説明

酸素濃度可変保存庫

【課題】保存庫内の酸素濃度を約0%〜約100%まで簡便に増減できる酸素濃度可変保存庫を提供することを目的とする。
【解決手段】酸素ポンプ素子9の電極間の入力電圧を正から負あるいは負から正に変化させることができる電源回路4を備えることにより、正(負)電圧では酸素を排気することができ、逆の負(正)にすれば酸素を流入させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玄米や精白米などの穀物、コーヒー豆やコーヒー粉、紅茶、緑茶などの嗜好品、果物や野菜などの食品、そして薬品等の保存庫に関するものであり、詳しくは食品等の酸化劣化、好気性菌や嫌気性菌の繁殖を防止するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の酸素濃度を調節して食材等を保管する方法として、酸素吸着剤を用いる方法(例えば、特許文献1参照)、減圧ポンプを使用した酸素富化膜を用いる方法(例えば、特許文献2参照)があった。また、業務用では炭酸ガス等の不活性ガスで置換する方法もある。
【特許文献1】特開平6−32377号公報
【特許文献2】特開平6−58号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のいずれの方法も保存庫内の酸素濃度を減少させるのみで、外気の酸素濃度の約21%以上に増やすことはできなかった。
【0004】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、酸素のみを移動させる酸素ポンプ素子を用いて、その電極に印可する電圧の正負を変化させることにより、保存庫内の酸素濃度を約0%〜約100%まで簡便に増減できる酸素濃度可変保存庫を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記従来の課題を解決するために、酸素ポンプ素子の電極間の入力電圧を正から負まで変化させることができる電源回路を備えたものである。
【0006】
これによって、正(負)電圧では酸素を排気することができ、逆の負(正)にすれば酸素を流入させることができるため、保存庫内の酸素濃度を増減させることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の酸素濃度可変保存庫は、庫内の酸素濃度を約0%〜約100%まで変化させることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
第1の発明は、酸素イオン導電性を有する固体電解質の表裏に第一電極と第二電極が形成された酸素ポンプ素子と、前記酸素ポンプ素子を加熱するヒータと、前記酸素ポンプ素子に電圧を印加する電源回路と、密閉可能な容器と、前記第二電極が前記容器の内部空間と接するように配置した前記酸素ポンプ素子と前記ヒータを収納する筐体とを備え、前記電源回路の入力電圧が正負ともに変化するものである。正(負)電圧では酸素を排気することができ、逆の負(正)にすれば酸素を流入させることができため、保存庫内の酸素濃度を減少あるいは増加させることができる。
【0009】
第2の発明は、特に、第1の発明の酸素ポンプ素子の第一電極と第二電極の間に流れる電流量を測定する電気回路を設けたものである。酸素ポンプ素子に流れる電流量を測定することによって保存庫内の酸素濃度を推定することができる。すなわち酸素ポンプ素子の動作時に保存庫内の酸素濃度のモニターをすることができ、保存する食材等に最適な酸素濃度に設定することが可能となる。
【0010】
第3の発明は、特に、第2の発明の電気回路に流れる電流量に応じて電圧を制御する制御回路を設けたものである。これにより、入力電圧を自動的に調節することができるため、手間無く所定の酸素濃度にすることができる。
【0011】
第4の発明は、特に、第2、第3の発明の第二電極と容器内部との連絡部にガス拡散抵抗体を配置したものである。ガス拡散抵抗体を配置することによって、取り込む酸素ガス量を低下させ、それによって限界電流を生じるため、電流値を低電圧で感度良く測定することができる。
【0012】
第5の発明は、特に、第4の発明のガス拡散抵抗体が第二電極の面上に形成された導電性ペーストの焼結体であるものである。上記のような抵抗体としての作用だけでなく、第二電極に電子を均一に伝え、電極面上の電位分布を小さく抑えるための集電材料としての役割を併せ持つことができる。
【0013】
第6の発明は、特に、第4の発明のガス拡散抵抗体として、開空間の面積を変化させることができる開閉可能な手段としたものである。電流量を測定するときは、上記の通り、ガス拡散抵抗体は有用であるが、酸素を移動させて排気するときには、ガス拡散抵抗体は無い方が良い。したがって、ブラインドの開閉式やシャッターの絞りのような方式で、酸素を排気や流入させるときは開口部を全開にし、電流量を測定するときには開口部を小さくすることによっていずれも効率良く動作させることができる。
【0014】
第7の発明は、容器内部を攪拌する手段を設けたものである。酸素の排気や流入を一箇所から行うとき、容器内部に濃度勾配が生じるため、攪拌することによって容器内の酸素濃度を均一にでき、また正確に測定することができる。
【0015】
第8の発明は、容器内部の正圧または負圧にとともに開口する通気弁を設けたものである。酸素を排気すると負圧になり、酸素を流入させると正圧になり、容器内部と外部で気圧差が生じると酸素ポンプ素子性能が低下する。したがって、通気弁を設けることで、気圧差を是正し、保存庫としての性能低下を抑えることができる。
【0016】
以下、本発明の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0017】
(実施の形態1)
図1は本発明の第1の実施の形態における酸素濃度可変保存庫の断面図及び回路部分の模式図である。また、図2(a)、(b)は本発明の第1の実施の形態における通気弁の断面図、図3は酸素を移動させるためのデバイスの筐体の断面図である。
【0018】
酸素濃度可変保存庫は、開閉可能な容器1に、酸素のみを電気化学的に移動させることができるデバイスの筐体2と、容器内の気圧を調節するための通気弁3が備わっている。また、筐体2は、デバイスを動作させるための電源用の電源回路4とリード線5によって繋がっている。ここで、電源回路4の内部には、入力電圧の正負を適時に逆転させることのできる可変回路6を有している。そして、通気弁3には、図2の(a)のように二つの逆止弁7が内から外と外から内の向きで取り付けられた構造をしている。しかし図2(b)の他、内気と外気との気圧差を小さくするような方式であれば良い。
【0019】
また、筐体2の内部には、酸素イオン導電性を有する固体電解質8の表裏に電極を形成させた酸素ポンプ素子9と、加熱用のヒータ10(ヒータ用電源は図示せず)と、酸素ポンプ素子11を支持し、外気と内気を仕切る支持体11が、断熱材12によって覆われて設置されている。ここで、外気と接する電極側を第一電極14、内気と接する電極側を第二電極15とする。
【0020】
固体電解質8は、酸素イオン導電性を有する金属酸化物であり、イットリア安定化ジルコニア等の汎用的な固体電解質でも良いが、ランタンとガリウムを組成に持つランタンガレート系のペロブスカイト型酸化物がより好ましい。特に輸率が1.0に近づくように他の金属を添加したものが好ましい。本実施の形態ではストロンチウムとマグネシウムを添加して焼結させたランタンガレートを、直径30mm、厚み0.2mmに加工して用いる。第一電極14と第二電極15には、白金や銀などの貴金属、サマリウムとコバルトから成る金属酸化物などを用いる。これら電極は、スクリーン印刷による塗布や蒸着、スパッタリングによって形成する。本実施の形態では、サマリウムとコバルトを組成とした電極を、スクリーン印刷によって直径26mm、厚み10〜20μmとなるよう成形した。そして各電極から直径0.8mmの白金リード線16を取り出し、電源回路に接続している一般的なリード線6に繋がっている。また、ヒータ10は、ステンレス線をマイカ枠に巻いて加工されている。そして断熱材12は、シリカの粉末を充填して形成された多孔体で、通気性と断熱性を併せ持つものである。断熱材の厚みは50〜80mmとした。
【0021】
以上のように構成された酸素濃度可変保存庫の動作、作用を説明する。
【0022】
まず、ヒータ10によって酸素ポンプ素子9を600℃程度に加熱する。そして電源回路4内の可変回路6を切り換えることによって、第一電極14を正極、第二電極15を負極にする。続いて第一電極14と第二電極15に電圧を印加すると、容器1内の酸素が第二電極15上で吸着乖離し、第二電極15から電子を受け取り、酸素イオンとして固体電解質8に取り込まれる。そして印加された電圧による電界によって第一電極14まで移動する。移動した酸素イオンは第一電極14で電子を離して酸素分子となり、外気に排出される。このような動作原理のもと、ヒータ10への入力電力を約50W、酸素ポンプ素子9への電圧を0.8V、容器の容積を1.2Lとすると、時間の経過にしたがって容器内の酸素濃度が減少し、45分経過後には酸素濃度が1%未満となる。原理的には酸素濃度0%とならないが、容器の気密性を高めて長時間動作させることで、限りなく0%に近づいていく。
【0023】
次に、ヒータ10によって酸素ポンプ素子9を600℃程度に加熱した状態で、電源回路4内の可変回路6を切り換えることによって、第一電極14を負極、第二電極15を正極にする。すると上記の逆反応により、外気の酸素が第一電極14で酸素イオンとなり、固体電解質8を移動して第二電極15で酸素となって、容器1の内側へ取り込まれる。
【0024】
このような動作原理のもと、ヒータ10への入力電力を約50W、酸素ポンプ素子8への電圧を0.8V、容器の容積を1.2Lとすると、時間の経過にしたがって容器内の酸素濃度が増加し、30分経過後には酸素濃度が80%以上になる。原理的には酸素濃度100%とならないが、容器の気密性を高めて長時間動作させることで、限りなく100%に近づく。
【0025】
以上のように、可変回路7を切り換えることによって、容器内の酸素濃度を約0%から約100%まで可変させることができる。
【0026】
(実施の形態2)
図4は本発明の第2の実施の形態における酸素濃度可変保存庫の断面図及び回路部分の模式図である。また、図5(a)、(b)は本発明の第2の実施の形態におけるガス拡散抵抗体17、18の断面図である。
【0027】
酸素濃度可変保存庫は、開閉可能な容器1に、酸素のみを電気化学的に移動させることができるデバイスの筐体2と、容器内の気圧を調節するための通気弁3と、内部を攪拌するための攪拌手段19が備わっている。ここで攪拌手段19は、電気動力(図示せず)によって回転するファン等の回転部材である。また、筐体2は、デバイスを動作させるための電源用の電源回路4とデバイスを流れる電流を測定するための電気回路20にリード線6によって繋がっている。ここで、電源回路4の内部には、入力電圧の正負を適時に逆転させることのできる可変回路6を有している。さらに、電気回路20の出力電圧値を取り出すために、リード線21が電圧制御回路22に繋がっている。
【0028】
また、筐体2の内部には、酸素イオン導電性を有する固体電解質8の表裏に電極を形成させた酸素ポンプ素子9と、加熱用のヒータ10(ヒータ用電源は図示せず)と、酸素ポンプ素子9を支持し、外気と内気を仕切る支持体11が、断熱材12によって覆われて設置されている。ここで、外気と接する電極側を第一電極14、内気と接する電極側を第二電極15とする。さらに、第二電極15の面上にはガス拡散抵抗体17が形成されている。ここで、ガス拡散抵抗体は図5の(b)のガス拡散抵抗体18でも良い。
【0029】
固体電解質8、第一電極14、第二電極15、ヒータ10そして断熱材12は、実施の形態1と同様である。そして、ガス拡散抵抗体17は、金ペーストの焼結体を5〜10μmの厚みで形成させた。またガス拡散抵抗体18は、第二電極側に酸素が取り込まれるのを機構的に防止するための手段で、スライド式の開閉窓、シャッターの絞り方式、ブラインド式の開閉窓等が考えられる。こらの開閉可能な手段は、酸素濃度を測定する時に自動的に開空間を絞れるように、電源回路からの信号を取り込むためのリード線(図示せず)を設置しても良い。
【0030】
以上のようなガス拡散抵抗体17を用いて構成された酸素濃度可変保存庫内の酸素濃度を増加、減少させるための動作は、実施の形態1と同様である。そこで、図6(a)、(b)、(c)を用いて保存庫内の酸素濃度を測定する方法を説明する。
【0031】
図6(a)はガス拡散抵抗体を使用しないときの各酸素濃度における酸素ポンプ素子の電流電圧特性図である。酸素濃度の値によって一定電圧のときの電流量は異なるが、高電圧にしないと酸素濃度を推定することは難しい。一方図6(b)はガス拡散抵抗体を使用したときの電流電圧特性図である。ガス拡散抵抗体があるために、高濃度酸素の領域でも限界電流が現れている。そして限界電流の値は、酸素濃度によって大きな差が生ずる。また低電圧でも測定可能となる。図6(c)は、限界電流値に対する酸素濃度の値を示す図である。酸素濃度の低い領域から高い領域まで、電流値を測定することで酸素濃度を推定することが可能である。
【0032】
ここで、容器1内の酸素濃度を低下させるために、酸素を排気しているときは、動作中の電流量を測定することによって、容器1内の酸素濃度を推定することができる。また、容器1内の酸素濃度を増加させるために、酸素を取り込んでいるときは、電源回路4内の可変回路6を切り換えて、酸素を排気しながら電流量を測定する必要がある。いずれにしても、第一電極14を正極、第二電極15を負極にすることによって、容器1内の酸素濃度を1.0V以内の低電圧で推定することができる。
【0033】
また、電気回路20の出力電圧を取り出して電圧制御回路22によって制御することで、所定の酸素濃度に設定することができる。すなわち、酸素濃度が高すぎる場合は電気回路20の出力電圧が大きいので、その信号を得た電圧制御回路22が電源電圧を低下させ、逆に、酸素濃度が低すぎる場合は電気回路20の出力電圧が小さいので、その信号を得た電圧制御回路22が電源電圧を増加させるよう制御している。
【0034】
以上のように、可変回路7を切り換えることによって、容器内の酸素濃度を約0%から約100%までの所定の酸素濃度に可変させることができる。
【0035】
なお、実施の形態1,2において、容器1を具体的に冷蔵庫に置き換えたものも本発明の一実施例となり、冷蔵庫内の酸素雰囲気(酸素濃度)を調整することが可能であり、保存する食材等に最適な酸素濃度に設定することが可能となる。また、酸化防止のための保存庫だけでなく、好気性菌の繁殖防止を行うことができる。また、その他にも冷凍庫、ワインセラー等にも応用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上のように、本発明にかかる酸素濃度可変保存庫は、庫内の酸素濃度を約0%から約100%まで自在に変化させることができるため、酸化防止のための保存庫だけでなく、好気性菌の繁殖防止を行うことができる。したがって、幅広い食材の保存庫として応用できる。また、冷蔵庫の拡張した機能として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態1における酸素濃度可変保存庫の断面図及び回路部模式図
【図2】(a)は発明の実施の形態1における通気弁の断面図(b)はその他の通気弁の断面図
【図3】は本発明の実施の形態1におけるデバイスの筐体の断面図
【図4】は本発明の実施の形態2における酸素濃度可変保存庫の断面図及び回路部模式図
【図5】(a)は本発明の実施の形態2におけるガス拡散抵抗体の断面図(b)はその他のガス拡散抵抗体の断面図
【図6】(a)はガス拡散抵抗体を使用しないときの電流電圧特性の概略図(b)は本発明の実施の形態2における電流電圧特性の概略図(c)は本発明の実施の形態2における限界電流値に対する酸素濃度の算出直線の概略図
【符号の説明】
【0038】
1 容器
2 筐体
3 通気弁
4 電源回路
6 可変回路
8 固体電解質
9 酸素ポンプ素子
10 ヒータ
14 第一電極
15 第二電極
17、18 ガス拡散抵抗体
19 攪拌手段
20 電気回路
22 電圧制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン導電性を有する固体電解質の表裏に第一電極と第二電極が形成された酸素ポンプ素子と、前記酸素ポンプ素子を加熱するヒータと、前記酸素ポンプ素子に電圧を印加する電源回路と、開閉可能な容器と、前記第二電極が前記容器の内部空間と接するように配置した前記酸素ポンプ素子と前記ヒータを収納する筐体とを備え、前記酸素ポンプ素子への入力電圧が正負に変換可能であることを特徴とする酸素濃度可変保存庫。
【請求項2】
酸素ポンプ素子の第一電極と第二電極の間に流れる電流量を測定する電気回路を設けた請求項1に記載の酸素濃度可変保存庫。
【請求項3】
電流量に応じて入力電圧を制御するための電圧制御回路を設けた請求項2に記載の酸素濃度可変保存庫。
【請求項4】
第二電極と容器内部との連絡空間にガス拡散抵抗体を配置した請求項2または3に記載の酸素濃度可変保存庫。
【請求項5】
ガス拡散抵抗体が第二電極の面上に形成された導電性ペーストの焼結体である請求項4に記載の酸素濃度可変保存庫。
【請求項6】
開空間の面積を変化させることのできる開閉可能な手段を設けた請求項4に記載の酸素濃度可変保存庫。
【請求項7】
容器内部に攪拌手段を設けた請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸素濃度可変保存庫。
【請求項8】
容器内部の正圧または負圧とともに開口する通気弁を設けた請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸素濃度可変保存庫。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−166831(P2006−166831A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−365677(P2004−365677)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】