説明

酸化インジウム錫粉末及びその分散液

本発明は、インジウム80〜98.8質量%、錫2〜20質量%及び炭素0.01〜1質量%の割合を有するインジウム錫オキソ水和物の表面変性された凝集物に関する。また本発明は、前記表面変性された凝集物を空気下で150℃を上廻る温度及び310℃を下廻る温度で乾燥させ、その後に還元条件下で、か焼することによって、酸化インジウム錫を製造するための方法及びこの方法によって得られた酸化インジウム錫に関する。さらに本発明は、前記表面変性された凝集物及び1種又はそれ以上の溶剤を組合せて混合物を生じ、この混合物を、分散ユニットを用いて分散液に変換し、かつ液体成分を場合によっては分散液から除去して粉末を得る、酸化インジウム錫及びその分散液の製造方法に関する。さらに本発明は、前記酸化インジウム錫の凝集物及び酸化インジウム錫粉末の分散液及びそれぞれの場合において1種又はそれ以上のバインダーを使用する、被覆材料又は成形材料を製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウム錫オキソ水和物(oxohydrate)の表面変性された凝集物及びその製造方法に関する。
【0002】
さらに本発明は、酸化インジウム錫の表面変性された凝集物の製造方法及び酸化インジウム錫(ITO)の表面変性された凝集物自体に関する。
【0003】
さらに本発明は、酸化インジウム錫(ITO)の表面変性された粉末及びその分散液の製造方法及びその粉末及びその分散液自体に関する。
【0004】
さらに本発明は、酸化インジウム錫の表面変性された凝集物又は酸化インジウム錫の表面変性された粉末を用いて、被覆材料及び成形材料を製造するための方法に関する。
【0005】
酸化インジウム錫層は、高い透明性、高い電気伝導性及び高いIR吸収力において注目される。このような層は、たとえばスパッター法によっては、あるいは、分散液の形で酸化インジウム錫粉末を塗布することによって得ることができる。
【0006】
酸化インジウム錫粉末の製造のために、種々の方法が知られている:(共)沈降法、水熱法、ゾルゲル法、プラズマ法又は熱分解法である。
【0007】
US5818810では、xyカラースケール上において、x値が0.220〜0.295及びy値が0.235〜0.352を有し、かつ、10.110〜10.160オングストロームの格子定数を有するITO粉末を開示している。これは、錫化合物及びインジウム化合物を含有する溶液を、炭酸アンモニウムの存在下で沈殿させ、かつ沈殿物を除去及び乾燥させ、かつ、還元雰囲気中で450〜750℃の温度でか焼することによって得ることができる。
【0008】
DE-A-19650747は、0.05〜1μmの粒径及び0.2質量%未満のハロゲン含量を有するITO粉末を記載している。これは、インジウム塩及び錫塩の溶液のpHを、アルカリでpH4〜6に調整し、形成された沈殿物を除去及び乾燥させ、かつ600〜1200℃の温度で、場合によっては還元雰囲気中でか焼することによって得ることができる。この粉末の欠点は、被覆された支持体の低い透明性である。
【0009】
EP-A-921099では、インジウム塩及び錫塩を含有する溶液をアンモニアで中和し、沈殿物を除去及び乾燥させ、かつ引き続いて550〜700℃の空気下で最初にか焼し、その後に350〜450℃の還元条件下でか焼することを含む方法を開示している。このようにして得られたITO粉末は、6.5g/cm以上の密度、3.0g/cm以上のグリーン密度及び20℃で30μV/cm未満の及び200℃までの加熱後に80μV/cm未満のゼーベック係数を有する、コランダム結晶構造を有する。粉末の製造において本質的であるのは、か焼中における6.8〜7.5の範囲のpH及び350〜450℃の温度の維持である。
【0010】
W00014017は、表面変性されたITOをベースとする懸濁液及び粉末を製造するための方法を開示しており、その際、インジウム化合物及び錫化合物は、表面変性成分の存在下で共沈し、溶液を、得られた粉末から除去し、この場合、この粉末はその後にか焼されるものであって、か焼を1種またはそれ以上の表面変性成分及び1種又はそれ以上の溶剤の添加により実施し、得られた混合物を粉砕又は分散処理して分散液を形成し、かつ任意の液体成分を懸濁液から除去して粉末を得る。使用された表面変性成分は、モノカルボン酸又はポリカルボン酸、ジケトン、アミノ酸、ポリエチレンオキシド誘導体、アミン又は酸アミド又はこれら成分の2種又はそれ以上の混合物であってもよい。
【0011】
W02004/000594では、ITO粉末を製造するための方法を開示しており、その際、溶解性のインジウム成分及び錫成分がpHの増加によって沈殿する共沈法によって得られた生成物を乾燥させ、通常の空気雰囲気下で、300℃の処理によって結晶相に変換し、かつその後に、フォーミングガス下で300℃でさらなる熱処理をおこなう。得られるITO粉末は、xyカラースケール上で、x値=0.294〜0.414及びy値=0.332〜0.421を有する。
【0012】
公知の共沈法は、透明性、電気伝導性及びIR吸収力に関する欠点を有する生成物を招く。したがって本発明の課題は、より良好な特性を有するITO粉末を導く方法を提供することである。
【0013】
定義
本発明によれば、凝集物は、凝集によって一緒に保持される一次粒子を意味するものと解される。得られる三次元構造は、そのまま取り扱うこともでき、かつ剪断エネルギーの作用下で崩壊して互いに別個の一次粒子を生じてもよい。加えて本発明による凝集物はさらに8%未満、一般には5%未満の互いに強固に結合した一次粒子の小さい割合を含むことが可能である。強固に結合した一次粒子の数は一般には2〜10である。本発明によれば、凝集物は噴霧乾燥によって得ることができる。凝集物は、通常、5〜50μmの平均凝集物直径を有する。
【0014】
本発明によれば、互いに十分にかまたはほぼ十分に分離した一次粒子が、粉末を意味するものと解される。互いに強固に結合する一次粒子が存在する場合には、互いに強固に結合する一次粒子の数は、一般には2〜10に制限される。平均一次粒子直径は2〜50nmであってもよい。本発明によれば、粉末は、剪断力の作用によって凝集物から得ることができる。
【0015】
インジウム錫オキソ水和物は、本質的にはX線非晶質粒子を意味すると解される。オキソ水和物は、結晶化合物の小さい割合を有していてもよい。本発明によるインジウム錫オキソ水和物は、主に又は完全に立方晶の酸化インジウム錫からなる酸化インジウム錫の特別な熱処理によって変換することができる。
【0016】
本発明によれば、酸化インジウム錫は、本質的にはインジウム及び錫の混合酸化物である。その際、インジウム及び錫は、一の酸化状態又は種々の酸化状態で存在していてもよい。たとえば、In(+I)及び/又はIn(+III)及びSn(+II)及び/又はSn(+IV)が存在する。Snは好ましくはSn(+IV)の形で存在する。インジウム及び錫は、場合によってはさらに部分的にIn(0)又はSn(0)として存在していてもよい。
【0017】
酸化インジウム錫は、錫でドープされた酸化インジウムであり、すなわち、酸化錫の割合は、酸化インジウムの割合よりも低い。Inとして換算するインジウムの合計に対する錫の割合及びSnとして換算する錫の割合は、たとえば2〜20質量%である。本発明の酸化インジウム錫は、結晶相として、主に又は完全に立方晶の酸化インジウム錫を有する。
【0018】
本発明によれば、インジウム錫オキソ水和物及び酸化インジウム錫は、不純物を含有していてもよい。許容可能な割合は、最終用途に依存する。反応体中に、たとえばSO−2、Co、Cu、Fe、Ni、Pb、Zn、K又はNaが存在していてもよい。純粋な反応体の使用中においてSO−2、Ca、Co、Cu、Fe、Ni、Pb及びZnは、0.0005質量%未満にすることができ、かつNa、Kは0.01質量%未満にすることができる。方法を介して導入された化合物、たとえばNH及びClは、必要に応じて実際に十分に除去することができる。
【0019】
一般に、表面変性されたインジウム錫オキソ水和物及び酸化インジウム錫に対して、1質量%未満の不純物が存在する。
【0020】
表面変性は、有機分子及び/又はこのような分子のフラグメントを意味するものと解され、この場合、これは、一般的には合計24個の炭素原子を上回ることなく、特に合計18個の炭素原子を上回ることなく、かつより好ましくは12個の炭素原子を上回ることなく、部分的な表面と、共有結合又はイオン結合及び/又は極性(双極子相互作用)又はワンデルワールス力を介して結合する。フラグメントは、例えば、有機分子の部分熱分解を介して生じてもよい。本発明において、表面変性は、炭素の割合によって示される。
【0021】
先ず、本発明は、
−Inとして換算して80〜98.9質量%、好ましくは90〜96質量%のインジウムの割合、
−Snとして換算して2〜20質量%、好ましくは4〜10質量%の錫の割合、
−0.01〜1質量%、好ましくは0.01〜0.1質量%の炭素の割合
を有し、
−その際、これらの割合の合計は、インジウム、錫及び炭素の合計に対して少なくとも99質量%である、インジウム錫オキソ水和物の表面変性された凝集物を提供する。
【0022】
凝集物は5〜50μm、好ましくは10〜20μmの平均凝集物直径を有し、かつ、簡単な分散によって主に又は十分に一次粒子に分けられてもよい。
【0023】
インジウム錫オキソ水和物の凝集物のBET表面積は、好ましくは50〜200m/g及びより好ましくは80〜140m/gである。
【0024】
さらに本発明は、表面変性された凝集物を製造するための方法を提供し、この場合、この方法は、
a)pH3.5〜4.5に調整された、インジウム化合物及び錫化合物ならびに1種又はそれ以上の表面変性成分を含有する水性溶液を、溶解された反応生成物及び反応混合物の未変換原料から除去し、かつ、
b)得られた分散液を噴霧乾燥する。
【0025】
適したインジウム化合物は塩化インジウム、ヨウ化インジウム、硝酸インジウム、酢酸インジウム、硫酸インジウム、インジウムアルコキシド、たとえばインジウムメトキシド又はインジウムエトキシドないしはこれらの混合物であり、その際、インジウムは+3酸化状態であるかさもなければ+1酸化状態で、塩化物及びヨウ化物の形で存在する。
【0026】
適した錫化合物は塩化錫、硫酸錫、錫アルコキシド、たとえば錫メトキシド又は錫エトキシドないしはこれらの混合物であり、その際、錫は+2又は+4の酸化状態で存在する。
【0027】
好ましくは、三塩化インジウム(InCl)及び塩化錫(SnCl)の混合物を使用することが可能である。
【0028】
適した表面変性成分は、
−1〜24個の炭素原子を有する飽和又は不飽和のモノ及びポリカルボン酸(好ましくはモノカルボン酸)、たとえばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、グルタル酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ステアリン酸であり、かつ、特に3,6,9−トリオキサデカン酸及び相当するアンヒドリドであり;
モノ及びポリアミン、特に一般式R3−nNHのもの[式中、nは0、1又は2であり、かつR基はそれぞれ独立して1〜12個、特に1〜6個及び好ましくは1〜4個の炭素原子を有するアルキル基、たとえばメチル、エチル、n−及びi−プロピル及びブチルである];ポリエチレンアミン;
酸アミド、特にカプロラクタム;
アミノ酸、特にβ−アラニン、グリシン、バリン、アミノカプロン酸、ロイシン及びイソロイシン;
4〜12個、特に5〜8個の炭素原子を有するジカルボニル化合物、たとえばアセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、3,5−ヘプタジオン、アセト酢酸、C〜C−アルキルアセトアセテート、たとえばエチルアセトアセテート、ジアセチル及びアセトニルアセトン;
表面活性剤、たとえばカチオン、アニオン、ノニオン及び両性の表面活性剤である。好ましくは、ノニオン表面活性剤であり、特に好ましくはポリエチレンオキシド誘導体である。これらは、飽和又は不飽和の(モノ)カルボン酸、特に7を上回る、好ましくは11を上回る炭素原子を有するカルボン酸との誘導体であってもよく、たとえばステアリン酸、パルミチン酸又はオレイン酸とのポリエチレンオキシド誘導体である。これらはさらにソルビタンエステルとの誘導体であってもよく、この場合、有用なカルボン酸は、たとえば前記に示すものである。さらに、ポリエチレンオキシド(モノ)アルキルエーテル、たとえば7を上回る、好ましくは11を上回る炭素原子を有するアルコールを含むものを使用することが可能である。
【0029】
表面変性成分は、別個に又は混合物として使用することができる。特に好ましい化合物は3,6,9−トリオキサデカン酸、β−アラニン及びカプロラクタムである。
【0030】
使用される表面変性成分の割合は、使用されるインジウム化合物及び錫化合物の合計に対して、好ましくは2〜30質量%、より好ましくは2〜6質量%である。
【0031】
3.5〜4.5の範囲のpHは、たとえば第一級、第二級、第三級の、脂肪族又は芳香族アミン、テトラメチルアンモニウム水酸化物、NaOH、KOH、アンモニア、水酸化アンモニウム又はこれらの混合物を用いて調整することができる。特に好ましくは、水酸化アンモニウムを使用する。反応混合物を、1〜24時間に亘ってこのpHの範囲に置くことが有利であることが見出された。その後に、pH9〜9.5に調整することが有利である。これは、pH3.5〜4.5の範囲への調整において使用される同一の化合物によって実施することができる。
【0032】
有利には、この反応において得られた塩は、反応混合物から除去される。この目的、特にアンモニウム塩の除去のために、クロスフローろ過が有用であると見出され、この場合、このろ過は、分散液の電気伝導性が好ましくは5000μS/cm未満、好ましくは2000μS/cm未満であるように実施することができる。
【0033】
引き続いて、反応混合物は、たとえば蒸発によって濃縮することができる。
【0034】
噴霧乾燥段階に供給される分散液の固体含量は、分散液に対して好ましくは10〜50質量%である。
【0035】
噴霧乾燥は、好ましくは100〜150℃の温度で実施する。
【0036】
さらに本発明は、酸化インジウム錫の表面変性された凝集物を製造するための方法を提供し、その際、本発明によるインジウム錫オキソ水和物の表面変性された凝集物を、空気下で150℃を上回りかつ310℃を下回る温度で乾燥させ、かつその後に還元条件下でか焼する。
【0037】
最も良好な結果は、二段階のか焼が実施される場合において得られ、その際、第二のか焼段階は、最初の段階よりもより高い温度で実施される。二段階のか焼は、
−還元条件下で240〜260℃の温度で処理する工程、
−室温に冷却し、かつ空気下で貯蔵する工程、及び
−その後に還元条件下で270〜310℃の温度で処理する工程、
を含む。
【0038】
個々の処理段階は、それぞれ0.5〜8時間に亘って実施することができる。
【0039】
さらに本発明は、本発明による方法によって得ることが可能な酸化インジウム錫の表面変性された凝集物を提供する。
【0040】
凝集物は5〜50μm、好ましくは10〜25μmの平均凝集物直径を有し、かつ、簡単な分散によって主に又は十分に一次粒子に分けることができる。
【0041】
酸化インジウム錫の凝集物のBET表面積は、これらが得られるインジウム錫オキソ水和物の凝集物のBET表面積を下回る。BET表面積は、好ましくは30〜100m/g及びより好ましくは40〜80m/gである。
【0042】
結晶成分は、主に又は十分に立方晶の酸化インジウム錫からなる。さらに、本発明による凝集物は0.01〜<1質量%、好ましくは0.01〜<0.1質量%及びより好ましくは0.02〜0.08質量%の炭素含量を有する。か焼後に得られた凝集物の炭素含量は、噴霧乾燥後に得られた凝集物の炭素含量よりも低い。さらに、表面変性の化学組成は、か焼及び噴霧乾燥後に異なると考えられる。
【0043】
さらに本発明は、酸化インジウム錫の表面活性粉末及びその分散液を製造するための方法を提供し、この場合、この方法は、本発明による酸化インジウム錫の表面変性された凝集物及び1種又はそれ以上の溶剤を一緒にして混合物を生じ、この混合物を、分散ユニットによって分散液に変換し、かつ液体成分を場合によっては、粉末を得るために分散液から除去する。
【0044】
適した分散ユニットはミル、ニーダー、ロールミル、2個又はそれ以上の予備分散流が互いに1000〜4000バールの圧力で衝突する高エネルギーミルであってもよい。特に、遊星型ボールミル、攪拌型ボールミル、モーターミル及び3本ロールミルを使用することも可能である。超音波による分散も同様に適している。
【0045】
分散は、1種又はそれ以上の溶剤を添加することで実施する。適した溶剤は
−水;
−アルコール、たとえばメタノール、エタノール、n−及びi−プロパノール及びブタノール;
−グリコール及びグリコールエーテル、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール又はブチレングリコール、相当するジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−又はヘキサマー及び相当するモノエーテル及びジエーテル、その際、一方又は双方のヒドロキシル基は、たとえばメトキシ、エトキシ、プロポキシ又はブトキシ基によって置換されており;
−ケトン、たとえばアセトン及びブタノン、
−エステル、たとえば酢酸エチル;
−エーテル、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン及びテトラヒドロピラン;
−アミド、たとえばジメチルアセトアミド及びジメチルホルムアミド;
−スルホキシド及びスルホン、たとえばスルホラン及びジメチルスルホキシド;
−脂肪族(場合によってはハロゲン化)炭化水素、たとえばペンタン、ヘキサン及びシクロヘキサン;
−ポリオール、例えば2−メチル−2,4−ペンタンジオール;
−ポリエチレングリコール及びそのエーテル、たとえばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル又はジエチレングリコールモノブチルエーテル;
−エチレングリコール、ジエチレングリコール及びジエチレングリコールモルブチルエーテルを好ましくは使用する。
【0046】
このような溶剤の混合物を使用することも可能である。
【0047】
分散液に関して、蒸発数(evaporation number)が100又はそれ以上、より好ましくは100〜200である溶剤を使用することが好ましい。この蒸発数は、分散段階における溶剤損失を回避することを可能にする。分散段階後に、蒸発数が100未満、好ましくは10〜50の他の溶剤を用いて希釈することも可能である。蒸発数は、蒸発数が1であるジエチルエーテルを基礎とする。
【0048】
100又はそれ以上の蒸発数を有する溶剤の割合は、酸化インジウム錫及び100又はそれ以上の蒸発数を有する溶剤の質量割合の合計に対して、好ましくは10〜80質量%であり、より好ましくは15〜60質量%である。
【0049】
使用される酸化インジウム錫の表面変性された凝集物の割合は、好ましくは20〜50質量%である。特に、カプロラクタムの存在において沈殿する酸化インジウム錫の表面変性された凝集物を使用することが可能であることが見出された。これらの凝集物の使用は、特に高い電気伝導性を有する酸化インジウム錫粉末又はその分散液を導く。
【0050】
さらに分散は、1種又はそれ以上の表面変性された化合物の存在下で実施することができる。これらは、沈殿においてすでに使用されたものと同一であってもよい。好ましくは、有機カルボン酸、アンヒドリド又は酸アミドを使用することができる。特に好ましくは、3,6,9−トリオキサデカン酸を使用することができる。
【0051】
さらに本発明は、表面変性された酸化インジウム錫粉末を含有する分散液、表面変性された酸化インジウム錫粉末自体、本発明による方法によって得ることが可能な前記分散液及び粉末を提供する。
【0052】
酸化インジウム錫粉末のBET表面積は、酸化インジウム錫の凝集物とほぼ同じである。分散処理の結果としてBET表面積の減少は観察されない。
【0053】
図1は、以下の工程段階を含む好ましい実施態様に関する概略図を示す。
A1=沈殿
A2=クロスフローろ過
A3=噴霧乾燥
B=乾燥およびか焼
C=分散液製造
D=ITO粉末の除去
さらに、原料及び反応生成物は以下のものを含む。
a=塩化インジウム
b=塩化錫
c=カプロタクタム
d=水酸化アンモニウム
e=塩化アンモニウム
f=主として水
g=フォーミングガス
h=排ガス
i=溶剤
j=3,6,9−トリオキサデカン酸(任意)
k=液相。
【0054】
さらに本発明は、被覆材料又は成形材料を製造するための方法を提供し、この場合、この方法は、酸化インジウム錫の本発明による凝集物及び/又は酸化インジウム錫粉末の本発明による分散液及びそれぞれの場合において1種又はそれ以上のバインダーを使用する。
【0055】
乾燥した被覆材料又は成形材料に対するバインダーの割合は、好ましくは10〜91質量%及びより好ましくは40〜85質量%である。
【0056】
乾燥した被覆材料又は成形材料は、揮発性成分を含むことのない材料を意味するものと解される。乾燥は、一般には20〜150℃の温度で実施する。
【0057】
使用されたバインダーは無機バインダー及び有機バインダーであってもよい。適したバインダーは、例えばポリビニル樹脂、ポリオレフィン、PVC、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリスチレン、アクリル樹脂、アクリル酸エステル、アルキド樹脂、ポリウレタン被覆材料、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂被覆材料であってもよい。好ましくは、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ニトロセルロース及びセルロースエステルを使用することができる。
【0058】
被覆材料又は成形材料は、さらに、ナノスケールの無機固体粒子(ナノ粒子)を含むものであってもよい。有用なナノ粒子は、好ましくは200nmを上回ることなく、好ましくは100nmを上回ることのない平均粒子直径を有する。好ましくは、ナノスケールの金属酸化物粒子、例えば酸化アルミニウム、酸化カドミウム、酸化セリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化モリブデン、酸化ニオブ、二酸化珪素、酸化タンタル、二酸化チタン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ジルコニウム及び前記金属酸化物の混合酸化物を使用することができる。ナノスケールの粒子はさらにリン酸塩、ケイ酸塩、ジルコン酸塩、アルミン塩、錫酸塩の形で存在していてもよい。
【0059】
塗布は、例えば捺染、スピン/ディップコーティング、ナイフコーティング、浸漬、噴霧(インクジェット)によって実施することができる。
【0060】
さらに本発明は、1000オーム/□未満の表面抵抗を有する被覆材料又は成形材料を提供し、この場合、この材料は、本発明による方法によって得ることが可能である。被覆材料中のITO含量は、好ましくは60〜85質量%である。
【0061】
被覆材料及び成形材料は、光学的透明性、IR遮断性又は電気伝導性の被覆のために、オプトエレクトロニクス及びマイクロエレクトロニクスにおける用途が見出されていてもよい。さらに、これらは、スクリーン印刷ペースト、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネセンスディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、透明導電層の一部であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明による方法の好ましい実施態様を示す概略図
【0063】

A)表面変性されたインジウム錫オキソ水和物の凝集物
例A−1:インジウム(III)塩化物151.1kg、錫(IV)塩化物・5HO12.6kg及びカプロラクタム6.25kgを、水460.4kgに添加し、かつ攪拌した。透明な溶液が形成されるやいなや、50℃に加熱した。引き続いて、水酸化アンモニウム溶液(25%)122.8kgを攪拌しながら滴加した。懸濁液をさらに24時間に亘って攪拌した。引き続いて、さらに水酸化アンモニウム溶液208.52kgを添加した。塩化アンモニウムをクロスフローろ過:透過流束260〜300kg/mhにより除去した。懸濁液の電気伝導性は1018μS/cmであった。引き続いて、液相を噴霧乾燥によって除去した。この目的のために、9.6質量%の固体含量で、塩化アンモニウムの除去後に得られる20l/hの懸濁液を、8m(STP)/hの空気を用いて乾燥機(操作温度300℃、コーン温度110℃、出口空気温度115℃)中に噴霧した。第1表に示す物理化学的値を有するインジウム錫オキソ水和物の凝集物が得られた。
【0064】
例A−2:インジウム(III)塩化物147.8kg、錫(IV)塩化物・5HO176.4kg及びカプロラクタム6.25kgを用いることを除いて、例1と同様に実施した。
【0065】
例A−3:インジウム(III)塩化物151.1kg、錫(IV)塩化物・5HO12.6kg及びβ−アラニン6.25kgを用いることを除いて、例1と同様に実施した。
【0066】
第1表に示す物理化学的値を有するインジウム錫オキソ水和物の凝集物が得られた。
【0067】
【表1】

【0068】
B)表面変性された酸化インジウム錫の凝集物
例B−1a:例A1からの凝集物を、最初に300℃の空気下で1時間に亘って乾燥させ、その後に炉中で、300℃で1時間を上回ってフォーミングガス雰囲気中で保持した。
【0069】
例B−1b:例A1からの凝集物を、最初に300℃の空気下で1時間に亘って乾燥させ、その後に250℃の温度で1時間を上回って炉中でフォーミングガス雰囲気中で保持した。室温への冷却後に、固体を空気中で、室温で8時間に亘って貯蔵し、その後に275℃の温度で、フォーミングガス雰囲気中で1時間に亘って保持した。
【0070】
例B2:例A2からの凝集物を用いることを除いて、例B−1bと同様の方法を実施した。
【0071】
例B−1a、B−1b及びB−2から得られた酸化インジウム錫の凝集物の物理化学的値を、第2表に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
C)表面変性された酸化インジウム錫粒子の分散液
例C−1b−a:例B−1bからの酸化インジウム錫の凝集物100gを、エチレングリコール48g中に懸濁し、かつ、20分に亘って3本ロールのミル上で粉砕した。凝集物は簡単に崩壊した。表面変性された酸化インジウム錫粒子は、1%分散液中のレーザー回折によって測定されたd50値60nm及びd90値105nmを有していた。
【0074】
例C−1b−b:例B−1bからの酸化インジウム錫の凝集物100gを、Dowanol PPH34g及び3,6,9−トリオキサデカン酸3.1g中に懸濁し、かつ3本ロールミル上で20分に亘って粉砕した。表面変性された酸化インジウム錫粒子は、1%分散液中のレーザー回折によって測定されたd50値65nm及びd90値108nmを有していた。
【0075】
例C−2−b:例B−2からの酸化インジウム錫の凝集物を用いることを除いて、例C−1b−bと同様に実施した。表面変性された酸化インジウム錫粒子は、1%分散液中のレーザー回折によって測定されたd50値65nm及びd90値110nmを有していた。
【0076】
例C−1b−c:例B−1bからの酸化インジウム錫の凝集物40.00gを、ジアセトンアルコール49.04g、ブチルエトキシエチルアセテート10.00g及び3,6,9−トリオキサデカン酸0.96gの混合物中で懸濁し、かつ20分に亘って3本ロールミル上で粉砕した。
【0077】
例C−2−c:例B−2からの酸化インジウム錫の凝集物を用いることを除いて、例C−1b−cと同様に実施した。
【0078】
D)被覆材料
例D−1b−c:被覆材料は、例C−1b−cからの分散液と質量の点で等しい割合を、ニトロセルロース17質量部及びジアセトンアルコール83質量部の溶液と一緒に混合した。
【0079】
例D−2−c:例C−2−cからの分散液を用いることを除いて、例D−1b−cと同様に実施した。
【0080】
比較例:EP-A-1113992、例1bで開示された酸化インジウム錫粉末を、形成後に含有する分散液を用いるのを除いて、例D−1b−cと同様に実施した。例C−1b−cと同様に、分散液はこの粉末を用いて製造した。
【0081】
例D−1b−c及びD−2−b及び比較例からの被覆材料を、ガラス及びPETに塗布し、かつ1時間に亘って120℃で硬化した。液体被覆材料中のITO含量は、それぞれの場合において28質量%であり、かつ固体の被覆材料中で82.5質量%であった。液体被覆材料中のバインダーの割合はそれぞれの場合において6質量%であり、かつ、固体被覆材料中で17.5質量%であった。湿性の塗膜の厚さはそれぞれの場合において50μmであり、乾燥塗膜の厚さは5.1μmであった。
【0082】
【表3】

【0083】
本発明による酸化インジウム錫の凝集物を用いて製造された被覆された支持体は、従来技術による酸化インジウム錫で被覆されたこれらの支持体よりも、顕著に低い表面抵抗を有している。
【符号の説明】
【0084】
A1 沈殿、 A2 クロスフローろ過、 A3 噴霧乾燥、 B 乾燥およびか焼、 C 分散液製造、 D ITO粉末の除去、 a 塩化インジウム、 b 塩化錫、 c カプロタクタム、 d 水酸化アンモニウム、 e 塩化アンモニウム、 f 主として水、 g フォーミングガス、 h 排ガス、 i 溶剤、 j 3,6,9−トリオキサデカン酸(任意)、 k 液相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Inとして換算して80〜98.9質量%のインジウム、Snとして換算して2〜20質量%の錫、0.01〜1質量%の炭素の割合を有する、インジウム錫オキソ水和物の表面変性された凝集物において、これらの割合の合計が、インジウム、錫及び炭素の合計に対して少なくとも99%である、前記表面変性された凝集物。
【請求項2】
a)pH3.5〜4.5に調整された、インジウム化合物及び錫化合物並びに1種又はそれ以上の表面変性成分を含有する水性溶液を、溶解された反応生成物及び反応混合物の未変換原料から除去し、
b)得られた分散液を噴霧乾燥する、請求項1に記載の表面変性された凝集物の製造方法。
【請求項3】
請求項1によるインジウム錫オキソ水和物の表面変性された凝集物を、空気下で150℃を上回り、かつ310℃を下回る温度で乾燥させ、かつその後に還元条件下でか焼する、酸化インジウム錫の表面変性された凝集物の製造方法。
【請求項4】
か焼を最初に還元条件中で240〜260℃の温度で実施し、凝集物を室温に冷却し、空気下で貯蔵し、かつその後に、還元条件下で270〜310℃の温度で処理する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の方法によって得られる酸化インジウム錫の表面変性された凝集物。
【請求項6】
請求項5に記載の表面変性された凝集物及び1種又はそれ以上の溶剤を組み合わせて混合物を生じ、この混合物を、分散ユニットを介して分散液に変換し、かつ場合によっては粉末を得るために液体成分を分散液から除去する、酸化インジウム錫の表面変性された粉末及びその分散液の製造方法。
【請求項7】
1種又はそれ以上の表面変性成分を使用する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の方法によって得られる表面変性された酸化インジウム錫粉末を含む分散液。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の方法によって得られる表面変性された酸化インジウム錫粉末。
【請求項10】
請求項5に記載の酸化インジウム錫の凝集物又は請求項8に記載の酸化インジウム錫粉末の分散液及びそれぞれの場合において1種又はそれ以上のバインダーを使用する、被覆材料又は成形材料の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法によって得られる1000オーム/□未満の表面抵抗を有する被覆材料又は成形材料。

【図1】
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【公表番号】特表2011−519811(P2011−519811A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507860(P2011−507860)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054510
【国際公開番号】WO2009/135748
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】