説明

重質油の接触分解触媒及びオレフィンと燃料油の製造方法

【課題】重質炭化水素の接触分解において、軽質パラフィン類の生成を抑制し、オレフィン類を効果的に製造する触媒、及びこの触媒を用いて、重質炭化水素から、オレフィン類を高い収率で製造する方法を提供する。
【解決手段】炭化水素原料を接触分解するための触媒であって、(A)希土類元素及びジルコニウムで修飾したペンタシル型ゼオライトと、(B)ホージャサイト型ゼオライトを含有する接触分解触媒、及び前記触媒に、沸点180℃以上の炭化水素留分を50質量%以上含む重質油を接触させ、分解するオレフィン及び燃料油の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライトを含有する接触分解触媒及びそれを用いるオレフィンと燃料油の製造方法に関し、特に、希土類元素及びジルコニウムで修飾したペンタシル型ゼオライトと、ホージャサイト型ゼオライトを含有する接触分解触媒、及び該接触分解触媒を用いることによって、重質油(沸点180℃以上の炭化水素留分を50%以上含む)を接触分解し、オレフィン類(特にプロピレン)及び燃料油を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軽質オレフィン、特にプロピレンは各種化学品の基礎原料として重要な物質である。従来、軽質オレフィンの製造方法としては、ブタンあるいはナフサ等の軽質炭化水素を原料とし、外熱式の管状炉内で水蒸気雰囲気下に加熱分解する方法が広く実施されている。しかしながらこの方法では、オレフィン収率を高めるため800℃以上の高温を必要とすること、またそのために高価な装置材料を使用しなければならないという経済的に不利な点を有している。また、ゼオライト触媒を用いた流動床接触分解(Fluid Catalytic Cracking、以下FCCと略すことがある)で重質油から燃料油と共に副生成物としてプロピレン等のオレフィンを製造する方法も実施されているが、価値の低い軽質パラフィンの生成が多いという課題があった。
【0003】
特許文献1には、Y型ゼオライト及びリン、マグネシウム等を含有するペンタシル型ゼオライトを含む触媒を用い、炭化水素留分を接触分解して軽質オレフィンを製造する方法が開示されている。該文献の実施例(表2)には、蒸留範囲229〜340℃の炭化水素留分を接触分解し、炭素数2〜4のオレフィン類が13〜14質量%で生成している例が記載されている。しかし、その際の「クラッキングガス」は約27質量%となっており、この「クラッキングガス」量から炭素数2〜4のオレフィン類の量を差し引いて得られる価値の低い軽質パラフィン類は13〜14質量%も生成していることになる。
特許文献2には、ペンタシル構造を有するリン及び希土類含有高シリカ含量ゼオライトと、Y型ゼオライトを含む触媒を用いて炭化水素留分を接触分解して軽質オレフィンを製造する方法が開示されている。該文献の実施例(表4)には、蒸留範囲243〜507℃の炭化水素留分を接触分解し、炭素数2〜4のオレフィンが37.1質量%(エチレン:5.32質量%、プロピレン:18.31質量%、ブテン類:13.47質量%)生成している例が記載されている。その際の「分解ガス」は49.24質量%であり、この「分解ガス」量から炭素数2〜4のオレフィン量を差し引いた価値の低い軽質パラフィン類は12.14質量%生成していることがわかる。
【0004】
特許文献3には、特定量の希土類元素を含有する高シリカ含量ゼオライトと、Y型ゼオライト類(REY、高シリカY)を含む触媒を用いて炭化水素留分を接触分解してガソリン及び軽質オレフィンを製造する方法が開示されている。該文献の実施例(表6、実施例1)には、291℃以上の沸点の炭化水素を接触分解し、プロピレンが8.6質量%、ブテン類が7.28質量%生成している例が記載されている。しかし、プロパン生成量は3.03質量%であり、ブタン類生成量は10.11質量%であって、価値の低い軽質パラフィン類の生成量も多い。
また、通常のFCC触媒に、オレフィン生成用の添加剤としてZSM−5型ゼオライトを含有する触媒を混合させて行う接触分解方法も知られている。特許文献4には、Y型ゼオライトとZSM−5型ゼオライトの物理混合物を触媒として用いた接触分解方法が開示されている。該文献の実施例(表2)には、減圧軽油(VGO)を接触分解し、プロピレンが17.8質量%、ブテン類が13.8質量%生成している例が記載されている。しかし、炭素数2〜4のパラフィンが14.6質量%であり、軽質パラフィン類が多く生成している。
【0005】
非特許文献1には、商業用のFCC触媒に、ZSM−5を含有する添加剤を混合させて重質油の接触分解を行った結果が開示されている。プロピレンとブテンの生成量が、6%+5.8%=11.8%、であるのに対して、それ以外の軽質パラフィン類(ドライガス+LPG−プロピレン−ブテン)の生成量は6.2%であり、軽質パラフィン類の生成比率( 軽質パラフィン類/(ドライガス+LPG))は約34%と高い。
特許文献5には、希土類元素及びジルコニウムで修飾したペンタシル型ゼオライトを用いてブタンの分解を行い、プロピレンが14〜22質量%で生成している例が開示されているが、原料としてブタン、ナフサ等の軽質炭化水素を想定しており、重質油への適用可能性については記載されていない。
また、ダウンフロー型の流動床反応装置を用い、重質油を接触分解し、オレフィンと燃料油を製造する方法が開示されているが(特許文献6、7、8等)、触媒/原料油比(C/O比)が20〜40と多量の触媒を必要とし、また軽質パラフィン量も依然多い(特許文献8、表2:プロピレン/プロパン比=10.5)。
【0006】
このように、重質炭化水素の接触分解において、価値の低い軽質パラフィン類の生成を抑制し、オレフィン類を効果的に製造する触媒はまだ見出されていないのが実情であった。
【0007】
【特許文献1】特開平11−192431号公報
【特許文献2】特表平9−504817号公報
【特許文献3】米国特許第5,358,918号明細書
【特許文献4】特開平6−220466号公報
【特許文献5】特開2004−143373号公報
【特許文献6】特開平10−60453号公報
【特許文献7】特開2002−241764号公報
【特許文献8】特開2005−29620号公報
【非特許文献1】触媒化成技報、第17巻、15〜24頁、2000年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況下で、重質炭化水素の接触分解において、軽質パラフィン類の生成を抑制し、オレフィン類を効果的に製造する触媒、及びこの触媒を用いて、重質炭化水素から、オレフィン類を高い収率で製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、希土類元素及びジルコニウムで修飾したペンタシル型ゼオライトと、ホージャサイト型ゼオライトの両者を含有する触媒では、重質炭化水素の接触分解反応において、軽質パラフィンの生成が抑制され、高いオレフィン収率が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、
(1)炭化水素原料を接触分解するための触媒であって、(A)希土類元素及びジルコニウムで修飾したペンタシル型ゼオライトと、(B)ホージャサイト型ゼオライトを含有することを特徴とする接触分解触媒、
(2)(A)成分と(B)成分の割合が、質量比で1:0.1〜1:10である上記(1)に記載の接触分解触媒、
(3)(A)成分と(B)成分との合計含有量が、触媒全量基準で、5〜50質量%である上記(1)又は(2)に記載の接触分解触媒、
(4)希土類元素及びジルコニウムで修飾したペンタシル型ゼオライト中の希土類元素の含有量が、ゼオライト中のアルミニウムに対して、原子比で0.4〜20である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の接触分解触媒、
(5)触媒成分中にリンを含む上記(1)〜(4)のいずれかに記載の接触分解触媒、
(6)リンの含有量が、触媒全量基準で0.1〜5質量%である上記(5)に記載の接触分解触媒、
(7)ペンタシル型ゼオライトがZSM−5及び/又はZSM−11である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の接触分解触媒、
(8)ホージャサイト型ゼオライトがY型ゼオライトである上記(1)〜(7)のいずれかに記載の接触分解触媒、及び
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の触媒に、沸点180℃以上の炭化水素留分を50質量%以上含む重質油を接触させ、分解することを特徴とするオレフィン及び燃料油の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、重質炭化水素を原料とし、価値の低い軽質パラフィン類の生成を抑制し、高い収率でエチレン、プロピレン等の軽質オレフィンを製造し得る触媒を提供することができる。この触媒を用いることによって、パラフィン類を分離するために必要なコストが削減され、また従来の加熱分解法に比較して100℃以上低い経済的に有利な条件でオレフィンの製造を実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の触媒は、炭化水素原料を接触分解するための触媒であって、該炭化水素原料としては、沸点180℃以上の炭化水素留分を50質量%以上含む重質油が用いられる。このような重質油としては、例えば、脱硫常圧軽油(DS−LGO)、脱硫減圧軽油(DS−VGO)、脱硫常圧残油(DS−ARC)等の炭化水素留分を挙げることができる。
【0013】
本発明の触媒は、(A)希土類元素及びジルコニウムで修飾したペンタシル型ゼオライトと、(B)ホージャサイト型ゼオライトを含有すると共に、必要に応じてその他の成分、例えば粘土鉱物や無機酸化物を含有することができる。(A)触媒成分におけるペンタシル型ゼオライトとしては、特にZSM−5及び/又はZSM−11が好ましく、SiO2/Al23(モル比)は好ましくは25〜800、より好ましくは30〜300、さらに好ましくは40〜200である。該ペンタシル型ゼオライトを修飾するための希土類元素はどのようなものでも使用可能であるが、好ましくはランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム等を挙げることができる。希土類元素は、それぞれを単独で使用しても、また、2種以上を混合して使用してもよい。触媒への希土類元素の修飾は、種々の塩、例えば酢酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、あるいはアルコキシド、アセチルアセトナト錯体等を使用し、イオン交換法、含浸法あるいは水熱合成法その他の方法で行うことができる。
【0014】
本触媒の性能発現には、(A)触媒成分においては、希土類元素に加えてさらにジルコニウムを触媒に含有させることが必須である。ジルコニウムのゼオライトへの導入は、各種ジルコニウム化合物を用いたイオン交換法、含浸法あるいは水熱合成法その他の方法で行うことができる。ゼオライトに対する希土類元素、ジルコニウムの修飾の順序は特にこだわらないが、ジルコニウムによる修飾を行った後、希土類元素での修飾を行う方がより好ましい。
【0015】
(A)触媒成分における希土類元素及びジルコニウムはゼオライト上に担持あるいは含有されていることが重要であり、ゼオライトと希土類元素、及びジルコニウムの化合物(酸化物等)を物理的に混合しただけでは本触媒の効果は得られない。
【0016】
(A)触媒成分において、希土類元素の含有量は、(A)触媒成分におけるゼオライト中のアルミニウムに対し原子比で0.4〜20程度が良好であり、好ましくは0.6〜5、さらに好ましくは0.8〜3である。該原子比が0.4以上であれば、副生成物であるパラフィン類の生成が抑制され、また20以下であれば、触媒活性は良好で、オレフィン収率が高くなる。
一方、ジルコニウムの含有量は、その合計のモル数が、(A)触媒成分におけるゼオライト中のアルミニウムのモル数に対し、好ましくは0.1〜20、より好ましくは0.5〜10、さらに好ましくは1〜5である。ジルコニウムのモル数が0.1以上であれば、目的物の選択率が高くなり、20以下であれば、触媒活性が良好となる。
またジルコニウムのみで修飾し希土類元素を含まない場合も、副生成物が増大するため、希土類元素とジルコニウムは、その両者の効果により副生成物(軽質パラフィン類)の生成を抑制し、オレフィンの選択率を向上させていることが考えられる。
【0017】
前記(A)触媒成分と併用される(B)触媒成分としては、ホージャサイト型ゼオライトが用いられる。ホージャサイト型ゼオライトとしてはY型ゼオライトが好ましく、このY型ゼオライトとしては、例えばREYやUSYなどを挙げることができる。
本発明の触媒においては、前記(A)触媒成分と(B)触媒成分の含有割合は、触媒活性及びオレフィン生成の選択性などの面から、質量比で、好ましくは1:0.1〜1:10、さらに好ましくは1:0.5〜1:2である。
また、本発明の触媒においては、前記(A)触媒成分及び(B)触媒成分と共に、必要に応じ、その他の成分、例えばカオリンなどの粘土鉱物、シリカやアルミナなどの無機酸化物を併用することができる。前記(A)触媒成分と(B)触媒成分との合計含有量は、触媒活性及びオレフィン生成の選択率などの面から、触媒全量基準で、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%、さらに好ましくは15〜30質量%である。
【0018】
本発明の触媒の形状は特に限定されず、粉末や成型品等のいずれの形状のものでもよい。また、これらの触媒はゼオライト及び希土類元素、及びジルコニウム以外の他の成分、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、貴金属、ハロゲン、リン、バインダー等が含まれていてもよい。シリカ、アルミナ、マグネシアあるいは石英砂等の充填剤と混合して使用することも可能である。これらの中でリンは、触媒の耐久性向上の面で、本触媒の性能を長期間維持できるため、触媒成分として添加することが望ましい。リンの含有量は、触媒全量に対して、通常0.1〜5質量%程度である。
【0019】
次に、本発明のオレフィン及び燃料油の製造方法においては、前述した本発明の接触分解触媒に、沸点180℃以上の炭化水素留分を50質量%以上含む重質油を接触させ、分解することにより、オレフィン及び燃料油を製造する。なお、重質油の具体例については、前述で説明したとおりである。
本発明における接触分解反応の様式は特に限定しないが、固定床、移動床、流動床等の形式の反応器を使用し、前述の触媒を充填した触媒層へ重質油を供給することにより行われる。この際、重質油は、窒素、水素、ヘリウムあるいはスチーム等で希釈されていてもよい。反応温度は350〜780℃程度、好ましくは400〜650℃、さらに好ましくは500〜600℃の範囲である。780℃以下では、メタン及びコークの生成が抑制される。また350℃以上であれば十分な活性が得られ、一回通過あたりのオレフィン収量が多くなる。反応圧力は常圧、減圧あるいは加圧のいずれでも実施できるが、通常は常圧からやや加圧が採用される。
【0020】
以上のような条件下に本発明の方法を実施すれば、重質油を原料として、副生成物である軽質パラフィンの生成を抑制しながら該重質油を効率よく分解でき、プロピレン、ブテン等の軽質オレフィンを選択的に製造することができると共に、燃料油を製造することができる。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1
ゼオライトとして粉末状のプロトン型ZSM−5ゼオライト(SiO2/Al23(モル比)=40、比表面積380m2/g)を用い、二硝酸酸化ジルコニウム(IV)を溶解させた水溶液に含浸し、減圧下で攪拌しながら水分を蒸発させ、白色の粉末を得た。得られた粉末を空気中、120℃で8時間乾燥した後、マッフル炉内で4時間かけて600℃まで昇温し、600℃で5時間焼成した。得られた固体を粉砕し、さらに希土類塩化物を含む水溶液に含浸し、ジルコニウムを担持したときと同様な操作で乾燥・焼成し、白色の固体を得た。なお、使用した希土類塩化物は、希土類の混合塩化物の水和物であり、全希土類の含有量は、酸化物換算で45.5質量%、酸化物換算での希土類の組成は、La23:85.5質量%、CeO2:13.8質量%、Pr611:0.4質量%、Nd23:0.1質量%、Se23:0.1質量%及びEu23:0.1質量%であった。得られた白色固体をICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光法で分析したところ、希土類(以下、REということがある。)及びジルコニウムの含有量は、ゼオライト中のアルミニウムに対する原子比でそれぞれ0.9、及び1.0であった。得られた固体を粉砕し、さらにリン酸水素二アンモニウム水溶液を含浸し、同様な操作で乾燥・焼成した。得られた固体を乳鉢で粉砕し150μmのふるいを通過させたものをP−RE−Zr/HZSM−5ゼオライトとした。なお、リン、希土類及びジルコニウムのHZSM−5ゼオライトに対する担持量は、それぞれ4.0質量%、10.0質量%及び7.9質量%であった。
このP−RE−Zr/HZSM−5と、市販のUSYゼオライト(SiO2/Al23(モル比)=6)、REYゼオライト(SiO2/Al23(モル比)=5)、カオリン、シリカ及びアルミナの組成が、それぞれ10.0質量%、11.0質量%、2.0質量%、58.3質量%、9.7質量%及び9.0質量%となるように脱イオン水、アルミナゾル及びシリカゾルを加えて混合し、全体をスラリーとした。このスラリーをスプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し流動床型触媒に成型し、触媒Aとした。
【0023】
触媒Aを98%スチームで760℃、6時間処理して疑似平衡化させたものを用い、脱硫減圧軽油(比重:0.88、蒸留範囲254〜638℃、硫黄分0.2質量%)の接触分解反応を、流動床ベンチプラント反応器を用いて、反応管出口温度530℃、圧力150kPa、原料供給量1kg/h、触媒/炭化水素質量比=7で実施した。結果を表1に示した。生成ガス中のプロピレン(C3=)のプロパン(C3)に対する比(C3=/C3比)は15.7と高く、また炭素数1〜4の全ガス中に占めるプロピレン+ブテン(C4=)の割合((C3=+C4=)/C1〜C4ガス)も78.9%と高い値であった。
なお表1中で、LCOはライトサイクルオイルを意味し、通常、流動接触分解(FCC)又は残油流動接触分解(RFCC)により生成する軽質軽油を指す。
【0024】
実施例2
実施例1で調製した触媒Aを用い、反応管出口温度を545℃とした他は、実施例1と同じ条件で脱硫減圧軽油の接触分解反応を行った。結果を表1に示した。実施例1と同様に、プロピレン/プロパン比、及び炭素数1〜4の全ガス中に占めるプロピレン+ブテンの割合はともに高い値が得られた。
【0025】
比較例1
実施例1の触媒に替えて、公知文献(特開平10−128121、実施例1)の方法で調製したFCC触媒(比較触媒A)を擬似平衡化したものに、オレフィン増産用成分としてZSM−5型ゼオライト含有添加剤(特開2005−270851、実施例1の方法により調製したもの)を10質量%添加した混合触媒を用い、実施例1と同じ条件で脱硫減圧軽油の接触分解反応を行った。結果を表1に示した。生成ガス中のプロピレン/プロパン比は5.2と低く、また炭素数1〜4の全ガス中に占めるプロピレン+ブテンの割合も65.9%と低い値であった。
【0026】
比較例2
反応管の出口温度を545℃とした他は、比較例1と同じ条件で、脱硫減圧軽油の接触分解反応を行った。比較例1と同様に、プロピレン/プロパン比、炭素数1〜4の全ガス中に占めるプロピレン+ブテンの割合はともに低かった。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例3
実施例1と同じ触媒A(擬似平衡化したもの)を用い、脱硫常圧残油(比重:0.92、蒸留範囲338〜745℃、硫黄分0.3質量%)の接触分解反応を、流動床ベンチプラント反応器を用いて、反応管出口温度530℃、圧力150kPa、原料供給量0.5kg/h、触媒/炭化水素質量比=9で実施した。結果を表2に示した。生成ガス中のプロピレン/プロパン比(C3=/C3比)は17以上と高く、また炭素数1〜4の全ガス中に占めるプロピレン+ブテンの割合((C3=+C4=)/C1〜C4ガス)も約80%と高い値であった。
【0029】
比較例3
実施例3の触媒に替えて、残油FCC用触媒(比較触媒B、特開2001−212462、実施例1の方法により調製したもの)を擬似平衡化したものを用いた他は、実施例3と同じ条件で、脱硫常圧残油の接触分解反応を行った。結果を表2に示した。生成ガス中のプロピレン/プロパン比(C3=/C3比)は9.3と低く、また炭素数1〜4の全ガス中に占めるプロピレン+ブテンの割合((C3=+C4=)/C1〜C4ガス)も約68.6%と低かった。
【0030】
比較例4
実施例3の触媒に替えて、比較例3で用いた残油FCC触媒を擬似平衡化したものに、比較例1と同じオレフィン増産用ZSM−5型ゼオライト含有添加剤を10質量%添加した混合触媒を用い、実施例3と同じ条件で脱硫常圧残油の接触分解反応を行った。結果を表2に示した。生成ガス中のプロピレン/プロパン比は11.3、炭素数1〜4の全ガス中に占めるプロピレン+ブテンの割合は70.4%であり、いずれも実施例3と比較して低い値であった。
【0031】
比較例5
実施例1記載の方法においてジルコニウムの担持操作を行わなかった以外は実施例1と同様の方法で、ジルコニウムを含まない触媒(比較触媒C)を調製した。
触媒Aに替えて、比較触媒Cを擬似平衡化したものを用いた他は、実施例3と同じ条件で、脱硫常圧残油の接触分解反応を行った。結果を表2に示した。生成ガス中のプロピレン/プロパン比は13.3、炭素数1〜4の全ガス中に占めるプロピレン+ブテンの割合は76.5%であり、いずれも実施例3と比較して低い値であった。
【0032】
【表2】

【0033】
実施例4
反応管出口温度を545℃とした他は、実施例3と同じ条件で脱硫常圧残油の接触分解反応を行った。結果を表3に示した。実施例3と同様に、プロピレン/プロパン比、炭素数1〜4の全ガス中に占めるプロピレン+ブテンの割合はともに高い値が得られた。
【0034】
比較例6〜8
触媒Aに替えて、比較例6では比較例3で用いた残油FCC触媒を擬似平衡化したもの、比較例7では上記残油FCC触媒を擬似平衡化したものに比較例1で用いたオレフィン増産用ZSM−5型ゼオライト含有添加剤を10質量%添加した混合触媒、比較例8では比較例5で調製した比較触媒Cを、それぞれ用いた他は、実施例4と同じ条件で脱硫常圧残油の接触分解反応を行った。結果を表3に示した。いずれも実施例4と比較して、プロピレン/プロパン比、炭素数1〜4の全ガス中に占めるプロピレン+ブテンの割合はともに低かった。
【0035】
【表3】

【0036】
実施例5及び比較例9
実施例1と同様な方法で、希土類元素及びジルコニウムで修飾したP−RE−Zr/HZSM−5ゼオライトを調製した。このP−RE−Zr/HZSM−5ゼオライトと、カオリン、シリカ、アルミナの組成がそれぞれ25質量%、49質量%、19質量%、7質量%となるように脱イオン水、アルミナゾル及びシリカゾルを加えて混合し、全体をスラリーとした。このスラリーをスプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、Y型ゼオライトを含まない流動床型触媒に成型し、比較触媒Dを得た。
実施例1で調製した触媒Aと、上記で調製した比較触媒D(いずれも擬似平衡化したもの)を用い、それぞれマイクロ活性試験装置(MAT装置)により反応管出口温度550℃、触媒/炭化水素質量比=4で脱硫減圧軽油の接触分解反応を行った。結果を表4に示した。実施例5と比較して、Y型ゼオライトを含まない触媒(比較例9)では、同等の条件で重質炭化水素があまり分解せず、プロピレン+ブテンの生成量が低かった。
【0037】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素原料を接触分解するための触媒であって、(A)希土類元素及びジルコニウムで修飾したペンタシル型ゼオライトと、(B)ホージャサイト型ゼオライトを含有することを特徴とする接触分解触媒。
【請求項2】
(A)成分と(B)成分の割合が、質量比で1:0.1〜1:10である請求項1記載の接触分解触媒。
【請求項3】
(A)成分と(B)成分との合計含有量が、触媒全量基準で、5〜50質量%である請求項1又は2に記載の接触分解触媒。
【請求項4】
希土類元素及びジルコニウムで修飾したペンタシル型ゼオライト中の希土類元素の含有量が、ゼオライト中のアルミニウムに対して、原子比で0.4〜20である請求項1〜3のいずれかに記載の接触分解触媒。
【請求項5】
触媒成分中にリンを含む請求項1〜4のいずれかに記載の接触分解触媒。
【請求項6】
リンの含有量が、触媒全量基準で0.1〜5質量%である請求項5に記載の接触分解触媒。
【請求項7】
ペンタシル型ゼオライトがZSM−5及び/又はZSM−11である請求項1〜6のいずれかに記載の接触分解触媒。
【請求項8】
ホージャサイト型ゼオライトがY型ゼオライトである請求項1〜7のいずれかに記載の接触分解触媒。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の触媒に、沸点180℃以上の炭化水素留分を50質量%以上含む重質油を接触させ、分解することを特徴とするオレフィン及び燃料油の製造方法。

【公開番号】特開2007−190520(P2007−190520A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12967(P2006−12967)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(502053100)石油コンビナート高度統合運営技術研究組合 (72)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】