説明

金型の製造方法、成形体及び光学部材

【課題】微細な複数列の溝状の凹凸が均一に形成された金型の製造方法を提供する。
【解決手段】モース硬度9以上の材料からなり、刃先にピッチが1μm以下の凹凸を1つ以上形成された刃1を有する切削工具9の、前記刃先に形成された前記凹凸の軟弱層を除去する予備工程と、表面の材料がビッカース硬度300以下である円筒形状又は円柱形状の金型母材8を前記切削工具を用いて螺旋状に切削する本工程とを少なくとも行って、複数列の凹凸が形成された金型を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型の製造方法、前記製造方法で製造された金型を用いて得られる成形体、及び前記成形体を含む光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微細な溝状の凹凸パターンを有する金型の製造方法の一つとして、金型母材を所定の切削工具により切削する方法が知られていた。この際に使用される切削工具の製造方法として、例えば特許文献1には、ダイヤモンド等で形成された刃に集束イオンビーム(Focused Ion Beam ; 略称FIB)を照射する方法が開示されている。特許文献1記載の技術では、刃先にイオンビームを照射すると、照射された部分が除去されて刃先に凹凸パターンが形成されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−78665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、集束イオンビームにより製造した従来の切削工具では、照射されたイオンビームがドープされることにより切削工具の材質がアモルファス化(非結晶化)することがあった。また、集束イオンビームにより一旦除去された部分が切削工具に再付着することもあった。アモルファス化したり再付着したりした部分は磨耗しやすいため、集束イオンビームにより製造した従来の切削工具で金型母材を切削すると切削工具の刃先の凹凸パターンが磨耗しやすかった。このため、従来の切削工具を用いて金型を製造すると、金型の凹凸パターンが均一でなくなることがあった。
【0005】
前記のようにして金型の凹凸パターンが均一でなくなることは、凹凸パターンの寸法が大きい場合には製品に与える影響が小さくて済むものの、凹凸パターンの寸法が小さい場合には課題となる。例えば凹凸パターンを形成された金型を用いて光学用の転写フィルムを製造する場合、金型の凹凸パターンが均一でないと、得られる転写フィルムの凹凸パターンも均一でなくなる。このため、その転写フィルムを備える光学部材の光学性能が低下する可能性がある。具体例を挙げると、グリッド偏光フィルムの長尺方向における光学特性は均一であることが望ましいにもかかわらず、前記の転写フィルムを用いてグリッド偏光フィルムを製造した場合には、その長尺方向における光学特性の均一性が低下して当該フィルムの光学性能が低下することがあった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、微細な複数列の溝状の凹凸が均一に形成された金型の製造方法、前記製造方法で製造された金型を用いて得られる成形体、及び前記成形体を含む光学部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、刃先に微細な凹凸が形成された切削工具の軟弱層を予め除去し、金型母材として表面の材料の硬度が低いものを採用し、この金型母材の表面を前記の切削工具で螺旋状に切削して金型を製造することにより、製造される金型の溝状の凹凸の均一性を高めることができることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明によれば、下記〔1〕〜〔5〕が提供される。
【0008】
〔1〕 モース硬度9以上の材料からなり、刃先にピッチが1μm以下の凹凸を1つ以上形成された刃を有する切削工具の、前記刃先に形成された前記凹凸の軟弱層を除去する予備工程と、表面の材料がビッカース硬度300以下である円筒形状又は円柱形状の金型母材を切削工具を用いて螺旋状に切削する本工程とを少なくとも含む複数列の凹凸が形成された金型の製造方法。
〔2〕 前記予備工程が、前記切削工具を用いて前記円筒状の金型母材を螺旋状に切削する工程である〔1〕に記載の金型の製造方法。
〔3〕 前記切削工具の凹凸が集束イオンビームの照射により形成された、〔1〕または〔2〕に記載の金型の製造方法。
〔4〕 〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の製造方法で製造された金型に形成された凹凸を転写することにより得られる成形体。
〔5〕 〔4〕記載の成形体を少なくとも含む光学部材。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる金型の製造方法は、微細な複数列の溝状の凹凸が均一に形成された金型が得られるという効果を奏する。この効果は、特に大面積の金型においても均一な凹凸を形成できる点で特に有用である。
本発明にかかる成形体は、形成された微細な凹凸の均一性が高いという効果を奏する。
本発明にかかる光学部材は、光学性能が溝状の凹凸の長尺方向に対して垂直な方向において均一であるため光学特性に優れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る切削工具の刃を模式的に示す斜視図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る切削工具の刃を模式的に示す側面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態としての切削工具の刃先を拡大して模式的に示す斜視図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態としての切削工具の、凹凸を形成する以前の状態を模式的に示す斜視図である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態において予備工程で金型母材を切削する範囲を説明するため、金型母材を模式的に示す斜視図である。
【図6】図6は、本発明の一実施形態としての金型の製造方法における本工程の操作を模式的に示す図である。
【図7】図7は、本発明の一実施形態としての金型の製造方法における本工程の操作を模式的に示す図であって、図6に示した状態から切削工具が金型母材に対して周方向に1周だけ相対移動した状態のものを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態及び例示物等に限定されるものではない。
【0012】
[1.本発明の金型の製造方法の概要]
本発明の金型の製造方法は、刃先に凹凸を形成された刃を有する切削工具の軟弱層を除去する予備工程と、前記切削工具により金型母材を切削する本工程とを少なくとも含む。さらに、本発明の金型の製造方法は予備工程及び本工程以外に別の工程を有していてもよい。本発明の金型の製造方法によれば、金型に形成される溝状の凹凸の均一性を高めることが可能である。
【0013】
[2.切削工具の説明]
本発明の金型の製造方法では、予備工程に先立って切削工具を用意する。
本発明に係る切削工具の刃はモース硬度9以上の材料からなり、中でもモース硬度10の材料からなることが好ましい。このように硬い材料からなる刃を有する切削工具を用いることにより金型母材の切削中に切削工具の磨耗を抑制することができ、金型に形成される溝状の凹凸の均一性を高めることが可能となる。
刃の材料の例を挙げるとダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、コランダムなどが挙げられるが、中でもダイヤモンドが好ましい。また、刃の材料は単結晶のものを用いてもよく、焼結体を用いてもよい。特に、切削工具の加工精度と工具寿命の面から単結晶が好ましく、中でも単結晶ダイヤモンド及び立方晶窒化ホウ素が高硬度の点からより好ましく、単結晶ダイヤモンドが特に好ましい。一方、焼結体としては、例えば、コバルト、スチール、タングステン、ニッケル、ブロンズ等を焼結剤とするメタルボンド;長石、可溶性粘土、耐火粘土、フリット等を焼結剤とするビトリファイドボンドなどが挙げられる。これらの中では、ダイヤモンドメタルボンドを好適に用いることができる。
なお、切削工具の刃は2種類以上の材料から形成されていてもよいが、通常は1種類の材料により形成する。
【0014】
図1及び図2は本発明の一実施形態に係る切削工具の刃を示すもので、図1は切削工具の刃を模式的に示す斜視図であり、図2は切削工具の刃を模式的に示す側面図である。
図1,2に示すように、切削工具の刃1は、切削盤等に取り付けやすい大きさ及び形状に形成され、例えば、ブロック状に形成されたものが用いられる。
切削工具の刃1は掬い面2及び逃げ面3を有する。掬い面2は切屑がすべっていく面であり、逃げ面3は刃1の背面である。この刃1においては、図2に示すように、掬い面2と逃げ面3とが交差する刃先4を被加工物である金型母材(図示せず)に接触させて刃1と金型母材とを相対移動させることにより、金型母材の表面を切削するようになっている。
【0015】
刃1において、掬い角(歯喉角ともいう。図2を参照。)αは、好ましくは−10°以上、より好ましくは−5°以上であり、好ましくは10°以下、より好ましくは5°以下である。
また、逃げ角βは、好ましくは0.5°以上、より好ましくは2°以上であり、好ましくは10°以下、より好ましくは7°以下である。
さらに、掬い面2と逃げ面3とがなす交差角(刃先角ともいう。)γは、好ましくは70°以上、より好ましくは80°以上であり、好ましくは90°以下、より好ましくは85°以下である。
前記のように掬い角α及び逃げ角βを設定して交差角γを前記範囲の下限値以上とすることで刃先4の体積を大きくして刃1の工具寿命を延ばすことが可能であり、前記範囲の上限値以下とすることにより刃1の加工精度を高めることが可能である。
なお、切削面上で刃先がなす線(切れ刃線)が切削方向と直交する線に対してなす角(即ち、バイアス角。図示せず。)は、好ましくは0°以上であり、好ましくは20°以下、より好ましくは10°以下である。
【0016】
図3は、本発明の一実施形態としての切削工具の刃先を拡大して模式的に示す斜視図である。図3に示すように、刃先4には、金型に形成しようとする凹凸に応じた形状及び寸法を有する凹凸5が1つ以上、好ましくは複数形成されている。具体的には、凹凸5の凹部5aの数は、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、20以上であることがより好ましい。刃1の凹部5aの数を複数とすることにより、刃1による1回の加工で金型母材に複数の溝状の凹凸を形成し、金型を効率的に製造することができ、また、不規則性が生じ易くなる隣接加工箇所の数を減少させることができる。なお、凹部5aの数の上限に制限は無いが、通常は1000以下である。
【0017】
ただし、この刃先4に形成される凹凸5のピッチPは、通常1μm以下、好ましくは400nm以下、より好ましくは200nm以下である。このように小さいピッチの凹凸5を有する切削工具においてこそ、軟弱層が存在することによる前記の課題が生じるためである。なお、凹凸5のピッチPの下限に制限は無いが、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上である。
また、凹凸5における凹部5aの幅M、凸部5bの幅(即ち、隣接する2つの凹部5a間の寸法)W、及び凹部5aの深さDは、それぞれ金型に形成する凹凸に応じて設定すればよい。ただし、本発明の金型の製造方法においては、後述する予備工程において軟弱層を除去することで幅M、幅W及び深さDは変化するため、通常は、軟弱層を除去した後の幅M、幅W及び深さDが金型に形成する凹凸の形状に対応するように寸法を設定することが好ましい。
【0018】
凹部5a及び凸部5bの形状についても特に制限はない。例えば、矩形(正方形、長方形)、台形、三角形、半円形等であってもよく、これらを更に変形させた形状であってもよい。例えば後述する集束イオンビームの照射により凹凸5を形成した場合には、凹部5a及び凸部5bを矩形、台形、三角形、半円形等の種々の形状に形成することができる。
中でも、凹部5a及び凸部5bの断面形状が矩形状のものは、ワイヤーグリッド偏光子等のグリッド偏光子を製造するための金型を製造する場合には、凹部5a及び凸部5bを矩形状に形成した刃1を用いて金型を製造することで輝度が向上するため、光学性能上好ましい。さらに、矩形の形状を転写して得られる成形体に金属グリッド層を蒸着するとき、非蒸着部分を容易に残すことができる点でも、好ましい。
【0019】
上述したような凹凸を形成された切削工具の刃1は、通常、図4に模式的に示すような凹凸5が形成されていない刃6を用意し、この刃6の刃先7に凹凸5を形成することにより製造される。凹凸5の形成方法としては、例えば、プラズマエッチング加工法;集束イオンビーム等の高エネルギ線を用いた加工法などが挙げられる。
【0020】
プラズマエッチング加工法は、刃6の凹部5aを形成したい部分以外の部分を、酸化珪素などのプラズマエッチングに耐性を示す材料からなるマスクで被覆し、次いで酸素を含むガスのプラズマに曝して、逃げ面に凹部5aを形成する方法である(特開2007−67453号公報など参照)。
【0021】
一方、高エネルギ線を用いた加工法では、例えば、レーザビーム、イオンビーム、電子ビーム等により加工を行うことができる。中でも、電子ビームを用いた加工法、及び、イオンビームを用いた加工法が好適である。
電子ビームを用いた加工法では、刃6の表面に酸素ガス等の活性ガスを吹き付けながら電子ビームを照射する電子ビーム援用化学加工を行うことが好ましい。ビーム援用化学加工を行うことにより、エッチング速度を速め、スパッタされた物質の再付着を抑制し、サブミクロンオーダーの精度の高い極微細加工を効率よく行うことができる。
また、イオンビームを用いた加工法では、FIB加工法を行うことが好ましい。FIB加工法は集束イオンビームを加工対象である切削工具の刃先4に照射して凹部5aを形成する方法である。具体的な操作の例を挙げると、加速されたGa(ガリウム)等のイオンビームを静電レンズ系により集束し、刃6の表面を走査して、発生した二次電子や二次イオンを検出して画像(SIM:Scanning Ion Microscopy像)として観察しながら断面加工する。さらに、イオンビームを用いた加工法としては、例えば、刃6の表面にフロン、塩素等の活性ガスを吹き付けつつイオンビームを照射するイオンビーム援用化学加工を行うこともできる。
【0022】
ところで、高エネルギ線を用いた加工法においては、図4において矢印Aで示すように、逃げ面3側から掬い面2側に向けて集束イオンビーム等の高エネルギ線を照射して刃6の逃げ面3に凹部5aを形成することが好ましい。逃げ面3側から高エネルギ線を照射することによって、掬い面2における凹凸状の断面形状と逃げ面3における凹凸状の断面形状とを略同時的に短時間で形成することができる。さらに、フレアに起因する加工エッジのダレを低減したり、加工エッジのシャープな凹凸を形成したりすることができるため、高精度な凹凸形状を形成することも可能となる。
なお、高エネルギ線の入射方向と、刃6の逃げ面3との為す角は、10°以下が好ましく、5°以下がより好ましい。
【0023】
上述した加工法の中でも、本発明に係る切削工具はFIB加工法により製造することが好ましい。FIB加工法では、目的の場所に高い位置精度で凹凸5を形成でき、正確な断面加工が可能だからである。
【0024】
本発明に係る切削工具は、上述した刃1を有していれば更に他の構成を備えていてもよい。通常、刃1は切削盤等に装着しやすくするためのシャンクに取り付けして使用される。シャンクの材質、形状、寸法等に制限は無く、使用する切削装置等に応じて適切なものと採用すればよい。
【0025】
ところで、通常、上述したプラズマエッチング加工法、高エネルギ線を用いた加工法などにより切削工具の刃1に凹凸を形成した場合、切削工具の刃1の表面(特に凹凸5の表面)に硬度が本来の刃の材質に比べて低い軟弱層が形成される。この軟弱層が形成される原因は、例えば集束イオンビームのような高エネルギーイオンを刃1に照射したことにより、刃1の表面及び内部に輻射損傷(結晶格子の損傷)が生じたためと推察される。特にダイヤモンド等の結晶物質はアモルファス層を生成して、本来の材質よりも硬度が低い層が形成されたものと推察される。さらに、凹凸5の形成加工時に一旦除去された部分が刃1に再付着することも、軟弱層が形成される一因と推察される。
このような軟弱層は切削工具を用いて金型母材を切削する時に容易に磨耗するため、軟弱層を有する切削工具では切削加工の進行にともなって凹凸5の形状が変わりやすい。このため、従来の金型に形成される溝状の凹凸の均一性が低下していたものと推察される。そこで本発明の金型の製造方法では、後述する予備工程により、この軟弱層を除去するようになっている。
【0026】
なお、軟弱層の存在の有無は、フィールド・エミッション電子顕微鏡JEM−2100F(日本電子製)を用いて結晶解析することにより確認することができる。
【0027】
[3.予備工程]
本発明の金型の製造方法では、切削工具を用意した後で、切削工具の刃先に形成された凹凸の軟弱層を除去する予備工程を行う。
軟弱層を除去することが可能であれば予備工程において行う具体的操作に制限は無いが、通常は、本工程において切削対象となる金型母材の表面と同じ材料を、切削工具を用いて切削することにより刃を研磨して軟弱層を除去する。この際、本工程において切削対象となる金型母材自体を切削することにより軟弱層を除去することが好ましい。これにより、予備工程と本工程とを連続して行うことが可能となるため、操作が簡単となり製造コストの低減及び製造スピードの向上が可能となる。また、切削工具の刃の凹凸の磨耗は刃と金型母材等の切削対象とが接触する時に接触の衝撃により生じることが多いが、予備工程と本工程とを連続して行うようにすれば切削工具の刃と金型母材との接触を1回だけに抑制できるため(即ち、2回以上の接触衝撃を与えることがなくなるため)、凹凸の磨耗をより確実に抑制することができる。
【0028】
予備工程において金型母材を切削して軟弱層を除去する場合には、通常は、本工程において切削する部位以外の部位を切削するようにする。通常、本発明の金型の製造方法で製造するような円筒形状又は円柱形状の金型では、その軸方向の端部近傍の部位には例え凹凸が形成されていたとしてもその端部近傍の部位の凹凸は型として使用せず、その軸方向の中央部位に形成された凹凸を型として使用する。即ち、金型の軸方向の端部近傍の部位には凹凸が形成されていたとしても当該金型を用いて製造される製品には影響しない。このため、金型母材の軸方向の端部近傍の部位を予備工程において切削し、軟弱層を除去することが好ましい。
【0029】
図5は、本発明の一実施形態において予備工程で金型母材を切削する範囲を説明するため、金型母材を模式的に示す斜視図である。予備工程において金型母材8を切削する具体的な範囲は切削工具9の刃1及び金型母材8の表面の材料などにより一様ではないが、予備工程において切削する部位10の金型母材8の軸方向への距離Lは、通常0.05cm以上、好ましくは0.1cm以上、より好ましくは1cm以上である。このような範囲で金型母材8の外周を切削することで、軟弱層を確実に除去して本工程における切削工具9の刃1の凹凸の磨耗を防止できる。通常、予備工程では金型母材8の一端11から切削を開始するため、金型母材8の一端11から金型母材8の軸方向へ前記距離Lだけ離れた所定位置12を境として、所定位置12よりも一端側の部位10は予備工程で切削し、所定位置12よりも他端側の部位13は本工程において切削することになる。
ただし、予備工程における切削部位10が広すぎると金型として有効に利用できる部位13が狭くなり非効率であるため、前記の距離Lは通常30cm以下、好ましくは20cm以下、より好ましくは15cm以下にすることが望ましい。
【0030】
予備工程において金型母材8を切削して軟弱層を除去する場合、切削条件は、通常は、本工程と同様の範囲である。中でも、上述したように予備工程と本工程とを連続して行うためには、予備工程の切削条件を本工程の切削条件に一致させることが好ましい。したがって、予備工程においても、本工程と同様に金型母材の外周を螺旋状に切削することが好ましい。
【0031】
また予備工程では、上述した以外の方法により切削工具9の刃1の凹凸の軟弱層を除去するようにしてもよい。例えば、超音波洗浄により軟弱層を除去することができる。
【0032】
[4.本工程]
予備工程を行った後で、金型母材を、切削工具を用いて螺旋状に切削する本工程を行う。この本工程を行うことにより切削工具の刃の凹凸形状に応じて連続する複数列の凹凸が金型母材に形成され、金型を得ることができる。
【0033】
本発明の金型の製造方法では、金型母材として、表面の材料のビッカース硬度が300以下、好ましくは250以下、より好ましくは200以下のものを用いる。切削工具により切削する金型母材の表面をこのように比較的柔らかい材料で形成することにより、切削工具の刃の凹凸の磨耗を抑制することができる。ただし、金型母材の表面の材料が柔らかすぎると金型を取り扱う際に表面に疵がつきやすくなる可能性があるため、金型母材の表面の材料のビッカース硬度は通常1以上、好ましくは10以上、より好ましくは50以上である。
【0034】
金型母材の表面の材料の例を挙げると、銅、ニッケル、ニッケル−リン合金、錫、金などが挙げられ、中でも銅、ニッケル、ニッケル−リン合金が好ましい。
なお、金型母材の表面の材料は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0035】
金型母材は全体を表面の材料と同じ材料により形成してもよいが、通常は、ベースの表面に所定のビッカース硬度の材料の層を形成したものを用いる。この際、ベースは例えば金型用鋼材を使用できる。金型用鋼材としては、例えば、ピンホール、地傷、偏析などがなく、真空溶解、真空鋳造等により製造されたプリハードン鋼、析出硬化鋼、ステンレス鋼、銅等が挙げられる。なお、ベースの材料は1種類でもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
また、ベースの表面に所定のビッカース硬度の材料の層を形成する方法に制限は無いが、例えば、電着又は無電解メッキにより形成できる。
【0036】
本発明の金型の製造方法では、金型母材として、円筒形状又は円柱形状のものを用いる。円筒形状又は円柱形状の金型母材を使用すれば、切削工具による切削を螺旋状に行うことが可能となり、金型母材の外周面の全体を連続して切削することができる。したがって、切削工具の刃と金型母材との接触が1回だけで済む。これは、円筒形状又は円柱形状の軸方向又は周方向への切削、及び、平板状等の他の形状の金型母材への切削では連続した切削ができず前記接触が複数回となることに比べれば大きな利点である。
【0037】
図6は、本発明の一実施形態としての金型の製造方法における本工程の操作を模式的に示す図である。図6に示すように、切削工具9により金型母材8を切削するには、切削工具9の刃1を金型母材8の外周面14に当接させ、金型母材8と切削工具9の刃1とを、金型母材8の周方向Xに相対的に移動させるとともに、金型母材8の軸方向Yに相対的に移動させればよい。この際、金型母材8と切削工具9の刃1とを周方向Xに相対的に移動させるには、金型母材8及び切削工具9のいずれを移動させてもよいが、通常は金型母材8を回転させる。一方、金型母材8と切削工具9の刃1とを軸方向Yに相対移動させるには、金型母材8及び切削工具9のいずれを移動させてもよいが、通常は切削工具9を移動させる。このような操作により、金型母材8の外周面14を螺旋状に切削することができる。切削された部位には、切削工具9の刃1に形成された凹凸に応じて、切削工具9の刃1の凹凸を逆にした凹凸15が連続した溝状に形成される。
【0038】
切削時における金型母材8と切削工具9の刃1との、周方向Xへの相対移動速度、及び、軸方向Yへの相対移動速度は、金型母材8の外周面14を隙間無く切削できるような範囲に設定することが好ましい。例を挙げると、図6及び図7に示すように、切削工具9が周方向Xに1周だけ相対移動する間に、切削工具9が軸方向Yに、刃1の刃先(図1の符号4を参照。)の幅Hだけ相対移動するようにすれば、金型母材8の外周面14を隙間無く切削することが可能である。また、切削工具9が周方向Xに1周だけ相対移動する間に切削工具9が軸方向Yに相対移動する距離を、刃1の刃先の幅Hより小さくし、軸方向Yにおいて隣り合う切削跡が一部重なり合うようにしてもよい。重なり合う部分の幅が刃1の凹凸5のピッチP程度の幅であれば、通常は、製造される金型及び当該金型を用いて製造される成形体及び光学部材の性能を低下させることは無い。
なお、図7は本発明の一実施形態としての金型の製造方法における本工程の操作を模式的に示す図であって、図6に示した状態から切削工具9が金型母材8に対して周方向Xに1周だけ相対移動した状態のものを示す。
【0039】
本発明の金型の製造方法においては、通常、金型母材8及び切削工具9の移動は精密微細加工機により行う。ただし、精密微細加工機としては、金型母材の周方向X及び軸方向Y(図6,7参照)の移動精度が、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、特に好ましくは10nm以下のものである。
また、精密微細加工機は、好ましくは0.5Hz以上の振動の変位が50μm以下に管理された室内、より好ましくは0.5Hz以上の振動の変位が10μm以下に管理された室内に設置して、切削を行う。
また、切削は、温度の変動が±0.5℃以内に管理された恒温室、より好ましくは±0.3℃以内に管理された恒温室で行う。
【0040】
以上の本工程を経ることにより、複数列の凹凸が形成された金型が得られる。得られた金型では、凹凸はそれぞれ連続する微細な溝を形成している。また、本発明の金型の製造方法では螺旋状に切削を行っているために、得られる金型に形成される溝は、金型の軸に直交する平面に対して傾斜したものとなる。本発明の金型の製造方法により製造される金型の前記の溝(即ち、凹部)の幅は非常に均一性が高く、本工程における切削初期と切削後期とを比較してもその寸法の変動はごく小さい。このように均一性が高い複数列の凹凸を溝状に形成できるという効果は、特に大面積の金型においても均一な凹凸を形成できる点で特に有用である。
【0041】
[5.他の工程]
本発明の金型の製造方法においては、上述した予備工程及び本工程以外に、他の工程を行ってもよい。
例えば、本工程で得られた金型を、成形体に表面形状を直接転写するための中間的金属部材(これも金型として機能する。)にその表面形状を転写するための金型として用いてもよい。この場合、本工程の後で中間的金属部材を製造する工程を行う。中間的金属部材の作製は、電鋳によることが好ましい。電鋳材質としては、ビッカース硬度が40以上のものが好ましく、150以上のものがより好ましく、550以下のものが好ましく、450以下のものがより好ましい。その例を挙げると銅、ニッケル、ニッケル−リン合金、ニッケル−鉄合金、ニッケル−コバルト合金、パラジウム等が挙げられるが、中でも銅、ニッケル、ニッケル−リン合金、ニッケル−鉄合金及びパラジウムが好ましい。この場合、本工程で得られた金型を母材として保存することができるので、経済的である。
【0042】
また、例えば、洗浄工程、離型処理工程等を行うことも可能である。
【0043】
[6.成形体]
本発明の金型の製造方法で製造された金型を用いれば、本発明の成形体が得られる。本発明の成形体は本発明の製造方法で製造された金型の凹凸を転写することにより得られるものである。このため、本発明の成形体には、金型の凹凸の高い均一性を反映し、微細な複数列の溝状の凹凸が均一に形成されることになる。
本発明の成形体は、通常は金型の凹凸を透明樹脂に転写して製造される。透明樹脂としては、加工性の観点から、ガラス転移温度が60℃以上のものが好ましく、100℃以上のものがより好ましく、また、200℃以下のものが好ましく、180℃以下のものがより好ましい。なお、ガラス転移温度は示差走査熱量分析(DSC)により測定することができる。
【0044】
透明樹脂の例を挙げると、脂環式構造を有する樹脂、紫外線硬化性樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、アクリロニトリル−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体などが挙げられる。中でも、脂環式構造を有する樹脂としては、例えば、ノルボルネン系単量体の開環重合体若しくは開環共重合体又はそれらの水素添加物;ノルボルネン系単量体の付加重合体若しくは付加共重合体又はそれらの水素添加物;単環の環状オレフィン系単量体の重合体又はその水素添加物;環状共役ジエン系単量体の重合体又はその水素添加物;ビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体若しくは共重合体又はそれらの水素添加物;ビニル芳香族炭化水素系単量体の重合体又は共重合体の芳香環を含む不飽和結合部分の水素添加物などがあげられる。これらの中で、ノルボルネン系単量体の重合体の水素添加物及びビニル芳香族炭化水素系単量体の重合体の芳香環を含む不飽和結合部分の水素添加物は、機械的強度と耐熱性に優れるので、特に好適に用いることができる。
なお、透明樹脂は、1種類のものを用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0045】
また前記の透明樹脂は、例えば、顔料、染料等の着色剤;蛍光増白剤;分散剤;熱安定剤;光安定剤;紫外線吸収剤;耐電防止剤;酸化防止剤;滑剤;溶剤などの配合剤を含んでいてもよい。なお、配合剤は、1種類のものを用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0046】
成形体は金型の凹凸が転写されていればその形状に他に制限は無いが、通常は、フィルム状又は板状のものが用いられる。この場合、成形体の平均厚さは、取り扱い性の観点から、通常5μm以上、好ましくは20μm以上であり、通常10mm以下、好ましくは500μm以下である。
また、成形体としては長尺状のものが好ましく用いられる。長尺とは、幅に対し少なくとも5倍以上の長さを有するものを言い、好ましくは10倍以上の長さを有するものを言う。具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するものを言う。
長尺状の成形体の幅は、好ましくは500mm以上、より好ましくは1000mm以上である。ところで、製造工程の途中において、任意に、その幅方向の両端を切り落とす(トリミング)ことがある。この場合、前記成形体の幅は、両端を切り落とした後の寸法とすることができる。
【0047】
さらに、成形体を光学用途に使用する場合、成形体の波長400nm以上700nm以下の可視領域の光の透過率が80%以上であるものが好ましい。
また、成形体をグリッド偏光子の基材として使用する場合、そのレターデーションは、波長550nmで50nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。
さらに、成形体をグリッド偏光子の基材として使用する場合、成形体は、吸水率が0.3重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以下であることがより好ましい。
【0048】
成形体の製造方法としては、金型の凹凸を成形体に転写できるのであれば公知の方法を任意に採用できる。好ましい製造方法としては、例えば、キャスト成形法、押出成形法、インフレーション成形法などが挙げられる。
具体例を挙げると、金型を転写ロールとして用いる場合は、転写ロールとニップロールとの間で樹脂フィルムを挟圧し、転写ロール面に形成された複数列の溝状の凹凸を樹脂フィルム表面に転写する。転写ロールとニップロールとによる挟み圧力は、好ましくは数MPa〜数十MPaである。また転写時の温度は、樹脂フィルムを構成している樹脂のガラス転移温度をTgとすると、好ましくはTg以上(Tg+100℃)以下である。樹脂フィルムと転写ロールとの接触時間は樹脂フィルムの送り速度、すなわちロール回転速度によって調整でき、好ましくは5秒以上600秒以下である。
別の製造方法の具体例としては、成形体の表面に感光性樹脂を塗布し、該塗膜に金型を当接させ、その状態で露光して感光性樹脂を硬化させ、次いで金型を剥がす方法が挙げられる。
更に別の具体例としては、金型を射出成形金型に組み込んで樹脂を射出成形することにより転写を行う方法が挙げられる。
更に別の具体例としては、金型を圧縮成形金型に組み込んで樹脂フィルム又はシートを加熱加圧することにより転写を行う方法が挙げられる。
更に別の具体例としては、金型を用いて樹脂溶液をキャスティング成形することにより転写を行う方法が挙げられる。
【0049】
[7.光学部材]
本発明の光学部材は、少なくとも本発明の成形体を備える。本発明の成形体だけで光学部材を構成してもよいが、本発明の成形体を別の部材と組み合わせて光学部材を構成してもよい。本発明の光学部材は溝状の凹凸の長尺方向において高い均一性を有する本発明の成形体を備えるため、光学性能も前記の長尺方向において均一であり、その結果、優れた光学特性を発揮することができる。
光学部材の例を挙げると、グリッド偏光フィルム、回折格子、光拡散板、集光シート(プリズムシート)などが挙げられる。
【0050】
以下、光学部材としてグリッド偏光フィルムを例に挙げて、本発明の光学部材の製造方法を説明する。ただし、以下に説明する製造方法はグリッド偏光フィルムの製造方法の一例であり、本発明は以下の例に限定されるものではない。
グリッド偏光フィルムは、グリッド偏光性能を示す格子形状を有している。したがって、本発明の成形体、当該成形体の製造に用いる金型、及び、金型の製造に用いる切削工具としては、いずれも前記の格子形状に対応した凹凸が形成されたものを用いる。即ち、格子形状に対応する凹凸を有する切削工具を用意し、この切削工具を用いて金型母材を切削して金型を製造し、この金型の凹凸を転写した成形体を用意し、この成形体を用いて光学部材を製造する。
【0051】
グリッド偏光性能を示す格子形状は、凸条の高さが、好ましくは5nm以上、より好ましくは20nm以上、特に好ましくは50nm以上であり、好ましくは3000nm以下、より好ましくは300nm以下、特に好ましくは200nm以下である。
また、前記の格子形状は、凸条の幅が、好ましくは30nm以上、より好ましくは60nm以上であり、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下である。
さらに、前記の格子形状は、凸条間の距離(ピッチ)が、好ましくは20nm以上、より好ましくは80nm以上であり、好ましくは600nm以下、より好ましくは400nm以下である。なお、ここで凸条間の距離は、凸条の頂点間距離のことである。
【0052】
凸条の高さ、幅、およびピッチは、それらを電子顕微鏡によって観察して、その観察像の寸法を測定して、それらから平均を求めることができる。具体的には、フィルム面から無作為に9点を選択し、その部分を観察し、観察像の長さ10μmの範囲内にある凸条の高さ、幅、およびピッチを測定し、それら9点の測定値から算出する。
【0053】
また、前記の格子形状において、凸条の高さ/幅の比は、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上であり、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.0以下である。
さらに、凸条は細長く線状に延びており、その長さは好ましくは500nm以上である。凸条は略平行に並んでいる。ここで略平行とは、平行方向から±5°の範囲内にあることをいう。
【0054】
グリッド偏光フィルムを得るためには、前記の凸条が転写された透明樹脂の成形体に金属グリッド層を形成する。金属グリッド層に用いられる材料は、導電性金属が好ましい。具体例を挙げると、アルミニウム、インジウム、マグネシウム、ロジウム、スズ、銀、銅等の金属が挙げられる。中でも、導電性金属は温度25℃、波長550nmにおいて、屈折率が0.04以上であることが好ましく、また、4.0未満であることが好ましく、3.0未満であることがより好ましく、更に、消光係数が0.70以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましい。このような導電性金属としては、例えば、銀、アルミニウム、銅などが挙げられる。なお、金属グリッド層に用いられる材料は、1種類であってもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0055】
金属グリッド層は、前記凸条の頂部、または凸条の間に形成される溝(凹部)の底に形成されることが好ましい。
金属グリッド層は、例えば、導電性金属の材料を物理蒸着法(PVD法)で蒸着することによって形成することができる。PVD法は、蒸着材料を蒸発・イオン化し、被膜を形成させる方法である。具体例を挙げると、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング(イオンメッキ)法、イオンビームデポジション法等が挙げられる。これらの中でも、真空蒸着法が好適である。
真空蒸着法は、真空にした容器の中で、蒸着材料を加熱し気化もしくは昇華させて、離れた位置に置かれた基材の表面に付着させ、薄膜を形成する方法である。加熱方法としては例えば抵抗加熱、電子ビーム、高周波誘導、レーザーなどが挙げられ、蒸着材料及び基材の種類などに応じて適切な方法を採用すればよい。
【0056】
PVD法によって形成された金属グリッド層の幅を細く調整するために、湿式エッチングを行ってもよい。また湿式エッチングの前に金属グリッド層の上にマスキングをしてもよい。マスキングには通常、無機化合物が用いられる。無機化合物の例を挙げると、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素または窒化酸化ケイ素などの化合物が挙げられる。これらの中では特に酸化ケイ素が好ましい。なお、無機化合物は1種類のものを用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
マスキングに用いられる無機化合物膜の厚さは、通常1nm以上、好ましくは2nm以上、より好ましくは3nm以上であり、通常100nm以下、好ましくは50nm以下、より好ましくは20nm以下である。
【0057】
湿式エッチングの前に、成形体を、略平行に並んだ凸条の長手に直交する方向に延伸してもよい。この延伸によって凸条の中心間距離が広がるため、金属グリッド層の間隔が広がり、結果として光線透過率が高くなる。また溝の底面に形成されていた金属グリッド層は、延伸によって、凸条の基部から離れ隙間ができる。これにより、後述する湿式エッチング液がこの隙間に入り込み、溝に形成された金属グリッド層の両端を優先的に除去し、中央よりも両端を薄くすることができるようになる。
【0058】
延伸方法の程度は特に限定されないが、凸条に直交する方向の延伸倍率を、好ましくは1.05倍以上、より好ましくは1.1倍以上とし、好ましくは5倍以下、より好ましくは3倍以下とする。また、凸条に平行な方向の延伸倍率を、好ましくは0.9倍以上、より好ましくは0.95倍以上とし、好ましくは1.1倍以下、より好ましくは1.05倍以下にする。
延伸後の凸条の幅及び高さは、通常、延伸前の値とほとんど変わらない。一方、凸条のピッチは、延伸前よりも長くなり、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上となり、好ましくは1000nm以下、より好ましくは600nm以下となる。
このような延伸を行うためには、テンター延伸機による連続的な横一軸延伸が好適である。
【0059】
湿式エッチングはエッチング液に金属グリッド層を接触させることによって行われる。エッチング液は、成形体を腐食等させずに金属グリッド層の一部を除去できる液であればよく、マスキング層(無機化合物膜)、金属グリッド層、および成形体の材質に応じて適宜選択される。湿式エッチング液の例を挙げると、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物を含有する溶液;硫酸、燐酸、硝酸、酢酸、フッ化水素、塩酸などを含有する溶液;過硫酸アンモニウム、過酸化水素、フッ化アンモニウム等やそれらの混合液からなる溶液などが挙げられる。また、湿式エッチング液には界面活性剤などの添加剤が含まれていてもよい。なお、エッチング液は1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0060】
湿式エッチングによって、凸条の頂部に積層された金属グリッド層の両袖部分、及び、溝の底面に積層された金属グリッド層の両端が除去される。その結果、凸条の頂部に凸条の幅と同程度の幅の金属グリッド層が除去されずに残り、また溝の底面の中央に金属グリッド層が除去されずに残る。これにより、グリッド偏光フィルムが得られる。
【0061】
金属グリッド層の幅及び長さは、凸条の幅及び長さ、又は凸条の間に形成される溝の幅又は長さにほぼ従う。
凸条の頂部に形成される金属グリッド層Aの厚さは、通常20nm以上、好ましくは30nm以上、より好ましくは40nm以上であり、通常500nm以下、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下である。
凸条の間に形成される溝の底に形成される金属グリッド層Bの厚さは、通常20nm以上、好ましくは30nm以上、より好ましくは40nm以上であり、通常500nm以下、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下である。
また、金属グリッド層Bは、中央部の厚さに対する両端部の厚さの比が、好ましくは0.6以下、より好ましくは0.4以下、特に好ましくは0.2以下である。即ち、金属グリッド層Bの垂直断面の形状は、中央に高く両側に低くなる形(山形)であることが好ましい。
金属グリッド層間のピッチは、金属グリッド層A相互の間隔及び/又は金属グリッド層B相互の間隔として示され、いずれも好ましくは20nm以上、より好ましくは80nm以上、好ましくは600nm以下、より好ましくは400nm以下の範囲内にある。
【0062】
得られたグリッド偏光フィルムの金属グリッド層を形成した側の面に、直接または他の層を介して保護層を形成してもよい。保護層は、透明材料からなるものが好ましい。透明材料としては、例えば、ガラス、無機酸化物、無機窒化物、多孔質物質、透明樹脂などが挙げられる。これらのうち、特に透明樹脂からなるものが好ましい。透明樹脂は、前述の成形体を構成するものから適宜選択して用いることができる。なお、保護層の材料は1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
保護層の平均厚さは、取り扱い性の観点から通常5μm以上、好ましくは20μm以上であり、通常1mm以下、好ましくは200μm以下である。
さらに保護層は、波長400nm以上700nm以下の可視領域の光の透過率が80%以上であるものが好ましい。
【0063】
また、保護層は、その波長550nmで測定したレターデーションReが、50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。さらに、面内の任意2点のレターデーションReの差(レターデーションむら)は、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下である。レターデーションReが大きく、またレターデーションむらが大きいと、液晶表示装置に用いた場合に表示面の明るさにバラツキが生じやすくなる。
【0064】
また、保護層を積層させるために接着剤(粘着剤を含む)を用いることができる。接着剤を用いる場合、凸条の頂部の金属グリッド層と保護層との間に介在する接着剤からなる層(接着層)の平均厚さは、通常0.01μm以上、好ましくは0.1μm以上であり、通常30μm以下、好ましくは15μm以下である。保護層を接着剤で貼り付ける場合には、凸条の間に形成される溝に接着剤が入り込まないようにし、金属グリッド層間の空間に空気が残るようにすることが偏光分離性能を高める点で好ましい。
【実施例】
【0065】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明について更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
[試料の評価方法]
(ビッカース硬度の測定)
100mm×100mm×10mmに切り出したステンレス鋼SUS430製板に、後述する各実施例及び比較例に用いる金型と同じ方法で金属層を電着又は無電解メッキした予備試料を、ビッカース硬さ試験機AVK−CO(ミツトヨ製)にてビッカース硬度を測定した。
【0067】
(成形体の凹凸の均一性の評価)
後述する各実施例及び比較例で得られた長尺フィルムを、本工程における金型母材の切削開始地点から鉛直方向(円筒状金型の軸方向に相当する。)に約10mm及び590mmに当たる所定のサイズに切り出し、集束イオンビーム加工観察装置FB−2100(日立製作所製)のマイクロサンプリング装置を使用して透過型電子顕微鏡(TEM)用観察断面を作製した。このTEM用観察断面を、透過電子顕微鏡H−7500(日立製作所製)にて観察して、各々の開口部(即ち、凹部の断面部)の幅(即ち、溝幅)、高さ、ピッチ、形状(即ち、溝形状)を比較した。
【0068】
[実施例1]
(切削工具の用意)
逃げ角5°、1mm×0.01mmの逃げ面と、掬い角0°、1mm×1mmの掬い面とを有するモース硬度が9の単結晶ダイヤモンド製の刃に、8mm×8mm×60mmのSUS製シャンクを取り付けた切削工具を準備した。
該切削工具の逃げ面側から集束イオンビーム装置NVision40(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いてガリウムイオンビームを、掬い面に対して92°の角度で照射して、ダイヤモンドの刃先0.01mmの全幅に凹凸を形成した。
得られた切削工具の刃先の掬い面を超分解能電解放出形走査型電子顕微鏡S4700(日立製作所製)にて観察をして該凹凸の掬い面の形状を観察した結果、ピッチ200nm、凹部の幅100nm、深さ70nmの矩形形状であった。
【0069】
(金型母材の用意)
続いて、直径250mm、長さ700mmのステンレス鋼SUS430製円筒を用意した。この円筒の曲面(外周面)全面に、厚さ100μmの銅メッキを施し、金型母材としての円筒を用意した。なお、銅メッキは電気メッキであり、シアン化銅水溶液を用いた電鋳により層を形成した。メッキに使用した銅のビッカース硬度を測定すると100であった。
【0070】
(予備工程)
次いで、精密円筒研削板S30−1(スチューダ社製)を用いて、前記円筒を10rpmで周方向に回転させ、同時に切削工具を円筒の軸方向(長さ方向)に0.01mm/Sで平行移動させて、円筒の外周面表層の銅メッキ面の端部から幅50mmに、螺旋状に切削することにより凹凸を形成した。
【0071】
(本工程)
さらに、予備工程から連続して、予備工程と同様の要領で、円筒の外周面表層の銅メッキ面の中央幅600mmを螺旋状に切削して、凹凸を形成した。これにより、複数列の微細な凹凸が溝状に形成された円筒状金型を得た。
なお、集束イオンビーム加工による切削工具の作製と、予備工程及び本工程における銅メッキ面の切削加工は、振動制御システム(昭和サイエンス製)により0.5Hz以上の振動の変位が10μm以下に管理された、温度20.0±0.2℃の恒温低振動室内で行った。
また、後述する表1の本工程の欄に示す切削ピッチとは、切削工具による切削の幅をいい、切削工具の刃の先端幅に一致している。
【0072】
(成形体の製造)
直径70mmのゴム製ロールからなるニップロールを備え、かつ、上記円筒状金型を転写ロールとして備えた転写装置を用意した。
また、イソボルニルアクリレート86.6重量部、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート9.6重量部、及び、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、イルガキュアー184)3.8重量部からなる塗布液を用意した。
さらに、コロナ処理を行った表面改質済みの樹脂フィルム1(製品名ゼオノアフィルム、日本ゼオン製)を用意した。
【0073】
前記の塗布液を樹脂フィルム1のコート面の裏面側の表面に5μmの厚みで塗布し、その樹脂フィルム1を前記転写ロール上に、樹脂フィルム1の塗布面と円筒状金型の凹凸を形成した面(即ち、転写ロールのパターン面)とが接触するように積層し、次いで樹脂フィルム1側から紫外線照射することにより、樹脂フィルム1の表面に転写ロール上の凹凸形状を転写し、転写後のフィルムをロール状に巻き取って長尺フィルム(微細凹凸樹脂フィルム1)を成形体として得た。
【0074】
得られた長尺フィルムを用いて前記の要領で成形体の凹凸の均一性を評価した。結果を表1に示す。
さらに、前記の凹凸の均一性の評価と同様の要領で、本工程における金型母材の切削開始地点から螺旋状の切削方向に切削距離が100mm及び400000mmとなる地点それぞれで、長尺フィルム上の凹凸の幅、高さ、ピッチ及び形状を測定した。その結果、切削開始地点から100mmの地点では開口部の幅110nm、高さ70nm、ピッチ200nmの矩形形状であった。また、切削開始地点から400000mmの地点では開口部の幅112nm、高さ70nm、ピッチ200nmの矩形形状であった。
【0075】
(光学部材の製造)
長尺フィルムである微細凹凸樹脂フィルム1の凹凸を形成した面に、アルゴンガス存在下にて、出力400Wの条件でスパッタリングによりSiOをフィルムの鉛直方向から膜厚が10nmとなるように成膜した。
その後、成膜レート1500nm・m/min、成膜時真空度5×10−3Paの条件で真空蒸着によりアルミニウムをフィルムの鉛直方向からアルミ膜厚が100nmとなるように成膜した。このフィルムをロール状に巻き取ることにより、長尺のグリッド偏光フィルム1を光学部材として得た。
なお、前述のすべての工程で、微細凹凸形成面に接触するロールは、凹凸の平均間隔Smが0.5μm、算術平均粗さRaが1.0μm、のステンレス製搬送ロールを用いた。
【0076】
[実施例2]
金型母材の用意の際に銅メッキとしてビッカース硬度が50のものを用いた点以外は実施例1と同様にして、円筒状金型を製造し、成形体として長尺フィルムを製造した。
製造された長尺フィルムを用いて前記の要領で成形体の凹凸の均一性を評価した。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例3]
金型母材の用意の際に銅メッキの代わりに厚さ100μmの純ニッケルメッキ(ビッカース硬度250)を施した点以外は実施例1と同様にして、円筒状金型を製造し、成形体として長尺フィルムを製造した。なお、純ニッケルメッキは電気メッキであり、スルファミン酸ニッケル水溶液を用いた電鋳により層を形成した。
製造された長尺フィルムを用いて前記の要領で成形体の凹凸の均一性を評価した。結果を表1に示す。
【0078】
[実施例4]
金型母材の用意の際に、実施例1で用いたのと同様の銅メッキを施した円筒に加えて、銅メッキの代わりに厚さ100μmの錫メッキ(ビッカース硬度30)を施した円筒を用意した。なお、錫メッキは電気メッキであり、硫酸錫水溶液を用いた電鋳により層を形成した。
また、予備工程では銅メッキを施した円筒に実施例1と同様に螺旋状に切削を行ったが、本工程では錫メッキを施した円筒の中央幅600mmを、予備工程と同様の要領で螺旋状に切削して、円筒状金型を得た。
以上の点以外は実施例1と同様にして、成形体として長尺フィルムを製造した。
製造された長尺フィルムを用いて前記の要領で成形体の凹凸の均一性を評価した。結果を表1に示す。
【0079】
[比較例1]
予備工程を行わなかった点以外は実施例1と同様にして、円筒状金型を製造し、成形体として長尺フィルムを製造した。
製造された長尺フィルムを用いて前記の要領で成形体の凹凸の均一性を評価した。結果を表1に示す。
【0080】
[比較例2]
金型母材の用意の際に、銅メッキを施した円筒の代わりに厚さ100μmの無電解ニッケルメッキ(ビッカース硬度800)を施した円筒を用意した点以外は実施例1と同様にして、円筒状金型を製造し、成形体として長尺フィルムを製造した。なお、無電解ニッケルメッキは、次亜リン酸水溶液を用いた電鋳により層を形成した。
製造された長尺フィルムを用いて前記の要領で成形体の凹凸の均一性を評価した。結果を表1に示す。
【0081】
[比較例3]
本工程において、切削を螺旋状に行うのではなく、切削の最中は切削工具を円筒の軸方向に移動しないように固定して、いわば輪切りするかのように切削を行い、周方向に沿った溝状の凹凸を形成するようにした点以外は比較例2と同様にして、円筒状金型を製造し、成形体として長尺フィルムを製造した。
製造された長尺フィルムを用いて前記の要領で成形体の凹凸の均一性を評価した。結果を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
[考察]
表1から分かるように、比較例で製造された成形体では、切削幅10mmの地点と590mmの地点とでその溝幅が大きく変更しているのに対し、実施例で製造された成形体では溝幅の変化量は非常に小さい。更に、比較例2,3では切削幅10mmの地点と590mmの地点と溝形状が変化しているのに対し、実施例では溝形状に変化は無い。これらのことから、実施例で製造した成形体は比較例で製造した成形体に比べて凹凸の均一性が高いことが分かる。また成形体の凹凸が円筒状金型から転写されたものであることを考慮すれば、実施例で使用した円筒状金型の凹凸も高い均一性を有していることが分かる。
また、実施例1〜3と実施例4とを比較すると、実施例1〜3では溝形状(凹凸の断面形状)が矩形であるのに対し、実施例4では波型となっている。実施例1〜3も実施例4も、切削幅10mmの地点と590mmの地点とで溝形状が変化したわけではないので凹凸の均一性という観点からは問題は無い。しかし、実施例1〜4においては切削工具の凹凸形状は矩形に形成されているため、本来は成形体の溝形状も矩形になることが好ましい。したがって、切削工具に形成した凹凸の形状を金型に精密に反映させるという観点からは実施例1〜3の構成が好ましいと考えられる。この結果と、実施例4では金型母材の表面の材料のビッカース硬度が非常に低いこととを鑑みると、金型母材の表面(ひいては、金型の表面)の材料のビッカース硬度は、ある程度高いことが好ましいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように、本発明にかかる金型の製造方法は、微細な溝状の凹凸パターンを有する成形体に有用であり、特に、グリッド偏光フィルム等の光学部材に適している。
【符号の説明】
【0085】
1 刃
2 掬い面
3 逃げ面
4 刃先
5 凹凸
5a 凹部
5b 凸部
6 刃
7 刃先
8 金型母材
9 切削工具
10 予備工程において切削する部位
11 金型母材の一端
12 所定位置
13 所定位置よりも他端側の部位
14 金型母材の外周面
15 凹凸
A 高エネルギ線
D 凹部の深さ
H 刃先の幅
L 予備工程において切削する部位の金型母材の軸方向への距離
M 凹部の幅
P 凹凸のピッチ
W 凸部の幅
α 掬い角
β 逃げ角
γ 交差角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モース硬度9以上の材料からなり、刃先にピッチが1μm以下の凹凸を1つ以上形成された刃を有する切削工具の、前記刃先に形成された前記凹凸の軟弱層を除去する予備工程と、
表面の材料がビッカース硬度300以下である円筒形状又は円柱形状の金型母材を切削工具を用いて螺旋状に切削する本工程とを少なくとも含む
複数列の凹凸が形成された金型の製造方法。
【請求項2】
前記予備工程が、前記切削工具を用いて前記円筒状の金型母材を螺旋状に切削する工程である、請求項1に記載の金型の製造方法。
【請求項3】
前記切削工具の凹凸が集束イオンビームの照射により形成された、請求項1または2に記載の金型の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法で製造された金型に形成された凹凸を転写することにより得られる成形体。
【請求項5】
請求項4記載の成形体を少なくとも含む光学部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−188704(P2010−188704A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38406(P2009−38406)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】