説明

金型装置および成形方法

【課題】表面に凹部が形成される場合であっても、フローマークが生じるのを防止可能な樹脂成形品を形成可能な金型装置および成形方法を提供する。
【解決手段】金型装置10において、ガスベント26に一端側が接続され、キャビティ23から排出される気体が導入されるガス圧導入管路27と、ガス圧導入管路27の他端側が接続され、開口部28aがキャビティ23に連通するシリンダー穴28と、気体の圧力に応じてシリンダー穴28を移動させられる押出し駒30と、押出し駒30のシリンダー穴28における引き込み位置を制限する第1の位置決め部材33とを具備し、押出し駒30の開口部28a側の端面30aは、第1の位置決め部材33で位置決めされている状態においては内壁面23aと面一となる部位に位置し、シリンダー穴28に導入される気体の圧力が増大した後に、押出し駒30は、端面30aが面一な位置よりもキャビティ23の内部に押し出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型装置および成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形によって形成される樹脂成形品は、種々の製品に用いられているが、そのような樹脂成形品の用途として、製品のうち一目に触れる外装部品に用いられることも一般的である。ここで、外装部品においては、その表面に凹凸を形成して、種々のマークを形成することも行われている。このようなマークの形成は、金型内部にて行われると、生産性の向上を図ることができる。
【0003】
ここで、金型の内部において、樹脂成形品に凸部を形成する技術としては、特許文献1に開示されているものがある。この特許文献1に開示の技術内容によれば、凹部に駒が移動自在に設けられ、未硬化樹脂の充填時には駒がキャビティ内面と平坦な位置に位置し、その後に駒が凹部の内側に後退し、それによって凹部に未硬化樹脂を充填させる、といった技術内容について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−343483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、外装部品の表面に凹部からなるマークを形成した場合、その凹部よりも未硬化樹脂の流れの下流側において、外装部品の表面にフローマークが形成されて、外観不良となることが確認されている。一方、外装部品の表面に凸部からなるマークを形成した場合、フローマークが凸部よりも未硬化樹脂の流れの下流側に形成されるものの、そのフローマークは主に外装部品の裏面に形成されることが確認されている。すなわち、外装部品の表面においてフローマークの形成による外観不良を生じさせない、という問題は、特許文献1においては発生しなく、外装部品の表面に凹部からなるマークを形成する場合に特有の問題である、といえる。
【0006】
ここで、上述のように、外装部品の表面に凹部からなるマークを形成する場合には、現状では、キャビティの内部に突出部を設けることにより形成している。そのため、この突出部よりも未硬化樹脂の流れの下流側において、外装部品の表面にフローマークが形成されるので、外観不良となる場合が多発する。特に、未硬化樹脂が光輝材を含有する場合には、添加された光輝材の配向が変わることにより、フローマークが形成されてしまい、外観不良が顕著に生じる。
【0007】
本発明は上述のような課題の少なくとも一つを解決するためになされたもので、表面に凹部が形成される場合であっても、フローマークが生じるのを防止可能な樹脂成形品を形成可能な金型装置および成形方法を提供しよう、とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の金型装置は、第1の型と第2の型が接合されてなるキャビティ内に未硬化樹脂が導入される金型装置であって、キャビティと連通するガスベントに一端側が接続されると共に、キャビティから排出される気体が導入されるガス圧導入管路と、ガス圧導入管路の他端側が接続されると共に、第1の型または第2の型の少なくとも一方に設けられ、その開口部がキャビティに連通するシリンダー穴と、シリンダー穴における気体の圧力に応じて当該シリンダー穴を移動させられる押出し駒と、シリンダー穴に設けられると共に、押出し駒のシリンダー穴における引き込み位置を制限する第1の位置決め部材と、を具備し、押出し駒の開口部側の端面は、第1の位置決め部材によって押出し駒が位置決めされている状態においては第1の型または第2の型の内壁面と面一となる部位に位置していて、ガス圧導入管路を介してシリンダー穴に導入される気体の圧力が増大した後に、押出し駒は、端面が面一な位置よりもキャビティの内部に押し出される、ものである。
【0009】
このように構成する場合には、未硬化樹脂がキャビティに流入させられる前の状態においては、押出し駒は、その端面が第1の型または第2の型の内壁面と面一となる部位に位置している。そして、この状態でキャビティの内部に未硬化樹脂が流入させられる際においては、未硬化樹脂は、押出し駒の付近においても、その周囲の内壁面と同様に流れる。すなわち、従来の構成においては、突出部の存在により、未硬化樹脂の流れに乱流が発生し、さらには突出部の存在によりキャビティの内部における温度の不均一さも生じる。そして、これら乱流および温度の不均一さにより、フローマークが形成される状態となると考えられる。
【0010】
しかしながら、上述の構成においては、押出し駒の付近においても、その周囲の内壁面と同様に流れる。そして、キャビティの内部に未硬化樹脂が充填された後に、押出し駒を開口部から押し出して、硬化前の未硬化樹脂を押し込む。それにより、未硬化樹脂が静的な状態において押出し駒を押し出して、樹脂成形品に凹部が形成される。それにより、未硬化樹脂をキャビティに充填する際に、従来のようにキャビティの内部に突出部を設ける場合のように、未硬化樹脂の流れの下流側においてフローマークが形成されるのを防止可能となる。
【0011】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、シリンダー穴には、当該シリンダー穴を封止しつつ気体の圧力によってシリンダー穴に沿って移動させられるピストンが設けられ、このピストンは押出し駒に連結されていて、ピストンのうち押出し駒と対向しない側の非対向端面には、ピストンを開口部から引き込む向きの付勢力を与える付勢手段が連結されている、ことが好ましい。
【0012】
このように構成する場合には、シリンダー穴にはピストンが配置され、このピストンに気体の圧力が作用する。それにより、押出し駒をシリンダー穴の開口部から良好に押し出すことが可能となる。また、ピストンには付勢手段が連結されているため、気体がガス圧導入管路を介して流入してピストンに作用する圧力が増大する前の状態においては、この付勢手段と第1の位置決め部材とによって、押出し駒を引き込み位置に自動的に待機させることが可能となる。
【0013】
さらに、本発明の他の側面は、上述の発明において、シリンダー穴には、押出し駒がシリンダー穴から突出する突出長さを制限する第2の位置決め部材が設けられている、ことが好ましい。
【0014】
このように構成する場合には、第2の位置決め部材によって、押出し駒の突出長さが制限される。それにより、規定の長さの凹部を良好に形成することが可能となる。
【0015】
また、本発明の他の側面である成形方法は、第1の型と第2の型が接合されてなるキャビティ内に未硬化樹脂が導入される金型装置であり、この金型装置は、キャビティと連通するガスベントに一端側が接続されると共に、キャビティから排出される気体が導入されるガス圧導入管路と、ガス圧導入管路の他端側が接続されると共に、第1の型または第2の型の少なくとも一方に設けられ、その開口部がキャビティに連通するシリンダー穴と、シリンダー穴における気体の圧力に応じて当該シリンダー穴を移動させられる押出し駒と、を具備していて、押出し駒の開口部側の端面を、第1の型または第2の型の内壁面と面一となる部位に位置させた状態でキャビティ内に未硬化樹脂を流入させる樹脂流入工程と、樹脂流入工程によってキャビティ内に未硬化樹脂が流入される際にキャビティから排出される気体の圧力をガス圧導入管路を介してシリンダー穴に作用させ、ガス圧導入管路を介してシリンダー穴に導入される気体の圧力が増大した後に、押出し駒を端面が面一な位置よりもキャビティの内部に押し出させる押出し工程と、を具備することが好ましい。
【0016】
このように構成する場合には、未硬化樹脂がキャビティに流入させられる前の状態においては、押出し駒は、その端面が第1の型または第2の型の内壁面と面一となる部位に位置している。そして、この状態で、樹脂流入工程においてキャビティの内部に未硬化樹脂が流入させられると、未硬化樹脂は、押出し駒の付近においても、その周囲の内壁面と同様に流れる。すなわち、従来の構成においては、突出部の存在により、未硬化樹脂の流れに乱流が発生し、さらには突出部の存在によりキャビティの内部における温度の不均一さも生じる。そして、これら乱流および温度の不均一さにより、フローマークが形成される状態となると考えられる。
【0017】
しかしながら、上述の構成においては、押出し駒の付近においても、その周囲の内壁面と同様に流れる。そして、キャビティの内部に未硬化樹脂が充填された後に、押出し工程において押出し駒を開口部から押し出して、硬化前の未硬化樹脂を押し込む。それにより、未硬化樹脂が静的な状態において押出し駒を押し出して、樹脂成形品に凹部が形成される。それにより、したがって、未硬化樹脂をキャビティに充填する際に、従来のようにキャビティの内部に突出部を設ける場合のように、未硬化樹脂の流れの下流側においてフローマークが形成されるのを防止可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係る金型装置の構成を示す側断面図である。
【図2】図1の金型装置のうち第2の型のキャビティ側を示す平面図である。
【図3】図1の線Pで囲まれた部分を拡大して示す部分的な側断面図である。
【図4】樹脂成形品の形状を示す斜視図である。
【図5】開口部から押出し駒が押し出される前後の状態を示す側断面図である。
【図6】突出部がキャビティ内に突出する金型の従来構成を示す側断面図である。
【図7】本発明の変形例に係る押出し駒の形状および動作を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態に係る金型装置10および成形方法について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
<1.金型装置10の構成について>
図1は、金型装置10の構成を示す側断面図である。また、図2は、金型装置10のうち、第2の型22のキャビティ23側を見たときの状態を示す平面図であり、キャビティ23以外の部分にハッチングを施して示している。この金型装置10は、雄型である第1の型21と、雌型である第2の型22とを有しており、これらの噛合によって形成される空間部(キャビティ23)に未硬化樹脂が流入させられる。
【0021】
なお、本実施の形態における未硬化樹脂は、光輝材を含有するものであるが、かかる光輝材としては、アルミフレーク、シリカフレーク、パール顔料、マイカ顔料等を用いることが可能である。また、未硬化樹脂としては、たとえばアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂等の熱可塑性樹脂であることが好ましい。ただし、未硬化樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂であっても良い。
【0022】
また、第1の型21は雄型ではなく雌型であっても良く、同様に第2の型22は雌型ではなく雄型であっても良い。
【0023】
この金型装置10には、未硬化樹脂の導入口であるスプルー24と、未硬化樹脂をキャビティ23の内部への導入を案内し、この未硬化樹脂の均一な拡散をガイドするゲート25とが設けられている。また、金型装置10には、ガスベント26が設けられている。このガスベント26は、キャビティ23の内部に存在する空気や、未硬化樹脂から発生する気体(以下、これらを総称して混合ガスとする。)をキャビティ23の内部から外へ逃がす部分である。
【0024】
また、金型装置10には、ガス圧導入管路27が設けられている。このガス圧導入管路27は、その一端側がガスベント26に接続されていて、ガスベント26からガス圧導入管路27にガスが入り込むことを可能としている。ここで、図2に示すように、ガスベント26は、キャビティ23のうち、幅方向(図2におけるY方向)の両端側に設けられている。
【0025】
図3は、図1における線Pで囲まれた部分を拡大して示す部分的な側断面図である。この図3に示すように、ガス圧導入管路27の他端側は、シリンダー穴28に接続されている。このシリンダー穴28は、開口部28aにおいてキャビティ23と連通している。
【0026】
シリンダー穴28の内部には、ピストン29が配置され、ガス圧導入管路27から流入する混合ガスは、このピストン29に圧力を及ぼすことを可能としている。すなわち、シリンダー穴28は、図3における線Lを中心線として形成されていて、この線Lに沿う方向(X方向)に沿ってピストン29を移動させることが可能に形成されている。そのため、シリンダー穴28のうちピストン29が摺動する部分は、線Lに垂直な平面(X方向に垂直な平面)で切断したときに、いずれの部位においても同じ断面となり、かつその断面の中心を線Lが通るように設けられている。
【0027】
なお、本実施の形態においては、ガス圧導入管路27は、キャビティ23の幅方向(Y方向)の両端側に位置するガスベント26にそれぞれ連結される分岐管部27aを有している。そして、分岐管部27aが合流し、ガス圧導入管路27の本管部27bとなっている。
【0028】
また、ピストン29は、シリンダー穴28をガタつかずに封止しつつ混合ガスの圧力に応じてシリンダー穴28を移動可能に設けられている。このピストン29には、連結部材31を介して押出し駒30が連結されている。押出し駒30は、後述するように、硬化前の樹脂(樹脂成形品40(図4参照);以下、硬化の前後に拘わらず樹脂成形品40(外装部品)とする。)を押し込んで、樹脂成形品40に凹部41を形成するための部分である。また、押出し駒30のうち、キャビティ23側の端面(内部端面30a)は、キャビティ23の内壁面23aと面一となるように形成されている。
【0029】
なお、図2に示す構成では、押出し駒30は、複数の凹部41からなるマークを一体的に押し出すように構成されている。そのため、シリンダー穴28も矩形状に設けられている。
【0030】
ここで、ピストン29のうち、押出し駒30と対向しない側の端面29bには、スプリング32の一端側が連結されている。このスプリング32の他端側は、ガス圧導入管路27の内壁に連結されている。そして、このスプリング32の釣り合い荷重は、圧縮された混合ガスの圧力が最大になる前の圧力とつりあう様にあらかじめ設定されている。それにより、未硬化樹脂を充填した後に、混合ガスの圧力がスプリング32の釣り合い荷重を上回った適切なタイミングで、押出し駒30を硬化前の樹脂(樹脂成形品40)に押し出すことを可能としている。
【0031】
また、図3に示すように、シリンダー穴28には、第1のストッパ33と、第2のストッパ34とが設けられている。第1のストッパ33は、上述の端面29bに当接可能としている。この第1のストッパ33は、シリンダー穴28のうち、当該第1のストッパ33が端面29bに当接している場合に押出し駒30の内部端面30aがキャビティ23の内壁面23aと面一となる位置に設けられている。すなわち、第1のストッパ33は、ピストン29がシリンダー穴28の内部に戻される(押し込まれる)位置を規制する位置決め部材となっている。
【0032】
なお、スプリング32は、請求項でいう付勢手段の一例に対応する。また、第1のストッパ33は、請求項でいう第1の位置決め部材の一例に対応し、第2のストッパ34は、請求項でいう第2の位置決め部材の一例に対応する。
【0033】
また、第2のストッパ34は、ピストン29のうち押出し駒30と対向する側の端面29aに当接可能としている。この第2のストッパ34は、シリンダー穴28のうち、当該第2のストッパ34が端面29aに当接している場合に押出し駒30がキャビティ23の内部に最も突出する位置に設定されている。すなわち、第2のストッパ34は、ピストン29がシリンダー穴28に突出するのを規制する位置決め部材となっている。
【0034】
なお、金型装置10には、その他、第1の型21または第2の型22をスライドさせるための駆動手段(図示省略)が設けられている。また、金型装置10には、未硬化樹脂をスプルー24に供給するための供給手段(図示省略)が設けられている。
【0035】
<2.金型装置10の動作について>
続いて、本実施の形態の金型装置10の動作について説明する。不図示の供給手段から未硬化樹脂が所定の圧力でスプルー24に供給されると、未硬化樹脂はゲート25を介してキャビティ23に流入する。すると、キャビティ23の内部に存在する混合ガスは、未硬化樹脂が充填させられるのにつれて、キャビティ23からガスベント26を介して排出される。このとき、排出される混合ガスは、ガスベント26からガス圧導入管路27を介して、シリンダー穴28に流入する。そして、混合ガスの流入により、ピストン29の端面には、シリンダー穴28の開口部28aへ向かう向きの圧力が作用する。一方で、ピストン29にはスプリング32の引っ張り力が作用しているため、シリンダー穴28およびガス圧導入管路27の内部においては、混合ガスが圧縮されていく。
【0036】
なお、図5(A)に示すように、ピストン29が混合ガスの圧縮力によって移動させられる前の状態においては、ピストン29の端面29bが第1のストッパ33に当接し、内部端面30aはキャビティ23の内壁面23aと面一となっている。
【0037】
そして、キャビティ23の内部に未硬化樹脂が行き渡り、シリンダー穴28の開口部28a付近において未硬化樹脂がさほど流動しない状態となったときに、ピストン29はスプリング32の引っ張り力に抗して、開口部28aに向かって移動させられる。この押出し駒30が押し出されるタイミングは、圧縮された混合ガスが最大となるときよりも少し手前となっていて、ピストン29の移動によってガス圧導入管路27側のシリンダー穴28の容積が増大しても、押出し駒30が十分に押し出される状態に設定されている。
【0038】
それにより、図5(B)に示すように、押出し駒30が開口部28aから押し出され、硬化前の樹脂(樹脂成形品40)を押し込んで、樹脂成形品40に凹部41が形成される。ここで、既に未硬化樹脂がキャビティ23の内部に流入し、さほど未硬化樹脂が流動しない状態となった後に、押出し駒30が開口部28aから突出している。また、未硬化樹脂がキャビティ23に流入させられる前の状態においては、図5(A)に示すように、押出し駒30は、その内部端面30aが第1の型21または第2の型22の内壁面と面一となる部位に位置している。そして、この状態でキャビティ23の内部に未硬化樹脂が流入させられる際においては、未硬化樹脂は、押出し駒30の付近においても、その周囲の内壁面23aと同様に流れる。
【0039】
すなわち、図6に示すような従来の構成においては、キャビティ23の内部に突出する突出部50の存在により、未硬化樹脂の流れに乱流が発生し(図6の矢示B参照;なお、矢示Aは未硬化樹脂の流れの方向)、さらには突出部50の存在によりキャビティ23の内部における温度の不均一さも生じる。そして、これら乱流および温度の不均一さにより、フローマークが形成される状態となると考えられる。
【0040】
しかしながら、未硬化樹脂のキャビティ23への充填に際しては、押出し駒30の付近においても、その周囲の内壁面23aと同様に流れる。そのため、未硬化樹脂は、従来のようにキャビティ23内部に突出部50が突出する場合に生じていた乱流の発生を、防止する状態で充填される。また、本実施の形態では、キャビティ23の内部に突出部50が存在しない状態で未硬化樹脂が充填されるため、従来の突出部50が存在している場合のように、キャビティ23の内部における温度の不均一さも生じない。
【0041】
そして、キャビティ23の内部に未硬化樹脂が充填された後に、押出し駒30が開口部28aから押し出されて、硬化前の未硬化樹脂を押し込む。それにより、未硬化樹脂が静的な状態において押出し駒30を押し出して、樹脂成形品40に凹部41が形成される。そして、凹部41が形成された硬化前の樹脂(樹脂成形品40)は、所定の時間が経過した後に、硬化する。そのため、未硬化樹脂の流入の際の流れの下流側において、樹脂成形品40にフローマークが形成されてしまう、という事態が発生することはなくなっている。すなわち、樹脂成形品40である外装部品の表面に凹部41からなるマークが形成される場合において、そのマークの周囲に、たとえば筋状のフローマークが形成されない状態となる。
【0042】
なお、押出し駒30を押し込むことによって、光輝材の配向性が変化したとしても、その押し込みによる配向性の変化は、外観不良となることはほとんどない、と考えられている。その理由は、押出し駒30を押し込んだ部分を中心として、その周囲において配向性が変化すると考えられる。そのため、未硬化樹脂の流れの下流等で、特に配向性が変化する等の問題はほとんど生じないと考えられている。
【0043】
<3.本実施の形態における効果>
以上のような構成の金型装置10および成形方法によれば、未硬化樹脂がキャビティ23に充填され、当該未硬化樹脂が静的な状態となった後に、押出し駒30を押し出して、樹脂成形品40に凹部41を形成している。それにより、未硬化樹脂をキャビティ23に充填する際に、図6の従来例のようにキャビティ23の内部に突出部50を設ける場合のように、未硬化樹脂の流れの下流側においてフローマークが形成されるのを防止可能となる。
【0044】
また、本実施の形態では、シリンダー穴28にはピストン29が配置され、このピストン29に気体の圧力が作用する。それにより、押出し駒30をシリンダー穴28の開口部28aから良好に押し出すことが可能となる。また、ピストン29にはスプリング32が連結されているため、気体がガス圧導入管路27を介して流入してピストン29に作用する圧力が増大する前の状態においては、このスプリング32と第1のストッパ33とによって、押出し駒30を引き込み位置に自動的に待機させることが可能となる。
【0045】
さらに、本実施の形態では、第2のストッパ34によって、押出し駒30の突出長さが制限される。それにより、規定の長さの凹部41を良好に形成することが可能となる。
【0046】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施の形態について述べたが、本発明は、種々変形可能である。以下、それについて述べる。
【0047】
(4−1)変形例その1
上述の実施の形態では、押出し駒30の内部端面30aの形状については特に述べていない。しかしながら、押出し駒30の内部端面30aの形状は、樹脂成形品40(外装部品)に形成するマークに応じて、所望の形状とすることが可能となる。図7にこのイメージを示す。
【0048】
図7には、マークに対応した内部端面30aを有する押出し駒30の一例が示されている。この例においては、押出し駒30には、キャビティ23内部に最も突出している突出端面部30bと、この突出端面部30bよりもシリンダー穴28の引き込み側に窪む窪み部30cが形成されている。そして、図7(A)に示すように、押出し駒30を押し出す前の状態においては、突出端面部30bはキャビティ23の内壁面23aと面一となる部位に位置している。一方、図7(B)に示すように、押出し駒30が押し出されると、窪み部30cの底面は、キャビティ23の内壁面23aと面一となる部位に位置している。ただし、押出し駒30が押し出された場合において、窪み部30cの底面がキャビティ23の内壁面23aと面一となる部位に位置していなくても良い。
【0049】
ここで、図7(A)に示すように、未硬化樹脂がキャビティ23に流入されるときには、窪み部30cの存在により、キャビティ23に凹み部分が存在する状態となっている。しかしながら、既に上述したように、樹脂成形品40(外装部品)の表面に凸部からなるマークを形成した場合、そのフローマークは主に樹脂成形品40(外装部品)の裏面に形成されることが確認されている。そのため、窪み部の影響によるフローマークは、樹脂成形品40(外装部品)の裏面側に生じるため、図7(A)に示す未硬化樹脂の流入時には、キャビティ23のうちシリンダー穴28が存在する側(樹脂成形品40の表面側)にフローマークの影響はほとんど生じない。そのため、図7に示すような押出し駒30を用いる場合においても、未硬化樹脂の流れの下流側においてフローマークが形成されるのを防止可能となる。
【0050】
(4−2)変形例その2
上述の実施の形態において、押出し駒30を押し出すタイミングを、以下のようにしても良い。すなわち、未硬化樹脂が硬化する場合、樹脂成形品40においては、硬化収縮によっていわゆるヒケが発生する。そこで、硬化が始まった状態において、その硬化の進行と共に徐々に押出し駒30を押し出すようにしても良い。このように、押出し駒30の押し出しによる凹部41の形成を、ヒケと歩調をあわせて形成するようにすれば、樹脂成形品40においてヒケの影響を軽減可能となり、樹脂成形品40の寸法精度を向上させることが可能となる。ここで、ヒケと歩調をあわせるように押出し駒30を押し込む場合において、その押出し駒30の内部端面30aを若干加熱し、樹脂成形品40の成形品を若干再溶融させるようにしても良い。
【0051】
(4−3)変形例その3
上述の変形例2において、または上述の変形例2とは別に、押出し駒30を、たとえば制御部によって駆動が制御されるアクチュエーター等の駆動によって押し出すように構成しても良い。この場合、ピストン29は、アクチュエーターの駆動力伝達機構に連結される状態となる。また、この場合には、ガス圧導入管路27はピストン29に混合ガスのガス圧を及ぼす構成としても良いが、ガス圧導入管路27はピストン29に混合ガスのガス圧を及ぼす構成とはせずに(すなわち、ガス圧導入管路27はシリンダー穴28には接続されずに)、別途のチャンバーに接続され、このチャンバーにおけるガス圧を検出するガス圧検出センサーが設けられる構成としても良い。
【0052】
ガス圧導入管路27が上述のチャンバーに接続され、さらにガス圧検出センサーが設けられる場合、制御部は、予め設定されているガス圧閾値にガス圧が到達した場合には、アクチュエーターを作動させて、押出し駒30を押し出すようにする。このようにすれば、ガス圧をトリガーとして、押出し駒30を押し出す構成とすることが可能となる。
【0053】
なお、上述のように、ガス圧をトリガーとして、押出し駒30を押し出す構成とする場合、ガス圧がガス圧閾値に到達してから即座にアクチュエーターを作動させて押出し駒30を押し出すようにしても良いが、ガス圧がガス圧閾値に到達してから所定の時間が経過した後に、アクチュエーターを作動させて押出し駒30を押し出すようにしても良い。ガス圧がガス圧閾値に到達してから所定の時間が経過した後に押出し駒30を押し出す場合、その押し出すタイミングを、樹脂成形品40の硬化の進行に鑑みて最適化させることが可能となる。それにより、凹部41からなるマークを有する樹脂成形品40(外装部品)において、品質を向上させることが可能となる。
【0054】
(4−4)変形例その4
上述の変形例その3においては、ガス圧がガス圧閾値に到達してから所定の時間が経過した後に押出し駒30を押し出す場合について説明している。しかしながら、この所定の時間は、未硬化樹脂におけるガラス転移温度との兼ね合いで決定するようにしても良い。たとえば、金型装置10の冷却機構の作動により、金型装置10の温度が一定である場合においては、未硬化樹脂のキャビティ23への充填と、未硬化樹脂がガラス転移温度まで冷却されるタイミングとは、相関性がある状態となる。そのため、この所定の時間の決定は、ガラス転移温度まで冷却される時間と対応させて、決定するようにしても良い。
【0055】
(4−5)変形例その5
また、上述の実施の形態においては、シリンダー穴28のうち、押出し駒30が摺動する部位と、ピストン29が摺動する部位とで、その直径を変えるようにしても良い。すなわち、シリンダー穴28のうちピストン29が摺動する部位は、パスカルの原理を利用して、ガス圧の作用によって押出し駒30を押し出す力を最適化するようにしても良い。また、シリンダー穴28のうち押出し駒30が摺動する部位は、樹脂成形品40に形成する凹部41の大きさに対応させて、その直径を最適化するようにしても良い。
【0056】
(4−6)変形例その6
上述の実施の形態において、シリンダー穴28の断面形状は、種々の形状を採用することが可能である。このシリンダー穴28の断面形状は、たとえば円形状、三角形状、矩形状等の多角形状、凹部41として樹脂成形品40(外装部品)に形成するマークに対応させた形状等、種々の形状を採用することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
10…金型、21…第1の型、22…第2の型、23…キャビティ、23a…内壁面、24…スプルー、25…ゲート、26…ガスベント、27…ガス圧導入管路、27a…分岐管部、27b…本管部、28…シリンダー穴、28a…開口部、29…ピストン、29a,29b…端面、30…押出し駒、30a…内部端面、31…連結部材、40…樹脂成形品、41…凹部、32…スプリング(付勢手段の一例に対応)、33…第1のストッパ(第1の位置決め部材の一例に対応)、34…第2のストッパ(第2の位置決め部材の一例に対応)、40…樹脂成形品、41…凹部、50…突出部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の型と第2の型が接合されてなるキャビティ内に未硬化樹脂が導入される金型装置であって、
前記キャビティと連通するガスベントに一端側が接続されると共に、前記キャビティから排出される気体が導入されるガス圧導入管路と、
前記ガス圧導入管路の他端側が接続されると共に、前記第1の型または前記第2の型の少なくとも一方に設けられ、その開口部が前記キャビティに連通するシリンダー穴と、
前記シリンダー穴における前記気体の圧力に応じて当該シリンダー穴を移動させられる押出し駒と、
前記シリンダー穴に設けられると共に、前記押出し駒の前記シリンダー穴における引き込み位置を制限する第1の位置決め部材と、
を具備し、
前記押出し駒の前記開口部側の端面は、前記第1の位置決め部材によって前記押出し駒が位置決めされている状態においては前記第1の型または前記第2の型の内壁面と面一となる部位に位置していて、
前記ガス圧導入管路を介して前記シリンダー穴に導入される前記気体の圧力が増大した後に、前記押出し駒は、前記端面が面一な位置よりも前記キャビティの内部に押し出される、
ことを特徴とする金型装置。
【請求項2】
請求項1記載の金型装置であって、
前記シリンダー穴には、当該シリンダー穴を封止しつつ前記気体の圧力によって前記シリンダー穴に沿って移動させられるピストンが設けられ、このピストンは前記押出し駒に連結されていて、
前記ピストンのうち前記押出し駒と対向しない側の非対向端面には、前記ピストンを前記開口部から引き込む向きの付勢力を与える付勢手段が連結されている、
ことを特徴とする金型装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の金型装置であって、
前記シリンダー穴には、前記押出し駒が前記シリンダー穴から突出する突出長さを制限する第2の位置決め部材が設けられている、
ことを特徴とする金型装置。
【請求項4】
第1の型と第2の型が接合されてなるキャビティ内に未硬化樹脂が導入される金型装置であり、この金型装置は、前記キャビティと連通するガスベントに一端側が接続されると共に、前記キャビティから排出される気体が導入されるガス圧導入管路と、前記ガス圧導入管路の他端側が接続されると共に、前記第1の型または前記第2の型の少なくとも一方に設けられ、その開口部が前記キャビティに連通するシリンダー穴と、前記シリンダー穴における前記気体の圧力に応じて当該シリンダー穴を移動させられる押出し駒と、を具備していて、
前記押出し駒の前記開口部側の端面を、前記第1の型または前記第2の型の内壁面と面一となる部位に位置させた状態で前記キャビティ内に前記未硬化樹脂を流入させる樹脂流入工程と、
前記樹脂流入工程によって前記キャビティ内に前記未硬化樹脂が流入される際に前記キャビティから排出される前記気体の圧力を前記ガス圧導入管路を介して前記シリンダー穴に作用させ、前記ガス圧導入管路を介して前記シリンダー穴に導入される前記気体の圧力が増大した後に、前記押出し駒を前記端面が面一な位置よりも前記キャビティの内部に押し出させる押出し工程と、
を具備することを特徴とする成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−223987(P2012−223987A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93782(P2011−93782)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】