説明

酸素分離膜材およびその製造方法

【課題】優れた酸素分離性能を備えた酸素分離膜材を容易に且つ安定的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明により所定の元素組成のペロブスカイト型酸化物相と金属酸化物相とが共存した混合相を含む酸素分離膜材の製造方法が提供される。かかる方法では、上記ペロブスカイト型酸化物を生成するための複数の金属化合物からなる出発原料粉末を用いる。出発原料粉末を構成する少なくとも一つの金属化合物は、上記ペロブスカイト型酸化物を構成する金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する金属酸化物相形成用金属化合物であり、出発原料粉末は、金属酸化物相形成用金属化合物の構成元素である金属元素の含有比率が上記ペロブスカイト型酸化物における上記金属元素の組成比よりも過剰となるような配合比で金属酸化物相形成用金属化合物をその他の金属化合物に配合することにより調製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素分離膜材およびその製造方法に関する。詳しくは、ペロブスカイト型酸化物と該ペロブスカイト型酸化物を構成する金属元素の酸化物との混合体からなる酸素分離膜材を製造する方法およびそのような方法を用いて製造された酸素分離膜材に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素イオン(典型的にはO2−;酸化物イオンとも呼ばれる。)伝導性を有する酸素イオン伝導体として、いわゆるペロブスカイト型構造の酸化物セラミックスが知られている。特に、酸素イオン伝導体であることに加え、電子伝導性を兼ね備えた酸素イオン−電子混合伝導体(以下、単に「混合伝導体」という。)であるペロブスカイト型酸化物から成る緻密なセラミック材、典型的には膜状に形成されたセラミック材は、その両面を短絡させるための外部電極や外部回路を用いることなく一方の面から他方の面に連続して酸素イオンを透過させることができる。このため、特許文献1〜3に記載されるように、一方の面に供給された酸素含有ガス(空気等)から酸素を他方の面に選択的に透過させる酸素分離膜材として、特に使用温度が800〜1000℃というような高温域で好適に利用することができる。
【0003】
例えば、ペロブスカイト型酸化物等の混合伝導体から構成される酸素分離膜は、多孔質基材(多孔質支持体)上に形成されて酸素分離膜エレメントとして用いられ、深冷分離法やPSA(Pressure Swing Adsorption)法に代わる有効な酸素精製手段として好適に使用することができる。また、かかる構成の酸素分離膜エレメントは、酸素含有ガス(空気)と炭化水素ガスとを隔絶し、酸素を選択的に透過させて炭化水素の部分酸化反応を行うための酸化反応装置、いわゆる隔膜リアクタの構成要素として好適に利用することができる。すなわち、酸素分離膜の一方側の表面に酸素含有ガス、他方側の表面に炭化水素ガス(例えばメタン)をそれぞれ接触させると、一方の表面から酸素分離膜内を透過して供給される酸素イオンによって、他方の面において炭化水素が部分酸化される。このように酸素分離膜を利用して炭化水素を部分酸化する技術は、合成液体燃料(メタノール等)を製造するGTL(Gas To Liquid)技術、或いは燃料電池分野で好適に使用される。
【0004】
酸素分離膜材の製造にあたり、近年では、酸素分離性能を向上させる(例えば電子伝導性をさらに向上させる)あるいは別の性能を付与するべく、酸素イオン伝導性酸化物材料に別の特性を備えた材料(例えば導電体)を添加してなる混合物を用いる技術が提案されている。例えば、特許文献4では、酸素イオン伝導性の酸化物と電子伝導性の酸化物とからなる固溶体であって多元系状態図から導き出される安定な混合組織相として存在する混合酸化物が提案されている。また、上記のようなペロブスカイト型酸化物材料に金属材料を添加してなる混合材料も検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−92103号公報
【特許文献2】特開昭61−21717号公報
【特許文献3】特開2003−63808号公報
【特許文献4】特開2003−286010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のようにして得られる混合材料は、互いに異なる材料同士を共存させることになるので、長期にわたり高い耐久性を維持することが困難となる虞がある。これに加えて、特許文献4に記載の混合酸化物の製造は、安定な混合組織相が形成され得る特定な製造条件の調整が難しい。また、ペロブスカイト酸化物に金属材料を添加して混合材料を製造する場合には、ペロブスカイト型構造の中に添加した金属材料の金属原子が取り込まれ得るために該ペロブスカイト構造が崩れるか、あるいは組成が変化することにより酸素分離性能自体が低下し得る虞がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、優れた酸素分離性能を備えた酸素分離膜材を容易に且つ安定的に製造する方法を提供することである。また、そのような方法により製造された酸素分離膜材の提供を他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、本発明によって酸素を選択的に透過させる酸素分離膜材であって所定の元素組成のペロブスカイト型酸化物を含む酸素分離膜材を製造する方法が提供される。
すなわち、ここで開示される方法は、上記所定の元素組成のペロブスカイト型酸化物を生成するための複数の金属化合物からなる出発原料粉末を用意すること、上記出発原料粉末を仮焼すること、上記得られた仮焼物を用いて成形用材料を調製し、膜状に成形すること、および上記膜状成形体を焼成すること、を包含する。ここで、上記出発原料粉末を構成する少なくとも一つの金属化合物は、上記所定の元素組成のペロブスカイト型酸化物を構成する金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する金属酸化物相形成用金属化合物であり、該金属酸化物相形成用金属化合物の構成元素である上記金属元素の含有比率が上記ペロブスカイト型酸化物における当該金属元素の組成比よりも過剰となるような配合比で上記金属酸化物相形成用金属化合物をその他の金属化合物に配合することにより調製されている。そして、ここで開示される方法は、上記ペロブスカイト型酸化物からなる相と上記過剰に配合された金属元素の酸化物からなる金属酸化物相とが共存した混合相を含む酸素分離膜材を製造する方法である。
本発明に係る酸素分離膜材の製造方法では、酸素イオン伝導体として機能し得る所定の元素組成のペロブスカイト型酸化物を生成するための複数の金属化合物(例えば、金属酸化物や炭酸塩等)からなる出発原料粉末を用いる。ここで、かかる出発原料粉末は、上記複数の金属化合物のうちの少なくとも一つを金属酸化物相形成用金属化合物として、当該金属酸化物相形成用金属化合物を構成する金属元素の含有比率が上記ぺロブスカイト型酸化物における該金属元素の組成比よりも過剰となるような配合比で配合されて調製されていることを本発明の特徴とする。このような出発原料粉末を用いることにより、上記ペロブスカイト型酸化物からなる相(以下、単に「ぺロブスカイト型酸化物相」ということもある。)と上記過剰に配合された金属元素の酸化物からなる金属酸化物相とが同時に生成するとともに、該二つの相が安定的に共存した混合相を含む酸素分離膜材を得ることができる。かかる混合相を含むことにより、上記ペロブスカイト型酸化物のみからなる酸素分離膜材に比べて、酸素イオン伝導性が向上して酸素分離性能に優れた酸素分離膜材を得ることができる。
したがって、本発明に係る酸素分離膜材の製造方法によると、実質的にペロブスカイト型酸化物のみからなる酸素分離膜材に比べて、より酸素分離性能に優れた酸素分離膜材を容易に製造することができる。
なお、本明細書中で「膜」とは特定の厚みに限定されず、上記酸素分離膜材は、例えば該膜材を支持する多孔質基材上に該膜材が形成されてなる酸素分離膜エレメントにおいて、少なくとも「酸素イオン伝導体」として機能する膜状若しくは層状の部分をいう。
【0009】
ここで開示される酸素分離膜材の製造方法の好ましい一態様では、上記所定の元素組成のペロブスカイト型酸化物として、一般式:
La1−xMO3−δ (1)
(ただし、Aは、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)およびカルシウム(Ca)からなる群から選択される1種または2種以上の元素であり、Mは、ペロブスカイト型構造を構成し得る1種または2種以上の金属元素であり、0≦x<1であり、δは電荷中性条件を満たすように定まる値である。)で表わされる。
より好ましくは、上記一般式(1)のMを構成する金属元素として、コバルト(Co)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、Fe(鉄)および銅(Cu)からなる群から選択される1種または2種以上を含むペロブスカイト型酸化物が得られるように、調製される。
上記一般式(1)で表わされる組成のペロブスカイト型酸化物は良好な酸素イオン伝導体として機能し得るので、かかる構成の製造方法によると、このようなペロブスカイト型酸化物を含む酸素分離膜材であってより優れた酸素イオン伝導性を有する酸素分離膜材が容易に実現される。特に、上記一般式(1)のMを構成する元素として上記のCo、Ti、Ni、Fe、およびCuのうちのいずれか1種以上を含むようなペロブスカイト型酸化物は、酸素イオン伝導性に加えて電子伝導性や酸素分離膜材としての機械的強度も向上し得るので、より一層優れた酸素分離膜材の提供が実現され得る。
【0010】
ここで開示される酸素分離膜材の製造方法のさらに好ましい一態様では、上記金属酸化物相形成用金属化合物を構成する金属元素がCoである。
かかる構成の製造方法によると、上記金属酸化物相形成用金属化合物としてCo含有化合物を採用し、出発原料粉末中にCoを過剰に配合することにより、Co酸化物と上記ペロブスカイト型酸化物とが上記混合相中で共存し、より一層良好な酸素イオン伝導性を有する優れた酸素分離膜材を得ることができる。
【0011】
ここで開示される酸素分離膜材の製造方法の別の好ましい一態様では、上記金属酸化物が前記ペロブスカイト型酸化物1モルに対して0.1モル〜2モルの割合で生成するような配合比で上記金属酸化物相形成用金属化合物をその他の金属化合物に配合する。
かかる構成の製造方法により得られる酸素分離膜材では、上記のような生成比で金属酸化物相とペロブスカイト型酸化物相とが共存し得ることにより、良好な酸素イオン伝導性を有する。したがってかかる構成の製造方法によると、優れた酸素分離性能を備えた酸素分離膜材が実現される。
【0012】
本発明は、他の側面として、ここで開示される製造方法により製造される酸素分離膜材を提供する。すなわち、ここで開示される酸素分離膜材は、所定の元素組成のペロブスカイト型酸化物からなる相と、該ペロブスカイト型酸化物を構成する金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する金属酸化物からなる相とが共存した混合相を含む。
本発明に係る酸素分離膜材は、上記のような混合相を含むことにより、上記ペロブスカイト型酸化物相のみからなる酸素分離膜材に比べて、酸素イオン伝導性が向上し、酸素分離性能に優れた好ましい酸素分離膜材として提供される。
【0013】
ここで開示される酸素分離膜材の好ましい一態様では、上記所定の元素組成のペロブスカイト型酸化物は、一般式:
La1−xMO3−δ (1)
(ただし、Aは、Sr、BaおよびCaからなる群から選択される1種または2種以上の元素であり、Mは、ペロブスカイト型構造を構成し得る1種または2種以上の金属元素であり、0≦x<1であり、δは電荷中性条件を満たすように定まる値である。)で表わされる。より好ましくは、上記一般式(1)のMを構成する元素として、Co、Ti、Ni、Fe、MnおよびCuからなる群から選択される1種または2種以上を含む。
このようなペロブスカイト型酸化物を含むことにより、かかる酸素分離膜材は、より優れた酸素イオン伝導性を有する。特に、上記一般式(1)のMを構成する元素としてCo、Ti、Ni、Fe、およびCuのうちのいずれか1種以上を含むことにより、酸素イオン伝導性に加えて電子伝導性や酸素分離膜材としての機械的強度も向上し、より一層優れた酸素分離膜材を実現することができる。
【0014】
ここで開示される酸素分離膜材のさらに好ましい一態様では、上記ペロブスカイト型酸化物を構成する金属元素であって上記金属酸化物からなる相を構成する金属元素としてCoを含む。
かかる構成の酸素分離膜材によると、さらに酸素イオン伝導性が向上して優れた酸素分離膜材を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例における酸素透過試験を実施するために用いた評価装置の要部を模式的に示す断面図である。
【図2】サンプル3の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】図2とは倍率の異なるサンプル3の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】サンプル16の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、酸素分離膜材の出発原料粉末の調製方法)以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、出発原料粉末の混合方法や、酸素分離膜材の製膜方法または焼成方法)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0017】
本発明によって提供される酸素分離膜材の製造方法は、所定の元素組成のペロブスカイト型酸化物を含む酸素分離膜材を製造する方法に基づいており、上記ペロブスカイト型酸化物を生成するための複数の金属化合物からなる出発原料粉末を用いるが、上記複数の金属化合物のうちの少なくとも一つを金属酸化物相形成用金属化合物として、当該金属酸化物相形成用金属化合物を構成する金属元素の含有比率が上記ぺロブスカイト型酸化物における該金属元素の組成比よりも過剰となるような配合比で配合されて調製されていることによって特徴付けられるものである。また、かかる方法は、上記のような配合比で調製された出発原料粉末を用いることにより、上記所定の元素組成のペロブスカイト型酸化物からなる相と、上記金属酸化物相形成用金属化合物として出発原料粉末中に過剰に配合された金属元素の酸化物からなる相とが共存した混合相を含む酸素分離膜材を製造することを特徴としている。したがって、上記目的を達成し得る限りにおいて、その他の構成成分の内容や組成については、種々の基準に照らして任意に決定することができる。以下、ここで開示される酸素分離膜材の製造方法の一好適例について説明する。
【0018】
まず、所定の元素組成のペロブスカイト型酸化物を生成するための金属化合物からなる出発原料粉末を用意する。ここで、かかるペロブスカイト型酸化物としては、特定の構成元素のものに限られないが、酸素イオン伝導性と電子伝導性の両方を有する優れた混合伝導体となるような元素で構成されることが好ましい。ここで開示される酸素分離膜材が混合伝導性を有する場合には、酸素分離膜の一方の側(酸素含有ガスが供給される側)と他方の側(酸素分離膜材を透過した酸素イオンが酸素ガスとして酸化される側、あるいは供給された炭化水素ガスと反応する側)とを短絡させるための外部電極や外部回路を用いることなく、一方から他方へと連続的に酸素イオンを透過させることができるとともに、酸素イオンの透過速度を上げることができるため好ましい。
【0019】
このような混合伝導性を有し得るペロブスカイト型酸化物としては、一般式(1):La1−xMO3−δで表わされる組成のペロブスカイト型酸化物が好ましい。ここで、Aは、Sr、BaおよびCaのうちの1種または2種以上の元素であり、特に好ましくはSrである。また、Mは、ペロブスカイト型構造を構成し得る金属元素であり、例えばスカンジウム(Sc)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、または錫(Sn)のうちの1種または2種以上である。
また、上記一般式(1)における「x」は、このペロブスカイト型構造においてランタン(La)がAによって置き換えられた割合を示す値である。このxの取り得る範囲は、ペロブスカイト型構造を崩すことなく該構造を維持し得る限りにおいて特に限定されないが、0≦x<1が適当であり、好ましくは0.1≦x<1であり、より好ましくは0.3≦x≦0.6であり、例えば0.4≦x≦0.6である。
なお、上記δは電荷中性条件を満たすように定まる値である。上記化学式における酸素原子数は、ペロブスカイト型構造の一部を置換する原子の種類および置換割合その他の条件により変動するため正確に表示することは困難である。このため、電荷中性条件を満たすように定まる値として、1を超えない正の数δ(0<δ<1)を採用し、酸素原子の数を3−δと表示するのが妥当であるが、以下では便宜的に3と表示することもある。ただし、該酸素原子の数を便宜的に3として表示しても、異なる化合物を表しているわけではない。
【0020】
また、上記のようなペロブスカイト型酸化物として、より好ましくは、上記一般式(1)のM(すなわちペロブスカイト型酸化物のBサイトを構成する金属元素)として、Co、Ti、Ni、Fe、MnまたはCuのうちの1種以上含まれているものが好ましい。より好ましくは、触媒金属としても用いられ得る程度に反応性の高いCoが含まれているものを採用する。このようなペロブスカイト型酸化物としては、例えば、La1−xSrCo1−yTi、La1−xSrCo1−yFe、La1−xSrCo1−yNi等が挙げられる。ここで、上記「y」は、かかるペロブスカイト型構造においてCoがTiやFe等の他の金属元素によって置き換えられた割合を示す値であり、上記のようなペロブスカイト型コバルト酸化物の「y」の取り得る好ましい範囲は、0≦y≦0.4、より好ましくは0.1≦y≦0.3である。このようなペロブスカイト型酸化物が混合相の構成要素として含まれることにより、かかる混合相を含む酸素分離膜材は、酸素イオン伝導性が向上して良好な酸素分離性能を実現し得る。また、上記金属元素MとしてFeを含むペロブスカイト型酸化物は電子伝導性を向上させ得るとともに、Tiを含むペロブスカイト型酸化物は、該ペロブスカイト型酸化物の機械的強度を向上させ得る。このように、所望する特性に応じて上記金属元素Mを適宜選択することによりかかる特性がバランスよく付与された好ましい酸素分離膜材を得ることができる。
【0021】
上記のようなペロブスカイト型酸化物を生成するための金属化合物(金属含有化合物)としては、特に制限なく用いることができるが、例えば、かかるペロブスカイト型酸化物を構成する金属元素のうちの少なくとも1種を含む金属酸化物、あるいは炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、ハロゲン化物、水酸化物、オキシハロゲン化物等、加熱により酸化物となり得る金属化合物であって常温下で安定的に存在して安価に入手可能である粉末状の金属化合物を用意することが好ましい。
次に、上記ペロブスカイト型酸化物を生成するための金属化合物を、所定の配合比で配合して出発原料粉末を調製する。ここで、かかる出発原料粉末の調製にあたり、各金属化合物の配合比を以下のようにして決めることが好ましい。すなわち、まず、上記ペロブスカイト型酸化物を構成する金属元素のうちの少なくとも1種の金属元素を構成元素として有する金属化合物を金属酸化物相形成用金属化合物とする。そして、この金属酸化物相形成用金属化合物を構成する金属元素(以下、単に「金属酸化物相形成用金属元素」ということもある。)の上記出発原料粉末中の含有比率が、上記ペロブスカイト型酸化物における当該金属元素の(化学量論的な)組成比(すなわち、上記ペロブスカイト型酸化物1モルあたりの当該金属元素の構成比であって、換言すれば該ペロブスカイト型酸化物の化学式における上記金属元素の元素記号の右下の数値)よりも過剰となるように上記金属酸化物相形成用金属化合物をその他の金属化合物に配合する。また、上記その他の金属化合物については、それぞれの金属化合物に含まれる金属元素の含有比率が上記ペロブスカイト型酸化物における該金属元素の組成比と同じになるように配合すればよい。このような各金属元素の上記含有比率に基づいて、上記ペロブスカイト型酸化物を生成するための複数の金属化合物の配合量をそれぞれ決定する。例えば、上記ペロブスカイト型酸化物としてLa1−xSrCo1−yTiで表わされるペロブスカイト型酸化物(ここで、0<x<1、0<y<1)からなる相とCo酸化物からなる相とが共存する混合相を含む酸素分離膜材を製造する場合には、用意する出発原料粉末中に含まれるLa、Sr、CoおよびTiの含有比率(モル比)として、Laは上記ペロブスカイト型酸化物のLaの組成比である(1−x)モル、同様にSrはxモル、およびTiはyモルを満たすように、上記各金属化合物(すなわち、ここではLa含有化合物、Sr含有化合物およびTi含有化合物)の配合比を定め、互いに配合する。そして、Coについては、Coの含有比率が上記ペロブスカイト型酸化物におけるCoの組成比(1−y)モルよりも過剰となるようにCo含有化合物(金属酸化物相形成用金属化合物)の配合比を定め、上記その他の金属化合物に配合する。このような配合比で上記全ての金属化合物を配合し、十分に混合(混練)する。このようにして本発明に係る酸素分離膜材の出発原料粉末を調製する。
【0022】
上記出発原料粉末中に過剰に配合される金属元素(すなわち金属酸化物相形成用金属元素)において、どの程度の大きさの含有比率で過剰に配合させればよいのかについては、以下のように設定することが好ましい。ここで、かかる金属元素の配合量全体のうちの上記ペロブスカイト型酸化物の組成比に相当する分は、上記出発原料粉末中に配合されているその他の金属元素とともに上記ペロブスカイト型酸化物を生成し、本発明に係る酸素分離膜材に含まれ得る後述の混合相のうちのペロブスカイト型酸化物相を形成し得る。これに対し、上記過剰に配合された金属酸化物相形成用金属元素の含有比率のうち、その全体から上記ペロブスカイト型酸化物の組成比分を引いた差分は、該金属酸化物相形成用金属酸化物を生成し、上記ペロブスカイト型酸化物相と共存し得る金属酸化物相を形成し得る。
したがって、上記金属酸化物形成用金属化合物をその他の金属化合物に配合する際には、上記ペロブスカイト型酸化物の生成に寄与し得る分に加え、上記金属酸化物の生成に寄与し得る分だけ過剰に配合することが好ましい。酸素分離性能に優れた好適な酸素分離膜材の実現のためには、上記ペロブスカイト型酸化物1モルに対して上記金属酸化物が0.1モル〜2モル(より好ましくは0.1モル〜1.5モル、例えば0.1モル〜1モル)の割合で生成するような配合比で上記金属酸化物相形成用化合物を過剰に配合することが好ましい。例えば、上記ペロブスカイト型酸化物がLa1−xSrCo1−yTiであり、0<x<1、0<y<1)で表わされるペロブスカイト型酸化物であり、上記金属酸化物がCo酸化物である場合には、上記出発原料粉末中に含まれるCoの含有比率が上記ペロブスカイト型酸化物相の形成に寄与され得る(1−y)モルに0.1モル〜2モルを追加した含有比率となるようにCo含有化合物の配合量を決め、該Co含有化合物をその他の金属化合物に配合する。このようにして上記出発原料粉末を調製する。
なお、かかる出発原料粉末としては、上記のように調製したものを用いてもよいし、あるいは、上記ペロブスカイト型酸化物を生成するための複数の上記金属化合物が所定の割合で配合されて予め調製された状態にあるものを用いてもよい。
【0023】
上記のような配合比でそれぞれ配合された各金属化合物を混合(混練)する方法については従来の混合技術を特に制限なく用いることができる。典型的には、乾式または湿式のボールミル等の混練機に(例えば所定量の玉石とともに)上記各金属化合物を投入し、数〜数十時間(投入量により異なるが、例えば5時間〜30時間、好ましくは10時間〜20時間)混練する。このように十分に混練することにより、酸素分離膜材用の出発原料粉末を得る。かかる出発原料粉末の平均粒径は、例えば0.5μm〜3μm(好ましくは凡そ1μm〜2μm)である。ここで平均粒径とは、出発原料粉末の粒度分布におけるD50(メジアン径)をいう。なお、上記湿式で混練した場合には、効率よく仮焼を実施するために乾燥工程を経てもよい。
【0024】
次に、上記出発原料粉末を仮焼する。仮焼方法としては、特に限定されず、従来の仮焼方法を用いることができ、例えば上記出発原料粉末を粉末状のまま所定容器(例えばアルミナ製のるつぼ)に収容して焼成する方法、あるいは適当な形状に成形(例えば圧縮成形)して得られた成形体を焼成する方法等が挙げられる。焼成雰囲気としては酸化性雰囲気(例えば大気中)または不活性ガス雰囲気中で行うことができる。仮焼温度としては、特に制限されないが、好ましくは、仮焼後に行われる後述の本焼成の焼成温度よりも低い温度(例えば800℃〜1500℃、好ましくは900℃〜1200℃)で行う。また、仮焼成時間についても特に制限されず、例えば3時間〜10時間、好ましくは4時間〜8時間である。
このように出発原料粉末を仮焼した後に得られる仮焼物は、解砕して所定粒径の本焼成用原料粉末(仮焼粉末)とすることが好ましい。例えば、上記仮焼物に対して水等を加え、ボールミル等を用いて(例えば5時間〜30時間、好ましくは10時間〜20時間)湿式解砕することにより、仮焼粉末を得る。かかる仮焼粉末の平均粒径としては、凡そ(0.5μm〜10μmの範囲とすることが適当であり、好ましくは0.8μm〜3μmの範囲である。また、このようにして得られた仮焼粉末に対して、例えば水、有機バインダ(ポリビニルアルコール)等の成形助剤、および分散剤を添加、混合して適当な造粒機を用いて造粒することにより、上記仮焼粉末の平均粒径を調整してもよい。かかる平均粒径の調整は、例えば適当な多孔質支持体の表面に緻密な酸素分離膜を所定の膜厚で形成するのに好適となるように行われる。なお、かかる造粒を例えば湿式で行った際には、造粒後に適当な条件(例えば80℃の乾燥機内で3時間以上)で仮焼粉末を乾燥させてもよい。
【0025】
次に、得られた仮焼粉末を用いて成形用材料を調製する。成形用材料の調製方法については、従来の方法を特に制限なく用いることができる。例えば多孔質支持体上に形成されてなる酸素分離膜材を製造する場合の成形用材料の典型例としては、上記仮焼粉末を適当なバインダや溶剤(分散媒)等と混合して得られる(例えばディップコーティングに適した)スラリー状の成形用材料(ペースト状組成物)である。ここで、上記成形用材料中における上記仮焼粉末の濃度、溶剤の種類、あるいは上記成形用材料中に添加され得る分散剤や可塑剤等の添加剤の種類、上記成形用材料の粘度、製膜条件、さらには乾燥条件等を適宜調整することにより、形成する酸素分離膜材の膜厚を制御することができる。
上記バインダの好適例としては、セルロースまたはその誘導体が挙げられる。具体的には、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルメチルセルロース、セルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、およびこれらの塩が挙げられる。バインダは、成形用材料全体の0.5〜20質量%の範囲で含まれることが好ましい。また、上記溶剤(分散媒)としては、例えば、水(水系溶媒)、あるいはエーテル系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤等の有機溶剤が挙げられる。該有機溶剤として、より具体的には、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ターピネオール等の高沸点有機溶媒またはこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。上記成形用材料における溶媒の含有率は、特に限定されないが、該材料全体の1〜40質量%程度が好ましい。また、添加剤として上記成形用材料中に、例えば分散剤や可塑剤等を添加してもよい。これら添加剤を目的に応じて適量を添加することにより好適な成形用材料を調製することができる。なお、上記成形用材料に用いられるバインダ、溶剤および他の添加成分(例えば分散剤)は、特に限定されるものではなく、スラリー製造において従来公知のものから適宜選択して用いることができる。
【0026】
次に、上記のようにして得られたスラリー状の成形用材料を膜状に成形する。かかる成形方法については、従来の製膜方法を特に制限なく採用することができる。例えば一般的なディップコーティング等の手法によって該成形用材料を多孔質支持体表面に所定膜厚で付与(塗布)すればよい。ディップコーティングする際のディップ時間は、例えば10秒間〜60秒間程度とすることができる。また、スラリー状の成形用材料中から上記多孔質支持体を例えば1mm/秒〜60mm/秒程度の引上げ速度で取り出すとよい。このように多孔質支持体上の塗布物を常温〜100℃程度の温度で1時間〜12時間程度乾燥させる。なお、かかる成形用材料のディップおよび乾燥は、必要に応じて複数回繰り返して行ってもよい。また、ディップコーティング以外の製膜方法としては、例えばスプレーコーティング、スピンコーティング、ロールコーティング、刷毛塗り、転写塗布等が挙げられる。以上のようにして、上記成形用材料を膜状に成形する。
【0027】
上記では、多孔質支持体表面上に酸素分離膜材を形成する場合の成形方法について説明したが、かかる方法に限定されない。本発明にかかる酸素分離膜材が、例えば多孔質支持体を設けず該支持体によって支持されない構成である場合には、上記成形用材料を従来公知の圧縮成形法により所定厚の薄板状の成形体に成形してもよい。
【0028】
次いで、上記成形された塗布物(酸素分離膜材)を焼成する。かかる焼成については、ペロブスカイト型酸化物からなる成形体を焼成するための従来公知の焼成条件を採用すればよい。例えば1000℃〜1800℃程度(好ましくは1000℃〜1500℃、より好ましくは1100℃〜1400℃)の温度域で3時間〜10時間(好ましくは4時間〜8時間、より好ましくは5時間〜7時間)程度酸化性雰囲気または不活性ガス雰囲気下で焼成することにより、本発明に係る酸素分離膜材が製造される。
【0029】
以上のように製造された酸素分離膜材としては、緻密であって(例えば、理論密度に対する相対密度が95%以上であり)、実質的にガス不透性であることが好ましい。また、かかる酸素分離膜材の厚さ寸法については、当該酸素分離膜材が多孔質支持体で支持されていない場合には、20μm〜5000μmの範囲内が好ましい。一方、多孔質支持体で支持されている場合には、1000μm以下の範囲内が適当であり、好ましくは200μm以下(典型的には、凡そ5μm〜200μm)の範囲であり、より好ましい態様では凡そ100μm以下(典型的には、凡そ5μm〜100μm)の範囲であり、薄いものほど好ましい。酸素分離膜材が多孔質支持体に支持されている場合には、該酸素分離膜材自体に機械的強度は要求されず、該酸素分離膜材の緻密性が維持される範囲にあれば上記厚さ寸法の下限は特に限定されない。以上のように、上記酸素分離膜材の厚さが上記範囲内にあることにより、酸素イオン透過性能と機械的強度(例えば酸素分離膜材の両側に生じる応力によって発生し得るクラックが抑制される等の耐久性)とが高い次元で両立し得る酸素分離膜材が実現される。
また、ここで開示される酸素分離膜材では、該酸素分離膜材を製造する上記出発原料粉末中に含まれている金属元素から構成されるペロブスカイト型酸化物からなる相と、上記金属元素のうち金属酸化物相形成用金属元素として過剰に配合された少なくとも1種の金属元素からなる金属酸化物からなる相とが上記焼成(本焼成)によって同時に生成するとともに、かかる二つの相が安定して共存した混合相が形成される。このように上記金属酸化物相が上記ペロブスカイト型酸化物相と共存する混合相を備えていることにより、上記ペロブスカイト型酸化物からなる相のみを含む酸素分離膜材に比べて酸素イオン伝導性が向上する。したがって、本発明により、従来のペロブスカイト型酸化物を含む酸素分離膜材に比べ、酸素分離膜性能により一層優れた酸素分離膜材が容易に提供される。
【0030】
なお、上記のような酸素分離膜材を支持する多孔質支持体としては、従来のこの種の膜エレメント(例えば酸素分離膜エレメント)で採用されている種々の性状のセラミック多孔質体を使用することができる。上記酸素分離膜材の使用温度域(典型的には500℃以上、好ましくは800〜1000℃)において安定な耐熱性を有する材質からなるものが好ましく用いられる。例えば、上記酸素分離膜材に含まれるペロブスカイト型酸化物と同様の組成を有するセラミック多孔質体、あるいはマグネシア(酸化マグネシウム)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、窒化ケイ素、炭化ケイ素等を主体とするセラミック多孔質体を用いることができる。あるいは、金属材料を主体とする金属質多孔体を用いてもよい。また、かかる多孔質支持体の形状は特に限定されず、例えば、板状(平面状、球面状等を含む。)や、管状(両端が開口した開管状、一端が開口し他端が閉じている閉管状等を含む。)等が挙げられ、その所定部分の一部または全面に上記酸素分離膜材を形成させることができる。さらに、上記多孔質基材の気孔率(水銀圧入法に基づく)についても特に限定されないが、例えば凡そ80体積%以下(典型的には凡そ5体積%〜80体積%)が適当であり、好ましくは60体積%以下(典型的には50体積%〜60体積%)である。また、かかる多孔質支持体の平均細孔径(水銀圧入法に基づく)としては、例えば20μm以下(典型的には0.1〜20μm)が好ましい。このような気孔率および平均細孔径を有する多孔質基材は、酸素含有ガス等の気体の透過を妨げることがなく、またその表面により薄い酸素分離膜材を好適に形成することができる。
【0031】
以下、本発明に関する実施例を図1〜図8を参照しつつ説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0032】
<例1:酸素分離膜材の出発原料粉末の調製>
ペロブスカイト型酸化物を生成するための金属化合物として、市販の酸化ランタン(La)粉末(和光純薬工業株式会社製品)、炭酸ストロンチウム(SrCO)粉末(和光純薬工業株式会社製品)、酸化コバルト(Co)粉末(和光純薬工業株式会社製品)、および酸化チタン(TiO)粉末(和光純薬工業株式会社製品)を用意した。
次に、上記La、SrCO、およびTiO粉末については、La、Sr、Co、およびTiが構成し得るペロブスカイト型酸化物(La1−xSrCo1−yTi)の組成の化学量論比で混合した。すなわち、Laは(1−x)モル、Srはxモル、Tiはyモルとなるように上記各金属化合物粉末をそれぞれ秤量し、配合した。一方、Co粉末については、当該粉末を金属酸化物形成用金属化合物として、上記ペロブスカイト型酸化物におけるCoの組成比(すなわち(1−y)モル)よりも所定量だけ過剰となるように上記Co粉末を秤量し、配合した。このような配合比で上記各粉末が配合されている混合粉末200gを、玉石200gとともに乾式ボールミルにて18時間混練した。これにより出発原料粉末を得た。得られた出発原料粉末を1000℃の焼成温度で6時間大気中で仮焼した。このようにして得られた仮焼物を、今度は精製水200gとともに湿式ボールミルにて18時間解砕した。次いで、かかる仮焼物を15質量%のポリビニルアルコール水溶液10mLとともに乳鉢に入れて造粒を行い、酸素分離膜材成形用の材料粉末を得た。
ここで、出発原料粉末において、上記ペロブスカイト型酸化物(La1−xSrCo1−yTi)におけるx=0.5モルおよびy=0.25モルを満たすような配合比(すなわちLaが0.5モル、Srが0.5モル、およびTiが0.25モル含まれるモル比)で上記La、Sr、Tiを含むとともに、上記Coを0.75モル(すなわち(1−y)モル)よりも1モル過剰な1.75モル含む配合比の出発原料粉末を調製した。この出発原料粉末を原料1とした。
また、上記ペロブスカイト型酸化物(La1−xSrCo1−yTi)におけるx=0.5モルおよびy=0.2モルを満たすような配合比(すなわちLaが0.5モル、Srが0.5モル、およびTiが0.2モル含まれるモル比)で上記La、Sr、Tiを含むとともに、上記Coを0.8モル(すなわち(1−y)モル)よりも0.5モル分過剰の1.3モル含む配合比の出発原料粉末を調製した。この出発原料粉末を原料2とした。
【0033】
上記原料1におけるTiO粉末に代えて、酸化ニッケル(NiO)粉末(和光純薬工業株式会社製品)を用いる以外は原料1と同じである出発原料粉末を調製した。この出発原料粉末を原料3とした。
上記原料2におけるTiO粉末に代えて、酸化ニッケル(NiO)粉末を用いる以外は原料2と同じである出発原料粉末を調製した。この出発原料粉末を原料4とした。
上記原料1におけるTiO粉末に代えて、酸化鉄(Fe)粉末(和光純薬工業株式会社製品)を用いる以外は原料1と同じである出発原料粉末を調製した。この出発原料粉末を原料5とした。
上記原料2におけるTiO粉末に代えて、酸化鉄(Fe)粉末を用いる以外は原料2と同じである出発原料粉末を調製した。この出発原料粉末を原料6とした。
上記原料1におけるTiO粉末に代えて、炭酸カルシウム(CaCO)粉末(和光純薬工業株式会社製品)を用いる以外は原料1と同じである出発原料粉末を調製した。この出発原料粉末を原料7とした。
上記原料1におけるTiO粉末に代えて、酸化マンガン(MnO)粉末(和光純薬工業株式会社製品)を用いる以外は原料1と同じである出発原料粉末を調製した。この出発原料粉末を原料8とした。
上記原料1におけるTiO粉末に代えて、酸化銅(CuO)粉末(和光純薬工業株式会社製品)を用いる以外は原料1と同じである出発原料粉末を調製した。この出発原料粉末を原料9とした。
【0034】
次に、上記と同様のLa、SrCO、Co粉末を用意し、配合比として上記ペロブスカイト型酸化物(La1−xSrCo1−yTi)におけるx=0.5モルおよびy=0モルを満たすような配合比(すなわちLaが0.5モル、Srが0.5モル、Coが1モル含まれるようなモル比)で出発原料粉末を調製した。この出発原料粉末を原料10とした。
また、上記と同様のLa、SrCO、Co、TiO粉末を用意し、上記ペロブスカイト型酸化物(La1−xSrCo1−yTi)におけるx=0.5モルおよびy=0.1モルを満たすような配合比(すなわちLaが0.5モル、Srが0.5モル、Coが0.9モルおよびTiが0.1モル含まれるモル比)の出発原料粉末を調製した。この出発原料粉末を原料11とした。
上記と同様のLa、SrCO、Co、TiO粉末を用意し、上記ペロブスカイト型酸化物(La1−xSrCo1−yTi)におけるx=0.5モルおよびy=0.3モルを満たすような配合比(すなわちLaが0.5モル、Srが0.5モル、Coが0.7モルおよびTiが0.3モル含まれるモル比)の出発原料粉末を調製した。この出発原料粉末を原料12とした。
【0035】
上記原料11におけるTiO粉末に代えて、上記と同様のNiO粉末を用いる以外は原料11と同じである出発原料粉末を調製した。この出発原料粉末を原料13とした。
上記原料12におけるTiO粉末に代えて、上記と同様のNiO粉末を用いる以外は原料12と同じである出発原料粉末を調製した。この出発原料粉末を原料14とした。
上記原料11におけるTiO粉末に代えて、上記と同様のFe粉末を用いる以外は原料11と同じである出発原料粉末を調製した。この出発原料粉末を原料15とした。
以上の各サンプル1〜15と該サンプルに含まれる各金属元素の配合比(組成比)との関係を表1に示した。
【0036】
<例2:酸素分離膜材の作製>
次に、原料1の出発原料粉末からなる酸素分離膜材成形用の材料粉末に対して、バインダとしてのポリビニルアルコール(昭和電工株式会社製品)および溶剤を混合して成形用材料を調製した。その後、かかる成形用材料を用いて100MPaで10秒間圧縮するプレス成形により直径18mmの円板状に成形した。この成形体を大気中で1400℃〜1600℃まで昇温して6時間保持して焼成し、その後研磨することにより、膜厚0.5μmの酸素分離膜材を作製した。得られた酸素分離膜材をサンプル1とした。残りの原料2〜15についても原料1と同様にして酸素分離膜材を作製した。これら酸素分離膜材をそれぞれサンプル2〜15とした。
【0037】
次に、以下のような方法によりサンプル16を作製した。
まず、上記原料3で用いたのと同じLa、SrCO、Co、およびNiO粉末を用意し、ペロブスカイト型酸化物(La1−xSrCo1−yNi)におけるx=0.5モルおよびy=0.1モルを満たすような配合比(すなわちLaが0.5モル、Srが0.5モル、Coが0.9モルおよびNiが0.1モル含まれるモル比)の混合粉末を得た。次いで、かかる混合粉末200gを、玉石200gとともに乾式ボールミルにて18時間混練して出発原料粉末を得た。これにより得られた出発原料粉末を1000℃の焼成温度で6時間大気中で仮焼した。このようにして得られた仮焼物を、今度は精製水200gとともに湿式ボールミルにて18時間解砕することにより酸素分離膜材成形用の材料粉末を得た。
次に、上記仮焼後に得られた材料粉末に対して、Coが0.85モルおよびNiが0.15モルだけさらに多く上記材料粉末中に含まれるように、Co粉末およびNiO粉末を追加して添加し、上記材料粉末と混合して混合材料粉末を調製した。結局、かかる混合材料粉末中に含まれている各金属元素の配合割合(モル比)としては、Laは0.5モル、Srが0.5モル、Coは出発原料粉末調製当初の0.9モルと追加分の0.85モルの計1.75モル、Niは出発原料粉末調製当初の0.1モルと追加分の0.15モルの計0.25モルであった。次に、このような混合材料粉末に対して上記と同様に造粒した。
次いで、上記と同じバインダおよび溶剤を混合して成形用材料を調製した。その後、かかる成形用材料を用いて100MPaで10秒間圧縮するプレス成形により直径18mmの円板状に成形した。この成形体を大気中で1400℃〜1600℃まで昇温して6時間保持して焼成し、その後研磨することにより、膜厚0.5μmの酸素分離膜材(サンプル16)を作製した。なお、表1において、CoおよびNiの組成における括弧内の数字は、仮焼後に追加した分のモル比を示している。
【0038】
<例3:酸素分離膜材のSEM観察およびEDX評価>
次に、上記サンプル3についてSEM観察を実施した。その結果を図2および図3に示す。図2は、サンプル3の電子顕微鏡(SEM)写真である。図3は、図2とは倍率の異なるサンプル3のSEM写真である。図2および図3に示されるように、サンプル3では、なだらかな隆起のある基本相と、該基本相上に点在するスポット状の相とが共存していることが認められた。ここで、EDXにより上記基本相およびスポット相の組成を定量分析したところ、基本相の部分では、La、Sr、CoおよびNiが検出され、それぞれLaが24.1%、Srが26.2%、Coが41.8%、およびNiが7.9%の割合で存在していた。これに対し、スポット相の部分からは、Coが99.8%、Niが0.2%の存在比で検出され、かかるスポット相からは、原料3中に過剰に添加されたほぼCoのみが存在していることがわかった。かかるサンプル3は、大気中で焼成していることから上記スポット相は、Coの酸化物から構成されているものと判断された。なお、TEM観察に基づく定性分析を別途実施したところ、かかるスポット相には酸素の存在が示され、Co酸化物が形成されていることが確認されている。また、サンプル1〜9についても、サンプル3と同様に、過剰に出発原料粉末中に配合された金属元素(すなわちCo)の酸化物からなる相の存在が認められた。
一方、上記サンプル16についてもSEM観察を実施した。その結果を図4に示す。図4に示されるように、微細な相が凝集しているような形態であり、同倍率におけるサンプル3のSEM写真(図3)と比較しても、上記スポット相のように比較的大きな相の点在は認められなかった。なお、サンプル16におけるEDX評価を実施したところ、いずれの場所からもLa、Sr、CoおよびNiが検出されたが、上記サンプル3におけるスポット状の金属酸化物相のような存在、すなわち仮焼後に追加したCoやNiからなる金属酸化物が基本相とは異なる相を形成して存在するような形態は認められなかった。
【0039】
<例4:酸素分離膜の酸素透過性能評価>
上記例1および例2により得られた酸素分離膜材であるサンプル1〜16における酸素透過性能を以下のようにして評価した。かかる評価には、図1に示されるような構成を要部として備える評価装置100を用いた。以下、かかる評価方法を、図1を参照しつつ説明する。なお、図1は、円板状に形成された上記サンプル1〜16の酸素分離性能を評価するための装置100を模式的に示した図である。
<評価装置>
この評価装置100は、サンプル1〜16(以下、単に「サンプル20」ということもある。)を収容するケーシング10と、サンプル20を所定の使用温度に維持するためのヒータ30とを備える。ケーシング10は、サンプル20の一方の面側に接続された空気供給側外管12と、空気供給側外管12の内部に挿入された空気供給側内管14と、サンプル20の他方の面側に接続された空気透過側外管16と、空気透過側外管16の内部に挿入された空気透過側内管18とを有する。上記内管14,18および外管12,16は、いずれも緻密なセラミック(ここでは安定化ジルコニアチューブ)により形成されている。サンプル20の外周部には接合材15が塗布されて、外管12,16の一端と上記サンプル20とが気密に接合されている。サンプル20の上記一方の面側には、該サンプル20および空気供給側外管12によって空気供給側空間13が区画形成されている。また、サンプル20の上記他方の面側には、該サンプル20および空気透過側外管16によって空気透過側空間17が区画形成されている。
【0040】
上記評価装置100は、上記空気供給側内管14が図示しない空気供給手段に接続されており、空気は該空気供給側内管14を通じて空気供給側空間13に供給されるように構成されている。且つ該評価装置100は、上記空気透過側内管18が図示しない不活性ガス供給手段に接続されており、不活性ガスは該空気透過側内管18を通じて空気透過側空間17に(典型的にはスウィープガスとして)供給されるように構成されている。
このような構成の評価装置100にサンプル20をセットすることにより、サンプル20の一方の面は、空気供給側空間13に供給された空気と接触するとともに、該サンプル20の他方の面は、空気透過側空間17に供給された不活性ガスと接触することができる。
【0041】
<評価方法>
次に、測定方法について説明する。
サンプル20を上記評価装置100にセットし、空気供給側空間13に、空気(酸素分圧約200hPa(約0.2atm))を所定流量(1000mL/分)で供給した。また、空気透過側空間17には、不活性ガスとしてアルゴン(Ar)ガスを所定流量(500mL/分)で供給した。この状態で評価装置100(サンプル20)の温度を800℃〜1000℃に維持し、空気透過側空間17から排出されるガスの組成をガスクロマトグラフにより測定し、空気供給側空間13に空気の構成成分として供給された酸素(O)ガスが上記サンプル20を透過して上記排出ガス中に含まれるか否かを酸素透過速度として測定することにより、サンプル20の酸素分離性能(すなわち酸素透過性能)を評価した。上記のようにして、サンプル1〜16のそれぞれについて測定した。その結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示されるように、Coがペロブスカイト型酸化物(La1−xSrCo1−yTi)の組成比(1−y)よりも過剰に配合された出発原料粉末からなるサンプル1および2は、該ペロブスカイト型酸化物の組成比に対応するように各金属元素が配合された出発原料粉末からなるサンプル10〜12に比べて酸素透過速度が向上しており、酸素分離性能の向上が認められた。また、Coがペロブスカイト型酸化物(La1−xSrCo1−yNi)の組成比(1−y)よりも過剰に配合された出発原料粉末からなるサンプル3および4は、該ペロブスカイト型酸化物の組成比に対応するように各金属元素が配合された出発原料粉末からなるサンプル13および14に比べて酸素透過速度が向上しており、酸素分離性能の向上が認められた。さらに、Coがペロブスカイト型酸化物(La1−xSrCo1−yFe)の組成比(1−y)よりも過剰に配合された出発原料粉末からなるサンプル5および6は、該ペロブスカイト型酸化物の組成比に対応するように各金属元素が配合された出発原料粉末からなるサンプル15に比べて酸素透過速度が向上しており、酸素分離性能の向上が認められた。また、TiやFeの代わりにCa、Mn、およびCuが配合されたサンプル7、8、9については、Niが配合されたサンプル3と同程度の酸素透過速度が得られることが確認された。また、このように酸素分離膜性能が向上していることから、図2および図3で示される上記基本相は、上記出発原料粉末に含まれている金属元素を含むペロブスカイト型酸化物から構成され得ると考えられる。
以上のように、ペロブスカイト型酸化物の組成比よりもある特定の金属元素を過剰に配合させた出発原料粉末を用いるという本発明に係る方法で製造された酸素分離膜材(サンプル1〜9)は、該ペロブスカイト型酸化物からなる酸素分離膜材を作製する通常の方法であって該ペロブスカイト型酸化物の組成比通りの組成で配合された出発原料粉末を用いる方法で製造された酸素分離膜材(サンプル10〜15)に比べて酸素透過速度が向上しており、本発明により、より優れた酸素分離性能を実現できることがわかった。
【0044】
また、Coを予め上記のように過剰に配合した出発原料粉末からなるサンプル1と、ペロブスカイト型酸化物の組成比通りに配合してなる出発原料粉末を仮焼した後にCoおよびNiを追加することにより過剰に配合させた材料を用いて作製したサンプル16とを比較すると、酸素透過速度が10倍程度向上していた。このことから、出発原料粉末を調製する段階で金属元素を過剰に配合して酸素分離膜材を作製することと、仮焼後に追加分を配合して酸素分離膜材を作製することとは、得られるものが異なる点で全く異なっており、過剰に配合された出発原料粉末を用いて得られる酸素分離膜材の方が、はるかに酸素分離性能が優れていることが確認された。
【0045】
以上、本発明を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、本発明は、さらに別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加えうるものである。
【符号の説明】
【0046】
10 ケーシング
12 空気供給側外管
13 空気供給側空間
14 空気供給側内管
15 接合材
16 空気透過側外管
17 空気透過側空間
18 空気透過側内管
20 サンプル
30 ヒータ
100 評価装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を選択的に透過させる酸素分離膜材であって所定の元素組成のペロブスカイト型酸化物を含む酸素分離膜材を製造する方法であって:
前記所定の元素組成のペロブスカイト型酸化物を生成するための複数の金属化合物からなる出発原料粉末を用意すること、
ここで、前記出発原料粉末を構成する少なくとも一つの金属化合物は、前記所定の元素組成のペロブスカイト型酸化物を構成する金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する金属酸化物相形成用金属化合物であり、該金属酸化物相形成用金属化合物の構成元素である前記金属元素の含有比率が前記ペロブスカイト型酸化物における当該金属元素の組成比よりも過剰となるような配合比で前記金属酸化物相形成用金属化合物をその他の金属化合物に配合することにより調製されている;
前記出発原料粉末を仮焼すること;
前記得られた仮焼物を用いて成形用材料を調製し、膜状に成形すること;および
前記膜状成形体を焼成すること;
を包含する、前記ペロブスカイト型酸化物からなる相と前記過剰に配合された金属元素の酸化物からなる金属酸化物相とが共存した混合相を含む酸素分離膜材を製造する方法。
【請求項2】
前記所定の元素組成のペロブスカイト型酸化物は、一般式:
La1−xMO3−δ (1)
(ただし、Aは、Sr、BaおよびCaからなる群から選択される1種または2種以上の元素であり、Mは、ペロブスカイト型構造を構成し得る1種または2種以上の金属元素であり、0≦x<1であり、δは電荷中性条件を満たすように定まる値である。)で表わされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一般式(1)のMを構成する金属元素として、Co、Ti、Ni、Fe、MnおよびCuからなる群から選択される1種または2種以上の金属元素を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属酸化物相形成用金属化合物を構成する金属元素がCoである、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物が前記ペロブスカイト型酸化物1モルに対して0.1モル〜2モルの割合で生成するような配合比で前記金属酸化物相形成用金属化合物をその他の金属化合物に配合する、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法により製造された酸素分離膜材であって、所定の元素組成のペロブスカイト型酸化物からなる相と、該ペロブスカイト型酸化物を構成する金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する金属酸化物からなる相とが共存した混合相を含む酸素分離膜材。
【請求項7】
前記所定の元素組成のペロブスカイト型酸化物は、一般式:
La1−xMO3−δ (1)
(ただし、Aは、Sr、BaおよびCaからなる群から選択される1種または2種以上の元素であり、Mは、ペロブスカイト型構造を構成し得る1種または2種以上の金属元素であり、0≦x<1であり、δは電荷中性条件を満たすように定まる値である。)で表わされる、請求項6に記載の酸素分離膜材。
【請求項8】
前記一般式(1)のMを構成する金属元素として、Co、Ti、Ni、Fe、MnおよびCuからなる群から選択される1種または2種以上を含む、請求項7に記載の酸素分離膜材。
【請求項9】
前記ペロブスカイト型酸化物を構成する金属元素であって前記金属酸化物からなる相を構成する金属元素としてCoを含む、請求項6〜8のいずれかに記載の酸素分離膜材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−16094(P2011−16094A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163123(P2009−163123)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】