説明

金型温調回路封止方法

【課題】Oリングを設置できなくても、入れ子を用いた温調回路の封止を行う。
【解決手段】中間流路24が形成され金型に装入される入れ子13と、温調機に連通する入口流路21及び出口流路22が形成されたスライド後部11との双方を、夫々の流路同士が連通するように連結して温調回路10を形成する場合、入れ子13とスライド後部11との接触面の少なくとも一方に、接着剤を塗布してから双方を連結することで、温調回路10を封止する。また、入れ子13の後端面23と、スライド後部11の前端面の少なくとも一方には、予め粗面化処理を行っておく。例えばローレット加工のように、多数の溝を形成することによって、粗面化処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型の温調回路を封止する金型温調回路封止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された従来技術では、貫通孔が形成された二つの部材を組み合わせることで温調回路の一部を形成し、貫通孔同士の接続面にOリングを介装することで温調回路の封止を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−178378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金型の冷却効率を高めるためには、温調回路の一部を構成する二つの部材のうち、金型に組み込む側の部材を、熱伝導率の高い材料で形成することが望ましいため、これを金型とは異なる入れ子構造にすることがある。入れ子には温調用の流路が形成されるため、入れ子のサイズが小さい又は形状が薄い等して、他方の部材との接触面(封止面)が小さい場合には、Oリングを設けるスペースが確保できない場合があった。
このような場合、二つの部材を金属接合によって密着させる方法もあるが、工数やコストが増大する上に、分解することができない。
本発明の課題は、Oリングを設置できなくても、入れ子を用いた温調回路の封止を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、
流路が形成され金型に装入される入れ子と、温調機に連通する流路が形成された連結部材との双方を、夫々の流路同士が連通するように連結して温調回路を形成する場合、
前記入れ子と前記連結部材との接触面の少なくとも一方に、接着剤を塗布してから双方を連結することを特徴とする。
【0006】
このように、接着剤を介して入れ子と連結部材とを連結しているので、入れ子のサイズが小さい又は形状が薄い等して、Oリングを設けるスペースが確保できない場合でも、温調回路の封止を行うことができる。したがって、入れ子を微細形状としても、温調回路を設置することができ、冷却時間の短縮によって成形サイクルタイムを短縮することができる。
【0007】
本発明の他の形態は、
前記入れ子と前記連結部材との接触面の少なくとも一方に、粗面化処理を行うことを特徴とする。
このように、接触面に粗面化処理を行うことで、接触面の摩擦係数が増加するので、接着性を向上させることができる。
【0008】
本発明の他の形態は、
前記入れ子と前記連結部材との接触面の少なくとも一方に、多数の溝を形成することによって粗面化処理を行うことを特徴とする。
このように、接触面に多数の溝を形成することで、接触面の摩擦係数が増加するので、接着性を向上させることができる。
【0009】
本発明の他の形態は、
前記入れ子と前記連結部材との接触面の少なくとも一方を、双方の分割位置よりも凹ませることを特徴とする。
このように、接触面の少なくとも一方を、双方の分割位置より凹ませることで、接着剤溜まりが形成される。したがって、接着剤の膜厚が増加し、接着力を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】金型に組み込まれる温調回路の概略構成図である。
【図2】温調回路の分解図である。
【図3】中間流路に対する入口流路及び出口流路の連通状態を示す図である。
【図4】中間流路の他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
《第一実施形態》
図1は、金型に組み込まれる温調回路の概略構成図である。
図2は、温調回路の分解図である。
温調回路10は、温調機(図示省略)側のスライド後部11と、金型(図示省略)側のスライド前部12と、スライド前部12に保持された状態で金型へと装入される入れ子13と、を備える。
なお、本実施形態では、便宜上、金型側を前、温調機側を後とし、スライド後部11及びスライド前部12と称して説明する。
【0012】
スライド後部11の前端面には、位置決め凹部14が形成され、スライド前部12の後端面には、位置決め凸部15が形成される。これら位置決め凹部14と位置決め凸部15とを嵌合させることで、スライド後部11とスライド前部12とが位置決めされ、連結される。
スライド後部11には、前後方向に貫通する入口流路21及び出口流路22が並設される。入口流路21は、温調機の吐出口に連通し、出口流路22は、温調機の吸入口に連通する。入口流路21及び出口流路22の内径は、温調機側は大径であるが、途中で縮径し、スライド前部12側は小径となるように形成される。
【0013】
スライド前部12は、挿通される入れ子13を保持可能に形成される。
入れ子13は、略板状に形成され、薄型の後端面23には、横方向に沿って深さが一定となる溝状の中間流路24が形成される。
図3は、中間流路に対する入口流路及び出口流路の連通状態を示す図である。
スライド後部11とスライド前部12とを連結すると、溝状の中間流路24がスライド後部11の前端面によって塞がれた状態で、中間流路24の一端に入口流路21が連通され、他端に出口流路22が連通される。すなわち、入口流路21、中間流路24、出口流路22が連通されて、温調用の流体回路が形成される。したがって、温調機から吐出された流体は、入口流路21、中間流路24、出口流路22を順に経て、再び温調機へと吸入される。そして、中間流路24を通過する際に、入れ子13との熱交換が行われ、金型及び成形品の冷却がなされる。
【0014】
ここで、入れ子13の後端面23に注目すると、入れ子13の後端面23から中間流路24の面積を差し引いた分が、スライド後部11との接触面となり、その面積は非常に狭い。特に、中間流路24は、入れ子13の冷却効果を高めるために、可能な限り幅を大きくすることが望ましいので、入れ子13の厚み方向(中間流路24の幅方向)には、接触面の残り代が少なくなる。
中間流路24は、スライド後部11とスライド前部12とを連結し、スライド後部11の前端面によって塞がれているだけの構成なので、封止(シール)する必要がある。
【0015】
次に、中間流路24の封止方法について説明する。
前述したように、入れ子13の後端面23は、スライド後部11との接触面積が非常に狭いので、Oリングを設けるスペースが確保できない。そこで、入れ子13の後端面23に、接着剤を塗布してから、入れ子13を含むスライド前部12と、スライド後部11とを連結する。なお、接着剤を塗布するのは、スライド後部11の前端面でもよいし、両方でもよい。また、接着剤は、入口流路21、中間流路24、出口流路22を閉塞しなければ(又は著しく狭めなければ)、流路内に多少はみ出しても構わない。
【0016】
接着剤には、例えばセメダイン株式会社の「スーパーX」や「EP001」、コニシ株式会社の「コニシボンドウルトラ多用途S・U」や「クイックセット」等を使用する。要は、接着剤が硬化した後も、低温から高温まで長期間に亘って弾性を維持し、且つ耐水性にも優れたものであれば、特殊シリコーン変性ポリマーや、変成シリコーンポリマー等を主な成分にもつ一般的な接着剤でよい。
【0017】
このように、接着剤を介して入れ子13とスライド後部11とを連結しているので、入れ子13のサイズが小さい又は形状が薄い等して、Oリングを設けるスペースが確保できない場合でも、温調回路10の封止を行うことができる。すなわち、入れ子13を微細形状としても、温調回路10を設置することができ、冷却時間の短縮によって成形サイクルタイムを短縮することができる。
【0018】
また、入れ子13の後端面23と、スライド後部11の前端面の少なくとも一方には、予め粗面化処理を行っておく。例えばローレット加工のように、多数の溝を形成することによって、粗面化処理を行う。
このように、粗面化処理を行うことで、入れ子13の後端面23や、スライド後部11の前端面の摩擦係数が増加するので、接着性を向上させることができる。
【0019】
さらに、入れ子13と、スライド後部11との接触面の少なくとも一方を、双方の分割位置よりも数μmだけ凹ませておく。つまり、接着剤を塗布する接触面の少なくとも一部に、凹部を形成して隙間を形成する。
このように、接触面の少なくとも一方を、双方の分割位置よりも凹ませることで、接着剤溜まりが形成される。したがって、接着剤の膜厚が増加し、接着力を増加させることができる。
【0020】
次に、中間流路24の変形例について説明する。
図4は、中間流路の他の構成例を示す図である。
図中の(a)に示すように、中間流路24の深さを一定にする必要はなく、例えば入れ子13の先端側まで冷却効果を高めるために、入口流路21と出口流路22との間の中央位置で、中間流路24の深さが最大となるように形成してもよい。これによれば、入口流路21から供給された温調用の流体が、中間流路24に沿って入れ子13の先端側まで達するので、冷却効果を高めることができる。
【0021】
また、中間流路24の溝を入れ子13の先端側まで深くすると、中間流路24に沿っている付近はよいが、スライド後部11の前端面に沿っている付近では、流体の滞留が生じてキャビテーションを誘発してしまう。そこで、図中の(b)に示すように、スライド後部11の前端面に、中間流路24の溝幅に対応した厚みとなる舌片状の凸部材を取り付け、断面積が一定となるような中間流路24を形成してもよい。これによれば、流体の滞留と、それに伴うキャビテーションの誘発を確実に防ぐことができる。
【符号の説明】
【0022】
10…温調回路、11…スライド後部、12…スライド前部、13…入れ子、14…凹部、15…凸部、21…入口流路、22…出口流路、23…後端面、24…中間流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路が形成され金型に装入される入れ子と、温調機に連通する流路が形成された連結部材との双方を、夫々の流路同士が連通するように連結して温調回路を形成する場合、
前記入れ子と前記連結部材との接触面の少なくとも一方に、接着剤を塗布してから双方を連結することを特徴とする温調回路封止方法。
【請求項2】
前記入れ子と前記連結部材との接触面の少なくとも一方に、粗面化処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の温調回路封止方法。
【請求項3】
前記入れ子と前記連結部材との接触面の少なくとも一方に、多数の溝を形成することによって粗面化処理を行うことを特徴とする請求項2に記載の温調回路封止方法。
【請求項4】
前記入れ子と前記連結部材との接触面の少なくとも一方を、双方の分割位置よりも凹ませることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の温調回路封止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−192659(P2012−192659A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59054(P2011−59054)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】