説明

重荷重タイヤ用サイドトレッド組成物

【課題】 リトレッドに適した重荷重タイヤ用サイドトレッド組成物の提供。
【解決手段】 (i)天然ゴム(NR)及び/又はポリイソプレンゴム(IR)とビニル・シスブタジエンゴム(VCR)の配合比率(重量比)が(NR及び/又はIR)/(VCR)=20/80〜60/40の加硫可能なゴム成分100重量部、(ii)HAFグレードのカーボンブラック40−60重量部、(iii)一般式(I):
【化1】


(式中、Rは炭素数2〜20の置換又は非置換のアルキレン基、オキシアルキレン基又は芳香族を含むアルキレン基であり、xは2〜6の整数、nは1〜20の定数である)
で表される環状ポリスルフィド0.1〜10重量部並びに(iv)加硫促進剤を含んでなり、加硫促進剤(iv)/環状ポリスルフィド(iii)の比(重量比)が0.1〜0.5である重荷重タイヤ用サイドトレッドゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重荷重タイヤ用サイドトレッド組成物に関し、更に詳しくは耐クラック性が良好で、かつ初期性能の保持性が良好な、リトレッドし再利用するのに適した重荷重タイヤ用サイドトレッド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トラック、バス等の重荷重用タイヤは、摩耗消耗して回収したケーシングを使用してリトレッドし再利用することが多い。このように長期間使用することが必要な重荷重用タイヤのサイドトレッドには、こすれなどの摩耗に強く、耐クラック性が良好で、かつ初期の性能をできるだけ保持した(経時の変化が少ない)ゴム組成物が必要とされている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開平8−164713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、長期間使用後においても耐クラック性が良好で、かつ初期性能の保持性も良好で、リトレッドし再利用するのに適した重荷重タイヤ用サイドトレッド組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に従えば、(i)天然ゴム(NR)及び/又はポリイソプレンゴム(IR)とビニル・シスブタジエンゴム(VCR)の配合比率(重量比)が(NR及び/又はIR)/(VCR)=20/80〜60/40の加硫可能なゴム成分100重量部、(ii)HAFグレードのカーボンブラック40〜60重量部、(iii)一般式(I):
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、Rは炭素数2〜20の置換又は非置換のアルキレン基、オキシアルキレン基又は芳香族を含むアルキレン基であり、xは2〜6の整数、nは1〜20の定数である)
で表される環状ポリスルフィド0.1〜10重量部並びに(iv)加硫促進剤を含んでなり、加硫促進剤(iv)/環状ポリスルフィド(iii)の比(重量比)が0.1〜0.5である重荷重タイヤ用サイドトレッドゴム組成物が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ゴム成分にビニル・シスポリブタジエンゴム(VCR)を特定量配合し、式(I)の環状ポリスルフィドを加硫剤として用いることによって、得られるゴム組成物の硬度及び破断伸びの変化率を良好にし、耐摩耗性及び耐クラック性を改良することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明においては、ゴム成分として、天然ゴム(NR)及び/又はポリイソプレンゴム(IR)とビニル・シスブタジエンゴム(VCR)とを、NR及び/又はIRとVCRとの比(重量比)が(NR及び/又はIR)/(VCR)=20/80〜60/40、好ましくは50/50〜60/40の比率のブレンドを用いる。VCRの比率が少な過ぎると耐疲労性及び耐クラック性が悪化するので好ましくなく、逆に多過ぎると耐カット性が悪化するので好ましくない。
【0010】
本発明で用いるビニル・シスブタジエンゴム(VCR)は、例えば特公昭49−17667号公報、特公昭61−57858号公報、特公昭62−171号公報、特公昭63−36324号公報、特公平2−37827号公報、特公平2−30881号公報、特公平3−63566号公報などに記載された方法を用いて製造することができる。このVCRは、例えば特開平11−349732号公報に記載されているように、沸騰n−ヘキサン不溶分;1〜25重量%で、沸騰n−ヘキサン可溶分;99〜75重量%であるビニル・シスブタジエンゴムであり、沸騰n−ヘキサン不溶分はシンジオタクチック1,2−ポリブタジエン(以下、SPBDと略す)である。沸騰n−ヘキサン可溶分は高シス−1,4−ポリブタジエンであり、ミクロ構造はシス−1,4構造が90重量%以上である。ここで言う沸騰n−ヘキサン不溶分とはVCRを沸騰n−ヘキサン中に還流したときに不溶分として回収される部分をいい、沸騰n−ヘキサン可溶分とはVCRを沸騰n−ヘキサン中で還流した時に溶解する部分である。沸騰n−ヘキサン不溶分はテトラリン溶液で測定した還元粘度(135℃、濃度0.20g/dlテトラリン溶液)が0.5〜4であり、好ましくは0.8〜3の範囲である。沸騰n−ヘキサン不溶分の還元粘度が0.5より小さい時には、配合物のダイスウェルが十分改善されない。一方沸騰n−ヘキサン不溶分の還元粘度が4より大きい時には、重合時にSPBDが高シス−1,4−ポリブタジエン中で凝集塊を形成するようになり分散不良を起こして加工性や耐久性が低下するので好ましくない。また、沸騰n−ヘキサン可溶分の重量平均分子量は300,000〜800,000の範囲であることが好ましく、300,000未満では加硫物の耐久性や反発弾性が低下するので好ましくない。800,000を超えると配合物のムーニー粘度が高くなり過ぎて加工が困難になるので好ましくない。
【0011】
なお、VCRは宇部興産(株)よりUBE−POL VCRとして各種品番のものが市販されており、本発明においてもこれらの市販品を使用することができる。
【0012】
本発明のゴム組成物に配合されるカーボンブラックはHAFグレートカーボンブラックで、好ましくは粒子径20〜30nm、窒素吸着比表面積N2SA60〜90m2/gのものの使用が耐疲労性、耐カット性、発熱のバランスの観点から好ましい。このカーボンブラックはゴム100重量部に対し40〜60重量部、好ましくは40〜48重量部配合する。この配合量が少な過ぎると硬度が低くなり耐カット性が悪化するので好ましくなく、逆に多過ぎると硬度が高すぎで耐クラック性が悪化し、発熱性が高くなり、燃費が悪化するので好ましくない。
【0013】
本発明のゴム組成物において加硫剤として使用する式(I)の環状ポリスルフィドは、ゴム成分100重量部に対し、0.1〜10重量部、好ましくは1〜5重量部配合する。この配合量が少な過ぎると所望の効果が得られないので好ましくなく、逆に多過ぎると硬度が大きく破断伸びが小さくなるので好ましくない。
【0014】
本発明のゴム組成物に配合する前記式(I)の環状ポルスルフィドは、式:X−R−X(式中、Xは、それぞれ独立に、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、好ましくは塩素、臭素、のハロゲン原子を表し、Rは、置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基又は置換もしくは非置換のC2〜C20のオキシアルキレンキを含むアルキレン基、好ましくは前記置換もしくは非置換のC2〜C20、更に好ましくはC4〜C10のアルキレン基又は芳香族環を示す。)のジハロゲン化合物とアルカリ金属の多硫化物M−Sx−M(式中、Mはアルカリ金属、例えばナトリウム、カリウム、リチウムなどであり、xは2〜6の整数、好ましくは4〜6である)とを、親水性及び親油性溶媒の非相溶性混合溶媒中で2相系で反応させることによってか、又はM−Sx−Mの溶液(溶媒として水及びC1〜C4脂肪族アルコールを用いることができ、水の使用が最も好ましい)中にX−P−XをM−Sx−MとX−R−Xとが界面で反応するような速度で添加して反応させることによって製造される(例えば特開2002−293783号公報参照)。なお、後者の方法でX−R−Xの添加速度が速すぎると、X−R−Xの濃度が高くなり、界面以外での反応も起こり、分子間の反応が優先され鎖状になるので好ましくない。従って、M−Sx−MとX−M−Xとの反応はできるだけ不均一系で界面だけで反応させることが環状ポリスルフィドを得るのに好ましい。
【0015】
前記一般式X−R−X及び式(I)の基Rとしては、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、1,2−プロピレン、ベンジル基などの置換基で置換されていてもよい。基Rとしては更にオキシアルキレン基を含むアルキレン基、例えば基(CH2CH2O)p及び基(CH2)q(式中、pは1〜5の整数であり、qは0〜2の整数である)が任意に結合したオキシアルキレン基を含むアルキレン基とすることができる。好ましい基Rは
【0016】
【化2】

【0017】
であり、特にxは平均として3〜5が好ましく、nは好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5である。
【0018】
上記反応に用いる親水性溶媒及び親油性溶媒について特に限定はなく、実際の反応系において非相溶で2相を形成する任意の溶媒を用いることができる。具体的には、例えば親水性溶媒としては、水の他、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類をあげることができ、これらは任意の混合物として使用することができる。また親水性溶媒としては、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ジオキサン、ジブチルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類などをあげることができ、これらは任意の混合物として使用することができる。
【0019】
前記ジハロゲン化合物と前記アルカリ金属の多硫化物との界面での反応は、当量反応であり、実用的には両化合物を0.95:1〜1:0.95(当量比)で反応させ、反応温度は、好ましくは50〜120℃、更に好ましくは70〜100℃である。
【0020】
前記反応において触媒は必要ではないが、場合によっては触媒として4級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、クラウンエーテルなどを用いることができる。例えば、(CH34+Cl-,(CH34+Br-,(C494+Cl-,(C494+Br-,C1225+(CH33Br-,(C494+Br-,CH3+(C653-,C1633+(C493Br-,15−crown−5,18−crown−6,ベンゾ−18−crown−6等を用いることができる。特にxの平均が4超〜6以下の環状ポリスルフィド(I)を製造する場合には触媒の使用が好ましい。
【0021】
本発明のゴム組成物には、更に加硫促進剤を必須成分として配合する。この加硫促進剤は加硫促進剤/環状ポリスルフィドの比(重量比)0.1〜0.5、好ましくは0.2〜0.4となるように配合する。この配合比が小さ過ぎると硬度及び破断伸びの変化率が大きくなるので好ましくなく、逆に大き過ぎると耐カット性や耐クラック性が悪化するので好ましくない。加硫促進剤としては、例えばスルフェンアミド系、チウラム系などの従来の硫黄加硫用として使用されるものを使用することができる。
【0022】
本発明に係るゴム組成物には、前記した必須成分に加えて、シリカなどの他の補強剤(フィラー)、その他の加硫又は架橋剤、その他の加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用、その他一般ゴム用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練、加硫して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0024】
実施例1〜3及び比較例1〜7
サンプルの調製
表Iに示す配合において、加硫促進剤と加硫剤(環状ポリスルフィド)を除く成分を1.8リットルの密閉型ミキサーで4分間混練し、145±5℃に達したときに放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と加硫剤をオープンロールで混練し、ゴム組成物を得た。
【0025】
次に得られたゴム組成物を15×15×0.2cmの金型及び直径32mmの円板状部分を有するピコ摩耗用試験サンプル用金型中で148℃で30分間加硫して加硫ゴムサンプルを調製し、以下に示す試験法で加硫ゴムの物性を測定した。結果は表Iに示す。
【0026】
ゴム物性評価試験法
【0027】
硬度(Hs)変化率:JIS K6301に準拠。ブランクサンプルと老化サンプル(80℃×96時間加熱)を測定し、比較例1の値を基準としてその差を指数表示した。この値が小さい程良好であることを示す。
破断伸び変化率:JIS K6251に準拠。ブランクサンプルの破断伸びと老化サンプル(80℃×96時間加熱)の破断伸びを測定し、比較例1の値を基準としてその差を指数表示した。この値が小さい程良好であることを示す。
【0028】
ピコ摩耗:JIS K6264に準拠。比較例1の値を基準として摩耗量の逆数を指数表示した。この値が大きい程良好であることを示す。
クラック成長(30×103回):JIS K6301に準拠。伸縮を30,000回実施した後のクラックの成長長さを測定。比較例1の値を基準としてその差を指数表示した。この値が小さい程良好であることを示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表I脚注
*1:STR20
*2:NipolBR1220(日本ゼオン(株)製)
*3:VCR412(宇部興産(株)製)
*4:シーストN(東海カーボン(株)製)
*5:6PPD((株)フレキシス製)
*6:ノクセラーNS((株)大内新興化学工業(株)製)
【0031】
*7:一般式(I)において、R=(CH26、x(平均)=5及びn=1〜4の環状ポリスルフィドで、以下のようにして合成した。
30%多硫化ソーダ(Na24)水溶液89.76g(0.15mol)に水80g、硫黄48g(0.15mol)及び触媒としてテトラブチルアンモニウムブロマイド1.16g(0.0045mol)を入れて80℃2時間反応させた後、トルエン100gを加えて90℃で1,6−ジクロロヘキサン23.3g(0.15mol)を1時間滴下し、さらに4時間反応させた。反応終了後、有機層を分離し、減圧下90℃で濃縮した後、目的の環状ポリスルフィドを35.2g(収率95%)得た。
【0032】
*8:一般式(I)において、R=(CH22O(CH2)O(CH22、x(平均)=4及びn=1〜2の環状ポリスルフィドで、以下のようにして合成した。
30%多硫化ソーダ(Na24)水溶液89.76gにトルエン100gを加え、90℃で1,2−ビス(2−クロロエトキシ)メタン26.0g(0.15mol)を1時間滴下し、さらに4時間反応させた。反応終了後、有機層を分離し、減圧下90℃で濃縮した後、目的の環状ポリスルフィドを35.0g(収率96%)得た。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上の通り、本発明によれば、老化前後の硬度(Hs)変化率及び破断伸びの変化率に優れかつピコ摩耗及び耐クラック性に優れたゴム組成物が得られるので重荷重タイヤ用サイドトレッドなどのゴム組成物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)天然ゴム(NR)及び/又はポリイソプレンゴム(IR)とビニル・シスブタジエンゴム(VCR)の配合比率(重量比)が(NR及び/又はIR)/(VCR)=20/80〜60/40の加硫可能なゴム成分100重量部、(ii)HAFグレードのカーボンブラック40〜60重量部、(iii)一般式(I):
【化1】

(式中、Rは炭素数2〜20の置換又は非置換のアルキレン基、オキシアルキレン基又は芳香族を含むアルキレン基であり、xは2〜6の整数、nは1〜20の定数である)
で表される環状ポリスルフィド0.1〜10重量部並びに(iv)加硫促進剤を含んでなり、加硫促進剤(iv)/環状ポリスルフィド(iii)の比(重量比)が0.1〜0.5である重荷重タイヤ用サイドトレッドゴム組成物。
【請求項2】
前記環状ポリスルフィド化合物が、式:X−R−X(式中、Xは、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表し、Rは置換もしくは非置換のC2〜C18のアルキレン基又はオキシアルキレン基を示す)のジハロゲン化合物と、式M2x(式中、Mはアルカリ金属であり、xは2〜6の整数である)のアルカリ金属の多硫化物とを、親水性及び親油性溶媒の非相溶性混合溶媒中で2相系で反応させて得られたものである請求項1に記載の重荷重タイヤ用サイドトレッドゴム組成物。

【公開番号】特開2006−206636(P2006−206636A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16869(P2005−16869)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】