説明

金属と被着材との接着方法及び電鋳金型の製造方法

【課題】 エポキシ接着剤に使われる硬化剤、特にアミン系硬化剤が、トリアジンチオール化合物の被膜に対して反応しにくくし、トリアジンチオール化合物同士の分子結合を保持して、金属に対してエポキシ接着剤を強固に接着できるようにする。
【解決手段】 金属の表面にトリアジンチオール化合物を被覆した後、トリアジンチオール化合物を被覆した金属の表面に、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を含むエポキシ化合物を塗布し、次に、エポキシ化合物を加熱処理し、その後、この金属の表面に硬化剤を混合したエポキシ接着剤を塗布し、このエポキシ接着剤を介して被着材を金属の表面に接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル,ニッケル合金及びステンレス等の金属と他の被着材とをエポキシ接着剤を介して接着する金属と被着材との接着方法及びこの接着方法を用いて電鋳金型を製造する電鋳金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エポキシ接着剤は、金属,セラミックス,プラスチック等の各種材料の接着に適しており、硬化時のガス発生や収縮が少なく接着強度が高いことから、自動車,航空機,電気・電子,土木・建築等広い分野で利用されている。
この利用例として、例えば、電鋳金型の製造方法で説明すると、母型表面にニッケル等の金属を電気メッキし、電気メッキした金属の母型とは反対側の表面(母型形状転写面の裏側)に、硬化剤を混合したエポキシ接着剤を塗布し、更に、この金属の表面に熱硬化性樹脂やコンクリート,低融点合金などの被着材としてのバックアップ材を裏打ちして接着し、その後、母型を脱型して、電鋳金型を製造するものである。
このように製造される電鋳金型は、転写性に優れ、かつ簡便に作ることができることから精密金型としてプラスチック成形等に用いられている。
【0003】
ところで、ニッケルやステンレス等の金属にエポキシ接着剤を用いて被着材を接合すると、必ずしも高い接着強度が得られとは限らず、この場合には、比較的低い強度でエポキシ接着剤がこれらの金属の表面から剥離するという現象が生じる。そのため、上記の電鋳金型においても、ニッケルメッキとバックアップ材をエポキシ接着剤で接合しても、ニッケルとエポキシ接着剤の接着強度が低いため、プラスチック成形時の熱衝撃等によりニッケルがバックアップ材から剥離することがあるという問題が生じている。
【0004】
これを解決するために、例えば、トリアジンチオール化合物の皮膜において、プラスチックやゴム、接着剤などの高分子材料との接着強度を向上させるという周知の技術を採用し、金属の表面に予めトリアジンチオール化合物を被覆した後、この金属の表面に硬化剤を混合したエポキシ接着剤を塗布し、それから、この金属の表面に上記の接着剤を介して被着材を接着することが考えられる。
【0005】
従来、金属とプラスチックやゴム、接着剤などの高分子材料との接着強度を向上するトリアジンチオールの被膜を形成する技術としては、例えば、特公平8−856号公報に記載された技術が知られている。これは、金属をトリアジンチオール化合物溶液で浸漬処理することによりゴムやプラスチック、塗料との接着強度を向上させている。
また、特開平2−298284号公報に記載された技術も知られている。これは、トリアジンチオール化合物の水溶液中で金属を電気化学的に表面処理し、その金属表面にトリアジンチオール化合物皮膜を形成することにより、ゴムやプラスチックとの接着強度を向上させている。
【0006】
あるいはまた、特開平11−58604公報に記載された技術が知られている。この技術では、金属をトリアジンチオール化合物の溶液で浸漬処理あるいは電気化学的処理によって熱可塑性樹脂との接着強度を向上させている。
また、特開2004−87890及び特開2004−266189に記載された技術も知られている。これらの技術では電子部品用パッケージの絶縁リードあるいはリードフレームにトリアジンチオール誘導体の被膜を形成することにより、被膜と絶縁性樹脂であるエポキシ樹脂との一次結合により接着強度や密着性、気密性を向上させている。
このように、金属のトリアジンチオール化合物処理あるいは金属上へのトリアジンチオール化合物の被膜の形成は、金属と加硫ゴムあるいは金属と熱可塑性プラスチックや熱硬化性プラスチックとの接着に効果があることは知られている。
【0007】
【特許文献1】特公平8−856号公報
【特許文献2】特開平2−298284号公報
【特許文献3】特開平11−58604号公報
【特許文献4】特開2004−87890号公報
【特許文献5】特開2004−266189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、硬化剤を含むエポキシ樹脂あるいは硬化剤を混合したエポキシ接着剤をトリアジンチオール化合物処理した金属に直接塗布した場合には、必ずしも接着強度の向上が認められないことがあるという問題があった。このような高い接着強度が得られない原因としては、硬化剤がトリアジンチオール皮膜を破壊するためであると考えられる。即ち、エポキシ接着剤に使われる硬化剤、特にアミン系硬化剤は、トリアジンチオール被膜に対する反応性が高く、エポキシ基と反応する前に被膜と反応しトリアジンチオール同士の分子結合を切断することに起因していると考えられる。
そのため、特に、電鋳ニッケルとバックアップ材を接着して作られる電鋳金型では、単にトリアジンチオール化合物処理をしただけでは、強度不足になり、プラスチック成形の熱衝撃に耐えられない虞が生じてしまう。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みて為されたもので、エポキシ接着剤に使われる硬化剤、特にアミン系硬化剤が、トリアジンチオール化合物の被膜に対して反応しにくくし、トリアジンチオール化合物同士の分子結合を保護して、金属に対してエポキシ接着剤を強固に接着できるようにした金属と被着材との接着方法及び電鋳金型の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するための本発明の金属と被着材との接着方法は、金属の表面にトリアジンチオール化合物を被覆した後、該金属の表面に硬化剤を混合したエポキシ接着剤を塗布し、該金属の表面に上記エポキシ接着剤を介して被着材を接着する金属と被着材との接着方法において、
上記エポキシ接着剤を塗布する前に、上記トリアジンチオール化合物を被覆した金属の表面に、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を含むエポキシ化合物を塗布し、次に、該エポキシ化合物を加熱処理する構成としている。エポキシ接着剤は、室温あるいは加熱(二次加熱)して硬化させる。
【0011】
本発明に用いられるトリアジンチオール化合物は、1分子中に2個以上のチオール基を有するものであれば良く、例えば、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオールあるいはそのナトリウム塩等の金属塩がある。
【0012】
本発明に用いられるエポキシ基を含むエポキシ化合物としては、1分子中に2個以上のエポキシ基をもつものであれば特に制限はなく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、含ブロムエポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、プロピレングリコールグリシジルエーテルやペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどの脂肪族系エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂等の樹脂類がある。
また、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレンジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレンジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルなどの一般に反応性希釈剤と呼ばれる化合物が挙げられる。これらの樹脂、化合物は単独で用いても良いし、2種以上混合して用いてもよい。また、必要に応じて、粘度低下のためにブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、クレシルグリシジルエーテル、脂肪族アルコールのグリシジルエーテルなどのようなモノエポキシ化合物を混合してもよい。また、前記エポキシ化合物はアセトンやヘキサンなどのエポキシ基と反応しない溶剤で希釈されて用いられても良い。
【0013】
硬化剤を混合したエポキシ接着剤は、エポキシ樹脂を主成分とする。エポキシ樹脂としては、例えば、上記の一次加熱処理に使われたエポキシ樹脂の一種または二種以上を混合したものが用いられる。
【0014】
本発明に使用される硬化剤としては、エポキシ樹脂に用いられる一般の硬化剤が使用される。このようなものには、アミン系硬化剤や、酸無水物系硬化剤等が包含される。
アミン系硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチルアミノプロピルアミンのような脂肪族アミン;メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、N−アミノエチルピペラジンのような脂環式ポリアミン;メタキシレンジアミンのような芳香環を含む脂肪族ポリアミン;第1、第2、第3級アミン窒素を1分子中に有するポリエチレンイミン;メタフェニレンジアミン、メチレンジアニリン、ジアミノジフェニルスルフォンのような芳香族ポリアミン;上記脂肪族ポリアミンや、芳香環を含む脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミンなどのポリアミン化合物を公知の変性方法、例えば、エポキシ化合物との付加反応、アクリロニトリル、アクリル酸エステルなどとのマイケル付加反応、メチロール化合物とのマンニッヒ反応等により生成する変性ポリアミン;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2メチルイミダゾールのようなイミダゾール系化合物;トリスジメチルアミノメチルフェノールのような3級アミン;トリスジメチルアミノメチルフェノールのトリ−2−エチルヘキシル酸塩等が挙げられる。また、主としてダイマー酸とポリアミンの縮合反応により生成するポリアミドポリアミンが挙げられる。さらに、ジシアンジアミド、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドのような汎用の潜在性硬化剤や、70〜80℃で硬化可能なもの、例えば特開昭60−4524号公報、特開昭62−26523号公報、特開平1−254731号公報に示される潜在性硬化剤を用いることもできる。
【0015】
酸無水物系硬化剤としては、例えば、ドデセニル無水コハク酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。これらは単独又は2種以上の混合物として用いられる。更に必要に応じて、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ポリアゼライン酸無水物、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物などを併用することもできる。酸無水物を硬化剤として用いる場合、イミダゾール化合物、ベンジルジメチルアミンなどの公知の硬化促進剤が通常使用される。
【0016】
そして、上記トリアジンチオール化合物を被覆した金属の表面に塗布したエポキシ化合物を加熱処理(一次加熱)すると、図1に示すように、このエポキシ化合物はトリアジンチオール化合物の被膜に対して反応し、トリアジンチオール化合物同士の分子結合を保護するようになる。即ち、この一次加熱処理によりトリアジンチオール化合物の被膜表面のチオール基とエポキシ基が反応し、トリアジンチオール化合物の被膜上にエポキシ化合物の層が形成される。
【0017】
この状態で、硬化剤を混合したエポキシ接着剤を塗布し、このエポキシ接着剤を介して被着材を接着する。この場合、予め加熱されたエポキシ化合物によりトリアジンチオール化合物同士の分子結合が保護されているので、エポキシ接着剤に使われる硬化剤、特にアミン系硬化剤が、トリアジンチオール化合物の被膜に対して反応しにくくなり、即ち、トリアジンチオール化合物被膜と化学結合したエポキシ化合物層によって、エポキシ接着剤に含まれる硬化剤が、トリアジンチオール同士の分子結合を切断してトリアジンチオール皮膜を破壊する事態を阻止することができ、これにより、金属に対してエポキシ接着剤が強固に接着し、被着材が確実に金属に接着されるようになる。
【0018】
この場合、上記加熱処理を、50〜200℃で、1〜300分、望ましくは、上記加熱処理を、80〜160℃で、10〜180分行なうことが有効である。
この一次加熱処理によりトリアジンチオール被膜表面のチオール基とエポキシ基が反応し、トリアジンチオール被膜上にエポキシ化合物の層が確実に形成される。尚、一次加熱処理されたエポキシ化合物層は必ずしも硬化しなくてよい。
【0019】
そして、必要に応じ、上記トリアジンチオール化合物を電気化学的に上記金属の表面に被覆する構成としている。この場合、少なくとも2個以上のチオール基を有するトリアジンチオール化合物の溶液で金属の電気化学的処理を行なうことが有効である。本発明に用いられる金属の電気化学的表面処理方法は、特開平2−298284号公報あるいは特開2001−316872号公報に示す方法に準じて行なうことができる。即ち、トリアジンチオール化合物の水溶液あるいは有機溶媒溶液中で金属を陽極(作用極)、白金やステンレスを陰極(対極)として2電極あるいは参照電極を加えた3電極方式で行なわれる。あるいは綿やフェルト、スポンジなどにトリアジンチオール化合物溶液を含浸させ、これを電気化学的表面処理を行なう金属と白金などの対極板の間に挟み込み、前記と同様に電圧を印荷しても良い。
【0020】
また、上記の目的を達成するための本発明の電鋳金型の製造方法は、母型の表面に金属をメッキして付設し、該金属の母型とは反対側の表面に硬化剤を混合したエポキシ接着剤を塗布し、該金属の表面に上記エポキシ接着剤を介して被着材としてのバックアップ材を接着し、その後、母型を脱型して、電鋳金型を製造する電鋳金型の製造方法において、
上記エポキシ接着剤を塗布する前に、上記母型の表面にメッキにより付設された金属の母型とは反対側の表面に、トリアジンチオール化合物を被覆し、該トリアジンチオール化合物を被覆した金属の表面に、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を含むエポキシ化合物を塗布し、次に、該エポキシ化合物を加熱処理する構成としている。
【0021】
本発明に用いられるトリアジンチオール化合物,エポキシ基を含むエポキシ化合物,硬化剤を混合したエポキシ接着剤は、上記と同様のものが用いられる。
そして、上記トリアジンチオール化合物を被覆した金属の表面に塗布したエポキシ化合物を加熱処理(一次加熱)すると、図1に示すように、このエポキシ化合物はトリアジンチオール化合物の被膜に対して反応し、トリアジンチオール化合物同士の分子結合を保護するようになる。即ち、この一次加熱処理によりトリアジンチオール化合物の被膜表面のチオール基とエポキシ基が反応し、トリアジンチオール化合物の被膜上にエポキシ化合物の層が形成される。
【0022】
この状態で、硬化剤を混合したエポキシ接着剤を塗布し、このエポキシ接着剤を介して被着材を接着する。この場合、予め加熱されたエポキシ化合物によりトリアジンチオール化合物同士の分子結合が保護されているので、エポキシ接着剤に使われる硬化剤、特にアミン系硬化剤が、トリアジンチオール化合物の被膜に対して反応しにくくなり、即ち、トリアジンチオール化合物被膜と化学結合したエポキシ化合物層によって、エポキシ接着剤に含まれる硬化剤が、トリアジンチオール同士の分子結合を切断してトリアジンチオール皮膜を破壊する事態を阻止することができ、これにより、金属に対してエポキシ接着剤が強固に接着し、被着材が確実に金属に接着されるようになる。
そのため、電鋳金型に、成形時の熱衝撃が加わっても、金属のエポキシ接着剤に対する接着強度が大きくなっているので、金属とバックアップ材とが熱衝撃などで剥離する事態が防止され、大幅に耐久性が向上させられる。
【0023】
この場合、上記加熱処理を、50〜200℃で、1〜300分、望ましくは、上記加熱処理を、80〜160℃で、10〜180分行なうことが有効である。
この一次加熱処理によりトリアジンチオール被膜表面のチオール基とエポキシ基が反応し、トリアジンチオール被膜上にエポキシ化合物の層が確実に形成される。尚、一次加熱処理されたエポキシ化合物層は必ずしも硬化しなくてよい。
【0024】
そして、必要に応じ、上記トリアジンチオール化合物を電気化学的に上記金属の表面に被覆する構成としている。この場合、少なくとも2個以上のメルカプト基を有するトリアジンチオール化合物の溶液で金属の電気化学的処理を行なうことが有効である。本発明に用いられる金属の電気化学的表面処理方法は、特開平2−298284号公報あるいは特開2001−316872号公報に示す方法に準じて行うことができる。即ち、トリアジンチオール化合物の水溶液あるいは有機溶媒溶液中で金属を陽極(作用極)、白金やステンレスを陰極(対極)として2電極あるいは参照電極を加えた3電極方式で行われる。あるいは綿やフェルト、スポンジなどにトリアジンチオール化合物溶液を含浸させ、これを電気化学的表面処理を行う金属と白金などの対極板に挟み込みを前記と同様に電圧を印荷しても良い。
【発明の効果】
【0025】
本発明の金属と被着材との接着方法によれば、トリアジンチオール化合物を被覆した金属の表面に1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を含むエポキシ化合物を塗布し、これを加熱処理するので、このエポキシ化合物を予めトリアジンチオール化合物の被膜に対して反応させ、トリアジンチオール化合物同士の分子結合を保護できることから、この状態で、硬化剤を混合したエポキシ接着剤を塗布しても、エポキシ接着剤に使われる硬化剤、特にアミン系硬化剤が、トリアジンチオール化合物の被膜に対して反応しにくくなり、トリアジンチオール皮膜が破壊される事態を阻止することができる。そのため、金属に対してエポキシ接着剤が強固に接着し、被着材を確実に金属に接着できるようになる。
【0026】
また、本発明の電鋳金型の製造方法によれば、上記と同様に、金属に対してエポキシ接着剤が強固に接着し、被着材を確実に金属に接着できるようになるので、電鋳金型に、成形時の熱衝撃が加わっても、金属とバックアップ材とが剥離する事態を防止することができ、大幅に耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係る金属と被着材との接着方法及び電鋳金型の製造方法について詳細に説明する。
先ず、本発明の実施の形態に係る金属と被着材との接着方法について説明する。図2に示すように、この接着方法は、以下の工程に従う。
【0028】
(1)トリアジンチオール化合物の被覆
金属の表面にトリアジンチオール化合物を被覆する。トリアジンチオール化合物は、1分子中に2個以上のチオール基を有するものであれば良く、例えば、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオールあるいはそのナトリウム塩等の金属塩がある。
実施の形態では、トリアジンチオール化合物を電気化学的に金属の表面に被覆する。具体的には、トリアジンチオール化合物の水溶液あるいは有機溶媒溶液中で金属を陽極(作用極)、白金やステンレスを陰極(対極)として2電極あるいは参照電極を加えた3電極方式で行われる。あるいは綿やフェルト、スポンジなどにトリアジンチオール化合物溶液を含浸させ、これを電気化学的表面処理を行う金属と白金などの対極板の間に挟み込み、前記と同様に電圧を印荷しても良い。トリアジンチオール化合物濃度は0.001〜10wt/vol%、好ましくは0.01〜1wt/vol%が良い。トリアジンチオール化合物溶液中には支持電解質として炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウムなどが加えられても良い。印荷電圧は0.1〜10V、好ましくは1〜5V、印荷時間は10秒から120分好ましくは1分から30分が良い。このように電気化学的表面処理を施された金属の表面には数10〜数100nmの厚さのトリアジンチオール被膜が形成される。トリアジンチオール被膜と金属の界面では金属メルカプチドの化学結合が形成され、トリアジンチオール被膜表面にはエポキシ基と反応性のあるチオール基が存在する。
【0029】
(2)エポキシ化合物の塗布
トリアジンチオール化合物を被覆した金属の表面に、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を含むエポキシ化合物を塗布する。
1分子中に2個以上のエポキシ基を含むエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、含ブロムエポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、プロピレングリコールグリシジルエーテルやペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどの脂肪族系エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂等の樹脂類がある。また、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレンジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレンジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルなどの一般に反応性希釈剤と呼ばれる化合物が挙げられる。これらの樹脂、化合物は単独で用いても良いし、2種以上混合して用いてもよい。また、必要に応じて、粘度低下のためにブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、クレシルグリシジルエーテル、脂肪族アルコールのグリシジルエーテルなどのようなモノエポキシ化合物を混合してもよい。また、前記エポキシ化合物はアセトンやヘキサンなどのエポキシ基と反応しない溶剤で希釈されて用いられても良い。
【0030】
(3)加熱処理
エポキシ化合物を加熱処理する。加熱処理は、50〜200℃で、1〜300分、望ましくは、80〜160℃で、10〜180分行なう。
加熱は、適宜の方法で行なわれるが、例えば、温風乾燥機、電気炉等を用いて行なう。
【0031】
この加熱処理により、エポキシ化合物はトリアジンチオール化合物の被膜に対して反応し、トリアジンチオール化合物同士の分子結合を保護するようになる。即ち、この一次加熱処理によりトリアジンチオール化合物の被膜表面のチオール基とエポキシ基が反応し、トリアジンチオール化合物の被膜上にエポキシ化合物の層が形成される。
【0032】
(4)エポキシ接着剤の塗布及び被着材の付着
金属の表面に硬化剤を混合したエポキシ接着剤を塗布し、この金属の表面にエポキシ接着剤を介して被着材を付着する。
【0033】
硬化剤を混合したエポキシ接着剤は、エポキシ樹脂を主成分とする。エポキシ樹脂としては、例えば、上記の一次加熱処理に使われたエポキシ樹脂の一種または二種以上を混合したものが用いられる。
【0034】
硬化剤としては、エポキシ樹脂に用いられる一般の硬化剤が使用される。このようなものには、アミン系化硬化剤や、酸無水物系硬化剤等が包含される。アミン系硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチルアミノプロピルアミンのような脂肪族アミン;メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、N−アミノエチルピペラジンのような脂環式ポリアミン;メタキシレンジアミンのような芳香環を含む脂肪族ポリアミン;第1、第2、第3級アミン窒素を1分子中に有するポリエチレンイミン;メタフェニレンジアミン、メチレンジアニリン、ジアミノジフェニルスルフォンのような芳香族ポリアミン;上記脂肪族ポリアミンや、芳香環を含む脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミンなどのポリアミン化合物を公知の変性方法、例えば、エポキシ化合物との付加反応、アクリロニトリル、アクリル酸エステルなどとのマイケル付加反応、メチロール化合物とのマンニッヒ反応等により生成する変性ポリアミン;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2メチルイミダゾールのようなイミダゾール系化合物;トリスジメチルアミノメチルフェノールのような3級アミン;トリスジメチルアミノメチルフェノールのトリ−2−エチルヘキシル酸塩等が挙げられる。また、主としてダイマー酸とポリアミンの縮合反応により生成する市販のバーサミド(ヘンケン白水製)やトーマイド(富士化業工業製)、サンマイド(三和化学工業製)、ラッカマイド(大日本インキ化学工業製)等の商品名で知られているポリアミドポリアミンが挙げられる。さらに、ジシアンジアミド、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドのような汎用の潜在性硬化剤や、70〜80℃で硬化可能な潜在性硬化剤を用いることもできる。
【0035】
酸無水物系硬化剤としては、例えば、ドデセニル無水コハク酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。これらは単独又は2種以上の混合物して用いられる。更に必要に応じて、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ポリアゼライン酸無水物、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物などを併用することもできる。酸無水物を硬化剤として用いる場合、イミダゾール化合物、ベンジルジメチルアミンなどの公知の硬化促進剤が通常使用される。
【0036】
(5)エポキシ接着剤の硬化
エポキシ接着剤を、室温あるいは加熱(二次加熱)して硬化させる。加熱の場合は、適宜の方法で行なわれるが、例えば、温風乾燥機、電気炉等を用いて行なう。
【0037】
これにより、予め一次加熱されたエポキシ化合物によりトリアジンチオール化合物同士の分子結合が保護されているので、エポキシ接着剤に使われる硬化剤、特にアミン系硬化剤が、トリアジンチオール化合物の被膜に対して反応しにくくなり、即ち、トリアジンチオール化合物被膜と化学結合したエポキシ化合物層によって、エポキシ接着剤に含まれる硬化剤が、トリアジンチオール同士の分子結合を切断してトリアジンチオール皮膜を破壊する事態を阻止することができ、これにより、金属に対してエポキシ接着剤が強固に接着し、被着材が確実に金属に接着されるようになる。
【0038】
次に、本発明の実施の形態に係る電鋳金型の製造方法について説明する。図3及び図4に示すように、この電鋳金型の製造方法は、以下の工程に従う。尚、この電鋳金型の製造方法は、上記の実施の形態に係る金属と被着材との接着方法が適用されるので、上記と共通する部分は、記載を省略する。
【0039】
(1)母型の作成
母型は、例えば、ベークライト材料で形成する。
(2)表面導電層の形成
母型の表面に、無電解メッキ等を用いて金属を例えば厚さ0.01mm以上施す。実施の形態では、銀鏡反応により銀を施した。
(3)電鋳(電気ニッケルメッキ)
この母型の表面に金属としてのニッケルをメッキして付設する。
【0040】
(4)トリアジンチオール化合物の被覆
母型の表面にメッキにより付設された金属の母型とは反対側の表面に、上記と同様に、トリアジンチオール化合物を被覆する。
(5)エポキシ化合物の塗布
トリアジンチオール化合物を被覆した金属の表面に、上記と同様に、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を含むエポキシ化合物を塗布する。
(6)加熱処理
エポキシ化合物を加熱処理する。加熱処理は、50〜200℃で、1〜300分、望ましくは、80〜160℃で、10〜180分行なう。
加熱は、適宜の方法で行なわれるが、例えば、温風乾燥機、電気炉等を用いて行なう。
【0041】
この加熱処理により、エポキシ化合物はトリアジンチオール化合物の被膜に対して反応し、トリアジンチオール化合物同士の分子結合を保護するようになる。即ち、この一次加熱処理によりトリアジンチオール化合物の被膜表面のチオール基とエポキシ基が反応し、トリアジンチオール化合物の被膜上にエポキシ化合物の層が形成される。
【0042】
(7)エポキシ接着剤の塗布
金属の表面に硬化剤を混合したエポキシ接着剤を塗布する。エポキシ接着剤の、エポキシ樹脂及び硬化剤は上記と同様のものが用いられる。この場合、エポキシ接着剤の塗布層にガラス繊維や化学繊維を積層し、あるいは、これらの織布または不織布などにエポキシ接着剤を含浸させたものを用いてもよい。
(8)型枠設置
母型の周囲に型枠を設ける。
【0043】
(9)被着材としてのバックアップ材の着接
その後硬化剤を混合したエポキシ接着剤を再度塗布後、型枠内に、バックアップ材として例えばセメントやコンクリートを流し込む。この場合、バックアップ材がセメントやコンクリートの場合は硬化剤を混合したエポキシ接着剤を塗布後、直ちに流し込んでも良い。バックアップ材がエポキシ樹脂あるいはエポキシ樹脂を含む組成物の場合は、一次加熱後直ちに流し込んでも良い。
そして、例えば数日間養生してエポキシ接着剤を固化させ、バックアップ材を金属に着接する。
【0044】
これにより、予め一次加熱されたエポキシ化合物によりトリアジンチオール化合物同士の分子結合が保護されているので、エポキシ接着剤に使われる硬化剤、特にアミン系硬化剤が、トリアジンチオール化合物の被膜に対して反応しにくくなり、即ち、トリアジンチオール化合物被膜と化学結合したエポキシ化合物層によって、エポキシ接着剤に含まれる硬化剤が、トリアジンチオール同士の分子結合を切断してトリアジンチオール皮膜を破壊する事態を阻止することができ、これにより、金属に対してエポキシ接着剤が強固に接着し、被着材が確実に金属に接着されるようになる。
【0045】
(10)脱型
母型を脱型する。これにより、電鋳金型が完成する。
この電鋳金型においては、成形時の熱衝撃が加わっても、金属のエポキシ接着剤に対する接着強度が大きくなっているので、金属とバックアップ材とが熱衝撃などで剥離する事態が防止され、大幅に耐久性が向上させられる。
【実施例】
【0046】
次に、実施例について説明する。また、これらの実施例については、比較例とともに、T型剥離試験を行ない、剥離強度を測定して比較を行なった。先ず、各実施例及び比較例について説明する。各実施例及び比較例の接着に係る金属シートやエポキシ化合物等の具体的な化合物名、処理条件等は図5乃至図12に示す。
【0047】
[実施例1〜12]
実施例1〜12は、図5乃至図8に示すように、脱脂洗浄した金属シート(100×20mm、厚さ0.1mm)を陽極とし、陰極には白金板を用い、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオールナトリウム塩の0.2%水溶液中で、2電極方式で所定の電圧を所定時間印荷して金属シートの電気化学的表面処理を行なった。処理した金属シートは電解液から取り出し、蒸留水で洗浄し乾燥した。この金属シートの電気化学的表面処理した部分にアセトンで10wt%に希釈したエポキシ化合物を0.2g/cm2 の割合で塗布し、所定温度で所定時間加熱処理を行なった。加熱処理後、硬化剤を混合したエポキシ接着剤を用いて前記表面処理した部分に被着材としてのポリエステル布を接着し、所定温度で所定時間加熱硬化した。
【0048】
[比較例1、5、7、9、11]
比較例1、5、7、9、11は、図9乃至図12に示すように、実施例1〜3と同じ金属シートに直接硬化剤を混合したエポキシ接着剤を用いてポリエステル布を接着し、所定温度で所定時間加熱硬化した。
【0049】
[比較例2、3、4、6、8、10、12]
比較例2、3、4、6、8、10、12は、図9乃至図12に示すように、実施例と同様に脱脂洗浄した金属シートを電気化学的表面処理し、蒸留水で洗浄乾燥後、直接硬化剤を混合したエポキシ接着剤を用いて前記表面処理した部分にポリエステル布を接着し、所定温度で所定時間加熱硬化した。
【0050】
そして、上記の実施例及び比較例について、T型剥離試験を行なった。T型剥離試験とは、図13に示すように、上記の条件で作成した試験片について、金属シートから被着材としてのポリエステル布を剥離する際の剥離強度を測定した試験である。
【0051】
図5乃至図12に試験結果を示す。この試験結果から、トリアジンチオール被膜のない金属では0.3〜0.5kN/m程度で剥離するのに対し、トリアジンチオール被膜を形成することによって直接エポキシ接着剤を塗布しても2〜3倍剥離強度が向上し、トリアジンチオール皮膜の有効性が伺える。しかし、本発明の接着方法によればさらにトリアジンチオール被膜のない金属に比べ10倍以上の強度が得られることがわかる。
【0052】
また、図14には、上記のポリエステル布(クロス)の引き剥がし距離に対する剥離強度の関係を示す。図14の中の(A)の曲線は実施例1の条件で作成した試験片の剥離試験の結果を、また(B)の曲線は比較例2の、(C)の曲線は比較例1の条件で作成した試験片の剥離試験の結果を示す。
トリアジンチオール被膜上にエポキシ化合物を塗布し一次加熱処理した実施例1は、トリアジンチオール被膜に直接エポキシ接着剤を塗布した比較例2に比べ4倍の、トリアジンチオール被膜のない比較例3に比べると10倍近い剥離強度を示している。また、トリアジンチオール被膜あるいはニッケルシートに直接エポキシ接着剤を塗布した試験片では、荷重負荷直後に最大強度を示した後一気に全面剥離した。これはエポキシ接着剤の剛性が高く、またニッケル表面とトリアジンチオール被膜あるいはエポキシ接着剤との結合が弱い場合におこる剥離現象である。これに対して、エポキシ化合物を塗布し一次加熱処理した実施例1では、高い強度を維持したまま徐々に破壊していくことがわかる。このことは、ニッケルとトリアジンチオール被膜の結合及びトリアジンチオール被膜とエポキシ化合物及びエポキシ接着剤の結合が強いために、接着が強靭になっていることを示す。実際、破断は接着剤層で起こっていることが確認された。
尚、図5乃至図8の実施例の剥離強度は平均強度を、図9乃至図12の比較例の剥離強度は最大強度を示した。
【0053】
次に、電鋳金型の製造方法に係る実施例について、剥離試験の結果とともに説明する。
[実施例13]
実施例13は、ベークライト板(300×250mm、厚さ10mm)上に外径60mm、高さ15mm、肉厚1mmのベークライト製円筒を貼り付け、これに銀鏡反応により導電層を形成した後、電気ニッケルメッキを行い厚さ3mmの電鋳ニッケル層を形成した。ベークライト板を含む電鋳ニッケル層は水洗後、乾燥しトリアジンチオール水溶液中で電位3Vで10分間電気化学的表面処理を行った。これを取り出し水洗、乾燥後、アセトンで約5%に希釈したアラルダイトLY5052(チバガイギー社製)を0.2g/cm2 の割合で塗布し140℃のオーブン中で2時間加熱処理を行なった。熱処理後冷却し、硬化剤を加えたエポキシ接着剤(アラルダイトLY5052)を塗布、さらにガラス繊維を前記エポキシ接着剤で積層した。これに冷却配管を配置したのち所定サイズの亜鉛合金枠に入れ、コンクリートを流し込み7日間養生した。養生後コンクリートおよび亜鉛合金枠と一体になった電鋳ニッケルはベークライト母型をはずし、スプルー、ランナー加工を施し射出成形用型とした。この電鋳型を用いて、型温40℃、樹脂温度200℃で熱可塑性エラストマーを成形した。30,000ショット成形後も電鋳ニッケルの剥離は認められなかった。
【0054】
[実施例14]
実施例14は、ポリカーボネート製レンズをステンレス板に貼り付け、スパッタ法により白金をコーティングしレンズ表面に導電性を付与した後、電気ニッケルメッキを行い厚さ0.5mmの電鋳ニッケル層を形成した。ステンレス板を含む電鋳ニッケル層は水洗後、乾燥しトリアジンチオール水溶液中で電位2Vで10分間電気化学的表面処理を行なった。これを取り出し水洗、乾燥後、アセトンで約10%に希釈したエピコート801(ジャパンエポキシレジン株式会社社製)を0.2g/cm2 の割合で塗布し140℃のオーブン中で2時間加熱処理を行った。加熱処理後冷却し所定サイズのアルミ枠に入れ、ニッケル粉末と硬化剤を混練したエピコート630(ジャパンエポキシレジン株式会社社製)を流し込み60℃で12時間放置後200℃まで加熱硬化した。冷却後、ニッケル粉末を混練したエポキシ樹脂と一体になった電鋳ニッケルをアルミ枠から外し、さらにポリカーボネート製レンズを電鋳ニッケルから脱型した。これにランナーやゲート、押し出しピン穴加工などを施した後、入れ子としてモールドベースに組み込み、樹脂温度300℃、金型温度100℃でポリカーボネート樹脂を成形した。1000ショット成形後も電鋳ニッケルとエポキシ樹脂バックアップ材との剥離は認められなかった。
【0055】
尚、上記の実施の形態及び実施例においては、トリアジンチオール化合物を電気化学的に金属の表面に被覆しているが、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、蒸着等、他の手段で被覆するようにしても良く、適宜変更して差支えない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る方法は、電鋳ニッケル殻とバックアップ材の強固に接着した熱衝撃に強い耐久性のある電鋳金型の製造に利用できる。また、ニッケルやニッケル合金、ステンレス、クロム、コバルトなどをはじめ多くの金属と金属あるいは金属と有機素材、無機素材との強固な接着が可能であり、封止性や密着性、高接着強度が求められる電気・電子部品や自動車部品などの製造に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の金属と被着材との接着方法及び電鋳金型の製造方法における主要部に係る接着原理を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る金属と被着材との接着方法を示す工程図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る電鋳金型の製造方法を示す工程図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る電鋳金型の製造方法を示す工程図である。
【図5】本発明の金属と被着材との接着方法に係る実施例1乃至3処理条件及び剥離強度を示す表図である。
【図6】本発明の金属と被着材との接着方法に係る実施例4乃至6処理条件及び剥離強度を示す表図である。
【図7】本発明の金属と被着材との接着方法に係る実施例7乃至9処理条件及び剥離強度を示す表図である。
【図8】本発明の金属と被着材との接着方法に係る実施例10乃至12処理条件及び剥離強度を示す表図である。
【図9】剥離試験に係る比較例1乃至3処理条件及び剥離強度を示す表図である。
【図10】剥離試験に係る比較例4乃至6処理条件及び剥離強度を示す表図である。
【図11】剥離試験に係る比較例7乃至9処理条件及び剥離強度を示す表図である。
【図12】剥離試験に係る比較例10乃至12処理条件及び剥離強度を示す表図である。
【図13】剥離試験に係る試験片の状態を示す図である。
【図14】剥離試験に係りクロスヘッドの移動距離と剥離強度との関係を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の表面にトリアジンチオール化合物を被覆した後、該金属の表面に硬化剤を混合したエポキシ接着剤を塗布し、該金属の表面に上記エポキシ接着剤を介して被着材を接着する金属と被着材との接着方法において、
上記エポキシ接着剤を塗布する前に、上記トリアジンチオール化合物を被覆した金属の表面に、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を含むエポキシ化合物を塗布し、次に、該エポキシ化合物を加熱処理することを特徴とする金属と被着材との接着方法。
【請求項2】
上記加熱処理を、50〜200℃で、1〜300分行なうことを特徴とする請求項1記載の金属と被着材との接着方法。
【請求項3】
上記加熱処理を、80〜160℃で、10〜180分行なうことを特徴とする請求項2記載の金属と被着材との接着方法。
【請求項4】
上記トリアジンチオール化合物を電気化学的に上記金属の表面に被覆することを特徴とする請求項1,2または3記載の金属と被着材との接着方法。
【請求項5】
母型の表面に金属をメッキして付設し、該金属の母型とは反対側の表面に硬化剤を混合したエポキシ接着剤を塗布し、該金属の表面に上記エポキシ接着剤を介して被着材としてのバックアップ材を接着し、その後、母型を脱型して、電鋳金型を製造する電鋳金型の製造方法において、
上記エポキシ接着剤を塗布する前に、上記母型の表面にメッキにより付設された金属の母型とは反対側の表面に、トリアジンチオール化合物を被覆し、該トリアジンチオール化合物を被覆した金属の表面に、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を含むエポキシ化合物を塗布し、次に、該エポキシ化合物を加熱処理することを特徴とする電鋳金型の製造方法。
【請求項6】
上記加熱処理を、50〜200℃で、1〜300分行なうことを特徴とする請求項5記載の電鋳金型の製造方法。
【請求項7】
上記加熱処理を、80〜160℃で、10〜180分行なうことを特徴とする請求項6記載の電鋳金型の製造方法。
【請求項8】
上記トリアジンチオール化合物を電気化学的に上記金属の表面に被覆することを特徴とする請求項5,6または7記載の電鋳金型の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−273955(P2006−273955A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92972(P2005−92972)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(306017014)地方独立行政法人 岩手県工業技術センター (61)
【出願人】(398052900)株式会社ケイ・エムアクト (1)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100093148
【弁理士】
【氏名又は名称】丸岡 裕作
【Fターム(参考)】