説明

酸素イオン伝導モジュールおよび導電性接合材

【課題】種々の構成部材が高温の作動温度領域下でも高い密閉性を保持して接合されるとともに、該接合部が良好な導電性を有する酸素イオン透過モジュールを提供すること、該接合部を形成するために用いる導電性接合材、ならびに該接合材を用いて構成部材同士を接合する方法を提供すること。
【解決手段】本発明によって提供される酸素イオン伝導モジュール10は、酸素イオン伝導性セラミック材12を備えており、酸素イオン伝導性セラミック材12は、少なくとも一つのセラミック製接続部材18A,Bに接合している。酸素イオン伝導性セラミック材12と接続部材18A,Bとの接合部20は、以下の二つの成分;(a)クリストバライト結晶及び/又はリューサイト結晶がガラスマトリックス中に析出していることを特徴とするガラス、及び(b)少なくとも一種の金属元素を有する導電性物質が混在して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素イオンを選択的に透過する酸素イオン伝導モジュール、および該モジュールにおける接合部を形成するための導電性接合材(シール材)に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素イオン(典型的にはO2−;酸化物イオンとも呼ばれる。)伝導性を有する酸素イオン伝導体から成る緻密なセラミック材は、酸素イオン伝導モジュール(酸素イオン伝導装置)の基本構成部材として備えられ、一方の面に供給された酸素含有ガス(空気等)から酸素を他方の面に選択的に透過、分離することができる。
【0003】
酸素イオン伝導モジュールの一典型例としては、酸素分離装置が挙げられる。かかる酸素分離装置は、酸素分離膜エレメントを備えており、該酸素分離膜エレメントは、酸素イオン伝導体を膜状に形成して成る酸素分離膜材が基材(典型的には多孔質基材)上に設けられることにより構成されている。かかる酸素分離装置は、例えば深冷分離法やPSA(Pressure Swing Adsorption)法に代わる有効な酸素精製手段として好適に使用することができる。かかる構成の酸素分離装置を構築する場合、酸素分離エレメントは、種々の部材と接合され、高温域(例えば800℃〜1000℃)下でも高い気密性を保持できる接合(シール)部を伴う形態で構築される必要がある。かかる気密性の高い接合部を形成するための接合(シール)材としては、例えばガラス材料や金属材料が検討されている。
【0004】
あるいはまた、酸素イオン伝導モジュールの一典型例として、固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:以下、単に「SOFC」ということもある。)が挙げられる。SOFCは、その基本構造(単セル)として、酸素イオン伝導体から成る緻密な固体電解質(例えば緻密膜層)の一方の面に多孔質構造の空気極(カソード)が形成され、他方の面に多孔質構造の燃料極(アノード)が形成されることにより構成されている。燃料極が形成された側の固体電解質の表面には燃料ガス(典型的にはH(水素))が供給され、空気極が形成された側の固体電解質の表面にはO(酸素)含有ガス(典型的には空気)が供給される。
【0005】
SOFCは、典型的には、高い電圧を得るために複数個の単セルを重ね合わせて複層化したスタックとして運転される。かかるスタック構造のSOFCでは、単セル同士を接続するためにインターコネクタが用いられている。インターコネクタは、単セル間を物理的且つ電気的に接続すると同時に、酸化性のガス(空気等の酸素含有ガス)と還元性のガス(水素等の燃料ガス)とを分離するセパレータとしての役割も担っている。かかるインターコネクタと該インターコネクタに対向する固体電解質表面との間は、高温域下(通常800℃〜1200℃)での運転時にも高い気密性が確保されるように接合(シール)される必要がある。
【0006】
ところで、SOFC用の固体電解質としては、化学的安定性および機械的強度の高さにより、ジルコニア系材料(典型的にはイットリア安定化ジルコニア;YSZ)から成る固体電解質が広く用いられている。
また、上記のようなインターコネクタは、SOFCが上記のような高温域で動作することを考慮し、かかる高温下での酸化還元雰囲気における化学耐久性や導電性が高く、固体電解質材料と類似の熱膨張係数を有する等の性質を具備した材料から形成されることが好ましい。このようなインターコネクタ材料として、金属材料(例えば耐熱合金やAg(銀)系コンポジット等)またはセラミック材料が提案されている。かかるセラミック材料としては、特許文献1〜9に示されるように、種々のペロブスカイト型酸化物材料が提案されている。例えば、La1−pCrO(ここで、AはMg,Ca,Sr,Baからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、0≦p<1である。)等のランタンクロマイト(LaCrO)系のペロブスカイト型酸化物、あるいはそのBサイトを他の元素(例えばSi,Ti,Co,NiあるいはZr)で一部置換(ドープ)したペロブスカイト型酸化物、さらにはMTiO(ここで、MはLi,Ca,Cu,Sr,Ba,La,Ce,Pb,Biからなる群から選ばれる少なくとも1種である。)等のチタネート系のペロブスカイト型酸化物等が例示される。
また、上記固体電解質とインターコネクタとの接合材料としては、かかる固体電解質材料およびインターコネクタ材料と類似の熱膨張係数を有し、SOFCの作動温度以上でも高い気密性を有して接合(シール)できる材料が好ましい。例えば、特許文献10〜16に示されるように、安定化ジルコニアとガラスの混合物、固体電解質材料とインターコネクタ材料との混合物、ガラスと金属の混合物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−55629号公報
【特許文献2】特開平8−83620号公報
【特許文献3】特開平8−190922号公報
【特許文献4】特開平10−125340号公報
【特許文献5】特開平11−3720号公報
【特許文献6】特開2003−288919号公報
【特許文献7】特開2003−331874号公報
【特許文献8】特開2006−310090号公報
【特許文献9】特開2007−39279号公報
【特許文献10】特開平5−330935号公報
【特許文献11】特開平8−134434号公報
【特許文献12】特開平9−129251号公報
【特許文献13】特開平11−154525号公報
【特許文献14】特開2004−39573号公報
【特許文献15】特表2008−527680号公報
【特許文献16】特表2008−529256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、SOFC等の酸素イオン伝導モジュールにおいて、該モジュールを構成する部材を相互に接合する接合材としては、そのモジュール構成部材の材質の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有し、該モジュールの作動温度以上でも高い気密性を保持して接合(シール)できる材料が好ましい。しかし、上術のような材料は、上記作動温度域下で溶出する等して耐熱性に乏しく、また導電性が極めて低いため、かかる材料から成る接合材を用いる量や付与する場所(面積)が限定される問題があった。
【0009】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、高温の作動温度領域下でも種々の構成部材が高い気密性を長期にわたって保持して接合されるとともに、かかる接合部が良好な導電性を有する酸素イオン伝導モジュールを提供することである。また、そのような高い気密性と導電性を有する接合部を形成するために用いる導電性接合材を提供することを他の目的とする。さらに、そのような導電性接合材を用いて酸素イオン伝導モジュールの構成部材同士を接合する方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を実現するべく、本発明により提供される酸素イオン伝導モジュールは、酸素
イオン伝導性を有するセラミック材を備えており、該酸素イオン伝導性セラミック材は、少なくとも一つのセラミック製接続部材に接合している。また、上記酸素イオン伝導モジュールにおいて、上記酸素イオン伝導性セラミック材と上記接続部材との接合部は、以下の二つの成分;
(a).クリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶がガラスマトリックス中に析出していることを特徴とするガラス;および
(b).少なくとも一種の金属元素を有する導電性物質;
が混在して形成されている。
【0011】
ここで、「酸素イオン伝導モジュール」とは、酸素イオン伝導性を有するセラミック材(酸素イオン伝導体)を基本構成部材として備えるモジュール(構成物、装置)であり、かかるセラミック材の一方の面に酸素含有ガス(空気等)を供給し、該セラミック材内を透過させる過程で上記酸素含有ガスから酸素を選択的に分離し、かかる酸素のみを上記セラミック材の他方の面に透過させるモジュール(構成物、装置)である。
本発明に係る酸素イオン伝導モジュールでは、酸素イオン伝導性セラミック材と接続部材との接合部が、(a)ガラスマトリックス中にクリストバライト結晶(SiO)および/またはリューサイト結晶(KAlSi)とが析出しているガラス(以下、「結晶含有ガラス」という。)と、(b)少なくとも一種の金属元素を有する導電性物質の二つの成分の混在により形成されている。かかる接合部が上記構成成分(a)を含む(例えばガラスマトリックス中に上記クリストバライトおよび/またはリューサイトの微細結晶が分散状態で析出される)ことにより、800℃以上の温度域、例えば800℃〜1000℃の温度領域で流動し難い。したがって、かかる酸素イオン伝導モジュールによると、該モジュールの使用温度が上記温度領域に到達しても、酸素イオン伝導性セラミック材と接続部材との接合部が溶出する虞はなく、機械的強度が向上した接合部を実現することができる。
【0012】
また、かかる接合部が上記構成成分(b)を含む(例えば、ガラスマトリックス中に導電性を有する状態で析出、分散される)ことにより、上記接合部は上記温度領域下で導電性を有する。したがって、かかる酸素イオン伝導モジュールによると、酸素イオン伝導性セラミック材と接続部材との接合部を、電子伝導経路として機能させることができる。すなわち、接合する箇所や接合面積を制限することなく上記酸素イオン伝導性セラミック材と接続部材とを接合し、かかる接合部において上記両部材同士の導通をとることができる。
【0013】
ここで開示される酸素イオン伝導モジュールの好ましい一態様では、上記接合部に混在するガラスは、酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 60〜75質量%;
Al 10〜20質量%;
NaO 3〜10質量%;
O 5〜15質量%;
MgO 0〜 3質量%;
CaO 0〜 3質量%;
から実質的に構成されている。
かかる組成の結晶含有ガラスが混在する接合部は、接合対象の酸素イオン伝導性セラミック材および接続部材の熱膨張率(熱膨張係数)に近似した熱膨張率を有する。このため、ここで開示される上記構成の酸素イオン伝導モジュールを、高温域(例えば800℃〜1000℃)で繰り返し使用し、該使用温度域と非使用時の温度(常温)との間で昇温と降温とを繰り返しても、上記酸素イオン伝導性セラミック材と接続部材との接合部(シール部)からのガスのリークを防止し、長期にわたり高い気密性を保持することができる。したがって、かかる構成の酸素イオン伝導モジュールは、優れた耐熱性および耐久性を実現することができる。
【0014】
ここで開示される酸素イオン伝導モジュールのより好ましい一態様では、上記接合部に混在する導電性物質は、Cu(銅)、Co(コバルト)、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)、Ir(イリジウム)、Sn(スズ)、およびNb(ニオブ)からなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む化合物(例えば酸化物)である。
かかる構成の酸素イオン伝導モジュールでは、上記導電性物質として、上述のような金属元素を含む金属酸化物等の金属化合物(無機化合物)が導電性を有する状態で上記接合部に混在していることにより、かかる導電性物質は、上記高温域においても、混在する結晶含有ガラスとの反応性が低く、また該高温域でも良好な導電性を有する。したがって、かかる酸素イオン伝導モジュールによると、上記酸素イオン伝導性セラミック材と接続部材との接合部は上記高温域においても変質することなく優れた耐熱性および耐久性(長期にわたる気密性)を実現するとともに、該接合部において優れた電子伝導路として上記酸素イオン伝導性セラミック材と接続部材との間で良好な導通をとることができる。
【0015】
また、ここで開示されるいずれかの酸素イオン伝導モジュールは、固体酸化物形燃料電池(以下、単に「SOFC」ということもある。)として好適に機能する。
すなわち、SOFCとして機能する酸素イオン伝導モジュールでは、上記酸素イオン伝導性セラミック材は、ジルコニア系(例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ))固体電解質である。上記セラミック製接続部材は、ペロブスカイト型酸化物(例えばランタン(La)、またはクロム(Cr)の一部がアルカリ土類金属で置換された、または置換されていないランタンクロマイト系酸化物)から成るインターコネクタである。さらに、上記酸素イオン伝導性セラミック材と上記接続部材とを接合する導電性接合材は、上記インターコネクタとして作用することを特徴とする。
かかる機能を備えた酸素イオン伝導モジュールでは、上記SOFCの好適使用温度域である800℃〜1200℃(好ましくは800℃〜1000℃)の高温域において、固体電解質としての上記酸素イオン伝導性セラミック材とインターコネクタとしての接続部材との接合部は、上述したような耐熱性および耐久性に加えて優れた導電性を有し、上記インターコネクタ(の一部)として作用する。したがって、かかる酸素イオン伝導モジュールによると、接合する箇所や接合面積を制限することなく上記接合部を形成して、上記耐熱性、耐久性および導電性に優れた好適なSOFCを提供することができる。
【0016】
ここで開示される酸素イオン伝導モジュールのさらに好ましい一態様では、上記接合部の900℃の温度条件下での導電率が0.01S/cm〜1.5S/cmであることを特徴とする。
かかる導電率を有する接合部を備えることにより、900℃程度の高温域で使用しても良好な導電性を呈する酸素イオン伝導モジュールを提供することができる。
【0017】
ここで開示される酸素イオン伝導モジュールのさらに好ましい一態様では、上記接合部の熱膨張係数が9×10−6/K〜14×10−6/Kであることを特徴とする。
かかる熱膨張係数(一般的な示差膨張方式(TMA)に基づく室温(25℃)〜ガラスの軟化点以下の温度(例えば450℃)の間の平均値)は、例えばYSZ等のジルコニア系材料から成る酸素イオン伝導性セラミック材およびペロブスカイト型酸化物(例えばランタンクロマイト系酸化物)から成る接続部材の熱膨張係数と近似する。これにより、接合部(シール部)の耐熱性、耐久性および導電性に優れる酸素イオン伝導モジュールを提供することができる。
【0018】
本発明は、他の側面として、上記課題を解決する接合材を提供する。すなわち、かかる接合材は、酸素イオン伝導モジュールを構成する酸素イオン伝導性セラミック材と少なくとも一つのセラミック製接続部材とを接合するための導電性接合材である。ここで開示される導電性接合材は、SiO、Al、NaO、およびKOを必須構成成分とし、好ましくは付加的な構成成分としてMgO、CaOのうち少なくとも一つを含むガラスであってクリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶がガラスマトリックス中に析出しているガラスと、導電性物質とが混在して形成されている。特に好ましくは、
(a)酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 60〜75質量%;
Al 10〜20質量%;
NaO 3〜10質量%;
O 5〜15質量%;
MgO 0〜 3質量%;
CaO 0〜 3質量%;
から実質的に構成されたガラスであって該ガラスのマトリックス中にクリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶が析出しているガラス;および
(b).少なくとも一種の金属元素を有する導電性物質
が混在して形成されている。
ここで、かかる導電性接合材の好適な一態様では、上記(a)成分および(b)成分を含む接合材原料を主成分として含むペースト状(スラリー状ともいう。)の接合材(シール材)として提供される。
かかる構成の接合材を使用することにより、上述のような良好な導電性を有した状態で上記酸素イオン伝導性セラミック材と接続部材とを接合することができるとともに、機械的強度、耐熱性および耐久性に優れた上記接合部を備えた酸素イオン伝導モジュールを提供することができる。
【0019】
ここで開示される導電性接合材の好ましい一態様では、上記導電性物質は、Cu、Co、Fe、Ni、Cr、Ir、Sn、およびNbからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含む化合物である。
かかる構成の導電性接合材では、上記のような金属を含む物質(化合物)が導電性を有した状態で上記結晶含有ガラスに混在していることにより、上記高温域においても上記結晶含有ガラス(上記構成成分(a))と反応性が低く、良好な導電性を有した状態で上記酸素イオン伝導性セラミック材と接続部材とを接合することができる。このことにより、上記高温域において上記接合部を優れた電子伝導路として備える好適な酸素イオン伝導モジュールを提供することができる。特に銅(Cu)またはコバルト(Co)を金属成分として含む化合物であることが好ましい。
【0020】
また、ここで開示される導電性接合材の好ましい一態様では、該導電性物質の含有率が、金属元素の酸化物換算で、導電性接合材の総量を100質量%として10質量%〜90質量%である。
かかる組成の導電性接合材は、接合性能と導電性能の両立を図ることができる。このことにより、かかる態様では、接合性能に加えて導電性の向上した接合部を備えたより好適な酸素イオン伝導モジュールを提供することができる。
【0021】
また、本発明は、酸素イオン伝導モジュールを構成する酸素イオン伝導性セラミック材と少なくとも一つのセラミック製接続部材とを接合する方法を提供する。
すなわち、本発明により提供される方法は、ここで開示されるいずれかの導電性接合材導電性接合材を用意し、該接合材を上記酸素イオン伝導性セラミック材と上記接続部材との接続部分に塗布すること、そして、該塗布された導電性接合材を、1000℃以上の温度域で焼成することによって、上記酸素イオン伝導性セラミック材と上記接続部材との上記接続部分において該導電性接合材から成るガス流通を遮断する接合部を形成すること、を包含する。
かかる構成の方法では、上記接続部分に塗布された上記導電性接合材を1000℃以上の高温域で焼成することによって、上述したような効果を奏する酸素イオン伝導モジュールを提供することができる。
したがって、本発明は他の側面として、ここで開示される導電性接合材を使用して酸素イオン伝導性セラミック材(例えばジルコニア系材料)と、少なくとも一つのセラミック(例えばランタンクロマイト系のペロブスカイト型酸化物)製の接続部材とを、上記接合方法により接合することを特徴とする酸素イオン伝導モジュールの製造方法を提供する。ここで、上記導電性接合材の焼成温度は、酸素イオン伝導モジュールの使用温度域(例えば800℃〜1000℃)以上であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】典型例として平板型SOFC(単セル)を模式的に示す断面図である。
【図2】一実施例において作製した接合体(供試体)の構成を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、導電性接合材を構成するガラス成分の調製方法)以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(原料粉末の混合方法やセラミックスの成形方法)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本命最初に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0024】
本発明の酸素イオン伝導モジュールは、該モジュールを構成する酸素イオン伝導性セラミック材とセラミック製接続部材との間の接合部が、(a)ガラスマトリックス中にクリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶が析出している上記結晶含有ガラスと(b)導電性物質との混材により形成されていることにより特徴づけられるものであり、その他の構成成分、例えば酸素イオン伝導性セラミック材やセラミック製接続部材の形状や組成は、種々の基準に照らして任意に決定することができる。例えば、かかる酸素イオン伝導モジュールの一典型例である酸素分離装置では、ペロブスカイト型酸化物である酸素イオン伝導性セラミック材が膜状に形成されて酸素分離膜材として作用し、該膜材と同様の組成、またはマグネシア、ジルコニア、窒化ケイ素、あるいは炭化ケイ素等を主体とする多孔質な接続部材が円筒状に形成されて、上記酸素分離膜材の基材として作用し得る。あるいはまた、酸素伝導モジュールにおける他の一典型例である燃料電池(典型的にはSOFC)では、固体電解質として所定形状に形成された酸素イオン伝導性セラミック材が、インターコネクタとしての接続部材と接合されることにより、スタックを構成し得る。
【0025】
ここで開示される導電性接合材は、上述のように、酸素イオン伝導モジュールを構成する酸素イオン伝導性セラミック材と少なくとも一つのセラミック製接続部材とを互いに接合するための導電性接合材であり、(a)ガラスマトリックス中にクリストバライト(SiO)結晶および/またはリューサイト(KAlSiあるいは4SiO・Al・KO)結晶が析出し得る組成のガラス組成物(結晶含有ガラス)と、(b)導電性物質とが混在して形成される。
【0026】
まず、上記構成成分(a)である結晶含有ガラスについて説明する。
酸素分離装置やSOFC等に代表される酸素イオン伝導モジュールを比較的高温域、例えば800〜1200℃、好ましくは800〜1000℃(例えば900〜1000℃)で使用する場合、かかる構成成分(a)として、当該高温域で溶融し難い組成のガラスが好ましい。この場合、ガラスの融点(軟化点)を上昇させる成分の添加または増加により、所望する高融点(高軟化点)を実現することができる。
このような構成成分(a)は、必須構成成分としてSiO、Al、KOを含む酸化物ガラスが好ましい。これら必須成分のほか、目的に応じて種々の成分(典型的には種々の酸化物成分)を付加的に含むことができる。
また、クリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶の析出量は、ガラス組成物中の上記必須構成成分の含有率(組成率)によって適宜調整することができる。
特に限定されないが、ガラス成分全体(クリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶部分を含む)の酸化物換算の質量比で、SiO:60〜75質量%、Al:10〜20質量%、NaO:3〜10質量%、KO:5〜15質量%、MgO:0〜3質量%、およびCaO:0〜3質量%(好ましくは0.1〜3質量%)であるものが好ましい。
【0027】
SiOはクリストバライト結晶およびリューサイト結晶を構成する成分であり、接合部のガラス層(ガラスマトリックス)の骨格を構成する主成分である。SiO含有率が高すぎると融点(軟化点)が高くなりすぎてしまい好ましくない。一方、SiO含有率が低すぎると、クリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶析出量が少なくなるため好ましくない。また、耐水性や耐化学性が低下する。SiO含有率がガラス組成物全体の60〜75質量%であることが好ましく、65〜75%程度であることが特に好ましい。
【0028】
Alはリューサイト結晶を構成する成分であり、ガラスの流動性を制御して付着安定性に関与する成分である。Al含有率が低すぎると付着安定性が低下して均一な厚みのガラス層(ガラスマトリックス)の形成を損なう虞があるとともにリューサイト結晶析出量が少なくなるため好ましくない。一方、Al含有率が高すぎると、接合部の耐化学性を低下させる虞がある。Al含有率がガラス組成物全体の10〜20質量%であることが好ましい。
【0029】
Oはリューサイト結晶を構成する成分であり、他のアルカリ金属酸化物(典型的にはNaO)とともに熱膨張率(熱膨張係数)を高める成分である。KO含有率が低すぎるとリューサイト結晶析出量が少なくなるため好ましくない。また、KO含有率およびNaO含有率が低すぎると熱膨張率(熱膨張係数)が低くなりすぎる虞がある。一方、KO含有率およびNaO含有率が高すぎると熱膨張率(熱膨張係数)が過剰に高くなるため好ましくない。KO含有率がガラス組成物全体の5〜15質量%であることが好ましく、7〜10%程度であることが特に好ましい。また、他のアルカリ金属酸化物(典型的にはNaO)の含有率がガラス組成物全体の3〜10質量%であることが好ましい。KOとNaOの合計がガラス組成物全体の10〜20質量%であることが特に好ましい。
【0030】
アルカリ土類金属酸化物であるMgOおよびCaOは、熱膨張係数の調整を行うことができる任意添加成分である。CaOはガラス層(ガラスフラックス)の硬度を上げて耐摩耗性を向上させ得る成分であり、MgOはガラス溶融時の粘度調整を行うことができる成分でもある。また、これらの成分を入れることによりガラスマトリックスが多成分系で構成されるため、耐化学性が向上し得る。これら酸化物のガラス組成物全体における含有率は、それぞれ、ゼロ(無添加)かあるいは3質量%以下が好ましい。例えば、MgOおよびCaOの合計量がガラス組成物全体の2質量%以下であることが好ましい。
【0031】
また、上述した酸化物成分以外の、本発明の実施において本質的ではない成分(例えばB、ZnO、LiO、Bi、SrO、SnO、SnO、CuO、CuO、TiO、ZrO、La)を種々の目的に応じて添加することができる。
好ましくは、酸素イオン伝導モジュールにおける酸素イオン伝導性セラミック材と接続部材との接合部を構成するガラスの熱膨張係数が、該酸素イオン伝導性セラミック材および接続部材の熱膨張係数に近似するように上述の各成分を調合して結晶含有ガラス(構成成分(a))を調製する。例えば酸素イオン伝導性セラミック材がYSZ等のジルコニア系材料であり、接続部材がランタンクロマイト系酸化物等のペロブスカイト型酸化物である場合には、これらの熱膨張係数に近似させて、形成される接合部の熱膨張係数(示差膨張方式(TMA)に基づく室温(25℃)〜ガラスの軟化点以下の温度(例えば450℃)の間の平均値)が9×10−6/K〜14×10−6/Kとなるように組成を調整して上記結晶含有ガラスを調製すればよい。
【0032】
次に、上記導電性接合材を構成する構成成分(b)について説明する。
かかる構成成分(b)である導電性物質は、上記酸素イオン伝導モジュールの使用温度域(800℃〜1200℃)下で上記結晶含有ガラスと反応しにくく、また、かかる温度域下で導電性を有するもの(すなわち、かかる温度域下で導電性を有する状態で存在し得るもの)が好ましい。このような導電性物質としては、例えば、Cu、Co、Fe、Ni、Cr、Ir、Sn、Nb等の金属元素(一種または二種以上)を含む金属化合物(一種または二種以上であってもよい。)が挙げられる。上記例示したもののうち、より好ましい金属成分(金属元素)はCuまたはCoである。
また、かかる導電性物質の含有率は、接合材に求められる接合能力(すなわち上記ガラス成分の含有率に依存する。)が具備される限りにおいて特に制限はないが、導電性物質を構成する金属元素の酸化物換算において、導電性接合材全体の質量を100質量%としたときの10質量%〜90質量%程度が好ましい。例えば、このような含有率で導電性物質を含む接合材によると、好適には、導電率が900℃の温度条件下で0.01S/cm〜1.5S/cmとなるような接合部を形成することができる。
【0033】
上記のような組成の導電性接合材の製造方法に関して特に制限はなく、従来の結晶含有ガラス(すなわち、クリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶が析出し得る組成のガラス組成物)を製造するのと同様の方法が用いられる。典型的には、当該組成物を構成する各種酸化物成分を得るための化合物(例えば各成分を含有する酸化物、炭酸塩、硝酸塩、複合酸化物等を含む工業製品、試薬、または各種の鉱物原料)および必要に応じてそれ以外の添加物を所定の配合比で乾式または湿式のボールミル等の混合機に投入し、数〜数十時間混合する。
得られた混和物(粉末)は、乾燥後、耐火性の坩堝に入れ、適当な高温(典型的には1000℃〜1500℃)条件下で加熱・溶融させる。
【0034】
次いで得られたガラスを粉砕し、結晶化熱処理を行う。例えば、ガラス粉末を室温から約100℃まで約1〜5℃/分の昇温速度で加熱し、800〜1000℃の温度域で30分〜60分程度保持することにより、ガラスマトリックス中にクリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶を析出させることができる。
こうして得られたリューサイト含有ガラスは、種々の方法で所望する形態に成形することができる。例えば、ボールミルで粉砕したり、適宜篩いがけしたりすることによって、所望する平均粒径(例えば0.1μm〜10μm)の粉末状ガラス組成物(構成成分(a))を得ることができる。
【0035】
このようにして得られた粉末状ガラス組成物に対して、構成成分(b)である導電性物質を、所望する導電率に応じて決められた配合比で加え、次いで水を適量加えて上記と同様のボールミルを用いて混合する。その後、所定時間の乾燥処理を実施することにより、本発明に係る粉末状の導電性接合材を得ることができる。
このようにして得られた粉末状体の導電性接合材は、従来の接合材と同様に、典型的にはペースト状に調製されて、酸素イオン伝導性セラミック材と接続部材との接続部分に塗布することができる。例えば、得られた上記導電性接合材に適当なバインダーや溶媒を混合してペーストを調製することができる。なお、ペーストに用いられるバインダー、溶媒および他の成分(例えば分散剤)は、特に限定されるものではなく、ペースト製造において従来公知のものから適宜選択して用いることができる。
例えば、バインダーの好適例としてセルロースまたはその誘導体が挙げられる。具体的には、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルメチルセルロース、セルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、およびこれらの塩が挙げられる。バインダーは、ペースト全体の5〜20質量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0036】
また、ペースト中に含まれ得る溶媒としては、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、または他の有機溶剤が挙げられる。好適例としてエチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ターピネオール等の高沸点有機溶媒またはこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。ペーストにおける溶媒の含有率は、特に限定されないが、ペースト全体の1〜40質量%程度が好ましい。
【0037】
ここで開示される導電性接合材は、従来のこの種の接合材と同様に用いることができる。具体的には、接合対象である酸素イオン伝導性セラミック材と接続部材の被接合部分を相互に接触・接続し、当該接続した部分にペースト状に調製された導電性接合材を塗布する。そして、導電性接合材から成る塗布物を適当な温度(典型的には60〜100℃)で乾燥させ、次いで、1000℃以上の温度域、好ましくは酸素イオン伝導モジュールの使用温度域(例えば800〜1000℃、あるいはそれよりも高い温度域、典型的には800℃〜1200℃)よりも高い温度域であってガラスが流出しない温度域(例えば使用温度域が概ね1000℃までの場合、典型的には1000℃〜1200℃、使用温度域が概ね1200℃までの場合、典型的には1200℃〜1300℃)で焼成する。このことにより、酸素イオン伝導性セラミック材と接続部材との接続部分においてガス流通を遮断する(すなわちガスリークが無い)接合部(シール部)が形成される。かかる接合部は、上記温度域で良好な導電性を有するため、酸素イオン伝導性セラミック材と接続部材との間の電子伝導経路として機能できる。すなわち、かかる導電性接合材を用いることにより、接合する箇所や接合面積を制限することなく上記酸素イオン伝導性セラミック材と接続部材とを接合し、かかる接合部において両部材同士の導通をとることができる。
【0038】
以上のような導電性接合材が用いられて形成される接合部を備えた酸素イオン伝導モジュールについて、該モジュールがSOFCとして機能する場合を例として、詳細に説明する。
かかるSOFCは、ジルコニア系固体電解質(酸素イオン伝導性セラミック材)とランタンクロマイト系酸化物から成るインターコネクタ(接続部材)との間の接合部(シール部)が上記結晶含有ガラスと上記導電性物質との混在により形成されていることで特徴づけられる。かかる以外の構成部分、例えば燃料極(アノード)や、空気極(カソード)の形状や組成は、種々の基準に照らして任意に決定することができる。
【0039】
ここで開示されるSOFCを構築するための固体電解質としては、酸化(空気)雰囲気および還元(燃料ガス)雰囲気のいずれにおいても酸素イオン伝導性が高く、ガス透過性の無い緻密な層を形成できる材料から構成される。この好適な材料として、ジルコニア系固体電解質が用いられる。典型的にはイットリア(Y)で安定化したジルコニア(YSZ)が用いられる。その他、好適なジルコニア系固体電解質として、カルシア(CaO)で安定化したジルコニア(CSZ)、スカンジア(Sc)で安定化したジルコニア(SSZ)、等が挙げられる。
【0040】
ここで開示されるSOFCを構築するためのインターコネクタ(セパレータ)としては、酸素供給ガス(例えば空気)と燃料ガスとを物理的に遮断し且つ電子伝導性があるランタンクロマイト系のペロブスカイト型酸化物(ランタンクロマイト系酸化物)が用いられる。
かかるランタンクロマイト系酸化物は、一般式:La(1−x)Ma(x)Cr(1−y)Mb(y)で表され、式中のMaおよびMbは同一かまたは相互に異なる1種または2種以上のアルカリ土類金属であり、xおよびyはそれぞれ0≦x<1、0≦y<1である。すなわち、かかるランタンクロマイト系酸化物は、ランタン、またはクロムの一部がアルカリ土類金属で置換されたものであってもよい。好適例として、LaCrO、あるいはMaまたはMbがカルシウム(Ca)である酸化物(ランタンカルシアクロマイト)、例えばLa0.8Ca0.2CrOが挙げられる。なお、上記一般式において酸素原子数は3であるように表示されているが、実際には組成比において酸素原子の数は3以下(典型的には3未満)であり得る。
【0041】
ここで開示されるSOFCに備わる燃料極および空気極は、従来のSOFCと同様でよく特に制限はない。例えば、燃料極としてはニッケル(Ni)とYSZのサーメット、ルテニウム(Ru)とYSZのサーメット等が好適に採用される。空気極としてはランタンコバルトネート(LaCoO)系やランタンマンガネート(LaMnO)系のペロブスカイト型酸化物が好適に採用される。これら材質から成る多孔質体をそれぞれ燃料極および空気極として使用する。
【0042】
SOFCの単セルおよびそのスタックの製造は、従来のSOFCの単セルとスタックの製造に準じればよく、本発明のSOFCを構築するために特別な処理を必要としない。従来用いられている種々の方法により、固体電解質、空気極、燃料極およびセパレータを形成することができる。
例えば、所定の材料(例えば平均粒径0.1〜10μm程度のYSZ粉末、メチルセルロース等のバインダー、水等の溶媒)から成る成形材料を用いて押出成形等によって成形されたYSZ成形体を大気条件下で適当な温度域(例えば1300〜1600℃)で焼成し、所定形状(例えば板状または管状)の固体電解質を作製する。
その固体電解質の一方の表面に、所定の材料(例えば平均粒径0.1μm〜10μm程度の上記ペロブスカイト型酸化物粉末、メチルセルロース等のバインダー、水等の溶媒)から成る空気極形成用スラリーを塗布し、大気条件下、適当な温度域(例えば1300〜1500℃)で焼成することにより、多孔質の膜状空気極を形成する。
次いで、固体電解質の他方の表面(空気極を形成していない表面)上に、適当な方法により、大気圧プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法等を用いて燃料極を形成する。例えば、プラズマによって溶融した原料粉体を固体電解質表面に吹き付けることにより上記サーメット材料から成る多孔質の膜状燃料極を形成する。
【0043】
さらに、上記固体電解質と同様の方法によって所定形状のインターコネクタを作製することができる。例えば、所定の材料(例えば平均粒径0.1μm〜10μm程度のランタンクロマイト酸化物粉末、メチルセルロース等のバインダー、水等の溶媒)から成る成形材料を用いて押出成形等によって成形された成形体を大気条件下で適当な温度域(例えば1300〜1600℃)で焼成し、所定形状(例えば板状または管状)のセパレータを作製する。
【0044】
そして、本発明に係る導電性接合材を使用して、上記作製したインターコネクタを固体電解質に接合することにより、本発明に係る酸素イオン伝導モジュールの一典型例であるSOFCの単セルおよびスタックを製造することができる。例えば、図1に模式的に示されるように、SOFCの典型例として、板状の固体電解質(すなわち酸素イオン伝導性セラミック材)12の一方の面に空気極14、他方の面に燃料極16が形成され、固体電解質12に接合部(接合材)20を介して接合されたインターコネクタ(すなわち接続部材)18A,18Bを備えた燃料電池(SOFC)10を提供することができる。なお、空気極14と空気極側セパレータ18Aとの間には酸素供給ガス(典型的には空気)流路2が形成され、燃料極16と燃料極側インターコネクタ18Bとの間には燃料ガス(水素供給ガス)流路4が形成される。
なお、ここで開示されるSOFCは、SOFCを構成する単セル(例えば予め固体電解質と接合された状態のインターコネクタを含む形態の単セル構成ユニット)、あるいはSOFCを構成する単セル(典型的にはインターコネクタを含まない構成の単セル)と該単セルを構成する固体電解質と接合した状態のインターコネクタとをそれぞれ複数積層した形態のSOFCスタックを包含し得る。
【0045】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。以下の実施例は、本発明によって提供される接合材の性能評価を主な目的とするため、実際のSOFCに代えて固体電解質とセパレータに相当する部材とから成る供試体を作製した。
【0046】
<YSZ固体電解質の作製>
3〜8mol%Y安定化ジルコニア粉末(平均粒径:約1μm)に一般的なバインダー(ここではポリビニルアルコール(PVA)を使用した。)、および溶媒(ここでは水)を添加して混練した。次いで、この混練物を用いてプレス成形を行い、縦30mm×横30mm×厚み3mm程度の板形状の成形体を得た。そして、この成形体を大気中において1400〜1600℃(ここでは最高焼成温度:約1400℃)で焼成した。焼成後、焼成物の表面を研磨し、所望の外形寸法(縦30mm×横30mm×厚み1mm)のYSZから成る薄板状固体電解質32(図2)を作製した。
【0047】
<インターコネクタ相当部材の作製>
La0.8Ca0.2CrO粉末(平均粒径:約1μm)に一般的なバインダー(ここではポリビニルアルコール(PVA)を使用した。)、および溶媒(ここでは水)を添加して混練した。次いで、この混練物を用いてプレス成形を行い、縦30mm×横30mm×厚み3mm程度の板形状の成形体を得た。そして、この成形体を大気中において1400〜1600℃(ここでは最高焼成温度:約1400℃)で焼成した。焼成後、焼成物の表面を研磨し、所望の外形寸法(縦30mm×横30mm×厚み1mm)のランタンカルシアクロマイトから成る薄板状部材38(図2)を作製した。
【0048】
<ペースト状導電性接合材の作製>
平均粒径が約1〜10μmであるSiO粉末、Al粉末、NaCO粉末、KCO粉末、MgCO粉末、CaCO粉末を、それぞれ以下の配合比、すなわち酸化物換算でSiO;60〜75質量%、Al;10〜20質量%、NaO;3〜10質量%、K;5〜15質量%、MgO;0〜3質量%;、CaO;0〜3質量%で混合し、構成成分(a)の結晶含有ガラスの原料粉末を調製した。
次いで、原料粉末を1000〜1500℃の温度域(ここでは1450℃)で溶融してガラスを形成した。その後、ガラスを粉砕し、800〜1000℃の温度域(ここでは850℃)で30分〜60分間の結晶化熱処理を行った。これにより、ガラスマトリックス中に分散するようにクリストバライト結晶および/またはリューサイトの結晶が析出した。その後、得られた結晶含有ガラスを粉砕し、分級を行って、平均粒径約2μmの粉末状の結晶含有ガラスを得た。
【0049】
次に、金属酸化物としてCuO(和光純薬工業株式会社製)およびCoO(和光純薬工業株式会社製)を用意し、以下の表1に示されるような含有率で該金属酸化物を配合し、合計10種類のサンプル(サンプル1〜10)を作製した。また、市販の耐熱ガラス(コーニング社製耐熱ガラス(登録商標:PYREX)以下、「パイレックスガラス」という。)を用意し、かかるパイレックスガラスに上記CuOおよびCoOを表1に示される含有率でそれぞれ配合し、2種類のサンプル(サンプル12および13)を作製した。さらに、比較のために上記金属化合物を含まない上記結晶含有ガラスから成るサンプル(サンプル11)を用意した。なお、表1における「含有率」とは、接合材に含まれる導電性物質の含有率であって、導電性接合材を構成する原料粉末の総量に対する金属酸化物換算での含有率(すなわち金属酸化物としての含有率)を示す(すなわち、かかる総量に対するCuO(またはCoO)の質量比[%]である。)
【0050】
次いで、上記サンプル1〜13において、各サンプル40質量部に対して、一般的なバインダー(ここではエチルセルロースを使用した。)3質量部と、溶剤(ここではターピネオールを使用した。)47質量部とを混合し、表1のサンプル1〜13に対応する計13種類のペースト状接合材を作製した。
【0051】
<接合処理>
上記13種類のペーストをそれぞれ接合材として用いて接合処理を行った。具体的には、図2に示すように、上記作製した薄板状固体電解質32と同形の薄板状セパレータ相当部材38の対向する二つの側方部に上記ペースト状接合材40を塗布して張り合わせた。そして80℃で乾燥後、大気中で1000〜1100℃の温度域(ここでは1050℃)で1時間焼成した。
結果、何れのサンプルのペーストを用いた場合も当該接合材の流出を生じることなく焼成が完了し、張り合わされた両部材32,38間の対向する一対の側方部に接合部40が形成された供試体(接合体)30を得た(図2)。
ここで、上記サンプル1〜11については、室温冷却後に接合部40の溶出は認められなかった。
ここで、サンプル1〜10のペーストを使用して得られる接合部の熱膨張係数(ただし、示差膨張方式(TMA)に基づく室温(25℃)〜450℃の間の平均値))は、いずれも9×10−6/K〜14×10−6/Kの範囲内であった。なお、ここで使用したYSZ固体電解質の同条件での熱膨張係数は10.2×10−6/Kであった。また、ここで使用した上記ランタンカルシアクロマイトから成る薄板状インターコネクタ相当部材の同条件での熱膨張係数は9.7×10−6/Kであった。
【0052】
<ガスリーク試験>
次に、上記構築した計13種類(サンプル1〜13)の供試体(接合体)30について、接合部40からのガスリークの有無を確認するリーク試験を行った。具体的には、供試体(接合体)30の接合部40が形成されていない開口部にエポキシ樹脂でガス配管(図示せず)を封着した。そして当該ガス配管から供試体30の両部材32,38間の中空部35に空気を0.2MPa加圧した条件で供給し、その状態で供試体30を水中に沈め、水中でバブル発生の有無を目視で調べた。
この結果、ガラス成分としての結晶含有ガラスと導電性物質から構成されるサンプル1〜10、および結晶含有ガラスのみから成るサンプル11については、ガス(空気)のリークは全く観察されなかった。他方、ガラス成分としてパイレックスガラスを含有するサンプル12および13については、接合部40表面からのバブル発生、すなわち、ガス(空気)のリークが認められた。
【0053】
<導電率測定>
次に、粉末状の上記サンプル1〜13をそれぞれ直径3mm×高さ20mmの円柱状にプレス成形し、これらを900℃〜1100℃で焼成して各サンプル1〜13に対応する焼成体を13種類作製した。まず、上記サンプル1の表面に電極となる白金ペーストを塗布した後、該電極部分に電流端子および電圧端子を接続するための白金線を取り付けて850〜1100℃で10〜60分間焼き付け、任意の温度に調整可能な装置内で、直流四端子法で導電率[S/cm]を求めた。サンプル2〜13における導電率についても、上記と同様にして求めた。一定の温度条件(900℃)下における導電率の測定結果を表1に示す。
この結果、導電性物質が含まれるサンプル1〜10およびサンプル12、13は、いずれも導電性が認められた。また、サンプル1〜10については、酸化銅または酸化コバルトの含有率が大きくなるにつれて導電率も上昇することが確認された。この結果より、導電性物質の含有率が低い導電性接合材を用いる場合には、導電率の大きさに応じて接合部40の厚みを任意に変更し、セルの発電抵抗に悪影響を及ぼさない程度に導電率を調整することにより、好適に使用することができる。
【0054】
【表1】

【0055】
上述のように、本実施例によると、ジルコニア系固体電解質とランタンクロマイト系酸化物から成るインターコネクタとを、ガスリークを生じさせることのない十分な気密性を確保しつつ接合する(すなわち接合部を形成する)とともに、該接合部に導電性を与えることができる。このため、機械的強度および気密性に優れ、また上記接合部がインターコネクタの一部として作用し得る良好な導電性を有する好適なSOFC(単セル、スタック)を提供することができる。
【符号の説明】
【0056】
2 酸素供給ガス流路
4 燃料ガス流路
10 SOFC
12 固体電解質
14 空気極
16 燃料極
18A,18B セパレータ
20 接合材(接合部)
30 接合体(供試体)
32 固体電解質
35 中空部
38 セパレータ相当部材
40 接合材(接合部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性を有するセラミック材を備える酸素イオン伝導モジュールであって、
前記酸素イオン伝導性セラミック材は、少なくとも一つのセラミック製接続部材に接合しており、
前記酸素イオン伝導性セラミック材と前記接続部材との接合部は、以下の二つの成分:
(a).クリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶がガラスマトリックス中に析出していることを特徴とするガラス;および
(b).少なくとも一種の金属元素を有する導電性物質;
が混在して形成されている、酸素イオン伝導モジュール。
【請求項2】
前記接合部に混在するガラスは、
酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 60〜75質量%;
Al 10〜20質量%;
NaO 3〜10質量%;
O 5〜15質量%;
MgO 0〜 3質量%;
CaO 0〜 3質量%;
から実質的に構成されている、請求項1に記載の酸素イオン伝導モジュール。
【請求項3】
前記導電性物質は、Cu、Co、Fe、Ni、Cr、Ir、Sn、およびNbからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む化合物である、請求項1または2に記載の酸素イオン伝導モジュール。
【請求項4】
前記接合部の900℃の温度条件下での導電率が0.01S/cm〜1.5S/cmである、請求項1〜3のいずれかに記載の酸素イオン伝導モジュール。
【請求項5】
前記接合部の熱膨張係数が9×10−6/K〜14×10−6/Kである、請求項1〜4のいずれかに記載の酸素イオン伝導モジュール。
【請求項6】
酸素イオン伝導モジュールを構成する酸素イオン伝導性セラミック材と少なくとも一つのセラミック製接続部材とを接合するための導電性接合材であって、以下の二つの成分:
(a).酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 60〜75質量%;
Al 10〜20質量%;
NaO 3〜10質量%;
O 5〜15質量%;
MgO 0〜 3質量%;
CaO 0〜 3質量%;
から実質的に構成されたガラスであって該ガラスのマトリックス中にクリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶が析出しているガラス;および
(b).少なくとも一種の金属元素を有する導電性物質
が混在して形成されている、導電性接合材。
【請求項7】
前記導電性物質は、Cu、Co、Fe、Ni、Cr、Ir、Sn、およびNbからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む化合物である、請求項6に記載の導電性接合材。
【請求項8】
前記導電性物質は、CuまたはCoを金属元素として含む化合物である、請求項7に記載の導電性接合材。
【請求項9】
前記導電性物質の含有率は、前記金属元素の酸化物換算で、導電性接合材の総量を100質量%として10質量%〜90質量%である、請求項6〜8のいずれかに記載の導電性接合材。
【請求項10】
酸素イオン伝導モジュールを構成する酸素イオン伝導性セラミック材と少なくとも一つのセラミック製接続部材とを接合する方法であって、
請求項6〜9のいずれかに記載の導電性接合材を用意し、該接合材を前記酸素イオン伝導性セラミック材と前記接続部材との接続部分に塗布すること、
前記塗布された導電性接合材を、1000℃以上の温度域で焼成することによって、前記酸素イオン伝導性セラミック材と前記接続部材との前記接続部分において該導電性接合材から成るガス流通を遮断する接合部を形成すること、
を包含する、方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載の酸素イオン伝導モジュールであって、
前記酸素イオン伝導性セラミック材は、ジルコニア系固体電解質であり、
前記セラミック製接続部材は、ペロブスカイト型酸化物から成るインターコネクタであり、
前記酸素イオン伝導性セラミック材と前記接続部材とを接合する導電性接合材は、前記インターコネクタとして作用することを特徴とする、固体酸化物形燃料電池として機能する酸素イオン伝導モジュール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−159175(P2010−159175A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1678(P2009−1678)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】