説明

重合性組成物、重合体およびプラスチックレンズ

【課題】高屈折率のプラスチックレンズを製造することができる重合性組成物、重合体、およびこの重合体からなるプラスチックレンズを提供すること。
【解決手段】重合性組成物は、官能基を有する重合性モノマーと、官能基を有する金属酸化物微粒子とを含み、前記した重合性モノマーが有する官能基と、前記した金属酸化物微粒子が有する官能基とが互いに同一の官能基を有することを特徴とする。この重合性組成物を原料として重合を行うと、金属酸化物微粒子を重合体中に均一に分散させることができる。それ故、光学的にも均一で高屈折率のプラスチックレンズを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性組成物、重合体およびプラスチックレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、ガラスレンズに比べて軽量であり、成形性や加工性に優れ、しかも割れにくく安全性も高いため、眼鏡レンズ分野において急速に普及し、その大部分を占めている。また、近年では薄型化、軽量化のさらなる要求に応えるべく、チオウレタン系樹脂やエピスルフィド系樹脂等の高屈折率素材が開発されている。例えば、エピチオ基を有する化合物(エピスルフィド化合物)を硫黄の存在下で重合させることにより非常に屈折率の高いエピスルフィド系樹脂を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。あるいはまた、高屈折率化の一つの手法として、レンズ素材中に屈折率の高い金属酸化物微粒子を含有させる方法も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−163978号公報
【特許文献2】特開2004−197005号公報
【特許文献3】特開平7−207086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のような、エピスルフィド系樹脂からなるプラスチックレンズでは、硫黄成分を非常に高い割合で含有しているため、屈折率は向上するが、主鎖同士の結びつきが非常に弱いため、熱が加わったときに変形が大きく、耐熱性が低い。また、特許文献2では、無機硫黄成分を含有しているため、屈折率は向上するが、架橋密度が低下するため、耐熱性が低い。さらに、耐熱性が低いことに起因して、表面処理層として用いられている無機反射防止層が、下地となるプラスチックレンズ基材の熱膨張変形に追随できず、結果としてクモリやクラックなどを生じるおそれがある。また、特許文献3のように、レンズ素材中に屈折率の高い金属酸化物微粒子を含有させようとしても、レンズ素材が有機物(樹脂)であるため、金属酸化物微粒子との親和性が低く、レンズ素材中に金属酸化物微粒子を均一に分散させることが困難であり透明性なレンズを得ることが困難であった。
そこで本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、レンズ素材に制限を受けず、透明で耐熱性の優れた高屈折率のプラスチックレンズを製造することができる重合性組成物、重合体、およびこの重合体からなるプラスチックレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を解決すべく、本発明は、官能基を有する重合性モノマーと、官能基を有する金属酸化物微粒子とを含む重合性組成物であって、前記重合性モノマーと、前記金属酸化物微粒子とが、互いに同一の官能基を有することを特徴とする。
重合性モノマーの官能基と金属酸化物微粒子の官能基とが同じであると、たとえ官能基間の反応性が低くとも、物理的な親和性が高いため、この重合性組成物を原料として重合を行うと、金属酸化物微粒子を重合性組成物中に均一に分散することができる。
また、重合性モノマーよりも官能基の数が多い金属酸化物微粒子を含有させることもできるため、架橋密度をより上げることも可能となる。従って、このような金属酸化物微粒子を分散させずに重合してなる重合体自身の屈折率よりも高屈折率とすることができ、さらに、重合体の耐熱性をより向上させることが可能となる。従って、前記金属酸化物微粒子を用いると、光学的にも透明で高屈折率かつ耐熱性の高いレンズ基材を容易に製造することができる。
【0006】
本発明では、前記重合性モノマーおよび前記金属酸化物微粒子が有する官能基が、イソシアナート基、イソチオシアナート基、チオール基、水酸基、エポキシ基、チオエポキシ基およびエピスルフィド基から選ばれる少なくともいずれかの官能基であることが好ましい。
この発明によれば、前記した重合性モノマーや金属酸化物微粒子の有する官能基がいずれも反応性の高い官能基であるので、金属酸化物微粒子を重合体中により均一に分散させることができる。
【0007】
本発明では、前記重合性モノマーが、チオウレタン樹脂またはチオエポキシ樹脂製造用のモノマーであることが好ましい。
チオウレタン樹脂やチオエポキシ樹脂は高屈折率のレンズ素材として知られているが、本発明の重合性モノマーとして使用することで、さらに高屈折率の高いレンズ基材を製造することが可能となる。
【0008】
本発明の重合体さらには、この重合体からなるプラスチックレンズは、上述のいずれかに記載の重合性組成物から製造されているため、金属酸化物微粒子がその内部に均一に分散しており、所望の屈折率を発現することができるとともに光学的にも均一である。
【0009】
さらに、この重合体からなるプラスチックレンズのポリマーネットワーク中には、無機成分が含まれているため、すべて有機成分で構成されるプラスチックレンズよりも熱膨張率を低下させることができる。またさらに、金属酸化物微粒子の表面には、重合性モノマーが有する官能基よりも非常に多くの官能基を結合させることができるため、プラスチックレンズの架橋密度を上げて耐熱性をより向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の重合性組成物は、官能基を有する重合性モノマーと、官能基を有する金属酸化物微粒子とを含み、前記重合性モノマーと、前記金属酸化物微粒子とが、互いに同一の官能基を有することを特徴とする。また、より親和性を高める観点より、これらの官能基は互いに反応し得ることが好ましい。
以下に、本発明の重合性組成物、重合体およびプラスチックレンズについて実施形態を詳細に説明する。
ここで、重合性モノマーが有する官能基としては、イソシアナート基、イソチオシアナート基、チオール基(メルカプト基)、水酸基、エポキシ基、チオエポキシ基およびエピスルフィド基から選ばれる少なくともいずれかの官能基が好適に挙げられる。
例えば、イソシアナート基を持つ重合性モノマーとしては、公知の化合物を用いることができる。イソシアナート基を持つ化合物の具体例としては、エチレンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、2,4,4−トリメチルヘキサンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナート等が挙げられる。
【0011】
また、メルカプト基を持つ重合性モノマーとしても、公知の化合物を用いることができる。例えば、1,2−エタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,1−シクロヘキサンジチオール等の脂肪族ポリチオール、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン等の芳香族ポリチオールが挙げられる。
なお、プラスチックレンズの高屈折率化のためには、メルカプト基以外に、硫黄原子を含むポリチオールをより好ましく用いることができる。具体例としては、1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2−ビス((2−メルカプトエチル)チオ)−3−メルカプトプロパン等が挙げられる。
【0012】
エピスルフィド基を持つ重合性モノマーの具体例としては、公知のエピスルフィド基を持つ化合物が何ら制限なく使用できる。例えば、既存のエポキシ化合物のエポキシ基の一部あるいは全部の酸素を硫黄で置き換えることによって得られるエピスルフィド化合物が挙げられる。なお、このようなエピスルフィド基を持つ重合性モノマーとしては、特開2004−345123号公報の段落[0038]、[0039]に記載されたものが好適に使用できる。
【0013】
特に、プラスチックレンズの高屈折率化のためには、下記のような硫黄原子を含有する重合性モノマーを好ましく用いることができる。具体例としては、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、ビス−(β−エピチオプロピル)スルフィド、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、ビス−(β−エピチオプロピル)ジスルフィド等が挙げられる。
【0014】
次に、官能基を有する金属酸化物微粒子について説明する。
ベースとなる金属酸化物微粒子としては、高屈折率を有する金属酸化物を好適に使用することができる。
高屈折率を有する金属酸化物微粒子として、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In、Tiから選ばれる1種または2種以上の金属の酸化物(これらの混合物を含む)、および/または2種以上の金属を含む複合酸化物からなる無色透明の金属酸化物微粒子が好適に用いられる。このうち、屈折率、透明性、分散安定性等の点から酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子が好ましい。
【0015】
しかしながら、酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子を、プラスチックレンズ基材に分散させる金属酸化物として用いた場合には次のような問題がある。酸化チタンは、光(紫外線)エネルギーを受けると活性を帯び、強い酸化分解力により、有機物を分解するという特性を有する(以降、光活性と表す)。その結果、酸化チタンがプラスチックレンズの構成成分として含有されている場合、光活性によりレンズを構成する素材樹脂を分解して、耐久品質が低下するおそれがある。
【0016】
それ故、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する金属酸化物を用いることが好ましい。すなわち、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子を使用することで、酸化チタンの光活性に起因する種々の不具合点を改善することができる。酸化チタンを含有する金属酸化物の結晶構造をアナターゼ型に代えてルチル型にすることによってレンズの耐候性や耐光性がより向上し、かつ屈折率はアナターゼ型の結晶よりもルチル型の結晶の方が高いので、比較的屈折率の高い金属酸化物微粒子が得られる。
【0017】
ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンは、アナターゼ型の酸化チタンが光(紫外線)エネルギーを受けると活性を帯び、強い酸化分解力により、有機物を分解するという特性を有するのと異なり、このような光活性が低い。これは、光(紫外線)を照射すると酸化チタンの価電子帯の電子が励起されて、OHフリーラジカルとHOフリーラジカルができ、この強力な酸化力により有機物を分解するが、アナターゼ型酸化チタンよりルチル型酸化チタンの方が熱エネルギー的に安定であるため、フリーラジカルの生成量が極めて少ないためである。よって、ルチル型の結晶構造の酸化チタンを配合したレンズ基材のほうが耐候性や耐光性に優れているため、結果的に耐候性や耐光性に優れたプラスチックレンズが得られる。
【0018】
ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを得る手法はいくつか考えられるが、酸化スズとの複合酸化物、さらに酸化ケイ素を加えた複合酸化物とすることが好ましい。酸化スズとの複合酸化物を加えた場合、金属酸化物微粒子中に含まれる酸化チタンおよび酸化スズの量は、酸化チタンをTiOに換算し、酸化スズをSnOに換算したとき、TiO/SnOの質量比が1/3〜20/1、好ましくは1.5/1〜13/1の範囲にあることが望ましい。
【0019】
SnOの量を上記質量比の範囲よりも少なくしていくと、結晶構造がルチル型からアナターゼ型にシフトしていき、ルチル型の結晶とアナターゼ型の結晶を含む混晶になる、あるいはアナターゼ型の結晶となる。また、SnOの量を上記質量比の範囲よりも多くしていくと、酸化チタンのルチル型結晶と酸化スズのルチル型結晶の中間にあるルチル型の結晶構造となり、いわゆる酸化チタンのルチル型結晶とは異なる結晶構造を示すようになり、しかも得られる金属酸化物微粒子の屈折率も低下する。
【0020】
また、酸化スズとの複合酸化物、さらに酸化ケイ素を加えた複合酸化物を加えた場合、金属酸化物微粒子中に含まれる酸化チタン、酸化スズ、および酸化ケイ素の量は、酸化チタンをTiOに換算し、酸化スズをSnOに換算し、酸化ケイ素をSiOに換算したとき、TiO/SnOの質量比が1/3〜20/1、好ましくは1.5/1〜13/1の範囲にあり、かつ(TiO+SnO)/SiOの質量比が50/45〜99/1、好ましくは70/30〜98/2の範囲にあることが望ましい。
【0021】
SnOの含有量については、酸化スズとの複合酸化物を加えた場合と同様であるが、これに酸化ケイ素を含ませることにより、得られる金属酸化物微粒子の安定性と分散性を向上させることができる。ここで、SiOの量を上記質量比の範囲よりも少なくしていくと、安定性と分散性が低下する。また、SiOの量を上記質量比の範囲よりも多くしていくと、この安定性と分散性はより向上するが、得られる金属酸化物微粒子の屈折率が低下するので好ましくない。しかし、このルチル型酸化チタンにおいてもフリーラジカルは生成される。これについては、酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子として、酸化チタンを含有する2種以上の複合酸化物を含む金属酸化物微粒子を使用した場合も同様である。
【0022】
酸化チタン等からなる金属酸化物微粒子の平均粒径は、1〜200nm、好ましくは5〜30nmの径の範囲が望ましい。平均粒径が1nm未満であると、重合性組成物を調製する際に粒子同士がブリッジ化して均一に分散しなくなるおそれがある。一方、平均粒径が200nmを超えると、レンズとなったときに白色化し、光学部品の用途には適さなくなる。
【0023】
また、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子は単独で用いても良く、あるいは他の金属酸化物微粒子と併用してもよい。他の金属酸化物微粒子としては、Si,Al,Sn,Sb,Ta,Ce,La,Fe,Zn,W,Zr,Inから選ばれる1種または2種以上の金属の酸化物(これらの混合物を含む)、および/または2種以上の金属を含む複合酸化物からなる金属酸化物微粒子を例示することができる。
【0024】
ここで、本発明の金属酸化物微粒子は、重合性組成物における分散安定性を高め、かつ架橋密度を向上させるために、前記した重合性モノマーの有する官能基と反応し得る官能基か、あるいは重合性モノマーの有する官能基と同じ官能基を有するものでなければならない。
例えば、金属酸化物微粒子表面を有機ケイ素化合物で処理することで、該表面に水酸基(−OH基)を結合させることができる。この際に用いられる有機ケイ素化合物としては、単官能性シラン、二官能性シラン、三官能性シラン、四官能性シラン等が挙げられる。
同様に、金属酸化物微粒子表面をメルカプト系化合物で処理することで、該表面にチオール基(−SH基)を備えさせることができる。この際に用いられるメルカプト系化合物としては、公知の化合物を用いることができる。例えば、1,2−エタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,1−シクロヘキサンジチオール等の脂肪族ポリチオール、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン等の芳香族ポリチオールが挙げられる。
また、金属酸化物微粒子表面をイソシアネート系化合物で処理することで、該表面にイソシアネート基(−NCO基)を備えさせることが出来る。この際に用いられるイソシアネート系化合物としては、公知の化合物を用いることができる。例えば、エチレンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、2,4,4−トリメチルヘキサンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナート等が挙げられる。
【0025】
金属酸化物微粒子の種類や配合量は、目的とするレンズの屈折率等により決定されるものであるが、配合量は重合体組成物中に固形分で1〜5質量%、特に5〜30質量%の範囲であることが望ましい。配合量が少なすぎると、屈折率の制御が不十分となる場合がある。一方、配合量が多すぎると、レンズの物性(比重、耐衝撃性など)に悪影響をおよぼすおそれがある。
【0026】
本発明における重合性組成物の重合方法としては、特に限定されることなく、一般にレンズ用の重合体を得るために用いられる重合方法を適用することができる。
例えば、重合体としてチオウレタン樹脂を製造する場合には、イソシアナート基またはイソチオシアナート基を持つモノマーと、メルカプト基を持つモノマー、さらにはこれらの少なくともいずれかの官能基を有する金属酸化物微粒子を混合する。そして、ウレタン樹脂用の硬化触媒を添加、混合し、加熱により重合硬化を行うことによって目標とする屈折率を有するチオウレタン樹脂を製造できる。硬化触媒の具体例としては、エチルアミン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のアミン化合物、ジブチル錫ジクロライド、ジメチル錫ジクロライド等が挙げられる。
【0027】
また、エピスルフィド系樹脂の場合には、エピスルフィド基を持つモノマーとエピスルフィド基と反応可能な官能基を有する金属酸化物微粒子を混合した後、エポキシ樹脂用の硬化触媒を添加、混合し、加熱により重合硬化を行うことによって製造できる。なお、エピスルフィド基と反応(共重合)可能な他のモノマーを共存させてもよい。その場合は、該他のモノマーの有する官能基と反応し得る官能基を有する金属酸化物粒子を用いてもよい。あるいは、前記したモノマーが有する官能基と同一の官能基(例えば、エピスルフィド基)を有する金属酸化物微粒子を用いてもよい。
【0028】
エポキシ樹脂用の硬化触媒は特に制限なく用いることができる。具体例としては、ジメチルベンジルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、トリジメチルアミノメチルフェノール等の3級アミン、エチルメチルイミダゾール等のイミダゾール類、などが挙げられる。
また、エピスルフィド基と反応可能な官能基としては、水酸基、メルカプト基、1級または2級アミノ基、カルボキシル基などが挙げられる。
【0029】
なお、エピスルフィド基を持つモノマーと反応(共重合)可能なモノマーとしては、水酸基を持つモノマーの具体例として、イソプロピルアルコール、n−ヘキシルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート等の多価アルコール類が挙げられる。メルカプト基を持つ化合物の具体例としては、チオフェノール、エチルチオグリコレート、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン等が挙げられる。
【0030】
上述した重合体からなるレンズ基材は、所定の屈折率を持った金属酸化物微粒子が均一に重合体中に分散しているため、光学的に透明であるとともに所望の屈折率を有している。
また、このレンズ基材に対して、必要に応じて、プライマー層、ハードコート層、反射防止層および防汚層が形成され、所望のプラスチックレンズとなる。以下、簡潔にこれらの各層についても説明する。
【0031】
(プライマー層)
プライマー層は、レンズ基材の最表面に形成され、レンズ基材と後述するハードコート層双方の界面に存在して、レンズ基材とハードコート層双方への密着性を発揮する性質を有し、表面処理膜全体の耐久性を向上させる役割を担う。さらに外部からの衝撃吸収層としての性質も併せ持ち、耐衝撃性を向上させる性質も有する。
このようなプライマー層としては、極性を有する有機樹脂ポリマーと、酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子とを含むコーティング組成物を用いて形成されることが好ましい。
【0032】
また、プライマー層の膜厚は、0.01〜50μm、特に0.1〜30μmの範囲が好ましい。プライマー層が薄すぎると耐水性や耐衝撃性などの基本性能が実現できず、逆に厚すぎると、表面の平滑性が損なわれたり、光学的歪や白濁、曇りなどの外観欠点を発生する場合がある。なお、プライマー層の屈折率は、干渉縞の発生を避けるため、レンズ基材の屈折率に合わせることが好ましい。
【0033】
(ハードコート層)
ハードコート層は、レンズ基材表面に形成されたプライマー層上に形成される。ハードコート層は、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子と、下記式(1)で示される化合物(B成分)とを含むコーティング組成物を用いて形成されることが好ましい。 RSiX3−n (1)
(式中、Rは、重合可能な反応基を有する有機基であり、Rは炭素数1〜6の炭化水素基であり、Xは加水分解基であり、nは0または1である。)
【0034】
金属酸化物微粒子としては、例えば、酸化チタンおよび酸化スズ、または酸化チタン、酸化スズおよび酸化ケイ素からなるルチル型の結晶構造を有する複合酸化物を含む平均粒径1〜200nmの金属酸化物微粒子を挙げることができる。
ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子を使用することで、耐候性や耐光性がより向上し、また屈折率はアナターゼ型の結晶よりもルチル型の結晶の方が高いので、比較的屈折率の高い金属酸化物微粒子(複合微粒子)が得られる。
【0035】
なお、ハードコート層の膜厚は、0.05〜30μmであることが好ましい。膜厚が0.05μm未満では、基本性能が実現できない。また、膜厚が30μmを越えると表面の平滑性が損なわれたり、光学歪みが発生してしまう場合がある。なお、ハードコート層の屈折率は、干渉縞の発生を避けるため、レンズ基材、プライマー層の屈折率に合わせることが好ましい。
【0036】
(反射防止層)
反射防止層は、ハードコート層上に形成される。形成される反射防止層は、ハードコート層の屈折率よりも0.10以上低い屈折率を有し、かつ50nm〜150nmの層厚の、無機薄層、有機薄層の単層または多層で構成される。無機薄層の材質としては、SiO、SiO、ZrO、TiO、TiO、Ti、Ti、Al、Ta、CeO、MgO、Y、SnO、MgF、WO等の無機物が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。プラスチックレンズの場合は、低温で真空蒸着が可能なSiO、ZrO、TiO、Taが好ましい。また、多層構成とした場合は、最外層はSiOとすることが好ましい。
【0037】
無機薄層の成層方法は、例えば真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、CVD法、飽和溶液中での化学反応により析出させる方法等を採用することができる。真空蒸着法においては、蒸着中にイオンビームを同時に照射するイオンビームアシスト法を用いてもよい。
有機薄層の材質は、プラスチックレンズやハードコート層の屈折率を考慮して選定され、真空蒸着法の他、スピンコート法、ディップコート法などの量産性に優れた塗装方法で成層することができる。
【0038】
(防汚層)
以上のように、レンズ基材上にプライマー層、ハードコート層および反射防止層が形成されたプラスチックレンズには、さらにプラスチックレンズ表面の撥水撥油性能を向上させる目的で、反射防止層上にフッ素を含有する有機ケイ素化合物からなる防汚層を形成することが好ましい。フッ素を含有する有機ケイ素化合物としては、例えば、特開2005−301208号公報や特開2006−126782号公報に記載されている含フッ素シラン化合物を好適に使用することができる。
【実施例】
【0039】
次に、本発明の実施形態に基づく実施例および比較例を説明する。具体的には、以下に示す方法でプラスチックレンズを製造して、金属酸化物微粒子の分散性および屈折率と線膨張率を評価した。
〔実施例1〕
レンズ製造用の原料モノマーとして、m−キシレンジイソシアナートを40質量部、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカンおよび5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカンからなる混合モノマーを40質量部、紫外線吸収剤として商標名「SEESORB701」(シプロ化成工業製)を1.2質量部、内部離型剤として商標名「ゼレックUN」(Stepan社製)を0.1質量部添加し、混合した後、十分に撹拌して、完全に分散させた原料組成物中に、表面にイソシアナート基(−NCO)を有する酸化チタンを主成分とする金属酸化物微粒子を20質量部の濃度で添加したところ、均一に分散させることができた。
次に、触媒としてジブチル錫ジクロライドを0.01質量部添加し、室温で十分に撹拌して均一液とした。ついでこの重合性組成物を5mmHgに減圧して攪拌しながら30min脱気を行った。そして、この組成物を、2枚のガラス型を用いて、粘着テープで保持した鋳型中に注入し、大気重合炉中で30℃から120℃まで24時間かけて昇温を行い、重合硬化させた。その後、型よりレンズを取り外し、120℃で1時間加熱してアニール処理を行い、レンズAを得た。
【0040】
(屈折率の評価)
レンズの屈折率は、アタゴ社のアッベ屈折率計を用いてe線(波長546nm)により20℃で測定した。屈折率を測定するために、2mm厚のフラット板を製造して、測定に供した。具体的には、厚みが2mmとなる様にテープにて外周部を封止した2枚のガラス平板中に、レンズ原料となるモノマー、金属酸化物微粒子等を注入し、上述の重合条件で、重合硬化、離型およびアニール処理してフラット板を製造した。
この方法により測定したレンズAの屈折率は、1.736であった。
【0041】
(線膨張率の評価)
レンズの線膨張率は、熱機械分析装置((株)島津製作所製:TMA60)を用いて、荷重5g、針入プローブ(2mmφ)、昇温スピードが10℃/minの条件により測定した。線膨張率を測定するために、屈折率の測定と同様の2mm厚のフラット板を製造して、測定に供した。
この方法により測定したレンズAの線膨張率は4.4×10−5/℃であった。
【0042】
〔実施例2〕
表面にチオール基(メルカプト基 −SH)を有する酸化チタンを主成分とする金属酸化物微粒子を20質量部の濃度で添加した以外は、実施例1と同様の方法でレンズBを得た。重合性組成物の調製において、金属酸化物微粒子は均一に分散させることができた。
レンズBの屈折率は1.736であった。また、レンズBの線膨張率は4.4×10−5/℃であった。
【0043】
〔実施例3〕
レンズ製造用の原料モノマーとして、ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィドを72質量部、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカンおよび5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカンからなる混合モノマーを8質量部、紫外線吸収剤として商標名「SEESORB701」(シプロ化成工業製)を1.0質量部添加し、混合した後、十分に撹拌して、完全に分散させた原料組成物中に、表面にチオエポキシ基を有する酸化チタンを主成分とする金属酸化物微粒子を20質量部の濃度で添加したところ、均一に分散させることができた。
次に、触媒としてN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンを0.1質量部添加し、室温で十分に撹拌して均一液とした。ついでこの重合性組成物を5mmHgに減圧して攪拌しながら30min脱気を行った。そして、この組成物を、2枚のガラス型を用いて、粘着テープで保持した鋳型中に注入し、大気重合炉中で30℃から120℃まで24時間かけて昇温を行い、重合硬化させた。その後、型よりレンズを取り外し、130℃で2時間加熱してアニール処理を行い、レンズCを得た。
レンズCの屈折率は1.792であった。また、レンズCの線膨張率は6.4×10−5/℃であった。
【0044】
〔実施例4〕
表面にチオール基(メルカプト基)を有する酸化チタンを主成分とする金属酸化物微粒子を20質量部の濃度で添加した以外は、実施例3と同様の方法でレンズDを得た。重合性組成物の調製において、金属酸化物微粒子は均一に分散させることができた。
レンズDの屈折率は1.792であった。また、レンズDの線膨張率は6.4×10−5/℃であった。
【0045】
〔比較例1〕
官能基を持たない金属酸化物微粒子を20質量部の濃度で添加した以外は、実施例1と同様の方法で重合を行うことを試みたが、金属酸化物微粒子が原料組成物中に均一に分散せず、沈殿してしまったため、重合硬化を断念した。
【0046】
〔比較例2〕
レンズ製造用の原料モノマーとして、m−キシレンジイソシアナートを50質量部、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカンおよび5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカンからなる混合モノマーを50質量部とし、金属酸化物微粒子を添加しない以外は、実施例1と同様の方法でレンズEを得た。 得られたレンズEの屈折率は1.667と低く、レンズEの線膨張率は8.0×10−5/℃と高かった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の重合性組成物は、高屈折率のプラスチックレンズ製造用として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能基を有する重合性モノマーと、官能基を有する金属酸化物微粒子とを含む重合性組成物であって、
前記重合性モノマーと、前記金属酸化物微粒子とが、互いに同一の官能基を有することを特徴とする重合性組成物。
【請求項2】
請求項1記載の重合性組成物において、
前記重合性モノマーおよび前記金属酸化物微粒子が有する官能基が、
イソシアナート基、イソチオシアナート基、チオール基、水酸基、エポキシ基、チオエポキシ基およびエピスルフィド基から選ばれる少なくともいずれかの官能基であることを特徴とする重合性組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の重合性組成物において、
前記重合性モノマーが、チオウレタン樹脂またはチオエポキシ樹脂製造用のモノマーであることを特徴とする重合性組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の重合性組成物から製造されたことを特徴とする重合体。
【請求項5】
請求項4に記載の重合体から形成されたことを特徴とするプラスチックレンズ。

【公開番号】特開2010−168587(P2010−168587A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47671(P2010−47671)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【分割の表示】特願2007−75324(P2007−75324)の分割
【原出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】