重金属類を含む被汚染物の浄化装置
【課題】土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰等の被汚染物から、被汚染物に含まれている重金属類の難溶性の画分まで確実に除去することができる浄化方法及び装置を提供する。
【解決手段】反応槽2は、隔膜Mによって隔離されたアノードAを含むアノード区域10とカソードCを含むカソード区域20とを含む。カソード区域20には、被汚染物供給手段22を介して重金属類を含む被汚染物を、酸性物質又はアルカリ性物質供給手段24を介して酸性物質又はアルカリ性物質を、水供給手段26を介して水を供給する。これらのスラリーを還元的雰囲気及び強酸性又は強アルカリ性雰囲気の共存下に維持して、重金属類を溶出及びカソード表面に電解析出させ、重金属類を被汚染物及び間隙水から分離する。
【解決手段】反応槽2は、隔膜Mによって隔離されたアノードAを含むアノード区域10とカソードCを含むカソード区域20とを含む。カソード区域20には、被汚染物供給手段22を介して重金属類を含む被汚染物を、酸性物質又はアルカリ性物質供給手段24を介して酸性物質又はアルカリ性物質を、水供給手段26を介して水を供給する。これらのスラリーを還元的雰囲気及び強酸性又は強アルカリ性雰囲気の共存下に維持して、重金属類を溶出及びカソード表面に電解析出させ、重金属類を被汚染物及び間隙水から分離する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属による環境汚染物の浄化技術に関し、特に鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、クロム(Cr)、スズ(Sn)、水銀(Hg)、ウラン(U)、プルトニウム(Pu)、砒素(As)などの重金属類を、土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰、ヘドロ、これらの抽出液、これらを含む工業用水、廃水、表流水、地下水、海水などの重金属類を含む固体または流体状の被汚染物から、分離除去する浄化方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
重金属で汚染された土壌を浄化修復する方法として、電気化学的手法を用いる方法が提案されている(特許文献1)。この方法によれば、汚染土壌を酸性溶媒と混合してスラリーを形成させ、汚染土壌から重金属イオンをスラリー(間隙水)中に抽出させた後に、重金属イオンを含むスラリーを濾過材により濾過しつつ直流電圧を印加して、濾過材により隔離形成されているカソード部に、スラリーから濾過された重金属イオンを移行させて、汚染土壌から重金属を分離する。
【0003】
しかし、この方法では、カソード部とスラリーとが濾過材により隔離されているので、間隙水はアノード側から濾過材を通過してカソード側に流れ、スラリーはカソードの還元電位によって還元されることがなく、逆にアノードの酸化電位によって酸化的雰囲気中に維持される可能性が高い。そのため、鉛、カドミウム、水銀等の固体付着物のうち、鉄マンガン吸着態及び有機物結合態と呼ばれる難溶性の付着形態をとる画分を効率的に抽出できず、土壌中重金属類含有濃度を十分に低下させることができない、という問題がある。
【0004】
また、焼却灰から重金属類を除去する方法として、汚染焼却灰をpH調整し、均一なスラリーとした後、撹拌機及びカソード、アノードを具備する分離回収槽に導入して直流電圧を印加することにより、重金属を電極に付着させる方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかし、この方法では、分離回収槽内に設けられたカソード及びアノードにスラリーが直接接触するので、アノードから発生する塩素、酸素ガスなどの影響によってスラリーを還元的雰囲気中に維持することができない。そのため、上述の鉄マンガン吸着態及び有機物結合態と呼ばれる難溶性の付着形態をとる画分を効率的に抽出できず、焼却灰中重金属類含有濃度を十分に低下させることができない、という問題がある。
【0006】
さらに、焼却灰からの重金属類の除去方法として、汚染焼却灰を酸抽出した後に固液分離し、得られた抽出液に対して、陰極電位を段階的に低下させて電解を行うことにより、複数種の金属を段階的に析出させて重金属類を回収する方法が提案されている(特許文献3)。
【0007】
しかし、この方法でも、酸抽出時に還元電位が印加されていないため、上述の難溶性の付着形態をとる画分を効率的に抽出できず、焼却飛灰中重金属類含有濃度を十分に低下させることができない。
【0008】
また、この方法では、重金属類の水溶液中への抽出と水溶液からの分離を同時に行わず2段階に分けて行っているため、抽出段階において水溶液中の重金属類濃度が上昇し、特に溶解度積の小さい重金属塩類を完全に溶解しきれない、という問題がある。さらに、間隙水中に高濃度の重金属類が溶解している状態で固液分離を行うため、固液分離後も残留する間隙水(スラッジ)に含まれる重金属類を焼却灰から除去できない、という問題もある。
【0009】
これらの従来の方法は、酸を用いて重金属類を溶出させ、次いで溶出した重金属類を電極電位差によって移動及び/又は析出させる反応を利用するものである。上記何れの方法においても、カソードの還元電位によって被汚染物を還元的雰囲気に維持して、重金属類の溶出を促進させる、という思想は開示も示唆もされていない。
【0010】
さらに、これらの方法では、重金属類を十分に溶出させるためには、難溶性物質として溶解度積の制限を受けるために溶媒としての液相の体積を大きくとることが必要で、その結果、処理装置全体の体積が大きくなり、装置の小型化が難しいという問題があった。
【0011】
これらの問題を解決するための手段として、発明者らはカソード区画とアノード区画を隔膜で区切り、重金属類で汚染された被汚染物をカソード区画に導入することによって還元的雰囲気及び強酸性もしくは強アルカリ性雰囲気の共存下に維持することにより、被汚染物に含まれる重金属類を溶出させ、さらにカソード表面に析出させる方法を提案した(特許文献4)。この方法によれば被汚染物が還元的雰囲気に維持され、アノードにより形成される酸化的雰囲気とは離隔されるために重金属の溶出が促進され、また溶出した重金属がカソード表面に析出することによって液相重金属イオン濃度が低く維持されるために、溶解度積の低い重金属でも比較的少量の溶媒に順次溶出させることが可能であり、上記被汚染物から、重金属類の難溶性の画分まで確実に除去することができる。
【0012】
しかしながら、特に銅を電極として用いた場合、小型の装置では問題なく繰返し利用が可能であったが、カソード区画の容量が100L以上の大型の装置では電解処理および電解停止を繰り返すうちに、電解停止中に銅電極が腐食し、緑青を生じ、電極が損耗すると共に、電解処理時にカソード電位を所望電位まで低下させるまでに長い時間を要する問題が認められた。
【特許文献1】特開平11-253924号公報
【特許文献2】特開2002-126692号公報
【特許文献3】特開2002-173790号公報
【特許文献4】国際特許公開WO2005/035149パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰等の被汚染物から、重金属類の難溶性の画分まで確実に除去し、被汚染物中重金属類含有濃度そのものを低下させ、将来にわたって汚染リスクを排除することができる被汚染物の浄化方法及び装置を提供することにある。特に、電極腐食の問題を回避し、大容量の被汚染物の処理を可能とする浄化方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究の結果、電極の接液部に、鉛、スズ、ニッケル、クロムおよびこれらの少なくとも1種を含む合金などの耐腐食性を有する導電性物質を用いることにより、電解時および無通電時のいずれの状態でもカソード表面の腐食を抑制することができ、電極の損耗を生じずに、また電解時に速やかに目的の還元電位までカソード電位を低下させることができ、大型の電解装置においても安定的に重金属類を含む被汚染物からの重金属類除去を行うことができることを知見して、本発明をなしたものである。
【0015】
具体的には、本発明によれば、カソードの接液部が強酸性もしくは強アルカリ性雰囲気下で還元電位を印加しない条件下で耐腐食性を有する導電性物質で構成されていることを特徴とする重金属類を含む被汚染物質から重金属類を除去する装置に用いるカソードが提供される。
【0016】
本発明のカソードは、導電性があり、汚染重金属類を良く電着し、還元的雰囲気および酸化的雰囲気(空気存在条件)においてカソード液の酸性(またはアルカリ性)に対して耐腐食性を持つものであることが好ましい。このため、本発明のカソードは、少なくとも接液部が上記導電性物質で構成されていればよく、カソード全体が上記導電性物質で構成されていても、あるいはカソードの接液部となる表面が上記導電性物質で被覆されていてもよい。カソードの接液部表面のみを導電性物質で被覆する場合には、カソードを構成する基材(以下、「カソード基材」という)は、銅、ステンレス、鋼などの導電性基材であることが好ましく、特に銅が好ましい。また、カソード基材に導電性物質を被覆するには、メッキまたは溶融浸漬などの公知の技術を用いて被覆することができる。
【0017】
本発明のカソードの接液部を構成する上記導電性物質は、鉛、ニッケル、クロム、スズから選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらから選択される少なくとも1種の金属を含む合金であることが好ましく、例えば、鉛、鉛合金(鉛-スズ、鉛-亜鉛など)、ニッケル、ニッケル合金(ニッケル-銅、ニッケル-亜鉛、ニッケル-鉄など)、クロム、クロム合金(クロム-ニッケル、クロム-ニッケル-鉄、クロム-ニッケル-銅など)などを挙げることができる。
【0018】
このように還元的雰囲気および酸化的雰囲気(空気存在条件)においてカソード液の酸性(またはアルカリ性)に対して耐腐食性を有する導電性物質を用いてカソードの接液部を構成することにより、カソードを無通電時においても酸化腐食から守ることができ、カソードの損耗を防ぐことができる。また、カソードが腐食して表面に金属酸化物が蓄積すると、電解時において金属酸化物の還元反応が生じるために、電解電流が浪費される問題がある。特にカソード表面に蓄積する金属酸化物を構成する金属が、除去しようとする汚染重金属よりも貴な電位を持つ金属であった場合(例えば鉛、クロム等の汚染に対して銅の酸化物が発生した場合など)、汚染重金属の析出よりも先に該金属の還元析出が生じるため、電位を制御しても重金属のみを選択的に析出させることは不可能である。また、電解時にまず該金属の還元析出反応が生じるためにカソード電位が中々低下せず、目的の重金属を析出できるような低いカソード電位を実現するまでに長い時間が掛かる問題が生じる。さらに、いったん該金属の酸化物が発生すると電解終了時には常にカソード表面に析出しているために系外に排出されず、繰返しカソード表面で酸化しては電解時に還元される状態となり、浄化装置の処理速度を著しく低下させる問題がある。本発明の耐腐食性を持つカソードを用いることにより、これらの問題を避けることができる。
【0019】
また、本発明の耐腐食性カソードは、目的の重金属類を電解析出させるために広い表面積を持つことが好ましく、例えば、繊維状、網目状、エキスパンドメタル状、パンチングメタル状、ハニカム状などの構造を持つことが好ましい。特に、装置コストや作業性の点から、銅やステンレスなどのカソード基材をエキスパンドメタル等の形状に成形した後、鉛-スズ合金などの導電性物質をメッキまたは溶融浸漬などにより被覆させた構造であることが好ましい。
【0020】
また、本発明によれば、上述の本発明の耐腐食性カソードを具備する重金属類を含む被汚染物の浄化装置が提供される。具体的には、重金属類を含む被汚染物を供給する被汚染物供給手段と、上述の還元的雰囲気を提供する耐腐食性カソードと、隔膜と、アノードと、を具備し、アノードを含むアノード区域とカソード及び被汚染物供給手段を含むカソード区域とが隔膜によって形成され、カソード区域は還元的雰囲気及び強酸性若しくは強アルカリ性雰囲気に維持され、被汚染物からの重金属類イオンの溶出及び溶出した重金属類イオンの被汚染物及び間隙水からの分離を並行して行う反応槽を含む被汚染物の浄化装置が提供される。
【0021】
本発明の浄化装置に用いるカソードは、上述の本発明の耐腐食性カソードであり、銅のカソード基材に鉛、ニッケル、スズ、クロムから選択される少なくとも1種類の金属若しくはこれらから選択される少なくとも1種の金属を含む合金で接液表面が被覆されている網状、エキスパンドメタル状、パンチングメタル状、ハニカム状の何れかの形状を有するものであることが好ましい。
【0022】
また、本発明の被汚染物の浄化装置においては、反応槽中に複数のカソードを配置することもできる。本態様において、複数のカソードのうち、少なくとも1つは重金属イオンを溶出させる作用を主とする溶出用カソードであり、他のカソードの少なくとも1つは重金属イオンを析出させる作用を主とする析出用カソードとして機能する。このため、標準電極電位が相対的に高い物質を析出用カソードとして用い、標準電極電位が相対的に低い物質を溶出用カソードとして用いる。析出用カソードは、溶出用カソードよりも析出した重金属類が電着しやすい物質から構成されていることが好ましく、比表面積を最大にするような形状であり、重金属類を回収する際に電極に高い電位を与えて電極表面に析出した重金属類を再溶解させる際に、取り除きやすいような構造であり、表面は析出した重金属類が還元反応槽内で再剥離しないよう、凹凸、網目状などの形状であることが好ましい。本発明の耐腐食性カソードは析出用カソードとして用いられる。溶出用カソードには耐摩擦性、耐酸性、耐アルカリ性があることが求められ、具体的には、カーボンや表面処理を施した金属をカソード基材とし、表面に重金属類が析出しにくく、仮に重金属類が析出したとしても容易に除去できるように、できる限り滑らかな平面及び曲面に仕上げられていることが望ましく、その形状としては例えば、長方形の板型、円盤型、皿型、椀型、球型などスラリーにより擦り減りにくい形状が好ましい。また、析出用カソードは、溶出用カソードよりもアノードに近い位置に配置されていることが好ましく、析出が起こり易い位置で重金属類を析出用カソードに析出させ、その位置より相対的にアノードから遠い位置、すなわち相対的に析出しにくい位置で重金属類を被汚染物の難溶解性画分から溶出用カソードを用いて溶出させることができる。これにより、折出用カソード周辺におけるプロトン濃度が、溶出用カソード周辺より高くなるため、プロトン濃度に比例する電流密度も大きくなる。電極への金属の析出は電流密度が大きいほど析出速度が速くなる為、より析出用カソードに重金属類が析出しやすくなる。溶出用カソード及び析出用カソード電位の調整による還元的雰囲気の提供は、アノード、参照電極、溶出用カソード及び析出用カソードの組み合わせにおいて、アノードと析出用カソード間距離の制御、析出用カソードと溶出用カソード間距離の制御、及び、装置内の流れによって調整することができる。たとえば、析出用カソード電位を水素標準電極に対して-0.16V以下、好ましくは-0.25V以下に調整することで、鉛(標準電極電位-0.126V)、カドミウム(標準電極電位-0.40V)を析出用カソード表面に析出させることができる。一方、溶出用カソードはできるだけ重金属類の析出を避けるために析出用カソードと比べて同じか高い電位に制御することが望ましい。また、溶出用カソードが析出用カソードと同じ電位で操作される場合には、異なる導電性材料を使用するか、析出しにくい形状を採用することで重金属類の析出から電極を保護することが望ましい。例えば炭素電極は金属と結合しないので、仮に低い電位を与えて炭素電極表面に重金属類が析出しても撹拌や流れがあれば析出した重金属類の固体は電極から遠ざかり、還元雰囲気により再溶解し、ついには析出用カソードに析出する。また、両カソードともに素材によってはカソードが溶解して逆方向の電流を生じる可能性もあるので注意を要する。従って定電位電源装置を用いて両カソードともに電位を-0.16V以下に制御することが望ましい。
【0023】
本発明の浄化装置に用いるアノードは、導電性があり、強酸性(好ましくはpH3以下)もしくは強アルカリ性(好ましくはpH12以上)水溶液中での耐性があり、陽極腐食に対する耐性があることが好ましく、例えば、ファーネスブラック、グラファイト、チタン、ダイヤモンド電極(導電性ダイヤモンド膜で表面処理した導電材料)、白金族金属被覆金属(例えば酸化ルテニウム被覆チタン)、チタン被覆金属、鉛-スズ合金、二酸化鉛などを挙げることができる。また、アノードは、被汚染物を酸化的雰囲気に曝すことのないように、被汚染物と直接接触せずに通電することができる構成にすることが好ましく、後述するように隔膜によって被汚染物と隔離されていることが好ましい。
【0024】
本発明の浄化装置において用いる隔膜は、カソードとアノードとの間に位置づけられ、カソードを含むカソード区域とアノードを含むアノード区域とを隔離する。また、別の態様において、アノードを囲むように隔膜を位置づけて、隔膜の内側にアノード区域を形成し、隔膜の外側にカソード区域を形成してもよい。あるいは、隔膜単独でもしくは隔膜の強度を強める枠材などの補強材を用いて、少なくとも一端を閉じた円筒形、箱状または袋状の隔膜ユニットとし、隔膜ユニット内部にアノードを位置づけてアノード区域とし、隔膜ユニット外部にカソードを位置づけてカソード区域としてもよい。アノードと隔膜表面との距離はアノードで発生する水素イオンを効率よく隔膜表面に供給するためになるべく短いことが望ましい(ただし後述するように接触することは避けるべきである)ため、アノードの形状は隔膜ユニットの形状に対応していることが望ましい。例えば、隔膜ユニットが円筒形であるならアノードも円筒形であることが好ましい。また、アノードは隔膜ユニット中に格納されるため、カソードに対して表面積が比較的小さくなりがちである。アノードの表面積によってアノード反応が律速段階とならないよう、アノードは凹凸状、多孔質状、網状、繊維状にするなどして表面積を大きくすることが好ましい。アノード表面においては電気分解により酸化反応が進行するため、隔膜表面を酸化腐食から保護するためにアノード表面と隔膜表面は接触させないことが望ましい。何らかの非導電性のスペーサーを両者の間に挿入するか、アノードを隔膜に接触しないよう何らかの方法で固定することが望ましい。隔膜ユニットは、平膜状の素材を任意の容器の形に成形し、接着、熔着、または縫製によって作製することができる(図8)。また隔膜の変形や磨耗を避けるため、網状またはパンチングプレート状の樹脂で表面を補強し、また樹脂製の型枠や板、パイプなどの保護材を用いて特に隔膜の角の部分、底部や上部を形成、保護することが望ましい(図9)。この場合、隔膜自体の底部もしくは側面が閉じていなくても、保護材に接着もしくは溶着することによりユニットを形成しても良い。市販のアストム製ED-CORE膜は既に円筒形に成形されているので、円筒形の隔膜ユニットを形成するために好ましく用いることができる。セラミックについては焼成の前段階で容器の形状とするか、または平板であっても多面体状の型枠に固定することで隔膜ユニットとして使用できる(図10)。しかし、隔膜−電極ユニットは、必ずしも閉鎖型である必要はなく、重金属類を含む被汚染物質の粒子がアノードに直接接触しないように、隔膜がアノードを囲む構成になっていればよい。
【0025】
本態様においては、カソードは隔膜ユニットの周囲に配置されるが、重金属の電着効率を上げるためになるべく広い表面積をもち、またアノード区域から供給される水素イオンを効率よく利用するためになるべく隔膜ユニットの近傍に配置され、かつカソード表面の全体で電着が行えるよう、隔膜ユニットを透過して拡散してくる水素イオンの移動を妨げない構造であることが望ましい。ここで、アノード区域からカソード区域への水素イオンの移動は電解反応時における両区域のチャージバランスを維持して回路を閉じるために必要であるのみならず、カソード表面における重金属の電着を阻害する水酸化物イオン濃度を低下させる役割も果たす。これらの条件を満たすカソード及び隔膜−電極ユニットの配置方法として、図11に示すような中央のアノードを囲むように配置した隔膜−電極ユニットの周囲を取り巻くようにカソードを星形に配置したり、または図12に示すように隔膜−電極ユニットの周囲にカソードを放射状に配置したりする態様が望ましい。放射状に並べたカソードは、図12(a)に示すように単列形態でも、図12(b)に示すように複数列形態でもよい。また、図示した態様では、星形の角は鋭角であるが、湾曲していてもよい。また、星形配置の折りたたみ回数および放射状配置の放射線の本数には特に制限は無く、装置の大きさや被汚染物の性状(特に被汚染物の場合は粒径)、反応液またはスラリーの撹拌方法、撹拌強度に応じて適宜変更すべきである。あるいは、カソードは図13(a)、(b)に示すように仕切り板状に複数の隔膜−電極ユニット間に配置されても良い。このとき、仕切り板の面積を増すために、カソードを金網状またはエキスパンドメタル状の仕切り板状に形成し、図13(c)に示すように板を波板状に湾曲させても良く、また図13(d)に示すようにプリーツ状に折っても良い。このように仕切り板状のカソードを配置した場合は、通電のための治具の配置が規則的となり、カソードユニットの着脱が容易となる利点がある。また、水素イオンの供給が十分に行われていて水素イオンの供給速度が重金属類の析出反応の律速段階とならないような場合は、特にこのような配置を取る必要は無く、隔膜−電極ユニットから見て重なり合うようにカソードを配置しても良い。
【0026】
被汚染物中の重金属類はカソードによる還元雰囲気下で溶出及び電解析出反応を起こし、被汚染物から分離、除去される。カソードは上述したように隔膜−電極ユニットの周囲に星形、放射状または仕切り板状に並べられ、隔膜を透過してくる水素イオンを利用して溶出及び電解析出反応を進行させる。カソードが隔膜に対して積層した形で配置されていると、より隔膜に近い側のカソードに集中して重金属類が析出し、特にカソードが隔膜を覆っているような配置形状では重金属類の蓄積によって隔膜からカソードへと向かう水素イオンの流れが遮断もしくは閉塞してしまい、水素イオンと反応液中の重金属イオンとの接触効率が低下して結果的に電解析出効率が低下するので注意を要する。この問題は、カソードを上述したように隔膜−電極ユニットの周囲に星形、放射状または仕切り板状に並べることにより、避けることができる。
【0027】
反応槽が大型化した場合、この隔膜−電極ユニットを反応槽内に複数個配置し、各隔膜−電極ユニットの周囲にカソードを配置すれば、容易に電極と膜間の距離及び/または電極と反応液(またはスラリー)間の距離を小さくすることができ、反応速度及び汚染物除去効率を維持することができる。また、隔膜又は隔膜ユニットが汚損、イオン交換能低下、亀裂発生等により劣化した場合には、隔膜−電極ユニットを反応容器内から引き上げることによって容易に補修または交換を行うことができる。実際に土壌などの被汚染物を浄化する装置を構築した場合、現実的な浄化期間内に処理を完了するために反応槽の容積を大きくせざるを得ず、例えば汚染土壌処理を想定した場合10m3以上の容積が必要となることが一般的である。このような大きな反応槽に平膜型の隔膜を適用すると、電極と膜間の距離及び/または電極と反応液(またはスラリー)間の距離が大きくなってしまい、反応速度及び除去効率が低下する。この問題を避けるために反応槽を縦に扁平な形とし、隔膜を介して横に積層することによって上記の距離を短くする方法も考えられるが、巨大な平膜を何枚も使用することは膜の膨潤による漏れの危険性を増し、また膜の補修や交換も困難であることから現実的ではない。アノードを反応槽中に配置した底部の閉じた円筒形、箱状または袋状の隔膜の内部に配置し、カソードを隔膜の外部に配置することによって大型の実装置においても電極と隔膜間の距離及び/または電極と反応液(またはスラリー)間の距離を十分小さく維持することが可能であり、好ましい汚染物除去効率が得られるとともに隔膜の補修や交換も容易になる。
【0028】
本発明においてカソードとアノードとを隔てるために用いることができる隔膜としては、水溶液中の特定のイオン以外の物質の移動を制御する機能を有する隔膜であって、イオン交換を行ってアノード及びカソード間の回路を閉じる機能を有し、且つ塩素ガス、酸素ガス、溶存塩素、溶存酸素などの透過を防止してカソード区域の還元的雰囲気を維持する機能を有する隔膜を挙げることができる。具体的には、スルホン酸基を有するフッ素樹脂系イオン交換膜(陽イオン交換膜)を好ましく挙げることができる。スルホン酸基は、親水性があり、高い陽イオン交換能を有する。また、より安価な隔膜として、主鎖部のみをフッ素化したフッ素樹脂系イオン交換膜や、芳香族炭化水素系イオン交換膜も利用することができる。このようなイオン交換膜としては、例えばIONICS製NEPTON CR61AZL-389、トクヤマ製NEOSEPTA CM-1又は同CMB、旭硝子製Selemion CSVなどの市販製品を好ましく用いることができる。また、アノードと被汚染物質とを隔離するために用いる隔膜としては、陰イオン交換膜を用いることもできる。具体的には、アンモニウムヒドロキシド基を有するヒドロキシドイオン交換膜を好ましく挙げることができる。このような陰イオン交換膜としては、例えば、IONICS製NEPTON AR103PZL-389、トクヤマ製NEOSEPTA AHA、旭硝子製Shelemion ASVなどの市販製品を好ましく用いることができる。さらに、本発明において用いることができる隔膜としては、官能基を有しないMF(マイクロフィルタ)、UF(ウルトラフィルタ)膜やセラミックなどの多孔質濾材、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン製の織布等を用いることができる。これらの官能基を有しない隔膜は、孔径が5μm以下で、非加圧条件でガスを透過しないものが好ましく、例えば、Schweiz Seidengazefabrik製のPE-10膜、Flon Industry製のNY1-HD膜などの市販品を好ましく用いることができる。
【0029】
好ましい実施形態において、反応槽は、被汚染物と酸性物質又はアルカリ性物質と水とを含む混合物をスラリー状態にするスラリー形成槽である。スラリー形成槽内を還元的雰囲気にするように外気を遮断するよう構成されているものも好ましい。被汚染物をスラリー形成槽内に供給し、溶出用カソードの還元電位によって還元雰囲気を維持する。この時、アノード側で発生する酸化的雰囲気によってカソード側還元雰囲気が損なわれることがないように、例えば、カソードとアノードとの距離を大きくしたり、カソード側からアノード側への水流を存在させたり、多孔壁又は隔膜を設けたりすることが望ましい。
【0030】
本発明においては、カソード電極電位を調整して重金属類を含む被汚染物を還元的雰囲気に維持して、カソード表面に重金属類を析出させることが好ましい。このため、重金属類を含むスラリーをカソードと接触状態に維持して、電解析出反応を生じさせることが必要である。
【0031】
カソード表面に重金属類が析出する速度K0は、重金属類イオンの拡散物質移動速度KDと、カソード表面析出速度KRによって、下記関係式のように決定される。
【0032】
【数1】
【0033】
カソード表面析出速度KRは、重金属類イオンの種類及び温度によって決定され、例えば、鉛の場合には30〜40℃の範囲の温度、鉛以外の重金属類では25〜80℃の範囲の温度とすることが好ましい。一般に、温度が高いほどイオン拡散速度が大きくなり、高電流密度(例えば11.48A/m2)に達するまで重金属類をカソード表面に析出させることができるが、析出した結晶粒が過大に成長しやすく、水素過電圧が低下して水酸化物が生成しやすくなるので、上記範囲の温度とすることが有利である。拡散物質移動速度KDは、スラリー形成槽内の撹拌状態及び温度に比例するので、スラリーを十分に撹拌する必要がある。しかし、スラリーを撹拌すると、カソード表面に剪断力が作用して、カソード表面に析出した重金属類が剥離されることがある。析出された重金属類がカソード表面から剥離してしまうと、重金属類の分離除去効率が低下してしまうため、このようなスラリーによる剪断力の影響を排除又は抑制することが必要である。本態様において、カソード表面に付与されるスラリーによる剪断力の抑制は、カソードをスラリー形成槽内の上方位置に位置づけて、スラリー中の固体粒度分布をスラリー中において上部には小さな粒径の固体が存在し且つスラリー中において下部には大きな粒径の固体が存在するように制御するか又はスラリー流を整流することによってなされることが好ましい。
【0034】
スラリーの固体粒度分布制御としては、スラリーに上昇流を与える方法を好ましく用いることができる。スラリー上昇流提供手段は、反応槽内上部に設けられたスラリー抜き出し口と、反応槽底部に設けられたスラリー導入口と、スラリー抜き出し口からスラリー導入口までスラリーを循環させる循環ポンプと、を含み、スラリーを反応槽内にて槽底部から所望速度で上昇させるように構成されていることが好ましい。あるいはスラリー形成槽底部から空気を導入する空気導入口を設けてもよい。種々の粒径の固体を含むスラリーを上昇流とすることで、大きな粒径の固体が上昇流に抵抗してスラリー形成層下部に残り、小さな粒径の固体が優先的に上昇することができ、結果的にスラリー中の固体粒度分布は上層ほど細かく、下層ほど大きくなる。固体粒度分布の制御は、スラリーの上昇流の流速を制御することで行うことができ、上昇流の終末速度がわかれば固体粒度分布を推測することができる。例えば、被汚染物が土壌である場合には、粒径が2mm以下の固体を浄化対象とすることが多く、中でも、難分解性の重金属類を含む粘土画分は、粒径が0.02mm、密度が約2.7×103kg/m3の粘土粒子を多く含む。このような被汚染物を含むスラリーの密度を1.0〜1.2×103kg/m3、スラリーの粘度を1×10-3N・s/m2と仮定すると、粘度粒子の終末速度は、下記ストークス(Stokes)の式:
【0035】
【数2】
【0036】
より、約3.3〜3.7×10-4m/sと計算することができる。なお、このときの粒子レイノルズ数Reは、下記式:
【0037】
【数3】
【0038】
より、1以下となるので、ストークスの式を用いることは適当である。
【0039】
また、被汚染物が細粒画分や粘度粒子を大量に含む場合には、細粒画分や粘度粒子は帯電していて相互に反発しあうので、より沈殿しにくくなる、つまり、終末速度が小さくなるので、上昇流の流速を小さくしても望ましい固体粒度分布を得ることができる。
【0040】
さらに、被汚染物がレイノルズ数1を越える粒子画分を含む場合には、ストークスの式に代えて、アレン(Allen)の式:
【0041】
【数4】
【0042】
を用いて終末速度を計算することができる。
【0043】
以上のような化学工学的なプロファイリングを用いて、上昇流の終末速度を設定することで、スラリー中固体の所望の粒度分布を得ることができる。このように、スラリーの固体粒度分布をスラリー上層部ほど小さな粒径の固体が存在し且つスラリー下層部ほど大きな粒径の固体が存在するように制御することで、スラリー形成槽内上方位置に位置づけられているカソード表面に、大きな粒径の固体による剪断力が作用することを避けることができ、結果的にカソード表面に付与される剪断力を低減することができる。
【0044】
また、スラリー形成槽は、カソードの表面に作用するスラリーの剪断力を低減し且つカソードとスラリーとの接触状態を維持するように制御する剪断力抑制手段を具備することが好ましい。剪断力抑制手段は、カソード表面に作用するスラリー流の剪断力を低減するようにスラリー流を整流する整流機構であって、板材、多孔材、格子状材料及び網目状材料から選択される1種以上の材料から構成される整流部材であってもよい。たとえば、スラリー形成槽内上方位置に位置づけられたカソードよりも下方位置に、カソード保護部材を配置する形態がある。カソード保護部材は、カソードを囲い込むように配置しても、カソード表面に向かうスラリー流の経路に隔壁として配置してもよい。ただし、カソード保護部材を用いる場合には、カソード表面に作用するスラリーの剪断力が低減されるが、カソード表面とスラリーとを接触状態に維持するように設けることが必要である。よって、カソードを囲い込むようにカソード保護部材を配置する場合には、カソード保護部材として、多孔材、格子状材料及び網目状材料などのスラリーが流通可能な材料を好ましく用いることが好ましい。カソード保護部材を板材などを用いて隔壁として配置する場合には、カソード表面と隔壁との距離、スラリー流の流入角度などを適宜調整することが好ましい。カソード保護部材を構成する材質としては、摩擦に強く、耐強酸性及び耐強アルカリ性の材料からなるものを好ましく用いることができ、具体的には強化ガラス、石英、強化プラスチック、フッ素系樹脂などの合成樹脂、FRPなどの繊維強化複合材料、グラファイト、グラッシーカーボン、コンクリート、セラミックス、チタン、鉄などの金属表面を耐腐食処理したものなどを好ましく挙げることができる。
【0045】
また好ましい実施形態において、反応槽は、固体状または液体状の被汚染物と酸またはアルカリと水とを含む混合物をガス撹拌または機械撹拌によって混合し、カソードと接触させる撹拌容器である。ガス撹拌に用いるガスは不活性ガスを主たる成分とするガスであることが好ましく、窒素ガスが好ましく用いられる。また、ガスを循環して利用することも好ましい。さらにガスを循環させる際、少量のガスを経時的に追加供給して循環系を与圧状態とし、背圧弁を用いて徐々にガスを更新することも好ましい。装置内を還元的雰囲気にするように外気を遮断するよう構成されているものも好ましい。
【0046】
本発明の浄化装置において、反応槽には被汚染物供給手段が設けられている。被汚染物供給手段は、被汚染物の性状によりベルトフィーダ、スラリーポンプなどから選択することが望ましい。反応槽に投入する被汚染物は、反応槽がスラリー形成槽である場合には、反応槽内でスラリーを形成しやすくするため、予めブレードウオッシャ、トロンメル、振動スクリーンなどの乾式または湿式の篩いを用いて数ミリメートル以下の細粒とすることが望ましい。また、反応槽への被汚染物投入量を減少させたい場合には、さらにサイクロンなどを用いて1ミリメートル以下の細粒画分とすることも望ましい。スラリー形成槽を用いる場合には、カソード電極電位を例えば-0.3V以下-1.3V以上の範囲に調整することで、鉛やカドミウムなどの電解析出反応を効率よく生じさせることができる一方で、スラリー中に含まれる鉄の析出や、水の電気分解による水素発生が抑制されるので、重金属類の電解析出反応をある程度特異的に生じさせることができる。
【0047】
また、本発明の被汚染物の浄化装置は、反応槽(もしくはスラリー形成槽)に酸性もしくはアルカリ性物質を供給する手段を具備することが好ましい。処理する被汚染物が焼却灰などのアルカリ性物質又は酸性物質を含む場合を除いて、被汚染物を強酸性もしくは強アルカリ性雰囲気に維持するために、被汚染物に酸性もしくはアルカリ性物質を供給することが好ましい。本発明において用いる強酸性雰囲気は、被汚染物の間隙水のpHが3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。このような強酸性雰囲気とすることで、土壌中に存在する硫化鉄などの影響を排除することができる。本発明における強酸性雰囲気は、被汚染物に、酸を添加することにより形成することができる。添加することができる酸としては、塩酸、有機酸、例えば、メタンスルホン酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、テレフタル酸などを好ましく挙げることができる。一方、本発明において用いる強アルカリ性雰囲気は、被汚染物の間隙水のpHが12以上であることが好ましく、13以上であることがより好ましい。本発明における強アルカリ性雰囲気は、被汚染物に、アルカリ性物質を添加することにより形成することができる。添加することができるアルカリ性物質としては、水酸化物塩、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを好ましく挙げることができる。
【0048】
本発明において、反応槽のカソード区域は還元的雰囲気に維持される。還元的雰囲気は、カソード電極電位の調整により形成することができる。カソード電極電位の調整は、水素標準電極に対して-0.16V以下、より好ましくは-0.25V以下のカソード電極電位となるように行うことが好ましい。カソード電極電位の調整による還元的雰囲気の提供は、アノード、隔膜、参照電極及びカソードの組み合わせにおいて、隔膜をアノードとカソードの間に配置することにより行うことができる。この場合、隔膜を介してアノード側より酸が供給されるので、多量の酸を供給する必要性を排除することができる、という利点がある。
【0049】
カソードに必要な還元電位を印加するには、定電位電源を用いることが好ましい。特に、除去すべき重金属類が鉛やカドミウムである場合には、定電位電源を用いて適正な電位にカソード電位を制御することで、重金属類の析出反応により発生した負方向の電流値が析出反応の終了と同時に低下するので、電流値の計測によって重金属類の析出反応の完了を知ることができ、不必要な電解反応を生じさせて電気を浪費することがなく、有利である。例えば、カソード電極電位を-0.3V以下-1.3V以上の範囲に制御すると、鉛、カドミウムの電解析出反応を効率よく生じさせるが、スラリー中に含まれる鉄の析出や水の電気分解による水素発生が抑制されるので、重金属類の電解析出反応を特異的に生じさせることができ、有利である。ただし、処理条件が一定で電流値と電解反応の関係が把握されていれば、必ずしも定電位電源を用いなくてもよく、定電流電源を用い、反応時間に応じて設定電流量を減少させていくことで好ましいカソード電極電位を維持することもできる。
【0050】
本態様により浄化することができる重金属類を含む被汚染物としては、土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰、ヘドロなどの重金属類を含む固体状または液体状の被汚染物、上記固体状汚染物からの抽出液、工業用水、排水、表流水、地下水、海水などの重金属を含む液体状被汚染物を好ましく挙げることができる。また、本発明により分離除去される重金属類としては、鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、砒素(As)、ウラン(U)、プルトニウム(Pr)などを好ましく挙げることができる。
【0051】
また、本発明においては、重金属類を含む被汚染物を含むスラリーを容器中に収容し、スラリーを強酸性または強アルカリ性に維持するとともに、容器中に配置したカソードの電位を調整することによりスラリーを還元的雰囲気下に置き、それにより重金属類をスラリー中に溶出させる。そして、溶出した重金属イオンを、容器内においてさらにスラリーから析出させて分離する工程を前記溶出工程と並行して行う。ここにおいて、カソードが複数、容器(反応槽)中に配置されているので、異なる役割分担をさせたり、一方の作用が不調であったり交換や保守を行う場合でも装置の稼動を継続することができる。
【0052】
一般に、重金属類は、被汚染物中において、イオン交換態、炭酸塩結合態、鉄マンガン吸着態又は有機物結合態などの形態で存在している。これらの形態のうち、イオン交換態で存在する重金属類は、強酸性もしくは強アルカリ性雰囲気下では、腐食域に入り、水溶出濃度が高められる。一方、炭酸塩結合態、鉄マンガン吸着態及び有機物結合態などの形態で存在する重金属類は、強酸性もしくは強アルカリ性雰囲気下であってもなお溶解度が低く、溶出しにくい。これら難溶性の形態で存在する重金属類をさらに還元的雰囲気下に供することで、腐食域に移行させ、水への溶解度を増加させることができる。また、汚染重金属が水銀である場合には、カソード表面から発生する水素ガス及び/又は窒素ガスを槽内に供給して、曝気することにより、水銀イオンが還元されて生じる揮発性の0価水銀が水素ガス及び/又は窒素ガスに随伴して容易に気相へ移行するので、間隙水中から分離することができる。
【0053】
本発明においては、還元電位を供給する耐腐食性カソードとアノードとの間に隔膜を位置づけて、耐腐食性カソードを含むカソード区域と、アノードを含むアノード区域と、に隔離させて、カソード区域には処理対象物である重金属類を含む被汚染物と、酸性物質又はアルカリ性物質とを加えることによってpH3以下又は12以上として、さらに還元的雰囲気とすることで、重金属類を効果的に被汚染物及び間隙水から分離する。この方法では、カソード(還元極)において、被汚染物に含まれる重金属類を還元して溶出させる反応と、耐腐食性カソード表面へ重金属類を電解析出させる反応が並行して行われる。カソードの還元電位によって被汚染物を還元的雰囲気に維持して重金属類の溶出を促進させるので、強酸性、又は強アルカリ性条件下においても溶出しないような重金属類の難溶性の画分まで溶出させることができ、重金属類を効果的に被汚染物及び間隙水から分離することができる。
【0054】
本発明の浄化装置を用いることにより、被汚染物からの重金属類イオンの溶出工程と、該溶出した重金属類イオンを被汚染物及び間隙水から分離させる分離工程と、を同一の容器内で並行して行い、該重金属類イオンの溶出及び分離が完了するまで、該被汚染物を還元的雰囲気及び強酸性もしくは強アルカリ性雰囲気の共存下に維持することを特徴とする重金属類を含む被汚染物の浄化方法が提供される。
【0055】
より詳細には、被汚染物中にイオン交換態、炭酸塩結合態、鉄マンガン吸着態又は有機物結合態などの形態で存在している重金属類を、耐腐食性カソードにより提供される還元的雰囲気下で十分な量の酸性水溶液又はアルカリ性水溶液と接触させることにより、イオン交換脱着させて、水溶液中に溶出させ、耐腐食性カソード表面へ電解析出させるかあるいは水銀の場合には曝気除去することにより、重金属類を被汚染物から除去するものである。重金属類の被汚染物からの溶出と分離が単一の槽内で完結するため、後処理の固液分離工程においてはスラリーを還元的雰囲気に維持する必要がない。また、重金属類は、耐腐食性カソード表面に析出して間隙水から除かれることにより、溶解度積の低い重金属類も順次溶解することになり、抽出効率をさらに向上させることができる。
【0056】
一般に、重金属類は、強アルカリ性雰囲気下よりも強酸性雰囲気下で、より溶出しやすい。しかし、浄化すべき被汚染物の性質によっては、強酸性雰囲気よりも強アルカリ性雰囲気の方が、好ましい場合もある。例えば、被汚染物が鉄を多量に含む土壌である場合には、強酸性雰囲気下では鉄が溶出して電極を被覆したり、閉塞などの問題を生じるかもしれないので、強アルカリ性雰囲気とすることが好ましい。さらに、被汚染物の状態によっては、酸性物質もしくはアルカリ性物質の添加を要しない場合もある。被汚染物が焼却灰である場合には、焼却灰が強アルカリ性であるから、アルカリ性物質を添加するまでもなく、強アルカリ性雰囲気を形成できる。
【0057】
本発明の浄化装置においては、さらに、浄化すべき土壌などの現場の条件に応じて、被汚染物に、重金属類の溶出及び水溶液中での安定化に寄与する界面活性剤、錯イオン形成剤及びキレート剤、被汚染物のpH変動を抑制する緩衝剤、還元的雰囲気を維持する電子供与体及び還元剤、及びこれらの組み合わせから選択される物質を添加することもできる。これらの添加剤としては、例えば、界面活性剤としてSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)及びカチオン界面活性剤、錯イオン形成剤としてクエン酸、シュウ酸、及び乳酸、キレート剤としてEDTA(エチレンジアミン四酢酸)及びNTA(ニトリロ三酢酸)、緩衝剤としてリン酸緩衝液、トリス緩衝液及び塩酸−塩化カリウム緩衝液、電子供与体として水素、糖、有機酸(塩)、アルコール、各種有機排水、アスコルビン酸、DTT(ジチオスレイトール)、クエン酸チタニウム、鉄粉及びグラニュール鉄などを好ましく挙げることができる。錯イオン形成剤やキレート剤を添加する場合には、重金属類が耐腐食性カソード表面へ電解析出する電位が低下する可能性があるので、予備試験を行って適当な電位を設定することが必要である。
【0058】
重金属類イオンの分離は、耐腐食性カソード表面への重金属類の電解析出を含み、この際、被汚染物を少なくとも含むスラリーにより耐腐食性カソード表面に作用する剪断力によって重金属類の電解析出が阻害されないよう、スラリーの流れをカソード表面に作用する剪断力を低減するように整流又は抑制する条件下で、前記重金属類を該カソード表面上に析出させることができる。本態様においては、重金属類を含む被汚染物から形成されるスラリーにより耐腐食性カソード表面に作用する剪断力によって耐腐食性カソード表面での重金属類の析出が阻害されない条件に維持するので、耐腐食性カソード表面に析出した重金属類の剥離や、耐腐食性カソードの摩耗などが防止される。
【0059】
重金属類を含む被汚染物は、含有されている重金属類がイオンとして溶出するように、スラリーとして処理されることが好ましい。このスラリーには、被汚染物を強酸性もしくは強アルカリ性雰囲気に維持するために、酸性又はアルカリ性物質が少なくとも含まれている。被汚染物が焼却灰である場合など、アルカリ性物質又は酸性物質を含む場合を除いて、スラリーを形成する際に酸性物質又はアルカリ性物質を添加することが好ましい。本態様において用いることができる酸性物質としては、塩酸、有機酸、例えば、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、テレフタル酸などを好ましく挙げることができる。これらの酸性物質を含むスラリーは、好ましくは被汚染物の間隙水のpHが3以下、より好ましくは2以下の強酸性雰囲気に維持される。このような強酸性雰囲気とすることで、土壌中に存在する硫化鉄などの影響を排除することができる。アルカリ性物質としては、水酸化物塩、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを好ましく挙げることができる。これらのアルカリ性物質を含むスラリーは、好ましくは被汚染物の間隙水のpHが12以上、より好ましくは13以上の強アルカリ性雰囲気に維持される。
【0060】
[好ましい実施形態]
以下、添付図面を参照しながら、本発明をさらに詳細に説明する。なお、図中、同じ構成要素には同じ参照符号を付す。
【0061】
図1は、電解析出反応を利用して、鉛、カドミウム、クロム、砒素、スズ、ウラン、プルトニウムなどを除去回収する本発明の好ましい第一の実施形態を示す概略説明図である。
【0062】
図1に示す浄化装置1は、重金属類を含む被汚染物を供給する被汚染物供給手段22と、酸性物質又はアルカリ性物質を供給する酸性物質又はアルカリ性物質供給手段24と、還元的雰囲気を提供する耐腐食性カソードCと、隔膜Mと、アノードAと、を具備し、隔膜MによってアノードAを含むアノード区域10と、耐腐食性カソードC、被汚染物供給手段22及び酸性物質又はアルカリ性物質供給手段24を含むカソード区域20と、が形成され、カソード区域20は還元的雰囲気及び強酸性若しくは強アルカリ性雰囲気に維持され、被汚染物からの重金属類イオンの溶出及び溶出した重金属類イオンの被汚染物及び間隙水からの分離を並行して行う反応槽2を含む被汚染物の浄化装置である。
【0063】
反応槽2には、さらに、水を反応槽2のカソード区域20に供給する水供給手段26、反応槽2内の混合物のpHを測定するpH計28、及び反応槽2内で形成された混合物のスラリーを抜き出すためのスラリー抜き出し口30が設けられている。スラリー抜き出し口30には、スラリー移送ライン32及びスラリー移送ライン32上に設けられたスラリーポンプ34が接続されている。スラリー移送ライン32は、固液分離装置3に接続されている。固液分離装置3には、分離した固体を抜き出す固体抜き出しライン36と、分離した液体を抜き出す液体抜き出しライン38と、が接続している。液体抜き出しライン38からは、液体の一部を循環液として反応槽2に戻す液体循環ライン40が分岐している。
【0064】
この浄化装置1を用いて、重金属類で汚染されている被汚染物を浄化する態様を説明する。まず、被汚染物供給手段22を介して、土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物などの重金属類で汚染されている被汚染物を反応槽(スラリー形成槽)2に供給する。このとき、被汚染物が非飽和状態、すなわち被汚染物の空隙が水で飽和してない場合には、水供給手段26又は液体循環ライン40を介して適量の水を供給して、飽和状態とする。スラリー形成槽2内で、供給された被汚染物、及び場合によっては水を撹拌混合して、スラリー状にする。pH計28を用いて、スラリーのpHを測定しながら、酸性物質又はアルカリ性物質供給手段24を介して酸性物質もしくはアルカリ性物質を添加してスラリーのpHを3以下又は12以上となるように調整する。スラリーの酸化還元電位を測定しながら、カソード電極Cの酸化還元電位が水素標準電極に対して-0.16V以下となるように調整する。この状態で、スラリー中では、被汚染物から重金属類が溶出し、次いで耐腐食性カソードC表面に電解析出するようになる。このとき、耐腐食性カソードCの電極電位が低いほど、電解析出反応速度は上昇するが、電極電位が低すぎると(例えば、鉛の場合、約-0.6V以下)、電解析出時に重金属が緻密な被膜を形成せず、一旦形成した被膜が撹拌の剪断力により剥離しやすくなるので、汚染物や装置の条件に応じて適切な電極電位を選定する。
【0065】
次に、スラリーポンプ34を作動させて、スラリーを固液分離機3に圧送し、液体と、浄化脱水固体(土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物由来の固体脱水物など)と、に分離する。分離された固体分は、固体抜き出しライン36を介して抜き出され、重金属類で汚染されていない土壌、汚泥、ヘドロ又は焼却灰などとして、処理することができる。分離された液体は、液体抜き出しライン38を介して抜き出され、液体循環ライン40を介してスラリー形成槽2に再循環されるか、余剰排液として排水される。
【0066】
耐腐食性カソードC表面に電解析出した重金属類は、電極を交換する際に系外に取り出されるか、又はカソードの再生、例えばカソードを一時的に取り出して酸洗浄するか、または電極電位を約-0.1Vに一時的に上昇させることにより、電極表面から溶離させて重金属濃縮液として回収し、重金属汚染物として廃棄するか、又は重金属原料として再利用することができる。電極の再生時に余り高い電位を印加すると(例えば、銅電極の場合には約0.0V)、電極の構成成分が溶解してしまうので、電極電位を電極構成成分が溶解しない範囲に設定するか、あるいは高い電位を印加する時間を短時間に管理することが望ましい。
【0067】
図2は、重金属類として水銀や砒素を含む場合に適する本発明の第二の実施形態の概略図である。図2に示す浄化装置1Aは、図1に示す浄化装置とほぼ同様の構成であるが、反応槽2に窒素ガスなどの不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段27と、重金属蒸気含有ガス中の重金属を捕集する重金属トラップ5をさらに具備する。重金属トラップ5には、排気ライン51が設けられていて、重金属トラップ5で重金属を捕集除去した後の気体を排出するように構成されている。重金属トラップ5としては、例えば硫酸酸性の過マンガン酸カリウム水溶液を入れたガス洗浄瓶や、硫黄粉末などの酸化剤を担持させたガス処理担体を用いることができる。
【0068】
この浄化装置1Aを用いる被汚染物の浄化態様は、重金属トラップ5の作用以外は、図1に示す浄化装置1において説明した態様とほぼ同様であるので、ここでは重金属トラップ5の作用のみ説明する。
【0069】
本浄化装置1Aは、特に水銀や砒素を含む被汚染物の浄化に適する。
【0070】
水銀を含む被汚染物の場合、該被汚染物をスラリー形成槽2内に供給して、還元的雰囲気及び強酸性又は強アルカリ性雰囲気に維持することにより、被汚染物から水銀または水銀を含む重金属が溶出し、次いで水銀は還元され、気化するようになる。気化した水銀は、カソード電極で発生する水素ガス及び/又は不活性ガス供給手段27からスラリー形成槽2内に供給された窒素ガス等の不活性ガスにより随伴されて、スラリーから気相に移行し、重金属トラップ5に捕集される。捕集された水銀などの重金属は、重金属汚染物として廃棄するか、又は重金属原料として再利用することができる。
【0071】
砒素を含む被汚染物の場合、該被汚染物をスラリー形成槽2内に供給して、還元的雰囲気及び強酸性又は強アルカリ性雰囲気に維持することにより、被汚染物から砒素または砒素を含む重金属が溶出し、次いで砒素は還元・水素化され、例えばアルシン(AsH3)の形で気化するようになる。気化した砒素は、カソード電極で発生する水素ガス及び/又は不活性ガス供給手段27からスラリー形成槽2内に供給された窒素ガス等の不活性ガスにより随伴されて、スラリーから気相に移行し、重金属トラップ5に捕集される。捕集された砒素などの重金属は、重金属汚染物として廃棄するか、又は重金属原料として再利用することができる。
【0072】
図3は、電解析出反応を利用して、鉛、カドミウム、クロム、スズ、砒素、ウラン、プルトニウムなどを除去回収する本発明の好ましい第三の実施形態(剪断力抑制手段を備える態様)を示す概略説明図である。
【0073】
図3において、浄化装置1Bは、重金属類を含む被汚染物を供給する被汚染物供給手段22と、酸又はアルカリ性物質を供給する酸又はアルカリ性物質供給手段24と、被汚染物と酸性又はアルカリ性物質を少なくとも含むスラリーに還元的雰囲気を提供する耐腐食性カソードCと、耐腐食性カソード表面に作用する該スラリーによる剪断力を低減し且つ耐腐食性カソードとスラリーとの接触状態を維持するように制御する剪断力抑制手段と、を具備するスラリー形成槽2を具備する。
【0074】
図示した実施形態において、スラリー形成槽2は、さらに、水をスラリー形成槽2に供給する水供給手段26を具備する。スラリー形成槽2の下部は、漏斗状に形成されていて、漏斗状先端部には、スラリー抜き出し口30が設けられている。スラリー抜き出し口30には、スラリー移送ライン32及びスラリー移送ライン32上に設けられたスラリーポンプ34が接続されている。スラリー移送ライン32には、固液分離装置3が接続されていて、スラリーを固形分と液体分とに分離する。固液分離装置3には循環ポンプ39及び液体循環ライン40が接続されていて、固液分離装置3にて分離された液体分を循環液として、スラリー形成槽2下部の漏斗状上端に設けられている循環液導入口42に再導入する。固液分離装置3には、分離した固体(清浄脱水土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物など)を抜き出す固体抜き出しライン36と、分離した液体を余剰排水として抜き出す液体抜き出しライン(ドレイン)38と、が接続されている。
【0075】
スラリー形成槽2内には、スラリーに還元的雰囲気を提供する耐腐食性カソードC、アノードA、参照電極Bがスラリー形成槽2内上方位置に位置づけられており、スラリーのpHを測定するpH計28が備え付けられている。耐腐食性カソードC、アノードA及び参照電極Bは、スラリー形成槽2外部の電源装置と接続していて、制御された印加電位が提供される。耐腐食性カソードCには、スラリー中大きな粒径の固体がカソード表面近傍に存在しないようにカソード保護部材50が取り付けられている。保護部材50は、ナイロン製のメッシュ(目の大きさ1.5mm)から構成されている。
【0076】
次に、この浄化装置1Bを用いる重金属類で汚染されている被汚染物を浄化する態様を説明する。
【0077】
まず、被汚染物供給手段22を介して、土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物などの重金属類で汚染されている被汚染物をスラリー形成槽2に供給する。このとき、被汚染物が非飽和状態、すなわち被汚染物の空隙が水で飽和してない場合には、水供給手段26又は液体循環ライン40を介して適量の水を供給して、飽和状態とする。スラリー形成槽2内で、供給された被汚染物、及び場合によっては水を撹拌混合して、スラリー状にする。pH計28を用いて、スラリーのpHを測定しながら、酸性物質又はアルカリ性物質供給手段24を介して酸性物質もしくはアルカリ性物質を添加してスラリーのpHを3以下又は12以上となるように調整する。スラリーの酸化還元電位を測定しながら、耐腐食性カソードCの酸化還元電位が水素標準電極に対して-0.16V以下となるように調整する。この状態で、スラリー中では、被汚染物から重金属類が溶出し、次いで耐腐食性カソードC表面に電解析出するようになる。このとき、耐腐食性カソードCの電極電位が低いほど、電解析出反応速度は上昇するが、電極電位が低すぎると(例えば、鉛の場合、約-0.6V以下)、電解析出時に重金属が緻密な被膜を形成せず、一旦形成した被膜が撹拌の剪断力により剥離しやすくなるので、汚染物や装置の条件に応じて適切な電極電位を選定する。
【0078】
スラリーは、撹拌装置による撹拌作用を受けながら、スラリー形成槽2下部の漏斗状部分に下降する。スラリー形成槽2内上方位置にある耐腐食性カソードCはカソード保護部材50で保護されているので、スラリー流により耐腐食性カソードC表面に付与される剪断力を低く抑制することができる。
【0079】
一定時間経過後、または電流値の観測により、負方向の電流値が低下したことでスラリー形成槽2内での処理が完了したことを確認したら、スラリーを固液分離機3に圧送し、液体と、浄化脱水固体(土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物由来の固体脱水物など)と、に分離する。分離された固体分は、固体抜き出しライン36を介して抜き出され、重金属類で汚染されていない土壌、汚泥、ヘドロ又は焼却灰などとして、処理することができる。分離された液体は、液体循環ライン40を介してスラリー形成槽2に再循環されるか、又は液体抜き出しライン38を介して抜き出されて余剰排液として排水される。
【0080】
耐腐食性カソードC表面に電解析出した重金属類は、電極の交換により系外に取り出してもよい。あるいは電極の再生方法として、電極を取り出して酸洗浄するか、一時的に電極電位を例えば-0.1V程度まで上昇させて、耐腐食性カソードC表面から溶離させて重金属類濃縮液を形成させて回収してもよい。電極再生時に印加する電位が高すぎる(例えば、銅電極の場合には0.0V程度)と、電極を構成する材料自身が溶解してしまうので、適正な範囲の電位に調整するか、印加時間を短くする。回収された重金属類は、重金属類汚染物として廃棄処分するか、あるいは重金属類原料として再利用してもよい。
【0081】
図4は、剪断力抑制手段の別の態様を示す概略説明図である。図4に示す浄化装置100は、重金属類を含む被汚染物を供給する被汚染物供給手段111と、酸又はアルカリ性物質を供給する酸又はアルカリ性物質供給手段112と、該被汚染物と該酸又はアルカリ性物質を少なくとも含むスラリーに還元的雰囲気を提供する耐腐食性カソード113Cと、耐腐食性カソード表面に作用するスラリーによる剪断力を低減し且つ耐腐食性カソードとスラリーとの接触状態を維持するように制御する剪断力抑制手段と、を具備するスラリー形成槽110を備える。
【0082】
本浄化装置100において、還元的雰囲気は、スラリー形成槽110内に配置された耐腐食性カソード113Cと、アノード113Aと、カソード制御用参照電極(水素標準電極)113Bと、耐腐食性カソード113C、アノード113A及び参照電極113Bの印加電圧を制御するための外部電源装置によって、スラリーに提供される。参照電極113Bは、制御する電極(カソード)の近傍に配置されている。図示した実施形態においては、耐腐食性カソード113Cとアノード113Aとの間に電解膜(隔膜)Mが位置づけられていて、アノード113Aとスラリーとの接触を希薄なものとするように構成されている。耐腐食性カソード113C、アノード113A、電解膜M及び参照電極113Bは、スラリー形成槽110内上方位置に位置づけられている。
【0083】
スラリー形成槽110には、スラリーが強酸性雰囲気又は強アルカリ性雰囲気に維持されていることを監視するため、pH計116が備え付けられている。また、図示したスラリー形成槽110は、スラリーを形成するために場合によっては必要となる水を供給する水供給手段115を具備する。さらに、スラリー形成槽110底部には、処理後のスラリーを抜き出すための処理済スラリー抜き出し口122が設けられている。処理済スラリー抜き出し口122には、処理済スラリーを抜き出すためのスラリーポンプ123と、固液分離装置120が接続している。固液分離装置120には、固液分離により得られた処理水をスラリー形成槽110に再循環させる循環液供給手段(図示せず)が接続されている。
【0084】
図示した実施形態において、剪断力抑制手段は、スラリー形成槽上部に設けられたスラリー抜き出し口117と、槽底部に設けられたスラリー導入口118と、スラリー抜き出し口117からスラリー導入口118までスラリーを循環させる循環ポンプ119と、を含み、スラリーを槽底部から所望速度で上昇させて、スラリー形成槽110内に所望のスラリー固体粒度分布を提供するように構成されている。
【0085】
また、スラリー形成槽110下部には、撹拌装置121が設けられていて、スラリー導入口118からスラリー形成槽110内に導入されたスラリーを十分に撹拌して、スラリー形成槽水平レベルでのスラリー中重金属類イオン濃度を一定にするように構成されている。
【0086】
次に、浄化装置110を用いて、重金属類で汚染されている被汚染物を浄化する好ましい一態様を説明する。
【0087】
まず、被汚染物供給手段111を介して、土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物などの重金属類で汚染されている被汚染物をスラリー形成槽110に供給する。このとき、被汚染物が非飽和状態、すなわち被汚染物の空隙が水で飽和されていない場合には、水供給手段115及び/又は循環液供給手段(図示せず)を介して、適量の水を供給して、飽和状態とする。スラリー形成槽110内に供給された被汚染物、及び場合によっては水及び/又は循環液を撹拌混合してスラリーを形成させる。pH計116によって、スラリーのpHを測定しながら、酸又はアルカリ性物質供給手段112を介して、酸性物質又はアルカリ性物質を供給し、スラリーのpHを3以下又は12以上となるように調整する。スラリーの酸化還元電位を測定しながら、耐腐食性カソード113Cの酸化還元電位が水素標準電極113Bに対して-0.16V以下となるように調整する。
【0088】
得られたスラリーは、循環ポンプ119の作動によって、スラリー形成槽110内を上昇流として流れ、スラリー形成槽110上部のスラリー抜き出し口117を介して抜き出され、スラリー導入口118を介して再びスラリー形成槽110に導入され、再び上昇流として流れる。スラリーの上昇流の速度は、循環ポンプ119の調整により行う。
【0089】
上昇流としてスラリー形成槽110内を流動するスラリー中では、還元的雰囲気及び強酸性もしくは強アルカリ性雰囲気が維持され、被汚染物から重金属類が溶出し、耐腐食性カソード113C表面に電解析出するようになる。このとき、カソード電極電位が低いほど、電解析出反応速度が上昇するが、低すぎると(例えば、鉛の場合には-0.6V以下)電解析出した重金属類は緻密な被膜を形成できず、被膜が剥離しやすくなるので、カソード電極電位を適正な範囲に調整する。
【0090】
スラリーを上昇流としてスラリー形成槽110内を流動させることで、スラリー形成槽110下部に粒径の大きな固体が存在し、上部に粒径の小さな固体が流動するようになる。こうして、スラリー形成槽110内上方位置に位置づけられている耐腐食性カソード113C近辺には粒径の小さな固体を含むスラリーが流れ、カソード表面113Cに対する粒径の大きな固体による剪断力が排除される。よって、カソード113C表面に電解析出した重金属類は、スラリー、特にスラリー中の大きな粒径の固体による剪断力の影響を受けずに、良好に堆積され得る。
【0091】
電流値の観測により、負方向の電流値が低下したことでスラリー形成槽110内での処理が完了したことを確認したら、スラリーポンプ123を作動させて、処理済スラリー抜き出し口122より処理済みのスラリーを抜き出し、固液分離装置120に圧送する。固液分離装置120にて、処理済みのスラリーを水溶液と浄化脱水固体(土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物由来の固体脱水物など)とに分離する。分離された固体分は、重金属類で汚染されていない土壌、汚泥、ヘドロ又は焼却灰として処理してもよい。分離された水溶液は、循環液としてスラリー形成槽110に再循環させて再利用するか、もしくは余剰液として系外に排出してもよい。
【0092】
カソード113C表面に電解析出した重金属類の後処理は、図3の装置について説明したように行うことができる。
【0093】
図5は、電解溶出と電解析出反応を利用して鉛、カドミウムなどを除去回収する本発明の好ましい第五の実施形態を示す概略説明図である。図5に示す浄化装置100Aは、重金属類を含む被汚染物を供給する被汚染物供給手段22と、酸又はアルカリを供給する酸又はアルカリ供給手段24と、還元的雰囲気を提供する還元的雰囲気提供手段と、を具備する浄化反応槽2を具備する。浄化反応槽2は、この例では上流側のスラリー形成部2aと下流側の分離部2bから構成され、この例ではスラリー形成部2aは横断面が円形の槽であり、分離部2bはこれより幅狭の長方形の槽である。還元的雰囲気提供手段は、分離部2b内に配置された第1のアノードA-1と第2のアノードA-2、スラリー形成部2aに配置された溶出用カソード制御用参照電極B-1及び一対の溶出用カソードC-1a,C-1b、及び第1のアノードA-1と溶出用カソードC-1a,C-1bの間に配置された析出用カソード制御用参照電極B-2及び析出用カソードC-2からなる。溶出用カソードC-1a,C-1bと第2のアノードA-2の間に溶出用電位を加える第1の電源装置と、析出用カソードC-2と第1のアノードA-1の間に析出用電位を加える第2の電源装置が設けられている。
【0094】
参照電極B-1及びB-2は、それぞれ制御する電極付近に配置されている。スラリー形成部2aには、内部のスラリーを均一にするための装置として例えば撹拌器等を備えることが望ましい。さらに、水を供給するための水供給手段26及び固液分離後の処理水を再利用するための循環液供給手段40aを設けてもよい。浄化反応槽2には、スラリーのpHを測定するためのpH計用電極28を挿入する。浄化反応槽2において形成されたスラリーを固液分離するための固液分離装置3及びスラリー搬送用のスラリーポンプ34が配備されていてもよい。アノード側で発生する酸化的雰囲気によってカソード側還元雰囲気が損なわれることがないように、例えば、カソードとアノードとの距離を離したり、カソード側からアノード側への水流を存在させたり、又は多孔壁又は隔膜Mを設けたりしてもよい。また、この例では、分離部2bからスラリー形成部2aに液を戻す循環ポンプが設けられている。
【0095】
この浄化装置100Aを用いて、重金属類で汚染されている被汚染物を浄化する方法を説明する。まず、被汚染物供給手段22を介して、土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物などの重金属類で汚染されている被汚染物を浄化反応槽2に供給する。このとき、被汚染物が非飽和状態、すなわち被汚染物の空隙が水で飽和してない場合には、水供給手段26又は循環液供給手段40bを介して適量の水を供給して、飽和状態とする。
【0096】
浄化反応槽2のスラリー形成部2a内で、供給された被汚染物、及び場合によっては水及び/又は循環液を撹拌して、スラリー状にする。pH計用電極28を用いてスラリーのpHを測定しながら、酸又はアルカリ供給手段24を介して酸もしくはアルカリを添加し、スラリーのpHを3以下又は12以上となるように調整する。スラリーの酸化還元電位を測定しながら、溶出用カソードC-1a,C-1b及び析出用カソードC-2の酸化還元電位が水素標準電極に対して-0.16V以下となるように調整する。
【0097】
この状態で、スラリー中では、被汚染物から重金属類が溶出し、次いで析出用カソードC-2表面に電解析出するようになる。この時、低い電位であるほど電解析出反応速度は上昇するが、電位が低すぎると(例えば鉛の場合-0.6V程度以下であると)電解析出時に重金属類が緻密な被膜を形成せず、いったん形成した被膜が剥離しやすくなるので、汚染物や装置の条件に応じて適当な電位を選定すべきである。
【0098】
次に、スラリーポンプ34を用いて、スラリーを固液分離機3に圧送し、水溶液と、浄化脱水固体(土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物由来の固体脱水物など)とに分離させる。分離された固体分は、重金属類で汚染されていない土壌、汚泥、ヘドロ又は焼却灰などとして、処理することができる。分離された水溶液は、循環液として再利用されるか、余剰液として排水される。
【0099】
また、析出用カソードC-2表面に電解析出した重金属類は、通常は電極を交換するか、または電極を一時的に取り出して酸洗浄することにより系外に取り出される。また、析出用カソードC-2の再生方法として、一時的に析出用カソード電位を例えば、-0.1V程度に上昇させることにより、析出用カソードC-2表面から溶離して重金属類濃縮液として回収される。これを、重金属類汚染物として廃棄するか、又は重金属類原料として再利用することができる。この時、析出用カソードC-2に過剰に高い電位を印加すると(例えば銅電極の場合0.0V程度)析出用カソードC-2の材料そのものが溶解するので、析出用カソード素材の溶解しない範囲で析出用カソードC-2の再生のための電位を設定するか、あるいは高い電位を与える時間を短時間になるように制御することが望ましい。なお、析出用カソードC-2を一対設けておき、一方を交互に取り出すようにすれば、装置稼動を継続的に行うことができる。
【0100】
なお、図5に示す実施形態においては、反応槽2を断面円形のスラリー形成層2a及び断面矩形のスラリー分離槽2bから構成し、スラリー形成層2a中央部に撹拌機を配置して、被汚染物供給手段22、酸又はアルカリ供給手段24及び水供給手段26をスラリー分離槽2bへの入口と径方向に対向する位置に設けている。このため、スラリー形成層2a内に供給された被汚染物、酸又はアルカリ性物質、水は撹拌されて周方向に回転すると共にスラリー分離槽2b方向に押し流される。したがって2b部における押し出し流れ速度を循環ポンプを制御することにより前記周方向の回転速度よりも遅くなるようにすれば、2a部における溶出用カソードとの接触、溶出効率を維持しつつ2b部における析出用カソードへの剪断力を抑制できる。
【0101】
図7は、電解溶出と電解析出反応を利用して重金属を除去回収する本発明の好ましい第六の実施形態を示す概略説明図である。図7に示す反応槽2は、重金属類を含む固体状または液体状の被汚染物を供給するスラリー状または液体状の被汚染物供給手段22と、酸又はアルカリを供給する酸又はアルカリ供給手段24と、反応槽2中にあってスラリーまたは液体と接触している耐腐食性カソードCと、反応槽2中に配置した底部の閉じた円筒形、箱状または袋状の隔膜ユニットMと、隔膜ユニットMの内部に配置されるアノードAと、耐腐食性カソードCに還元電位を提供する還元電位提供手段を含む固体状または液体状の被汚染物の浄化装置である。反応槽2には、内部の反応液を均一にするための装置としてガス散気装置8のようなものを備えることが望ましい。さらに、水を供給するための水供給手段26及び固液分離後の処理水を再利用するための循環液供給手段(スラリー搬送ライン32、スラリーポンプ34、固液分離装置3、循環液搬送ライン40)が設けられていてもよい。
【0102】
この反応槽2を用いて、重金属類で汚染されている固体状または液体状の被汚染物を浄化する方法を説明する。まず、固体状または液体状の被汚染物供給手段22を介して、土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物、工業用排水、表流水、地下水、海水などの重金属類で汚染されている固体状または液体状の被汚染物を反応槽2に供給する。このとき、固体状または液体状の被汚染物が非飽和状態、すなわち固体状の被汚染物の空隙が水で飽和してない場合には、水供給手段26又は循環液供給手段(32,34,3,40)を介して適量の水を供給して、飽和状態とする。反応槽2内で、供給された固体状または液体状の被汚染物、及び場合によっては水及び/又は循環液を撹拌して、スラリーまたは溶液状にする。pH計(図示せず)を用いて、スラリーのpHを測定しながら、酸又はアルカリ供給手段24を介して酸もしくはアルカリを添加してスラリーのpHを3以下又は12以上となるように調整する。還元電位提供手段を用いて、カソードCの電位が水素標準電極に対して-0.16V以下、または電流密度が+0.01〜+10A/L反応容器となるように還元電位を印加する。最適なカソード電位または電流密度は汚染物の濃度や電極面積、装置の形状によって大きく変化するので、条件に応じて適切な印加電位を選定する。
【0103】
電解溶出、析出反応終了後、スラリーポンプ34を用いて、スラリーを固液分離機3に圧送し、水溶液と、浄化脱水固体(土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物由来の固体脱水物など)と、に分離させる。被汚染物質が液体である場合は固液分離工程は必要ない。分離された固体分は、重金属類で汚染されていない土壌、汚泥、ヘドロ又は焼却灰などとして、処理することができる。分離された水溶液は、循環液として再利用されるか、余剰液として排水される。析出用カソードC表面に電解析出した重金属類は、電極を交換することにより系外に取り出されるか、または析出用カソードCの再生方法として一時的に析出用カソード電位を例えば-0.1V程度に上昇させることにより析出用カソードC表面から溶離して重金属類濃縮液として回収され、重金属類汚染物として廃棄するか、又は重金属類原料として再利用することができる。この時、あまりにも高い電位を印加すると(例えば銅電極の場合0.0V程度)析出用カソードの素材そのものが溶解するので、析出用カソード素材の溶解しない範囲で析出用カソードの再生のための電位を設定するか、あるいは高い電位を与える時間を短時間に管理することが望ましい。
【0104】
ウラン汚染土壌を本発明の浄化装置で電解析出除去する方法を具体的に述べると以下のようになる。図1に示すように、2000mL容プレキシグラス製リアクターの中央部に、陽イオン交換膜(トクヤマNEOSEPTA CMB)を設置して、リアクターを2分し、カソード区域及びアノード区域を設ける。カソード区域に、難水溶性のウラン汚染土壌100gと、水道水800mLと、20%塩酸90mLと、を添加し、テフロン(登録商標)製撹拌羽根で700rpmの速度で撹拌する。ニッケル-銅合金(大同インコアロイ製モネル400)金網の耐腐食性カソードをカソード区域内に挿入し、ポテンショスタット(定電位電源装置)を介してアノードと接続する。アノード区域には、水道水810mLと、47%硫酸90mLと、を添加し、酸化ルテニウム被覆チタン製のアノードを挿入する。参照電極をカソード区域に挿入し、カソード電極電位が水素標準電極電位に対して-1.5Vとなるように、ポテンショスタットを調節する。カソード電極電位が-1.5Vに達してから60分間運転することにより、ウラン汚染土壌中から金属ウランを回収する。ウランは放射能を持つため、作業は遠隔操作または放射線防護服、防護壁を用いて被爆量に注意しつつ行う。
【実施例】
【0105】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において用いた被検物は、各種工場敷地内から採取した土壌に、重金属類を配合して、所定濃度の重金属類含有土壌を調製したものである。
【0106】
[実施例1]鉛汚染土壌の電解析出除去試験
図1に示すように、2000mL容プレキシグラス製リアクターの中央部に、陽イオン交換膜(トクヤマNEOSEPTA CMB)を設置して、リアクターを2分し、カソード区域及びアノード区域を設けた。
【0107】
カソード区域に、難水溶性の鉛汚染土壌(鉛含有濃度300mg/kg乾土;採取場所:A機械工場)100gと、水道水800mLと、20%塩酸90mLと、を添加し、テフロン(登録商標)製撹拌羽根で700rpmの速度で撹拌し、被験系とした。
【0108】
ニッケル-銅合金(大同インコアロイ製モネル400)金網の耐腐食性カソードをカソード区域内に挿入し、ポテンショスタット(定電位電源装置)を介してアノードと接続させた。
【0109】
アノード区域には、水道水810mLと、47%硫酸90mLと、を添加し、酸化ルテニウム被覆チタン製のアノードを挿入した。
【0110】
参照電極をカソード区域に挿入し、カソード電極電位が水素標準電極電位に対して-0.55Vとなるように、ポテンショスタットを調節した。カソード電極電位が-0.55Vに達してから20分間運転した後、リアクター内のスラリーをGF/B濾紙を用いて吸引濾過し、固液分離を行った。反応時間中、カソード区域のスラリーのpHは、1.0以下に維持した。吸引濾過後、濾液中の鉛濃度と濾過後の土壌中の鉛含有濃度をそれぞれ原子吸光法を用いて測定した。同じ実験装置を用いて、カソード電極電位を水素標準電極電位に対して0.0Vとなるように設定した対照系についても、同様に吸引濾過、固液分離を行い、濾液中及び濾過後の土壌中の鉛濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
表1より、重金属類固体状汚染物を含むスラリーを強酸性雰囲気及び還元的雰囲気を維持することで、土壌に付着していた難溶性の鉛のうち96%がカソード電極に付着して、土壌及び間隙水より除去されたことがわかる。
【0113】
[実施例2]水銀汚染堆積物の電極還元洗浄試験
図2に示すように、2000mL容プレキシグラス製リアクターの中央部に、陽イオン交換膜(トクヤマ製NEOSEPTA CMB)を設置して、リアクターを2分し、カソード区域及びアノード区域を設けた。
【0114】
カソード区域に、難水溶性の水銀汚染堆積物(総水銀含有濃度130mg/kg乾土;採取場所:B薬品工場)100gと、水道水800mLと、20%塩酸90mLと、を添加し、テフロン(登録商標)製撹拌羽根で700rpmの速度で撹拌し、窒素ガスの散気管を挿入して、10mL/minの速度でカソード区域を窒素曝気し、被験系とした。
【0115】
鉛-スズ合金(鉛/スズ=60/40)により10μm厚にメッキした銅製金網の耐腐食性カソードを被験系内に挿入し、ポテンショスタットを介してアノードと接続させた。カソード区域から排出されるガスを捕集するために、過マンガン酸カリウム(50g/L)を含む1:4硫酸100mLを入れたガス洗浄瓶をリアクターに接続させた。
【0116】
アノード区域には、水道水810mLと、47%硫酸90mLと、を添加し、酸化ルテニウム被覆チタン製のアノードを挿入した。
【0117】
参照電極をカソード区域に挿入し、カソード電極電位を標準水素電極電位に対して-0.66Vとなるように、ポテンショスタットを調節した。カソード電極電位が-0.66Vに達してから20分間運転させた後、リアクター内のスラリーをGF/B濾紙を用いて吸引濾過し、固液分離を行った。カソード区域のpHは、1.0以下に維持した。リアクターからのガスを重金属トラップとしてのガス洗浄瓶に捕集させた。吸引濾過後、濾液中の総水銀濃度及び濾過後の堆積物中の水銀含有濃度を加熱気化原子吸光法用いて測定し、ガス洗浄瓶中に捕集された水銀濃度を原子吸光法を用いて測定した。
【0118】
同じ実験装置を用いてカソード電極電位を水素標準電極電位に対して+0.2Vとなるように設定した対照系についても、同様に吸引濾過し、固液分離した後、濾液、濾過後の堆積物及びガス洗浄瓶中の水銀濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0119】
【表2】
【0120】
表2より、堆積物に付着していた難溶性の水銀のうち99%が、酸性条件下で還元電位を印加することにより、堆積物及び間隙水中より除去されることがわかる。
【0121】
[実施例3]飛灰中の鉛の電解析出除去試験
図1に示すように、2000mL容プレキシグラス製リアクターの中央部に、陽イオン交換膜(トクヤマNEOSEPTA CMB)を設置して、リアクターを2分し、カソード区域及びアノード区域を設けた。カソード区域に、ごみ焼却飛灰をさらにプラズマで溶融した際に生じる溶融飛灰(鉛含有濃度36g/kg;採取場所:Dごみ焼却溶融炉)100gと、水道水640mLと、20%塩酸250mLと、を添加し、テフロン(登録商標)製撹拌羽根で700rpmの速度で撹拌し、被験系とした。鉛-スズ合金(鉛/スズ=60/40)により0.5mm厚に溶融浸漬した銅製エキスパンドメタルの耐腐食性カソードを被験系内に挿入し、ポテンショスタット(定電位電源装置)を介してアノードと接続させた。アノード区域には、水道水810mLと、47%硫酸90mLと、を添加し、酸化ルテニウム被覆チタン製のアノードを挿入した。
【0122】
参照電極をカソード区域に挿入し、カソード電極電位が水素標準電極電位に対して-0.55Vとなるように、ポテンショスタットを調節した。カソード電極電位が-0.55Vに達してから60分間運転した後、リアクター内のスラリーを遠心分離し、固液分離を行った。反応時間中、カソード区域のスラリーのpHは、1.0以下に維持した。
【0123】
遠心分離後、液相中の鉛濃度と土壌中の鉛含有濃度をそれぞれ原子吸光法を用いて測定した。
【0124】
同じ実験装置を用いて、カソード電極電位を水素標準電極電位に対して-0.1Vとなるように設定した対照系についても60分間運転を行い、同様に遠心分離を行い、液相中及び土壌中の鉛濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0125】
【表3】
【0126】
表3より、被験系においては、重金属類汚染飛灰を含むスラリーを強酸性雰囲気及び還元的雰囲気(水素標準電極に対して-0.55V)を維持することで、飛灰中の鉛のうち99%がカソード電極に付着して、固相及び液相より除去されたことがわかる。
【0127】
[実施例4]鉛汚染土壌の電解析出除去試験
実施例1と同様の条件下で、カソード電位を-0.25Vに設定して20分間運転した時の鉛除去試験結果を表4に示す。
【0128】
【表4】
【0129】
[実施例5]鉛汚染土壌の電解析出除去試験
【0130】
図3に示すように、2000mL容アクリル製容器をスラリー形成槽として用いた。スラリー形成槽のほぼ中央部に、陽イオン交換膜(トクヤマNEOSEPTA CMB)を設置して、槽を2分し、それぞれカソード区域及びアノード区域とした。
【0131】
カソード区域に、難水溶性の鉛汚染土壌(鉛含有濃度5000mg/kg乾土;採取場所:E自動車工場)100gと、水道水800mLと、1:1塩酸50mLと、を添加し、テフロン(登録商標)製撹拌羽根で500rpmの速度で撹拌し、被験系とした。
【0132】
ニッケル-銅合金(大同インコアロイ製モネル400)金網の耐腐食性カソードを被験系内に挿入し、ポテンショスタット(定電位電源装置)を介してアノードと接続させた。カソード近傍に、ナイロン製のメッシュ(目の大きさ1.0mm)で構成される保護部材で隔壁を形成し、耐腐食性カソード表面にスラリー中大きな粒径の固体による剪断力が作用しないようにした。
【0133】
アノード区域には、水道水800mLと、47%塩酸90mLと、を添加し、グラファイト製のアノードを挿入した。
【0134】
参照電極をカソード区域に挿入し、カソード電極電位が水素標準電極電位に対して-0.55Vとなるように、ポテンショスタットを調節した。カソード電極電位が-0.55Vに達してから20分間運転した後、槽内のスラリーをGF/B濾紙を用いて吸引濾過し、固液分離を行った。反応時間中、カソード区域のスラリーのpHは、1.0以下に維持した。吸引濾過後、濾液中の鉛濃度と濾過後の土壌中の鉛含有濃度をそれぞれ原子吸光法を用いて測定した。カソード保護部材を用いなかった点を除いて被験系と同じ実験装置を用いて構成した対照系についても、同様に吸引濾過、固液分離を行い、濾液中及び濾過後の土壌中の鉛濃度を測定した。結果を表5に示す。
【0135】
【表5】
【0136】
表5より、カソードに付与されるスラリーによる剪断力を抑制することで、電極に分配される鉛濃度が増加していることがわかる。よって、本発明により、カソード表面に電解析出した重金属類の剥離及び再溶解が防止できることが確認された。
【0137】
[実施例6] 鉛汚染土壌の電解析出除去試験
図4に示すように、高さ0.4m、横幅0.1m、奥行き0.05mの内容量2000mLのアクリル製反応槽を中央部で陽イオン交換膜(トクヤマNEOSEPTA CMB)を用いて、それぞれ、高さ0.4m、横幅0.05m、奥行き0.05mの寸法の区画に分けて、カソード区画及びアノード区画とした。カソード区画に、難水溶性の鉛汚染土壌(鉛含有濃度5000mg/kg乾土;採取場所:E自動車工場)100gと、水道水800mLと、1:1塩酸50mLと、を添加し、テフロン(登録商標)製撹拌羽根で500rpmの速度で撹拌し、被験系とした。ニッケル-銅合金(大同インコアロイ製モネル400)金網の耐腐食性カソードを被験系内に水面2cmの深さに設置し、ポテンショスタット(定電位電源装置)を介してアノードと接続させた。また、タイゴンチューブと循環ポンプを使用して上部から上澄みを吸引し、装置底部から再注入する循環系を構成した。循環水流は、土壌に含まれる細粒画分のみがカソードに到達でき、カソード表面に析出した鉛が剥離しない流速(本実施例においては、0.5L/minであった)に調節した。
【0138】
アノード区画には、水道水800mLと、47%硫酸90mLと、グラファイト製のアノードを挿入した。参照電極をカソード区画に挿入して、カソードの電位が水素標準電極に対して-0.55Vとなるように、ポテンショスタットを調節した。カソードの電位が-0.55Vに達してから20分間運転して、反応槽内のスラリーをGF/B濾紙を用いて吸引濾過して、固液分離を行った。反応時間中、カソード区画内のスラリーのpHは1.0以下に維持した。吸引濾過後、濾液中の鉛濃度と濾過後の土壌中に残留した鉛含有濃度をそれぞれ原子吸光法で測定した。
【0139】
スラリー循環系を備えていない対照系を作製し、被験系と同様の実験条件で吸引濾過、固液分離をした後、濾液中及び濾過後の土壌中に残留した鉛含有濃度を原子吸光法で測定した。結果を下記表6に示す。
【0140】
【表6】
【0141】
[実施例7]鉛汚染土壌の電解析出除去試験
図5に示すように、2400mlアクリル製の浄化反応槽2をカソード側1400ml、アノード側1000mlになるように陽イオン交換膜(DuPont社製NAFION)Mで中央を仕切る。スラリー形成部2aにおいて膜に最も近い位置に、析出用カソードC-2としてニッケル-銅合金(大同インコアロイ製モネル400)電極を、膜から最も遠い位置に、溶出用カソードC-1a,C-1bとしてグラファイト電極をそれぞれ設置した。分離部2bには膜から2cmの位置にアノードA-1,A-2としてグラッシーカーボン電極(東海カーボン社製)を2本設置した。両カソードは並列に配線されており、ポテンショスタット(定電位電源装置)を介してアノードと接続した。
【0142】
スラリー形成部2aには難水溶性の鉛汚染土壌(鉛含有濃度5000mg/kg乾土;採取場所:F化学工場)100gと、水道水1300mLと、1:1塩酸80mLと、を添加し、PTFE(テトラフルオロエチレン重合体)製撹拌羽根で500rpmの速度で撹拌することにより均一に近い状態に保たれている。分離部2bについては水道水800mlに1:1硫酸90mLを添加し、被験系とした。参照電極B-1をカソード区域に挿入し、カソードの電位が水素標準電極に対して-0.55Vとなるようにポテンショスタットを調節した。カソードの電位が-0.55Vに達してから20分間運転後、浄化反応槽2内のスラリーをGF/B濾紙を用いて吸引濾過し、固液分離を行った。反応時間中、カソード区域内のスラリーのpHは1.0以下に維持した。吸引濾過後、濾液中の鉛濃度と濾過後の土壌中の鉛含有濃度をそれぞれ原子吸光法で測定した。溶出用カソードC-1a,C-1bを取り除いた以外は同様の条件で行った対照系についても、同様に吸引濾過、固液分離後、濃液中及び濾過後の土壌中の鉛濃度を測定した。結果を表7に示す。
【0143】
【表7】
【0144】
表7より、カソードを溶出用、析出用として複数使用することで、被汚染物に含まれる重金属類に対し、従来の技術より優れた除去効果が得られたことが理解される。
【0145】
[実施例8]複数電極による鉛汚染土壌の電解析出除去試験
図6に示すように、角型の2400mL透明ポリ塩化ビニル製浄化反応槽をカソード側1400mL、アノード側1000mLになるように陽イオン交換膜(DuPont社製NAFION)Mで中央を仕切る。カソード区域において膜に最も近い位置に、析出用カソードC-2として鉛-スズ合金(鉛/スズ=40/60)により20μm厚にメッキした銅製電極を、膜から最も遠い位置に、溶出用カソードC-1としてカーボン電極をそれぞれ設置した。アノード区域には膜から2cmの位置にアノードAとしてグラッシーカーボン電極(東海カーボン社製)を1本設置した。両カソードは並列に配線されており、ポテンショスタット(定電位電源装置)を介してアノードと接続した。
【0146】
カソード区域には難水溶性の鉛汚染土壌(鉛含有濃度5000mg/kg乾土;採取場所:F化学工場)100gと、水道水1300mLと、1:1塩酸80mLと、を添加し、PTFE(テトラフルオロエチレン重合体)製撹拌羽根で500rpmの速度で撹拌することにより均一に近い状態に混合した。アノード区域については水道水800mlに1:1硫酸5mLを添加し、被験系とした。参照電極B-1をカソード区域に挿入し、カソードの電位が水素標準電極に対して-0.55Vとなるようにポテンショスタットを調節した。カソードの電位が-0.55Vに達してから20分間運転後、浄化反応槽2内のスラリーをGF/B濾紙を用いて吸引濾過し、固液分離を行った。反応時間中、カソード区域内のスラリーのpHは1.0以下に維持した。吸引濾過後、濾液中の鉛濃度と濾過後の土壌中の鉛含有濃度をそれぞれ原子吸光法で測定した。溶出用カソードC-1を取り除いた以外は同様の条件で行った対照系についても、同様に吸引濾過、固液分離後、濃液中及び濾過後の土壌中の鉛濃度を測定した。結果を表8に示す。
【0147】
【表8】
【0148】
[実施例9]鉛汚染土壌の電解析出除去試験
図14及び図15に示す2000L容角型リアクター(幅2m、奥行き1m、深さ1m)に、鉛汚染土壌(鉛含有濃度5000mg/kg乾土;採取場所:E自動車工場工場)200kgと、水道水1500Lと、20%塩酸200Lと、を添加し、リアクター底部に窒素ガス散気管6本を配して2m3/分の通気速度でガス撹拌し、被験系とした。図14に示すように直径60mmの円筒形の隔膜ユニット(アストムED-CORE)10ユニットを配し(有効膜面積1.5m2)、各ユニット間を仕切るように鉛-スズ合金(鉛/スズ=60/40)により20μm厚にメッキした銅製金網からなるカソードを27ユニット配備した。隔膜ユニット中には5%硫酸液を循環通水してアノード反応液とした。カソードを治具および整流器を介してアノードに接続し、1000Aの定電流で20分間運転した。運転開始直後のカソード電位は、0.0V程度であったが、数分で-0.3V程度まで低下した。この間に液中の酸化力のある物質が還元消費されたと考えられる。その後運転を停止する30分後までに徐々に-0.76Vまで低下した。この間に鉛の析出が進んで液相鉛濃度が低下し、定電流維持の為に低い電位へシフトしたものと考えられる。
【0149】
30分運転後、リアクター内のスラリーを採取し、遠心分離後にGF/B濾紙を用いて吸引濾過し、固液分離を行った。吸引濾過後、濾液中の鉛濃度と濾過後の土壌中の鉛含有濃度をそれぞれ原子吸光法を用いて測定した。対照系として、図16および図17に示すように図14及び図15の装置の両端の壁面を取り外して10cm角の格子枠で陽イオン交換平膜(アストムNEOSEPTA CMB)を有効面積1.44m2となるように固定し、その外側に容積200Lのアノード区域を設け、被験系で用いたのと同じアノード10本を各5本ずつ浸漬し、反応液として5%硫酸液を循環通水した。リアクター容器中には被験系で用いたのと同じカソード27ユニットを配置した。その他の条件は被験系と同一として、定電流運転を30分間行った後に鉛濃度を測定した。結果を表9に示す。
【0150】
【表9】
【0151】
表9より、平膜の代わりに隔膜ユニットを適用してその周囲にカソードを配置することで、大型のリアクターであっても効率的に鉛の電解析出が進行し、土壌に付着していた難溶性の鉛のうち98%が電極に付着して、土壌及び間隙水より除去できたことがわかる。
【0152】
[実施例10]スズ汚染土壌の電解析出除去試験
図14及び図15に示す2000L容角型リアクターを被験系に、図16及び図17に示す改造した2000L容角型リアクターを対照系として実施例9と同様に試験を行った。被汚染物として、鉛汚染土壌の代わりにスズ汚染土壌(スズ含有濃度530mg/kg乾土;採取場所:F薬品工場)200kgを用いた。結果を表10に示す。
【0153】
【表10】
【0154】
表10より、平膜の代わりに隔膜ユニットを適用してその周囲にカソードを配置することで、大型のリアクターであっても効率的にスズの電解析出が進行し、土壌に付着していた難溶性のスズのうち95%以上が電極に付着して、土壌及び間隙水より除去できたことがわかる。
【0155】
[実施例11]各種カソード電極を用いた鉛汚染土壌の電解析出除去試験
図14及び図15に示す2000L容角型リアクターを用い、カソードとして鉛-スズ合金(鉛/スズ=60/40)により20μm厚にメッキした銅製金網を用いたものを被験系1に、同じくカソードとしてニッケル-銅合金(大同インコアロイ製モネル400)金網を用いたものを被験系2に、銅金網を用いたものを対照系として実施例9と同様に試験を行った。試験は2日間かけて行い、初日に3種類のカソードについて試験を行った後、カソードユニットを水洗せずに塩酸酸性のスラリーが付着した状態で一晩放置した。2日目に再び同じカソードユニットを使って同じ試験を繰返し行い、一晩放置したことによる腐食の影響を評価した。初日の結果を表11に、2日目の結果を表12に示す。
【0156】
【表11】
【0157】
【表12】
【0158】
表11および表12より、1日目の試験においては各種カソード電極を用いることによって鉛除去性能に大きな違いは無かったが、カソードを塩酸酸性のスラリーが付着した状態で一晩放置した後の2日目の試験では、被験系1および2においては1日目と大きな違いが無かったのに対し、銅電極カソードを用いた対照系においては運転時間である30分間の間にほとんどカソード電位が低下せず、鉛の除去が達成できなかったことが分かる。2日目の銅カソード(対照系)は全体に緑色の緑青(CuCO3・Cu(OH)2、CuClおよびCuCl2・3Cu(OH)2を主成分とする)を発生して腐食しており、電解反応時にはこれらの2価および3価の銅が0価に還元されて析出する反応が鉛の還元析出に先んじて生じるために、カソード電位が所定の運転時間内には充分低下せず、鉛の析出に至らなかったと考えられる。すなわち、従来の技術と比較して本発明の耐食性の高いカソード電極を用いることにより、大型装置での繰返し電解運転時に、重金属の電解還元反応を安定して行える効果があることが示された。
【0159】
なお、本試験にあたってはカソード電極を仕切り板状のユニットとし、治具ごと差し替えられる構造としたため、2m3規模の大型装置であっても各種電極の交換が容易であり、星型のカソードを隔膜-電極ユニットの周囲に巻きつける従来の方法に比べて作業性の上で有利であった。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明によれば、重金属類で汚染されている、例えば、土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰等の被汚染物から、被汚染物に含まれている重金属類の難溶性の画分まで確実に除去することができ、被汚染物中の重金属類含有濃度そのものを低下させることができるので、処理時点のみならず将来にわたって重金属類の溶出による二次汚染によるリスクを排除することが可能となる、という効果が得られる。
【0161】
また、本発明によれば、重金属類で汚染されている、例えば、土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰等の被汚染物から、重金属類の難溶性の画分まで確実に除去することができ、被汚染物に含まれている重金属類をカソード表面に電解析出させた後の重金属類のカソード表面からの剥離及びスラリー中への再溶解を防止することができる。
【0162】
また、本発明によれば、重金属類で汚染されている、例えば、土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰、工業用排水、表流水、地下水、海水等の固体状または液体状の被汚染物から、溶出用カソードにより固体状または液体状の被汚染物に含まれている重金属類の難溶性の画分から確実に溶出させ、水溶液中に溶出してきた重金属類を析出用カソードに析出させることによって従来技術よりも確実に重金属類を除去することができる。実際の環境浄化に必要な大型装置においても、隔膜−電極ユニットの数を増やすことによって膜間の距離及び/または電極と反応液(またはスラリー)間の距離を維持できるので、除去効率及び反応速度を低下させること無く処理を行うことができる。
【0163】
さらに本発明によれば、耐食性の高いカソード電極を使用することによって電位印加、電流停止の繰返し運転を行っても電極が腐食せず、安定した処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】図1は、電解析出反応を利用して鉛、カドミウム等を除去回収する本発明の好ましい一実施形態を示す概略説明図である。
【図2】図2は、電極反応を用いて水銀等を除去回収する本発明の好ましい別の実施形態を示す概略説明図である。
【図3】図3は、本発明の好ましい実施形態を示す概略説明図であり、特に、カソード保護部材をカソード近傍に配置して、カソード表面にスラリー中の大きな粒径の固体による剪断力が作用しないように構成した態様を示す概略説明図である。
【図4】図4は、本発明の別の好ましい一実施形態を示す概略説明図であり、特に、スラリー上昇流を用いて、スラリー中の固体粒度分布を形成し、カソード表面へのスラリー中の大きな粒径の固体による剪断力を抑制する態様を示す概略説明図である。
【図5】図5は、本発明の好ましい一実施形態の被汚染物の浄化装置を示す概略説明図である。
【図6】図6は、本発明の好ましい一実施形態の被汚染物の浄化装置を示す概略説明図である。
【図7】図7は、カソードを用いて鉛、カドミウムなどを固体状または液体状の被汚染物から溶出させ電解析出させて回収する本発明の好ましい一実施形態を示す概略説明図である。
【図8】図8は、本発明に用いられるアノード区域とカソード区域を分離するための隔膜の形態を示す概念図である。
【図9】図9は、隔膜の変形や磨耗に対し、隔膜の底部や上部を保護するための型枠及びパイプを用いた補強の一例を示す図である。
【図10】図10は、多孔性セラミック等の平板を多面体状の型枠に固定することで隔膜ユニットとして使用する一例を示す図である。
【図11】図11は、隔膜ユニットを透過し拡散する水素イオンの移動を妨げないカソード及び隔膜−電極ユニットの配置の好ましい一例を示す図である。
【図12】図12は、隔膜ユニットを透過し拡散する水素イオンの移動を妨げないカソード及び隔膜−電極ユニットの配置の好ましい別の一例を示す図であり、図12(a)はカソードが単列配置されている場合を示し、図12(b)はカソードが複数列配置されている場合を示す。
【図13】図13は、隔膜ユニットを透過し拡散する水素イオンの移動を妨げないカソード及び隔膜−電極ユニットの配置の好ましい別の一例を示す図であり、図13(a)、(b)はカソードの配置例を示し、図13(c)、(d)はカソード板の形状(上から見た図)の例を示す。
【図14】図14は、実施例9〜11で用いた2000L容角型リアクターを示す模式図(側面)である。
【図15】図15は、実施例9〜11で用いた2000L容角型リアクターを示す模式図(上面図)である。
【図16】図16は、実施例9〜11の対照系として用いた2000L容角型リアクターを示す模式図(側面)である。
【図17】図17は、実施例9〜11の対照系として用いた2000L容角型リアクターを示す模式図(上面図)である。
【符号の説明】
【0165】
1;1A;1B;100:浄化装置
2:反応槽(スラリー形成槽)
2a:スラリー形成部
2b:分離部
3;120:固液分離機
5:重金属トラップ(ガス洗浄瓶)
A:アノード
A-1:第1のアノード
A-2:第2のアノード
C:カソード
C-1a,C-1b:溶出用カソード
C-2:析出用カソード
M:隔膜
10:アノード区域
20:カソード区域
22;111:被汚染物供給手段
24;112:酸性物質又はアルカリ性物質供給手段
26;115:水供給手段
27:不活性ガス供給手段(散気管)
28:pH計用電極
34:スラリーポンプ
40:液体循環ライン
50:カソード保護部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属による環境汚染物の浄化技術に関し、特に鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、クロム(Cr)、スズ(Sn)、水銀(Hg)、ウラン(U)、プルトニウム(Pu)、砒素(As)などの重金属類を、土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰、ヘドロ、これらの抽出液、これらを含む工業用水、廃水、表流水、地下水、海水などの重金属類を含む固体または流体状の被汚染物から、分離除去する浄化方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
重金属で汚染された土壌を浄化修復する方法として、電気化学的手法を用いる方法が提案されている(特許文献1)。この方法によれば、汚染土壌を酸性溶媒と混合してスラリーを形成させ、汚染土壌から重金属イオンをスラリー(間隙水)中に抽出させた後に、重金属イオンを含むスラリーを濾過材により濾過しつつ直流電圧を印加して、濾過材により隔離形成されているカソード部に、スラリーから濾過された重金属イオンを移行させて、汚染土壌から重金属を分離する。
【0003】
しかし、この方法では、カソード部とスラリーとが濾過材により隔離されているので、間隙水はアノード側から濾過材を通過してカソード側に流れ、スラリーはカソードの還元電位によって還元されることがなく、逆にアノードの酸化電位によって酸化的雰囲気中に維持される可能性が高い。そのため、鉛、カドミウム、水銀等の固体付着物のうち、鉄マンガン吸着態及び有機物結合態と呼ばれる難溶性の付着形態をとる画分を効率的に抽出できず、土壌中重金属類含有濃度を十分に低下させることができない、という問題がある。
【0004】
また、焼却灰から重金属類を除去する方法として、汚染焼却灰をpH調整し、均一なスラリーとした後、撹拌機及びカソード、アノードを具備する分離回収槽に導入して直流電圧を印加することにより、重金属を電極に付着させる方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかし、この方法では、分離回収槽内に設けられたカソード及びアノードにスラリーが直接接触するので、アノードから発生する塩素、酸素ガスなどの影響によってスラリーを還元的雰囲気中に維持することができない。そのため、上述の鉄マンガン吸着態及び有機物結合態と呼ばれる難溶性の付着形態をとる画分を効率的に抽出できず、焼却灰中重金属類含有濃度を十分に低下させることができない、という問題がある。
【0006】
さらに、焼却灰からの重金属類の除去方法として、汚染焼却灰を酸抽出した後に固液分離し、得られた抽出液に対して、陰極電位を段階的に低下させて電解を行うことにより、複数種の金属を段階的に析出させて重金属類を回収する方法が提案されている(特許文献3)。
【0007】
しかし、この方法でも、酸抽出時に還元電位が印加されていないため、上述の難溶性の付着形態をとる画分を効率的に抽出できず、焼却飛灰中重金属類含有濃度を十分に低下させることができない。
【0008】
また、この方法では、重金属類の水溶液中への抽出と水溶液からの分離を同時に行わず2段階に分けて行っているため、抽出段階において水溶液中の重金属類濃度が上昇し、特に溶解度積の小さい重金属塩類を完全に溶解しきれない、という問題がある。さらに、間隙水中に高濃度の重金属類が溶解している状態で固液分離を行うため、固液分離後も残留する間隙水(スラッジ)に含まれる重金属類を焼却灰から除去できない、という問題もある。
【0009】
これらの従来の方法は、酸を用いて重金属類を溶出させ、次いで溶出した重金属類を電極電位差によって移動及び/又は析出させる反応を利用するものである。上記何れの方法においても、カソードの還元電位によって被汚染物を還元的雰囲気に維持して、重金属類の溶出を促進させる、という思想は開示も示唆もされていない。
【0010】
さらに、これらの方法では、重金属類を十分に溶出させるためには、難溶性物質として溶解度積の制限を受けるために溶媒としての液相の体積を大きくとることが必要で、その結果、処理装置全体の体積が大きくなり、装置の小型化が難しいという問題があった。
【0011】
これらの問題を解決するための手段として、発明者らはカソード区画とアノード区画を隔膜で区切り、重金属類で汚染された被汚染物をカソード区画に導入することによって還元的雰囲気及び強酸性もしくは強アルカリ性雰囲気の共存下に維持することにより、被汚染物に含まれる重金属類を溶出させ、さらにカソード表面に析出させる方法を提案した(特許文献4)。この方法によれば被汚染物が還元的雰囲気に維持され、アノードにより形成される酸化的雰囲気とは離隔されるために重金属の溶出が促進され、また溶出した重金属がカソード表面に析出することによって液相重金属イオン濃度が低く維持されるために、溶解度積の低い重金属でも比較的少量の溶媒に順次溶出させることが可能であり、上記被汚染物から、重金属類の難溶性の画分まで確実に除去することができる。
【0012】
しかしながら、特に銅を電極として用いた場合、小型の装置では問題なく繰返し利用が可能であったが、カソード区画の容量が100L以上の大型の装置では電解処理および電解停止を繰り返すうちに、電解停止中に銅電極が腐食し、緑青を生じ、電極が損耗すると共に、電解処理時にカソード電位を所望電位まで低下させるまでに長い時間を要する問題が認められた。
【特許文献1】特開平11-253924号公報
【特許文献2】特開2002-126692号公報
【特許文献3】特開2002-173790号公報
【特許文献4】国際特許公開WO2005/035149パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰等の被汚染物から、重金属類の難溶性の画分まで確実に除去し、被汚染物中重金属類含有濃度そのものを低下させ、将来にわたって汚染リスクを排除することができる被汚染物の浄化方法及び装置を提供することにある。特に、電極腐食の問題を回避し、大容量の被汚染物の処理を可能とする浄化方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究の結果、電極の接液部に、鉛、スズ、ニッケル、クロムおよびこれらの少なくとも1種を含む合金などの耐腐食性を有する導電性物質を用いることにより、電解時および無通電時のいずれの状態でもカソード表面の腐食を抑制することができ、電極の損耗を生じずに、また電解時に速やかに目的の還元電位までカソード電位を低下させることができ、大型の電解装置においても安定的に重金属類を含む被汚染物からの重金属類除去を行うことができることを知見して、本発明をなしたものである。
【0015】
具体的には、本発明によれば、カソードの接液部が強酸性もしくは強アルカリ性雰囲気下で還元電位を印加しない条件下で耐腐食性を有する導電性物質で構成されていることを特徴とする重金属類を含む被汚染物質から重金属類を除去する装置に用いるカソードが提供される。
【0016】
本発明のカソードは、導電性があり、汚染重金属類を良く電着し、還元的雰囲気および酸化的雰囲気(空気存在条件)においてカソード液の酸性(またはアルカリ性)に対して耐腐食性を持つものであることが好ましい。このため、本発明のカソードは、少なくとも接液部が上記導電性物質で構成されていればよく、カソード全体が上記導電性物質で構成されていても、あるいはカソードの接液部となる表面が上記導電性物質で被覆されていてもよい。カソードの接液部表面のみを導電性物質で被覆する場合には、カソードを構成する基材(以下、「カソード基材」という)は、銅、ステンレス、鋼などの導電性基材であることが好ましく、特に銅が好ましい。また、カソード基材に導電性物質を被覆するには、メッキまたは溶融浸漬などの公知の技術を用いて被覆することができる。
【0017】
本発明のカソードの接液部を構成する上記導電性物質は、鉛、ニッケル、クロム、スズから選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらから選択される少なくとも1種の金属を含む合金であることが好ましく、例えば、鉛、鉛合金(鉛-スズ、鉛-亜鉛など)、ニッケル、ニッケル合金(ニッケル-銅、ニッケル-亜鉛、ニッケル-鉄など)、クロム、クロム合金(クロム-ニッケル、クロム-ニッケル-鉄、クロム-ニッケル-銅など)などを挙げることができる。
【0018】
このように還元的雰囲気および酸化的雰囲気(空気存在条件)においてカソード液の酸性(またはアルカリ性)に対して耐腐食性を有する導電性物質を用いてカソードの接液部を構成することにより、カソードを無通電時においても酸化腐食から守ることができ、カソードの損耗を防ぐことができる。また、カソードが腐食して表面に金属酸化物が蓄積すると、電解時において金属酸化物の還元反応が生じるために、電解電流が浪費される問題がある。特にカソード表面に蓄積する金属酸化物を構成する金属が、除去しようとする汚染重金属よりも貴な電位を持つ金属であった場合(例えば鉛、クロム等の汚染に対して銅の酸化物が発生した場合など)、汚染重金属の析出よりも先に該金属の還元析出が生じるため、電位を制御しても重金属のみを選択的に析出させることは不可能である。また、電解時にまず該金属の還元析出反応が生じるためにカソード電位が中々低下せず、目的の重金属を析出できるような低いカソード電位を実現するまでに長い時間が掛かる問題が生じる。さらに、いったん該金属の酸化物が発生すると電解終了時には常にカソード表面に析出しているために系外に排出されず、繰返しカソード表面で酸化しては電解時に還元される状態となり、浄化装置の処理速度を著しく低下させる問題がある。本発明の耐腐食性を持つカソードを用いることにより、これらの問題を避けることができる。
【0019】
また、本発明の耐腐食性カソードは、目的の重金属類を電解析出させるために広い表面積を持つことが好ましく、例えば、繊維状、網目状、エキスパンドメタル状、パンチングメタル状、ハニカム状などの構造を持つことが好ましい。特に、装置コストや作業性の点から、銅やステンレスなどのカソード基材をエキスパンドメタル等の形状に成形した後、鉛-スズ合金などの導電性物質をメッキまたは溶融浸漬などにより被覆させた構造であることが好ましい。
【0020】
また、本発明によれば、上述の本発明の耐腐食性カソードを具備する重金属類を含む被汚染物の浄化装置が提供される。具体的には、重金属類を含む被汚染物を供給する被汚染物供給手段と、上述の還元的雰囲気を提供する耐腐食性カソードと、隔膜と、アノードと、を具備し、アノードを含むアノード区域とカソード及び被汚染物供給手段を含むカソード区域とが隔膜によって形成され、カソード区域は還元的雰囲気及び強酸性若しくは強アルカリ性雰囲気に維持され、被汚染物からの重金属類イオンの溶出及び溶出した重金属類イオンの被汚染物及び間隙水からの分離を並行して行う反応槽を含む被汚染物の浄化装置が提供される。
【0021】
本発明の浄化装置に用いるカソードは、上述の本発明の耐腐食性カソードであり、銅のカソード基材に鉛、ニッケル、スズ、クロムから選択される少なくとも1種類の金属若しくはこれらから選択される少なくとも1種の金属を含む合金で接液表面が被覆されている網状、エキスパンドメタル状、パンチングメタル状、ハニカム状の何れかの形状を有するものであることが好ましい。
【0022】
また、本発明の被汚染物の浄化装置においては、反応槽中に複数のカソードを配置することもできる。本態様において、複数のカソードのうち、少なくとも1つは重金属イオンを溶出させる作用を主とする溶出用カソードであり、他のカソードの少なくとも1つは重金属イオンを析出させる作用を主とする析出用カソードとして機能する。このため、標準電極電位が相対的に高い物質を析出用カソードとして用い、標準電極電位が相対的に低い物質を溶出用カソードとして用いる。析出用カソードは、溶出用カソードよりも析出した重金属類が電着しやすい物質から構成されていることが好ましく、比表面積を最大にするような形状であり、重金属類を回収する際に電極に高い電位を与えて電極表面に析出した重金属類を再溶解させる際に、取り除きやすいような構造であり、表面は析出した重金属類が還元反応槽内で再剥離しないよう、凹凸、網目状などの形状であることが好ましい。本発明の耐腐食性カソードは析出用カソードとして用いられる。溶出用カソードには耐摩擦性、耐酸性、耐アルカリ性があることが求められ、具体的には、カーボンや表面処理を施した金属をカソード基材とし、表面に重金属類が析出しにくく、仮に重金属類が析出したとしても容易に除去できるように、できる限り滑らかな平面及び曲面に仕上げられていることが望ましく、その形状としては例えば、長方形の板型、円盤型、皿型、椀型、球型などスラリーにより擦り減りにくい形状が好ましい。また、析出用カソードは、溶出用カソードよりもアノードに近い位置に配置されていることが好ましく、析出が起こり易い位置で重金属類を析出用カソードに析出させ、その位置より相対的にアノードから遠い位置、すなわち相対的に析出しにくい位置で重金属類を被汚染物の難溶解性画分から溶出用カソードを用いて溶出させることができる。これにより、折出用カソード周辺におけるプロトン濃度が、溶出用カソード周辺より高くなるため、プロトン濃度に比例する電流密度も大きくなる。電極への金属の析出は電流密度が大きいほど析出速度が速くなる為、より析出用カソードに重金属類が析出しやすくなる。溶出用カソード及び析出用カソード電位の調整による還元的雰囲気の提供は、アノード、参照電極、溶出用カソード及び析出用カソードの組み合わせにおいて、アノードと析出用カソード間距離の制御、析出用カソードと溶出用カソード間距離の制御、及び、装置内の流れによって調整することができる。たとえば、析出用カソード電位を水素標準電極に対して-0.16V以下、好ましくは-0.25V以下に調整することで、鉛(標準電極電位-0.126V)、カドミウム(標準電極電位-0.40V)を析出用カソード表面に析出させることができる。一方、溶出用カソードはできるだけ重金属類の析出を避けるために析出用カソードと比べて同じか高い電位に制御することが望ましい。また、溶出用カソードが析出用カソードと同じ電位で操作される場合には、異なる導電性材料を使用するか、析出しにくい形状を採用することで重金属類の析出から電極を保護することが望ましい。例えば炭素電極は金属と結合しないので、仮に低い電位を与えて炭素電極表面に重金属類が析出しても撹拌や流れがあれば析出した重金属類の固体は電極から遠ざかり、還元雰囲気により再溶解し、ついには析出用カソードに析出する。また、両カソードともに素材によってはカソードが溶解して逆方向の電流を生じる可能性もあるので注意を要する。従って定電位電源装置を用いて両カソードともに電位を-0.16V以下に制御することが望ましい。
【0023】
本発明の浄化装置に用いるアノードは、導電性があり、強酸性(好ましくはpH3以下)もしくは強アルカリ性(好ましくはpH12以上)水溶液中での耐性があり、陽極腐食に対する耐性があることが好ましく、例えば、ファーネスブラック、グラファイト、チタン、ダイヤモンド電極(導電性ダイヤモンド膜で表面処理した導電材料)、白金族金属被覆金属(例えば酸化ルテニウム被覆チタン)、チタン被覆金属、鉛-スズ合金、二酸化鉛などを挙げることができる。また、アノードは、被汚染物を酸化的雰囲気に曝すことのないように、被汚染物と直接接触せずに通電することができる構成にすることが好ましく、後述するように隔膜によって被汚染物と隔離されていることが好ましい。
【0024】
本発明の浄化装置において用いる隔膜は、カソードとアノードとの間に位置づけられ、カソードを含むカソード区域とアノードを含むアノード区域とを隔離する。また、別の態様において、アノードを囲むように隔膜を位置づけて、隔膜の内側にアノード区域を形成し、隔膜の外側にカソード区域を形成してもよい。あるいは、隔膜単独でもしくは隔膜の強度を強める枠材などの補強材を用いて、少なくとも一端を閉じた円筒形、箱状または袋状の隔膜ユニットとし、隔膜ユニット内部にアノードを位置づけてアノード区域とし、隔膜ユニット外部にカソードを位置づけてカソード区域としてもよい。アノードと隔膜表面との距離はアノードで発生する水素イオンを効率よく隔膜表面に供給するためになるべく短いことが望ましい(ただし後述するように接触することは避けるべきである)ため、アノードの形状は隔膜ユニットの形状に対応していることが望ましい。例えば、隔膜ユニットが円筒形であるならアノードも円筒形であることが好ましい。また、アノードは隔膜ユニット中に格納されるため、カソードに対して表面積が比較的小さくなりがちである。アノードの表面積によってアノード反応が律速段階とならないよう、アノードは凹凸状、多孔質状、網状、繊維状にするなどして表面積を大きくすることが好ましい。アノード表面においては電気分解により酸化反応が進行するため、隔膜表面を酸化腐食から保護するためにアノード表面と隔膜表面は接触させないことが望ましい。何らかの非導電性のスペーサーを両者の間に挿入するか、アノードを隔膜に接触しないよう何らかの方法で固定することが望ましい。隔膜ユニットは、平膜状の素材を任意の容器の形に成形し、接着、熔着、または縫製によって作製することができる(図8)。また隔膜の変形や磨耗を避けるため、網状またはパンチングプレート状の樹脂で表面を補強し、また樹脂製の型枠や板、パイプなどの保護材を用いて特に隔膜の角の部分、底部や上部を形成、保護することが望ましい(図9)。この場合、隔膜自体の底部もしくは側面が閉じていなくても、保護材に接着もしくは溶着することによりユニットを形成しても良い。市販のアストム製ED-CORE膜は既に円筒形に成形されているので、円筒形の隔膜ユニットを形成するために好ましく用いることができる。セラミックについては焼成の前段階で容器の形状とするか、または平板であっても多面体状の型枠に固定することで隔膜ユニットとして使用できる(図10)。しかし、隔膜−電極ユニットは、必ずしも閉鎖型である必要はなく、重金属類を含む被汚染物質の粒子がアノードに直接接触しないように、隔膜がアノードを囲む構成になっていればよい。
【0025】
本態様においては、カソードは隔膜ユニットの周囲に配置されるが、重金属の電着効率を上げるためになるべく広い表面積をもち、またアノード区域から供給される水素イオンを効率よく利用するためになるべく隔膜ユニットの近傍に配置され、かつカソード表面の全体で電着が行えるよう、隔膜ユニットを透過して拡散してくる水素イオンの移動を妨げない構造であることが望ましい。ここで、アノード区域からカソード区域への水素イオンの移動は電解反応時における両区域のチャージバランスを維持して回路を閉じるために必要であるのみならず、カソード表面における重金属の電着を阻害する水酸化物イオン濃度を低下させる役割も果たす。これらの条件を満たすカソード及び隔膜−電極ユニットの配置方法として、図11に示すような中央のアノードを囲むように配置した隔膜−電極ユニットの周囲を取り巻くようにカソードを星形に配置したり、または図12に示すように隔膜−電極ユニットの周囲にカソードを放射状に配置したりする態様が望ましい。放射状に並べたカソードは、図12(a)に示すように単列形態でも、図12(b)に示すように複数列形態でもよい。また、図示した態様では、星形の角は鋭角であるが、湾曲していてもよい。また、星形配置の折りたたみ回数および放射状配置の放射線の本数には特に制限は無く、装置の大きさや被汚染物の性状(特に被汚染物の場合は粒径)、反応液またはスラリーの撹拌方法、撹拌強度に応じて適宜変更すべきである。あるいは、カソードは図13(a)、(b)に示すように仕切り板状に複数の隔膜−電極ユニット間に配置されても良い。このとき、仕切り板の面積を増すために、カソードを金網状またはエキスパンドメタル状の仕切り板状に形成し、図13(c)に示すように板を波板状に湾曲させても良く、また図13(d)に示すようにプリーツ状に折っても良い。このように仕切り板状のカソードを配置した場合は、通電のための治具の配置が規則的となり、カソードユニットの着脱が容易となる利点がある。また、水素イオンの供給が十分に行われていて水素イオンの供給速度が重金属類の析出反応の律速段階とならないような場合は、特にこのような配置を取る必要は無く、隔膜−電極ユニットから見て重なり合うようにカソードを配置しても良い。
【0026】
被汚染物中の重金属類はカソードによる還元雰囲気下で溶出及び電解析出反応を起こし、被汚染物から分離、除去される。カソードは上述したように隔膜−電極ユニットの周囲に星形、放射状または仕切り板状に並べられ、隔膜を透過してくる水素イオンを利用して溶出及び電解析出反応を進行させる。カソードが隔膜に対して積層した形で配置されていると、より隔膜に近い側のカソードに集中して重金属類が析出し、特にカソードが隔膜を覆っているような配置形状では重金属類の蓄積によって隔膜からカソードへと向かう水素イオンの流れが遮断もしくは閉塞してしまい、水素イオンと反応液中の重金属イオンとの接触効率が低下して結果的に電解析出効率が低下するので注意を要する。この問題は、カソードを上述したように隔膜−電極ユニットの周囲に星形、放射状または仕切り板状に並べることにより、避けることができる。
【0027】
反応槽が大型化した場合、この隔膜−電極ユニットを反応槽内に複数個配置し、各隔膜−電極ユニットの周囲にカソードを配置すれば、容易に電極と膜間の距離及び/または電極と反応液(またはスラリー)間の距離を小さくすることができ、反応速度及び汚染物除去効率を維持することができる。また、隔膜又は隔膜ユニットが汚損、イオン交換能低下、亀裂発生等により劣化した場合には、隔膜−電極ユニットを反応容器内から引き上げることによって容易に補修または交換を行うことができる。実際に土壌などの被汚染物を浄化する装置を構築した場合、現実的な浄化期間内に処理を完了するために反応槽の容積を大きくせざるを得ず、例えば汚染土壌処理を想定した場合10m3以上の容積が必要となることが一般的である。このような大きな反応槽に平膜型の隔膜を適用すると、電極と膜間の距離及び/または電極と反応液(またはスラリー)間の距離が大きくなってしまい、反応速度及び除去効率が低下する。この問題を避けるために反応槽を縦に扁平な形とし、隔膜を介して横に積層することによって上記の距離を短くする方法も考えられるが、巨大な平膜を何枚も使用することは膜の膨潤による漏れの危険性を増し、また膜の補修や交換も困難であることから現実的ではない。アノードを反応槽中に配置した底部の閉じた円筒形、箱状または袋状の隔膜の内部に配置し、カソードを隔膜の外部に配置することによって大型の実装置においても電極と隔膜間の距離及び/または電極と反応液(またはスラリー)間の距離を十分小さく維持することが可能であり、好ましい汚染物除去効率が得られるとともに隔膜の補修や交換も容易になる。
【0028】
本発明においてカソードとアノードとを隔てるために用いることができる隔膜としては、水溶液中の特定のイオン以外の物質の移動を制御する機能を有する隔膜であって、イオン交換を行ってアノード及びカソード間の回路を閉じる機能を有し、且つ塩素ガス、酸素ガス、溶存塩素、溶存酸素などの透過を防止してカソード区域の還元的雰囲気を維持する機能を有する隔膜を挙げることができる。具体的には、スルホン酸基を有するフッ素樹脂系イオン交換膜(陽イオン交換膜)を好ましく挙げることができる。スルホン酸基は、親水性があり、高い陽イオン交換能を有する。また、より安価な隔膜として、主鎖部のみをフッ素化したフッ素樹脂系イオン交換膜や、芳香族炭化水素系イオン交換膜も利用することができる。このようなイオン交換膜としては、例えばIONICS製NEPTON CR61AZL-389、トクヤマ製NEOSEPTA CM-1又は同CMB、旭硝子製Selemion CSVなどの市販製品を好ましく用いることができる。また、アノードと被汚染物質とを隔離するために用いる隔膜としては、陰イオン交換膜を用いることもできる。具体的には、アンモニウムヒドロキシド基を有するヒドロキシドイオン交換膜を好ましく挙げることができる。このような陰イオン交換膜としては、例えば、IONICS製NEPTON AR103PZL-389、トクヤマ製NEOSEPTA AHA、旭硝子製Shelemion ASVなどの市販製品を好ましく用いることができる。さらに、本発明において用いることができる隔膜としては、官能基を有しないMF(マイクロフィルタ)、UF(ウルトラフィルタ)膜やセラミックなどの多孔質濾材、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン製の織布等を用いることができる。これらの官能基を有しない隔膜は、孔径が5μm以下で、非加圧条件でガスを透過しないものが好ましく、例えば、Schweiz Seidengazefabrik製のPE-10膜、Flon Industry製のNY1-HD膜などの市販品を好ましく用いることができる。
【0029】
好ましい実施形態において、反応槽は、被汚染物と酸性物質又はアルカリ性物質と水とを含む混合物をスラリー状態にするスラリー形成槽である。スラリー形成槽内を還元的雰囲気にするように外気を遮断するよう構成されているものも好ましい。被汚染物をスラリー形成槽内に供給し、溶出用カソードの還元電位によって還元雰囲気を維持する。この時、アノード側で発生する酸化的雰囲気によってカソード側還元雰囲気が損なわれることがないように、例えば、カソードとアノードとの距離を大きくしたり、カソード側からアノード側への水流を存在させたり、多孔壁又は隔膜を設けたりすることが望ましい。
【0030】
本発明においては、カソード電極電位を調整して重金属類を含む被汚染物を還元的雰囲気に維持して、カソード表面に重金属類を析出させることが好ましい。このため、重金属類を含むスラリーをカソードと接触状態に維持して、電解析出反応を生じさせることが必要である。
【0031】
カソード表面に重金属類が析出する速度K0は、重金属類イオンの拡散物質移動速度KDと、カソード表面析出速度KRによって、下記関係式のように決定される。
【0032】
【数1】
【0033】
カソード表面析出速度KRは、重金属類イオンの種類及び温度によって決定され、例えば、鉛の場合には30〜40℃の範囲の温度、鉛以外の重金属類では25〜80℃の範囲の温度とすることが好ましい。一般に、温度が高いほどイオン拡散速度が大きくなり、高電流密度(例えば11.48A/m2)に達するまで重金属類をカソード表面に析出させることができるが、析出した結晶粒が過大に成長しやすく、水素過電圧が低下して水酸化物が生成しやすくなるので、上記範囲の温度とすることが有利である。拡散物質移動速度KDは、スラリー形成槽内の撹拌状態及び温度に比例するので、スラリーを十分に撹拌する必要がある。しかし、スラリーを撹拌すると、カソード表面に剪断力が作用して、カソード表面に析出した重金属類が剥離されることがある。析出された重金属類がカソード表面から剥離してしまうと、重金属類の分離除去効率が低下してしまうため、このようなスラリーによる剪断力の影響を排除又は抑制することが必要である。本態様において、カソード表面に付与されるスラリーによる剪断力の抑制は、カソードをスラリー形成槽内の上方位置に位置づけて、スラリー中の固体粒度分布をスラリー中において上部には小さな粒径の固体が存在し且つスラリー中において下部には大きな粒径の固体が存在するように制御するか又はスラリー流を整流することによってなされることが好ましい。
【0034】
スラリーの固体粒度分布制御としては、スラリーに上昇流を与える方法を好ましく用いることができる。スラリー上昇流提供手段は、反応槽内上部に設けられたスラリー抜き出し口と、反応槽底部に設けられたスラリー導入口と、スラリー抜き出し口からスラリー導入口までスラリーを循環させる循環ポンプと、を含み、スラリーを反応槽内にて槽底部から所望速度で上昇させるように構成されていることが好ましい。あるいはスラリー形成槽底部から空気を導入する空気導入口を設けてもよい。種々の粒径の固体を含むスラリーを上昇流とすることで、大きな粒径の固体が上昇流に抵抗してスラリー形成層下部に残り、小さな粒径の固体が優先的に上昇することができ、結果的にスラリー中の固体粒度分布は上層ほど細かく、下層ほど大きくなる。固体粒度分布の制御は、スラリーの上昇流の流速を制御することで行うことができ、上昇流の終末速度がわかれば固体粒度分布を推測することができる。例えば、被汚染物が土壌である場合には、粒径が2mm以下の固体を浄化対象とすることが多く、中でも、難分解性の重金属類を含む粘土画分は、粒径が0.02mm、密度が約2.7×103kg/m3の粘土粒子を多く含む。このような被汚染物を含むスラリーの密度を1.0〜1.2×103kg/m3、スラリーの粘度を1×10-3N・s/m2と仮定すると、粘度粒子の終末速度は、下記ストークス(Stokes)の式:
【0035】
【数2】
【0036】
より、約3.3〜3.7×10-4m/sと計算することができる。なお、このときの粒子レイノルズ数Reは、下記式:
【0037】
【数3】
【0038】
より、1以下となるので、ストークスの式を用いることは適当である。
【0039】
また、被汚染物が細粒画分や粘度粒子を大量に含む場合には、細粒画分や粘度粒子は帯電していて相互に反発しあうので、より沈殿しにくくなる、つまり、終末速度が小さくなるので、上昇流の流速を小さくしても望ましい固体粒度分布を得ることができる。
【0040】
さらに、被汚染物がレイノルズ数1を越える粒子画分を含む場合には、ストークスの式に代えて、アレン(Allen)の式:
【0041】
【数4】
【0042】
を用いて終末速度を計算することができる。
【0043】
以上のような化学工学的なプロファイリングを用いて、上昇流の終末速度を設定することで、スラリー中固体の所望の粒度分布を得ることができる。このように、スラリーの固体粒度分布をスラリー上層部ほど小さな粒径の固体が存在し且つスラリー下層部ほど大きな粒径の固体が存在するように制御することで、スラリー形成槽内上方位置に位置づけられているカソード表面に、大きな粒径の固体による剪断力が作用することを避けることができ、結果的にカソード表面に付与される剪断力を低減することができる。
【0044】
また、スラリー形成槽は、カソードの表面に作用するスラリーの剪断力を低減し且つカソードとスラリーとの接触状態を維持するように制御する剪断力抑制手段を具備することが好ましい。剪断力抑制手段は、カソード表面に作用するスラリー流の剪断力を低減するようにスラリー流を整流する整流機構であって、板材、多孔材、格子状材料及び網目状材料から選択される1種以上の材料から構成される整流部材であってもよい。たとえば、スラリー形成槽内上方位置に位置づけられたカソードよりも下方位置に、カソード保護部材を配置する形態がある。カソード保護部材は、カソードを囲い込むように配置しても、カソード表面に向かうスラリー流の経路に隔壁として配置してもよい。ただし、カソード保護部材を用いる場合には、カソード表面に作用するスラリーの剪断力が低減されるが、カソード表面とスラリーとを接触状態に維持するように設けることが必要である。よって、カソードを囲い込むようにカソード保護部材を配置する場合には、カソード保護部材として、多孔材、格子状材料及び網目状材料などのスラリーが流通可能な材料を好ましく用いることが好ましい。カソード保護部材を板材などを用いて隔壁として配置する場合には、カソード表面と隔壁との距離、スラリー流の流入角度などを適宜調整することが好ましい。カソード保護部材を構成する材質としては、摩擦に強く、耐強酸性及び耐強アルカリ性の材料からなるものを好ましく用いることができ、具体的には強化ガラス、石英、強化プラスチック、フッ素系樹脂などの合成樹脂、FRPなどの繊維強化複合材料、グラファイト、グラッシーカーボン、コンクリート、セラミックス、チタン、鉄などの金属表面を耐腐食処理したものなどを好ましく挙げることができる。
【0045】
また好ましい実施形態において、反応槽は、固体状または液体状の被汚染物と酸またはアルカリと水とを含む混合物をガス撹拌または機械撹拌によって混合し、カソードと接触させる撹拌容器である。ガス撹拌に用いるガスは不活性ガスを主たる成分とするガスであることが好ましく、窒素ガスが好ましく用いられる。また、ガスを循環して利用することも好ましい。さらにガスを循環させる際、少量のガスを経時的に追加供給して循環系を与圧状態とし、背圧弁を用いて徐々にガスを更新することも好ましい。装置内を還元的雰囲気にするように外気を遮断するよう構成されているものも好ましい。
【0046】
本発明の浄化装置において、反応槽には被汚染物供給手段が設けられている。被汚染物供給手段は、被汚染物の性状によりベルトフィーダ、スラリーポンプなどから選択することが望ましい。反応槽に投入する被汚染物は、反応槽がスラリー形成槽である場合には、反応槽内でスラリーを形成しやすくするため、予めブレードウオッシャ、トロンメル、振動スクリーンなどの乾式または湿式の篩いを用いて数ミリメートル以下の細粒とすることが望ましい。また、反応槽への被汚染物投入量を減少させたい場合には、さらにサイクロンなどを用いて1ミリメートル以下の細粒画分とすることも望ましい。スラリー形成槽を用いる場合には、カソード電極電位を例えば-0.3V以下-1.3V以上の範囲に調整することで、鉛やカドミウムなどの電解析出反応を効率よく生じさせることができる一方で、スラリー中に含まれる鉄の析出や、水の電気分解による水素発生が抑制されるので、重金属類の電解析出反応をある程度特異的に生じさせることができる。
【0047】
また、本発明の被汚染物の浄化装置は、反応槽(もしくはスラリー形成槽)に酸性もしくはアルカリ性物質を供給する手段を具備することが好ましい。処理する被汚染物が焼却灰などのアルカリ性物質又は酸性物質を含む場合を除いて、被汚染物を強酸性もしくは強アルカリ性雰囲気に維持するために、被汚染物に酸性もしくはアルカリ性物質を供給することが好ましい。本発明において用いる強酸性雰囲気は、被汚染物の間隙水のpHが3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。このような強酸性雰囲気とすることで、土壌中に存在する硫化鉄などの影響を排除することができる。本発明における強酸性雰囲気は、被汚染物に、酸を添加することにより形成することができる。添加することができる酸としては、塩酸、有機酸、例えば、メタンスルホン酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、テレフタル酸などを好ましく挙げることができる。一方、本発明において用いる強アルカリ性雰囲気は、被汚染物の間隙水のpHが12以上であることが好ましく、13以上であることがより好ましい。本発明における強アルカリ性雰囲気は、被汚染物に、アルカリ性物質を添加することにより形成することができる。添加することができるアルカリ性物質としては、水酸化物塩、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを好ましく挙げることができる。
【0048】
本発明において、反応槽のカソード区域は還元的雰囲気に維持される。還元的雰囲気は、カソード電極電位の調整により形成することができる。カソード電極電位の調整は、水素標準電極に対して-0.16V以下、より好ましくは-0.25V以下のカソード電極電位となるように行うことが好ましい。カソード電極電位の調整による還元的雰囲気の提供は、アノード、隔膜、参照電極及びカソードの組み合わせにおいて、隔膜をアノードとカソードの間に配置することにより行うことができる。この場合、隔膜を介してアノード側より酸が供給されるので、多量の酸を供給する必要性を排除することができる、という利点がある。
【0049】
カソードに必要な還元電位を印加するには、定電位電源を用いることが好ましい。特に、除去すべき重金属類が鉛やカドミウムである場合には、定電位電源を用いて適正な電位にカソード電位を制御することで、重金属類の析出反応により発生した負方向の電流値が析出反応の終了と同時に低下するので、電流値の計測によって重金属類の析出反応の完了を知ることができ、不必要な電解反応を生じさせて電気を浪費することがなく、有利である。例えば、カソード電極電位を-0.3V以下-1.3V以上の範囲に制御すると、鉛、カドミウムの電解析出反応を効率よく生じさせるが、スラリー中に含まれる鉄の析出や水の電気分解による水素発生が抑制されるので、重金属類の電解析出反応を特異的に生じさせることができ、有利である。ただし、処理条件が一定で電流値と電解反応の関係が把握されていれば、必ずしも定電位電源を用いなくてもよく、定電流電源を用い、反応時間に応じて設定電流量を減少させていくことで好ましいカソード電極電位を維持することもできる。
【0050】
本態様により浄化することができる重金属類を含む被汚染物としては、土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰、ヘドロなどの重金属類を含む固体状または液体状の被汚染物、上記固体状汚染物からの抽出液、工業用水、排水、表流水、地下水、海水などの重金属を含む液体状被汚染物を好ましく挙げることができる。また、本発明により分離除去される重金属類としては、鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、砒素(As)、ウラン(U)、プルトニウム(Pr)などを好ましく挙げることができる。
【0051】
また、本発明においては、重金属類を含む被汚染物を含むスラリーを容器中に収容し、スラリーを強酸性または強アルカリ性に維持するとともに、容器中に配置したカソードの電位を調整することによりスラリーを還元的雰囲気下に置き、それにより重金属類をスラリー中に溶出させる。そして、溶出した重金属イオンを、容器内においてさらにスラリーから析出させて分離する工程を前記溶出工程と並行して行う。ここにおいて、カソードが複数、容器(反応槽)中に配置されているので、異なる役割分担をさせたり、一方の作用が不調であったり交換や保守を行う場合でも装置の稼動を継続することができる。
【0052】
一般に、重金属類は、被汚染物中において、イオン交換態、炭酸塩結合態、鉄マンガン吸着態又は有機物結合態などの形態で存在している。これらの形態のうち、イオン交換態で存在する重金属類は、強酸性もしくは強アルカリ性雰囲気下では、腐食域に入り、水溶出濃度が高められる。一方、炭酸塩結合態、鉄マンガン吸着態及び有機物結合態などの形態で存在する重金属類は、強酸性もしくは強アルカリ性雰囲気下であってもなお溶解度が低く、溶出しにくい。これら難溶性の形態で存在する重金属類をさらに還元的雰囲気下に供することで、腐食域に移行させ、水への溶解度を増加させることができる。また、汚染重金属が水銀である場合には、カソード表面から発生する水素ガス及び/又は窒素ガスを槽内に供給して、曝気することにより、水銀イオンが還元されて生じる揮発性の0価水銀が水素ガス及び/又は窒素ガスに随伴して容易に気相へ移行するので、間隙水中から分離することができる。
【0053】
本発明においては、還元電位を供給する耐腐食性カソードとアノードとの間に隔膜を位置づけて、耐腐食性カソードを含むカソード区域と、アノードを含むアノード区域と、に隔離させて、カソード区域には処理対象物である重金属類を含む被汚染物と、酸性物質又はアルカリ性物質とを加えることによってpH3以下又は12以上として、さらに還元的雰囲気とすることで、重金属類を効果的に被汚染物及び間隙水から分離する。この方法では、カソード(還元極)において、被汚染物に含まれる重金属類を還元して溶出させる反応と、耐腐食性カソード表面へ重金属類を電解析出させる反応が並行して行われる。カソードの還元電位によって被汚染物を還元的雰囲気に維持して重金属類の溶出を促進させるので、強酸性、又は強アルカリ性条件下においても溶出しないような重金属類の難溶性の画分まで溶出させることができ、重金属類を効果的に被汚染物及び間隙水から分離することができる。
【0054】
本発明の浄化装置を用いることにより、被汚染物からの重金属類イオンの溶出工程と、該溶出した重金属類イオンを被汚染物及び間隙水から分離させる分離工程と、を同一の容器内で並行して行い、該重金属類イオンの溶出及び分離が完了するまで、該被汚染物を還元的雰囲気及び強酸性もしくは強アルカリ性雰囲気の共存下に維持することを特徴とする重金属類を含む被汚染物の浄化方法が提供される。
【0055】
より詳細には、被汚染物中にイオン交換態、炭酸塩結合態、鉄マンガン吸着態又は有機物結合態などの形態で存在している重金属類を、耐腐食性カソードにより提供される還元的雰囲気下で十分な量の酸性水溶液又はアルカリ性水溶液と接触させることにより、イオン交換脱着させて、水溶液中に溶出させ、耐腐食性カソード表面へ電解析出させるかあるいは水銀の場合には曝気除去することにより、重金属類を被汚染物から除去するものである。重金属類の被汚染物からの溶出と分離が単一の槽内で完結するため、後処理の固液分離工程においてはスラリーを還元的雰囲気に維持する必要がない。また、重金属類は、耐腐食性カソード表面に析出して間隙水から除かれることにより、溶解度積の低い重金属類も順次溶解することになり、抽出効率をさらに向上させることができる。
【0056】
一般に、重金属類は、強アルカリ性雰囲気下よりも強酸性雰囲気下で、より溶出しやすい。しかし、浄化すべき被汚染物の性質によっては、強酸性雰囲気よりも強アルカリ性雰囲気の方が、好ましい場合もある。例えば、被汚染物が鉄を多量に含む土壌である場合には、強酸性雰囲気下では鉄が溶出して電極を被覆したり、閉塞などの問題を生じるかもしれないので、強アルカリ性雰囲気とすることが好ましい。さらに、被汚染物の状態によっては、酸性物質もしくはアルカリ性物質の添加を要しない場合もある。被汚染物が焼却灰である場合には、焼却灰が強アルカリ性であるから、アルカリ性物質を添加するまでもなく、強アルカリ性雰囲気を形成できる。
【0057】
本発明の浄化装置においては、さらに、浄化すべき土壌などの現場の条件に応じて、被汚染物に、重金属類の溶出及び水溶液中での安定化に寄与する界面活性剤、錯イオン形成剤及びキレート剤、被汚染物のpH変動を抑制する緩衝剤、還元的雰囲気を維持する電子供与体及び還元剤、及びこれらの組み合わせから選択される物質を添加することもできる。これらの添加剤としては、例えば、界面活性剤としてSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)及びカチオン界面活性剤、錯イオン形成剤としてクエン酸、シュウ酸、及び乳酸、キレート剤としてEDTA(エチレンジアミン四酢酸)及びNTA(ニトリロ三酢酸)、緩衝剤としてリン酸緩衝液、トリス緩衝液及び塩酸−塩化カリウム緩衝液、電子供与体として水素、糖、有機酸(塩)、アルコール、各種有機排水、アスコルビン酸、DTT(ジチオスレイトール)、クエン酸チタニウム、鉄粉及びグラニュール鉄などを好ましく挙げることができる。錯イオン形成剤やキレート剤を添加する場合には、重金属類が耐腐食性カソード表面へ電解析出する電位が低下する可能性があるので、予備試験を行って適当な電位を設定することが必要である。
【0058】
重金属類イオンの分離は、耐腐食性カソード表面への重金属類の電解析出を含み、この際、被汚染物を少なくとも含むスラリーにより耐腐食性カソード表面に作用する剪断力によって重金属類の電解析出が阻害されないよう、スラリーの流れをカソード表面に作用する剪断力を低減するように整流又は抑制する条件下で、前記重金属類を該カソード表面上に析出させることができる。本態様においては、重金属類を含む被汚染物から形成されるスラリーにより耐腐食性カソード表面に作用する剪断力によって耐腐食性カソード表面での重金属類の析出が阻害されない条件に維持するので、耐腐食性カソード表面に析出した重金属類の剥離や、耐腐食性カソードの摩耗などが防止される。
【0059】
重金属類を含む被汚染物は、含有されている重金属類がイオンとして溶出するように、スラリーとして処理されることが好ましい。このスラリーには、被汚染物を強酸性もしくは強アルカリ性雰囲気に維持するために、酸性又はアルカリ性物質が少なくとも含まれている。被汚染物が焼却灰である場合など、アルカリ性物質又は酸性物質を含む場合を除いて、スラリーを形成する際に酸性物質又はアルカリ性物質を添加することが好ましい。本態様において用いることができる酸性物質としては、塩酸、有機酸、例えば、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、テレフタル酸などを好ましく挙げることができる。これらの酸性物質を含むスラリーは、好ましくは被汚染物の間隙水のpHが3以下、より好ましくは2以下の強酸性雰囲気に維持される。このような強酸性雰囲気とすることで、土壌中に存在する硫化鉄などの影響を排除することができる。アルカリ性物質としては、水酸化物塩、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを好ましく挙げることができる。これらのアルカリ性物質を含むスラリーは、好ましくは被汚染物の間隙水のpHが12以上、より好ましくは13以上の強アルカリ性雰囲気に維持される。
【0060】
[好ましい実施形態]
以下、添付図面を参照しながら、本発明をさらに詳細に説明する。なお、図中、同じ構成要素には同じ参照符号を付す。
【0061】
図1は、電解析出反応を利用して、鉛、カドミウム、クロム、砒素、スズ、ウラン、プルトニウムなどを除去回収する本発明の好ましい第一の実施形態を示す概略説明図である。
【0062】
図1に示す浄化装置1は、重金属類を含む被汚染物を供給する被汚染物供給手段22と、酸性物質又はアルカリ性物質を供給する酸性物質又はアルカリ性物質供給手段24と、還元的雰囲気を提供する耐腐食性カソードCと、隔膜Mと、アノードAと、を具備し、隔膜MによってアノードAを含むアノード区域10と、耐腐食性カソードC、被汚染物供給手段22及び酸性物質又はアルカリ性物質供給手段24を含むカソード区域20と、が形成され、カソード区域20は還元的雰囲気及び強酸性若しくは強アルカリ性雰囲気に維持され、被汚染物からの重金属類イオンの溶出及び溶出した重金属類イオンの被汚染物及び間隙水からの分離を並行して行う反応槽2を含む被汚染物の浄化装置である。
【0063】
反応槽2には、さらに、水を反応槽2のカソード区域20に供給する水供給手段26、反応槽2内の混合物のpHを測定するpH計28、及び反応槽2内で形成された混合物のスラリーを抜き出すためのスラリー抜き出し口30が設けられている。スラリー抜き出し口30には、スラリー移送ライン32及びスラリー移送ライン32上に設けられたスラリーポンプ34が接続されている。スラリー移送ライン32は、固液分離装置3に接続されている。固液分離装置3には、分離した固体を抜き出す固体抜き出しライン36と、分離した液体を抜き出す液体抜き出しライン38と、が接続している。液体抜き出しライン38からは、液体の一部を循環液として反応槽2に戻す液体循環ライン40が分岐している。
【0064】
この浄化装置1を用いて、重金属類で汚染されている被汚染物を浄化する態様を説明する。まず、被汚染物供給手段22を介して、土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物などの重金属類で汚染されている被汚染物を反応槽(スラリー形成槽)2に供給する。このとき、被汚染物が非飽和状態、すなわち被汚染物の空隙が水で飽和してない場合には、水供給手段26又は液体循環ライン40を介して適量の水を供給して、飽和状態とする。スラリー形成槽2内で、供給された被汚染物、及び場合によっては水を撹拌混合して、スラリー状にする。pH計28を用いて、スラリーのpHを測定しながら、酸性物質又はアルカリ性物質供給手段24を介して酸性物質もしくはアルカリ性物質を添加してスラリーのpHを3以下又は12以上となるように調整する。スラリーの酸化還元電位を測定しながら、カソード電極Cの酸化還元電位が水素標準電極に対して-0.16V以下となるように調整する。この状態で、スラリー中では、被汚染物から重金属類が溶出し、次いで耐腐食性カソードC表面に電解析出するようになる。このとき、耐腐食性カソードCの電極電位が低いほど、電解析出反応速度は上昇するが、電極電位が低すぎると(例えば、鉛の場合、約-0.6V以下)、電解析出時に重金属が緻密な被膜を形成せず、一旦形成した被膜が撹拌の剪断力により剥離しやすくなるので、汚染物や装置の条件に応じて適切な電極電位を選定する。
【0065】
次に、スラリーポンプ34を作動させて、スラリーを固液分離機3に圧送し、液体と、浄化脱水固体(土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物由来の固体脱水物など)と、に分離する。分離された固体分は、固体抜き出しライン36を介して抜き出され、重金属類で汚染されていない土壌、汚泥、ヘドロ又は焼却灰などとして、処理することができる。分離された液体は、液体抜き出しライン38を介して抜き出され、液体循環ライン40を介してスラリー形成槽2に再循環されるか、余剰排液として排水される。
【0066】
耐腐食性カソードC表面に電解析出した重金属類は、電極を交換する際に系外に取り出されるか、又はカソードの再生、例えばカソードを一時的に取り出して酸洗浄するか、または電極電位を約-0.1Vに一時的に上昇させることにより、電極表面から溶離させて重金属濃縮液として回収し、重金属汚染物として廃棄するか、又は重金属原料として再利用することができる。電極の再生時に余り高い電位を印加すると(例えば、銅電極の場合には約0.0V)、電極の構成成分が溶解してしまうので、電極電位を電極構成成分が溶解しない範囲に設定するか、あるいは高い電位を印加する時間を短時間に管理することが望ましい。
【0067】
図2は、重金属類として水銀や砒素を含む場合に適する本発明の第二の実施形態の概略図である。図2に示す浄化装置1Aは、図1に示す浄化装置とほぼ同様の構成であるが、反応槽2に窒素ガスなどの不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段27と、重金属蒸気含有ガス中の重金属を捕集する重金属トラップ5をさらに具備する。重金属トラップ5には、排気ライン51が設けられていて、重金属トラップ5で重金属を捕集除去した後の気体を排出するように構成されている。重金属トラップ5としては、例えば硫酸酸性の過マンガン酸カリウム水溶液を入れたガス洗浄瓶や、硫黄粉末などの酸化剤を担持させたガス処理担体を用いることができる。
【0068】
この浄化装置1Aを用いる被汚染物の浄化態様は、重金属トラップ5の作用以外は、図1に示す浄化装置1において説明した態様とほぼ同様であるので、ここでは重金属トラップ5の作用のみ説明する。
【0069】
本浄化装置1Aは、特に水銀や砒素を含む被汚染物の浄化に適する。
【0070】
水銀を含む被汚染物の場合、該被汚染物をスラリー形成槽2内に供給して、還元的雰囲気及び強酸性又は強アルカリ性雰囲気に維持することにより、被汚染物から水銀または水銀を含む重金属が溶出し、次いで水銀は還元され、気化するようになる。気化した水銀は、カソード電極で発生する水素ガス及び/又は不活性ガス供給手段27からスラリー形成槽2内に供給された窒素ガス等の不活性ガスにより随伴されて、スラリーから気相に移行し、重金属トラップ5に捕集される。捕集された水銀などの重金属は、重金属汚染物として廃棄するか、又は重金属原料として再利用することができる。
【0071】
砒素を含む被汚染物の場合、該被汚染物をスラリー形成槽2内に供給して、還元的雰囲気及び強酸性又は強アルカリ性雰囲気に維持することにより、被汚染物から砒素または砒素を含む重金属が溶出し、次いで砒素は還元・水素化され、例えばアルシン(AsH3)の形で気化するようになる。気化した砒素は、カソード電極で発生する水素ガス及び/又は不活性ガス供給手段27からスラリー形成槽2内に供給された窒素ガス等の不活性ガスにより随伴されて、スラリーから気相に移行し、重金属トラップ5に捕集される。捕集された砒素などの重金属は、重金属汚染物として廃棄するか、又は重金属原料として再利用することができる。
【0072】
図3は、電解析出反応を利用して、鉛、カドミウム、クロム、スズ、砒素、ウラン、プルトニウムなどを除去回収する本発明の好ましい第三の実施形態(剪断力抑制手段を備える態様)を示す概略説明図である。
【0073】
図3において、浄化装置1Bは、重金属類を含む被汚染物を供給する被汚染物供給手段22と、酸又はアルカリ性物質を供給する酸又はアルカリ性物質供給手段24と、被汚染物と酸性又はアルカリ性物質を少なくとも含むスラリーに還元的雰囲気を提供する耐腐食性カソードCと、耐腐食性カソード表面に作用する該スラリーによる剪断力を低減し且つ耐腐食性カソードとスラリーとの接触状態を維持するように制御する剪断力抑制手段と、を具備するスラリー形成槽2を具備する。
【0074】
図示した実施形態において、スラリー形成槽2は、さらに、水をスラリー形成槽2に供給する水供給手段26を具備する。スラリー形成槽2の下部は、漏斗状に形成されていて、漏斗状先端部には、スラリー抜き出し口30が設けられている。スラリー抜き出し口30には、スラリー移送ライン32及びスラリー移送ライン32上に設けられたスラリーポンプ34が接続されている。スラリー移送ライン32には、固液分離装置3が接続されていて、スラリーを固形分と液体分とに分離する。固液分離装置3には循環ポンプ39及び液体循環ライン40が接続されていて、固液分離装置3にて分離された液体分を循環液として、スラリー形成槽2下部の漏斗状上端に設けられている循環液導入口42に再導入する。固液分離装置3には、分離した固体(清浄脱水土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物など)を抜き出す固体抜き出しライン36と、分離した液体を余剰排水として抜き出す液体抜き出しライン(ドレイン)38と、が接続されている。
【0075】
スラリー形成槽2内には、スラリーに還元的雰囲気を提供する耐腐食性カソードC、アノードA、参照電極Bがスラリー形成槽2内上方位置に位置づけられており、スラリーのpHを測定するpH計28が備え付けられている。耐腐食性カソードC、アノードA及び参照電極Bは、スラリー形成槽2外部の電源装置と接続していて、制御された印加電位が提供される。耐腐食性カソードCには、スラリー中大きな粒径の固体がカソード表面近傍に存在しないようにカソード保護部材50が取り付けられている。保護部材50は、ナイロン製のメッシュ(目の大きさ1.5mm)から構成されている。
【0076】
次に、この浄化装置1Bを用いる重金属類で汚染されている被汚染物を浄化する態様を説明する。
【0077】
まず、被汚染物供給手段22を介して、土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物などの重金属類で汚染されている被汚染物をスラリー形成槽2に供給する。このとき、被汚染物が非飽和状態、すなわち被汚染物の空隙が水で飽和してない場合には、水供給手段26又は液体循環ライン40を介して適量の水を供給して、飽和状態とする。スラリー形成槽2内で、供給された被汚染物、及び場合によっては水を撹拌混合して、スラリー状にする。pH計28を用いて、スラリーのpHを測定しながら、酸性物質又はアルカリ性物質供給手段24を介して酸性物質もしくはアルカリ性物質を添加してスラリーのpHを3以下又は12以上となるように調整する。スラリーの酸化還元電位を測定しながら、耐腐食性カソードCの酸化還元電位が水素標準電極に対して-0.16V以下となるように調整する。この状態で、スラリー中では、被汚染物から重金属類が溶出し、次いで耐腐食性カソードC表面に電解析出するようになる。このとき、耐腐食性カソードCの電極電位が低いほど、電解析出反応速度は上昇するが、電極電位が低すぎると(例えば、鉛の場合、約-0.6V以下)、電解析出時に重金属が緻密な被膜を形成せず、一旦形成した被膜が撹拌の剪断力により剥離しやすくなるので、汚染物や装置の条件に応じて適切な電極電位を選定する。
【0078】
スラリーは、撹拌装置による撹拌作用を受けながら、スラリー形成槽2下部の漏斗状部分に下降する。スラリー形成槽2内上方位置にある耐腐食性カソードCはカソード保護部材50で保護されているので、スラリー流により耐腐食性カソードC表面に付与される剪断力を低く抑制することができる。
【0079】
一定時間経過後、または電流値の観測により、負方向の電流値が低下したことでスラリー形成槽2内での処理が完了したことを確認したら、スラリーを固液分離機3に圧送し、液体と、浄化脱水固体(土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物由来の固体脱水物など)と、に分離する。分離された固体分は、固体抜き出しライン36を介して抜き出され、重金属類で汚染されていない土壌、汚泥、ヘドロ又は焼却灰などとして、処理することができる。分離された液体は、液体循環ライン40を介してスラリー形成槽2に再循環されるか、又は液体抜き出しライン38を介して抜き出されて余剰排液として排水される。
【0080】
耐腐食性カソードC表面に電解析出した重金属類は、電極の交換により系外に取り出してもよい。あるいは電極の再生方法として、電極を取り出して酸洗浄するか、一時的に電極電位を例えば-0.1V程度まで上昇させて、耐腐食性カソードC表面から溶離させて重金属類濃縮液を形成させて回収してもよい。電極再生時に印加する電位が高すぎる(例えば、銅電極の場合には0.0V程度)と、電極を構成する材料自身が溶解してしまうので、適正な範囲の電位に調整するか、印加時間を短くする。回収された重金属類は、重金属類汚染物として廃棄処分するか、あるいは重金属類原料として再利用してもよい。
【0081】
図4は、剪断力抑制手段の別の態様を示す概略説明図である。図4に示す浄化装置100は、重金属類を含む被汚染物を供給する被汚染物供給手段111と、酸又はアルカリ性物質を供給する酸又はアルカリ性物質供給手段112と、該被汚染物と該酸又はアルカリ性物質を少なくとも含むスラリーに還元的雰囲気を提供する耐腐食性カソード113Cと、耐腐食性カソード表面に作用するスラリーによる剪断力を低減し且つ耐腐食性カソードとスラリーとの接触状態を維持するように制御する剪断力抑制手段と、を具備するスラリー形成槽110を備える。
【0082】
本浄化装置100において、還元的雰囲気は、スラリー形成槽110内に配置された耐腐食性カソード113Cと、アノード113Aと、カソード制御用参照電極(水素標準電極)113Bと、耐腐食性カソード113C、アノード113A及び参照電極113Bの印加電圧を制御するための外部電源装置によって、スラリーに提供される。参照電極113Bは、制御する電極(カソード)の近傍に配置されている。図示した実施形態においては、耐腐食性カソード113Cとアノード113Aとの間に電解膜(隔膜)Mが位置づけられていて、アノード113Aとスラリーとの接触を希薄なものとするように構成されている。耐腐食性カソード113C、アノード113A、電解膜M及び参照電極113Bは、スラリー形成槽110内上方位置に位置づけられている。
【0083】
スラリー形成槽110には、スラリーが強酸性雰囲気又は強アルカリ性雰囲気に維持されていることを監視するため、pH計116が備え付けられている。また、図示したスラリー形成槽110は、スラリーを形成するために場合によっては必要となる水を供給する水供給手段115を具備する。さらに、スラリー形成槽110底部には、処理後のスラリーを抜き出すための処理済スラリー抜き出し口122が設けられている。処理済スラリー抜き出し口122には、処理済スラリーを抜き出すためのスラリーポンプ123と、固液分離装置120が接続している。固液分離装置120には、固液分離により得られた処理水をスラリー形成槽110に再循環させる循環液供給手段(図示せず)が接続されている。
【0084】
図示した実施形態において、剪断力抑制手段は、スラリー形成槽上部に設けられたスラリー抜き出し口117と、槽底部に設けられたスラリー導入口118と、スラリー抜き出し口117からスラリー導入口118までスラリーを循環させる循環ポンプ119と、を含み、スラリーを槽底部から所望速度で上昇させて、スラリー形成槽110内に所望のスラリー固体粒度分布を提供するように構成されている。
【0085】
また、スラリー形成槽110下部には、撹拌装置121が設けられていて、スラリー導入口118からスラリー形成槽110内に導入されたスラリーを十分に撹拌して、スラリー形成槽水平レベルでのスラリー中重金属類イオン濃度を一定にするように構成されている。
【0086】
次に、浄化装置110を用いて、重金属類で汚染されている被汚染物を浄化する好ましい一態様を説明する。
【0087】
まず、被汚染物供給手段111を介して、土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物などの重金属類で汚染されている被汚染物をスラリー形成槽110に供給する。このとき、被汚染物が非飽和状態、すなわち被汚染物の空隙が水で飽和されていない場合には、水供給手段115及び/又は循環液供給手段(図示せず)を介して、適量の水を供給して、飽和状態とする。スラリー形成槽110内に供給された被汚染物、及び場合によっては水及び/又は循環液を撹拌混合してスラリーを形成させる。pH計116によって、スラリーのpHを測定しながら、酸又はアルカリ性物質供給手段112を介して、酸性物質又はアルカリ性物質を供給し、スラリーのpHを3以下又は12以上となるように調整する。スラリーの酸化還元電位を測定しながら、耐腐食性カソード113Cの酸化還元電位が水素標準電極113Bに対して-0.16V以下となるように調整する。
【0088】
得られたスラリーは、循環ポンプ119の作動によって、スラリー形成槽110内を上昇流として流れ、スラリー形成槽110上部のスラリー抜き出し口117を介して抜き出され、スラリー導入口118を介して再びスラリー形成槽110に導入され、再び上昇流として流れる。スラリーの上昇流の速度は、循環ポンプ119の調整により行う。
【0089】
上昇流としてスラリー形成槽110内を流動するスラリー中では、還元的雰囲気及び強酸性もしくは強アルカリ性雰囲気が維持され、被汚染物から重金属類が溶出し、耐腐食性カソード113C表面に電解析出するようになる。このとき、カソード電極電位が低いほど、電解析出反応速度が上昇するが、低すぎると(例えば、鉛の場合には-0.6V以下)電解析出した重金属類は緻密な被膜を形成できず、被膜が剥離しやすくなるので、カソード電極電位を適正な範囲に調整する。
【0090】
スラリーを上昇流としてスラリー形成槽110内を流動させることで、スラリー形成槽110下部に粒径の大きな固体が存在し、上部に粒径の小さな固体が流動するようになる。こうして、スラリー形成槽110内上方位置に位置づけられている耐腐食性カソード113C近辺には粒径の小さな固体を含むスラリーが流れ、カソード表面113Cに対する粒径の大きな固体による剪断力が排除される。よって、カソード113C表面に電解析出した重金属類は、スラリー、特にスラリー中の大きな粒径の固体による剪断力の影響を受けずに、良好に堆積され得る。
【0091】
電流値の観測により、負方向の電流値が低下したことでスラリー形成槽110内での処理が完了したことを確認したら、スラリーポンプ123を作動させて、処理済スラリー抜き出し口122より処理済みのスラリーを抜き出し、固液分離装置120に圧送する。固液分離装置120にて、処理済みのスラリーを水溶液と浄化脱水固体(土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物由来の固体脱水物など)とに分離する。分離された固体分は、重金属類で汚染されていない土壌、汚泥、ヘドロ又は焼却灰として処理してもよい。分離された水溶液は、循環液としてスラリー形成槽110に再循環させて再利用するか、もしくは余剰液として系外に排出してもよい。
【0092】
カソード113C表面に電解析出した重金属類の後処理は、図3の装置について説明したように行うことができる。
【0093】
図5は、電解溶出と電解析出反応を利用して鉛、カドミウムなどを除去回収する本発明の好ましい第五の実施形態を示す概略説明図である。図5に示す浄化装置100Aは、重金属類を含む被汚染物を供給する被汚染物供給手段22と、酸又はアルカリを供給する酸又はアルカリ供給手段24と、還元的雰囲気を提供する還元的雰囲気提供手段と、を具備する浄化反応槽2を具備する。浄化反応槽2は、この例では上流側のスラリー形成部2aと下流側の分離部2bから構成され、この例ではスラリー形成部2aは横断面が円形の槽であり、分離部2bはこれより幅狭の長方形の槽である。還元的雰囲気提供手段は、分離部2b内に配置された第1のアノードA-1と第2のアノードA-2、スラリー形成部2aに配置された溶出用カソード制御用参照電極B-1及び一対の溶出用カソードC-1a,C-1b、及び第1のアノードA-1と溶出用カソードC-1a,C-1bの間に配置された析出用カソード制御用参照電極B-2及び析出用カソードC-2からなる。溶出用カソードC-1a,C-1bと第2のアノードA-2の間に溶出用電位を加える第1の電源装置と、析出用カソードC-2と第1のアノードA-1の間に析出用電位を加える第2の電源装置が設けられている。
【0094】
参照電極B-1及びB-2は、それぞれ制御する電極付近に配置されている。スラリー形成部2aには、内部のスラリーを均一にするための装置として例えば撹拌器等を備えることが望ましい。さらに、水を供給するための水供給手段26及び固液分離後の処理水を再利用するための循環液供給手段40aを設けてもよい。浄化反応槽2には、スラリーのpHを測定するためのpH計用電極28を挿入する。浄化反応槽2において形成されたスラリーを固液分離するための固液分離装置3及びスラリー搬送用のスラリーポンプ34が配備されていてもよい。アノード側で発生する酸化的雰囲気によってカソード側還元雰囲気が損なわれることがないように、例えば、カソードとアノードとの距離を離したり、カソード側からアノード側への水流を存在させたり、又は多孔壁又は隔膜Mを設けたりしてもよい。また、この例では、分離部2bからスラリー形成部2aに液を戻す循環ポンプが設けられている。
【0095】
この浄化装置100Aを用いて、重金属類で汚染されている被汚染物を浄化する方法を説明する。まず、被汚染物供給手段22を介して、土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物などの重金属類で汚染されている被汚染物を浄化反応槽2に供給する。このとき、被汚染物が非飽和状態、すなわち被汚染物の空隙が水で飽和してない場合には、水供給手段26又は循環液供給手段40bを介して適量の水を供給して、飽和状態とする。
【0096】
浄化反応槽2のスラリー形成部2a内で、供給された被汚染物、及び場合によっては水及び/又は循環液を撹拌して、スラリー状にする。pH計用電極28を用いてスラリーのpHを測定しながら、酸又はアルカリ供給手段24を介して酸もしくはアルカリを添加し、スラリーのpHを3以下又は12以上となるように調整する。スラリーの酸化還元電位を測定しながら、溶出用カソードC-1a,C-1b及び析出用カソードC-2の酸化還元電位が水素標準電極に対して-0.16V以下となるように調整する。
【0097】
この状態で、スラリー中では、被汚染物から重金属類が溶出し、次いで析出用カソードC-2表面に電解析出するようになる。この時、低い電位であるほど電解析出反応速度は上昇するが、電位が低すぎると(例えば鉛の場合-0.6V程度以下であると)電解析出時に重金属類が緻密な被膜を形成せず、いったん形成した被膜が剥離しやすくなるので、汚染物や装置の条件に応じて適当な電位を選定すべきである。
【0098】
次に、スラリーポンプ34を用いて、スラリーを固液分離機3に圧送し、水溶液と、浄化脱水固体(土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物由来の固体脱水物など)とに分離させる。分離された固体分は、重金属類で汚染されていない土壌、汚泥、ヘドロ又は焼却灰などとして、処理することができる。分離された水溶液は、循環液として再利用されるか、余剰液として排水される。
【0099】
また、析出用カソードC-2表面に電解析出した重金属類は、通常は電極を交換するか、または電極を一時的に取り出して酸洗浄することにより系外に取り出される。また、析出用カソードC-2の再生方法として、一時的に析出用カソード電位を例えば、-0.1V程度に上昇させることにより、析出用カソードC-2表面から溶離して重金属類濃縮液として回収される。これを、重金属類汚染物として廃棄するか、又は重金属類原料として再利用することができる。この時、析出用カソードC-2に過剰に高い電位を印加すると(例えば銅電極の場合0.0V程度)析出用カソードC-2の材料そのものが溶解するので、析出用カソード素材の溶解しない範囲で析出用カソードC-2の再生のための電位を設定するか、あるいは高い電位を与える時間を短時間になるように制御することが望ましい。なお、析出用カソードC-2を一対設けておき、一方を交互に取り出すようにすれば、装置稼動を継続的に行うことができる。
【0100】
なお、図5に示す実施形態においては、反応槽2を断面円形のスラリー形成層2a及び断面矩形のスラリー分離槽2bから構成し、スラリー形成層2a中央部に撹拌機を配置して、被汚染物供給手段22、酸又はアルカリ供給手段24及び水供給手段26をスラリー分離槽2bへの入口と径方向に対向する位置に設けている。このため、スラリー形成層2a内に供給された被汚染物、酸又はアルカリ性物質、水は撹拌されて周方向に回転すると共にスラリー分離槽2b方向に押し流される。したがって2b部における押し出し流れ速度を循環ポンプを制御することにより前記周方向の回転速度よりも遅くなるようにすれば、2a部における溶出用カソードとの接触、溶出効率を維持しつつ2b部における析出用カソードへの剪断力を抑制できる。
【0101】
図7は、電解溶出と電解析出反応を利用して重金属を除去回収する本発明の好ましい第六の実施形態を示す概略説明図である。図7に示す反応槽2は、重金属類を含む固体状または液体状の被汚染物を供給するスラリー状または液体状の被汚染物供給手段22と、酸又はアルカリを供給する酸又はアルカリ供給手段24と、反応槽2中にあってスラリーまたは液体と接触している耐腐食性カソードCと、反応槽2中に配置した底部の閉じた円筒形、箱状または袋状の隔膜ユニットMと、隔膜ユニットMの内部に配置されるアノードAと、耐腐食性カソードCに還元電位を提供する還元電位提供手段を含む固体状または液体状の被汚染物の浄化装置である。反応槽2には、内部の反応液を均一にするための装置としてガス散気装置8のようなものを備えることが望ましい。さらに、水を供給するための水供給手段26及び固液分離後の処理水を再利用するための循環液供給手段(スラリー搬送ライン32、スラリーポンプ34、固液分離装置3、循環液搬送ライン40)が設けられていてもよい。
【0102】
この反応槽2を用いて、重金属類で汚染されている固体状または液体状の被汚染物を浄化する方法を説明する。まず、固体状または液体状の被汚染物供給手段22を介して、土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物、工業用排水、表流水、地下水、海水などの重金属類で汚染されている固体状または液体状の被汚染物を反応槽2に供給する。このとき、固体状または液体状の被汚染物が非飽和状態、すなわち固体状の被汚染物の空隙が水で飽和してない場合には、水供給手段26又は循環液供給手段(32,34,3,40)を介して適量の水を供給して、飽和状態とする。反応槽2内で、供給された固体状または液体状の被汚染物、及び場合によっては水及び/又は循環液を撹拌して、スラリーまたは溶液状にする。pH計(図示せず)を用いて、スラリーのpHを測定しながら、酸又はアルカリ供給手段24を介して酸もしくはアルカリを添加してスラリーのpHを3以下又は12以上となるように調整する。還元電位提供手段を用いて、カソードCの電位が水素標準電極に対して-0.16V以下、または電流密度が+0.01〜+10A/L反応容器となるように還元電位を印加する。最適なカソード電位または電流密度は汚染物の濃度や電極面積、装置の形状によって大きく変化するので、条件に応じて適切な印加電位を選定する。
【0103】
電解溶出、析出反応終了後、スラリーポンプ34を用いて、スラリーを固液分離機3に圧送し、水溶液と、浄化脱水固体(土壌、汚泥、ヘドロ、焼却灰、堆積物由来の固体脱水物など)と、に分離させる。被汚染物質が液体である場合は固液分離工程は必要ない。分離された固体分は、重金属類で汚染されていない土壌、汚泥、ヘドロ又は焼却灰などとして、処理することができる。分離された水溶液は、循環液として再利用されるか、余剰液として排水される。析出用カソードC表面に電解析出した重金属類は、電極を交換することにより系外に取り出されるか、または析出用カソードCの再生方法として一時的に析出用カソード電位を例えば-0.1V程度に上昇させることにより析出用カソードC表面から溶離して重金属類濃縮液として回収され、重金属類汚染物として廃棄するか、又は重金属類原料として再利用することができる。この時、あまりにも高い電位を印加すると(例えば銅電極の場合0.0V程度)析出用カソードの素材そのものが溶解するので、析出用カソード素材の溶解しない範囲で析出用カソードの再生のための電位を設定するか、あるいは高い電位を与える時間を短時間に管理することが望ましい。
【0104】
ウラン汚染土壌を本発明の浄化装置で電解析出除去する方法を具体的に述べると以下のようになる。図1に示すように、2000mL容プレキシグラス製リアクターの中央部に、陽イオン交換膜(トクヤマNEOSEPTA CMB)を設置して、リアクターを2分し、カソード区域及びアノード区域を設ける。カソード区域に、難水溶性のウラン汚染土壌100gと、水道水800mLと、20%塩酸90mLと、を添加し、テフロン(登録商標)製撹拌羽根で700rpmの速度で撹拌する。ニッケル-銅合金(大同インコアロイ製モネル400)金網の耐腐食性カソードをカソード区域内に挿入し、ポテンショスタット(定電位電源装置)を介してアノードと接続する。アノード区域には、水道水810mLと、47%硫酸90mLと、を添加し、酸化ルテニウム被覆チタン製のアノードを挿入する。参照電極をカソード区域に挿入し、カソード電極電位が水素標準電極電位に対して-1.5Vとなるように、ポテンショスタットを調節する。カソード電極電位が-1.5Vに達してから60分間運転することにより、ウラン汚染土壌中から金属ウランを回収する。ウランは放射能を持つため、作業は遠隔操作または放射線防護服、防護壁を用いて被爆量に注意しつつ行う。
【実施例】
【0105】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において用いた被検物は、各種工場敷地内から採取した土壌に、重金属類を配合して、所定濃度の重金属類含有土壌を調製したものである。
【0106】
[実施例1]鉛汚染土壌の電解析出除去試験
図1に示すように、2000mL容プレキシグラス製リアクターの中央部に、陽イオン交換膜(トクヤマNEOSEPTA CMB)を設置して、リアクターを2分し、カソード区域及びアノード区域を設けた。
【0107】
カソード区域に、難水溶性の鉛汚染土壌(鉛含有濃度300mg/kg乾土;採取場所:A機械工場)100gと、水道水800mLと、20%塩酸90mLと、を添加し、テフロン(登録商標)製撹拌羽根で700rpmの速度で撹拌し、被験系とした。
【0108】
ニッケル-銅合金(大同インコアロイ製モネル400)金網の耐腐食性カソードをカソード区域内に挿入し、ポテンショスタット(定電位電源装置)を介してアノードと接続させた。
【0109】
アノード区域には、水道水810mLと、47%硫酸90mLと、を添加し、酸化ルテニウム被覆チタン製のアノードを挿入した。
【0110】
参照電極をカソード区域に挿入し、カソード電極電位が水素標準電極電位に対して-0.55Vとなるように、ポテンショスタットを調節した。カソード電極電位が-0.55Vに達してから20分間運転した後、リアクター内のスラリーをGF/B濾紙を用いて吸引濾過し、固液分離を行った。反応時間中、カソード区域のスラリーのpHは、1.0以下に維持した。吸引濾過後、濾液中の鉛濃度と濾過後の土壌中の鉛含有濃度をそれぞれ原子吸光法を用いて測定した。同じ実験装置を用いて、カソード電極電位を水素標準電極電位に対して0.0Vとなるように設定した対照系についても、同様に吸引濾過、固液分離を行い、濾液中及び濾過後の土壌中の鉛濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
表1より、重金属類固体状汚染物を含むスラリーを強酸性雰囲気及び還元的雰囲気を維持することで、土壌に付着していた難溶性の鉛のうち96%がカソード電極に付着して、土壌及び間隙水より除去されたことがわかる。
【0113】
[実施例2]水銀汚染堆積物の電極還元洗浄試験
図2に示すように、2000mL容プレキシグラス製リアクターの中央部に、陽イオン交換膜(トクヤマ製NEOSEPTA CMB)を設置して、リアクターを2分し、カソード区域及びアノード区域を設けた。
【0114】
カソード区域に、難水溶性の水銀汚染堆積物(総水銀含有濃度130mg/kg乾土;採取場所:B薬品工場)100gと、水道水800mLと、20%塩酸90mLと、を添加し、テフロン(登録商標)製撹拌羽根で700rpmの速度で撹拌し、窒素ガスの散気管を挿入して、10mL/minの速度でカソード区域を窒素曝気し、被験系とした。
【0115】
鉛-スズ合金(鉛/スズ=60/40)により10μm厚にメッキした銅製金網の耐腐食性カソードを被験系内に挿入し、ポテンショスタットを介してアノードと接続させた。カソード区域から排出されるガスを捕集するために、過マンガン酸カリウム(50g/L)を含む1:4硫酸100mLを入れたガス洗浄瓶をリアクターに接続させた。
【0116】
アノード区域には、水道水810mLと、47%硫酸90mLと、を添加し、酸化ルテニウム被覆チタン製のアノードを挿入した。
【0117】
参照電極をカソード区域に挿入し、カソード電極電位を標準水素電極電位に対して-0.66Vとなるように、ポテンショスタットを調節した。カソード電極電位が-0.66Vに達してから20分間運転させた後、リアクター内のスラリーをGF/B濾紙を用いて吸引濾過し、固液分離を行った。カソード区域のpHは、1.0以下に維持した。リアクターからのガスを重金属トラップとしてのガス洗浄瓶に捕集させた。吸引濾過後、濾液中の総水銀濃度及び濾過後の堆積物中の水銀含有濃度を加熱気化原子吸光法用いて測定し、ガス洗浄瓶中に捕集された水銀濃度を原子吸光法を用いて測定した。
【0118】
同じ実験装置を用いてカソード電極電位を水素標準電極電位に対して+0.2Vとなるように設定した対照系についても、同様に吸引濾過し、固液分離した後、濾液、濾過後の堆積物及びガス洗浄瓶中の水銀濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0119】
【表2】
【0120】
表2より、堆積物に付着していた難溶性の水銀のうち99%が、酸性条件下で還元電位を印加することにより、堆積物及び間隙水中より除去されることがわかる。
【0121】
[実施例3]飛灰中の鉛の電解析出除去試験
図1に示すように、2000mL容プレキシグラス製リアクターの中央部に、陽イオン交換膜(トクヤマNEOSEPTA CMB)を設置して、リアクターを2分し、カソード区域及びアノード区域を設けた。カソード区域に、ごみ焼却飛灰をさらにプラズマで溶融した際に生じる溶融飛灰(鉛含有濃度36g/kg;採取場所:Dごみ焼却溶融炉)100gと、水道水640mLと、20%塩酸250mLと、を添加し、テフロン(登録商標)製撹拌羽根で700rpmの速度で撹拌し、被験系とした。鉛-スズ合金(鉛/スズ=60/40)により0.5mm厚に溶融浸漬した銅製エキスパンドメタルの耐腐食性カソードを被験系内に挿入し、ポテンショスタット(定電位電源装置)を介してアノードと接続させた。アノード区域には、水道水810mLと、47%硫酸90mLと、を添加し、酸化ルテニウム被覆チタン製のアノードを挿入した。
【0122】
参照電極をカソード区域に挿入し、カソード電極電位が水素標準電極電位に対して-0.55Vとなるように、ポテンショスタットを調節した。カソード電極電位が-0.55Vに達してから60分間運転した後、リアクター内のスラリーを遠心分離し、固液分離を行った。反応時間中、カソード区域のスラリーのpHは、1.0以下に維持した。
【0123】
遠心分離後、液相中の鉛濃度と土壌中の鉛含有濃度をそれぞれ原子吸光法を用いて測定した。
【0124】
同じ実験装置を用いて、カソード電極電位を水素標準電極電位に対して-0.1Vとなるように設定した対照系についても60分間運転を行い、同様に遠心分離を行い、液相中及び土壌中の鉛濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0125】
【表3】
【0126】
表3より、被験系においては、重金属類汚染飛灰を含むスラリーを強酸性雰囲気及び還元的雰囲気(水素標準電極に対して-0.55V)を維持することで、飛灰中の鉛のうち99%がカソード電極に付着して、固相及び液相より除去されたことがわかる。
【0127】
[実施例4]鉛汚染土壌の電解析出除去試験
実施例1と同様の条件下で、カソード電位を-0.25Vに設定して20分間運転した時の鉛除去試験結果を表4に示す。
【0128】
【表4】
【0129】
[実施例5]鉛汚染土壌の電解析出除去試験
【0130】
図3に示すように、2000mL容アクリル製容器をスラリー形成槽として用いた。スラリー形成槽のほぼ中央部に、陽イオン交換膜(トクヤマNEOSEPTA CMB)を設置して、槽を2分し、それぞれカソード区域及びアノード区域とした。
【0131】
カソード区域に、難水溶性の鉛汚染土壌(鉛含有濃度5000mg/kg乾土;採取場所:E自動車工場)100gと、水道水800mLと、1:1塩酸50mLと、を添加し、テフロン(登録商標)製撹拌羽根で500rpmの速度で撹拌し、被験系とした。
【0132】
ニッケル-銅合金(大同インコアロイ製モネル400)金網の耐腐食性カソードを被験系内に挿入し、ポテンショスタット(定電位電源装置)を介してアノードと接続させた。カソード近傍に、ナイロン製のメッシュ(目の大きさ1.0mm)で構成される保護部材で隔壁を形成し、耐腐食性カソード表面にスラリー中大きな粒径の固体による剪断力が作用しないようにした。
【0133】
アノード区域には、水道水800mLと、47%塩酸90mLと、を添加し、グラファイト製のアノードを挿入した。
【0134】
参照電極をカソード区域に挿入し、カソード電極電位が水素標準電極電位に対して-0.55Vとなるように、ポテンショスタットを調節した。カソード電極電位が-0.55Vに達してから20分間運転した後、槽内のスラリーをGF/B濾紙を用いて吸引濾過し、固液分離を行った。反応時間中、カソード区域のスラリーのpHは、1.0以下に維持した。吸引濾過後、濾液中の鉛濃度と濾過後の土壌中の鉛含有濃度をそれぞれ原子吸光法を用いて測定した。カソード保護部材を用いなかった点を除いて被験系と同じ実験装置を用いて構成した対照系についても、同様に吸引濾過、固液分離を行い、濾液中及び濾過後の土壌中の鉛濃度を測定した。結果を表5に示す。
【0135】
【表5】
【0136】
表5より、カソードに付与されるスラリーによる剪断力を抑制することで、電極に分配される鉛濃度が増加していることがわかる。よって、本発明により、カソード表面に電解析出した重金属類の剥離及び再溶解が防止できることが確認された。
【0137】
[実施例6] 鉛汚染土壌の電解析出除去試験
図4に示すように、高さ0.4m、横幅0.1m、奥行き0.05mの内容量2000mLのアクリル製反応槽を中央部で陽イオン交換膜(トクヤマNEOSEPTA CMB)を用いて、それぞれ、高さ0.4m、横幅0.05m、奥行き0.05mの寸法の区画に分けて、カソード区画及びアノード区画とした。カソード区画に、難水溶性の鉛汚染土壌(鉛含有濃度5000mg/kg乾土;採取場所:E自動車工場)100gと、水道水800mLと、1:1塩酸50mLと、を添加し、テフロン(登録商標)製撹拌羽根で500rpmの速度で撹拌し、被験系とした。ニッケル-銅合金(大同インコアロイ製モネル400)金網の耐腐食性カソードを被験系内に水面2cmの深さに設置し、ポテンショスタット(定電位電源装置)を介してアノードと接続させた。また、タイゴンチューブと循環ポンプを使用して上部から上澄みを吸引し、装置底部から再注入する循環系を構成した。循環水流は、土壌に含まれる細粒画分のみがカソードに到達でき、カソード表面に析出した鉛が剥離しない流速(本実施例においては、0.5L/minであった)に調節した。
【0138】
アノード区画には、水道水800mLと、47%硫酸90mLと、グラファイト製のアノードを挿入した。参照電極をカソード区画に挿入して、カソードの電位が水素標準電極に対して-0.55Vとなるように、ポテンショスタットを調節した。カソードの電位が-0.55Vに達してから20分間運転して、反応槽内のスラリーをGF/B濾紙を用いて吸引濾過して、固液分離を行った。反応時間中、カソード区画内のスラリーのpHは1.0以下に維持した。吸引濾過後、濾液中の鉛濃度と濾過後の土壌中に残留した鉛含有濃度をそれぞれ原子吸光法で測定した。
【0139】
スラリー循環系を備えていない対照系を作製し、被験系と同様の実験条件で吸引濾過、固液分離をした後、濾液中及び濾過後の土壌中に残留した鉛含有濃度を原子吸光法で測定した。結果を下記表6に示す。
【0140】
【表6】
【0141】
[実施例7]鉛汚染土壌の電解析出除去試験
図5に示すように、2400mlアクリル製の浄化反応槽2をカソード側1400ml、アノード側1000mlになるように陽イオン交換膜(DuPont社製NAFION)Mで中央を仕切る。スラリー形成部2aにおいて膜に最も近い位置に、析出用カソードC-2としてニッケル-銅合金(大同インコアロイ製モネル400)電極を、膜から最も遠い位置に、溶出用カソードC-1a,C-1bとしてグラファイト電極をそれぞれ設置した。分離部2bには膜から2cmの位置にアノードA-1,A-2としてグラッシーカーボン電極(東海カーボン社製)を2本設置した。両カソードは並列に配線されており、ポテンショスタット(定電位電源装置)を介してアノードと接続した。
【0142】
スラリー形成部2aには難水溶性の鉛汚染土壌(鉛含有濃度5000mg/kg乾土;採取場所:F化学工場)100gと、水道水1300mLと、1:1塩酸80mLと、を添加し、PTFE(テトラフルオロエチレン重合体)製撹拌羽根で500rpmの速度で撹拌することにより均一に近い状態に保たれている。分離部2bについては水道水800mlに1:1硫酸90mLを添加し、被験系とした。参照電極B-1をカソード区域に挿入し、カソードの電位が水素標準電極に対して-0.55Vとなるようにポテンショスタットを調節した。カソードの電位が-0.55Vに達してから20分間運転後、浄化反応槽2内のスラリーをGF/B濾紙を用いて吸引濾過し、固液分離を行った。反応時間中、カソード区域内のスラリーのpHは1.0以下に維持した。吸引濾過後、濾液中の鉛濃度と濾過後の土壌中の鉛含有濃度をそれぞれ原子吸光法で測定した。溶出用カソードC-1a,C-1bを取り除いた以外は同様の条件で行った対照系についても、同様に吸引濾過、固液分離後、濃液中及び濾過後の土壌中の鉛濃度を測定した。結果を表7に示す。
【0143】
【表7】
【0144】
表7より、カソードを溶出用、析出用として複数使用することで、被汚染物に含まれる重金属類に対し、従来の技術より優れた除去効果が得られたことが理解される。
【0145】
[実施例8]複数電極による鉛汚染土壌の電解析出除去試験
図6に示すように、角型の2400mL透明ポリ塩化ビニル製浄化反応槽をカソード側1400mL、アノード側1000mLになるように陽イオン交換膜(DuPont社製NAFION)Mで中央を仕切る。カソード区域において膜に最も近い位置に、析出用カソードC-2として鉛-スズ合金(鉛/スズ=40/60)により20μm厚にメッキした銅製電極を、膜から最も遠い位置に、溶出用カソードC-1としてカーボン電極をそれぞれ設置した。アノード区域には膜から2cmの位置にアノードAとしてグラッシーカーボン電極(東海カーボン社製)を1本設置した。両カソードは並列に配線されており、ポテンショスタット(定電位電源装置)を介してアノードと接続した。
【0146】
カソード区域には難水溶性の鉛汚染土壌(鉛含有濃度5000mg/kg乾土;採取場所:F化学工場)100gと、水道水1300mLと、1:1塩酸80mLと、を添加し、PTFE(テトラフルオロエチレン重合体)製撹拌羽根で500rpmの速度で撹拌することにより均一に近い状態に混合した。アノード区域については水道水800mlに1:1硫酸5mLを添加し、被験系とした。参照電極B-1をカソード区域に挿入し、カソードの電位が水素標準電極に対して-0.55Vとなるようにポテンショスタットを調節した。カソードの電位が-0.55Vに達してから20分間運転後、浄化反応槽2内のスラリーをGF/B濾紙を用いて吸引濾過し、固液分離を行った。反応時間中、カソード区域内のスラリーのpHは1.0以下に維持した。吸引濾過後、濾液中の鉛濃度と濾過後の土壌中の鉛含有濃度をそれぞれ原子吸光法で測定した。溶出用カソードC-1を取り除いた以外は同様の条件で行った対照系についても、同様に吸引濾過、固液分離後、濃液中及び濾過後の土壌中の鉛濃度を測定した。結果を表8に示す。
【0147】
【表8】
【0148】
[実施例9]鉛汚染土壌の電解析出除去試験
図14及び図15に示す2000L容角型リアクター(幅2m、奥行き1m、深さ1m)に、鉛汚染土壌(鉛含有濃度5000mg/kg乾土;採取場所:E自動車工場工場)200kgと、水道水1500Lと、20%塩酸200Lと、を添加し、リアクター底部に窒素ガス散気管6本を配して2m3/分の通気速度でガス撹拌し、被験系とした。図14に示すように直径60mmの円筒形の隔膜ユニット(アストムED-CORE)10ユニットを配し(有効膜面積1.5m2)、各ユニット間を仕切るように鉛-スズ合金(鉛/スズ=60/40)により20μm厚にメッキした銅製金網からなるカソードを27ユニット配備した。隔膜ユニット中には5%硫酸液を循環通水してアノード反応液とした。カソードを治具および整流器を介してアノードに接続し、1000Aの定電流で20分間運転した。運転開始直後のカソード電位は、0.0V程度であったが、数分で-0.3V程度まで低下した。この間に液中の酸化力のある物質が還元消費されたと考えられる。その後運転を停止する30分後までに徐々に-0.76Vまで低下した。この間に鉛の析出が進んで液相鉛濃度が低下し、定電流維持の為に低い電位へシフトしたものと考えられる。
【0149】
30分運転後、リアクター内のスラリーを採取し、遠心分離後にGF/B濾紙を用いて吸引濾過し、固液分離を行った。吸引濾過後、濾液中の鉛濃度と濾過後の土壌中の鉛含有濃度をそれぞれ原子吸光法を用いて測定した。対照系として、図16および図17に示すように図14及び図15の装置の両端の壁面を取り外して10cm角の格子枠で陽イオン交換平膜(アストムNEOSEPTA CMB)を有効面積1.44m2となるように固定し、その外側に容積200Lのアノード区域を設け、被験系で用いたのと同じアノード10本を各5本ずつ浸漬し、反応液として5%硫酸液を循環通水した。リアクター容器中には被験系で用いたのと同じカソード27ユニットを配置した。その他の条件は被験系と同一として、定電流運転を30分間行った後に鉛濃度を測定した。結果を表9に示す。
【0150】
【表9】
【0151】
表9より、平膜の代わりに隔膜ユニットを適用してその周囲にカソードを配置することで、大型のリアクターであっても効率的に鉛の電解析出が進行し、土壌に付着していた難溶性の鉛のうち98%が電極に付着して、土壌及び間隙水より除去できたことがわかる。
【0152】
[実施例10]スズ汚染土壌の電解析出除去試験
図14及び図15に示す2000L容角型リアクターを被験系に、図16及び図17に示す改造した2000L容角型リアクターを対照系として実施例9と同様に試験を行った。被汚染物として、鉛汚染土壌の代わりにスズ汚染土壌(スズ含有濃度530mg/kg乾土;採取場所:F薬品工場)200kgを用いた。結果を表10に示す。
【0153】
【表10】
【0154】
表10より、平膜の代わりに隔膜ユニットを適用してその周囲にカソードを配置することで、大型のリアクターであっても効率的にスズの電解析出が進行し、土壌に付着していた難溶性のスズのうち95%以上が電極に付着して、土壌及び間隙水より除去できたことがわかる。
【0155】
[実施例11]各種カソード電極を用いた鉛汚染土壌の電解析出除去試験
図14及び図15に示す2000L容角型リアクターを用い、カソードとして鉛-スズ合金(鉛/スズ=60/40)により20μm厚にメッキした銅製金網を用いたものを被験系1に、同じくカソードとしてニッケル-銅合金(大同インコアロイ製モネル400)金網を用いたものを被験系2に、銅金網を用いたものを対照系として実施例9と同様に試験を行った。試験は2日間かけて行い、初日に3種類のカソードについて試験を行った後、カソードユニットを水洗せずに塩酸酸性のスラリーが付着した状態で一晩放置した。2日目に再び同じカソードユニットを使って同じ試験を繰返し行い、一晩放置したことによる腐食の影響を評価した。初日の結果を表11に、2日目の結果を表12に示す。
【0156】
【表11】
【0157】
【表12】
【0158】
表11および表12より、1日目の試験においては各種カソード電極を用いることによって鉛除去性能に大きな違いは無かったが、カソードを塩酸酸性のスラリーが付着した状態で一晩放置した後の2日目の試験では、被験系1および2においては1日目と大きな違いが無かったのに対し、銅電極カソードを用いた対照系においては運転時間である30分間の間にほとんどカソード電位が低下せず、鉛の除去が達成できなかったことが分かる。2日目の銅カソード(対照系)は全体に緑色の緑青(CuCO3・Cu(OH)2、CuClおよびCuCl2・3Cu(OH)2を主成分とする)を発生して腐食しており、電解反応時にはこれらの2価および3価の銅が0価に還元されて析出する反応が鉛の還元析出に先んじて生じるために、カソード電位が所定の運転時間内には充分低下せず、鉛の析出に至らなかったと考えられる。すなわち、従来の技術と比較して本発明の耐食性の高いカソード電極を用いることにより、大型装置での繰返し電解運転時に、重金属の電解還元反応を安定して行える効果があることが示された。
【0159】
なお、本試験にあたってはカソード電極を仕切り板状のユニットとし、治具ごと差し替えられる構造としたため、2m3規模の大型装置であっても各種電極の交換が容易であり、星型のカソードを隔膜-電極ユニットの周囲に巻きつける従来の方法に比べて作業性の上で有利であった。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明によれば、重金属類で汚染されている、例えば、土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰等の被汚染物から、被汚染物に含まれている重金属類の難溶性の画分まで確実に除去することができ、被汚染物中の重金属類含有濃度そのものを低下させることができるので、処理時点のみならず将来にわたって重金属類の溶出による二次汚染によるリスクを排除することが可能となる、という効果が得られる。
【0161】
また、本発明によれば、重金属類で汚染されている、例えば、土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰等の被汚染物から、重金属類の難溶性の画分まで確実に除去することができ、被汚染物に含まれている重金属類をカソード表面に電解析出させた後の重金属類のカソード表面からの剥離及びスラリー中への再溶解を防止することができる。
【0162】
また、本発明によれば、重金属類で汚染されている、例えば、土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰、工業用排水、表流水、地下水、海水等の固体状または液体状の被汚染物から、溶出用カソードにより固体状または液体状の被汚染物に含まれている重金属類の難溶性の画分から確実に溶出させ、水溶液中に溶出してきた重金属類を析出用カソードに析出させることによって従来技術よりも確実に重金属類を除去することができる。実際の環境浄化に必要な大型装置においても、隔膜−電極ユニットの数を増やすことによって膜間の距離及び/または電極と反応液(またはスラリー)間の距離を維持できるので、除去効率及び反応速度を低下させること無く処理を行うことができる。
【0163】
さらに本発明によれば、耐食性の高いカソード電極を使用することによって電位印加、電流停止の繰返し運転を行っても電極が腐食せず、安定した処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】図1は、電解析出反応を利用して鉛、カドミウム等を除去回収する本発明の好ましい一実施形態を示す概略説明図である。
【図2】図2は、電極反応を用いて水銀等を除去回収する本発明の好ましい別の実施形態を示す概略説明図である。
【図3】図3は、本発明の好ましい実施形態を示す概略説明図であり、特に、カソード保護部材をカソード近傍に配置して、カソード表面にスラリー中の大きな粒径の固体による剪断力が作用しないように構成した態様を示す概略説明図である。
【図4】図4は、本発明の別の好ましい一実施形態を示す概略説明図であり、特に、スラリー上昇流を用いて、スラリー中の固体粒度分布を形成し、カソード表面へのスラリー中の大きな粒径の固体による剪断力を抑制する態様を示す概略説明図である。
【図5】図5は、本発明の好ましい一実施形態の被汚染物の浄化装置を示す概略説明図である。
【図6】図6は、本発明の好ましい一実施形態の被汚染物の浄化装置を示す概略説明図である。
【図7】図7は、カソードを用いて鉛、カドミウムなどを固体状または液体状の被汚染物から溶出させ電解析出させて回収する本発明の好ましい一実施形態を示す概略説明図である。
【図8】図8は、本発明に用いられるアノード区域とカソード区域を分離するための隔膜の形態を示す概念図である。
【図9】図9は、隔膜の変形や磨耗に対し、隔膜の底部や上部を保護するための型枠及びパイプを用いた補強の一例を示す図である。
【図10】図10は、多孔性セラミック等の平板を多面体状の型枠に固定することで隔膜ユニットとして使用する一例を示す図である。
【図11】図11は、隔膜ユニットを透過し拡散する水素イオンの移動を妨げないカソード及び隔膜−電極ユニットの配置の好ましい一例を示す図である。
【図12】図12は、隔膜ユニットを透過し拡散する水素イオンの移動を妨げないカソード及び隔膜−電極ユニットの配置の好ましい別の一例を示す図であり、図12(a)はカソードが単列配置されている場合を示し、図12(b)はカソードが複数列配置されている場合を示す。
【図13】図13は、隔膜ユニットを透過し拡散する水素イオンの移動を妨げないカソード及び隔膜−電極ユニットの配置の好ましい別の一例を示す図であり、図13(a)、(b)はカソードの配置例を示し、図13(c)、(d)はカソード板の形状(上から見た図)の例を示す。
【図14】図14は、実施例9〜11で用いた2000L容角型リアクターを示す模式図(側面)である。
【図15】図15は、実施例9〜11で用いた2000L容角型リアクターを示す模式図(上面図)である。
【図16】図16は、実施例9〜11の対照系として用いた2000L容角型リアクターを示す模式図(側面)である。
【図17】図17は、実施例9〜11の対照系として用いた2000L容角型リアクターを示す模式図(上面図)である。
【符号の説明】
【0165】
1;1A;1B;100:浄化装置
2:反応槽(スラリー形成槽)
2a:スラリー形成部
2b:分離部
3;120:固液分離機
5:重金属トラップ(ガス洗浄瓶)
A:アノード
A-1:第1のアノード
A-2:第2のアノード
C:カソード
C-1a,C-1b:溶出用カソード
C-2:析出用カソード
M:隔膜
10:アノード区域
20:カソード区域
22;111:被汚染物供給手段
24;112:酸性物質又はアルカリ性物質供給手段
26;115:水供給手段
27:不活性ガス供給手段(散気管)
28:pH計用電極
34:スラリーポンプ
40:液体循環ライン
50:カソード保護部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属類を含む被汚染物質から重金属類を除去する装置に用いるカソードであって、
少なくとも該カソードの接液部が、鉛、ニッケル、スズ、クロムから選択される少なくとも1種類の金属もしくはこれらから選択される少なくとも1種類の金属を含む合金から構成されていることを特徴とする耐腐食性カソード。
【請求項2】
前記耐腐食性カソードの基材は銅である請求項1に記載のカソード。
【請求項3】
前記耐腐食性カソードの形状は、網状、エキスパンドメタル状、パンチングメタル状、ハニカム状のいずれかである請求項1または2に記載のカソード。
【請求項4】
重金属類を含む被汚染物を供給する被汚染物供給手段と、還元的雰囲気を提供する請求項1〜3のいずれかに記載の耐腐食性カソードと、隔膜と、アノードと、を具備し、
該隔膜によって該アノードを含むアノード区域と、該耐腐食性カソード及び該被汚染物供給手段を含むカソード区域と、が形成され、
該カソード区域は還元的雰囲気及び強酸性若しくは強アルカリ性雰囲気に維持され、該被汚染物からの重金属類イオンの溶出及び該溶出した重金属類イオンの該被汚染物及び間隙水からの分離を並行して行う反応槽を含む、重金属類を含む被汚染物の浄化装置。
【請求項5】
前記アノードを囲むように前記隔膜を位置づけて、前記隔膜の内側に前記アノード区域を形成し、前記隔膜の外側に前記カソード区域を形成することを特徴とする請求項4に記載の重金属類を含む被汚染物の浄化装置。
【請求項6】
隔膜単独もしくは隔膜と他の補強材との組み合わせから構成される円筒形、箱状又は袋状の形態の隔膜内部に前記アノードを位置づけ、隔膜外部に請求項1〜3の何れか1項に記載の耐腐食性カソードを位置づけた電極−隔膜ユニットを含むことを特徴とする請求項5に記載の重金属類を含む被汚染物の浄化装置。
【請求項7】
前記耐腐食性カソードは、前記隔膜を囲むように、星形、放射状または仕切り板状に配置されることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の重金属類を含む被汚染物の浄化装置。
【請求項8】
前記還元的雰囲気は、カソードの電極電位を水素標準電極電位に対して-0.16V以下とすることにより提供される、請求項5〜7の何れか1項に記載の重金属類を含む被汚染物の浄化装置。
【請求項9】
重金属類を含む被汚染物を供給する被汚染物供給手段と、還元的雰囲気を提供する請求項1〜4のいずれかに記載の耐腐食性カソードから構成される析出用カソードと、溶出用カソードと、隔膜と、アノードと、を具備し、
該隔膜によって該アノードを含むアノード区域と、該析出用カソード、該溶出用カソード及び該被汚染物供給手段を含むカソード区域と、が形成され、
該カソード区域は還元的雰囲気及び強酸性若しくは強アルカリ性雰囲気に維持され、該被汚染物からの重金属類イオンの溶出及び該溶出した重金属類イオンの該被汚染物及び間隙水からの分離を並行して行う反応槽を含む、重金属類を含む被汚染物の浄化装置。
【請求項10】
前記還元的雰囲気は、析出用カソードの電極電位を水素標準電極電位に対して-0.16V以下とすることにより提供される、請求項9に記載の重金属類を含む被汚染物の浄化装置。
【請求項1】
重金属類を含む被汚染物質から重金属類を除去する装置に用いるカソードであって、
少なくとも該カソードの接液部が、鉛、ニッケル、スズ、クロムから選択される少なくとも1種類の金属もしくはこれらから選択される少なくとも1種類の金属を含む合金から構成されていることを特徴とする耐腐食性カソード。
【請求項2】
前記耐腐食性カソードの基材は銅である請求項1に記載のカソード。
【請求項3】
前記耐腐食性カソードの形状は、網状、エキスパンドメタル状、パンチングメタル状、ハニカム状のいずれかである請求項1または2に記載のカソード。
【請求項4】
重金属類を含む被汚染物を供給する被汚染物供給手段と、還元的雰囲気を提供する請求項1〜3のいずれかに記載の耐腐食性カソードと、隔膜と、アノードと、を具備し、
該隔膜によって該アノードを含むアノード区域と、該耐腐食性カソード及び該被汚染物供給手段を含むカソード区域と、が形成され、
該カソード区域は還元的雰囲気及び強酸性若しくは強アルカリ性雰囲気に維持され、該被汚染物からの重金属類イオンの溶出及び該溶出した重金属類イオンの該被汚染物及び間隙水からの分離を並行して行う反応槽を含む、重金属類を含む被汚染物の浄化装置。
【請求項5】
前記アノードを囲むように前記隔膜を位置づけて、前記隔膜の内側に前記アノード区域を形成し、前記隔膜の外側に前記カソード区域を形成することを特徴とする請求項4に記載の重金属類を含む被汚染物の浄化装置。
【請求項6】
隔膜単独もしくは隔膜と他の補強材との組み合わせから構成される円筒形、箱状又は袋状の形態の隔膜内部に前記アノードを位置づけ、隔膜外部に請求項1〜3の何れか1項に記載の耐腐食性カソードを位置づけた電極−隔膜ユニットを含むことを特徴とする請求項5に記載の重金属類を含む被汚染物の浄化装置。
【請求項7】
前記耐腐食性カソードは、前記隔膜を囲むように、星形、放射状または仕切り板状に配置されることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の重金属類を含む被汚染物の浄化装置。
【請求項8】
前記還元的雰囲気は、カソードの電極電位を水素標準電極電位に対して-0.16V以下とすることにより提供される、請求項5〜7の何れか1項に記載の重金属類を含む被汚染物の浄化装置。
【請求項9】
重金属類を含む被汚染物を供給する被汚染物供給手段と、還元的雰囲気を提供する請求項1〜4のいずれかに記載の耐腐食性カソードから構成される析出用カソードと、溶出用カソードと、隔膜と、アノードと、を具備し、
該隔膜によって該アノードを含むアノード区域と、該析出用カソード、該溶出用カソード及び該被汚染物供給手段を含むカソード区域と、が形成され、
該カソード区域は還元的雰囲気及び強酸性若しくは強アルカリ性雰囲気に維持され、該被汚染物からの重金属類イオンの溶出及び該溶出した重金属類イオンの該被汚染物及び間隙水からの分離を並行して行う反応槽を含む、重金属類を含む被汚染物の浄化装置。
【請求項10】
前記還元的雰囲気は、析出用カソードの電極電位を水素標準電極電位に対して-0.16V以下とすることにより提供される、請求項9に記載の重金属類を含む被汚染物の浄化装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2007−211315(P2007−211315A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34552(P2006−34552)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】
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