説明

酸化物発光体

【課題】電子線又は紫外線により励起されることによって紫外線領域200〜300nmで高レベルの発光を行う酸化物発光体を提供すること。
【解決手段】異種金属元素或いは半金属元素を含む周期表第2A族元素の酸化物からなる、電子線又は紫外線による励起に基づいて紫外線領域200〜300nmに発光ピークを有する発光体。好ましくは、前記周期表第2A族元素に対する前記異種金属元素或いは半金属元素の割合は0.0001〜1モル%であり、周期表第2A族元素はMgであり、異種金属元素はAlである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線又は紫外線による励起に基づいて紫外線領域200〜300nmに発光ピークを有する酸化物発光体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プラズマディスプレイパネル(PDP)において発光材料として使用されている蛍光体は、真空下でのキセノンガス内の放電により放射される波長147nmの真空紫外線や電子線等によって励起され発光するものである。しかし、実用化されているPDP用蛍光体は波長147nmの真空紫外線や電子線による発光強度が低いことから、PDPの発光効率を改良することが望まれていた。
【0003】
また、PDPにおいて発光セルの空間に存在する放電ガスから放射された紫外線や電子線等はあらゆる方向に放射されるにも関わらず、前記蛍光体以外の、放電空間を取り巻く構成材料に向かって放射された紫外線や電子線の大半は蛍光体の励起に利用されず、損失となっている。
【0004】
このような放射紫外線や電子線を有効活用し、かつPDPの発光効率を改善する技術として、特許文献1では、従来から誘電体層上に保護層として設けられていた薄膜酸化マグネシウム層の上に、さらに粒子状の酸化マグネシウム結晶体を含む結晶酸化マグネシウム層を設ける方法が開示されている。当該酸化マグネシウム結晶体は、電子線励起によって波長域200〜300nm内にピークを有するカソード・ルミネッセンス発光を行うものであり、具体的には、マグネシウムを加熱して発生するマグネシウム蒸気を気相酸化して得られる平均粒径が2000〜4000Å(0.2〜0.4μm)の酸化マグネシウム単結晶体を使用することが記載されている。
【0005】
これによってPDPの発光効率の改善だけではなく、放電遅れ等の放電特性の改善をも達成することができるものであるが、特許文献1で開示されている気相法酸化マグネシウム単結晶体は、波長域200〜300nm内での発光強度が充分なレベルに達しておらず、改良が期待されている。
【0006】
一方、特許文献2では、酸化マグネシウムに少量のガドリニウムを含有させてなる保護膜に、波長200nm以下の紫外線を照射すると、波長315nmにピークを有する紫外線を発光することが記載されているが、異種金属元素或いは半金属元素を含むことによって波長200〜300nmに発光ピークを持つようになった酸化物発光体はこれまで知られていない。
【特許文献1】特許第3842276号明細書
【特許文献2】特開2001−234164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、電子線又は紫外線により励起されることによって紫外線領域200〜300nmで高レベルの発光を行う酸化物発光体を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を重ねた結果、マグネシウム等の周期表第2A族元素の酸化物に対して、アルミニウム等の異種金属元素或いは半金属元素を含むことによって、電子線又は紫外線による励起に基づいて紫外線領域200〜300nmで高レベルの発光を行うことを見出し、本発明に至ったものである。
【0009】
すなわち本発明は、電子線又は紫外線による励起に基づいて紫外線領域200〜300nmに発光ピークを有する発光体であって、異種金属元素或いは半金属元素を含む周期表第2A族元素の酸化物からなることを特徴とする発光体に関する。
【0010】
好ましくは、前記酸化物において、前記周期表第2A族元素に対する前記異種金属元素或いは半金属元素の割合が、0.0001〜1モル%である。
【0011】
好ましくは、前記周期表第2A族元素が、Mg、Ca、Sr又はBaである。より好ましくは、前記周期表第2A族元素が、Mgである。
【0012】
好ましくは、前記異種金属元素或いは半金属元素が、Li、B、Na、Al、Si、K、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、As、Rb、Y、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ag、In、Sb、Cs、La、Pr、Pm、Eu、Gd、Tb、Ho、Tm、Lu、Ta、Re、Ir、Au、Tl、Bi及びAtからなる群より選択される少なくとも1種である。より好ましくは、前記異種金属元素が、Alである。
【0013】
好ましくは、前記酸化物は、前記異種金属元素及び前記半金属元素以外の含有元素を不純物とした場合の純度が99.9質量%以上である。
【0014】
好ましくは、前記酸化物が、粒子状のものであり、走査型電子顕微鏡にて観察した形状が立方体の一次粒子からなる粉末である。より好ましくは、前記酸化物粉末が、レーザ回折散乱式粒度分布測定による累積50%粒子径(D50)が0.1μm以上のものである。また、より好ましくは、前記酸化物粉末の結晶子径が、500Å以上である。
【0015】
好ましくは、前記酸化物が、液相法により製造されたものである。
【0016】
また、本発明は、前記発光体を搭載してなる光学デバイスにも関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、電子線又は紫外線による励起に基づいて紫外線領域200〜300nmで極めて高レベルの発光を行う酸化物発光体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の発光体は、電子線又は紫外線で励起されることによって、紫外線領域の波長200〜300nm(特に230〜260nm、なかでも240〜245nm)にピークを有する発光を行うものである。
【0019】
本発明の発光体は、周期表第2A族元素の酸化物からなるものであって、当該酸化物が微量の異種金属元素或いは半金属元素を含むことを特徴とする。本発明において酸化物はいわゆる単純酸化物を意味し、当該酸化物の主要元素は、周期表第2A族元素1種と、酸素原子である。
【0020】
前記周期表第2A族元素としては、Mg、Ca、Sr又はBaが挙げられ、なかでもMgが好ましい。すなわち本発明における周期表第2A族元素の酸化物は、酸化マグネシウムであることが最も好ましい。
【0021】
前記異種金属元素或いは半金属元素としては、酸化物の主要金属として使用される周期表第2A族元素と異なる金属元素或いは半金属元素であれば特に限定されないが、具体的には、Li、B、Na、Al、Si、K、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、As、Rb、Y、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ag、In、Sb、Cs、La、Pr、Pm、Eu、Gd、Tb、Ho、Tm、Lu、Ta、Re、Ir、Au、Tl、Bi、At等が挙げられる。異種金属元素或いは半金属元素としては1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、Alが好ましい。
【0022】
本発明の発光体が波長200〜300nmで高レベルの発光ピークを有するのは、前記酸化物の結晶構造に前記異種金属元素或いは半金属元素が混入することによって前記酸化物の結晶性が変化するためと推定される。当該発光ピークの強度には、前記酸化物に含まれる前記異種金属元素或いは半金属元素の基底状態における電子配置や、イオン化状態でのイオン価数及びイオン半径などが大きく影響するものと思われる。したがって、電子配置、イオン価数やイオン半径を考慮して、ドープする異種金属元素或いは半金属元素の種類を決定することが望ましい。
【0023】
発光強度をより向上させるには、前記酸化物における前記異種金属元素或いは半金属元素がイオン状態で、前記周期表第2A族元素の2価イオン(すなわちMg2+、Ca2+、Sr2+又はBa2+)と比較して、その価数が異なるか、又はイオン半径が大きく異なるものであるか、または当該元素が、基底状態の電子配置において、s軌道、p軌道又はd軌道に奇数の電子を持つ元素であることが好ましい。
【0024】
最も好ましい異種金属元素のイオンは、Al3+である。
【0025】
前記酸化物における異種金属元素或いは半金属元素の含量は、周期表第2A族元素に対して微量となる範囲であれば特に限定されないが、具体的には、周期表第2A族元素に対する異種金属元素或いは半金属元素の割合として、0.0001〜1モル%の範囲であり、0.001〜1モル%の範囲が好ましい。最も好ましくは、0.01モル%程度である。当該含量は通常の元素分析法により決定することができる。
【0026】
本発明の酸化物発光体が、電子線又は紫外線で励起されることにより波長200〜300nm(特に230〜260nm、なかでも240〜245nm)にピークを有する発光を伴うものであるためには、当該酸化物は粉末状のものであることが好ましい。さらに、当該酸化物は1次粒子の形状が立方体状であることがより好ましい。この形状は走査型電子顕微鏡によって確認することができる。なお「立方体状」とは幾何学的な意味での厳密な立方体を指すものではなく、図2のように、顕微鏡写真を目視で観察することによりおおよそ立方体と認識可能な形状を指す。また、当該酸化物は、立方体状の1次粒子が凝集することなく、各々分離しており、分散性が良好な性質を有するものが好ましい。
【0027】
さらには、当該酸化物の粒子は平均粒径が大きいものであることが好ましく、具体的には、レーザ回折散乱式粒度分布測定による累積50%粒子径(D50)で0.1μm以上を満たすものが好ましい。当該D50としては0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。なお、D50とは、メジアン径のことで、粒度の累積グラフにおいて50体積%に相当する粒径(μm)をいい、粉体をある粒子径で2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる粒径のことである。
【0028】
また、X線回折法を用いて測定した結晶子径が500Å以上であることが好ましく、1000Å以上であることがより好ましい。
【0029】
当該酸化物の1次粒子が全体的に大きく微粉を含まないものが好ましく、具体的には、当該酸化物の粉末はBET法により測定した比表面積が5.0m/g以下であることが好ましい。より好ましくは4.0m/g以下、さらに好ましくは2.5m/g以下、特に好ましくは1.0m/g以下である。
【0030】
本発明の酸化物発光体は、好ましくは、粒子状のものであって、立方体状に一次粒子の粒子形状がそろっており、立方体状結晶表面に微粒子が付着しておらず、当該表面が清浄、かつ平滑なものである。このため当該酸化物は粒径がそろっている、すなわち粒度分布が狭いものであることが好ましく、具体的には、レーザ回折散乱式粒度分布測定による累積10%粒子径(D10)と累積90%粒子径(D90)の比D90/D10で10.0以下を満たすものであることが好ましい。より好ましくは6.0以下であり、さらに好ましくは4.5以下である。
【0031】
本発明の酸化物発光体は異種金属元素或いは半金属元素を含むが、周期表第2A族元素の酸化物として、異種金属元素及び半金属元素以外の含有元素を不純物とした場合の純度は高純度である。具体的には99.9質量%以上が好ましい。この純度の数値は、紫外線領域200〜300nmで高レベルの発光を行うために酸化物発光体に含有されている前記異種金属元素及び半金属元素以外の含有元素を不純物とし、当該不純物の含有量のみを考慮した数値である。
【0032】
次に、本発明の酸化物発光体を製造する方法を説明する。
【0033】
一般に、周期表第2A族元素の酸化物を製造する方法としては、当該元素の金属単体の蒸気を酸化することによる気相法と、水溶液反応により得た水酸化物や炭酸化物等の前駆体を焼成することによる液相法とが知られているが、本発明の酸化物発光体を製造する方法としては、異種元素のドープ、及びその含量を精密にコントロールすることができるため、液相法を使用することが好ましい。
【0034】
具体的な製造方法としては、酸化物の製法として知られている各種方法を適用することができ、その過程において異種元素を混入することによって本発明の酸化物発光体を得るようにすればよいが、以下では、周期表第2A族元素の酸化物が酸化マグネシウムである場合の液相法について詳細に説明する。
【0035】
液相法で用いる酸化マグネシウム前駆体としては従来より使用される前駆体であってよく、特に限定されないが、例えば、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム等が挙げられる。なかでも、得られる酸化物発光体の特性が優れているので、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、及び、これらの混合物が好ましい。
【0036】
本発明の酸化物発光体を製造するには、酸化マグネシウム前駆体が微量の異種金属元素或いは半金属元素を含むようにこれを調製することが好ましい。しかしながら、前記前駆体が不純物を多く含むと、得られる酸化物発光体の純度が低くなるので、異種金属元素或いは半金属元素以外の不純物は少ないほうがよい。
【0037】
酸化マグネシウム前駆体の焼成をハロゲン化物イオンの存在下に行うことによって、得られる酸化物発光体の形状を立方体状にし、純度と結晶性を高めることができる。ハロゲン化物イオンとしては、塩化物イオン、フッ化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンが挙げられるが、塩化物イオンが好ましい。ハロゲン化物イオンを含む化合物の具体例としては、塩酸、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。
【0038】
ハロゲン化物イオンの存在量としては、酸化マグネシウム前駆体全量に対して0.5〜30質量%の範囲が好ましい。ハロゲン化物イオンの存在量が少なすぎると結晶が立方体状に成長しにくく、逆に多すぎると、酸化物発光体の結晶が成長しにくくなる。好ましくは1.0〜25質量%の範囲であり、より好ましくは10〜25質量%の範囲である。
【0039】
ハロゲン化物イオンを含む化合物は、酸化マグネシウム前駆体そのものであってもよいし、酸化マグネシウム前駆体に含まれている不純物に由来するものであってもよいし、酸化マグネシウム前駆体を溶液合成法によって調製する際に生じる副生物であってもよいし、酸化マグネシウム前駆体に対して別途添加したものであってもよいし、閉鎖式或いは開放式の炉中のガス雰囲気に、例えば気体の塩化水素や、分子状塩素等として添加したものであってもよい。また、酸化マグネシウム前駆体に含まれている不純物や酸化マグネシウム調製時に生じた副生物を洗浄等により十分に除去し、あらためて酸化マグネシウム前駆体に、又は、ガス雰囲気に添加してもよい。
【0040】
酸化マグネシウム前駆体が塩基性炭酸マグネシウムと水酸化マグネシウムとの混合物である場合に当該前駆体を溶液合成法で調製するには、例えば、(1)塩化マグネシウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液、さらには微量の異種金属元素或いは半金属元素の塩化物や酸化物等の水溶液を混合して、微量の異種金属元素或いは半金属元素イオンを含む水酸化マグネシウムスラリーを得、(2)当該スラリー中の水酸化マグネシウムの一部を炭酸化して、塩基性炭酸マグネシウムと水酸化マグネシウムと異種金属或いは半金属元素イオンを含むスラリーを得、(3)当該スラリーを濾過して、塩基性炭酸マグネシウムと水酸化マグネシウムとの混合物を得る。この混合物には、微量の異種金属元素或いは半金属元素イオンが含まれており、また、出発物質である塩化マグネシウム、又は、副生物である塩化ナトリウムとして、塩化物イオンが含まれている。
【0041】
前記工程(1)は、具体的には、異種金属元素或いは半金属元素の塩化物や酸化物等を相当量の水酸化ナトリウム水溶液に添加して溶解させたものを、塩化マグネシウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを混合して反応させる際に添加することにより行ってもよいし、この方法では沈殿が生じる場合には、異種金属元素或いは半金属元素の塩化物や酸化物等を塩化マグネシウム水溶液に添加し溶解させたものを、水酸化ナトリウム水溶液に添加し反応させることにより行ってもよい。
【0042】
前記工程(1)において水酸化マグネシウムスラリーを得た後、水で希釈することによって、当該スラリーの濃度を、好ましくは50〜100g/Lの範囲に、より好ましくは60〜90g/Lの範囲に調整するとよい。スラリーの濃度を下げることによってスラリーの粘度を低減して、次の工程(2)での炭酸化反応が均一に進行するようにするためである。
【0043】
前記工程(2)においては、前記スラリーに炭酸ガスを吹き込むことによって、スラリー中の水酸化マグネシウムの一部を炭酸化する。この炭素化反応の温度は40〜80℃が好ましい。この温度範囲では水酸化マグネシウムから塩基性炭酸マグネシウムへの変換が速やかに行われ、反応効率がよい。さらに、この温度範囲内では、濾過効率に優れた粒径を有する塩基性炭酸マグネシウムと水酸化マグネシウムとの混合物を得ることができる。
【0044】
前記炭酸化反応で使用する炭酸ガスの使用量は、水酸化マグネシウムスラリー中の水酸化マグネシウムの一部を塩基性炭酸マグネシウムに転化して、塩基性炭酸マグネシウムと水酸化マグネシウムとの混合物を与えることができる量とする。具体的な炭酸ガスの使用量は、水酸化マグネシウム1モルに対して0.2〜2.0モル当量であることが好ましい。この範囲内では、濾過効率に優れた塩基性炭酸マグネシウムと水酸化マグネシウムとの混合物を、効率よく得ることが可能となる。
【0045】
前記工程(3)においては、前記工程(2)で得られた塩基性炭酸マグネシウムと水酸化マグネシウムとを含むスラリーを濾過にかけて、塩基性炭酸マグネシウムと水酸化マグネシウムとの混合物を固体として得る。この固形混合物には塩化物イオンが含まれているので、これをそのまま、洗浄せずに、乾燥した後、後述する焼成に付してもよいし、この混合物を、適切な量の水を用いて洗浄することによってケーキ中の塩化物イオンの量を適正なレベルに低減してから、乾燥及び焼成に付してもよい。洗浄を十分に行ってしまうと塩化物イオンの含有量が低くなりすぎるので、洗浄の度合いを、洗浄水の使用量、洗浄時間等によって制御すればよい。しかし、十分に洗浄を行い塩化物イオンを完全に除去してから、別途ハロゲン化物イオン含有化合物を添加してもよい。
【0046】
酸化マグネシウム前駆体が水酸化マグネシウムである場合に当該前駆体を溶液合成法で調製するには、例えば、(4)塩化マグネシウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液、さらには微量の異種金属元素或いは半金属元素の塩化物や酸化物等の水溶液を混合して、微量の異種金属元素或いは半金属元素イオンを含む水酸化マグネシウムスラリーを得、(5)当該スラリーを濾過して、固形の水酸化マグネシウムを得る。この固形物には、微量の異種金属元素イオンが含まれており、また、出発物質である塩化マグネシウム、又は、副生物である塩化ナトリウムとして、塩化物イオンが含まれている。
【0047】
前記工程(4)については上述した工程(1)と同様である。
【0048】
前記工程(2)では、前記工程(1)で得られた水酸化マグネシウムスラリーを濾過にかけて、固形の水酸化マグネシウムを得る。この固形物には塩化物イオンが含まれているので、これを上述のように処理すればよい。
【0049】
本発明の酸化物発光体を製造するにあたっては、酸化マグネシウム前駆体の焼成を、ハロゲン化物イオンの存在下で、閉鎖系或いは開放系どちらでも行うことができるが、閉鎖系で行うことがより好ましい。ここで閉鎖系とは、焼成を行う空間に存在する気体が、実質的に、外部に流出せず、また、外部からも実質的に気体が流入しないようにほぼ密閉された系をいい、大気や酸素等の雰囲気下で開放して、又は、それらの気流を流しながら行われる通常の焼成方法とは異なる。閉鎖系で焼成することにより、ハロゲン化物イオンが外部に飛散することなく、焼成を行う容器中に留まり、酸化物粉末の結晶が成長する過程に十分に介在することによって、きわめて結晶性の良い立方体状結晶粉末を得ることが可能になる。
【0050】
この閉鎖系での焼成は、例えば、雰囲気ガスの流出入が実質的にない密閉式の電気炉を使用するか、密閉できる坩堝に入れるかして行うことができる。焼成時の温度としては600℃〜1400℃程度がよく、1200℃程度が最も好ましい。焼成時の温度が高すぎると、得られる結晶が凝集して分散性が悪くなる場合がある。焼成時間としては温度にもよるが、通常1〜10時間程度である。例えば、温度が1200℃程度の場合には5時間程度が適当である。なお、焼成のために昇温する際の速度としては特に限定されないが、5〜10℃/min程度がよい。
【0051】
前記の条件下での焼成によって結晶性の良い立方体状酸化物粉末が成長するのであるが、密閉下で焼成を行うために、前記のハロゲン化物イオン含有化合物等の不純物が十分に除去されず、焼成後の粉末に混入していることになる。このハロゲン化物イオン含有化合物の混入量を低減して酸化物粉末の純度を上げるために、前述の閉鎖系での一次焼成後に、さらに開放系で2回目の焼成を行うことが好ましい。
【0052】
この二次焼成は、通常の開放系で行う焼成であってよく、例えば、前駆体に含まれる不純物を酸化ガスとして除去することが可能となるよう、大気や、酸素雰囲気が好ましく、大気雰囲気下で雰囲気ガスの流動があるガス炉や、酸素気流下での電気炉等で行うことができる。二次焼成時の温度、時間、及び、炉内の気体としては、ハロゲン化物イオン含有化合物等の不純物が除去できればよく、特に限定されないが、結晶成長は一次焼成ですでに完了しているので、二次焼成の時間は比較的短めとしてもよい。
【0053】
本発明の酸化物発光体は、紫外線領域の波長200〜300nmで強力に発光をするものであるので、プラズマディスプレイパネルを始め各種光学デバイスに応用することができる。
【0054】
特に、本発明の酸化物発光体は、PDPにおいて保護膜上に設けられる結晶酸化マグネシウム層(クリスタルエミッシブレイヤー)を構成する酸化マグネシウム結晶体として利用することができる。当該結晶酸化マグネシウム層を形成するには、本発明の酸化物発光体を、スプレー法や静電塗布法などによって直接、前記保護膜に付着させるようにしてもよいし、発光体を含有するペーストを作製して、当該ペーストを前記保護膜に塗布、乾燥させるようにしてもよい。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0056】
以下の実施例では、以下に示す手順に沿って各種物性等を測定した。
(1)カソード・ルミネッセンスの測定法
走査型電子顕微鏡に光検出器及び分光器を組み合わせた装置(カソード・ルミネッセンス測定装置、HORIBA製)を使用し、試料に前記走査型電子顕微鏡の電子銃から電子線を照射することで、試料から放射された発光の発光スペクトルを測定した。
(2)走査型電子顕微鏡(SEM)観察法
走査型電子顕微鏡(商品名:JSM−5410、JEOL製)を使用してSEM組成像を撮影し、粒子形状の観察および立方体状酸化マグネシウムの一辺の長さの測定をした。
(3)酸化マグネシウムの不純物量測定法
酸化物の不純物量は、ICP発光分析装置(商品名:SPS−1700、セイコーインスツルメンツ 製)を使用して試料を酸に溶解したのち測定した。
(4)酸化物の純度測定法
酸化物の純度は、添加した異種金属元素及び半金属元素(実施例1ではアルミニウム、実施例2ではイットリウム、実施例3ではバナジウム)を除き、測定した不純物量の合計を100質量%から差し引いた値として算出した。
(5)結晶子径の測定方法
本発明の発光体の結晶子径は、粉末X線回折法を用いて測定し、Scherrer式で算出した。
実施例1
塩化マグネシウム(MgCl)水溶液に水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を反応させて、水酸化マグネシウム(Mg(OH))スラリーを得た。最終生成物である酸化マグネシウム粉末に、マグネシウムに対して0.01モル%程度のアルミニウムが含まれるよう、この反応時に、適量の塩化アルミニウム(AlCl)六水塩(関東化学社製)を水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に溶解させたものを添加した。
【0057】
この水酸化マグネシウムスラリーをイオン交換水でスラリー濃度75g/Lに希釈し、希釈した水酸化マグネシウムスラリー30Lを100〜150rpmの速度で攪拌しながら、水蒸気を吹込み、液温を60℃に調整した。次に、液温を60℃に保持しながら、タンクの下部からCO濃度100容量%の炭酸ガスを3/4当量吹込み、一部を塩基性炭酸マグネシウムに変換した。
【0058】
次いで、このスラリーを濾過し、得られたケーキを、イオン交換水で水洗した。この後、当該ケーキを120℃で10時間乾燥機にて乾燥し、前駆体を得た。
【0059】
次に、この水酸化マグネシウムと塩基性炭酸マグネシウムの混合物である前駆体を、大気雰囲気で雰囲気ガスの流出入がない閉鎖式の電気炉にて、昇温速度6℃/minで1200℃まで加熱し同温度で5時間保持することによって焼成し、酸化マグネシウム粉末を形成させた。これをさらに、大気雰囲気で雰囲気ガスの流入があるガス炉にて1200℃で1時間再焼成し、酸化マグネシウム粉末を得た。
【0060】
得られた酸化マグネシウム粉末について、カソード・ルミネッセンスを測定した結果を図1に示す。図1より、実施例1で得られた酸化マグネシウム粉末は、波長200〜300nm(特に230〜260nm、なかでも240〜245nm)に極めて発光強度が高い発光ピークを有することが分かる。
【0061】
また、得られた酸化マグネシウム粉末を走査型電子顕微鏡(15,000倍)で観察した結果を図2に示す。観察された結晶の形状はほぼ全てが立方体状であり、きわめて粒子形状がそろっており、結晶子径は、1000Å以上であった。また、立方体状結晶の一辺はおよそ0.1〜1μm程度前であり、きわめて粒度分布の狭いものであることが分かる。後述する図3とは異なり、結晶表面に微粒子が付着しておらず、結晶表面が平滑で、清浄である。さらには、個々の立方体状結晶粒がよく分離している。
実施例2
最終生成物である酸化マグネシウム粉末に、マグネシウムに対して0.01モル%程度のイットリウムが含まれるよう、塩化アルミニウム(AlCl)六水塩の代わりに適量の塩化イットリウム(YCl)六水塩(関東化学社製)を使用した以外は、実施例1と同様にして酸化マグネシウム発光体を合成した。
【0062】
得られた酸化マグネシウム粉末の結晶子径は、1000Å以上であった。また、カソード・ルミネッセンスを測定した結果を図1に示す。
実施例3
最終生成物である酸化マグネシウム粉末に、マグネシウムに対して0.01モル%程度のバナジウムが含まれるよう、塩化アルミニウム(AlCl)六水塩の代わりに適量の酸化バナジウム(V)(関東化学社製)を塩酸で溶解させ、次いで塩化マグネシウム(MgCl)水溶液に溶解させたものを添加した以外は、実施例1と同様にして酸化マグネシウム発光体を合成した。
【0063】
得られた酸化マグネシウム粉末の結晶子径は、1000Å以上であった。また、カソード・ルミネッセンスを測定した結果を図1に示す。
比較例1
水酸化マグネシウムスラリーの製造時に、塩化アルミニウム六水塩を水酸化ナトリウム水溶液に溶解させたものを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして酸化マグネシウム粉末を得た。
【0064】
得られた酸化マグネシウム粉末について、カソード・ルミネッセンスを測定した結果を図1に示す。図1より、比較例1で異種元素をドープせずに得られた酸化マグネシウム粉末には、波長200〜300nmに若干の発光ピークは認められるが、実施例1ほど発光強度が高くないことは明らかである。
比較例2
市販の気相法により製造された酸化マグネシウム粉末について、カソード・ルミネッセンスを測定した結果を図1に示す。図1より、気相法による酸化マグネシウム粉末には、波長200〜300nmに若干の発光ピークは認められるが、実施例1ほど発光強度が高くないことは明らかである。
【0065】
また、当該気相法による酸化マグネシウム粉末を走査型電子顕微鏡(15,000倍)で観察した結果を図3に示す。立方体状結晶が含まれているが、それと同時に、微細な微粒子状の結晶が大量に付着しており、表面が清浄とは言えないものであることが分かる。
【0066】
さらに、実施例1〜3及び比較例1〜2の酸化物純度を測定した結果、及び、実施例1〜3の酸化物におけるマグネシウムに対する添加元素の割合(モル%)を表1に示す。
【0067】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の酸化物発光体は、電子線又は紫外線による励起に基づいて紫外線領域200〜300nmに高レベルの発光ピークを有するものであるので、この発光波長領域を利用する光学デバイスに幅広く応用することが可能である。特に、PDPにおいて保護膜上に設けられる結晶酸化マグネシウム層を構成する酸化マグネシウム結晶体として利用することにより、PDPの発光効率や放電遅れを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施例及び各比較例で測定したカソード・ルミネッセンスの発光スペクトルを示すグラフ
【図2】実施例1で得た酸化マグネシウム粉末の電子顕微鏡写真
【図3】比較例2の酸化マグネシウム粉末の電子顕微鏡写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線又は紫外線による励起に基づいて紫外線領域200〜300nmに発光ピークを有する発光体であって、
異種金属元素或いは半金属元素を含む周期表第2A族元素の酸化物からなることを特徴とする発光体。
【請求項2】
前記酸化物において、前記周期表第2A族元素に対する前記異種金属元素或いは半金属元素の割合が、0.0001〜1モル%である、請求項1記載の発光体。
【請求項3】
前記周期表第2A族元素が、Mg、Ca、Sr又はBaである、請求項1又は2記載の発光体。
【請求項4】
前記周期表第2A族元素が、Mgである、請求項1又は2記載の発光体。
【請求項5】
前記異種金属元素或いは半金属元素が、Li、B、Na、Al、Si、K、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、As、Rb、Y、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ag、In、Sb、Cs、La、Pr、Pm、Eu、Gd、Tb、Ho、Tm、Lu、Ta、Re、Ir、Au、Tl、Bi及びAtからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかに記載の発光体。
【請求項6】
前記異種金属元素が、Alである、請求項1〜4のいずれかに記載の発光体。
【請求項7】
前記酸化物は、前記異種金属元素及び前記半金属元素以外の含有元素を不純物とした場合の純度が99.9質量%以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の発光体。
【請求項8】
前記酸化物が、粒子状のものであり、走査型電子顕微鏡にて観察した形状が立方体の一次粒子からなる粉末である、請求項1〜7のいずれかに記載の発光体。
【請求項9】
前記酸化物粉末が、レーザ回折散乱式粒度分布測定による累積50%粒子径(D50)が0.1μm以上のものである、請求項1〜8のいずれかに記載の発光体。
【請求項10】
前記酸化物粉末の結晶子径が、500Å以上である、請求項1〜9のいずれかに記載の発光体。
【請求項11】
前記酸化物が、液相法により製造されたものである、請求項1〜10のいずれかに記載の発光体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の発光体を搭載してなる光学デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−274020(P2008−274020A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115938(P2007−115938)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000108764)タテホ化学工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】