説明

金型の非破壊検査方法とその装置

【課題】金型基材の使用に伴う硬さ変化を非破壊にて正確及び容易に測定できる検査方法及びその装置の提供を目的とする。
【解決手段】金型の表面に接触し超音波を送信する送信機と、前記金型の表層近傍を伝播した前記超音波を受信する受信機と、前記送信機と受信機とを一定間隔離して一体的に保持した本体部とを備え、前記金型の表層近傍を伝播する前記超音波の音圧の減衰率もしくは伝播時間を測定し、前記音圧の減衰率もしくは伝播時間の変化量から金型基材の硬さ変化量を算出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型が熱的負荷を受け熱的劣化が生じる場合に、その劣化の程度を非破壊にて測定できる検査方法と装置に関し、特に、繰り返し熱負荷使用される金型の硬さ低下を非破壊により定量評価する用途に適している。
【背景技術】
【0002】
鋼材の分野においては、熱的相変態を利用した焼き入れ、浸炭焼き入れ、窒化処理等の熱処理にて、用途に応じた硬さを設定している。
鋳造用金型においても、鋼材、銅材等の金属材料を用いて金型を製作した後に、鋳造ショットに耐えられるように熱処理を施して使用されている。
しかし、鋳造ショット数の増加に伴い、熱負荷により硬さが低下することから、所定の硬さ以下まで低下すると、破損防止のため再熱処理をする必要がある。
従来、金型の熱劣化による硬さ低下の非破壊評価法として、ショア硬さ法が一般に用いられている。
ショア硬さ法は一定の高さからハンマを落下させ、その跳ね返り高さから硬さを評価するものであるために、硬さ測定面は原則として平面でなくてはならず、また硬さ計を設置するための十分な面積及び跳ね返りに影響がでない十分な厚みが必要である。
しかしながら実際に硬さ評価を必要とする金型部位は曲面や入り組んでいる場合が多く、上記の制約のため正確な評価が難しい。
さらには、ショア硬さ法は、動的手法であることから熟練を必要とするため測定結果に大きいバラツキが生じることも問題である。
そのためショア硬さ法では、真に評価が必要とされるクリティカルな部位の評価ができず、実際にはまだ使用できる金型を、破損防止のため早めに再熱処理を行わざるを得ない現状にある。
一方、固体表面状態を超音波伝播速度で評価する方法が公知であり、例えば特許文献1には、超音波の固体部材表面の超音波伝播時間を測定し、固体部材の表面の歪み等を測定する技術を開示する。
しかし、これは金属疲労など機械的負荷に伴う劣化を評価するものであり、金型基材の熱負荷に伴う硬さ変化を検査・測定するための原理および装置とはなっていない。
【0003】
【特許文献1】特開2004−1510077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、金型基材の使用に伴う硬さ変化を非破壊にて正確及び容易に測定できる検査方法及びその装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は、金型表層近傍に超音波を伝播させ、金型基材の硬さ低下に伴う音圧の減衰率もしくは伝播時間の変化量から金型基材の硬さ変化を定量測定するものである。
従って、本発明に係る金型の非破壊検査方法は、金型の表面に接触し超音波を送信する送信機と、前記金型の表層近傍を伝播した前記超音波を受信する受信機と、前記送信機と受信機とを一定間隔離して一体的に保持した本体部とを備え、前記金型の表層近傍を伝播する前記超音波の音圧減衰率又は伝播時間を測定し、音圧減衰率又は伝播時間の変化量から金型基材の硬さ変化量を算出することを特徴とする。
また、本発明に係る金型の非破壊検査装置は、金型の表面に接触し超音波を送信する送信機と、前記金型の表層を伝播した前記超音波を受信する受信機と、前記送信機と受信機とを一定間隔離して一体的に保持した本体部と、前記超音波が上記金型の表層近傍を伝播する音圧減衰率又は伝播時間を測定する測定手段と、前記超音波の音圧減衰率又は伝播時間変化量の演算手段と、を備えたことを特徴とする。
ここで、超音波は縦波でもよいがSH波(Horizontally Polarized Shear Wave)を用いるのが好ましい。
本発明に係る測定原理は、以下のとおりである。
たとえば金型基材が鋼材の場合は、熱負荷による硬さ低下に伴い音速が増加する。
このため、超音波はスネルの法則に基づき、金型への屈折角度がより表層側にシフトするが、本法は、このような熱負荷による基材の固体音速変化に伴う音波屈折率の変化を応用したものである。
なお、伝播時間は表面粗さの影響を減衰率よりも受けやすく、通常金型の表面粗さはショット数に伴い変化するため、評価項としては音圧の減衰率変化の方が適している。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る非破壊検査法は、検査装置のプローブの形状を金型の曲率面や測定部位の形状に合せることで容易に且つ正確に測定及び検査ができる。
また、従来の習熟度が求められるショア硬さ法に比較して、本発明に係る検査方法は静的手法であり、測定値のバラツキが小さい。
【0007】
これにより、従来の早めに再熱処理を繰り返していた場合と比較して、限界適正硬さまで使用できるようになり、その結果として金型の寿命が延び、鋳造コストダウンに貢献できる。
さらには、金型の適正硬さを検査できることになり、金型が破壊する不測の事態を免れることができるので量産信頼性も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係る実施形態について説明する。
まず、図3にて本発明に係る検査装置10の構成例を説明する。
金型の検査装置10は、測定対象物である金型12の表面に接触させ超音波を送信する送信機14と、金型12の表層近傍を伝播した超音波を受信する受信機16を備える。
送信機14と受信機16は、一定間隔離して位置し、これらを一体的に保持した本体部20に設けられている。
送信機14は、超音波領域の周波数を発信する発信回路による発振回路部15を備え、受信機16も超音波領域の周波数を受信する受信回路を備えた受信回路部17を有している。
本体部20は、金型表面に送信機14と受信機16とのプローブ部に14a、16aを圧接するための重り23と、重り23を金型表面に確実に押し付けるための押圧治具24を有している。
本願検査装置10は、超音波を用いた接触式検査装置であり、金型表面の接触圧を適正に設定する必要がある。
超音波としてSH波を用いた場合には特に接触圧の影響を受けやすい。
そのため金型表面に適正なグリスを塗り、検査装置10にグリスの膜厚を一定とするだけの与圧を一定時間付加しなければならない。
与圧力は、その保持時間短縮のためにも、約2.5MPa以上が望ましい。
グリスは吸湿が少ない油性がよく、校正や履歴を追うために同じグリスを用いるのがよい。
【0009】
本体部20は、送信機14と受信機16を一定間隔離すために例えば略コ字状に形成され、送信機14はコ字状の一方の端部に位置し、内部には圧電素子等の超音波出力部14bがプローブ部14aに接続して設けられている。
送信機14と受信機16を本体部20でリジットに対向配置されていれば、必ずしもコ字状でなくてもよく、真に測定したい金型のクリティカル部位に接触できるようにプローブ形状を設定するとよい。
超音波出力部14bは金型12の表面側を向くように配置されているとともに、受信機16の方を向いて斜めに設けられている。
受信機16はコ字状の他方の端部に位置し、内部には圧電素子等の超音波受信部16bがプローブ部16aに接続して設けられている。
超音波受信部16bも金型12の表面側を向くように配置されているとともに、送信機14の方を向いて斜めに設けられている。
これら送信機14の超音波出力部14bと受信機16の超音波受信部16bにおいて、その設置角度は、プローブ部14a、16a及び金型基材のそれぞれの固体音速を基に、スネルの法則から、超音波が金型表層近傍を良く伝播するように設定するとよい。
【0010】
受信回路部17の出力は、受信した超音波によるアナログの電気信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータ21に接続され、A/Dコンバータ21の出力は、受信した波形データを記憶する波形メモリ22に接続されている。
波形メモリ22の出力は、ピーク検出器30に接続されている。
ピーク検出器30は、受信した超音波の第一波、第二波等の伝播到達時間あるいは、第一波、第二波、第三波・・・・と減衰する減衰率等を検出する。
これらのデジタル処理は、CPUやメモリを備えたマイクロコンピュータを用いて行ってもよい。
使用する超音波は、縦波でもよいが、剪断水平波(SH波:Horizontally Polarized Shear Wave)が適している。
SH波は、送信機14のプローブ部14aから金型12の表層近傍を進行し、受信機16のプローブ16a向かう。
【0011】
測定原理を図1の模式図に示す。
送信機から発信された超音波は、金型基材の表層部に進入する際に、スネルの法則に基づいて屈折し、受信機側に伝播到達する。
金型基材がショット時の熱負荷により焼き戻されると、たとえば鋼材の場合は、使用初めの金型基材表層の超音波伝播経路Kが表面側へシフトし、Kのように変化する。
このように、超音波の伝播経路KがKにシフトすると、受信機に到達する伝播時間が短くなり、また受信機に到達した第一波の音圧レベルA1に対する第二波の音圧レベルA2は、2点鎖線に示したように大きくなる。
そのため、第一波の音圧レベルを第二波の音圧レベルで除した減衰率を評価項とした場合、本評価項は金型基材の音速の増加、すなわち、硬さの低下に伴い減少することとなる。
超音波の伝播経路が金型の表面側にシフトする程度は、金型基材が熱被害を受け、相変態や、固溶変化が進行する割合に依存する。
従って、音圧減衰率の変化量は金型基材の材質や熱処理方法によっても依存することから、予め、検査対象となる金型の過去の熱履歴的データに基づいて検量線を作成するのがよい。
また、標準試験片に基づいて校正して測定するとよい。
また、本発明に係る検査装置は硬さ低下の検査のみならず、再熱処理の適正検査、金型製作時の適正検査にも使用できる。
【実施例1】
【0012】
JIS G 4404に規定する熱間金型鋼SKD61材を用いてダイカスト用金型を製作し、ガス窒化処理した。
金型A,B,C,D,Eを用いて、それぞれマグネシウム製品を鋳造し、横軸に鋳造ショット数、縦軸に第一波の音圧A1と第二波の音圧A2の比を自然対数としてプロットしたのが図2に示すグラフである。
金型A,B,C,D,Eいずれにおいてもショット数の増加とともに音圧減衰率が小さくなっているのが明らかになった。
これにより、金型基材の硬さと音圧減衰率の関係を予め調査しておくことで、本発明に係る検査装置で非破壊的に超音波の音圧減衰率もしくは伝播時間を測定し、金型基材の硬さを検査することができる。
本発明について、ダイカスト金型を例に説明したが、用途はこれに限定されるものではなく、各種金型基材の熱被害量を検査する方法、装置として広く応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の測定原理を模式的に示す。
【図2】鋳造ショット数と音圧減衰率の関係を調査した結果を示す。
【図3】本発明に係る検査装置の構成例を示す。
【符号の説明】
【0014】
10 検査装置
12 金型
14 送信機
15 発振回路部
16 受信機
17 受信回路部
20 本体部
21 A/Dコンバータ
22 波形メモリ
30 ピーク検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型の表面に接触し超音波を送信する送信機と、前記金型の表層近傍を伝播した前記超音波を受信する受信機と、前記送信機と受信機とを一定間隔離して一体的に保持した本体部とを備え、前記金型の表層近傍を伝播する前記超音波の音圧の減衰率もしくは伝播時間を測定し、前記音圧の減衰率もしくは伝播時間の変化量から金型基材の変化量を算出することを特徴とする金型の非破壊検査方法。
【請求項2】
金型基材の変化量は、硬さの変化量であることを特徴とする請求項1記載の金型の非破壊検査方法。
【請求項3】
金型基材における硬さの変化量は、標準試験片による校正に基づいて、前記音圧の減衰率もしくは伝播時間の変化量から前記硬さの変化量を演算するものであることを特徴とする請求項2記載の金型の非破壊検査方法。
【請求項4】
金型の表面に接触し超音波を送信する送信機と、前記金型の表層近傍を伝播した前記超音波を受信する受信機と、前記送信機と受信機とを一定間隔離して一体的に保持した本体部と、上記金型の表層近傍を伝播する前記超音波の音圧減衰率もしくは伝播時間を測定する測定手段と、前記超音波の音圧減衰率又は伝播時間の変化量演算手段を備えたことを特徴とする金型の非破壊検査装置。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−216671(P2009−216671A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63390(P2008−63390)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【出願人】(000176109)三晶技研株式会社 (2)
【出願人】(503221573)株式会社北熱 (6)
【Fターム(参考)】