説明

重防食被覆鋼材の製造方法

【課題】下地処理にクロム酸を用いる事無く、厳しい腐食環境で容易に腐食や剥離が発生することの無い接着性を有する重防食被覆鋼材を提供すること。
【解決手段】本発明の重防食被覆鋼材では、ブラスト処理後、その表面をpH=10〜12の陽イオンを含まないアルカリ電解水で処理・乾燥させる。アルカリ電解水は乾燥時の表面錆び発生を防止し、鋼材表面のぬれ性を向上させる効果があることから、塗膜の接着性が向上する。特にクロム酸を含まない酸性化成処理との組み合わせが有効で、密着力の低下が少なく長期の防食性維持が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期耐久性が要求される重防食被覆鋼材の塗装前下地処理において、ブラスト処理後にクロメート処理を行う事無く接着耐久性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋構造物やラインパイプ等の大形鋼材に長期防食性が要求される場合、工場塗装ではその下地処理としてブラスト処理で除錆を行うが、クロメート処理を行う場合はクロム酸の効果が大きく、ブラスト処理については粗度と目視除錆度程度の管理しか行われて来なかった。しかしながら、昨今の環境問題に対する意識の高まりから、クロメート処理を行わない方法が要求されているが、これまでのブラスト処理では鋼材表面の反応性が低いためにクロメート処理を行わない場合には十分な密着性が確保出来ないという問題があった。
【0003】
ブラスト処理での接着性を確保する方法として特許文献1のように、ブラスト後に高圧水洗浄を行うことでダストを除去して接着性を向上させる方法が提案されている。更に特許文献2のように、露点より高い雰囲気ガスと水を用いて洗浄する方法も提案されているが、いずれもクロメート処理の高い反応性を前提としており、クロメート処理無しでは有効な方法では無かった。
【0004】
クロメートを用いない化成処理としては、特許文献3に、下地処理にマグネシウム、アルミニウム、カルシウムを代表とするリン酸金属化合物にシリカ微粒子を加えた処理液を金属化合物が0.3〜5g/m2の付着量となるような条件で塗布、乾燥して処理層を形成した後に、樹脂プライマー層、0.3mm以上の厚みを有する防食被覆層を順次積層する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3244804号公報
【特許文献2】特開2001−277423号公報
【特許文献3】特許第4416167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
海洋構造物やパイプラインに使用される、鋼矢板、鋼管杭、鋼管矢板、鋼管などの大形鋼材に重防食を行う場合に、下地処理剤にクロメートを用いることなく、かつ、特許文献3のような複雑な処理剤を使用せずに防食性能に優れた重防食被覆鋼材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
大形鋼構造物では塗装の前の下地処理として、乾式のブラスト処理を行うのが一般的だが、クロメート処理無しではブラスト処理後の表面状態はばらつきが大きく、塗膜との接着に必要なぬれ性を常に確保することが出来なかった。
【0008】
そこで本発明者らは上記の問題を解決する手段として、鋼材の前処理であるブラスト処理の性能を高める方法を検討した。その結果、物理的な接着に寄与する粗度を確保するためにブラスト処理を行った後、陽イオンを含まないアルカリ電解水で洗浄・乾燥することで鋼材表面のぬれ張力を38Nm/m以上に高め、重防食形成後の防食性を高めることが出来ることを見出した。更に酸性シリカ溶液を含む化成処理を組み合わせることで、より高い防食性を確保することが可能である。
【0009】
本発明の要旨を、その好ましい実施形態とともに示せば、次のとおりである。
インペラーあるいはエアーブラスト処理で表面錆びを除去した鋼材に、陽イオンを含まないアルカリ電解水で洗浄・乾燥して反応性が良好な鋼材表面を形成後、エポキシ、ポリオレフィン又はポリウレタン樹脂を代表とする数mm厚みの重防食被覆層を形成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、処理が塗布・乾燥だけの単純な組み合わせによって行うことができ、かつ鋼材の下地処理にクロム酸を用いることなく、優れた塗膜の耐水密着性や耐剥離性を有する重防食被覆鋼材の提供が可能となる。これによって、鋼管矢板、鋼管杭、鋼管等の大形構造物も、特別な環境対策設備を必要とせずに提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明につき詳細に説明を行なう。
【0012】
本発明による重防食被覆鋼材とは、例えば図1の断面図に示すが如く、表面をブラスト処理と陽イオンを含まないアルカリ電解水で処理した鋼材1の表面に、酸性シリカ溶液による化成処理層2、プライマー層3と、その上に接着剤とポリオレフィン層あるいはポリウレタン層4を積層した重防食被覆鋼材である。
【0013】
同様に化成処理を行わない場合の断面図を図2に示す。
【0014】
本発明で用いる鋼材とは、主として鋼管、鋼管杭、鋼矢板、鋼管矢板といった大形でブラスト処理を行う必要のある鋼材である。鋼材種としては特に限定するものでは無く、耐候性鋼や高張力鋼など、どのような鋼種でも適用可能である。
【0015】
鋼材表面のスケール、汚染物等を除去して表面に接着力を増す粗度をつけるにはブラスト処理を行う必要がある。ブラスト処理に使用する研掃材には、サンド、スチールグリッド、スチールショット、アルミナといったものが使用される。しかしながら、サンド、アルミナは破砕しやすいため、再生利用が可能なスチール製のグリッド又はショット粒が一般に用いられている。
【0016】
ブラストの方法としては、インペラーあるいはエアーのいずれかの方法で研掃材粒を加速して、鋼材表面に衝突させ表面錆びを除去する。
【0017】
次に、アルカリ電解水で鋼材表面を洗浄処理する。アルカリ電解水とは、水を電気分解することで水中の水酸イオンの量を増やすことで精製されるアルカリ電解水で、pHがアルカリ性を示すものである。水溶液中には水酸イオンと対をなす陽イオンは存在しないためアルカリではない。このため、水酸化ナトリウムなどの薬品を用いた場合と異なり、水で容易に溶解する成分が残存しにくい。
【0018】
本発明におけるアルカリ電解水はpHが10以上、12以下のものを用いる。pHが10未満では表面改質効果が十分に得られない。またpHが12を越えると、浸漬後の密着力が低下する。
【0019】
アルカリ電解水は製造方法を問わないが、例えば特許第3922639号に開示された電解水精製装置を用いると、塩化ナトリウムや炭酸カリウム等の電解質の混入がないので、防食性に影響を与えることが無く好ましい。
【0020】
本発明のアルカリ電解水でブラスト表面を洗浄することで、鋼材表面の接着性が向上する。これは、鋼材表面のぬれ張力変化にも現れる。表面接着性の指標であるぬれ張力は、ぬれ張力試験用混合液(WAKO製薬)を用いて簡易的に測定することが出来る。ブラスト後の鋼材表面は、ぬれ性が36Nm/mであるのに対して、アルカリ電解水処理後は38Nm/mに向上する。
【0021】
アルカリ電解水洗浄処理後に化成処理を組み合わせて用いると、更に化成処理の防食性が向上する。その場合には処理後のアルカリ電解水処理液を十分に乾燥させてから化成処理を実施する。乾燥が不十分であると水酸イオンが化成処理に混入し、反応性が阻害される。
【0022】
本発明に用いるクロム酸を含有しないpH=3以下のリン酸酸性化成処理には、5〜50nm径の1次シリカ粒子を含んだ溶液を用いる。例えば日本アエロジル社に代表される気相法シリカ、あるいは日産化学社に代表される液相法シリカを含む酸性溶液を用いる。pHを3以下とする酸成分としてはふっ酸、硝酸、燐酸成分を含有させたものが好ましく、単独、又は混合添加を行う。
【0023】
また、その他成分として、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、バナジウム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、モリブデンといった金属と前記の酸の金属塩を添加しても良い。
【0024】
下地処理後の鋼板に重防食被覆を行う。本発明における重防食被覆とはポリオレフィン又はポリウレタンを主とした既存の数mm厚の被覆であるが、エポキシを主とした重防食塗装に応用して用いても防食性能を向上させることが出来る。但し、下地処理後の鋼材表面にはエポキシ又はウレタンを成分としたプライマーを第1層として必ず設ける。
【0025】
ポリオレフィン重防食では、エポキシプライマーを用い、接着剤を介してポリオレフィンを被覆する。ポリオレフィンの主成分としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどの、鋼管被覆に用いられている従来公知のポリオレフィン、及びエチレン−プロピレンブロックまたはランダム共重合体、ポリアミド−プロピレンブロック又はランダム共重合体等公知のポリオレフィン共重合体を含む樹脂を使用することができる。添加成分として、耐熱性、耐候性対策としてカーボンブラックと酸化防止剤を添加する。その他成分として、充填強化剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系の耐候剤等を添加しても良い。
【0026】
ウレタン重防食では、エポキシ又はウレタンを主成分とするプライマー層を形成後、ウレタンを塗装する。ポリウレタン樹脂は、ポリオールと充填無機顔料、着色顔料の混合物からなる主剤と、イソシアネート化合物からなる硬化剤を2液混合塗装する。ポリオールとしてはポリエステルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、ひまし油誘導体、その他含水酸基化合物を用いる。イソシアネートとしてはメチレンジフェニルジイソシアネートなどの一般市販のイソシアネートを使用する。充填無機顔料としては、シリカ、酸化チタン、カオリンクレーなどの一般市販の無機顔料を用いる、また着色顔料にカーボンブラックを用いると良好な耐候性を付与することが出来る。
【0027】
エポキシを単独で厚膜に塗装する場合は、耐候性に問題があることから、屋外使用では耐候性の良いアクリル、シリコン、フッ素といった変性成分を含むトップコートを用いる。
【実施例】
【0028】
ポリウレタンで化成処理を行わない場合の比較例1〜7、実施例1〜4を、表1に基づいて次に説明する。
【0029】
〔比較例1〕
10H形の鋼矢板から切り出して作製された100×150mmの鋼板にIKKショット(株)製のスチールグリッドTGC70を用いて、インペラー方式のブラスト装置にて表面をブラスト処理した。その後、第一工業製薬製のパーマガード331プライマーを乾燥膜厚が30μmになるようにスプレー塗布し、24時間後にパーマガード137を乾燥膜厚が2mmになるようにスプレー塗装した。塗装後約2週間室温で養生後試験に供し、比較例1の重防食鋼材を製造した。
【0030】
〔比較例2〕
ブラスト処理後の鋼材表面を特許文献2に相当する洗浄条件での洗浄を加え、その他の条件は比較例1と同様に試験片を作製し、比較例2の重防食鋼材を製造した。洗浄は、6MPaの高圧水を用いて水洗し、エアーブローで乾燥した。この時の気温が25℃で露点が15℃であり、ガス温度、水温供に雰囲気温度+10℃となり、条件を満足する。
【0031】
〔比較例3〕
ブラスト処理後に、鋼材を水酸化ナトリウムでpH=12に調整したアルカリ溶液中に10秒間浸漬した後、エアーブローで乾燥する工程を加え、他は比較例1と同条件で比較例3の試験片を作成した。陽イオンを含有するアルカリ水を使用している点で本特許とは異なる。
【0032】
〔比較例4〕
ブラスト処理後に、鋼材を一般のアミン系防錆剤であるデタージェントL100−Aに10秒間浸漬した後、エアーブローで乾燥する工程を加え、他は比較例1と同条件で比較例4試験片を作成した。防錆剤を用いる点で本特許とは異なる。
【0033】
〔比較例5、6〕
ブラスト処理後に、鋼材を、陽イオンを含まないアルカリ電解水に10秒間浸漬した後、エアーブローで乾燥する工程を加え、他は比較例1と同条件で比較例5,6の試験片を作成した。アルカリ電解水のpHが本発明よりも酸性側のpH=9である場合が比較例5、アルカリ側のpH=13である場合が比較例6である。
【0034】
〔比較例7〕
比較例5と同じ条件で、アルカリ電解水を本発明の範囲であるpH=11に調整したものを用いた。一方、防食塗装前のパーマガード331プライマー塗装を省略し、パーマガード137を乾燥膜厚が2mmになるように鋼材表面に直接塗装した。これにより、本発明とはプライマーが存在しない点で異なる比較例7の重防食鋼材を製造した。
【0035】
〔実施例1〜4〕
10H形の鋼矢板を切り出して作製された100×150mmの鋼板にIKKショット(株)製のスチールショットTSH−100、あるいはスチールグリッドTGC70を用いて、インペラー方式のブラスト装置にて表面をブラスト処理した。次に陽イオンを含まないアルカリ電解水でpHを本発明の範囲である10から12に調整した液に10秒間浸漬した後、エアーブローで乾燥した。その後、第一工業製薬製のパーマガード331プライマーを乾燥膜厚が30μmになるようにスプレー塗布し、24時間後にパーマガード137を乾燥膜厚が2mmになるようにスプレー塗装した。塗装後約2週間室温で養生後試験に供し、実施例1〜4の重防食鋼材を製造した。
【0036】
ポリウレタンでクロム酸を含有しないpH=3以下の酸性シリカ溶液による化成処理を行った場合の比較例8、実施例5、6を、表2に基づいて次に説明する。
【0037】
〔比較例8〕
10H形の鋼矢板から切り出して作製された100×150mmの鋼板にIKKショット(株)製のスチールグリッドTGC70を用いて、インペラー方式のブラスト装置にて表面をブラスト処理後、クロム酸を含有しないpH=3以下の酸性シリカ溶液としてリン酸2%、マグネシウム1%及びカルシウム1%、アエロジルシリカ#200を2%含有する化成処理液(pH=2.2)をシリカ付着量で400mg/m2塗布して乾燥した。その後、第一工業製薬製のパーマガード331プライマーを乾燥膜厚が30μmになるようにスプレー塗布し、24時間後にパーマガード137を乾燥膜厚が2mmになるようにスプレー塗装した。塗装後約2週間室温で養生後試験に供し、比較例8の重防食鋼材を製造した。
【0038】
〔実施例5〕
比較例8と同様の製造工程で、ブラスト処理と化成処理の間に、陽イオンを含まないアルカリ電解水でpHを12に調整した液に10秒間浸漬した後、エアーブローで乾燥する工程を加えて実施例5の重防食鋼材を製造した。
〔実施例6〕
実施例5と同じ製造工程で、プライマー樹脂をウレタンから、エポキシ樹脂に変更し、実施例6の重防食鋼材を製造した。
【0039】
ポリエチレンで無処理、クロメート処理、あるいは化成処理を行った場合の比較例9〜11、本発明の電解水洗浄を行った実施例7、更に電解水洗浄とpH=3以下の酸性シリカ溶液による化成処理を組み合わせて用いた実施例8を、表3に基づいて次に説明する。
【0040】
〔比較例9〕
200A鋼管の外面錆をIKKショット(株)製のスチールグリッドTGC100を用いて、インペラー方式のブラスト装置によって処理して除き、その後、電磁誘導加熱にて鋼管を180℃に加熱し、エポキシプライマーを50μm塗装し、その表面にTダイスを用いて溶融した接着剤(三井化学社製)とポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン社製)をそれぞれ150μm、2mm被覆してブラスト処理のみ下地を有する比較例9の重防食被覆鋼管を製造した。
【0041】
〔比較例10〕
特許文献1に相当する処理を実施した。すなわち、200A鋼管の外面錆をIKKショット(株)製のスチールグリッドTGC100を用いて、インペラー方式のブラスト装置にて表面をブラスト処理を行って除錆し、次に特許文献の請求の範囲である1MPa以上を満足する6MPaの高圧水を用いて水洗し、3分後にエアーブローで乾燥した。クロメート処理には6価クロム部分還元型でリン酸を添加したものを用いた。クロム付着量は400mg/m2とした。その後、電磁誘導加熱にて鋼管を180℃に加熱し、エポキシプライマーを50μm塗装し、その表面にTダイスを用いて溶融した接着剤(三井化学社製)とポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン社製)をそれぞれ150μm、2mm被覆して特許文献1に相当する比較例10の重防食被覆鋼管を製造した。
【0042】
〔比較例11〕
200A鋼管の外面にIKKショット(株)製のスチールグリッドTGC100を用いて、インペラー方式のブラスト装置にて表面を除錆した。この後、クロム酸を含有しないpH=3以下の酸性シリカ溶液としてリン酸2%、マグネシウム1%及びカルシウム1%、硝酸1%、アエロジルシリカ#200を2%含有する化成処理液(pH=2)をシリカ付着量で600mg/m2塗布して乾燥した。その後、電磁誘導加熱にて鋼管を180℃に加熱し、エポキシプライマーを50μm塗装し、その表面にTダイスを用いて溶融した接着剤(三井化学社製)とポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン社製)をそれぞれ150μm、2mm被覆して本発明のアルカリ電解水洗浄処理を行わないで化成処理を行った場合の比較例11の重防食被覆鋼管を製造した。
【0043】
〔実施例7、8〕
比較例9、10と同じ工程に、陽イオンを含まないアルカリ電解水処理として、pHを11に調整した液を6MPaの水圧で、ブラスト後の鋼管表面に吹き付けて洗浄した後、エアーノズルでワイピングして乾燥させる処理を加えて実施例7、8の重防食被覆鋼管を製造した。
【0044】
製造した比較例1〜8、実施例1〜6の被覆鋼板は、各1cmを端部から切断して8×13cmに加工した。同様に比較例9〜11、実施例7〜8の被覆鋼管は、各8×13cmに切り出し加工を行った。切断面にはシール塗装は行わないまま、浸漬試験を実施し、試験後、切断端部からの剥離を測定した。ポリウレタン被覆の場合は60日、ポリエチレン被覆の場合は120日の試験を実施した。浸漬条件としては、50℃に加温した3%食塩水を用い、浸漬漕の下部からエアーバブリングを行って、腐食を促進させた環境で行った。なお、今回の試験環境に、無防食鋼材を入れると、1.2mm/年の速度で腐食しており、一ヶ月で海中の腐食1年に相当する腐食速度が得られる。
【0045】
ポリウレタン被覆で化成処理を行わない場合、比較例1〜4の無処理、水、水酸化ナトリウム溶液、アミン系防錆剤による処理や洗浄では、端部からの剥離が大きい。また、比較例5〜7の様に、アルカリ電解水を使用しても、pHの範囲が本発明から外れた場合、プライマー使用しなかった場合は剥離が大きい。一方、ブラスト処理後に適正なアルカリ電解水処理を行った場合の実施例1〜4では剥離が大きく減少した。
【0046】
ポリウレタン被覆で化成処理を行う場合、比較例8と実施例5の比較で、ブラスト処理後に適正なアルカリ電解水処理を行った実施例5では剥離が大きく減少している。更に実施例6のようにウレタンプライマーでは無く、エポキシをプライマーに用いると、更に剥離が抑制出来る。
【0047】
ポリエチレン被覆で比較例9のブラストのみ、比較例10のクロメート使用や比較例11の化成処理に対して、アルカリ電解水を加えた実施例7の剥離は小さく、更にクロム酸を含有しないpH=3以下の酸性シリカ溶液の化成処理を組み合わせた実施例8の剥離は格段に小さい。
【0048】
以上の結果、ブラスト後に電解水洗浄を加える本発明によって製造した、ポリオレフィン被覆鋼材、ポリウレタン被覆鋼材は優れた耐剥離性能を得られることがわかる。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の製造による重防食被覆鋼材の被覆構成断面図の一例を示す。
【図2】本発明の製造による重防食被覆鋼材の被覆構成断面図の一例を示す。
【符号の説明】
【0053】
1 表面にブラストとアルカリ電解水洗浄処理を行った鋼材
2 クロム酸を含有しないpH=3以下の酸性シリカ含有化成処理被膜層
3 ウレタン又はエポキシプライマー層
4 接着剤層を有するポリオレフィン、又はポリウレタン防食層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
研掃材を用いたブラスト処理後、表面に陽イオンを含まないでpH=10以上、12以下に調整したアルカリ電解水で洗浄処理し、乾燥することで、表面ぬれ張力を38Nm/m以上に高めた鋼材表面に、エポキシ樹脂を主成分とするプライマー層、接着剤層を有するポリオレフィン防食被覆層を積層したことを特徴とする重防食被覆鋼材の製造方法。
【請求項2】
研掃材を用いたブラスト処理後、表面に陽イオンを含まないでpH=10以上、12以下に調整したアルカリ電解水で洗浄処理し、乾燥することで、表面ぬれ張力を38Nm/m以上に高めた鋼材表面に、ウレタン又はエポキシ樹脂を主成分とするプライマー層、ポリウレタン防食被覆層を積層したことを特徴とする重防食被覆鋼材の製造方法。
【請求項3】
請求項1乃至2記載の重防食被覆鋼材の製造方法において、前記アルカリ電解水洗浄処理後、更にクロム酸を含有しないpH=3以下の酸性シリカ溶液を塗布し、乾燥させる処理を加えた重防食被覆鋼材の製造方法。












【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−103196(P2013−103196A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249878(P2011−249878)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(000227261)日鉄住金防蝕株式会社 (31)
【Fターム(参考)】