説明

醤油由来調味料

【課題】味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味を食品にバランスよく付与する醤油由来の調味料を提供する。
【解決手段】遊離アミノ酸を含有する醤油由来調味料であって、遊離アミノ酸の全質量を100質量%とした場合に、遊離アミノ酸に含まれる疎水性アミノ酸の含有量が65質量%以上である、醤油由来調味料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醤油由来調味料及びその製造方法に関する。また、本発明は、当該醤油由来調味料を含む加工食品にも関する。
【背景技術】
【0002】
醤油などの伝統古来の調味料においても、消費者の嗜好の多様化や醤油の使用用途の拡大に伴い、多種多様な香味を有する醤油が求められている。また、醤油の旨みを活かしつつも従来の醤油の分類には属さない多種多様な新規な調味料の開発も同様に求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、魚醤油を減圧下で加熱濃縮した後、冷却することにより、魚醤油から塩味成分及び旨味成分を含む析出物を析出させる工程を含み、該析出物を原料として製造する、塩味調味料の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−312746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、以下の点で改善の余地を有していた。
【0006】
第一に、上記文献では、魚醤油から得られた塩味調味料の食味に関しては、「塩カドの無さ」、「こく」、「旨味」、「まろやかさ」のみしか記載されていない。そのため、この魚醤油から得られた塩味調味料では、「熟成感」、「味の厚み」、「ノビ」などを実現できるかどうか不明である。
【0007】
第ニに、上記文献では、魚醤油から得られた塩味調味料のアミノ酸の組成についてはまったく記載がない。そのため、この魚醤油から得られた塩味調味料では、どのようなアミノ酸の組成によって「塩カドの無さ」、「こく」、「旨味」、「まろやかさ」が実現されているのか不明である。
【0008】
第三に、上記文献では、魚醤油から得られた塩味調味料の塩濃度が高い(食塩相当量が86.4g/100g)。そのため、魚醤油から塩味調味料を製造する工程において、液の粘性が高くなり過ぎ、濾過が難しい、容器等の壁面に液が付着してしまうなど、製造工程に著しい支障を生じる可能性がある。また、塩味が強すぎると、食材の微妙な風味を生かせないため調味料としては不適な場合が多い。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味を食品にバランスよく付与する醤油由来の調味料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、濃縮された醤油から塩を主体とする沈殿部とそれ以外の上清部(液体及び液体中に分散している析出物を含む)を分離し、分離した上清部を濾過して得られる析出物を原料として調味料を調製すると、味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味を食品にバランスよく付与する醤油由来の調味料が得られることを新たに発見した。
【0011】
また、本発明者は、この醤油由来の調味料を分析した結果、遊離アミノ酸に含まれる疎水性アミノ酸の含有量が65質量%以上であることによって、味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味を食品にバランスよく付与することが可能になることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明によれば、遊離アミノ酸を含有する醤油由来調味料であって、上記の遊離アミノ酸の全質量を100質量%とした場合に、この遊離アミノ酸に含まれる疎水性アミノ酸の含有量が65質量%以上である、醤油由来調味料が提供される。
【0013】
この組成によれば、遊離アミノ酸に含まれる疎水性アミノ酸の含有量が65質量%以上であるため、味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味を食品にバランスよく付与する醤油由来の調味料が得られる。
【0014】
また、本発明によれば、上記の醤油由来調味料を含む加工食品が提供される。
【0015】
この構成によれば、遊離アミノ酸に含まれる疎水性アミノ酸の含有量が65質量%以上である醤油由来調味料を含むため、味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味をバランスよく付与された加工食品が得られる。
【0016】
さらに、本発明によれば、醤油由来調味料の製造方法であって、醤油を濃縮する工程と、上記の濃縮された醤油から塩を主体とする沈殿部とそれ以外の上清部(液体及び液体中に分散している析出物を含む)を分離する工程と、分離した上清部を濾過して析出物を取り出す工程と、この析出物を原料として調味料を得る工程と、を含む、製造方法が提供される。
【0017】
この方法によれば、濃縮された醤油から、最初に塩を主体とする析出物を沈殿させて、この沈殿した塩を主体とする析出物を除去しているため、塩味の付与を気にすることなく、味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味を食品にバランスよく付与する醤油由来の調味料が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味を食品にバランスよく付与する醤油由来の調味料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例(醤油由来調味料)・比較例(濃口醤油)における全遊離アミノ酸質量に対する各アミノ酸質量の割合(%)を示す棒グラフである。
【図2】実施例(醤油由来調味料)・比較例(濃口醤油)における全遊離アミノ酸質量に対する各アミノ酸質量の割合(%)を示す帯グラフである。
【図3】実施例(醤油由来調味料を添加した蒸留水)・比較例(蒸留水)の香味を5段階評価したレーダーチャートである。
【図4】実施例(醤油由来調味料)・比較例(濃口醤油)を添加したそばつゆの香味を5段階評価したレーダーチャートである。
【図5】実施例(疎水性アミノ酸を添加した醤油)・比較例(濃口醤油)を添加したそばつゆの香味を5段階評価したレーダーチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
<醤油由来調味料>
本実施形態に係る醤油由来調味料は、醤油を1つの原材料とし、調味料中の遊離アミノ酸における疎水性アミノ酸の含有量が65質量%以上である調味料を意味しており、当然のことながらその製法に限定されない。また、本実施形態に係る醤油由来調味料の名称としては、各種規制法に反しない限り、既存の任意の名称を用いることができる。
【0022】
また、本実施形態に係る醤油由来調味料の形状は、ペースト状、粉末状、塊状等の固形物であってもよく、液状、コロイド状等の液体であってもよい。
【0023】
なお、本実施形態に係る醤油由来調味料は、醤油を原材料として得られる調味料であればよく、魚醤、肉醤、草醤を排除する趣旨ではないが、一般的な大豆、小麦などの穀物を原料とした醤油に由来するものであることが好ましい。
【0024】
ここで、本実施形態に係る醤油由来調味料は、遊離アミノ酸を含有する醤油由来調味料である。ここで、「遊離アミノ酸」とは、常識的なタンパク質と結合せずに一つのアミノ酸分子の状態で存在しているアミノ酸のほかにも、7個以下、好ましくは4個以下のアミノ酸が結合したペプチドをも包含する。
【0025】
そして、本実施形態に係る醤油由来調味料は、アミノ酸分析を実施した場合、上記の遊離アミノ酸の全質量を100質量%とした場合に、この遊離アミノ酸に含まれる疎水性アミノ酸の含有量が65質量%以上である。なぜなら、この疎水性アミノ酸の含有量が65質量%以上である場合には、後述する実施例で示すように、味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味を食品にバランスよく付与する醤油由来の調味料が得られるからである。
【0026】
すなわち、本実施形態に係る醤油由来調味料は、加工食品に対して熟成感、こく味、味の厚み、ノビ等を付与することが可能である。ここで、熟成感とは、酢カド、塩カド等、刺激的な味の少ない、まとまりのある味わいである。また、厚み・重量感とは、コクがあり深みのある味わいである。また、味のノビとは、飲み込んだ後に感じられる味の持続性である。すなわち、本実施形態に係る醤油由来調味料は、このような香味を加工食品に対してバランスよく付与することが可能であり、しかも食塩の含量も低いため、塩味の付与を気にする必要がない。
【0027】
ここで、「疎水性アミノ酸」としては、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、メチオニン、チロシンの6種のアミノ酸が含まれる。
【0028】
すなわち、本実施形態に係る醤油由来調味料は、上記の遊離アミノ酸の全質量を100質量%とした場合に、この遊離アミノ酸に含まれるロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、メチオニン、チロシンの6種のアミノ酸の含有量が65質量%以上である。
【0029】
ここで、これらの6種のアミノ酸の含有量の定量的な分析方法については、特に限定するものではないが、分析結果の信頼性及び分析の容易性などの面からHPLC法を用いて分析することが好ましい。具体的には、公知の文献(たとえば「しょうゆ試験法」(財団法人日本醤油研究所・編集)等)に記載の測定法を用いることができる。
【0030】
なお、この遊離アミノ酸の全質量を100質量%とした場合の疎水性アミノ酸の含有量は、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99質量%以上であってもよく、これらの数値のうち2つの数値の範囲内であってもよい。もっとも、当然のことながら、この疎水性アミノ酸の含有量は100質量%以下である。
【0031】
例えば、この疎水性アミノ酸の含有量は65質量%以上であることが好ましく、さらに75質量%以上であることが好ましい。疎水性アミノ酸の濃度をこれらの範囲に設定すれば、後述する実施例で示すように、味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味をより一層バランスよく付与する醤油由来の調味料が得られる。
【0032】
また、本実施形態に係る醤油由来調味料は、遊離アミノ酸に加えて塩化ナトリウムをさらに含んでもよい。このように、塩化ナトリウム(食塩)を含むことによって、食品に塩辛さなどの香味を付与することができるためである。もっとも、この場合、全窒素1gあたりの塩化ナトリウムの含有量が10g以下であることが好ましく、さらに5g以下であることが好ましい。なぜなら、この醤油由来調味料に含まれる塩濃度が高すぎると、液の粘性が高くなり過ぎ、濾過工程等に著しい支障を生じる可能性があるため好ましくないからである。また、この醤油由来調味料に含まれる塩濃度が高すぎると、塩味が強すぎるため、調味料としては不適(食材の微妙な風味を生かせない)である場合があるためである。
【0033】
すなわち、本実施形態に係る醤油由来調味料は、塩化ナトリウムの含有量が低減されているため、塩味の増強にはほぼ作用しない(塩分濃度が著しく低く、添加前の食品本来の風味を活かせ、健康上望ましく、ろ過前液の粘性が高くなりすぎず、工程内で取り扱う上で有利)にも関わらず、上述のように味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味を食品にバランスよく付与することができる。
【0034】
ここで、全窒素の分析については、特に限定するものではないが、分析結果の信頼性及び分析の容易性などの面から燃焼法、ケルダール法、ガニング変法、デュマ法などにより分析を行うことが好ましい。
【0035】
また、塩化ナトリウム(食塩)の分析については、特に限定するものではないが、分析結果の信頼性及び分析の容易性などの面から、一般的に醤油の塩分測定に用いられている、「しょうゆの日本農林規格(平成21年8月31日農林水産省告示第1218号)」に基づく、銀指示電極を用いた硝酸銀滴定で分析することが好ましい。全窒素や塩化ナトリウムの具体的な測定法としては、公知の文献(たとえば「しょうゆ試験法」(財団法人日本醤油研究所・編集)等)に記載の方法を適用することもできる。
【0036】
なお、この塩化ナトリウム(食塩)の含有量は、全窒素1gあたり10、9、8、7、6、5、4、3、2、1g以下であってもよく、これらの数値のうち2つの数値の範囲内であってもよい。もっとも、当然のことながら、この塩化ナトリウム(食塩)の含有量は、全窒素1gあたり0g以上である。例えば、この塩化ナトリウム(食塩)の含有量が全窒素1gあたり5g以下である場合には、液の粘性が高くなり過ぎないので濾過工程等がスムーズになることにくわえて、後述する実施例で示すように、塩味はあまり増強しないにも関わらず、味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味をバランスよく付与する醤油由来の調味料が得られるために好ましい。
【0037】
また、本実施形態に係る醤油由来調味料は、任意の生産方法で得ることができ、醤油に疎水性アミノ酸を添加して得ることも可能であるが、生産コストなどの面からは後述する生産方法で得ることが好ましい。
【0038】
<調味組成物及び加工食品>
本実施形態に係る調味組成物は、上述の醤油由来調味料を含む、調味組成物である。この調味組成物は、遊離アミノ酸に含まれる疎水性アミノ酸の含有量が65質量%以上である醤油由来調味料を含むため、味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味をバランスよく付与されている。具体的には、濃口醤油、淡口醤油、溜醤油、再仕込醤油、白醤油、減塩醤油、だし醤油、濃縮醤油、魚醤等の醤油類、つゆ、たれ、だし、ポン酢醤油、しょうゆドレッシング、スープ、ソース等の醤油含有調味料類、うま味調味料、アミノ酸液、各種エキス類、各種発酵調味料、味噌類等を例示することができる。
【0039】
本実施形態に係る加工食品は、上述の醤油由来調味料を含む、加工食品である。この加工食品は、遊離アミノ酸に含まれる疎水性アミノ酸の含有量が65質量%以上である醤油由来調味料を含むため、味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味をバランスよく付与されている。
【0040】
ここで、加工食品とは、天然の食材に様々な加工を加えた食品であればよく、特に限定するものではないが、例えば、上記醤油由来調味料を用いて製造される漬物、佃煮、乾物、練り製品、粉類、缶詰、冷凍食品、レトルト食品、インスタント食品(即席麺、ドライ・フーズ、粉末飲料等)、乳製品、菓子類、嗜好品、健康食品などが挙げられる。これらのうちで、レトルト食品としては、親子丼等の丼類、カレー、シチュー、麻婆豆腐の素、スープ、ソース、粥、米飯等が挙げられる。いずれの加工食品においても、上述の醤油由来調味料を含むことによって、味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味をバランスよく付与することができる。
【0041】
なお、本実施形態に係る調味組成物または加工食品に含まれる上述の醤油由来調味料の含有量は、調味組成物または加工食品の種類及び味付けに応じて任意の量を用いればよく、特に限定するものではないが、例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20質量%以上であってもよく、これらの数値のうち2つの数値の範囲内であってもよい。もっとも、当然のことながら、上述の醤油由来調味料の含有量は、100質量%以下である。例えば、この醤油由来調味料の含有量が0.1質量%以上である場合には、後述する実施例で示すように、味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味をバランスよく付与する醤油由来の調味料が得られるために好ましい。
【0042】
もっとも、本実施形態に係る調味組成物または加工食品に上述の醤油由来調味料を用いる場合には、上述の醤油由来調味料を単独で用いてもよいが、通常の醤油にブレンドして用いても良い。この場合、通常の醤油及び上述の醤油由来調味料の合計を100質量%とすると、上述の醤油由来調味料の含有量は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99質量%以上であってもよく、これらの数値のうち2つの数値の範囲内であってもよい。もっとも、当然のことながら、上述の醤油由来調味料の含有量は100質量%以下である。例えば、この醤油由来調味料の含有量が10質量%以上である場合には、後述する実施例で示すように、味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味をバランスよく付与する醤油由来の調味料が得られるために好ましい。
【0043】
<醤油由来調味料の製造方法>
本実施形態に係る醤油由来調味料の製造方法は、醤油を濃縮する工程と、上記の濃縮された醤油から塩を主体とする沈殿部とそれ以外の上清部(液体及び液体中に分散している析出物を含む)を分離する工程と、分離した上清部を濾過して析出物を取り出す工程と、この析出物を原料として調味料を得る工程と、を含む、製造方法である。
【0044】
本実施形態に係る醤油由来調味料の製造方法によれば、このように、濃縮された醤油から塩を主体とする沈殿物を沈殿させて、この沈殿物とそれ以外の上清部(液体及び液体中に分散している析出物を含む)を分離し、分離した上清部を濾過して析出物を取り出し、この析出物を原料として調味料を得るため、味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味を食品にバランスよく付与し、しかも塩味付与をさほど気にする必要のない醤油由来の調味料が得られる。
【0045】
ここで、醤油を濃縮する工程としては、醤油から塩分を多く含む析出物を沈殿させることのできる工程であればよく、具体的には凍結濃縮、減圧濃縮(減圧加熱濃縮を含む)等の濃縮法を用いることができる。いずれの方法で濃縮を行っても、醤油が加熱によって酸化劣化する可能性を抑制しつつ、効率的に醤油を濃縮することが可能である。
【0046】
具体的には、醤油を濃縮する工程が、減圧加熱濃縮の場合には、醤油を濃縮によって1.5倍〜6倍以上、好ましくは2倍〜3.5倍程度に濃縮すればよい。このような範囲で減圧加熱濃縮を行えば、醤油が加熱によって酸化劣化する可能性を抑制しつつ、効率的に醤油を濃縮することが可能である。なお、濃縮率が小さいと、塩分を多く含む析出物を十分に除去できず、塩分を十分に抑制できなくなる恐れがあり、逆に濃縮率が高過ぎる場合、粘性が高くなるために濾過の効率が著しく低下するなど、製造上実用的でない。
【0047】
また、上記の濃縮された醤油から塩を主体とする析出物を沈殿させる工程は、濃縮された醤油を、0℃以上60℃以下の温度で0.5時間以上24時間以下静置する工程を含むことが好ましく、より好ましくは15℃以上60℃以下、0.5時間以上12時間以下静置する工程を含ませればよい。このような範囲で濃縮された醤油から析出物を沈殿させれば、塩分を多く含む析出物を十分に除去することができ、塩分を十分に抑制することが可能であることに加えて、温度が低くなり過ぎて液の粘性が高くなることで扱い上の困難を生じたり、逆に高くなり過ぎて、後に濾過によって得る必要のある疎水性アミノ酸を完全に溶解させてしまったりすることを防ぐことができる。
【0048】
次に、上記の濃縮された醤油から塩を主体とする沈殿部とそれ以外の上清部(液体及び液体中に分散している析出物を含む)を分離する方法は、生じた塩分を多く含む析出物を含む沈殿物以外の上清部分(液体及び液体中に分散している析出物を含む)を汲み出すこと(いわゆる、デカンテーション法)によって、塩分を多く含む析出物を含む沈殿物をタンクなどの底に残して除去することが好ましいが、両者を分離できる方法であれば、特にこれに限定されない。デカンテーション法は、塩分を多く含む沈殿物を十分に除去することができ、塩分を十分に抑制することが可能であることにくわえて、上清中に溶解または(微小な析出物として)分散している疎水性アミノ酸を必要以上に除去してしまって上記の醤油由来調味料の香味を低下させることを抑制することができる。
【0049】
そして、得られた上清部(液体及び液体中に分散している微小な析出物を含む)から濾過によって疎水性アミノ酸を含む析出物を取り出す場合には、通気性1cm/cm・sec以下のフィルタを用いて前記上清を濾過する工程を行うことが好ましい。なお、通気性とは、形状や大きさが複雑な濾布の孔の状態を示す指標であり、値が小さければ孔が小さく、大きければ孔が大きいことを示す。また、濾過に用いるフィルタは、細かい穴がたくさんあいた多孔質(濾材)であれば任意のフィルタを用いることができ、例えば、濾布、濾紙、有機高分子、セラミックなどのフィルタを用いて濾過することができる。このような範囲で上清(液体及び液体中に分散している微小な析出物を含む)から濾過によって析出物を取り出せば、疎水性アミノ酸を多く含む析出物を効率よく回収することができる。
【0050】
このようにして得られた疎水性アミノ酸を多く含む析出物は、必要により、水、食塩水、醤油などに溶解することで液状の調味料、もしくはこれに造粘剤等を添加としてゲル状、ペースト状などの調味液としたり、あるいは乾燥・造粒して粉状・顆粒状の調味料としたり、加工食品業界の通常の方法・手段で各種形状の調味料とすることが可能である。
【0051】
本実施形態の醤油由来調味料を用いて加工食品を製造するには、それぞれの加工食品の製法に応じた公知の製造法を採用できる。製造においては、所期の液体調味料の一部またはすべてを、本実施形態の醤油由来調味料に変更すればよい。例えば、本実施形態の醤油由来調味料は、つゆ・たれ類、ソース類に混ぜる、食材に直接からめるなどの形で好適に用いることができる。具体的には、本実施形態の醤油由来調味料は、そば・うどんつゆ、焼き鳥、うなぎ、照り焼きのタレ、各種惣菜などに特に好適に用いることができる。
【0052】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
<実施例1:醤油由来調味料の製造及び分析>
(実施例1−1:醤油由来調味料の製造)
減圧濃縮装置を用いて、濃口醤油(ヤマサ醤油(株)製)1000Lを、2.8倍濃縮した。該濃縮醤油を、析出した塩が沈殿するまで25〜50℃の温度条件下で2時間静置した。その後、上層の清澄液および浮遊する析出物をデカントすることで取り出し、これを通気性0.3cm/cm・secの濾布で濾過することによって目的の析出物を得た。得られた析出物を自然乾燥して醤油由来調味料とし、各種分析を行ったところ、結果は下記表1に示す通りであった。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示す分析結果から明らかなように、得られた析出物の食塩濃度を全窒素1g当たりの食塩量に換算すると、4.62gとなり、通常の濃口醤油の食塩濃度が全窒素1g当たり10g程度であることから、該醤油由来調味料は、非常に塩分の低い調味料であることが明らかとなった。
【0057】
(実施例1−2:醤油由来調味料の分析)
実施例1−1で得られた醤油由来調味料および濃口醤油をアミノ酸分析にかけ、全遊離アミノ酸に対して疎水性アミノ酸が含まれる割合を算出した。得られた結果を図1、図2及び表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
図1、図2及び表2に示すように、実施例1−1で得られた醤油由来調味料には、濃口醤油(対照)よりも多くの疎水性アミノ酸が含有されていた。
【0060】
<実施例2:醤油由来調味料の官能検査>
(実施例2−1)
蒸留水を対照とし、本発明の醤油由来調味料を5段階評価で官能評価を行った。評価は、熟練したパネラー14名で実施した。
<被検サンプル>
蒸留水に実施例1の醤油由来調味料を3.6%(w/v)となるように溶解した。
【0061】
評価の結果、蒸留水に比べ、被検サンプルでは、香りの熟成感、醤油の香り、酸味、苦味、旨味、味のノビ、醤油感、厚み・重量感、味の熟成感が有意に強いという結果が得られた(図3)。また、塩味は蒸留水とほとんど変わらない強さであることも明らかとなった。これにより、醤油由来調味料を添加することで、ほとんど塩味を与えずに熟成感、旨味、味のノビ、厚み・重量感、を与えることが明らかとなった。
(実施例2−2)
以下の(A)または(B)の醤油を用いて、定法によりそばつゆを製造した。
(A)濃口醤油
(B)実施例1で製造した醤油由来調味料を濃口醤油に溶解させ、全窒素濃度、塩分濃度等を(A)の濃口醤油と同じ値に調整した醤油由来調味料添加醤油(醤油の全窒素分のうち、約1割が醤油由来調味料に置換されている)
【0062】
濃口醤油を用いて製造したそばつゆを対照とし、醤油由来調味料添加醤油を用いて製造したそばつゆを、5段階評価に供した。評価は熟練したパネラー11名で行った。
【0063】
評価の結果、濃口醤油を用いたそばつゆに比べ、醤油由来調味料添加醤油を用いたそばつゆでは、味のノビ、厚み・重量感、熟成感が有意に強くなった(図4)。よって、醤油中の窒素分のうち、約1割を本発明の醤油由来調味料に代替することで、有意に味のノビ、厚み・重量感、熟成感を付与できることが明らかになった。
【0064】
<実施例3:疎水性アミノ酸を用いた官能評価>
以下の(A)、(C)または(D)のサンプルを用いて、定法に従ってそばつゆを製造した。
(A)濃口醤油
(C)疎水性アミノ酸(バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン)を、それぞれの含有パーセント比が図1に示した醤油由来調味料と同等になるように濃口醤油に溶解させ、その後、全窒素濃度、塩分濃度等を(A)の濃口醤油と同じ値に調整した疎水性アミノ酸添加醤油。なお、疎水性アミノ酸は、全窒素濃度、塩分濃度を調整した後の濃度が、実施例2で用いた醤油由来調味料添加醤油と同等(全遊離アミノ酸質量に対する疎水性アミノ酸質量の割合が約76%)になるように計算し、それぞれの量を添加した。
(D)(C)と同様に、濃口醤油に疎水性アミノ酸を溶解させたが、全遊離アミノ酸質量に対する疎水性アミノ酸質量の割合を59%となるように調製した疎水性アミノ酸添加醤油。
【0065】
(A)の濃口醤油を用いて製造したそばつゆを対照とし、疎水性アミノ酸添加醤油を用いて製造したそばつゆを、5段階評価で官能評価を行った。評価は熟練したパネラー8〜9名で行った。
【0066】
評価の結果、(C)の疎水性アミノ酸添加醤油を用いたそばつゆ(遊離アミノ酸中の疎水性アミノ酸の割合:76%)では、実施例2で示した醤油由来調味料添加醤油を用いて製造したそばつゆを程ではないにしても、明らかに味のノビ、厚み・重量感、熟成感が有意に強くなった(図5)。一方、(D)の疎水性アミノ酸添加醤油を用いたそばつゆ(遊離アミノ酸中の疎水性アミノ酸の割合:59%)では、対照と比べて香味の有意な差は観察されなかった。よって、味のノビ、厚み・重量感、熟成感の付与には疎水性アミノ酸が深く関与すること、全遊離アミノ酸に対する疎水性アミノ酸の濃度が65質量%以上である醤油由来調味料を用いることで、有効な効果を得られることが明らかになった。
【0067】
<結果の考察>
上記の実施例1〜3の実験結果から、これらの実施例に係る醤油由来調味料は、遊離アミノ酸に含まれる疎水性アミノ酸の含有量が65質量%以上であるため、味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味を食品にバランスよく付与できることが明らかである。
【0068】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0069】
たとえば、上記実施例では、原材料として濃口醤油を用いたが、薄口醤油、溜醤油、再仕込醤油、白醤油、減塩醤油、だし醤油、濃縮醤油等の穀物由来の醤油類を原材料としてもよい。この場合にも、遊離アミノ酸に含まれる疎水性アミノ酸の含有量が65質量%以上になるようにすれば、同様に味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味を食品にバランスよく付与できることが当業者には明らかである。
【0070】
また、上記実施例では、そばつゆに配合して官能評価を行ったが、漬物、佃煮、乾物、練り製品、粉類、缶詰、冷凍食品、レトルト食品、インスタント食品(即席麺、ドライ・フーズ、粉末飲料等)、乳製品、菓子類、嗜好品、健康食品などの他の加工食品に配合してもよい。この場合にも、上記実施例の醤油由来調味料を他の加工食品に配合して官能評価を行っても、加工食品の種類及び味付けに応じた適切な配合量をくわえれば、同様に味のノビ、厚み・重量感、または熟成感などの優れた香味を食品にバランスよく付与できることが当業者には明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離アミノ酸を含有する醤油由来の調味料であって、
前記遊離アミノ酸の全質量を100質量%とした場合に、該遊離アミノ酸に含まれる疎水性アミノ酸の含有量が65質量%以上である、醤油由来調味料。
【請求項2】
前記疎水性アミノ酸の含有量が75質量%以上である、
請求項1に記載の醤油由来調味料。
【請求項3】
前記疎水性アミノ酸が、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、メチオニン及びチロシンを含む、
請求項1または2に記載の醤油由来調味料。
【請求項4】
前記遊離アミノ酸に加えて塩化ナトリウムをさらに含み、
全窒素1gあたりの前記塩化ナトリウムの含有量が10g以下である、
請求項1〜3のいずれかに記載の醤油由来調味料。
【請求項5】
全窒素1gあたりの前記塩化ナトリウムの含有量が5g以下である、
請求項4に記載の醤油由来調味料。
【請求項6】
穀物を原料とした醤油に由来する、
請求項1〜5のいずれかに記載の醤油由来調味料。
【請求項7】
醤油に疎水性アミノ酸を添加して得られる、
請求項1〜6のいずれかに記載の醤油由来調味料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の醤油由来調味料を含む、
調味組成物。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の醤油由来調味料を含む、
加工食品。
【請求項10】
醤油から、遊離アミノ酸の全質量を100質量%とした場合の疎水性アミノ酸の含有量が65質量%以上である析出物を析出させる工程を含み、該析出物を原料として製造する、醤油由来調味料。
【請求項11】
醤油由来調味料の製造方法であって、
醤油を濃縮する工程と、
前記濃縮された醤油から食塩を主体とする沈殿部とそれ以外の上清部を分離する工程と、
前記上清部を濾過して析出物を取り出す工程と、
前記析出物を原料として調味料を得る工程と、
を含む、製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−187007(P2012−187007A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50809(P2011−50809)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000006770)ヤマサ醤油株式会社 (56)
【Fターム(参考)】