説明

酸化亜鉛系微粒子およびその用途

【課題】優れた紫外線吸収特性と可視光透明性を有しており、且つ光触媒活性が抑制された酸化亜鉛微粒子を紫外線吸収剤として提供する。
【解決手段】本発明による異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子は、Ni、Mg、MnおよびCoの少なくとも1種の金属元素を0.01〜10mol% 含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた紫外線吸収特性と可視光透明性を有しており、且つ光触媒活性が抑制された酸化亜鉛系微粒子、これを含む組成物、および紫外線吸収材料(例えば塗料、プラスチック、化粧品等)としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から波長380nm以下の紫外線は、種々の物質を劣化させ、人体に対して悪影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
このような紫外線を遮断するための紫外線遮断剤として、ケイ皮酸エステル誘導体に代表される有機系の紫外線吸収剤と、酸化チタン、酸化亜鉛等の無機系の紫外線吸収剤が使用されている。
【0004】
これら紫外線吸収剤は、繊維、フィルム、プレート等のプラスチック成形体に直接練り込んだり、塗料や化粧品等に配合したり、紫外線吸収剤を含むコーティング剤としてガラスやプラスチック成型体をコーティングしたりして使用されている。
【0005】
一般に紫外線吸収剤には、耐熱性に優れること、効果が長期間持続することに加え、同吸収剤を含む基材の色相を変化させないこと、可視光は散乱させずに高い可視光透過性を示す、即ち透明性を有することが求められる。
【0006】
しかしながら有機系紫外線吸収剤は耐熱性に乏しい、耐久性が悪い等の問題があり、長期間の使用には適さず、且つ近年では環境ホルモン作用等が懸念されている。
【0007】
一方、無機系の紫外線吸収剤は耐熱性や耐久性に優れており、特に酸化亜鉛は波長380nm以下の紫外線を遮断しうることが知られている。
【0008】
酸化亜鉛は微粒子状で使用されているが、その粒径を100nm以下とした上で基材中での分散粒径をも100nm以下に制御することができれば、微粒子による散乱の影響を抑制でき、従って高い紫外線吸収特性と可視光透過性を両立させることが可能となる。
【0009】
しかしながら酸化亜鉛微粒子は粒径を小さくすると、可視光透過性は高くなるものの、一方で基材の耐候性を著しく低下させてしまう。
【0010】
このことは酸化亜鉛の有する光触媒活性によって説明される。即ち、紫外線が照射されることにより酸化亜鉛の価電子帯の電子が伝導帯に遷移された結果、正孔と自由電子が生成する。この正孔と電子が表面に移動すると、表面と直接接触している基材を酸化する等の反応を引き起こして基材の劣化を促進する。
【0011】
酸化亜鉛の光触媒活性を抑制する方法としては、例えば特許文献1(特許3570730) に開示されているような、酸化亜鉛微粒子の表面をシリカ等の薄膜で被覆することで酸化亜鉛微粒子と基材との直接の接触を防ぐことが知られている。しかしながらこの方法では基材に分散させた時に十分な可視光透過性が得られないという問題があった。
【0012】
一方、特許文献2および3(特表2002−516347および特表2003−515518)では、電子と正孔が粒子内に形成されるように紫外線を吸収できる粒子を含む紫外線遮蔽組成物であって、微粒子が、水性環境下で紫外線に暴露されると、電子および/または正孔の微粒子表面への移動を最小にするように適合される紫外線遮断剤が提案されている。当該特許文献では酸化亜鉛に第二成分としてNi、Fe、Cr、Cu、Sn、Al、Pb、Ag、Zr、Mn、Co、Ga、Nb、V、Sb、Ta、Sr、Ca、Mg、Ba、Mo、およびSiなどを添加することで、DNAの損傷が抑制できるとされている。
【0013】
しかしながら、この方法によっても樹脂の劣化を充分に抑制することは困難であり、組成によっては基材の着色や紫外線吸収性能の低下、可視光透過性の低下等の望ましくない副作用が避けられない。
【0014】
このように、酸化亜鉛を紫外線吸収剤として用いた場合、高い可視光透過性を示すものの、耐候性が乏しいか、耐候性は比較的良好でも、可視光透過性が低くなる、着色してしまうといった問題が生じる。
【特許文献1】特許第3570730号公報
【特許文献2】特表2002−516347号公報
【特許文献3】特表2003−515518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記のような実状に鑑み、優れた紫外線吸収特性と可視光透明性を有しており、且つ光触媒活性が抑制された酸化亜鉛微粒子を紫外線吸収剤として提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、酸化亜鉛微粒子にNi、Mg、MnおよびCoのような異種金属元素を含有させることにより、基材の着色や可視光透明性の低下、紫外線吸収特性の低下といった問題を生じることなく、光触媒活性を著しく抑制できることを見出した。
【0017】
本発明は、酸化亜鉛微粒子の粒子内にNi、Mg、MnおよびCoの少なくとも1種の金属元素(以下、異種金属元素と表記)を0.01〜10mol% 含むことを特徴とする金属酸化物微粒子(以下、異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子と表記)に関する。
【0018】
本発明による異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子の好ましい平均粒子径は100nm以下である。
【0019】
本発明はまた、上記異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子を含む紫外線吸収剤、上記異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子がプラスチック材料などの基材中に分散してなる組成物、特に紫外線吸収組成物を提供する。上記の基材は塗料や化粧品の構成成分である溶媒またはバインダーなどであってよい。
【0020】
本特許請求の範囲および明細書において、微粒子とは、一次粒子の平均粒子径が100nm
以下である微粒子を意味する。ここで平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて得た粒子の画像を用いて、微粒子100個以上について微粒子の最大長さを測定して得た値の平均値のことである。
【0021】
本発明による異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子の形状は特に限定されない。また、同微粒子の大きさは、一次粒子の平均粒子径が100nm以下であれば限定されないが、充分な透明性を確保する為に、一次粒子の平均粒子径が1〜100nmであることが望ましい。平均粒子径がこれより大いと、微粒子を基材に分散させた際に微粒子の散乱により透明性が低下する。
【0022】
優れた紫外線吸収性を得るために、異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子は結晶性を持つことが好ましい。ここで結晶性を持つとは、粉末X線回折測定において回折パターンから酸化亜鉛結晶の同定ができるものを言う。
【0023】
本発明による異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子は、酸化亜鉛微粒子に異種金属元素が固溶(ドープ)された固溶体を形成するものであることが好ましい。
【0024】
酸化亜鉛微粒子に異種金属元素を2種以上ドープさせると、光触媒活性はさらに効果的に抑制されるので好適である。
【0025】
異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子中の異種金属元素の含有量は、優れた耐候性を確保するために少なくとも0.01mol%必要である。この含有量の上限は特に限定されないが、10mol%を超えると異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子の着色が顕著となり、基材に分散させた際に基材が着色してしまうため好ましくない。
【0026】
本発明による異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子には、本発明の効果を損なわない範囲で、Ni、Mg、MnおよびCo以外の金属元素を含有させることができる。
【0027】
本発明による異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子を表面処理すると、基材への微粒子の分散性をさらに改善することができる。表面処理剤としては、一般的に使用されているものを使用できる。例えば、異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子を溶媒に分散させ、溶媒で希釈した高級脂肪酸を上記微粒子分散液に滴下することで微粒子の表面を高級脂肪酸で表面処理することが可能である。表面処理の際に用いる溶媒は、高級脂肪酸等の表面処理剤を溶解することができるものであれば限定されない。例えばエタノール、アセトンなどが使用できる。高級脂肪酸としては、ミリスチン酸、ステアリン酸等に代表される飽和脂肪酸が好適に使用できる。
【0028】
本発明による異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子を製造する方法については、得られた異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子を基材中に分散した際に高い紫外線吸収性と高可視光透過性、および高耐候性が両立していれば、該方法は限定されない。簡便な製造方法として、例えば次の合成法が好適に使用できる。
【0029】
冷却器、攪拌器および加熱装置を取り付けた反応容器にて高沸点のアルコール系溶媒に原料を溶解させて均一溶液としたものを加熱して異種金属元素含有酸化亜鉛を析出させる。
【0030】
高沸点のアルコール系溶媒とは、常圧において異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子の生成に必要な温度より高い沸点を有するものであり、140℃以上、さらに好適には200℃以上の沸点を有するアルコール系溶媒が望ましい。
【0031】
高沸点のアルコール系溶媒の種類は限定されないが、ジエチレングリコールなどのグリコール系溶媒が好適である。
【0032】
原料としては、亜鉛、ニッケル、マンガン、マグネシウムおよびコバルトのカルボン酸塩や、塩化物、硝酸塩などが例示される。中でも酢酸亜鉛・2水和物、塩化ニッケル、塩化マンガン、塩化マグネシウム、塩化コバルト等が好適に使用できる。
【0033】
このようにして得られた異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子は、一次粒子径が100nm以下であり、基材への優れた分散性を示す。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、優れた紫外線吸収特性と可視光透明性を有しており、且つ光触媒活性が抑制された酸化亜鉛微粒子を提供することができる。
【0035】
また、本発明による異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子は、プラスチック等の基材への分散性が高い。したがって、この酸化亜鉛微粒子を用いることで高い可視光透過性と優れた耐候性を両立するプラスチック材料や塗料、化粧品等を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
つぎに、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例およびこれとの比較を示すための比較例をいくつか挙げる。
【0037】
実施例1
(異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子の製造)
攪拌機、加熱器および冷却環流器を備えたガラス製反応容器において、ジエチレングリコール(和光純薬工業、特級)100mLに酢酸亜鉛2水和物10.65g、硝酸マンガン6水和物0.29g、および塩化ニッケル6水和物0.12gを添加した。この混合物を攪拌しながら30分かけて室温から140℃に加熱し、原料をすべて溶解させた。さらに30分かけて180℃に加熱して淡い黄色に着色した分散液を得た。さらに2時間180℃で保持した後にこの分散液を遠心分離し、上澄みを除き、沈殿を取り出し、乾燥させずに、ミリスチン酸2.3gを溶解させたソルミックスAP-7(日本アルコール販売)100mlに分散させ、この分散液を遠心分離した。沈殿の洗浄(沈殿のソルミックスAP-7、50mlによる再分散、つづく遠心分離)を3回繰り返し、得られた沈殿を80℃で4時間乾燥させて淡い黄色に着色した粉末を4.1g得た。
【0038】
(異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子の分析)
上記方法で得られた粉末の結晶構造を確認するため、粉末X線回折装置を用いて、Cu Kα線で、40kV、20mAの条件で2θ=10°〜80°の範囲で、粉末X線回折測定(XRD)を行った。図2に実施例1で得られた粉末のXRDプロファイルを示す。六方晶の酸化亜鉛に特有の2θ=31.8、34.5、36.3付近の三つの結晶ピークが確認されたため、得られた粉末を酸化亜鉛結晶と同定した。
【0039】
(異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子形状の観察)
実施例1で得られた粉末を走査電子顕微鏡(SEM、日立製作所、S-3000N)により観察した。写真を図1に示す。観察された粉末の粒子径を無作為に100個以上計測し、平均粒子径を求めたところ、50nmであった。
【0040】
実施例2〜10
実施例1において、Ni、Mg、MnおよびCoから選ばれる元素を含む原料として表1に示すものを用い、使用量を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして粉末を得た。
【0041】
比較例1〜7
実施例1において、表2に示す、Ni、Mg、MnおよびCo以外の元素を含む原料を用い、使用量を表2に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして粉末を得た。
【0042】
実施例2〜10、比較例1〜5の粉末はXRD測定の結果、酸化亜鉛結晶と同定された。またSEMを用いて実施例1と同様に平均粒子径を求めたところいずれも約50nmであった。比較例6、7の粉末は結晶ピークを示さなかった。
【0043】
性能評価試験
a)光学特性の評価
ポリスチレン樹脂(日本ポリスチレン製、G-590)に実施例2〜10および比較例1〜5の異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子0.04重量%を混合し、この混合物を210℃で射出成型機によりインジェクションして厚さ3mmのプラスチックプレートを得た。いずれのプラスチックプレートも、異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子の添加による着色はほとんど認められなかった。このプラスチックプレートの紫外可視透過スペクトルを測定した。360nmにおける紫外線透過率が10%以下、かつ450nmにおける可視光透過率が80%以上であるものを○と評価し、それ以外を×と評価した。
【0044】
異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子を添加しないプラスチックプレート(ブランク)の透過率は、360nmで65.2%、450nmで87.0%であった。
【0045】
b)耐候性の評価
紫外線吸収能を示さなかった比較例6,7の粉末を除く異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子をポリスチレン樹脂に0.6重量%混合し、この混合物を210℃で射出成型機によりインジェクションして厚さ3mmのプラスチックプレートを得た。このプラスチックプレートについてスーパーキセノンウェザーメーター(スガ試験機)で500時間の促進耐候試験を行った。異種金属元素含有酸化亜鉛を添加しないプラスチックプレートと比較して、チョーキングしたサンプルを×、ほぼ差が無かったサンプルを○と評価し、まったく差がみられなかったサンプルを◎で評価した。
【0046】
上記性能評価試験の結果のうち、実施例の結果を表1に、比較例の結果を表2に示す。また、実施例の異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子を添加したプラスチックプレートの紫外可視透過スペクトルを図3および図4に、比較例の異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子を添加したプラスチックプレートの紫外可視透過スペクトルを図5に示す。
【0047】
実施例のNi、Mg、MnおよびCoから選ばれる元素を含有させた異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子を添加したプラスチックプレートは全て優れた光学特性および優れた耐候性を示した。
【0048】
表2に示した比較例のうち、金属元素を含有させない比較例1の酸化亜鉛微粒子を添加したプラスチックプレートは、耐候試験の結果、著しくチョーキングした。
【0049】
比較例2〜7の異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子を添加したプラスチックプレートは、耐候性と可視光透過性を両立するものではなかった。
【0050】
以上の結果、実施例のNi、Mg、MnおよびCoから選ばれる元素を含む異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子を添加したプラスチックプレートは、優れた耐候性と優れた可視光透過性を両立するものであった。一方、比較例の異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子を添加したプラスチックプレートは、耐候性と可視光透過性を両立するものではなかった。
【表1】

【表2】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明による異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子は、例えば高い紫外線吸収性と高い視認性が必要な包装用フィルムに練り込むことで、基材の透明性を損なうことなく紫外線を遮蔽し、基材を劣化させない紫外線吸収剤として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例1で得られた微粒子の走査電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1で得られた微粒子のX線回折(XRD)プロファイルである。
【図3】性能評価試験の結果を示す紫外可視透過スペクトルである。
【図4】性能評価試験の結果を示す紫外可視透過スペクトルである。
【図5】性能評価試験の結果を示す紫外可視透過スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛の粒子内にNi、Mg、MnおよびCoの少なくとも1種の金属元素を0.01〜10mol% 含むことを特徴とする金属酸化物微粒子(以下、異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子と表記)。
【請求項2】
平均粒子径が100nm以下である請求項1記載の異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子。
【請求項3】
請求項1または2記載の異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子を含む紫外線吸収剤。
【請求項4】
請求項1または2記載の異種金属元素含有酸化亜鉛微粒子が基材中に分散してなる組成物。
【請求項5】
基材が熱可塑性樹脂である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
基材が塗料または化粧品の溶媒またはバインダーである請求項4に記載の組成物。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−247678(P2008−247678A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91961(P2007−91961)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000229874)東罐マテリアル・テクノロジー株式会社 (27)
【Fターム(参考)】