(β化)を抑制し、耐冷性が向上した食品を製造することが可能となる。
【0038】
第13発明では、酵素を含有する溶液は、食品に対して強化する成分を含有することにより、食品に対して強化する成分を食品に含浸することができ、自然の食品では十分摂取することができない栄養成分等を含浸した食品を製造することが可能になる。
【0039】
第14発明では、酵素を含有する溶液は、グリセリンを含有することにより、食品にグリセリンを含浸することができ、含浸したグリセリンにより食品がマスキングされ風味の劣化を抑制することが可能となる。また、グリセリンの浸透圧を利用して、食品に酵素を効率良く含浸することができる。
【0040】
第15発明では、第1乃至第14発明のいずれか一つの酵素含浸方法を用いて、食品に含浸した酵素を食品に対して作用させ、食品を構成する組織を分解し、所定の時間経過後、食品に対する酵素の作用を停止させることにより、高齢者、咀嚼困難者、嚥下困難者等に適した食品を製造することができる。
【0041】
第16発明では、食品に対する酵素の作用を停止させた後に、食品を凍結することにより、長期保存が可能な、高齢者、咀嚼困難者、嚥下困難者等に適した食品を製造することができる。また、食品の凍結、解凍を繰り返して行う必要がないため、食品の自然な形状や色調を保持することができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明は、過熱水蒸気を用いて乾燥させた食品を、酵素を含有する溶液に浸して減圧することで食品に酵素を含浸するので、食品を凍結、解凍することなく過熱水蒸気を用いて短時間に乾燥することが可能となり、食品に酵素を含浸する時間を短縮することができる。また、本発明の酵素含浸方法を用いて、食品に含浸した酵素を食品に対して作用させ、食品を構成する組織を分解し、所定の時間経過後、食品に対する酵素の作用を停止させることにより、高齢者、咀嚼困難者、嚥下困難者等に適した食品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本実施の形態1に係る酵素含浸方法及び食品製造方法に用いる装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本実施の形態1に係る酵素含浸方法及び食品製造方法を示すフローチャートである。
【図3】本実施の形態1〜3に係る酵素含浸方法及び食品製造方法の具体例のパラメータをまとめた図表である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明に係る高齢者、咀嚼困難者、嚥下困難者等に適した食品とは、口腔内においては歯茎や舌で押し潰すことが可能な食品である。口腔内においては歯茎や舌で押し潰すことが可能な食品のかたさとは、「高齢者用食品の表示許可の取扱いについて(平成6年2月23日、衛新第15号、厚生省生活衛生局食品保健課新開発食品保健対策室長通知)」の記載に基づき、5×104 N/m2 以下の圧縮応力で潰せる食品のかたさである。また、本発明に係る高齢者、咀嚼困難者、嚥下困難者等に適した食品は、自然な形状や色調を保持していることが好ましい。ここで、色調とは、色の配合、濃淡、強弱等の調子、色合いであり、食品の自然な色調とは、製造する前に食品の素材が本来有している色の配合、濃淡、強弱等の調子、色合いと略同等の色調をいう。さらに、本発明に係る高齢者、咀嚼困難者、嚥下困難者等に適した食品は、滑らかな食感を有していることが好ましい。ここで、滑らかとは、表面が平らですべすべしているさま、つるつるしているさま、すべりやすいさまであり、滑らかな食感を有する食品とは、口腔内に入れた際、表面のざらつきや付着を感じず、つるつるしている感覚を有し、舌上や咽頭において食品や咀嚼後の食塊がすべりやすい食品をいう。
【0045】
本発明に係る食品は、少なくとも植物性食品及び動物性食品のいずれか一方を含み、植物性食品は、例えば、穀類、芋類、でん粉類、豆類、種実類、野菜類、果実類、藻類、キノコ素材等で、動物性食品は、例えば、畜肉類、畜肉類の副生物、鶏肉類、鶏肉類の副生物、卵類、魚類、貝類、エビ、カニ類、イカ、たこ類、水産加工品、うに、くらげ、しゃこ、なまこ、ほや、鳩、フォアグラ、ホロホロ鳥、いなご、かえる、すっぽん、蜂の子等である。また、本発明に係る食品には、複数の植物性食品及び動物性食品を用いて調理した食品も含まれる。
【0046】
(実施の形態1)
本実施の形態1では、食品であるキノコ素材に、キノコ素材を構成する組織(例えば、細胞組織、細胞間の結合組織等)を分解するための酵素を含浸し、高齢者、咀嚼困難者、嚥下困難者等に適したキノコ素材を製造する方法について以下に説明する。なお、本実施の形態1で用いるキノコ素材は、例えばシイタケ等であり、調理されていない生の状態でも、調理された状態でも、ブランチング処理(例えば、沸騰した水道水の中で5分間加熱)されたものでもよく、乾物等の乾燥された状態であれば水や湯で戻して用いる。
【0047】
図1は、本実施の形態1に係る酵素含浸方法及び食品製造方法に用いる装置の構成を示すブロック図である。図1には、食品1(キノコ素材10、植物性食品20、動物性食品30)を乾燥するための過熱水蒸気発生装置2、酵素を含有する溶液3が入った容器4、容器4を密封する密封容器5、密封容器5の中を減圧する減圧ポンプ6を備える。過熱水蒸気発生装置2は、100℃〜350℃の常圧過熱水蒸気(以下、単に過熱水蒸気という)を発生することが可能な装置である。また、減圧ポンプ6は、真空バルブ7を介して密封容器5に接続され、密封容器5の中の圧力を500Pa〜20,000Paまで減圧することができる。減圧ポンプ6には、例えば真空冷却器、真空ニーダーや回転式真空タンク等の真空ポンプ、減圧ポンプ、アスピレーター等を用いることができる。
【0048】
過熱水蒸気発生装置2には、大きく分けてコンベアで搬送している食品を過熱水蒸気で乾燥するコンベア式開放型連続処理方式と、密閉した庫内に配置した食品を過熱水蒸気で乾燥する密閉型処理方式との2種あるが、100℃〜350℃の過熱水蒸気を発生して、食品1を乾燥することができればいずれの方式でも良い。過熱水蒸気発生装置2を用いて食品1を乾燥する場合、食品1は低酸素状態となるため、食品1の酸化を抑制することができる。また、他の乾燥法、例えば加熱乾燥、熱風乾燥、冷風乾燥、凍結乾燥、塩蔵、遠心分離、毛細管現象、油ちょう等に比べ、過熱水蒸気による食品1の乾燥は、食品1の自然な形状、色調を損なわず、風味を生かし、表面硬化が少なく、乾燥時間を短縮することができる。また、過熱水蒸気による食品1の乾燥は、食品1の殺菌も可能なため、HACCPやISO22000に基づく管理が必要な調理場や工場でも採用することが可能である。
【0049】
キノコ素材を構成する組織は、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素により分解することができるため、溶液3には、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素を含有する。キチン分解酵素は、例えば、Trichoderma属、Bacillus属、Aspergillus属由来の酵素で、具体的には市販されているキチナーゼ(エイチビィアイ株式会社製)等がある。また、タンパク質分解酵素は、例えば、パパイン、ブロメリン、アクチニジン等の植物由来の酵素、Bacillus属やAspergillus属等の微生物由来の酵素、ペプシンやパンクレアチン等の動物由来の酵素がある。溶液3に含有するキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素の濃度は、それぞれ0.05%〜10%程度が好ましい。
【0050】
図2は、本実施の形態1に係る酵素含浸方法及び食品製造方法を示すフローチャートである。図2に示すように、まず、食品1である生の状態のキノコ素材10又は乾物等の乾燥された状態のキノコ素材10を、水に入れて加熱又は蒸す等の準備を行う(準備工程SP1)。次に、過熱水蒸気発生装置2を用いて、準備工程SP1で準備したキノコ素材10を過熱水蒸気で、乾燥前のキノコ素材10の重量(新鮮重量)に対して略15%以上の水分をキノコ素材10から除去して乾燥する(乾燥工程SP2)。さらに、乾燥工程SP2で乾燥させたキノコ素材10を、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素を含有する溶液3に浸して、密封容器5の中を減圧ポンプ6を用いて減圧し、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素を含浸する(減圧工程SP3)。
【0051】
次に、減圧工程SP3でキチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素を含浸したキノコ素材10を所定の温度に加熱して、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素をキノコ素材10に対して作用させ、キノコ素材10を構成する組織(例えば、細胞組織、細胞間の結合組織等)を分解する(酵素作用工程SP4)。ここで、キノコ素材10を加熱する所定の温度とは、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素を活性化させる温度であり、例えば5℃〜60℃である。さらに、酵素作用工程SP4で酵素の作用を開始してから所定の時間経過後、酵素の作用が停止する温度までキノコ素材10を加熱(例えば、30分間程度加熱)して、キノコ素材10に対するキチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素の作用を停止させる(酵素停止工程SP5)。ここで、所定の時間とは、5×104 N/m2 以下の圧縮応力で潰せるかたさまでキノコ素材10を構成する組織を分解する時間であり、例えば1時間〜72時間である。また、酵素の作用が停止する温度とは、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素がキノコ素材10を構成する組織を分解する作用を停止する温度であり、例えば98℃である。
【0052】
酵素停止工程SP5でキチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素が作用を停止したキノコ素材10を急速に凍結する(凍結工程SP6)。なお、本実施の形態1に係る酵素含浸方法は、乾燥工程SP2及び減圧工程SP3の実施に対応する。本実施の形態1に係る食品製造方法は、乾燥工程SP2から酵素停止工程SP5まで、又は乾燥工程SP2から凍結工程SP6までの実施に対応する。
【0053】
キノコ素材10を構成する組織である複数の細胞は、細胞壁同士がキチン質により結合されている。そのため、本実施の形態1に係る酵素作用工程SP4では、細胞壁同士を結合しているキチン質をキチン分解酵素により加水分解する。さらに、本実施の形態1に係る酵素作用工程SP4では、キノコ素材10の細胞をタンパク質分解酵素により加水分解することで、キノコ素材10のかたさを調整している。ここで、キノコ素材10のかたさは、レオメーター(山電株式会社製、RE2−33005S)を用いてキノコ素材10を潰せる圧縮応力を測定することで評価する。具体的には、直径3mmのプランジャーで圧縮速度10mm/秒、クリアランスをキノコ素材10の厚み30%として、キノコ素材10を潰せる圧縮応力(N/m2 )を測定する。なお、測定する環境温度は、20±2℃である。
【0054】
また、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素を含有する溶液3に、増粘剤を含有しても良い。溶液3に増粘剤を含有することで、減圧工程SP3において、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素をキノコ素材10に含浸する際に、増粘剤もキノコ素材10に含浸することができる。キノコ素材10に増粘剤を含浸することで、キノコ素材10の自然な形状を保持しつつ、ゼリー状のつるつるした食感を呈することができ、唾液等によるキノコ素材10のまとまり感が向上して嚥下時に適度な速度で咽頭を通過させることが可能となる。また、誤嚥が防止され、気道口へ貼り付きにくいキノコ素材10を製造することができる。
【0055】
なお、溶液3に含有する増粘剤の濃度は、0.1%〜20%程度が好ましい。また、溶液3に含有する増粘剤は、比較的粘弾性を有するもの好ましく、例えば、アルギン酸塩、ペクチン、キサンタンガム、グァーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、グルコマンナン、カードラン、デンプン、αーデンプンのうち、少なくとも1種を含む。さらに、キノコ素材10に含浸する増粘剤の濃度は、増粘剤の種類やキノコ素材10の種類により調整する必要はあるが、例えば、アルギン酸塩であれば0.1%〜5%、ペクチンであれば0.05%〜5%、キサンタンガムであれば0.1%〜10%、グァーガムであれば0.1%〜5%、ローカストビーンガムであれば0.05%〜10%、カラギーナンであれば0.05%〜20%、グルコマンナンであれば0.02%〜5%、カードランであれば0.2%〜19%、デンプン及びαーデンプンであれば0.05%〜20%程度が好ましい。
【0056】
さらに、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素を含有する溶液3に、トレハロースを含有しても良い。溶液3にトレハロースを含有することで、減圧工程SP3において、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素をキノコ素材10に含浸する際に、トレハロースもキノコ素材10に含浸することができる。キノコ素材10にトレハロースを含浸することで、キノコ素材10の栄養成分の分解を抑制し、デンプンの老化を抑制し、キノコ素材10の風味、香り、色調の変化を抑制し、耐冷性を向上させる。さらに、トレハロースは二糖類から成る低分子の糖質でありながら極めて高い保水力を有することから、キチン分解酵素等のキノコ素材10への含浸を促進することができる。また、トレハロースは、増粘剤のキノコ素材10からの漏出を抑制することができる。なお、キノコ素材10にトレハロースを含浸することで耐冷性が向上するのは、トレハロースがキノコ素材10の多糖類から成る高次構造を保持する作用を有するからであり、凍結したキノコ素材10を解凍した際に、キノコ素材10からの水分の漏出を抑制し、キノコ素材10の自然な形状を保持することができる。
【0057】
溶液3に含有するトレハロースの濃度は、0.1%〜10%程度が好ましい。また、トレハロースは、増粘剤とともに溶液3に含有することで、キノコ素材10の自然な形状や色調を保持することができ、高齢者、咀嚼困難者、嚥下困難者等に対して官能的に美味しさを引き出すことが可能となる。
【0058】
さらに、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素を含有する溶液3に、キノコ素材10に対して強化する成分を含有しても良い。ここで、キノコ素材10に対して強化する成分として、糖質、タンパク質、脂質、食物繊維、ビタミン、ミネラル、アルギニン、グルタミン等のアミノ酸、又はその分解物質等に限定されるものではなく、ポリフェノール、カロテノイド、含硫化合物、テルペン、β−グルカン等の機能性成分、甘味、塩味、苦味、酸味、辛味のうち、少なくとも1種類の味を呈する調味料(呈味成分)、その他食品添加物、薬効成分及び医療用薬剤等の成分を含む。
【0059】
溶液3にキノコ素材10に対して強化する成分を含有することで、減圧工程SP3において、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素をキノコ素材10に含浸する際に、キノコ素材10に対して強化する成分もキノコ素材10に含浸することができる。キノコ素材10に対して強化する成分をキノコ素材10に含浸することで、自然のキノコ素材10では十分摂取することができない栄養成分等をキノコ素材10に含浸することが可能になる。特に、キノコ素材10に薬効成分及び医療用薬剤等の成分を含浸することで医療用食品として製造することもできる。
【0060】
さらに、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素を含有する溶液3に、グリセリンを含有しても良い。溶液3にグリセリンを含有することで、減圧工程SP3において、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素をキノコ素材10に含浸する際に、グリセリンもキノコ素材10に含浸することができる。キノコ素材10にグリセリンを含浸することで、含浸したグリセリンによりキノコ素材10がマスキングされ風味の劣化を抑制することが可能となる。また、グリセリンの浸透圧を利用して、キノコ素材10にキチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素を効率良く含浸することができる。なお、溶液3に含有するグリセリンの濃度は、10%〜30%程度が好ましい。
【0061】
さらに、本実施の形態1に係る酵素含浸方法及び食品製造方法の具体例を説明する。キノコ素材10は干シイタケである。まず、水や湯で戻した干シイタケ(シイタケ)を薄く切断して5分間加熱し、調味液(砂糖、醤油、酒等)で調理後に、汁気を切る。次に、シイタケは、過熱水蒸気発生装置2を用いて、過熱水蒸気(200℃)で45分間乾燥する。なお、乾燥させたシイタケは、乾燥前の重量に対して略85%の重量である。次に、食品添加物であるグリセリン(坂本薬品工業株式会社製)を10%と、トレハロース(林原商事株式会社製)を5%、キチン分解酵素(キチナーゼ:協和化成株式会社製)を1%、タンパク質分解酵素(パパインW−40:天野エンザイム株式会社製)を0.5%含有する溶液3に、乾燥させたシイタケを浸し、溶液3を含む密封容器5の中を2,000Paに減圧する。シイタケを15分間、減圧した状態にすることで、シイタケに、グリセリン、トレハロース、キチン分解酵素、タンパク質分解酵素を含浸する。次に、グリセリン、トレハロース、キチン分解酵素、タンパク質分解酵素を含浸したシイタケを、50℃で5時間加温放置して、シイタケに対してキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素を、シイタケを構成する組織を分解するための酵素として作用させる。次に、組織を分解する酵素が作用したシイタケを98℃で30分間加熱して、シイタケに対するキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素の作用を停止させる。以上の方法で製造されたシイタケのかたさは、5×104 N/m2 以下の圧縮応力で潰せるかたさである。
【0062】
以上のように、本実施の形態1に係る酵素含浸方法は、過熱水蒸気を用いて乾燥させたキノコ素材10を、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素を含有する溶液3に浸して減圧することでキノコ素材10にキチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素を含浸するので、キノコ素材10を凍結、解凍することなく過熱水蒸気を用いて短時間で乾燥することが可能となり、キノコ素材10にキチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素を含浸する時間を短縮することができる。また、本実施の形態1に係る食品製造方法は、本実施の形態1に係る酵素含浸方法を用いて、キノコ素材10に含浸したキチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素をキノコ素材10に対して作用させ、キノコ素材10を構成する組織を分解し、所定の時間経過後、キノコ素材10に対するキチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素の作用を停止させることにより、高齢者、咀嚼困難者、嚥下困難者等に適した食品を製造することができる。
【0063】
(実施の形態2)
本実施の形態2では、植物性食品に、植物性食品を構成する組織を分解するための酵素を含浸し、高齢者、咀嚼困難者、嚥下困難者等に適した植物性食品を製造する方法について以下に説明する。なお、本実施の形態2で用いる植物性食品は、例えば、穀類、芋類、及びでん粉類、豆類、種実類、野菜類、果実類、キノコ素材、藻類であり、調理されていない生の状態でも、調理された状態でも、ブランチング処理されたものでもよく、乾物等の乾燥された状態であれば水や湯で戻して用いる。
【0064】
本実施の形態2に係る酵素含浸方法及び食品製造方法に用いる装置の構成は、実施の形態1に係る酵素含浸方法及び食品製造方法に用いる装置の構成と同じであるため、詳細な説明は省略する。また、本実施の形態2に係る酵素含浸方法及び食品製造方法を示すフローチャートも、本実施の形態1に係る酵素含浸方法及び食品製造方法を示すフローチャートと同じであるため、図2に示すフローチャートを用いて、本実施の形態2に係る酵素含浸方法及び食品製造方法を説明する。
【0065】
図2に示すように、まず、準備工程SP1において、植物性食品20を、所定の大きさに切断及び/又は加熱調理して準備する。次に、乾燥工程SP2において、過熱水蒸気発生装置2を用いて、準備工程SP1で準備した植物性食品20を過熱水蒸気で、乾燥前の植物性食品20の重量(新鮮重量)に対して略15%以上の水分を植物性食品20から除去して乾燥する。さらに、減圧工程SP3において、乾燥工程SP2で乾燥させた植物性食品20を、植物性食品20を構成する組織(例えば、細胞組織、細胞間の結合組織等)を分解するための酵素、又は植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素と、フェルラ酸又はフェルラ酸の塩類、キレート作用を有する物質のうち、少なくとも1種とを含有する溶液3に浸して、密封容器5の中を減圧ポンプ6を用いて減圧し、植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素等を含浸する。なお、減圧工程SP3では、密封容器5の中の圧力を500Pa〜20,000Pa程度まで減圧することができ、植物性食品20に、植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素を含浸することができる圧力まで減圧できれば良い。また、減圧工程SP3で減圧する時間は、特に限定されないが、2分間〜60分間程度が好ましい。
【0066】
次に、酵素作用工程SP4において、減圧工程SP3で植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素、又は植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素と、フェルラ酸又はフェルラ酸の塩類、キレート作用を有する物質のうち、少なくとも1種とを含浸した植物性食品20を所定の温度に加熱して、酵素を植物性食品20に対して作用させ、植物性食品20を構成する組織を分解する。ここで、植物性食品20を加熱する所定の温度とは、植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素を活性化させる温度であり、例えば0℃〜60℃である。さらに、酵素停止工程SP5において、酵素作用工程SP4で酵素の作用を開始してから所定の時間経過後、酵素の作用が停止する温度まで植物性食品20を加熱(例えば、30分間程度加熱)して、植物性食品20に対する酵素の作用を停止させる。ここで、所定の時間とは、5×104 N/m2 以下の圧縮応力で潰せるかたさまで植物性食品20を構成する組織を分解する時間であり、例えば1時間〜48時間である。また、酵素の作用が停止する温度とは、植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素が植物性食品20を構成する組織を分解する作用を停止する温度であり、例えば95℃である。
【0067】
凍結工程SP6において、酵素停止工程SP5で酵素が作用を停止した植物性食品20を急速に凍結する。なお、本実施の形態2に係る酵素含浸方法は、乾燥工程SP2及び減圧工程SP3の実施に対応する。本実施の形態2に係る食品製造方法は、乾燥工程SP2から酵素停止工程SP5まで、又は乾燥工程SP2から凍結工程SP6までの実施に対応する。
【0068】
植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素は、例えば、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、マセレイチィングエンザイム、キシラナーゼ、マンナナーゼ、キチナーゼ、グルカナーゼ、カタラーゼ、α−ガラクトシダーゼ、ラッカーゼ、フィターゼ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、中性プロテアーゼ、中性ペプチダーゼ、リパーゼ、ホリホリパーゼのうち、少なくとも1種を含む。なお、植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素は、天野エンザイム株式会社製、新日本化学工業株式会社製等の市販の酵素を用いることができる。また、植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素は、100mlの溶液3に対して0.01g〜10g程度を含有することが好ましい。溶液3は、酵素が植物性食品20に対して作用できるpHに維持できる溶液であれば良い。
【0069】
フェルラ酸又はフェルラ酸の塩類は、例えば、フェルラ酸、フェルラ酸ナトリウム、フェルラ酸カリウム等の塩類である。溶液3におけるフェルラ酸又はフェルラ酸の塩類の濃度は、植物性食品20の退色を防止することができる濃度であれば良く、例えば100mlの溶液3に対して0.1g〜20g程度を含有することが好ましい。
【0070】
キレート作用を有する物質は、例えば、クエン酸、乳酸、シュウ酸、グリシンのうち、少なくとも1種を含む。キレート作用を有する物質の濃度は、植物性食品20の風味に影響を与えない程度であれば良く、例えば100mlの溶液3に対して0.1g〜10g程度を含有することが好ましい。
【0071】
さらに、植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素、又は植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素と、フェルラ酸又はフェルラ酸の塩類、キレート作用を有する物質のうち、少なくとも1種とを含有する溶液3に、増粘剤を含有しても良い。溶液3に増粘剤を含有することで、減圧工程SP3において、植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素等を植物性食品20に含浸する際に、増粘剤も植物性食品20に含浸することができる。植物性食品20に増粘剤を含浸することで、植物性食品20の自然な形状を保持しつつ、ゼリー状のつるつるした食感を呈することができ、唾液等による植物性食品20のまとまり感が向上して嚥下時に適度な速度で咽頭を通過させることが可能となる。また、誤嚥が防止され、気道口へ貼り付きにくい植物性食品20を製造することができる。
【0072】
さらに、植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素、又は植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素と、フェルラ酸又はフェルラ酸の塩類、キレート作用を有する物質のうち、少なくとも1種を含有する溶液3に、トレハロースを含有しても良い。溶液3にトレハロースを含有することで、減圧工程SP3において、植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素等を植物性食品20に含浸する際に、トレハロースも植物性食品20に含浸することができる。植物性食品20にトレハロースを含浸することで、植物性食品20の栄養成分の分解を抑制し、デンプンの老化を抑制し、植物性食品20の風味、香り、色調の変化を抑制し、耐冷性を向上させる。さらに、トレハロースは二糖類から成る低分子の糖質でありながら極めて高い保水力を有することから、植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素等の植物性食品20への含浸を促進することができる。また、トレハロースは、増粘剤の植物性食品20からの漏出を抑制することができる。なお、植物性食品20にトレハロースを含浸することで耐冷性が向上するのは、トレハロースが植物性食品20の多糖類から成る高次構造を保持する作用を有するからであり、凍結した植物性食品20を解凍した際に、植物性食品20からの水分の漏出を抑制し、植物性食品20の自然な形状を保持することができる。
【0073】
さらに、植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素、又は植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素と、フェルラ酸又はフェルラ酸の塩類、キレート作用を有する物質のうち、少なくとも1種を含有する溶液3に、植物性食品20に対して強化する成分を含有しても良い。ここで、植物性食品20に対して強化する成分として、糖質、タンパク質、脂質、食物繊維、ビタミン、ミネラル、アルギニン、グルタミン等のアミノ酸、又はその分解物質等に限定されるものではなく、ポリフェノール、カロテノイド、含硫化合物、テルペン、β−グルカン等の機能性成分、甘味、塩味、苦味、酸味、辛味のうち、少なくとも1種類の味を呈する調味料(呈味成分)、その他食品添加物、薬効成分及び医療用薬剤等の成分を含む。
【0074】
例えば、30gの植物性食品20に対して、アルギニンを0.5g以上、グルタミンを0.75g以上含浸し、当該植物性食品20を喫食することで、流動食1200ml(一日最低使用量)分とほぼ同じ量のアルギニン、グルタミンを摂取することができる。また、植物性食品20に、「日本人の食事摂取基準(2010年版)」に示されている推定平均必要量以上、上限量以下のミネラル、ビタミンを含浸し、当該植物性食品20を喫食することで、推定平均必要量以上、上限量以下のミネラル、ビタミンを摂取することができる。30gの植物性食品20に対して、銅を0.72mg〜10mg、亜鉛を0.03mg〜60mg、ビタミンB1を0.54mg〜0.75mg、ビタミンB12を0.5μg〜2μg、ビタミンCを50mg〜100mg含浸する。なお、植物性食品20に対して強化する成分は、乾燥工程SP2で乾燥させた植物性食品20に、注射筒等を用いてインジェクション注入しても良い。
【0075】
さらに、植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素、又は植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素と、フェルラ酸又はフェルラ酸の塩類、キレート作用を有する物質のうち、少なくとも1種を含有する溶液3に、グリセリンを含有しても良い。溶液3にグリセリンを含有することで、減圧工程SP3において、植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素等を植物性食品20に含浸する際に、グリセリンも植物性食品20に含浸することができる。植物性食品20にグリセリンを含浸することで、含浸したグリセリンにより植物性食品20がマスキングされ風味の劣化を抑制することが可能となる。また、グリセリンの浸透圧を利用して、植物性食品20に植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素等を効率良く含浸することができる。なお、溶液3に含有するグリセリンの濃度は、10%〜30%程度が好ましい。
【0076】
本実施の形態2では、凍結工程SP6で植物性食品20を凍結するため、長期保存が可能となり、長期保存後、店頭への陳列時又は喫食時に解凍して利用することが可能となる。また、植物性食品20を凍結することで、植物性食品20を使用し、口腔内で解凍する際に滑らかに融解する特徴を有する氷菓を製造することもできる。具体的な氷菓の製造方法としては、植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素等を含有した溶液3にショ糖、異性化糖、水飴等の糖類、人工甘味料、クエン酸等の酸味料、フレーバー等を含有して、植物性食品20に含浸する。
【0077】
さらに、本実施の形態2に係る酵素含浸方法及び食品製造方法の具体例を説明する。植物性食品20はブロッコリーである。まず、ブロッコリーを略20gずつに切断し、沸騰した水道水の中で、4分間加熱する。次に、ブロッコリーは、過熱水蒸気発生装置2を用いて、過熱水蒸気(200℃)で45分間乾燥する。なお、乾燥させたブロッコリーは、乾燥前の重量に対して略85%の重量である。次に、食品添加物であるグリセリン(坂本薬品工業株式会社製)を10%、ヘミセルロース分解酵素(ペクチナーゼKM:協和化成株式会社製)を5%、フェルラ酸(オリザ油化株式会社製)を0.1%含有する溶液3に、乾燥させたブロッコリーを浸し、溶液3を含む密封容器5の中を2,000Paに減圧する。ブロッコリーを15分間、減圧した状態にすることで、ブロッコリーに、グリセリン、ヘミセルロース分解酵素、フェルラ酸を含浸する。次に、グリセリン、ヘミセルロース分解酵素、フェルラ酸を含浸したブロッコリーを、5℃で24時間放置、又は45℃で1時間加温放置して、ブロッコリーに対してヘミセルロース分解酵素を、ブロッコリーを構成する組織を分解するための酵素として作用させる。次に、組織を分解する酵素が作用したブロッコリーを95℃で30分間加熱して、ブロッコリーに対するヘミセルロース分解酵素の作用を停止させる。さらに、ヘミセルロース分解酵素の作用を停止させたブロッコリーを、ブラストチラー(福島工業株式会社製)を用いて、−5℃〜0℃で10分間冷却後、−20℃で1時間冷却して凍結し、その後室温で解凍する。以上の方法で製造されたブロッコリーのかたさは、5×104 N/m2 以下の圧縮応力で潰せるかたさである。また、以上の方法で製造されたブロッコリーは、官能評価において、自然な色調を保持することができ、滑らかで軟らかいことを確認することができる。
【0078】
本実施の形態2の別の具体例を説明する。植物性食品20はリンゴである。まず、リンゴの皮と芯を取り除き、12等分(略20gずつ)に切断し、調味液(水、砂糖、塩等)で調理後に、汁気を切る。次に、リンゴは、過熱水蒸気発生装置2を用いて、過熱水蒸気(200℃)で45分間乾燥する。なお、乾燥させたリンゴは、乾燥前の重量に対して略85%の重量である。次に、注射筒等を用いて、グルタミン(日本ポリグル株式会社製)を2g、リンゴにインジェクション注入する。さらに、食品添加物であるグリセリン(坂本薬品工業株式会社製)を10%、ヘミセルロース分解酵素(ペクチナーゼKM:協和化成株式会社製)を0.3%含有する溶液3に、乾燥させたリンゴを浸し、溶液3を含む密封容器5の中を2,000Paに減圧する。リンゴを15分間、減圧した状態にすることで、リンゴに、グリセリン、ヘミセルロース分解酵素を含浸する。次に、グリセリン、ヘミセルロース分解酵素を含浸したリンゴを、5℃で24時間放置、又は45℃で1時間加温放置して、リンゴに対してヘミセルロース分解酵素を、リンゴを構成する組織を分解するための酵素として作用させる。次に、組織を分解する酵素が作用したリンゴを95℃で30分間加熱して、リンゴに対するヘミセルロース分解酵素の作用を停止させる。さらに、ヘミセルロース分解酵素の作用を停止させたリンゴを、ブラストチラー(福島工業株式会社製)を用いて、−5℃〜0℃で10分間冷却後、−20℃で1時間冷却して凍結し、その後室温で解凍する。以上の方法で製造されたリンゴのかたさは、5×104 N/m2 以下の圧縮応力で潰せるかたさである。また、以上の方法で製造されたリンゴは、官能評価において、自然な色調を保持することができ、滑らかで軟らかいことを確認することができる。さらに、リンゴにグルタミンがインジェクション注入されているので、栄養成分等が強化されたリンゴを製造することができる。
【0079】
本実施の形態2のさらに別の具体例を説明する。植物性食品20はニンジンである。まず、ニンジンの皮を取り除き、厚み略1cmの輪切りにし、沸騰した水道水の中で30秒間加熱して、調味液(水、砂糖、塩等)で調理後に、汁気を切る。次に、ニンジンは、過熱水蒸気発生装置2を用いて、過熱水蒸気(200℃)で45分間乾燥する。なお、乾燥させたニンジンは、乾燥前の重量に対して略85%の重量である。次に、食品添加物であるグリセリン(坂本薬品工業株式会社製)を10%、ヘミセルロース分解酵素(ペクチナーゼKM:協和化成株式会社製)を0.5%、クエン酸(扶桑化学工業株式会社製)を0.05%、フェルラ酸(オリザ油化株式会社製)を0.1%含有する溶液3に、乾燥させたニンジンを浸し、溶液3を含む密封容器5の中を2,000Paに減圧する。ニンジンを15分間、減圧した状態にすることで、ニンジンに、グリセリン、ヘミセルロース分解酵素、クエン酸、フェルラ酸を含浸する。次に、グリセリン、ヘミセルロース分解酵素、クエン酸、フェルラ酸を含浸したニンジンを、5℃で24時間放置、又は45℃で1時間加温放置して、ニンジンに対してヘミセルロース分解酵素を、ニンジンを構成する組織を分解するための酵素として作用させる。次に、組織を分解する酵素が作用したニンジンを95℃で30分間加熱して、ニンジンに対するヘミセルロース分解酵素の作用を停止させる。さらに、ヘミセルロース分解酵素の作用を停止させたニンジンを、ブラストチラー(福島工業株式会社製)を用いて、−5℃〜0℃で10分間冷却後、−20℃で1時間冷却して凍結し、その後室温で解凍する。以上の方法で製造されたニンジンのかたさは、5×104 N/m2 以下の圧縮応力で潰せるかたさである。また、以上の方法で製造されたニンジンは、官能評価において、自然な形状や色調を保持することができ、滑らかで軟らかいことを確認することができる。
【0080】
以上のように、本実施の形態2に係る酵素含浸方法は、過熱水蒸気を用いて乾燥させた植物性食品20を、植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素を含有する溶液3に浸して減圧することで植物性食品20に植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素を含浸するので、植物性食品20を凍結、解凍することなく過熱水蒸気を用いて短時間で乾燥することが可能となり、植物性食品20に植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素を含浸する時間を短縮することができる。また、本実施の形態2に係る食品製造方法は、本実施の形態2に係る酵素含浸方法を用いて、植物性食品20に含浸した植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素を植物性食品20に対して作用させ、植物性食品20を構成する組織を分解し、所定の時間経過後、植物性食品20に対する植物性食品20を構成する組織を分解するための酵素の作用を停止させることにより、高齢者、咀嚼困難者、嚥下困難者等に適した食品を製造することができる。
【0081】
(実施の形態3)
本実施の形態3では、動物性食品に、動物性食品を構成する組織を分解するための酵素を含浸し、高齢者、咀嚼困難者、嚥下困難者等に適した動物性食品を製造する方法について以下に説明する。なお、本実施の形態3で用いる動物性食品は、例えば、畜肉類、畜肉類の副生物、鶏肉類、鶏肉類の副生物、卵類、魚類、貝類、エビ、カニ類、イカ、たこ類、水産加工品、うに、くらげ、しゃこ、なまこ、ほや、鳩、フォアグラ、ホロホロ鳥、いなご、かえる、すっぽん、蜂の子等であり、調理されていない生の状態でも、調理された状態でも、ブランチング処理されたものでもよく、乾物等の乾燥された状態であれば水や湯で戻して用いる。
【0082】
本実施の形態3に係る酵素含浸方法及び食品製造方法に用いる装置の構成は、実施の形態1に係る酵素含浸方法及び食品製造方法に用いる装置の構成と同じであるため、詳細な説明は省略する。また、本実施の形態3に係る酵素含浸方法及び食品製造方法を示すフローチャートも、本実施の形態1に係る酵素含浸方法及び食品製造方法を示すフローチャートと同じであるため、図2に示すフローチャートを用いて、本実施の形態3に係る酵素含浸方法及び食品製造方法を説明する。
【0083】
図2に示すように、まず、準備工程SP1において動物性食品30を、所定の大きさに切断及び/又は加熱調理して準備する。次に、乾燥工程SP2において、過熱水蒸気発生装置2を用いて、準備工程SP1で準備した動物性食品30を過熱水蒸気で、乾燥前の動物性食品30の重量(新鮮重量)に対して略15%以上の水分を動物性食品30から除去して乾燥する。さらに、減圧工程SP3において、乾燥工程SP2で乾燥させた動物性食品30を、タンパク質分解酵素を含有する溶液3に浸して、密封容器5の中を減圧ポンプ6を用いて減圧し、タンパク質分解酵素を含浸する。なお、減圧工程SP3では、密封容器5の中の圧力を500Pa〜20,000Pa程度まで減圧することができ、動物性食品30に、タンパク質分解酵素を含浸することができる圧力まで減圧できれば良い。また、減圧工程SP3で減圧する時間は、特に限定されないが、2分間〜60分間程度が好ましい。
【0084】
次に、酵素作用工程SP4において、減圧工程SP3でタンパク質分解酵素を含浸した動物性食品30を所定の温度に加熱して、タンパク質分解酵素を動物性食品30に対して作用させ、動物性食品30を構成する組織(例えば、細胞組織、細胞間の結合組織等)を分解する。ここで、動物性食品30を加熱する所定の温度とは、タンパク質分解酵素を活性化させる温度であり、例えば0℃〜60℃である。さらに、酵素停止工程SP5において、酵素作用工程SP4で酵素の作用を開始してから所定の時間経過後、酵素の作用が停止する温度まで動物性食品30を加熱(例えば、30分間程度加熱)して、動物性食品30に対するタンパク質分解酵素の作用を停止させる。ここで、所定の時間とは、5×104 N/m2 以下の圧縮応力で潰せるかたさまで動物性食品30を構成する組織を分解する時間であり、例えば1時間〜48時間である。また、酵素の作用が停止する温度とは、タンパク質分解酵素が動物性食品30を構成する組織を分解する作用を停止する温度であり、例えば95℃である。
【0085】
凍結工程SP6において、酵素停止工程SP5でタンパク質分解酵素が作用を停止した動物性食品30を急速に凍結する。なお、本実施の形態3に係る酵素含浸方法は、乾燥工程SP2及び減圧工程SP3の実施に対応する。本実施の形態3に係る食品製造方法は、乾燥工程SP2から酵素停止工程SP5まで、又は乾燥工程SP2から凍結工程SP6までの実施に対応する。
【0086】
タンパク質分解酵素は、動物性食品30に均質に含浸することで、動物性食品30の筋肉組織及び結合組織のタンパク質を分解する。タンパク質分解酵素には、ペプチンやコラーゲン分解活性を有するタンパク質分解酵素も含まれ、例えば、パパイン、ブロメリン、アクチニジン等の植物由来の酵素、Bacillus属やAspergillus属等の微生物由来の酵素、ペプシンやパンクレアチン等の動物由来の酵素がある。溶液3に含有するタンパク質分解酵素の濃度は、0.1%〜10%程度が好ましい。
【0087】
さらに、タンパク質分解酵素を含有する溶液3に、増粘剤を含有しても良い。溶液3に増粘剤を含有することで、減圧工程SP3において、タンパク質分解酵素を動物性食品30に含浸する際に、増粘剤も動物性食品30に含浸することができる。動物性食品30に増粘剤を含浸することで、動物性食品30の自然な形状を保持しつつ、ゼリー状のつるつるした食感を呈することができ、唾液等による動物性食品30のまとまり感が向上して嚥下時に適度な速度で咽頭を通過させることが可能となる。また、誤嚥が防止され、気道口へ貼り付きにくい動物性食品30を製造することができる。
【0088】
さらに、タンパク質分解酵素を含有する溶液3に、トレハロースを含有しても良い。溶液3にトレハロースを含有することで、減圧工程SP3において、タンパク質分解酵素を動物性食品30に含浸する際に、トレハロースも動物性食品30に含浸することができる。動物性食品30にトレハロースを含浸することで、動物性食品30の栄養成分の分解を抑制し、デンプンの老化を抑制し、動物性食品30の風味、香り、色調の変化を抑制し、耐冷性を向上させる。さらに、トレハロースは二糖類から成る低分子の糖質でありながら極めて高い保水力を有することから、タンパク質分解酵素等の動物性食品30への含浸を促進することができる。また、トレハロースは、増粘剤の動物性食品30からの漏出を抑制することができる。なお、動物性食品30にトレハロースを含浸することで耐冷性が向上するのは、トレハロースが動物性食品30の多糖類から成る高次構造を保持する作用を有するからであり、凍結した動物性食品30を解凍した際に、動物性食品30からの水分の漏出を抑制し、動物性食品30の自然な形状を保持することができる。
【0089】
さらに、タンパク質分解酵素を含有する溶液3に、動物性食品30に対して強化する成分を含有しても良い。ここで、動物性食品30に対して強化する成分として、糖質、タンパク質、脂質、食物繊維、ビタミン、ミネラル、アルギニン、グルタミン等のアミノ酸、又はその分解物質等に限定されるものではなく、ポリフェノール、カロテノイド、含硫化合物、テルペン、β−グルカン等の機能性成分、甘味、塩味、苦味、酸味、辛味のうち、少なくとも1種類の味を呈する調味料(呈味成分)、その他食品添加物、薬効成分及び医療用薬剤等の成分を含む。
【0090】
さらに、タンパク質分解酵素を含有する溶液3に、グリセリンを含有しても良い。溶液3にグリセリンを含有することで、減圧工程SP3において、タンパク質分解酵素を動物性食品30に含浸する際に、グリセリンも動物性食品30に含浸することができる。動物性食品30にグリセリンを含浸することで、含浸したグリセリンにより動物性食品30がマスキングされ風味の劣化を抑制することが可能となる。また、グリセリンの浸透圧を利用して、動物性食品30にタンパク質分解酵素を効率良く含浸することができる。なお、溶液3に含有するグリセリンの濃度は、10%〜30%程度が好ましい。
【0091】
また、動物性食品30にタンパク質分解酵素を効率良く含浸するために、乾燥工程SP2で乾燥させた動物性食品30を、タンパク質分解酵素を含有する溶液3に浸す前に、動物性食品30の表面を湿潤させても良い。例えば、スチームコンベクションオーブン(株式会社ラショナル・ジャパン製)等を用いて、湿度70%以上、温度50℃〜100℃の雰囲気下で、動物性食品30の表面を湿潤させる。
【0092】
さらに、乾燥工程SP2で動物性食品30を乾燥する前に、動物性食品30の表面にタンパク質分解酵素を含有する溶液又は粉体を塗布しても良い。動物性食品30の表面にタンパク質分解酵素を含有する溶液又は粉体を塗布することで、動物性食品30の表面のタンパク質が加水分解され、動物性食品30の表面を構成する組織に微細な間隙が生じる。動物性食品30の表面を構成する組織に微細な間隙が生じることで、過熱水蒸気で動物性食品30を乾燥させた場合に、動物性食品30の内部の水分が動物性食品30の表面から蒸発しやすくなり、効率良く動物性食品30を乾燥することができる。さらに、タンパク質分解酵素を含有する溶液3に乾燥させた動物性食品30を浸した場合に、動物性食品30の表面を構成する組織に生じた微細な間隙からタンパク質分解酵素を動物性食品30の内部にまで効率良く含浸することができる。例えば、タンパク質分解酵素の濃度を0.1%〜10%にした溶液を動物性食品30の表面に塗布し、タンパク質分解酵素が動物性食品30に作用する温度で30分〜2時間放置する。また、例えば、ミネラルや糖質に、0.1%〜10%の割合でタンパク質分解酵素を混ぜた粉体を、動物性食品30の表面に塗布し、タンパク質分解酵素が動物性食品30に作用する温度で30分〜2時間放置する。
【0093】
さらに、本実施の形態3に係る酵素含浸方法及び食品製造方法の具体例を説明する。動物性食品30はブタモモ肉である。まず、ブタモモ肉を厚み略10mmに切断して加熱し、塩、胡椒で調理後に、さらにタンパク質分解酵素(プロテアーゼP「アマノ」3G:天野エンザイム株式会社製)の濃度が1%の溶液に浸して、4℃で2時間放置する。次に、ブタモモ肉は、過熱水蒸気発生装置2を用いて、過熱水蒸気(200℃)で45分間乾燥する。なお、乾燥させたブタモモ肉は、乾燥前の重量に対して略85%の重量である。次に、タンパク質分解酵素(プロテアーゼP「アマノ」3G:天野エンザイム株式会社製)を1%含有する溶液3に、乾燥させたブタモモ肉を浸し、溶液3を含む密封容器5の中を2,000Paに減圧する。ブタモモ肉を15分間、減圧した状態にすることで、ブタモモ肉に、タンパク質分解酵素を含浸する。次に、タンパク質分解酵素を含浸したブタモモ肉を、45℃で30分間加温放置して、ブタモモ肉に対してタンパク質分解酵素を、ブタモモ肉を構成する組織を分解するための酵素として作用させる。次に、組織を分解する酵素が作用したブタモモ肉を95℃で1時間加熱して、ブタモモ肉に対するタンパク質分解酵素の作用を停止させる。以上の方法で製造されたブタモモ肉のかたさは、5×104 N/m2 以下の圧縮応力で潰せるかたさである。また、以上の方法で製造されたブタモモ肉は、官能評価において、自然な形状や色調を保持することができ、滑らかで軟らかいことを確認することができる。
【0094】
本実施の形態3の別の具体例を説明する。動物性食品30は鰈(カレイ)である。まず、鰈(カレイ)を厚み略30mmに切断して加熱し、塩で調理後に、さらにタンパク質分解酵素(プロテアーゼP「アマノ」3G:天野エンザイム株式会社製)の濃度が1%の溶液に浸して、4℃で2時間放置する。次に、鰈(カレイ)は、過熱水蒸気発生装置2を用いて、過熱水蒸気(200℃)で45分間乾燥する。なお、乾燥させた鰈(カレイ)は、乾燥前の重量に対して略85%の重量である。次に、タンパク質分解酵素(スミチームBR:新日本化学工業株式会社製)を0.5%、タンパク質分解酵素(プロテアーゼM「アマノ」SD:天野エンザイム株式会社製)を0.5%、タンパク質分解酵素(ペプチダーゼR:天野エンザイム株式会社製)を0.5%含有する溶液3に、乾燥させた鰈(カレイ)を浸し、溶液3を含む密封容器5の中を2,000Paに減圧する。鰈(カレイ)を15分間、減圧した状態にすることで、鰈(カレイ)に、タンパク質分解酵素を含浸する。次に、タンパク質分解酵素を含浸した鰈(カレイ)を、45℃で30分間加温放置して、鰈(カレイ)に対してタンパク質分解酵素を、鰈(カレイ)を構成する組織を分解するための酵素として作用させる。次に、組織を分解する酵素が作用した鰈(カレイ)を95℃で1時間加熱して、鰈(カレイ)に対するタンパク質分解酵素の作用を停止させる。以上の方法で製造された鰈(カレイ)のかたさは、5×104 N/m2 以下の圧縮応力で潰せるかたさである。また、以上の方法で製造された鰈(カレイ)は、官能評価において、自然な形状や色調を保持することができ、滑らかで軟らかいことを確認することができる。
【0095】
本実施の形態3のさらに別の具体例を説明する。動物性食品30は海老である。まず、略17gの海老をブランチング処理し、さらにタンパク質分解酵素(プロテアーゼP「アマノ」3G:天野エンザイム株式会社製)の濃度が1%の溶液に浸して、4℃で2時間放置する。次に、海老は、過熱水蒸気発生装置2を用いて、過熱水蒸気(200℃)で45分間乾燥する。なお、乾燥させた海老は、乾燥前の重量に対して略85%の重量である。次に、タンパク質分解酵素(スミチームBR:新日本化学工業株式会社製)を0.5%、タンパク質分解酵素(スミチームLPL:新日本化学工業株式会社製)を0.5%、タンパク質分解酵素(ペプチダーゼR:天野エンザイム株式会社製)を0.5%含有する溶液3に、乾燥させた海老を浸し、溶液3を含む密封容器5の中を2,000Paに減圧する。海老を15分間、減圧した状態にすることで、海老に、タンパク質分解酵素を含浸する。次に、タンパク質分解酵素を含浸した海老を、45℃で30分間加温放置して、海老に対してタンパク質分解酵素を、海老を構成する組織を分解するための酵素として作用させる。次に、組織を分解する酵素が作用した海老を95℃で1時間加熱して、海老に対するタンパク質分解酵素の作用を停止させる。以上の方法で製造された海老のかたさは、5×104 N/m2 以下の圧縮応力で潰せるかたさである。また、以上の方法で製造された海老は、官能評価において、自然な形状や色調を保持することができ、滑らかで軟らかいことを確認することができる。
【0096】
以上のように、本実施の形態3に係る酵素含浸方法は、過熱水蒸気を用いて乾燥させた動物性食品30を、タンパク質分解酵素を含有する溶液3に浸して減圧することで動物性食品30にタンパク質分解酵素を含浸するので、動物性食品30を凍結、解凍することなく過熱水蒸気を用いて短時間で乾燥することが可能となり、動物性食品30にタンパク質分解酵素を含浸する時間を短縮することができる。また、本実施の形態3に係る食品製造方法は、本実施の形態3に係る酵素含浸方法を用いて、動物性食品30に含浸したタンパク質分解酵素を動物性食品30に対して作用させ、動物性食品30を構成する組織を分解し、所定の時間経過後、動物性食品30に対するタンパク質分解酵素の作用を停止させることにより、高齢者、咀嚼困難者、嚥下困難者等に適した食品を製造することができる。
【0097】
図3は、本実施の形態1〜3に係る酵素含浸方法及び食品製造方法の具体例のパラメータをまとめた図表である。図3に示す表には、本実施の形態1〜3に係る酵素含浸方法及び食品製造方法の具体例として食品、干シイタケ、ブロッコリー、リンゴ、ニンジン、ブタモモ肉、鰈(カレイ)、海老について、乾燥条件、溶液の含有成分、減圧条件、酵素作用条件、酵素停止条件、その他の各パラメータを一覧表示している。
【符号の説明】
【0098】
1 食品
2 過熱水蒸気発生装置
3 溶液
4 容器
5 密封容器
6 減圧ポンプ
7 真空バルブ
10 キノコ素材
20 植物性食品
30 動物性食品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品を構成する組織を分解するための酵素を、前記食品に含浸する酵素含浸方法であって、
前記食品を、過熱水蒸気を用いて乾燥する工程と、
乾燥させた前記食品を、前記酵素を含有する溶液に浸して減圧する工程と
を含むことを特徴とする酵素含浸方法。
【請求項2】
前記食品は、少なくとも植物性食品及び動物性食品のいずれか一方を含むことを特徴とする請求項1に記載の酵素含浸方法。
【請求項3】
前記食品に前記植物性食品が含まれている場合、
前記酵素を含有する溶液は、フェルラ酸又はフェルラ酸の塩類、キレート作用を有する物質のうち、少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項2に記載の酵素含浸方法。
【請求項4】
前記酵素は、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、マセレイチィングエンザイム、キシラナーゼ、マンナナーゼ、キチナーゼ、グルカナーゼ、カタラーゼ、α−ガラクトシダーゼ、ラッカーゼ、フィターゼ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、中性プロテアーゼ、中性ペプチダーゼ、リパーゼ、ホリホリパーゼのうち、少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項3に記載の酵素含浸方法。
【請求項5】
前記キレート作用を有する物質は、クエン酸、乳酸、シュウ酸、グリシンのうち、少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の酵素含浸方法。
【請求項6】
前記食品に前記植物性食品が含まれ、前記植物性食品がキノコ素材である場合、
前記酵素は、キチン分解酵素、又はキチン分解酵素及びタンパク質分解酵素を含むことを特徴とする請求項2に記載の酵素含浸方法。
【請求項7】
前記食品に前記動物性食品が含まれている場合、
前記酵素は、タンパク質分解酵素を含むことを特徴とする請求項2に記載の酵素含浸方法。
【請求項8】
前記食品に前記動物性食品が含まれている場合、
乾燥させた前記食品を、所定の湿度及び温度の雰囲気下で湿潤する工程を含み、湿潤させた後に、前記酵素を含有する溶液に浸して減圧することを特徴とする請求項2又は請求項7に記載の酵素含浸方法。
【請求項9】
前記食品に前記動物性食品が含まれている場合、
前記食品を、過熱水蒸気を用いて乾燥する前に、前記動物性食品の表面に前記酵素を含有する溶液又は粉体を塗布する工程を含むことを特徴とする請求項2、請求項7、請求項8のいずれか一項に記載の酵素含浸方法。
【請求項10】
前記酵素を含有する溶液は、増粘剤を含有することを特徴とする請求項2乃至請求項9のいずれか一項に記載の酵素含浸方法。
【請求項11】
前記増粘剤は、アルギン酸塩、ペクチン、キサンタンガム、グァーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、グルコマンナン、カードラン、デンプン、αーデンプンのうち、少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項10に記載の酵素含浸方法。
【請求項12】
前記酵素を含有する溶液は、トレハロースを含有することを特徴とする請求項2乃至請求項11のいずれか一項に記載の酵素含浸方法。
【請求項13】
前記酵素を含有する溶液は、前記食品に対して強化する成分を含有することを特徴とする請求項2乃至請求項12のいずれか一項に記載の酵素含浸方法。
【請求項14】
前記酵素を含有する溶液は、グリセリンを含有することを特徴とする請求項2乃至請求項13のいずれか一項に記載の酵素含浸方法。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14のいずれか一項に記載の酵素含浸方法を用いて、前記食品に前記酵素を含浸する工程と、
含浸した前記酵素を前記食品に対して作用させ、前記食品を構成する組織を分解する工程と、
所定の時間経過後、前記食品に対する前記酵素の作用を停止させる工程と
を含むことを特徴とする食品製造方法。
【請求項16】
前記食品に対する前記酵素の作用を停止させた後に、前記食品を凍結する工程を含むことを特徴とする請求項15に記載の食品製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−160763(P2011−160763A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29838(P2010−29838)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(510042367)
【Fターム(参考)】