説明

酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼ

【課題】酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼ(アスコルビン酸ペルオキシダーゼ)およびその製造方法ならびにアスコルビン酸パーオキシダーゼに酸化耐性を付与する方法の提供。
【解決手段】未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列において、少なくとも特定の配列の25位に相当する位置のアミノ酸がシステインからシステイン以外のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する、酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼおよびその製造方法、ならびに未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列において、少なくとも特定の配列の25位に相当する位置のアミノ酸をシステインからシステイン以外のアミノ酸に置換する工程を包含するアスコルビン酸パーオキシダーゼに酸化耐性を付与する方法からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼおよびその製造方法ならびにアスコルビン酸パーオキシダーゼに酸化耐性を付与する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスコルビン酸パーオキシダーゼ(「アスコルビン酸ペルオキシダーゼ」とも呼ばれる;以下、「APX」と略記する場合がある)は、藻類から高等植物に至る真核光合成生物において見出される、I型ヘムパーオキシダーゼ遺伝子ファミリーのメンバーである。APXはアスコルビン酸を電子供与体として過酸化水素(H)を水(HO)に還元する。詳細には、APXが1分子の過酸化水素と反応すると、ヘムの第二鉄(FeIII)原子はオキシフェリル(FeIV=O)に酸化され、ポルフィリンはカチオンラジカル中間体(Compound Iと称する)となる。この中間体はその後2分子のアスコルビン酸との2段階の反応により基底状態の鉄(FeIII)となり、副産物として2分子のモノデヒドロアスコルビン酸ラジカルが生じる。
【0003】
高等植物のAPXには複数のアイソフォームが存在する。このうち、葉緑体局在型APXは過酸化水素に感受性であり、一方、細胞質局在型APXは過酸化水素に耐性である。高等植物の葉緑体には2つのAPXアイソフォームがあり、一方はストロマに局在しており、他方はチラコイド膜のストロマ側に結合している。これらはいずれも過酸化水素に対して非常に感受性であり、還元剤であるアスコルビン酸が欠乏すると過剰の過酸化水素によって数分のうちに失活する(非特許文献1)。本発明者らが紅藻ガルディエリア・パーチタ(Galdieria partita)から得たAPX(APXB)は、N末端側ドメインでは高等植物の葉緑体APXとの配列類似性を有するが(非特許文献2)、高等植物の細胞質ゾルやマイクロボディに局在するAPXアイソフォームと同様に比較的過酸化水素に耐性である(非特許文献3)。
【0004】
植物は移動することができないため、常に高温・低温・乾燥等のストレスにさらされており、極端な環境条件下では、植物は生育阻害、枯死等の障害を受ける。そして、これら障害の原因の一つは、植物体内で発生する活性酸素であることが知られている。この活性酸素の除去を目的とし、APXを利用して過酸化水素を消去し、植物にストレス耐性を与える試みがなされている(特許文献1−2、非特許文献4−8)。しかし、上記のようにAPXは失活しやすく、期待されるようなストレス耐性植物は得られていない。
【0005】
上記したAPXの反応において、還元剤としてのアスコルビン酸が存在せず、カチオンラジカル中間体が還元されなければ、ラジカルはアポタンパク質のアミノ酸残基に転移する。APXの失活はこのような過酸化水素による反応中間体の攻撃に起因すると考えられている。従って、APXにおけるタンパク質内ラジカル転移に関する情報は、過酸化水素が媒介する失活のメカニズムおよびAPXアイソフォームの過酸化水素に対する感受性の差異を理解するために必要である。
【0006】
例えば、タンパク質中のシステイン残基のチオール基は生体内で酸化されることが知られており(非特許文献9−10)、APXの失活と個々のアミノ酸残基との関係についてより詳細に調べる必要がある。しかし、APXのアスコルビン酸結合部位を調べるためにAPX中のシステイン残基に変異を導入したとの報告はあるものの(非特許文献11)、APXにおけるタンパク質内ラジカル転移に関与するアミノ酸残基についての知見は少なかった。
【0007】
本発明者らは、触媒部位の遠位空洞(distal cavity)に面するトリプトファン残基が葉緑体APX中のラジカル部位であることを、APXが過剰の過酸化水素で失活する際にトリプトファン残基がヘムに架橋されるという知見に基づいて、見出している(特許文献3)。しかし、APXにおいてその他のラジカル部位は十分には調べられておらず、近位のトリプトファンと思われる残基が過酸化水素での処理によってヒドロキシル化されるという知見に基づいて、マメの細胞質ゾルAPXのラジカル部位が近位のトリプトファン残基であると提唱する報告があるのみである(非特許文献12)。
【0008】
【特許文献1】特開2003−009692号公報
【特許文献2】特開2004−105136号公報
【特許文献3】特開2006−296209号公報
【非特許文献1】Asada, K., Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol., 50:601-639 (1999)
【非特許文献2】Kitajima, S. et al., Biosic. Biotechnol. Biochem., 66:2367-2375 (2002)
【非特許文献3】Kitajima, S. et al., FEBS J., 273, 2704-2710 (2006)
【非特許文献4】Kornyeyev, D. et al., Physiol. Plant, 113:323-331(2001)
【非特許文献5】Payton, P. et al., J. Exp. Bot., 52:2345-2354 (2001)
【非特許文献6】Yabuta, Y. et al., Plant J., 32:915-925 (2002)
【非特許文献7】Murgia, I. et al., Plant J., 38:940-953 (2004)
【非特許文献8】Badawi, G.H. et al., Physiol. Plant, 121:231-238 (2004)
【非特許文献9】Ghezzi, P., Biochem. Soc. Trans., 33:1378-1381 (2005)
【非特許文献10】Spickett, C.M. et al., Biochim. Biopys. Acta, 1764:1823-1841 (2006)
【非特許文献11】Mandelman, D. et al., Biochemistry, 37:17610-17617 (1998)
【非特許文献12】Hiner, A.N. et al., Eur. J. Biochem., 268:3091-3098 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、新規な酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼおよびその製造方法ならびにアスコルビン酸パーオキシダーゼに酸化耐性を付与する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下に関する:
[1]未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列において、少なくとも配列番号1の25位に相当する位置のアミノ酸がシステインからシステイン以外のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する、酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼ;
[2]未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼがガルディエリア・パーチタ(Galdieria partita)またはタバコに由来する、[1]の酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼ;
[3]配列番号3、11、14および15からなる群より選択されるアミノ酸配列、または当該アミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつアスコルビン酸パーオキシダーゼ活性を有する、[1]または[2]の酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼ;
[4]システイン以外のアミノ酸がセリンである、[1]〜[3]のいずれかの酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼ;
[5]ラジカル捕捉剤の存在下で酸化耐性を示す、[1]〜「4」のいずれかの酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼ;
[6]さらに、配列番号1の34位に相当する位置のアミノ酸のトリプトファンからトリプトファン以外のアミノ酸への置換および/または配列番号1の121位に相当する位置のアミノ酸のシステインからシステイン以外のアミノ酸への置換を有する、[1]〜[5]のいずれかの酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼ;
[7]酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼを生産する細胞を培養する工程を包含する、酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼの製造方法であって、酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼが、未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列において、少なくとも配列番号1の25位に相当する位置のアミノ酸がシステインからシステイン以外のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する、方法;
[8]未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼがガルディエリア・パーチタ(Galdieria partita)またはタバコに由来する、[7]の方法;
[9]酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼが、配列番号3、11、14および15からなる群より選択されるアミノ酸配列、または当該アミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつアスコルビン酸パーオキシダーゼ活性を有する、[7]または[8]の方法;
[10]システイン以外のアミノ酸がセリンである、[7]〜[9]のいずれかの方法;
[11]酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼがラジカル捕捉剤の存在下で酸化耐性を示す、[7]〜[10]のいずれかの方法;
[12]酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼが、さらに、配列番号1の34位に相当する位置のアミノ酸のトリプトファンからトリプトファン以外のアミノ酸への置換および/または配列番号1の121位に相当する位置のアミノ酸のシステインからシステイン以外のアミノ酸への置換を有する、[7]〜[11]のいずれかの方法。
[13]未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列において、少なくとも配列番号1の25位に相当する位置のアミノ酸をシステインからシステイン以外のアミノ酸に置換する工程を包含する、アスコルビン酸パーオキシダーゼに酸化耐性を付与する方法;
[14]未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼがガルディエリア・パーチタ(Galdieria partita)またはタバコに由来する、[13]の方法;
[15]酸化耐性を付与されたアスコルビン酸パーオキシダーゼが、配列番号3、11、14および15からなる群より選択されるアミノ酸配列、または当該アミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつアスコルビン酸パーオキシダーゼ活性を有する、[13]または[14]の方法;
[16]システイン以外のアミノ酸がセリンである、[13]〜[15]のいずれかの方法;
[17]ラジカル捕捉剤の存在下での酸化耐性が付与される、[13]〜[16]のいずれかの方法。
[18]配列番号1の34位に相当する位置のアミノ酸をトリプトファンからトリプトファン以外のアミノ酸に置換する工程および/または配列番号1の121位に相当する位置のアミノ酸をシステインからシステイン以外のアミノ酸に置換する工程をさらに包含する、[13]〜[17]のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、新規な酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼおよびその製造方法ならびにアスコルビン酸パーオキシダーゼに酸化耐性を付与する方法が提供される。本発明のアスコルビン酸パーオキシダーゼは酸化耐性を示し、ストレス耐性植物の作製に加えて、研究用試薬、化粧品(特表2004−529866号公報参照)、医薬品(特表2002−523378号公報、特表平10−504304号公報、国際公開第2004/066988号パンフレット参照)など従来のアスコルビン酸パーオキシダーゼが利用可能な全ての目的のために有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼを提供する。本発明の酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼは、未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列において、少なくとも配列番号1の25位に相当する位置のアミノ酸がシステインからシステイン以外のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する。本発明の酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼは、さらに配列番号1の34位に相当する位置のアミノ酸のトリプトファンからトリプトファン以外のアミノ酸への置換および/または配列番号1の121位に相当する位置のアミノ酸のシステインからシステイン以外のアミノ酸への置換を有していてもよい。
【0013】
「アスコルビン酸パーオキシダーゼ」は、アスコルビン酸を還元剤として、過酸化水素を還元する酵素である。アスコルビン酸パーオキシダーゼ活性は公知の任意の方法によって測定することができる。例えば、Nakanoらの方法(Nakano, Y. et al., Plant Cell Physiol., 22, 867-880 (1981))に従い、過酸化水素によるアスコルビン酸の減少を吸光度の減少として測定することにより決定することができる。
【0014】
本明細書において、「未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼ」は、配列番号1の25位に相当する位置のアミノ酸としてシステインを有し、アスコルビン酸パーオキシダーゼ活性を有するタンパク質をいう。未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼは、天然のアスコルビン酸パーオキシダーゼと同一のアミノ酸配列からなってもよく、あるいは天然のアスコルビン酸パーオキシダーゼとは異なるアミノ酸配列を有していてもよい。
【0015】
未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼは、任意の生物に由来し得る。例えば、本発明者らによって単離されたガルディエリア・パーチタ(Galdieria partita)由来のアスコルビン酸パーオキシダーゼを使用することができる。当該酵素のアミノ酸配列を配列番号1に示す。タバコ由来のアスコルビン酸パーオキシダーゼも好適に使用することができる。当該酵素のアミノ酸配列を配列番号9に示す。
【0016】
本明細書において、「酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼ」は、未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列において、少なくとも配列番号1の25位に相当する位置のアミノ酸がシステインからシステイン以外のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有し、アスコルビン酸パーオキシダーゼ活性を有するタンパク質であって、酸化に対する耐性が未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼに比較して向上したタンパク質をいう。酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼが未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼと同様の酵素活性を保持していることは、例えば、Kmおよびkcatの値、吸収スペクトルなどを調べることによって確認することができる。
【0017】
本明細書において「配列番号1の25位に相当する位置のアミノ酸」とは、配列番号1に示す紅藻ガルディエリア・パーチタ由来アスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列と、対象となるアスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列とを比較した場合に、配列番号1の25位のシステインに相当する対象配列中の位置に存在するアミノ酸をいう。あるいは、この位置のアミノ酸は、ヘムのプロピオン酸側鎖の近位に存在するシステイン残基としても同定することができる。同様に、「配列番号1の34位に相当する位置のアミノ酸」および「配列番号1の121位に相当する位置のアミノ酸」とは、配列番号1に示す紅藻ガルディエリア・パーチタ由来アスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列と、対象となるアスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列とを比較した場合に、それぞれ配列番号1の34位のトリプトファンおよび121位のシステインに相当する対象配列中の位置に存在するアミノ酸をいう。
【0018】
アミノ酸配列の比較は公知の配列解析用プログラムまたはアルゴリズム(例えば、BLAST)を使用して行うことができる。いくつかの公知のアスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列を比較したアラインメントの結果の一例を表1に示す。表中、「Pea_Cytosolic_P48534」はUniProtアクセッション番号P48534に登録されたエンドウの細胞質局在型アスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列を示し、「Cotton_Microbody_AAB52954」はGenBankプロテインID番号AAB52954に登録されたワタのマイクロボディ局在型アスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列を示し、「Galdieria_Cytosolid_AB037537」はGenBankアクセッション番号AB037537に登録された紅藻ガルディエリア・パーチタのアスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列(すなわち、配列番号1のアミノ酸配列)を示し、「Tobacco_Stromal_BAA78553」はGenBankプロテインID番号BAA78553に登録されたタバコの葉緑体ストロマ局在型アスコルビン酸パーオキシダーゼの全長アミノ酸配列(トランジットペプチドを含む)を示す。
【0019】
【表1−1】

【0020】
【表1−2】

【0021】
配列番号1の25位に相当する位置は、表1−1中第3段の15番目に当たる(「C25」で示す)。表に示した全ての配列において同じ位置にシステイン残基(C)が見られる(完全一致を示す記号「*」が表示されている)ことから明らかなように、この位置のシステイン残基は各種アスコルビン酸パーオキシダーゼの間で高度に保存されている。なお、この位置は、エンドウの細胞質局在型、ワタのマイクロボディ局在型、タバコの葉緑体ストロマ局在型アスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列のそれぞれ32位、30位、115位に相当する。従って、当業者は、対象となるアスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列において、配列番号1の25位に相当する位置のアミノ酸を容易に同定することができる。同様に、配列番号1の34位に相当する位置(表中「W34」で示す)、配列番号1の121位に相当する位置(表中「C121」で示す)も容易に同定される。例えば、配列番号9に示すタバコ由来のアスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列の26位、35位、126位がそれぞれ配列番号1の25位、34位、121位に相当する。
【0022】
酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼは、例えば、配列番号3のアミノ酸配列からなる。ここで配列番号3のアミノ酸配列は、配列番号1の25位のアミノ酸がシステインからセリンに置換されたものである。あるいは、酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼは、アスコルビン酸パーオキシダーゼ活性を有する限り、配列番号3のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなってもよい。また、例えば、酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼとして、配列番号11、14および15から選択されるアミノ酸配列、または当該アミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつアスコルビン酸パーオキシダーゼ活性を有するタンパク質を使用することができる。なお、配列番号11〜15のアミノ酸配列は、配列番号9のアミノ酸配列において以下の置換を有するものである:配列番号11:26位のシステインからセリン;配列番号12:35位のトリプトファンからフェニルアラニン;配列番号13:126位のシステインからアラニン;配列番号14:26位のシステインからセリンおよび126位のシステインからアラニン;配列番号15:26位のシステインからセリン、35位のトリプトファンからフェニルアラニンおよび126位のシステインからアラニン。
【0023】
配列番号1の25位に相当する位置に配置されるシステイン以外のアミノ酸としては、置換した後にアスコルビン酸パーオキシダーゼ活性が保持されるのであれば、システイン以外の任意の天然アミノ酸を使用することができる。例えば、システインと分子構造が類似するセリンを使用することにより、置換によるタンパク質の立体構造の変化を少なくすることができる。アラニンも配列番号1の25位に相当する位置に配置されるシステイン以外のアミノ酸として好適に使用することができる。同様に、当業者は配列番号1の34位に相当する位置に配置されるトリプトファン以外のアミノ酸を適切に選択することができ、例えばフェニルアラニンを使用することができる。
【0024】
本発明のアスコルビン酸パーオキシダーゼは、配列番号1の25位に相当する位置に加えて、他の置換されたアミノ酸残基を有してもよい。他の置換の例としては、配列番号1の34位に相当する位置のトリプトファンの別のアミノ酸への置換、配列番号1の121位に相当する位置のシステイン残基の別のアミノ酸残基への置換が挙げられる。
【0025】
1つの実施態様において、本発明のアスコルビン酸パーオキシダーゼはラジカル捕捉剤の存在下で酸化耐性を示す。ラジカル捕捉剤(ラジカル捕獲剤ともいう)は、反応中に生ずるラジカルを捕らえるために用いられる化合物である。本発明には任意のラジカル捕捉剤を使用することができる。例えば、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシル(TEMPO)を使用することができる。TEMPOはアミノ酸ラジカルに結合して安定な生成物を形成することが知られている。なお、TEMPOはチオール(−SH)ラジカルと連鎖的に反応しTEMPO付加物だけでなく、チオール基の酸化物であるスルフィン酸(−SOH)、スルホン酸(−SOH)も生じることが報告されており、この不可逆的酸化反応はTEMPOの官能基であるニトロキシド・ラジカルの作用によるものであることが示唆されているBorisenko, G.G. et al., J. Am. Chem. Soc., 126:9221-9232 (2004))。従って、一般にラジカル捕捉剤と称されていない化合物であっても、TEMPOと同様にニトロキシド・ラジカルを有してシステインラジカルの不可逆的酸化反応を引き起し得るものはラジカル捕捉剤に含まれる。
【0026】
酸化に対する耐性は、例えば、以下のようにして確認することができる。すなわち、嫌気50mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.0に置換したアスコルビン酸パーオキシダーゼ含有酵素液1.0mLに、ラジカル捕捉剤を終濃度0.2または0mM添加し、続いて過酸化水素を5モルまたは0モル当量となるように添加する。一定時間ごとに一部をとりだして速やかに反応液(0.5mMアスコルビン酸、50mMリン酸ナトリウム、pH7.0、0.01mg/ml BSA)に混合し、失活反応を停止させて各時間の活性測定をおこなう。ここで、反応液1.0mLに対して終濃度100μMの過酸化水素を添加したときの過酸化水素依存的アスコルビン酸の酸化を25℃で測定して活性を決定する。なお、本明細書において「モル当量」なる用語は、アスコルビン酸パーオキシダーゼに対する過酸化水素のモル数での比率を表す。上記条件下、ラジカル捕捉剤としてのTEMPOの存在下で10分間反応させた場合、本発明のアスコルビン酸パーオキシダーゼは、例えば、60〜100%、好ましくは80〜100%、より好ましくは90〜100%の残存活性を示す。
【0027】
本発明は、上記酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼを生産する細胞を培養する工程を包含する、酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼの製造方法を提供する。
【0028】
酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼを生産する細胞としては、例えば、酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼをコードする核酸を含む組換えDNAで形質転換された宿主細胞を使用することができる。従って、本発明によれば、本発明のアスコルビン酸パーオキシダーゼをコードする核酸、当該核酸を含む組換えDNA、当該組換えDNAを含む形質転換体も提供される。
【0029】
酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼをコードする核酸としては、例えば、配列番号3のアミノ酸配列、または配列番号3のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつアスコルビン酸パーオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードする核酸が挙げられる。そのような核酸の例としては、配列番号4のヌクレオチド配列を含む核酸が挙げられる。なお、配列番号4の配列はGenBankアクセッション番号AB037537に登録された紅藻ガルディエリア・パーチタのアスコルビン酸パーオキシダーゼのヌクレオチド配列のコード領域に当たる198位から941位(配列番号2)のうち、配列番号1の25位に相当する位置のシステインのコドン(TGT)(配列番号2の73〜75位)をセリンのコドン(TCT)(配列番号4の73〜75位)に変化させたものである。あるいは、当該核酸は、配列番号4のヌクレオチド配列からなる核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアスコルビン酸パーオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードする核酸であってもよい。ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件としては、J. Sambrook et al., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition", 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されるような条件が挙げられる。例えば、6×SSC、5×デンハルト溶液(Denhardt's solution)、0.5%SDS、100μg/ml変性サケ精子DNAを含む溶液中68℃でプローブとハイブリダイズさせた後、洗浄条件を2×SSC、0.1%SDS中室温から0.1×SSC、0.5%SDS中68℃まで変化させる条件が挙げられる。配列番号11、14および15から選択されるアミノ酸配列、または当該アミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつアスコルビン酸パーオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードする核酸も同様に使用することができる。
【0030】
宿主細胞としては、細菌などの原核細胞、糸状菌、酵母などの真核微生物細胞、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞など、目的とする遺伝子を発現できるものであれば任意の細胞を選択することができる。当該組換えDNAには、酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼをコードする核酸に加えて、転写、翻訳、形質転換体の選択などに必要な任意の核酸配列を含めてもよい。上記細胞の培養は、使用する細胞に適切な条件で行われる。また、上記組換えDNAを導入した細胞を用いて動物個体(トランスジェニック動物)を作製することもできる。例えば、酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼを乳汁中に生産するトランスジェニック動物を作製することができる。このような組換え体は公知の方法に従って作製することができる。
【0031】
あるいは、上記組換えDNAを導入した細胞を用いて植物個体(トランスジェニック植物)を作製することもできる。このような植物個体はアスコルビン酸パーオキシダーゼの製造以外に、耐ストレス作物として有用である。組換えDNAを導入する植物としては、任意の植物を使用することができる。そのような植物には単子葉植物(イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシなど)および双子葉植物(ワタ、トマト、タバコなど)のいずれもが含まれる。このような植物個体の作製方法は当該分野において公知であり、例えば、特許文献1−2、非特許文献4−8に記載されている。このような植物は酸化毒ストレスに対する耐性を有し、砂漠緑化、CO削減、農業における作物生産などに有用である。
【0032】
本発明は、未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列において、少なくとも配列番号1の25位に相当する位置のアミノ酸をシステインからシステイン以外のアミノ酸に置換する工程を包含する、アスコルビン酸パーオキシダーゼに酸化耐性を付与する方法を提供する。本発明の方法によりアスコルビン酸パーオキシダーゼに酸化耐性が付与されることは上記で説明したとおりである。
【0033】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
TEMPO存在下で過酸化水素処理したAPXBの質量分析
ガルディエリア・パーチタ(Galdieria partita)由来アスコルビン酸パーオキシダーゼ、APXBを5モル当量の過酸化水素とともに嫌気化した50mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.0中でインキュベートすると重合体が形成されたが、0.2mMのラジカル捕捉剤2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシル(TEMPO)の存在下ではこのような重合体は形成されなかった。このことは、重合がタンパク質表面でのラジカル形成に起因するものであり、TEMPOがラジカル部位を捕捉したことを示す。そこで、ラジカル部位を同定するために、未処理およびTEMPO存在下で過酸化水素処理したAPXBのトリプシン消化物をMALDI−TOF MSおよびMS/MSにより解析した。APXB酵素液の調製は下記の実施例3に記載のように行った。
【0035】
精製APXBを、NAP5ゲル濾過カラム2本を用いて、窒素ガスにより嫌気化した50mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.0にバッファー置換し、1.0mLの酵素液を得た。嫌気条件に保ったまま、紫外可視分光光度計UV−1700 PharmaSpecでSoretピークを測定して酵素濃度を決定した。APXBのこの条件でのモル吸光係数は、102mM−1・cm−1である。なお、下記APXB変異体APXBC25Sのモル吸光係数は、93mM−1・cm−1である。ヘム濃度はPyridine hemochromogen法により(非特許文献2)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(モル吸光係数100mM−1・cm−1、ナカライテスク)を標準品として決定した。
【0036】
嫌気50mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.0に置換したAPXB酵素液1.0mLに、終濃度0.2または0mMのラジカル捕捉剤TEMPO(和光純薬)を添加し、続いて過酸化水素を5モルまたは0モル当量となるように添加した。一定時間後にNAP10ゲル濾過カラムに供して嫌気50mM重炭酸アンモニウムバッファー、pH8.0で溶出することにより未反応のTEMPOまたはグルタチオンと過酸化水素を除去して酵素液0.5mLを得た。酵素液は100μlずつサンプルチューブに分注し、液体窒素で凍らせて−80℃で保存した。
【0037】
これらの酵素液100μlに、33μlの8M尿素を混合し、1μlのトリプシン(Sequencing Grade Modified Trypsin、Frozen、Promega)を加えて一晩消化した。トリプシンで消化したAPXをZipTip(登録商標)C18(Millipore)に供し、測定サンプル用溶媒(75%アセトニトリル、0.1%TFA)を用いて説明書に従って溶出した。マトリックスとしてα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA、Bruker Daltonics)を、標準試料としてpeptide calibration standard II(Bruker Daltonics)を用いて、MALDI−TOF MS(VoyagerDE STR、Applied biosystems)およびMS/MS(ultraflex TOF/TOF、Bruker Daltonics)でAPXBトリプシン消化物の質量分析をおこなった。測定方法は装置の説明書に従った。解析にはMascot Search(http://www.matrixscience.com/search_form_select.html)を用いた。
【0038】
TEMO存在下で過酸化水素処理したAPXBのMALDI−TOF MSの結果を図1および表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
MALDI−TOF MSの結果より、未処理のAPXBで確認できたアミノ酸配列19から31番(LFEQTPCMPIMVR、分子量計算値:1563.7611)に相当する質量1565m/zのピークが、TEMPOと過酸化水素で処理することで顕著に減少し、これに伴い、いくつかのピークが出現していることが明らかとなった。
【0041】
さらに、図1の1597m/zのピークについてMS/MS解析を行ったところ、25位のシステイン残基(Cys−25)の質量増加が32m/zであり、Cys−25に酸素2原子(原子量16)が結合したことが確認できた(−SOH)。図1の1736m/zのピークについてMS/MS解析を行ったところ、Cys−25の質量増加が171m/zであり、Cys−25に1分子のTEMPO(分子量156.3)と1原子の酸素が結合したことが確認できた(−SO−TEMPO)。
【0042】
TEMPOはチオール(−SH)ラジカルと連鎖的に反応しTEMPO付加物だけでなく、チオール基の酸化物であるスルフィン酸(−SOH)、スルホン酸(−SOH)も生じることが報告されており(Borisenko, G.G. et al., J. Am. Chem. Soc., 126:9221-9232 (2004))、今回の結果と一致していた。以上より、Cys−25がラジカル化部位であることが明らかとなった。以下の実施例では主にCys−25について記載するが、121位のシステイン残基(Cys−121)もラジカル化部位であることが示唆されており、このシステイン残基とAPXの失活との関係については実施例6において記載する。
【0043】
また、トリプシン消化せずにMALDI−TOF MSで分析すると、APXBはTEMPO存在下で過酸化水素処理した場合に、未処理の場合と比較して約50Daの質量増加がみられる(図2)。この結果から、実際にはシステイン残基にTEMPO付加物はほとんど存在せず、その大半がシステイン残基の酸化物であるスルフィン酸(−SOH)あるいはスルホン酸(−SOH)であることが示された。
【実施例2】
【0044】
APXBのラジカル化に与えるグルタチオンの影響
2−1.グルタチオン存在下で過酸化水素処理したAPXBのSDS−PAGE
TEMPOは植物など生体内には存在しないが、システイン残基のチオール基の酸化はインビボにおいても生じ得る(非特許文献9−10)。しかし生体内ではラジカル化したシステイン残基へグルタチオンが結合することによってこのような酸化が防止される可能性も考えられる。以下で、APXBのラジカル化に与えるグルタチオンの影響を検討した。
【0045】
嫌気50mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.0に置換したAPXB酵素液0.3mLに、グルタチオンを終濃度0、0.1、0.2、0.5、1.0、2.0mMとなるように、続いて過酸化水素を5モルまたは0モル当量となるようにマイクロシリンジで注入した。グルタチオンと過酸化水素を添加した酵素液を、一定時間後にNAP10(Pharmacia)ゲル濾過カラムに供して嫌気50mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.0で溶出することにより未反応のグルタチオンと過酸化水素を除去して酵素液0.5mLを得た。得た酵素液は100μlずつサンプルチューブに分注し、液体窒素で凍らせて−80℃で保存した。
【0046】
グルタチオンと過酸化水素を除去した酵素液100μlに、当量の2倍濃度SDS−PAGE用サンプルバッファー(2−メルカプトエタノールを含まない)を加えて混合し、50μlずつサンプルチューブに分注し、液体窒素で凍らせて−80℃で保存した。2−メルカプトエタノールは終濃度5%となるように泳動直前に添加した。SDS−PAGEは12.5%ポリアクリルアミドゲルを用いて行い、クーマシーブリリアントブルー(CBB)染色により染色した。
【0047】
結果を図3に示す。図3において、各レーンは、左から以下を表す:マーカー(NEB BroadRangeP7702);未処理APXB;APXB+5モル当量H;APXB+5モル当量H+0.1mMグルタチオン;APXB+5モル当量H+0.2mMグルタチオン;APXB+5モル当量H+0.5mMグルタチオン;APXB+5モル当量H+1.0mMグルタチオン;APXB+5モル当量H+2.0mMグルタチオン。未処理のAPXBについては28kDa付近に単一のバンドが確認できるのに対して、過酸化水素を添加した場合では28、60、120kDa付近にAPXBのモノマーおよび重合体と思われる複数のバンドが確認された。一方、グルタチオン存在下で過酸化水素処理した場合ではグルタチオン濃度の増加にしたがってそれらのバンドが薄くなり、2.0mMのグルタチオンの存在下で過酸化水素処理した場合では、APXBのモノマーに対応する28kDa以外のバンドはほとんど確認できなかった。すなわち、グルタチオンがAPXBタンパク質表面のラジカル化したシステイン残基に結合し、過酸化水素によるタンパク質同士の重合を防止することが示唆された。
【0048】
2−2.グルタチオン存在下で過酸化水素処理したAPXBの質量分析
グルタチオンがラジカル化部位であるシステイン残基に結合しているかを明らかにするために、グルタチオン存在下で過酸化水素処理したAPXBのトリプシン消化物をMALDI−TOF MSおよびMS/MSにより解析した。実験は、TEMPOの代わりに2.0mMまたは0mMのグルタチオン(和光純薬)を使用した以外、実施例1と同様に実施した。結果を図4に示す。
【0049】
MALDI−TOF MSの結果より、未処理のAPXBで確認できたアミノ酸配列19から31番に相当する質量1565m/zのピークが、グルタチオンと過酸化水素で処理することで顕著に減少し、これに伴い、このペプチド断片にグルタチオン1分子(分子量307.33)分が結合し、水素2原子(原子量1.01)が脱離したと考えられるピークが出現していることが明らかとなった(−S−S−G)。
【0050】
さらに、図4の1870m/zのピークについてMS/MS解析を行ったところ、Cys−25にグルタチオンが結合し、水素2原子が脱離したことが確認できた。これより、APXBは過酸化水素との反応により、タンパク質表面のシステイン残基がラジカル化し、グルタチオンと結合することが示された。
【0051】
なお、過酸化処理したAPXBの残存活性を下記実施例5と同様に測定したところ、残存活性は未処理時の50%程度であったが、グルタチオン存在下で過酸化水素処理した場合のAPXの残存活性は未処理時の80%であり、Cys−25にグルタチオンが結合することによるAPXBの触媒活性の低下はないことが示された。
【0052】
植物の細胞には2.0mMから5.0mMのグルタチオンが存在するといわれている。上記の結果を考慮すれば、通常は、生体内においてもタンパク質同士の重合およびシステイン残基の不可逆的な酸化がAPXとグルタチオンとの結合により防止されている可能性がある。しかし、細胞が深刻な酸化ストレスに曝されると還元型グルタチオンの濃度が低下するとされている。このような場合には、APXのシステイン残基がグルタチオンにより保護されずに酸化され、その結果、APXBの触媒活性が失われる可能性がある。従って、植物細胞の状態によっては実施例1において示された過酸化水素およびTEMPOによるのと同様の25位のシステイン残基(Cys−25)の酸化が生体内においても生じ得ることが示唆された。
【実施例3】
【0053】
APXBおよびAPXBC25Sの構築、発現および精製
実施例1においてTEMPO存在下で過酸化水素と反応させることにより、APXBの25位のシステイン残基がラジカル化し、さらに酸化されることが明らかとなった。また実施例2において、このシステイン残基にグルタチオンが結合し、過酸化水素によるAPXBの重合が防止されることが示唆された。そこで、システイン残基の酸化がAPXBの触媒活性に与える影響を検証するために、当該システイン残基を欠損する変異型APXBを作製した。
【0054】
3−1.pETAPXBC25Sの構築
紅藻ガルディエリア・パーチタの細胞質局在型APX(APXB)の25位のシステイン残基(Cys−25)をセリン(Ser)に置換したAPX(APXBC25Sと命名する)を発現する大腸菌用発現ベクターpET16bAPXBC25Sを以下のようにして作製した。
【0055】
5’末端側断片の増幅のために、プライマーAPXB29R(5’−AGGAGTCTGTTCAAATAGCTTTAC−3’)(配列番号5)を設計し、の5’末端をT4 Polynucleotide Kinase(東洋紡績)を用いリン酸化した。プロトコールはカタログTOYOBO BIOCHEMICALS FOR LIFE SCIENCE(2004/2005)中の使用説明書に従った。
【0056】
3’末端側断片の増幅と変異導入のために、プライマーAPXB30(5’−TCTATGCCTATTATGGTGCGACTAGC−3’)(配列番号6)を設計した。このプライマーはCys−25に対応する塩基(TGT)のうち、1塩基を置換してSerに対応する塩基(TCT)としたものである。
【0057】
全長APXB遺伝子を含むプラスミドpET16bAPXB(非特許文献2)を鋳型として、5’末端側断片にはプライマーT7 promoter(5’−TAATACGACTCACTATAGG−3’)(配列番号7)とリン酸化したプライマーAPXB29Rを、3’末端側断片にはプライマーAPXB30とプライマー T7 terminator(5’−ACCGCTGAGCAATAACTAGC−3’)(配列番号8)を用いて、一段階目のPCR反応をおこなった。DNAポリメラーゼにはPfu Turbo DNA Polymerase(Strategene)を用いた。反応条件および反応液組成は酵素の推奨プロトコールに従い、サーマルサイクラーとしてMini Cycler(MJ Research)を用いた。
【0058】
PCRにより得られた5’末端側断片と3’末端側断片とを精製し、ライゲーションした。ライゲーションは、説明書に従い、Takara Ligation kit ver.2(タカラバイオ)を用いておこなった。ただし、キットのI液を加える前にDNA溶液を42℃で30秒間加熱した。PCR産物の精製は特に断りのない限り、説明書に従ってWizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean−Up Systemを用いておこなった。
【0059】
ライゲーション産物を鋳型として、プライマーT7 promoterとプライマーT7 terminatorを用いて二段階目のPCRをおこなった。このPCR産物を精製し、制限酵素NcoI(東洋紡績)およびXhoI(タカラバイオ)で消化して、再び精製した。また、pET16−bベクター(Novagen)もNcoIおよびXhoIで消化し、精製した。
【0060】
NcoIおよびXhoIで消化したPCR産物をpET16−bのNcoI/XhoIサイトに挿入した。得られたpET16bAPXBC25Sを用いて大腸菌XL1−blue株を形質転換した。
【0061】
LBプレートのコロニーから楊枝で取った大腸菌を鋳型として、プライマーT7 promoterとプライマーT7 terminatorを用いてコロニーPCRをおこなった。PCR産物を1.5%アガロースゲルで電気泳動し、約1000bpの目的のPCR産物を与えるコロニーを検出し、そのPCR産物を精製した。DNAポリメラーゼにはTaq Polymerase(NEB)を用い、バッファーにはEx Taq Polymerase bufferを用いた。反応条件および反応液組成は酵素の推奨プロトコールに従い、サーマルサイクラーとしてMini Cyclerを用いた。
【0062】
精製したPCR産物を鋳型として、Big Dye Terminator ver.3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、説明書に従ってシーケンス反応液を調整した。サンプルインジェクションバッファーTSR(Template Suppression Reagent,Applied Biosystems)を用いて調整したサンプルを、DNAシーケンサーであるABI PRISM 310(Applied Biosystems)に供して配列を解析した。
【0063】
3−2.APXBおよびAPXBC25Sの精製
APXBおよびAPXBC25Sを非特許文献3に記載の方法で精製した。詳細には、コンピタントセル(E.coli:BL21(DE3)株)へのpET16bAPXB(野生型APXBをコードする)およびpET16bAPXBC25S(Cys−25をSerに置換したAPXBをコードする)の導入を常法に従って行った。pET16bAPXBまたはpET16bAPXBC25Sを保持する大腸菌を、終濃度50mg/Lのアンピシリン含むLB培地1Lで、振とう培養装置IC−43(Simadzu)を用いて120rpm、37℃下振とう培養した。培養は、培地の濁度を紫外可視分光光度計UV−1700 PharmaSpec(Shimadzu)で測定した。OD600=0.6となるまで約12時間培養し、最終濃度0.5mMのイソプロピル−β−D(−)−チオガラクトピラノシド(IPTG、和光純薬)と同時に再び終濃度50mg/Lのアンピシリンを添加した。O.D.600=1.0を上回るまでさらに5時間培養を続け、集菌した。液体培地を遠心分離(2800×g、4℃、20分)して集菌し、バッファーA(50mMリン酸カリウムバッファー、pH7.0、1mM EDTA、1mMアスコルビン酸)で菌体を洗浄後、液体窒素で凍らせて−80℃で保存した。
【0064】
保存しておいたLB培地4L分の大腸菌を、40mLのバッファーAに懸濁し、超音波破砕機VP−15S、標準ホーンHNN−0200(Taitec)により菌体を破砕した。破砕は出力4、サイクル20%、5分の条件で2回繰り返し、その後出力5、サイクル20%、5分の条件で2回繰り返した。この破砕物を遠心分離(13,000×g、4℃、30分)し、その上清に対して硫安沈殿分画をおこなった。方法は「タンパク質実験ノート」(岡田雅人・宮崎香 (1999) Bradford法と硫安分画:無敵のバイオテクニカルシリーズ 改訂 タンパク質実験ノート 上 抽出と分離精製 (羊土社) , pp33-34 , 72-74)に従い、40%飽和硫安において沈殿せず、80%飽和硫安において沈殿する画分を、40%飽和硫安を含むバッファーB(10mMリン酸カリウムバッファー、pH7.0、1mM EDTA、1mMアスコルビン酸)に懸濁した。
【0065】
硫安沈殿により得られたサンプルをフィルター濾過(DISMIC−25CS 0.45μm、Advantec)し、疎水カラム HiLoad 16/10mm Phenylsepharose(Pharmacia)に供した。すべてのクロマトグラフィーはBioLogic Duo Flow(Bio-Rad)をクロマトグラフィーシステムに用い、4℃で行なった。バッファーB+40%飽和硫安を用いて40分間かけて非吸着タンパク質をカラムから溶出し、その後100分間かけて40%から0%に硫安の濃度勾配を形成し、溶出した。流速は1.0mL/分で、フラクション分取量は1.5mL/チューブとした。SDS−PAGEによりAPXを含むフラクションを選択した。SDS−PAGEは12.5%ポリアクリルアミドゲルを用いて、常法に従いおこなった。
【0066】
疎水クロマトグラフィーにより分取したフラクションを、限外濾過Centriprep YM−10(Millipore)により5mLに濃縮し、ゲル濾過カラム Hiload 16/60mm Superdex 75 prep grade(Pharmacia)に供した。0.15M塩化カリウムを含むバッファーBで溶出した。流速0.5mL/分で、フラクション分取量は2.0mL/チューブとした。SDS−PAGEによりAPXBを含むフラクションを選択した。
【0067】
APXBおよびAPXBC25Sは、回収したAPXB酵素液のSoretピークが約4になるよう0.15M塩化カリウムを含むバッファーBで希釈し、200μlずつサンプルチューブに分注し、液体窒素で凍らせて−80℃で保存した。精製したAPXBおよびAPXBC25Sのタンパク質定量は常法により行なった。
【0068】
以上の操作により、SDS−PAGEで単一バンドを与える精製標品を得た。
【実施例4】
【0069】
APXBC25SのK、kcatと吸収スペクトル
作製した変異型APXBの変異による触媒活性および構造への影響を非特許文献3に記載の方法に従って得られた酵素化学的パラメーターおよび吸収スペクトルにより検証した。
【0070】
4−1.APXBC25SのKおよびkcat
APXBC25Sの精製標品をバッファー(50 mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.0、0.5mMアスコルビン酸、0.01mg/mL BSA)で1/100希釈し、終濃度0.05、0.1、0.15、0.2、0.3、0.4、0.5mMのアスコルビン酸を含む反応液(50mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.0)に混合し、活性測定をおこなった。1.0mL反応液に終濃度100μMの過酸化水素を添加したときの過酸化水素依存的アスコルビン酸の酸化を測定した(Nakano, Y. et al., Plant Cell Physiol., 22:867-880 (1981))。測定は25℃でおこない、290nmの吸収(モル吸光係数2.8mM−1cm−1)の減少を紫外可視分光光度計UV−1700 PharmaSpecで観測することでおこなった。各アスコルビン酸濃度におけるAPXBC25Sの活性よりアスコルビン酸に対するKとkcatを決定した。
【0071】
次に、APXBC25Sの精製標品をバッファー(50mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.0、0.5mMアスコルビン酸、0.01mg/mL BSA)で1/100希釈し、それを反応液(50mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.0、0.5mMアスコルビン酸)に混合し、活性測定をおこなった。1.0mLの反応液に対し終濃度10、20、30、40、60、80、100μMの過酸化水素を添加したときの過酸化水素依存的アスコルビン酸の酸化を測定した。各過酸化水素濃度におけるAPXBC25Sの活性より過酸化水素に対するKを決定した。対照として野生型APXBを使用した。結果を表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
過酸化水素に対するAPXBC25SのKmはAPXBの値と比較して同程度となった。また、アスコルビン酸に対するAPXBC25SのKはAPXBの値と比較して4ないし5倍程度であり、kcatは70%以上であった。この結果より、アスコルビン酸に対する親和性は下がったものの、Cys−25のSerへの置換が触媒活性にほとんど影響がないことが示された。
【0074】
4−2.APXBC25Sの吸収スペクトル
窒素ガスにより嫌気化した50mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.0にバッファー置換した。バッファー置換したAPXについて、未処理の場合、0.5mMシアン化カリウムを添加した場合、少量のジチオナイトを添加した場合、それぞれのスペクトルを測定した。測定には紫外可視分光光度計UV−1700 PharmaSpecを用いて25℃でおこなった。
【0075】
その結果、未処理、およびシアン化カリウムあるいはジチオナイトを添加した変異型APXの吸収スペクトルは、APXBのそれらと極めて類似しており、CysのSerへの置換が触媒部位の構造にほとんど影響がないことが示された。これより、これらの変異型APXBを以下の実験に用いることが可能であると判断した。
【実施例5】
【0076】
TEMPO存在下でのAPXBおよびAPXBC25Sの残存活性
TEMPO存在下での過酸化水素との反応によりシステイン残基が酸化されることで、APXBの触媒活性はどのような影響を受けるか検証するために、APXBおよびAPXBC25Sの残存活性を測定した。
【0077】
嫌気50mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.0に置換した酵素液1.0mLに、ラジカル捕捉剤である終濃度0.2または0mMのTEMPOを添加し、続いて過酸化水素を5モルまたは0モル当量となるように添加した。一定時間ごとに一部をとりだして速やかに反応液(0.5mMアスコルビン酸、50mMリン酸ナトリウム、pH7.0、0.01mg/ml BSA)に混合し、失活反応を停止させて各時間の活性測定をおこなった。反応液1.0mLに対して終濃度100μMの過酸化水素を添加したときの過酸化水素依存的アスコルビン酸の酸化を25℃で測定して活性を決定した。
【0078】
結果を図5に示す。図5中、Aは野生型APXBを過酸化水素のみで処理した場合、Bは変異体APXBC25Sを過酸化水素のみで処理した場合、CはAPXBをTEMPOの存在下で過酸化水素処理した場合、DはAPXBC25SをTEMPOの存在下で過酸化水素処理した場合を示す。また、□は過酸化水素を含まない対照を示し、◆は過酸化水素を含む場合を示す。
【0079】
TEMPO非存在下で過酸化水素処理した場合の残存活性は、APXBおよびAPXBC25Sいずれも未処理時の50%程度であった。しかし、TEMPO存在下で過酸化水素処理した場合の残存活性は、APXBはほぼ完全に活性を失ったのに対して、APXBC25Sでは残存活性は10%程度しか低下しなかった。これより、TEMPOと過酸化水素に依存的に25位のシステイン残基の酸化が促進されたことにより、APXBでは顕著な触媒活性の低下がおこったことが示された。APXB変異体でTEMPO非存在下よりも存在下のほうが過酸化水素による失活が起こりにくかった理由は、TEMPOがアスコルビン酸の代わりに触媒部位のヘムを還元したためであると推定された。
【実施例6】
【0080】
本実施例においては、特許文献3に記載されるタバコAPXを基に、配列番号1の25位に相当する位置のシステインに加えて、配列番号1の34位に相当する位置のトリプトファン、配列番号1の121位に相当する位置のシステインを別のアミノ酸に置換した2重変異体、3重変異体を作製し、これらの変異の酸化耐性に対する効果を検討した。タバコAPXのアミノ酸配列を配列番号9に、それをコードする核酸のヌクレオチド配列を配列番号10に示す。配列番号1の25位は配列番号9の26位に、34位は35位に、121位は126位にそれぞれ相当する。
【0081】
実施例3および特許文献3に記載の方法と同様の方法により、配列番号9のアミノ酸配列を有する野生型のタバコAPX(tsAPX)、配列番号9の26位のシステインをセリンに置換したtsAPXC26S(配列番号11)、配列番号9の35位のトリプトファンをフェニルアラニンに置換したtsAPXW35F(配列番号12)、配列番号9の126位のシステインをアラニンに置換したtsAPXC126A(配列番号13)、配列番号9の26位のシステインをセリンに、126位のセリンをアラニンにそれぞれ置換したtsAPXC26SC126A(2重変異体)(配列番号14)、配列番号9の26位のシステインをセリンに、35位のトリプトファンをフェニルアラニンに、126位のセリンをアラニンにそれぞれ置換したtsAPXC26SW35FC126A(3重変異体)(配列番号15)を得た。
【0082】
それぞれの精製酵素標品について吸光係数(εsoret)を測定し、実施例4に記載の方法と同様の方法によりアスコルビン酸および過酸化水素(H)に対する定常状態キネティックパラメータ(Km、kcat)を測定した。アスコルビン酸に対するKm値の決定には種々の濃度のアスコルビン酸(0〜0.5mM)および固定濃度のH(0.1mM)を使用し、Hに対するKm値の決定には種々の濃度のH(0〜0.1mM)および固定濃度のアスコルビン酸(0.5mM)を使用した。結果を表4−1および4−2に示す
【0083】
【表4−1】

【0084】
【表4−2】

【0085】
この結果より、各変異体APXが野生型APXに比べて遜色ない酵素学的性能を有することが示された。
【0086】
次に、実施例5に記載の方法と同様の方法により、それぞれの酵素標品をTEMPOの存在下または非存在下で過酸化水素で処理し、残存活性を測定した。0.2mM TEMPO存在下で5モル当量の過酸化水素で処理した結果を図6に、TEMPO非存在下で20モル当量の過酸化水素で処理した結果を図7に示す。
【0087】
TEMPOは過酸化水素によるシステイン残基の酸化損傷を促進する。図6に示すように、TEMPO存在下で過酸化水素処理すると、2つのシステイン残基をそれぞれ他の残基に変異させた2重変異の場合(tsAPXC26SC126A)、野生型(tsAPX)よりも高い酸化耐性が示された。またこの2重変異は各システイン残基の単独変異の場合(tsAPXC26S、tsAPXC126A)よりも効果的であった。さらに35位のトリプトファンに変異導入した3重変異の場合(tsAPXC26SW35FC126A)、最も高い酸化耐性が示された。
【0088】
過酸化水素単独で処理すると、ヘムと35位のトリプトファンの架橋、アポタンパク質間の重合など複合的な酸化損傷が引き起こされる。図7に示すように、過酸化水素単独で処理すると、2つのシステイン残基の単独変異(tsAPXC26S、tsAPXC126A)、2重変異(tsAPXC26SC126A)のいずれの場合も野生型(tsAPX)と同等の酸化耐性しか示さなかった。一方、35位のトリプトファンにおける変異を導入した場合(tsAPXW35F)、野生型よりも高い酸化耐性が示され、3重変異の場合(tsAPXC26SW35FC126A)さらに高い酸化耐性が示された。
【0089】
以上の結果より、配列番号1の25位に相当する位置のシステインの置換と、配列番号1の34位に相当する位置のトリプトファンの置換、配列番号1の121位に相当する位置のシステインの置換を併用することにより酸化耐性がさらに向上することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明により、新規な酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼおよびその製造方法ならびにアスコルビン酸パーオキシダーゼに酸化耐性を付与する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】TEMPO存在下で過酸化水素処理したAPXBトリプシン消化物のMALDI−TOF MSの結果を示す図である。
【図2】TEMPO存在下で過酸化水素処理したAPXBのMALDI−TOF MSの結果を示す図である。
【図3】グルタチオン存在下で過酸化水素処理したAPXBのSDS−PAGE解析を示す図である。
【図4】グルタチオン存在下で過酸化水素処理したAPXBトリプシン消化物のMALDI−TOF MSの結果を示す図である。
【図5】TEMPO存在下での過酸化水素処理によるAPXBおよびAPXBC25Sの触媒活性への影響を示す図である。
【図6】TEMPO存在下での過酸化水素処理による各種APXの触媒活性への影響を示す図である。
【図7】TEMPO非存在下での過酸化水素処理による各種APXの触媒活性への影響を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0092】
SEQ ID NO:3: Cys at position 25 of ascorbate peroxidase from G. partita is replaced by Ser
SEQ ID NO:4: g at position 74 of ascorbate peroxidase-encoding sequence from G. partita is replaced by c
SEQ ID NO:5: A primer APXB29R
SEQ ID NO:6: A primer APXB30
SEQ ID NO:7: A primer T7 promoter
SEQ ID NO:8: A primer T7 terminator
SEQ ID NO:11: Cys at position 26 of ascorbate peroxidase from tobacco is replaced by Ser
SEQ ID NO:12: Trp at position 35 of ascorbate peroxidase from tobacco is replaced by Phe
SEQ ID NO:13: Cys at position 126 of ascorbate peroxidase from tobacco is replaced by Ala
SEQ ID NO:14: Cys at position 26 of ascorbate peroxidase from tobacco is replaced by Ser; Cys at position 126 of ascorbate peroxidase from tobacco is replaced by Ala
SEQ ID NO:15: Cys at position 26 of ascorbate peroxidase from tobacco is replaced by Ser; Trp at position 35 of ascorbate peroxidase from tobacco is replaced by Phe; Cys at position 126 of ascorbate peroxidase from tobacco is replaced by Ala

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列において、少なくとも配列番号1の25位に相当する位置のアミノ酸がシステインからシステイン以外のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する、酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼ。
【請求項2】
未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼがガルディエリア・パーチタ(Galdieria partita)またはタバコに由来する、請求項1記載の酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼ。
【請求項3】
配列番号3、11、14および15からなる群より選択されるアミノ酸配列、または当該アミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつアスコルビン酸パーオキシダーゼ活性を有する、請求項1または2記載の酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼ。
【請求項4】
システイン以外のアミノ酸がセリンである、請求項1〜3のいずれか1項記載の酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼ。
【請求項5】
ラジカル捕捉剤の存在下で酸化耐性を示す、請求項1〜4のいずれか1項記載の酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼ。
【請求項6】
さらに、配列番号1の34位に相当する位置のアミノ酸のトリプトファンからトリプトファン以外のアミノ酸への置換および/または配列番号1の121位に相当する位置のアミノ酸のシステインからシステイン以外のアミノ酸への置換を有する、請求項1〜5のいずれか1項記載の酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼ。
【請求項7】
酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼを生産する細胞を培養する工程を包含する、酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼの製造方法であって、酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼが、未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列において、少なくとも配列番号1の25位に相当する位置のアミノ酸がシステインからシステイン以外のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する、方法。
【請求項8】
未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼがガルディエリア・パーチタ(Galdieria partita)またはタバコに由来する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼが、配列番号3、11、14および15からなる群より選択されるアミノ酸配列、または当該アミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつアスコルビン酸パーオキシダーゼ活性を有する、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
システイン以外のアミノ酸がセリンである、請求項7〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼがラジカル捕捉剤の存在下で酸化耐性を示す、請求項7〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
酸化耐性アスコルビン酸パーオキシダーゼが、さらに、配列番号1の34位に相当する位置のアミノ酸のトリプトファンからトリプトファン以外のアミノ酸への置換および/または配列番号1の121位に相当する位置のアミノ酸のシステインからシステイン以外のアミノ酸への置換を有する、請求項7〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼのアミノ酸配列において、少なくとも配列番号1の25位に相当する位置のアミノ酸をシステインからシステイン以外のアミノ酸に置換する工程を包含する、アスコルビン酸パーオキシダーゼに酸化耐性を付与する方法。
【請求項14】
未改変アスコルビン酸パーオキシダーゼがガルディエリア・パーチタ(Galdieria partita)またはタバコに由来する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
酸化耐性を付与されたアスコルビン酸パーオキシダーゼが、配列番号3、11、14および15からなる群より選択されるアミノ酸配列、または当該アミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつアスコルビン酸パーオキシダーゼ活性を有する、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
システイン以外のアミノ酸がセリンである、請求項13〜15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
ラジカル捕捉剤の存在下での酸化耐性が付与される、請求項13〜16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
配列番号1の34位に相当する位置のアミノ酸をトリプトファンからトリプトファン以外のアミノ酸に置換する工程および/または配列番号1の121位に相当する位置のアミノ酸をシステインからシステイン以外のアミノ酸に置換する工程をさらに包含する、請求項13〜17のいずれか1項記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−253248(P2008−253248A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9455(P2008−9455)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年9月30日 日本農芸化学会 関西支部主催の「日本農芸化学会2006年度(平成18年度)関西支部大会」に文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年2月19日 国立大学法人 京都工芸繊維大学主催の「平成18年度 京都工芸繊維大学 繊維学部 応用生物学科」に文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年2月21日 国立大学法人 京都工芸繊維大学主催の「平成18年度 京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 応用生物学専攻 修士論文公聴会」に文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年3月5日 社団法人 日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会2007年度(平成19年度)大会講演要旨集」に発表
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】