説明

重金属処理剤及びそれを用いた重金属汚染物の無害化処理方法

【課題】 重金属の処理特性が優れた新規なマンガン複合酸化物を有効成分とする重金属処理剤、及びこの重金属処理剤を用いた各種重金属類を含む廃棄物、廃水、土壌の無害化処理する方法を提供する。
【解決手段】(Ca及び/又はMg)/Mn比が0.1〜0.8でのCa及び/又はMgとMnとの複合酸化物を含んでなる重金属処理剤を用いる。複合酸化物は、層状結晶であることが好ましい。複合酸化物からCa及び/又はMgを溶出し、(Ca及び/又はMg)/Mn比を0.1〜0.3とすることが特に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属を含有する固体廃棄物、例えば、ゴミ焼却場から排出される焼却灰及び飛灰、重金属に汚染された土壌、排水処理後に生じる汚泥、工場から排出される排水等に含有される鉛、カドミウム、銅、亜鉛、ニッケル、タリウム等の有害な重金属を簡便、かつ高効率で安定的に無害化することのできる重金属類処理剤、並びに重金属汚染物の無害化処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マンガン酸化物は、重金属を吸着することが知られている。例えば二酸化マンガンは結晶構造的にα、β、γ、η、δ及びεのように分類され、これらを用いて廃水等に含まれる各種重金属を吸着し無害化処理する方法が知られている。
【0003】
例えば、ガンマ(γ)型二酸化マンガンまたはガンマ(γ)型二酸化マンガンを主成分とする粉末を他の金属イオンを含有した酸性溶液で混練、造粒し、これを加熱することにより得られるベータ(β)型二酸化マンガンを浄化用濾材として用いる方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
また重金属を含む汚水に二酸化マンガンの粉末を加え、中性領域において攪拌処理することにより金属イオンを沈澱させて分離する重金属イオンの除去法が開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
さらに、平均粒径:0.1〜5μmの主として球状の、しかも表面に無数の突起を有する比表面積(BET値)が50m2/g以上である活性化二酸化マンガンが吸着剤として優れていることが開示されている(特許文献3参照)。
【0006】
K、Na,H,Ca,Mg及びBaからなる群から選ばれる1つ又は2つ以上の陽イオンを含むα-二酸化マンガンを含有する重金属固定化剤が開示されている(特許文献4参照)。
【0007】
しかし、これらの方法で用いられているマンガン酸化物は、近年規制が強化されている水質汚濁防止方法や廃掃法に適用できる処理剤としては性能的には不十分であり、多量の酸化物を用いることが必要なため、実用的とは言えなかった。
【0008】
【特許文献1】特開昭61−120689号
【特許文献2】特開昭62−53789号
【特許文献3】特開平06−92639号
【特許文献4】特開平08−267053号
【特許文献5】特開2001−79515
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、少量のマンガン酸化物を用い、焼却飛灰、廃水等に含まれる重金属を環境基準以下に処理できる重金属処理剤及び無害化処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、重金属汚染物質の処理においてCa及び/又はMgとMnの複合酸化物が無害化処理に非常に有効であることを見出し、更に、Ca及び/又はMgを一部溶脱した複合酸化物では、その処理性能がさらに向上することを見出し、本発明を完成するに到ったものである。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の重金属処理剤は、Ax−Mn複合酸化物(但し、AはCa及び/又はMg)の表記において0.1≦x≦0.8であるCa及び/又はMgとMnの複合酸化物を含んでなるものである。
【0013】
本発明の重金属処理剤は、Ca及び/又はMgの一部を溶出して用いることにより特に重金属処理能を高めることができる。その場合、Ax−Mn複合酸化物(但し、AはCa及び/又はMg)の表記において0.1≦x<0.3であることが好ましい。
【0014】
本発明の重金属処理剤の複合酸化物は、無定形層状、又は層状結晶構造を有することが好ましい。
【0015】
本発明の重金属処理剤は、例えばA=Ca、x=0.5、化学式でCaMnの場合において面間隔が約2.4Å(面間隔約3.0ÅにあるCaCOの不純物ピークは除く)を示すもので、従来知のCaMn(ASTMカードの標準物質 面間隔は4.82、2.69、2.22及び2.05Å)とは異なる結晶性の層状結晶構造を有しているもので高い性能が得られた。
【0016】
同様にA=Mg、x=0.5の場合、面間隔が9.3、7.2、4.7及び3.5Åを有しており、従来のMgMn(ASTMカード標準物質 面間隔4.9、3.1、2.9、2.8及び2.5Å)とは結晶性の異なる層状結晶構造を有しているもので高い性能が得られた。
【0017】
AがCaの場合において、Caを溶出するとδ型の二酸化マンガンに類似した層状型となり、Mgの場合、バーネサイト(NaMn1427・9HO)の層状型となる。
【0018】
本発明の重金属処理剤に用いるAx−Mn複合酸化物は、水溶性のマンガン化合物とCa及び/又はMgを含有する化合物を混合し、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液で加水分解中和した後、酸化剤で酸化することにより得ることができる。
【0019】
用いるマンガン化合物は限定されるのもではなく、水溶性であればいかなる化合物も適用できるが、経済性及び腐食から硫酸塩を用いるのが好ましい。
【0020】
Caを含有する化合物としては、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩、炭酸塩及び水酸化物を用いることができるが、無害化処理性能から硝酸塩又は水酸化物が好ましく、経済性より水酸化物が特に好ましい。
【0021】
Mgを含有する化合物としては、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩、炭酸塩及び水酸化物を用いることができるが、硝酸塩、硫酸塩が好ましい。
【0022】
加水分解中和に用いるアルカリ水溶液は、強アルカリを呈するものを用いることが好ましく、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等用いることができ、特に水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0023】
Ca及び/又はMgの含有組成は、Mnに対して0.1モルから0.8モルの範囲で合成することが好ましく、特に0.3モルから0.8モルにすることが好ましい。それらを一部溶出して用いる場合、溶出後の組成比で0.1モルから0.3モルとして用いることが好ましい。
【0024】
Mnに対するCa及び/又はMgの組成比が最初から0.1モル未満の場合は、重金属類の無害化処理性能は低下する。また、0.8を超える場合も処理性能が低下し易い。
【0025】
Ca及び/又はMgの溶出は、酸化剤及び酸によりできるが、安価な酸を用いることが好ましい。
【0026】
酸は、有機酸及び無機酸とも適用できるが、一般的な鉱酸である硫酸、塩酸、硝酸を用いることが好ましく、中でも硫酸が特に好ましい。また、酸濃度は特に限定されるものではない。
【0027】
本発明のAx−Mn複合酸化物は、焼却灰又は飛灰、土壌、地下水並びに廃水等、各種の重金属を含有する汚染物質に添加、混合することにより、重金属を処理することができる。添加する際には水を添加し、混練することが好ましい。
【0028】
ごみ焼却灰や飛灰中には、各種ごみに含まれていた重金属類が濃縮されている。特に飛灰や溶融飛灰において顕著であり、溶融飛灰の中にはパーセントオーダーで鉛のような重金属が含まれているものも数多く、無害化処理が必要とされる。飛灰や溶融飛灰は焼却炉の構造や運転方法の違いにより、アルカリ性飛灰、中性飛灰、アルカリ性溶融飛灰、中性溶融飛灰等の種類があり、また、焼却するごみの種類によって含まれる重金属類の種類と含有量は大きく異なっている。本発明の重金属処理剤はどのような種類の飛灰にも用いることができる。
【0029】
本発明の重金属処理剤は、重金属類を含んだ土壌の処理にも有効であり、重金属類を含んだ土壌に対して、当該重金属類処理剤を添加し混練することで無害化処理できる。この場合にも必要に応じて、さらに水を添加し、混練することが好ましい。
【0030】
さらには、本発明の重金属処理剤は、重金属類を含んだ廃水の処理にも可能である。重金属を含んだ廃水に対して、重金属類処理剤を添加し混合する、或いは、カラム等に当該重金属類処理剤を充填し重金属で汚染された廃水を通水することで無害化が可能となる。
【0031】
本発明の重金属処理剤の使用量は、汚染物質中の重金属含有量によっても異なるため一概に規定できないが、ごみ焼却灰や飛灰等、混合しにくい固形物系処理物に対しては0.1〜50wt%、好ましくは0.5〜30wt%添加して用いることが好ましい。特に均一に分散し易い水系処理物(排水、地下水)に対しては、0.01〜20wt%、好ましくは0.05〜10wt%を混合して用いることができる。
【0032】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、他の助剤を添加して用いてもよい。
【0033】
本発明の重金属処理剤で処理が可能な重金属としては特にPb、Cd、Zn、Cu及びTlの処理が可能であるが、特に、Pb、Cuに対する性能が高く、少量の添加で高度の処理が可能となる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の重金属類処理剤は、重金属汚染物質に対し少量の添加で高度の無害化処理ができ、処理後の重金属元素は完全に固定化されるため再溶出のない極めて安定な処理が可能となる。
【実施例】
【0035】
以下本発明を実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
実施例1
0.5mol/Lの硫酸マンガン(MnSO・5HO)に0.25mol/Lの水酸化カルシウム(Ca(OH))を分散させ、このスラリー液に1.5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液(NaOH)を攪拌しながら添加した。その後、エアーポンプで500mL/minの空気を導入しつつ3日間熟成した。得られた生成物はろ過、水洗、乾燥した。
【0037】
得られた生成物を溶解させ、組成分析を行ったところCa/Mnモル比は0.48であった。また、生成物のXRD測定結果を図1に示す。
【0038】
実施例2
実施例1のCa(OH)の濃度を0.375mol/Lとして合成した以外は同様とした。
【0039】
得られた生成物の組成分析を行ったところCa/Mnモル比は0.67であり、結晶性は実施例1と同様であった。
【0040】
実施例3
0.5mol/Lの硫酸マンガン(MnSO・5HO)に0.25mol/Lの硫酸マグネシウム(MgSO)を溶解させた水溶液に2.6mol/Lの水酸化ナトリウム溶液(NaOH)を攪拌しながら添加した。その後、エアーポンプで500mL/minの空気を導入しつつ3日間熟成した。得られた生成物はろ過、水洗、乾燥した。
【0041】
得られた生成物を溶解させ、組成分析を行ったところMg/Mnモル比は0.45であった。また、生成物のXRD測定結果を図2に示す。
【0042】
実施例4
実施例1のCa(OH)の濃度を0.125mol/Lとして合成した以外は同様とした。
【0043】
得られた生成物の組成分析を行ったところCa/Mnモル比は0.23であった。
【0044】
(試験1)
実施例1、実施例2、実施例3、及び実施例4で得られた生成物を用いて、初期のPb濃度が10ppmでpH7の溶液500mLを30分間処理し、溶液中の残存Pb濃度を測定した。
【0045】
実施例1、実施例2及び実施例4の結果を図3に、実施例3の結果を図4に示す。実施例1〜3は、50〜80mgの処理剤添加で水質基準値の0.01mg/Lが達成されたが、実施例4では性能が若干低下した。
【0046】
(試験2)
実施例1で得られた生成物を用いて、Pb、Cu、Cd、Zn及びTlの初期濃度が10ppmの溶液を試験1と同様の方法で処理した。
【0047】
結果を表1に示す。いずれの重金属元素も残存濃度は100mg添加で1/10以下に低減できた。
【0048】
【表1】

【0049】
(試験3)
Pbの溶出濃度が31ppm、Cuが2ppmの中性飛灰に実施例1の生成物を添加して、環境庁告示13号試験に従い処理した。その結果を表2に示す。飛灰に対し25%添加で0.01mg/Lの処理が達成された。
【0050】
【表2】

【0051】
実施例5
実施例1で得られた生成物を1規定の硫酸、硝酸を用いて、また、実施例3の生成物を1規定の塩酸で3時間の浸漬処理を行った。
【0052】
酸処理後のそれぞれの粉体の組成分析を行ないCa/Mnモル比を測定したところ、実施例1の硫酸処理は0.28(0.48→0.28)、硝酸処理は0.12(0.48→0.12)、実施例3の塩酸処理は0.15(0.45→0.15)となった。また、実施例1の硫酸処理後のXRD測定の結果を図5に、実施例3の塩酸処理後のXRD測定結果を図6に示すが、いずれも層状型のパターンを示した。
【0053】
比較例1
実施例1で得られた生成物を2規定の硫酸を用いて3日間浸漬して処理した。
酸処理後のCa/Mnモル比は0.06であった。
【0054】
(試験4)
実施例5の硫酸処理品及び比較例1の処理品を用いて、初期のPb濃度が10ppmでpH7の溶液500mLを30分間処理し、溶液中の残存Pb濃度を測定した。
【0055】
結果を図7に示す。実施例5では少量の添加で高性能を示したが、x値が0.1未満の比較例1では性能が低かった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】Ca−Mn複合酸化物のXRD測定図(実施例1)
【図2】Mg−Mn複合酸化物のXRD測定図(実施例3)
【図3】Ca−Mn複合酸化物を用いたPbの処理能力を示すグラフ(実施例1、実施例2、実施例4)
【図4】Mg−Mn複合酸化物を用いたPbの処理能力を示すグラフ(実施例3)
【図5】Caを溶出させたCa−Mn複合酸化物のXRD測定図(実施例5)
【図6】Mgを溶出させたMg−Mn複合酸化物のXRD測定図(実施例5)
【図7】Caを溶出させたCa−Mn複合酸化物を用いたPbの処理能力を示すグラフ(実施例5、比較例1)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ax−Mn複合酸化物(但し、AはCa及び/又はMg、0.1≦x≦0.8)を含んでなる重金属処理剤。
【請求項2】
請求項1に記載の重金属処理剤から一部A成分を溶出して得られるAx―Mn複合酸化物(但し0.1≦x<0.3)を含んでなる重金属処理剤。
【請求項3】
結晶構造が層状結晶構造である請求項1及至請求項2のいずれかに記載の重金属処理剤。
【請求項4】
層状結晶構造がバーネサイト構造である請求項3に記載の重金属処理剤。
【請求項5】
重金属類を含む焼却灰又は飛灰、土壌、地下水並びに廃水のいずれかに、請求項1及至請求項4のいずれかに記載の重金属類処理剤を添加する無害化処理方法。
【請求項6】
重金属がPb、Cd、Zn、Cu及びTlの群より選択される1種以上である請求項5に記載の無害化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−254920(P2009−254920A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103557(P2008−103557)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】