説明

酸素還元触媒および燃料電池

【課題】酸素の還元反応を活性化させることができるとともに、低廉化を図ることができる酸素還元触媒、および、その酸素還元触媒を含有する酸素側電極を備える燃料電池を提供すること。
【解決手段】燃料電池の酸素側電極3に含有される酸素還元触媒に、酸素原子と窒素原子とを同数ずつ含有する配位子が、酸素原子および窒素原子において遷移金属に配位された遷移金属錯体を焼成することにより得られる焼成体を、含有させることにより、酸素の還元反応を活性化することができるとともに、低廉化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素還元触媒、詳しくは、固体高分子型燃料電池などの燃料電池の酸素側電極に用いられる酸素還元触媒、および、その酸素還元触媒を含有する酸素側電極を備える燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池として、アルカリ型(AFC)、固体高分子型(PEFC)、リン酸型(PAFC)、溶融炭酸塩型(MCFC)、固体電解質型(SOFC)など、各種燃料電池が知られている。これらの燃料電池は、例えば、自動車用途など、各種用途での使用が検討されている。
【0003】
例えば、固体高分子型燃料電池は、燃料が供給される燃料側電極(アノード)と、酸素が供給される酸素側電極(カソード)とを備えており、これらの電極は、固体高分子膜からなる電解質層を挟んで対向配置されている。そして、この燃料電池では、アノードに水素ガスが供給されるとともに、カソードに空気が供給されることによって、アノード−カソード間に起電力が発生して、発電が行われる。
【0004】
このような固体高分子型燃料電池として、例えば、コバルト触媒が担持されたカーボンからなるアノードと、銀触媒が担持されたカーボンからなるカソードと、アニオン交換膜からなる電解質層とを備える燃料電池が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、このような固体高分子型燃料電池として、例えば、ポリピロールと、銀またはコバルトとをカーボンに担持させて得られる遷移金属担持カーボンコンポジットを含有するカソードを備える燃料電池が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−244961号公報
【特許文献2】国際公開公報WO2008/117485
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した特許文献1に記載の燃料電池では、アノードにコバルト触媒を用いることによって、アノードにおける水素の酸化反応を活性化させ、燃料電池の発電性能の向上を図っている。
【0008】
ところで、燃料電池の技術分野では、各電極(アノードおよびカソード)における化学反応を活性化させて、燃料電池の発電性能向上させることが、常に期待されている。そのため、上述した固体高分子型燃料電池に比べて、より一層発電性能の向上した燃料電池が期待される。
【0009】
上記した特許文献2に記載の燃料電池では、遷移金属担持カーボンコンポジットをカソードに含有させることによって、燃料電池の発電性能を向上させている。
【0010】
しかし、遷移金属担持カーボンコンポジットは、ポリピロールを用いているため、比較的高価である。
【0011】
そこで、本発明の目的は、酸素の還元反応を活性化させることができるとともに、低廉化を図ることができる酸素還元触媒、および、その酸素還元触媒を含有する酸素側電極を備える燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の酸素還元触媒は、酸素原子と窒素原子とを同数ずつ含有する配位子が、酸素原子および窒素原子において前記遷移金属に配位された遷移金属錯体を、焼成することにより得られる焼成体を含有していることを特徴としている。
【0013】
また、本発明の酸素還元触媒では、前記遷移金属錯体が下記一般式(1)で示されることが好適である。
【0014】
一般式(1):
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、
mおよびnは、各々独立して、0または1〜4の整数であり、
Mは、遷移金属原子を表し、
は、各々独立して、水素原子、C1−C6アルキル基またはアリール基を表すか、または、2つのRが結合して2価の有機基を形成し、
は、mが1の場合には単独で、mが2〜4の場合には各々独立して、ヒドロキシ基、C1−C6アルキル基、C1−C6アルコキシ基またはアリール基を表すか、または、mが2以上の場合には、隣接する炭素原子に結合する2つのRが結合して隣接するベンゼン環とともに縮合環を形成し、
は、nが1の場合には単独で、nが2〜4の場合には各々独立して、ヒドロキシ基、C1−C6アルキル基、C1−C6アルコキシ基またはアリール基を表すか、または、nが2以上の場合には、隣接する炭素原子に結合する2つのRが結合して隣接するベンゼン環とともに縮合環を形成する。)
また、本発明の酸素還元触媒では、前記遷移金属錯体が下記一般式(2)で示されることが好適である。
【0017】
一般式(2):
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、Mは、遷移金属原子を表す。)
また、本発明の酸素還元触媒では、前記遷移金属の原子価が2価であり、前記配位子は、酸素原子と窒素原子とを2つずつ含有し、前記配位子が各酸素原子および各窒素原子において前記遷移金属に配位されることにより、4つの配位結合が形成されていることが好適である。
【0020】
また、本発明の酸素還元触媒では、前記焼成体が多孔質体であることが好適である。
【0021】
また、本発明の燃料電池は、アニオン成分を移動させることができる電解質と、前記電解質を挟んで対向配置された燃料側電極および酸素側電極とを備え、前記酸素側電極は、上記した酸素還元触媒を含有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の酸素還元触媒によれば、特定の構造を有する安価な遷移金属錯体が含まれているため、酸素の還元反応を活性化することができるとともに、低廉化を図ることができる。
【0023】
その結果、燃料電池の発電性能を向上させることができるとともに、燃料電池の低廉化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の燃料電池の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】酸素側電極の活性測定の結果を示すグラフであって、異なる焼成温度で焼成された遷移金属錯体を比較している。
【図3】酸素側電極の活性測定の結果を示すグラフであって、異なる組成を有する遷移金属錯体を比較している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の燃料電池の一実施形態を示す概略構成図である。
【0026】
燃料電池1は、固体高分子型燃料電池であって、複数の燃料電池セルSを備えており、これらの燃料電池セルSが積層されたスタック構造として形成されている。なお、図1においては、図解しやすいように1つの燃料電池セルSのみを示している。
【0027】
燃料電池セルSは、燃料側電極2(アノード)と、酸素側電極3(カソード)と、電解質層4とを備えている。
【0028】
燃料側電極2は、例えば、コバルト金属の微粉末、コバルト金属の粒子が担持されたカーボン(コバルト担持カーボン)などを用いて形成されている。
【0029】
コバルト金属の微粉末は、その1次粒子の平均粒子径が、例えば、1μm以下である。なお、ここでいう平均粒子径とは、X線回折法により測定した結晶子径(クリスタット径)もしくは透過型電子顕微鏡による形態観察により求めた1次粒子の平均値を指称する。そのため、例えば、レーザ回折などの沈降法により求めた1次粒子の凝集体は、上述した平均粒子径から除外される。また、コバルト金属の微粉末の比表面積は、例えば、5〜60m/gである。
【0030】
一方、コバルト担持カーボンにおいて、担持されるコバルト金属は、その1次粒子の平均粒子径が、例えば、1〜100nmであり、その比表面積が、例えば、6〜700m/gである。また、コバルト金属をカーボンに担持させるには、例えば、含浸法、真空蒸着法、物理吸着法など、公知の担持方法により、コバルト金属をカーボンに担持させればよい。例えば、含浸法によりコバルト金属をカーボンに担持させる場合には、硝酸コバルトなどのコバルトの無機塩の溶液またはスラリーを調製し、その溶液またはスラリーを、多孔質のカーボン担体に含浸させた後、還元雰囲気下において焼成する。
【0031】
そして、コバルト金属の微粉末またはコバルト担持カーボンを用いて燃料側電極2を形成するには、例えば、公知の方法により、電解質層4とともに膜−電極接合体を形成する。より具体的には、まず、コバルト金属の微粉末またはコバルト担持カーボンと、電解質溶液とを混合して、コバルト金属の微粉末またはコバルト担持カーボンの分散液を調製する。この調製では、必要によりアルコールなどの有機溶剤を適宜添加して、分散液の粘度を調製してもよい。次いで、その分散液を、電解質層4の一方の表面にコーティングする。これによって、電解質層4の一方の表面に定着した燃料側電極2を得ることができる。なお、コバルト金属の微粉末の使用量は、例えば、0.01〜10mg/cmである。また、コバルト担持カーボンの使用量は、コバルト金属換算値として、例えば、0.01〜10mg/cmである。また、電解質層4の一方の表面に定着した燃料側電極2の厚みは、例えば、0.1〜100μmであり、好ましくは、1〜10μmである。
【0032】
酸素側電極3は、配位子が遷移金属に配位した遷移金属錯体を含んでいる。
【0033】
遷移金属としては、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)が挙げられ、好ましくは、上記金属のうち原子価が4価の遷移金属が挙げられ、さらには、コバルトが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0034】
配位子としては、酸素原子と窒素原子とを同数ずつ含有する有機化合物が挙げられる。
【0035】
具体的には、酸素原子と窒素原子とを1つずつ含有する配位子としては、例えば、下記一般式(3)または下記一般式(4)で示される配位子が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0036】
一般式(3):
【0037】
【化5】

【0038】
(式中、Rは、各々独立して、水素原子、C1−C6アルキル基またはアリール基を表す。)
上記一般式(3)において、Rで示されるC1−C6アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、sec−ペンチル、n−ヘキシル、イソへキシルなどの炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられる。
【0039】
上記一般式(3)において、Rで示されるアリール基としては、例えば、フェニル、トリル、キシリル、ビフェニル、ナフチル、フェニルナフチル、アントリル、フェナントリル、アズレニルなどのアリール基が挙げられる。
【0040】
一般式(4):
【0041】
【化6】

【0042】
また、酸素原子と窒素原子とを2つずつ含有する配位子としては、例えば、下記一般式(5)で示される配位子が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0043】
一般式(5):
【0044】
【化7】

【0045】
(式中、
mおよびnは、各々独立して、0または1〜4の整数であり、
は、2価の有機基であり、
は、mが1の場合には単独で、mが2〜4の場合には各々独立して、ヒドロキシ基、C1−C6アルキル基、C1−C6アルコキシ基、または、アリール基を表すか、または、mが2以上の場合には、隣接する炭素原子に結合する2つのRが結合して隣接するベンゼン環とともに縮合環を形成し、
は、nが1の場合には単独で、nが2〜4の場合には各々独立して、ヒドロキシ基、C1−C6アルキル基、C1−C6アルコキシ基、または、アリール基を表すか、または、nが2以上の場合には、隣接する炭素原子に結合する2つのRが結合して隣接するベンゼン環とともに縮合環を形成する。)
上記一般式(5)において、Rで示される2価の有機基としては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、シクロヘキシレンなどの直鎖状、分岐状または環状の炭素数1〜6のアルキレン基、例えば、−(CH)y−NH−(CH)y−基(yは、2または3である。)、例えば、下記一般式(6)で示される有機基などが挙げられる。
【0046】
一般式(6):
【0047】
【化8】

【0048】
(式中、Mは、遷移金属原子を表す。)
上記一般式(6)において、Mで示される遷移金属原子としては、上記した遷移金属の原子が挙げられる。
【0049】
上記一般式(5)において、RおよびRで示されるC1−C6アルキル基としては、例えば、上記したC1−C6アルキル基が挙げられる。
【0050】
上記一般式(5)において、RおよびRで示されるC1−C6アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ、イソヘキシルオキシなどの炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルコキシ基が挙げられる。
【0051】
上記一般式(5)において、RおよびRで示されるアリール基としては、例えば、上記したアリール基が挙げられる。
【0052】
上記一般式(5)において、mが2以上の場合に、隣接する炭素原子に結合する2つのRが結合して隣接するベンゼン環とともに形成される縮合環としては、例えば、ナフタレン、アントラセンなどが挙げられる。
【0053】
上記一般式(5)において、nが2以上の場合に、隣接する炭素原子に結合する2つのRが結合して隣接するベンゼン環とともに形成される縮合環としては、例えば、上記した縮合環が挙げられる。
【0054】
そして、各酸素原子および各窒素原子において、配位子が遷移金属に配位することによって、遷移金属錯体が形成される。好ましくは、配位子は、4つの配位結合を形成するように、遷移金属に配位する。
【0055】
具体的には、遷移金属錯体としては、例えば、下記一般式(7)で示す遷移金属錯体が挙げられる。
【0056】
一般式(7):
【0057】
【化9】

【0058】
(式中、
mおよびnは、各々独立して、0または1〜4の整数であり、
Mは、遷移金属原子を表し、
は、各々独立して、水素原子、C1−C6アルキル基またはアリール基を表すか、または、2つのRが末端で結合して2価の有機基を形成し、
は、mが1の場合には単独で、mが2〜4の場合には各々独立して、ヒドロキシ基、C1−C6アルキル基、C1−C6アルコキシ基またはアリール基を表すか、または、mが2以上の場合には、隣接する炭素原子に結合する2つのRが末端で結合して隣接するベンゼン環とともに縮合環を形成し、
は、nが1の場合には単独で、nが2〜4の場合には各々独立して、ヒドロキシ基、C1−C6アルキル基、C1−C6アルコキシ基またはアリール基を表すか、または、nが2以上の場合には、隣接する炭素原子に結合する2つのRが末端で結合して隣接するベンゼン環とともに縮合環を形成する。)
上記一般式(7)において、Mで示される遷移金属原子としては、例えば、上記した遷移金属の原子が挙げられる。
【0059】
上記一般式(7)において、Rで示されるC1−C6アルキル基としては、例えば、上記したC1−C6アルキル基が挙げられる。
【0060】
上記一般式(7)において、Rで示されるアリール基としては、例えば、上記したアリール基が挙げられる。
【0061】
上記一般式(7)において、Rで示される2価の有機基としては、例えば、上記した2価の有機基が挙げられる。
【0062】
上記一般式(7)において、RおよびRで示されるC1−C6アルキル基としては、例えば、上記したC1−C6アルキル基が挙げられる。
【0063】
上記一般式(7)において、RおよびRで示されるC1−C6アルコキシ基としては、例えば、上記したC1−C6アルコキシ基が挙げられる。
【0064】
上記一般式(7)において、RおよびRで示されるアリール基としては、例えば、上記したアリール基が挙げられる。
【0065】
上記一般式(7)において、mが2以上の場合に、隣接する炭素原子に結合する2つのRが結合して隣接するベンゼン環とともに形成される縮合環としては、例えば、上記した縮合環が挙げられる。
【0066】
上記一般式(7)において、nが2以上の場合に、隣接する炭素原子に結合する2つのRが結合して隣接するベンゼン環とともに形成される縮合環としては、例えば、上記した縮合環が挙げられる。
【0067】
より具体的には、上記一般式(7)において、mおよびnが、0であり、Rが、各々独立して、水素原子、C1−C6アルキル基またはアリール基を表す遷移金属錯体として、下記一般式(8)で示す遷移金属錯体が挙げられる。
【0068】
一般式(8):
【0069】
【化10】

【0070】
上記一般式(8)で示される遷移金属錯体は、上記一般式(3)で示される配位子を遷移金属に配位させることにより調製される。
【0071】
上記一般式(8)において、Rとしては、好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
【0072】
また、上記一般式(7)において、mおよびnが、いずれも2であり、Rが、エチレン基(−CHCH−)であり、隣接する炭素原子に結合する2つのRが、末端で結合して隣接するベンゼン環とともに縮合環を形成し、隣接する炭素原子に結合する2つのRが、末端で結合して隣接するベンゼン環とともにナフタレンを形成する遷移金属錯体として、下記一般式(9)で示す遷移金属錯体が挙げられる。
【0073】
一般式(9):
【0074】
【化11】

【0075】
また、上記一般式(7)において、mおよびnが、いずれも1であり、Rが、エチレン基(−CHCH−)であり、Rが、ヒドロキシ基、C1−C6アルキル基またはC1−C6アルコキシ基を表し、Rが、ヒドロキシ基、C1−C6アルキル基またはC1−C6アルコキシ基を表す遷移金属錯体として、下記一般式(10)で示す遷移金属錯体が挙げられる。
【0076】
一般式(10):
【0077】
【化12】

【0078】
上記一般式(10)において、RまたはRとしては、好ましくは、ヒドロキシ基、メチル基、メトキシ基、エトキシ基が挙げられる。
【0079】
また、上記一般式(7)において、mおよびnが、いずれも0であり、Rが、シクロヘキシレン基である遷移金属錯体として、下記一般式(11)で示す遷移金属錯体が挙げられる。
【0080】
一般式(11):
【0081】
【化13】

【0082】
また、上記一般式(7)において、mおよびnが、いずれも0であり、Rが、炭素数1〜6のアルキレン基である遷移金属錯体として、下記一般式(12)で示す遷移金属錯体が挙げられる。
【0083】
一般式(12):
【0084】
【化14】

【0085】
上記一般式(12)において、xは、1〜6の整数を表し、Rとしては、好ましくは、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などの炭素数2〜4のアルキレン基が挙げられる。
【0086】
また、上記一般式(7)において、mおよびnが、いずれも0であり、Rが、−(CH)y−NH−(CH)y−基(yは、2または3である。)である遷移金属錯体として、下記一般式(13)で示す遷移金属錯体が挙げられる。
【0087】
一般式(13):
【0088】
【化15】

【0089】
また、上記一般式(7)において、mおよびnが、いずれも0であり、Rが、上記一般式(4)で示される有機基である遷移金属錯体として、下記一般式(14)で示す遷移金属錯体が挙げられる。
【0090】
一般式(14):
【0091】
【化16】

【0092】
上記一般式(9)〜(14)で示す遷移金属錯体は、上記一般式(5)で示される配位子を遷移金属に配位させることにより調製される。このような錯体は、サレン錯体と定義できる。
【0093】
また、遷移金属錯体としては、例えば、下記一般式(2)で示す遷移金属錯体が挙げられる。
【0094】
一般式(2):
【0095】
【化17】

【0096】
上記一般式(2)で示す遷移金属錯体は、上記一般式(4)で示される配位子を遷移金属に配位させることにより調製される。
【0097】
上記した遷移金属錯体としては、好ましくは、上記一般式(10)、上記一般式(12)、上記一般式(2)で示す遷移金属錯体が挙げられる。
【0098】
遷移金属錯体を調製するには、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。
【0099】
例えば、遷移金属の塩(例えば、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、りん酸塩などの無機塩、例えば、酢酸塩、しゅう酸塩などの有機酸塩など)と、配位子とを、例えば、水、アルコール、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、ニトリル類などの公知の溶媒中で混合することにより、遷移金属錯体を製造することができる。
【0100】
このような反応において、遷移金属の塩と配位子との配合割合は、例えば、配位子に対して、遷移金属が等モル以上となる割合、より具体的には、配位子1モルに対して、遷移金属の塩における遷移金属が、例えば、1.1〜30モル、好ましくは、5〜20モルである。
【0101】
また、遷移金属錯体は、市販品としても入手可能であり、例えば、N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジイミノコバルト(サルコミン)(東京化成工業製)などが挙げられる。
【0102】
これら遷移金属錯体は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0103】
遷移金属錯体において、遷移金属の含有割合(遷移金属錯体の総量に対する遷移金属の含有割合)は、例えば、1〜50質量%、好ましくは、2〜10質量%である。
【0104】
このような遷移金属錯体は、使用前に焼成する。
【0105】
焼成では、例えば、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガスなど)雰囲気下において、遷移金属錯体を加熱する。
【0106】
焼成条件としては、焼成温度が、例えば、400〜900℃、好ましくは、600〜800℃であり、焼成時間が、1〜10時間、好ましくは、2〜5時間である。
【0107】
遷移金属錯体を焼成することにより、遷移金属錯体の酸素還元活性を向上することができる。
【0108】
一方、遷移金属錯体を焼成すると、遷移金属錯体が凝集および粒成長し、その有効表面積が減少して、その結果、触媒活性が低下する場合がある。このような場合には、有効表面積を十分に確保するため、好ましくは、遷移金属錯体が凝集および粒成長した粒状物に細孔を形成し、多孔質の焼成体の一例としての遷移金属触媒粒状物を形成する。
【0109】
多孔質の遷移金属触媒粒状物を形成する方法としては、特に制限されず、公知の方法が挙げられる。例えば、まず、遷移金属触媒と可溶性粒子との混合物を焼成して、遷移金属触媒と可溶性粒子とをランダムに含有する複合物を作製し、その後、複合粒状物中の可溶性粒子を除去する方法が挙げられる。
【0110】
可溶性粒子としては、特に制限されないが、例えば、遷移金属錯体と可溶性粒子との混合時に、遷移金属錯体と均一に分散でき、また、上記の焼成によって融解することなく遷移金属錯体の表面に均一に分布し、また、焼成の後に、酸またはアルカリ処理などにより溶解および除去される粒子などが挙げられる。
【0111】
このような可溶性粒子としては、例えば、フュームドシリカ、コロイダルシリカなどのアモルファスシリカ、ポリスチレン、ポリイミドなどのポリマー粒子、および、それらの焼成体などが挙げられる。
【0112】
これら可溶性粒子は、単独使用または2種類以上併用することができ、好ましくは、アモルファスシリカ、より好ましくは、フュームドシリカが挙げられる。
【0113】
この方法では、例えば、まず、上記焼成前に、遷移金属錯体と可溶性粒子とを混合して、遷移金属触媒と可溶性粒子との混合物を調製する。
【0114】
遷移金属錯体と可溶性粒子とを混合するには、例えば、まず、遷移金属錯体を、溶媒に、溶解および/または分散させる。
【0115】
溶媒としては、特に制限されないが、例えば、水、例えば、プロトン性極性溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、グリコールなどのアルコールなど)、非プロトン性極性溶媒(例えば、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、アセトニトリル、ピペリジンなど)、アミン類(例えば、アンモニア、例えば、トリエチルアミン、ピリジンなど)、エーテル類(例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)など)、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなど)などが挙げられる。
【0116】
これら溶媒としては、単独使用または2種類以上併用することができ、好ましくは、テトラヒドロフラン、アセトンなどが挙げられる。
【0117】
遷移金属錯体と溶媒との配合割合は、遷移金属錯体100質量部に対して、溶媒が、例えば、1〜100000質量部、好ましくは、10〜50000質量部である。
【0118】
これにより、遷移金属錯体の溶液および/または分散液を得る。
【0119】
次いで、得られた遷移金属錯体の溶液および/または分散液と、可溶性粒子とを、湿式混合などの公知の方法により混合する。
【0120】
遷移金属錯体の溶液および/または分散液と、可溶性粒子との配合割合は、例えば、遷移金属錯体の溶液および/または分散液における遷移金属錯体(固形分)100質量部に対して、可溶性粒子が、例えば、10〜500質量部、好ましくは、50〜200質量部である。
【0121】
これにより、遷移金属錯体および可溶性粒子の溶液および/または分散液を得る。
【0122】
次いで、この方法では、得られた遷移金属錯体および可溶性粒子の溶液および/または分散液を乾燥させる。これにより、遷移金属触媒と可溶性粒子との混合物を得る。
【0123】
乾燥条件としては、乾燥温度が、例えば、−25〜80℃、好ましくは、15〜50℃であり、乾燥時間が、例えば、12〜48時間である。
【0124】
次いで、上記の焼成条件において、遷移金属錯体および可溶性粒子の混合物を焼成し、遷移金属触媒と可溶性粒子とをランダムに含有する複合物を得る。
【0125】
その後、この方法では、遷移金属錯体の表面の可溶性粒子を、除去する。
【0126】
例えば、可溶性粒子としてアモルファスシリカが用いられる場合には、焼成により、アモルファスシリカが結晶化し、シリカ(焼成体)となる場合がある。このような場合において、そのシリカを除去するためには、例えば、遷移金属錯体を、アルカリ処理する。
【0127】
アルカリ処理としては、遷移金属錯体に、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液を含浸させる。これにより、複合物中の可溶性粒子が溶解されて、細孔が形成され、その結果、多孔質の遷移金属錯体粒状物が得られる。
【0128】
このような遷移金属錯体によれば、焼成により遷移金属錯体が凝集および粒成長する場合にも、細孔により、遷移金属錯体の有効表面積が十分に確保されるため、優れた触媒活性を維持することができる。
【0129】
なお、可溶性粒子を除去する方法としては、上記に限定されず、可溶性粒子の種類に応じて、例えば、水に浸漬する方法、酸処理する方法など、適宜選択することができる。
【0130】
そして、得られた遷移金属錯体を用いて、電解質層4とともに膜−電極接合体を形成するには、例えば、上記した燃料側電極2と同様の方法により形成する。これによって、電解質層4における、燃料側電極2が定着された一方の表面とは異なる他方の表面に定着した酸素側電極3を得ることができる。すなわち、酸素側電極3が、電解質層4の他方の表面に定着されることによって、燃料側電極2および酸素側電極3は、電解質層4を挟んで対向配置される。
【0131】
なお、酸素側電極3の坪量(電解質層4に対する遷移金属錯体の付着量)は、例えば、0.01〜10mg/cmである。
【0132】
また、酸素側電極3の厚みは、例えば、0.1〜100μmであり、好ましくは、1〜10μmである。
【0133】
電解質層4は、アニオン交換膜から形成されている。アニオン交換膜としては、酸素側電極3で生成される水酸化物イオン(OH)を、酸素側電極3から燃料側電極2へ移動させることができる媒体であれば、特に限定されないが、例えば、4級アンモニウム基、ピリジニウム基などのアニオン交換基を有する固体高分子膜(アニオン交換樹脂)が挙げられる。
【0134】
燃料電池セルSは、さらに、燃料供給部材5および酸素供給部材6を備えている。燃料供給部材5は、ガス不透過性の導電性部材からなり、その一方の面が、燃料側電極2に対向接触されている。そして、この燃料供給部材5には、燃料側電極2の全体に燃料を接触させるための燃料側流路7が、一方の面から凹む葛折状の溝として形成されている。なお、この燃料側流路7は、その上流側端部および下流側端部に、燃料供給部材5を貫通する供給口8および排出口9がそれぞれ連続して形成されている。
【0135】
また、酸素供給部材6も、燃料供給部材5と同様に、ガス不透過性の導電性部材からなり、その一方の面が、酸素側電極3に対向接触されている。そして、この酸素供給部材6にも、酸素側電極3の全体に酸素(空気)を接触させるための酸素側流路10が、一方の面から凹む葛折状の溝として形成されている。なお、この酸素側流路10にも、その上流側端部および下流側端部に、酸素供給部材6を貫通する供給口11および排出口12がそれぞれ連続して形成されている。
【0136】
そして、この燃料電池1は、実際には、上記した燃料電池セルSが、複数積層されるスタック構造として形成される。そのため、燃料供給部材5および酸素供給部材6は、実際には、両面に燃料側流路7および酸素側流路10が形成されるセパレータとして構成される。
【0137】
なお、図示しないが、この燃料電池1には、導電性材料によって形成される集電板が備えられており、集電板に備えられた端子から燃料電池1で発生した起電力を外部に取り出すことができるように構成されている。
【0138】
また、試験的(モデル的)には、この燃料電池セルSの燃料供給部材5と酸素供給部材6とを外部回路13によって接続し、その外部回路13に電圧計14を介在させて、発生する電圧を計測することもできる。
【0139】
そして、この燃料電池1においては、燃料化合物を含む燃料が、改質などを経由することなく、直接供給される。
【0140】
燃料化合物は、水素が窒素に直接結合し、窒素−窒素結合を有するものが好ましく、炭素−炭素結合を有しないものが好ましい。また、炭素の数はできる限り少ない(できればゼロである)ものが好ましい。
【0141】
また、このような燃料化合物には、その性能を阻害しない範囲において、酸素原子、イオウ原子などを含んでいてよく、より具体的には、カルボニル基、水酸基、水和物、スルホン酸基あるいは硫酸塩などとして、含まれていてもよい。
【0142】
このような観点から、燃料化合物としては、具体的には、例えば、ヒドラジン(NHNH)、水加ヒドラジン(NHNH・HO)、炭酸ヒドラジン((NHNHCO)、硫酸ヒドラジン(NHNH・HSO)、モノメチルヒドラジン(CHNHNH)、ジメチルヒドラジン((CHNNH、CHNHNHCH)、カルボンヒドラジド((NHNHCO)などのヒドラジン類、例えば、尿素(NHCONH)、例えば、アンモニア(NH)、例えば、イミダゾール、1,3,5−トリアジン、3−アミノ−1,2,4−トリアゾールなどの複素環類、例えば、ヒドロキシルアミン(NHOH)、硫酸ヒドロキシルアミン(NHOH・HSO)などのヒドロキシルアミン類などが挙げられる。このような燃料化合物は、単独または2種類以上組み合わせて用いることができる。好ましくは、ヒドラジン類が挙げられる。
【0143】
上記した燃料化合物のうち、炭素を含まない化合物、すなわち、ヒドラジン(NHNH)、水加ヒドラジン(NHNH・HO)、硫酸ヒドラジン(NHNH・HSO)、アンモニア(NH)、ヒドロキシルアミン(NHOH)、硫酸ヒドロキシルアミン(NHOH・HSO)などは、後述するヒドラジンの反応のように、COによる触媒の被毒がないので耐久性の向上を図ることができ、実質的なゼロエミッションを実現することができる。
【0144】
燃料は、上記例示の燃料化合物をそのまま用いてもよいが、上記例示の燃料化合物を、例えば、水および/またはアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコールなど)などの溶液として用いることができる。この場合、溶液中の燃料化合物の濃度は、燃料化合物の種類によっても異なるが、例えば、1〜90重量%、好ましくは、1〜30重量%である。
【0145】
さらに、燃料は、上記した燃料化合物をガス(例えば、蒸気)として用いることができる。
【0146】
そして、酸素供給部材6の酸素側流路10に酸素(空気)を供給しつつ、燃料供給部材5の燃料側流路7に上記した燃料を供給すれば、酸素側電極3においては、下記反応式(2)に示すように、燃料側電極2で発生し、外部回路13を介して移動する電子(e)と、水(HO)と、酸素(O)とが反応して、水酸化物イオン(OH)を生成する。生成した水酸化物イオン(OH)は、アニオン交換膜からなる電解質層4を、酸素側電極3から燃料側電極2へ移動する。そして、燃料側電極2においては、下記反応式(1)に示すように、電解質層4を通過した水酸化物イオン(OH)と、燃料とが反応して、電子(e)が生成する。生成した電子(e)は、燃料供給部材5から外部回路13を介して酸素供給部材6に移動され、酸素側電極3へ供給される。このような燃料側電極2および酸素側電極3における電気化学的反応によって、起電力が生じ、発電が行われる。
(1) 2H+4OH→4HO+4e (燃料側電極2における反応)
(2) O+2HO+4e→4OH (酸素側電極3における反応)
(3) 2H+O→2HO (燃料電池1全体としての反応)
なお、この燃料電池1の運転条件は、特に限定されないが、例えば、燃料側電極2側の加圧が200kPa以下、好ましくは、100kPa以下であり、酸素側電極3側の加圧が200kPa以下、好ましくは、100kPa以下であり、燃料電池セルSの温度が0〜120℃、好ましくは、20〜80℃として設定される。
【0147】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施形態は、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜設計を変形することができる。
【0148】
本発明の燃料電池の用途としては、例えば、自動車、船舶、航空機などにおける駆動用モータの電源や、携帯電話機などの通信端末における電源などが挙げられる。
【0149】
このような燃料電池によれば、特定の構造を有する遷移金属錯体が酸素側電極3に含まれているため、酸素側電極3における酸素の還元反応を活性化することができる。
【0150】
その結果、燃料電池1の発電性能を向上させることができる。
【0151】
また、コバルトポリピロールなどの他の遷移金属錯体よりも安価な遷移金属錯体(例えば、サレン錯体など)を、酸素側電極3に含有させることができ、燃料電池のコストを低減することができる。
【実施例】
【0152】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
1.遷移金属錯体の合成
合成例1
N,N’−ビス(サリチリデン)−1,3−プロパンジアミン(上記一般式(3)において、n、mがともに0であり、Rがプロピレン基である配位子)10.0g(35.4mmol)を、配位子として、エタノール100ml中に溶解させて配位子溶液を調製した。
【0153】
別途、酢酸コバルト(II)四水和物8.83g(35.4mmol)を、遷移金属の塩として、水50mlに溶解させてコバルト水溶液を調製した。
【0154】
窒素雰囲気下で加熱還流しながら、配位子溶液にコバルト水溶液を10分かけて滴下し、その後、加熱還流しながら2時間攪拌して、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,3−プロパンジアミンコバルト(II)(上記一般式(12)において、Rがプロピレン基である遷移金属錯体)を析出させ、室温まで冷却した。
【0155】
その後、析出された遷移金属錯体を濾過し、水洗してから100℃で通風乾燥させた。収量は、9.2gであり、収率は、76.6%であった。
【0156】
合成例2
配位子として、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,4−ブタンジアミン(上記一般式(3)において、n、mがともに0であり、Rがブチレン基である配位子)10.0g(33.7mmol)を用い、酢酸コバルト(II)四水和物の配合量を8.41g(33.7mmol)とした以外は、合成例1と同様にして、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,4−ブタンジアミンコバルト(II)(上記一般式(12)において、Rがブチレン基である遷移金属錯体)を得た。収量は、9.7gであり、収率は、81.5%であった。
【0157】
合成例3
1)配位子の合成
エチレンジアミン2.0g(33.3mmol)をエタノール100ml中に溶かし、そこに、o−バニリン10.1g(66.5mmol)を室温で5分かけて滴下した後、室温で2時間攪拌し、N,N’−ビス(3−メトキシサリチリデン)エチレンジアミン(上記一般式(3)において、n、mがともに1であり、Rがエチレン基であり、RおよびRがともにメトキシ基である配位子)を析出させた。
【0158】
その後、析出されたN,N’−ビス(3−メトキシサリチリデン)エチレンジアミンを濾過し、水洗してから100℃で通風乾燥させた。収量は、10.7gであり、収率は、97.9%であった。
2)遷移金属錯体の合成
配位子として、N,N’−ビス(3−メトキシサリチリデン)エチレンジアミン8.0g(24.3mmol)を用い、酢酸コバルト(II)四水和物の配合量を6.1g(24.3mmol)とした以外は、合成例1と同様にして、N,N’−ビス(3−メトキシサリチリデン)エチレンジアミンコバルト(II)(上記一般式(10)において、RおよびRがともにメトキシ基である遷移金属錯体)を得た。収量は、7.7gであり、収率は、82.0%であった。
【0159】
合成例4
配位子として、8−キノリノール10.0g(68.9mmol)を用い、酢酸コバルト(II)四水和物の配合量を8.58g(34.4mmol)とした以外は、合成例1と同様にして、ビス(8−キノリラト)コバルト(II)(上記一般式(2)に示す遷移金属錯体)を得た。収量は、11.7gであり、収率は、98.2%であった。
2.遷移金属錯体粒状物の調製
実施例1
遷移金属触媒として、N,N’-ビス(サリチリデン)エチレンジイミノコバルト(II)(サルコミン、東京化成工業製)1.3gを、250mlのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、サルコミン溶液を調製した。
【0160】
次いで、サルコミン溶液に、フュームドシリカ(HS−5、キャボットコーポレーション製)3.3gを添加して3時間攪拌し、サルコミンとフュームドシリカとの混合液を調製した。
【0161】
次いで、混合液を、一晩(室温で約12時間)乾燥してTHFを揮発除去し、サルコミンとフュームドシリカとの混合物を得た。次いで、混合物を、窒素雰囲気下で、昇温速度3℃/分で700℃まで昇温した後、さらに、700℃で3時間加熱(焼成)し、サルコミンとフュームドシリカとの複合物を得た。
【0162】
次いで、複合物を、室温で、7M水酸化カリウム水溶液に3時間浸漬した後、濾過、乾燥して、遷移金属錯体粒状物を得た。
【0163】
実施例2
サルコミンとフュームドシリカとの混合物を焼成する温度を800℃とした以外は、実施例1と同様にして、遷移金属錯体粒状物を得た。
【0164】
実施例3
サルコミンとフュームドシリカとの混合物を焼成する温度を900℃とした以外は、実施例1と同様にして、遷移金属錯体粒状物を得た。
【0165】
実施例4
遷移金属触媒として、合成例1で得られた遷移金属触媒1.0gを用い、フュームドシリカの配合量を1.0gとした以外は、実施例1と同様にして、遷移金属錯体粒状物を得た。
【0166】
実施例5
遷移金属触媒として、合成例2で得られた遷移金属触媒1.0gを用い、フュームドシリカの配合量を1.0gとした以外は、実施例1と同様にして、遷移金属錯体粒状物を得た。
【0167】
実施例6
遷移金属触媒として、合成例3で得られた遷移金属触媒1.0gを用い、フュームドシリカの配合量を1.0gとした以外は、実施例1と同様にして、遷移金属錯体粒状物を得た。
【0168】
実施例7
遷移金属触媒として、合成例4で得られた遷移金属触媒1.0gを用い、フュームドシリカの配合量を1.0gとした以外は、実施例1と同様にして、遷移金属錯体粒状物を得た。
【0169】
比較例1
硝酸コバルト(II)六水和物5gを、10mlの純水に溶解させ、コバルト含有水溶液を調製した。
【0170】
次いで、このコバルト含有水溶液を、カーボン(E−TEK社製 Vulcan XC−72、比表面積250m/g)1gに、30分間含浸した。
【0171】
その後、コバルト含有水溶液に含浸したカーボンを還元雰囲気下において焼成することにより、コバルト担持カーボン(コバルトの担持濃度:50重量%)の乾燥粉末を得た。
【0172】
比較例2
1)ポリピロールカーボンコンポジット(PPy−C)の作製
純水75mLに、カーボン(E−TEK社製 Vulcan XC−72、比表面積250m/g)10gと酢酸(酢酸濃度100%)2.5mLとを加え、室温(約25℃)で20分間攪拌して、カーボンが分散したカーボン分散液を調製した。次いで、このカーボン分散液にピロール(Aldrich社製)2gを加え、室温で5分間攪拌した。さらに、このカーボン分散液に濃度10%の過酸化水素10mLを加え、室温で1時間攪拌することにより、ピロールを酸化重合させた。その後、このカーボン分散液を濾過して温水洗浄し、90℃で真空乾燥した。これにより、カーボン上にピロールが重合したPPy−C乾燥粉末を得た。
2)コバルト担持PPy−Cの作製
1)で得られたPPy−C乾燥粉末2gを、純水44mLに加え、80℃まで加熱しながら30分間攪拌して、PPy−Cが分散したPPy−C分散液を得た。次いで、硝酸コバルト(II)六水和物1.1gを、11mLの純水に溶解させ、コバルト含有水溶液を調製した。そして、このコバルト含有水溶液を、PPy−C分散液に加え、80℃で30分間攪拌することによって、コバルト−PPy−C混合液を得た。続いて、水素化ホウ素ナトリウム5.23gと水酸化ナトリウム0.37gとを、500mLの純水に溶解させ、アルカリ水溶液を調製した。次いで、コバルト−PPy−C混合液のpHが11.1になるまで、アルカリ水溶液を徐々に加えた後、このコバルト−PPy−C混合液80℃で30分間放置した。なお、2)におけるこの操作(アルカリ水溶液を加える操作)に至るまでの操作は全て、窒素雰囲気で行なった。その後、コバルト−PPy−C混合液を濾過して温水洗浄し、90℃で真空乾燥した。これにより、PPy−Cにコバルトが担持されたコバルト担持PPy−C(コバルトの担持濃度:10質量%)の乾燥粉末を得た。
【0173】
評価方法
1)テストピースの作製
各実施例および各比較例において得られた、サルコミン触媒またはコバルト担持カーボンの乾燥粉末と、アニオン交換樹脂との混合物を、アルコール類などの有機溶媒に適宜分散させて、インクを調製した。なお、全てのインクにおいて、遷移金属触媒またはコバルト担持PPy−Cの含有量が1μg/μLとなるように調製した。
【0174】
次いで、得られたインク10μLをマイクロピペットで秤取して、グラッシーカーボン電極上に滴下した。その後、このグラッシーカーボンを乾燥することにより、テストピースを得た。
【0175】
2)酸素側電極の活性測定
酸素側電極の活性は、回転ディスク電極による電気化学測定法(サイクリックボルタンメトリー)で測定した。より具体的には、窒素バブリングによって酸素を脱気した1NのKOH水溶液中で電位を走査し、テストピースの安定化およびバックグラウンド測定を行なった。
【0176】
次いで、この水溶液中に、酸素をバブリングすることによって酸素を飽和させ、酸素側電極の酸素還元活性を測定した。なお、電位の走査範囲は、−0.32V(vs.RHE)〜1.02V(vs.RHE)であり、電極回転数は1600rpmであった。結果を、図2および図3に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素原子と窒素原子とを同数ずつ含有する配位子が、酸素原子および窒素原子において前記遷移金属に配位された遷移金属錯体を、焼成することにより得られる焼成体を含有していることを特徴とする、酸素還元触媒。
【請求項2】
前記遷移金属錯体が下記一般式(1)で示されることを特徴とする、請求項1に記載の酸素還元触媒。
一般式(1):
【化1】

(式中、
mおよびnは、各々独立して、0または1〜4の整数であり、
Mは、遷移金属原子を表し、
は、各々独立して、水素原子、C1−C6アルキル基またはアリール基を表すか、または、2つのRが結合して2価の有機基を形成し、
は、mが1の場合には単独で、mが2〜4の場合には各々独立して、ヒドロキシ基、C1−C6アルキル基、C1−C6アルコキシ基またはアリール基を表すか、または、mが2以上の場合には、隣接する炭素原子に結合する2つのRが結合して隣接するベンゼン環とともに縮合環を形成し、
は、nが1の場合には単独で、nが2〜4の場合には各々独立して、ヒドロキシ基、C1−C6アルキル基、C1−C6アルコキシ基またはアリール基を表すか、または、nが2以上の場合には、隣接する炭素原子に結合する2つのRが結合して隣接するベンゼン環とともに縮合環を形成する。)
【請求項3】
前記遷移金属錯体が下記一般式(2)で示されることを特徴とする、請求項1に記載の酸素還元触媒。
一般式(2):
【化2】

(式中、Mは、遷移金属原子を表す。)
【請求項4】
前記遷移金属の原子価が2価であり、
前記配位子は、酸素原子と窒素原子とを2つずつ含有し、
前記配位子が各酸素原子および各窒素原子において前記遷移金属に配位されることにより、4つの配位結合が形成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の酸素還元触媒。
【請求項5】
前記焼成体が多孔質体であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の酸素還元触媒。
【請求項6】
アニオン成分を移動させることができる電解質と、
前記電解質を挟んで対向配置された燃料側電極および酸素側電極と
を備え、
前記酸素側電極は、請求項1〜5のいずれかに記載の酸素還元触媒を含有していることを特徴とする、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−235231(P2011−235231A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108403(P2010−108403)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【出願人】(503128320)
【氏名又は名称原語表記】STC.UNM
【Fターム(参考)】