酸素センサの故障診断装置
【課題】誤判定を防止して診断精度を向上する。
【解決手段】内燃機関の排気通路に配置された酸素センサから出力される負電圧に基づいて酸素センサの故障を診断する装置において、酸素センサの検出素子における排気極の被毒の有無を検出し、排気極の被毒が無いことが検出されていることを条件に酸素センサの故障診断を実行する。
【解決手段】内燃機関の排気通路に配置された酸素センサから出力される負電圧に基づいて酸素センサの故障を診断する装置において、酸素センサの検出素子における排気極の被毒の有無を検出し、排気極の被毒が無いことが検出されていることを条件に酸素センサの故障診断を実行する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸素センサの故障診断装置に係り、特に、内燃機関の排気通路に設けられ、排気ガスの酸素濃度に応じた起電力を発生する酸素センサの故障診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空燃比フィードバック制御等のため、内燃機関の排気通路には、排気ガスの酸素濃度に基づき空燃比を検出する酸素センサが設けられている。酸素センサは、排気通路内に配置された筒形の検出素子を備え、検出素子は、内外の表面に電極が形成された固体電解質により形成される。外表面側の電極が排気通路内に臨まされる排気極とされ、内表面側の電極が、検出素子内部の大気室内に臨まされる大気極とされる。酸素センサは、これら電極の雰囲気ガスの酸素分圧の差に応じて起電力を発生し、具体的には、排気ガスの酸素濃度が少なくなるほど(つまり排気ガスの空燃比がリッチであるほど)大きな起電力を発生する。
【0003】
この酸素センサにおいて、検出素子の欠損が生じて検出素子の内外が連通すると、検出素子外部の排気ガスがその内部に侵入し、その内外の酸素分圧の差が無くなってセンサは起電力を発生しなくなる。そしてさらに、検出素子内部に排気ガスが侵入した状態で検出素子外部により酸素濃度の高い(空燃比リーンの)排気ガスが存在すると、酸素センサにおいて逆方向の起電力が発生する。従って、この逆起電力に対応した酸素センサの負(マイナス)の出力電圧を検出することで、酸素センサの検出素子の欠損、即ち酸素センサの故障を検出することができる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−121463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、酸素センサが上記のように欠損故障しておらず、正常な場合であっても、排気極が排ガス中の被毒物質により被毒すると、酸素センサから負の出力電圧が発生することがある。従ってこの場合にも酸素センサの故障と判断してしまうことは誤判定となり、故障診断の精度を落としめる結果となる。
【0006】
そこで、本発明はかかる実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、誤判定を防止して診断精度を向上することができる酸素センサの故障診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態によれば、
内燃機関の排気通路に配置された酸素センサから出力される負電圧に基づいて前記酸素センサの故障を診断する装置において、
前記酸素センサの検出素子における排気極の被毒の有無を検出する被毒検出手段を設け、該被毒検出手段により前記排気極の被毒が無いことが検出されていることを条件に前記酸素センサの故障診断を実行する
ことを特徴とする酸素センサの故障診断装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、誤判定を防止して診断精度を向上することができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る内燃機関の排気ガス浄化システムを示す図である。
【図2】酸素センサの取付状態を示す部分断面図である。
【図3】酸素センサの検出素子周辺の拡大断面図である。
【図4】酸素センサの出力特性を示すグラフである。
【図5】酸素センサの検出素子に欠損部が生じた場合の拡大断面図である。
【図6】酸素センサの故障時における出力電圧の変化を示すグラフである。
【図7】正常な酸素センサの暖機過程における出力電圧の変化を示すグラフである。
【図8】素子温度と負電圧レベルとの関係を示すグラフである。
【図9】故障診断処理のメインルーチンのフローチャートである。
【図10】被毒側燃料性状係数の算出マップである。
【図11】脱離側燃料性状係数の算出マップである。
【図12】残存被毒量算出のためのサブルーチンのフローチャートである。
【図13】被毒側素子温係数の算出マップである。
【図14】脱離側素子温係数の算出マップである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0011】
本発明が適用される車両用内燃機関の排気ガス浄化システムの構成を、図1を参照して説明する。火花点火式内燃機関、具体的にはガソリンエンジン10の吸気通路11には、その通路面積を調節するスロットルバルブ15(本実施形態では電子制御式)が設けられ、その開度制御によりエアクリーナ14を通じて吸入される空気の量が調整される。ここで吸入された空気の量(吸入空気量)は、エアフローメータ16により検出されている。そして吸気通路11に吸入された空気は、スロットルバルブ15下流に設けられたインジェクタ17より噴射された燃料と混合された後、燃焼室12に送られて、そこで燃焼される。
【0012】
一方、燃焼室12での燃焼により生じた排気ガスが送られる排気通路13には、排気ガス中の有害成分を浄化する三元触媒18が設けられ、その上流側には触媒前酸素センサ19、その下流側には触媒後酸素センサ20がそれぞれ設けられている。
【0013】
三元触媒18は、燃焼される混合気の空燃比が理論空燃比(ストイキ)近傍の狭い範囲(ウインドウ)でのみ、排気ガス中の主要有害成分(HC、CO、NOx)のすべてを効率的に浄化する。そうした三元触媒18を有効に機能させるには、混合気の空燃比を上記ウインドウの中心に合わせこむ、厳密なコントロールが必要となる。
【0014】
こうした空燃比の制御は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)22により行われる。ECU22には、上記エアフローメータ16や酸素センサ19,20、あるいはアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサ21、機関回転速度を検出するNEセンサ23、外気温を検出する外気温センサ24を始めとする各種センサ類の検出信号が入力されている。そしてそれらセンサ類の検出信号より把握される内燃機関10や車両の運転状況に応じて、上記スロットルバルブ15やインジェクタ17等を駆動制御して、上記のような空燃比の制御を行っている。
【0015】
まずECU22は、上記アクセルペダルの踏み込み量や機関回転速度の検出結果に応じて把握される吸入空気量の要求量を求め、それに応じた吸入空気量が得られるようにスロットルバルブ15の開度を調整する。その一方、エアフローメータ16により検出される吸入空気量の実測値に対して、理論空燃比が得られるだけの燃料量を求め、それによりインジェクタ17からの燃料噴射量を調整する。これにより、燃焼室12で燃焼される混合気の空燃比を、ある程度理論空燃比に近づけることができる。ただし、それだけでは上記要求される高精度の空燃比制御には不十分である。
【0016】
そこでECU22は、上記各酸素センサ19,20の検出結果より把握される空燃比の実測値に基づいて、インジェクタ17からの燃料噴射量をフィードバック補正し、要求される空燃比制御の精度を確保している。
【0017】
以上のように、この排気ガス浄化システムでは、酸素センサ19,20の検出結果に応じて燃料噴射量をフィードバック補正する、いわゆる空燃比フィードバック制御を実施することで、混合気の空燃比を理論空燃比近傍に保持し、高い排気ガス浄化率を確保している。なお、この排気ガス浄化システムでは、上述のように2つの酸素センサ19,20によって空燃比フィードバック制御を実施することで、空燃比フィードバック制御の更なる高精度化を図っている。
【0018】
前記2つの酸素センサ19,20は互いに同様の構成であり、また故障診断の方法も同様である。そこで以下、触媒前酸素センサ19を例にとって説明し(以下、触媒前酸素センサ19を単に「酸素センサ19」と称す)、触媒後酸素センサ20については説明を省略する。
【0019】
図2及び図3に示すように、酸素センサ19は、排気通路13内に突出するように配設された筒型の検出素子31を備えている。検出素子31は、その内側に大気室34を画成する。大気室34は、センサ内に設けられた図示しない大気通路と、センサボディに形成された大気穴35とを通じて外部に連通され、大気(空気)が導出入可能となっている。検出素子31の外表面部は排気通路13内に露出され、センサカバー32を通じて流入する排気ガスに曝される。
【0020】
図3に示すように、検出素子31は、固体電解質37と、固体電解質37の内表面に形成され大気室34内に臨まされる一方の電極としての大気極38と、固体電解質37の外表面に形成され排気通路13内に臨まされる他方の電極としての排気極39とを備える。固体電解質37は、酸素がイオン化した状態でその内部を移動可能な固形物質であり、酸素センサ用としては例えばジルコニアなどが利用される。大気極38および排気極39は例えば白金Ptを含む。
【0021】
大気室34には、検出素子31を加熱して早期に活性化させるためのヒータ36が設けられ、ヒータ36はECU22によって通電制御される。また大気極38と排気極39はECU22、特にその電圧検出回路に接続され、大気極38と排気極39の間に発生した起電力をECU22により検出し得るようになっている。
【0022】
大気極38の雰囲気ガス(通常は空気)と排気極39の雰囲気ガス(通常は排気ガス)との間に酸素分圧の差が生じると、その分圧の差を縮小すべく、酸素分圧の高い側(通常は大気極38側)の酸素がイオン化して固体電解質37を通り、酸素分圧の低い側(通常は排気極39側)へと移動する。酸素分子はイオン化する過程で4価の電子を受け取り、イオン化した状態から分子に戻る過程で4価の電子を放出する。そのため、上記の酸素の移動に応じて両電極38,39間で電子の移動が生じ、その結果、両電極38,39間に起電力が発生する。
【0023】
こうして酸素センサ19は、大気と排気ガスとの酸素分圧の差に応じて起電力を発生し、より具体的には、排気ガスの酸素濃度が少なくなるほど(つまり検出素子31外部の排気ガスの空燃比がリッチであるほど)大きな起電力を発生する。ここで酸素イオンが内側の大気極38から外側の排気極39に向かうことから、電流の向きは逆となり、両電極に接続されたECU22に対しては内側の大気極38が正極、外側の排気極39が負極となる。
【0024】
ちなみに、酸素センサには他にも、板形状の検出素子を用いたものや、検出素子にジルコニア以外の素材を用いたものなど、様々なタイプの酸素センサがある。そしてその多くでは、上記例示したセンサと同様の検出原理により排気ガスの酸素分圧を検出する構成、すなわち基準ガス(大気)と排気ガスとを隔離するよう配設された検出素子が、基準ガスに対する排気ガスの酸素分圧の差に応じて起電力を発生する構成となっている。
【0025】
酸素センサ19の出力特性を図4に例示する。示されるように、酸素センサ19の出力電圧は理論空燃比A/Fs(例えば14.6)を境に過渡的に変化し、酸素センサ19に供給される排気ガスの空燃比A/Fが理論空燃比A/Fsよりもリーンな領域(A/F>A/Fs、以下リーン空燃比ともいう)では0.1V程度の小さい電圧を示し、理論空燃比A/Fsよりもリッチな領域(A/F<A/Fs、以下リッチ空燃比ともいう)では0.9V程度の比較的高い電圧を示す。ここでは、0.45Vのセンサ出力をリッチ・リーン判定閾値として、センサ19の検出結果が、理論空燃比よりもリッチかリーンかを判断している。なお、酸素センサ19の上記各領域でのセンサ出力電圧の大きさは、検出素子31の温度状態に応じて変化することがある。
【0026】
なお、本実施形態のように、理論空燃比での燃焼(ストイキ燃焼)のみを目的とした空燃比制御を行う内燃機関では、理論空燃比を境に出力電圧が過渡的に変化する特性の酸素センサが用いられることが多い。こうしたセンサは比較的低い分解能しか持たないものの、上記ストイキ燃焼のみを行うにはそれで十分なことが多い。一方、希薄空燃比での燃焼を行うなど、より広範囲の空燃比での燃焼を行う内燃機関では、排気ガスの空燃比に応じてその出力電圧が線形的に変化する特性の、より分解能の高い酸素センサが用いられることもある。本発明はこのような酸素センサに対しても適用可能である。
【0027】
ところで、長期使用による経年劣化等により、酸素センサ19の検出素子31にクラックが入ったり、検出素子31が割れたりするといった検出素子31の欠損が発生し、酸素センサ19が故障する場合がある。この欠損によるセンサ故障の場合、図5に示すように、検出素子31の欠損部Aを通じて検出素子31の内外が連通し、検出素子31外部の排気ガスがその内部に侵入する。そして検出素子31内部に排気ガスが侵入した状態で、検出素子31外部により酸素濃度の高い(空燃比リーンの)排気ガスが存在すると、酸素センサ19において逆方向の起電力が発生する。このことは例えば、センサ故障状態で空燃比をリッチからリーンに切り替えた場合や、フューエルカットが行われた場合などに起こり得る。この場合、大気極38の電位よりも排気極39の電位の方が高くなり、負(マイナス)の起電力ないし出力電圧が発生することになる。
【0028】
図6はかかる故障時の酸素センサ出力電圧の変化の一例を示す。円で囲った領域に示されるように、酸素センサ19からはしばしば負の電圧が出力されている。従ってこのような負の出力電圧をECU22により検知することで、酸素センサの欠損故障を検出することができる。
【0029】
しかしながら、前述したように、酸素センサ19が欠損故障しておらず、正常な場合であっても、排気極39が排ガス中の被毒物質、具体的にはリッチ成分(炭化水素HCや一酸化炭素COなど)により被毒すると(以下、これをリッチ被毒という)、酸素センサ19から負の出力電圧が発生することがある。従って、この場合にも酸素センサ19の故障と判断してしまうことは誤判定となり、故障診断の精度を落としめる結果となる。
【0030】
例えば、機関始動後の所定時間内には、回転安定化および暖機促進等のため、燃料噴射量を理論空燃比相当よりも増量し、空燃比をリッチ側に制御する場合がある。
【0031】
このような燃料増量制御が、酸素センサ19(特に排気極39)の未活性時に実施されると、排気極39がリッチな排ガスに曝され、排気極39がリッチ被毒する。
【0032】
すると、大気極38から固体電解質37を通って排気極39に移動してきた酸素イオンを、排気極39が十分に分子化(即ち電子を放出)できなくなり、排気極39に酸素イオンが集中する。
【0033】
この後酸素センサ19が活性化すると、排気極39に集中していた酸素イオンの分子化が急激に進行し、また、排気極39にフューエルカット等に基づくリーンガスが到達することもあるので、排気極39上には大量の酸素が存在するようになり、これに起因して排気極39と大気極38との酸素濃度差が逆転し、負の出力電圧が発生する。
【0034】
その後、排気極39からリッチ成分が脱離し、排気極39での酸素イオン集中が解消されれば、負電圧の発生もなくなる。
【0035】
図7には、正常な酸素センサの暖機過程において燃料増量制御が実施されたときの酸素センサ出力電圧の変化を実線で示す。なお図中、酸素センサの検出素子のインピーダンス(以下、「素子インピーダンス」ともいう)の変化を破線で併記した。素子インピーダンスは検出素子の温度(以下、「素子温度」ともいう)に相関する値であり、両者は、素子温度が高温になるほど素子インピーダンスが低くなるという関係にある。図から分かるように、素子温度は次第に上昇しており、酸素センサは未活性状態から活性状態に徐々に変化している。
【0036】
図中破線円内に示されるように、酸素センサ出力電圧が負になっている時間帯があり、これは、センサ活性化前に排気極39がリッチ被毒し、その影響がセンサ活性化後に現れたことによるものである。
【0037】
また、図8には、素子温度と、リッチ被毒による負電圧レベルとの関係を示す。白抜き三角は空燃比A/Fがストイキ(=14.6)且つ通常燃料使用時のデータ、黒塗り三角は空燃比がストイキ且つ重質燃料使用時のデータ、白抜き円は空燃比がストイキよりリッチ(=13)且つ通常燃料使用時のデータ、黒塗り円は空燃比がストイキよりリッチ且つ重質燃料使用時のデータである。
【0038】
図示するように、素子温度約250℃において、空燃比がリッチであるほど、また燃料が重質であるほど、被毒量ないし被毒度合いは大きくなり、酸素センサ19から出力される負電圧レベルは大きくなる傾向にある。これら負電圧レベルの差は、素子温度が上昇するにつれ少なくなり、素子温度約350℃では殆ど差が無くなる。これは素子温度上昇とともに排気極39からリッチ成分が脱離し、被毒が解消していくためである。
【0039】
そこで本実施形態では、かかるリッチ被毒に起因した負電圧に基づく誤判定を防止するため、排気極39の被毒の有無を検出する被毒検出手段を設け、この被毒検出手段により排気極39の被毒が無いことが検出されていることを条件に酸素センサ19の故障診断を実行することとしている。以下、これについて説明する。
【0040】
本実施形態では、排気極に堆積した被毒物質の量即ち被毒量と、排気極から脱離した被毒物質の量即ち脱離量とを推定し、これら推定被毒量と推定脱離量とに基づき、排気極39の被毒の有無を検出する。具体的には、推定被毒量から推定脱離量を減じてなる残存被毒量を算出し、この残存被毒量がゼロ以上であれば被毒有り、ゼロ未満であれば被毒無しと検出している。
【0041】
図9に、本実施形態の故障診断処理のメインルーチンのフローチャートを示す。図示するルーチンはECU22により所定の演算周期(例えば16msec)毎に繰り返し実行される。
【0042】
まずステップS101では、エンジンが始動されているか否かが判断される。始動されていないときはルーチンが終了され、他方、始動されているときはステップS102に進む。
【0043】
ステップS102では、前トリップでの残存被毒量ΔSR0の値がECU22の記憶装置(SRAM等)から取得されると共に、被毒側燃料性状係数Ksおよび脱離側燃料性状係数Krが図10および図11に示すような所定のマップ等からそれぞれ算出される。
【0044】
残存被毒量とは、現に排気極39に堆積もしくは残存している被毒物質の量のことである。トリップとは、内燃機関の1回の始動から停止までの期間のことであり、前トリップとは現トリップの1回前のトリップのことである。すなわち、前トリップでの残存被毒量ΔSR0とは、前トリップ終了時点で排気極39に堆積もしくは残存していた被毒物質の量のことであり、現トリップでは残存被毒量の初期値を意味する。
【0045】
被毒側燃料性状係数Ksおよび脱離側燃料性状係数Krとは、それぞれ、後述するサブルーチンにおいて被毒量および脱離量の推定に用いる係数であり、燃料性状を表すパラメータに基づいて算出される。ここで燃料性状を表すパラメータとは、例えばエンジン始動直後の所定時間内におけるエンジンの回転変動である。例えば通常燃料では回転変動は小さく、重質燃料では回転変動は大きくなるので、当該回転変動は燃料性状を表すパラメータとして用いることができる。
【0046】
図10から分かるように、被毒側燃料性状係数Ksは、回転変動が大きくなるほど大きくなる。これにより、後に理解されるが、回転変動が大きくなるほど(例えば燃料が重質であるほど)多い被毒量が算出される。逆に、図11から分かるように、脱離側燃料性状係数Krは、回転変動が大きくなるほど小さくなる。これにより、後に理解されるが、回転変動が大きくなるほど(例えば燃料が重質であるほど)少ない脱離量が算出される。
【0047】
次いで、ステップS103では、現時点での残存被毒量ΔSRの値が算出される。この算出は図12に示すサブルーチンで行われ、その詳細は後述する。
【0048】
その後、ステップS104では、脱離完了判定がなされる。すなわち、ステップS103で算出された残存被毒量ΔSRがゼロ以上であれば排気極39は被毒しており、排気極39からの被毒物質の脱離は完了していないと判定される。逆に、ステップS103で算出された残存被毒量ΔSRがゼロ未満であれば排気極39は被毒しておらず、排気極39からの被毒物質の脱離は完了したと判定される。このように、このステップS104を実行するECU22が被毒検出手段を構成する。
【0049】
ステップS104で脱離完了と判定されなかった場合、すなわち排気極39が被毒していると判定された場合、ステップS108に進んで、現時点での残存被毒量ΔSRの値が記憶装置に保存され、ルーチンが終了される。
【0050】
他方、ステップS104で脱離完了と判定された場合、すなわち排気極39の被毒が解消したと判定された場合、ステップS105以降に進んで、負電圧に基づく故障診断が実行される。
【0051】
まずステップS105では、故障診断を実行するための前提条件が成立しているかどうかが判断される。この前提条件が成立している場合とは、例えば、エンジンの暖機がある程度終了している場合、具体的には水温センサ(図示せず)により検出されたエンジン冷却水温が所定温度(例えば40℃)を超えている場合である。但しこの前提条件は任意に設定可能である。
【0052】
前提条件が成立していない場合、ステップS108に進んで現時点での残存被毒量ΔSRの値が記憶装置に保存され、ルーチンが終了される。他方、前提条件が成立している場合、ステップS106に進み、酸素センサ19からの負の出力電圧が検出されたか否かが判断される。
負の出力電圧が検出された場合、ステップS107に進んで、酸素センサ19が故障ないし異常と判定される。即ち、酸素センサ19の検出素子31にクラックや割れ等の欠損故障が生じていると判断される。その後ステップS108に進んで現時点での残存被毒量ΔSRの値が記憶装置に保存され、ルーチンが終了される。
【0053】
他方、負の出力電圧が検出されていない場合、直ちにセンサ正常とはせず、精度向上のため、ステップS109において、正常判定可能な条件(正常判定条件)が成立しているか否かが判断される。この正常判定条件とは、酸素センサ19が欠損故障している場合に必ず負電圧が発生するような条件であり、例えば、吸入空気量Gaが多い運転直後のフューエルカット時であることである。吸入空気量Gaが少ない場合は排ガス流量も少なく、検出素子31の欠損部Aから大気室34に排気ガスが十分流入しない可能性があり、また、大気室34に排気ガスが十分流入した状態でフューエルカットされると、検出素子31の外側が内側より酸素分圧が高くなり負電圧が発生するからである。
【0054】
正常判定条件が成立していないと判断された場合、正常判定されることなく、ステップS108に進んで残存被毒量ΔSRの保存がなされ、ルーチンが終了される。他方、正常判定条件が成立していると判断された場合、ステップS110にて酸素センサ19が正常と判定され、その後ステップS108で残存被毒量ΔSRの保存がなされ、ルーチンが終了される。
【0055】
次に、残存被毒量ΔSRの算出のためのサブルーチンを図12を参照して説明する。図示するルーチンもECU22により所定の演算周期(例えば16msec)毎に繰り返し実行される。
【0056】
まずステップS201では、酸素センサ19の素子温度が検出されると共に、この素子温度が第1所定値Xと比較される。
【0057】
すなわち、ECU22は、酸素センサ19の素子インピーダンスRを常時検出しており、この素子インピーダンスRを素子温度に換算する。第1所定値Xは、排気極39の被毒が生じ得る最大温度に設定され、本実施形態では図8の結果を考慮して350℃とされている。なおこの第1所定値Xは、通常、酸素センサ19の最小活性化温度(例えば300℃)より高い温度である。
【0058】
素子温度が第1所定値Xより低い場合、排気極39の被毒が生じ得るので、ステップS202〜S204にて被毒量が算出される。
【0059】
まずステップS202では、被毒側素子温係数Tsが図13に示すような所定のマップ等から算出される。被毒側素子温係数Tsとは、被毒量の算出に用いる係数であり、素子温度に基づいて算出される。図13から分かるように、被毒側素子温係数Tsは、素子温度が低いほど大きくなる。これにより、後に理解されるが、素子温度が低くなるほど多い被毒量が算出される。
【0060】
次いで、ステップS203では、現時点における空燃比AFと、燃料噴射量TAUとの値がそれぞれ取得される。空燃比AFは、エアフローメータ16により検出された吸入空気量Gaを燃料噴射量TAUで除して得られる。またECU22が燃料噴射量TAUを決定していることから、燃料噴射量TAU自体はECU22における内部値である。
【0061】
次いで、ステップS204において、被毒量の今回値Sと積算値TSが算出される。今回値Sとは、前回の演算時期と今回の演算時期との間に排気極に堆積したと推定される被毒物質の量をいい、積算値TSとは、積算開始時期(具体的にはエンジン始動後、図9のステップS103が最初に実行された時期)における残存被毒量ΔSR0すなわち初期値と、積算開始時期から現時点までの間に逐次的に積算された今回値ΣSとの合計値をいう。つまり積算値TSが、現時点における被毒量の推定値(推定被毒量)を表す。今回値Sと積算値TSは、それぞれ次式により算出される。
【0062】
【数1】
【0063】
【数2】
【0064】
これら式から分かるように、被毒量の推定値は、燃料性状を表すパラメータと、素子温度と、空燃比AFと、燃料噴射量TAUとに基づいて算出される。空燃比AFが理論空燃比(=14.6)よりリッチであるほど大きな今回値Sが得られる。なお、空燃比AFが理論空燃比よりリーンであったり、フューエルカットで燃料噴射量TAUがゼロとなったりした場合には、計算上ゼロ以下の今回値Sが得られるが、この場合には処理上今回値Sをゼロとして取り扱う。
【0065】
こうして被毒量の今回値Sと積算値TSが算出された後、ステップS205に進んで現時点での残存被毒量ΔSRが算出され、ルーチンが終了される。残存被毒量ΔSRは次式により算出される。
【0066】
【数3】
【0067】
ここでTRは、後述のステップS209で算出される脱離量の積算値である。
一方、ステップS201において検出素子温度が第1所定値X以上の場合、ステップS206に進んで検出素子温度が第2所定値Yと比較される。第2所定値Yは、排気極39の被毒物質の脱離が生じ得る最小温度に設定され、第1所定値X以上の値である。本実施形態では図8の結果を考慮して360℃とされている。本実施形態では、第1所定値Yと第2所定値Yとの間で被毒も脱離も生じないとみなして第2所定値Yを第1所定値Xより高い値に設定しているが、これらを等しい値に設定してもよい。
【0068】
ステップS206において、検出素子温度が第2所定値Y未満の場合には、ステップS205に進んで現時点での残存被毒量ΔSRが算出され、ルーチンが終了される。
【0069】
他方、ステップS206において、検出素子温度が第2所定値Y以上の場合には、排気極39からの被毒物質の脱離が生じ得るので、ステップS207〜S209にて脱離量が算出される。
【0070】
まずステップS207では、脱離側素子温係数Trが図14に示すような所定のマップから算出される。脱離側素子温係数Trとは、脱離量の算出に用いる係数であり、素子温度に基づいて算出される。図14から分かるように、脱離側素子温係数Trは、素子温度が高いほど大きくなる。これにより、後に理解されるが、素子温度が高くなるほど多い脱離量が算出される。
【0071】
次いで、ステップS208では、現時点における空燃比AFと、燃料噴射量TAUとの値がそれぞれ取得される。これら空燃比AFおよび燃料噴射量TAUについてはステップS203で説明したのと同様である。
【0072】
次いで、ステップS209において、脱離量の今回値Rと積算値TRが算出される。今回値Rとは、前回の演算時期と今回の演算時期との間に排気極から脱離したと推定される被毒物質の量をいい、積算値TRとは、積算開始時期(具体的には、このステップS209が最初に実行された時期)から現時点までの間に逐次的に積算された今回値ΣRをいう。つまり積算値TRが、現時点における脱離量の推定値(推定脱離量)を表す。今回値Rと積算値TRは、それぞれ次式により算出される。
【0073】
【数4】
【0074】
【数5】
【0075】
これら式から分かるように、脱離量の推定値も、被毒量の推定値同様、燃料性状を表すパラメータと、素子温度と、空燃比AFと、燃料噴射量TAUとに基づいて算出されることとなる。空燃比AFが理論空燃比(=14.6)よりリーンであるほど大きな今回値Rが得られる。なお前記同様、空燃比AFが理論空燃比よりリッチであったり、フューエルカットで燃料噴射量TAUがゼロとなったりした場合には、計算上ゼロ以下の今回値Rが得られるが、この場合には処理上今回値Rをゼロとして取り扱う。
【0076】
こうして脱離量の今回値Rと積算値TRが算出された後、ステップS205に進んで現時点での残存被毒量ΔSRが算出され、ルーチンが終了される。
【0077】
以上、本発明の実施形態を詳細に述べたが、本発明は他の実施形態を採ることも可能である。例えば、内燃機関の用途、形式、種類等は限定されず、内燃機関は車両用以外であってもよいし、ディーゼルエンジン等であってもよい。
【0078】
推定被毒量および推定脱離量は、上記以外のパラメータ、例えば排ガス量、排ガス温度、検出素子が排ガスに曝された時間等に基づいて算出してもよい。また、素子温度の代用値として、素子インピーダンス、ヒータ投入電力、排ガス温度等を用いてもよい。
【0079】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0080】
10 内燃機関
13 排気通路
19,20 酸素センサ
22 電子制御ユニット(ECU)
31 検出素子
34 大気室
38 大気極
39 排気極
【技術分野】
【0001】
本発明は酸素センサの故障診断装置に係り、特に、内燃機関の排気通路に設けられ、排気ガスの酸素濃度に応じた起電力を発生する酸素センサの故障診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空燃比フィードバック制御等のため、内燃機関の排気通路には、排気ガスの酸素濃度に基づき空燃比を検出する酸素センサが設けられている。酸素センサは、排気通路内に配置された筒形の検出素子を備え、検出素子は、内外の表面に電極が形成された固体電解質により形成される。外表面側の電極が排気通路内に臨まされる排気極とされ、内表面側の電極が、検出素子内部の大気室内に臨まされる大気極とされる。酸素センサは、これら電極の雰囲気ガスの酸素分圧の差に応じて起電力を発生し、具体的には、排気ガスの酸素濃度が少なくなるほど(つまり排気ガスの空燃比がリッチであるほど)大きな起電力を発生する。
【0003】
この酸素センサにおいて、検出素子の欠損が生じて検出素子の内外が連通すると、検出素子外部の排気ガスがその内部に侵入し、その内外の酸素分圧の差が無くなってセンサは起電力を発生しなくなる。そしてさらに、検出素子内部に排気ガスが侵入した状態で検出素子外部により酸素濃度の高い(空燃比リーンの)排気ガスが存在すると、酸素センサにおいて逆方向の起電力が発生する。従って、この逆起電力に対応した酸素センサの負(マイナス)の出力電圧を検出することで、酸素センサの検出素子の欠損、即ち酸素センサの故障を検出することができる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−121463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、酸素センサが上記のように欠損故障しておらず、正常な場合であっても、排気極が排ガス中の被毒物質により被毒すると、酸素センサから負の出力電圧が発生することがある。従ってこの場合にも酸素センサの故障と判断してしまうことは誤判定となり、故障診断の精度を落としめる結果となる。
【0006】
そこで、本発明はかかる実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、誤判定を防止して診断精度を向上することができる酸素センサの故障診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態によれば、
内燃機関の排気通路に配置された酸素センサから出力される負電圧に基づいて前記酸素センサの故障を診断する装置において、
前記酸素センサの検出素子における排気極の被毒の有無を検出する被毒検出手段を設け、該被毒検出手段により前記排気極の被毒が無いことが検出されていることを条件に前記酸素センサの故障診断を実行する
ことを特徴とする酸素センサの故障診断装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、誤判定を防止して診断精度を向上することができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る内燃機関の排気ガス浄化システムを示す図である。
【図2】酸素センサの取付状態を示す部分断面図である。
【図3】酸素センサの検出素子周辺の拡大断面図である。
【図4】酸素センサの出力特性を示すグラフである。
【図5】酸素センサの検出素子に欠損部が生じた場合の拡大断面図である。
【図6】酸素センサの故障時における出力電圧の変化を示すグラフである。
【図7】正常な酸素センサの暖機過程における出力電圧の変化を示すグラフである。
【図8】素子温度と負電圧レベルとの関係を示すグラフである。
【図9】故障診断処理のメインルーチンのフローチャートである。
【図10】被毒側燃料性状係数の算出マップである。
【図11】脱離側燃料性状係数の算出マップである。
【図12】残存被毒量算出のためのサブルーチンのフローチャートである。
【図13】被毒側素子温係数の算出マップである。
【図14】脱離側素子温係数の算出マップである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0011】
本発明が適用される車両用内燃機関の排気ガス浄化システムの構成を、図1を参照して説明する。火花点火式内燃機関、具体的にはガソリンエンジン10の吸気通路11には、その通路面積を調節するスロットルバルブ15(本実施形態では電子制御式)が設けられ、その開度制御によりエアクリーナ14を通じて吸入される空気の量が調整される。ここで吸入された空気の量(吸入空気量)は、エアフローメータ16により検出されている。そして吸気通路11に吸入された空気は、スロットルバルブ15下流に設けられたインジェクタ17より噴射された燃料と混合された後、燃焼室12に送られて、そこで燃焼される。
【0012】
一方、燃焼室12での燃焼により生じた排気ガスが送られる排気通路13には、排気ガス中の有害成分を浄化する三元触媒18が設けられ、その上流側には触媒前酸素センサ19、その下流側には触媒後酸素センサ20がそれぞれ設けられている。
【0013】
三元触媒18は、燃焼される混合気の空燃比が理論空燃比(ストイキ)近傍の狭い範囲(ウインドウ)でのみ、排気ガス中の主要有害成分(HC、CO、NOx)のすべてを効率的に浄化する。そうした三元触媒18を有効に機能させるには、混合気の空燃比を上記ウインドウの中心に合わせこむ、厳密なコントロールが必要となる。
【0014】
こうした空燃比の制御は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)22により行われる。ECU22には、上記エアフローメータ16や酸素センサ19,20、あるいはアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサ21、機関回転速度を検出するNEセンサ23、外気温を検出する外気温センサ24を始めとする各種センサ類の検出信号が入力されている。そしてそれらセンサ類の検出信号より把握される内燃機関10や車両の運転状況に応じて、上記スロットルバルブ15やインジェクタ17等を駆動制御して、上記のような空燃比の制御を行っている。
【0015】
まずECU22は、上記アクセルペダルの踏み込み量や機関回転速度の検出結果に応じて把握される吸入空気量の要求量を求め、それに応じた吸入空気量が得られるようにスロットルバルブ15の開度を調整する。その一方、エアフローメータ16により検出される吸入空気量の実測値に対して、理論空燃比が得られるだけの燃料量を求め、それによりインジェクタ17からの燃料噴射量を調整する。これにより、燃焼室12で燃焼される混合気の空燃比を、ある程度理論空燃比に近づけることができる。ただし、それだけでは上記要求される高精度の空燃比制御には不十分である。
【0016】
そこでECU22は、上記各酸素センサ19,20の検出結果より把握される空燃比の実測値に基づいて、インジェクタ17からの燃料噴射量をフィードバック補正し、要求される空燃比制御の精度を確保している。
【0017】
以上のように、この排気ガス浄化システムでは、酸素センサ19,20の検出結果に応じて燃料噴射量をフィードバック補正する、いわゆる空燃比フィードバック制御を実施することで、混合気の空燃比を理論空燃比近傍に保持し、高い排気ガス浄化率を確保している。なお、この排気ガス浄化システムでは、上述のように2つの酸素センサ19,20によって空燃比フィードバック制御を実施することで、空燃比フィードバック制御の更なる高精度化を図っている。
【0018】
前記2つの酸素センサ19,20は互いに同様の構成であり、また故障診断の方法も同様である。そこで以下、触媒前酸素センサ19を例にとって説明し(以下、触媒前酸素センサ19を単に「酸素センサ19」と称す)、触媒後酸素センサ20については説明を省略する。
【0019】
図2及び図3に示すように、酸素センサ19は、排気通路13内に突出するように配設された筒型の検出素子31を備えている。検出素子31は、その内側に大気室34を画成する。大気室34は、センサ内に設けられた図示しない大気通路と、センサボディに形成された大気穴35とを通じて外部に連通され、大気(空気)が導出入可能となっている。検出素子31の外表面部は排気通路13内に露出され、センサカバー32を通じて流入する排気ガスに曝される。
【0020】
図3に示すように、検出素子31は、固体電解質37と、固体電解質37の内表面に形成され大気室34内に臨まされる一方の電極としての大気極38と、固体電解質37の外表面に形成され排気通路13内に臨まされる他方の電極としての排気極39とを備える。固体電解質37は、酸素がイオン化した状態でその内部を移動可能な固形物質であり、酸素センサ用としては例えばジルコニアなどが利用される。大気極38および排気極39は例えば白金Ptを含む。
【0021】
大気室34には、検出素子31を加熱して早期に活性化させるためのヒータ36が設けられ、ヒータ36はECU22によって通電制御される。また大気極38と排気極39はECU22、特にその電圧検出回路に接続され、大気極38と排気極39の間に発生した起電力をECU22により検出し得るようになっている。
【0022】
大気極38の雰囲気ガス(通常は空気)と排気極39の雰囲気ガス(通常は排気ガス)との間に酸素分圧の差が生じると、その分圧の差を縮小すべく、酸素分圧の高い側(通常は大気極38側)の酸素がイオン化して固体電解質37を通り、酸素分圧の低い側(通常は排気極39側)へと移動する。酸素分子はイオン化する過程で4価の電子を受け取り、イオン化した状態から分子に戻る過程で4価の電子を放出する。そのため、上記の酸素の移動に応じて両電極38,39間で電子の移動が生じ、その結果、両電極38,39間に起電力が発生する。
【0023】
こうして酸素センサ19は、大気と排気ガスとの酸素分圧の差に応じて起電力を発生し、より具体的には、排気ガスの酸素濃度が少なくなるほど(つまり検出素子31外部の排気ガスの空燃比がリッチであるほど)大きな起電力を発生する。ここで酸素イオンが内側の大気極38から外側の排気極39に向かうことから、電流の向きは逆となり、両電極に接続されたECU22に対しては内側の大気極38が正極、外側の排気極39が負極となる。
【0024】
ちなみに、酸素センサには他にも、板形状の検出素子を用いたものや、検出素子にジルコニア以外の素材を用いたものなど、様々なタイプの酸素センサがある。そしてその多くでは、上記例示したセンサと同様の検出原理により排気ガスの酸素分圧を検出する構成、すなわち基準ガス(大気)と排気ガスとを隔離するよう配設された検出素子が、基準ガスに対する排気ガスの酸素分圧の差に応じて起電力を発生する構成となっている。
【0025】
酸素センサ19の出力特性を図4に例示する。示されるように、酸素センサ19の出力電圧は理論空燃比A/Fs(例えば14.6)を境に過渡的に変化し、酸素センサ19に供給される排気ガスの空燃比A/Fが理論空燃比A/Fsよりもリーンな領域(A/F>A/Fs、以下リーン空燃比ともいう)では0.1V程度の小さい電圧を示し、理論空燃比A/Fsよりもリッチな領域(A/F<A/Fs、以下リッチ空燃比ともいう)では0.9V程度の比較的高い電圧を示す。ここでは、0.45Vのセンサ出力をリッチ・リーン判定閾値として、センサ19の検出結果が、理論空燃比よりもリッチかリーンかを判断している。なお、酸素センサ19の上記各領域でのセンサ出力電圧の大きさは、検出素子31の温度状態に応じて変化することがある。
【0026】
なお、本実施形態のように、理論空燃比での燃焼(ストイキ燃焼)のみを目的とした空燃比制御を行う内燃機関では、理論空燃比を境に出力電圧が過渡的に変化する特性の酸素センサが用いられることが多い。こうしたセンサは比較的低い分解能しか持たないものの、上記ストイキ燃焼のみを行うにはそれで十分なことが多い。一方、希薄空燃比での燃焼を行うなど、より広範囲の空燃比での燃焼を行う内燃機関では、排気ガスの空燃比に応じてその出力電圧が線形的に変化する特性の、より分解能の高い酸素センサが用いられることもある。本発明はこのような酸素センサに対しても適用可能である。
【0027】
ところで、長期使用による経年劣化等により、酸素センサ19の検出素子31にクラックが入ったり、検出素子31が割れたりするといった検出素子31の欠損が発生し、酸素センサ19が故障する場合がある。この欠損によるセンサ故障の場合、図5に示すように、検出素子31の欠損部Aを通じて検出素子31の内外が連通し、検出素子31外部の排気ガスがその内部に侵入する。そして検出素子31内部に排気ガスが侵入した状態で、検出素子31外部により酸素濃度の高い(空燃比リーンの)排気ガスが存在すると、酸素センサ19において逆方向の起電力が発生する。このことは例えば、センサ故障状態で空燃比をリッチからリーンに切り替えた場合や、フューエルカットが行われた場合などに起こり得る。この場合、大気極38の電位よりも排気極39の電位の方が高くなり、負(マイナス)の起電力ないし出力電圧が発生することになる。
【0028】
図6はかかる故障時の酸素センサ出力電圧の変化の一例を示す。円で囲った領域に示されるように、酸素センサ19からはしばしば負の電圧が出力されている。従ってこのような負の出力電圧をECU22により検知することで、酸素センサの欠損故障を検出することができる。
【0029】
しかしながら、前述したように、酸素センサ19が欠損故障しておらず、正常な場合であっても、排気極39が排ガス中の被毒物質、具体的にはリッチ成分(炭化水素HCや一酸化炭素COなど)により被毒すると(以下、これをリッチ被毒という)、酸素センサ19から負の出力電圧が発生することがある。従って、この場合にも酸素センサ19の故障と判断してしまうことは誤判定となり、故障診断の精度を落としめる結果となる。
【0030】
例えば、機関始動後の所定時間内には、回転安定化および暖機促進等のため、燃料噴射量を理論空燃比相当よりも増量し、空燃比をリッチ側に制御する場合がある。
【0031】
このような燃料増量制御が、酸素センサ19(特に排気極39)の未活性時に実施されると、排気極39がリッチな排ガスに曝され、排気極39がリッチ被毒する。
【0032】
すると、大気極38から固体電解質37を通って排気極39に移動してきた酸素イオンを、排気極39が十分に分子化(即ち電子を放出)できなくなり、排気極39に酸素イオンが集中する。
【0033】
この後酸素センサ19が活性化すると、排気極39に集中していた酸素イオンの分子化が急激に進行し、また、排気極39にフューエルカット等に基づくリーンガスが到達することもあるので、排気極39上には大量の酸素が存在するようになり、これに起因して排気極39と大気極38との酸素濃度差が逆転し、負の出力電圧が発生する。
【0034】
その後、排気極39からリッチ成分が脱離し、排気極39での酸素イオン集中が解消されれば、負電圧の発生もなくなる。
【0035】
図7には、正常な酸素センサの暖機過程において燃料増量制御が実施されたときの酸素センサ出力電圧の変化を実線で示す。なお図中、酸素センサの検出素子のインピーダンス(以下、「素子インピーダンス」ともいう)の変化を破線で併記した。素子インピーダンスは検出素子の温度(以下、「素子温度」ともいう)に相関する値であり、両者は、素子温度が高温になるほど素子インピーダンスが低くなるという関係にある。図から分かるように、素子温度は次第に上昇しており、酸素センサは未活性状態から活性状態に徐々に変化している。
【0036】
図中破線円内に示されるように、酸素センサ出力電圧が負になっている時間帯があり、これは、センサ活性化前に排気極39がリッチ被毒し、その影響がセンサ活性化後に現れたことによるものである。
【0037】
また、図8には、素子温度と、リッチ被毒による負電圧レベルとの関係を示す。白抜き三角は空燃比A/Fがストイキ(=14.6)且つ通常燃料使用時のデータ、黒塗り三角は空燃比がストイキ且つ重質燃料使用時のデータ、白抜き円は空燃比がストイキよりリッチ(=13)且つ通常燃料使用時のデータ、黒塗り円は空燃比がストイキよりリッチ且つ重質燃料使用時のデータである。
【0038】
図示するように、素子温度約250℃において、空燃比がリッチであるほど、また燃料が重質であるほど、被毒量ないし被毒度合いは大きくなり、酸素センサ19から出力される負電圧レベルは大きくなる傾向にある。これら負電圧レベルの差は、素子温度が上昇するにつれ少なくなり、素子温度約350℃では殆ど差が無くなる。これは素子温度上昇とともに排気極39からリッチ成分が脱離し、被毒が解消していくためである。
【0039】
そこで本実施形態では、かかるリッチ被毒に起因した負電圧に基づく誤判定を防止するため、排気極39の被毒の有無を検出する被毒検出手段を設け、この被毒検出手段により排気極39の被毒が無いことが検出されていることを条件に酸素センサ19の故障診断を実行することとしている。以下、これについて説明する。
【0040】
本実施形態では、排気極に堆積した被毒物質の量即ち被毒量と、排気極から脱離した被毒物質の量即ち脱離量とを推定し、これら推定被毒量と推定脱離量とに基づき、排気極39の被毒の有無を検出する。具体的には、推定被毒量から推定脱離量を減じてなる残存被毒量を算出し、この残存被毒量がゼロ以上であれば被毒有り、ゼロ未満であれば被毒無しと検出している。
【0041】
図9に、本実施形態の故障診断処理のメインルーチンのフローチャートを示す。図示するルーチンはECU22により所定の演算周期(例えば16msec)毎に繰り返し実行される。
【0042】
まずステップS101では、エンジンが始動されているか否かが判断される。始動されていないときはルーチンが終了され、他方、始動されているときはステップS102に進む。
【0043】
ステップS102では、前トリップでの残存被毒量ΔSR0の値がECU22の記憶装置(SRAM等)から取得されると共に、被毒側燃料性状係数Ksおよび脱離側燃料性状係数Krが図10および図11に示すような所定のマップ等からそれぞれ算出される。
【0044】
残存被毒量とは、現に排気極39に堆積もしくは残存している被毒物質の量のことである。トリップとは、内燃機関の1回の始動から停止までの期間のことであり、前トリップとは現トリップの1回前のトリップのことである。すなわち、前トリップでの残存被毒量ΔSR0とは、前トリップ終了時点で排気極39に堆積もしくは残存していた被毒物質の量のことであり、現トリップでは残存被毒量の初期値を意味する。
【0045】
被毒側燃料性状係数Ksおよび脱離側燃料性状係数Krとは、それぞれ、後述するサブルーチンにおいて被毒量および脱離量の推定に用いる係数であり、燃料性状を表すパラメータに基づいて算出される。ここで燃料性状を表すパラメータとは、例えばエンジン始動直後の所定時間内におけるエンジンの回転変動である。例えば通常燃料では回転変動は小さく、重質燃料では回転変動は大きくなるので、当該回転変動は燃料性状を表すパラメータとして用いることができる。
【0046】
図10から分かるように、被毒側燃料性状係数Ksは、回転変動が大きくなるほど大きくなる。これにより、後に理解されるが、回転変動が大きくなるほど(例えば燃料が重質であるほど)多い被毒量が算出される。逆に、図11から分かるように、脱離側燃料性状係数Krは、回転変動が大きくなるほど小さくなる。これにより、後に理解されるが、回転変動が大きくなるほど(例えば燃料が重質であるほど)少ない脱離量が算出される。
【0047】
次いで、ステップS103では、現時点での残存被毒量ΔSRの値が算出される。この算出は図12に示すサブルーチンで行われ、その詳細は後述する。
【0048】
その後、ステップS104では、脱離完了判定がなされる。すなわち、ステップS103で算出された残存被毒量ΔSRがゼロ以上であれば排気極39は被毒しており、排気極39からの被毒物質の脱離は完了していないと判定される。逆に、ステップS103で算出された残存被毒量ΔSRがゼロ未満であれば排気極39は被毒しておらず、排気極39からの被毒物質の脱離は完了したと判定される。このように、このステップS104を実行するECU22が被毒検出手段を構成する。
【0049】
ステップS104で脱離完了と判定されなかった場合、すなわち排気極39が被毒していると判定された場合、ステップS108に進んで、現時点での残存被毒量ΔSRの値が記憶装置に保存され、ルーチンが終了される。
【0050】
他方、ステップS104で脱離完了と判定された場合、すなわち排気極39の被毒が解消したと判定された場合、ステップS105以降に進んで、負電圧に基づく故障診断が実行される。
【0051】
まずステップS105では、故障診断を実行するための前提条件が成立しているかどうかが判断される。この前提条件が成立している場合とは、例えば、エンジンの暖機がある程度終了している場合、具体的には水温センサ(図示せず)により検出されたエンジン冷却水温が所定温度(例えば40℃)を超えている場合である。但しこの前提条件は任意に設定可能である。
【0052】
前提条件が成立していない場合、ステップS108に進んで現時点での残存被毒量ΔSRの値が記憶装置に保存され、ルーチンが終了される。他方、前提条件が成立している場合、ステップS106に進み、酸素センサ19からの負の出力電圧が検出されたか否かが判断される。
負の出力電圧が検出された場合、ステップS107に進んで、酸素センサ19が故障ないし異常と判定される。即ち、酸素センサ19の検出素子31にクラックや割れ等の欠損故障が生じていると判断される。その後ステップS108に進んで現時点での残存被毒量ΔSRの値が記憶装置に保存され、ルーチンが終了される。
【0053】
他方、負の出力電圧が検出されていない場合、直ちにセンサ正常とはせず、精度向上のため、ステップS109において、正常判定可能な条件(正常判定条件)が成立しているか否かが判断される。この正常判定条件とは、酸素センサ19が欠損故障している場合に必ず負電圧が発生するような条件であり、例えば、吸入空気量Gaが多い運転直後のフューエルカット時であることである。吸入空気量Gaが少ない場合は排ガス流量も少なく、検出素子31の欠損部Aから大気室34に排気ガスが十分流入しない可能性があり、また、大気室34に排気ガスが十分流入した状態でフューエルカットされると、検出素子31の外側が内側より酸素分圧が高くなり負電圧が発生するからである。
【0054】
正常判定条件が成立していないと判断された場合、正常判定されることなく、ステップS108に進んで残存被毒量ΔSRの保存がなされ、ルーチンが終了される。他方、正常判定条件が成立していると判断された場合、ステップS110にて酸素センサ19が正常と判定され、その後ステップS108で残存被毒量ΔSRの保存がなされ、ルーチンが終了される。
【0055】
次に、残存被毒量ΔSRの算出のためのサブルーチンを図12を参照して説明する。図示するルーチンもECU22により所定の演算周期(例えば16msec)毎に繰り返し実行される。
【0056】
まずステップS201では、酸素センサ19の素子温度が検出されると共に、この素子温度が第1所定値Xと比較される。
【0057】
すなわち、ECU22は、酸素センサ19の素子インピーダンスRを常時検出しており、この素子インピーダンスRを素子温度に換算する。第1所定値Xは、排気極39の被毒が生じ得る最大温度に設定され、本実施形態では図8の結果を考慮して350℃とされている。なおこの第1所定値Xは、通常、酸素センサ19の最小活性化温度(例えば300℃)より高い温度である。
【0058】
素子温度が第1所定値Xより低い場合、排気極39の被毒が生じ得るので、ステップS202〜S204にて被毒量が算出される。
【0059】
まずステップS202では、被毒側素子温係数Tsが図13に示すような所定のマップ等から算出される。被毒側素子温係数Tsとは、被毒量の算出に用いる係数であり、素子温度に基づいて算出される。図13から分かるように、被毒側素子温係数Tsは、素子温度が低いほど大きくなる。これにより、後に理解されるが、素子温度が低くなるほど多い被毒量が算出される。
【0060】
次いで、ステップS203では、現時点における空燃比AFと、燃料噴射量TAUとの値がそれぞれ取得される。空燃比AFは、エアフローメータ16により検出された吸入空気量Gaを燃料噴射量TAUで除して得られる。またECU22が燃料噴射量TAUを決定していることから、燃料噴射量TAU自体はECU22における内部値である。
【0061】
次いで、ステップS204において、被毒量の今回値Sと積算値TSが算出される。今回値Sとは、前回の演算時期と今回の演算時期との間に排気極に堆積したと推定される被毒物質の量をいい、積算値TSとは、積算開始時期(具体的にはエンジン始動後、図9のステップS103が最初に実行された時期)における残存被毒量ΔSR0すなわち初期値と、積算開始時期から現時点までの間に逐次的に積算された今回値ΣSとの合計値をいう。つまり積算値TSが、現時点における被毒量の推定値(推定被毒量)を表す。今回値Sと積算値TSは、それぞれ次式により算出される。
【0062】
【数1】
【0063】
【数2】
【0064】
これら式から分かるように、被毒量の推定値は、燃料性状を表すパラメータと、素子温度と、空燃比AFと、燃料噴射量TAUとに基づいて算出される。空燃比AFが理論空燃比(=14.6)よりリッチであるほど大きな今回値Sが得られる。なお、空燃比AFが理論空燃比よりリーンであったり、フューエルカットで燃料噴射量TAUがゼロとなったりした場合には、計算上ゼロ以下の今回値Sが得られるが、この場合には処理上今回値Sをゼロとして取り扱う。
【0065】
こうして被毒量の今回値Sと積算値TSが算出された後、ステップS205に進んで現時点での残存被毒量ΔSRが算出され、ルーチンが終了される。残存被毒量ΔSRは次式により算出される。
【0066】
【数3】
【0067】
ここでTRは、後述のステップS209で算出される脱離量の積算値である。
一方、ステップS201において検出素子温度が第1所定値X以上の場合、ステップS206に進んで検出素子温度が第2所定値Yと比較される。第2所定値Yは、排気極39の被毒物質の脱離が生じ得る最小温度に設定され、第1所定値X以上の値である。本実施形態では図8の結果を考慮して360℃とされている。本実施形態では、第1所定値Yと第2所定値Yとの間で被毒も脱離も生じないとみなして第2所定値Yを第1所定値Xより高い値に設定しているが、これらを等しい値に設定してもよい。
【0068】
ステップS206において、検出素子温度が第2所定値Y未満の場合には、ステップS205に進んで現時点での残存被毒量ΔSRが算出され、ルーチンが終了される。
【0069】
他方、ステップS206において、検出素子温度が第2所定値Y以上の場合には、排気極39からの被毒物質の脱離が生じ得るので、ステップS207〜S209にて脱離量が算出される。
【0070】
まずステップS207では、脱離側素子温係数Trが図14に示すような所定のマップから算出される。脱離側素子温係数Trとは、脱離量の算出に用いる係数であり、素子温度に基づいて算出される。図14から分かるように、脱離側素子温係数Trは、素子温度が高いほど大きくなる。これにより、後に理解されるが、素子温度が高くなるほど多い脱離量が算出される。
【0071】
次いで、ステップS208では、現時点における空燃比AFと、燃料噴射量TAUとの値がそれぞれ取得される。これら空燃比AFおよび燃料噴射量TAUについてはステップS203で説明したのと同様である。
【0072】
次いで、ステップS209において、脱離量の今回値Rと積算値TRが算出される。今回値Rとは、前回の演算時期と今回の演算時期との間に排気極から脱離したと推定される被毒物質の量をいい、積算値TRとは、積算開始時期(具体的には、このステップS209が最初に実行された時期)から現時点までの間に逐次的に積算された今回値ΣRをいう。つまり積算値TRが、現時点における脱離量の推定値(推定脱離量)を表す。今回値Rと積算値TRは、それぞれ次式により算出される。
【0073】
【数4】
【0074】
【数5】
【0075】
これら式から分かるように、脱離量の推定値も、被毒量の推定値同様、燃料性状を表すパラメータと、素子温度と、空燃比AFと、燃料噴射量TAUとに基づいて算出されることとなる。空燃比AFが理論空燃比(=14.6)よりリーンであるほど大きな今回値Rが得られる。なお前記同様、空燃比AFが理論空燃比よりリッチであったり、フューエルカットで燃料噴射量TAUがゼロとなったりした場合には、計算上ゼロ以下の今回値Rが得られるが、この場合には処理上今回値Rをゼロとして取り扱う。
【0076】
こうして脱離量の今回値Rと積算値TRが算出された後、ステップS205に進んで現時点での残存被毒量ΔSRが算出され、ルーチンが終了される。
【0077】
以上、本発明の実施形態を詳細に述べたが、本発明は他の実施形態を採ることも可能である。例えば、内燃機関の用途、形式、種類等は限定されず、内燃機関は車両用以外であってもよいし、ディーゼルエンジン等であってもよい。
【0078】
推定被毒量および推定脱離量は、上記以外のパラメータ、例えば排ガス量、排ガス温度、検出素子が排ガスに曝された時間等に基づいて算出してもよい。また、素子温度の代用値として、素子インピーダンス、ヒータ投入電力、排ガス温度等を用いてもよい。
【0079】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0080】
10 内燃機関
13 排気通路
19,20 酸素センサ
22 電子制御ユニット(ECU)
31 検出素子
34 大気室
38 大気極
39 排気極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置された酸素センサから出力される負電圧に基づいて前記酸素センサの故障を診断する装置において、
前記酸素センサの検出素子における排気極の被毒の有無を検出する被毒検出手段を設け、該被毒検出手段により前記排気極の被毒が無いことが検出されていることを条件に前記酸素センサの故障診断を実行することを特徴とする酸素センサの故障診断装置。
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置された酸素センサから出力される負電圧に基づいて前記酸素センサの故障を診断する装置において、
前記酸素センサの検出素子における排気極の被毒の有無を検出する被毒検出手段を設け、該被毒検出手段により前記排気極の被毒が無いことが検出されていることを条件に前記酸素センサの故障診断を実行することを特徴とする酸素センサの故障診断装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−203787(P2010−203787A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46502(P2009−46502)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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