説明

酸化インジウム一酸化錫粉末及びそれを用いたスパッタリングターゲット

安価に製造することができ、高密度のスパッタリングターゲットを得ることができ、ターゲットのライフを伸ばすことができる酸化インジウム−酸化錫粉末及びそれを用いたスパッタリングターゲットを提供する。 In−Sn酸化物を主成分とする酸化インジウム−酸化錫
粉末であって、X線回折で間化合物InSn12が検出されず、In(222)積分回折強度及びSnO(110)積分回折強度の比から求められるSnOの析出量(質量%)から算出される、In中のSnO固溶量が2.3質量%以上であることを特徴とする酸化インジウム−酸化錫粉末にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化インジウム−酸化錫粉末及びそれを用いたスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、薄膜を成膜する方法の1つとしてスパッタリング法が知られている。スパッタリング法とは、スパッタリングターゲットをスパッタリングすることにより薄膜を得る方法であり、大面積化が容易であり、高性能の膜が効率よく成膜できるため、工業的に利用されている。また、近年、スパッタリングの方式として、反応性ガスの中でスパッタリングを行う反応性スパッタリング法や、ターゲットの裏面に磁石を設置して薄膜形成の高速化を図るマグネトロンスパッタリング法なども知られている。
【0003】
このようなスパッタリング法で用いられる薄膜のうち、特に、酸化インジウム−酸化錫(In−SnOの複合酸化物、以下、「ITO」という)膜は、可視光透過性が高く、かつ導電性が高いので透明導電膜として液晶表示装置やガラスの結露防止用発熱膜、赤外線反射膜等に幅広く用いられている。
【0004】
このため、より効率よく低コストで成膜するために、現在においてもスパッタ条件やスパッタ装置などの改良が日々行われており、装置を如何に効率的に稼働させるかが重要となる。また、このようなITOスパッタリングにおいては、新しいスパッタリングターゲットをセットしてから初期アーク(異常放電)がなくなって製品を製造できるまでの時間が短いことと、一度セットしてからどれくらいの期間使用できるか(積算スパッタリング時間:ターゲットライフ)が問題となる。
【0005】
このようなITOスパッタリングターゲットは、酸化インジウム粉末及び酸化錫粉末を所定の割合で混合して乾式又は湿式で成形し、焼結したものであり(特許文献1)、高密度のITO焼結体を得るための高分散性の酸化インジウム粉末が提案されている(特許文献2,3,4等参照)。
【0006】
一方、共沈法により湿式合成されたITO粉末をITO焼結体とすることも知られており(特許文献5等参照)、同様に高密度な焼結体を得るためのITO粉末の湿式合成方法が多数提案されている(特許文献6〜9等参照)。
【0007】
さらに、プラズマアーク中でインジウム−錫合金と酸素とを反応させて、マッハ1以上のガス流で所定の冷却速度以上で冷却することにより、酸化インジウムの結晶格子内にインジウム−錫−酸化物固溶体相を少なくとも90容量%含有するITO粉末を製造し、圧縮体としたときに所定の電気抵抗率を有するITO粉末を得る方法が提案されている(特許文献10参照)。
【0008】
しかしながら、依然として、焼結条件等を高度に制御しなくても、比較的容易に高密度の焼結体が得られ、この結果、ライフの長いターゲットを得ることができるITO粉末を求める要望が多い。
【0009】
【特許文献1】特開昭62−21751号公報
【特許文献2】特開平5−193939号公報
【特許文献3】特開平6−191846号公報
【特許文献4】特開2001−261336号公報
【特許文献5】特開昭62−21751号公報
【特許文献6】特開平9−221322号公報
【特許文献7】特開2000−281337号公報
【特許文献8】特開2001−172018号公報
【特許文献9】特開2002−68744号公報
【特許文献10】特開平11−11946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような事情に鑑み、安価に製造することができ、高密度のスパッタリングターゲットを得ることができ、ターゲットのライフを伸ばすことができる酸化インジウム−酸化錫粉末及びそれを用いたスパッタリングターゲットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決する本発明の第1の態様は、In−Sn酸化物を主成分とする酸化インジウム−酸化錫粉末であって、X線回折で間化合物InSn12が検出されず、In(222)積分回折強度及びSnO(110)積分回折強度の比及びICP分析によるIn、Snの元素濃度から求められるIn及びSnOの比とから算出される、In中のSnO固溶量が2.3質量%以上であることを特徴とする酸化インジウム−酸化錫粉末にある。
【0012】
かかる第1の態様では、酸化インジウムの中に酸化錫が所定量以上固溶しているので、焼結性が大きく、成形体の密度をそれほど大きくしなくても、焼結体であるスパッタリングターゲットの密度を高く保つことができる。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、In中のSnO固溶量が2.4質量%以上であることを特徴とする酸化インジウム−酸化錫粉末にある。
【0014】
かかる第2の態様では、酸化インジウム中に固溶している酸化錫の量が多いので、焼結性がさらに大きい。
【0015】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、錫含有量がSnO換算で2.3〜45質量%であることを特徴とする酸化インジウム−酸化錫粉末にある。
【0016】
かかる第3の態様では、SnO固溶量が2.3質量%以上であるから、錫含有量は最低でもSnO換算で2.3質量%であり、一方、45質量%を超える場合には、例えば、スパッタリングターゲットして薄膜を形成した際にSnOが析出して導電性を阻害することになる。
【0017】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、インジウム−錫合金を液流、液滴又は粉末として、又はITO粉末を、酸化雰囲気可能な熱源中に供給し、生成した微粒子を流体により捕獲して回収することにより得たものであることを特徴とする酸化インジウム−酸化錫粉末にある。
【0018】
かかる第4の態様では、インジウム−錫合金を液流、液滴又は粉末として、酸化雰囲気可能な熱源中に供給し、生成した微粒子を流体により捕獲して回収することにより、比較的容易にITO粉末を得ることができる。
【0019】
本発明の第5の態様は、第4の態様において、前記流体が霧状の液状流体であることを特徴とする酸化インジウム−酸化錫粉末にある。
【0020】
かかる第5の態様では、霧状の液状流体を用いることにより、比較的容易に微粒子を回収することができる。
【0021】
本発明の第6の態様は、第4又は5の態様において、前記生成した微粒子の前記流体により捕獲する際の最大速度が、150m/sec以下であることを特徴とする酸化インジウム−酸化錫粉末にある。
【0022】
かかる第6の態様では、比較的低速で微粒子を冷却回収するので、比較的容易に製造できる。
【0023】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様の酸化インジウム−酸化錫粉末を焼結してなることを特徴とするスパッタリングターゲットにある。
【0024】
かかる第7の態様では、焼結性の良好なスパッタリングターゲットを得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明のITO粉末は、X線回折で間化合物InSn12が検出されず、In(222)積分回折強度及びSnO(110)積分回折強度の比及びICP分析によるIn、Snの元素濃度から求められるIn及びSnOの比とから算出される、In中のSnO固溶量が2.3質量%以上であるので、焼結性が良好であり、成形体の密度を大きくしなくても高密度のスパッタリングターゲットを比較的容易に製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
[図1]本発明のITO粉末を製造するための微粒子の製造装置の一例を示す概略構成図である。
[図2]本発明の実施例1のITO粉末のX線回折の結果を示す図である。
[図3]本発明の実施例2のITO粉末のX線回折の結果を示す図である。
[図4]本発明の比較例1のITO粉末のX線回折の結果を示す図である。
[図5]本発明の比較例2のITO粉末のX線回折の結果を示す図である。
[図6]本発明の比較例3のITO粉末のX線回折の結果を示す図である。
[図7]本発明の実施例3のITO粉末のX線回折の結果を示す図である。
[図8]本発明の比較例4のITO粉末のX線回折の結果を示す図である。
[図9]本発明の試験例4の結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明のITO粉末は、In−Sn酸化物を主成分とする酸化インジウム−酸化錫粉末であって、X線回折で間化合物InSn12が検出されないものである。すなわち、ITO粉末を1250℃以上で焼結した焼結体を粉砕した場合は勿論、酸化インジウム粉末及び酸化錫粉末の混合物を焼結した焼結体を粉砕した場合には、間化合物InSn1312が検出されるので、このようなITO粉末は除外される。
【0028】
また、本発明のITO粉末は、In(222)積分回折強度及びSnO(110)積分回折強度の比及びICP分析によるIn、Snの元素濃度から求められるIn及びSnOの比とから算出される、In中のSnO固溶量が2.3質量%以上、好ましくは2.4質量%以上である。ここで、SnO固溶量とは、X線回折でのIn(222)積分回折強度及びSnO(110)積分回折強度の比と、例えば、溶融して分析した場合、或いは誘導結合高周波プラズマ分光分析(ICP分光分析)などの分析でのIn、Snの元素濃度から求められるIn及びSnOの比とを求め、両者の分析の差から算出することができるものであり、本発明では、In(222)積分回折強度及びSnO(110)積分回折強度の比及びICP分析によるIn、Snの元素濃度から求められるIn及びSnOの比とから算出されるものとして定義する。
【0029】
In中のSnO固溶量が2.3質量%以上、好ましくは2.4質量%以上だと、従来の湿式合成したITO粉末と比較して焼結性が高く、この結果、密度が大きな焼結体を得ることができるという効果を奏する。
【0030】
なお、上述した特許文献10では、酸化インジウムの結晶格子内におけるインジウム−錫−酸化物固溶体相の含有量を少なくとも90容量%と規定しているが、ここでは酸化インジウムの結晶格子内におけるインジウム−錫−酸化物固溶体相の含有量を問題にしているのではなく、酸化インジウム中に固溶する酸化錫の量に着目したものである。
【0031】
本発明のITO粉末は、このようにIn中のSnO固溶量が高水準なので、焼結性が高く、比較的容易に高密度の焼結体が得られ、この結果、ライフの長いターゲットを得ることができる。
【0032】
なお、本発明のITO粉末中の錫含有量はSnO換算で2.3〜45質量%である。SnO固溶量が2.3質量%以上であるから、錫含有量は最低でもSnO換算で2.3質量%であり、一方、45質量%を超える場合には、例えば、スパッタリングターゲットして薄膜を形成した際にSnOが析出して導電性を阻害するから、共に好ましくない。
【0033】
本発明のITO粉末の製造方法は上述したものを得ることができれば特に限定されないが、乾式合成を行うことにより、比較的容易に且つ低コストで本発明のITO粉末を得ることができる。すなわち、In−Sn合金の液流、液滴又は粉末、又はITO粉末を、酸化雰囲気可能な熱源、例えば、アセチレン炎又はDCプラズマ炎中に供給し、生成したITO微粒子粉体を回収することにより、ITO粉末を得ることができる。ここで、In−Sn合金の液流又は液滴は、合金溶湯から連続的に又は断続的に滴下することにより得ることができ、In−Sn合金の粉末は、例えばアトマイズ法により得ることができる。また、各種製造方法により製造されたITO粉末、又は焼結されたITO焼結体を粉砕したITO粉末を原料とすることができる。さらに、製造されたITO微粉末の回収は、バグフィルターや電気集塵機により乾式回収してもよいが、ITO微粉末に水を噴霧して捕獲し、サイクロンによる気液分離によりスラリーとして回収する湿式回収を採用してもよい。
【0034】
ここで、乾式回収するにしても、湿式回収するにしても、上述した特許文献10に記載されるようなマッハ1以上の高速のガス流を用いての噴射冷却を行う必要はなく、生成した微粒子の流体による捕獲後の最大速度は、例えば、150m/sec以下、好ましくは100m/sec以下程度で十分である。また、この程度の捕獲速度による急冷により、In中のSnO固溶量が従来の湿式合成法と比較して大きくなり、焼結性が向上したITO粉末とすることができる。また、間化合物InSn12が含有されるITO粉末を原料としても、間化合物InSn12を含有せず、SnO固溶量が2.3質量%以上、好ましくは2.4質量%以上のITO粉末を得ることができる。
【0035】
但し、後述する実施例の結果より、このようなSnO固溶量は、酸化雰囲気可能な熱源中の酸素濃度や冷却条件等により変化し、また、湿式回収したITO粉末の方が、乾式回収のものより高くなる傾向にあることがわかった。
【0036】
本発明のITO粉末は、乾式又は湿式で成形し、焼結することにより、焼結体を得ることができる。この場合、焼結性が著しく高いので、高密度の焼結体を得ることができ、或いは成形体の密度をそれほど高めなくても高密度の焼結体を得ることができる。
【0037】
なお、本発明のITO粉末の粒径或いは粒度分布は特に制限されないが、高密度の焼結体を得るためには、比表面積(BET)が1〜15m/g、特に、3〜10m/gのものが好ましい。
【0038】
ここで、本発明のITO粉末を製造する方法を説明する。
【0039】
本発明のITO粉末は、例えば、インジウム−錫合金を液流、液滴又は粉末として、又はITO粉末を、酸化雰囲気可能な熱源中に供給し、生成した微粒子を流体により捕獲して回収することにより得ることができる。
【0040】
かかる製造方法では、In−Sn合金を液流、液滴又は粉末として、又はITO粉末を、酸化雰囲気可能な熱源中に供給する。すなわち、In−Sn合金の溶湯溜などから連続的に液流として若しくは液滴として滴下してもよく、又はアトマイズ粉末を形成してこれを供給するようにしてもよく、又はITO粉末を供給するようにしてもよい。
【0041】
また、酸化雰囲気可能な熱源としては、例えば、アセチレン炎、DCプラズマ炎などを挙げることができる。熱源の温度は、インジウム−錫合金又はITO粉末が溶融し、十分に酸化可能な温度であればよく、特に制限されない。なお、アセチレン炎の場合には、数千℃以上、DCプラズマ炎の場合には、数万℃以上であるといわれている。このようなアセチレン炎又はDCプラズマ炎に原料を液流、液滴又は粉末として供給すると、生成物は、そのまま又は酸化物として気体流と共に得られる。
【0042】
ここで、得られた生成物は、流体により捕獲する。すなわち、気体流と共にバグフィルター等で微粒子を回収する、乾式回収をするようにしてもよい。この場合、熱源中で生成されたITO粉末は気体流により急冷され、微粒子として回収される。
【0043】
また、霧状の液状流体を噴射して捕獲するようにしてもよい。すなわち、アセチレン炎やDCプラズマ炎の噴流と共に流れる生成物に霧状の液状流体、好ましくは霧状の水を噴霧する。これにより、生成物は急冷されて微粒子となり、噴霧された液状流体のスラリーとなる。ここで、霧状の液状流体の供給は、得られる生成物を捕獲して冷却できるように行えばよく、特に限定されない。例えば、水を用いる場合には、常温の水、好ましくは、常温の純水を用いればよいが、冷却水を用いてもよい。噴霧された液状流体に捕獲された微粒子を含む液状流体を気液分離し、微粒子をスラリーとして回収する。ここで、スラリーの回収方法は特に限定されないが、好ましくは、サイクロンを用いて行うことができる。
【0044】
このような液状流体を用いた湿式回収を用いると、微粒子のITO粉末の回収が乾式回収より比較的容易であり、また、乾式回収と冷却状態が異なるためか、乾式回収したものよりSn固溶量が増大する。
【0045】
何れにしても、このような生成物を流体により微粒子として捕獲する場合、捕獲する際の最大速度は、例えば、150m/sec以下、好ましくは100m/sec以下程度である。
【0046】
このような製造方法を用いると、原料としてIn−Sn合金又はITO粉末を用いることにより、酸化インジウム−酸化錫(ITO)粉末を製造することができる。かかるITO粉末は、ITOスパッタリングターゲットの材料として用いることができる。かかるITOスパッタリングターゲットの材料としては、錫含有量がSnO換算で2.3〜45質量%であるのが好ましい。
【0047】
以下、本発明方法を実施する微粒子の製造装置の一例を図1を参照しながら説明する。
【0048】
この装置は、酸化雰囲気可能な熱源であるアセチレン炎又はDCプラズマ炎からなる火炎1中に供給された原料2を液流、液滴又は粉末として供給することにより得られる生成物3を気体流体と共に導入する導入口10と、導入された微粒子に対して霧状の液状流体を噴射する流体噴射手段20と、液状流体で捕獲された微粒子を気液分離して前記微粒子のスラリーを得る気液分離手段であるサイクロン30と、液状流体で捕獲できなかった微粒子を含む雰囲気流体の一部を流体滴噴射位置まで戻して循環させる循環手段40とを具備する。
【0049】
ここで、導入口10は、生成物を含む気体流を導入できるものであれば特に限定されないが、気体流を吸引するようにしてもよい。
【0050】
流体噴射手段20は、導入口10が設けられた導入管11の下流側に設けられて流体、例えば、水を噴射する複数の噴射ノズル21と、噴射ノズル21へ流体を導入するためのポンプ22及び流体を湛える流体タンク23とを有する。噴射ノズル21からの流体の噴射の方向は特に限定されないが、導入口10から導入される気体流の流れ方向に向かって合流する方向に噴射するのがよい。導入口10から導入された気体流に含有される生成物3は、噴霧された流体、例えば、水により冷却され、微粒子として捕獲される。なお、導入管11の噴射ノズル21の下流側には、流路を絞ったベンチュリー部12を設けて気液混合物の流速の低下を防止しているが、ベンチュリー部12は必ずしも設ける必要はない。また、噴射ノズル21及びポンプ22は、必ずしも設ける必要はなく、気体流の流れによる吸引力により液体を吸引して噴射するようにしてもよい。
【0051】
導入口10が設けられた導入管11は、気液分離手段であるサイクロン30の導入口31に連通している。サイクロン30の導入口31から導入された気液混合物は、サイクロン本体32の内壁に沿って周回する渦流33となって気液分離され、液体成分、すなわち、微粒子を含むスラリーが下部に落下し、気体成分は排気口34から排出されるようになっている。
【0052】
この装置では、排気口34に循環手段40が設けられている。すなわち、排気口34には、導入管11の導入口10近傍に連通する循環パイプ41が設けられ、循環パイプ41の途中にブロア42が介装されており、これらが循環手段40を構成している。この循環手段40により、捕獲しきれなかった粉末を噴射ノズル21の上流側に戻し、捕獲効率を向上させている。
【0053】
また、サイクロン30で気液分離された液体成分は水排出口36から排出され、流体タンク23に湛えられる。なお、この流体タンク23に湛えられたスラリーの上澄みの水が循環手段40により循環されているので、徐々に微粒子成分の濃度の濃いスラリーが得られる。なお、上澄みの水を循環手段40により循環させるためには、流体タンク23の中に微粒子成分を濾過するフィルターを設けてもよく、また、アルカリ溶液により中和して微粒子成分を沈降分離する沈降分離槽を流体タンク23に併設してもよい。
【0054】
サイクロン30からの排気の大部分は排気口34から循環パイプ41に循環されるが、排気の一部、例えば、十分の一程度は第2の排気口35から排気されるようになっている。
【0055】
また、この装置では、第2の排気口35には、第2の気液分離手段である第2のサイクロン50が排気パイプ43を介して接続されている。第2のサイクロン50は、基本的にはサイクロン30と同一の構造を有して気液分離機能を有する。すなわち、排気パイプ43が接続される導入口51から導入された気液混合物は、サイクロン本体52の内壁に沿って周回する渦流53となって気液分離され、液体成分、すなわち、微粒子を含むスラリーは下部に落下し、水排出口54から排出され、流体タンク61に溜まり、気体成分は排気口55から排出されるようになっている。さらに詳言すると、排気パイプ43の途中には流路を絞ったベンチュリー部44が設けられており、このベンチュリー部44と、流体タンク61とを連通する水循環パイプ62が設けられている。これにより、ベンチュリー部44の高速の気体の流れにより、流体タンク61中の水が吸引されてベンチュリー部44内に噴射され、気体中に残存する微粒子を液体中に捕獲するようにしている。一方、排気口55には排気パイプ71が連結され、排気パイプ71には第2のブロア72が設けられ、当該第2のブロア72を介して排気口55からの気体が排気されるようになっている。なお、水タンク61の水を排気パイプ43内に噴霧するには、上述したサイクロン30のように、ポンプと噴霧ノズルを用いて行ってもよい。また、流体タンク61には、上述したように、フィルターを設けてもよいし、中和して微粒子を分離する沈降分離槽を設けてもよい。さらに、排気口55からの排気の一部を排気パイプ43のベンチュリー部44の上流側に循環させるようにして、さらに捕獲効率を高めてもよい。
【0056】
なお、サイクロン30のみで微粒子の捕獲効率が十分な場合には、第2のサイクロン50は、必ずしも設ける必要はなく、又は、さらに捕獲効率を高めたい場合には、さらに複数のサイクロンを連結してもよい。
【0057】
以上説明した本発明のITO粉末は、スパッタリングターゲットの原料に用いて好適である。
【0058】
ここで、本発明のITO粉末を用いたスパッタリングターゲットの製造方法の一例を示す。
【0059】
まず、原料となるITO粉末を、従来から公知の各種湿式法又は乾式法を用いて成形し、焼成する。
【0060】
乾式法としては、コールドプレス(Cold Press)法やホットプレス(Hot Press)法等を挙げることができる。コールドプレス法では、ITO粉を成形型に充填して成形体を作製し、大気雰囲気下または酸素雰囲気下で焼成・焼結させる。ホットプレス法では、ITO粉を成形型内で直接焼結させる。
【0061】
湿式法としては、例えば、濾過成形法(特開平11−286002号公報参照)を用いるのが好ましい。この濾過成形法は、セラミックス原料スラリーから水分を減圧排水して成形体を得るための非水溶性材料からなる濾過式成形型であって、1個以上の水抜き孔を有する成形用下型と、この成形用下型の上に載置した通水性を有するフィルターと、このフィルターをシールするためのシール材を介して上面側から挟持する成形用型枠からなり、前記成形用下型、成形用型枠、シール材、およびフィルターが各々分解できるように組立てられており、該フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水する濾過式成形型を用い、混合粉、イオン交換水と有機添加剤からなるスラリーを調製し、このスラリーを濾過式成形型に注入し、該フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水して成形体を製作し、得られたセラミックス成形体を乾燥脱脂後、焼成する。
【0062】
各方法において、焼成温度は、例えば、ITOターゲットの場合には、1300〜1600℃が好ましく、さらに好ましくは、1450〜1600℃である。その後、所定寸法に成形・加工のための機械加工を施しターゲットとする。
【0063】
一般的には、成形後、厚さ調整のために表面を研削し、さらに、表面を平滑にするために、何段階かの研磨を施すが、所定の表面処理を施して、マイクロクラックを除去するようにするのが好ましい。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、これに限定されるものではない。
【0065】
[実施例1]
In−Sn合金(Sn9.6wt%)のアトマイズ粉末(平均粒径45μm)を、アセチレン炎に導入してITO(In:SnO=90:10wt%)粉末を乾式合成し、これをバグフィルターにより乾式回収し、実施例1のITO粉末とした。
【0066】
[実施例2]
実施例1と同様にしてアセチレン炎より乾式合成したITO粉末を、スプレー水により湿式回収し、これを実施例2のITO粉末とした。
【0067】
(比較例1)
湿式合成された酸化インジウム粉末を1000℃で仮焼した酸化インジウム粉末90質量%と、同様に湿式合成された酸化錫を1000℃で仮焼した酸化錫粉末10質量%とを乳鉢で混合したものを比較例1とし、標準品1とした。
【0068】
(比較例2)
共沈法により湿式合成されたITO粉末を比較例2のITO粉末とした。
【0069】
共沈法による湿式合成の手順は以下の通りである。すなわち、まず、In(4N)20gを硝酸(試薬特級:濃度60〜61%)133ccに常温にて溶解し(pH=−1.5)、一方、Sn(4N)2.12gを塩酸(試薬特級:濃度35〜36%)100ccに常温にて溶解し(pH=−1.9)、両者を混合して混酸溶液とした。このとき、析出物はなく、pHは−1.5であった。次いで、この混酸に25%アンモニア水(試薬特級)を混合して中和してpH6.5としたところ、白い沈殿物を析出した。数時間後、上水を捨てて純水2リットル(L)にて3回洗浄した後、80℃にて乾燥させた後、600℃で3時間培焼、脱水反応させ、湿式合成ITO粉末を得た。
【0070】
(比較例3)
湿式合成された酸化インジウム粉末と酸化錫粉末との混合物(酸化錫10wt%)の粉末を用いて1550℃以上で焼結した焼結体を粉砕したものを比較例3のITO粉末とした。
【0071】
(試験例1)
各実施例1,2及び各比較例1〜3のITO粉末について、SnO固溶量を求めた。手順は以下の通りである。なお、試験の実施に先駆けて、実施例1,2及び比較例2,3のITO粉末については、1000℃×3時間、大気中で仮焼して、微小粒子として析出しているSnOを成長させてSnOとして検出され易いようにした。
1.まず、誘導結合高周波プラズマ分光分析(ICP分光分析)した。この結果より、In、Sn以外は全て酸素Oであるとし、そのOの量は欠損している可能性があると仮定して、InとSnとの比を求め、このIn及びSnの全てがIn、SnOになったとしたときの重量比を算出した。
2.各実施例1,2及び各比較例1〜3のITO粉末について、粉末X線回折(XRD:(株)マックサイエンス社製、MXP18II)による分析を行い、SnO析出量を求めた。すなわち、回折結果から、間化合物(InSn12)の有無を確認し、間化合物が検出されない場合には、比較例1の標準品1として各試料のIn(222)積分回折強度及びSnO(110)積分回折強度の比からSnOの析出量(質量%)を求めた。すなわち、SnOの析出量(質量%)は、X線回折の積分回折強度比から求められるSnOの含有量であり、Inに固溶していないSnOが1000℃程度の仮焼により成長してX線回折のSnO(110)のピークとなると仮定している。X線回折の結果を図2〜図6に示す。
3.1及び2の結果から、ICP分析で検出されたが、X線回折ではSnO(110)とは検出されないSnOを、In中のSnO固溶量とした。
【0072】
これらの結果を表1に示す。
【0073】
この結果、実施例1,2のITO粉末では、SnO固溶量が2.35wt%、2.42wt%と、湿式合成したITO粉末である比較例2の2.26wt%より多いことがわかった。なお、一度焼結体としたものを粉砕した比較例3のITO粉末では間化合物が検出され、SnO固溶量は測定不能であった。
【0074】

【0075】
[実施例3]
In−Sn合金(Sn9.6wt%)のアトマイズ粉末(平均粒径45μm)を、DCプラズマ炎に導入してITO(In:SnO=90:10wt%)粉末を乾式合成し、これをスプレー水により湿式回収し、実施例3のITO粉末とした。
【0076】
(比較例4)
比較例1と同様に、湿式合成された酸化インジウム粉末を1000℃で仮焼した酸化インジウム粉末90質量%と、同様に湿式合成された酸化錫を1000℃で仮焼した酸化錫粉末10質量%とを乳鉢で混合したものを比較例4とし、標準品2とした。
【0077】
(試験例2)
実施例3及び各比較例4のITO粉末について、試験例1と同様にSnO固溶量を求めた。なお、粉末X線回折(XRD)はスペクトリス((株))社製のX’PertPRO MPDを用いて分析した。これらの結果を表2に示す。また、X線回折の結果を図7及び図8に示す。
【0078】
この結果、実施例3のITO粉末では、SnO固溶量が3.00wt%と、DCプラズマ炎の代わりにアセチレン炎を用いた以外は同等の実施例2のSnO固溶量より著しく大きいことがわかった。
【0079】

【0080】
(製造例1)
実施例2と同様にして合成し、1100℃で仮焼したITO粉末(比表面積2.97m/g)をドライボールミルで解砕後、コールドプレスした。この成形体の脱脂後の相対密度は、理論密度7.15の53.5%であった。
【0081】
これを1600℃で焼成し、焼結体であるスパッタリングターゲットを得た。この相対密度は99.8%であった。
【0082】
(製造例2)
実施例1と同様にして合成し、1000℃で仮焼したITO粉末をドライボールミルで解砕し(このときの比表面積7.7m/g)、これをさらにウェットボールミルにより解砕してスラリーとし、このスラリーを濾過式成形型に注入し、フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水して成形体を製作し、得られたセラミックス成形体を乾燥脱脂した。この成形体の脱脂後の相対密度は、理論密度7.15の64.9%であった。
【0083】
これを1600℃で焼成し、焼結体であるスパッタリングターゲットを得た。この相対密度は99.9%であった。
【0084】
(製造例3)
実施例2と同様にして合成し、1050℃で仮焼したITO粉末(比表面積4.02m/g)を、ドライボールミル及びウェットボールミルにより解砕してスラリーとし、このスラリーを濾過式成形型に注入し、フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水して成形体を製作し、得られたセラミックス成形体を乾燥脱脂した。この成形体の脱脂後の相対密度は、理論密度7.15の65.0%であった。
【0085】
これを1600℃で焼成し、焼結体であるスパッタリングターゲットを得た。この相対密度は99.8%であった。
(製造例4)
実施例3と同様に合成し、1100℃で仮焼したITO粉末(比表面積2.5m/g)を、ドライボールミル及びウェットボールミルにより解砕してスラリーとし、このスラリーを濾過式成形型に注入し、フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水して成形体を製作し、得られたセラミックス成形体を乾燥脱脂した。この成形体の脱脂後の相対密度は、理論密度7.15の64.9%であった。
【0086】
これを1600℃で焼成し、焼結体であるスパッタリングターゲットを得た。この相対密度は99.8%であった。
【0087】
(比較製造例1)
比較例1と同様に湿式合成された酸化インジウム粉末を1095℃で仮焼した酸化インジウム粉末90質量%と、同様に湿式合成された酸化錫を1050℃で仮焼した酸化錫粉末10質量%とをドライボールミルで混合、解砕し(このときの比表面積は4.99m/g)、これをコールドプレスした。脱脂後の相対密度は、理論密度7.15の59.5%であった。
【0088】
これを1600℃で焼成し、焼結体であるスパッタリングターゲットを得た。この相対密度は99.3%であった。
【0089】
(比較製造例2)
比較例1と同様に湿式合成された酸化インジウム粉末を1095℃で仮焼した酸化インジウム粉末90質量%と、同様に湿式合成された酸化錫を1050℃で仮焼した酸化錫粉末10質量%との混合物をドライボールミルで混合、解砕し(このときの比表面積は4.99m/g)、これをさらにウェットボールミルで混合、解砕してスラリーとし、このスラリーを濾過式成形型に注入し、フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水して成形体を製作し、得られたセラミックス成形体を乾燥脱脂した。この成形体の脱脂後の相対密度は、理論密度7.15の67.7%であった。
【0090】
これを1600℃で焼成し、焼結体であるスパッタリングターゲットを得た。この相対密度は99.9%であった。
【0091】
(試験例3)
各製造例及び各比較製造例において、焼結性について比較した。この結果を表3に示す。なお、焼結性は成形体の相対密度に対する焼結体の相対密度の倍率を示す。
【0092】
この結果、本発明のITO粉末は焼結性が高く、高密度の焼結体が得られるものであり、また、成形体の密度を大きくしなくても高密度の焼結体が得られることがわかった。
【0093】

【0094】
(試験例4)
製造例2〜4及び比較製造例2のスパッタリングターゲットを用いてアーキング特性を測定した。すなわち、以下のような条件にてDCマグネトロンスパッタによって連続スパッタリングし、50Countsライフを測定した。ここで、50Countsライフは、各ターゲット使用開始時から投入電力量10Wh/cmまで初期アーク回数を除き、累積アーキング回数が50回となったときの投入電力量(Wh/cm)をいう。なお、アーキングの検出は、ランドマークテクノロジー社製のアーク検出装置(MAM Genesis)により行った。結果は下記表4及び図9に示す。
【0095】
この結果、本発明のITO粉末を用いたスパッタリングターゲットは、アーキング特性が優れており、ターゲットライフが長いことがわかった。また、DCプラズマ炎によるITO粉末を用いた製造例4のターゲットは、アセチレン炎によるITO粉末を用いた製造例2及び3と比較して、ターゲットライフがさらに長いことが確認された。
【0096】
(スパッタリング条件)
ターゲット寸法 :直径6inch、厚さ6mm
スパッタ方式 :DCマグネトロンスパッタ
排気装置 :ロータリーポンプ+クライオポンプ
到達真空度 :3.0×10−7[Torr]
Ar圧力 :3.0×10−3[Torr]
酸素分圧 :3.0×10−5[Torr]
スパッタ電力 :300W(電力密度1.6W/cm
【0097】

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
In−Sn酸化物を主成分とする酸化インジウム−酸化錫粉末であって、X線回折で間化合物InSn12が検出されず、In(222)積分回折強度及びSnO(110)積分回折強度の比及びICP分析によるIn、Snの元素濃度から求められるIn及びSnOの比とから算出される、In中のSnO固溶量が2.3質量%以上であることを特徴とする酸化インジウム−酸化錫粉末。
【請求項2】
請求の範囲1において、In中のSnO固溶量が2.4質量%以上であることを特徴とする酸化インジウム−酸化錫粉末。
【請求項3】
請求の範囲1又は2において、錫含有量がSnO換算で2.3〜45質量%であることを特徴とする酸化インジウム−酸化錫粉末。
【請求項4】
請求の範囲1〜3の何れかにおいて、インジウム−錫合金を液流、液滴又は粉末として、又はITO粉末を、酸化雰囲気可能な熱源中に供給し、生成した微粒子を流体により捕獲して回収することにより得たものであることを特徴とする酸化インジウム−酸化錫粉末。
【請求項5】
請求の範囲4において、前記流体が霧状の液状流体であることを特徴とする酸化インジウム−酸化錫粉末。
【請求項6】
請求の範囲4又は5において、前記生成した微粒子の前記流体により捕獲する際の最大速度が、150m/sec以下であることを特徴とする酸化インジウム−酸化錫粉末。
【請求項7】
請求の範囲1〜6の何れかの酸化インジウム−酸化錫粉末を焼結してなることを特徴とするスパッタリングターゲット。

【国際公開番号】WO2005/063628
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516645(P2005−516645)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019353
【国際出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】