説明

金属−ピンサー型配位子を使用する酢酸の生成のためのカルボニル化プロセス

アルコールおよび/またはその反応性誘導体の液相カルボニル化による酢酸の生成のためのプロセスであり、ここではピンサー型配位子とロジウムまたはイリジウムとの錯体を含む触媒が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、金属−ピンサー型配位子錯体を含む触媒の存在下での、メタノールおよび/またはその反応性誘導体の液相カルボニル化による酢酸の生成のためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ロジウムで触媒されるカルボニル化プロセスにおけるカルボン酸の調製は公知であり、そして例えば、欧州特許出願公開第0632006号明細書および米国特許第4,670,570号明細書において記載される。
【0003】
欧州特許出願公開第0632006号明細書は、メタノールまたはその反応性誘導体の液相カルボニル化についてのプロセスを記載し、このプロセスは、メタノールまたはその反応性誘導体、ハロゲン助触媒、およびロジウム成分および二座リン−硫黄配位子を含有するロジウム触媒系を含む液体反応組成物と、一酸化炭素とを接触する工程を包含し、配位子は、2つの連結する炭素原子または1つの連結する炭素と、連結するリン原子とを含む実質的に未反応の骨格構造により硫黄供与中心またはアニオン性中心に連結される、リン供与中心を含む。
【0004】
イリジウムで触媒されるカルボニル化プロセスのカルボン酸の調製は、例えば、欧州特許出願公開第0786447号明細書、欧州特許出願公開第0643034号明細書、および欧州特許出願公開第0752406号明細書において記載される。
【0005】
欧州特許出願公開第0643034号明細書は、メタノールまたはその反応性誘導体のカルボニル化による酢酸の生成のためのプロセスを記載し、カルボニル化反応器において、液体反応組成物中でメタノールまたはその反応性誘導体と、一酸化炭素とを接触する工程を包含し、このプロセスは、液体組成物が(a)酢酸、(b)イリジウム触媒、(c)ヨウ化メチル、(d)少なくとも有限量の水、(e)酢酸メチル、および(f)助触媒として、少なくとも1つのルテニウムおよびオスミウムを含むことにおいて特徴づけられる。
【0006】
カルボニル化プロセスにおける二座キレートリンまたはヒ素配位子の使用は、例えば、英国特許第2,336,154号明細書、米国特許第4,102,920号明細書、および米国特許第4,102,921号明細書から公知である。
【0007】
英国特許第2,336,154号明細書は、アルコールおよび/またはその反応性誘導体の液相カルボニル化についてのプロセスを記載し、式RX−Z−YRの二座配位子の存在下、カルボン酸を生成し、ここでXおよびYは独立して、N、P、As、Sb、またはBiであり、およびZは二価の連結基である。
【0008】
米国特許第4,102,920号明細書は、多座ホスフィンまたはヒ素キレート配位子とのロジウム錯体の存在下でのアルコール、エステル、エーテル、および有機ハロゲン化物のカルボニル化についてのプロセスを記載する。米国特許第4,102,921号明細書は、多座ホスフィンまたはヒ素キレート配位子とのイリジウム錯体の存在下での、類似のプロセスを記載する。
【0009】
国際公開第2004/101488号パンフレットは、水素、および三座配位子を配位されたコバルト、またはロジウム、またはイリジウムを含む触媒の存在下での、アルコールおよび/またはその反応性誘導体の液相カルボニル化についてのプロセスを記載する。
【0010】
国際公開第2004/101487号パンフレットは、多座配位子を配位されたロジウムまたはイリジウムを含む触媒の存在下での、アルコールおよび/またはその反応性誘導体の液相カルボニル化についてのプロセスを記載し、ここで配位子は145°のバイト角を有するか、または配位子構造配座において金属に配位される。
【0011】
金属および/またはその反応性誘導体が、ロジウムおよびイリジウムから選択される金属を含む触媒の存在下で、一酸化炭素と、液相中でカルボニル化され得ることが今や見出され、そしてここでは金属はピンサー型配位子に錯体化される。
【0012】
従って、本発明は、ヨウ化メチルおよび有限濃度の水を含む液体反応組成物中で、触媒の存在下、メタノールおよび/またはその反応性誘導体を、一酸化炭素でカルボニル化することによる酢酸の生成のためのプロセスを提供し、そしてここで触媒は、一般式(I)
【0013】
【化1】

【0014】
ここでZは、炭素であり、ならびにLおよびLは、それぞれ、P−ドナー原子またはN−ドナー原子を含む配位基であり;各Rは、水素またはC〜Cアルキル基から独立的して選択され、そしてMは、RhおよびIrから選択される、
または一般式(II)
【0015】
【化2】

【0016】
ここでZは、炭素であり、ならびにLおよびLは、それぞれ、P−ドナー原子またはN−ドナー原子を含む配位基であり、そしてMは、RhおよびIrから選択される、
のピンサー型配位子と金属との錯体を含む。
【0017】
ピンサー型配位子は、キレート配位子の1つの型である。ピンサー型配位子は、シグマ結合および少なくとも2つの二座結合を介して金属に錯体化される。本発明のプロセスにおいて使用される錯体において、二座結合は、リンドナー原子を含む配位基および/または窒素ドナー原子を含む基の相互作用から生じる。ピンサー型配位子は、2つの配位基を含み、これは独立して、2つの配位基中にドナー原子(配位原子)としてPまたはNを含む。2つの配位基は、上記の式(I)においてLおよびLとして表され、ならびに式(II)において、LおよびLにより表される。金属−シグマ結合は、金属とZ原子との相互作用から生じる。Zは炭素である。
【0018】
配位基、L、L、L、およびLはそれぞれ、配位原子としてリンを含み得る。このようなリンを含有する基は、好ましくは、一般式RPを有し、ここで各RおよびRは、C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、および必要に応じて置換されるアリール基、特にフェニル基から独立して選択される。適切には、RおよびRのそれぞれは、独立して、C〜Cアルキルまたは必要に応じて置換されるアリールである。
【0019】
および/またはRが、C〜Cアルキルである場合、C〜Cアルキルは直鎖または分岐鎖であり得る。適切には、C〜Cアルキルはメチル、エチル、イソ−プロピル、またはt−ブチル基である。
【0020】
適切には、RおよびRは同じである。従って、L、L、L、およびLはそれぞれ、PMe、PEt、PPr、およびPBuから独立して選択され得る。
【0021】
および/またはRは、必要に応じて置換されるアリール基であり、アリール基は好ましくは、必要に応じて置換されるフェニル基である。適切には、RおよびRはPPhである。
【0022】
好ましくは、アリール基は置換される。各アリール基は1〜3個の置換基により置換され得る。適切な置換基としては、メチルおよびイソプロピル基のようなC〜Cアルキル基、メトキシ基のようなC〜Cエーテルが挙げられる。置換化アリール基の特定の例は、メシチル(2,4,6トリメチルベンゼン)、2,6ジ−イソプロピルベンゼン、およびオルトアニシル(2−メトキシベンゼン)である。
【0023】
あるいは、RおよびRならびにP原子はともに、9−ホスファシクロ[3.3.1]ノナンのような、5〜10炭素原子を有する環構造を形成し得る。
【0024】
あるいは、配位基、L、L、L、およびLはそれぞれ、配位原子として窒素を有し得る。このような窒素を含む基は、好ましくは、一般式RNを有し、ここでRおよびRは、上述のRPについて規定したようである。
【0025】
配座基LおよびLは、同じであり得るか、または異なり得る。例えば、LおよびLの両方は、同じまたは異なるホスフィン基であり得る。配位基LおよびLは、同じであり得るか、または異なり得るが、好ましくは同じである。
【0026】
各Rは、水素およびC〜Cアルキル基から独立して選択される。C〜Cアルキル基は、直鎖または分岐鎖のアルキルであり得る。例えば、Rは、メチル、エチル、イソプロピルであり得る。各Rは、同じであり得るか、または異なり得る。適切には、各Rは水素である。
【0027】
Zは、式(I)および(II)において炭素であり、従って、骨格環構造は、式(I)においてベンゼン環、および式(II)においてアントラセン環である。ベンゼンおよびアントラセンの骨格環は、1つ以上の置換基により置換され得る。適切な置換基は、C〜Cアルキル、C〜Cエーテル、ハロゲン化基、および窒素基である。好ましい置換基は、メトキシのようなC〜Cエーテル、およびニトロ基である。
【0028】
適切なピンサー型配位子金属錯体としては、以下の構造1〜4の錯体が挙げられ、ここでMはロジウムおよびイリジウムから選択される金属である。
【0029】
【化3】

【0030】
【化4】

【0031】
【化5】

【0032】
【化6】

【0033】
適切には、構造(1)および(2)において、MはRhまたはIrであり、ならびに構造(3)および(4)において、MはIrである。
【0034】
メタノールおよび/または反応性誘導体のカルボニル化における触媒としての使用のために、式(I)および(II)のピンサー型配位子は、イリジウムおよびロジウムの1つに錯体化される。適切には、式(I)のピンサー型配位子は、ロジウムと錯体化され、そして式(II)のピンサー型配位子はイリジウムと錯体化される。
【0035】
ピンサー型配位子は、市販されるか、または当該分野において公知の方法に従って合成され得る。より詳細には、ピンサー型配位子は、C.J MoultonおよびB.L Shaw、J.Chem.Soc.、Dalton Trans.1976、1020〜1024、およびM.W.Haenel、S.Oevers、J.Bruckmann、J.KuhnigkおよびC.Krueger、Synlett、1998、301によって記載されるような方法または記載される方法に類似の方法に従って合成され得、その内容は本明細書中に参考として援用される。
【0036】
式(I)のピンサー型配位子は、LおよびL基は同じであることが所望される場合、例えば、アセトニトリルのような極性溶媒中で2当量の第二ホスフィンまたは第二アミンでα,α’−ジブロモキシレンを処理することにより、調製され得る。次いで、得られるジホスホニウムまたはジアンモニウム塩は、水中の酢酸ナトリウムのような塩基水溶液で脱プロトン化されて、ピンサー型配位子が得られる。式(I)のピンサー型配位子を調製することが所望されるが、LおよびL基が異なる場合、ピンサー型配位子は、例えば、トルエンのような非極性溶媒中、1当量の第二ホスフィンまたは第二アミンでα,α’−ジブロモキシレンを処理することにより、調製され得る。次いで、得られるモノホスホニウムまたはモノアンモニウム塩は、アセトニトリルのような極性溶媒中に溶解され、そして1当量の異なる第二ホスフィンまたは第二アミンで処理される。次いで得られるホスホニウムまたはアンモニウム塩は、水中の酢酸ナトリウムのような塩基水溶液で脱プロトン化されて、所望のピンサー型配位子が得られる。
【0037】
式(II)のピンサー型配位子は、それ自身が1,8−ジクロロアントロキノンの置換/還元により調製され得る1,8−ジフルオロアントラセンのような、1,8−ジハロアントラセンから作製され得る。式(II)のピンサー型配位子は、LおよびL基が同じである場合(両方ともにPRまたはNR)、Buchwald−Hartwigアミノ化パラジウム触媒およびNaCOのような塩基の存在下、トルエンのような溶媒中での、2当量のKPR(HPRおよびKHのような塩基から調製される)または2当量の第二アミンHNRでの、1,8−ジハロアントラセンの処理により作製され得る。式(II)のピンサー型配位子は、LおよびLが異なる場合、Buchwald−Hartwigアミノ化パラジウム触媒およびNaCOのような塩基の存在下、トルエンのような溶媒中での、1当量のKPRまたは1当量の第二アミンHNRでの、1,8−ジハロアントラセンの処理により作製され得る。次いで、得られる1−ホスフィノ−8−ハロアントラセンまたは1−アミノ−8−ハロアントラセンモノアミンは、Buchwald−Hartwigアミノ化パラジウム触媒およびNaCOのような塩基の存在下、トルエンのような溶媒中での、1当量の異なるKPRまたは異なる第二アミンHNRtで処理されて、所望のピンサー型配位子が得られる。
【0038】
触媒は、予め形成された金属−ピンサー型配位子錯体の形態において、液体反応組成物に添加される。予め形成された金属−ピンサー型配位子錯体は、例えば、2−メトキシエタノールのような溶媒中で、ピンサー型配位子と、適切なイリジウム含有化合物またはロジウム含有化合物との混合物を加熱し、その後減圧下で溶媒を除去することにより調製され得る。
【0039】
適切なイリジウム含有化合物としては、IrClおよび[IrCl(シクロオクタジエン)]が挙げられる。
【0040】
適切なロジウム含有化合物としては、RhCl.3HO、[RhCl(CO)]、および[RhCl(シクロオクタジエン)]が挙げられる。
【0041】
好ましくは、金属−ピンサー型配位子錯体は、カルボニル化反応温度にて、カルボニル化反応溶媒、例えば、酢酸中で可溶性である。
【0042】
酢酸を生成するためのメタノールのカルボニル化において、水素の存在は、アセトアルデヒド、エタノール、およびプロピオン酸のような所望されない液体副生成物の形成を生じることが知られる。プロピオン酸は、酢酸生成物からこれを除去するために高価なおよびエネルギー集約的な蒸留を必要とする。さらに、アセトアルデヒドは、一連の濃縮または他の反応を受けて、最終的により高次の有機ヨウ化物を生じ得る。これらの材料のいくつか、特に、例えば、ヨウ化ヘキシルは、従来の蒸留により除去することが困難であり、そして十分な純度の酢酸を得るためにさらなる処理工程が時折必要である。欧州特許出願公開第0849251号明細書は、酢酸へのメタノールのカルボニル化のための、イリジウムで触媒されるプロセスを記載し、一酸化炭素供給原料中の水素の量は、好ましくは1モル%未満であり、および反応容器中の水素分圧は、好ましくは、1bar未満であることを述べる。同様に、欧州特許出願公開第0728727号明細書は、酢酸へのメタノールのカルボニル化についてのロジウム触媒されたプロセスを記載し、反応容器中の水素分圧は、好ましくは2bar未満であることを述べる。
【0043】
メタノールカルボニル化のために、あるロジウム触媒を使用すると、一酸化炭素供給原料中の水素の存在は、エタノールおよびアセトアルデヒドの生成を導き、少量の酢酸しか生成されないことがまた、見出されている。
【0044】
米国特許第4,727,200号明細書は、例えば、ロジウム含有触媒系を使用した、合成ガスとの反応によるアルコールの合成のためのプロセスを記載する。合成ガス供給原料を用いて形成される主な生成物はエタノールであり、酢酸は、比較的少量の副生成物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0045】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0632006号明細書
【特許文献2】米国特許第4,670,570号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0786447号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第0643034号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第0752406号明細書
【特許文献6】英国特許第2,336,154号明細書
【特許文献7】米国特許第4,102,920号明細書
【特許文献8】米国特許第4,102,921号明細書
【特許文献9】国際公開第2004/101488号パンフレット
【特許文献10】国際公開第2004/101487号パンフレット
【特許文献11】欧州特許出願公開第0849251号明細書
【特許文献12】欧州特許出願公開第0728727号明細書
【特許文献13】米国特許第4,727,200号明細書
【非特許文献】
【0046】
【非特許文献1】C.J MoultonおよびB.L Shaw、J.Chem.Soc.、Dalton Trans.1976、1020〜1024
【非特許文献2】M.W.Haenel、S.Oevers、J.Bruckmann、J.KuhnigkおよびC.Krueger、Synlett、1998、301
【発明の概要】
【0047】
一酸化炭素での、および水素の存在下でのメタノールおよび/またはその誘導体のカルボニル化における、金属−ピンサー型配位子錯体の使用は、カルボン酸生成物に対する改善された選択性を生じ、およびプロピオン酸のような副生成物に対する選択性を減少したことが今や見出された。従って、所望の酢酸に対する高い選択性は、水素の存在下において達成され得、より高い含量の水素を伴う一酸化炭素供給原料流が、カルボニル化プロセスにおいて用いられることを許容する。このことは、有意なコスト削減を有する。特に、1モル%水素、5モル%水素までを伴う一酸化炭素供給原料を利用することは、合成ガス分離の、より費用のかからない、非低温の方法、例えば、膜分離技術が用いられることを許容する。
【0048】
好ましくは、液体反応組成物中の金属−ピンサー型配位子触媒錯体の濃度は、500〜2000ppmの範囲にある。
【0049】
液体反応組成物はヨウ化メチルを含む。液体反応組成物中のヨウ化メチルの濃度は、適切には、1〜30重量%、例えば、1〜20重量%の範囲にある。
【0050】
メタノールの適切な反応性誘導体としては、酢酸メチル、ヨウ化メチル、および/またはジメチルエーテルが挙げられる。
【0051】
液体反応組成物は、有限濃度の水を含む。有限濃度の水により、本明細書中で使用されるように、液体反応組成物が、少なくとも0.1重量%の水を含むことが意味される。好ましくは、水は、液体反応組成物の総重量に基づいて、0.1〜30重量%、例えば、1〜15重量%、およびより好ましくは1〜10重量%の範囲における濃度にて存在し得る。
【0052】
水は、カルボニル化可能な反応物とともに、または別々に、カルボニル化反応器に導入され得る。水は、液体反応組成物から分離され得、反応器から回収され得、そして液体反応組成物中に必要とされる濃度を維持するために、制御された量において再利用され得る。
【0053】
酢酸は、液体反応組成物中に溶媒として存在し得る。
【0054】
本発明における使用のための一酸化炭素は(任意の水素供給原料に対して別々に供給される場合)、本質的に純粋であり得るか、または二酸化炭素、メタン、窒素、貴ガス、水、およびC〜Cパラフィン系炭化水素のような不純物を含み得る。
【0055】
反応器中の一酸化炭素の分圧は適切には、1〜70bargの範囲にあり得る。
【0056】
水素は、一酸化炭素供給原料とは別々に反応器に供給され得るが、好ましくは一酸化炭素との混合物として反応器に供給される。好ましくは、一酸化炭素および水素の混合物は、炭化水素の改質のような商業的供給源から得られる。炭化水素の商業的改質は、CO、水素、およびCOの混合物を生成し、このような混合物は一般に合成ガスと呼ばれる。合成ガスは典型的に、1.5:1〜5:1の範囲における水素対COのモル比を含む。
【0057】
供給原料における水素対一酸化炭素のモル比は適切には、1:100と10:1との間、例えば1:20〜5:1である。
【0058】
反応器中の水素の分圧は適切には、0.1barg〜20barg、例えば、2barg〜20barg、例えば、0.1barg〜10barg、例えば、0.1〜5bargの範囲にある。
【0059】
カルボニル化反応は、10〜100bargの範囲における総圧力にて行われ得る。温度は適切には、50〜250℃の範囲、典型的には120〜200℃の範囲にある。
【0060】
プロセスは、バッチ式に、または連続的に、好ましくは連続的に操作され得る。
【0061】
酢酸生成物は、カルボニル化反応器から蒸気および/または液体を回収し、そして回収材料から酢酸を取り出すことにより、液体反応組成物から取り出され得る。好ましくは、カルボン酸は、カルボニル化反応器から液体反応組成物を連続的に回収し、そしてロジウム、またはイリジウム、またはコバルトを含有する触媒、ヨウ化メチル、未反応のメタノール、および反応器に再利用され得る水のような液体反応組成物の他の成分から酸が分離される、1つ以上のフラッシュおよび/または分画蒸留段階により回収された液体反応組成物から、酢酸を取り出すことにより、液体反応組成物から取り出される。
【0062】
本発明は、ほんの一例として、以下の実施例を参照して今や説明される。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0063】
触媒調製
α,α’−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノ)−m−キシレンのシクロロジウム(III)酸の調製(触媒A)
ジホスフィン(α,α’−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノ)−m−キシレン)(1.00g、2.53mmol)、RhCl.3HO(0.448g,1.69mmol)、HO(1cm)、およびプロパン−2−オール(6.5cm)を、42時間、還流下で加熱し、次いで−5℃に冷却した。次いで生成物を濾過し、そして溶媒を減圧下で除去して、構造:
【0064】
【化7】

【0065】
のオレンジ色の固体を得た(0.81g、1.52mmol、60%)。
【0066】
1,8−ビス(ジフェニルホスフィノ)−9−アントリルのシクロロジウム(I)酸の調製(触媒B)
ジホスフィン(1,8−ビス(ジフェニルホスフィノ)アントラセン)(0.2g、0.37mmol)、[RhCl(CO)](0.072g,0.18mmol)およびトルエン(10cm)を、60℃にて、19時間、加熱して、赤色の沈殿物およびオレンジ色の濾液(生成物)を得た。濾液を沈殿物から分離し、そしてトルエン溶媒を減圧下で除去して、構造:
【0067】
【化8】

【0068】
の鮮やかなオレンジ色の固体を得た(1.12g、0.18mmol、63%)。
【0069】
α,α’−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノ)−m−キシレンのシクロイリジウム(III)酸の調製(触媒C)
ジホスフィン(α,α’−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノ)−m−キシレン)(1g、2.53mmol)、IrCl.3HO(0.446g,1.27mmol)、HO(1cm)およびプロパン−2−オール(7cm)を、42時間、還流下で加熱し、次いで−5℃に冷却した。次いで軽油(沸点60〜80℃)を反応混合物に添加して茶色の沈殿物および赤色の濾液(生成物)を得た。濾液を沈殿物から分離し、そして溶媒を減圧下で除去して、構造:
【0070】
【化9】

【0071】
の暗褐色の固体を得た(0.79g、1.26mmol、50%)。
【0072】
1,8−ビス(ジフェニルホスフィノ)−9−アントリルのシクロイリジウム(III)酸の調製(触媒D)
ジホスフィン(1,8−ビス(ジフェニルホスフィノ)アントラセン)(0.2g、0.37mmol)、[IrCl(シクロオクテン)](0.16g,0.18mmol)および2−メトキシエタノール(10cm)を、還流下、17時間、加熱した。次いで、溶媒を減圧下で除去して、構造:
【0073】
【化10】

【0074】
の赤色の固体を得た(0.193g、0.25mmol、68%)。
【0075】
(ジ−t−ブチルホスフィノ)(ジフェニルホスフィノ)−m−キシレンのシクロイリジウム(III)酸の調製(触媒E)
2−メトキシエタノール(8cm)中のジホスフィン(ジ−t−ブチルホスフィノ)(ジフェニルホスフィノ)−m−キシレン(0.1g、0.23mmol)、[IrCl(シクロオクテン)](0.1g、0.12mmol)を、2日間、還流下で加熱した。次いで溶媒を減圧下で除去して、構造:
【0076】
【化11】

【0077】
の茶色の固体を得た(0.13g、0.2mmol、86%)。
【0078】
α,α’−ビス(9−ホスファビシクロ[3.3.1]ノナン)−m−キシレンのシクロイリジウム(III)酸の調製(触媒F)
ジホスフィン(α,α’−ビス(9−ホスファビシクロ[3.3.1]ノナン)−m−キシレン)(0.1g、0.26mmol)、[IrCl(シクロオクテン)](0.12g、0.13mmol)、および2−メトキシエタノール(4cm)を、2時間、還流下で加熱した。次いで、溶媒を減圧下で除去して、構造:
【0079】
【化12】

【0080】
の茶色の固体を得た(0.1g、0.16mmol、63%)。
【0081】
一酸化炭素でのカルボニル化反応
全ての実験を、100cmハステロイ(Baskerville)オートクレーブにおいて行った。オートクレーブに安定容器、間接機械攪拌器、および触媒注入装置を取り付けた。窒素を装置全体に通過させてオートクレーブが嫌気的な条件下にあることを確実にした。触媒を使用の前に行った。0.064mmolの、触媒A〜Fのそれぞれをグローブボックス中で秤量し、次いで窒素下の丸底フラスコにおいて、触媒を酢酸メチル(16.1cm、203mmol)、水(3.5cm、194mmol)、および酢酸(26.2cm、458mmol)中に溶解した。この反応溶液を、嫌気的な条件下で反応容器に注入した。次いで、オートクレーブを一酸化炭素で約10barに加圧し、そして攪拌しながら190℃に加熱した。一旦この温度にて安定したら、MeI(1.75cm、28.1mmol)を一酸化炭素の超過圧力を使用してオートクレーブに注入した。MeIの注入後、一酸化炭素を安定容器から供給して、28barの全圧を与えた。オートクレーブの圧力を安定容器から一酸化炭素供給原料を使用して、一定(±0.5bar)に維持した。反応を、90分間継続させ、次いでオートクレーブを室温に冷却させた(3時間にわたった)。いったん冷却したら、オートクレーブをゆっくりと減圧した。反応溶液を取り出し、次いで壊し、そして窒素をこの容器にパージした。反応溶液内容物を、採取して出し、分析のために窒素下で丸底フラスコに採収した。液体反応生成物の分析をガスクロマトグラフィーにより行い、そして酢酸が生成されたことを示した。実験の結果は、表1において与えられる。
【0082】
【表1】

【0083】
水素の存在下での一酸化炭素でのカルボニル化
触媒AおよびDを使用するカルボニル化実験を、一酸化炭素を、一酸化炭素および水素の1:1混合物によって置き換えた以外は、上記の一酸化炭素でのカルボニル化についてのように行った。副生成物の結果は、表2において示される。
【0084】
【表2】

【0085】
表2において見られ得るように、本発明のカルボニル化プロセスにおける水素の存在は、全体のプロピオン酸副生成物の生成に対して、有意な差異を何らなさなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ化メチルおよび有限濃度の水を含む液体反応組成物中で、触媒の存在下、メタノールならびに/または、酢酸メチル、ヨウ化メチル、ジメチルエーテル、およびそれらの混合物から選択されるその反応性誘導体を、一酸化炭素でカルボニル化することによる酢酸の生成のためのプロセスであって、そしてここで触媒は、一般式(I)
【化1】

ここでZは、炭素であり、ならびにLおよびLは、それぞれ、P−ドナー原子またはN−ドナー原子を含む配位基であり;各Rは、水素またはC〜Cアルキル基から独立的して選択され、そしてMは、RhおよびIrから選択される、
または一般式(II)
【化2】

ここでZは、炭素であり、ならびにLおよびLは、それぞれ、P−ドナー原子またはN−ドナー原子を含む配位基であり、そしてMは、RhおよびIrから選択される、
のピンサー型配位子と金属との錯体を含む、プロセス。
【請求項2】
式(I)において、配位基、LおよびLがそれぞれ、ドナー原子としてリンを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
およびLはそれぞれ、式RPを有し、ここで各RおよびRは、C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、および必要に応じて置換されるアリール基から独立して選択される、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
〜Cアルキルが、メチル、エチル、イソ−プロピル、またはt−ブチルである、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
必要に応じて置換されるアリール基が、必要に応じて置換されるフェニル基である、請求項3に記載のプロセス。
【請求項6】
必要に応じて置換されるアリール基が、未置換のフェニル基である、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
およびLが、PPh、PMe、PEt、PPr、およびPBuから独立して選択される、請求項3に記載のプロセス。
【請求項8】
必要に応じて置換されるアリール基が、置換化アリール基である、請求項3に記載のプロセス。
【請求項9】
アリール基が1〜3個の置換基により置換される、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
置換基が、C〜CアルキルおよびC〜Cエーテル基から独立して選択される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項11】
〜Cアルキルが、メチルまたはイソ−プロピルである、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
〜Cエーテルが、メトキシ基である、請求項10に記載のプロセス。
【請求項13】
置換化アリール基が、2,4,6トリメチルベンゼン、2,6ジ−イソプロピルベンゼン、および2−メトキシベンゼンから選択される、請求項9に記載のプロセス。
【請求項14】
、R、およびPがともに、5〜10個の炭素原子を有する環構造を形成する、請求項3に記載のプロセス。
【請求項15】
、R、およびPが、9−ホスファシクロ[3.3.1]ノナンを形成する、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
配位基LおよびLが異なる、請求項1〜15のいずれかに記載のプロセス。
【請求項17】
式(I)において、配位基、LおよびLがそれぞれ、ドナー原子としてリンを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項18】
およびLはそれぞれ、式RPを有し、ここで各RおよびRは、C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、および必要に応じて置換されるアリール基から独立して選択される、請求項2に記載のプロセス。
【請求項19】
〜Cアルキルが、メチル、エチル、イソ−プロピル、またはt−ブチルである、請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】
必要に応じて置換されるアリール基が、必要に応じて置換されるフェニル基である、請求項18に記載のプロセス。
【請求項21】
必要に応じて置換されるアリール基が、未置換のフェニル基である、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
および/またはLが、PPh基である、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
必要に応じて置換されるアリール基が、置換化アリール基である、請求項18に記載のプロセス。
【請求項24】
アリール基が1〜3個の置換基により置換される、請求項23に記載のプロセス。
【請求項25】
置換基が、C〜CアルキルおよびC〜Cエーテル基から独立して選択される、請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】
〜Cアルキルが、メチルまたはイソ−プロピルである、請求項25に記載のプロセス。
【請求項27】
〜Cエーテルが、メトキシ基である、請求項25に記載のプロセス。
【請求項28】
置換化アリール基が、2,4,6トリメチルベンゼン、2,6ジ−イソプロピルベンゼン、および2−メトキシベンゼンから選択される、請求項24に記載のプロセス。
【請求項29】
、R、およびPがともに、5〜10個の炭素原子を有する環構造を形成する、請求項18に記載のプロセス。
【請求項30】
、R、およびPが、9−ホスファシクロ[3.3.1]ノナンを形成する、請求項29に記載のプロセス。
【請求項31】
配位基LおよびLが同じである、請求項18〜30のいずれかに記載のプロセス。
【請求項32】
、L、L、およびLが、配位原子として窒素を有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項33】
任意のL、L、L、およびLが、式RNであり、ここでRおよびRは、C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、および必要に応じて置換されるアリール基から独立して選択される、請求項32に記載のプロセス。
【請求項34】
各Rが、水素、メチル、エチル、またはイソプロピルから独立して選択される、請求項1〜17のいずれかに記載のプロセス。
【請求項35】
各Rが、水素である、請求項34に記載のプロセス。
【請求項36】
式(I)および式(II)における骨格環構造が、1つ以上の置換基により置換される、請求項1から35のいずれかに記載のプロセス。
【請求項37】
1つ以上の置換基が、C〜CアルキルおよびC〜Cエーテル、ハロゲン化物、およびニトロ基から選択される、請求項36に記載のプロセス。
【請求項38】
1つ以上の置換基が、C〜Cエーテル基またはニトロ基から選択される、請求項37に記載のプロセス。
【請求項39】
Mが、ロジウムである、請求項1〜17のいずれかに記載のプロセス。
【請求項40】
Mが、イリジウムである、請求項18〜38のいずれかに記載のプロセス。
【請求項41】
請求項1に記載のプロセスであって、ここで金属−ピンサー型配位子錯体が、
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

から選択される、プロセス。
【請求項42】
構造(1)、(2)、(3)、および(4)においてMがイリジウムである、請求項41に記載のプロセス。
【請求項43】
構造(1)および(2)においてMがロジウムである、請求項41に記載のプロセス。
【請求項44】
金属−ピンサー型配位子錯体が、500〜2000ppmの範囲における濃度にて液体反応組成物に存在する、請求項1〜43のいずれかに記載のプロセス。
【請求項45】
ヨウ化メチルが、1〜30重量%の範囲における濃度にて液体反応組成物に存在する、請求項1〜44のいずれかに記載のプロセス。
【請求項46】
水が、0.1〜30重量%の範囲における濃度にて液体反応組成物に存在する、請求項1〜45のいずれかに記載のプロセス。
【請求項47】
水が、0.1〜10重量%の濃度にて存在する、請求項46に記載のプロセス。
【請求項48】
液体反応組成物が溶媒として酢酸を含む、請求項1〜47のいずれかに記載のプロセス。
【請求項49】
プロセスにおいて水素が存在する、請求項1〜48のいずれかに記載のプロセス。
【請求項50】
水素が一酸化炭素との混合物として供給される、請求項49に記載のプロセス。
【請求項51】
供給原料中の水素対一酸炭素のモル比が、1:100〜10:1の範囲にある、請求項49または50に記載のプロセス。
【請求項52】
供給原料中の水素対一酸炭素のモル比が、1:20〜5:1の範囲にある、請求項51に記載のプロセス。
【請求項53】
水素が、1モル%〜5モル%の範囲における量において存在する、請求項52に記載のプロセス。
【請求項54】
反応器中の水素分圧が0.1〜20bargの範囲にある、請求項49〜53のいずれかに記載のプロセス。
【請求項55】
水素分圧が2〜20bargの範囲にある、請求項54に記載のプロセス。
【請求項56】
一酸化炭素分圧が1〜70bargの範囲にある、請求項1〜55のいずれかに記載のプロセス。
【請求項57】
プロセスが10〜100bargの範囲における総反応圧にて行われる、請求項1〜56のいずれかに記載のプロセス。
【請求項58】
プロセスが、50〜250℃の範囲における温度にて行われる、請求項1〜57のいずれかに記載のプロセス。
【請求項59】
反応性誘導体が、酢酸メチルおよびジメチルエーテルから選択される、請求項1〜58のいずれかに記載のプロセス。
【請求項60】
プロセスが、連続プロセスとして操作される、請求項1〜59のいずれかに記載のプロセス。

【公表番号】特表2010−529009(P2010−529009A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509885(P2010−509885)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【国際出願番号】PCT/GB2008/001776
【国際公開番号】WO2008/145976
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(591001798)ビーピー ケミカルズ リミテッド  (66)
【氏名又は名称原語表記】BP CHEMICALS LIMITED
【Fターム(参考)】