説明

酸素透過器

【課題】簡単な構造にて熱応力による固体電解質の破損を防止できる酸素透過器を提供する。
【解決手段】イオン伝導性を有する板状の固体電解質1およびその表裏両面の中央部に配した表面電極2と裏面電極3で成る電気化学セル10と、開口部13が裏面電極3に対向するように配置されて電気化学セル10を支持する枠状の基板4とを備える。固体電解質1の裏面側の外周部がシール材8にて基板4に接合されており、且つ、裏面電極3より基板4の開口部13の内壁4aと裏面4bを経て基板4の外側面4cに至る第1厚膜配線9aが形成されていると共に、表面電極2より基板4の表面4dを経て第1厚膜配線9aとは別方向より基板4の外側部4eに至る第2厚膜配線9bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルを備えた酸素透過器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気化学反応によって空気等の酸素含有混合ガス中から酸素を分離して選択的に取り出す酸素透過器が知られている。酸素透過器は、イオン伝導性を有する固体電解質基板の表裏両面に一対の電極を配した電気化学セルを有し、通常、この電気化学セルの固体電解質基板部分が接着材等で支持部材に接着・固定されることにより酸素透過器が構成されている。
ところが、この種の酸素透過器では、作動時に電気化学セルを400〜800℃の高温度に昇温させる必要があるため、固体電解質基板と支持部材との接合面に各部材の熱膨張係数の差で生じる熱歪み(熱応力)が発生し、強度が低い固体電解質基板に割れやクラックが発生するいう問題を有していた。
【0003】
このような、電気化学セルの破損防止技術として、例えば、特許文献1や特許文献2等が提案されている。
特許文献1には、金属泊(支持部材)と固体電解質基板を間に導電性シール材を介して接着する構造が開示され、また、特許文献2には、固体電解質基板を支持部材に移動自在に支持させる構造が開示されており、これらの開示技術によれば、固体電解質基板と支持部材との接合部位に生じる熱応力が緩和され、固体電解質基板の割れやクラックが防止できるが、一方では、これらの支持構造によって酸素透過器の構造が複雑化し、コスト高となるいう問題を有していた。
【特許文献1】特開2003−107043号公報
【特許文献2】特開2005−89233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述した従来の問題点に鑑み成されたもので、簡易な構造で熱応力による固体電解質の破損を防止できる安価で耐久性の高い酸素透過器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、請求項1に記載の発明は、イオン伝導性を有する板状の固体電解質およびその表裏両面の中央部に配した表面電極と裏面電極で成る電気化学セルと、開口部が前記裏面電極に対向するように配置されて前記電気化学セルを支持する枠状の基板とを備え、前記固体電解質の裏面側の外周部がシール材にて前記基板に接合されており、且つ、前記裏面電極より前記基板の開口部の内壁と裏面を経て前記基板の外縁部に至る第1厚膜配線が形成されていると共に、前記表面電極より前記基板の表面を経て前記第1厚膜配線とは別方向より前記基板の外縁部に至る第2厚膜配線が形成されていることを特徴としている。
【0006】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の酸素透過器において、前記固体電解質にランタンガレートが用いられ、且つ、前記シール材に結晶化ガラスが用いられることを特徴としている。
【0007】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2の何れかに記載の酸素透過器において、前記基板は、複数の分割部材をガラス層により接合して構成されていることを特徴としている。
【0008】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3までの何れかに記載の酸素透過器において、前記シール材は、角のない枠体状であることを特徴としている。
【0009】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4までの何れかに記載の酸素透過器が支持部材上に複数配置されると共に、各酸素透過器の基板外縁部において前記第1厚膜配線同士および前記第2厚膜配線同士が厚膜配線により接続されて構成されることを特徴としている。
【0010】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項4までの何れかに記載の酸素透過器が支持部材上に複数配置されると共に、各酸素透過器の基板外縁部において、前記第1厚膜配線と前記第2厚膜配線が厚膜配線により接続されて構成されることを特徴としている。
【0011】
また、請求項7に記載の発明は、請求項5または請求項6の何れかに記載の酸素透過器において、前記第1厚膜配線および前記第2厚膜配線および前記厚膜配線のそれぞれの配線の幅を前記電極の幅と同等以上としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、固体電解質と基板との接合面に厚膜配線を通過させることなく各電極を基板の外縁部に引き出すことができるため、厚膜配線材料に影響されることなく、接合面における各部材の熱膨張係数を合わせ易くできる。加えて、電気化学セルの支持構造は、枠状の基板に固体電解質の外周部を固定するだけであるから極めて簡易であるため安価な酸素透過器を提供できる。
【0013】
また、請求項2に記載の発明では、シール材である結晶化ガラスの熱膨張係数は固体電解質(ランタンガレートの熱膨張係数10.8×10-6/K)と近似しているため、固体電解質の接合部位に生じる熱応力を最小限に抑制することができ、固体電解質の破損を防止できる。
【0014】
また、請求項3に記載の発明では、固体電解質と基板をシール材で接合する際の熱応力が基板を構成する複数の分割部材の各接合箇所において吸収されるため、固体電解質に割れを生じさせることなく固体電解質と基板の接合が行えるようになる。
【0015】
また、請求項4に記載の発明では、シール材と固体電解質との熱膨張係数が異なる場合にも、熱応力がシール材の湾曲角部において分散されるため、固体電解質に割れが生じることを防止できる。
【0016】
また、請求項5、6に記載の発明によれば、複数の酸素透過器の接続(並列接続、或いは直列接続)も支持部材上に単純な接続用の厚膜配線を形成することにより行うことができるため、複数の酸素透過器を用いた大容量の酸素透過器を容易、且つ、簡易な構造で構成することもできる。
【0017】
また、請求項7に記載の発明によれば、各電極における電流密度を均一にすることができ、その結果、酸素イオンの透過能力を向上できると共に、固体電解質の温度分布を無くすことができ、熱応力によって固体電解質に割れが生じることを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図1、図2に基づいて本発明に係る酸素透過器の実施形態を説明する。図1は本実施形態による酸素透過器の側面図を示し、図2は、同、酸素透過器の平面図および裏面図を示している。
【0019】
図1、図2に示すように、本実施形態による酸素透過器20は、電気化学セル10と、この電気化学セルの外周部を支持する基板4とを備える。
【0020】
電気化学セル10は、酸素イオン伝導性を有する薄板状の固体電解質1と、その表裏両面の中央部に配したアノード電極2(表面電極)とカソード電極3(裏面電極)の一対の電極とで構成されており、これら固体電解質1および一対の電極2、3は何れも矩形状であって、電極2、3の周縁部に固体電解質1が露出した状態となっている。
【0021】
固体電解質1には、例えば、(LaSr)(GaMg)C3、(LaSr)(GaMgCo)O3、(LaSr)(GaMgNi)O3、(LaSr)(GaMgFe)O3等のランタンがレート系材料が用いられ、上記アノード電極2、カソード電極3には、それぞれ(SmSr)CoO3、(LaBa)CoO3、(LaSr)CoO3等の電気伝導性の高い材料が用いられる。
【0022】
電気化学セル10は、400〜800℃においてアノード電極2とカソード電極3間に直流電圧を印加することにより固体電解質1がその一方の低電位電極面(カソード電極3側)から他方の高電位電極面(アノード電極2側)に向けて酸素含有混合ガス中(空気)から酸素のみを選択的に透過させる酸素透過膜として作用する。
【0023】
他方、基板4は、上記電気化学セル10より幾分サイズの大きい枠形矩形状の基板であって、この枠部上に固体電解質1の外周部を支持させた時、枠内(開口部13)に電極部分が収まるようになっている。
【0024】
本実施形態では、固体電解質1の外周部と基板4とがシール材8にて接合されている。シール材8として、熱膨張係数が固体電解質1(ランタンガレートの熱膨張係数は約10.8×10-6/K)と近似する結晶化ガラスを用いるのが好ましく、特に、この結晶化ガラスにLaを含有させると、接合性が向上し、固体電解質1と基板4を強固に密着させることができる。また、基板4は、電気化学セル10の支持体として十分な機械的強度と絶縁性を有し、且つ、上記固体電解質1や結晶化ガラス8と熱膨張係数が近似するセラミックス材料を用いるのが望ましく、特に、マシナブルセラミックスは機械的加工性にも優れるため好適である。
因みに、結晶化ガラスの熱膨張係数は、10×10-6/K〜12×10-6/Kであり、マシナブルセラミックスの熱膨張係数は、およそ10.3×10-6/K程である。
【0025】
そして、図1、図2に示すように、開口部13に面するカソード電極3上に第1厚膜配線9aが形成され、この第1厚膜配線9aがカソード電極3の1辺側から引き出され、基板開口部13の内壁4aと裏面4bを経て引き出し側の外側面4cに至り、この外側面4cにおいて外部接続用の第1端子部5が形成されている。この際の第1厚膜配線9aの幅はカソード電極3の幅と同等としている。
また、アノード電極2上に第2厚膜配線9bが形成され、この第2厚膜配線9bがアノード電極2の1辺側から上記した第1厚膜配線9aの引き出し方向と反対方向に引き出され、基板4の表面4dを経て引き出し側の外側面4eに至り、この外側面4eにおいて第2端子部6が形成されている。この際の第2厚膜配線9bの幅はアノード電極2の幅と同等としている。
【0026】
これら厚膜配線9a、9bの材料としては、Ag、Au、Pt等が用いられ、例えば、これら金属材料による厚膜ペーストがスクリーン印刷法にて各電極2、3上と基板4上に印刷される。
【0027】
このように、本実施形態の酸素透過器20では、上記のような電極引き出し構造とすることにより、固体電解質1と基板4との接合面に厚膜配線9a、9bを通過させずに各電極2、3を基板4の外縁部に引き出し、外側面4c、4eに端子部5、6を形成することができるため、厚膜配線材料に影響されることなく、接合面における各部材の熱膨張係数を合わせ易くできる。
特に、結晶化ガラスや基板の熱膨張係数は固体電解質(ランタンガレート)と近似しているため、固体電解質1の接合面に生じる熱応力を最小限に抑制することができ、固体電解質1の破損を防止できる。
また、基板4の枠部に固体電解質1の外周部をシール材8で固定するだけであるから電気化学セル10の支持構造は極めて簡易であり、安価な酸素透過器20を提供できる。
【0028】
また、上記基板4は、図5(a)に示すように、セラミックス材料で成る複数(4点)の分割部材4a〜4dの組み合わせで枠状に構成しても良い。
本実施形態では、分割部材4a〜4dとして熱膨張係数が固体電解質1に近似し、且つ、加工性に優れるマシナブルセラミックスを用い、これら分割部材4a〜4dの各接合箇所15に接着剤(例えば、樹脂製接着剤)を塗布して接着する。
【0029】
次に、この基板4と固体電解質1を接合するには、図5(b)に示すように、接着剤で接合された基板4上にシール材8(結晶化ガラス)を枠部内縁に沿って四角状に塗布し、図5(c)に示すように、その上に固体電解質1(電気化学セル10)を載せて焼成する。
この時、焼成時の高温で先ず各分割部材4a〜4dの接合箇所15において接着剤が分解し、次いでシール材8が軟化して固体電解質1と基板4が貼り合わさるため、焼成時に固体電解質1に加わる熱応力が各分割部材4a〜4dの接合箇所15において吸収され、固体電解質1に割れを生じさせることなく固体電解質1と基板4の接合が行えるようになる。また、焼成時にシール材8が各分割部材4a〜4dの接合箇所15に若干浸入すると、固体電解質1と基板4の接合が強固になるため、より好ましい。
【0030】
また、図5の場合では、シール材8を四角枠状に塗布したが、図6(a)〜(c)に示すように、円形、楕円形、四隅を湾曲させた長方形等のように、シール材8を角のない枠体状にすることにより、熱応力が湾曲状の角部において湾曲ラインに沿って分散されるため、固体電解質1に割れが生じることを防止できる。 この場合、基板4に接合する固体電解質1の形状も、このシール材8の外形と同形状の円形、楕円形、四隅を湾曲させた長方形(図示せず)にすると、固体電解質1の湾曲角部において応力集中を緩和することができるため、より好ましい。
【0031】
次に、図3、図4は上記構成の酸素透過器20を複数用いて酸素透過器を構成する場合を示している。
【0032】
図3は、複数の酸素透過器20を直列に接続した例であり、図示のように、板状の支持部材11上に複数(3個)の酸素透過器20を一列に並べて固定し、それぞれ酸素透過器20の第1端子部5と第2端子部6を厚膜配線12により接続したものである。
【0033】
他方、図4は、複数の酸素透過器20を並列接続した例であり、図示のように、支持部材11上に複数(3個)の酸素透過器20を一列に並べて固定し、それぞれ酸素透過器20の第1端子部5同士、および第2端子部6同士を厚膜配線12にて接続したものである。
【0034】
尚、厚膜配線12もまた、上記同様、Ag、Au、Pt等を用いたスクリーン印刷法にて形成することができる。第1端子部5および第2端子部6はそれぞれ基板4の対向辺に形成されているから、図示のように厚膜配線12による端子部同士の接続は極めて容易に行える。
【0035】
本実施形態では、この厚膜配線12の幅を電極2、3の幅(すなわち、第1厚膜配線9a、第2厚膜配線9bの幅)と同等以上としており、これにより、各電極2、3における電流密度を均一にすることができ、その結果、電極における酸素イオンの透過能力を向上できると共に、固体電解質1の温度分布を無くすことができ、熱応力によって固体電解質1に割れが生じることを防止できる。
【0036】
このように、複数の酸素透過器20の直列接続や並列接続は支持部材11上に形成した厚膜配線12により簡単におこなうことができるため、必要酸素量に応じた様々な用途に対して容易に対応でき、且つ、耐久性の高い酸素透過器を容易に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態による酸素透過器の側面図。
【図2】(a)は図1の平面図、(b)は裏面図。
【図3】本発明の酸素透過器を複数直列接続した状態を示す図。
【図4】本発明の酸素透過器を複数並列接続した状態を示す図。
【図5】酸素透過器の組み立て手順を示す図。
【図6】基板の構成例を示す図。
【符号の説明】
【0038】
1 固体電解質
2 表面電極
3 裏面電極
4 基板
8 シール材(結晶化ガラス)
9a 第1厚膜配線
9b 第2厚膜配線
10 電気化学セル
11 支持部材
13 開口部
15 接合箇所
20 酸素透過器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性を有する板状の固体電解質およびその表裏両面の中央部に配した表面電極と裏面電極で成る電気化学セルと、開口部が前記裏面電極に対向するように配置されて前記電気化学セルを支持する枠状の基板とを備え、
前記固体電解質の裏面側の外周部がシール材にて前記基板に接合されており、且つ、前記裏面電極より前記基板の開口部の内壁と裏面を経て前記基板の外縁部に至る第1厚膜配線が形成されていると共に、前記表面電極より前記基板の表面を経て前記第1厚膜配線とは別方向より前記基板の外縁部に至る第2厚膜配線が形成されていることを特徴とする酸素透過器。
【請求項2】
前記固体電解質にランタンガレートが用いられ、且つ、前記シール材に結晶化ガラスが用いられることを特徴とする請求項1に記載の酸素透過器。
【請求項3】
前記基板は、複数の分割部材をガラス層により接合して構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2の何れかに記載の酸素透過器。
【請求項4】
前記シール材は、角のない枠体状であることを特徴とする請求項1から請求項3までの何れかに記載の酸素透過器。
【請求項5】
請求項1から請求項4までの何れかに記載の酸素透過器が支持部材上に複数配置されると共に、各酸素透過器の基板外縁部において、前記第1厚膜配線同士および前記第2厚膜配線同士が厚膜配線により接続されて構成されることを特徴とする酸素透過器。
【請求項6】
請求項1から請求項4までの何れかに記載の酸素透過器が支持部材上に複数配置されると共に、各酸素透過器の基板外縁部において、前記第1厚膜配線と前記第2厚膜配線が厚膜配線により接続されて構成されることを特徴とする酸素透過器。
【請求項7】
前記第1厚膜配線および前記第2厚膜配線および前記厚膜配線のそれぞれの配線の幅を前記電極の幅と同等以上としたことを特徴とする請求項5または請求項6の何れかに記載の酸素透過器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−13425(P2008−13425A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220194(P2006−220194)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】