説明

重金属含有廃液処理方法及び廃液処理用重金属除去剤

【課題】海藻成分と貝殻成分とを用いて重金属(特に六価クロム)を低コストで効率的に除去しうる優れた重金属含有廃液処理方法および廃液処理用重金属除去剤の提供。
【解決手段】本発明の重金属を含む処理用廃液に海藻焼成物からなる吸着剤及び貝殻凝集沈殿剤を順次又は同時に添加し撹拌することを特徴とする。前記海藻焼成物の海藻が緑藻綱、紅藻綱又は褐藻綱から選ばれた少なくとも1種であり、前記褐藻綱の海藻が、コンブ目チガイソ科又はコンブ目コンブ科であり、前記コンブ目チガイソ科が、ワカメ、ヒロメ又はコンブ目コンブ科のカジメから選ばれた少なくとも1種である。前記海藻焼成物は、200℃〜350℃で焼成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属含有廃液処理方法及び廃液処理用重金属除去剤に関し、更に詳しくは、低コストで廃棄物中の重金属を除去することができる優れた重金属含有廃液処理方法及び廃液処理用重金属除去剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有害物質として排出される重金属として、主にカドミウム、鉛、水銀、六価クロム、ヒ素、セレンなどがあり、これらは水質汚染防止法において有害物質に指定されている。これらの他にも多くの種類の重金属による汚染が危惧され、その除去のための処理方法が種々研究されている。これらの中でも、特に六価クロムについて、その処理が困難とされている。
【0003】
一方、六価クロムは、昨今、耐酸化性に富み、融点が高いため特殊鋼、非鉄合金、クロムめっき・クロムメートなどの表面処理、顔料、皮なめしなどに広く使用されている。この六価クロムは、クロム化合物中で強い毒性を示し、前述のごとく有害物質に指定されている。また六価クロムは、近年、セメントやセメント固化材中に含まれており、固化したコンクリートからも溶出する。したがって、現在の我々の生活環境には多くのコンクリート製品・構造物が存在するため、これらから溶出する六価クロムの環境や人体への悪影響が危惧されている。
【0004】
このような中で、六価クロムの処理方法としては、従来、六価クロムを三価クロムに還元する、いわゆる還元法があり、アルカリ剤を添加して水酸化クロム(III)として沈殿分離する方法である(例えば、非特許文献1参照)。イオン交換法は、六価クロムを含むクロム酸が陰イオン交換樹脂に強く吸着される(例えば、非特許文献2参照)。吸着法は、従来、活性炭は取り扱いが簡単で高い除去効果を有するためにもっぱら使用されているが、この他、陸上植物、水生植物、海藻、カビなどの微生物などを利用した生物吸着剤を用いる研究も行われている(例えば、非特許文献3参照)。凝集沈殿剤としては、従来、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、ポリアクリルアミドなどが土木浚渫工事や上・下水処理場の濁水の固液分離に用いられており、更に貝殻は、貝類の養殖の結果、大量の貝殻が廃棄処分されている。貝殻は、炭酸カルシウムの小結晶が集まった多結晶体であり、蜂の巣のような稜柱構造、薄い葉を何枚も重ねたような葉状構造、炭酸カルシウム結晶が交差し空隙の多いチョーク構造などのさまざまな構造を持っている。また水中に分散される微粒子は、マイナス電荷を帯びており、貝殻に含まれるカルシウムイオンは、水中に分散する粒子のもつマイナス電荷を相殺し、粒子の凝集を引き起こす。しかも貝殻は前述のような複雑な結晶構造のため、表面積が非常に大きいと考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】加藤勇、クロム(VI)排水の処理「新・公害防止の技術と法規2009水質編II(公害防止の技術と法規編集委員会編)産業環境管理協会、東京、2009;212−217
【非特許文献2】東レリサーチセンター調査研究部門、クロム(VI)排水のリサイクル.「水リサイクル・廃棄物処理技術−技術分野別、排水・廃水種別の最新動向−」(井出哲夫編)技報堂出版株式会社、東京、1976;517−521
【非特許文献3】Murphy V、Hughes H、McLoughlin P.Comparative study of chromium biosorption by red、green and brown seeweed biomass.Chemosphere 2008;70:1128−1134.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述のごとき非特許文献1に記載の六価クロムの除去方法である還元法は、還元された三価クロムが一部六価クロムに戻る再生反応が生じるなどにより六価クロムの除去効果はあまり高くないという問題がある。また非特許文献2に記載のイオン交換法では、樹脂を再生する際に得られる濃厚なクロム酸を回収することができるので、これを防腐剤として再利用することができる利点があるものの、処理コストが高い点で大規模な廃液処理には適さないという問題がある。更に非特許文献3に記載の吸着法もまた、活性炭が高価であるため、大規模な廃液処理には適さない。また生物処理剤のうち、海藻を用いる方法が示されているが、研究段階であり高効率かつ低コストを達成するには今ひとつ十分ではないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明者等は、上記の問題点を種々検討する中、海藻を吸着剤として使用すると共に、貝の養殖の副産物として大量に廃棄されている貝殻を凝集沈殿剤として用いることに着目し、研究した結果、安価で十効率的に重金属を除去できる、海藻成分と貝殻成分とを用いた重金属含有廃液処理方法を見出すと共に、廃液処理用重金属除去剤を見出し、ここに本発明をなすに至った。
【0008】
したがって、本発明が解決しようとする第1の課題は、海藻成分と貝殻成分とを用いて重金属を低コストで効率的に除去しうる優れた重金属含有廃液処理方法を提供することにある。本発明が解決しようとする第2の課題は、海藻を吸着剤として使用すると共に貝殻を凝集沈殿剤として同時に用いることにより安価で高効率で重金属を除去できる優れた廃液処理用重金属除去剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記課題は、下記の各発明によって達成される。
(1)重金属を含む処理用廃液に海藻焼成物からなる吸着剤及び貝殻凝集沈殿剤を順次又は同時に添加し撹拌することを特徴とする重金属含有廃液処理方法。
(2)前記海藻焼成物の海藻が緑藻綱、紅藻綱又は褐藻綱から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする前記第1項に記載の重金属含有廃液処理方法。
(3)前記褐藻綱の海藻が、コンブ目チガイソ科又はコンブ目コンブ科であることを特徴とする前記第1項又は第2項に記載の重金属含有廃液処理方法。
(4)前記コンブ目チガイソ科が、ワカメ、ヒロメ又はコンブ目コンブ科のカジメから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする前記第1項乃至第3項のいずれかに記載の重金属含有廃液処理方法。
(5)前記海藻焼成物は、200℃〜350℃で焼成されたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の重金属含有廃液処理方法。
(6)海藻焼成物からなる吸着剤と焼成貝殻を含む貝殻凝集沈殿剤との混合物からなることを特徴とする廃液処理用重金属除去剤。
(7)前記海藻焼成物の海藻が緑藻綱、紅藻綱又は褐藻綱から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする前記第6項に記載の廃液処理用重金属除去剤。
(8)前記褐藻綱の海藻が、コンブ目チガイソ科又はコンブ目コンブ科であることを特徴とする前記第6項又は第7項に記載の廃液処理用重金属除去剤。
(9)前記コンブ目チガイソ科が、ワカメ、ヒロメ又はコンブ目コンブ科のカジメから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする前記第6項乃至第8項のいずれかに記載の廃液処理用重金属除去剤。
(10)前記海藻焼成物は、200℃〜350℃で焼成されたものであることを特徴とする前記第6項乃至第9項のいずれかに記載の廃液処理用重金属除去剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の重金属含有廃液処理方法は、重金属を含む処理用廃液に海藻焼成物からなる吸着剤及び貝殻凝集沈殿剤を順次又は同時に添加し撹拌することにより、低コストで、より高効率で重金属、特に六価クロムを除去することができるという優れた効果を奏するものである。本発明の重金属含有廃液処理方法において、前記海藻焼成物の海藻が緑藻綱、紅藻綱又は褐藻綱から選ばれた少なくとも1種であることにより、コントロール(貝殻凝集沈殿剤のみ)に比べ、いずれも重金属、特に六価クロムの除去率がよいという格別顕著な効果を奏するものである。本発明の重金属含有廃液処理方法において、前記褐藻綱の海藻が、コンブ目チガイソ科又はコンブ目コンブ科であることにより、特に六価クロムの除去効果がよりいっそう優れている。本発明の重金属含有廃液処理方法において、前記コンブ目チガイソ科が、ワカメ、ヒロメ又はコンブ目コンブ科のカジメから選ばれた少なくとも1種であることにより、よりいっそう六価クロムの除去効果が優れている。本発明の重金属含有廃液処理方法において、前記海藻焼成物は、200℃〜350℃で焼成されたものであることにより、いっそう六価クロムの除去効果が顕著であるという優れた効果を奏するものである。
【0011】
本発明の廃液処理用重金属除去剤は、海藻焼成物からなる吸着剤と焼成貝殻を含む貝殻凝集沈殿剤との混合物からなることにより、低コストで、効率よく六価クロムの除去することができるという優れた効果を奏するものである。本発明の廃液処理用重金属除去剤は、前記海藻焼成物の海藻が緑藻綱、紅藻綱又は褐藻綱から選ばれた少なくとも1種であることにより、コントロール(貝殻凝集沈殿剤のみ)に比べ、いずれも六価クロムの除去率がよいという優れた効果を奏するものである。本発明の廃液処理用重金属除去剤において、前記褐藻綱の海藻が、コンブ目チガイソ科又はコンブ目コンブ科であることにより、特に六価クロムの除去効果が優れている。本発明の廃液処理用重金属除去剤において、前記コンブ目チガイソ科が、ワカメ、ヒロメ又はコンブ目コンブ科のカジメから選ばれた少なくとも1種であることにより、いっそう六価クロムの除去効果が優れている。本発明の廃液処理用重金属除去剤において、前記海藻焼成物は、200℃〜350℃で焼成されたものであることにより、いっそう六価クロムの除去効果が顕著であるという優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】 重金属の種類と廃液処理用重金属除去剤の除去率との関係を示すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態を説明するが、これは一例であってこれに限定されるものではない。
【0014】
本願特許請求の範囲及び明細書の記載において、「重金属を含む処理用廃液に海藻焼成物からなる吸着剤及び貝殻凝集沈殿剤を順次又は同時に添加し撹拌する」とは、「重金属を含む処理用廃液に海藻焼成物からなる吸着剤を添加し撹拌し、ついで得られた廃液に、貝殻凝集沈殿剤を添加し撹拌する」又は「重金属を含む処理用廃液に海藻焼成物からなる吸着剤と貝殻凝集沈殿剤とを同時に添加し撹拌する」という両方の方法を意味するように使用している。本発明は、重金属を含む処理用廃液に海藻焼成物からなる吸着剤及び貝殻凝集沈殿剤を順次又は同時に添加し撹拌することを特徴とする重金属含有廃液処理方法であり、具体的には、重金属は、特に有害な重金属としては、主にカドミウム、鉛、水銀、六価クロム、ヒ素、セレン、鉄(III)、マンガン、ニッケル、亜鉛、鉛などであり、最近新たに六価クロムによる環境への影響が注目されている。しかしながら、これらに限定されるものではなく、この他の重金属にも本発明が適用されることはいうまでもない。本発明に用いられる吸着剤として用いられる海藻焼成物には、その原料として緑藻綱、紅藻綱、褐藻綱などの海藻が好ましく用いられる。しかし、これに限定されるものではない。
【0015】
本発明に用いられる緑藻綱としては、アオモグサ、アナアオサ、ナガミルなどが挙げられる。また紅藻綱としては、スサビノリ、ミゾオゴノリ、ピリヒバ、サイダイバラ、オオバツノマタ、スギノリ、フクロフノリ、ヒトツマツ、フダラク、マクサ、フシツナギなどが挙げられる。褐藻綱としては、ウミウチワ、コモングサ、カゴメノリ、カヤモノリ、ハバノリ、イシゲ、ネバリモ、カジメ、マコンブ、ヒロメ、ワカメ、イソモク、ウミトラノオ、エゾノネジモク、オオバノコギリモク、オオバモク、ジュロモク、トゲモク、ヒジキ、ヤツマタモク、ヤナギモク、ヨレモクなどが挙げられる。本発明に用いられる緑藻綱、紅藻綱及び褐藻綱について、具体的に挙げたが、これらに限定されるものではない。これらの中で、好ましいものは、アオモグサ、アナアオサ、ナガミル、スサピノリ、ピリヒバ、オオバツノマタ、フクロフノリ、フダラク、マクサ、フシツナギ、ウミウチワ、コモングサ、カゴメノリ、カヤモノリ、ハバノリ、ネバリモ、カジメ、マコンブ、ヒロメ、ワカメ、イソモク、ウミトラノオ、エゾノネジモク、オオバノコギリモク、オオバモク、ジュロモク、トゲモク、ヒジキ、ヤツマタモク、ヤナギモク、ヨレモクであり、更に好ましいものは、アナアオサ、フクロフノリ、ウミウチワ、コモングサ、カゴメノリ、カヤモノリ、ハバノリ、ネバリモ、カジメ、マコンブ、ヒロメ、ワカメ、イソモク、ウミトラノオ、ヒジキ、ヤツマタモク、ヤナギモクであり、いっそう好ましいものは、ワカメ、ヒロメ又はカジメである。
【0016】
本発明に用いられる海藻焼成物は、前述のような海藻を焼成して海藻炭とし、更に粉砕して、粒状、粉末などにする。好ましくは粉末がよい。海藻の焼成時間は、150℃〜550℃であり、好ましくは180℃〜450℃であり、更に好ましくは、200℃〜350℃である。焼成温度が150℃未満であると、海藻炭中に含まれる増粘成分などにより貝殻凝集沈殿剤の凝集作用に悪影響を及ぼすので好ましくない。また焼成温度が550℃を超えると吸着効果が失われるばかりでなく製造効率が悪くなるので好ましくない。
【0017】
本発明に用いられる貝殻凝集沈殿剤は、貝類の貝殻であれば、特に問題ない。貝殻は、前述の如く炭酸カルシウムの小結晶が集まった多結晶体であり、蜂の巣のような稜柱構造、薄い葉を何枚も重ねたような葉状構造、炭酸カルシウム結晶が交差し空隙の多いチョーク構造などのさまざまな構造を持っている。また水中に分散される微粒子は、マイナス電荷を帯びており、貝殻に含まれるカルシウムイオンは、水中に分散する粒子のもつマイナス電荷を相殺し、粒子の凝集を引き起こす。しかも貝殻は前述のような複雑な結晶構造のため、表面積が非常に大きいといえる。本発明に用いられる貝殻は、安価で大量に得られる貝殻が好ましく、貝類の養殖等で得られる貝殻が大量に廃棄されていることからみて、このような貝殻、特に牡蠣の貝殻が、入手が容易であるので好ましい。
【0018】
本発明に用いられる貝殻凝集沈殿剤は、貝殻を洗浄後、乾燥し、ついで粉砕して粒状又は粉末にしたものを焼成し、焼成貝殻粉末を製造する。更にこの焼成貝殻粉末にポリ塩化アルミニウムとアクリルアミドポリマーを混合して貝殻凝集沈殿剤を製造する。この焼成貝殻粉末は、焼成温度200℃〜350℃、焼成時間60分〜180分が好ましく、更には230℃〜280℃が好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明の重金属含有廃液処理方法に用いられる重金属を含む処理用廃液には、工場から排出される工場廃液、下水道処理廃液、埋め立て処分地からの溶出液などであり、更にコンクリート製品の製造時に発生する分離水、固化コンクリートから溶出する溶出液などである。このような重金属を含む処理用廃液に、前述のような海藻焼成物からなる吸着剤を添加し撹拌する。撹拌時間は、2分〜5分、好ましくは3分前後である5分以上撹拌しても、吸着効果には殆んど影響しない。ついで、前述のような貝殻凝集沈殿剤を添加し撹拌すると凝集物が形成される。その後、ろ過して凝集物を分離する。本発明の廃液処理方法において、使用される海藻焼成物からなる吸着剤及び貝殻凝集沈殿剤は、吸着剤を添加後、貝殻凝集沈殿剤を添加するが、海藻焼成物からなる吸着剤は、重金属を含む処理用廃液100質量部に対して、0.1質量部以上、好ましくは0.2質量部以上である。また貝殻凝集沈殿は、重金属を含む処理用廃液100質量部に対して、0.2質量部以上であり、好ましくは0.5質量部以上である。
【0020】
また、本発明は、海藻焼成物からなる吸着剤と焼成貝殻を含む貝殻凝集沈殿剤との混合物からなることを特徴とする廃液処理用重金属除去剤からなり、海藻焼成物からなる吸着剤と焼成貝殻を含む貝殻凝集沈殿剤との混合比は、1:1〜1:5であり、好ましくは1:1〜1:3である。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明は一例を説明するためのものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
〔六価クロムのモデル廃液の製造〕
本発明の重金属含有廃液処理方法の廃液の代わりに使用される六価クロムのモデル廃液は、クロム酸カリウム(和光純薬製)を用いて濃度1mg/Lのクロム酸カリウム水溶液を作製した。
〔吸着剤〕
吸着剤としては、カリオン、合成ゼオライト、活性炭粉末、タマネギの表皮の焼成粉末(植物炭)、海藻炭の5種類を試験した。
【0023】
〔植物炭の製造〕
タマネギの表皮の焼成した植物炭は、タマネギの表皮をオーブンを用いて250℃で90分間焼成し、ワンダーブレンダー(大阪ケミカル株式会社製、商品名WB−1)を用いて粉砕して製造した。平均粒径100μmであった。
〔海藻炭の製造〕
海藻炭は、種々の海藻をオーブンを用いて250℃で90分間焼成し、ワンダーブレンダーを用いて粉砕して製造した。
【0024】
〔貝殻凝集沈殿剤の製造〕
マガキの貝殻を洗浄した後、乾燥し、ついでこの乾燥物をワンダーブレンダーで粉砕し、その後、250μmの篩を通過した粉砕物をオーブンを用いて250℃で90分間焼成し、焼成貝殻粉末を製造した。更に、貝殻凝集沈殿剤は、この焼成貝殻粉末90質量%、ポリ塩化アルミニウム(PAC:大明化学工業製)7質量%、アクリルアミドポリマー(SNF社製)を混合して製造した。
【実施例1】
【0025】
重金属含有廃液処理方法は、次の方法で行い、かつバッチ法により行った。6個の50mL容量のコニカルチューブのうち5個に、濃度1mg/Lのクロム酸カリウム水溶液40mLをそれぞれ注いだ。これらのそれぞれの中に吸着剤として、カリオン、合成ゼオライト、活性炭粉末、タマネギの表皮の焼成粉末(植物炭)、海藻炭をそれぞれ100mgを添加し、3分間撹拌した。その後、貝殻凝集沈殿剤を200mg添加し、撹拌すると凝集物が形成された。4000×gで2分間遠心分離を行い、上澄み液中に含まれる六価クロム濃度をジフェニルカルバジド法〔菅正彦、クロム、「水の分析第5版」(日本分析化学会北海道支部編)化学同人、京都、2005;229−232〕により多項目水質計(共立理化学研究所製 ラムダ9000)を用いて測定した。また残り1個のコニカルチューブは、貝殻凝集沈殿剤のみを添加し、コントロールとした。得られた結果を表1に示した。なお、六価クロムの除去率は、次の式で計算した。
除去率(%)={(未処理値−処理値)/未処理値}×100
なお、gは重力を表わし、4000×gは、重力の4000倍の重力加速度で遠心分離することを表わす。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から明らかなように、カリオン、合成ゼオライト及び植物炭の六価クロム除去率は、それぞれ30%、29%、28%と低いが、海藻炭の除去率は66%であり、活性炭の除去率75%に近い値を有していた。この結果からみて海藻炭は貝殻凝集沈殿剤と組み合わせることにより吸着剤として極めて優れていることがわかる。
【実施例2】
【0028】
重金属含有廃液処理方法は、次の方法で行い、かつバッチ法により行った。50mL容量のコニカルチューブに、濃度1mg/Lのクロム酸カリウム水溶液40mLを注いだ。この中に吸着剤として、表2に示す海藻から製造された海藻炭を100mgを添加し、3分間撹拌した。その後、貝殻凝集沈殿剤を200mg添加し、撹拌すると凝集物が形成された。4000×gで2分間遠心分離を行い、上澄み液中に含まれる六価クロム濃度をジフェニルカルバジド法により多項目水質計(共立理化学研究所製 ラムダ9000)を用いて測定した。海藻炭は、36種類を吸着剤の原料として用いた。また吸着剤は添加せず、貝殻凝集沈殿剤のみを添加し、コントロールとした。得られた結果を表2に示した。なお、六価クロムの除去率は、次の式で計算した。
除去率(%)=〔(未処理値−処理値)/未処理値〕×100
【0029】
【表2】

【0030】
表2から明らかなように、海藻が六価クロムの除去に効果のあることがわかるが、これらの中でコンブ目チガイソ科又はコンブ目コンブ科が顕著であり、特に、ワカメ、ヒロメ、カジメは90%以上の除去率を有していることがわかる。
【実施例3】
【0031】
〔ワカメ炭粉末の製造〕
コンブ目チガイソ科の海藻であるワカメを乾燥した物(未焼成)、またワカメをオーブンを用いて100℃、150℃、200℃、250℃の温度で90分間焼成した物、ワカメを電気炉(小糸工業製、KCA−10A)を用いて350℃、450℃、550℃で90分間焼成した物をワンダーブレンダーを用いて粉砕し、ワカメ炭粉末とした。
【0032】
〔重金属含有廃液処理方法〕
重金属含有廃液処理方法は、吸着剤としてワカメ炭粉末を用い、次の如きバッチ法により行った。50mL容量のコニカルチューブに、濃度1mg/Lのクロム酸カリウム水溶液40mLを注いだ。この中に吸着剤として、上記のワカメ炭粉末を100mgを添加し、3分間撹拌した。その後、貝殻凝集沈殿剤を200mg添加し、撹拌すると凝集物が形成された。4000×gで2分間遠心分離を行い、上澄み液中に含まれる六価クロム濃度をジフェニルカルバジド法により多項目水質計(共立理化学研究所製 ラムダ9000)を用いて測定した。またワカメ炭粉末は添加せず、貝殻凝集沈殿剤のみを添加し、コントロールとした。得られた結果を表3に示した。なお、六価クロムの除去率は、次の式で計算した。
除去率(%)=〔(未処理値−処理値)/未処理値〕×100
【0033】
【表3】

【0034】
表3から明らかなように、ワカメ炭粉末による六価クロムの除去率は、焼成温度200℃〜350℃において80%以上という優れた効果のあることがわかる。また未焼成から150℃の焼成のワカメ炭を添加した廃液には粘性が見られ、六価クロム除去率が低い。このことは貝殻凝集沈殿剤の凝集作用が阻害されていると考えられる。外観観察の結果、未焼成から150℃では緑色、350℃以上では褐色乃至黒色となり、温度により外観にも大きな差が見られた。450℃以上では六価クロム除去率が低くなる。
【実施例4】
【0035】
〔重金属含有廃液処理方法〕
重金属含有廃液処理方法は、吸着剤としてワカメ炭粉末を用い、次の如きバッチ法により行った。50mL容量のコニカルチューブに、濃度1mg/Lのクロム酸カリウム水溶液40mLを注いだ。この中に吸着剤として、実施例3で製造した250℃ワカメ炭粉末をそれぞれ0mg(コントロール)、5mg、10mg、20mg、40mg、80mg、160mgを添加し、3分間撹拌した。その後、貝殻凝集沈殿剤を200mg添加し、撹拌すると凝集物が形成された。4000×gで2分間遠心分離を行い、上澄み液中に含まれる六価クロム濃度をジフェニルカルバジド法〔菅正彦、クロム、「水の分析第5版」(日本分析化学会北海道支部編)化学同人、京都、2005;229−232〕により多項目水質計(共立理化学研究所製 ラムダ9000)を用いて測定した。得られた結果を表4に示した。なお、六価クロムの除去率は、次の式で計算した。
除去率(%)=〔(未処理値−処理値)/未処理値〕×100
【0036】
【表4】

【0037】
表4から明らかなように、ワカメ炭粉末の添加量は、1mg/Lの濃度の廃液に対して、40mg以上で十分な六価クロムの除去率が得られるが、ワカメ炭粉末80mg以上では、ほぼ100%の六価クロムを除去することができる。したがって、ワカメ炭粉末を100mgより多く添加することは、経済上からみて必要ない。
【実施例5】
【0038】
〔重金属含有廃液処理方法〕
重金属含有廃液処理方法は、吸着剤としてワカメ炭粉末を用い、次の如きバッチ法により行った。50mL容量のコニカルチューブに、濃度1mg/Lのクロム酸カリウム水溶液40mLを注いだ。この中に吸着剤として、実施例3で製造した250℃ワカメ炭粉末をそれぞれ、10mg、100mgを添加し、撹拌時間をそれぞれ0.5分、1分、2分、3分、5分、10分、30分で撹拌した。その後、貝殻凝集沈殿剤を200mg添加し、撹拌すると凝集物が形成された。4000×gで2分間遠心分離を行い、上澄み液中に含まれる六価クロム濃度をジフェニルカルバジド法により多項目水質計(共立理化学研究所製 ラムダ9000)を用いて測定した。得られた結果を表5に示した。なお、六価クロムの除去率は、次の式で計算した。
除去率(%)=〔(未処理値−処理値)/未処理値〕×100
【0039】
【表5】

【0040】
表5から明らかなように、1mg/Lの濃度の廃液に対するワカメ炭粉末の添加量が10mg、100mg共に、反応時間の増加で六価クロム除去率も高くなり、反応時間が3分間で十分な効果が得られることがわかる。反応時間が3分を超えても効果は変われず、したがって、ワカメ炭粉末を添加してから3分経てば処理時間は十分であるといえる。
【実施例6】
【0041】
〔重金属含有廃液処理方法〕
重金属含有廃液処理方法は、吸着剤としてワカメ炭粉末を用い、次の如きバッチ法により行った。50mL容量のコニカルチューブに、濃度1mg/Lのクロム酸カリウム水溶液40mLを注いだ。この中に1NのHCl及び1NのNaOHを用いてpHを約4、5,6,7,8,9、10に調整した。吸着剤として、実施例3で製造した250℃ワカメ炭粉末を10mg添加し、3分間撹拌した。その後、貝殻凝集沈殿剤を200mg添加し、撹拌すると凝集物が形成された。4000×gで2分間遠心分離を行い、上澄み液中に含まれる六価クロム濃度をジフェニルカルバジド法により多項目水質計(共立理化学研究所製 ラムダ9000)を用いて測定した。得られた結果を表6に示した。なお、六価クロムの除去率は、次の式で計算した。
除去率(%)=〔(未処理値−処理値)/未処理値〕×100
【0042】
【表6】

【0043】
表6から明らかなように、六価クロム除去効果は、酸性及びアルカリ性領域において高く、弱酸性から弱アルカリ性の領域では、六価クロム除去効果は低い。なお、処理後にpHの上昇が見られたが、これは貝殻凝集沈殿剤の貝殻の炭酸カルシウムによると推定される。
【実施例7】
【0044】
〔重金属含有廃液処理方法〕
5mg/Lの鉄標準液(和光純薬工業製)、10mg/Lの過マンガン酸カリウム溶液(和光純薬工業製)、5mg/Lのニッケル標準液(和光純薬工業製)、5mg/Lの鉛標準液(和光純薬工業製)、1mg/Lの硫酸亜鉛六水和物(和光純薬工業製)の水溶液をそれぞれの重金属のモデル廃液とした。重金属含有廃液処理方法は、吸着剤としてワカメ炭粉末を用い、次の如きバッチ法により行った。それぞれの重金属のモデル廃液40mLに、実施例3で製造した250℃ワカメ炭粉末を100mg添加し、3分間撹拌した。その後、貝殻凝集沈殿剤を200mg添加し、撹拌すると凝集物が形成された。4000×gで2分間遠心分離を行い、上澄み液中に含まれる六価クロム濃度を多項目水質計(共立理化学研究所製 ラムダ9000)を用いて測定した。それぞれの測定原理は、鉄はo−フェナントロリン法、マンガンは、過ヨウ素酸カリウム法、ニッケルは、ジメチルグリオキシム法、鉛は、PAR法、亜鉛は、ジンコン法を用いた。得られた結果を図1に示した。吸着剤を使用しなかったものをコントロールとした。なお、六価クロムの除去率は、次の式で計算した。
除去率(%)=〔(未処理値−処理値)/未処理値〕×100
【0045】
図1から明らかなように、六価クロム除去効果は、鉄及び鉛は、コントロールと同じ値であるので、貝殻凝集沈殿剤のみで除去効果が得られる。ニッケルは、貝殻凝集沈殿剤より除去効果が大きく、更にマンガンと亜鉛は、ワカメ炭と貝殻凝集沈殿剤とを用いることにより優れた除去効果があることがわかる。
【実施例8】
【0046】
〔廃液処理用重金属除去剤の製造〕
吸着剤としてワカメ炭粉末100mg及び貝殻凝集沈殿剤200mgを混合して廃液処理用重金属除去剤を製造した。
【0047】
〔重金属含有廃液処理方法〕
重金属含有廃液処理方法は、次の方法で行った。50mL容量のコニカルチューブに、濃度1mg/Lのクロム酸カリウム水溶液40mLを注いだ。この中に上記の廃液処理用重金属除去剤を300mg添加し、3分間撹拌した。形成された凝集物を分離するために4000×gで2分間遠心分離を行い、上澄み液中に含まれる六価クロム濃度をジフェニルカルバジド法〔菅正彦、クロム、「水の分析第5版」(日本分析化学会北海道支部編)化学同人、京都、2005;229−232〕により多項目水質計(共立理化学研究所製ラムダ9000)を用いて測定した。また濃度1mg/Lのクロム酸カリウム水溶液40mLを注いだコニカルチューブに、貝殻凝集沈殿剤のみを200mg添加し、コントロールとした。得られた結果は、表7に示した。
【0048】
【表7】

【0049】
表7から明らかなように、ワカメ炭粉末と貝殻凝集沈殿剤との混合物からなる廃液処理用重金属除去剤を用いた場合にも、98.0%の除去率で六価クロムを除去することができた。
同様にして、吸着剤として合成ゼオライト、活性炭粉末、タマネギの表皮の焼成粉末(植物炭)と貝殻凝集沈殿剤とを混合して廃液処理用重金属除去剤をそれぞれ製造した。
【0050】
更に実施例2の海藻炭、実施例3のワカメ炭、実施例4のワカメ炭と重量との関係、実施例5の撹拌時間との関係、実施例6のpHとの関係、実施例7の他の重金属との関係について、吸着剤と貝殻凝集沈殿剤とを混合した廃液処理用重金属除去剤(いわゆる、同時に添加)を用いた場合でも、吸着剤の添加後、貝殻凝集沈殿剤を添加する方法と比べて、遜色ない本発明の効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の重金属含有廃液処理方法及び廃液処理用重金属除去剤は、重金属、特に六価クロムの除去に著しい効果を有し、産業廃棄物に含まれる六価クロムの除去法として低コストで効率的に行うことができるので、産業上の有用性は極めて大きいといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属を含む処理用廃液に海藻焼成物からなる吸着剤及び貝殻凝集沈殿剤を順次又は同時に添加し撹拌することを特徴とする廃液処理方法。
【請求項2】
前記海藻焼成物の海藻が緑藻綱、紅藻綱又は褐藻綱から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の廃液処理方法。
【請求項3】
前記褐藻綱の海藻が、コンブ目チガイソ科又はコンブ目コンブ科であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の廃液処理方法。
【請求項4】
前記コンブ目チガイソ科が、ワカメ、ヒロメ又はコンブ目コンブ科のカジメから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の廃液処理方法。
【請求項5】
前記海藻焼成物は、200℃〜350℃で焼成されたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の廃液処理方法。
【請求項6】
海藻焼成物からなる吸着剤と焼成貝殻を含む貝殻凝集沈殿剤との混合物からなることを特徴とする廃液処理用重金属除去剤。
【請求項7】
前記海藻焼成物の海藻が緑藻綱、紅藻綱又は褐藻綱から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項6に記載の廃液処理用重金属除去剤。
【請求項8】
前記褐藻綱の海藻が、コンブ目チガイソ科又はコンブ目コンブ科であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の廃液処理用重金属除去剤。
【請求項9】
前記コンブ目チガイソ科が、ワカメ、ヒロメ又はコンブ目コンブのカジメから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれかに記載の廃液処理用重金属除去剤。
【請求項10】
前記海藻焼成物は、200℃〜350℃で焼成されたものであることを特徴とする請求項6乃至請求項9のいずれかに記載の廃液処理用重金属除去剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−223749(P2012−223749A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106698(P2011−106698)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年2月9日 国立大学法人京都大学 大学院農学研究科応用生物科学専攻主催の「平成22年度 大学院農学研究科応用生物科学専攻 修士論文発表会」において文書をもって発表
【出願人】(506262494)アース株式会社 (10)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】