説明

酸素還元性触媒層の製造方法

酸素還元性触媒層が、物理的蒸着および熱処理を用いて基材上に配置された触媒物質膜を含む酸素還元性触媒層、ならびにその酸素還元性触媒層の製造方法。触媒物質膜は、白金を実質的に含まない遷移金属を含む。含窒素ガスを含む処理環境中で、物理的蒸着および熱処理の少なくとも1つを実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー省により授与された協力協定(Cooperative Agreement)DE−FC36−03G013106の下で米国政府の支援によりなされたものである。米国政府は、本発明において特定の権利を有している。
【0002】
本明細書にて、同時係属の米国特許出願第11/379523号(同日付の出願)(代理人整理番号6195US002)(名称「酸素還元性触媒層」)を参照する。
【0003】
本発明は、燃料電池などの電気化学的デバイスにて使用するための膜電極アセンブリに関する。特に、本発明は、膜電極アセンブリにて使用するための触媒層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0004】
燃料電池は、水素などの燃料と、酸素などの酸化剤との触媒反応的組み合わせによって使用可能な電気を生成する電気化学的デバイスである。従来の発電装置、例えば内燃機関発電機と対照的に、燃料電池は燃焼を利用しない。そのようなものであるから、燃料電池は有害排出物をほとんど作り出さない。燃料電池は、水素燃料および酸素を直接に電気に変換し、内燃機関発電機と比較してより高効率で稼動できる。
【0005】
燃料電池、例えばプロトン交換膜(PEM)燃料電池は典型的には、一対の触媒層の間に配置された電解質膜により形成された膜/電極接合体(MEA)を具備し、触媒層は一対の気体拡散層の間に対応して配置される。前記電解質膜の各側面は、アノード部分およびカソード部分と呼ばれる。典型的PEM燃料電池では、水素燃料は前記アノード部分に導入され、そこで、水素が反応し、プロトンおよび電子に分離する。前記電解質膜は、プロトンをカソード部分に運び、一方で外部回路を貫流する電子の流れをカソード部分に生じさせ、電力を提供する。酸素が、前記カソード部分に導入され、プロトンおよび電子と反応し、水および熱を生じる。
【0006】
PEM燃料電池を商業的に応用する上で一般的に障害となるのは、触媒層の性能である。そのコストにもかかわらず、白金は現在、触媒層のための材料として選択される。しかし、望ましい作動電圧を得るためには、触媒層に大量の白金が必要とされるが、このことは材料コストを増大させる。更に、高電圧において、白金は水および/または酸素と反応し、そのため酸素還元反応において、その触媒活性を阻害する酸化被膜が生じる可能性がある。このため、代わりの触媒物質、およびそのような材料からコスト、性能、および耐久性の観点から利点を提供する触媒層を製造する方法が必要とされている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、酸素還元性触媒層の製造方法に関する。その方法は、白金を実質的に含まない遷移金属を含むターゲットから基材上に触媒物質を物理的に蒸着させることを含む。前記方法は、前記触媒物質を熱処理することを更に含む。含窒素ガスを含む処理環境中で、物理的蒸着および熱処理の少なくとも1つを実施する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
添付の図面は、本発明のいろいろな実施形態を示すが、考察において記載したように、他の実施形態もまた考えられる。いかなる場合も、本開示は、代表として提示するものであって、限定としてではない。本発明の範囲および主要な精神に含まれる多数の他の変更および実施形態が、当業者によって考案されうることを理解されたい。図面は尺度どおりに描かれていないことがある。同様の参照番号が、同様の部分を示すために複数の図面を通じて使用されている。
【0009】
図1は、触媒層10(本発明の方法によって製造された酸素還元性触媒層)の断面である。触媒層10は、基材12および膜14を含み、かつPEM燃料電池内(例えば、MEA内のカソード触媒層)に用いるのに好適である。基材12は表面16を含み、膜14は表面16上に配置される。膜14は、白金を実質的に含まない触媒物質を組成的に含み、かつ後述するように、物理的蒸着(PVD)プロセスおよび熱処理の組み合わせにより形成される。その結果、白金を実質的に含まない(本明細書では、触媒層10内で約5マイクログラム/cm以下の白金を意味するものとして定義される)けれども、触媒層10は酸素を還元するための良好な触媒活性を示す。
【0010】
図2は、触媒層10を製造するための方法18のフローチャートであり、工程20〜28を含む。方法18ではまず、物理的蒸着(PVD)システム内に「第1処理環境」を生成し(工程20)、当該PVDシステムは、炭素ターゲットおよび白金を実質的に含まない遷移金属ターゲットを含む。第1処理環境は、PVDシステムを減圧(例えば、約0.007Pa(1×10−5トール)以下)まで排気することかつ次に、作業圧力に到達するまでガスを導入することによって生成する。第1処理環境のために好適な作業圧力の例は、約0.07Pa(0.5ミリトール)〜約0.7Pa(5ミリトール)の範囲で変動する。
【0011】
第1処理環境のために好適なガスの例としては、含窒素ガス、酸素、水蒸気、水素、アルゴン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。第1処理環境のために特に好適なガスの例としては、窒素、アンモニアなどの含窒素ガス、含窒素揮発性有機化合物類(例えば、ピリジン、アセトニトリル、ピロール、ピロリジン、およびキノリン)およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0012】
次に、基材12をPVDシステム(工程22)に通し、それによって基材12を第1処理環境にさらす。基材12のための好適な材料の例としては、ナノ構造薄膜基材類(例えば、米国特許第5,338,430号(パルソナージ(Parsonage)ら)、および米国特許第4,812,352号および米国特許第5,039,561号(デーブ(Debe))にて開示された基材類)、マイクロ構造薄膜基材類(例えば、米国特許第6,136,412号(スピワック(Spiewak)ら)にて開示された基材類)、炭素含有基材類、炭素含有織布類、炭素含有不織布類、亜酸化チタンセラミックス(例えば、「エボネックス(EBONEX)」の商標名にて、エボネックス社(ミシガン州メルヴィンデール)から市販されているセラミックス)、ナノ酸化スズ膜類、ナノ酸化チタン膜類、非皮膜系炭素含有粒子類および粉末類、炭素含有繊維類、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0013】
このような物質は、熱的に安定しており、後続熱処理の高温に耐える。本明細書で使用する時、用語「熱的に安定な」とは、少なくとも約350℃、より望ましくは少なくとも約500℃の温度において、2時間までの継続時間で、実質的に劣化することなく耐える材料の能力を示す。
【0014】
次に、PVDシステムでは、第1処理環境(工程24)の物理的プロセス(例えば、スパッタリングおよびカソードアーク)による蒸気相中での原子発生を通じて、触媒物質が基材12上に堆積される。例えば、スパッタリングプロセス中、第1処理環境のガスに電界を印加し、これによりイオン化原子の自続プラズマが生じる。イオン化原子は、炭素ターゲットおよび遷移金属ターゲットに衝突し、それによって炭素原子および遷移金属原子を追い出す。次に、追い出された原子は基材12へと移動し、基材上でそれらはガス原子と共に凝縮する。これより触媒物質の膜14が基材12の表面16上に形成される。代替的実施形態では、炭素および遷移金属の成膜は、2つの別個のシステムにおいて連続して実施されてよい。
【0015】
基材12が粉末または粒子から得られる実施形態では、粉末または粒子が、PVDプロセス中に攪拌によって移動してよい。好適な攪拌プロセスの一例は、米国特許公開番号第2005/0095189号(ブレイ(Brey)ら)に記載されている。得られる触媒物質でコーティングされた粉末または粒子は、更に、平面基材類および平面膜類に対して本明細書中に記載されているように活性化される。
【0016】
上述したように、遷移金属ターゲットは、白金を実質的に含まない。更に、一実施形態では、遷移金属ターゲットもまた、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、および銀などのあらゆる貴金属類を実質的に含まない。貴重材料は材料コストが高く、かつ望ましい作動電圧および作動電流を得るためには、大量に必要とされる。それに対して、遷移金属ターゲットのための好適な遷移金属の例としては、鉄、コバルト、およびこれらの組み合わせが挙げられる。これらの好適な遷移材料は貴金属類よりも安上がりであり、それによって製造中の材料コストが低減する。
【0017】
膜14は、基材12上に炭素原子、イオン化原子、および遷移金属原子が凝縮することにより形成されるために、触媒物質は、炭素、遷移金属、および堆積したガス原子(例えば、窒素)を組成的に含む。それゆえに、膜14の触媒物質もまた、白金を実質的に含まない(かつ一実施形態では、あらゆる貴金属類をも有しない)。膜14の触媒物質のための特に好適な組成物の一例は、化学式・C1−x−y−N−M(x+y<1)で表してよく、式中、Mは鉄、コバルト、およびこれらの組み合わせなどの非白金遷移金属である。
【0018】
膜14の触媒物質中の炭素原子濃度の好適例は、約50.0%〜約99.8%の範囲で変動し、特に好適な炭素原子濃度は、約80.0%〜約95.0%の範囲である。膜14の触媒物質中の窒素原子濃度の好適例は、約0.1%〜約45.0%の範囲で変動し、特に好適な炭素原子濃度は、約4.0%〜約20.0%の範囲である。膜14の触媒物質中の遷移金属原子濃度の好適例は、約0.01%〜約15.0%の範囲で変動し、特に好適な炭素原子濃度は、約2.0%〜約10.0%の範囲である。
【0019】
典型的には、PVD処理で材料の薄層を一回通過で堆積させる。本発明に関して、堆積される膜14の厚さは、電力設定、第1処理環境内のガスの組成および濃度、並びに基材12のラインスピードなどのPVDパラメーターに基づいて変更できる。従って、堆積される膜14の厚さを増大させるためには、膜14の好適な厚さが得られるまで、基材12を複数回PVDシステムに通過させる(架空矢印25で表されるように)。それゆえに、膜14のための好適な厚みの例は、約10ナノメートル〜約5,000ナノメートルの範囲で変動し、特に好適な厚みは、約100ナノメートル〜約500ナノメートル(平面相当)の範囲である。
【0020】
一旦、膜14を基材12上に堆積したら、次に、得られたコーティング基材(本明細書において「12」として参照される)を熱処理システム内に設置し、かつ熱処理システム内に第2処理環境を生じさせる(工程26)。前記熱処理システムは、対流式オーブンまたは石英管状炉などの任意のタイプの好適な加熱システムであってよい。後述するように、一実施形態では、熱処理システムは、PVDシステム内に配置される発熱体である。これにより、PVD処理(工程24)および熱処理(工程28、下記に記載される)を単一装置内にて実質的に同時に実施することができる(下の図4に示す通り)。
【0021】
第2処理環境は、処理ガスを熱処理システム内へ導入して、実質的に残留ガスをパージすることによって生成される。第2処理環境のための好適な、および特に好適な処理ガスの例としては、上述した第1処理環境のための好適な、および特に好適なガスが挙げられる。触媒物質内の窒素原子が、触媒層10の触媒活性を増大させると考えられている。従って、第1処理環境および第2処理環境の少なくとも1つは、含窒素ガスを含む。それゆえに、含窒素ガスを含む処理環境は、PVDプロセスまたは熱処理のいずれか一方の間に生成されてよい。一実施形態では、含窒素ガスを含む処理環境は、PVDプロセス中および熱処理中の両方で生成される。
【0022】
一旦第2処理環境が生じたら、次に、当該第2処理環境中にて膜14の触媒物質を熱的に処理される(工程28)。前記熱処理は、種々の熱プロファイルおよび/または複数工程にて実施してよい。例えば、温度は、処理温度に到達するまで、所定の速度(例えば、6℃/分)にて昇温させてよく、かつ次に処理温度にて所望の継続時間(例えば、15分間)保持してよい。好適な処理温度の例としては、少なくとも約350℃の温度が挙げられ、より好適な処理温度の例としては、少なくとも約600℃の温度が挙げられ、更により好適な処理温度の例としては、少なくとも約900℃の温度が挙げられる。
【0023】
第2処理環境のために採用されたガス組成は更に、2つまたはそれ以上の工程を設ける熱処理プロセス中に変更してよい。例えば、アンモニアおよび水素の第1ガス組成を含む処理環境を第1熱処理工程(例えば、約350℃〜約600℃の温度まで加熱すること)のために使用することができ、かつアンモニアおよび窒素の第2ガス組成を含む処理環境を第2熱処理工程(例えば、約600℃まで加熱すること)のために使用することができる。
【0024】
一旦熱処理が完了したら、次に得られた触媒層10をPEM燃料電池において使用するために熱処理システムから取り出してよい。PVD処理と熱処理との組み合わせにより、触媒層10は酸素を還元することにおいて良好な触媒活性を示す。触媒層10の好適な酸素還元性触媒活性の例としては、可逆水素電極(RHE)に対して、0.6ボルトで少なくとも約0.02ミリアンペア/平方センチメートル(mA/cm)が挙げられ、触媒層10の特に好適な酸素還元性触媒活性の例としては、少なくとも約0.05mA/cmが挙げられる。
【0025】
更に、膜14の触媒物質のための上述の好適な原子濃度により、触媒層10は酸性環境(例えば、燃料電池)の使用において耐食性を有することが可能になる。本明細書で使用する時、用語「耐食性を有する」とは、0.5モル濃度の硫酸(HSO)溶液に少なくとも一週間曝露後、触媒層10が炭素、窒素、および遷移金属について、少なくとも上述の好適な原子濃度を保持する能力を指す。更に、触媒物質が白金を実質的に含まず、かつ一実施形態では、貴金属類を実質的に含まないために、触媒層10の材料コストが低減される。
【0026】
図3Aおよび図3Bは、それぞれPVDシステム30aおよび30bの概略図であり、それは、基材12上に触媒物質を物理的に蒸着させるための代替システムであって、方法18の工程24(上記図2に示す)に準じる。図3Aに示すように、PVDシステム30aは、チャンバ32、供給ロール34および36、支持ホイール38、取り出しロール40および42、炭素ターゲット44、および遷移金属ターゲット46を含む。PVDシステム30aのための好適なシステムの例は、米国特許第5,643,343号および米国特許第5,711,773号(セリファノヴ(Selifanov)ら)に開示される、DCマグネトロン・スパッタリング・システムおよびパルス・カソード・アーク装置のシステムを含み、それらは炭素ターゲット44および遷移金属ターゲット46を含むように変更されている。
【0027】
チャンバ32は、方法18の工程20(上記図2に示す)に準じ、そこで第1処理環境を発生させるPVDチャンバである。供給ロール34および36、支持ホイール38、および取り出しロール40および42は、PVD処理中に、基材12のためのウェブ経路を提供するロールである。炭素ターゲット44および遷移金属ターゲット46は、支持ホイール38に隣接して配置され、基材12が支持ホイール38の周囲を(図3Aの時計回りの方向で)回転する際に、それぞれが炭素原子および遷移金属原子を基材12上に物理的に蒸着される。
【0028】
更に図3Aに示すように、炭素ターゲット44は、遷移金属ターゲット46の上流に位置している。その結果、炭素ターゲット44により、遷移金属ターゲット46が遷移金属原子を堆積する前に、炭素原子が基材12上に堆積される。基材12が炭素ターゲット44の下を通過する際に、弾き出された炭素原子が基材12へと移動し、そこでそれらはイオン化原子と共に凝縮する。続いて、次に、基材12が遷移金属ターゲット46の下を通過する際に、弾き出された遷移金属原子が基材12へと移動し、そこでそれらはイオン化窒素原子と共に、予め凝縮させた炭素/窒素原子の上に凝縮する。
【0029】
一般に、この2段階堆積工程は、膜14のために2つの層を提供し、基材12の表面16上に配置された下層は、炭素およびガス原子(例えば、窒素)を一般的に含み、上層は遷移金属およびガス原子(例えば、窒素)を一般的に含む。しかし、相当量の混合が、膜14の上層と下層との間で生じることに注意されたい。更に、上述したように、2段階堆積工程を複数回実施して、基材12上に堆積された触媒物質の量を増加させてよい。PVD処理後、次に、得られたコーティング基材12’は取り出しロール42で受け取られ、熱処理システム(図示せず)へと運ばれる。
【0030】
基材12が、炭素粒子、炭素粉末、または炭素繊維として提供される代替的実施形態においては、基材12が、炭素ターゲットとして機能してよく、それによって炭素ターゲット44の必要性を排除してよい。本実施形態では、イオン化ガス原子が炭素原子を基材12から弾き出し、表面16上において、遷移金属原子およびイオン化ガス原子と共に凝縮し、それによって膜14が形成される。
【0031】
図3Bに示すように、PVDシステム30bは、PVDシステム30aと同一の構成要素を含み、炭素ターゲット44および遷移金属ターゲット46が複合カソード48によって置き換えられている点を除いて、一般に、同様に稼動する。複合カソード48は、炭素ターゲットおよび遷移金属ターゲットを含む単一構成要素であり、それによって、炭素原子および遷移金属原子をほぼ同時に基材12上に堆積させる。本実施形態では、PVDプロセス中、弾き出された炭素原子および遷移金属原子が、ほぼ同時に基材12へと向い、そこでそれらはイオン化窒素原子と共に凝縮する。その結果、膜14は、炭素、窒素、および遷移金属の実質的に均質な混合物を含む単一層である。
【0032】
複合カソード48のための好適な構成の一例としては、遷移金属ワイヤを挿入するためのドリル穴を有するグラファイト−炭素ターゲットが挙げられる。本実施形態では、遷移金属ターゲットは、遷移金属ワイヤの複数の副ターゲットで実際に構成されている。グラファイト−炭素ターゲットおよび遷移金属ワイヤの相対的表面積は、一般に、堆積される炭素対遷移金属の比率を決定する。例えば、複合カソード48は、炭素/グラファイト・シリンダーから形成されてよい。次に、シリンダーの断面表面に穴を開けて、次に、遷移金属ワイヤをドリル穴に固定する。
【0033】
好適な炭素/グラファイト・シリンダーの例としては、「FRAGE SFG2」の商標名にてポコ・グラファイト社(Poco Graphite)(テキサス州デケーター)から市販されているグラファイトカソードが挙げられる。好適な遷移金属ワイヤの例としては、アルファ・アイサー(Alpha Aesar)(マサチューセッツ州、ワードヒル)から市販されている鉄線が挙げられる。複合カソード48の好適な寸法は、33ミリメートル直径の炭素/グラファイト・シリンダーを含み、各々が長さ1センチメートル、直径1〜2ミリメートルである、多数の(例えば、25〜50ワイヤ)遷移金属ワイヤと相互貫入している。
【0034】
複合カソード48のための別の好適な構成の一例としては、炭素ターゲットが遷移金属によってドープされた混合ターゲットが挙げられる。例えば、炭素粒子および遷移金属粒子を共にホットプレスして、混合ターゲットを作製してよい。これにより、炭素原子および遷移金属原子がほぼ同時に基材12に向かって移動できる。
【0035】
図4は、方法50のフローチャートであり、これは上記図2に示す方法18の代わりになるものである。図4に示すように、方法50は工程52〜56を含み、かつまず、PVDシステム(例えば、PVDシステム30aまたは30b)内で処理環境を生成することを伴う。前記処理環境は、第1処理環境について方法18の工程22で上述したのと同様に生成される。
【0036】
図4に示す実施形態では、PVDシステムは、発熱体をも含み(図3Aまたは図3Bには図示せず)、PVDプロセス中に触媒物質を熱処理する。好適な発熱体の一例としては、基材12がその上を通過する(または非連続プロセスにおいてはその上に置かれる)加熱プレートが挙げられる。加熱プレートは、基材12を伝導的に加熱し、それによって、触媒物質が堆積した際に、それを熱処理する。発熱体のための好適な処理温度の例としては、少なくとも約350℃の温度が挙げられ、より好適な処理温度の例としては、少なくとも約600℃の温度が挙げられる。
【0037】
一旦処理環境を生成したら、基材12をPVDシステム(工程54)に通し、それによって基材12を処理環境および発熱体にさらす。望ましくは、基材12を発熱体に十分な持続時間曝露し、基材12を処理温度まで加熱する。次に、PVDシステムは、PVDプロセスによって触媒物質を基材12上に堆積する。これは、基材12が処理環境内に配置されている間で、かつ発熱体が堆積した触媒物質を熱処理している間に生じる(工程56)。その結果、PVDプロセスと熱処理とがほぼ同時に実施され、これにより、触媒層10を作製するための所要時間が短縮される。
【0038】
統合されたPVD処理/熱処理の後、触媒層10をPVDシステムから取り出して、それに続いてPEM燃料電池にて使用してよい。上述したように、方法50に従って形成して得られた触媒層10もまた、酸素を還元するための良好な触媒活性を示し、耐食性であり、かつ白金および/または貴金属類を実質的に含まない。
【0039】
触媒物質をPVD堆積させるための基材として、粒子または粉末を用いる本発明の実施形態においては、当技術分野において既知の手段によって、熱処理し、PVD処理した粒子または粉末を燃料電池に使用するための触媒層にすることができる。例えば、粉末粒子は、水性ナフィオン(NAFION)分散体などの電解質材料と混合して、インクを形成することができる。このインクはその後、膜またはガス拡散層(GDL)上に堆積される。前記材料をGDL上に堆積した場合、GDLは膜と接触して置かれる。
【0040】
図5は、外部電気回路60と共に使用するMEA58の模式図であり、MEA58は、本発明の方法(例えば、方法20および方法50)に従って形成された触媒層10を含む。MEA58は、PEM燃料電池などの電気化学セルに用いるのに好適であり、かつアノード部分62、カソード部分64、電解質膜66、アノード触媒層68、並びにガス拡散層70および72を更に備える。アノード部分62およびカソード部分64は、一般に、MEA58のアノード側およびカソード側を指す。
【0041】
電解質膜66は、PEMなどの任意の好適なイオン導電性膜であってもよい。電解質膜66に好適な材料の例としては、テトラフルオロエチレンと1種類以上のフッ素化酸官能性コモノマーとのコポリマー等の酸官能性フルオロポリマー類が挙げられる。好適な市販材料の例としては、ナフィオン(NAFION)(デュポン・ケミカルズ(DuPont Chemicals)(デラウェア州ウィルミントン)から)の商標名のフルオロポリマー類が挙げられる。
【0042】
触媒層10は、電解質膜66とガス拡散層72との間に配置されたカソード触媒層であり、基材12はガス拡散層72と接触し、および膜14は電解質膜66と接触している。一実施形態では、基材12は、ガス拡散層72として機能する。MEA50のアセンブリにおいては、触媒層10の膜14は、電解質膜66と接触させて配置し、基材12がガス拡散層72と接触するようにする。これにより、電解質膜66とガス拡散層72との間に導電性接触が形成される。一実施形態では、触媒層10の触媒活性は、MEA50内に組み立てる前の、過剰な金属を除去する酸洗浄によって増加する。
【0043】
アノード触媒層68は、電解質膜66とガス拡散層70との間に配置され、ガス拡散層70は、MEA58のアノード部分62に位置する。ガス拡散層70および72はそれぞれ、炭素繊維組織体(例えば、織布および不織布炭素繊維組織体)など、任意の好適な導電性多孔性基材であってよい。またガス拡散層70および72は、疎水性を増加または付与するように処理されていてもよい。
【0044】
MEA58の動作中、アノード部分62においてガス拡散層70に水素燃料(H)が導入される。あるいは、MEA58は、メタノール、エタノール、ギ酸、および改質ガスなどの他の燃料源を使用してもよい。燃料は、ガス拡散層70を通過し、アノード触媒層68を通過する。アノード触媒層68において、燃料は水素イオン(H)および電子(e)に分離される。電解質膜66は、水素イオンのみを通過させて、触媒層10およびガス拡散層72に到達させる。電子は一般に、電解質膜66を通り抜けることはできない。このように、電子は、電流の形で外部電気回路60内を流れる。この電流が、電動モータなどの電気負荷に電力を供給、あるいは蓄電池などのエネルギー蓄積装置に振り向けることができる。
【0045】
酸素(O)は、カソード部分64においてガス拡散層72に導入される。酸素は、ガス拡散層72を通過して触媒層10の上に達する。触媒層10において、酸素、水素イオン、および電子が結合して、水と熱を生ずる。上述したように、触媒層10は酸素を還元するための良好な触媒活性(MEA58の効率を増大させる)を示す。更に、触媒層10は耐食性を有するので、触媒層10は、MEA58内で長時間機能し得る。
【実施例】
【0046】
本発明は、本発明の範囲内での多数の変更や変化は当業者には明白であるため、例示のみを意図する次の実施例にてより詳細に記載される。特に記載のない限り、次の実施例にて報告されるすべての部分、百分率、および比率は、重量ベースであり、かつ、実施例にて使用されるすべての試薬は、後述の化学物質製造業者から入手であったか、または入手可能であり、または従来技術によって合成されてよい。
【0047】
実施例1および比較例A
実施例1のMEAは、以下の手法に従って調製した。触媒層は、触媒物質を炭素不織布基材(FC−H2315の製品番号にて、フロイデンバーグ・不織布技術部門(Freudenberg Non-Wovens Technical Division)(マサチューセッツ州ローウェル)から市販されている)上へ物理的蒸着させることによって製造した。物理的蒸着は、米国特許第5,643,343号および米国特許第5,711,773号(セリファノヴ(Selifanov)ら)に記載されているパルス式カソードアーク・プラズマ発生装置にて、窒素ガスを含有する処理環境内で実施した。炭素および窒素を堆積させるためのシステムの使用については、アンドレイ・スタニシェヴスキィ(Andrei Stanishevsky)著、「パルス式カソードアーク放電のプラズマによって堆積される擬似非晶質炭素および窒化炭素膜(Quasiamorphous Carbon and Carbon Nitride Films Deposited from the Plasma of Pulsed Cathodic Arc Discharge)」(カオス、ソリトンおよびフラクタル(Chaos, Solitons and Fractals)、第10巻、2045〜2066ページ、1999年)によって記載されている。
【0048】
炭素ターゲットおよび遷移金属(即ち、鉄)ターゲットを含有する複合カソードを含むように、そのシステムを変更した。複合カソードには、鉄−ワイヤ・ターゲットを保持するための56個のドリル穴を断面表面に有する、33ミリメートル直径のグラファイト−炭素ターゲット(「GRADE SFG2」の商標名にてポコ・グラファイト社(Poco Graphite)(テキサス州デケーター)から市販されている)を備えた。各々の鉄−ワイヤ・ターゲットは、2.0ミリメートル直径、1−センチメートル長さ(アルファ・エイサー(Alpha Aesar)(マサチューセッツ州、ワードヒル)から市販されている)を有した。
【0049】
システムを約0.007Pa(1×10−5トール)未満まで真空引きし、次に窒素ガスを導入して、約0.27Pa(2ミリトール)〜0.39Pa(3ミリトール)の任意の動作圧力を準備した。システムは、主キャパシタンス、補助キャパシタンスおよびイグニッションキャパシタンスをそれぞれ2,200、185、および10マイクロファラッド;主電圧、補助電圧およびイグニッション電圧をそれぞれ250、300、および700ボルト;かつ約4ヘルツの放電周波数にて稼動させた。炭素不織布基材のウェブは、16センチメートル/分(24インチ/分)のライン速度でシステムを18回通過させた。複数回通すことによって、基材の単位面積当たりに堆積される触媒物質の量を増やした。PVDプロセス完了後、システムに大気圧になるまで窒素ガスを充填し、コーティングされた基材を取り外した。
【0050】
次に、石英管状炉(「RTP600S」の商標名にてモジュラー・プロセス・テクノロジー(Modular Process Technology)(カルフォルニア州サンノゼ)から市販されている)内にてコーティング基材を熱処理した。窒素ガスを炉に導入して、残留ガスをパージした。一旦残留ガスを実質的にパージしたら、熱処理に先立ち、および熱処理中に、炉内へ連続的にアンモニアガスを導入することによって、第2処理環境を調製した。コーティング触媒を炉内に入れ、温度を6℃/分の速度で処理温度900℃に到達するまで昇温させた。次に、温度を900℃にて15分間保持した。得られた触媒層の取り外しに先立って、それがほぼ室温に冷却されるまで炉内に保持した。
【0051】
次に、一対のPEM(「ナフィオン(NAFION)112」の商標名にてデュポン・ケミカル社(DuPont Chemical Co.)(デラウェア州ウィルミントン)から市販されている)を、調製した触媒層(カソード触媒層として機能する)とアノード触媒層との間に設置した。アノード触媒層は、炭素−紙・ガス拡散層上にコーティングされた白金/炭素−分散インクを含む。炭素−紙・ガス拡散層は、ガス拡散ミクロ層を、疎水性処理した炭素繊維紙(「AVCARB P50炭素繊維紙」の商標名にてバラード・マテリアル・プロダクツ(Ballard Material Products)(マサチューセッツ州ローウェル)から市販されている)の片面にコーティングすることによって製作した。アノード触媒白金は、約0.3ミリグラムPt/平方センチメートル〜約0.4ミリグラムPt/平方センチメートルの範囲で充填した。実施例1で得られたMEAを、約25%〜約30%の圧縮にて、4重蛇行型フローフィールドを持つ50平方センチメートルの試験セル器具(フューエルセル・テクノロジー(Fuel Cell Technologies)(ニューメキシコ州アルバカーキ)から入手可能)へと組み上げた。
【0052】
比較例AのMEAは、コーティング基材を熱処理しなかった点を除けば、実施例1のMEAについて上述したのと同様に調製した。従って、PVD処理後、コーティング基材を一対のPEMおよびアノード触媒層と共に直接組み立てて、比較例AのMEAを得た。
【0053】
実施例1および比較例Aの各MEAの触媒活性は、以下の「分極測定法」に従って測定した。前記測定は、ポテンシオスタット(「ソラトロン・セルテスト(SOLARTRON CELLTEST)1470」の商標名にてソラトロン・アナリティカル(Solartron Analytical)(テネシー州オークリッジ)市販されている)およびソフトウェアパッケージ(「コールウェア(CORWARE)」の商標名にてスクリブナー・アソシエーツ社(Scribner Associates, Inc.)(ノースカロライナ州サザンパインズ)から市販されている)を使用して、酸素下における分極曲線を記録することを含んだ。
【0054】
サイクリックボルタモグラムは、0.01ボルト〜1.1ボルトの間で、50、20、10および5ミリボルト/秒にて実施した。触媒活性を比較するために、比較は、5ミリボルト/秒の走査速度を用いて、同一電圧にて実施した。電池のアノード側およびカソード側へと導入される水素および酸素の気流は、周囲気圧にて、それぞれ500標準立法センチメートル/分(SCCM)の流量を有した。測定は、75℃、約150%相対湿度にて行った。
【0055】
図6は、実施例1および比較例AのMEAのための分極測定法に従って測定された分極曲線のグラフである。図に示すように、実施例1のMEAは、比較例AのMEAと比較してより高い触媒活性を示した。これは、触媒層の熱処理に起因すると考えられている。それゆえに、本発明のPVDプロセスおよび熱処理を用いて製造した触媒層は、燃料電池などの電気化学的デバイスにて使用するための良好な触媒活性を示す。
【0056】
実施例1および比較例AのMEAそれぞれの交流(AC)インピーダンスを以下の「ACインピーダンス測定」に従って測定し、触媒層の抵抗、並びに触媒層とPEMとの間の耐干渉性を求めた。ACインピーダンスは、ポテンシオスタットを(「ソラトロン・セルテスト(SOLARTRON CELLTEST)1470」の商標名にてソラトロン・アナリティカル(Solartron Analytical)(テネシー州オークリッジ)から市販されている)、周波数応答アナライザ(「ソラルトロン(SOLARTRON)SI・1250」の商標名にてソラトロン・アナリティカル(Solartron Analytical)から市販されている)、とソフトウェアパッケージ(「ZPLOT」の商標名にてスクリブナー・アソシエーツ社(Scribner Associates, Inc.)(ノースカロライナ州サザンパイン)から市販されている)をともに使用して測定した。測定は、水素下、1ヘルツ〜10キロヘルツの周波数範囲で、開放電圧にて行った。電池のアノード側およびカソード側へと導入される水素気流は、それぞれ500標準立法センチメートル/分(SCCM)の流量を有した。測定は、75℃、約150%相対湿度にて行った。
【0057】
図7は、ACインピーダンス測定法に従って測定された、実施例1および比較例AのMEAのためのACインピーダンスのグラフである。図に示すように、実施例1のMEAは、比較例AのMEAと比較してより低いインピーダンスを示した。触媒活性と同様に、これは触媒層の熱処理に起因すると考えられている。
【0058】
実施例2〜7および比較例B
実施例2〜7のMEAは、複合カソードが45個の鉄−ワイヤ・ターゲットを有し、各々の鉄−ワイヤ・ターゲットが1.2ミリメートル直径および1センチメートル長さ(これもまたアルファ・エイサー(Alpha Aesar)(マサチューセッツ州、ワードヒル)から市販されている)を有する点を除いて、それぞれ、実施例1のMEAについて上述したものと同一の手順に従って調製した。更に、システムは、主キャパシタンス、補助キャパシタンスおよびイグニッションキャパシタンスをそれぞれ2,200、185、および20マイクロファラッドで作動させ、かつ炭素不織布基材のウェブは、30.5センチメートル/分(12インチ/分)のライン速度でシステムを10回通過させた。更に、実施例2〜7のコーティング基材の熱処理条件は、下の表1に示すように変更した。熱処理後、次に、実施例1のMEAについて上述したのと同様にして、得られた触媒層をMEAへと組み立てた。
【0059】
比較例BのMEAは、コーティング基材を熱処理しなかった点を除けば、実施例2〜7のMEAについて上述したのと同様に調製した。次に、実施例2〜7および比較例BのMEAの触媒活性は、上述した「分極測定法」に従って測定した。表1は、熱処理中に使用される処理温度および処理環境ガス、並びに0.6ボルトにおける、実施例2〜7および比較例BのMEAに対する触媒活性の結果を示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示すように、熱処理は、MEAの触媒活性を増大させる。従って、本発明の触媒層は、燃料電池などの電気化学的デバイスに使用するための良好な触媒活性を示す。加えて、上述したように、触媒層は、白金(かつ一実施形態では貴金属類)を実質的に含まず、それによって材料コストが低減する。
【0062】
表1にて更に示すように、アンモニア中の熱処理(即ち、実施例5〜7)により、窒素中の熱処理(即ち、実施例2〜4)と比較して、より高い触媒活性を有するMEAが提供された。これは、窒素と比較して、熱処理中のアンモニアの反応性がより高いことに起因すると考えられている。
【0063】
実施例8および9
実施例8および9のMEAはそれぞれ、以下の手順に従って調製し、熱処理をPVDプロセスとほぼ同時に実施する方式を含めた。使用したPVDシステムは、複合カソードが42個の鉄−ワイヤ・ターゲットを含んでいる点以外は、実施例1について上述したものと同一であった。更に、ウェブドライブに代えて、前記基材をモリブデンプレート表面に取り付け、そのプレートは反対面上に配置された発熱体(「ボラレクトリック(BORALECTRIC)」窒化ホウ素の商標名にてテクトラ(Tectra)社(ドイツ)から市販されている)を備えた。ヒーター温度は、比例積分微分(PID)コントローラ(RKCインスツルメント社(RKC Instrument Inc.)(インディアナ州サウスベンド)・REX−P300)によって制御した。
【0064】
処理環境は、ガス(90%容量の窒素および10%容量のアンモニア)を流量250SCCMにて導入することによって準備し、これにより、作業圧力約0.13Pa(1ミリトール)が提供された。システムは、主キャパシタンス、補助キャパシタンスおよびイグニッションキャパシタンスをそれぞれ2,200、185、および20マイクロファラッド;主電圧、補助電圧およびイグニッション電圧を250、350、および600ボルト;かつ放電周波数を8.0ヘルツ;にして作動させた。実施例8では、触媒物質は、2,500回のパルスおよび基材温度550℃で堆積させた。実施例9では、触媒物質は、4,000回のパルスおよび基材温度625℃で堆積させた。PVD/熱処理後、次に、実施例1のMEAについて上述したのと同様にして、実施例8および9で得られた触媒層をMEAに組み立てた。
【0065】
次に、実施例8および9並びに比較例BのMEAの触媒活性を、上述した「分極測定法」に従って測定した。図8は、実施例8および9並びに比較例BのMEAの分極曲線グラフである。図8に示すように、0.5ミリボルトでは、実施例8のMEAは、0.130mA/cmの触媒活性を示し、実施例9のMEAは0.234mA/cmの触媒活性を示した。更に、図8に示すように、熱処理は、触媒層の触媒活性を増大させ、かつ一般的に触媒活性は使用される処理温度に比例する。
【0066】
実施例10
触媒(C1−x−yFe)物質の膜は、DCマグネトロン・スパッタリング・システムを使用して、触媒物質をディスク(例えば、ガラス状炭素ディスク、シリコンウェーハ、スライド・ガラス、または石英スライド)上に堆積させて調製した。スパッタリング・システムの概略は、J.R.ダーン(Dahn)、S.トルッスラー(Trussler)、T.D.ハッチャード(Hatchard)、A.ボナクダルポア(Bonakdarpour)、J.N.ムュラー−ノイハウス(Meuller-Neuhaus)、K.C.ヘウィット(Hewitt)およびM.フライシャウアー(Fleischauer)共著、「線形かつ直交の化学量論変化を有する大規模組成物拡散ライブラリを作製するための効率的スパッタリング・システム(Economical sputtering system to produce large-size composition-spread libraries having linear and orthogonal stoichiometry variations)」(材料化学(Chemistry of Materials)、第14巻・第8号、3519〜3523ページ、2002年)に記載されている。処理環境は、E.ブラドレイ・イーストン(Bradley Easton)、Th.バーメスター(Buhrmester)およびJ.R.ダーン(Dahn)共著、「スパッタリングされたFe1−x膜類の調製とキャラクタライゼイション(Preparation and Characterization of Sputtered Fe1-xNx Films)」(固体薄膜(Thin Solid Films)、第493巻、60〜66ページ、2005年)に概略が記載されているようなアルゴン/窒素・混合物を含んだ。膜は、グラファイトターゲットを覆うコンスタントマスク(constant mask)および遷移金属ターゲット(即ち、鉄またはコバルト)を覆うリニアマスク(linear mask)を使用して調製した。
【0067】
所与の膜について一旦スパッタリングプロセスが完了したら、モジュラー・プロ(Modular Pro)社製高速熱処理ステーション、およびアルゴン・ガスの処理環境を使用して、膜を熱処理した。1,000℃の処理温度を使用した。しかし、各膜について、処理温度に到達するまで、温度を5℃/秒の速度で昇温させた。次に、処理温度で1分間維持した。次に、得られたアニール膜をアルゴン雰囲気中で室温まで冷却した。
【0068】
膜の「組成分析」は、「JXA−8200・スーパープローブ(SUPERPROBE)」電子・プローブ・マイクロアナライザ(Electron Probe Microanalyzer)の商標名にて、JEOL・USA社(マサチューセッツ州ピーボディ)から市販されているマイクロアナライザを使用して行った。マイクロアナライザには、1個のエネルギー分散型分光計、5個の波長分散型分光計(WDS)、および1個の自動モーションステージを取り付けた。窒素標準物質として窒化ケイ素を使用し、鉄標準物質としてマグネタイトを使用した。元素状組成物は、WDS検出器を使用して決定し、その推定誤差(estimated uncertainty)は±0.3%であった。組成は、ディスク・ライブラリ上で、ポイントサイズを5マイクロメートルにして一つ一つ測定した。ディスク・ライブラリは、200ナノメートル厚であり、かつEDSとWDSの両方によって、その厚み全体の平均組成を測定した。
【0069】
次に、各膜は、電解質としての0.1モル・HClOがある1区画セル内で実施する「回転リングディスク電極測定」法(“rotating-ring disk electrode measurement” method)を使用して測定した。水銀/硫酸水銀の参照電極を使用した。65℃にて、データを収集した。酸素飽和溶液内にて、5ミリボルト/秒におけるサイクリックボルタモグラム(CV)を実施した。図9は、65℃、酸素下にて、実施例10の膜について900RPMにて実施した、回転ディスク電極測定を示すグラフである。
【0070】
実施例11および12、並びに比較例C
比較例Cの膜は熱処理せず、実施例11の膜の熱処理が600℃の処理温度を有し、かつ実施例12の膜の熱処理が800℃の処理温度を有するという点を除いて、実施例10の膜に対して上述したのと同様の方式で、触媒(C1−x−yFe)物質の膜をそれぞれ、ガラスまたは石英スライド上に調製した。膜は、他の点では組成的に同一であった。
【0071】
次に、実施例11および12並びに比較例Cの膜に、「耐食性試験」を施したが、その試験では各膜は0.5モル濃度の硫酸(HSO)溶液内に7日間置くことを含めた。次に、膜を目視検査して、各膜がどれだけ溶解したかを確認した。耐食性試験後、実施例11および比較例Cの触媒物質膜は完全に溶解された。しかし、一方で、実施例12の触媒物質膜は、炭素、窒素、および鉄の原子濃度が、上述の好適な原子濃度内にとどまった。それゆえに、800℃の熱処理は、実施例12の膜の耐食性を増加させた。
【0072】
実施例10の膜の回転リングディスク電極測定の結果および実施例12の膜の耐食性結果は、良好な触媒活性を示しかつ酸性環境に対して耐食性を有する、触媒(C1−x−yFe)材料膜を例証する。それゆえに、このような膜は、燃料電池などの電気化学的デバイスを酸性環境で用いるのに好適である。
【0073】
実施例13a〜13c
実施例13a〜13cの触媒物質膜(C1−x−yCo)はそれぞれ、鉄ターゲットがコバルトターゲットにより置き換えられたという点を除いて、実施例10の膜に対して上述したのと同様にして調製した。実施例13a〜13cの膜の原子濃度はそれぞれ、C0.900.04Co0.06、C0.860.06Co0.08、およびC0.820.10Co0.08であった。膜はそれぞれ、回転リングディスク電極測定法を使用して測定し、測定は室温(即ち、25℃)で実施した点を除けば、実施例10でて上述のごとく実施した。図10A〜10Cは、室温、酸素下で、実施例13a〜13cの膜それぞれについての回転ディスク電極測定を示すグラフである。
【0074】
実施例13a〜13cの膜についての回転リングディスク電極測定の結果は、測定可能な触媒活性を示す触媒物質膜(C1−x−yCo)を例示する。前記結果はまた、触媒膜の挙動は触媒物質の原子濃度および熱処理によって変化し得ることを示している。
【0075】
実施例14および15
実施例14のMEAは、炭素微粒子上に鉄をPVDすることにより形成した触媒を含んだ。膜は、鉄ターゲットを用いて、米国特許公開番号第2005/0095189号(ブレイ(Brey)ら)に記載されているように、DCマグネトロン・スパッタリングによって調製した。30グラムのアセチレンブラック(「Y50A」アセチレンブラックの商標名にてSN2A(フランス)から市販されている)の試料を12時間、130℃においてボックス・オーブン内で乾燥させた。スパッタリング・チャンバに、16.76グラムの乾燥アセチレンブラックを供給した。次に、チャンバを0.007Pa(5×10−5トール)まで真空引きし、かつアルゴン・ガスを約1.3Pa(10ミリトール)の圧力でチャンバ内へ導入した。鉄の堆積工程は、99.9%の鉄ターゲット(7.6cm(3インチ)周長、および0.16cm(0.063インチ)厚さ、カートJ.レスカー社(Kurt J. Lesker Company)(ペンシルベニア州クレアトン)から)を使用し、カソード電力0.1kWを印加することによって開始した。スパッタガスとして、アルゴンを34SCCMで導入した。スパッタリング中に粒子攪拌器シャフトを10RPMで回転させることによって、炭素粉末をかき混ぜた。全体で0.23kWHを消費した後、反応を停止させ、チャンバに空気を戻し充填し、サンプルを反応器から取り出した。本処理後のターゲットの重量損失は、0.95グラムであった。
【0076】
鉄で処理した膜を石英ガラスボート内に入れ、熱処理のために管状炉内に置いた。管状炉を窒素でフラッシュして、空気の痕跡を除去し、次の通りの熱処理を行った。窒素下にて室温〜400℃まで6℃/分で加熱、窒素/30%アンモニア(NH)下にて400℃で4時間保持、900℃まで8℃/分で加熱、かつ窒素/30%アンモニア下、900℃で1時間保持した。次に、窒素/アンモニア・雰囲気を維持しつつ、炉を冷却させた。
【0077】
冷却後、0.54M硫酸を用いて、4グラムの膜を300グラムの酸に一晩浸漬することによって膜を洗浄した。試料を濾過により取り出し、脱イオン水で充分に洗浄し、130℃にてオーブン内で乾燥させた。次に、この乾燥した触媒物質2.0グラムを150グラムの水中に分散させ、得られた分散体を10分間超音波ホーン(「ソニックスVCXヴィブラセル(Sonics VCX VIBRACELL)」の商標名にてソニックス・アンド・マテリアルズ社(Sonics and Materials Inc.)(マサチューセッツ州ニュートン)から市販されている)を使用して超音波処理した。次に、分散体を130℃で乾燥させ、乾燥粒子を使用してコーティング分散体を調製した。
【0078】
触媒粒子の分散体は、酸洗浄し超音波処理した触媒粒子1.5グラムを、11.3%(重量)水性分散液(「ナフィオン(NAFION)」の商標名にてE.I.デュポン・ド・ヌムール社(E.I. Du Pont De Nemours Inc.)(デラウェア州ウィルミントン)から市販されている)10グラムおよび水10グラムをビーカー内で混合することによって調製した。前記混合物を、ホットプレート上で約100℃に30分間加熱した。冷却後、試料を攪拌した。88ミリグラムの触媒インク分散体からなるコーティング剤を50平方センチメートルのカーボン紙支持体(「AVCARB・P50」炭素繊維紙の商標名にてバラード・マテリアル・プロダクツ(Ballard Material Products)(マサチューセッツ州ローウェル)市販されている)の上にハンドにより刷毛塗りした。そのカーボン紙は疎水性用に予め処理済でありかつガス拡散ミクロ層でコーティングされていた。コーティングされた試料を、110℃にて減圧下(〜84.7kPa(25水銀柱インチ))で約20分間乾燥させた。この触媒コーティングされた支持体(catalyst coated backing、CCB)を、MEAのカソード触媒およびGDL層として使用した。
【0079】
アノード触媒は、実施例1にて記載されているように、分散Pt/C触媒層であった。ガスケットは、アノードとカソードの両方で25〜30%圧縮できるように選択された。アノード触媒およびカソード触媒を、一対のキャストした「ナフィオン(NAFION)」膜(各々、約30マイクロメートル厚、1000EW)に、132℃(270°F)〜138℃(280°F)かつ1,361kg(3,000ポンド)〜1,814キログラム(4,000ポンド)で10分間、静水圧プレスを使用して、結合させた。得られたMEAは、4重蛇行型フローフィールドを備えた標準的な50平方センチメートル燃料電池試験装置(フューエルセル・テクノロジー(Fuel Cell Technologies))内に置いた。
【0080】
実施例15のMEAは、炭素微粒子上にコバルトをPVDすることにより形成した触媒を含み、かつ以下の相違点以外、実施例14で上述したのと同様にして調製した。コバルトナノ粒子は、鉄ターゲットの代わりに、7.6cm(3インチ)周長かつ0.64cm(0.25インチ)厚さのコバルトターゲットを用い、かつコバルトをスパッタするために0.3kWhを使用したという点を除いて、実施例10で記載されているようにして炭素粉末上へスパッタリングした。ターゲットの重量損失は、1.35グラムであった。そのコバルト処理済試料は、スパッタリング装置から試料を取り外す際に空気にさらした後で、強加熱した。試料は窒素でガスシールして、空気にさらすことによる加熱を和らげた。次に、コーティング織布を調製するために87ミリグラムの試料分散体を使用したという点を除いて、実施例10で記載されているようして、得られたコバルト−炭素・触媒粒子をアンモニア中で熱処理し、分散させ、カーボン紙上に担持させた。
【0081】
実施例14および15の各MEAの触媒活性は、酸素下における分極曲線を、以下の点では異なるが、「分極測定法」に記載されていると同様にして記録することによって測定した。相違点は、電池温度が80℃であり、かつ電池のアノード側およびカソード側へと導入される水素ガスおよび酸素ガスの気流が、それぞれ180sccmおよび335sccmの流量を有した点であった。出口ガス圧力は、アノードにおいて0.21MPa(30psig)(〜3バール・絶対圧力)であり、カソードにおいて0.34MPa(50psig)(〜4.5バール・絶対圧力)であった。ガス気流の湿度は、約100%RHに保持した。図11は、実施例14および15のMEAの分極曲線グラフである。その結果により、炭素粒子基材を有する触媒層もまた、測定可能な触媒活性を示したことが分かる。
【0082】
本発明について、好ましい実施形態を参照して説明してきたが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく形状および細部において変更をなし得ることが、当業者には理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】酸素還元性触媒層の断面図である。
【図2】酸素還元性触媒層の製造方法のフローチャートである。
【図3A】酸素還元性触媒層の製造方法での使用に好適である物理的蒸着システムの模式図である。
【図3B】酸素還元性触媒層の製造方法での使用に好適である代替的物理的蒸着システムの模式図である。
【図4】本発明の酸素還元性触媒層製造のための代替方法のフローチャートである。
【図5】外部電気回路と共に使用する、酸素還元性触媒層を備えるMEAの模式図である。
【図6】本発明の酸素還元性触媒層を具備するMEAおよび比較例MEAの分極曲線グラフである。
【図7】本発明の酸素還元性触媒層を具備するMEAおよび比較例MEAのACインピーダンスグラフである。
【図8】酸素還元性触媒層は物理的蒸着および熱処理をほぼ同時に実施することにより形成した、本発明の酸素還元性触媒層を具備するMEAおよび比較例MEAの分極曲線グラフである。
【図9】本発明の酸素還元性触媒層の回転ディスク電極測定を示すグラフである。
【図10】図10Aは、本発明の追加実施の酸素還元性触媒層の回転ディスク電極測定を示すグラフである。図10Bは、本発明の追加実施の酸素還元性触媒層の回転ディスク電極測定を示すグラフである。図10Cは、本発明の追加実施の酸素還元性触媒層の回転ディスク電極測定を示すグラフである。
【図11】本発明の追加実施の酸素還元性触媒層を含有するMEAの分極曲線グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金を実質的に含まない遷移金属を含む第1ターゲットから基材上に触媒物質を物理的に蒸着させること、および
当該触媒物質を熱処理することを含む製造方法であって、前記物理的蒸着および前記熱処理の少なくとも1つを含窒素ガスを含む処理環境中において実施する、酸素還元性触媒層の製造方法。
【請求項2】
前記遷移金属は貴金属類を実質的に含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遷移金属は、鉄、コバルトおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記触媒物質は、炭素を含む第2ターゲットから基板上へ更に物理的に蒸着される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1ターゲットおよび前記第2ターゲットからの物理的蒸着はほぼ同時に実施される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記物理的蒸着および前記熱処理はほぼ同時に実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記熱処理は、少なくとも約350℃の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記温度は少なくとも約600℃である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記含窒素ガスは、窒素、アンモニア、芳香族窒素化合物類、アセトニトリル、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記基材は、ナノ構造薄膜基材類、マイクロ構造薄膜基材類、炭素含有基材類、炭素含有織布類、炭素含有不織布類、亜酸化チタンセラミックス、ナノ酸化スズ膜類、ナノ酸化チタン膜類、非皮膜系炭素含有粒子類および粉末類、炭素含有繊維類、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
得られた前記酸素還元性触媒層が耐食性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
白金を実質的に含まない遷移金属を含む触媒物質を、基材上に物理的に蒸着させること、および
当該触媒物質を熱処理することを含む製造方法であって、前記物理的蒸着および前記熱処理の少なくとも1つを含窒素ガスを含む処理環境中において実施する、酸素還元性触媒層の製造方法。
【請求項13】
前記遷移金属は貴金属類を実質的に含まない、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記遷移金属は、鉄、コバルトおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記物理的蒸着および前記熱処理はほぼ同時に実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
炭素、および白金を実質的に含まない遷移金属を含む複合カソードから、基材上に触媒物質を物理的に蒸着させること、並びに
前記触媒物質を熱処理することを含む製造方法であって、前記物理的蒸着および前記熱処理の少なくとも1つを含窒素ガスを含む処理環境中において実施する、酸素還元性触媒層の製造方法。
【請求項17】
前記遷移金属は貴金属類を実質的に含まない、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記遷移金属は、鉄、コバルトおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記物理的蒸着および前記熱処理はほぼ同時に実施される、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記含窒素ガスは、窒素、アンモニア、芳香族窒素化合物類、アセトニトリル、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記基材は、ナノ構造薄膜基材類、マイクロ構造薄膜基材類、炭素含有基材類、炭素含有織布類、炭素含有不織布類、亜酸化チタンセラミックス、ナノ酸化スズ膜類、ナノ酸化チタン膜類、非皮膜系炭素含有粒子類および粉末類、炭素含有繊維類、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2009−534177(P2009−534177A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506681(P2009−506681)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【国際出願番号】PCT/US2007/066247
【国際公開番号】WO2007/140051
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】