説明

酸素供給装置付き製パン機

【課題】木目細かな伸びのある製パン機を実現する。
【解決手段】パン生地の練り工程時に、高濃度酸素を含む空気を、固体電解質膜12によって作成する酸素発生手段6からパン釜3内に供給することによって、グルテンの網の目の発達したパン生地をつくる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製パンの工程でパン生地に酸素を供給する酸素供給装置を備えた製パン機の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の酸素供給装置付き製パン機では、気体透過膜によって大気から通常より高い酸素濃度の空気と水蒸気を作り出し、その雰囲気下で製パンを行うというものであった(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭64−85034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし酸素供給装置としての気体透過膜は、気体の透過性の差を利用して酸素濃度を濃縮するものであり、原理上せいぜい50%程度の酸素濃度の空気しか供給することはできなかった。上掲の特許文献1では、酸素濃度50%以下、湿度80%以上で製パン時間を短縮できた旨の記載があるが、酸素濃度に関しては、50%以上の酸素濃度の空気を供給できないので、確かめることができていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記従来の課題を解決するために、本発明は、加熱手段によって酸素イオン導電性を有し、表裏に白金電極を設け、電極間の電圧印加手段を設けた固体電解質膜により高濃度酸素を含む空気を生成する酸素発生手段と、パン生地の収納部と練り手段と、酸素発生手段によって生成した高濃度酸素を含む空気をパン生地の収納部に導く送風手段を有するものであり、パン生地の練り、醗酵の工程を高濃度酸素の雰囲気下で行うことにより、木目の細かい、伸びのあるパン生地を作り、焼成後のパンのでき具合を改善するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、製パンの工程でパン種に酸素を供給する酸素供給装置を備え、木目の細かな、伸びのあり、焼き上がりの大きなパンを製造できる製パン機を実現したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
前記従来の課題を解決するために、第1の発明は、加熱手段によって酸素イオン導電性を有し、表裏に白金電極を設け、電極間の電圧印加手段を設けた固体電解質膜により高濃度酸素を含む空気を生成する酸素発生手段と、パン生地の収納部と練り手段と、酸素発生手段によって生成した高濃度酸素を含む空気をパン生地の収納部に導く送風手段を有するものであり、パン生地の練り、醗酵の工程を高濃度酸素の雰囲気下で行うことにより、木目の細かい、伸びのあるパン生地を作り、焼成後のパンのでき具合を改善するものである。
【0007】
第2の発明は、特に第1の発明の酸素発生手段は固体電解質膜を通過後生成される酸素と固体電解質膜を通過しない空気を混ぜる空気混入手段を有するものであり、パン生地に供給される空気中の酸素濃度を調節し、生地の種類によって最適な酸素濃度に設定することが可能となる。
【0008】
第3の発明は、特に第1の発明の送風手段駆動源は、練り手段を駆動するモータ手段としたものであり、送風手段のために新たな駆動源を設置する必要がなく、構成が簡単になる。
【0009】
第4の発明は、特に第1の発明の固体電解質膜により高濃度酸素を含む空気を生成する酸素発生手段は、発生酸素量制御用の、白金電極間の印加電圧を変化させる電圧制御手段を有するものであり、電圧の制御だけでパン生地に供給される酸素濃度を調整することが可能となる。
【0010】
第5の発明は、特に第1の発明の高濃度酸素を含む空気をパン生地の収納部に導くパイプ部を有するものであり、パン生地の収納部に確実に高濃度酸素空気を導くことができる。
【0011】
第6の発明は、特に第1の発明の練り手段が動作している間のみ、高濃度酸素を含む空気をパン生地の収納部に供給するよう送風手段を制御する送風制御手段を有するものであり、練り時に特に必要とされる高濃度酸素を工程に合わせて供給することが可能となる。
【0012】
第7の発明は、特に第1の発明の固体電解質膜の加熱手段は練り工程の動作に先立って印加されるものであり、高濃度酸素を発生する必要がある期間に先立って固体電解質のイオン導電性を確保しておき、練り工程の最初から高濃度酸素をパン生地に供給することが可能となる。
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0014】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における酸素供給装置付き製パン機の一実施例である製パン機の部分切欠き構成図であり、図2は本発明の実施の形態1におけるパン製造工程図であり、(a)はパン焼きの工程を、(b)は高濃度酸素空気が供給される期間を示している。図3は本発明の実施の形態1における酸素供給装置付き製パン機の酸素発生手段の断面図である。
【0015】
図1において、製パン機本体1にはパン生地2の収納部であるパン釜3が設置され、パン釜3の底部には、パン生地2の練り工程で回転する練り手段である羽根4が設置されている。羽根4はパン釜3の外部に設置され、回転軸がパン釜3底部を貫通し、羽根4と嵌合したモータ5によって回転駆動される。また酸素発生手段6で発生した高濃度酸素はモータ5の回転軸に取り付けられた送風手段であるファン7の回転で生み出され、導風路8によって導かれた気流によって加圧され、パイプ9を通ってパン釜3の中に導かれる。酸素発生手段6の電力は電力供給手段10から供給される。パン釜3の周囲には、パン焼成用のシーズヒータ11が設置され、図2に示すように、練り工程、醗酵工程が終ったら、焼成工程に進み、食パンならば、一連のパン焼きが自動的に行われるようになっている。練り工程時に、高濃度酸素空気がパン釜3に供給される。
【0016】
パイプ9はフレキシブルパイプを用いることで取り出し時の邪魔にならないようにすることも可能である。
【0017】
また送風手段は練り工程の駆動源であるモータ5を兼用したことで、新たな専用の送風手段を設ける必要がない。
【0018】
また練り工程の駆動源であるモータ5を兼用したことで、練り工程時に送風手段が同時に動作する。
【0019】
ここで酸素発生手段6は図3に示すように固体電解質膜12の表裏に、蒸着又は印刷によって設置された白金電極13、14に直流電源15から直流電圧が印加され、また固体電解質膜12が酸素イオン導電性を有するよう温度を400℃程度に保つためのヒータ16が設置されている。固体電解質膜12により、酸素発生手段6内は、正の電圧が印加されたカソード側隔室17と反対側のアノード側隔室18に隔てられている。カソード側17では、入口19から通常大気が送りこまれる。固体電解質膜12と電極13の境界面では、酸素分子が電子をもらって酸素イオンとなって固体電解質膜12の中に入っていく。即ち
1/2O+2e→O2−
の反応が起きる。
【0020】
一方アノード側の固体電解質膜12と電極14の境界面では、固体電解質膜12を通ってきた酸素イオンが電子を放出し再び酸素分子となって、大気中にでてくる。即ち
2−→1/2O+2e
の反応が起きる。
【0021】
ここで窒素分子は固体電解質膜12内部を通過できないので、アノード側隔室18は酸素分子が多い高濃度酸素状態になる。
【0022】
カソード側隔室17とアノード側隔室18の間の密閉度を向上させると原理的には、アノード側隔室18は酸素濃度100%の状態を実現できる。
【0023】
高濃度酸素は、出口20からパン釜3へ導かれ、パン生地2が高濃度酸素雰囲気下で、練られる。
【0024】
パン生地を練る目的は、小麦粉に含まれるグルテンの組成を練りによって網の目構造とし、木目が細かく、また焼き上げた時、大きく、ふっくらとさせることである。このグルテンの網の目構造の形成に酸素が寄与するといわれており、一般には酸化剤を一緒に混ぜることもされる。しかし上述のように、高濃度酸素供給装置を製パン機に内蔵することによって、添加物を混ぜることなく、その目的を達することができる。
【0025】
図4は本発明の実施の形態1における酸素供給装置付き製パン機の酸素発生手段の断面図である。
【0026】
図4と図3の違いは、酸素発生手段6の入口19と出口20の間にバイパス経路21を設け、空気混入手段としてのパイパス経路21の流量を調節するダンパー22を設けたことである。
【0027】
ダンパー22の開閉角度を調節することにより、任意の濃度の酸素を含む空気をパン釜3内のパン生地2に供給することが可能となる。
【0028】
これによって、パンの種類によって最適な酸素濃度の空気を供給することが可能となる。
【0029】
図5は本発明の実施の形態1における酸素供給装置付き製パン機の酸素発生手段の断面図である。
【0030】
電圧制御手段としてのスイッチ25、26、27によって電圧の違う直流電源15、23、24を切換えて酸素輸送能力を変化させることで、高濃度酸素の生成量を変化させることができ、パンの種類によって最適な酸素濃度の空気を供給することが可能となる。
【0031】
図4のバイパス経路21で空気と混合する方法、および上記の固体電解質膜12に印加する電圧を換える方法の二つを併用することによってパン生地の種類によって最適な酸素濃度、流量を設定することができる。
【0032】
図6は本発明の実施の形態1における酸素供給装置付き製パン機の酸素発生手段の断面図である。
【0033】
ヒータ16への通電は直流電源15への通電に先立ってスイッチ28によって開始されるようにしたものである。固体電解質膜12は温度が低い状態ではインピーダンスが大きく、その状態で電圧が印加されると、抵抗によるジュール熱の発生で破壊する可能性があるためである。十分インピーダンスが小さくなることを確認してからスイッチ28で印加することで、固体電解質膜12を保護することができる。
【0034】
以上のような、高濃度酸素空気を練り工程中のパン生地に供給する構成によって、木目細かな、伸びと膨らみあるパンが焼ける製パン機を実現することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上のように、本発明にかかる酸素供給装置付き製パン機はパンだけでなくピザなどのねり装置にも応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態1における製パン機の部分切欠き構成図
【図2】(a)同パン製造工程図のパン焼きの工程図(b)同パン製造工程図の高濃度酸素空気が供給されるタイミング図
【図3】同酸素発生手段の断面図
【図4】同酸素発生手段の断面図
【図5】同酸素発生手段の断面図
【図6】同酸素発生手段の断面図
【符号の説明】
【0037】
1 製パン機本体
3 パン釜(収納部)
4 羽根(練り手段)
5 モータ
6 酸素発生手段
7 ファン(送風手段)
9 パイプ
10 電力供給手段
12 固体電解質膜
13、14 白金電極
15 直流電源(電圧印加手段)
16 ヒータ
21 パイパス経路(空気混入手段)
25、26、27 スイッチ(電圧制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱手段によって酸素イオン導電性を有し、表裏に白金電極を設け、上記電極間の電圧印加手段を設けた固体電解質膜により高濃度酸素を含む空気を生成する酸素発生手段と、パン生地の収納部と練り手段と、前記酸素発生手段によって生成した高濃度酸素を含む空気を前記パン生地の収納部に導く送風手段を有する酸素供給装置付き製パン機。
【請求項2】
酸素発生手段は、固体電解質膜を通過後生成される酸素と、固体電解質膜を通過しない空気を混ぜる空気混入手段を有する請求項1記載の酸素供給装置付き製パン機。
【請求項3】
送風手段駆動源は、練り手段を駆動するモータ手段である請求項1記載の酸素供給装置付き製パン機。
【請求項4】
固体電解質膜により高濃度酸素を含む空気を生成する酸素発生手段は、発生酸素量制御用の、白金電極間の印加電圧の変化させる電圧制御手段を有する請求項1記載の酸素供給装置付き製パン機。
【請求項5】
送風手段には高濃度酸素を含む空気をパン生地の収納部に導くパイプ部を有する請求項1記載の酸素供給装置付き製パン機。
【請求項6】
練り手段が動作している間のみ、高濃度酸素を含む空気をパン生地の収納部に供給するよう送風手段を制御する送風制御手段を有する請求項1記載の酸素供給装置付き製パン機。
【請求項7】
固体電解質膜の加熱手段は練り工程の動作に先立って印加される請求項1記載の酸素供給装置付き製パン機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−296709(P2006−296709A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122067(P2005−122067)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】