説明

酸化繊維及び炭素繊維の製造方法

【課題】毛羽及び単糸切れの発生を抑制する酸化繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】収納容器よりプリカーサーストランド6を誘導した後、ガイドを経て耐炎化炉10に供給し、耐炎化処理して酸化繊維を製造するに際し、耐炎化炉10に供給されるまでの各プリカーサーストランド6がガイド8により折曲されてなる折曲部12の外角の和で示される総接触角を270゜以下に保ち、各プリカーサーストランド6におけるガイド8の数を5個以下にすることにより、プリカーサーストランド6に掛かる最大テンションを245μN/本−フィラメント以下に保って酸化繊維を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、品位の良好な酸化繊維及び炭素繊維の製造方法に関し、更に詳述すれば酸化繊維前躯体であるプリカーサーストランドを耐炎化処理する際に毛羽発生を低減できる酸化繊維及び炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は他の繊維と比較して強度や弾性率が高く、軽いという特徴を有するため、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とする複合材料の強化材として多用されている。この炭素繊維で強化した複合材料は、軽量で高強度であるので、航空宇宙産業を始めとし、各種産業に広く利用されている。
【0003】
この複合材料を製造する方法としては、中間基材であるプリプレグを用いて、これを賦形し、成型する方法がある。更に、炭素繊維ストランドを補強材として用いて引抜成形、レジントランスファーモールディング(RTM)法、フィラメント・ワインディング(FW)法、シート・モールディング・コンパウンド(SMC)法、バルク・モールディング・コンパウンド(BMC)法、ハンドレイアップ法などによって複合材料を製造する方法がある。
【0004】
複合材料の成形方法において、補強材の炭素繊維ストランドがローラー、ガイドを通過する際に、炭素繊維ストランドを構成する炭素繊維フィラメントに毛羽が存在すると、毛羽が複合材料の成形工程通過の際、接触する箇所に巻き付いてトラブルを生じるため、好ましくない。また複合材料にした際、毛羽の部分が欠陥となり、物性低下を生じることから好ましくない。
【0005】
炭素繊維ストランドの毛羽低減対策については、炭素繊維の製造工程において従来から検討されている。この炭素繊維の製造工程における毛羽低減対策は、耐炎化工程、炭素化工程など、プリカーサーを焼成する工程(プリカーサー焼成工程)の操作条件について検討されているだけでなく、原料であるプリカーサーの品質改善を課題として紡糸工程、水洗・乾燥・延伸等の処理工程、得られたプリカーサーストランドを収納容器(ケンス、キャン、カートン等)、ボビンなどの備蓄手段に一時保管する工程などのプリカーサー製造工程、更には、プリカーサーストランドを備蓄手段から取り出した後、ガイドを経て耐炎化炉に供給する工程(プリカーサー立上げ工程)の操作条件についても検討がなされている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0006】
特許文献1には、プリカーサー立上げ工程において、備蓄手段(収納容器)中のトラバース幅Xと収納容器からガイドまでの立上げ高さYとの関係を所定範囲にすることにより、収納容器に振り落とされたプリカーサーストランド表層面からトラバースしながら立ち上がるストランドを、折れ曲がりやねじれ(撚り)などを生じさせることなく立ち上げ、品位の優れた炭素繊維が得られることが開示されている。
【0007】
特許文献2には、備蓄手段(キャン)から立ち上がるストランドに一定以上のテンション(張力)を付加することにより、プリカーサー立上げ工程での折り曲がりやねじれ(撚り)を防止し、プリカーサー焼成工程での糸切れや毛羽による巻付き防止効果が更に高められることが開示されている。
【0008】
しかし、特許文献1、2はラージトウの分繊・それらの焼成を目的としており、比較的少数の備蓄手段を用いる場合の技術に関する。
【0009】
特許文献3には、プリカーサー立上げ工程においてガイドを複数使用する方法が開示されている。
【0010】
しかし、特許文献3の方法では、開繊を目的として0.05〜0.10g/dと高いテンション(張力)を掛けている。その結果、プリカーサー立上げ工程において毛羽が発生するが、この毛羽発生が、プリカーサー焼成時における毛羽発生に及ぼす影響についての検討はなされていない。
【0011】
なお、特許文献3も特許文献1、2と同様に、用いられる手法は比較的少数の備蓄手段を用いる場合の技術に関する。
【0012】
大量生産を目的として同時に取扱うプリカーサーストランドの数を増加させると、これに応じて各ストランドを導くガイドの数が増加すると共に全ガイド数も大きく増加し、ガイドとストランドとのこすれに基づく毛羽の発生が増加する問題がある。
【特許文献1】特開平11−229241号公報 (特許請求の範囲、段落番号[0004]〜[0005])
【特許文献2】特開2004−250842号公報 (特許請求の範囲、段落番号[0006]〜[0007])
【特許文献3】特開2001−131832号公報 (特許請求の範囲、段落番号[0006]、[0016]〜[0021])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者は、上記問題について鋭意検討しているうち、炭素繊維の品位改善対策として、プリカーサー焼成前のプリカーサー立上げ工程における毛羽発生抑制、単糸切断抑制が重要であり、この立上げ工程における毛羽発生、単糸切断を抑制することにより、その後のプリカーサー焼成工程において毛羽発生、単糸切断を充分抑制できることを見出した。
【0014】
即ち、プリカーサー立上げ工程での発生毛羽数、単糸切断数が少ないほど、その後のプリカーサー焼成工程における単糸切断の頻度が少なくなり、品位の良好な炭素繊維の製造に優れていることを知得した。
【0015】
プリカーサー立上げ工程での発生毛羽数、単糸切断数を少なくするには、各備蓄手段から取り出されてから耐炎化炉に供給されるまでの工程に存在するプリカーサーストランドについて、付加される最大テンションを245μN/本−フィラメント以下、ガイドとの総接触角を270゜以下、ガイドの数を5個以下とすることが必要であることを知得し、本発明を完成するに到った。
【0016】
従って、本発明の目的とするところは、上記問題を解決した炭素繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0018】
〔1〕 酸化繊維製造用プリカーサーストランドが保管された備蓄手段から前記プリカーサーストランドを取り出した後、ガイドを経て耐炎化炉に供給し、酸化雰囲気中で耐炎化処理して酸化繊維を得る酸化繊維の製造方法であって、各備蓄手段から取り出されてから耐炎化炉に供給されるまでの各プリカーサーストランドがガイドにより折曲されてなる折曲部の外角の和で示される総接触角を270゜以下に保ち、各プリカーサーストランドにおけるガイドの数を5個以下にすることにより、プリカーサーストランドに掛かる最大テンションを245μN/本−フィラメント以下に保つことを特徴とする酸化繊維の製造方法。
【0019】
〔2〕 プリカーサーストランドと、プリカーサーストランドの接するガイドとの、各動摩擦係数が0.25以下であり、各接触角が100°以下である〔1〕に記載の酸化繊維の製造方法。
【0020】
〔3〕 プリカーサーストランドの含有水分率が20〜50質量%であり、プリカーサーストランドのフィラメント数が1000〜50000本である〔1〕に記載の酸化繊維の製造方法。
【0021】
〔4〕 プリカーサーストランドの油脂付着量が0.02〜1.0質量%である〔1〕に記載の酸化繊維の製造方法。
【0022】
〔5〕 プリカーサーストランドのコモノマー成分含有量が10質量%以下である〔1〕に記載の酸化繊維の製造方法。
【0023】
〔6〕 〔1〕乃至〔5〕の何れかに記載の酸化繊維を炭素化する炭素繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明の酸化繊維の製造方法によれば、各備蓄手段から取り出されてから耐炎化炉に供給されるまでのプリカーサーストランドについて、掛かる最大テンション、ガイドとの総接触角、ガイドの数を所定値以下にしているので、プリカーサー立上げ工程での単糸切断数を少なくできると共に、その後のプリカーサー耐炎化工程における単糸切断の頻度も少なくなり、品位の良好な酸化繊維が得られる。この酸化繊維を炭素化することにより品位の良好な炭素繊維が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態につき詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明炭素繊維の製造工程のうちプリカーサー立上げ工程からプリカーサー耐炎化工程にかけての製造工程に用いられる装置の一例を示す概略図である。
【0027】
図1において、6は備蓄手段より取り出された酸化繊維前躯体であるプリカーサーストランドを示す。このプリカーサーストランド6は、例えばポリアクリロニトリル(PAN)系フィラメント束で構成されており、次いでガイド8を経て耐炎化炉10に供給される。
【0028】
本例は、耐炎化炉10の上流側において立ち上げられたプリカーサーストランド6の数が50本以上の場合において適用されるべき手法であり、100〜800本においてプリカーサーストランドの単糸切断を防止するのに優れた効果を発揮する手段となりうる。
【0029】
プリカーサーストランド6のフィラメント数は、ストランド1束当たり1000〜50000本が好ましい。
【0030】
製品として得られる炭素繊維の毛羽数を少なくするには、プリカーサーストランド立上げ工程におけるプリカーサーストランドの品位が重要である。
【0031】
この立上げ工程における指標は、耐炎化炉10に供給されるまでのプリカーサーストランド6に掛かる最大テンションで示され、この値が245μN/本−フィラメント以下の場合に、単糸切断などによる毛羽発生が生じることなく、プリカーサーを焼成工程に供給する事が可能となる。
【0032】
このテンション値が245μN/本−フィラメントを超える場合、ガイド8とのこすれによる単糸切れが生じ、プリカーサーの品位が悪くなり、惹いては酸化繊維の品位、製品の炭素繊維の品位が悪くなる。
【0033】
一般に、耐炎化炉10に供給されるまでのプリカーサーストランド6のうち、耐炎化炉10に最も近いガイド8の下流側においてストランド6に掛かるテンションは最大になる。
【0034】
図2は、図1における破線部分aの拡大図である。プリカーサーストランド6はガイド8により折曲され、この折曲部12においてプリカーサーストランド6は内角θiと外角θeとを有する。接触角を外角θeと定義すれば、各プリカーサーストランド6における総接触角は、この外角θeの和で示される。なお、接触角は内角θiを用いると、次式
接触角=180゜−θi
で示される。
【0035】
各プリカーサーストランド6において上記総接触角は、270°以下である。総接触角が270°を超えると、プリカーサーに掛かるテンションが245μN/本−フィラメントを超えるため、プリカーサーの品位が悪くなり、惹いては酸化繊維の品位、製品の炭素繊維の品位が悪くなる。
【0036】
また、プリカーサーストランドと、プリカーサーストランドの接するガイドとの各接触角は100°以下が好ましい。
【0037】
各プリカーサーストランド6に接触するガイド8の数は5個以下である。各プリカーサーストランド6に接触するガイド8の数が5個を超えると、総接触角にかかわらず同様に上記最大テンションが245μN/本−フィラメントを超える場合が多くなり、好ましくない。
【0038】
プリカーサーストランド6と、プリカーサーストランドの接するガイド8との各動摩擦係数は0.25以下であることが望ましい。
【0039】
動摩擦係数が0.25を超えると、プリカーサーストランド6のフィラメントの単糸切れが生じない接触角の許容値が小さくなり、備蓄手段から耐炎化炉10までの十分な糸道を確保できなくなるだけでなく、フィラメントとガイドとの摩擦力が大きくなるため、同じ接触角でも単糸切れが発生し易くなる。
【0040】
プリカーサーストランド6に接触するガイド8の材質は、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレートなどのプラスチック材料が例示できる。金属材料なども可能であるが、本例のプリカーサーは水分を含浸させていることから、水分によって接触面が変質する金属材料は長期使用には適しておらず、好ましくない。また、金属材料にセラミックス成分などをコーティングしても良い。
【0041】
ガイド8の形態は、プリカーサーに掛かるテンション等に悪影響が無ければ特に限定されるものではなく、例えばアイレットガイド、棒ガイド、フックガイドなどを用いることができる。
【0042】
また、プリカーサーの水分率は20〜50質量%であることが好ましい。
【0043】
水分率が20質量%未満になると、プリカーサーフィラメント束の収束性が低下し、単糸がガイドに巻付き易くなるため好ましくない。水分率が50質量%を超えると、ストランド6自体の自重が重くなるため、ストランド6に掛かるテンションが大きくなり、ガイド8とこすれ易くなるため好ましくない。
【0044】
水分率を上記範囲に保持させるため、プリカーサーストランド6にオイルを付与させても良い。オイル付与量は0.02〜1.0質量%が好ましい。
【0045】
オイル付与量が0.02質量%未満であると、プリカーサーの保水効果が低下し、好ましくない。オイル付与量が1.0質量%を超えると、その後の炭素化工程にてオイルの残存物が繊維表面に残り易くなり、炭素繊維の物性低下を引き起こす可能性があり好ましくない。
【0046】
以上のプリカーサー立上げ工程以外の炭素繊維製造工程は、通常の公知の操作条件に沿って実行できる。以下、プリカーサー立上げ工程以外の炭素繊維製造工程の一例を説明する。
【0047】
炭素繊維前躯体であるプリカーサーは、PAN系、ピッチ系、レーヨン系等の何れのプリカーサーでも使用できる。これらのプリカーサーのうち、取扱性、製造工程通過性に適したPAN系プリカーサーが特に好ましい。
【0048】
PAN系プリカーサーは、アクリロニトリル構造単位を主成分とし、コポリマー成分、例えばイタコン酸、アクリル酸、アクリルアミド、イタコン酸エステル、アクリルエステル等のビニル単量体単位を10質量%以内で含有する共重合体を紡糸したものである。また、コモノマー成分は1成分の場合も有るし、複数の成分を含有する場合もある。
【0049】
本例のプリカーサーストランドは凝固後、水洗処理され、必要によりオイル(油脂)付与処理される。
【0050】
油脂処理に使用する油脂としては、種類は特に限定されず、例えば、シリコーン系オイル、変性シリコーン系オイル、有機高分子系オイル、有機芳香族系オイルなどを選択することができる。また、これら油脂は2種類以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0051】
油脂の付与方法は、スプレー法、液浸法、転写法等、既知の方法を採択し得るが、汎用性、効率性、付与の均一性に優れるので、液浸法が好ましい。プリカーサーストランドの油脂付着量は0.02〜1.0質量%が好ましい。
【0052】
油脂付与処理は、アセトン等の溶剤に油脂成分を溶解させた溶液中にプリカーサーを浸漬する溶剤法、乳化剤等を用い水系エマルジョン中に炭素繊維を浸漬するエマルジョン法がある。人体への安全性及び自然環境の汚染を防止する観点からエマルジョン法が好ましい。
【0053】
上記油脂処理されたプリカーサーストランドは、振り落とし若しくは巻取りによって収納される。
【0054】
耐炎化処理工程においては、収納容器からプリカーサーストランド6がガイド8を経て耐炎化炉10に供給される。
【0055】
耐炎化炉10では、プリカーサーストランド6は、空気中などの酸化性雰囲気中で耐炎化処理され、酸化繊維ストランドが得られる。
【0056】
得られた酸化繊維ストランドは、不活性雰囲気中で焼成して炭素化処理することにより炭素繊維ストランドが得られる。
【0057】
また、サイズ剤、複合材料にする際の樹脂との接着性向上のため、電解処理による表面処理を行うこともある。かかる表面酸化処理は、液相処理、気相処理などによる表面処理を挙げることができる。本発明においては、生産性、処理の均一性、安定性等の観点から、液相電解表面処理(電解処理)が好ましい。
【0058】
次いで、炭素繊維ストランドはサイズ剤液に浸漬される。サイズ剤付与処理に使用するサイズ剤においては、種類は特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂やその変性物が挙げられ、マトリックス樹脂により適したサイズ剤を選択する。また、これらは2種類以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0059】
サイズ剤の付与は、スプレー法、液浸法、転写法等、既知の方法を採択し得るが、汎用性、効率性、付与の均一性に優れるので、液浸法が好ましい。
【0060】
なお、本例において酸化繊維前躯体のプリカーサーストランドを一時保管する備蓄手段としては、収納容器(カートン、ケンス、キャン等)を用いているが、この備蓄手段に限られず、ボビンなどの備蓄手段を用いても良い。また、本発明の酸化繊維の製造方法に用いる装置の形態は図1の形態だけではなく、本発明の要旨を変更しない限り、適宜変形して差支えない。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0062】
[実施例1〜6、比較例1〜5]
プリカーサー立上げ工程からプリカーサー耐炎化工程にかけて使用する装置として図1に示す装置を用い、ストランド1束当たり12000本のフィラメント数のプリカーサーストランド6を、表1に示す条件で、ガイド8を経て耐炎化炉10に供給した。
【0063】
投入したプリカーサーストランドであるフィラメント束の本数は100〜600本であり、実施例1〜6、比較例1〜5のデータは、そのうちの1ストランド当たりのデータである。
【0064】
ガイド8は、材質ポリエチレンのアイレットガイド[旭エンジニアリング(株)製]を用いた。このアイレットガイド8とプリカーサーストランド6との動摩擦係数は0.23であった。
【0065】
以上のプリカーサー立上げ工程の耐炎化炉10に最も近いガイド8の下流側におけるプリカーサーの毛羽発生状態を、以下の四段階評価で評価し、その結果を表1に示した。
〇 毛羽及び単糸切れが無い又はほとんど観察されないもの(0〜3ヶ/m)。
△ 毛羽及び単糸切れが目視にて観察されるもの(4ヶ/m以上)。
× 毛羽及び単糸切れが目視にて観測される(10ヶ/m以上)だけでなく、後工程におけるローラー(プリカーサーストランド6の場合は、耐炎化工程のローラー。耐炎化後のストランドの場合は、耐炎化工程後のローラー。炭素化後のストランドの場合は、炭素化工程後のローラー。)に巻付きが生じるもの。
×× 毛羽及び単糸切れがひどくリンガー(長さ50mm以上の端糸切れ状の毛羽)が観察されるもの。
【0066】
次いで耐炎化処理、炭素化処理を行い、表1に示す毛羽発生状態の耐炎化後のストランド(酸化繊維ストランド)、炭素化後のストランド(製品炭素繊維ストランド)を得た。
【0067】
なお、耐炎化処理は、空気雰囲気中、200〜300℃にてストランドを通過させることにより行い、次いで300〜800℃にて更に窒素中で熱処理した後、炭素化処理を、窒素気流中、1000〜1500℃に保たれた炭素化炉内を通過させることにより行った。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示すように、実施例1〜6においては、毛羽及び単糸切れが無い若しくはほとんど無い耐炎化処理直前のプリカーサーストランドが得られた。更には、毛羽及び単糸切れが無い若しくはほとんど無い、又は少なくとも後工程でのローラーに巻付きは生じない耐炎化後のストランド、炭素繊維ストランドが得られた。
【0070】
しかし、比較例1〜5においては、耐炎化処理直前のプリカーサーストランドは、毛羽及び単糸切れが多く、後工程でのローラーに巻付きが生じる場合もあった。更には、耐炎化後のストランド、炭素化後のストランドは、毛羽及び単糸切れが多いばかりでなく、後工程でのローラーに巻付きが生じ、毛羽及び単糸切れがひどくリンガーが生じる場合もあった。
【0071】
実施例1〜6においては、100〜600本にて投入した各プリカーサーストランドの何れについても、折曲部の総接触角を270゜以下に保ち、ガイドの数を5個以下にした。その結果、各プリカーサーストランドに掛かる最大テンションは225μN/本−フィラメント以下にできた。
【0072】
また、実施例1〜6の何れのプリカーサーストランドについても、毛羽及び単糸切れが無い若しくはほとんど無い耐炎化処理直前のプリカーサーストランドが得られた。
【0073】
更には、実施例1〜6の何れのプリカーサーストランドについても、毛羽及び単糸切れが無い若しくはほとんど無い、又は少なくとも後工程でのローラーに巻付きは生じない耐炎化後のストランド、炭素繊維ストランドが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明炭素繊維の製造工程のうちプリカーサー立上げ工程からプリカーサー耐炎化工程にかけての製造工程に用いられる装置の一例を示す概略図である。
【図2】図1における破線部分aの拡大図である。
【符号の説明】
【0075】
6 プリカーサーストランド
8 ガイド
10 耐炎化炉
12 プリカーサーストランドにおけるガイドにより折曲された折曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化繊維製造用プリカーサーストランドが保管された備蓄手段から前記プリカーサーストランドを取り出した後、ガイドを経て耐炎化炉に供給し、酸化雰囲気中で耐炎化処理して酸化繊維を得る酸化繊維の製造方法であって、各備蓄手段から取り出されてから耐炎化炉に供給されるまでの各プリカーサーストランドがガイドにより折曲されてなる折曲部の外角の和で示される総接触角を270゜以下に保ち、各プリカーサーストランドにおけるガイドの数を5個以下にすることにより、プリカーサーストランドに掛かる最大テンションを245μN/本−フィラメント以下に保つことを特徴とする酸化繊維の製造方法。
【請求項2】
プリカーサーストランドと、プリカーサーストランドの接するガイドとの、各動摩擦係数が0.25以下であり、各接触角が100°以下である請求項1に記載の酸化繊維の製造方法。
【請求項3】
プリカーサーストランドの含有水分率が20〜50質量%であり、プリカーサーストランドのフィラメント数が1000〜50000本である請求項1に記載の酸化繊維の製造方法。
【請求項4】
プリカーサーストランドの油脂付着量が0.02〜1.0質量%である請求項1に記載の酸化繊維の製造方法。
【請求項5】
プリカーサーストランドのコモノマー成分含有量が10質量%以下である請求項1に記載の酸化繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の酸化繊維を炭素化する炭素繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−154371(P2007−154371A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352936(P2005−352936)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】