説明

酸素吸収性樹脂組成物

【課題】優れた酸素吸収性、特に酸素吸収により不快な臭気を発生せず、初期酸素吸収速度の高い酸素吸収性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】一般式(I)で示されるアリルエーテル構造単位からなる熱可塑性樹脂(A)を含有する酸素吸収性樹脂組成物、および必要に応じて遷移金属塩(B)、マトリックス樹脂(C)を含有する酸素吸収性樹脂組成物(式中、RおよびRは、それぞれ水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルキルアリール基を表すか、またはRとRが一緒になって単結合、置換基を有していてもよいアルキレン基もしくはオキシアルキレン基を形成していてもよい。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素に対し感受性が高く品質が劣化しやすい製品、特に食品、飲料、医薬品、化粧品などの包装材料、容器などに用いられる酸素吸収性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素に対し感受性が高く品質が劣化しやすい製品、特に食品、飲料、医薬品、化粧品などを、大気中に存在する酸素による劣化から防止する方法は、製品の保存性の向上の観点から重要である。かかる方法として、食品、飲料、医薬品、化粧品などの製品を包装する包装体中に無機系の酸素吸収剤を共存させる方法や、包装材としてガスバリア性樹脂からなる層を有する多層構造体を用いる方法が知られている。
【0003】
包装体中に共存させる無機系の酸素吸収剤として、例えば鉄粉を主成分とする酸素吸収剤が広く利用されている。鉄粉を主成分とする酸素吸収剤を特に小袋に充填して包装体中に共存させて、包装体内部および包装体外部から侵入してくる酸素を吸収させる方法は安価であり、酸素吸収速度も速いという特徴を有する。しかしながら、包装された製品中の異物検知のために金属探知機を使用する場合や、包装されたままで内容物、特に食品を電子レンジによって加熱したりする場合には、鉄粉が存在していては不都合がある。また、かかる酸素吸収剤を小袋として特に食品と共存させる場合、誤食のおそれがある。誤食を防止する手法として、鉄粉などの無機系の酸素吸収剤やアスコルビン酸系化合物に代表される有機系の酸素吸収剤を、包装材を構成する各種の樹脂に予め練り込んで包装材料を形成する方法が提案されているが、このような手法では包装体の外観が悪化するほか、得られた包装材の酸素吸収速度が大きく低下してしまうなどの問題がある。
【0004】
一方、ガスバリア性樹脂、例えばエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略すことがある)は、酸素ガスバリア性および二酸化炭素ガスバリア性に優れた材料である。このような樹脂は溶融成形が可能であるので、耐湿性、機械的特性などに優れた熱可塑性樹脂(ポリオレフィン、ポリエステルなど)の層と積層され、多層包装材として好適に用いられている。しかしながら、これらのガスバリア性樹脂の気体透過性は完全にゼロであるわけではなく、無視し得ない量の気体を透過する。このような気体の透過、とりわけ、包装体の内容物、特に食品の品質に大きな影響を及ぼす酸素の透過を低減するために、また、内容物の包装時点ですでに包装体内部に存在する酸素を吸収させて除去するために、包装材料に酸素吸収剤を混合させて使用することが知られている。
【0005】
例えば、酸素吸収に適した配合物として、遷移金属触媒とエチレン性不飽和炭化水素を含有する組成物(特許文献1参照)が提案されている。また、EVOHと酸素吸収剤とを含む樹脂組成物が提案されている(特許文献2、特許文献3および特許文献4参照)。特にEVOHを含む樹脂組成物は、EVOHと同様に溶融成形が可能なので、各種包装材料に好適に用いることができる。
【0006】
しかしながら、上記の酸素吸収剤を混合した包装材料または樹脂組成物を包装材として使用すると、酸素吸収が進むにつれて酸素吸収剤が分解し、不快な臭気が発生する場合がある。そのため、無臭性が要求される用途や香りが重要な用途においてはなお改良の余地があった。
【0007】
本発明者らの一部は、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、不快な臭気を発生しない、実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂および遷移金属塩を含有する酸素吸収性樹脂組成物の発明に至った(特許文献5参照)。しかしながら、特に食品を長期安定保存する場合に包装材は、酸素の遮断性、即ち、酸素吸収容量ができるだけ高いことが望ましく、用いる酸素吸収性樹脂組成物における酸素吸収能力の向上がさらに求められる。そのための手法として、酸素吸収性樹脂組成物において被酸化部位を増加させること、即ち、炭素−炭素二重結合の含有量を増加させて、主鎖中でも比較的反応性の高い被酸化部位と考えられるアリル部位(炭素−炭素二重結合に隣接する炭素原子部位)の密度を向上させ、酸素を吸収させるための反応点を増加させることが挙げられる。また、アリル部位を増加することで酸素吸収性を向上させる一方で、炭素−炭素結合が断裂することによって不快な臭気を有する物質が発生しやすくなることを抑制するため、実質的に主鎖のみにアリル部位を保有させて、臭気物質の発生を抑制することが考えられる。しかし、アリル部位を主鎖中に多く保有させるために主鎖中に炭素−炭素二重結合を多く存在させると、そのような材料は、一般的に溶融成形時の安定性および加工性に劣り、着色やブツが発生しやすくなるという問題がある。そのため、酸素吸収能力の向上のために、酸素吸収性樹脂組成物として用いる材料中の炭素−炭素二重結合をやみくもに増加させればよいというわけではない。
【0008】
ポリエーテルユニットを有する重合体及び遷移金属化合物である酸化触媒、さらにはラジカル捕捉剤を特定の配合量比で含有する酸素吸収性樹脂組成物もまた開示されている(特許文献6及び特許文献7参照)。しかしながら、実際に開示されている、ポリアルキレンエーテルユニットを有する重合体を酸素吸収性樹脂組成物の成分として用いた場合、酸素吸収量は確保されるものの、酸素吸収時の臭気の発生を実用的には抑制しきれていない結果である。また、開示によれば、使用に際してUVなどの活性エネルギー線の照射を行うことが、酸素吸収性能を発現させるに際して好適であり、工業的な実用性を考慮すると、実際の使用にあたっては操作が煩雑になる問題を有している。
【0009】
また、食品包装の分野においては、さらなる保存性向上のために包装体内部の残存酸素を速やかに除去することが求められる場合があり、この場合、単に酸素吸収能力が大きいことのみならず、初期の短期間の酸素吸収速度が大きいことが求められる。
【0010】
【特許文献1】特開平5−115776号公報
【特許文献2】特開2001−106866号公報
【特許文献3】特開2001−106920号公報
【特許文献4】特開2002−146217号公報
【特許文献5】特開2005−187808号公報
【特許文献6】特開2003−064250号公報
【特許文献7】特開2003−113311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は上記してきた課題を解決することであり、優れた酸素吸収性を有し、酸素吸収により不快な臭気を発生せず、かつ初期酸素吸収速度を向上させるに十分な分散性を与える酸素吸収性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、上記の目的は、下記一般式(I)
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、RおよびRは、それぞれ水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルキルアリール基を表すか、またはRとRが一緒になって単結合、置換基を有していてもよいアルキレン基もしくはオキシアルキレン基を形成していてもよい。)
で示されるアリルエーテル構造単位(以下、単に構造単位(I)と称する)からなる熱可塑性樹脂(A)(以下、熱可塑性樹脂(A)と称する)を含有する酸素吸収性樹脂組成物を提供することにより達成される。好適な実施態様では、上記可塑性樹脂(A)がジオキセピン化合物の開環重合体である。
【0015】
本発明によれば、上記の目的は、熱可塑性樹脂(A)と遷移金属塩(B)よりなる酸素吸収性樹脂組成物を提供することによっても達成される。好適な実施態様は、遷移金属塩(B)が鉄塩、ニッケル塩、銅塩、マンガン塩およびコバルト塩からなる群から選択される少なくとも1種の金属塩である。
【0016】
また、上記酸素吸収性樹脂組成物は、さらにマトリックス樹脂(C)を含有してもよい。好適な実施態様では、かかるマトリックス樹脂(C)が、エチレン含有量5〜60モル%、ケン化度90%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体である。また、好適な実施態様では、熱可塑性樹脂(A)からなる粒子がマトリックス樹脂(C)のマトリックス中に分散している。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた酸素吸収性を有し、酸素吸収により不快な臭気を発生せず、優れた初期酸素吸収速度と透明性を有する酸素吸収性樹脂組成物、ならびに該樹脂組成物を含む成形体、例えば該樹脂組成物でなる層を含む多層フィルム、多層容器などが得られる。特に、該樹脂組成物を含む容器は、食品、化粧品などの酸素による劣化を受けやすく、かつ香りが重視される製品を保存するために有用である。本発明によればまた、取り扱いの容易な脱酸素剤としても有用な酸素吸収性樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の具体的態様を詳細に説明する。
(1)熱可塑性樹脂(A)
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は構造単位(I)からなる熱可塑性樹脂(A)を含有する。式中、RおよびRがそれぞれ表すアルキル基の炭素原子数は好ましくは1〜5であり、アリール基の炭素原子数は好ましくは6〜10であり、アルキルアリール基の炭素原子数は好ましくは7〜11である。アルキル基の例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が、アリール基の例としてはフェニル基が、アルキルアリール基の例としてはベンジル基がそれぞれ挙げられる。また、RとRが一緒になって表すアルキレン基、オキシアルキレン基の炭素原子数は好ましくは1〜10であり、より好ましくは2〜5である。これらのアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アルキレン基は、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基などの置換基を有していてもよい。
【0019】
熱可塑性樹脂(A)の具体例としては、工業的に製造が容易な観点から、1,3−ジオキセピン、2−メチル−1,3−ジオキセピン、2−エチル−1,3−ジオキセピン、2―フェニル−1,3−ジオキセピン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキセピンなどの開環重合体を好適なものとして挙げることができる。これらの中でも1,3−ジオキセピンまたは2,2−ジメチル−1,3−ジオキセピンの開環重合体は、その入手、製造が容易で酸素吸収性能に優れることから特に好適である。
【0020】
熱可塑性樹脂(A)は、構造単位(I)内に炭素−炭素二重結合を有し、アリル部位が存在するため、酸素と効率よく反応することが可能であり、その結果、優れた酸素吸収機能が得られる。なお、本明細書では、「炭素−炭素二重結合」には、芳香環中の炭素−炭素二重結合は含まない。
【0021】
熱可塑性樹脂(A)が有する構造単位(I)は、炭素−炭素二重結合が重合体の主鎖に存在するため、酸素吸収により炭素−炭素二重結合やそのアリル部位が部分酸化されるか、あるいは切断されても、側鎖中の炭素−炭素二重結合が切断された場合のような低分子量の断片が生じにくく、臭気物質を発生しにくい。
【0022】
熱可塑性樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、好適には1000〜100000であり、より好適には5000〜80000であり、さらに好適には10000〜60000の範囲である。熱可塑性樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)が1000未満の場合や100000を超える場合には、得られる酸素吸収性樹脂組成物の成形加工性、ハンドリング性、成形品とした場合の強度や伸度等の機械的性質が低下する傾向にある。
【0023】
熱可塑性樹脂(A)の製造方法としては、例えば(i)2−ブテン−1,4−ジオールを原料とし、ホルマリンと反応させて環状アセタール化し、得られる1,3−ジオキセピンをモリブデン系錯体や、ルテニウム系錯体を触媒として開環メタセシス重合を行う方法、(ii)ホルムアルデヒドジアリルアセタールを原料とし、モリブデン系錯体や、ルテニウム系錯体を触媒として非環式ジエンメタセシス重合を行う方法が挙げられる。これらの中でも、(i)の方法が好適である。
【0024】
(i)の方法における開環メタセシス重合の触媒として、また(ii)の方法における非環式ジエンメタセシス重合の触媒として用いるモリブデン系錯体としては、例えばMo(N−2,6−Pr)(CHBu)(OBu、Mo(N−2,6−Pr)(CHBu)[OCMe(CF]、Mo(N−2,6−Pr)(CHBu)[OCMe(CF、Mo(N−2,6−Pr)(CHCMePh)(OBu、Mo(N−2,6−Pr)(CHCMePh)[OCMe(CF]、Mo(N−2,6−Pr)(CHCMePh)[OCMe(CF、Mo(N−2,6−Pr)(CHCMePh)(BIPHEN)、Mo(N−2,6−Pr)(CHCMePh)(BINO)(THF)などのモリブデンアルキリデン錯体が挙げられる。ルテニウム系錯体としては、例えばベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリドなどの、含窒素ヘテロ環カルベン1つと含窒素ヘテロ環カルベン以外の中性電子供与体1つが結合したルテニウムカルベン錯体;ベンジリデンビス(1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデンビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)ルテニウムジクロリドなどの、含窒素ヘテロ環カルベンが2つ結合したルテニウムカルベン錯体;(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(2−イソプロポキシフェニルメチレン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(2−エトキシフェニルメチレン)ルテニウムジクロリドなどの、含窒素ヘテロ環カルベンを1つ有し、かつ配位性エーテル結合をカルベン中に有するルテニウムカルベン錯体;が挙げられる。
【0025】
これらの中でも、触媒溶液中での安定性、活性などの観点から、Mo(N−2,6−Pr)(CHBu)[OCMe(CF]、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリドおよび(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(2−イソプロポキシフェニルビニリデン)ルテニウムジクロリドを使用することが好ましい。
【0026】
(i)の方法における開環メタセシス重合、(ii)の方法における非環式ジエンメタセシス重合は、いずれも溶媒の不存在下または存在下で行なうことができる。使用可能な溶媒としては、開環メタセシス重合、非環式ジエンメタセシス重合反応に不活性であれば特に制限はなく、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンなどの脂肪族炭化水素;トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素;テトラヒドロフランなどのエーテル;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。溶媒を使用する場合、その使用量に特に制限はないが、通常、原料に対して0.1〜20質量倍の範囲である。開環メタセシス重合、非環式ジエンメタセシス重合を実施する温度としては、溶媒の使用の有無や、溶媒を使用する場合は使用する溶媒の沸点によっても異なるが、通常−78〜200℃の温度範囲で、通常、20時間以内の時間で行う。実施にあたっては、不活性ガス雰囲気下で実施することが好ましい。
【0027】
本発明において、熱可塑性樹脂(A)に、酸化防止剤を添加してもよい。酸化防止剤としては、例えば2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−チオビス(6−t−ブチルフェノール)、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2−メチレンビス−(6−t−ブチル−p−クレゾール)、トリフェニルホスファイト、トリス−(ノニルフェニル)ホスファイト、チオジプロピオン酸ジラウリルなどが挙げられる。
【0028】
熱可塑性樹脂(A)に酸化防止剤を添加する場合、その量は、本発明の酸素吸収性樹脂組成物を構成する各成分の種類および配合量、本発明の酸素吸収性樹脂組成物の使用目的、保存条件などを考慮して適宜決定できる。例えば、熱可塑性樹脂(A)を比較的低温で、もしくは不活性ガス雰囲気下で保存する場合、または窒素シールした状態で溶融混練して本発明の酸素吸収性樹脂組成物を製造する場合などには、酸化防止剤の量は少なくてもよい。また、後述の遷移金属塩(B)を比較的多く添加する場合、熱可塑性樹脂(A)に酸化防止剤が比較的多量に添加されていても、良好な酸素吸収機能を有する酸素吸収性樹脂組成物を得ることができる。酸化防止剤の添加量は、熱可塑性樹脂(A)と酸化防止剤の合計質量を基準として、通常0.01〜1質量%であることが好ましく、0.02〜0.5質量%であるのがより好ましく、0.03〜0.3質量%であるのがさらに好ましい。酸化防止剤の添加量が1質量%を超えると、熱可塑性樹脂(A)と酸素との反応が妨げられ、本発明の酸素吸収性樹脂組成物の酸素吸収機能が不十分となる場合がある。一方、酸化防止剤の添加量が0.01質量%よりも少ないと、熱可塑性樹脂(A)の保存時または溶融混練時に、酸素の吸収が進行し、該樹脂組成物の実使用前に酸素吸収機能が低下してしまう場合がある。
【0029】
(2)遷移金属塩(B)
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、必要に応じて遷移金属塩(B)を含有する。遷移金属塩(B)に含まれる遷移金属としては、例えば鉄、ニッケル、銅、マンガン、コバルト、ロジウム、チタン、クロム、バナジウム、ルテニウムなどが挙げられる。これらの中でも、鉄、ニッケル、銅、マンガン、コバルトが好ましく、マンガンまたはコバルトがより好ましく、コバルトがさらに好ましい。
【0030】
遷移金属塩(B)に含まれる遷移金属の対イオンとしては、有機酸由来のアニオンが好ましく、かかる有機酸としては、例えば酢酸、ステアリン酸、ジメチルジチオカルバミン酸、パルミチン酸、2−エチルへキサン酸、ネオデカン酸、リノール酸、トール酸、オレイン酸、カプリン酸、ナフテン酸などが挙げられる。遷移金属塩(B)としては、2−エチルへキサン酸コバルト、ネオデカン酸コバルトおよびステアリン酸コバルトが特に好ましい。
【0031】
遷移金属塩(B)は、好適には、熱可塑性樹脂(A)の質量を基準として、遷移金属換算で1〜50000ppm、より好適には5〜10000ppm、さらに好適には10〜5000ppmの範囲で配合する。本発明の酸素吸収性樹脂組成物が、後述のように、熱可塑性樹脂(A)に加えてマトリックス樹脂(C)を含有する場合、遷移金属塩(B)は、熱可塑性樹脂(A)およびマトリックス樹脂(C)の合計質量を基準として、遷移金属換算で1〜50000ppm、より好適には5〜10000ppm、さらに好適には10〜5000ppmの範囲で配合する。遷移金属塩(B)の配合量が遷移金属換算で1ppm未満では、得られる酸素吸収性樹脂組成物の酸素吸収機能が不十分となる場合があり、一方、50000ppmを超えると、得られる酸素吸収性樹脂組成物の熱安定性が低下し、ゲル・ブツの発生が著しくなる場合がある。
【0032】
(3)マトリックス樹脂(C)
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、必要に応じてマトリックス樹脂(C)を含有する。このマトリックス樹脂(C)は、熱可塑性樹脂(A)を希釈しあるいは分散させるための支持体として機能し、かつマトリックス樹脂(C)が有する特性を本発明の酸素吸収性樹脂組成物に付与する。含有させるマトリックス樹脂(C)は、本発明の酸素吸収性樹脂組成物の使用目的に応じて適宜選択できる。例えば、本発明の酸素吸収性樹脂組成物にガスバリア性を付与したい場合には、マトリックス樹脂(C)としてガスバリア性樹脂を用いる。その他の機能を付与したい場合には、目的に応じて樹脂を選択する。例えば、ガスバリア性樹脂を含む本発明の酸素吸収性樹脂組成物を容器などの成形体とすると、該ガスバリア性樹脂は、外部からの酸素が該成形体を通して移動するのを制御する働きを有する。
【0033】
マトリックス樹脂(C)のうち、ガスバリア性樹脂(以下、ガスバリア性樹脂(C−1)と称する)としては、酸素透過速度が500ml・20μm/m・day・atm(20℃、65%RH)以下のガスバリア性を有する樹脂を用いることが好ましい。この酸素透過速度は、20℃、相対湿度65%の環境下で測定したときに、1気圧の酸素の差圧がある状態で、面積1m、20μm厚のフィルムを1日に透過する酸素の体積が500ml以下であることを意味する。酸素透過速度が500ml・20μm/m・day・atmを超える樹脂を使用すると、得られる酸素吸収性樹脂組成物のガスバリア性が不十分となる傾向になる。ガスバリア性樹脂(C−1)の酸素透過速度は、より好ましくは100ml・20μm/m・day・atm以下であり、さらに好ましくは20ml・20μm/m・day・atm以下であり、最も好ましくは5ml・20μm/m・day・atm以下である。このようなガスバリア性樹脂(C−1)を熱可塑性樹脂(A)に含有させることで、ガスバリア性に加えて酸素吸収機能が発揮され、高度なガスバリア性を有する酸素吸収性樹脂組成物を得ることができる。
【0034】
上記のようなガスバリア性樹脂(C−1)の例としては、ポリビニルアルコール系樹脂(C−1−1)、ポリアミド樹脂(C−1−2)、ポリ塩化ビニル樹脂(C−1−3)、ポリアクリロニトリル樹脂(C−1−4)などが代表的な樹脂として挙げられる。ガスバリア性樹脂(C−1)としては、これらの樹脂のうち1種を使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。ガスバリア性樹脂(C−1)としては、上記した中でもポリビニルアルコール系樹脂(C−1−1)が好ましく、エチレン含有量5〜60モル%、ケン化度90%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと称する)がより好ましい。
【0035】
上記ガスバリア性樹脂(C−1)のうち、ポリビニルアルコール系樹脂(C−1−1)は、ビニルエステルの単独重合体、またはビニルエステルと他の単量体との共重合体(特にビニルエステルとエチレンとの共重合体)を、アルカリ触媒などを用いてケン化して得られる。ビニルエステルとしては酢酸ビニルが挙げられるが、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどの他の脂肪酸ビニルエステルも使用できる。
【0036】
ポリビニルアルコール系樹脂(C−1−1)のビニルエステル成分のケン化度は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは96%以上である。ケン化度が90モル%未満では、高湿度下でのガスバリア性が低下する。特に、ポリビニルアルコール系樹脂(C−1−1)がEVOHである場合、ケン化度が90モル%未満では熱安定性が不充分となり、成形体にゲル・ブツが含有され易くなる。
【0037】
ポリビニルアルコール系樹脂(C−1−1)の中でも、溶融成形が可能で、高湿度下でのガスバリア性が良好な点から、EVOHを用いるのが好ましい。
【0038】
EVOHのエチレン含有量は5〜60モル%であるのが好ましい。エチレン含有量が5モル%未満では、高湿度下でのガスバリア性が低下し溶融成形性も悪化することがある。EVOHのエチレン含有量は、好ましくは10モル%以上であり、より好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上である。一方、エチレン含有量が60モル%を超えると十分なガスバリア性が得られないことがある。エチレン含有量は、好ましくは55モル%以下であり、より好ましくは50モル%以下である。
【0039】
好ましいEVOHは、上述のようにエチレン含有量が5〜60モル%であり、かつケン化度が90%以上である。本発明の酸素吸収性樹脂組成物からなる層を含む多層容器において、耐衝撃剥離性に優れたものを所望する場合は、エチレン含有量が25モル%以上55モル%以下であり、ケン化度が90%以上99%未満のEVOHを使用することが好ましい。
【0040】
また、耐衝撃剥離性およびガスバリア性がより高いレベルでバランスがとれたものを所望する場合は、エチレン含有量が25モル%以上55モル%以下であり、ケン化度が90%以上99%未満のEVOH(C−1−1a)と、エチレン含有量が25モル%以上55モル%以下であり、ケン化度が99%以上のEVOH(C−1−1b)とを、(C−1−1a)/(C−1−1b)の配合質量比が5/95〜95/5となるように混合して使用することが好ましい。なお、このように、EVOHがエチレン含有量の異なる2種類以上のEVOHの混合物からなる場合には、混合質量比から算出される平均値をエチレン含有量とする。
【0041】
EVOHのエチレン含有量およびケン化度は、核磁気共鳴(NMR)法により求めることができる。
【0042】
EVOHは、本発明の目的が阻害されない範囲で、エチレン単位およびビニルアルコール単位以外の単量体の単位を共重合単位として少量含有することもできる。このような単量体の例としてはプロピレン、1−ブテン、イソブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン;イタコン酸、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸、その塩、その部分または完全エステル、そのニトリル、そのアミド、その無水物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランなどのビニルシラン化合物;不飽和スルホン酸またはその塩;アルキルチオール類;ビニルピロリドン類などが挙げられる。
【0043】
中でも、EVOHが、共重合成分としてビニルシラン化合物0.0002〜0.2モル%を含有する場合は、該EVOHを含む本発明の酸素吸収性樹脂組成物を、基材となる樹脂(例えばポリエステル)と共に共押出成形または共射出成形して多層構造体を得る際に、該基材樹脂との溶融粘性の整合性が改善され、均質な成形物の製造が可能である。ビニルシラン化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどが好ましい。
【0044】
さらに、EVOHにホウ素化合物が添加されている場合にも、EVOHの溶融粘性が改善され、均質な共押出成形体または共射出成形体が得られる点で有効である。ここでホウ素化合物としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などのホウ酸類、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどのホウ酸エステル、前記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などのホウ酸塩、水素化ホウ素ナトリウムなどの水素化ホウ素類などが挙げられる。これらの化合物のうちでもオルトホウ酸が好ましい。
【0045】
EVOHにホウ素化合物が添加される場合、その添加量は、好ましくはホウ素換算で20〜2,000ppm、より好ましくは50〜1,000ppmである。この範囲にあることで加熱溶融時のトルク変動が抑制されたEVOHを得ることができる。20ppm未満ではそのような効果が小さく、一方、2,000ppmを超えるとゲル化しやすく、成形性不良となる場合がある。
【0046】
EVOHにアルカリ金属塩を添加することも、層間接着性や相容性の改善のために有効である。アルカリ金属塩の添加量は、好ましくは5〜5,000ppm、より好ましくはアルカリ金属換算で20〜1,000ppm、さらに好ましくは30〜500ppmである。アルカリ金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、リン酸塩、金属錯体などが挙げられる。例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩などが挙げられ、これらの中でも酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウムが好ましい。
【0047】
EVOHへのリン酸化合物の添加量は、好ましくはリン酸根換算で20〜500ppm、より好ましくは30〜300ppm、さらに好ましくは50〜200ppmの範囲である。上記範囲でリン酸化合物を配合することにより、EVOHの熱安定性を改善することができる。特に、長時間にわたる溶融成形を行う際のゲル状ブツの発生や着色を抑制することができる。
【0048】
EVOHに添加するリン酸化合物の種類は特に限定されず、リン酸、亜リン酸などの各種の酸やその塩などを用いることができる。リン酸塩は第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形であってもよい。リン酸塩のカチオン種も特に限定されないが、カチオン種がアルカリ金属、アルカリ土類金属であることが好ましい。中でも、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウムの形でリン化合物を添加することが好ましい。
【0049】
EVOHのメルトフローレート(MFR)(210℃、2160g荷重下、JIS K 7210に基づく)は、好ましくは0.1〜100g/10分、より好ましくは0.5〜50g/10分、さらに好ましくは1〜30g/10分である。
【0050】
ガスバリア性樹脂(C−1)のうち、ポリアミド樹脂(C−1−2)の種類は特に限定されない。例えば、ポリカプロラクタム(ナイロン−6)、ポリウンデカンアミド(ナイロン−11)、ポリラウロラクタム(ナイロン−12)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン−6,6)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン−6,10)などの脂肪族ポリアミド単独重合体;カプロラクタム/ラウロラクタム共重合体(ナイロン−6/12)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ナイロン−6/11)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン−6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンアジパミド共重合体(ナイロン−6/6,6)、カプロラクタム/ヘキサメチレンアジパミド/ヘキサメチレンセバカミド共重合体(ナイロン−6/6,6/6,10)などの脂肪族ポリアミド共重合体;ポリメタキシリレンアジパミド(MX−ナイロン)、ヘキサメチレンテレフタラミド/ヘキサメチレンイソフタラミド共重合体(ナイロン−6T/6I)などの芳香族ポリアミドが挙げられる。これらのポリアミド樹脂(C−1−2)は、それぞれ単独で用いることもできるし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの中でも、ポリカプロラクタム(ナイロン−6)およびポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン−6,6)がガスバリア性の観点から好ましい。
【0051】
ポリ塩化ビニル樹脂(C−1−3)としては、塩化ビニルまたは塩化ビニリデンの単独重合体のほか、塩化ビニルまたは塩化ビニリデンと酢酸ビニル、マレイン酸誘導体、高級アルキルビニルエーテルなどとの共重合体が挙げられる。
【0052】
ポリアクリロニトリル樹脂(C−1−4)としては、アクリロニトリル単独重合体のほか、アクリロニトリルとアクリル酸エステルなどとの共重合体が挙げられる。
【0053】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物が、樹脂成分として、熱可塑性樹脂(A)に加えてマトリックス樹脂(C)を含有する場合、熱可塑性樹脂(A)と該マトリックス樹脂(C)の合計質量を100質量%とすると、該熱可塑性樹脂(A)は30〜1質量%の割合で、該マトリックス樹脂(C)は70〜99質量%の割合であることが好ましい。例えば、マトリックス樹脂(C)がガスバリア性樹脂(C−1)である場合に、その割合が70質量%未満である場合には、該樹脂組成物の、酸素ガス、二酸化炭素ガスなどに対するガスバリア性が低下する傾向となり、一方、99質量%を超える場合、酸素吸収機能が低下する傾向になる。熱可塑性樹脂(A)の割合は、より好ましくは20〜2質量%、さらに好ましくは15〜3質量%であり、マトリックス樹脂(C)の割合は、より好ましくは80〜98質量%、さらに好ましくは85〜97質量%である。
【0054】
(4)酸素吸収性樹脂組成物およびそれを用いた成形体
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、上述のように、熱可塑性樹脂(A)を含有し、さらに必要に応じて、遷移金属塩(B)、マトリックス樹脂(C)、各種添加剤などを含有する。
【0055】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物がマトリックス樹脂(C)など、熱可塑性樹脂(A)以外の樹脂を含む組成物においては、熱可塑性樹脂(A)からなる粒子が、熱可塑性樹脂(A)以外の樹脂(マトリックス樹脂(C))、遷移金属塩(B)、ならびに各種添加剤を含むマトリックス中に分散している態様が推奨される。例えば、本発明の酸素吸収性樹脂組成物が熱可塑性樹脂(A)、遷移金属塩(B)およびマトリックス樹脂(C)からなる場合、熱可塑性樹脂(A)からなる粒子が遷移金属塩(B)およびマトリックス樹脂(C)を含むマトリックスに分散している態様が推奨される。このような状態の本発明の酸素吸収性樹脂組成物からなる各種成形体は特に酸素吸収機能に優れ、かつ透明性に優れる。さらに、マトリックス樹脂(C)の機能が十分に得られる。例えば、マトリックス樹脂(C)がガスバリア性樹脂(C−1)である場合には、ガスバリア性が良好である。
【0056】
上記熱可塑性樹脂(A)からなる粒子の平均粒径については、好ましくはその長径が4μm以下、より好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。このような熱可塑性樹脂(A)粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測定したときに得られる粒子径である。
【0057】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)(210℃、2160g荷重下、JIS K 7210に基づく)は、好ましくは0.1〜100g/10分、より好ましくは0.5〜50g/10分、さらに好ましくは1〜30g/10分である。該樹脂組成物のメルトフローレートが上記の範囲から外れる場合、溶融成形時の加工性が悪くなる傾向となる。
【0058】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、特に製造後1〜3日程度の初期において高い酸素吸収速度を発揮できる。
【0059】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物の各成分は混合した後、次いで所望の形状に加工される。本発明の酸素吸収性樹脂組成物の各成分を混合する方法は特に限定されない。各成分を混合する際の順序も特に限定されない。例えば、熱可塑性樹脂(A)、遷移金属塩(B)およびマトリックス樹脂(C)を混合する場合、これらを同時に混合してもよいし、熱可塑性樹脂(A)、遷移金属塩(B)を混合した後、マトリックス樹脂(C)と混合してもよい。
【0060】
混合の具体的な方法としては、工程の簡便さおよびコストの観点から溶融混練法が好ましい。このとき、高い混練度を達成することのできる装置を使用し、各成分を細かく均一に分散させることが、酸素吸収性能、透明性を良好にすると共に、ゲル・ブツの発生や混入を防止できる点で好ましい。
【0061】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、成形方法を適宜採用することによって、種々の成形物、例えば、フィルム、シート、容器その他の包装材に成形することができる。このとき、本発明の酸素吸収性樹脂組成物を一旦ペレットとしてから成形に供してもよいし、本発明の酸素吸収性樹脂組成物の各成分をドライブレンドして、直接成形に供してもよい。
【実施例】
【0062】
以下に本発明を実施例などの例によって具体的に説明するが、本発明はそれにより何ら限定されない。以下の実施例および参考例における分析および評価は次のようにして行った。
【0063】
(1)熱可塑性樹脂(A)の分子構造:
CDClを溶媒とし、H−NMR(核磁気共鳴)測定(日本電子社製「JNM−GX−500型」を使用)により決定した。
【0064】
(2)熱可塑性樹脂(A)の数平均分子量および重量平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定を行ない、ポリスチレン換算値として表記した。測定の詳細条件は以下のとおりである。
<分析条件>
装置 :Shodex製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)SYSTEM−11
カラム:KF−806L(Shodex) カラム温度:40℃
移動相:テトラヒドロフラン 流速:1.0mL/分
検出器:RI 濾過:0.45μmフィルター 濃度:0.1%
【0065】
(3)EVOHのエチレン含有量およびケン化度:
DMSO−dを溶媒とし、H−NMR(核磁気共鳴)測定(日本電子社製「JNM−GX−500型」を使用)により算出した。
【0066】
(4)酸素吸収性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(A)の分散粒子径の測定:
後述の各実施例および参考例で得られた酸素吸収性樹脂組成物のペレットを、常法に従い、ミクロトームで切断し、断面に減圧下で白金を蒸着した。白金が蒸着された断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて切断面に対して垂直方向から10,000倍に拡大して写真撮影し、写真中の熱可塑性樹脂(A)からなる粒子20個程度を含む領域を選択して、該領域中に存在する各々の粒子像の粒径を測定し、その平均値を算出して、これを分散粒子径とした。なお、各々の粒子の粒径については、写真中に観察される粒子の長径(最も長い部分)を測定し、これを粒径とした。
【0067】
合成例1 ポリ−1,3−ジオキセピン(A−1)の合成
攪拌機および温度計を備えた容量3000mLの3つ口フラスコ内を乾燥窒素で置換した後、1,3−ジオキセピン100g(1mol)、シス−4−オクテン187mg(1.67mmol)、シクロヘキサン1000gを仕込んだ。次いでベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド42.4mg(49.9μmol)をテトラヒドロフラン5.00gに溶解させた触媒液を調製し、これを上記溶液に加えて、80℃で開環メタセシス重合を行った。2時間後、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、GC−14B;カラム:化学品検査協会製、G−100)により分析し、1,3−ジオキセピンの消失を確認した。その後、エチルビニルエーテル2.08g(30.0mmol)を添加し、さらに10分間攪拌した。
得られた反応液に水300gを添加した。下層を除去し、この操作を3回繰り返した。有機相を減圧下で濃縮し、次いで真空乾燥機を用いて1Pa、60℃で24時間乾燥することで、重量平均分子量(Mw)10,000、数平均分子量(Mn)12,000のポリ−1,3−ジオキセピン(A−1)(以下、(A−1)と称する)94.3g(1,3−ジオキセピン基準の収率:94%)を得た。
【0068】
実施例1
エチレン含有量:32モル%、ケン化度:99.6%のEVOH90g、(A−1)10gおよびステアリン酸コバルト(II)0.08484g(コバルトとして800ppm vs (A−1))をドライブレンドし、ローラミキサ((株)東洋精機製LABO PLASTOMIL MODEL R100)を用い、チャンバ内を窒素パージしながら溶融混練し、5分後に塊状で取出した。得られた塊状物をペレット状にカットして、EVOH、(A−1)およびステアリン酸コバルトからなる酸素吸収性樹脂組成物のペレットを得た。このペレットの切断面をSEMで観察したところ、粒子径1μm以下の(A−1)がEVOHからなるマトリックス中に分散していた。
【0069】
得られたペレットを破砕し、150ミクロンのメッシュを通して酸素吸収性樹脂組成物の微粉末を得た。得られた微粉末0.1gを精秤し、体積比で21:79の酸素および窒素を含有する空気を満たした容量260mlの規格瓶に入れた。内部の相対湿度を100%RHとするため、この規格瓶の壁面を水を含んだろ紙で覆い(水6gを含浸)、規格瓶の口をアルミニウム層を含む多層シートを用いてエポキシ樹脂で封じて23℃の恒温室に静置した。封入後、経時的に内部の空気をシリンジでサンプリングし、酸素濃度をガスクロマトグラフィーを用いて測定した。サンプリング時に多層シートに空いた孔は、エポキシ樹脂を用いてその都度封じた。測定によって得られた酸素と窒素の体積比より酸素の減少量を計算することによって、酸素吸収性樹脂組成物の23℃、100%RH雰囲気下における酸素吸収量を求めた。封入時から2日後、8日後、および16日後の混合物1gあたりの酸素吸収量(積算量)を表1および図1に示す。さらに、16日経過後の規格瓶中の空気の臭気をパネリスト5人が官能評価したところ、ほとんど臭気がないことが確認された。
【0070】
実施例2
実施例1において、ステアリン酸コバルトを添加しなかった以外は、実施例1と同様に酸素吸収性樹脂組成物を作成した。このペレットの切断面をSEMで観察したところ、粒子径1μm以下の(A−1)がEVOHからなるマトリックス中に分散していた。得られたペレットを破砕し、実施例1と同様にしてその酸素吸収量評価を行なった。結果を表1および図1に示す。また、16日経過後の規格瓶中の臭気を実施例1と同様にして評価したところ、ほとんど臭気がないことが確認された。
【0071】
参考例1
実施例1において、(A−1)10gの代わりに数平均分子量60,000のポリオクテニレン(デグッサ社製)10gを用いた以外は、実施例1と同様に酸素吸収性樹脂組成物を作成した。このペレットの切断面をSEMで観察したところ、粒子径1μm以下のポリオクテニレンがEVOHからなるマトリックス中に分散していた。得られたペレットを破砕し、実施例1と同様にしてその酸素吸収量評価を行なった。結果を表1および図1に示す。また、16日経過後の規格瓶中の臭気を実施例1と同様にして評価したところ、ほとんど臭気がないことが確認された。
【0072】
【表1】

【0073】
表1および図1より、本発明の、構造単位(I)からなる熱可塑性樹脂(A)を含有する酸素吸収性樹脂組成物は、優れた酸素吸収能力を示し、ほとんど臭気を発生しないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例1、2および参考例1の酸素吸収性樹脂組成物の23℃、100%RH雰囲気下における酸素吸収量を時間(日数)に対してプロットしたグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルキルアリール基を表すか、またはRとRが一緒になって単結合、置換基を有していてもよいアルキレン基もしくはオキシアルキレン基を形成していてもよい。)
で表されるアリルエーテル構造単位からなる熱可塑性樹脂(A)を含有する酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(A)が、ジオキセピン化合物の開環重合体である請求項1に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂(A)と遷移金属塩(B)よりなることを特徴とする酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項4】
前記遷移金属塩(B)が、鉄塩、ニッケル塩、銅塩、マンガン塩およびコバルト塩からなる群から選択される少なくとも1種の金属塩である、請求項3に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項5】
さらにマトリックス樹脂(C)を含有する、請求項1〜4のいずれか1つに記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項6】
前記マトリックス樹脂(C)が、エチレン含有量5〜60モル%、ケン化度90%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体である、請求項5に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂(A)からなる粒子が前記マトリックス樹脂(C)のマトリックス中に分散されている、請求項5または6に記載の酸素吸収性樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−215399(P2009−215399A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59561(P2008−59561)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】