説明

酸化物超電導体およびその製造方法

【課題】フルオロカルボン酸を用いたMOD法により、Y系超電導体のTcを超える実用的なTcを示すLa、Nd、Sm系超電導体を製造することができる方法を提供する。
【解決手段】ランタン、ネオジウムおよびサマリウムからなる群より選択される金属Mを含む金属酢酸塩を炭素数3以上のフルオロカルボン酸と、酢酸バリウムを炭素数2のフルオロカルボン酸と、酢酸銅を炭素数2以上のフルオロカルボン酸と、それぞれ反応させて精製し、反応生成物を前記金属M、バリウムおよび銅のモル比が1:2:3となるようにメタノール中に溶解してコーティング液を調製し、前記コーティング溶液を基板上に成膜してゲル膜を形成し、仮焼および本焼を行い、酸化物超電導体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近実用化が進められている高臨界電流酸化物超電導材料は、核融合炉、磁気浮上列車、加速器、磁気診断装置(MRI)などへの有用な応用が期待され、一部は既に実用化がなされている。
【0003】
酸化物超電導体には主にビスマス系、Y系超電導体などがあるが、磁場中特性が良好なY系超電導体が実用化に近い材料として大いに注目を集めている。
【0004】
Y系超電導体の製造方法としてはパルスレーザー堆積(PLD)法、液相成長堆積(LPE)法、電子ビーム(EB)法、金属有機物堆積(MOD)法などが挙げられる。このうち、非真空で低コストのMOD法は近年脚光を浴び、米国や日本を中心に盛んに研究がなされている。そのMOD法の中でもトリフルオロ酢酸を用いるMOD法(以下、TFA−MOD法と称す)は、近年、高い特性を有する超電導体を製造できることが報告されている。
【0005】
MOD法は、化学溶液をスピンコート法やディップコート法などで単結晶基板上へ溶液を塗布および乾燥することによりゲル膜を得て、そのゲル膜を仮焼および本焼の2回の常圧アニールにより超電導体を得る方法である。この方法では、400〜500℃で行われる仮焼時に前駆体中の有機物を分解して酸化物とし、700〜900℃で行われる本焼により酸化物層に2軸配向組織を形成する。
【0006】
MOD法では、仮焼後に微結晶が形成され、本焼時にその微結晶を起点として無秩序な配向組織が形成され、特に膜厚が100nm以上になるとその影響が特に大きくなる点が問題になる。この方法で、良好な配向組織を得るためには、仮焼後の膜中で熱分解後の酸化物などが結晶成長して微結晶が形成されないように、ごく短時間で急熱急冷することが重要になる。この急熱急冷は試料を電気炉に出し入れすることにより行うが、中央部と端部で加熱の度合いが異なるために均一な膜を得るのが困難であった。そのためこの方法は精密な温度制御を可能とする大型の電気炉が必要とし、しかも少なからず存在する異相により高特性超電導体を再現性よく得るのが困難であった。
【0007】
上記MOD法を改良し、仮焼膜中の微結晶が本焼後の熱処理組織に影響しない方法として、トリフルオロ酢酸塩を用いるTFA−MOD法が開発された。TFA−MOD法は1988年にGuptaらによって最初に報告されたが、当時は出発原料の影響で溶液の純度が低かったと考えられ、他のMOD法と同様、さほど際立った特性や再現性を示さなかった。その後、TFA−MOD法はMcIntyreらにより改良され、77K,0Tでの超電導臨界電流値(Jc)が1MA/cm2を超えるまでに至った。
【0008】
TFA−MOD法はMOD法でありながら仮焼膜中微結晶が本焼後の配向に影響を及ぼさない。TEM観察によれば、仮焼膜の断面には多数のナノ微結晶が存在しているが、本焼後にはそれが全て解消し、再現性良く2軸配向組織が形成されることが確認されている(非特許文献1)。そのため通常のMOD法とは異なり、10時間以上に及ぶ仮焼で、超電導特性に有害な炭素をほぼ完全に追い出すことが可能であり、高い特性を有する超電導体が再現性よく得られる(非特許文献2)。当初は本焼時の成長機構が未解明であったが、最近になりフッ素が混入された結果として擬似液相ネットワークが形成され、仮焼膜中微結晶が解消されることが解明され、TFA−MOD法が通常のMOD法にない再現性と高特性を示すことが原理的にも明らかになった(非特許文献3)。
【0009】
しかし、TFA−MOD法は溶液としてトリフルオロ酢酸塩を用いているため、精製が難しいという問題があった。この方法では、最終的にメタノール溶液を必要とするが、トリフルオロ酢酸塩はカルボン酸塩としてアルコールであるメタノールとエステル化反応を起こす。エステル化を避けるため水中で精製を行うと水分子中の水素とトリフルオロ酢酸塩中のフッ素とが強い水素結合を形成するため約12wt%もの大量の不純物が残存する。不純物を含む溶液から得られた超電導体ではJcが1MA/cm2(77K,0T)以下の低い値になる。
【0010】
この問題に対しては、Solvent-Into-Gel(SIG)法により高純度溶液を調製することが可能になった(非特許文献4、特許文献1)。トリフルオロ酢酸塩の精製においては水またはアルコールを用いる必要があり、水素結合による分子捕捉が不可避なため、捕捉機構を解明した結果、SIG法により溶媒を捕捉させ不純物量を1/20程度にまで低減できた。これにより超電導体の特性はJc=7MA/cm2(77K,0T)まで改善した。また、SIG法による高純度溶液を用い最適仮焼を行ったTFA−MOD法により、膜厚を変えて24枚のYBCO試料を作製してJc値を測定したところ、全ての試料でJc値が5−7MA/cm2(77K,0T)となった。このような極めて良好な再現性は、これまでと全く異なる成長機構により超電導体が形成されていることを暗示している。
【0011】
この手法では一度目の熱処理(仮焼)で有機物を分解すると同時に一部の酸化物がフッ化物となり、二度目の熱処理(本焼)においてフッ化物の働きにより原子レベルで配向した組織が得られる。その反応は化学平衡反応であるため、フッ化物が微量ながら残留する。仮焼膜の膜上部から基板面へ向かいSIMS測定を行うと、Cuに対してモル比で約1/10のフッ素が膜中に残留することがわかっている。本焼膜の膜上部から基板面へ向かいSIMS測定を行うと、Cuに対してモル比で1/100−1/1000000のフッ素が膜中に残留することがわかっている。表面近傍ほどフッ素濃度が高く、これは化学平衡反応に独特の現象である。
【0012】
前述の高純度溶液調製方法であるSIG法の転用により、Y系超電導体(YBa2Cu37-x)以外にも多くのランタノイド(Ln)系超電導体の高純度溶液を調製できるようになり、Gd、Er、Dy、Tm系超電導体でJc=3MA/cm2(77K,0T)を実現できるようになった。しかし、それぞれ100K、96K、94KのTcを持ち実用上重要なLa、Nd、Sm系超電導体ではこれまで高い特性が得られていなかった。その理由は、溶液合成時の初期条件でエステル化反応が起きるためである。エステル化反応が起きない範囲で溶液合成を行って得られたSm系超電導体は最高の特性を有するものでもTc=84Kであった(前記特許文献1)。
【0013】
上記のエステル化反応はLn族元素の原子半径に深いかかわりを持つ。Ln族元素は原子番号が小さいものほど原子半径が大きくなる傾向がある。そして、トリフルオロ酢酸塩の中心金属元素の原子半径が大きいとアルコールが近接しやすくなりエステル化反応を起こしやすくなる。このため、Gd、Er、Dy、Tm系に比べて、La、Nd、Sm系はわずかに原子半径が増加するだけであってもアルコールが中心金属に接近できる可能性が高くなるためエステル化反応が起きやすくなる。
【0014】
エステル化反応を抑制するにはカルボン酸塩またはアルコールの分子量を増大させるのが有効であると考えられる。これは、分子量の大きいカルボン酸塩またはアルコールを用いれば、エステル化反応条件がより高温または低圧側に移動する結果、エステル化反応を抑制できると考えられるためである。
【0015】
ただし、カルボン酸塩の分子量を増大させてエステル化反応を抑制しようとすると、仮焼時に炭素が膜中に残留し超電導特性を劣化させる可能性が増大する。また、TFA−MOD法にSIG法を導入した時点では、超電導特性に有害な炭素が外部に追い出される機構が理解されていなかったため、より長鎖のカルボン酸塩を用いた実験では特性が全て著しく低下していた。
【0016】
一方、アルコールは溶媒として用いられ、コーティング時に揮散するため炭素残留量増加に結びつかない可能性が考えられた。これまでメタノールの代わりに、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールなどの代替溶媒を用いることにより、エステル化反応の抑制が試みられている。エタノールを用いた場合、La、Nd、Sm系の全てにおいてエステル化反応が抑制され高純度のエタノール溶液調製が可能となった。同様に、より分子量の大きなアルコールを用いた場合にもエステル化反応が抑制された。しかし、エタノール溶液、プロパノール溶液またはブタノール溶液を用いてゲル膜をコーティングし、仮焼、本焼を経てSm系やY系の超電導体を製造すると、特性が著しく低下することが確認された。これは、エタノール、プロパノールまたはブタノールは、メタノールよりも揮発性が劣るため、コーティング時にゲル膜中に微量に残留し、本焼時に残留炭素となって超電導特性を劣化させることによると考えられる。
【0017】
これまでにLa、Nd、Sm系超電導体においてエタノールを用いてエステル化を抑制する方法によって液体窒素温度で超電導性を示したのは、唯一、Sm系超電導体でTc=88.4K、Jc=0.60MA/cm2(77K,0T)であった。この例でも、Sm系超電導体の本来のTc=94Kよりはるかに小さなTcであり、かつY系超電導体の本来のTc=91Kよりも小さな値であるため、実用に供するには不十分であった。
【非特許文献1】T. Araki and I. Hirabayashi, Supercond. Sci. Technol. 16, R71 (2003).
【非特許文献2】T. Araki, Cryogenics 41, 675 (2002).
【非特許文献3】T. Araki, et al, J. Appl. Phys. 92, 3318 (2002).
【非特許文献4】T. Araki, et al, Supercond. Sci. Technol. 14, L21 (2001).
【特許文献1】米国特許第6,586,042号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、フルオロカルボン酸を用いたMOD法により、Y系超電導体のTcを超える実用的なTcを示すLa、Nd、Sm系超電導体を製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一態様に係る酸化物超電導体の製造方法は、ランタン、ネオジウムおよびサマリウムからなる群より選択される金属Mを含む金属酢酸塩を炭素数3以上のフルオロカルボン酸と、酢酸バリウムを炭素数2のフルオロカルボン酸と、酢酸銅を炭素数2以上のフルオロカルボン酸と、それぞれ反応させて精製し;反応生成物を前記金属M、バリウムおよび銅のモル比が1:2:3となるようにメタノール中に溶解してコーティング液を調製し;前記コーティング溶液を基板上に成膜してゲル膜を形成し、仮焼および本焼を行い、酸化物超電導体を得ることを特徴とする。
【0020】
本発明の他の態様に係る酸化物超電導体は、基板上に膜として形成され、主成分がSmBa2Cu37-xで表され、銅に対してモル比で10-2〜10-6のフッ素を含み、XRD測定において観測されるa/b軸配向粒子とc軸配向粒子の合計強度のうちa/b軸配向粒子の強度が占める割合が15%以下であることを特徴とする。
【0021】
本発明の他の態様に係る酸化物超電導体は、基板上に膜として形成され、主成分がNdBa2Cu37-xで表され、銅に対してモル比で10-2〜10-6のフッ素を含み、XRD測定において観測されるa/b軸配向粒子とc軸配向粒子の合計強度のうちa/b軸配向粒子の強度が占める割合が50%以下であることを特徴とする。
【0022】
本発明の他の態様に係る酸化物超電導体は、基板上に膜として形成され、主成分がLaBa2Cu37-xで表され、銅に対してモル比で10-2〜10-6のフッ素を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の方法を用いれば、ランタン、ネオジウムおよびサマリウムからなる群より選択される金属Mを含む金属酢酸塩を炭素数3以上のフルオロカルボン酸と反応させることにより、エステル化反応を抑制することができ、Y系超電導体のTcを超えるような実用的なTcを示すLa、Nd、Sm系超電導体を再現性良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の実施形態に係る方法では、以下のような手順により酸化物超電導体が製造される。
【0025】
まず、図1を参照して、金属酢酸塩をフルオロカルボン酸と反応させ、精製する工程を説明する。図1において、a1の金属酢酸塩とは、金属Mを含む金属酢酸塩、酢酸バリウム、および酢酸銅の総称として用いている。これらの金属酢酸塩に対応して適切なフルオロカルボン酸を用いる。すなわち、ランタン、ネオジウムおよびサマリウムからなる群より選択される金属Mを含む金属酢酸塩を炭素数3以上のフルオロカルボン酸、たとえばペンタフルオロプロピオン酸(PFP)と反応させる。他に酢酸バリウムを炭素数2のフルオロカルボン酸、たとえばトリフルオロ酢酸(TFA)と反応させる。さらに酢酸銅を炭素数2以上のフルオロカルボン酸、たとえばトリフルオロ酢酸(TFA)またはペンタフルオロプロピオン酸(PFP)と反応させる。ここで、酢酸バリウムを炭素数3以上のフルオロカルボン酸と反応させると沈殿物を生成するため、酢酸バリウムは炭素数2のフルオロカルボン酸と反応させる必要がある。
【0026】
この際、たとえば酢酸バリウムおよび酢酸銅をともにTFAと反応させる場合には、最初に酢酸バリウムの粉末と酢酸銅の粉末を所望の割合で混合した後にTFAと反応させてもよい。これらの反応により、金属フルオロカルボン酸塩が生成する。
【0027】
炭素数3以上のフルオロカルボン酸は、ペンタフルオロプロピオン酸(PFP)に限らず、ヘプタフルオロブタン酸(HFB)、ノナフルオロペンタン酸(NFP)などを用いてもよい。炭素数2のフルオロカルボン酸は、トリフルオロ酢酸(TFA)に限らず、モノフルオロ酢酸(MFA)またはジフルオロ酢酸(DFA)を用いてもよい。
【0028】
また、金属Mを含む金属酢酸塩を炭素数3以上のフルオロカルボン酸と反応させた後、反応生成物の炭素数3以上のフルオロカルボン酸基たとえばペンタフルオロプロピオン酸基を、より炭素数の少ないフルオロカルボン酸基たとえばトリフルオロ酢酸基で置換してもよい。
【0029】
上述の反応後に上述の金属Mを含む金属酢酸塩を炭素数3以上のフルオロカルボン酸と反応させた反応生成物(「反応生成物A」と称する)、酢酸バリウムを炭素数2のフルオロカルボン酸と反応させた反応生成物(「反応生成物B」と称する)、酢酸銅を炭素数2以上のフルオロカルボン酸と反応させた反応生成物(「反応生成物C」と称する)をそれぞれ精製するが、この精製時にSolvent-Into-Gel(SIG)法を用いることが好ましい。SIG法ではゲルに対してメタノールを加えて、不純物(例えば水)と置換した後、メタノールおよび不純物を揮散させることにより精製し、粉末またはゲルを得る。この粉末またはゲルを再びメタノールに溶解して溶液を得る。
【0030】
次に、図2を参照して、コーティング液を調製し、このコーティング溶液を基板上に成膜してゲル膜を形成し、仮焼および本焼を行い、酸化物超電導体を得る工程を説明する。図2において、溶液Aは反応生成物AをSiG法により精製したもので金属Mを含み、溶液Bは反応生成物BをSiG法により精製したものでバリウムを含み、溶液Cは反応生成物CをSiG法により精製したもので銅を含む。これらの溶液A、BおよびCを、金属M、バリウムおよび銅のモル比が1:2:3となるようにメタノール中に溶解してコーティング液を調製する。このコーティング液を基板上に成膜してゲル膜を形成する。その後、仮焼(一次熱処理)および本焼(二次熱処理)、さらに純酸素アニールを行い、酸化物超電導体を得る。
【0031】
形成されたゲル膜は電気炉中にて仮焼を経ることにより金属酸化フッ化物からなる仮焼膜となる。図3に仮焼時の温度プロファイル(および雰囲気)の一例を示す。
【0032】
(1)時刻0からta1(熱処理開始から7分程度)の間に熱処理炉内の温度は室温から100℃まで急激に上昇する。このとき熱処理炉内は常圧の乾燥した酸素雰囲気中に置かれる。なお、この後の熱処理工程は全て常圧下で行うことができる。
【0033】
(2)時刻ta1になったとき熱処理炉内の雰囲気は加湿した常圧の純酸素雰囲気に変更になる。そして、時刻ta1からta2(熱処理開始から42分程度)の間に熱処理炉内の温度は100℃から200℃に上昇する。このときの加湿した純酸素雰囲気は、例えば、湿度1.2%〜12.1%の範囲に設定する。上記の湿度は露点10℃および50℃に相当する。湿度を調整するには所定の温度の水に雰囲気ガス(酸素ガス)の気泡を通すことで行える。即ち、水中を通過したときの気泡内の飽和水蒸気圧によって湿度が決まる。飽和水蒸気圧は温度によって決定される。湿度の露点相当温度を室温よりも低く設定するにはガスを分流して一部のみ水に雰囲気ガスの気泡を通した後に混合する。なおこの加湿は主に最も昇華しやすいフルオロ酢酸銅の部分加水分解を行うことによりオリゴマーとし、見掛けの分子量を上げて昇華を防止することにある。フルオロ酢酸がトリフルオロ酢酸の場合には、下記のように加水分解が行われ、銅塩の両端のFとH原子で水素結合を作り、4〜5分子がつながることによりみかけの分子量が増大するため昇華が抑制される。
CF3COO-Cu-OCOCF3 + H2O → CF3COO-Cu-H + CF3COOH。
【0034】
(3)時刻ta2からta3(4時間10分から16時間40分程度)の間に炉内の温度は200℃から250℃に緩やかに上昇する。緩やかに上昇させるのは部分加水分解された塩が急激な反応により燃焼し炭素成分が残ることを防止するためである。長時間の分解反応により塩の共有結合部分が開き、一時的に金属酸化物(Y23、BaO、CuO)が形成され、YとBaに関しては非特許文献1に記載のとおりフッ素に置換され、酸素フッ素との不定比化合物を形成する。この状態で徐々に反応が進み温度が保持されるため、単一物質であるCuOのみが粒成長して数十nmのナノ微結晶となり、フッ素と酸素が不定比のYおよびBa成分は粒成長できずにアモルファスとなる。
【0035】
(4)時刻ta3からta4およびta4からta5(この間2時間程度)の間に熱処理炉内の温度は250℃から400℃まで上昇する。時刻ta2からta3の間に分解した不要な有機物が水素結合などで膜中に残存している。この工程では、不要な有機物を加熱により除去する。
【0036】
(5)時刻ta5以降はガスを流しながら炉冷を行う工程である。このようにして得られた仮焼膜は電気炉中で本焼熱処理と純酸素アニールを経て超電導体となる。
【0037】
図4に本焼時の温度プロファイル(および雰囲気)の一例を示す。
(6)時刻0からtb1(熱処理開始から7分程度)の間に熱処理炉内の温度は室温から100℃まで急激に上昇する。このとき熱処理炉内は常圧の酸素混合アルゴンガス雰囲気中に置かれる。この時の酸素濃度は焼成を行う超電導体の金属種や焼成温度により最適濃度が決まる。従来のY系(YBa2Cu37-x)で800℃焼成の場合の酸素分圧は1000ppmで、温度が25℃低下するたびに酸素濃度をほぼ半減させる熱処理条件が最適焼成条件であった。La系、Nd系、Sm系においても温度が25℃低下するたびに酸素濃度はほぼ半減させるのが好ましいが、800℃焼成における酸素分圧はそれぞれ順に1ppm、5ppm、20ppmである。なお、この後の熱処理工程は全て常圧下で行うことができる。
【0038】
(7)時刻tb1からtb2(33分間から37分間程度、最高到達温度まで20℃毎分程度で加熱)およびtb2からtb3(5分程度)で熱処理炉内温度は750℃〜825℃の熱処理最高温度まで上昇する。時刻tb1において乾燥ガスを仮焼と同様の方法で加湿を行う。このときの加湿量は1.2%(露点10℃)から30.7%(露点70℃)まで幅広い加湿温度の選択が可能であり、加湿量を増大させると反応速度が増大する。その増加量は0.5乗と見積もられている(非特許文献1に詳細記述)。tb2からtb3で昇温速度を小さくするのはtb3において電気炉温度の行き過ぎを小さくするためである。温度650℃程度で仮焼膜と水蒸気で膜内部に非特許文献3に記載される疑似液相形成が始まり、膜内部にそのネットワークが形成される。
【0039】
(8)時刻tb3からtb4(45分から3時間40分程度、この時間は最高温度と最終膜厚に依存し温度が低く膜厚が厚いときに最長となる)の間に疑似液相ネットワークからMBa2Cu36(M=La、Nd、Sm)が基板上に順次形成され、同時にHFガスなどが放出される。このときの簡略化された化学反応は以下のように記述される。
【0040】
(M-O-F:アモルファス) + H2O → M2O3 + HF↑
(Ba-O-F:アモルファス) + H2O → BaO + HF↑
(1/2)M2O3 + 2BaO + 3CuO → MBa2Cu3O6
(9)時刻tb4からガスを乾燥ガスに切り替える。tb4までに形成された酸化物MBa2Cu36は800℃付近の高温では水蒸気に安定であるが、600℃付近では水蒸気により分解してしまうため乾燥ガスに切り替える。
【0041】
(10)時刻tb4からtb5(10分間程度)に引き続き、時刻tb5からtb6(2時間から3時間30分程度)に至るまで熱処理炉内の温度を下げ続ける。この間、形成された酸化物に変化はない。
【0042】
(11)時刻tb6でガスを酸素混合アルゴンガスから乾燥純酸素ガスへ切り替える。この純酸素アニールにより、MBa2Cu36は、MBa2Cu37-x(x=0.07)となり超電導体が得られる。この純酸素切り替え温度は金属Mにより異なる。従来のYの場合は525℃であったが、Smの場合は425〜525℃、Ndの場合は375℃〜475℃、Laの場合は325℃〜425℃で良好な超電導体が得られることがわかっている。
【0043】
また、図5(A)および(B)を参照して、本焼時における超電導体の結晶粒子の成長機構について説明する。図5(A)は成長初期、図5(B)は成長中期を示している。図5(A)に示すように、成長初期において、基板1上に形成されている仮焼後の膜2を構成する超電導体の前駆体3中に均等に超電導粒子の核4が生成する。図5(B)に示すように、成長中期において、核4を起点として図の水平方向に結晶5が成長し、隣接する結晶5とぶつかったところに粒界6ができる。
【0044】
このような機構で成長した超電導体においては、微結晶同士がぶつかり合うところで粒界が5〜50nm毎に規則正しく配列する。この粒界の周期は本焼時のアニール条件に応じて5〜50nmで変化するようである。この微視領域での周期的粒界形成は磁束捕捉に有効であり、本発明の方法により製造される超電導体の特性と再現性の両方を高めているものと考えられる。実際、10m級線材の両端間で200A程度の電流が高い再現性で得られる。
【0045】
なお、超電導特性を劣化させる要因として、残留炭素の直接的影響以外にも、熱処理条件や溶液中不純物に起因するc軸配向粒比の低下が挙げられる。Sm、Nd、La系の超電導体はY系と同様、基板面にc軸配向粒が形成されることにより面に水平な方向に超電導電流が流れる。しかし、a軸とb軸長はほぼ等しく、しかもc軸長のほぼ1/3であるため、c軸配向粒の横倒し組織であるa/b軸配向粒が形成されやすい。この組織が形成されると基板面に垂直な方向にのみ電流が流れるため、平行な方向への超電導電流が遮断されて特性が低下する。更にc軸配向粒は基板面と平行な方向への成長速度が積層方向への速度の100倍近くあると考えられている。すなわちa/b軸配向粒の場合、基板面の垂直方向に速く成長し超電導特性を低下させる要因となる。
【0046】
c軸配向粒とa/b軸配向粒の核生成確率は、基板面の格子定数との整合性により決まると考えられ、熱処理条件(酸素分圧や焼成温度)の選択によりc軸配向粒形成確率を極大化することが可能である。しかし、不純物の存在により、c軸配向粒が形成されやすい条件でもa/b軸配向粒が形成され、特性が低くなるという結果が確認されている。SIG法を用いずに合成された溶液を用いて得られた厚膜のY系超電導膜では特に特性が低下する。a/b軸配向粒は核生成により表面付近まで組織が成長するが、厚膜では単位面積当たりのa/b軸配向粒生成率が高まるため、特性が低下しやすくなる。一方、SIG法による高純度溶液を用いてTFA−MOD法によりY系超電導膜を得た場合にはa/b軸配向粒の影響が小さく、上述したように良好な再現性で高いJc値が得られている。
【0047】
本発明においても、SIG法による高純度溶液を用いることにより、a/b軸配向粒の影響が小さくすることができる。
【0048】
本発明の実施形態に係る酸化物超電導体は、より詳細には以下のように規定できる。すなわち、基板上に膜として形成され、主成分がMBa2Cu37-x(ここで、Mはランタン、ネオジウムおよびサマリウムからなる群より選択される金属)で表され、銅に対しモル比で10-2〜10-6のフッ素を含む。本明細書において、膜とは10μm以下の厚さを有するものをいう。c軸配向粒のピーク強度をIcとa/b軸配向粒のピーク強度をIabとしたとき、a/b軸配向粒子の割合を示す目安としてrab=Iab/(Ic+Iab)と定義する。本発明の実施形態に係る酸化物超電導体では、MがSmのときrabは15%以下、Ndのときrabは50%以下であり、MがLaのときにはrabは限定されない。また、基板面に垂直な断面でのTEM観察で基板とMBa2Cu37-x界面における2軸配向層の比率が95%以上でかつ表面層の2軸配向層比率が80%以下であり、基板から垂直方向に50nm移動した基板と平行な面でのTEM観察で結合角0.2〜1度程度の粒界が5〜50nmごとに規則正しく配列する構造を持つ。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例を説明する。
[実施例1]
(CH3OCO)3Smの約3.8水和物の粉末をイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3CF2COOH(PFP)とナス型フラスコ中で混合して攪拌し、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で反応および精製を約10時間行い、半透明淡黄色の粉末SL1appを得た(図1e)。この粉末SL1appをその約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解して黄色溶液を得た後、この溶液を再びロータリーエバポレータを用いて減圧下で約12時間精製し、不透明淡黄色の粉末SL1apを得た(図1i)。この粉末SL1apを再びメタノール中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で0.78mol/Lの溶液SL1aを得た(図1k)。
【0050】
(CH3OCO)2Ba無水物の粉末と(CH3OCO)2Cuの約1.0水和物の粉末をそれぞれイオン交換水中に溶解し、ビーカー中でそれぞれ反応等モル量のCF3COOH(TFA)と混合して攪拌した。2つの溶液を金属イオンのモル比で2.00:3.00となるようにナス型フラスコに入れて混合し、濃青色の溶液を得た。この溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で反応および精製を約10時間行い、半透明青色のゲルSL1bcppを得た(図1e)。このゲルSL1bcppをその約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解して青色溶液を得た後、この溶液を再びロータリーエバポレータを用いて減圧下で約12時間精製し、青色ゲルSL1bcpを得た(図1i)。この青色ゲルSL1bcpを再びメタノール中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/Lの溶液SL1bcを得た(図1k)。
【0051】
溶液SL1aと溶液SL1bcを、Sm:Ba:Cu=1.00:2.00:3.00となるよう混合し、コーティング溶液SL1を得た(図2b)。このコーティング溶液の濃度は金属イオン換算で約1.30mol/Lである。
【0052】
このコーティング溶液SL1を(100)LaAlO3単結晶配向基板上に、加速時間0.2秒、回転速度2,000rpm、保持時間150秒の条件でスピンコートした(図2c)。
【0053】
図4に示すように、4.2%加湿純酸素雰囲気下で、200から250℃の間の時間を11時間43分(703分)に設定して仮焼した。得られた仮焼膜の1枚をSIMSで分析を行った結果を図6に示す。図6に示されるように、フッ素量は銅に対してモル比で約1/10である。
【0054】
次に、図5に示すように、4.2%加湿酸素混合アルゴン雰囲気下(酸素分圧は20,50,100または200ppmとした)において800℃で本焼し、乾燥酸素混合アルゴン雰囲気下において降温しながらアニールし、425℃以下で乾燥純酸素下においてアニールしてSm系超電導体を得た(図2i)。本焼時の加湿Ar/O2中の酸素分圧の条件に応じて、得られたSm系超電導体を以下のように命名した。
【0055】
20ppm 50ppm 100ppm 200ppm
Fm1a Fm1b Fm1c Fm1d。
【0056】
得られたSm系超電導体Fm1a、Fm1b、Fm1cおよびFm1dについて、SIMSにより膜上部から組成分析を行った。Fm1aの結果を図7、Fm1dの結果を図8に示す。フッ素量は銅に対してモル比で10-2〜10-6の範囲となっていた。
【0057】
試料Fm1a、Fm1b、Fm1cおよびFm1dについて断面TEM観察を行った。断面TEM像には10〜20nmの周期的な粒界が認められた。その粒界周期はアニール条件によって変化するようである。
【0058】
試料Fm1a、Fm1b、Fm1cおよびFm1dをXRD(Cu−Kα、40kV、50mA)によって測定した結果を図9、図10、図11、図12に示す。また、従来、最良の結果が得られているSm系超電導体のXRDの結果を図13に示す。図13ではrab=17.4%である。これに対して、図9、図10、図11、図12では、rabは順に2.4%、3.7%、7.4%、11.3%と良好な値が得られた。これらの比較から、本実施例では、不純物に由来するa/b軸配向粒子が大幅に抑制されていることがわかる。
【0059】
次に、試料Fm1a、Fm1b、Fm1cおよびFm1dの臨界温度Tcおよび臨界電流密度Jcを誘導法により測定した。図14にFm1aのTc測定データを示す。図15にFm1aのJc測定データを示す。図15は試料の中央部数点を測定した結果であるが、ここでのJcは安定的に得られる値の最高値を採用しており、5.10MA/cm2として取り扱っている。図16に試料Fm1a、Fm1b、Fm1cおよびFm1dのTcデータのアニール条件(本焼時の酸素分圧)依存性を示す。図16からTcは本焼時の酸素分圧に敏感であることがわかる。本焼時の酸素分圧が20ppmの試料Fm1aで最高のTcが得られ、本焼時の酸素分圧が高いほどTcが低下している。これは、高い酸素分圧ではSmとBaとの置換が起き、超電導特性が低下することによると考えられる。
【0060】
従来、SIG法によりトリフルオロ酢酸のみを用いて調製した高純度溶液から得られたSm系超電導体では、Tc=88.4K、Jc=0.60MA/cm2(77K,0T)であった。したがって、本実施例の方法によれば、従来の方法と比較すると、はるかに高いTcおよびJcが示すSm系超電導体が得られたことは明らかである。
【0061】
[実施例2]
(CH3OCO)3Smの約3.8水和物の粉末をイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3CF2COOH(PFP)とナス型フラスコ中で混合して攪拌し、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で反応および精製を約10時間行い、半透明淡黄色の粉末SL2appを得た(図1e)。この粉末SL2appを、その約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解して黄色溶液を得た後、この溶液を再びロータリーエバポレータを用いて減圧下で約12時間精製し、不透明淡黄色の粉末SL2apを得た(図1i)。この粉末SL2apを再びメタノール中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で0.78mol/Lの溶液SL2aを得た(図1k)。
【0062】
(CH3OCO)2Ba無水物の粉末をイオン交換水中に溶解し、ビーカー中で反応等モル量のCF3COOH(TFA)と混合して攪拌し、透明溶液を得た。この溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で反応および精製を約10時間行い、半透明白色粉末SL2bppを得た(図1e)。この粉末SL2bppを、その約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解して透明溶液を得た後、この溶液を再びロータリーエバポレータを用いて減圧下で約12時間精製し、半透明白色粉末SL2bpを得た(図1i)。この粉末SL2bpを再びメタノール中に溶解して透明溶液SL2bを得た(図1k)。
【0063】
(CH3OCO)2Cuの約1.0水和物の粉末をイオン交換水中に溶解し、CF3COOH(TFA)とCF3CF2COOH(PFP)を3:0、2:1、1:2または0:3の割合で混合した反応等モル量のフルオロカルボン酸と混合して攪拌し、濃青色の溶液を得た。各々の溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で反応および精製を約10時間行い、4種の半透明青色のゲルSL2c30pp、SL2c21pp、SL2c12pp、SL2c03ppを得た(図1e)。各々のゲルをその約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解して青色溶液を得た後、各々の溶液を再びロータリーエバポレータを用いて減圧下で約12時間精製し、4種の青色ゲルSL2c30p、SL2c21p、SL2c12p、SL2c03pを得た(図1i)。各々の青色ゲルSL2c30p、SL2c21p、SL2c12pまたはSL2c03pを再びメタノール中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、4種の溶液SL2c30、SL2c21、SL2c12、SL21c03を得た(図1k)。
【0064】
溶液SL2aと、溶液SL2bと、溶液SL2c30、SL2c21、SL2c12またはSL21c03とを、Sm:Ba:Cu=1.00:2.00:3.00となるよう混合し、4種のコーティング溶液SL2−30、SL2−21、SL2−12、SL2−03を得た(図2b)。各々のコーティング溶液の濃度は金属イオン換算で約1.30mol/Lである。
【0065】
各々のコーティング溶液を、(100)LaAlO3単結晶配向基板上に実施例1と同一の条件でスピンコートし(図2c)、実施例1に示した条件で仮焼および本焼(800℃での本焼時の4.2%加湿酸素混合アルゴン雰囲気中の酸素分圧は20ppmとした)を行い、4種の超電導体Fm2−30、Fm2−21、Fm2−12、Fm2−03を得た(図2i)。
【0066】
試料Fm2−30、Fm2−21、Fm2−12およびFm2−03をICP測定により各々の試料膜厚を測定すると200±10nmであった。また、試料Fm2−30、Fm2−21、Fm2−12およびFm2−03のTc(K)とJc(MA/cm2,77K,0T)を誘導法により測定した。これらの結果を表1にまとめて示す。
【表1】

【0067】
[実施例3]
(CH3OCO)3Smの約3.8水和物の粉末をイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3CF2COOH(PFP)とナス型フラスコ中で混合して攪拌し、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で反応および精製を約10時間行い、半透明淡黄色の粉末SL3appを得た(図1e)。この粉末SL3appを、その約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解して黄色溶液を得た後、この溶液を再びロータリーエバポレータを用いて減圧下で約12時間精製し、不透明淡黄色の粉末SL3apを得た(図1i)。この粉末SL3apを再びメタノール中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で0.78mol/Lの溶液SL3aを得た(図1k)。
【0068】
(CH3OCO)2Ba無水物の粉末をイオン交換水中に溶解し、ビーカー中で反応等モル量のCF3COOH(TFA)と混合して攪拌し、透明溶液を得た。この溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で反応および精製を約10時間行い、半透明白色粉末SL3bppを得た(図1e)。この粉末SL3bppを、その約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解して透明溶液を得た後、この溶液を再びロータリーエバポレータを用いて減圧下で約12時間精製し、半透明白色粉末SL3bpを得た(図1i)。この粉末SL3bpを再びメタノール中に溶解して透明溶液SL3bを得た(図1k)。
【0069】
(CH3OCO)2Cuの約1.0水和物の青色粉末をイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3CF2COOH(PFP)、CF3CF2CF2COOH(HFB)またはCF3CF2CF2CF2COOH(NFP)と混合して攪拌し、濃青色の溶液を得た。各々の溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で反応および精製を約10時間行い、3種の半透明青色のゲルSL3c1pp、SL3c2pp、SL3c3ppを得た(図1e)。各々のゲルをその約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解して青色溶液を得た後、各々の溶液を再びロータリーエバポレータを用いて減圧下で約12時間精製し、3種の青色ゲルSL3c1p、SL3c2p、SL3c3pを得た(図1i)。各々の青色ゲルSL3c1p、SL3c2p、およびSL3c3pを再びメタノール中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、3種の溶液SL3c1、SL3c2、SL3c3を得た(図1k)。
【0070】
溶液SL3aと、溶液SL3bと、溶液SL3c1、SL3c2またはSL3c3とを、Sm:Ba:Cu=1.00:2.00:3.00となるよう混合し、3種のコーティング溶液SL3−1、SL3−2、SL3−3を得た(図2b)。
【0071】
各々のコーティング溶液を、(100)LaAlO3単結晶配向基板上に実施例1と同一の条件でスピンコートし(図2c)、実施例1に示した条件で仮焼および本焼(800℃での本焼時の4.2%加湿酸素混合アルゴン雰囲気中の酸素分圧は20ppmとした)を行い、3種の超電導体Fm3−1、Fm3−2、およびFm3−3を得た(図2i)。
【0072】
試料Fm3−1、Fm3−2およびFm3−3のTc(K)とJc(MA/cm2,77K,0T)を誘導法により測定した。これらの結果を表2にまとめて示す。
【0073】
上記のコーティング溶液SL3−1とSL3−2を混合比3:1、2:2、または1:3で、また上記のコーティング溶液SL3−1とSL3−3を混合比1:1でそれぞれ混合し、4種のコーティング溶液SL3x31、SL3x22、SL3x13、SL3x11を得た。
【0074】
各々のコーティング溶液を、(100)LaAlO3単結晶配向基板上に実施例1と同一の条件でスピンコートし(図2c)、実施例1に示した条件で仮焼および本焼(800℃での本焼時の4.2%加湿酸素混合アルゴン雰囲気中の酸素分圧は20ppmとした)を行い、4種の超電導体Fmx31、Fmx22、Fmx13、Fmx11を得た(図2i)。
【0075】
試料Fmx31、Fmx22、Fmx13、およびFmx11のTc(K)とJc(MA/cm2,77K,0T)を誘導法により測定した。これらの結果を表2にまとめて示す。
【表2】

【0076】
[実施例4]
(CH3OCO)3Smの約3.8水和物の粉末をイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3CF2COOH(PFP)とナス型フラスコ中で混合して攪拌し、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で反応および精製を約10時間行い、半透明淡黄色の粉末SL4appを得た(図1e)。この粉末SL4appを、その約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解して黄色溶液を得た後、この溶液を再びロータリーエバポレータを用いて減圧下で約12時間精製し、不透明淡黄色の粉末SL4apを得た(図1i)。この粉末SL4apを再びメタノール中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で0.78mol/Lの溶液SL4aを得た(図1k)。
【0077】
(CH3OCO)2Ba無水物の粉末をイオン交換水中に溶解し、ビーカー中で反応等モル量のCH2FCOOH(MFA)、CHF2COOH(DFA)、またはCF3COOH(TFA)と混合して攪拌し、透明溶液を得た。各々の溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で反応および撹拌を約10時間行い、3種の半透明白色粉末SL4b1pp、SL4b2pp、SL4b3ppを得た(図1e)。各々の粉末SL4b1pp、SL4b2pp、またはSL4b3ppを、その約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解して透明溶液を得た後、各々の溶液を再びロータリーエバポレータを用いて減圧下で約12時間精製し、3種の半透明白色粉末SL4b1p、SL4b2p、SL4b3pを得た(図1i)。各々の粉末をメタノール中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、3種の溶液SL4b1、SL4b2、SL4b3を得た(図1k)。
【0078】
(CH3OCO)2Cuの約1.0水和物の粉末をイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCHF2COOH(DFA)またはCF3COOH(TFA)と混合して攪拌し、濃青色の溶液を得た。各々の溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で反応および精製を約10時間行い、2種の半透明青色ゲルSL4c1pp、SL4c2ppを得た(図1e)。各々のゲルをその約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解して青色溶液を得た後、各々の溶液を再びロータリーエバポレータを用いて減圧下で約12時間精製し、2種の青色ゲルSL4c1p、SL4c2pを得た(図1i)。各々のゲルをメタノール中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、2種のコーティング溶液SL4c1、SL4c2を得た(図1k)。
【0079】
溶液SL4aと、溶液SL4b1、SL4b2またはSL4b3と、溶液SL4c2とを、Sm:Ba:Cu=1.00:2.00:3.00となるよう混合し、3種のコーティング溶液SL4−11、SL4−12、SL4−13を得た。
【0080】
溶液SL4aと、溶液SL4b3と、溶液SL4c1またはSL4c2とを、Sm:Ba:Cu=1.00:2.00:3.00となるよう混合し、2種のコーティング溶液SL4−21、SL4−22を得た。
【0081】
各々のコーティング溶液を、(100)LaAlO3単結晶配向基板上に実施例1と同一の条件でスピンコートし(図2c)、実施例1に示した条件で仮焼および本焼(800℃での本焼時の4.2%加湿酸素混合アルゴン雰囲気中の酸素分圧は20ppmとした)を行い、5種の超電導体Fm4−11、Fm4−12、Fm4−13、Fm4−21、Fm4−22を得た(図2i)。
【0082】
試料Fm4−11、Fm4−12、Fm4−13、Fm4−21、およびFm4−22のTc(K)とJc(MA/cm2,77K,0T)を誘導法により測定した。これらの結果を表3にまとめて示す。
【表3】

【0083】
[実施例5]
(CH3OCO)3Laの約1.5水和物の粉末または(CH3OCO)3Ndの約1.0水和物の粉末をイオン交換水中に溶解し、各々の溶液に反応等モル量のCF3CF2COOH(PFP)とナス型フラスコ中で混合して攪拌し、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で反応および精製を約10時間行い、半透明白色の粉末SL5a1pp、半透明紫色の粉末SL5a2ppを得た(図1e)。各々の粉末をその約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解して透明溶液または薄紫色溶液を得た後、各々の溶液を再びロータリーエバポレータを用いて減圧下で約12時間精製し、半透明白色の粉末SL5a1ppまたは半透明紫色の粉末SL5a2ppを得た(図1i)。各々の粉末を再びメタノール中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で約0.90mol/Lのコーティング溶液SL5a1、または金属イオン換算で約0.32mol/Lのコーティング溶液SL5a2を得た(図1k)。
【0084】
(CH3OCO)2Ba無水物の粉末と(CH3OCO)2Cuの約1.0水和物の粉末をそれぞれイオン交換水中に溶解し、ビーカー中でそれぞれ反応等モル量のCF3COOH(TFA)と混合して攪拌した。2つの溶液を金属イオンのモル比で2.00:3.00となるようにナス型フラスコに入れて混合し、濃青色の溶液を得た。この溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で反応および精製を約10時間行い、半透明青色のゲルSL5bcppを得た(図1e)。このゲルSL5bcppをその約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解して青色溶液を得た後、この溶液を再びロータリーエバポレータを用いて減圧下で約12時間精製し、青色ゲルSL5bcpを得た(図1i)。この青色ゲルSL5bcpを再びメタノール中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/Lの溶液SL5bcを得た(図1k)。
【0085】
溶液SL5a1またはSL5a2と溶液SL5bcを、La:Ba:Cu=1.00:2.00:3.00またはNd:Ba:Cu=1.00:2.00:3.00となるよう混合し、2種のコーティング溶液SL5−1、SL5−2を得た(図2b)。
【0086】
各々のコーティング溶液を、(100)LaAlO3単結晶配向基板上に実施例1と同一の条件でスピンコートし(図2c)、実施例1に示したのと同様な条件で仮焼および本焼(800℃での本焼時の4.2%加湿酸素混合アルゴン雰囲気中の酸素分圧は9ppmとした)を行い、2種の超電導体Fm5−1、Fm5−2を得た(図2i)。
【0087】
Fm5−1、Fm5−2をXRD測定した結果をそれぞれ図17、図18に示す。Sm系と比較して、Nd系のc軸ピークはより低角側に観測され、La系は更に低角側に観測される典型的なパターンが得られている。Nd系のrabは5.0%であり、Laは32.1%であった。
【0088】
比較のために、SIG法で溶液を合成し、従来のTFA−MOD法で作製したNd系超電導体膜の測定結果を図19に示す。図19ではrab=66.7%にも達する。このNd系超電導体膜では、77Kで超電導特性が得られていない。図示しないが、Sm系の結果ではrab=23.4%に達し、Tc=84.0K、Jc=0.22MA/cm2(77K、0T)であった。
【0089】
図17と図19との比較からわかるように、Nd系では大幅な改善がなされ、77Kで実用レベルの高特性が得られている。Tc値はまだ低いが今後改善される可能性が高い。
【0090】
また、従来の方法では、La系超電導体はXRDにおいてc軸配向ピークすら得られなかった。これに対して、本実施例では図18に示すように、配向組織が得られることがわかった。
【0091】
試料Fm5−1およびFm5−2のTc(K)とJc(MA/cm2,77K,0T)を誘導法により測定した。これらの結果を表4にまとめて示す。
【表4】

【0092】
従来、SIG法によりトリフルオロ酢酸(TFA)のみを用いた調製した高純度溶液から得られたLa系超電導体およびNd系超電導体では高い特性が得られなかった。これに対して本実施例の方法を用いた場合、Nd系超電導体で特に高い特性が得られた。これは、ペンタフルオロプロピオン酸(PFP)を用いたことによりエステル化反応を抑制できたためである。ただし、本実施例で得られたLa系超電導体の特性は、報告されている特性と比べるとかなり低い。
【0093】
次に、Fm5−2の本焼時の酸素分圧が9ppmであったのに対し、本焼時の酸素分圧を21ppmまたは3ppmに設定することにより、さらに2種の超電導体Fm5−3、Fm5−4を得た。図20に、試料Fm5−2、Fm5−3およびFm5−4について、Tc測定を実施した結果を示す。図20に示すように、抵抗の微分値が広い温度範囲で拡がりを持つような測定結果が得られている。これは、現状では10ppm程度の低濃度酸素ガスを安定して供給することができないためであると考えられる。ただし、アニール条件の最適化などによって特性の向上が期待できる。
【0094】
[実施例6]
(CH3OCO)3Yの約3.6水和物の粉末、(CH3OCO)3Smの約3.8水和物の粉末、または(CH3OCO)3Ndの約1.0水和物の粉末をイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3CF2COOH(PFP)とナス型フラスコ中で混合して攪拌し、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で反応および精製を約10時間行い、半透明白色の粉末SL6a1pp、半透明黄色の粉末SL6a2pp、または半透明紫色の粉末SL6a3ppを得た(図1e)。
【0095】
(CH3OCO)3Yの約3.6水和物の粉末をイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOH(TFA)とナス型フラスコ中で混合して攪拌し、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で反応および精製を約10時間行い、半透明白色の粉末SL6a4ppを得た(図1e)。
【0096】
各々の粉末SL6a1pp、SL6a2pp、SL6a3ppまたはSL6a4ppをその約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解して透明溶液、黄色溶液、薄紫色溶液または透明溶液を得た後、各々の溶液をロータリーエバポレータを用いて再び減圧下で約12時間精製し、半透明白色粉末SL6a1p、半透明黄色粉末SL6a2p、半透明紫色の粉末SL6a3p、または半透明白色粉末SL6a4pを得た(図1i)。各々の粉末を再びメタノール中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、4種の溶液SL6a1、SL6a2、SL6a3、SL6a4を得た(図1k)。
【0097】
(CH3OCO)2Ba無水物の粉末と(CH3OCO)2Cuの約1.0水和物の粉末をそれぞれイオン交換水中に溶解し、ビーカー中でそれぞれ反応等モル量のCF3COOH(TFA)と混合して攪拌した。2つの溶液を金属イオンのモル比で2.00:3.00となるようにナス型フラスコに入れて混合し、濃青色の溶液を得た。この溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で反応および精製を約10時間行い、半透明青色のゲルSL6bcppを得た(図1e)。このゲルSL6bcppをその約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解して青色溶液を得た後、この溶液を再びロータリーエバポレータを用いて減圧下で約12時間精製し、青色ゲルSL6bcpを得た(図1i)。この青色ゲルSL6bcpを再びメタノール中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/Lの溶液SL6bcを得た(図1k)。
【0098】
溶液SL6a1、SL6a2、SL6a3またはSL6a4と溶液SL6bcを、M:Ba:Cu=1.00:2.00:3.00(M=Y,Nd,Sm)となるよう混合し、4種のコーティング溶液SL6−1、SL6−2、SL6−3、SL6−4を得た(図2b)。
【0099】
コーティング溶液SL6−1とSL6−2を、5:0、4:1、3:2、2:3、1:4、または0:5の割合で混合して、6種のコーティング溶液SL6x1250、SL6x1241、SL6x1232、SL6x1223、SL6x1214、SL6x1205を得た[Y(PFP)−Sm系]。
【0100】
同様に、コーティング溶液SL6−1とSL6−3を、5:0、4:1、3:2、2:3、1:4、または0:5の割合で混合して、6種のコーティング溶液SL6x1350、SL6x1341、SL6x1332、SL6x1323、SL6x1314、SL6x1305を得た[Y(PFP)−Nd系]。
【0101】
同様に、コーティング溶液SL6−2とSL6−4を、5:0、4:1、3:2、2:3、1:4、または0:5の割合で混合し、6種のコーティング溶液SL6x2450、SL6x2441、SL6x2432、SL6x2423、SL6x2414、SL6x2405を得た[Sm−Y(TFA)系]。
【0102】
上記の18種類のコーティング溶液を、(100)LaAlO3単結晶配向基板上に実施例1と同一の条件でスピンコートした(図2c)。図4に示すように、4.2%加湿純酸素雰囲気下で、200から250℃の間の時間を11時間43分(703分)に設定して仮焼した。次に、図5に示すように、4.2%加湿酸素混合アルゴン雰囲気下(酸素分圧は9〜1000ppmとした)において800℃で本焼した後、乾燥酸素混合アルゴン雰囲気下において降温しながらアニールし、525℃以下の所定の開始温度から乾燥純酸素下においてアニールして、18種の超電導体Fm6−1250、Fm6−1241、Fm6−1232、Fm6−1223、Fm6−1214、Fm6−1205、Fm6−1350、Fm6−1341、Fm6−1332、Fm6−1323、Fm6−1314、Fm6−1305、Fm6−2450、Fm6−2441、Fm6−2432、Fm6−2423、Fm6−2414、Fm6−2405を得た(図2i)。なお、それぞれの本焼時酸素分圧および純酸素アニール開始温度は、混合前溶液の最適アニール条件を混合比に応じて単純比例配分して設定した。
【0103】
上記18種類の超電導体の超電導特性を誘導法で測定した。図21に試料Fm6−1250、Fm6−1241、Fm6−1232、Fm6−1223、Fm6−1214およびFm6−1205のTcおよびJcを示す。図22に試料Fm6−1350、Fm6−1341、Fm6−1332、Fm6−1323、Fm6−1314およびFm6−1305のTcおよびJcを示す。図23にFm6−2450、Fm6−2441、Fm6−2432、Fm6−2423、Fm6−2414およびFm6−2405のTcおよびJcを示す。
【0104】
これらの結果から、溶液を混合して作製された試料は、単独の溶液を用いて作製された試料の中間的な特性を示すことがわかった。また、Y系溶液にNd系溶液またはSm系溶液を混合して成膜すると、従来は得られなかった高いTc値を持つ超電導体が得られることがわかった。
【0105】
[実施例7]
(CH3OCO)3Smの約3.8水和物の粉末をイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3CF2COOH(PFP)とナス型フラスコ中で混合して攪拌し、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で反応および精製を約10時間行い、半透明淡黄色の粉末SL7appを得た(図1e)。この粉末SL7appを、その約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解して黄色溶液を得た後、この溶液を再びロータリーエバポレータを用いて減圧下で約12時間精製し、不透明淡黄色の粉末SL7apを得た(図1i)。この粉末SL7apを再びメタノール中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で0.78mol/Lの溶液SL7aを得た(図1k)。
【0106】
この溶液SL7aを、ロータリーエバポレータを用いて体積で1/5程度に濃縮することにより、(CF3CF2COO)3Smの黄色沈殿物を生じさせた。この溶液にCF3COOH(TFA)を加えることによりPFPをTFAで置換して沈殿物を完全に溶解させ、(CF3COO)3Sm溶液を得た。この溶液を、ロータリーエバポレータを用いて濃縮して主にPFPを除去した後、メタノール中に溶解して溶液SL7tを得た。
【0107】
(CH3OCO)2Ba無水物の粉末と(CH3OCO)2Cuの約1.0水和物の粉末をそれぞれイオン交換水中に溶解し、ビーカー中でそれぞれ反応等モル量のCF3COOH(TFA)と混合して攪拌した。2つの溶液を金属イオンのモル比で2.00:3.00となるようにナス型フラスコに入れて混合し、濃青色の溶液を得た。この溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で反応および精製を約10時間行い、半透明青色のゲルSL7bcppを得た(図1e)。このゲルSL7bcppをその約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解して青色溶液を得た後、この溶液を再びロータリーエバポレータを用いて減圧下で約12時間精製し、青色ゲルSL7bcpを得た(図1i)。この青色ゲルSL5bcpを再びメタノール中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/Lの溶液SL7bcを得た(図1k)。
【0108】
溶液SL7atと溶液SL7bcを、Sm:Ba:Cu=1.00:2.00:3.00となるよう混合し、コーティング溶液SL7を得た(図2b)。
【0109】
このコーティング溶液SL7を、(100)LaAlO3単結晶配向基板上に実施例1と同一の条件でスピンコートし(図2c)、実施例1に示した条件で仮焼および本焼(800℃での本焼時の4.2%加湿酸素混合アルゴン雰囲気中の酸素分圧は20ppmとした)を行い、Sm系超電導体Fm7を得た(図2i)。
【0110】
試料Fm7について、SIMSにより膜上部より組成分析を行うと膜中残留フッ素イオン量は銅イオン量の10-2〜10-6の範囲となっていた。
【0111】
試料Fm7の断面TEM観察を行った結果、Y系超電導体とほぼ同等の組織を有していた。具体的には、断面TEM像に5〜50nmの周期的な粒界が現れていた。この粒界周期はアニール条件によって変化するようである。
【0112】
試料Fm7のTc(K)とJc(MA/cm2,77K,0T)を誘導法により測定した。ところ、Tc=94.2K、Jc=5.6MA/cm2であった。
【0113】
本実施例では(CF3CF2COO)3Smのペンタフルオロ酢酸基をトリフルオロ酢酸で置換することにより、実施例1よりも優れた超電導特性が得られている。すなわち、エステル化反応抑制後にPFPのTFAによる置換を行っても実用に足りる高い特性を有する超電導体が得られる。ただし、現状ではこの差が有意か否か不明である。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施形態におけるコーティング溶液調製のためのフローチャート。
【図2】本発明の実施形態における超電導体製造のためのフローチャート。
【図3】本発明の実施形態における仮焼時の温度プロファイルを示す図。
【図4】本発明の実施形態における本焼時の温度プロファイルを示す図。
【図5】本発明の実施形態における結晶成長機構を示す図。
【図6】実施例1における仮焼膜のSIMS分析結果を示す図。
【図7】実施例1における試料Fm1aのSIMS分析結果を示す図。
【図8】実施例1における試料Fm1dのSIMS分析結果を示す図。
【図9】実施例1における試料Fm1aのXRDを示す図。
【図10】実施例1における試料Fm1bのXRDを示す図。
【図11】実施例1における試料Fm1cのXRDを示す図。
【図12】実施例1における試料Fm1dのXRDを示す図。
【図13】従来のSm系超電導体のXRDを示す図。
【図14】実施例1において製造されたSm系超電導体のTc測定データを示す図。
【図15】実施例1において製造されたSm系超電導体のJc測定データを示す図。
【図16】実施例1において製造されたSm系超電導体のTcのアニール条件依存性を示す図。
【図17】実施例5における試料Fm5−1のXRDを示す図。
【図18】実施例5における試料Fm5−2のXRDを示す図。
【図19】従来のNd系超電導体のXRDを示す図。
【図20】実施例5において製造されたNd系超電導体のTcのアニール条件依存性を示す図。
【図21】実施例6におけるPFPを用いて得られたY系超電導体とSm系超電導体の混合超電導体のTcおよびJcを示す図。
【図22】実施例6においてPFPを用いて得られたY系超電導体とNd系超電導体の混合超電導体のTcおよびJcを示す図。
【図23】実施例6においてTFAを用いて得られたY系超電導体とSm系超電導体の混合超電導体のTcおよびJcを示す図。
【符号の説明】
【0115】
1…基板、2…膜、3…超電導体の前駆体、4…超電導粒子の核、5…結晶、6…粒界。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタン、ネオジウムおよびサマリウムからなる群より選択される金属Mを含む金属酢酸塩を炭素数3以上のフルオロカルボン酸と、酢酸バリウムを炭素数2のフルオロカルボン酸と、酢酸銅を炭素数2以上のフルオロカルボン酸と、それぞれ反応させて精製し、
反応生成物を前記金属M、バリウムおよび銅のモル比が1:2:3となるようにメタノール中に溶解してコーティング液を調製し、
前記コーティング溶液を基板上に成膜してゲル膜を形成し、仮焼および本焼を行い、酸化物超電導体を得ることを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
【請求項2】
前記炭素数3以上のフルオロカルボン酸がペンタフルオロプロピオン酸であり、前記炭素数2のフルオロカルボン酸がトリフルオロ酢酸であり、前記炭素数2以上のフルオロカルボン酸がトリフルオロ酢酸またはペンタフルオロプロピオン酸であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項3】
ランタン、ネオジウムおよびサマリウムからなる群より選択される金属Mを含む金属酢酸塩を炭素数3以上のフルオロカルボン酸と反応させた後、反応生成物の炭素数3以上のフルオロカルボン酸基を、より炭素数の少ないフルオロカルボン酸基に置換することを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項4】
前記炭素数の少ないフルオロカルボン酸基がトリフルオロ酢酸基であることを特徴とする請求項3に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項5】
基板上に膜として形成され、主成分がSmBa2Cu37-xで表され、銅に対してモル比で10-2〜10-6のフッ素を含み、XRD測定において観測されるa/b軸配向粒子とc軸配向粒子の合計強度のうちa/b軸配向粒子の強度が占める割合が15%以下であることを特徴とする酸化物超電導体。
【請求項6】
基板上に膜として形成され、主成分がNdBa2Cu37-xで表され、銅に対してモル比で10-2〜10-6のフッ素を含み、XRD測定において観測されるa/b軸配向粒子とc軸配向粒子の合計強度のうちa/b軸配向粒子の強度が占める割合が50%以下であることを特徴とする酸化物超電導体。
【請求項7】
基板上に膜として形成され、主成分がLaBa2Cu37-xで表され、銅に対してモル比で10-2〜10-6のフッ素を含むことを特徴とする酸化物超電導体。
【請求項8】
基板面に垂直な断面でのTEM観察で基板とMBa2Cu37-x界面における2軸配向層の比率が95%以上でかつ表面層の2軸配向層比率が80%以下であることを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1項に記載の酸化物超電導体。
【請求項9】
基板から垂直方向に50nm移動した基板と平行な面でのTEM観察で結合角0.2〜1度程度の粒界が5〜50nmごとに規則正しく配列する構造を持つことを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1項に記載の酸化物超電導体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2006−44963(P2006−44963A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224890(P2004−224890)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】