説明

金属−グラファイトシート複合体および電子機器

【課題】グラファイトシートの特性である良好な導電性と熱伝導性を基本にして、電気を伝えながら放熱することが確実かつ容易に行うことが出来る金属−グラファイトシート複合体および電子機器を提供すること。
【解決手段】発熱体50に熱的に接続して発熱体50の発生する熱を放熱するための金属−グラファイトシート複合体60であり、発熱体50に対して熱的に接続されるグラファイトシート70と、発熱体50に配置されて発熱体50の発生する電磁波を吸収してグラファイトシート70に対して熱的に接続されており、発熱体の熱を伝達するための放熱性のフィラーを有する電磁波吸収体75と、グラファイトシート70の一部分に配置される金属箔71と、グラファイトシート70を通じて伝導されてくる発熱体50の熱を放出するための熱放出対象部分61に対して、金属箔71を熱的に接続する熱的接続部74とを備える。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、発熱体に熱的に接続して発熱体の発生する熱を伝導するための金属−グラファイトシート複合体および金属−グラファイトシート複合体を有する電子機器に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
通常、熱伝導性の材料としては銅やアルミニウム等の金属材料が使われている。これらの材料は、通常の使用においては十分な機能を持ち広く使われている。しかしながら、金属材料は硬くフレキシブルでなく、局所的に大きな熱の発生が避けられず、その放熱は電流供給リード線では到底まかなうことができないため、放熱の機構を電流供給の機構とは別途に組み込む必要がある。このため電子素子の作成および使用に当たっての大きな妨げになっている。
具体的には、例えば半導体レーザチップの活性層に近い面をシリコンあるいは酸化ベリリウム、炭化シリコン、ダイヤモンドといった熱伝導性の比較的よい結晶性物質の小片に接着させて(この構造はいわゆるサブマウントと呼ばれる。)、放熱をよくしようということが行われている。
【0003】
さらに、半導体レーザチップにおいて高出力動作が必要な場合には、効率よく冷却するためにペルチエ素子の冷却側に、半導体レーザチップの活性層側を張り付けることなども実際に行われている。
炭素質材料は、軽量耐熱材料としてあるいは高強度材料として、各種の構造材料として使われている。このような炭素材料の中で炭素原子が6角形の網の目状に結合したグラファイトは、その高い熱伝導性を利用した放熱・電熱材料としての用途が広がろうとしている。
【0004】
特にシート状のグラファイトは、大きな面積のものを容易に作ることができるとともに、極めて高い熱伝導率を持ち、柔軟性に富んでいるため、熱伝達用の材料としてヒートコンダクターやヒートスプレッダーを必要とするところに用いられている。
このグラファイトシートは、比較的高い電気伝導率を持つため、電磁波ノイズのシールド材にもなりうる。ところが、電磁波ノイズ源にもなるたとえばLSI(大規模集積回路)チップからの放熱のために、このチップにグラファイトシートを貼ったり、このチップに直接ヒートシンクを接続した場合に、グラファイトシートは熱伝達材のみならずノイズ伝播材になる可能性がある。
【0005】
また、電磁波吸収材を発熱体に貼ることにより、電磁波ノイズを吸収することができるが、電磁波吸収材の熱伝導率が、アルミナや炭化ケイ素等の熱伝導性セラミックスや、セラミックス等のフィラーが含有されたシリコーンゴム系の放熱スペーサーに比較して低いため、発熱体と電磁波吸収材に熱がこもってしまうという問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
電気伝導度の大きな金属箔等の材料をシールド材として用いた場合、はんだ付けやねじ止め等の方法により、シールドをグランド(GND)に接続する必要がある。
一方、グラファイトシートは、柔軟性を有しかつ熱伝導率・電気伝導度は共に大きいが、その表面が非常に反応性に乏しいことから、グラファイトシートに対しては一般的にははんだ付け等の操作は困難である。またグラファイトシートを直接ねじ止めしようとしても、グラファイトシートそのものの強度が弱いため、グラファイトシートが破損しやすい。
以上のような点が、優れた熱伝導と導電性を持つというグラファイトシートのメリットを実際に利用する上で大きな課題となっていた。
【0007】
これまで、たとえば、特開平10−330177号公報には、グラファイトシートに金属薄膜を積層した構造が説明されている。しかし、金属薄膜は、真空蒸着、スパッタ蒸着、またはメッキによりグラファイトシート上に直接付着されているため、かなり薄い膜であり、ねじ止めなどには強度が低い。
また、特開平8−267647号公報には、レーザー加工により、グラファイトシートに穴を開けて1つの支持部材とを固着積層してなるグラファイトクラッド構造材が提案されている。ただし、この手法ではグラファイトシートの強度を上げることができるものの、プロセス上手間がかかるという難点があった。
そこで本発明は上記課題を解消し、グラファイトシートの特性である良好な導電性と熱伝導性を基本にして、電気を伝えながら放熱することが確実かつ容易に行うことが出来る金属−グラファイトシート複合体および電子機器を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、発熱体に熱的に接続して前記発熱体の発生する熱を放熱するための金属−グラファイトシート複合体であり、前記発熱体に対して熱的に接続されるグラファイトシートと、前記発熱体に配置されて前記発熱体の発生する電磁波を吸収して前記グラファイトシートに対して熱的に接続されており、前記発熱体の熱を伝達するための放熱性のフィラーを有する電磁波吸収体と、前記グラファイトシートの一部分に配置される金属箔と、前記グラファイトシートを通じて伝導されてくる前記発熱体の熱を放出するための熱放出対象部分に対して、前記金属箔を熱的に接続する熱的接続部と、を備えることを特徴とする金属−グラファイトシート複合体である。
【0009】
請求項1では、グラファイトシートは、発熱体に対して熱的に接続される。
電磁波吸収体は、発熱体に配置されて発熱体の発生する電磁波を吸収してグラファイトシートに対して熱的に接続されている。この電磁波吸収体は、発熱体の熱を伝達するための放熱性のフィラーを有している。
金属箔は、グラファイトシートの一部分に配置される。
熱的接続部は、グラファイトシートを通じて伝導されてくる発熱体の熱を放出するための熱放出対象部分に対して、金属箔を熱的に接続するためのものである。
これにより、発熱体の発生する熱は、電磁波吸収体とグラファイトシートおよび金属箔を通じて熱的接続部に伝えられる。熱的接続部はこの伝えられた熱を、熱放出対象部分に対して放出することができる。したがって、発熱体の熱が発熱体と電磁波吸収体にこもらず、グラファイトシートに伝えることができる。
従って、発熱体の発生する熱は、グラファイトシートの特性である良好な熱伝導性および電磁波吸収体の熱を伝える機能を利用して金属箔に伝えることができ、金属箔に伝えられた発熱体の熱は熱的接続部を通じて熱放出対象部分に対して確実にかつ簡単に放出することができる。
電磁波吸収体は、発熱体の発生する電磁波を吸収することができるので、この電磁波がグラファイトシートを伝わって他の電子素子等の部分に影響を与えることが無くなる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の金属−グラファイトシート複合体において、前記電磁波吸収体は、前記発熱体を覆っている。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1に記載の金属−グラファイトシート複合体において、前記発熱体と前記グラファイトシートの間には、さらに放熱スペーサーが配置されている。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1に記載の金属−グラファイトシート複合体において、前記熱的接続部は金属性のネジであり、前記熱放出対象部分は回路基板の導体部分であり、前記ネジが前記金属箔と前記グラファイトシートの一部分を前記導体部分側に固定している。
【0013】
請求項4では、熱的接続部である金属製のネジが、金属箔とグラファイトシートの一部分を回路基板の導体部分に対して固定しているので、仮にグラファイトシートに発熱体の発生する電磁波が伝わったとしても、この電磁波は金属製のネジを通じて回路基板の導体部分側に確実に逃がすことができる。
【0014】
請求項5の発明は、発熱体に熱的に接続して前記発熱体の発生する熱を放熱するための金属−グラファイトシート複合体を有する電子機器であり、前記発熱体に対して熱的に接続されるグラファイトシートと、前記発熱体に配置されて前記発熱体の発生する電磁波を吸収して前記グラファイトシートに対して熱的に接続されており、前記発熱体の熱を伝達するための放熱性のフィラーを有する電磁波吸収体と、前記グラファイトシートの一部分に配置される金属箔と、前記グラファイトシートを通じて伝導されてくる前記発熱体の熱を放出するための熱放出対象部分に対して、前記金属箔を熱的に接続する熱的接続部と、を備えることを特徴とする電子機器である。
【0015】
請求項5では、グラファイトシートは、発熱体に対して熱的に接続される。
電磁波吸収体は、発熱体に配置されて発熱体の発生する電磁波を吸収してグラファイトシートに対して熱的に接続されている。この電磁波吸収体は、発熱体の熱を伝達するための放熱性のフィラーを有している。
金属箔は、グラファイトシートの一部分に配置される。
熱的接続部は、グラファイトシートを通じて伝導されてくる発熱体の熱を放出するための熱放出対象部分に対して、金属箔を熱的に接続するためのものである。
これにより、発熱体の発生する熱は、電磁波吸収体とグラファイトシートおよび金属箔を通じて熱的接続部に伝えられる。熱的接続部はこの伝えられた熱を、熱放出対象部分に対して放出することができる。したがって、発熱体の熱が発熱体と電磁波吸収体にこもらず、グラファイトシートに伝えることができる。
従って、発熱体の発生する熱は、グラファイトシートの特性である良好な熱伝導性および電磁波吸収体の熱を伝える機能を利用して金属箔に伝えることができ、金属箔に伝えられた発熱体の熱は熱的接続部を通じて熱放出対象部分に対して確実にかつ簡単に放出することができる。
電磁波吸収体は、発熱体の発生する電磁波を吸収することができるので、この電磁波がグラファイトシートを伝わって他の電子素子等の部分に影響を与えることが無くなる。
【0016】
請求項6の発明は、請求項5に記載の電子機器において、前記電磁波吸収体は、前記発熱体を覆っている。
【0017】
請求項7の発明は、請求項5に記載の電子機器において、前記発熱体と前記グラファイトシートの間には、さらに放熱スペーサーが配置されている。
【0018】
請求項8の発明は、請求項5に記載の電子機器において、前記熱的接続部は金属製のネジであり、前記熱放出対象部分は回路基板の導体部分であり、前記ネジが前記金属箔と前記グラファイトシートの一部分を前記導体部分側に固定している。
【0019】
請求項8では、熱的接続部である金属製のネジが、金属箔とグラファイトシートの一部分を回路基板の導体部分に対して固定しているので、仮にグラファイトシートに発熱体の発生する電磁波が伝わったとしても、この電磁波は金属製のネジを通じて回路基板の導体部分側に確実に逃がすことができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0021】
図1は本発明の金属−グラファイトシート複合体を有する電子機器の好ましい実施の形態を示している。
図1に示す電子機器10は、一例としていわゆる携帯情報端末(PDA)である。この電子機器10は、筐体12と表示装置14を有している。
図2は、図1の電子機器10をさらに詳しく示している。
図1の電子機器10は、筐体12、表示装置14、入力装置20、およびパワーキー22、音声のボリューム調整部24、外部のイヤーホンをつなぐためのジャック27、他の機能を発揮させるためのキー26,28を有している。
【0022】
図1の入力装置20は、操作者(使用者)の部位、たとえば手Hの指Fにより操作することでポインタPの座標データを与えるためのものである。指Fは図1の例では人差指を用いているが、これに限らず他の指であっても勿論構わない。図2では、図1の表示画面30に表示した情報40の一例を表示している。図1と図2に示すように表示画面30にはポインタPを表示している。このポインタPは矢印形のポインタである。
【0023】
図2に示すように表示装置14の表示画面30には、ポインタPの他に、情報40や、各種機能を実施するためのキー44,46,48等が表示されている。キー42はキーボードを表示画面30に表示させるためのキーである。キー44は情報の検索に用いるキーである。キー46はメニューを表示画面30に表示するためのキーである。キー48はたとえば表示を英語表示か日本語表示に切り換えることができるキーである。これらのキー42,44,46,48の操作は指Fでタッチすることで行える。
【0024】
図2の筐体12は、第1部分12Aと第2部分12Bを有している。第1部分12Aは上筐体部分とも呼び、第2部分12Bは下筐体部分とも呼ぶ。第1部分12Aと第2部分12Bは重ねることにより、その中に空間を形成している。この空間には表示装置14や回路基板等が収容されている。
筐体12は、たとえばプラスチックであるABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PC(ポリカーボネート)、PC+ABS(ポリカーボネート+アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、変性PPE(ポリフェチレンエーテル)等により作られている。
図1に示すように、筐体12の中には、回路基板200が収容されている。この回路基板200は、たとえば表示装置14を駆動するための表示装置駆動回路や、入力装置20の機能を達成するための回路等を搭載している。
【0025】
図3は、図1に示す回路基板200の一部分を示しており、この回路基板200には、発熱素子の一例として、表示装置14の駆動を制御するためのCPU(中央処理装置)50が搭載されている。このCPU50の作動時に発生する熱は、金属−グラファイトシート複合体60により外部に放出できる構造になっている。
回路基板200の上にはグランド(GND)61が形成されている。このグランド61は、回路基板200の上に形成された導体部分(導体パターン)である。このグランド61と金属−グラファイトシート複合体60は、放熱装置(冷却装置ともいう)62を構成している。
【0026】
金属−グラファイトシート複合体60について、図3〜図5を参照しながら説明する。
金属−グラファイトシート複合体60は、グラファイトシート70と、金属箔71と、ラミネート材73と、熱的接続部74と、そして電磁波吸収体75を有している。
グラファイトシート70は、図6に示すようなカーボンが層状構造を取ったものであり、シートの面内の熱伝導率がたとえば400から1000W/mKと銅やアルミニウムなどの金属より高く、かつ密度が1g/cm程度と軽い材料である。同時に高い電気伝導性をもつ材料である。このグラファイトシート70をヒートコンダクタとして用いることにより、効率良く熱を伝達させることが可能である。
このグラファイトシート70は、主として炭素原子同士の結合面の方向、すなわち図6に示す面内方向の両方に放熱し得るような構成を有している。このグラファイトシート70は、図4における矢印R方向に沿って熱を伝えやすい。
【0027】
図4に示すように、グラファイトシート70の中央部70Aは、発熱体あるいは発熱素子ともいうCPU50の面50Aに対して、電磁波吸収体75を介して熱的に接続されている。この電磁波吸収体75は、CPU50が作動時に発生する熱を、グラファイトシート70側に効率良く伝達するための放熱性のフィラーを有しているものである。しかもこの電磁波吸収体75は、CPU50の発生する電磁波を吸収してグラファイトシート70の中央部70Aに対して熱的に接続されている。
【0028】
グラファイトシート70の両方の端部70Bは、回路基板200のグランド61側に位置している。
このグランド61は、熱放出対象部分に相当している。このグランド61を通じて、CPU50の発生する熱は図1の電子機器10の筐体12あるいは筐体12の外部に熱を放出することができる。グラファイトシート70は、良好な電気伝導性と熱伝導性を有している。
【0029】
図3と図4に示す金属箔71は、良好な電気伝導性および熱伝導性を有する金属、たとえば銅やアルミニウム等の一般的な金属を用いることができる。金属箔71としてこのような一般的な金属を用いることにより、はんだ付け等の作業が可能になる。
この金属箔71は、グラファイトシート70の2つの端部70Bにサンドイッチ状にそれぞれ包むようにして配置されている。
【0030】
金属箔71は、好ましくは内側に複数個の突起81を有している。この突起81は、図4のX方向、およびX方向とは垂直でかつ紙面に垂直なY方向に沿って、たとえばマトリックス状に配列されている。たとえば突起81の図4における断面形状はほぼ長方形状もしくは正方形状である。
このような複数の突起81を金属箔71に形成することにより、金属箔71がグラファイトシート70に対して接着される際に、金属箔71からグラファイトシート70に対する接着面積および熱伝導するための面積を、突起81が無い場合に比べて大幅に拡大することができるのである。これによって、金属箔71とグラファイトシート70の熱伝導性を向上することができる。
このように金属箔71は、グラファイトシート70の少なくとも一部分に配置されているが、この金属箔71はグラファイトシート70の端部70Bに限らずさらに広い部分に対して設けるようにしても勿論構わない。
【0031】
ラミネート材73は、グラファイトシート70を、ラミネートしている高分子シートである。
このラミネート材73は、金属箔71とグラファイトシート70の積層体の内のグラファイトシート70のほぼ全面にわたって閉じるようにがラミネートされている。
これにより、ラミネート材73は金属−グラファイトシート複合体60の強度を保つことができるばかりでなく、ラミネート材73はグラファイトシート70から生じるいわゆる粉落ち(粉状体の落下)を防ぐことができるという大きなメリットがある。
【0032】
しかもこのラミネート材73は、グラファイトシート70および金属箔71に対する外部からの電気的な絶縁を確保することができる。このラミネート材73は、グラファイトシート70と金属箔71をラミネートして囲んでいることから、不必要な部分での短絡を防止し、グラファイトシート70および金属箔71により伝えている熱が、図1に示す筐体12内の熱に弱い他の部位、たとえば熱に弱い電子素子に対して逃げないようにするというメリットもある。
このラミネート材73は、高分子シートであり、この高分子としてはPET(ポリエチレンテレフタレート)やポリ塩化ビニール、ポリイミド等や、シリコン等により作ることができるが、これに限るものではない。
【0033】
上述したようにグラファイトシート70とラミネート材73と金属箔71の積層体は、導電性を有する接着剤、たとえば導電性を有する両面テープを用いて接着している。これにより、グラファイトシート70と金属箔71の間の熱的および電気的な抵抗を小さく抑えて、グラファイトシート70と金属箔71とは良好な状態で熱的にかつ機械的に接着することができる。
また、ラミネート材73の厚さは10μm〜100μm程度であり、ラミネート材73が薄いほど、CPU50から電磁波吸収体75を介してグラファイトシート70へ熱を伝達しやすいが、kVオーダーレベルの静電対策が必要な場合は、ラミネート材73としては50μm〜100μm程度の厚さの高分子シートが用いられる。
【0034】
さらに、ラミネートされたグラファイトシート70に対して突起81が付けられた金属箔71で挟み込むことにより、金属箔71の突起81がグラファイトシート70まで食い込み、グラファイトシート70と金属箔71間の導通が容易に得られる。
この突起81の形状は、図3のように先端が丸型や円錐、三角錐等の種々のものが採用できるが、特に尖っていることが望ましい。
【0035】
図3と図4に示す熱的接続部74について説明する。
この熱的接続部74は、たとえば棒状体や図3と図4に示すネジ形状のものを採用することができる。熱的接続部74は、たとえば熱伝導性を有する金属製のネジを採用することができ、たとえば銅やアルミニウム等により作られている。この熱的接続部74は、金属箔71とグラファイトシート70およびグランド61を熱的かつ機械的に接続している。
【0036】
図5は、図4の熱的接続部74の付近を拡大して示している。
熱的接続部74は、金属製のネジであり、頭部74Aと雄ネジ部74Bを有している。頭部74Aは、金属箔71の外面に対して圧着される部分である。雄ネジ部74Pは、金属箔71の穴71A、ラミネートの穴73A、そしてグランド61の穴61Aを通って、回路基板200の雌ネジ部200Aにねじ込まれている。これによって、熱的接続部74は、回路基板200側に対して、金属箔71、ラミネート73およびグラファイトシート70の積層体を機械的かつ熱的に確実に固定することができるのである。
このような構造を採用することで、熱的接続部74が、露出している金属箔71の上からグランド61に対して熱的かつ機械的に接続することが容易に行える。
【0037】
CPU50が作動すると熱が発生すると共に電磁波がノイズとして発生する。この電磁波ノイズは、CPU50から電磁波吸収体75により吸収される。しかし電磁波吸収体75でもし吸収されない電磁波ノイズがあると、グラファイトシート70を通じて伝わり、グラファイトシート70は、ノイズのアンテナとなる可能性がある。
しかし、グラファイトシート70は金属箔71と共にグランド61に対して熱的接続部74を用いて熱的かつ電気的に接続されている。このことから、仮にこの電磁波ノイズはグラファイトシート70を仮に伝わったとしても、グランド61側に確実にかつ容易に逃がすことができるというメリットがある。
【0038】
上述したように発熱体であるCPU50は、熱を発生すると共に電磁波ノイズの発生源となる場合がある。ヒートコンダクターであるグラファイトシート70や図示しないヒートシンク等にCPU50を接続した場合には、グラファイトシート70等がノイズのアンテナとなる可能性がある。
そのために電磁波吸収体75としては、放熱機能を持たせた電磁波吸収シートを用いており、この電磁波吸収体75がCPU50のノイズの発生を抑えつつしかもCPU50からの熱をグラファイトシート70側に確実に伝えることができる能力を有している。
【0039】
ここで、電磁波吸収体75について説明する。
電磁波吸収体75は、電磁波吸収シート状のものである。この電磁波吸収体75は、電気絶縁性の基材とこの基材に含まれている放熱性のフィラーとしての電磁波吸収材料を有している。
基材は、ゴムや樹脂等の有機の電気絶縁物でありたとえばシリコーンゴムである。
電磁波吸収体75の電磁波吸収材料は、MeFe(Me=NiZn,MnZn,NiZnCu,MgMn等)の組成を持つ公知のスピネル型フェライト材料であり、粒径が0.1〜100μmの内、平均粒径が異なる3種類程度のフィラーである。
電磁波吸収体75は、基材であるシリコーンゴムを有する。シリコーンゴムの熱伝導率に比べ、フィライトの熱伝導率は1桁以上高いため、粒径が異なるフェライトを入れ、最適化することにより含有量を増やすことが出来、かつ熱伝導率も向上させることが可能となる。
【0040】
電磁波吸収材料の粒径が0.1μmよりも小さいと、シートを混錬する際に粘度が高くなりすぎ、シート性状が悪化する。また、吸収材料によっては透磁率が低下することがあるため好ましくない。
また電磁波吸収材料の粒径が100μmよりも大きいと、シートから粒子が落ちる(粉落ち)うえ、シート性状が悪化するため好ましくない。
【0041】
また、フィラーとしての電磁波吸収材料は、たとえば純Fe、Ni−Fe合金(パーマロイ)、Fe−Al−Si合金(センダスト)、Fe−Si合金(ケイ素鋼)、Fe−Al合金(合金アルパーム)、Fe−Co合金(パーメンジュール)および電磁ステンレス鋼から選んだ軟磁性金属のいずれか一種または複数の軟磁性金属から構成されるフレーク状粉末であって、粒径が0.01〜100μmであり、アスペクト比(直径/厚み)が5〜100である偏平粉末を、ゴム、樹脂等の有機絶縁物の基材中に体積充填率30〜65vol%含有し、配向分散させて厚みを0.05〜3mmの任意の厚みに調整した材料であっても良い。このフィラーはフェライト粉末よりも磁気損失μ’’が高いため、電磁波吸収特性が向上する。熱伝導率が高い金属系のフィラーは放熱にも寄与する。
【0042】
電磁波吸収材のフィラーの粒径が0.01μmよりも小さいと、シートを混錬する際に粘度が高くなりすぎ、シート性状が悪化する。また、吸収材料によっては透磁率が低下することがあるため好ましくない。
電磁波吸収材のフィラーの粒径が100μmよりも大きいと、シートから粒子が落ちる(粉落ち)うえ、シート性状が悪化するため好ましくない。
【0043】
電磁波吸収材のフィラーのアスペクト比が5よりも小さいと、吸収周波数が高くなりすぎるため、好ましくなく、アスペクト比が100よりも大きいと、吸収周波数が低い領域に移るため、好ましくない。
【0044】
偏平粉末の体積充填率が30vol%よりも小さいと、吸収性能が低下するので好ましくなく、体積充填率が65vol%よりも大きいと、シート混錬するのが困難になり、また粉落ちがあるので好ましくない。
【0045】
また厚みが0.05mmよりも薄いと、シート形成が困難になり、かつハンドリングが難しくなる点で好ましくなく、厚みが3mmよりも厚いと、機器側にスペースを確保するのが難しくなる点で好ましくない。
【0046】
また、フィラーとしての電磁波吸収材料間の隙間を埋め、電磁波吸収体75の熱伝導率を高めるために、粒径が0.01〜50μmのアルミナや窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミ、炭化ケイ素等の球状もしくは破砕形状のセラミックスや、表面が絶縁材でコーティングされた粒径が0.01〜5μmの銅やニッケルやアルミニウム等の金属球を用いても良い。
ここで粒径が0.01μmよりも小さいと、電磁波吸収シートにしめるセラミックスの含有量が少なく、熱伝導にほとんど寄与しなくなる点で好ましくなく、50μmよりも大きいと、シートが硬くなるため、本来は柔らかいために発熱体と密着性がよい放熱スペーサーとしての機能を果たせなくなってしまう点で好ましくない。
【0047】
電磁波吸収体75の厚さが厚いほど、電磁波吸収特性が向上するが、グラファイトシートと比べると熱伝導率が低いため、熱がこもりやすくなることから、好ましくは0.05mm〜2mm程度の厚さとすることが好適である。
【0048】
図3と図4に戻ると、グラファイトシート70の炭素原子同士の結合面は、グラファイトシート70の面にほぼ並行になっている。ラミネート材73は、グラファイトシート70の粉落ちを防ぐために袋とじの形でラミネートしている。このラミネート材73は、不要な部分でのグラファイトシート70の短絡を防ぐことができるというメリットもある。このグラファイトシート70は、ヒートスプレッダとしての役割を果たす。
金属箔71は、上述したように銅やアルミニウム等の一般的な導電性および熱伝導性を有する金属により作られているが、その厚みが目的や用途によって決められるものであり、典型的には30〜100μmである。
【0049】
次に、図3と図4に示す金属−グラファイトシート複合体60の作用について説明する。
回路基板200のCPU50が動作すると、CPU50は熱と電磁波ノイズを発生する。CPU50の熱は、電磁波吸収体75を介してグラファイトシート70の中央部70Aに伝わる。グラファイトシート70はこのCPU50の熱を中央部70AからR方向に沿って一端部70B側に伝える。この熱は、金属箔71に対して突起81等を介して伝導されるとともに、熱的接続部74を通じてグランド61側に伝えられる。この伝わってくる熱は、グランド61を通じてたとえば図1の筐体12の中の金属部分やあるいは筐体12の外部に放出されることになる。電磁波ノイズは電磁波吸収体75に吸収される。もしも吸収されなかった電磁波ノイズがグラファイトシート70に伝わったとしても、このノイズは金属箔71と熱的接続部74を通じてグランド61に逃がすことができる。したがってノイズが他の回路に悪影響を与えることはない。
【0050】
図7は、本発明の別の実施の形態を示している。
図7の金属−グラファイトシート複合体60では、グラファイトシート70の一方側の端部70B側に対してのみ金属箔71が設けられている。そしてこの金属箔71とグラファイトシート70は熱的接続部74を用いて回路基板200のグランド61に熱的かつ電気的に接続されている。
【0051】
グラファイトシート70のもう1つの端部70Bには、ヒートシンク300が熱的に接続されている。このヒートシンク300には、数個の熱交換用の突起301がマトリックス状に配列されている。このヒートシンク300の突起301を設けることにより、ヒートシンク300の放熱面積を大きくすることができ、たとえば図示しないファンモータのファンを回転することにより、風Wをヒートシンク300の突起301に当てれば、CPU50が発生する熱をより確実に放熱することができる。
図7の実施の形態の金属−グラファイトシート複合体60の他の部分は、図3に示す金属−グラファイトシート複合体60の対応する部分と同じであるのでその説明を用いることにする。
【0052】
図8は、本発明の金属−グラファイトシート複合体60の別の実施の形態を示している。図8の実施の形態の金属−グラファイトシート複合体60は、図3の金属−グラファイトシート複合体60とほぼ同じであるが、放熱スペーサー330が追加されている点が異なる。この放熱スペーサー330は、電磁波吸収体75に重ねるようにして配置している。
しかしこれに限らず電磁波吸収体75を取り除いて放熱スペーサー330だけをCPU50とグラファイトシート70の中央部70Aの間に配置しても良い。この放熱スペーサー330は、たとえば粒径が異なる、粒径が0.01〜50μmのアルミナや窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミ、炭化ケイ素等の球状もしくは破砕形状のセラミックスや、表面が絶縁材でコーティングされた粒径が0.01〜5μmの銅やニッケルやアルミニウム等の金属球の内の1種類もしくは2種類以上の組み合わせとシリコーンゴムもしくはアクリル系統のゴムにより作られているが、この放熱スペーサー330が電磁波吸収体75に重ねて配置することにより、電磁波吸収体からグラファイトシートに効率よく熱伝達を行うことが可能であるメリットがある。
また電磁波吸収体75を取り除いて放熱スペーサー330を設けることにより電磁波吸収体の熱抵抗分をなくすメリットがある。
【0053】
次に図9と図10は、本発明のさらに別の実施の形態を示している。
図9に示すように、CPU50の上には、金属−グラファイトシート複合体60が被せてある。この金属−グラファイトシート複合体60の四隅位置にはそれぞれ金属箔71が配置されている。すなわち金属−グラファイトシート複合体60のグラファイトシート70の四隅部分が、金属箔71によりサンドイッチ状に挟まれた状態で、しかも熱的接続部74によりグランド61に対して熱的かつ機械的に固定されている。
【0054】
CPU50は、金属−グラファイトシート複合体60を完全に覆い被せているが、図10に示すようにCPU50は、電磁波吸収体75により覆い被されている。この電磁波吸収体75の上には、上述した金属−グラファイトシート複合体60がさらに覆い被されている。金属−グラファイトシート複合体60の四隅が、金属製のネジである熱的接続部74により回路基板200のグランド61に対して熱的かつ機械的に固定されている。
電磁波吸収体75はたとえばフェライトが添加された一例として1mmの厚みのシートである。グラファイトシート70は熱伝導性の粘着層を用い、かつラミネート材73で絶縁されている。このグラファイトシート70を含む金属−グラファイトシート複合体60は、CPU50等による凹凸に対して追従性良く粘着できるために、金属−グラファイトシート複合体60は四隅においても確実に固定することができる。仮にグラファイトシート70の粘着層の接着力が弱くなったとしても、金属−グラファイトシート複合体60の四隅がねじ止めされているためにこの金属−グラファイトシート複合体60が回路基板200の表面から外れてしまうことはない。
【0055】
本発明の金属−グラファイトシート複合体60では、グラファイトシート70と金属箔71とが良好な接着性をもって接着されており、そしてこのような金属箔71が設けられていることから、発熱素子であるCPU50のアースをとることができると同時に、CPU50の発生する熱を放出することができる。
【0056】
なお、熱的接続部74と金属箔71は両方とも金属なので容易にはんだ付け等で電気的に確実に接合することができる。
金属箔71に対して突起81を設けることにより、この突起がグラファイトシート70に対して食い込むようにして電気的、機械的および熱的に接続することができる。
【0057】
ところで、本発明の金属−グラファイトシート複合体を有する電子機器は、図示した携帯情報端末(PDA)に限らず、他の種類の情報関連機器であるたとえば、携帯電話機や携帯型コンピュータあるいはその他の種類の電子機器をも含むものである。
【0058】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、グラファイトシートの特性である良好な導電性と熱伝導性を基本にして、電気を伝えながら放熱することが確実かつ容易に行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の金属−グラファイトシート複合体を有する電子機器の一例を示す斜視図。
【図2】図1の電子機器を拡大して示す斜視図。
【図3】電子機器の回路基板に搭載されている金属−グラファイトシート複合体を示す斜視図。
【図4】図3の金属−グラファイトシート複合体の断面を有する側面図。
【図5】図4の金属−グラファイトシート複合体の一部を拡大して示す図。
【図6】グラファイトシートの層構造の例を示す図。
【図7】本発明の金属−グラファイトシート複合体の別の実施の形態を示す図。
【図8】本発明の金属−グラファイトシート複合体のさらに別の実施の形態を示す図。
【図9】本発明の金属−グラファイトシート複合体のさらに別の実施の形態を示す図。
【図10】図9の実施の形態における断面構造例を示す図。
【符号の説明】
10・・・電子機器、50・・・CPU(発熱体あるいは発熱素子の一例)、60・・・金属−グラファイトシート複合体、61・・・グランド(熱放出対象部分)、62・・・放熱装置、70・・・グラファイトシート、71・・・金属箔、73・・・ラミネート材、74・・・熱的接続部、75・・・電磁波吸収体、200・・・回路基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体に熱的に接続して前記発熱体の発生する熱を放熱するための金属−グラファイトシート複合体であり、
前記発熱体に対して熱的に接続されるグラファイトシートと、
前記発熱体に配置されて前記発熱体の発生する電磁波を吸収して前記グラファイトシートに対して熱的に接続されており、前記発熱体の熱を伝達するための放熱性のフィラーを有する電磁波吸収体と、
前記グラファイトシートの一部分に配置される金属箔と、
前記グラファイトシートを通じて伝導されてくる前記発熱体の熱を放出するための熱放出対象部分に対して、前記金属箔を熱的に接続する熱的接続部と、
を備えることを特徴とする金属−グラファイトシート複合体。
【請求項2】
前記電磁波吸収体は、前記発熱体を覆っている請求項1に記載の金属−グラファイトシート複合体。
【請求項3】
前記発熱体と前記グラファイトシートの間には、さらに放熱スペーサーが配置されている請求項1に記載の金属−グラファイトシート複合体。
【請求項4】
前記熱的接続部は金属性のネジであり、前記熱放出対象部分は回路基板の導体部分であり、前記ネジが前記金属箔と前記グラファイトシートの一部分を前記導体部分側に固定している請求項1に記載の金属−グラファイトシート複合体。
【請求項5】
発熱体に熱的に接続して前記発熱体の発生する熱を放熱するための金属−グラファイトシート複合体を有する電子機器であり、
前記発熱体に対して熱的に接続されるグラファイトシートと、
前記発熱体に配置されて前記発熱体の発生する電磁波を吸収して前記グラファイトシートに対して熱的に接続されており、前記発熱体の熱を伝達するための放熱性のフィラーを有する電磁波吸収体と、
前記グラファイトシートの一部分に配置される金属箔と、
前記グラファイトシートを通じて伝導されてくる前記発熱体の熱を放出するための熱放出対象部分に対して、前記金属箔を熱的に接続する熱的接続部と、
を備えることを特徴とする電子機器。
【請求項6】
前記電磁波吸収体は、前記発熱体を覆っている請求項5に記載の電子機器。
【請求項7】
前記発熱体と前記グラファイトシートの間には、さらに放熱スペーサーが配置されている請求項5に記載の電子機器。
【請求項8】
前記熱的接続部は金属製のネジであり、前記熱放出対象部分は回路基板の導体部分であり、前記ネジが前記金属箔と前記グラファイトシートの一部分を前記導体部分側に固定している請求項5に記載の電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2004−23065(P2004−23065A)
【公開日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−180190(P2002−180190)
【出願日】平成14年6月20日(2002.6.20)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】