説明

酸素ガス検出素子、及び酸素ガス検出素子用ナノワイヤ

【課題】室温において電気伝導特性変化により吸着酸素ガス分子を検知できる装置を提供する。
【解決手段】Cuコアと、このCuコアを被覆するようにして形成された炭素被覆層とを含むナノワイヤを具え、このナノワイヤが室温において酸素ガスに対して脱吸着作用を呈し、前記酸素ガスの前記脱吸着作用を通じて前記酸素ガスを検出するようにして、酸素ガス検出素子を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅アセチリドのナノ構造体を活用した酸素ガス分子の吸着を電気伝導特性として感知するセンサー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸素ガスを検出するセンサーは、多種多様な動作原理および動作環境のものが提案されている(例えば、R. Ramamoorthy et al. Journal of Materials Science vol.38 year 2003 pages 4271-4282)。酸素ガス分子の検出を電気伝導特性(抵抗率)で感知するものが、装置の簡便さとしては有利であるが、分子が吸脱着・化学反応を起こすには、かなりの高温を必要とする。一方、室温で動作可能なセンサーとしては、水中の溶解ガスを電気分解により感知するものと、発光分子の失効過程を利用するものが挙げられるが、どちらも装置が大掛かりとなってしまう欠点をもつため簡便な実用に対しては問題を有する。
【非特許文献1】R. Ramamoorthy et al. Journal of Materials Science vol.38 year 2003 pages 4271-4282
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、室温において電気伝導特性変化により吸着酸素ガス分子を検知できる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成すべく、本発明は、
Cuコアと、このCuコアを被覆するようにして形成された炭素被覆層とを含むナノワイヤを具え、
室温において酸素ガスに対して脱吸着作用を呈し、前記酸素ガスの前記脱吸着作用を通じて前記酸素ガスを検出するように構成したことを特徴とする、酸素ガス検出素子に関する。
【0005】
また、本発明は、
Cuコアと、このCuコアを被覆するようにして形成された炭素被覆層とを含むナノワイヤを具えることを特徴とする、酸素ガス検出素子用ナノワイヤに関する。
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を実施した。その結果、銅アセチリド分子を自己組織化によりナノワイヤへと結晶成長させる方法を見出し、この銅アセチリドナノワイヤを出発物質として熱処理により炭素層被覆銅ナノワイヤ(ナノケーブル)に変換することに成功していた。そして、熱処理後の炭素層被覆銅ナノワイヤを含む銅と炭素の混合物の電気伝導特性を測定したところ、酸素分子の吸脱着により抵抗値が変化することを発見した。また、分子の吸脱着は室温で可逆的進行することを見出した。
【0007】
したがって、上述のような炭素層被覆銅ナノワイヤの上記室温での脱吸着反応を利用することによって、上記ナノワイヤを室温において酸素ガスを検出するセンサー装置として利用可能であることを見出し、本発明をするに至った。
【0008】
なお、本発明における「室温」とは、広義には酸素の脱吸着に対して特に従来のような加熱操作を行わないことを意味し、特には上記酸素ガス検出素子の使用環境におけるその環境温度を意味するものである。
【0009】
銅と炭素複合材料との混合物である上記ナノワイヤによれば、室温において様々な分子の吸脱着を進行させることができる。一般に室温などで容易に吸脱着できるのは、物理吸着過程による分子の吸着であり、物理吸着過程では、分子と吸着体との相互作用が小さく、電気伝導特性が大きく変化することは、ほとんど観測されない。
【0010】
しかしながら、本発明の上記ナノワイヤでは、ナノ構造物の特異な吸着構造のため、物理吸着のような弱い酸素分子吸着状態においても、ナノ構造物から酸素分子への可逆的な電子移動、即ち構造体へのホール注入を起こすことにより大きく電気伝導度が上昇する。この事は、熱起電力計測結果からも確認された。ゆえに、本発明において、室温でも動作可能な酸素ガスセンサーを得ることができた。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、室温において電気伝導特性変化により吸着酸素ガス分子を検知できる装置、いわゆる酸素ガス検出素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のその他の特徴及び利点について、発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0013】
(ナノワイヤ)
本発明の酸素ガス検出素子は、Cuコアと、このCuコアを被覆するようにして形成された炭素被覆層とを含むナノワイヤを基本的な構成要素として含む。このナノワイヤは、その直径が5nm〜10nmであることが好ましい。前記ナノワイヤがこのような微細な大きさを有することによって、前記ナノワイヤが室温において酸素ガス(分子)をより多く物理的に吸着することができるとともに、その結果、酸素分子との物理的吸着を通じて酸素分子への電子移動及びナノワイヤへのホール注入を良好に行うことができるようになる。したがって、前記ナノワイヤは酸素ガス検出素子としてより効果的に機能するようになる。
【0014】
また、同様の観点から、前記ナノワイヤの長さは0.1μm〜1μmであることが好ましい。
【0015】
なお、上記構成及び大きさのナノワイヤは、以下に詳述するような製造方法に起因して必然的に得ることができる。
【0016】
(ナノワイヤの製造)
次に、上記ナノワイヤの製造方法について説明する。最初に塩化銅(I)(CuCl)を準備し、反応容器中に入れたアンモニア水中に溶解させる。その後、必要に応じて前記アンモニア水中に溶解している酸素分子及び前記反応容器中の空気を追い出すために、希ガス、例えばアルゴンガスなどを用いてバブリングする。このバブリングに要する時間は前記容器の体積などに依存するが、通常は数十分のオーダである。
【0017】
次いで、前記アンモニア水に対して希ガス、例えばアルゴンガスなどで所定濃度に希釈したアセチレンガスを接触させ、前記塩化銅(I)と反応させる。このような反応を通じて、水溶液中のCuイオンを元に以下の反応式で示すようなCCuなる組成を有し、その全体に亘って均一な組成を有するナノワイヤ中間体が自己組織的に形成される。
2Cu+C→CCu(ナノワイヤ中間体)+2H
【0018】
なお、アセチレンガスの希釈度合いは、例えばアセチレンガスが数%のオーダとなるようにする。また、アセチレンガスの接触時間(反応時間)は、数時間のオーダである。
【0019】
また、前記アセチレンガスは前記アンモニア水に対して0.3ml/分以下の割合で接触させる。アセチレンガスの量が0.3ml/分よりも大きいと、前記アセチレンガスの接触によって得るナノワイヤ中間体の結晶性が低下し、例えばアモルファス化する。したがって、目的とする、Cuコアと、このCuコアを被覆するようにして形成された炭素被覆層とを含むナノワイヤを得ることができない場合がある。但し、アセチレンガスの量の下限は0.01ml/分とする。これよりもアセチレンガスの量が少ないと上記ナノワイヤ中間体を自己組織的に得ることができない場合がある。
【0020】
次いで、上述のようのようにして得たナノワイヤ中間体を非酸化性雰囲気下に配置し、所定温度に加熱してアニール処理を施す。この際、均一な組成のナノワイヤ中間体は、それを構成するCCuがC(炭素)とCu(銅)とに分離し、Cuをコア層としてその外表面に炭素層が被覆してなる、本発明の構成のナノワイヤが得られる。
【0021】
なお、上記非酸化性雰囲気としては、希ガス雰囲気や減圧雰囲気などの酸素成分が前記ナノワイヤの作製に影響を与えないような条件が選ばれる。特に、減圧雰囲気の場合、その圧力は1mTorr以下とすることが好ましい。また、前記アニール処理は50℃以上、好ましくは80℃程度で行うことが好ましい。さらに、前記アニール処理は2段階で行うことができ、例えば最初に50−70℃程度で前段階加熱した後、80℃付近の温度で加熱処理を行うようにすることができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0023】
最初に、200mlのセパラブルフラスコに5%アンモニア水100mlを採り、塩化銅(I)1.0gを加え、溶解させた。次いで、前記フラスコ内の空気およびアンモニア水に溶けている酸素分子を追い出すため、前記フラスコ内にアルゴンガスを投入し、30分間、バブリングした。次いで、攪拌しているフラスコ内にアルゴンにより希釈した1%のアセチレンガスを水溶液上方から前記フラスコ内のアルゴンを介して間接的に溶液と反応させた。この際、アセチレンガスはアルゴンで希釈した状態で5〜30ml/分の流量で3時間反応させた。この反応により、得られた反応溶液は銅アンミン錯体の青色から茶褐色に変化し沈殿が生じた。
【0024】
次いで、前記沈殿物を濾過により溶液から分離して試験内に採り、減圧及び脱水処理を実施した。次いで、前記沈殿物をSEM及びTEMで観察したところ、長さ約1μm、直径5−10nmのナノワイヤ(中間体)であることが判明した。また、前記ナノワイヤ(中間体)をXRDによって調べたところ、CCuなる結晶構造を呈することが判明した。
【0025】
次いで、真空下電気炉あるいは所定の容器中に溶媒分散した浴を準備し、前記電気炉あるいは前記浴中において、前記ナノワイヤ中間体を50℃から70℃程度で前段階加熱した後、80℃付近の温度で加熱処理を行なった。この加熱処理により、前記ナノワイヤでは、銅元素と炭素元素への分離が進行し、銅ナノワイヤ(直径2nm)を炭素層で被覆した銅ナノワイヤを形成した。なお、このナノワイヤの構成についてもTEMによって確認した。
【0026】
次いで、前記銅ナノワイヤを以下に示す評価に供するために、ハンドプレス等によりタブレット状に加圧成型した。
【0027】
図1は、上述のようにして得た銅ナノワイヤの電気伝導変化のグラフである。図1から明らかなように、成型したタブレットを窒素雰囲気下に存在させると低い電気伝導度(高抵抗)を示し、酸素ガスに暴露すると高い電気伝導度(低抵抗)を示した。この変化は、 繰り返し測定可能であり、酸素分子が室温において吸脱着していることが判明した。
【0028】
図2は、上述のようにして得た銅ナノワイヤを窒素ガス100%、1気圧の環境から窒素ガス0.5気圧、酸素ガス0.5気圧(酸素50%)の状態に変化させたときの電流量の変化を示すグラフである。なお、印加電圧は1Vとした。図2から明らかなように、酸素ガスの吸着が進むにつれ、電流値が増大し、前記銅ナノワイヤに対して酸素分子が吸着することが分かる。但し、応答時間が若干長いが、これはタブレットが0.2 mm程度の厚みを持つために、酸素吸着が飽和するまでに多少の時間を要するためであると考えられる。
【0029】
上記応答時間を短縮化するためには、銅ナノワイヤを櫛形電極等に厚さ数μmの薄膜として密着させれば、応答時間の大幅な短縮が期待される。しかし、現状のタブレット状においても、初期の数分間の電流値変化の勾配から、飽和状態を予測することが可能であり、十分な実用速度を持っていると言える。さらに、この飽和状態では、酸素分子の吸脱着が化学反応的に平衡状態になっているとみられ、飽和・平衡状態での電気伝導特性を求めることができる。
【0030】
図3は、上記銅ナノワイヤにおいて、全圧が1気圧の条件で酸素の分圧を0%から100%まで変化させた場合の電流量の変化を示すグラフである。なお、この場合の印加電圧も1Vとしている。電流量の変化は、Langmuirの吸着等温式を用いて説明することができ、図3より酸素濃度を決定する検量線として利用可能である。また、Langmuirの吸着等温式の特性として、低濃度において大きく吸着量が変化する。さらに、酸素ガスの存在により最大10倍程度も電流値が変化するため、前記銅ナノワイヤは、低濃度域での超高感度な酸素センサーとして機能することが判明した。
【0031】
一方、上記の電気伝導性の変化は、窒素ガス・アルゴンガスでは全く観測されなかった。
以上、具体例を挙げながら発明の実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明してきたが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の銅ナノワイヤの電気伝導変化を示すグラフである。
【図2】本発明の銅ナノワイヤを窒素ガス100%、1気圧の環境から窒素ガス0.5気圧、酸素ガス0.5気圧(酸素50%)の状態に変化させたときの電流量の変化を示すグラフである。
【図3】本発明の銅ナノワイヤを、全圧が1気圧の条件で酸素の分圧を0%から100%まで変化させた場合の電流量の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuコアと、このCuコアを被覆するようにして形成された炭素被覆層とを含むナノワイヤを具え、
室温において酸素ガスに対して脱吸着作用を呈し、前記酸素ガスの前記脱吸着作用を通じて前記酸素ガスを検出するように構成したことを特徴とする、酸素ガス検出素子。
【請求項2】
前記ナノワイヤの直径が5nm〜10nmであることを特徴とする、請求項1に記載の酸素ガス検出素子。
【請求項3】
前記ナノワイヤの長さが0.1μm〜1μmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸素ガス検出素子。
【請求項4】
前記酸素ガスの検出は、前記酸素ガスの前記脱吸着作用を通じた電気伝導特性の変化として検出することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の酸素ガス検出素子。
【請求項5】
前記ナノワイヤは、水溶液中のCuイオンを原料とし、この原料に対してアセチレンガスを接触させて結晶性のナノワイヤ中間体を自己組織的に形成する工程と、前記ナノワイヤ中間体をアニール処理する工程とを経て作製したことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の酸素ガス検出素子。
【請求項6】
前記アセチレンガスは、前記原料に対して0.3ml/分以下の割合で接触させることを特徴とする、請求項5に記載の酸素ガス検出素子。
【請求項7】
前記アニール処理は、非酸化性雰囲気下、50℃以上の温度で実施することを特徴とする、請求項5又は6に記載の酸素ガス検出素子。
【請求項8】
Cuコアと、このCuコアを被覆するようにして形成された炭素被覆層とを含むナノワイヤを具えることを特徴とする、酸素ガス検出素子用ナノワイヤ。
【請求項9】
前記ナノワイヤの直径が5nm〜10nmであることを特徴とする、請求項8に記載の酸素ガス検出素子用ナノワイヤ。
【請求項10】
前記ナノワイヤの長さが0.1μm〜1μmであることを特徴とする、請求項8又は9に記載の酸素ガス検出素子用ナノワイヤ。
【請求項11】
前記ナノワイヤは、水溶液中のCuイオンを原料とし、この原料に対してアセチレンガスを接触させて結晶性のナノワイヤ中間体を自己組織的に形成する工程と、前記ナノワイヤ中間体をアニール処理する工程とを経て作製したことを特徴とする、請求項8〜10のいずれか一に記載の酸素ガス検出素子用ナノワイヤ。
【請求項12】
前記アセチレンガスは、前記原料に対して0.3ml/分以下の割合で接触させることを特徴とする、請求項11に記載の酸素ガス検出素子用ナノワイヤ。
【請求項13】
前記アニール処理は、非酸化性雰囲気下、50℃以上の温度で実施することを特徴とする、請求項11又は12に記載の酸素ガス検出素子用ナノワイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−209249(P2008−209249A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46461(P2007−46461)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年10月10日 http://www3.interscience.wiley.com/cgi−bin/jissue/113445847を通じて発表 〔刊行物等〕 平成18年11月3日 WILEY−VCH GmbH & Co.発行の「Advanced Materials」 18巻21号に発表
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】