説明

金型

【課題】残留応力等による変形の少ない金型を提供する。
【解決手段】本発明の金型10,100は、固定部20,120と、前記固定部20,120に対して相対移動可能で、前記固定部20,120に近接したときに、前記固定部20,120との間に成形品の材料となる液状樹脂が流入されるキャビティ10cを形成する可動部30,130と、前記可動部30,130を前記固定部20,120に対して押圧する押圧部7と、前記押圧部7によって前記可動部30,130が前記固定部20,120に対して押圧された状態で、前記キャビティ10cに前記液状樹脂が注入され、前記可動部30,130が前記固定部20,120から離れる方向に移動したときに、前記押圧部7の押圧力に抗して前記可動部30,130をその移動した位置に保持可能な保持部41,400と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金型は、固定部と、該固定部に対して相対移動する可動部とを備える。そして、可動部と固定部との間に、成形品を製造するためのキャビティが形成されている。さらに、可動部を固定部に対して加圧する加圧機構が設けられ、キャビティに成形品の材料である液状樹脂を注入する際に、固定部と可動部との間には加圧機構により型締力が加えられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−132062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂の注入時には、上述のように加圧機構によって、固定部と移動部との間には、型締力が加えられているが、樹脂の射出の際に、その樹脂圧によって移動部が固定部から離れる方向に押されてわずかに移動する。その移動部は、キャビティ内の樹脂の固化が進み樹脂圧が下がってくると、固定部側の射出前の位置に戻ろうとする。
射出された樹脂は、樹脂の注入ゲートから遠い部分から固化してくるため、移動部が固定部側に戻る際、ゲートから遠い部分は、すでに固化が進んでいる。このため、移動部の移動により、金型の形状を転写した面が型締力によって潰れ、形状が崩れて残留応力が大きい成形品が成形される可能性がある。このような成形品は、製品に組み込んだ後、残留応力の緩和によってさらに形状が変化し、製品が動作しなくなる可能性がある。
【0005】
本発明の課題は、残留応力等による変形の少ない金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
【0007】
請求項1に記載の発明は、固定部(20,120)と、前記固定部(20,120)に対して相対移動可能で、前記固定部(20,120)に対して押圧されて近接したときに、前記固定部(20,120)との間に成形品の材料となる液状樹脂が流入されるキャビティ(10c)を形成する可動部(30,130)と、前記可動部(30,130)が前記固定部(20,120)に対して押圧された状態で、前記キャビティ(10c)に前記液状樹脂が注入され、前記可動部(30,130)が前記固定部(20,120)から離れる方向に移動したときに、その押圧力に抗して前記可動部(30,130)をその移動した位置に保持可能な保持部(41,400)と、を備えることを特徴とする金型(10,100)である。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の金型(10,100)であって、前記保持部は、アクチュエータ(41)であること、を特徴とする金型(10,100)である。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の金型(10,100)であって、前記保持部は、ラチェット(400)であること、を特徴とする金型(10,100)である。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金型(100)であって、前記固定部(120)には、該固定部(120)から離れるに従い前記キャビティ(10c)の中心から離れる方向に傾いたピン(121)が植設され、前記可動部(130)には前記キャビティ(10c)の側面を形成する3つのブロック部材(131)が取り付けられ、前記ブロック部材(131)には前記ピン(121)に案内される案内穴(131B)が設けられ、前記可動部(30,130)が前記固定部(20,120)に近づくと、前記案内穴(131B)に前記ピン(121)が挿入され、前記ピン(121)に案内されて前記ブロック部材(131)が前記キャビティ(10c)の中心に向かって移動し、前記キャビティ(10c)を形成すること、を特徴とする金型(10,100)である。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金型(10,100)であって、前記保持部(41,400)が前記可動部(30,130)を保持するタイミングを計測する計測部材(43)を備えること、を特徴とする金型(10,100)である。
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の金型(10,100)であって、前記計測部材は変位センサ(43)であること、を特徴とする金型(10,100)である。
請求項7に記載の発明は、請求項5に記載の金型(10,100)であって、前記計測部材はタイマであること、を特徴とする金型(10,100)である。
なお、符号を付して説明した構成は、適宜改良してもよく、また、少なくとも一部を他の構成物に代替してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、残留応力等による変形の少ない金型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態である金型を概念的に示す断面図である。
【図2】金型を用いた射出成形全体の工程図である。
【図3】金型位置維持制御のフローチャートである。
【図4】第2実施形態の金型を概念的に示す断面図である。
【図5】図4のA−A断面に相当する可動部の型割面を示す図である。
【図6】第2実施形態の金型による成形品の斜視図である。
【図7】可動部におけるスライドの構成および作用を説明する部分拡大概念図である。
【図8】第2実施形態の金型による射出成形時の可動部におけるスライドの移動量と樹脂圧との関係を示すグラフである。
【図9】本実施形態を適用しない金型による射出成形時の可動部におけるスライドの移動量と樹脂圧との関係を示す比較例のグラフである。
【図10】係合して可動部の位置を維持する可動部保持機構の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
以下、図面等を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明における金型の一実施形態である金型10を概念的に示す断面図である。
【0011】
図1に示す金型10は、円筒状の成形品1を成形するものである。成形品1は、たとえば、光学装置等においてレンズ等を保持する円筒状の部材であって、光学性能を確保するために所定の精度を必要とする部品である。
金型10は、コアを備える固定部20と、キャビティ10Cを形成する可動部30とにより構成されている。また、金型10は、後述する可動部保持機構40を備えている。また、金型10は、既知の射出成形装置(図示せず)に装着されるものであって、金型10の可動部30は、押圧装置7により固定部20に押圧される。
【0012】
固定部20は、固定側取付板2とともに、射出成形装置に装着されている。固定部20および固定側取付板2には、溶融樹脂を供給するスプルー10Sが貫通形成されている。
可動部30は、受け板31とスペーサブロック4とを介して設けられた可動側取付板3とともに射出成形装置に装着されている。スペーサブロック4の内部には、詳細な説明は省略するが、エジェクタプレート5およびリタンピン6等が設けられており、エジェクタプレート5からスプルーロックピン51およびエジェクタピン52が受け板31および可動部30を貫通して設けられている。
【0013】
また、可動部30には、後述する可動部保持機構40の構成要素であるアクチュエータ41が設けられている。
アクチュエータ41は、たとえば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電体による圧電アクチュエータ等である。アクチュエータ41は、所定径および長さの円柱状に形成され、軸方向に伸縮駆動し、その端面が平坦な作用面41Aとなっている。
【0014】
そして、アクチュエータ41は、可動部30の型割り面30Aに形成された装着孔32に設けられている。アクチュエータ41は、その作用面41Aが、不作動状態では型割り面41Bに一致または型割り面41Bから所定量引っ込み、型割り面30Aから所定の力で所定量突出作動するようになっている。アクチュエータ41は、キャビティ10Cの周囲にたとえば等角度間隔で3箇所(すなわち120度間隔で)配置されている。
固定部20および可動部30には、図示しないが、それぞれ内部に熱媒体流路が形成されており、熱媒体流路に供給される水や油等の熱媒体によって温度制御が可能となっている。
【0015】
可動部保持機構40は、可動部30に設けられたアクチュエータ41と、固定部20に支持部材42を介して装着された変位センサ43と、可動部30に装着された被検知部材44と、アクチュエータ41を駆動制御する制御装置45と、により構成されている。
【0016】
変位センサ43は、被検知部材44と対向しており、被検知部材44の型締め方向における位置を検知する。これにより、可動部30の固定部20に対する型締め方向における位置変化を検出することができるようになっている。このセンサ43による検知情報(可動部30の固定部20に対する位置情報)は、制御装置45に入力される。
【0017】
制御装置45には、変位センサ43からの可動部30の固定部20に対する位置情報と、射出成形装置からの射出成形工程に関する情報と、が入力されるようになっている。制御装置45は、これらの入力情報に基づいて、成形時においてアクチュエータ41を駆動制御する。
【0018】
上記のように構成された金型10は、図示しない射出成形装置に装着され、成形作用を行う。可動部保持機構40は、この成形作用時において、制御装置45がアクチュエータ41を駆動制御して、成形品1の冷却固化による収縮に伴う可動部30の固定部20に対する移動を規制する金型位置維持制御を行う。
【0019】
つぎに、図2〜図4を参照して、金型10による成形工程と金型位置維持制御について説明する。図2は、金型10を用いた射出成形全体の工程図である。図3は、金型位置維持制御のフローチャートである。また、図2の工程図、図3のフローチャートおよび以下の説明においては、「ステップ」を「S」とも略記する。
【0020】
図2に示すように、射出成形は、可動部30を固定部20に所定の力で圧接させ(型閉じ・型締め工程S201)、固定部20と可動部30との間に形成されるキャビティ10Cにスプルー10Sからランナおよびゲートを介して溶融樹脂を圧入する(射出・保圧工程S202)。この射出・保圧工程S202と同期して、金型位置維持制御を開始する(S203)。そして、熱媒体流路に温度制御された熱冷媒を流通させて金型10の温度を制御し、樹脂を冷却固化させる(冷却工程S204)。樹脂が冷却固化すると、可動部30を型開き移動する(型開き工程S205)。金型位置維持制御は、型開き工程S205の開始と同期して終了する(S206)。型開き工程S205に伴って、エジェクタピン52によって成形品1をキャビティ10Cから突き出し(製品突き出し工程S207)、金型10から取り出す(製品取り出し工程S208)。
【0021】
つぎに、制御装置45による金型位置維持制御について説明する。
金型位置維持制御は、図3に示すように、射出成形装置から射出・保圧工程の開始情報が入力されると(S301)、変位センサ43から入力される検知情報(可動部30の位置情報)に基づいて、射出された樹脂圧によって固定部20に対して移動した可動部30の移動量を検出する(S302)。
【0022】
可動部30の移動量は、樹脂の射出中は増加し続け、射出が終了すると、冷却工程の開始と共に減少し始める。制御装置45は、その移動量の変曲点を測定し(S303)、変曲点を検知したらアクチュエータ41を駆動する。すなわち、アクチュエータ41の作用面41Aを、型割り面30Aから所定の力で所定量突出作動させる(S304)。
【0023】
その後、制御装置45は、冷却工程が終了し、型開き工程が開始された時点でアクチュエータ41の駆動を停止し、アクチュエータ41の作用面41Aを、型割り面41Bに一致または型割り面41Bから所定量引っ込ませる(S305)。
【0024】
上記のような金型位置維持制御により、キャビティ10C内の樹脂の固化・収縮に伴って可動部30が型締め初期位置に復帰することによる成形品の変形および変形に起因する残留応力を抑制できる。
【0025】
すなわち、可動部30は、射出・保圧工程から冷却工程終了(型開き工程)までの間、固定部20に所定の型締力で圧接されるが、射出・保圧工程においてキャビティ10Cに圧入された樹脂圧力によって型締力に抗して僅かながら固定部20から離間する方向に移動する。
【0026】
この移動した可動部30は、キャビティ10C内での樹脂(成形品1)の固化収縮に伴う樹脂圧の低下により、型締力によって徐々に型締め初期位置に復帰する。キャビティ10C内の樹脂は、ゲートから遠く、また金型10(キャビティ10C内面)と接触している部位(外面部)から固化する。
【0027】
このため、可動部30の復帰移動によって既に固化した部位は圧縮されることとなり、変形して残留応力を生ずる。このような残留応力を有する成形品1は、製品に組み込まれた後の使用時において残留応力が緩和することで変形し、精度劣化や故障の要因となる。
【0028】
金型位置維持制御は、アクチュエータ41によって、この可動部30の型締め初期位置への復帰を規制する。これにより、可動部30の復帰移動によって固化部位を圧縮することがなく、その結果、残留応力の発生を抑制できる。
【0029】
なお、上記金型位置維持制御は、制御装置45が、位置センサ41からの情報に基づいて、アクチュエータ41を制御して可動部30を所定位置に保持するものであるが、制御装置45による可動部30の位置制御はこの構成に限るものではない。
【0030】
すなわち、射出成形は、各工程の条件を維持しつつ連続的に行われるため、射出時の樹脂圧による可動部30の固定部20に対する移動量も一定化する。これにより、たとえば、射出時の樹脂圧による可動部30の固定部20に対する移動量とそのタイミングを試験的に求め、射出成形装置による成形工程とタイマ等を用いて同期させて、アクチュエータ41が駆動するように構成しても良い。
【0031】
[第2実施形態]
つぎに、図4〜図9に示す本発明の第2実施形態について説明する。
図4は、第2実施形態における金型100を概念的に示す断面図である。図5は、図4のA−A断面に相当する可動部130の型割面を示す図である。図6は、金型100による成形品101の斜視図である。図7は、可動部130におけるスライド131の構成および作用を説明する部分拡大図である。図8は、金型100による射出成形時の可動部130におけるスライド131の移動量と樹脂圧との関係を示すグラフである。図9は、本実施形態を適用しない金型による射出成形時の可動部におけるスライドの移動量と樹脂圧との関係を示す比較例のグラフである。
なお、本第2実施形態における金型100の基本的な構成および制御は、前述した第1実施形態と同様であり、同機能の構成要素には、同符号を付して説明は省略する。
【0032】
金型100は、図6に斜視図を示す成形品101を射出成形によって成形するものである。
成形品101は、前述した第1実施形態における成形品1と同様に、たとえば、光学装置等においてレンズ等を保持する部材であって、光学性能を確保するために所定の精度を必要とする部品である。成形品101の基本形状は、第1実施形態における成形品1と同様の円筒状であるが、外周面に略周方向に延びるカム溝101Cが形成されると共に内周面にはカム溝101Cと対応して突出部101Aが形成されている。このため、金型100は、より複雑な構成となっている。
【0033】
金型100は、固定部120と、可動部130と、可動部保持機構40を備えている。この金型100は、既知の射出成形装置(図示せず)に装着されるものである。
固定部120は、固定側プレート21及び固定側取付板2を介して射出成形装置のに装着されている。
可動部130は、積層された2枚の可動側プレート(可動側第1プレート33,可動側第2プレート34)、スペーサブロック4及び可動側取付板3を介して射出成形装置に装着されている。
【0034】
前述したように、成形品101は、その外周面にカム溝101Cが略周方向に延設されており、内周面にはカム溝101Cと対応する突出部101Aが形成されている。
このため、成形品101の内周部を形成する中子部分のパーティングラインP.Lは、突出部101Aの幅方向中央稜線部に設定されている。
また、カム溝101Cはアンダーカットとなるため、可動部130にはスライド131が設けられ、固定部120はスライド131を移動操作するアンギュラピン121とロッキングブロック122とを備えている。
【0035】
可動部130におけるスライド131は、成形品101の周囲(キャビティ10C)を等間隔で3分割して形成するように、それぞれ120°範囲で3組、放射方向に移動可能に設けられている。スライド131の外周側には、所定角度の被操作面131Aが形成されている。また、各スライド131には、アンギュラピン121が嵌合する案内孔131Bがそれぞれ被操作面131Aと平行に形成されている。
【0036】
ロッキングブロック122は、固定部120の型割面に、可動部130におけるスライド131と対応して3組設けられている。ロッキングブロック122の内周側には、スライド131の被操作面131Aと対応する角度の操作面122Aが形成されている。
アンギュラピン121は、各ロッキングブロック122における操作面122Aの内周側に隣接して、固定部120に植設されている。
【0037】
そして、上記のように構成された金型100は、型閉じ時には、可動部130におけるスライド131の案内孔131Bに固定部120におけるアンギュラピン121が嵌入し、このアンギュラピン121に案内されてスライド131が外周側から内周側に移動操作される。また、型締め時には、図7に示すように、固定部120におけるロッキングブロック122の操作面122Aがスライド131の被操作面131Aに圧接し、3組のスライド131を所定位置に押圧付勢する。
型開き時には、可動部130におけるスライド131は、固定部120におけるロッキングブロック122による押圧が解除され、アンギュラピン121によって外周側に退避操作される。
【0038】
可動部保持機構40は、前述した第1実施形態と同様に、可動部130に設けられたアクチュエータ41と、固定部20に支持部材42を介して装着された変位センサ43と、可動部30に装着された被検知部材44と、アクチュエータ41を駆動制御する制御装置45と、により構成されている。
【0039】
アクチュエータ41は、可動部130におけるスライド131と対応して3箇所に設けられている。
また、本第2実施形態では、変位センサ43により検知される被検知部材44は、可動部30本体ではなく、スライド131に結合されている。これにより、変位センサ43は、可動部30の移動によって操作され、可動部30と直交する方向に移動するスライド131の移動量を検知するようになっている。
【0040】
可動部保持機構40は、成形作用時において、制御装置45がアクチュエータ41を駆動制御して、成形品1の冷却固化による収縮に伴う可動部130の固定部120に対する移動を規制する金型位置維持制御を行う。この金型位置維持制御の内容は前述した第1実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0041】
ここで、本第2実施形態の金型100は、前述したように、型締力によって、固定部120におけるロッキングブロック122が、可動部130におけるスライド131を可動部130の移動方向と直交する方向に移動操作する構成である。このようなスライド131は、その複雑な移動操作構造から寸法誤差の集積等が生じ、樹脂圧によって移動し易く、また、移動による成形品101への影響も大きい。
【0042】
このような金型100による射出成形時に、可動部保持機構40によって金型位置維持制御を行って、可動部130におけるスライド131の移動量と樹脂圧の変化とを計測した結果を図8に示す。図8において、(a)は樹脂射出後の時間に対するスライド131の移動量を示し、(b)は樹脂射出後の時間に対する樹脂圧の変化を示す。
【0043】
金型位置維持制御は、図8(a)に示すように、射出直後の樹脂圧によってスライド131が固定部120に対して移動すると、そのピーク位置(最も移動した位置)で可動部130の位置を維持する。これにより、冷却工程に入って樹脂が固化収縮を始めても、スライド131が型締力によって移動することはなく、図8(b)に示すように樹脂圧は急速に低下して極めて低い値で推移する。その結果、スライド131の復帰移動によって成形品101における固化部位に圧縮力を作用させることがなく、成形品101における残留応力の発生を抑制できる。
【0044】
一方、金型位置維持制御を行わない場合には、比較例である図9(a)に示すように、スライド131は、射出直後の樹脂圧によってピーク位置まで移動した後、冷却工程に入って樹脂が固化収縮を始めるとそれに伴って型締力で徐々に復帰移動する。これにより、図9(b)に示すように、樹脂圧は、ある程度以下には低下せず、樹脂の固化が進行すると却って僅かながら上昇する。これは、スライド131によって成形品が圧縮されていることを示している。このスライド131による圧縮が、成形品に残留応力を生じさせる。前述したように、本構成ではこのようなことはなく、残留応力の発生を抑制することができるものである。
【0045】
以上、本実施形態によると、以下の効果を有する。
(1)可動部保持機構40は、キャビティ10Cに圧入された樹脂圧力によって型締力に抗して固定部20から離間する方向に移動した可動部30の、樹脂(成形品1)の固化収縮に伴う樹脂圧の低下による復帰移動を、アクチュエータ41が規制する。これにより、可動部30の復帰移動によって、キャビティ10C内における固化部位を圧縮することがなく、その結果、成形品1における残留応力の発生を抑制できるものである。
【0046】
(2)第2実施形態では、可動部保持機構40は、キャビティ10Cに圧入された樹脂圧力によって移動した可動部130におけるスライド131の、樹脂(成形品101)の固化収縮に伴う樹脂圧の低下による復帰移動を、アクチュエータ41が可動部130の移動を規制することで抑制する。これにより、型締力によってスライド131が復帰移動してキャビティ10C内における固化部位を圧縮することがなく、その結果、成形品101における残留応力の発生を抑制できる。
【0047】
(変形形態)
以上、説明した実施形態に限定されることなく、以下に示すような種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の範囲内である。
(1)本実施形態では、可動部保持機構40におけるアクチュエータ41を圧電アクチュエータとして説明した。しかし、アクチュエータ41は圧電アクチュエータに限らず、たとえば、モータによって回転駆動される送りネジによって作用部が進退する構成のもの等、適宜変更可能である。
(2)本実施形態では、可動部保持機構40におけるアクチュエータ41は、可動部30,130に配設されている。しかし、アクチュエータ41は、固定部20,120に配設しても良い。
【0048】
(3)本実施形態では、可動部保持機構40における制御装置45が、固定部20,120に直接作用するアクチュエータ41を駆動制御して成形品1の冷却固化による収縮に伴う可動部30,130の固定部20,120に対する移動を規制する金型位置維持制御を行う。しかし、可動部保持機構は、このような制御によるものでなく、係合等の機械的な構成で可動部の位置を維持するように構成しても良い、
【0049】
図10に、係合によって可動部30の位置を維持する可動部保持機構400の例を示す。
図10に示す可動部保持機構400は、固定部20に設けられた係合歯列420と、可動部30に設けられた係合機構430とにより構成された、いわゆるラチェット機構である。
【0050】
係合歯列420は、可動部30の移動方向と直交する係合面421Aと、係合面421Aの頂部と固定部20側に隣接する係合面421Aの基部とを繋ぐ斜めの操作面421Bと、を備える同形状の歯421が、可動部30の移動方向に複数配設されてノコギリ歯状に形成されている。
【0051】
係合機構430は、可動部30に揺動可能に装着されたアーム431と、アーム431を揺動操作する油圧シリンダ等の操作アクチュエータ432と、アーム431の先端に回動可能に支持された係合爪433と、係合爪433を揺動付勢するスプリング434と、により構成されている。
係合爪433は、係合側(固定部20側)の端面が、係合歯列420における係合歯421と係合する姿勢より図中時計回りには回動しないように装着されており、この姿勢にスプリング434によって付勢されている。
【0052】
操作アクチュエータ432は、アーム431を、図9(a)に示すようにその保持する係合爪433が係合歯列420における係合歯421と係合する位置(係合状態)と、図9(b)に示すように係合爪433が係合歯列420に係合しない位置(係合解除状態)と、の間で揺動操作し得るようになっている。
【0053】
このように構成された可動部保持機構400は、図9(b)に示す係合解除状態で型閉じ・型締めを行った後、図9(a)に示す係合状態とする。これにより、射出工程において樹脂圧によって可動部30が固定部20から離間移動すると、係合爪433が図9(a)中二点鎖線で示すように揺動して係合歯列420における係合歯421を乗り越え、対応した係合歯421と係合する。以後、係合爪433の係合歯列420との係合が、可動部30の固定部20と近接する方向の移動を規制する。
【0054】
これにより、冷却工程において、樹脂の固化収縮に伴う樹脂圧の低下による可動部30の復帰移動を規制することができる。
型開き時には、操作アクチュエータ432を駆動して係合解除状態とすることで、円滑な型開きが可能となる共に、つづく型閉じを迅速に行える。
操作アクチュエータ432の駆動は、射出成形装置の駆動と連動するように構成すれば良い。
【0055】
なお、実施形態及び変形形態は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。また、本発明は以上説明した実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0056】
1,101:成形品、10,100:金型、10C:キャビティ、20,120:固定部、30,130:可動部、40,400:可動部保持機構、41:アクチュエータ、43:変位センサ、44:被検知部材、45:制御装置、121:アンギュラピン、122:ロッキングブロック、131:スライド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部と、
前記固定部に対して相対移動可能で、前記固定部に対して押圧されて近接したときに、前記固定部との間に成形品の材料となる液状樹脂が流入されるキャビティを形成する可動部と、
前記可動部が前記固定部に対して押圧された状態で、前記キャビティに前記液状樹脂が注入され、前記可動部が前記固定部から離れる方向に移動したときに、その押圧力に抗して前記可動部をその移動した位置に保持可能な保持部と、
を備えることを特徴とする金型。
【請求項2】
請求項1に記載の金型であって、
前記保持部は、アクチュエータであること、
を特徴とする金型。
【請求項3】
請求項1に記載の金型であって、
前記保持部は、ラチェットであること、
を特徴とする金型。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の金型であって、
前記固定部には、該固定部から離れるに従い前記キャビティの中心から離れる方向に傾いたピンが植設され、
前記可動部には前記キャビティの側面を形成する3つのブロック部材が取り付けられ、
前記ブロック部材には前記ピンに案内される案内穴が設けられ、
前記可動部が前記固定部に近づくと、前記案内穴に前記ピンが挿入され、前記ピンに案内されて前記ブロック部材が前記キャビティの中心に向かって移動し、前記キャビティを形成すること、
を特徴とする金型。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の金型であって、
前記保持部が前記可動部を保持するタイミングを計測する計測部材を備えること、
を特徴とする金型。
【請求項6】
請求項5に記載の金型であって、
前記計測部材は変位センサであること、
を特徴とする金型。
【請求項7】
請求項5に記載の金型であって、
前記計測部材はタイマであること、
を特徴とする金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−224055(P2012−224055A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95889(P2011−95889)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】