説明

酸素分離膜、およびその製造方法

【課題】 酸素イオンを伝導する混合伝導体粉末(酸素分離膜粉末)と多孔質セラミック支持体との熱膨張率の違いによるピンホールやクラックの発生を抑制することができ、酸素含有ガス、主に空気から、酸素ガスもしくは酸素富化ガスを効率よく製造するための酸素分離膜、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 酸素分離膜は、多孔質セラミックス支持体上に、酸素イオンを伝導する混合伝導体粉末(酸素分離膜粉末)と、バインダーとからなる緻密層が形成されている。混合伝導体粉末は、一般式、 AA'1−XB'1−y3−α を有する。式中、0<x、y<0.5、αは電気的中性を保つための数値であり、AとA'は、互いに異なるもので、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaの中から選ばれた少なくとも1つの元素、BとB'は、互いに異なるもので、Ti、Zr、Ce、Nb、Ta、およびGaの中から選ばれた少なくとも1つの元素である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素イオン伝導性、酸素イオン・電子伝導性である混合伝導性を有するセラミックス膜を用いて、酸素含有ガス、主に空気から、酸素ガスもしくは酸素富化ガスを製造するための酸素分離膜、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、空気等の酸素混合気体から酸素を分離精製する酸素分離方法としては、PSA(圧力変動吸着法:Pressure Swing Adsorption)、深冷分離法、および膜分離法が用いられてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のPSAや、深冷分離法では、装置が大型であるという問題があった。特に、PSAでは、吸着・脱着工程を繰り返すため、圧力を調節・切り替えるための設備が必要となるため、装置が複雑となるうえに、耐圧容器を必要とするため、酸素製造コストが比較的高価であるという問題があった。また、深冷分離法では、空気を液化温度まで冷却するために大量の電力を必要とし、エネルギーが多くかかるため、やはり酸素製造コストが比較的高価であるという問題があった。
【0004】
そのため、複雑な装置や設備が必要でなく、比較的低エネルギーで分離することができる、膜分離法による酸素分離方法が、注目されており、従来、下記の特許文献1に示す膜表面に触媒層を有する混合伝導性酸素分離膜、およびそれを用いた酸素製造方法が知られている。
【特許文献1】特開2003−144867号公報 この特許文献1には、酸素を含有する原料ガスから酸素を分離する混合伝導性酸素分離膜であって、混合伝導性膜と、前記混合伝導性膜の原料ガス側の膜表面に設けられた酸素解離性触媒含有層および/または酸素再結合性触媒含有層とを備えているものが開示されている。
【0005】
ここで、酸素分離膜としては、ペロブスカイト型混合伝導体セラミックスが挙げられる。酸素の透過の機構としては、例えば図1に示すようなものになる。
【0006】
そしてこの場合、下記の式(1)に示す酸素透過速度の式から、酸素透過速度を速めるためには、膜厚を薄くする必要があるが、強度的な問題から、多孔質セラミックを支持体とした構造となっている。
【0007】
【数1】

しかしながら、上記のような酸素分離膜と多孔質セラミック支持体とでは、熱膨張係数の違いによるピンホールやクラックが発生して、充分な酸素分離機能が果たされないという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、混合伝導体粉末(酸素分離膜粉末)と多孔質セラミック支持体との熱膨張率の違いによるピンホールやクラックの発生を抑制し得る酸素分離膜、およびその製造方法を提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の酸素分離膜の発明は、多孔質セラミックス支持体上に、酸素イオンを伝導する混合伝導体粉末(酸素分離膜粉末)と、バインダーとからなる緻密層が形成されていることを特徴としている。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の酸素分離膜であって、混合伝導体粉末が、一般式、
A'1−XB'1−y3−α
を有するものであることを特徴としている。
【0011】
上記式中、0<xであり、y<0.5であり、αは、電気的中性を保つための数値であり、Aは、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、A'は、上記Aで選択された元素を除く、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、Bは、Ti、Zr、Ce、Nb、Ta、およびGaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、B'は、Fe、Co、Cr、およびYよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素である。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の酸素分離膜であって、多孔質セラミックス支持体が、一般式、
A'1−XB'1−y3−α
を有するものであることを特徴としている。
【0013】
上記式中、0<xであり、y<0.5であり、αは、電気的中性を保つための数値であり、Aは、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、A'は、上記Aで選択された元素を除く、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、Bは、Ti、Zr、Ce、Nb、Ta、およびGaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、B'は、Fe、Co、Cr、およびYよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素である。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の酸素分離膜であって、多孔質セラミックス支持体が、式、
BaCe1−x3−α
を有するものであることを特徴としている。
【0015】
上記式中、xは、0.6<x<1.0の範囲である。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の酸素分離膜であって、バインダーが、Mg、Ca、Sr、Sc、Si、Al、Co、Zn、Pb、Ce、Zr、Nd、およびSbよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素の酸化物、同元素の酸化物の混合体、もしくは同元素の複合酸化物であること特徴としている。
【0017】
請求項6の発明は、請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の酸素分離膜であって、多孔質セラミックス支持体が、平均細孔径50μm〜3nm、および気孔率10〜50%を有するものであることを特徴としている。
【0018】
請求項7の発明は、酸素分離膜の製造方法であって、混合伝導体粉末と無機バインダーとを同一の溶液中に分散させた分散液を用い、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体と無機バインダーを皮膜形成または含浸させることを特徴としている。
【0019】
請求項8の発明は、請求項7に記載の酸素分離膜の製造方法であって、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体と無機バインダーを皮膜形成または含浸させた後、もしくは皮膜形成または含浸させる際に、多孔質セラミックス支持体側から吸引ポンプで200kPa〜10kPaの圧力で吸引し、粒子同士の密度を高めることを特徴としている。
【0020】
請求項9の発明は、酸素分離膜の製造方法であって、混合伝導体粉末を分散させた分散液を用い、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体粉末を、皮膜形成または含浸させた後、無機バインダーを分散させた分散液を用い、無機バインダーを、皮膜形成または含浸させることを特徴としている。
【0021】
請求項10の発明は、請求項9に記載の酸素分離膜の製造方法であって、混合伝導体粉末を分散させた分散液を用い、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体粉末を、皮膜形成または含浸させた後、無機バインダーを分散させた分散液を用い、無機バインダーを、皮膜形成または含浸させる際に、多孔質セラミックス支持体側から吸引ポンプで200kPa〜10kPaの圧力で吸引することを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の酸素分離膜の発明は、多孔質セラミックス支持体上に、酸素イオンを伝導する混合伝導体粉末と、バインダーとからなる緻密層が形成されているもので、本発明によれば、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)とバインダーを組み合せることで、多孔質セラミックス支持体・酸素分離膜全体の緻密性・密着性が向上する。すなわち、バインダーは、混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)や多孔質セラミックス支持体より焼結温度が低くされ、バインダーが混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)同士および、多孔質セラミックス支持体との緻密性および密着性が向上することで、熱膨張係数の違いおよび、多孔質セラミックス支持体自体の欠陥部や、多孔質セラミックス支持体への混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)の塗りむらに起因するクラックやピンホールを抑制することができる。
【0023】
また、本発明によれば、酸素分離膜の製造工程における低温化が可能である。すなわち、通常は、多孔質セラミックス支持体上に形成された混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)を、粉末同士が溶解する前の状態まで加熱することで、粉末同士を溶着(焼結)させているが、混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)や多孔質セラミックス支持体より焼結温度が低いバインダーを介在させることで、焼結するまでの温度を低くすることができるという効果を奏する。
【0024】
本発明による酸素分離膜において、混合伝導体粉末は、具体的には、一般式、
A'1−XB'1−y3−α
を有するものである。
【0025】
上記式中、0<xであり、y<0.5であり、αは、電気的中性を保つための数値であり、Aは、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、A'は、上記Aで選択された元素を除く、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、Bは、Ti、Zr、Ce、Nb、Ta、およびGaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、B'は、Fe、Co、Cr、およびYよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素である。
【0026】
本発明において、このような混合伝導体粉末を具体的に用いることにより、上記の効果を生じるものである。
【0027】
また、本発明による酸素分離膜において、多孔質セラミックス支持体は、具体的には、一般式、
A'1−XB'1−y3−α
を有するものである。
【0028】
上記式中、0<xであり、y<0.5であり、αは、電気的中性を保つための数値であり、Aは、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、A'は、上記Aで選択された元素を除く、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、Bは、Ti、Zr、Ce、Nb、Ta、およびGaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、B'は、Fe、Co、Cr、およびYよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素である。
【0029】
本発明において、このような多孔質セラミックス支持体を具体的に用いることにより、上記の効果を生じるものである。
【0030】
本発明において、最も好ましい多孔質セラミックス支持体は、式、
BaCe1−x3−α
を有するものである。
【0031】
上記式中、xは、0.6<x<1.0の範囲である。
【0032】
本発明による酸素分離膜において、バインダーは、具体的には、Mg、Ca、Sr、Sc、Si、Al、Co、Zn、Pb、Ce、Zr、Nd、およびSbよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素の酸化物、同元素の酸化物の混合体、もしくは同元素の複合酸化物である。
【0033】
本発明において、このようなバインダーを具体的に用いることにより、上記の効果を生じるものである。
【0034】
本発明による酸素分離膜において、多孔質セラミックス支持体は、平均細孔径50μm〜3nm、および気孔率10〜50%を有するものであるのが、好ましい。
【0035】
請求項7の発明は、酸素分離膜の製造方法であって、混合伝導体粉末と無機バインダーとを同一の溶液中に分散させた分散液を用い、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体と無機バインダーを皮膜形成または含浸させる。
【0036】
請求項7の発明によれば、無機バインダーが混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)同士および、多孔質セラミックス支持体との緻密性および密着性が向上することで、熱膨張係数の違いおよび、多孔質セラミックス支持体自体の欠陥部や、多孔質セラミックス支持体への混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)の塗りむらに起因するクラックやピンホールを抑制できる。
【0037】
また、請求項7の方法によれば、混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)や多孔質セラミックス支持体より焼結温度が低い無機バインダーを介在させることで、焼結するまでの温度を低くすることができ、酸素分離膜の製造工程における低温化が可能であり、酸素分離膜の製造を、容易かつ安価に実施することができるという効果を奏する。
【0038】
請求項8の発明は、請求項7に記載の酸素分離膜の製造方法であって、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体と無機バインダーを皮膜形成または含浸させた後、もしくは皮膜形成または含浸させる際に、多孔質セラミックス支持体側から吸引ポンプで200kPa〜10kPaの圧力で吸引し、粒子同士の密度を高めるものである。
【0039】
請求項8の発明によれば、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体と無機バインダーの皮膜形成または含浸を確実に行なうことができるという効果を奏する。
【0040】
請求項9の発明は、酸素分離膜の製造方法であって、混合伝導体粉末を分散させた分散液を用い、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体粉末を、皮膜形成または含浸させた後、無機バインダーを分散させた分散液を用い、無機バインダーを、皮膜形成または含浸させる。
【0041】
請求項9の発明によれば、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体と無機バインダーの皮膜形成または含浸を、より一層確実に行なうことができるという効果を奏する。
【0042】
請求項10の発明は、請求項9に記載の酸素分離膜の製造方法であって、混合伝導体粉末を分散させた分散液を用い、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体粉末を、皮膜形成または含浸させた後、無機バインダーを分散させた分散液を用い、無機バインダーを、皮膜形成または含浸させる際に、多孔質セラミックス支持体側から吸引ポンプで200kPa〜10kPaの圧力で吸引する。
【0043】
請求項10の発明によれば、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体と無機バインダーの皮膜形成または含浸を、より一層確実に、しかも製造時間を短縮して行なうことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
つぎに、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
本発明による酸素分離膜は、多孔質セラミックス支持体上に、酸素イオンを伝導する混合伝導体粉末と、バインダーとからなる緻密層が形成されているものである。
【0046】
本発明の酸素分離膜によれば、多孔質セラミックス支持体(基材)、混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)、およびバインダーを用いて、ピンホール、およびクラックが無いか、もしくは非常に少なく、酸素分離機能を充分に具備するものである。
【0047】
本発明による酸素分離膜において、混合伝導体粉末は、具体的には、一般式、
A'1−XB'1−y3−α
を有するものである。
【0048】
上記式中、0<xであり、y<0.5であり、αは、電気的中性を保つための数値であり、Aは、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、A'は、上記Aで選択された元素を除く、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、Bは、Ti、Zr、Ce、Nb、Ta、およびGaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、B'は、Fe、Co、Cr、およびYよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素である。
【0049】
また、本発明による酸素分離膜において、多孔質セラミックス支持体は、具体的には、一般式、
A'1−XB'1−y3−α
を有するものである。
【0050】
上記式中、0<xであり、y<0.5であり、αは、電気的中性を保つための数値であり、Aは、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、A'は、上記Aで選択された元素を除く、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、Bは、Ti、Zr、Ce、Nb、Ta、およびGaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、B'は、Fe、Co、Cr、およびYよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素である。
【0051】
本発明において、最も好ましい多孔質セラミックス支持体は、式、
BaCe1−x3−α
を有するものである。
【0052】
上記式中、xは、0.6<x<1.0の範囲である。
【0053】
本発明による酸素分離膜において、バインダーは、具体的には、Mg、Ca、Sr、Sc、Si、Al、Co、Zn、Pb、Ce、Zr、Nd、およびSbよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素の酸化物、同元素の酸化物の混合体、もしくは同元素の複合酸化物である。
【0054】
なお、上記においては、混合伝導体粉末と、多孔質セラミックス支持体とが、同じ定義になっているが、これらが同一組成である場合もある。
【0055】
ここで、混合伝導体粉末と多孔質セラミック支持体が同一組成の場合には、例えば、事前に粒子径を変えること、または焼結により失われるような物質(有機物:ポリマー、炭化物等)を混合伝導体粉末側に含有させることで、多孔質セラミック支持体上に混合伝導体粉末の緻密層を形成することができるものである。
【0056】
本発明による酸素分離膜において、多孔質セラミックス支持体は、平均細孔径50μm〜3nm、および気孔率10〜50%を有するものであるのが、好ましい。
【0057】
ここで、多孔質セラミックス支持体の平均細孔径が、50μmを超えると、支持体(基材)の細孔内に混合伝導体粒子が進入し、膜厚が厚くなってしまうため、好ましくない。また、多孔質セラミックス支持体の平均細孔径が、3nm未満であれば、膜厚自体が厚くなってしまうため、好ましくない。また、多孔質セラミックス支持体の気孔率が、10%未満であれば、支持体の機械的強度の低下を招く恐れがあるので、好ましくない。多孔質セラミックス支持体の気孔率が、50%を超えると、支持体(基材)中を拡散するガスの抵抗が大きくなり、酸素透過性能が低下するので、好ましくない。
【0058】
本発明による酸素分離膜の製造方法は、混合伝導体粉末と無機バインダーとを同一の溶液中に分散させた分散液を用い、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体と無機バインダーを皮膜形成または含浸させるものである。
【0059】
本発明の酸素分離膜の製造方法において、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体と無機バインダーを皮膜形成または含浸させた後、もしくは皮膜形成または含浸させる際に、多孔質セラミックス支持体側から吸引ポンプで200kPa〜10kPaの圧力で吸引し、粒子同士の密度を高めるのが、好ましい。
【0060】
これにより、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体と無機バインダーの皮膜形成または含浸を確実に行なうことができる。
【0061】
なお、多孔質セラミックス支持体側からの吸引ポンプによる吸引圧力が、200kPaを超えると、基材中を拡散するガスの抵抗が大きくなり、酸素透過性能が低下するので、好ましくない。また、多孔質セラミックス支持体側からの吸引ポンプによる吸引圧力が、10kPa未満であれば、支持体の機械的強度が低下する恐れがあるので、好ましくない。
【0062】
また、本発明による酸素分離膜の製造方法は、混合伝導体粉末を分散させた分散液を用い、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体粉末を、皮膜形成または含浸させた後、無機バインダーを分散させた分散液を用い、無機バインダーを、皮膜形成または含浸させる。
【0063】
これにより、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体と無機バインダーの皮膜形成または含浸を、より一層確実に行なうことができる。
【0064】
あるいはまた、本発明による酸素分離膜の製造方法は、混合伝導体粉末を分散させた分散液を用い、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体粉末を、皮膜形成または含浸させた後、無機バインダーを分散させた分散液を用い、無機バインダーを、皮膜形成または含浸させる際に、多孔質セラミックス支持体側から吸引ポンプで200kPa〜10kPaの圧力で吸引する。
【0065】
これにより、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体と無機バインダーの皮膜形成または含浸を、より一層確実に、しかも製造時間を短縮して行なうことができる。
【0066】
なお、無機バインダーを分散させた分散液を用い、無機バインダーを、皮膜形成または含浸させる際に、多孔質セラミックス支持体側からの吸引ポンプによる吸引圧力が、200kPaを超えると、酸素分離膜として用いるのに十分な粒子同士の密度を超えるため、経済上好ましくない。また、多孔質セラミックス支持体側からの吸引ポンプによる吸引圧力が、10kPa未満であれば、酸素分離膜として用いるのに十分な粒子同士の密度が得られないので、好ましくない。
【0067】
本発明の酸素分離膜は、多孔質セラミックス支持体上に、酸素イオンを伝導する混合伝導体粉末と、バインダーとからなる緻密層が形成されているもので、本発明によれば、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)とバインダーを組み合せることで、多孔質セラミックス支持体・酸素分離膜全体の緻密性・密着性が向上する。すなわち、バインダーは、混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)や多孔質セラミックス支持体より焼結温度が低くされ、バインダーが混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)同士および、多孔質セラミックス支持体との緻密性および密着性が向上することで、熱膨張係数の違いおよび、多孔質セラミックス支持体自体の欠陥部や、多孔質セラミックス支持体への混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)の塗りむらに起因するクラックやピンホールを抑制することができる。
【0068】
また、本発明によれば、酸素分離膜の製造工程における低温化が可能である。すなわち、通常は、多孔質セラミックス支持体上に形成された混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)を、粉末同士が溶解する前の状態まで加熱することで、粉末同士を溶着(焼結)させているが、混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)や多孔質セラミックス支持体より焼結温度が低いバインダーを介在させることで、焼結するまでの温度を低くすることができる。
【0069】
図2は、多孔質セラミックス支持体上に、酸素イオンを伝導する混合伝導体粉末と、バインダーとからなる緻密層を形成した本発明の酸素分離膜のモデル図(イメージ図)を示すものである。
【0070】
本発明の酸素分離膜によれば、多孔質セラミックス支持体への混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)の塗りむらに起因するクラックやピンホールが非常に少なく、酸素分離膜の緻密化が向上しており、酸素透過速度が向上して、酸素含有ガス、主に空気から、酸素ガスもしくは酸素富化ガスを効率よく製造することができるものである。
【0071】
なお、本発明は、酸素イオン伝導性、酸素イオン・電子伝導性である混合伝導性を有するセラミックス膜を用いて、酸素含有ガス、主に空気から、酸素ガスもしくは酸素富化ガスを製造するための酸素分離膜、および酸素分離膜の製造方法だけでなく、酸素分離膜モジュール、および酸素製造装置にも関わるものである。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
実施例1
本発明の方法により、多孔質セラミックス支持体上に、酸素イオンを伝導する混合伝導体粉末と、バインダーとからなる緻密層が形成されている酸素分離膜を製造した。
【0074】
ここで、多孔質セラミックス支持体としては、BaCe0.80.23−αを使用した。多孔質セラミックス支持体(基材)は、BaC0、Ce0、及びYを混合し、カーボンブラック20重量%混合した粉末をペレット状にし、温度1550℃で焼成することにより作製したものを使用した。得られた多孔質セラミックス支持体は、平均細孔径15μm、および気孔率30%を有するものであった。
【0075】
調製方法1
工程1:混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)(Ca0.8Sr0.2Ti0.7Fe0.33−α)と、無機バインダー(バインダーA:BaO・75%、SiO・25%)の所定量を、イソプロパノールに分散させ、混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)と無機バインダーの混合分散液を調製する。
【0076】
工程2:上記工程1の混合分散液を超音波処理を1時間行なう。
【0077】
工程3:上記工程2の分散液を、上記の多孔質セラミックス支持体上に塗布する(スピンコート、500rpm)。
【0078】
工程4:塗布物を900℃、3時間カ焼を行なう。
【0079】
工程5:工程4で得られたサンプルを1450℃で焼成を行ない、本発明による酸素分離膜を製造した。
【0080】
実施例2
調製方法2
工程1:上記実施例1と同じ混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)と、上記実施例1と同じ無機バインダーAを所定の量をイソプロパノールに分散させ、混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)と、無機バインダーAの混合分散液を調製する。
【0081】
工程2:上記工程1の混合分散液を超音波処理、1時間行なう。
【0082】
工程3:上記工程2の分散液を、上記実施例1と同じ多孔質セラミックス支持体上に塗布する(スピンコート、500rpm)際に、多孔質セラミックス支持体側から吸引ポンプで20kPaまで吸引を行なう。
【0083】
工程4:塗布物を900℃、3時間カ焼を行なう。
【0084】
工程5:工程4で得られたサンプルを1450℃で焼成を行ない、本発明による酸素分離膜を製造した。
【0085】
実施例3
調製方法3
工程1:上記実施例1と同じ混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)の所定の量をイソプロパノールに分散させ、混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)の分散液を調製する。
【0086】
工程2:上記工程1の分散液を超音波処理、1時間行なう。
【0087】
工程3:上記工程2の分散液を、上記実施例1と同じ多孔質セラミックス支持体上に塗布する(スピンコート、500rpm)。
【0088】
工程4:上記工程3の塗布物を室温下で1時間乾燥させる。
【0089】
工程5:上記実施例1と同じ無機バインダーAの所定の量をイソプロパノールに分散させ、無機バインダーAの分散液を調製する。
【0090】
工程6:上記工程5の分散液を超音波処理、1時間行なう。
【0091】
工程7:上記工程4のサンプルを、上記実施例1と同じ多孔質セラミックス支持体側から吸引ポンプで20kPaまで吸引を行ないながら、上記工程6の分散液につける。
【0092】
工程8:塗布物を900℃、3時間カ焼を行なう。
【0093】
工程9:工程8で得られたサンプルを1450℃で焼成を行ない、本発明による酸素分離膜を製造した。
【0094】
実施例4〜6
上記実施例1〜3の場合と同様にして、本発明による酸素分離膜を製造するが、上記実施例1〜3の場合と異なる点は、無機バインダーとして、バインダーB:SrO・25%、SiO・25%、CaO・15%、BaO・20%、Al・15%を使用した点にある。
【0095】
実施例4〜6では、上記実施例1〜3の調製方法1〜3におけるバインダーAを、それぞれバインダーBに代えて、その他の点は、調製方法1〜3の場合と同様にして、本発明による酸素分離膜を製造した。
【0096】
酸素透過試験
本発明の実施例1〜6による酸素分離膜の性能を評価するために、酸素透過試験を行なった。
【0097】
酸素透過試験は、図3に示す酸素透過膜試験装置を用いて実施した。
【0098】
本発明の実施例1〜6による酸素分離膜を、2本の直径(φ)13mm×直径(φ)9mmのα―アルミナ管で挾み、ガラスでシールする。つぎに、試験装置を所定温度(900℃)まで昇温する。
【0099】
試験装置の下側からAirを100cc/minで流し、上側にHeを流す。そして、試験装置の下側から上側に透過してきたガス成分について、ガスクロマトグラフィー、および石鹸膜流量計で測定し、透過速度を算出した。得られた結果を、図4のグラフに示した。
【0100】
なお、比較のために、無機バインダーを用いていない従来の混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)/多孔質セラミックス支持体よりなる酸素分離膜を用いて、同様に酸素透過試験を行ない、得られた結果を、図4のグラフにあわせて示した。
【0101】
実験結果
本発明の実施例1〜6による酸素分離膜、および比較例の従来の酸素分離膜によるそれぞれの酸素透過試験の結果を図4に示した。
【0102】
図4の縦軸は、酸素透過速度(cc/min/cm )である。
【0103】
一方、図4の横軸は、左側から順に、比較例の混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)/多孔質セラミックス支持体よりなる酸素分離膜、実施例1〜3の混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)・無機バインダーA/多孔質セラミックス支持体よりなる酸素分離膜、実施例4〜6の混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)・無機バインダーB/多孔質セラミックス支持体よりなる酸素分離膜である。
【0104】
図4の結果から明らかなように、本発明の実施例1〜6において、無機バインダーを用いた場合は、実施例1〜6のいずれの調製方法であっても、酸素分離膜の緻密化が向上している。このことは、無機バインダーがクラック・ピンホールの抑制に効果的であるためである。そして、本発明の実施例1〜6による酸素分離膜によれば、いずれの場合も、酸素透過速度の向上が確認されており、酸素分離膜の膜厚を薄くできることが確認された。また、通常は1550℃で焼成を行なうが、1350℃までの低温化ができることもわかった。
【0105】
これに対し、比較例の従来の混合伝導体粉末(酸素分離膜材料)/多孔質セラミックス支持体よりなる従来の酸素分離膜では、無機バインダーを用いていないため、ピンホール・クラックの発生が非常に多く、これらのピンホールやクラックの存在により、結果として窒素も透過してしまっている。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】酸素分離膜としてペロブスカイト型混合伝導体セラミックスを用いた酸素の透過機構を説明する説明図である。
【図2】本発明による酸素分離膜の要部拡大断面図で、酸素分離膜による酸素の透過機構を示している。
【図3】本発明による酸素分離膜の酸素透過試験装置の概略断面図である。
【図4】本発明の実施例および比較例による酸素透過試験の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質セラミックス支持体上に、酸素イオンを伝導する混合伝導体粉末と、バインダーとからなる緻密層が形成されていることを特徴とする、酸素分離膜。
【請求項2】
混合伝導体粉末が、一般式、
A'1−XB'1−y3−α
を有するものであることを特徴とする、請求項1に記載の酸素分離膜。
上記式中、0<xであり、y<0.5であり、αは、電気的中性を保つための数値であり、Aは、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、A'は、上記Aで選択された元素を除く、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、Bは、Ti、Zr、Ce、Nb、Ta、およびGaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、B'は、Fe、Co、Cr、およびYよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素である。
【請求項3】
多孔質セラミックス支持体が、一般式、
A'1−XB'1−y3−α
を有するものであることを特徴とする、請求項1または2に記載の酸素分離膜。
上記式中、0<xであり、y<0.5であり、αは、電気的中性を保つための数値であり、Aは、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、A'は、上記Aで選択された元素を除く、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、Bは、Ti、Zr、Ce、Nb、Ta、およびGaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、B'は、Fe、Co、Cr、およびYよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素である。
【請求項4】
多孔質セラミックス支持体が、式、
BaCe1−x3−α
を有するものであることを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の酸素分離膜。
上記式中、xは、0.6<x<1.0の範囲である。
【請求項5】
バインダーが、Mg、Ca、Sr、Sc、Si、Al、Co、Zn、Pb、Ce、Zr、Nd、およびSbよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素の酸化物、同元素の酸化物の混合体、もしくは同元素の複合酸化物であること特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の酸素分離膜。
【請求項6】
多孔質セラミックス支持体が、平均細孔径50μm〜3nm、および気孔率10〜50%を有するものであることを特徴とする、請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の酸素分離膜。
【請求項7】
混合伝導体粉末と無機バインダーとを同一の溶液中に分散させた分散液を用い、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体と無機バインダーを皮膜形成または含浸させることを特徴とする、酸素分離膜の製造方法。
【請求項8】
多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体と無機バインダーを皮膜形成または含浸させた後、もしくは皮膜形成または含浸させる際に、多孔質セラミックス支持体側から吸引ポンプで200kPa〜10kPaの圧力で吸引し、粒子同士の密度を高めることを特徴とする、請求項7に記載の酸素分離膜の製造方法。
【請求項9】
混合伝導体粉末を分散させた分散液を用い、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体粉末を、皮膜形成または含浸させた後、無機バインダーを分散させた分散液を用い、無機バインダーを、皮膜形成または含浸させることを特徴とする、酸素分離膜の製造方法。
【請求項10】
混合伝導体粉末を分散させた分散液を用い、多孔質セラミックス支持体上に、混合伝導体粉末を、皮膜形成または含浸させた後、無機バインダーを分散させた分散液を用い、無機バインダーを、皮膜形成または含浸させる際に、多孔質セラミックス支持体側から吸引ポンプで200kPa〜10kPaの圧力で吸引することを特徴とする、請求項9に記載の酸素分離膜の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−6205(P2009−6205A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167111(P2007−167111)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】