説明

重合体製造装置

本発明に係る重合体製造装置では、原料重合体を溶融して成形を行う装置のうち、重合体と接触する部材表面を不動態処理して、不動態膜によって覆う。この不動態膜として、酸化アルミニウム膜または酸化クロム膜が好適である。更に、溶融した重合体に注入する溶媒として超純水を使用し、汚染の混入を防止する一方、排気系に不活性ガスを流すことにより逆拡散による汚染も防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、通常使用される樹脂やゴム等の重合体から揮発分の極めて少ない高純度の重合体を製造する重合体製造装置に関する。
【背景技術】
一般に、樹脂やゴム等の重合体は、使用時に有機揮発物(脱ガス・分子状汚染物質)の発生が多く、半導体製造工程での汚染原因や、住宅におけるシックハウスの原因になる。これは、重合体中に含まれる低分子量成分が原因である。低分子量成分は、重合時に生成される未反応モノマー、反応して生成したオリゴマー等の反応物、重合時に使用される石鹸等の重合補助剤、重合体に直接添加される可塑剤、老化防止剤等の添加剤、重合体成型時に混入される離形剤等の成型補助剤、成型機に使用される潤滑油成分、環境中あるいは装置からの混入物、製造時の重合体の劣化分解物が原因である。
従来、高分子重合体中の不要ガスを脱揮・排気する種々の装置及び方法が提案されている。例えば、特開平7−88927号公報(特許文献1)は、複数のベントを備えたシリンダ内で、スクリュを回転させることにより、上流から下流に重合体(即ち、ポリマー)を押出す押出機、及び、当該押出機における脱揮・排気方法を開示している。この脱揮・排気方法では、ベントに接続された真空ポンプにより排気する際、下流側のベントの排気を上流側のベントに引き入れることにより、脱揮・排気が行われている。また、特許文献1には、各ベントの上流側に注水部を設け、当該注水部から水を注水することも記載されている。
また、特開平7−164509号公報(特許文献2)には、重合体に対して水を供給する注水分散ゾーンと重合体中の揮発分を水と共に気化する脱揮ゾーンとを備えたシリンダを有する二軸スクリュ押出機が開示されている。更に、特許文献2は、重合体中の揮発分を水と共に効率良く気化するために、注水分散ゾーンと脱揮ゾーンとの間に、減圧膨張ゾーンを設けることを提案している。減圧膨張ゾーンを設けることにより、当該減圧膨張ゾーンにおいて、溶融された重合体中に分散された水の気泡が成長し、減圧膨張ゾーンの下流端部において気泡を崩壊させて、脱揮ゾーンに供給することができる。したがって、特許文献2の構成では、溶融された重合体から揮発分を効率良く除去することができる。
更に、特開平8−207118号公報(特許文献3)には、熱可塑性樹脂から揮発性物質を除去するベント式二軸押出機の揮発性物質除去方法が提案されている。提案された二軸押出機の揮発性物質除去方法は、熱可塑性樹脂に対する水等の液状脱揮助剤の圧入位置を選択し、当該熱可塑性樹脂圧力を液状脱揮助剤の飽和圧力以上に保持した状態で、熱可塑性樹脂中に液状脱揮助剤を混練・分散させた後、大気圧以下の圧力に減圧することにより液状脱揮助剤と共に揮発性物質を気化させ、シリンダ外へ排気している。この除去方法によれば、圧入位置における液状脱揮助剤は飽和蒸気圧以上の圧力に維持されているため、液状脱揮助剤は気化されることなく、溶融重合体中に微細な粒子となって分散される。この結果、液状脱揮助剤の粒子の総面積が著しく増大し、揮発性物質の液状脱揮助剤への移動が促進される。この状態で、大気圧以下の圧力に減圧されると、液状脱揮助剤と共に揮発性物質は急速に気化してシリンダ外に排気される。
また、特許文献3には、前述した除去方法を実現する二軸押出機として、大気圧以下の圧力に減圧するベント口の上流に、液状脱揮助剤を圧入する圧入口を設けると共に、圧入口とベント口の上流側との間に、ミキシングエレメント及び抵抗体を備えた押出機が開示されている。
次に、特開2000−309019号公報(特許文献4)には、樹脂原料を脱揮処理するために、ベント部の上流に塞き止め部を設ける一方、当該塞き止め部の上流に混練部を設けた構成の脱揮混練押出機が開示されている。更に、特許文献4は、混練部に液状脱揮助剤注入ノズルを設け、混練部に滞留する樹脂原料の圧力を脱揮助剤の蒸気圧以上に高くすることにより、樹脂原料の圧力を高くして高効率の脱揮を実現できることを明らかにしている。
【発明の開示】
前述したように、特許文献1は下流側のベントの排気を上流側に引き入れて脱揮・排気を行う押出機を開示し、特許文献2は注水分散ゾーンと脱揮ゾーンとの間に、減圧膨張ゾーンを設けた押出機を開示している。更に、特許文献3は圧入口とベント口の間にミキシングエレメント及び抵抗体を設けた押出機、更に、特許文献4は塞き止め部の上流に混練部を設けた押出機をそれぞれ開示している。
このことからも明らかな通り、特許文献1〜4には、押出機自体の構造、或は、押出機のシリンダの排気系における構造を改良し、これによって、重合体中の揮発成分を除去することが記述されている。
しかしながら、特許文献1〜4に記載されたような押出機自体の構造、或は、押出機のシリンダの排気系における構造を改良しただけでは、重合体に劣化分解物が混入したり、汚染物質が混入するのを防止することができないことが判明した。即ち、特許文献1〜4は重合体に内在する揮発成分を除去することのみを企図し、重合体に外部等から加わる汚染物質の排除については全く考慮していない。
本発明は、押出機に外部から加わる汚染物質および押出機自体において発生し重合体に混入する劣化分解物等の汚染物質の存在を究明し、これらの混入を抑え、高純度重合体を製造できる製造装置及び方法を企図している。即ち、本発明は、(1)溶融した重合体が部材表面に接触して生じる劣化分解物、(2)注入する水に含まれる汚染物質および(3)排気系における表面汚染物質の逆流によって、重合体に劣化分解物或は汚染物質が混入すると云う事実を見出し、この知見に基づいて、汚染物質等の発生、混入を防止する手法を提案するものである。
本発明者等の研究によれば、分子量1000以下の重合体低分子量成分は、加熱溶融された重合体と通常使用されるNi,Fe,Cr等の装置部材との接触面において、Ni,Fe,Cr等の有する触媒作用のために溶融重合体が分解する反応によって生成されることが見出された。また、注入する水の中に含まれる有機物質や金属、ハロゲン、イオン等の汚染物質が溶融重合体に混入することも見出された。さらに、除去された低分子量成分が排気系に残留し、排気ポンプの油成分や、ガスケット、フランジ等のゴムの揮発分と共に逆拡散により再混入することも見出され、これらの汚染物質は前述した特許文献1〜4に記載された押出機では抑止、除去することが困難であることが判明した。
したがって、本発明の目的は、劣化分解物の発生に由来する重合体の汚染、注入水からの汚染および排気系からの汚染の少なくとも一つを低減し、これによって、高純度の重合体を得ることができる重合体製造装置を提供することである。
本発明の他の目的は重合体精製時における重合体の汚染を防止した高純度の重合体を製造する方法を提供することである。
本発明の更に他の目的は分子量1000以下、特に、分子量200〜400の重合体による悪影響を軽減し高純度の重合体を得ることができる重合体製造装置を提供することである。
本願の請求項1の発明によれば、溶媒を注入する注入口と、排気を行うベント開口部とを備え、前記注入口から溶融重合体中に、溶媒を注入する一方、前記ベント開口部より排気する構成を有し、前記溶融重合体が接触する部材(スクリュー、シリンダー等)表面、ベント開口部、排気部の配管内面、及び、排気用ポンプ部材の接ガス表面のうちの少なくとも一つの少なくとも一部が酸化膜によって被覆されていることを特徴とする重合体製造装置が得られる。
具体的に説明すると、請求項1の発明によれば、装置部材の重合体と接触する面を酸化不動態処理することにより酸化膜によって被覆し、重合体劣化による低分子量成分の発生が防止できる。酸化不動態処理は好ましくは酸化クロム不動態処理又は酸化アルミニウム不動態処理である。また、酸化不動態処理によって、得られる酸化膜としては、不動体金属酸化膜が好ましく、アルミニウムまたはクロムの少なくとも1つを含む金属酸化膜であることが特に好ましい。このように、装置内面を酸化不動態処理することによって、重合体の劣化による有機物の発生、即ち、アウトガス成分の発生を少なくすることができる。さらに、酸化処理される装置内面として、排気配管接ガス内面、ポンプ接ガス内面も酸化処理されることが望ましい。これは、除去した低分子量成分等の排気ガスの配管への付着が低減され、重合体への再混入による汚染量を減少させることができるからである。
装置の溶融重合体との接触面や接ガス面を酸化アルミニウム不動態膜や酸化クロム不動態膜で被覆すると、これらの膜の触媒作用が極めて弱いことから高温における重合体の変質や熱分解、ガスの分解を抑制できるため高温における処理に適している。とくに、重合体は高温にするほど粘度が下がり処理量が増加するので高温処理が好ましいが、逆に熱分解による劣化が生じるという問題がある。これに対して上記の不動態膜表面では熱分解発生温度がNi等に比べて大幅に高いので熱分解をおさえた高温処理が可能になる。
本願の請求項6の発明では、溶媒を注入する注入口と、排気を行うベント開口部とを備え、前記注入口から溶融重合体中に、溶媒を注入する一方、前記ベント開口部より排気する構成を有し、前記注入口、ベント開口部、排気部を含む部分の接合部のフランジ用ガスケットが金属、セラミック、及びパーフロロフッ素系ゴムのいずれかによって構成されていることを特徴とする重合体製造装置が得られる。
従来のゴム製のフランジ、ガスケットを使用した場合、高温によってゴムから有機物が放出され重合体を汚染する。本発明によれば、日常の開閉が少ないフランジ、ガスケットには金属またはセラミックを使い、開閉を頻繁に行うフランジ、ガスケットについてはパーフロロフッ素系の特殊ゴム(低分子量成分が少ない)を用いることによってガスケットからの有機物汚染を防止することができる。
また、本発明では、排気部上流から少量の不活性ガスを流し、逆拡散を防止することによって、排気部からの汚染逆拡散、即ち、ポンプで使用されているオイル成分や外気や、一度除去された低分子量成分が逆流して重合体を汚染するのを減少させることができる。
さらにまた、溶媒として、有機物のTOC(total organic carbon)濃度が1ppb以下の超純水を溶融した重合体に注入することにより、注入水からの有機物汚染を抑制することができる。水中に溶け込んでいる酸素が、重合体酸化劣化を引き起こし、アウトガスの原因となる低分子量重合体劣化物を生成させる原因となる。よって、注入する超純水は、溶存酸素が除去された水を使用することが好ましい。水中の溶存酸素を除去した水としては窒素等の不活性ガスで水中の溶存酸素を置換した不活性ガス置換水、減圧することによって溶存酸素を脱気した脱気水、または、水中に微量の水素を溶解させ溶存酸素を還元させた水素水を用いることができる。不活性ガス置換水は、水中に不活性ガスをバブリングするバブリング法や、水を不活性ガス中にて圧力を変動させる圧力スイング法(回分圧力変動法)などによって得られる。脱気水は、脱気膜を使用し、脱気膜の水と接触していない側を減圧にすることで、水中の溶存酸素を除去することにより得られる。水素水は、超純水中に微量の水素を溶解させることによって得られ、溶解させる水素濃度は通常2ppmである。
本発明によれば、水等の溶媒を注入できると共に排気設備をも備えた重合体成型装置が得られる。この装置にも本発明の上記特徴の少なくとも一つまたは全部が適用される。重合体成型装置とは、通常、スクリューによってシリンダー内で重合体が溶融され、成型することが出来る装置のことであり、実施例記載の溶融重合体を押出し、フィルム、シート、チューブ、繊維、あるいは、ペレット等を作製するための押出成型装置、溶融重合体を射出して金型に流し込み成型品を作製する射出成型装置、溶融重合体を押出しながら、空気等の気体によって重合体を膨らませ、袋やボトル等を成型するブロー成型装置等がある。ブロー成型装置の中でも、ペットボトルやシャンプー用ボトルによく使用される射出ブロー成型の場合は、パリソン(ブロー成型の前駆体)の成型に使用する射出成型装置のことである。本発明の重合体成型装置によれば、注水によりアウトガス成分を除外した溶融重合体をペレットに固化させ、大気に開放することなく連続で成形可能な為、ペレット保管によって付着する汚染を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明に係る重合体製造装置を説明する軸方向断面図である(実施例1)。
図2は、図1に示された重合体製造装置の横方向断面図である。
図3は、本発明に係る重合体製造装置によるアウトガス除去効果を示すグラフである。
図4は、本発明に係る重合体製造装置に使用される排気系を説明するブロック図である(実施例2)。
図5は、本発明に係る重合体製造装置を構成する射出成形機を示す図である(実施例3)。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態に係る重合体製造装置を説明する。
図1及び図2を参照すると、本発明に係る重合体製造装置として、二軸押出機が示されている。図1に示すように、二軸押出機は図1の左右方向(即ち、軸方向)に伸びるシリンダー10と、当該シリンダー10内に配置され、シリンダー内で回転するスクリュー11とを備えている。図2からも明らかな通り、シリンダー10は軸方向に並行に伸びるシリンダー空間を規定しており、各シリンダー空間にはそれぞれスクリュー11が設けられている。図示されたスクリュー11は44mmの直径と、2310mmの長さを有している。
図1に示された二軸押出機は左端に設けられたホッパー12と、右端に設けられたダイ接続部13とを有し、シリンダー10は、ホッパー12とダイ接続部13との間において、15のシリンダーユニットC1〜C15に区分されている。この構成では、ホッパー12に原料重合体として投入されたプラスチックペレットはシリンダー10内で加熱溶融され、この状態で、スクリュー11が回転すると、混練されて、シリンダーユニットC1からC15の方向に送られる。溶融、混練された重合体はダイ接続部13から別に設けられたダイに押出され、ペレット状、フィルム状、シート状、チューブ状、あるいは、繊維状に成形された製品がダイから取出される。
ここで、図示された二軸押出機のシリンダーユニットC7、C10、及び、C13には、超純水を溶媒(脱揮補助剤)としてシリンダー10内に導入する注入口15a、15b、及び、15cが設けられており、各注入口15a、15b、及び、15cには、貯水槽(図示せず)から配管を通して、超純水が供給されている。ここで、超純水とは有機物のTOC濃度が1ppb以下の水である。このように、超純水を使用することにより、溶媒自身による重合体の汚染を防止することができる。
更に、シリンダーユニットC8、C11、及び、C14には、ベント開口部16a、16b、及び、16cが設けられており、ベント開口部16a、16b、及び、16cはそれぞれ配管17a、17b、及び、17cに接続されると共に、各配管の他端に設けられた配管フランジ18a、18b、18c、及び、他の配管19を介してポンプ20を含む排気系30に接続されている。ここで、ベント開口部16a〜16cに接続された配管17a〜17c、配管フランジ18a〜18c、及び他の配管19は排気部を構成している。
図示された例では、注水口15aと、当該注水口15aに対してダイ接続部13側に隣接して配置されたベント開口部16aとが対を構成しており、同様に、注水口15bとベント開口部16b、及び、注水口15cとベント開口部16cとがそれぞれ対を構成している。
次に、本発明では、前述したように、溶媒として超純水を使用するだけでなく、装置自体の汚染による重合体への悪影響を最小限に留めるために、溶融した重合体と接触する部材の少なくとも一部が酸化膜によって被覆されている。具体的に云えば、図示された例では、シリンダー10の内面及びスクリュー11の表面に、太線或いは黒色部分で示すように、酸化処理によって不動態膜22及び24がそれぞれ形成されている。この例では、不動態処理として金属の酸化処理が行われており、酸化処理される金属としては、クロム或いはアルミニウムが考えられるが、アルミニウムを使用するのが好ましい。
ここでは、アルミニウムを酸化処理して、酸化アルミニウム膜を不動態膜22及び24として使用する場合について説明する。不動態膜22及び24として作用する酸化アルミニウム膜を形成する方法としては、例えば、特開平11−302824号公報に記載されている方法を使用することができる。この方法を使用して酸化アルミニウム不動態膜を形成する場合、アルミニウムを3〜7重量%含有するステンレス鋼等によって形成されたシリンダー10及びスクリュー11を用意する。これらシリンダー10の内面及びスクリュー11の表面に、酸化性ガスを接触させて所定のコントロールされた熱処理を行う。これによって、酸化アルミニウムの不動態膜22及び24をシリンダー10の内面及びスクリュー11の表面形成することができる。より詳細には、酸化性ガスとして、500ppb〜100ppmの酸素濃度を有するガスを使用し、700〜1200□の温度で、30分〜3時間程度、アルミニウムを3〜7重量%含む金属部材を熱処理することによって、これら金属部材に所望の酸化アルミニウム膜を形成できる。
更に、図1に示された例では、シリンダー10、スクリュー11だけでなく、ホッパー12の内面、ベント開口部16a〜16cからポンプ20に至る排気用配管17a〜17c及び配管19の内面、及び、ポンプ20の内面に同様な不動態膜(図示せず)が形成されている。即ち、排気部の配管内面は不動態膜によって被覆されている。
また、配管用フランジ18a〜18c及びその内部に設けられるガスケットを特殊なパーフロロフッ素ゴム、例えば、テトラフルオロエチレンーパーフルオロビニルエーテル系(FFKM)のフッ素ゴムによって構成している。このように、パーフロロフッ素ゴムを使用することにより、ゴムに起因した重合体の有機物汚染をなくすことができる。また、配管用フランジ及びガスケットはセラミック或は金属によって構成されても良い。
以下、上記構成の二軸押出機の動作について説明する。ホッパー12からシリンダーユニットC1に供給された重合体は加熱されて溶融し、スクリュー11の回転により混練されて、シリンダー10内をダイ接続部13の方向に移動して行く。混練中、シリンダーユニットC7において、溶融した重合体に超純水が注入口15aから注入されると、超純水は重合体と混練されると共に気化され、微細な気泡となって重合体中に分散する。この際、重合体に含まれているアウトガス成分は気泡中に移行し、ベント開口部16aに向かう。シリンダーユニットC8のベント開口部16aは配管17aを介してポンプ20に接続され、当該ポンプ20によって排気されているから、シリンダーユニットC7からのアウトガス成分を含む気泡はシリンダーユニットC8のベント開口部16aを通してポンプ20により外部に排出される。同様な動作がシリンダーユニットC10の注入口15bとシリンダーユニットC11のベント開口部16bとの間、及び、シリンダーユニットC13の注入口15cとシリンダーユニットC14のベント開口部16cとの間においても行われる。この結果、アウトガス成分の少ない重合体製品を押出成形することができる。
【実施例1】
次に、本発明に係る重合体製造装置を構成する図1及び図2の二軸押出機を用いて、重合体を実際に製造した場合の例を説明する。この例では、ホッパー12に供給される原料重合体として、アウトガス成分を比較的多く含み、鎖状重合体であるスチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS:ポリスチレンエチレン・ブチレンコポリマー)を使用して押出成形を行った。
図3に示されているように、ホッパー12に供給される前の原料重合体としてのSEBSのアウトガス量は211ppm(重量比)であった。尚、アウトガス量は100□で60分捕集して、GC−MS(Gas chromatography−mass spectroscopy)により分析した。
他方、図1のダイ接続部13から取出される重合体を同様な条件で分析した結果、図3に示すように、アウトガス量は3.5ppm(重量比)まで低下していることが判明した。このことからも明らかな通り、図示された二軸押出機を使用することにより、アウトガス量を原料重合体のアウトガス量の2%まで低下させることができた。
ポリスチレンエチレン・プロピレンコポリマーからなるジブロックコポリマー(SEP)或いはトリブロックコポリマー(SEPS)についても同様な結果が得られた。
一般に、10ppm以下(好ましくは、5ppm以下)のアウトガス量であれば、半導体装置製造の際等に問題は生じないから、図1に示された二軸押出機は、揮発成分を比較的多量に含む市販の重合体を半導体装置のパッケージ、メカニカルシール等に使用可能にしていることが分る。
通常、低アウトガスのプラスチック材料(重合体)として、シクロオレフィンポリマー(COP)が知られているが、当該COPのアウトガス量は図3に示すように、3.2ppm程度であり、本発明に係る重合体製造装置はCOPと同等程度まで、アウトガス量を低下させることができる。したがって、本発明では、従来COPしか使用できなかった部材等にも、市販の重合体を適用可能にする。
【実施例2】
実施例2に係る重合体製造装置は図1に示された排気系30を改善することにより、アウトガス成分を含む気泡等の逆流、逆拡散等による溶融重合体の汚染を防止することができる。図4を参照すると、図面の簡略化のために、排気系30だけが示されている。図示された排気系30はポンプ20として、ローター、ステーターを備えると共に、吸気口32及び排気口34を有する例えばターボ分子ポンプを有している。更に、排気口34には、補助ポンプ36が接続されている。このように、ターボ分子ポンプ20と補助ポンプ36だけによって排気を行った場合、補助ポンプ36側からの水分がターボ分子ポンプ20側に逆流することが判明した。
このため、図示された例では、ターボ分子ポンプ20の排気側上流から、マスコントローラ38を介して、不活性ガス、例えば、Nガスをガス導入部(図示せず)をターボ分子ポンプの排気側に導入している。この場合、Nガスの流量を排気されるガス(気泡)の流量の約10%とすることにより、水分を約10ppbまで低下させることができた。この理由は明確にはなっていないが、ターボ分子ポンプ20と補助ポンプ36の間に不活性ガスを導入することにより、ターボ分子ポンプ20の排気側と補助ポンプ36の間は、分子流領域から粘性流領域となってターボ分子ポンプ20で一旦真空室外に排気された水分子がそのまま粘性流の形で移動して、補助ポンプ36によって排気されるため、水分の逆拡散が起こり難くなるものと推定される。
また、このような構成を採用することにより、ポンプ20で使用されているオイル成分の重合体へ逆流することも防止でき、したがって、ポンプ20のオイル成分による重合体の汚染も防止可能である。尚、図示された例では、ポンプ20の排気側に不活性ガスを供給する場合について説明したが、図4の配管19側に不活性ガスを供給しても同様な効果が得られた。
【実施例3】
図5を参照すると、本発明の実施例3に係る重合体製造装置として、射出成形機が示されている。図示された射出成形機は加熱シリンダー40、ホッパー42、及び、スクリュー44を備えて、スクリュー44は加熱シリンダー40内で駆動部46により回転されると共に、図の左右方向に移動する。シリンダー40の先端に設けられたノズル48から、重合体としての溶融プラスチックは金型50に射出される。当該金型50はトグル機構52により開閉される。射出成形機の動作自体はよく知られているのでここでは詳述しない。
図示された射出成形機は図1に示された二軸押出機と同様に、溶融された重合体と接触する部材、例えば、加熱シリンダー40の内面、スクリュー44の表面、及び、ホッパー42の内面に、不動態処理により不動態酸化膜(太線或いは黒色部分で示されている)が形成されている。この場合における不動態酸化膜も、クロム或はアルミニウムのような金属酸化膜が好ましく、特に、酸化アルミニウム膜が形成されることが望ましい。酸化アルミニウム膜は、図1を参照して説明した手法により形成できるからここでは説明を省略する。
更に、図示された射出成形機には、加熱シリンダー40に超純水を注入する注入口55a、55b、55cを備えると共に、超純水を注入することによって気泡内に移行した成分を排気するベント開口部57a、57b、57cが設けられ、これらベント開口部57a、57b、57cは配管を介してポンプ20に連結されている。この例においてもポンプ20及び配管には前述した不動態処理が施されている。更に、ポンプ20を含む排気系を図4に示された構成することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
以上説明したように、本発明では、装置自身に起因する重合体の汚染を軽減することにより、アウトガス発生を最小限に抑制し高純度の重合体を得ることができる。更に、注入水として超純水を使用することによって注入水からの汚染を防止できる。また、ポンプによって排気されるガスの逆拡散を防止することにより、ガスの逆流による汚染をも防止できる。
このように、本発明では、装置の構造を改善することによって揮発性アウトガス量の極めて少ない重合体を製造できるため、半導体装置を形成するプラスチック部材だけでなく、住宅用建材、自動車、電気・電子、医療、バイオ等に使用される重合体を製造するためにも利用でき、その応用範囲は極めて広い。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒を注入する注入口と、排気を行うベント開口部とを備え、前記注入口から溶融重合体中に、溶媒を注入する一方、前記ベント開口部より排気する構成を有し、前記溶融重合体が接触する部材表面、ベント開口部、排気部の配管内面、及び、排気用ポンプ部材の接ガス表面のうちの少なくとも一つの少なくとも一部が酸化膜によって被覆されていることを特徴とする重合体製造装置。
【請求項2】
スクリューを備えた押出機である請求項1に記載の重合体製造装置。
【請求項3】
請求項1に記載された酸化膜が不動態金属酸化膜であることを特徴とする重合体製造装置。
【請求項4】
請求項3に記載された金属酸化膜に使用される金属が、アルミニウム及びクロムの少なくとも一つを含むことを特徴とする重合体製造装置。
【請求項5】
請求項1において、前記注入口、前記ベント開口部、前記排気部を含む部分の接合部のフランジ用ガスケットが金属、セラミック、及びパーフロロフッ素系ゴムのいずれかによって構成されていることを特徴とする重合体製造装置。
【請求項6】
溶媒を注入する注入口と、排気を行うベント開口部とを備え、前記注入口から溶融重合体中に、溶媒を注入する一方、前記ベント開口部より排気する構成を有し、前記注入口、ベント開口部、排気部を含む部分の接合部のフランジ用ガスケットが金属、セラミック、及びパーフロロフッ素系ゴムのいずれかによって構成されていることを特徴とする重合体製造装置。
【請求項7】
請求項1又は6において、前記溶媒は超純水であることを特徴とする重合体製造装置。
【請求項8】
請求項7において、前記超純水は不活性ガス置換水、脱気水、および水素水のいずれかであることを特徴とする重合体製造装置。
【請求項9】
請求項1又は6において、前記ベント開口部に連結された排気用ポンプを備え、当該排気用ポンプには、逆流防止用に不活性ガスが供給されていることを特徴とする重合体製造装置。
【請求項10】
溶融した重合体中に、注入口から溶媒を注入し、且つ、ベント開口部よりポンプにより排気しながら重合体を製造する製造装置の運転方法において、ポンプ上流もしくはポンプパージ部に、不活性ガスを流すことを特徴とする製造装置の運転方法。
【請求項11】
溶融した重合体中に、注入口から溶媒を注入し、かつ、ベント開口部より排気する製造装置において、注入する溶媒中に含まれる有機物のTOC濃度が1ppb以下であることを特徴とする重合体製造装置。
【請求項12】
溶融した重合体に水を注入し、排気しつつ混練する重合体の精製方法において、前記水は不活性ガス置換水、脱気水、および、水素水のいずれかであり、かつ、有機物のTOC濃度が1ppb以下であることを特徴とする重合体の精製方法。

【国際公開番号】WO2005/021227
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513495(P2005−513495)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012439
【国際出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000205041)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】