説明

酸化亜鉛及びその製造方法並びにそれを用いた紫外線遮蔽性組成物

【課題】波長が320〜380nmの紫外線A領域と波長が290〜320nmの紫外線B領域の両方の紫外線を遮蔽し、しかも、可視光の透過性が高い材料を提供する。
【解決手段】平均粒子径が0.01〜1.0μmの範囲である酸化亜鉛粒子に紡錘状酸化チタン粒子を含有させる。前記の紡錘状酸化チタン粒子は、平均長軸径が0.005〜0.5μmの範囲が好ましく、酸化亜鉛粒子の内部及び/又はその表面に含有させるのが好ましい。紡錘状酸化チタンの存在下、亜鉛化合物とアルカリ化合物とを混合し、亜鉛化合物を中和して製造され、紫外線遮蔽性組成物、特に日焼け止め化粧料に配合され好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタン粒子を含有した酸化亜鉛及びその製造方法並びにそれを用いた紫外線遮蔽性組成物、日焼け止め化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛は、白色顔料、紫外線遮蔽材、充填剤、吸着剤、光触媒、触媒、セラミックス原料、導電材、圧電材料、ガスセンサー、電子写真感光材料、バリスタ、蛍光体、エミッタ、電子デバイス等種々の用途に用いられており、また、化粧料、外用剤、塗料、樹脂組成物等に配合して用いられている。特に、酸化亜鉛は、波長が320〜380nmの紫外線A領域(UVA)の遮蔽能に優れ、しかも、可視光の透過性が高く透明性が優れていることから、日焼け止め化粧料に用いる紫外線遮蔽材として広く使用されている。前記のUVAは皮膚への影響は穏やかであるが、太陽光中に多量に含まれることからその影響の程度が大きく、また、透過性が高いので皮膚の深部で障害を引き起こし易い。
酸化亜鉛を製造するには、例えば、亜鉛塩を含む溶液をアルカリ中和剤で中和することにより、液中で直接酸化亜鉛を製造する方法が知られている(特許文献1参照)。また、特許文献2には、前記の酸化亜鉛を直接製造するに際し、レイノルズ数30以上の撹拌を行いながら、1秒〜15分間で亜鉛の塩を含む水溶液と沈殿剤とを混合し、pH11以上の母液から沈殿を生成させて、平均粒子径0.1〜0.88μm、平均粒子厚さ0.01〜0.2μm、平均板状比3以上の薄片状酸化亜鉛粉末を製造する方法が提案されている。
【0003】
一方、紫外線には波長が290〜320nmの紫外線B領域(UVB)の光が含まれている。UVBは日焼けや炎症等の皮膚障害を引き起こし易く、皮膚への影響が前記のUVAに比べて大きい。しかしながら、前記の酸化亜鉛は、UVAの遮蔽能に優れているものの、UVBの遮蔽性が充分ではない。そのため、日焼け止め化粧料等には、UVAとUVBのそれぞれを遮蔽する紫外線遮蔽材を配合することになるが、前記の酸化亜鉛に加えて、UVBの遮蔽性を補完するために酸化チタン等の別種の紫外線遮蔽材を日焼け止め化粧料等に混合して用いられている。
このようなUVBの遮蔽能に優れた酸化チタンとしては、種々の粒子形状のものが提案されており、例えば、特許文献3には、長さが0.15〜0.25μmであり、軸比が3〜9であって、かつ、比表面積が80〜120m2 /gである紡錘状微粒子二酸化チタンが提案されている。
また、前記の酸化亜鉛、酸化チタン等の粉末は、微粒子を用いれば良好な紫外線遮蔽能を発揮するが、微粒子のために凝集し易く、化粧料に配合すると、展延性がなく、使用感が悪いとか、ペイント配合時に伸びがない等の問題を解決するために、特許文献4には、薄片状金属化合物との屈折率の差が0.1以上である微粒金属化合物を分散含有してなる薄片状金属化合物が提案され、具体的には、実施例7において、 チタニウムテトラエトキシドに平均粒径0.03μmの微粒酸化亜鉛を加えて撹拌混合した後に、この液中にガラスを浸漬し引き上げた後に、乾燥後450℃で焼成して、微粒酸化亜鉛を分散した、平均の大きさ15μm、平均の厚み0.8μmの薄片状酸化チタンを得ている。
【0004】
【特許文献1】特開昭53−116296号公報
【特許文献2】特許第2683389号公報
【特許文献3】特許第3732265号公報
【特許文献4】特許第2591946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の特許文献1〜3の酸化亜鉛、酸化チタンは微粒子のために凝集し易く、酸化亜鉛と酸化チタンとを混合し、機械分散しても充分な分散状態にならず、そのため、酸化亜鉛、酸化チタンが本来持つ紫外線遮蔽能を十分活用できず、より優れた紫外線遮蔽能を発揮できる材料が求められている。
また、特許文献4には、微粒子酸化亜鉛を分散含有した薄片状酸化チタンを得ているが、平均の大きさ15μm、平均の厚み0.8μmと大きい薄片状酸化チタンであるため、300nmのUVB遮蔽性が良いものの、500nmの可視光の透過性が低く、改良が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、UVAとUVBの両方の紫外線を遮蔽し、しかも、可視光の透過性が高い材料を開発するために種々研究した結果、紡錘状酸化チタンの存在下、亜鉛化合物とアルカリ化合物とを混合し、亜鉛化合物を中和すると、生成する酸化亜鉛微粒子に紡錘状酸化チタン粒子を分散させて含有することができること、このような紡錘状酸化チタン粒子を含有した酸化亜鉛微粒子は水に比較的分散し易いこと、しかも、UVAとUVBの紫外線遮蔽能を改善し、可視光の透過性が高いことなどを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)平均粒子径が0.01〜1.0μmの範囲である酸化亜鉛粒子に紡錘状酸化チタン粒子を含有した酸化亜鉛、
(2)紡錘状酸化チタンの存在下、亜鉛化合物とアルカリ化合物とを混合し、亜鉛化合物を中和して、生成する酸化亜鉛粒子に紡錘状酸化チタン粒子を含有させることを特徴とする酸化亜鉛の製造方法、
(3)前記の酸化亜鉛を含む紫外線遮蔽性組成物、日焼け止め化粧料などである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の酸化亜鉛は、その微粒子に紡錘状酸化チタン粒子を含むものであり、酸化亜鉛、酸化チタンのそれぞれの機能をあわせ持った材料であり、白色顔料、紫外線遮蔽材、充填剤、吸着剤、光触媒、触媒、セラミックス原料、導電材、圧電材料、ガスセンサー、電子写真感光材料、バリスタ、蛍光体、エミッタ、電子デバイス等種々の用途に用いることができる。また、本発明の酸化亜鉛は、水に分散し易いことから、化粧料、外用剤、塗料、樹脂組成物等に配合して用いることができる。
また、本発明の酸化亜鉛は、UVAとUVBの紫外線遮蔽能を改善できることから、紫外線遮蔽材として好適に用いることができる。また、可視光の透過性が高いことから、透明性もあわせて求められる日焼け止め化粧料等に好適に用いることができる。
また、本発明の酸化亜鉛の製造方法は、酸化亜鉛微粒子に紡錘状酸化チタンを含有するものを水溶液から析出させることができることから、生産性良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の酸化亜鉛は、平均粒子径が0.01〜1.0μmの範囲である酸化亜鉛粒子に紡錘状酸化チタン粒子を含有した酸化亜鉛である。本発明の酸化亜鉛は、紡錘状酸化チタン粒子と酸化亜鉛粒子が複合化されたものであり、酸化チタン粒子と酸化亜鉛粒子との単なる機械的な混合物とは異なる。透明紡錘状酸化チタン粒子は酸化亜鉛粒子の内部及び/又はその表面や表面近傍に分散して含有しているのが好ましく、紡錘状酸化チタン粒子が酸化亜鉛粒子に内包された状態や酸化亜鉛粒子の表面や表面近傍に固着した状態がより好ましい。
本発明の酸化亜鉛は、六方晶、立方晶、立方晶面心構造いずれかのX線回折パターンを示すZnOと紡錘状酸化チタンを少なくとも50重量%含むものであり、水酸化亜鉛や製造の際に使用する硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等の亜鉛化合物が含まれていても良い。また、製造の際に使用する亜鉛化合物を構成していた硫酸根、硝酸根、塩素、酢酸等が含まれていても良く、また、アルカリ化合物やカルボン酸、その塩等の材料が含まれていても良い。更に、酸化亜鉛の粒子表面にはシリカ、アルミナ等の無機化合物やシロキサン等の有機化合物の表面処理剤を被覆していても良い。
【0010】
酸化亜鉛粒子は、種々の形状を有していても良く、例えば、板状、薄片状、りん片状、雲母状、円盤状等の形状(以下、板状形状と総称する)、針状、柱状、六角柱状、鼓状、棒状、紡錘状、繊維状等の形状(以下、紡錘状形状と総称する)、球状、略球状、粒状等の形状(以下、球状形状と総称する)であっても良く、その他の形状であっても良い。また、形状が一定ではない不定形の形状であっても良い。板状形状とは、板状の大きさと厚みの比(大きさ/厚み)が3以上を有するものである。紡錘状形状とは、長軸径と短軸径の比(軸比)が1.5以上のものである。球状形状とは、球面体に類似した形状を有するものである。酸化亜鉛粒子の形状のうち、紡錘状酸化チタンを含有させ易いことから、板状形状が好ましい。酸化亜鉛粒子の形状は電子顕微鏡により観察でき、その粒子径は、粒子の最長の直径の長さ平均で表し、具体的には、板状形状の場合は板状面の最大直径、紡錘状形状の場合は最長の長軸径、球状形状等の場合は最大直径のそれぞれの長さ平均で表す。不定形の場合も、粒子の最長の直径の長さ平均で表す。そのように表した酸化亜鉛の平均粒子径は0.01〜1.0μmの範囲であり、0.1〜1.0μmの範囲がより好ましく、0.2〜0.8μmの範囲が更に好ましい。前記の平均粒子径が1.0μmよりも大きくなると可視光の透明性が低下するため好ましくなく、また、0.01μmよりも小さくなると紡錘状酸化チタンを含有させ難くなるため好ましくない。酸化亜鉛の粒子形状が板状形状、特に薄片状形状の場合、平均粒子径が0.1〜1.0μmの範囲がより好ましく、平均厚みが0.01〜0.2μmの範囲がより好ましい。酸化亜鉛が前記大きさの板状形状であれば、所望のUVAとUVBの紫外線遮蔽能と可視光の透過性が得られる。
【0011】
酸化亜鉛粒子に含有する酸化チタンは、二酸化チタン、含水酸化チタン、水和酸化チタン、オルトチタン酸、メタチタン酸、水酸化チタンと称されるものを含み、その粒子内部やその表面にケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、鉄等の元素、その元素の酸化物あるいはそれらのリン酸塩等の無機物を含んでいても良い。酸化チタンの粒子形状は紡錘状である。紡錘状とは、針状、柱状、六角柱状、棒状、紡錘状、繊維状等の形状を含み、長軸径と短軸径の比(軸比)が1.5以上のものである。酸化チタン粒子の形状は電子顕微鏡により観察でき、その粒子径は、粒子の長軸径の長さ平均(平均長軸径)と短軸径の平均長さ(平均短軸径)で表し、軸比は平均長軸径と平均短軸径の比で表す。酸化チタンの粒子径(長軸径)は酸化亜鉛粒子の大きさに応じて適宜選択することができるが、酸化亜鉛粒子に含有され易いことから、酸化チタン粒子の長軸径が酸化亜鉛の直径よりも小さいものが好ましく、酸化亜鉛の直径の半分以下がより好ましく、酸化亜鉛の直径の三分の一以下が更に好ましい。具体的には、酸化チタン粒子の平均長軸径としては、例えば、0.005〜0.5μmの範囲が好ましく、0.005〜0.25μmがより好ましく、0.01〜0.2μmが更に好ましい。前記の平均長軸径が0.5μmより大きくなると可視光の透明性が低下したり、酸化亜鉛粒子に含有され難くなるため好ましくなく、また、0.005μmより小さくなると凝集してしまい、分散して酸化亜鉛粒子に含有されないため好ましくない。酸化チタンの軸比は1.5以上が好ましく、2〜20程度がより好ましく、3〜9程度が更に好ましい。紡錘状酸化チタンの比表面積は粒子径の別の指標となるものであって、BET法により測定して50m/g以上が好ましく、60〜300m/gの範囲がより好ましく、70〜250m/gの範囲が更に好ましく、80〜150m/gの範囲が更に好ましい。このような紡錘状酸化チタンの含有量は適宜設定することができ、例えば、酸化亜鉛粒子の重量に対して、0.1〜50重量%の範囲が好ましく、1.0〜25重量%程度がより好ましく、2.0〜20重量%程度が更に好ましい。
【0012】
本発明の酸化亜鉛は、水への分散が容易であることが特徴の一つである。ヘキサメタリン酸ナトリウム0.2%水溶液に酸化亜鉛の試料を添加し、超音波を3分間照射して分散させた分散液を用いて、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製LA−950)により酸化亜鉛の試料の粒度分布を測定する。測定した粒度分布の粒子径が小さいほど分散が良く、1.0μm以下のものを分散粒子とし、その割合を基準とすると、全体の70重量%以上が1.0μm以下の分散粒子であるのが好ましく、より好ましくは80重量%以上である。
【0013】
本発明の酸化亜鉛の製造方法は、紡錘状酸化チタンの存在下、亜鉛化合物とアルカリ化合物とを混合し、亜鉛化合物を中和して、生成する酸化亜鉛粒子に紡錘状酸化チタン粒子を含有させる。このような方法により、紡錘状酸化チタン粒子と酸化亜鉛粒子が複合化されたものとなり、好ましくは、紡錘状酸化チタン粒子が酸化亜鉛粒子の内部及び/又はその表面や表面近傍に分散して含有しているもの、より好ましくは、紡錘状酸化チタン粒子が酸化亜鉛粒子に内包された状態や酸化亜鉛粒子の表面や表面近傍に固着した状態のものを効率的に得ることができる。
紡錘状酸化チタンは公知技術で得られたものを用いることができ、具体的には、前記の大きさ(平均長軸径、軸比、比表面積等)の紡錘状酸化チタンを用いるのが好ましい。このような紡錘状酸化チタンは例えば、前記の特許文献3に記載された方法を適用して製造することができる。前記の亜鉛化合物は、水溶性のものであればどのようなものでも用いることができ、例えば硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等を用いることができる。種々の形状の酸化亜鉛粒子が得られ易いことから硫酸亜鉛が好ましい。また、金属亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛等、中性の水に溶解しないものでも、酸、アルカリ化合物に溶解する化合物であれば、上記の亜鉛化合物と同様に用いることができる。
【0014】
前記のアルカリ化合物は、水溶性でありアルカリ性を呈するものであれば適宜使用することができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、酢酸ナトリウム、アンモニアガス、アンモニア水、水酸化アンモニウム等のアンモニウム化合物、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン等のアルキルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン等のアルカノールアミン等のアミン化合物などが好ましく用いられ、アルカリ金属の水酸化物やアンモニウム化合物がより好ましく用いられる。
【0015】
紡錘状酸化チタンの存在下、前記の亜鉛化合物とアルカリ化合物とを混合する。具体的には、紡錘状酸化チタンスラリーに、撹拌下亜鉛化合物又はその水溶液とアルカリ化合物又はその水溶液とをそれぞれ添加し混合しても良く、また、撹拌下亜鉛化合物又はその水溶液を添加し、次いで、アルカリ化合物又はその水溶液を添加して混合するのが好ましい。
また、亜鉛化合物又はその水溶液、アルカリ化合物又はその水溶液の添加は、紡錘状酸化チタンスラリーの温度を適宜設定し保持して混合するのが好ましい。酸化チタンスラリーの温度としては100℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、より好ましい温度は10〜50℃、更に好ましい温度は20〜45℃である。
撹拌は通常の混合撹拌の手段を用いることができ、例えば撹拌羽根を付けた撹拌機等で行うことができる。その撹拌機の運転条件は適宜設定することができる。例えば、回転数は20〜2000rpm程度で行うことができ、また、下記のレイノルズ係数で表して10以上程度が好ましく、10〜50000程度がより好ましい。
レイノルズ係数=(翼径)×撹拌速度×溶液密度/溶液粘度
アルカリ化合物又はその水溶液の添加時間は適宜設定できるが、例えば1秒〜1時間程度が好ましく、1秒〜30分程度がより好ましい。アルカリ化合物との混合によりpHを7以上に調整するのが好ましく、7よりも低いと所望の酸化亜鉛粒子が得られ難いため好ましくない。より好ましいpHは8〜14程度である。アルカリ化合物として、アルカリ金属の水酸化物やアンモニウム化合物等を例えばpHが7〜13程度になる量を用いると酸化亜鉛粒子が析出する。それ以上のアルカリ化合物を加えると、Zn(OH)となって再溶解する場合があるが、再溶解後に硫酸、塩酸、硝酸等の酸を添加しpHを7〜13程度に下げると酸化亜鉛粒子が析出する。アミン化合物を用いると、水酸化亜鉛がまず析出し、その水溶液を40℃以上に加熱することにより酸化亜鉛粒子が得られる。
アルカリ化合物を混合し所定のpHに調整して沈殿物を析出させた後、必要に応じて10分〜5時間程度そのpHを保持しても良い。その後、撹拌しながら、前記の水溶液を好ましくは50℃以上、より好ましくは60〜250℃程度、更に好ましくは80〜110℃程度に加温して、酸化亜鉛粒子の結晶性を高めることもできる。
【0016】
紡錘状酸化チタン、亜鉛化合物とアルカリ化合物の混合水溶液には更に、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等の塩類や、クエン酸、クエン酸ナトリウム等のカルボン酸及び/又はその塩を混合しても良く、アルカリ化合物と混合する前の亜鉛化合物水溶液に塩類、カルボン酸及び/又はその塩を添加するのが好ましい。塩類、カルボン酸及び/又はその塩の添加量は、亜鉛化合物の亜鉛原子に対するモル比で表して、0.0001以上の範囲が好ましく、0.001〜10程度がより好ましく、カルボン酸及び/又はその塩の添加量により、生成する酸化亜鉛の粒子形状が変化する。
【0017】
このようにして得られた、紡錘状酸化チタン粒子を含有した酸化亜鉛粒子は、必要に応じて濾過・洗浄して固液分離し、乾燥、乾式粉砕を行うと粉末が得られる。固液分離には、フィルタープレス、ロールプレス等の通常工業的に用いられる濾過器を用いることができる。乾燥にはバンド式ヒーター、バッチ式ヒーター、噴霧乾燥機等が、乾式粉砕にはハンマーミル、ピンミル等の衝撃粉砕機、ローラーミル、パルペライザー、解砕機等の摩砕粉砕機、ロールクラッシャー、ジョークラッシャー等の圧縮粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機等を用いることができる。乾燥温度は適宜設定することができるが、80〜200℃程度が適当である。また、必要に応じて前記の酸化亜鉛粉末を200〜800℃程度の温度で焼成しても良く、結晶性を更に高めることができるため好ましい。焼成は通常、空気、酸素、窒素等の雰囲気下で行うことができ、焼成時間は10分〜10時間程度が適当である。
【0018】
本発明の酸化亜鉛は、その表面に必要に応じてケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ等の酸化物あるいはそれらのリン酸塩等の無機化合物の被覆層を設けることもできる。また、溶媒、塗料やプラスチックス等への分散性を付与するなどの目的で、有機化合物を被覆しても良く、前記の無機化合物と有機化合物の両者を被覆しても良い。有機化合物としては、例えば、(1)有機ケイ素化合物((a)オルガノポリシロキサン類(ジメチルポリシロキサン、メチル水素ポリシロキサン、メチルメトキシポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサンジオール、ジメチルポリシロキサンジハイドロジェン等又はそれらの共重合体)、(b)オルガノシラン類(アミノシラン、エポキシシラン、メタクリルシラン、ビニルシラン、メルカプトシラン、クロロアルキルシラン、アルキルシラン、フルオロアルキルシラン等又はそれらの加水分解生成物)、(c)オルガノシラザン類(ヘキサメチルシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン等)、(2)有機金属化合物((a)有機チタニウム化合物(アミノアルコキシチタニウム、リン酸エステルチタニウム、カルボン酸エステルチタニウム、スルホン酸エステルチタニウム、チタニウムキレート、亜リン酸エステルチタニウム錯体等)、(b)有機アルミニウム化合物(アルミニウムキレート等)、(c)有機ジルコニウム化合物(カルボン酸エステルジルコニウム、ジルコニウムキレート等)等)、(3)ポリオール類(トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等)、(4)アルカノールアミン類(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン等)又はその誘導体(酢酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩等の有機酸塩等)、(5)高級脂肪酸類(ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸等)又はその金属塩(アルミニウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等)、(6)高級炭化水素類(パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等)又はその誘導体(パーフルオロ化物等)が挙げられる。これらの有機化合物は1種を用いても、2種以上を積層又は混合して用いても良い。化粧料に用いる場合は、オルガノポリシロキサン類、高級脂肪酸類を用いるのが好ましい。無機化合物、有機化合物の被覆量は、酸化亜鉛に対し、0.1〜50重量%の範囲が好ましく、0.1〜30重量%の範囲が更に好ましい。酸化亜鉛の表面に前記の無機化合物や有機化合物を被覆させるには、酸化亜鉛の水性スラリー中で、無機化合物あるいは有機化合物を添加し中和するなどして被覆することができる。また、有機化合物を被覆するには別の方法として、前述の乾式粉砕の際に有機化合物を添加し混合することもできる。
【0019】
本発明の酸化亜鉛は、紫外線遮蔽性組成物に含有して好適に用いられる。紫外線遮蔽性組成物の具体例として、日焼け止め化粧料、基礎化粧料等の化粧料、外用剤、塗料、樹脂組成物等が挙げられ、それらに用いられる従来の成分に加えて、本発明の酸化亜鉛を適量配合して用いることができ、例えば0.1〜50重量%程度の配合量が好ましい。日焼け止め化粧料、基礎化粧料等の化粧料に用いるには、前記の酸化亜鉛以外に、通常化粧料の用いられる公知の成分、例えば、(1)溶媒(水、低級アルコール類等)、(2)油剤(高級脂肪酸類、高級アルコール類、オルガノポリシロキサン類(シリコーンオイル)、炭化水素類、油脂類等)、(3)界面活性剤(アニオン性、カチオン性、両性、非イオン性等)、(4)保湿剤(グリセリン類、グリコール等のポリオール系、ピロリドンカルボン酸類等の非ポリオール系等)(5)有機紫外線吸収剤(ベンゾフェノン誘導体、パラアミノ安息香酸誘導体、サリチル酸誘導体等)、(6)酸化防止剤(フェノール系、有機酸又はその塩、酸アミド系、リン酸系等)、(7)増粘剤、(8)香料、(9)着色剤(顔料、色素、染料等)、(10)生理活性成分(ビタミン類、ホルモン類、アミノ酸類等)、(11)抗菌剤等が配合されていても良い。化粧料の様態は、固形状、液状、ジェル状等特に制限なく、液状やジェル状の場合、その分散形態も油中水型エマルジョン、水中油型エマルジョン、油型等のいずれでも良い。化粧料中の酸化亜鉛の配合量は、0.1〜50重量%の範囲が好ましい。
【実施例】
【0020】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0021】
実施例1
特許第3732265号記載の方法によって得られたルチル型の紡錘状微粒子二酸化チタン(平均長軸径0.18μm、軸比4.5、比表面積96m/g)を0.03モル含む500mlの水懸濁液を2Lの四つ口フラスコに投入し、翼径12cmの2枚羽根の撹拌機を用いて回転数200rpmで撹拌した。これに硫酸亜鉛を0.27モル含む150mlの水溶液を添加した後、40℃に昇温し保持した。更に0.64モルの水酸化ナトリウムを含む350ccの水溶液を瞬時(1分以内)に添加し、水溶液のpHを12.8に調整し、30分間保持して沈殿物を析出させた。その後、100℃に昇温し1時間熟成した後、冷却し、濾過・水洗・乾燥して、本発明の紡錘状酸化チタン粒子含有酸化亜鉛粉末(試料A)を得た。
試料Aは、電子顕微鏡写真から板状(薄片状)酸化亜鉛粒子(平均粒子径0.5μm)の内部及び/又はその表面に紡錘状酸化チタン粒子が含有していることがわかった。また、試料AのX線回折パターンから、酸化亜鉛と酸化チタンが混在していることがわかった。
【0022】
実施例2
実施例1において、0.64モルの水酸化ナトリウムを含む350ccの水溶液の添加時間を60分としたこと以外は実施例1と同様にして、本発明の紡錘状酸化チタン粒子含有酸化亜鉛粉末(試料B)を得た。
試料Bは、電子顕微鏡写真から不定形酸化亜鉛粒子(平均粒子径0.5μm)の内部及び/又はその表面に紡錘状酸化チタン粒子が含有していることがわかった。また、試料BのX線回折パターンから、酸化亜鉛と酸化チタンが混在していることがわかった。
【0023】
比較例1
実施例1において、紡錘状微粒子酸化チタンを含む水懸濁液に代えて、紡錘状微粒子酸化チタンを含まない純水を用いたこと以外は実施例1と同様にして、酸化チタンを含有しない板状(薄片状)状酸化亜鉛粒子(平均粒子径0.5μm)の粉末(試料C)を得た。
試料CのX線回折パターンから、酸化亜鉛だけが存在していることがわかった。
【0024】
比較例3
実施例1で用いた紡錘状微粒子酸化チタンと薄片状酸化亜鉛(試料C)をモル比で1/9で混合し、酸化亜鉛・酸化チタン混合品(試料D)を得た。
試料DのX線回折パターンから、酸化亜鉛と酸化チタンが混在していることがわかった。
【0025】
評価方法とその結果
1.粒度分布の測定結果
レーザー回折/散乱粒子径分布測定装置(HORIBA製LA−950)を用い、粒度分布を測定した。分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを0.2%溶解させた水溶液を溶媒とし、その中に試料を混合し、装置内で循環・撹拌しながら、超音波を3分照射した後、粒度分布を測定した。測定した粒度分布から、1.0μm以下の分散粒子の割合を算出した結果、表1に示すとおり、試料A、Bは割合が高いことから、分散し易いこと、一方、酸化亜鉛だけの試料C、実施例1で用いた紡錘状微粒子酸化チタンは割合が低いことから分散し難いことがわかった。
【0026】
【表1】

【0027】
2.光学特性の測定結果
得られた試料A、C、D、実施例1で用いた紡錘状微粒子酸化チタンを以下に記す方法で化粧料を想定したペーストとした。このペーストをドクターブレードを用いて透明なトリアセテート・フィルム上に、膜厚が約25μmになるように塗布した後、30分間風乾した。この塗膜の紫外・可視分光透過率スペクトルを、積分球を装着した分光光度計(島津製作所製、UV−VIS UV2200A型)を用いて測定した。
(ペーストの処方)
試料 1.2g
バインダー(流動パラフィン/ワセリン/ステアリン酸=40/26.7/1(重量比))
40.0g
ガラスビーズ 50.0g
(ペーストの調製方法)
前記処方を140cmの蓋付ガラス瓶に仕込み、密閉してからペイントコンディショナー(レッドデビル社(米)製、クイックミル)を用いて分散させた。
試料Aは試料C、D、実施例1で用いた紡錘状微粒子酸化チタンに比べ、UVA、UVBの透過率が低く、紫外線遮蔽能が優れていることがわかった。また、波長550nmの可視光の透過率は、試料C、Dに比べて遜色ないことがわかった。
【0028】
【表2】

【0029】
3.肌感触の評価結果
各試料をそれぞれ直接肌にのせてこすった際の感触を評価した結果、試料A、試料Bは、試料C、Dに比べ、遜色ないことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、紡錘状酸化チタン粒子を含有した酸化亜鉛粒子であって、酸化亜鉛と酸化チタンの機能をあわせ持った材料であることから、種々の用途に利用することができる。具体的には、UVAとUVBの紫外線遮蔽材、日焼け止め化粧料に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1で得られた酸化亜鉛(試料A)のX線回折パターンである。
【図2】実施例1で得られた酸化亜鉛(試料A)の電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例1で得られた酸化亜鉛(試料A)の粒度分布図である。
【図4】比較例1で得られた酸化亜鉛(試料C)の粒度分布図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.01〜1.0μmの範囲である酸化亜鉛粒子に紡錘状酸化チタン粒子を含有した酸化亜鉛。
【請求項2】
酸化亜鉛粒子の内部及び/又はその表面に紡錘状酸化チタン粒子を含有した請求項1に記載の酸化亜鉛。
【請求項3】
紡錘状酸化チタン粒子のBET比表面積が50m/g以上である請求項1に記載の酸化亜鉛。
【請求項4】
紡錘状酸化チタン粒子の含有量が0.1〜50重量%の範囲である請求項1に記載の酸化亜鉛。
【請求項5】
紡錘状酸化チタン粒子の平均長軸径が0.005〜0.5μmの範囲で、軸比が3〜9である、請求項1に記載の酸化亜鉛。
【請求項6】
酸化亜鉛の粒子形状が板状である、請求項1に記載の酸化亜鉛。
【請求項7】
ヘキサメタリン酸ナトリウム0.2%水溶液に酸化亜鉛を添加し、超音波を3分間照射して分散させた分散液を用いて、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置により測定した酸化亜鉛の粒度分布において、1.0μm以下の分散粒子の割合が70重量%以上である、請求項1に記載の酸化亜鉛。
【請求項8】
紡錘状酸化チタンの存在下、亜鉛化合物とアルカリ化合物とを混合し、亜鉛化合物を中和して、生成する酸化亜鉛粒子に紡錘状酸化チタン粒子を含有させることを特徴とする酸化亜鉛の製造方法。
【請求項9】
紡錘状酸化チタンスラリーに亜鉛化合物を混合し、次いで、アルカリ化合物を混合することを特徴とする請求項8に記載の酸化亜鉛の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の製造方法で得られた酸化亜鉛を200〜800℃の温度で焼成することを特徴とする酸化亜鉛の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の酸化亜鉛を含む紫外線遮蔽性組成物。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の酸化亜鉛を含む日焼け止め化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−273759(P2008−273759A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116565(P2007−116565)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】