説明

酸化プロピレンの製造方法

【課題】従来の製造方法によって得られる酸化プロピレンの生成量は、必ずしも充分に満足できるものではなかった。
【解決手段】下記(a)、(b)及び(c)を含む銀触媒及び水の存在下、プロピレンと酸素とを反応させる工程を含むことを特徴とする酸化プロピレンの製造方法。
(a)金属銀、銀化合物又はこれらの混合物
(b)リン、リン含有化合物又はこれらの混合物
(c)担体

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化プロピレンの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化プロピレンの製造方法として、プロピレンを酸素により酸化させる製造方法が知られている。例えば、銀と結晶性シリケートとから調製された銀触媒及び水の存在下に、プロピレンと酸素とを反応させることにより酸化プロピレンが得られることが特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭51−40051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に記載された製造方法によって得られる酸化プロピレンの生成量は、必ずしも充分に満足できるものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況下、本発明者らは鋭意検討した結果、以下の本発明に至った。
<1> 下記(a)、(b)及び(c)を含む銀触媒及び水の存在下、プロピレンと酸素とを反応させる工程を含むことを特徴とする酸化プロピレンの製造方法。
(a)金属銀、銀化合物又はこれらの混合物
(b)リン、リン含有化合物又はこれらの混合物
(c)担体
<2> 前記銀触媒が、前記(a)及び前記(c)を接触させる工程と、前記工程で得られた組成物及び前記(b)を接触させる工程と、を含む方法により調製された銀触媒であることを特徴とする<1>記載の製造方法。
<3> 前記銀触媒が、前記(a)と前記(c)とを接触させる工程と、前記工程で得られた組成物における銀化合物を還元する工程と、前記工程で得られた還元後の組成物及び前記(b)を接触させる工程と、を含む方法により調製された銀触媒であることを特徴とする<1>記載の製造方法。
<4> 前記銀触媒が、前記(a)に含まれる銀1モルに対して前記(b)の使用量 0.005〜10モルの範囲で調製された銀触媒であることを特徴とする<2>又は<3>記載の製造方法。
【0006】
<5> 前記(c)が、アルカリ土類金属炭酸塩からなる担体であることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか記載の製造方法。
<6> 前記(b)が、リン含有化合物であることを特徴とする<1>〜<5>のいずれか記載の製造方法。
<7> 前記(a)が、銀化合物又は金属銀と銀化合物との混合物であることを特徴とする<1>〜<6>のいずれか記載の製造方法。
<8> 前記(a)が、硝酸銀、炭酸銀及び酸化銀からなる群より選択された少なくとも1種の銀化合物を含むことを特徴とする<1>〜<7>のいずれか記載の製造方法。
<9> 銀触媒が、銀触媒100質量部に対して0.5質量部以上の量で銀を含む銀触媒であることを特徴とする<1>〜<8>のいずれか記載の製造方法。
<10> プロピレンと酸素とを反応させる工程の反応溶液における水の量が、プロピレン1モルに対して0.2〜10モルの範囲であることを特徴とする<1>〜<9>のいずれか記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、高い生成量で酸化プロピレンが提供可能である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<銀触媒>
本発明に係る銀触媒は、(a)金属銀、銀化合物又はこれらの混合物(本明細書において、単に、「(a)」ともいう。)、(b)リン、リン含有化合物又はこれらの混合物(本明細書において、単に、「(b)」ともいう。)、及び(c)担体(本明細書において、単に、「(c)」ともいう。)を含む
【0009】
銀触媒の調製方法としては、例えば、(a)及び(c)を接触させる工程と、前記工程で得られた組成物及び(b)を接触させる工程と、を含む方法により調製する方法;例えば、(a)と(c)とを接触させる工程と、前記工程で得られた組成物における銀化合物を還元する工程と、前記工程で得られた還元後の組成物及び(b)を接触させる工程と、を含む方法により調製する方法等を挙げることができる。
ここで、(a)及び(c)を接触させる工程としては、例えば、(a)と(c)とを混合する工程等を挙げることができる。
また、(b)を接触させる工程としては、例えば、(a)及び(c)を接触させる工程で得られた組成物と、又は、該組成物における銀化合物を還元し、得られた還元後の組成物と、(b)とを混合する工程等を挙げることができる。
【0010】
銀触媒は、(a)として銀化合物又は金属銀と銀化合物との混合物を用いる場合、銀化合物を還元する工程を行うことが好ましい。かかる還元工程は、(a)及び(c)を接触させる工程の前に行っても、前記したように、(a)及び(c)を接触させる工程の後に行ってもよく、(a)及び(c)を接触させる工程の後で、かつ、(b)を接触させる工程の前に行うことが好ましい。
【0011】
銀触媒は、一般に、(a)に由来する金属銀粒子、(b)及び(c)を有し、(a)に由来する金属銀粒子が、銀触媒中に適度に分散し且つ担体に担持された構造を有している。
【0012】
(a)としては、銀化合物が好ましい。好ましい銀化合物としては、例えば、酸化銀、炭酸銀、硝酸銀、硫酸銀、シアン化銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、酢酸銀、安息香酸銀及び乳酸銀等の銀塩;アセチルアセトナート銀等の銀錯体;が挙げられる。銀化合物としては、硝酸銀、炭酸銀、酸化銀又はこれらから選ばれる2種以上の混合物が好ましく、硝酸銀がより好ましい。
【0013】
銀触媒中の銀(銀原子)の含有量(銀含有量)は、銀触媒の合計100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上である。また、銀触媒中の銀(銀原子)の含有量(銀含有量)は、銀触媒の合計100質量部に対して、95質量部以下であることが好ましい。
【0014】
銀触媒の調製において(a)、(b)及び(c)の各々の量は、銀触媒中の銀含有量が上記範囲になるように調製することが好ましい。なお、かかる銀含有量は、ICP発光分析法で求めるものである。
【0015】
(b)において、リンとしては、例えば、赤リン等の安定なリンを挙げることができる。
【0016】
(b)としては、リン含有化合物が好ましい。リン含有化合物としては、例えば、無機リン化合物、有機リン化合物等を挙げることができる。
【0017】
リン含有化合物としては、例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン;トリフェニルホスフィン、トリス(2−メトキシフェニル)ホスフィン等のトリアリールホスフィン;ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルエチルホスフィン等のジアリールアルキルホスフィン等の一座のジフェニルアルキルホスフィン;1,2−ジフェニルホスフィノエタン、1,4−ビスジフェニルホスフィノブタン等の二座のビス(ジフェニルアルキル)ホスフィン;トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト等のトリアルキルホスファイト;トリフェニルホスファイト等のトリアリールホスファイト;三酸化リン、四酸化リン、五酸化リン、リン酸、亜リン酸、リン酸塩、亜リン酸塩、ジ亜リン酸、ジ亜リン酸塩、ピロリン酸、ピロリン酸塩、ポリリン酸、ポリリン酸塩、メタリン酸及びメタリン酸塩等が好ましく、リン酸、亜リン酸、ジ亜リン酸及びリン酸塩がより好ましい。
【0018】
リン酸塩としては、例えば、リン酸2水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム及びリン酸アンモニウム等を挙げることができる。
【0019】
リン含有化合物は、1種のみを(b)として用いることもできるし、リン酸とリン酸塩等、2種以上を混合して(b)として用いることもできる。
【0020】
銀触媒の調製において、(b)の使用量は、銀原子(原子基準)1モルに対して、0.005〜10モル(分子基準)の範囲が好ましく、0.01〜1モル(分子基準)の範囲がより好ましい。
【0021】
得られた銀触媒中の(b)の含有量は、銀触媒中の銀原子(原子基準)1モルに対して、0.001〜5モル(分子基準)の範囲が好ましく、0.01〜1モル(分子基準)の範囲がより好ましい。
【0022】
本明細書において、担体とは、触媒物質を支持し、あるいは分散させる物質であり(志田正二編,「化学辞典」,森北出版,第743頁,1985年1月26日発行)、(a)を支持又は分散させる物質をいう。
【0023】
(c)担体としては、金属銀粒子を担持することができ、銀触媒の調製過程において変質しないものが好ましい。このような担体としては、金属炭酸塩(炭酸銀を除く)、金属酸化物(銀酸化物を除く)、又は炭素を主成分として含む担体が好ましい。ここでいう「金属炭酸塩、金属酸化物、又は炭素を主成分として含む担体」とは、金属炭酸塩、金属酸化物、又は炭素からなる担体、金属炭酸塩又は金属酸化物の粒子を少量のバインダーで固着することにより得られる担体、及び金属炭酸塩又は金属酸化物を成型剤等で成形した担体を含む概念である。なお、本明細書において、上記担体の定義に該当する場合であっても、同時に(a)又は(b)にも該当する場合は、その物質は(c)には含めないものとする。
【0024】
(c)の金属炭酸塩としては、例えば、アルカリ土類金属炭酸塩及び遷移金属炭酸塩等が挙げられ、中でもアルカリ土類金属炭酸塩が好ましい。
【0025】
アルカリ土類金属炭酸塩としては、例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム及び炭酸バリウム等を挙げることができ、好ましくは炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム及び炭酸バリウム等が挙げられる。
【0026】
アルカリ土類金属炭酸塩は、BET法の窒素吸着によって測定した比表面積が1〜70m2/gであるものが好ましい。
【0027】
アルカリ土類金属炭酸塩は、そのまま担体として用いることができるし、該金属炭酸塩の粒子同士を適当なバインダーで固着させてから担体として用いてもよいし、該金属炭酸塩と成型剤とを一緒に混合し、押出成型、プレス成型等で成型したものを担体として用いてもよい。中でも、アルカリ土類金属炭酸塩をそのまま担体として用いることが好ましい。
【0028】
前記金属酸化物における金属としては、例えば、Ti、V、Mn、Mg、Ca、Sr、Ba、Fe、Co、Cd、Eu、Al、Mo、Ni、Zn、Cu、Ga、In、Sn、W等の銀以外の金属が挙げられる。
【0029】
(c)としては、例えば、岩塩型構造、スピネル型構造、ホタル石型構造、ウルツ鉱型構造、ルチル型構造、ビックスバイト型構造、イルメナイト型構造、擬ブルッカイト型構造又はペロブスカイト型構造の結晶型を有する金属酸化物等を挙げることができる。
【0030】
岩塩型構造を有する金属酸化物としては、例えば、TiO、VO、MnO、MgO、CaO、SrO、BaO、FeO、CoO、NiO、CdO及びEuO等が挙げられる。
【0031】
スピネル型構造を有する金属酸化物としては、例えば、MgAl、SrAl、CuAl、MoAl、MnAl、FeAl、CoAl、NiAl、ZnAl、CdAl、γ−Fe、MgCo、Co、CuCo、ZnCo、MgV、MnV、FeV、CoV、ZnV、CdV、MgGa、MgIn、SnMg、TiMg、VMg、TiZn、SnZn及びWZn等が挙げられる。
【0032】
ホタル石型構造を有する金属酸化物としては、例えば、HfO、ZrO、CeO、ThO及びUO等が挙げられる。
【0033】
ウルツ鉱型構造を有する金属酸化物としては、例えば、BeO及びZnO等が挙げられる。
【0034】
ルチル型構造を有する金属酸化物としては、例えば、GeO、SnO、PbO、TiO、VO、NbO、TaO、CrO、MoO、WO、β−MnO、TcO、α−ReO、RuO、OsO、RhO、IrO及びPtO等が挙げられる。
【0035】
ビックスバイト型構造を有する金属酸化物としては、例えば、β−Fe等が挙げられる。
【0036】
イルメナイト型構造を有する金属酸化物としては、例えば、FeTiO、NiVO及びMgVO等が挙げられる。
【0037】
擬ブルッカイト型構造を有する金属酸化物としては、例えば、FeTiO等が挙げられる。
【0038】
ペロブスカイト型構造を有する金属酸化物としては、例えば、MgTiO、CaTiO、SrTiO、BaTiO、CdTiO、PbTiO、CaZrO、SrZrO、BaZrO、PbZrO、SrHfO、BaHfO、SrMoO、BaMoO、CaCeO、SrCeO、PbCeO、YAlO、LaAlO、LaVO、YVO、LaCrO、LaMnO及びLaFeO等が挙げられる。
【0039】
(c)に使用可能な炭素としては、例えば、活性炭、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ及びグラフェンが挙げられ、中でも、グラファイト及びグラフェンが好ましい。
【0040】
上述の金属炭酸塩、金属酸化物や炭素は市場から容易に入手できる。このような市販品をそのまま(c)として使用することもできるし、市販品を公知の手法により精製したり、成型したりしてから(c)として使用してもよい。
【0041】
銀触媒の調製において、(c)の使用量は、銀触媒中に含まれる銀含有量が上述の範囲になる限り限定されないが、銀1質量部あたり、好ましくは0.1〜200質量部、より好ましくは0.5〜100質量部である。
【0042】
得られた銀触媒中の、(c)の含有量は、銀1質量部あたり、好ましくは5〜99.9質量部、より好ましくは10〜70質量部である。
【0043】
銀触媒は、(a)が硝酸銀、酸化銀又は炭酸銀であり、(b)がリン酸塩であり、(c)がアルカリ土類金属炭酸塩であることが好ましく、(a)が硝酸銀であり、(b)がリン酸2水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム又はリン酸アンモニウムであり、(c)が炭酸ストロンチウムであることがより好ましい。
【0044】
銀触媒は、微量であれば他の金属原子を含有していてもよいが、触媒作用を著しく損なわないためには、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムなどのアルカリ金属の混入は極力少なくすることが好ましい。より具体的には、該銀触媒の総質量を基準にして、アルカリ金属分の含有量が1500質量ppm以下となるように銀化合物を選択することが好ましい。なお、かかるアルカリ金属分の含有量はICP発光分析法やXRF分析法にて求めることができる。
【0045】
(a)が銀化合物を含む場合、該銀化合物は、銀触媒調製の際に還元されることが好ましい。該銀化合物の還元は、(a)と(c)との接触後に行うことが好ましい。(a)が銀化合物を含む場合、銀触媒調製の際に該銀化合物を全て還元することが好ましいが、得られる銀触媒中に銀化合物が含まれていてもよい。
【0046】
以下、銀触媒の調製を具体的に説明する。
【0047】
(a)と(c)とを接触することにより後述の銀含有組成物が得られる場合、銀触媒の調製方法として、第I工程及び第II工程を含む方法が挙げられる。
第I工程:(a)及び(c)を接触させる工程。
第II工程:第I工程で得られた組成物(本明細書において、「銀含有組成物」ということがある)と(b)とを接触させる工程。
第I工程に用いられる(a)は、金属銀を含むことが好ましい。
第I工程は、後述の第1工程と同様に行うことができる。第II工程は、後述の第3工程と同様に行うことができる。
なお、「銀含有組成物」とは、(b)との接触により本発明に係る銀触媒を生成可能なものである。「銀含有組成物」は、担体に金属銀粒子が担持された形態であると考えられる。
【0048】
(a)が銀化合物又は金属銀と銀化合物との混合物である場合、銀触媒の調製方法として、下記の第1工程、第2工程及び第3工程を含む方法が挙げられる。
第1工程:(a)と(c)とを接触させる工程。
第2工程:第1工程で得られた組成物における銀化合物を還元する工程。
第3工程:第2工程で得られた還元後の組成物(銀含有組成物)及び(b)を接触させる工程。
第1工程、第2工程及び第3工程を有する調製方法は、銀化合物の還元により微粒化した金属銀粒子が得られること、及び、該金属銀粒子が担体中で充分に分散した銀触媒が得られること、により好ましい。
【0049】
以下、第1工程、第2工程及び第3工程を含む調製方法を例にとり、銀触媒の調製方法を説明する。
【0050】
第1工程では、溶媒の存在下で、担体と銀化合物とを接触させることが好ましい。溶媒を用いる場合には、予め、担体の分散液(以下、この分散液を「担体分散液」という。)と、銀化合物の分散液又は溶液(以下、これら分散液及び溶液をまとめて「銀化合物溶液」という。)とを用意し、該担体分散液及び該銀化合物溶液を混合することが好ましい。なお、前記担体分散液調製用の溶媒と該銀化合物溶液調製用の溶媒とは、同じであっても、異なっていてもよい。
【0051】
第1工程において、銀化合物溶液調製に用いる溶媒としては、例えば、水;テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒;トルエン及びヘキサン等の炭化水素溶媒;これらから選ばれる2種以上の混合溶媒;が挙げられる。銀化合物溶液調製用の溶媒は、使用する銀化合物を溶解し易いものが好ましく、中でも水が特に好ましい。
溶媒の種類及びその量は、銀化合物の種類により適宜選択することができる。
【0052】
銀化合物を溶媒に溶解する際には、銀化合物と溶媒とを混合した後、必要に応じて加熱又は冷却してもよく、その際の温度は0〜200℃の範囲から調節できる。
また、溶解後にわずかに残存する未溶解分を取り除くため、ろ過等を行ってもよい。
【0053】
銀化合物溶液調製用の溶媒には、酸を添加してもよい。
【0054】
銀化合物溶液調製用の溶媒に添加できる酸は、無機酸、有機酸のいずれでもよい。
無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、亜硝酸、硫酸及び過塩素酸等が挙げられる。
有機酸としては、例えば、酢酸、シュウ酸、プロピオン酸、酪酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸及び酒石酸等の脂肪族カルボン酸;安息香酸、ジカルボキシベンゼン、トリカルボキシベンゼン、ジカルボキシナフタレン及びジカルボキシアントラセン等の芳香族カルボン酸;が挙げられる。
中でも有機酸が好ましく、脂肪族カルボン酸がさらに好ましく、シュウ酸及びクエン酸が特に好ましい。
【0055】
前記溶媒に酸を添加する場合、酸の量は、銀化合物の銀原子1モルに対して、0.1〜10モルの範囲が好ましい。なお、銀化合物として複数種を用いる場合には、これらに含まれる銀原子合計1モルに対して、酸の量を0.1〜10モルの範囲とすればよい。
【0056】
前記担体分散液調製用の溶媒には、銀化合物溶液調製用の溶媒として例示したものと同じものが挙げられる。担体分散液調製用の溶媒と、銀化合物溶液調製用の溶媒とは、互いに混和するもの同士を用いることが好ましい。銀化合物溶液調製用の溶媒として水を用いた場合には、担体分散液調製用の溶媒も水が好ましい。
【0057】
また、担体分散液調製用の溶媒は、酸又はアルカリを添加することもできる。
酸としては、銀化合物溶液調製用の溶媒に任意に添加できる酸として例示したものと同じものが使用できる。
アルカリとしては、アルカリ性を有する含窒素化合物、例えば、アミン化合物、イミン化合物、ヒドラジン又はヒドラジン化合物、アンモニア、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミン及び水酸化アンモニウム等が使用可能であり、含窒素化合物以外ではアルカリ金属水酸化物等も使用できる。
これら酸及びアルカリは、前記担体及び溶媒の種類等により適宜最適なものを選択することができる。
【0058】
前記銀化合物溶液と前記担体分散液との混合方法としては、例えば、両者のうち一方を、他方に少量ずつ添加しながら混合する混合方法等を挙げることができ、担体分散液に、銀化合物溶液を滴下する混合方法が好ましい。
【0059】
銀化合物溶液及び担体分散液を混合する際の温度は、例えば、0〜100℃の範囲を挙げることができ、担体分散液に銀化合物溶液を滴下する場合にも、この温度範囲を保持しながら、滴下速度を調節することが好ましい。滴下終了後は0.1〜10時間程度攪拌し、銀化合物と担体とを十分混合させることが好ましい。
【0060】
前記銀化合物と前記担体との使用比率は、銀触媒中に含まれる銀の含有量が前述した好適な範囲になるようにして決定されるが、銀化合物中の銀原子1質量部に対して、担体が0.1〜200質量部であることが好ましい。
【0061】
上記第1工程より得られる組成物(以下、この組成物を「組成物I」と称する)は、銀化合物溶液及び担体分散液の調製に各々用いた溶媒中に含まれている。組成物Iは、銀化合物溶液と担体分散液との混合後に溶媒から回収せずに還元処理に供してもよいが、上記混合により得られる混合液から、ろ過等の公知の方法により回収できる。組成物Iは、上記混合液から回収する場合、水等の溶媒で十分洗浄することが好ましい。かかる洗浄により、組成物Iからアルカリ金属分の混入量を低減することができる。アルカリ金属分の混入量が低下すると、得られる銀触媒の性能(触媒活性)が向上する傾向にあるため、このような洗浄を行うことにより、アルカリ金属分を十分除去しておくことが好ましい。また、洗浄の際には、銀化合物溶液調製に用いた溶媒と同じものを洗浄溶媒として用いると、該組成物Iに付着している微量の銀化合物を十分除去することもできる。
【0062】
組成物Iは、ろ過、洗浄等に用いた溶媒で湿潤した状態で還元処理を行ってもよいし、加熱又は減圧、あるいはこれらを組み合わせた乾燥処理により乾燥させてから還元処理を行ってもよい。
【0063】
次に、第2工程の還元処理について説明する。
この還元処理は、組成物I中の銀化合物、詳しくは該銀化合物に含まれる銀イオンを、金属銀に転換させるための処理であり、より詳しくは、当該銀イオン(1価又は2価の銀イオン)をゼロ価の銀原子に転換させる処理である。当該還元処理は、組成物I中の銀化合物に含まれる実質的に全部の銀化合物を金属銀に転換することが好ましい。
【0064】
銀化合物溶液と担体分散液との混合により得られた混合液中で組成物Iを還元処理する場合、この組成物Iに、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、アミノエタノール及びジメチルアミノエタノール等のアルコール;グルコース、フルクトース及びガラクトース等の糖;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、ブチルアルデヒド及びフェニルアルデヒド等のアルデヒド;ヒドラジン、メチルヒドラジン、エチルヒドラジン、プロピルヒドラジン、ブチルヒドラジン及びフェニルヒドラジン等のヒドラジン;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム及び水素化マグネシウム等の金属水素化物;水素化ホウ素、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム及びジメチルアミンボラン等のホウ素化合物;亜燐酸水素ナトリウム及び亜燐酸水素カリウム等の亜燐酸;等の還元剤を加えることで還元処理を行うことができる。
【0065】
当該還元剤の量は、組成物Iの調製に用いた銀化合物の量を基準に調節できるが、該銀化合物中の銀原子1モルに対して、1モル以上であることが好ましい。還元処理に係る条件は、銀化合物又は還元剤の種類等により適宜調節することができる。
【0066】
溶媒中で組成物Iを還元処理する場合、後述する還元ガスを用いることもできる。この場合、組成物Iの混合液中に、還元ガスをバブリングする方法や、適当な耐圧容器に組成物Iを封入し、ここに還元ガスを注入すればよい。
【0067】
前記組成物Iを固体状で回収した場合、還元ガス中で還元処理を行うことができる。
【0068】
還元ガス中で組成物Iを還元処理する場合、例えば、適当な充填管に組成物Iを充填し、該充填管中に還元ガスを通気することにより、簡便に還元処理を行うことができる。充填管中に還元ガスを通気する場合、還元ガスの通気性を良好にするために、適当な形状に成型した組成物Iを充填管に充填してもよい。組成物Iの成型は、スプレードライ、押し出し成型等、公知の方法で行うことができる。
【0069】
還元ガスとして、水素、一酸化炭素、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、ブテン又はブタジエン等、あるいはこれらから選ばれる2種以上の混合ガスが例示される。中でも、一酸化炭素、水素、及びプロピレンが好ましい。また、還元ガスは、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン又は水蒸気等、あるいはこれらから選ばれる2種以上を混合した希釈ガスで希釈してもよく、その混合割合は任意である。
【0070】
希釈ガスを用いる場合には、還元ガスを充填管中に通気する際に希釈ガスを同伴させればよい。好適な一例を挙げると、還元ガスとして水素を、希釈ガスとして水蒸気を用いる場合、充填管中に通気される混合ガス中の水蒸気の混合割合は5〜70体積%が好ましい。
【0071】
還元処理の処理温度は、還元ガスの種類及び組成物Iの組成や、還元ガス又は希釈ガスの種類によって、20〜300℃の範囲から最適の温度が選択できる。ただし、処理温度が300℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは220℃以下であると、還元処理により生じる金属銀粒子の凝集が抑制され、結果として、銀触媒中の銀の有効表面積が増大する傾向がある。
【0072】
前記還元処理により銀含有組成物が得られる。
【0073】
第3工程は、第2工程により得られる銀含有組成物と、(b)と、を接触させる工程である。この銀含有組成物と(b)との接触は、溶媒の存在下に行われることが好ましい。かかる溶媒としては、前記銀化合物溶液や前記担体分散液の調製用に用いる溶媒として例示したものが挙げられ、銀含有組成物や(b)の種類により最適な溶媒を選択することができる。
【0074】
第3工程における(b)の使用量は、銀含有組成物に含まれる銀の含有量を基準にして調節される。具体的には、該銀1モル(原子基準)に対して、(b)が0.005〜10モルの範囲が好ましく、0.01〜1モルの範囲がさらに好ましい。
【0075】
第3工程における好適な操作について説明する。まず、(b)としてリン含有化合物を用い、該リン含有化合物を適当な溶媒に溶解させて、リン含有化合物溶液を調製する。リン含有化合物の溶解性が良好であることから、リン含有化合物溶液調製に用いる溶媒は水が好ましい。続いて、該リン含有化合物溶液に、銀含有組成物を加え、所定時間攪拌する。
【0076】
第3工程における好適な異なる操作として、(b)の溶液を調製せずに、銀含有組成物と(b)とを混合し、必要に応じてこれらを溶媒で洗浄する方法を挙げることができる。例えば、(b)として赤リンを用いた場合、銀含有組成物と赤リンとを乳鉢等を用いて粉砕混合する方法等である。
【0077】
このような簡便な操作により、銀含有組成物とリン含有化合物とを十分接触させることで、銀触媒は調製される。
【0078】
銀含有組成物とリン含有化合物とを接触する際の温度は、0〜100℃の範囲が好ましく、20〜80℃の範囲がより好ましい。温度がこの範囲である場合、混合時間は、0.5〜8時間程度で十分である。また、かかる好ましい温度は、リン含有化合物をリン含有化合物溶液にして用いる場合、該リン含有化合物溶液調製に用いた溶媒の種類等によっても適宜、最適化できる。
【0079】
リン含有化合物溶液を用いた場合には、銀含有組成物とリン含有化合物溶液とを十分接触させた後、調製に使用した溶媒を除去することで、銀触媒を得ることができる。この溶媒除去方法としては、ろ過あるいは減圧蒸留を用いることができる。
【0080】
さらに第3工程後の後に成型を行うこともできる。成型は、スプレードライ、押出成型等の公知の方法で行うことができる。なお、成型は、第1工程後に行ってもよいし、第2工程後に行ってもよい。
【0081】
得られた銀触媒は、そのまま、又は必要に応じて乾燥等を行った後、本発明の酸化プロピレンの製造方法に用いられる。
【0082】
<プロピレンと酸素とを反応させる工程>
次に、プロピレンと酸素とを反応させる工程(以下、「本工程」という。)について説明する。本工程は、(a)、(b)及び(c)を含む銀触媒及び水の存在下、プロピレンと酸素とを反応させる工程である。以下、本工程における酸素とプロピレンとの反応を「本反応」ともいう。
【0083】
本工程は、回分式、連続式のいずれの反応器で行ってもよいが、工業的な観点から、連続式の反応器で行うことが好ましい。
【0084】
本工程の反応溶液における銀触媒の量は、金属銀換算で、プロピレン1モルに対して、0.00005モル以上が好ましく、0.0001モル以上がより好ましい。その上限は特に限定されるものではなく、銀触媒の量を増加すれば、より多量の酸化プロピレンを製造できるが、銀触媒のコスト等、経済性を考慮して銀触媒量の上限は調節される。通常、銀触媒の量は、金属銀換算で、プロピレン1モルに対して、1モル以下である。
【0085】
本工程において、水として、水蒸気を用いてもよいし、銀触媒を水で湿潤させることにより存在させてもよい。水として水蒸気を用いる場合、水、酸素及びプロピレンと混合して得られる混合ガスを、銀触媒に接触させてもよい。本工程において水は水蒸気として存在させることが好ましい。
【0086】
本工程の反応溶液における水の量は、プロピレン1モルに対して、約0.1〜約20モルの範囲が好ましく、0.2〜10モルの範囲がより好ましく、0.3〜8モルの範囲がさらに好ましい。上記「水の量」は、酸素として空気を供給する場合、空気に含まれる水とは別に供給される水の量を意味する。
【0087】
本工程に用いる酸素は、酸素単独すなわち高純度酸素であってもよいし、本反応に不活性な気体(窒素及び二酸化炭素等)と酸素との混合ガス(例えば、空気等)であってもよい。酸素の量は、反応形式(連続式又は回分式)、銀触媒の種類等によって適宜調節できるが、プロピレン1モルに対して、0.01〜100モルの範囲が好ましく、0.03〜30モルの範囲がより好ましい。反応温度は、100〜400℃の範囲が好ましく、120〜300℃の範囲がより好ましい。
【0088】
本工程において、更に、ハロゲン化合物、特にハロゲン化炭化水素の存在下で行うことにより、より高収率で酸化プロピレンが製造できる。ハロゲン化合物としては、特開2008−184456号公報に記載のハロゲン化合物が挙げられ、好ましくは有機塩素化合物である。該有機塩素化合物として、エチルクロライド、1,2−エチレンジクロライド、メチルクロライド及びビニルクロライド等が挙げられる。ハロゲン化合物は、本反応の反応系中における温度及び圧力条件で、気体の状態で存在する化合物が好ましい。
【0089】
ハロゲン化合物の量は、水蒸気以外の混合ガス、すなわち酸素とプロピレン、及び必要に応じて加える希釈ガスからなる混合ガスに対し、1〜1000体積ppmであると好ましく、1〜500体積ppmであるとさらに好ましい。
【0090】
本工程の反応圧力は特に制限されなく、減圧条件下〜加圧条件下から選択できる。酸素及びプロピレンを銀触媒に十分に接触できる点で加圧条件下が好ましいが、絶対圧力で0.01〜3MPaの範囲から選択される反応圧力であればよく、0.02〜2MPaの範囲から選択されるとより好ましい。反応圧力は、本工程に用いる反応装置の耐圧能力も加味して決定される。なお、減圧条件下とは、反応圧力が大気圧よりも減圧された状態であることを意味し、加圧条件下とは、大気圧よりも加圧された状態であることを意味する。
【0091】
以下、好適な反応形式である連続式の本工程の一実施形態を説明する。
まず、銀触媒を、ガス供給口及びガス放出口を供えた反応塔に所定量充填する。当該反応塔には適切な加熱手段が設けられていてもよく、かかる加熱手段により反応塔内部を所定の反応温度まで昇温する。続いて、コンプレッサ等を用い、該ガス供給口から該反応塔内に、プロピレン、酸素、及び水蒸気を含む原料ガスを供給する。この原料ガスには上述のとおり、ハロゲン化合物が含まれていてもよい。この原料ガスが反応塔内で銀触媒と接触することで、銀触媒及び水の存在下で、プロピレンと酸素とが接触する。この接触により、当該ガスに含まれるプロピレンと酸素とが反応することにより酸化プロピレンが生成し、生成した酸化プロピレンを含む生成ガスが該ガス放出口から放出される。
【0092】
反応塔内に通過させる原料ガスの線速度は、当該原料ガスと本銀触媒とが酸化プロピレンを十分生成できる滞留時間になるようにして決定される。
【0093】
以上の実施形態では、反応塔に加熱手段が設けられている場合について記したが、反応塔は室温程度で維持しておき、供給する原料ガスを適当な加熱手段により、所定の反応温度まで加熱してから、反応塔内に供給する形態でもよい。また、反応塔に適当な攪拌手段を設け、当該反応塔内にある銀触媒を攪拌させつつ、原料ガスを供給する形態でもよい。
【0094】
反応塔を通過した生成ガスには、生成した酸化プロピレン、未反応のプロピレン及び酸素、二酸化炭素等の副生物が含まれている。また、プロピレンや酸素を希釈して用いた場合には、希釈用に用いた不活性ガスが混入している。この生成ガスを捕集した後、蒸留等の分離手段により、目的とする酸化プロピレンを取り出すことができる。
【0095】
本発明の製造方法によれば、高い生成量で酸化プロピレンが提供可能である。また、本発明によれば、プロピレンから酸化プロピレンに変換する選択率に優れた酸化プロピレンの製造方法が提供可能である。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0097】
<調製例1>
炭酸ストロンチウム(堺化学社製、商品名SW−K)7.5gと水50gとを混合し、得られた混合物の温度を20〜25℃とした。同温度範囲を維持して、水酸化ナトリウム(ナカライテスク社製、純度99%)1.4gを該混合物に加えた後、得られた混合液を氷浴で冷却しながら数分間攪拌して、担体分散液を調製した。この担体分散液に、硝酸銀(ナカライテスク社製、純度99%)3.96gを含む硝酸銀水溶液13.96g〔銀化合物溶液〕を滴下し、得られた混合液をさらに3時間攪拌した。その後、該混合液をろ過し、得られた固体をイオン交換水約800mLで洗浄することにより、固体状の組成物を得た。次に、固体状の組成物をガラス製焼成管(内径2cm)に充填し、CO(一酸化炭素)ガス5mL/分、窒素ガス50mL/分、及び水(=水蒸気)1mL/時の条件で各ガスを流通させつつ、110℃まで1.5時間かけて昇温し、さらに150℃まで昇温し、同温度で1時間保持し、さらに210℃でまで5時間かけて昇温した後、冷却することにより還元処理を行い、銀含有組成物Aを得た。
更に、銀含有組成物A 3gに、リン酸0.168gを含むリン酸水溶液(5.168g)を滴下し、得られた縣濁液を20℃の条件下で1時間攪拌した。攪拌終了後、ロータリーエバポレータを用いて水分を除去し、触媒1を得た。
【0098】
<調製例2>
調製例1と同様にして得た銀含有組成物A 3gに、亜リン酸0.119gを含む亜リン酸水溶液(5.119g)を滴下し、得られた縣濁液を20℃の条件下で1時間攪拌した。攪拌終了後、ロータリーエバポレータを用いて水分を除去し、触媒2を得た。
【0099】
<調製例3>
調製例1と同様にして得た銀含有組成物A 3gに、ジ亜リン酸0.192gを含むジ亜リン酸水溶液(5.192g)を滴下し、得られた縣濁液を20℃の条件下で1時間攪拌した。攪拌終了後、ロータリーエバポレータを用いて水分を除去し、触媒3を得た。
【0100】
<調製例4>
調製例1と同様にして得た銀含有組成物A 3gに、リン酸2水素アンモニウム0.042gを含むリン酸2水素アンモニウム水溶液(5.042g)を滴下し、得られた縣濁液を20℃の条件下で1時間攪拌した。攪拌終了後、ロータリーエバポレータを用いて水分を除去し、触媒4を得た。
【0101】
<調製例5>
調製例1と同様にして得た銀含有組成物A 3gに、リン酸2水素アンモニウム0.190gを含むリン酸2水素アンモニウム水溶液(5.190g)を滴下し、得られた縣濁液を20℃の条件下で1時間攪拌した。攪拌終了後、ロータリーエバポレータを用いて水分を除去し、触媒5を得た。
【0102】
<調製例6>
調製例1と同様にして得た銀含有組成物A 3gに、リン酸2水素アンモニウム0.481gを含むリン酸2水素アンモニウム水溶液(5.481g)を滴下し、得られた縣濁液を20℃の条件下で1時間攪拌した。攪拌終了後、ロータリーエバポレータを用いて水分を除去し、触媒6を得た。
【0103】
<調製例7>
調製例1と同様にして得た銀含有組成物A 3gに、リン酸水素2アンモニウム0.048gを含むリン酸水素2アンモニウム水溶液(5.048g)を滴下し、得られた縣濁液を20℃の条件下で1時間攪拌した。攪拌終了後、ロータリーエバポレータを用いて水分を除去し、触媒7を得た。
【0104】
<調製例8>
調製例1と同様にして得た銀含有組成物A 3gに、リン酸アンモニウム3水和物0.074gを含むリン酸アンモニウム水溶液(5.074g)を滴下し、得られた縣濁液を20℃の条件下で1時間攪拌した。攪拌終了後、ロータリーエバポレータを用いて水分を除去し、触媒8を得た。
【0105】
<調製例9>
CO(一酸化炭素)ガスを5mL/分、窒素ガスを50mL/分、及び水蒸気を1mL/時で供給する代わりに、水素ガスを5mL/分、窒素ガスを50mL/分で供給する以外は、調製例1と同様の実験を行い、銀含有組成物Bを得た。
銀含有組成物B 1.5gに、リン酸2水素アンモニウム0.014gを含むリン酸2水素アンモニウム水溶液(5.014g)を滴下し、得られた縣濁液を20℃の条件下で1時間攪拌した。攪拌終了後、ロータリーエバポレータを用いて水分を除去し、触媒9を得た。
【0106】
<調製例10>
特公昭51−40051号公報、実施例5に記載の方法により比較用触媒を調製した。すなわち、硝酸銀(和光純薬社製、純度99.8%)23.7gを脱イオン水300mLに溶解し、これに苛性カリ(和光純薬社製、純度85%)42.9gを含む苛性カリ水溶液(342.9g)を滴下し、酸化銀の沈殿を生成させた。得られた混合液に10.9gの37%ホルマリン溶液(和光純薬製)を滴下し、30分放置後60℃で加熱し生成した沈殿を吸引ろ過し、脱イオン水で洗浄した。更に20℃の温度下、2質量%硝酸水溶液500mLで30分間処理し、ろ過洗浄後乾燥し、活性銀粉末を得た。このようにして得られた活性銀粉末のうち32メッシュから100メッシュのものを選び、このうち4mLを1.09mgのヘキサメチルリン酸トリアミドを含む水溶液100gに浸漬させ、蒸発乾固して比較用触媒を得た。
【0107】
<実施例1>
調製例1で得られた触媒1 1mLを1/2インチのステンレス製反応管に充填し、ゲージ圧力0.4MPa、反応温度200℃で、当該反応管に、プロピレンガス450mL/時、空気900mL/時、窒素ガス990mL/時及び水(=水蒸気)1.2mL/時の条件で各ガスを供給した。反応管から放出される生成ガスの組成を、ガスクロマトグラフィーで分析し、1時間あたりの酸化プロピレン(PO)の生成量(μmol)を求めた。また、酸化プロピレン選択率は、反応管から放出される生成ガス中に含まれる酸化プロピレン、アクロレイン、アセトン、及びCOのモル量から、以下の算出式に従い求めた。
[酸化プロピレン選択率(%)]=[酸化プロピレン生成量(モル)]/{[酸化プロピレン生成量(モル)]+[アクロレイン生成量(モル)]+[アセトン生成量(モル)]+[CO生成量(モル)]/3}×100
結果を表1に示した。
【0108】
<実施例2〜9>
触媒1の代わりに表1記載の触媒を用いる以外は、実施例1と同様に実験を行った。結果を実施例1とともに表1に示した。
【0109】
<比較例1>
触媒1の代わりに調整例10で得られた比較用触媒を用いる以外は、実施例1と同様に実験を行った。結果を実施例1〜9とともに表1に示した。
【0110】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の製造方法によれば、高い生成量で酸化プロピレンが提供可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)、(b)及び(c)を含む銀触媒及び水の存在下、プロピレンと酸素とを反応させる工程を含むことを特徴とする酸化プロピレンの製造方法。
(a)金属銀、銀化合物又はこれらの混合物
(b)リン、リン含有化合物又はこれらの混合物
(c)担体
【請求項2】
前記銀触媒が、前記(a)及び前記(c)を接触させる工程と、前記工程で得られた組成物及び前記(b)を接触させる工程と、を含む方法により調製された銀触媒であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記銀触媒が、前記(a)と前記(c)とを接触させる工程と、前記工程で得られた組成物における銀化合物を還元する工程と、前記工程で得られた還元後の組成物及び前記(b)を接触させる工程と、を含む方法により調製された銀触媒であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
前記銀触媒が、前記(a)に含まれる銀1モルに対して前記(b)の使用量 0.005〜10モルの範囲で調製された銀触媒であることを特徴とする請求項2又は3記載の製造方法。
【請求項5】
前記(c)が、アルカリ土類金属炭酸塩からなる担体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の製造方法。
【請求項6】
前記(b)が、リン含有化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の製造方法。
【請求項7】
前記(a)が、銀化合物又は金属銀と銀化合物との混合物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の製造方法。
【請求項8】
前記(a)が、硝酸銀、炭酸銀及び酸化銀からなる群より選択された少なくとも1種の銀化合物を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の製造方法。
【請求項9】
銀触媒が、銀触媒100質量部に対して0.5質量部以上の量で銀を含む銀触媒であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の製造方法。
【請求項10】
プロピレンと酸素とを反応させる工程の反応溶液における水の量が、プロピレン1モルに対して0.2〜10モルの範囲であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−144163(P2011−144163A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275432(P2010−275432)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】