説明

酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤及びその製造方法

【課題】可視光で高い光触媒活性を示す酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】酸化チタン・チタン酸鉄接合構造の光触媒剤は、気体状と水溶液状で可視光を吸収して、従来使用された酸化チタン光触媒より非常に優れた光触媒効率を示すので、従来紫外線領域で作動した光触媒作用の代わりに活用範囲を可視光領域まで拡張できる。上記光触媒は、実生活で光触媒として使用される分野で有用に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒というのは、自体は反応前後で変化しないが、光を吸収することで反応を促進させる物質で、n型半導体物質であり、光(例えば、紫外線(λ<380nm)など)を受けると電子と電子ホールを形成する。形成された電子(e)と電子ホール(h)は、表面に移動してそれぞれ酸素(O)及びヒドロキシ基(OH)と結合して強力な酸化力を有したヒドロキシラジカル(・OH)とスーパーオキシド陰イオン(・O)を生成し、このようなヒドロキシラジカルとスーパーオキシド陰イオンは、有機物を酸化分解させて水(HO)と炭酸ガス(CO)に変化させる。光触媒はこのような原理で空気中の汚染物質や臭いなどを酸化分解して人体に無害な水(HO)と炭酸ガス(CO)に変化させるので、脱臭剤、浄化剤などの用途に使用されている。
【0003】
また、細菌も有機化合物なので、光触媒の強い酸化作用によって酸化分解されて殺菌される。したがって、光触媒は抗菌剤として使用されるだけではなく、癌治療剤にも使用されている。
【0004】
このように、光触媒は環境親和的であると同時に環境を清潔に維持する役割をするので、環境汚染によるシックハウス症侯群などの新種疾病が発生している現在において、これに対する関心が高まっている。
【0005】
現在使用されている光触媒の種類には、SrTiO、CdSe、KNbO、TiO等があり、その中でTiO(酸化チタン)は、白色顔料、化粧品、食品添加物などに広く使用される化学的に安定かつ人体に無害な物質として知られている。その結果、前記TiOは、主に使用されている光触媒であり、デグサP25(Degussa P25)という商品名で市販されている。
【0006】
しかし、酸化チタン光触媒は、紫外線領域では優れた光触媒効率を示すが、荷電子帯と伝導帯の間のエネルギー間隔が3.2eVであるので、可視光領域では有機物分解効率が非常に低いという問題がある。よって、可視光領域で優れた光触媒効率を示す新しい光触媒物質の開発が切実に求められているのが実情である。
【0007】
最近、前記のような要求に答えるため、可視光領域で光触媒活性を示す物質を開発するための研究が活発に行われている。例えば、可視光領域で電子と電子ホールを作ることができる狭いバンドギャップを有するCdS、CuO、CdSeなどの半導体物質と酸化チタンとの接合物質を光触媒物質に使用している。このような物質は、光エネルギーを受けて電子を生成して、それを自体より伝導帯が低い酸化チタンの伝導帯に伝達して光触媒反応中の還元反応を通じて光触媒活性を示す。しかし、反応性の側面で還元反応による光触媒反応は、酸化反応による光触媒反応に比較してその強さが弱いため、汚染物質を完全に分解することができないという問題点がある。
【0008】
以上のことに鑑みて、本発明者等は可視光領域で優れた光触媒効率を示す新しい光触媒物質を開発するための研究を遂行する中、酸化チタンの価電子帯と類似の低いポテンシャルの価電子帯を有して、可視光領域で電子と電子ホールを生成することができ、照射された光エネルギーによって生成された電子ホールを酸化チタンの価電子帯に伝達して光触媒反応中の酸化反応を通じて光触媒反応を示し、従来の酸化チタン光触媒よりさらに優れた効率を示す酸化チタン・チタン酸鉄接合物質を開発して完成させた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、可視光で高い光触媒活性を示す酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、前記酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は可視光で高い光触媒活性を示す酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤及びその製造方法を提供する。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明は、酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤を提供する。
【0014】
本発明による前記光触媒剤の酸化チタン・チタン酸鉄(FeTi)は、FeとTiの組成割合、すなわち、x:yが2:1〜1:5の組成割合を有する。また、酸素の含量であるnの範囲は2以上であり、必ずしも定数である必要はない。前記酸化チタンとチタン酸鉄の接合形態は、その内部がチタン酸鉄粒子及び膜で構成されて、その粒子及び膜表面に酸化チタンが接合している構造である。ここで前記酸化チタンがチタン酸鉄を完全には取り囲まない構造を排除するものではない。前記酸化チタン・チタン酸鉄接合構造の一実施態様を、図1に示した。
【0015】
前記チタン酸鉄は、TiとFeを含有した酸化物で、例えば、FeTiO、FeTi、FeTi11、FeTiO、FeTiO、FeTiO、FeTi10、FeTi2.6030.35、FeTi10等の単独またはその混合物を挙げることができる。
【0016】
前記光触媒剤の酸化チタンの結晶構造は、アナターゼ(Anatase)、ルチル(Rutile)またはブルカイト(Brookite)中のいずれか一つであり、アナターゼ(Anatase)であることが好ましい。
【0017】
本発明による酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤に使用される酸化チタンの粒子径は、1〜1000nmであるものを使用し、またチタン酸鉄の粒子径は1〜10000nmのものを使用するのが好ましい。
【0018】
本発明による光触媒剤において、前記酸化チタンの含量は、酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤全体に対して20〜99mol%であることが好ましく、50〜97mol%であることがさらに好ましい。本発明による光触媒剤の触媒効率は、酸化チタンの含量に依存する。万一、酸化チタンの含量が20mol%未満または99mol%を超える場合には、高効率の光触媒活性を期待しにくい。
【0019】
また、本発明は下記の工程1ないし3を含んでなる、酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤の製造方法を提供する。
【0020】
アルコール溶媒にチタン酸鉄粉末を添加した後、前記チタン酸鉄粉末溶液に硝酸及び蒸留水を添加、並びに撹拌してチタン酸鉄分散溶液を製造する工程(工程1)、前記工程1で製造されたチタン酸鉄分散溶液にチタンアルコキシドを添加して室温で撹拌しながら溶媒を除去して非晶質酸化チタン・チタン酸鉄を製造する工程(工程2)及び、前記工程2で生成された非晶質な酸化チタンとチタン酸鉄の接合構造を乾燥させた後、熱処理を遂行してアナターゼ結晶構造を有する酸化チタンとチタン酸鉄の接合構造に結晶化させる工程(工程3)。
【0021】
以下、本発明の製造方法を工程別にさらに詳しく説明する。
【0022】
まず、本発明による前記工程1は、チタン酸鉄粉末溶液を製造する工程である。
【0023】
前記工程1のアルコール溶媒には、エチルアルコール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノールなどを使用することができる。また、前記硝酸には30%硝酸溶液を使用することが好ましい。
【0024】
次に、本発明による前記工程2は、非晶質酸化チタン・チタン酸鉄を製造する工程である。前記工程2でチタンアルコキシドは、酸化チタンの原料物質として使用される。すなわち、前記チタンアルコキシドは、金属中心原子にエトキシド(Ethoxide)やブトキシド(Butoxide)、イソプロポキシド(Isopropoxide)などのようなアルコキシドが付着しているので、熱処理過程で酸化チタン粒子を生成し得る前駆体である。本発明による前記チタンアルコキシド前駆体の使用量は、前記チタン酸鉄に対してモル比で20〜99mol%であることが好ましく、50〜97mol%であることがさらに好ましい。ここで、前記チタンアルコキシド前駆体の使用量が、チタン酸鉄に対して20%未満なら光触媒活性が低下して光触媒物質として使用するのに相応しくない。また、チタンアルコキシド前駆体使用量が、99mol%を超過すると純粋な酸化チタンと組成が類似になる結果、可視光での光触媒活性が低下するので、可視光光触媒として使用するのに相応しくない。
【0025】
次に、本発明による前記工程3は、アナターゼ結晶構造を有する酸化チタンとチタン酸鉄接合構造に結晶化させる工程である。
【0026】
前記工程3の乾燥は、製造された非晶質酸化チタン・チタン酸鉄接合構造物内に残存する溶媒を完全に除去させることができればその方法に制限はなく、好ましくは100℃で10時間以上乾燥させる。
【0027】
非晶質構造の酸化チタン・チタン酸鉄接合構造物を結晶化させるために、前記工程3の熱処理は400〜500℃で遂行することが好ましい。
【0028】
もし、前記熱処理温度が400℃未満で遂行されると、酸化チタンの結晶性が低くなって光触媒活性が減少する。一方、500℃を超過すると、形成された酸化チタンとチタン酸鉄が反応して接合構造ではない他の物質を形成し得るので適合しない。
【0029】
本発明による一実施態様の酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造の透過電子顕微鏡写真を参照すると、前記接合構造は粒径10nm程度の酸化チタン粒子がチタン酸鉄表面に接合されて酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を形成している。
【0030】
本発明による酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤は、下記のような原理によって光触媒として作用することができる。
【0031】
バンドギャップが可視光領域である物質(A)と異なる半導体酸化物(B)を接合させると、可視光線下でAの価電子帯に存在する電子が伝導帯に励起されて、ここで前記伝導帯の電子や価電子帯の電子ホールがBに伝達される。前記Bに伝達された電子や電子ホールは、光触媒作用を起こすことができる。したがって、単独で存在する場合にはB物質が可視光下で光触媒活性がほとんどなかったとしても可視光線で光を吸収する物質と接合すると可視光下で優れた光触媒作用を示すことができる。
【0032】
前記原理によって、本発明の一実施態様による光触媒剤のチタン酸鉄は、可視光を吸収して価電子帯の電子を伝導帯に励起して、該励起したチタン酸鉄の価電子帯の電子ホールは、酸化チタンの伝導帯に伝達されて酸化チタンの表面で電子ホールは光触媒作用を起こすことができる。前記酸化チタンは、バンドギャップが3.2eVなので可視光ではほとんど光触媒活性がないが、チタン酸鉄と接合構造を成すことで優れた可視光光触媒作用を示すようになる。
【発明の効果】
【0033】
本発明による酸化チタン・チタン酸鉄接合構造の光触媒剤は、気体状と水溶液状で遂行した可視光領域の光触媒効率実験で、従来使用された酸化チタン光触媒より約5倍以上の優れた光触媒効率を示すので、従来紫外線領域で作動した光触媒の代わりをして活用範囲を可視光領域まで拡張した光触媒として有用に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を実施例及び実験例によって詳しく説明する。但し、下記の実施例は本発明を例示するだけのものであって、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0035】
実施例1:酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造を有する光触媒剤の製造
工程1:チタン酸鉄分散溶液の製造
エチルアルコール50mlにチタン酸鉄(FeTiO;アルドリッチケミカル社)1gを添加して約30分間撹拌後、超音波破砕機を使用して30時間2次撹拌を遂行して分散を容易にした。以後、反応溶液に30%硝酸1mlと蒸留水1.1mlを添加してマグネティックスターラーで10分間撹拌した。
【0036】
工程2:非晶質酸化チタン・チタン酸鉄の製造
上記分散溶液にチタンイソプロポキシド(アルドリッチケミカル社)をチタン酸鉄に対して21%モル比で添加した後、室温で48時間撹拌しながら溶媒を自然に除去した。
【0037】
工程3:酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤の製造
非晶質の酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を100℃で12時間乾燥した後、450℃で1時間熱処理をして、酸化チタン(21%)、チタン酸鉄(79%)のモル比率を有する酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤を製造した。
【0038】
実施例2:酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造の光触媒剤の製造
酸化チタンとチタン酸鉄のモル比率が44:56であることを除き実施例1と同一な方法で遂行して、酸化チタンの含量が44%である酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤を製造した。
【0039】
実施例3:酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造の光触媒剤の製造
酸化チタンとチタン酸鉄のモル比率が61:39であることを除き実施例1と同一な方法で遂行して、酸化チタンの含量が61%である酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤を製造した。
【0040】
実施例4:酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造の光触媒剤の製造
酸化チタンとチタン酸鉄のモル比率が72:28であることを除き実施例1と同一な方法で遂行して、酸化チタンの含量が72%である酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤を製造した。
【0041】
実施例5:酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造の光触媒剤の製造
酸化チタンとチタン酸鉄のモル比率が80:20であることを除き実施例1と同一な方法で遂行して、酸化チタンの含量が80%である酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤を製造した。
【0042】
実施例6:酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造の光触媒剤の製造
酸化チタンとチタン酸鉄のモル比率が90:10であることを除き実施例1と同一な方法で遂行して、酸化チタンの含量が90%である酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤を製造した。
【0043】
実施例7:酸化チタン・チタン酸鉄(FeTi)接合構造の光触媒剤の製造
チタン酸鉄(FeTiO)の代わりに合成したチタン酸鉄(FeTi)を使用して、前記チタン酸鉄に対してチタンイソプロポキシドを80%モル比で添加したことを除き実施例1と同一な方法で遂行して、酸化チタンの含量が80%である酸化チタン・チタン酸鉄(FeTi)接合構造を有する光触媒剤を製造した。
【0044】
実施例8:酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造の光触媒剤の製造
チタン酸鉄(FeTiO)の代わりに合成したチタン酸鉄(FeTiO)を使用して、前記チタン酸鉄に対してチタンイソプロポキシドを80%モル比で添加したことを除き実施例1と同一な方法で遂行して、酸化チタンの含量が80%である酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合粒子を製造した。
【0045】
実施例9:酸化チタン・チタン酸鉄(FeTi10)接合構造の光触媒剤の製造
チタン酸鉄(FeTiO)の代わりに合成したチタン酸鉄(FeTi10)を使用して、前記チタン酸鉄に対してチタンイソプロポキシドを85%モル比で添加したことを除き実施例1と同一な方法で遂行して、酸化チタンの含量が85%である酸化チタン・チタン酸鉄(FeTi10)接合粒子を製造した。
【0046】
実施例10:酸化チタン・チタン酸鉄(FeTi2.6030.35)接合構造の光触媒剤の製造
チタン酸鉄(FeTiO)の代わりに合成したチタン酸鉄(FeTi2.6030.35)を使用して、前記チタン酸鉄に対してチタンイソプロポキシドを80%モル比で添加したことを除き実施例1と同一な方法で遂行して、酸化チタンの含量が80%である酸化チタン・チタン酸鉄(FeTi2.6030.35)接合粒子を製造した。
【0047】
実施例11:酸化チタン・チタン酸鉄(FeTi10)接合構造の光触媒剤の製造
チタン酸鉄(FeTiO)の代わりに合成したチタン酸鉄(FeTi10)を使用して、前記チタン酸鉄に対してチタンイソプロポキシドを80%モル比で添加したことを除き実施例1と同一な方法で遂行して、酸化チタンの含量が80%である酸化チタン・チタン酸鉄(FeTi10)接合粒子を製造した。
【0048】
実施例12:酸化チタン・チタン酸鉄(FeTi11)接合構造の光触媒剤の製造
チタン酸鉄(FeTiO)の代わりに合成したチタン酸鉄(FeTi11)を使用して、前記チタン酸鉄に対してチタンイソプロポキシドを80%モル比で添加したことを除き実施例1と同一な方法で遂行して、酸化チタンの含量が80%である酸化チタン・チタン酸鉄(FeTi11)接合粒子を製造した。
【0049】
比較例1:酸化チタン光触媒剤の製造
前記酸化チタンとチタン酸鉄のモル比率が100:0であることを除き、実施例1と同一な方法で遂行して酸化チタンの含量が100%である酸化チタン粒子を製造した。
【0050】
比較例2:チタン酸鉄光触媒剤の製造
チタン酸鉄(100% FeTiO;アルドリッチケミカル社)を使用した。
【0051】
実験例1:酸化チタン・チタン酸鉄接合構造の光触媒剤の物理的特性測定
(1)接合構造の形態確認
本発明による酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤の接合構造の形態を調べるために次のような実験を遂行した。
【0052】
実施例1によって製造された酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)粒子を透過電子顕微鏡TEM(Transmission electron microscope,フィリップスCM30)と走査電子顕微鏡FESEM(Field emission scanning electron microscope,日立S−4300)で撮影した。その結果を図2及び図3に示した。
【0053】
図2及び図3に示したように、チタン酸鉄の不規則な模様を有していて、そこに超微細サイズの酸化チタン粒子(約10nmの径)が付いていることが分かり、酸化チタンとチタン酸鉄がとても良く接合していることを確認することができる。
【0054】
(2)粒子結晶性測定
本発明により酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造の光触媒剤が形成されることによる結晶性の変化を調べるために次のような実験を遂行した。
【0055】
前記結晶性は、X線回折分析機(リガク社、DMAX 2500 diffract meter CuKa radiation(λ=1.54056Å))で回折パターンを撮影して測定した。
【0056】
まず、製造時の酸化チタンの含量を0%(比較例2)、21%(実施例1)、44%(実施例2)、61%(実施例3)、72%(実施例4)、80%(実施例5)、100%(比較例1)に変化させながらX線回折パターンを撮影した。そのX線回折パターンを図4に示した。
【0057】
図4に示したように、前記X線回折パターンから、文献と比較して酸化チタン(JCPDS65−2366)とチタン酸鉄(JCPDS75−1211)を確認し、それからチタン酸鉄表面に酸化チタンが接合されて存在することを確認した。
【0058】
(3)反射率測定
本発明により酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造の光触媒剤が形成されることによる反射率の変化を調べるために次のような実験を遂行した。
【0059】
まず、酸化チタンの含量が0%(比較例2)、44%(実施例2)、72%(実施例4)、80%(実施例5)、100%(比較例1)の酸化チタン・チタン酸鉄接合構造の光触媒剤の波長による反射率の変化を紫外可視分光光度計(UV/VIS spectrometer diffuse reflectance)を使用して測定した。その結果を図5に示した。
【0060】
図5に示したように、酸化チタンは含量が100%であるものは波長が約380nm以内で吸収されるので可視光領域(380〜770nm)ではほとんど吸収されないが、チタン酸鉄(FeTiO)と接合された酸化チタン粒子は、可視光領域で吸収が起きることを確認した。また、チタン酸鉄の含量が高くなるほど反射率が低くなることにより可視光線での吸収量が増加することが分かる。
【0061】
したがって、本発明による酸化チタン・チタン酸鉄接合構造の光触媒剤は、可視光領域で光を吸収するので有用に使用することができる。
【0062】
実験例2:光触媒効率測定
(1)気体状での光触媒有機物分解実験
2−プロパノールが1000ppm濃度で満たされた0.2l反応器に実施例1〜6または比較例1及び2の粒子4mgを2.5cm×2.5cmサイズのパイレックス(登録商標)ガラス上にコーティングして300Wのキセノン(Xe)ランプで光を照射した。ここで、光は紫外線除去フィルター(420nm以下除去フィルター)を使用して、420nm以上の可視光波長のみを使用した。前記可視光光触媒反応によって2−プロパノールが分解されて生成された二酸化炭素の濃度をガスクロマトグラフィーで30分間隔で2時間測定した。その結果を図6、図7、表1及び表2に示した。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
図6は、本発明による酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造を有する実施例1〜5の気体状での光触媒有機物分解能を比較例1〜2と比較した結果のグラフで、図7は本発明による酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造を有する実施例1〜5の気体状での光触媒有機物分解後の二酸化炭素(CO)発生を比較例1〜2と比較した結果のグラフである。
【0066】
図6、図7及び表1に示したように、比較例1の酸化チタンと比較例2のチタン酸鉄(FeTiO)は、可視光領域で単独での光触媒効率は非常に低かったが、前記酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造の光触媒剤は、従来光触媒として使用される酸化チタン(比較例1)よりずっと高い可視光光触媒効率を示すことが分かる。
【0067】
また、表2に示したように、酸化チタンが多くの種類のチタン酸鉄(FeTi(実施例7)、FeTiO(実施例8)、FeTi10(実施例9)、FeTi2.6030.35(実施例10)、FeTi10(実施例11)及びFeTi11(実施例12))と接合構造を成す場合、すべての場合で、可視光での光触媒作用による二酸化炭素生成量が、純粋な酸化チタン(比較例1)を使用したものより多かった。しかし、FeTiOと接合させた構造(実施例4、5)よりは、光触媒効率が低かった。
【0068】
(2)水溶液状での光触媒有機物分解実験
50μlの4−クロロフェノール(4−chlorophenol)水溶液50mlを石英ガラス管に入れて、実施例2〜5で製造した酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合粒子及び比較例1の酸化チタン粒子50mgを、前記で調製された4−クロロフェノール水溶液に分散させた後、300Wのキセノンランプで光を照射した。ここで、光は紫外線除去フィルター(420nm以下除去フィルター)を使用して、420nm以上の可視光波長のみを使用した。前記可視光光触媒反応によって前記4−クロロフェノールが分解されて変化した濃度を紫外可視分光光度計を使用して30分間隔で2時間測定した。その結果を図8に示した。
【0069】
図8は、実施例が酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合粒子であるときの、水溶液状での光触媒有機物分解結果のグラフである。図8に示したように、実施例2〜5の酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造の光触媒剤は、従来の光触媒として使用される酸化チタンより水溶液状でずっと高い可視光光触媒効率を示すことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明による一実施態様の酸化チタン・チタン酸鉄(FeTi;FeとTiの組成割合が2:1〜1:5)接合構造を有する光触媒剤を示した模式図である。
【図2】本発明による一実施態様で製造された酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造の光触媒剤の透過電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明による酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造の光触媒剤の走査電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明による一実施態様の光触媒剤内の酸化チタン含量に対するX線回折パターン分析を示したグラフ((a):比較例2、(b):実施例1、(c):実施例2、(d):実施例3、(e):実施例4、(f):実施例5、(g):比較例1)である。
【図5】本発明による一実施態様の光触媒剤内の酸化チタン含量に対する波長吸収を示したグラフ((a):比較例1、(b):実施例5、(c):実施例4、(d):実施例2、(e):比較例2)である。
【図6】本発明による一実施態様の酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造の光触媒剤の気体状での光触媒分解効率を示したグラフ(−■−:比較例2、−●−:比較例1、−▲−:実施例1、−▼−:実施例2、−☆−:実施例3、−△−:実施例4、−▽−:実施例5)である。
【図7】本発明による一実施例による酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造の光触媒剤の気体状での有機物分解時に生成される二酸化炭素量による光触媒効率を示したグラフ(−■−:比較例2、−●−:比較例1、−▲−:実施例1、−▼−:実施例2、−☆−:実施例3、−△−:実施例4、−▽−:実施例5)である。
【図8】本発明による酸化チタン・チタン酸鉄(FeTiO)接合構造の光触媒剤の水溶液状での有機物分解時に生成される二酸化炭素量による光触媒効率を示したグラフ(−■−:比較例1、−●−:実施例2、−▲−:実施例3、−▼−:実施例4、−★−:実施例5)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン・チタン酸鉄が接合されている構造を有する酸化チタン(TiO)−チタン酸鉄(FeTi)光触媒剤。
【請求項2】
前記チタン酸鉄(FeTi)のFeとTiの組成割合が2:1〜1:5で、nは2以上であることを特徴とする、請求項1に記載の酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤。
【請求項3】
前記チタン酸鉄(FeTi)が、FeTiO、FeTi、FeTi11、FeTiO、FeTiO、FeTi10、FeTi2.6030.35及びFeTi10からなる群から選択される、いずれか一つまたはそれらの混合であることを特徴とする、請求項2に記載の酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤。
【請求項4】
前記酸化チタンが、アナターゼ、ルチルまたはブルカイト結晶構造であることを特徴とする、請求項1に記載の酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤。
【請求項5】
前記酸化チタンの結晶構造が、アナターゼ結晶構造であることを特徴とする、請求項4に記載の酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤。
【請求項6】
前記光触媒剤に使用される酸化チタンの粒子径が、1〜1000nmであることを特徴とする、請求項1に記載の酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤。
【請求項7】
前記光触媒剤に使用されるチタン酸鉄の粒子径が、1〜10000nmであることを特徴とする、請求項1に記載の酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤。
【請求項8】
前記光触媒剤の酸化チタンの含量が、光触媒剤全体に対して20〜99mol%であることを特徴とする、請求項1に記載の酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤。
【請求項9】
アルコール溶媒にチタン酸鉄粉末を添加した後、前記チタン酸鉄粉末溶液に硝酸及び蒸留水を添加、並びに撹拌してチタン酸鉄分散溶液を製造する工程(工程1)、前記工程1で製造されたチタン酸鉄分散溶液にチタンアルコキシドを添加して室温で撹拌しながら溶媒を除去して非晶質酸化チタン・チタン酸鉄を製造する工程(工程2)及び、前記工程2で生成された非晶質な酸化チタンとチタン酸鉄の接合構造を乾燥させた後、熱処理を遂行してアナターゼ結晶構造を有する酸化チタンとチタン酸鉄の接合構造に結晶化させる工程(工程3)を含んでなる、請求項1に記載の酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を有する光触媒剤の製造方法。
【請求項10】
前記工程1のアルコール溶媒が、エチルアルコール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノールまたはそれらの混合溶媒であることを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記工程2のチタン酸鉄粉末が、FeTiO、FeTi、FeTi11、FeTiO、FeTiO、FeTi10、FeTi2.6030.35及びFeTi10からなる群から選択されるいずれか一つまたはそれらの混合であることを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
前記工程2のチタンアルコキシドが、エトキシド、ブトキシドまたはイソプロポキシドであることを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【請求項13】
前記工程3の熱処理温度が、400〜500℃であることを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−166022(P2009−166022A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137872(P2008−137872)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(505224569)インハ インダストリー パートナーシップ インスティテュート (17)
【氏名又は名称原語表記】Inha−Industry Partnership Institute
【Fターム(参考)】