説明

重合性アビエチン酸誘導体

【課題】大きなHTPを有し、他の液晶材料との相溶性に優れ、経済的な方法で製造することができる、重合可能な光学活性化合物の提供。
【解決手段】R−P−X−(A−Z)m−Y[RはCH2=C(R1)−COO、CH2=CH等の重合性基(R1は水素又はメチル)を示し、Pは単結合又は炭素数1〜12のアルキレンを示し、Xは、単結合、O、S、COO、OCO、CON(R3)、N(R3)CO又はOCOOを示し(R3は水素又はメチル)、Aは芳香族環又は脂肪族環を示し、Zは単結合、COO、OCO又はCH2CH2を示し、mは0〜3の整数を示し、Yは式(3-1),(3-2)又は(3-3)で表される基を示す。]で表される化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアビエチン酸誘導体に関する。より詳しくは、カイラル剤として用いることができる光学活性化合物である重合可能なアビエチン酸誘導体、該アビエチン酸誘導体を含む液晶組成物、該組成物から得られる重合体、およびこれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
コレステリック液晶分子は、その液晶状態で螺旋構造を有する。そのため、コレステリック液晶を重合させて螺旋構造を固定し、光を照射すると、液晶分子の螺旋の回転方向の向きとピッチの長さに対応した特定の波長領域の円偏光の光を反射する。たとえば、可視光を照射した場合、液晶のピッチの長さに対応した青、緑、黄、赤の波長の光を選択的に反射する。これらの色調は、光の吸収により色を呈する顔料や染料とは異なり、また、見る角度により色調が変わる視角依存性を有する。さらに、コレステリック液晶のピッチの長さは、温度や化合物の種類により制御することができるため、可視光だけではなく、近赤外や紫外領域の光も選択的に反射することができる。
【0003】
こうしたコレステリック液晶の特性を利用して、広い波長域内でさまざまな波長の光を選択的に反射する材料が提供されている。例えば、液晶顔料、塗料、噴霧インク、印刷インク、化粧品、偽造防止用印刷物および装飾品などである。また、液晶表示素子やホログラフィー素子などの光学素子における偏光板、補償板、カラーフィルタなどの光学フィルムなどにも提案されている。既存の材料であるコレステリック液晶顔料については、フレーク状のコレステリック液晶ポリマーや、マイクロカプセル化されたコレステリック液晶が使用されている。これらの用途としては自動車用塗料や化粧料などがある。
【0004】
コレステリック液晶は、通常、ネマチック液晶に光学活性化合物(カイラル剤)を添加することにより調製できる。紫外線領域から可視光領域までの円偏光の光を反射させるためには、コレステリック液晶が非常にピッチの短い螺旋構造を呈する必要がある。そのためには、螺旋誘起力(HTP)が大きな光学活性化合物が求められる。HTPの小さな光学活性化合物を使用すると、その添加量を増やさなければならないため、他の物性、特にコレステリック液晶の出現温度範囲や選択反射波長範囲の調整が難しくなる。また、多くの場合、光学活性化合物は液晶性を示さないため、添加量を多くすると組成物の液晶性が消失し、目的とするコレステリック液晶相を得ることができない。
【0005】
また、HTPが大きな光学活性化合物であっても、複雑な構造を有すると合成が困難になるため、工業的なバルク仕様には不適切な非常に高価な材料となる場合もある。
Bull. Chem. Soc. Jpn., Vol. 80, No. 3, 589-593 (2007)(非特許文献1)には、ア
ビエチン酸誘導体をカイラル剤として用いることが記載されている。しかしながら、非特許文献1に記載のアビエチン酸誘導体は非重合性化合物であり、これまでに重合性のアビエチン酸誘導体は報告されていない。カイラル剤として、重合性の光学活性化合物を用いると、非重合性の光学活性化合物と比べて、液晶組成物重合体の硬度制御ができ、また成形体中からの光学活性化合物自体のしみ出しを防ぐことができる。
【非特許文献1】Bull. Chem. Soc. Jpn., Vol. 80, No. 3, 589-593 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、大きなHTPを有し、他の液晶材料との相溶性に優れ、コレステリック材料として要求される特性の調整が容易であり、かつ工業的なバルク仕様に適合した経済的な方法で製造することができる、重合可能な光学活性化合物を提供することである。
なお、液晶材料は、液晶化合物および液晶組成物を含む総称である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、上記課題を解決できる新規な重合性光学活性化合物を見出した。本発明の具体的な構成例を以下に示す。
[1] 下記式(1)で表される化合物。
【0008】
R−P−X−(A−Z)m−Y (1)
[式(1)中、
Rは、CH2=C(R1)−COO−、CH2=CH−または下記式(2−1)もしくは(
2−2)で表される基を示し、R1は水素またはメチルを示し、
Pは、単結合または炭素数1〜12のアルキレンを示し、該アルキレン中の任意の−CH2−は、−O−、−S−、−CH=CH−、−CO−、−COO−または−OCO−で置
き換えられてもよく、
Xは、単結合、−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−CON(R3)−、−N(
3)CO−または−OCOO−を示し、R3は水素またはメチルを示し、
Aは、独立して芳香族環または脂肪族環を示し、これらの環において、任意の水素は炭素数1〜3のアルキルで置き換えられてもよく、
Zは、独立して単結合、−COO−、−OCO−または−CH2CH2−を示し、
mは0〜3の整数を示し、
Yは、下記式(3−1)、(3−2)または(3−3)で表される基を示す。]
【0009】
【化1】

【0010】
[式(2−1)中、R2は水素、メチルまたはエチルを示す。]
【0011】
【化2】

【0012】
[2] 前記式(1)において、mが0であり、Pが炭素数2〜10のアルキレンであることを特徴とする項[1]に記載の化合物。
[3] 前記式(1)において、mが1であり、Aが下記式(4−1)、(4−2)または(4−3)で表される基であることを特徴とする項[1]に記載の化合物。
【0013】
【化3】

【0014】
[4] 前記式(1)において、P、ZおよびXが単結合であることを特徴とする項[3]に記載の化合物。
[5] 前記式(1)において、Pが炭素数2〜10のアルキレンであることを特徴とする項[3]に記載の化合物。
【0015】
[6] 前記式(1)において、−(A−Z)m−が下記式(5−1)〜(5−9)で
表される構造のいずれかであることを特徴とする項[1]に記載の化合物。
【0016】
【化4】

【0017】
[7] 前記式(1)において、PおよびXが単結合であることを特徴とする項[6]に記載の化合物。
[8] 前記式(1)において、Pが炭素数2〜10のアルキレンであることを特徴とする項[6]に記載の化合物。
【0018】
[9] 前記式(1)において、−(A−Z)m−が下記式(6−1)〜(6−8)で
表される構造のいずれかであることを特徴とする項[1]に記載の化合物。
【0019】
【化5】

【0020】
[10] 前記式(1)において、PおよびXが単結合であることを特徴とする項[9]に記載の化合物。
[11] 前記式(1)において、Pが炭素数2〜10のアルキレンであることを特徴とする項[9]に記載の化合物。
【0021】
[12] 前記式(1)において、R−P−X−が、CH2=CH−COO−またはC
2=C(CH3)−COO−であることを特徴とする項[1]に記載の化合物。
[13] 前記式(1)において、R−P−X−が、CH2=CH−CO−OCH2CH2OCH2CH2O−COO−またはCH2=CH−CO−OCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2O−COO−であることを特徴とする項[1]に記載の化合物。
【0022】
[14] 前記式(1)において、R−P−X−が、CH2=C(CH3)−CO−OCH2CH2OCH2CH2O−COO−またはCH2=C(CH3)−CO−OCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2O−COO−であることを特徴とする項[1]に記載の化合物。
【0023】
[15] 前記式(1)において、Yが前記式(3−1)で表される基であることを特徴とする項[1]〜[14]のいずれかに記載の化合物。
[16] 項[1]〜[15]のいずれかに記載の化合物と、液晶化合物とを含有することを特徴とする液晶組成物。
【0024】
[17] 前記液晶化合物として、少なくとも1種の重合性液晶化合物を含むことを特徴とする項[16]に記載の液晶組成物。
[18] 項[17]に記載の液晶組成物を重合させることによって得られる重合体。
【0025】
[19] コレステリック液晶相を呈することを特徴とする項[18]に記載の重合体。
[20] 液晶顔料、塗料、噴霧インク、印刷インク、化粧品、偽造防止用印刷物、装飾品および光学フィルムから選ばれる用途への、項[16]または[17]に記載の液晶組成物の使用。
【0026】
[21] 液晶顔料、塗料、噴霧インク、印刷インク、化粧品、偽造防止用印刷物、装飾品および光学フィルムから選ばれる用途への、項[18]または[19]に記載の重合体の使用。
【発明の効果】
【0027】
本発明の化合物は、高い重合反応性を有し、HTPが大きく、他の液晶材料との相溶性に優れ、コレステリック材料として要求される特性の調整が容易であり、かつ工業的なバルク仕様に適合した経済的な方法で製造することができるため、カイラル剤として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る化合物およびその用途について詳細に説明する。
なお、以下においては、式(1)で表される化合物を「化合物(1)」と称することがある。また、化学式において、1つの化合物が複数のAを有するとき、任意の2つのAは同一でも異なってもよい。この規則は、Z等の記号などにも適用される。
【0029】
〔化合物〕
本発明の化合物(1)は、上記式(1)に示すように、一方の末端に重合性基を有し、他方の末端に上記式(3−1)〜(3−3)のいずれかで表されるアビエチン酸残基を有することから、高い重合反応性、光学活性および良好な混和性等の特性を示す。
【0030】
上記式(1)において、Rは、CH2=C(R1)−COO−(R1は水素またはメチル
を示す。)、CH2=CH−または上記式(2−1)もしくは(2−2)で表される基を
示し、これらの中では、組成物中の他の成分との相溶性や溶媒への溶解性などが優れていることから、CH2=C(R1)−COO−およびCH2=CH−が好ましい。
【0031】
上記式(1)において、Pは、単結合または炭素数1〜12のアルキレンを示し、該アルキレン中の任意の−CH2−は−O−、−S−、−CH=CH−、−CO−、−COO
−または−OCO−で置き換えられてもよい。
【0032】
ここで、「アルキレン中の任意の−CH2−は−O−、−CH=CH−等で置き換えら
れてもよい」の句の意味を一例で示す。−C48−において任意の−CH2−が−O−ま
たは−CH=CH−で置き換えられた基は、たとえば、−C36O−、−CH2−O−(
CH22−、−CH2−O−CH2−O−、−HC=CH−(CH23−、−CH2−CH
=CH−(CH22−、−CH2−CH=CH−CH2−O−等である。このように「任意の」という語は、「区別なく選択された少なくとも1つの」を意味する。なお、化合物の安定性を考慮すれば、酸素と酸素とが隣接した−CH2−O−O−CH2−よりも、酸素と酸素とが隣接しない−CH2−O−CH2−O−の方が好ましい。
【0033】
上記式(1)において、Xは、単結合、−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−CON(R3)−、−N(R3)CO−または−OCOO−を示し(R3は水素またはメチ
ルを示す。)、これらの中では、単結合および−COO−が好ましい。
【0034】
上記式(1)において、R−P−X−で表される部位の好ましい例としては、
(i)CH2=CH−COO−またはCH2=C(CH3)−COO−、
(ii)CH2=CH−CO−OCH2CH2OCH2CH2O−COO−またはCH2=CH−CO−OCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2O−COO−、
(iii)CH2=C(CH3)−CO−OCH2CH2OCH2CH2O−COO−またはCH2=C(CH3)−CO−OCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2O−COO−
などが挙げられる。R−P−X−で表される部位が、上記(i)〜(iii)であることにより、他の成分との相溶性を向上させるとともに、HTPを出現させるのに効果的である。
【0035】
上記式(1)において、Aは、独立して芳香族環または脂肪族環を示し、これらの環において、任意の水素は炭素数1〜3のアルキルで置き換えられてもよい。このようなAとしては、たとえば、1,4−シクロへキシレン、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン、ナフタレン−2,6−ジイルなどが挙げられる。これらの中では、HTPを出現させるのに効果的な構造であることから、上記式(4−1)、(4−2)または(4−3)で表される基が好ましい。
【0036】
上記式(1)において、Zは、独立して単結合、−COO−、−OCO−または−CH2CH2−を示し、これらの中では、単結合、−COO−および−OCO−が好ましい。
上記式(1)において、mは0〜3の整数を示す。
【0037】
m=0の場合、Pは炭素数1〜12のアルキレンであることが好ましく、炭素数2〜10のアルキレンであることがより好ましく、炭素数4〜10のアルキレンであることが特に好ましい。
【0038】
m=1の場合、Aは上記式(4−1)〜(4−3)で表される基のいずれかであることが好ましい。この場合、P、ZおよびXが単結合であるか、あるいは、Pが炭素数2〜10のアルキレンであることがより好ましい。なお、Pの炭素数は4〜10であることが、さらに好ましい。
【0039】
m=2の場合、−(A−Z)m−で表される部位が、上記式(5−1)〜(5−9)で
表される構造のいずれかであることが好ましい。この場合、PおよびXが単結合であるか、あるいは、Pが炭素数5〜12のアルキレンであることがより好ましい。なお、Pの炭素数は4〜10であることが、さらに好ましい。
【0040】
m=3の場合、−(A−Z)m−で表される部位が、上記式(6−1)〜(6−8)で
表される構造のいずれかであることが好ましい。この場合、PおよびXが単結合であるか、あるいは、Pが炭素数2〜10のアルキレンであることがより好ましい。なお、Pの炭素数は4〜10であることが、さらに好ましい。
【0041】
上記式(1)において、Yは上記式(3−1)、(3−2)または(3−3)で表されるアビエチン酸残基を示し、これらの中では、式(3−1)で表される基であることが好ましい。
【0042】
本発明の化合物(1)の合成方法の例を以下に説明する。
(i)上記式(1)において、m=0であり、Pが炭素数1〜12のアルキレンである
化合物(1)は、以下の合成スキームに従って合成することができる。
【0043】
【化6】

【0044】
上記スキームに示すように、まず、デヒドロアビエチン酸[a]を塩素化してカルボン酸クロライド[b]を得る。次に、カルボン酸クロライド[b]と2−ヒドロキシエチルアクリレート[c]とをエステル化反応させることで化合物[d]を合成できる。なお、デヒドロアビエチン酸[a]の代わりにアビエチン酸またはジヒドロアビエチン酸を用いることにより、上記式(3−2)または(3−3)で表される基を有する化合物(1)を合成することができる。また、2−ヒドロキシエチルアクリレート[c]の代わりに4−ヒドロキブチルアクリレートなどを用いることができる。
【0045】
(ii)上記式(1)において、m=1であり、Aが上記式(4−1)、(4−2)または(4−3)で表される基である化合物(1)、あるいはm=2であり、−(A−Z)m
−で表される部位が上記式(5−5)で表される構造である化合物(1)は、以下の合成スキームに従って合成することができる。
【0046】
【化7】

【0047】
上記(i)の方法と同様にして得られたデヒドロアビエチン酸クロライド[b]とヒド
ロキノン[e]とをエステル化反応させて化合物[f]を得る。次いで、化合物[f]と(メタ)アクリル酸クロライド[g]とのエステル化反応により化合物[h]を得ることができる。なお、ヒドロキノン[e]の代わりにレゾルシノール、2,6−ナフタレンジオールまたは4−4’ビフェノールを用いることができる。また、(メタ)アクリル酸ク
ロライド[g]の代わりに、エチレングリコールモノアクリレートクロロホルメート、4-アクリロイルオキシブチルクロロホルメート、ジエチレングリコールアクリレートクロ
ロホルメートまたはトリエチレングリコールアクリレートクロロホルメートなどを用いることができる。
【0048】
(iii)上記式(1)において、m=2であり、−(A−Z)m−で表される部位が上記式(5−1)〜(5−9)で表される構造のいずれかである化合物(1)、あるいはm=3であり、−(A−Z)m−で表される部位が上記式(6−1)〜(6−8)で表される
構造のいずれかである化合物(1)は、以下の合成スキームに従って合成することができる。
【0049】
【化8】

【0050】
まず、上記(ii)の方法と同様にして得られた化合物[f]と化合物[i]とをエステル化反応させることによってアビエチン酸誘導体エステル化合物を合成する。エステル化
反応にはジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)などの縮合剤を好適に用いることができる。なお、上記スキーム中のDMAPはN,N−ジメチル−4−アミノピリジンの略語である。次に、アルカリ条件下でアセトキシ基の脱保護を行い化合物[j]を得る。さらに、化合物[j]と(メタ)アクリル酸クロライド[g]とのエステル化反応により化合物[k]を得ることができる。
【0051】
なお、化合物[f]を合成する際には、上述したようにレゾルシノール、2,6−ナフタレンジオールまたは4−4’ビフェノールを用いることもできる。また、化合物[i]の代わりに、一方のヒドロキシ基がアセトキシ基などの保護基で保護されたレゾルシノール、2,6−ナフタレンジオールまたは4−4’ビフェノールなどを用いることができる。また、上述したように、(メタ)アクリル酸クロライド[g]の代わりに、エチレングリコールモノアクリレートクロロホルメート、4-アクリロイルオキシブチルクロロホル
メート、ジエチレングリコールアクリレートクロロホルメートまたはトリエチレングリコールアクリレートクロロホルメートなどを用いることができる。
【0052】
上記のような方法で合成される化合物(1)の具体例を以下に示す。なお、上記のようにして合成された化合物(1)の構造は、たとえば、プロトンNMRスペクトルなどにより確認することができる。
【0053】
【化9】

【0054】
【化10】

【0055】
【化11】

【0056】
【化12】

【0057】
【化13】

【0058】
【化14】

【0059】
【化15】

【0060】
【化16】

【0061】
【化17】

【0062】
【化18】

【0063】
【化19】

【0064】
【化20】

【0065】
【化21】

【0066】
【化22】

【0067】
【化23】

【0068】
〔液晶組成物〕
本発明の液晶組成物は、上述した本発明の化合物(1)と液晶化合物とを含有する。化合物(1)は1種単独であっても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、液晶化合物も同様に、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、液晶化合物は非重合性であっても、重合性であってもよいが、少なくとも1種は重合性の液晶化合物であることが好ましい。
【0069】
上記非重合性の液晶化合物としては、たとえば、液晶性化合物のデータベースであるリクリスト(LiqCryst, LCI Publisher GmbH, Hamburg, Germany)等に記載されている。
上記重合性の液晶化合物としては、たとえば、下記式(M1a)、(M1b)、(M1c)、(M2a)、(M2b)および(M2c)で表される化合物などが挙げられる。
【0070】
【化24】

【0071】
式(M1a)〜(M2c)において、
1は、独立して下記式(P1)〜(P8)のいずれかで表される基であり;
1は、独立して水素、フッ素、塩素、−CNまたは炭素数1〜20のアルキルであり、
該アルキルにおいて、任意の−CH2−は、−O−、−COO−または−OCO−で置き
換えられてもよく、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
環A3は、独立して1,4−シクロへキシレンまたは1,4−フェニレンであり;
1は、独立して水素、ハロゲン、炭素数1〜3のアルキルまたは炭素数1〜3のハロゲ
ン化アルキルであり;
1は、独立して単結合または炭素数1〜20のアルキレンであり、該アルキレン中の任
意の−CH2−は、−O−、−COO−または−OCO−で置き換えられてもよく;
1は独立して−COO−、−OCO−、−CH2CH2−、−CH2O−、−OCH2−、
−CH2CH2COO−、−OCOCH2CH2−、−CH=CHCOO−または−OCOCH=CH−であり;
pおよびqは独立して0または1であり、nは0から10の整数である。
【0072】
【化25】

【0073】
式(P1)〜(P8)中、Wは、水素、ハロゲン、炭素数1〜3のアルキルまたは炭素数1〜3のハロゲン化アルキルである。
本発明の液晶組成物は、室温付近(10〜40℃程度)で広いコレステリック液晶相域を有し、各構成成分の組成比や組成物を重合する際の温度を変えることで、コレステリック相が反射する光の波長領域を制御することができ、所望の色や目的に応じた波長の光を反射する重合体の形成が可能である。
【0074】
本発明の液晶組成物において、上記化合物(1)と上記液晶化合物との合計100重量%に対して、上記化合物(1)は、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは5〜25重量%の量で含まれる。化合物(1)の含有量が前記範囲であることにより、液晶組成物の選択波長域を必要に応じて制御することができる。
【0075】
本発明の液晶組成物は、上記化合物(1)および液晶化合物以外にも、たとえば、非液晶性の重合性化合物、溶媒、重合開始剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、フィラー、増感剤などを、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに含有してもよい。また、組成物の特性を最適化するために、本発明の液晶組成物に化合物(1)以外の光学活性化合物を添加してもよい。
【0076】
〔重合体〕
本発明の重合体は、上述した本発明の液晶組成物を重合させることによって得られ、重合により組成物のコレステリック液晶相(螺旋構造)が固定化され、所望の色や目的に応じた波長の光を反射する。組成物の重合反応は、加熱による熱重合でもよく、光照射による光重合でもよく、両者を組み合わせた方法で行ってもよい。
【0077】
光重合に用いられる好ましい光の種類は、紫外線、可視光線、赤外線などであり、電子線、X線などの電磁波を用いてもよい。通常は、紫外線または可視光線が用いられる。波長の範囲は好ましくは150〜500nm、より好ましくは250〜450nm、特に好ましくは300〜400nmである。光源としては、低圧水銀ランプ(殺菌ランプ、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト)、高圧放電ランプ(高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)、ショートアーク放電ランプ(超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ)などが挙げられ、超高圧水銀ランプが好ましい。
【0078】
光源からの光はそのまま組成物に照射してもよく、フィルターによって選択した特定の波長(または特定の波長領域)を組成物に照射してもよい。照射エネルギー密度は好ましくは2〜5000mJ/cm2、より好ましくは10〜3000mJ/cm2、特に好ましくは100〜2000mJ/cm2の範囲である。照度は好ましくは0.1〜5000m
W/cm2、より好ましくは1〜2000mW/cm2の範囲である。
【0079】
重合体の形状は、特に限定されず、膜状(フィルム状)であっても、板状などであってもよく、また、重合体は成形されてもよい。フィルムは、本発明の液晶組成物を基板に塗布し、重合させる方法などによって得られる。
【0080】
〔用途〕
本発明の液晶組成物および重合体の用途としては、色材一般、たとえば、液晶顔料、塗料、噴霧インク、印刷インクなどが挙げられる。また、化粧品、偽造防止用印刷物、装飾品および光学フィルムなどに使用することもできる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、化合物の構造は核磁気共鳴スペクトルで確認した。
〔実施例1〕
(第1段階)
デヒドロアビエチン酸(15g)と塩化チオニル(30mL)とを混合し、少量のDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)を滴下した後、還流させながら2時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応混合物にトルエン溶媒を加え、塩化チオニルおよびトルエン溶媒を減圧除去した。溶媒除去後の残留物(茶褐色液体)にTHF(テトラヒドロフラン、100mL)と約2等量のヒドロキノン(11g)とを加え、次にトリエチルアミン(7mL)
を滴下した後、室温下で8時間撹拌した。反応終了後、THFを一部留去し、酢酸エチル(300mL)および水(100mL)を加え、酢酸エチル層を分液した。この酢酸エチル層を、塩酸水、飽和炭酸水素ナトリウムおよび水を順次用いて十分に洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この有機層から減圧下で溶剤を除去し、得られた残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶出液:トルエン/酢酸エチル=10/1(V/V))によって精製して黄褐色固形物の4−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルを得た。
【0082】
(第2段階)
得られた4−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステル(1.8g)、アクリル酸クロライド(1g)、トリエチルアミン(0.7mL)およびTHF(50mL)を混合し、室温で5時間攪拌した。反応終了後、THFを一部留去し、酢酸エチル(300mL)および水(100mL)を加え、酢酸エチル層を分液した。この酢酸エチル層を、塩酸水、飽和炭酸水素ナトリウムおよび水を順次用いて十分に洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この有機層から減圧下で溶剤を除去し、得られた残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶出液:トルエン/酢酸エチル=10/1(V/V))によって精製し、目的の黄褐色固形物を得た。得られた化合物の構造を表1に示す。
【0083】
〔実施例2〕
(第1段階)
実施例1の第1段階と同様にして、黄褐色固形物の4−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルを得た。
【0084】
(第2段階)
アクリル酸クロライドの代わりにエチレングリコールモノアクリレートクロロホルメートを用いたこと以外は、実施例1の第2段階と同様にして、目的の黄褐色固形物を得た。得られた化合物の構造を表1に示す。
【0085】
〔実施例3〕
(第1段階)
実施例1の第1段階と同様にして、黄褐色固形物の4−ヒドロキシフェニル デヒドロ
アビエチン酸エステルを得た。
【0086】
(第2段階)
アクリル酸クロライドの代わりに4-アクリロイルオキシブチルクロロホルメートを用
いたこと以外は、実施例1の第2段階と同様にして、目的の黄褐色固形物を得た。得られた化合物の構造を表1に示す。
【0087】
〔実施例4〕
(第1段階)
実施例1の第1段階と同様にして、黄褐色固形物の4−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルを得た。
【0088】
(第2段階)
得られた4−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステル(1.8g)、85%水酸化カリウム(3.3g)およびDMF(20mL)を混合し、30分間加熱撹拌した。その混合物を室温まで冷却した後、4−(p−トシルオキシ)ブチルアクリレート(2g)を添加した後、1時間加熱還流した。反応終了後、DMFを一部留去し、トルエン(100mL)および水(100mL)を加え、トルエン層を分液した。このトルエン層を、塩酸水、および水を順次用いて十分に洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この有機層から減圧下で溶剤を除去し、得られた残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶出液:トルエン/酢酸エチル=10/1(V/V))によって精製し、目的の黄褐色固形物を得た。得られた化合物の構造を表1に示す。
【0089】
〔実施例5〕
(第1段階)
実施例1の第1段階と同様にして、黄褐色固形物の4−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルを得た。
【0090】
(第2段階)
得られた4−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステル(1.8g)、4−アクリロイルオキシ安息香酸(1g)、DCC(1.2g)、DMAP(0.06g)および塩化メチレン(50mL)を混合し、室温で1時間攪拌した。析出した結晶を濾別除去し、濾液に水(50mL)を加え、塩化メチレン溶媒を分液した後、塩酸水、飽和炭酸水素ナトリウムおよび水を順次用いて十分に洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下で溶剤を除去し、得られた残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶出液:トルエン/酢酸エチル=10/1(V/V))によって精製して、目的の黄褐色固形物を得た。得られた化合物のNMR分析値を以下に示し、構造を表1に示す。
【0091】
1H−NMR(CDCl3):δ(ppm);1.23(d,6H)、1.27(s,3H)、1.41(s,3H)、1.48−1.97(m,7H)、2.34−2.45(m,2H)、2.83−2.96(m,3H)、6.06(dd,2H)、6.34(dd,2H)、6.63(dd,2H)6.90−8.24(m,11H)。
【0092】
〔実施例6〕
(第1段階)
実施例1の第1段階と同様にして、黄褐色固形物の4−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルを得た。
【0093】
(第2段階)
得られた4−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステル(1.8g)、4-
(6−アクリロイルヘキシルオキシ)安息香酸(1.3g)、DCC(1.2g)、DMAP(0.06g)および塩化メチレン(50mL)を混合し、室温で1時間攪拌した。析出した結晶を濾別除去し、濾液に水(50mL)を加え、塩化メチレン溶媒を分液した後、塩酸水、飽和炭酸水素ナトリウムおよび水を順次用いて十分に洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下で溶剤を除去し、得られた残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶出液:トルエン/酢酸エチル=10/1(V/V))によって精製して、黄褐色固形物を得た。得られた化合物の構造を表2に示す。
【0094】
〔実施例7〕
ヒドロキノンの代わりに2−ナフチル酸−6−ヒドロキシ−4−アクリロイルオキシブチルエステルを用いたこと以外は、実施例1の第1段階と同様にして、黄褐色固形物のデヒドロアビエチン酸エステルを得た。得られた化合物の構造を表2に示す。
【0095】
〔実施例8〕
実施例1の第1段階と同様にして、黄褐色固形物の4−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルを得た。
【0096】
(第2段階)
アクリル酸クロライドの代わりにジエチレングリコールアクリレートクロロホルメートを用いたこと以外は、実施例1の第2段階と同様にして、目的の黄褐色固形物を得た。得られた化合物の構造を表2に示す。
【0097】
〔実施例9〕
(第1段階)
実施例1の第1段階と同様にして、黄褐色固形物の4−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルを得た。
【0098】
(第2段階)
得られた4−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステル(1.8g)、4−アセトキシ安息香酸(0.9g)、DCC(1.2g)、DMAP(0.06g)および
塩化メチレン(50mL)を混合し、室温で1時間攪拌した。析出した結晶を濾別除去し、濾液に水(50mL)を加え、塩化メチレン溶媒を分液した後、塩酸水、飽和炭酸水素ナトリウムおよび水を順次用いて十分に洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下で溶剤を除去し、得られた残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶出液:トルエン/酢酸エチル=10/1(V/V))によって精製して、黄褐色固形物を得た。
【0099】
(第3段階)
この固形物にメタノール(20mL)を加えた後、室温で30%アンモニア水(2mL)を滴下した。室温で2時間撹拌した後、6N塩酸(30mL)を加えて反応混合物を中和し、酢酸エチル(200mL)で抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この有機層から減圧下で溶剤を除去した。
【0100】
(第4段階)
得られた残留物にTHF(50mL)、トリエチルアミン3mLおよびジエチレングリコールアクリレートクロロホルメート(1.0g)を加え、室温で5時間攪拌した。反応終了後、THFを一部留去し、酢酸エチル(300mL)と水(100mL)を加え、酢酸エチル層を分液した後、塩酸水、飽和炭酸水素ナトリウムおよび水を順次用いて十分に洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この有機層から減圧下で溶剤を除去し、得られた残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶出液:トルエン/酢酸エチル
=10/1(V/V))によって精製して、目的の黄褐色固形物を得た。得られた化合物の構造を表2に示す。
【0101】
〔実施例10〕
(第1段階)
ヒドロキノンの代わりにレゾルシノールを用いたこと以外は、実施例1の第1段階と同様にして、黄褐色固形物の3−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルを得た。
【0102】
(第2段階)
得られた3−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステル(1.8g)、アクリル酸クロライド(1g)、トリエチルアミン(0.7mL)およびTHF(50mL)を混合し、室温で5時間攪拌した。反応終了後、THFを一部留去し、酢酸エチル(300mL)および水(100mL)を加え、酢酸エチル層を分液した。この酢酸エチル層を、塩酸水、飽和炭酸水素ナトリウムおよび水を順次用いて十分に洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この有機層から減圧下で溶剤を除去し、得られた残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶出液:トルエン/酢酸エチル=10/1(V/V))によって精製し、目的の黄褐色固形物を得た。得られた化合物の構造を表2に示す。
【0103】
〔実施例11〕
(第1段階)
実施例10の第1段階と同様にして、黄褐色固形物の3−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルを得た。
【0104】
(第2段階)
アクリル酸クロライド(1g)の代わりにエチレングリコールモノアクリレートクロロホルメートを用いたこと以外は、実施例10の第2段階と同様にして、目的の黄褐色固形物を得た。得られた化合物の構造を表3に示す。
【0105】
〔実施例12〕
(第1段階)
実施例10の第1段階と同様にして、黄褐色固形物の3−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルを得た。
【0106】
(第2段階)
アクリル酸クロライドの代わりに4−アクリロイルオキシブチルクロロホルメートを用いたこと以外は、実施例10の第2段階と同様にして、目的の黄褐色固形物を得た。得られた化合物の構造を表3に示す。
【0107】
〔実施例13〕
(第1段階)
実施例10の第1段階と同様にして、黄褐色固形物の3−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルを得た。
【0108】
(第2段階)
アクリル酸クロライドの代わりに4−アクリロイルオキシ安息香酸を用いたこと以外は、実施例10の第2段階と同様にして、目的の黄褐色固形物を得た。得られた化合物のNMR分析値を以下に示し、構造を表3に示す。
【0109】
1H−NMR(CDCl3):δ(ppm);1.23(d,6H)、1.27(s,3
H)、1.41(s,3H)、1.48−1.97(m,7H)、2.34−2.45(m,2H)、2.83−2.96(m,3H)、6.06(dd,2H)、6.34(dd,2H)、6.63(dd,2H)7.00−8.22(m,11H)。
【0110】
〔実施例14〕
(第1段階)
実施例10の第1段階と同様にして、黄褐色固形物の3−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルを得た。
【0111】
(第2段階)
アクリル酸クロライドの代わりに4−(6−アクリロイルヘキシルオキシ)安息香酸を用いたこと以外は、実施例10の第2段階と同様にして、目的の黄褐色固形物を得た。得られた化合物の構造を表3に示す。
【0112】
〔実施例15〕
(第1段階)
実施例10の第1段階と同様にして、黄褐色固形物の3−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルを得た。
【0113】
(第2段階〜第4段階)
4−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルの代わりに得られた3−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルを用いたこと以外は、実施例9の第2段階〜第3段階と同様の操作を行った後、実施例4の第2段階と同様にして目的の黄褐色固形物を得た。得られた化合物の構造を表4に示す。
【0114】
〔実施例16〕
(第1段階)
実施例10の第1段階と同様にして、黄褐色固形物の3−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルを得た。
【0115】
(第2段階〜第4段階)
4−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルの代わりに、得られた3−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルを用い、かつジエチレングリコールアクリレートクロロホルメートの代わりに4−アクリロイルオキシブチルクロロホルメートを用いたこと以外は、実施例9の第2段階〜第4段階と同様にして、目的の黄褐色固形物を得た。得られた化合物の構造を表4に示す。
【0116】
〔実施例17〕
(第1段階)
実施例10の第1段階と同様にして、黄褐色固形物の3−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルを得た。
【0117】
(第2段階〜第4段階)
4−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルの代わりに、得られた3−ヒドロキシフェニル デヒドロアビエチン酸エステルを用いたこと以外は、実施例9の第2段階〜第4段階と同様にして、目的の黄褐色固形物を得た。得られた化合物のNMR分析値を以下に示し、構造を表4に示す。
【0118】
1H−NMR(CDCl3):δ(ppm);1.1−1.95(m,19H)、2.36−2.42(m,2H)、2.83−2.95(m,3H)、3.80−4.45(m
,8H)5.80(dd,2H)、6.16(dd,2H)、6.43(dd,2H)6.98−8.22(m,11H)。
【0119】
〔実施例18〕
ジヒドロアビエチン酸(1.5g)と塩化チオニル(3mL)とを混合し、少量のDMFを滴下した後、還流させながら2時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応混合物にトルエン溶媒を加え、塩化チオニルおよびトルエン溶媒を減圧除去した。溶媒除去後の残留物(茶褐色液体)にTHF(20mL)と1等量の2-ヒドロキシエチルアクリレート(
0.6g)とを加え、次にトリエチルアミン1.5等量を滴下した後、室温下で8時間撹
拌した。反応終了後、THFを一部留去し、酢酸エチル(300mL)および水(100mL)を加え、酢酸エチル層を分液した。この酢酸エチル層を、塩酸水、飽和炭酸水素ナトリウムおよび水を順次用いて十分に洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この有機層から減圧下で溶剤を除去し、得られた残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶出液:トルエン/酢酸エチル=10/1(V/V))によって精製し、目的の黄褐色固形物(1.2g)を得た。得られた化合物の構造を表4に示す。
【0120】
〔実施例19〕
実施例3において、デヒドロアビエチン酸の代わりにジヒドロアビエチン酸を用いたこと以外は、実施例3の第1段階および第2段階と同様にして目的物を得た。得られた化合物の構造を表4に示す。
【0121】
〔実施例20〕
実施例12において、デヒドロアビエチン酸の代わりにジヒドロアビエチン酸を用いたこと以外は、実施例12の第1段階および第2段階と同様にして目的物を得た。得られた化合物の構造を表4に示す。
【0122】
<らせんピッチおよびHTPの測定>
らせんピッチ(helical pitch)は、以下のようにして測定した。まず、上記実施例で
得られた化合物(約0.01g)をガラス製サンプル瓶にとり、ここに下記の組成物(M−1)を加えて、上記実施例で得られた化合物の含有量が約1重量%となるように混合した。次いで、この混合物を加熱し、混合物が溶解して完全な等方性液体になった後に静置、放冷した。このようにして得られた組成物の一部をくさび型セルに注入し、カノ(Cano)のくさび法(応用物理、1974, 43, 125)に準じ、25℃でピッチを測定した。HTP
は、得られたピッチを基に、式[HTP=p-1 ×c-1]から算出した。ここで、cは試
料化合物の重量%、pはピッチ(μm)である。上記実施例1〜20で得られた化合物(ただし、実施例7および12の化合物を除く。)のらせんピッチおよびHTPを下記表1〜4に示す。
【0123】
【化26】

【0124】
【表1】

【0125】
【表2】

【0126】
【表3】

【0127】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
R−P−X−(A−Z)m−Y (1)
[式(1)中、
Rは、CH2=C(R1)−COO−、CH2=CH−または下記式(2−1)もしくは(
2−2)で表される基を示し、R1は水素またはメチルを示し、
Pは、単結合または炭素数1〜12のアルキレンを示し、該アルキレン中の任意の−CH2−は、−O−、−S−、−CH=CH−、−CO−、−COO−または−OCO−で置
き換えられてもよく、
Xは、単結合、−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−CON(R3)−、−N(
3)CO−または−OCOO−を示し、R3は水素またはメチルを示し、
Aは、独立して芳香族環または脂肪族環を示し、これらの環において、任意の水素は炭素数1〜3のアルキルで置き換えられてもよく、
Zは、独立して単結合、−COO−、−OCO−または−CH2CH2−を示し、
mは0〜3の整数を示し、
Yは、下記式(3−1)、(3−2)または(3−3)で表される基を示す。]
【化1】

[式(2−1)中、R2は水素、メチルまたはエチルを示す。]
【化2】

【請求項2】
前記式(1)において、mが0であり、Pが炭素数2〜10のアルキレンであることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記式(1)において、mが1であり、Aが下記式(4−1)、(4−2)または(4−3)で表される基であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化3】

【請求項4】
前記式(1)において、P、ZおよびXが単結合であることを特徴とする請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
前記式(1)において、Pが炭素数2〜10のアルキレンであることを特徴とする請求
項3に記載の化合物。
【請求項6】
前記式(1)において、−(A−Z)m−が下記式(5−1)〜(5−9)で表される
構造のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化4】

【請求項7】
前記式(1)において、PおよびXが単結合であることを特徴とする請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
前記式(1)において、Pが炭素数2〜10のアルキレンであることを特徴とする請求項6に記載の化合物。
【請求項9】
前記式(1)において、−(A−Z)m−が下記式(6−1)〜(6−8)で表される
構造のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化5】

【請求項10】
前記式(1)において、PおよびXが単結合であることを特徴とする請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
前記式(1)において、Pが炭素数2〜10のアルキレンであることを特徴とする請求項9に記載の化合物。
【請求項12】
前記式(1)において、R−P−X−が、
CH2=CH−COO−またはCH2=C(CH3)−COO−
であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項13】
前記式(1)において、R−P−X−が、
CH2=CH−CO−OCH2CH2OCH2CH2O−COO−または
CH2=CH−CO−OCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2O−COO−
であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項14】
前記式(1)において、R−P−X−が、
CH2=C(CH3)−CO−OCH2CH2OCH2CH2O−COO−または
CH2=C(CH3)−CO−OCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2O−COO−
であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項15】
前記式(1)において、Yが前記式(3−1)で表される基であることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の化合物。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の化合物と、液晶化合物とを含有することを特徴とする液晶組成物。
【請求項17】
前記液晶化合物として、少なくとも1種の重合性液晶化合物を含むことを特徴とする請求項16に記載の液晶組成物。
【請求項18】
請求項17に記載の液晶組成物を重合させることによって得られる重合体。
【請求項19】
コレステリック液晶相を呈することを特徴とする請求項18に記載の重合体。
【請求項20】
液晶顔料、塗料、噴霧インク、印刷インク、化粧品、偽造防止用印刷物、装飾品および光学フィルムから選ばれる用途への、請求項16または17に記載の液晶組成物の使用。
【請求項21】
液晶顔料、塗料、噴霧インク、印刷インク、化粧品、偽造防止用印刷物、装飾品および光学フィルムから選ばれる用途への、請求項18または19に記載の重合体の使用。

【公開番号】特開2009−120542(P2009−120542A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296579(P2007−296579)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】