説明

酸素分圧制御装置及び酸素分圧制御用固体電解質の回復方法

【課題】低材料コストかつ低操業コストの条件のもと、処理装置の雰囲気ガス等の酸素分圧を0.2〜10-30atmの範囲で制御しうる酸素分圧制御装置の提供。
【解決手段】固体電解質の作動温度に加熱保持可能な加熱炉の内部に、空気又は純酸素が供給されるとともに、管状構造の固体電解質を含む少なくとも1つの酸素ポンプと管状構造の固体電解質を含む少なくとも2つの酸素センサが収納され、前記少なくとも1つの酸素ポンプと前記少なくとも2つの酸素センサは、前記空気又は純酸素を各固体電解質の管外パージガスとするように互いに並行して配置されるとともに、それら各固体電解質の管内を共通の処理ガスが流通可能に連結したことを特徴とする、酸素分圧制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、0.2〜10-30atmの範囲で酸素分圧を制御したガスを供給可能な酸素分圧制御装置に関し、特に、低材料コストかつ低操業コストの条件のもと、処理装置の雰囲気ガス等の酸素分圧を0.2〜10-30atmの範囲で制御しうる電気化学的な酸素分圧制御装置、並びにその酸素分圧制御装置の長寿命化のための固体電解質の回復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体電解質を含む電気化学的な酸素ポンプにより、酸素分圧を制御した雰囲気ガスを用いて、単結晶試料を作成する方法が知られている。具体的には、扁平な円筒状の固体電解質の両端部をシールするとともに、該円筒周面部の内外両面に白金よりなるネット状の電極を設けた、密閉した円筒状固体電解質を酸素ポンプとして、該固体電解質内に不活性ガスを供給し、前記両電極に電圧を印加することにより、前記不活性ガス中の酸素を固体電解質外に排除し、不活性ガス中の酸素分圧を低減する技術である。(特許文献1参照。)
【0003】
さらに、本発明者は、その改良技術として、廃ガスを再生利用するための機構として、試料作成装置からのリターン経路にコンダクタンス手段と排気速度可変手段を設け、その間を陽圧に保つことにより、外気等の混入による汚染を防止する技術を提案している。(特願2003−42403号の願書に添付された明細書及び図面参照。)
【0004】
また、ストロンチウムドープ・ランタニウム・マンガネート等の固体電解質材料からなり、ハニカム等のシリンダ構造を有し、さらに損傷防止のためにセンサからの酸素分圧値に基づいて操作電圧等をフィードバック制御して、高圧から極低酸素までの雰囲気ガスを製造する酸素ポンプが知られている。(特許文献2参照。)
【0005】
複数のガス供給回路を並列に接続し、それぞれにマスフローコントローラを設けることにより、広範囲に雰囲気を変更可能とし、蒸気圧変動に対処できるようにしたフローティングゾーン装置が知られている。(特許文献3参照。)
【0006】
一方、内燃機関の排気ガスを監視する電気化学的な酸素センサにおいて、飽和電圧以上の電圧を印加して酸素センサを再生する方法が知られている。(特許文献4参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−326887号公報
【特許文献2】特表平10−500450号公報
【特許文献3】特開2001−114589号公報
【特許文献4】特表2003−510588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、前記特許文献1の改良技術である、特願2003−42403号の願書に添付した明細書及び図面に記載された循環機構付きの酸素ポンプを含むシステムでは、酸素分圧を10-30atm付近まで低減できるものの、こうした極低酸素状況で連続運転した場合、1週間から10日程度で固体電解質であるジルコニア管が破損するという問題があることが判明した。
【0009】
また、酸素分圧を10-30atm付近の極低酸素分圧域での操業を想定した場合、例えば、特願2003−42403号の明細書及び図面に例示される循環機構付きの酸素ポンプを含むシステムとなることが想定され、酸素ポンプ用のジルコニア管1本のほかに、酸素分圧制御用の酸素センサ用として2本のジルコニア管が必要とされ、ジルコニア管にかかる材料費が嵩む上、それぞれのジルコニア管にそれぞれ一つずつ固体電解質としての作動温度への昇温のための加熱炉が必要となるため、装置コストや操業コストが嵩むという問題がある。
【0010】
しかも、ジルコニア管への気密配管を考えると、Oリングやベローズといったシール機構を気密保持可能な接着剤により取り付ける必要があるが、これらは何れも耐熱性が十分ではないことから、ジルコニア管を長くして、加熱炉から張り出し露出部を長くとり、低温領域でシールする必要がある。従って、ジルコニア管の長大化による更なる材料コストの増大と、装置の大型化を招くという問題もある。
【0011】
一方、前記特許文献2にも例示されるとおり、使用されるガスの酸素分圧を所定の精度もって制御するために、通常の酸素ポンプ操業においても、酸素センサの出力に基づくフィードバック制御が行われることが望ましいものの、PID制御方式の酸素ポンプの駆動制御への採用は、本発明者らによって初めてなされたものであるばかりか、その操業に際して必要とされる酸素分圧レベルは、0.2〜10-30atmと広く、しかもその制御系は酸素分圧に依存する特有のゲインカーブ特性を示すため、従来のPID定数固定式のPID制御装置を酸素ポンプに単に組み込むだけでは、制御性が十分でなく、操業コストを増大させる一因となっていた。また、個々の操業条件に応じた、このゲインカーブ特性を割り出すこと自体も多大な労力を要する作業であった。
【0012】
しかも、これまでの酸素分圧制御装置は、1l未満の内容積を持つ処理装置を想定していることから、大量のガスが要求される、半導体機器等の量産製品の製造工程には不向きである。前記特許文献3に例示されるとおり、相当台数の酸素分圧制御装置を並列に接続して供給能力を充足させることも考えられるが、設備コスト並びに操業コストは多大になることが想定される。
【0013】
一方、前記特許文献4に例示される固体電解質の回復方法は、あくまでも酸素センサの性能低下に対処するためのものに過ぎず、かかる方法を過還元された酸素ポンプに適用した場合、より短寿命化を招くものであり、設備コスト等の低減に寄与するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記種々の課題を解決すべく、酸素ポンプ等の装置構成並びに操業方法の両面から改良を加え、実用操業レベルの高い処理能力と低コスト性を実現しうる発明を創出するに至った。本発明は次の技術的事項により特定される発明である。
【0015】
本発明(1)は、固体電解質の作動温度に加熱保持可能な加熱炉の内部に、空気又は純酸素が供給されるとともに、管状構造の固体電解質を含む少なくとも1つの酸素ポンプと管状構造の固体電解質を含む少なくとも2つの酸素センサが収納され、
前記少なくとも1つの酸素ポンプと前記少なくとも2つの酸素センサは、前記空気又は純酸素を各固体電解質の管外パージガスとするように互いに並行して配置されるとともに、それら各固体電解質の管内を共通の処理ガスが流通可能に連結し、
さらに、前記2つの酸素センサが検出した酸素分圧に基づいて前記酸素ポンプの作動を制御する酸素ポンプ作動制御手段と電気的に接続することを特徴とする、酸素分圧制御装置である。
本発明(2)は、前記酸素ポンプの管状構造の固体電解質の両端を、前記加熱炉の外部に張り出し、加熱炉から張り出した管の両端面をシール手段によって、管内を気密とするとともに、該シール手段を冷却する冷却手段をさらに設けたことを特徴とする、本発明(1)の酸素分圧制御装置である。
本発明(3)は、前記酸素センサは、管内全面に設けた多孔質電極と管外周に帯状に設けた多孔質電極とを含み、該両電極間に生じる電位差を検出することにより酸素分圧を測定するものであることを特徴とする、本発明(1)又は本発明(2)の何れか1発明の酸素分圧制御装置である。
本発明(4)は、前記酸素ポンプ作動制御手段は、そのPID定数が前記酸素分圧の関数としてそれぞれ定義され、前記酸素センサより酸素分圧の現在値がサンプリングされる都度、該関数に応じた値にそれぞれ自動調整され、該調整された後のPID定数に基づいて前記酸素ポンプの作動をPID制御するものであることを特徴とする、本発明(1)〜本発明(3)の何れか1発明の酸素分圧制御装置である。
本発明(5)は、前記加熱炉は、少なくとも1つの円柱状の抵抗発熱体を含み、前記各固体電解質に対して互いに並行して配置され、かつその固体電解質の本数と抵抗発熱体の本数の比が1/2〜6であることを特徴とする、本発明(1)〜本発明(4)の何れか1発明の酸素分圧制御装置である。
本発明(6)は、前記抵抗発熱体と前記固体電解質の軸線方向にみて、前記抵抗発熱体の軸心を中心とするハニカム構造の各頂点の位置に、各固体電解質の軸心がそれぞれ位置するように、均等な間隔をもって配置されていることを特徴とする、本発明(5)の酸素分圧制御装置である。
本発明(7)は、少なくとも2つの空間を離隔する固体電解質を少なくとも1つ含む加熱炉を、前記固体電解質の作動温度に昇温する工程、
前記固体電解質の表裏に設けられた電極間に電圧を印加し、前記何れか一方の空間におけるガスから他方の空間のガスに、前記固体電解質を介して酸素を排出する工程、
酸素分圧が低減されたガスと接触していた側の固体電解質表面に、大気圧の純酸素又は空気を導入し、該固体電解質表面を再酸化する工程、
前記加熱炉を前記固体電解質作動温度から降温する工程を少なくとも含むことを特徴とする、酸素分圧制御用固体電解質の回復方法である。
本発明(8)は、前記昇温する工程における平均昇温速度が3〜6℃/分であり、かつ前記降温する工程における平均降温速度が3〜6℃/分であることを特徴とする、本発明(7)の酸素分圧制御用固定電解質の回復方法である。
【0016】
なお、処理ガスの酸素分圧水準として、一層の極低酸素分圧が要求される場合の装置構成としては、管状の固体電解質を含む第2酸素ポンプを収納する第2加熱炉をさらに備え、該第2酸素ポンプの固体電解質は、前記酸素ポンプと前記酸素センサとの間に接続するとともに、その管外パージガスとして酸素分圧を制御された不活性ガスとするものであることを特徴とする、本発明(1)の酸素分圧制御装置や、前記酸素ポンプの管状構造は、外側管と同軸の内側管とからなる2重管構造であって、内側管と外側管の間の空間で、外側管の固体電解質によって酸素分圧を低減された処理ガスを、内側管内の空間に導き、内側管の固体電解質によってさらに酸素分圧を低減するものであることを特徴とする、本発明(1)の酸素分圧制御装置が本発明として採用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかる酸素分圧制御装置の概要を示す図
【図2】本発明にかかる酸素センサの電極構造と固体電解質端部のシール構造を示す図
【図3】本発明にかかる酸素分圧制御装置によって処理されたガスの酸素分圧挙動の一例を示す図
【図4】本発明にかかる酸素ポンプ併設時のレイアウトを示す図
【図5】本発明にかかる酸素分圧制御装置において採用された、酸素分圧に応じたPID定数のプロフィールを示す図
【図6】本発明にかかる酸素分圧制御装置においてPID定数を固定した場合に観測される酸素分圧変動履歴の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に、本発明にかかる酸素分圧制御装置の概要、特に、加熱炉周りの装置断面図を示す。図1の左側は、固体電解質の軸線方向にみた装置側面の断面図であり、一方、右側は装置正面の断面図であり、それぞれの切断面は、他方の図の一点鎖線を付した箇所での切断面を示している。
【0019】
ここで、管状の加熱炉1内には、酸素ポンプ、第1酸素センサ及び第2酸素センサ用の固体電解質管2を、均等の間隔をもって並行にフランジ3をもって配置され、各固定電解質管の両端が、加熱炉外に張り出して取り付けられる。
【0020】
図1では、両端が大気に開放した構成を採用したが、密閉型とすることもできる。その場合、フランジ側面中央にパージガス導入孔を設け、該導入孔から、純酸素又は空気からなる供給パージガス流を導入し、加熱炉1内の前記固体電解質管の外部雰囲気が一定に保たれるように、加熱炉内を掃引し他端のフランジに設けたパージガス排出孔から排気パージガス流を排気する構成を採用できる。パージガスの流量は、加熱炉容積1l当たり2300〜3400sccmであることが望ましい。
【0021】
ここで、上記の酸素ポンプを構成する固体電解質としては、例えば、一般式(ZrO21-x-y(In23x(Y23y(0<x<0.20、0<y<0.20、0.08<x+y<0.20)で表されるジルコニア系を利用できる。そのほか、例えば、BaおよびInを含む複合B酸化物であって、この複合酸化物のBaの一部をLaで固溶置換したもの、特に、原子数比{La/(Ba+La)}を0.3以上としたものや、さらにInの一部をGaで置換したものや、一般式{Ln1-xSrxGa1-(y+z)MgyCoz3、ただし、Ln=La,Ndの1種または2種、x=0.05〜0.3、y=0〜0.29、z=0.01〜0.3、y+z=0.025〜0.3}で示されるものや、一般式{Ln(1-x)xGa(1-y-z)B1yB2z3-d、ただし、Ln=La,Ce,Pr,Nd,Smの1種または2種以上、A=Sr,Ca,Baの1種または2種以上、B1=Mg,Al,Inの1種または2種以上、B2=Co,Fe,Ni,Cuの1種または2種以上}で示されるものや、一般式{Ln2-xMxGe1-yLyO5、ただし、Ln=La,Ce,Pr,Sm,Nd,Gd,Yd,Y,Sc、M=Li,Na,K,Rb,Ca,Sr,Baの1種もしくは2種以上、L=Mg,Al,Ga,In,Mn,Cr,Cu,Znの1種もしくは2種以上}や、一般式{La(1-x)SrxGa(1-y-z)MgyAl23、ただし、0<x≦0.2、0<y≦0.2、0<z<0.4}や、一般式{Ln(1-x)xGa(1-y-z)B1yB2z3、 ただし、Ln=La,Ce,Pr,Sm,Ndの1種もしくは2種以上、A=Sr,Ca,Baの1種もしくは2種以上、B1=Mg,Al,Inの1種もしくは2種以上、B2=Co,Fe,Ni,Cuの1種もしくは2種以上、x=0.05〜0.3、y=0〜0.29、z=0.01〜0.3、y+z= 0.025〜0.3}等が採用できる。このような酸化物イオン伝導体を有する固体電解質を備える電気化学的な酸素ポンプは単独で用いてもよいが、例えば、ゲッタ材と組み合わせることによって、酸素分圧の制御を促進するようにしてもよい。
【0022】
また、かかる材質よりなる管状の固体電解質には、その内外周面に白金等よりなるネット状等の電極が設けてあり、該電極に直流電源から電流を流すことにより、固体電解質管内のガスに含まれる酸素分子が固体電解質によって電気的に還元され、酸素イオン化して固体電解質中に取り込まれる一方、固体電解質管の外表面から酸素分子として放出され、管外を流れるパージガスにより系外に排出される。
【0023】
なお、酸素ポンプや酸素センサの固体電解質管2の材料コストを低減するために、加熱炉から張り出す長さを7cm短くし、固体電解質管の長さを20cmとした。これにより、固体電解質を通じての熱伝導により管端部が高温となることから、その対策として、管端部のシール機構を冷却するための空冷ファン8を固体電解質管近傍に設けた。図2には、酸素センサの固体電解質管の周辺構成について模式図を示す。ここでは、空冷方式を採用したが、その他の冷却手段も採用できる。
【0024】
また、酸素センサの固体電解質管2の内外面に設けた白金電極4,5は、固体電解質として動作しているジルコニア管の高温部分内での温度勾配の影響を除くために、図2のとおり、内面については、全面に白金ペーストを塗布して焼き付け処理を行い、内面全体を内面多孔質電極4とし、白金線6を接着するのに対し、外面については、固体電解質管2の中央付近に幅1〜2cm程度の帯状領域のみに白金ペーストを塗布して焼き付け外面多孔質電極5として、該外面電極5に絶縁硝子管に挿管された白金線7を接着して、炉外に引き出して前記白金線6との間の電位差を計測する構成とすることが望ましい。これにより、酸素センサ毎に較正作業を行う必要がなくなり、熱力学に基づくネルンストの式により直接酸素分圧を計算できる。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
本実施例では、特に、酸素ポンプの固体電解質管2と、第1酸素センサの固体電解質2と、第2酸素センサの固体電解質2を、正三角形の各頂点に各固体電解質管2の軸心がそれぞれ合致するように並列に配置した。フランジ3が開放型であるため、酸素ポンプ、第1酸素センサ及び第2酸素センサが設置される雰囲気が共通となる。
【0026】
そして、酸素ポンプの固体電解質管2内にはアルゴンガスを200sccmで導入した。該酸素ポンプの固体電解質2の内外の電極間にフィードバックゲインに応じて-2〜2Vを印加した。なお、本実施例の加熱炉では、開放型を採用し空気中で実施しているが、密閉型にし、パージガスとして純酸素を用いることもできる。
【0027】
続いて、酸素ポンプの固体電解質管2を通過し、酸素分圧を低減されたアルゴンガスを第1酸素センサの固体電解質管2内に導き、該アルゴンガス中の酸素分圧を測定した。なお、酸素分圧の測定には、該固体電解質管2の内外の酸素分圧差に伴う濃淡電池反応による起電力を用いた。酸素分圧の経時変化を図3に示す。約2時間で10-26atm程度を示し、約20時間運転後に安定して10-30atmの酸素分圧値を示した。
【0028】
[実施例2]
次に、酸素分圧制御ガスの量産化ニーズに応えるために、本発明の加熱炉を集約する設計をさらに押し進めて、1つの加熱炉内に、固体電解質管2を複数配置する態様を実施した。
【0029】
固体電解質管2と抵抗発熱体9を、図4のように並列配置した。すなわち、各固体電解質2の軸心を、円筒状の抵抗発熱体9の軸心を中心とするハニカム構造の各頂点にそれぞれ配置した。これにより、各固体電解質管2の温度ムラを1℃未満に抑えることが可能になった。
【0030】
ここで、図4のレイアウトはこの本数に留まるものではなく、このレイアウトをさらに拡げることができることはもちろんのこと、固体電解質管2と抵抗発熱体9の本数比率は、1/3〜6の範囲で自由に変更可能である。なお、図4では、各固体電解質管は、酸素ポンプ用の固体電解質2として記載されているもののうち何れか2本を選択して、第1乃至第2の酸素センサ用の固体電解質管とするものである。
【0031】
[実施例3]
一方、本実施例では、0.2〜10-30atmという、実操業における広範な雰囲気ガスの酸素分圧ニーズに応えるために、次のようなPID制御を行い、制御目標分圧への迅速な制御を実現し、結果として操業コストの低減を実現した。
【0032】
具体的には、図5(特に右側)に例示されるとおり、その時々の酸素分圧に応じて、PID定数を滑らかにかつ自動的に可変設定できる構成を採用した。なお、酸素分圧レベルに対する各定数の値の目安として、図5の左側に示した表の値とした。但し、この表は、多段階に変更することを示すものではなく、実操業では各定数は、酸素分圧に基づく連続関数として定義される。
【0033】
なお、この図5のPID定数は、加熱炉内容積が0.03l、ジルコニア管は長さ200mm×直径10mm、作動温度600-700℃の装置構成を前提としたものである。但し、PID定数は、採用する装置構成に合わせて、修正を加えることが望ましい。なお、参考として、図6に、酸素分圧が10-20atmで最適となるPID定数で固定した装置に純アルゴンガスを導入した場合における、酸素分圧が10-10atmまで下がった後の酸素分圧挙動を示す。このように固定のPID定数による制御では、酸素分圧が周期的に大きく振動し、安定した酸素分圧が得られるまでに長時間を要するようになる。前掲の図3のPID定数を可変とした場合の挙動と顕著に相違する。
【0034】
[実施例4]
酸素ポンプ内酸素分圧が〜10-30atm、温度600〜700℃という過酷な環境下での使用を考えると、ジルコニア管の延命を図るためには、準備における昇温速度と終了時の降温速度を操業効率の許す範囲で小さくすることが望ましく、また、長時間極低酸素分圧下で使用されたことにより部分還元された固体電解質の内表面の回復措置を講ずることが望ましい。
【0035】
そこで、室温と作動温度600〜700℃との間を2〜3hrかけて緩やかに昇温・降温を行うように平均昇温速度・平均降温速度が3〜6℃/分とする温度管理を行うとともに、酸素ポンプを稼働した後に、降温を始める前に、酸素ポンプ等の固体電解質内に1atmの純酸素又は空気を流入させる工程を付加した。具体的には、各固体電解質管に、供給純酸素又は空気流を流入させるための配管と、該管内を流通した後に、系外へと排気純酸素又は空気流を流出させるための配管とを設けて、固体電解質を稼働した後に純酸素又は空気で、超低酸素分圧下で部分還元した固体電解質管内表面を再酸化することが望ましい。
【0036】
これにより、通常の1週間〜10日程度の連続操業で破損していたジルコニア管が、実験開始から5ヶ月以上経った現在もなお一例の破損も報告されていないまでに延命化を図ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、固体電解質のパージガスを酸素ポンプと酸素センサとで共用とすることで、固体電解質を一つの加熱炉中にコンパクトに収納することを可能とし、設備コストの低減とともに操業コストも低減した酸素分圧制御装置を提供するものである。
【0038】
一方、本発明は、酸素分圧制御装置の操業時における、固体電解質に対する負荷の小さい操業方法や後処理工程を採用することにより、固体電解質の長寿命化を図り、メインテナンスコストを低減した酸素分圧制御装置用固体電解質の回復方法を提供するものである。
【符号の説明】
【0039】
1 加熱炉
2 ジルコニア管
3 フランジ
4 内面多孔質電極
5 外面多孔質電極
6 内面電極用白金線
7 外面電極用白金線
8 冷却手段
9 抵抗加熱体

Fin 外部処理装置ガス給気管
Fout 外部処理装置ガス排気管
Gin 供給Arガス流
Gout 排気Arガス流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質の作動温度に加熱保持可能な加熱炉の内部に、空気又は純酸素が供給されるとともに、管状構造の固体電解質を含む少なくとも1つの酸素ポンプと管状構造の固体電解質を含む少なくとも2つの酸素センサが収納され、
前記少なくとも1つの酸素ポンプと前記少なくとも2つの酸素センサは、前記空気又は純酸素を各固体電解質の管外パージガスとするように互いに並行して配置されるとともに、それら各固体電解質の管内を共通の処理ガスが流通可能に連結し、
さらに、前記2つの酸素センサが検出した酸素分圧に基づいて前記酸素ポンプの作動を制御する酸素ポンプ作動制御手段と電気的に接続することを特徴とする、酸素分圧制御装置。
【請求項2】
前記酸素ポンプの管状構造の固体電解質の両端を、前記加熱炉の外部に張り出し、加熱炉から張り出した管の両端面をシール手段によって、管内を気密とするとともに、該シール手段を冷却する冷却手段をさらに設けたことを特徴とする、請求項1記載の酸素分圧制御装置。
【請求項3】
前記酸素センサは、管内全面に設けた多孔質電極と管外周に帯状に設けた多孔質電極とを含み、該両電極間に生じる電位差を検出することにより酸素分圧を測定するものであることを特徴とする、請求項1又は2の何れか1項記載の酸素分圧制御装置。
【請求項4】
前記酸素ポンプ作動制御手段は、そのPID定数が前記酸素分圧の関数としてそれぞれ定義され、前記酸素センサより酸素分圧の現在値がサンプリングされる都度、該関数に応じた値にそれぞれ自動調整され、該調整された後のPID定数に基づいて前記酸素ポンプの作動をPID制御するものであることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項記載の酸素分圧制御装置。
【請求項5】
前記加熱炉は、少なくとも1つの円柱状の抵抗発熱体を含み、前記各固体電解質に対して互いに並行して配置され、かつその固体電解質の本数と抵抗発熱体の本数の比が1/3〜6であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項記載の酸素分圧制御装置。
【請求項6】
前記抵抗発熱体と前記固体電解質の軸線方向にみて、前記抵抗発熱体の軸心を中心とするハニカム構造の各頂点の位置に、各固体電解質の軸心がそれぞれ位置するように、均等な間隔をもって配置されていることを特徴とする、請求項5記載の酸素分圧制御装置。
【請求項7】
少なくとも2つの空間を離隔する固体電解質を少なくとも1つ含む加熱炉を、前記固体電解質の作動温度に昇温する工程、
前記固体電解質の表裏に設けられた電極間に電圧を印加し、前記何れか一方の空間におけるガスから他方の空間のガスに、前記固体電解質を介して酸素を排出する工程、
酸素分圧が低減されたガスと接触していた側の固体電解質表面に、大気圧の純酸素又は空気を導入し、該固体電解質表面を再酸化する工程、
前記加熱炉を前記固体電解質作動温度から降温する工程を少なくとも含むことを特徴とする、酸素分圧制御用固体電解質の回復方法。
【請求項8】
前記昇温する工程における平均昇温速度が3〜6℃/分であり、かつ前記降温する工程における平均降温速度が3〜6℃/分であることを特徴とする請求項7記載の酸素分圧制御用固定電解質の回復方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−216017(P2010−216017A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132569(P2010−132569)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【分割の表示】特願2004−149281(P2004−149281)の分割
【原出願日】平成16年5月19日(2004.5.19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(302065323)エスティー・ラボ株式会社 (4)
【Fターム(参考)】