説明

金属の製造方法

【課題】金属塩と金属粉との混合物から金属粉成分を分離する金属の製造方法において、製造に必要なエネルギーを低減することが可能な金属の製造方法を提供する。
【解決手段】金属塩と金属粉の混合物1を、スキマー11によって区分された第1のハース10の原料投入領域12に供給し、プラズマ19aを用いて金属塩の融点以上金属粉の融点未満に加熱、保持し、上層(金属塩が溶融した溶融塩2)と、下層(金属粉の濃度の高まった高濃度固液混合物3)の2層を形成する。そして、上層の溶融塩2を第1のハースの上部の排出口から、下層の高濃度固液混合物3を下層排出口14から排出する。続いて、高濃度固液混合物3を、金属粉の融点以上に加熱、保持し、高濃度固液混合物3中の金属粉を溶融させて溶融金属とし、上層(溶融塩4)と下層(溶融金属5)を形成し、溶融塩4から溶融金属5を分離し、溶融金属5を凝固させインゴット6とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属塩と金属との混合物から金属を分離することによる金属の製造方法であって、エネルギー効率に優れた金属の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属Tiの工業的な製法としては、TiCl4をMgにより還元するクロール法が一般的であり、この方法によれば高純度の製品を製造することが可能である。しかし、生成したTi粉が凝集した状態で沈降し、反応容器外へ回収することが困難であるため、操業をバッチ方式で行わざるを得ない。また、TiCl4が反応容器内の溶融Mg液の液面に上方から液体状で供給され、溶融Mg液の液面近傍だけで反応が行われるので、TiCl4の利用効率の低下を回避し、反応に伴う局所的な発熱を避けるため、TiCl4の供給速度が制限される。その結果、製造コストが嵩み、製品価格が非常に高くなる。
【0003】
そのため、クロール法以外の金属Tiの製造方法に関して多くの研究開発がなされてきた。例えば、特許文献1には、反応容器内にCaCl2の溶融金属塩(以下、単に「溶融塩」ともいう)を保持し、その溶融塩中に上方から金属Ca粉末を供給して、溶融塩中にCaを溶け込ませるとともに、下方からTiCl4ガスを供給して、CaCl2の溶融塩中で溶解CaとTiCl4を反応させる方法が記載されている。しかし、金属Caの粉末が極めて高価であり、加えて、反応性が強いCaは取り扱いが非常に難しく、この方法は工業的な金属Ti製造法としては成立し得ない。
【0004】
そこで、本発明者らは、Ca還元による金属Tiの製造方法を工業的に確立するには、TiCl4のCaによる還元が不可欠であり、還元反応で消費される溶融塩中のCaを経済的に補充する必要があると考え、溶融CaCl2の電気分解により生成するCaを利用するとともに、このCaを循環使用する方法、即ち「OYIK法(オーイック法)」を提案した(特許文献2および3参照)。
【0005】
特許文献2では、電気分解によりCaが生成、補充され、Ca濃度が高められた溶融CaCl2を反応容器に導入し、Ca還元によるTi粒子の生成に使用する方法が記載され、特許文献3では、更に、陰極として合金電極(例えば、Mg−Ca電極)を用いることにより、電解に伴うバックリアクションを効果的に抑制する方法が示されている。バックリアクションとは、分離工程でTiが分離された後の溶融塩を電解槽に戻したときに、溶融塩中のCaと電気分解により生成したCl2との反応をいい、バックリアクションが生じると、電流効率が低下する。
【0006】
特許文献4には、前記OYIK法に立脚したTiの製造方法が記載されており、還元反応で生成したTi粒を含有する溶融塩からTiを分離する方法として、まず高温デカンターで遠心沈降によりTi粒を溶融塩から分離し、次いで分離槽でプラズマトーチから照射されるプラズマによりTi粒を加熱、溶融して、Ti粒に付着している溶融塩を除去する方法が記載されている。そして、溶融したTiは鋳型に流し込まれインゴットとなる。
【0007】
【特許文献1】米国特許第4820339号明細書
【特許文献2】特開2005−133195号公報
【特許文献3】特開2005−133196号公報
【特許文献4】国際公開第2007/105616号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献4に記載された高温デカンターは、Tiの分離用として高温で回転駆動するものであるため、長時間に亘り連続操業させるのは困難である。そこで、回転駆動を要しない方法として、Ti粒を含有する溶融塩を容器内で静置し、沈降分離を試みたところ、容器の底部にTi粒が沈降し、溶融塩中にTi粒の含有率の高い部分が形成された。この部分での溶融塩中のTi粒含有率は約10重量%と推測される。
【0009】
このようにして溶融塩中に形成されたTi粒含有率の高い部分のみを容器から抽出しようとしたところ、流動性が悪く、容器の底部まで挿入した配管によって吸入する方法および底部に排出口を設けて排出する方法のいずれの方法によっても、配管または排出口が詰まってしまい、十分に抽出することができなかった。
【0010】
この理由としては、沈降分離では溶融塩を長時間に亘り静置するため、沈降したTi粒が焼結して多孔質の塊になっていることが考えられる。そこで、沈降分離を行った際に、実際に抽出および分離槽への移送が可能な溶融塩中のTi粒含有率を検討したところ、約2重量%であった。
【0011】
分離槽において溶融塩中のTi粒を加熱、溶融する際には、Ti粒のみならず融点の低い溶融塩をもTiの融点まで加熱することとなる。そのため、溶融塩中のTi粒含有率が低いと、溶融塩の加熱量が増大し、高出力でプラズマを発生させるための大電力が必要となるため、エネルギー効率が悪い。
【0012】
そこで、本発明は、金属と溶融塩の固液混合物から金属を分離する工程を含む金属の製造方法であって、エネルギー効率に優れた方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、分離槽に移送可能な状態であり、且つ金属粉の含有率の高い溶融塩と金属粉との固液混合物を得る方法について検討した。
【0014】
そして、スキマーにより区分され、スキマーの下部に排出口を有する領域を備えるハースを用い、前記領域において、高温デカンターから排出された金属粉を含む溶融塩をプラズマによって加熱し、溶融塩の融点以上当該金属の融点未満の温度で保持したところ、比重差によって溶融塩のみからなる上層と当該金属粉を高率で含有する溶融塩と金属粉の固液混合物からなる下層に分離させることができ、さらにスキマー下部の排出口から下層の固液混合物を金属粉含有率の高いまま排出することができた。
【0015】
このように、金属粉の含有率が高いまま固液混合物を排出できた理由は、このハースでは、溶融塩の投入側およびスキマー下部の排出口ともに圧損がかからない状態であり、金属粉が焼結しないため、上層のみならず下層も容易に流動可能であったことによると考えられる。そのため、上層の溶融塩のみをハースから排出することにより、容易に下層の金属粉を高率で含有する固液混合物を抽出することが可能であった。
【0016】
このようなハースを用いて得られる金属粉を高率で含有する固液混合物は、そのままの状態で分離槽に移送することが可能である。そのため、固液混合物の溶融塩と金属を溶融させ、分離する際のエネルギー効率を向上させることが可能となる。
【0017】
本発明は、このような知見に基づいてなされたもので、その要旨は、下記の金属の製造方法にある。
【0018】
下記(a)〜(f)の工程を備える金属の製造方法。
(a)スキマーによって区分され、上部に上層排出口、前記スキマーの下部に下層排出口を有する原料投入領域を備える第1のハースの前記原料投入領域に、金属塩と前記金属塩よりも融点の高い金属からなる金属粉との混合物を供給する工程、
(b)前記第1のハースの原料投入領域中の混合物を、プラズマを用いて前記金属塩の融点以上前記金属の融点未満に加熱、保持し、前記金属塩と前記金属との比重差によって、前記金属塩が溶融した溶融塩からなる上層と、前記溶融塩と前記金属粉が混合し、前記混合物よりも前記金属粉の濃度の高まった高濃度固液混合物からなる下層の2層を形成する工程、
(c)前記上層の溶融金属塩を前記上層排出口から排出し、前記下層の高濃度固液混合物を前記下層排出口から排出する工程、
(d)前記下層排出口から排出された前記高濃度固液混合物を、前記金属の融点以上に加熱して、前記高濃度固液混合物中の前記金属粉を溶融させ、液体混合物とする工程、
(e)前記液体混合物を前記金属の融点以上に保持し、比重差によって前記溶融塩からなる上層と前記金属粉が溶融した溶融金属からなる下層を形成する工程、および
(f)前記溶融塩から分離した前記溶融金属を凝固させる工程。
【0019】
上記(a)における金属塩は、固体状態であっても液体状態であってもよい。また、「金属粉の濃度」とは、原料や固液混合物中の金属粉の含有率を意味し、単に「金属濃度」ともいう。
【0020】
上記の金属の製造方法において、前記金属塩としてCaCl2、前記金属としてTiを用いることができる。また、前記金属はTi単体のみならずTi合金であってもよい。
【0021】
上記の金属の製造方法において、前記第1のハースが、前記スキマーによって、前記原料投入領域と、金属高濃度領域とに区分されるとともに、前記原料投入領域および前記金属高濃度領域が前記スキマーの下方に設けられた前記下層排出口によって連通され、前記金属高濃度領域に、前記高濃度固液混合物が排出されるものとすることができる。
【0022】
上記の金属の製造方法の前記工程(c)において、前記下層の高濃度固液混合物を第2のハースに排出し、前記工程(d)および前記工程(e)を、前記第2のハースにおいて、プラズマを用いて前記高濃度固液混合物を加熱することによって行ってもよいし、前記下層の高濃度固液混合物を前記金属高濃度領域に排出し、前記工程(d)および前記工程(e)を前記金属高濃度領域において、プラズマを用いて前記高濃度固液混合物を加熱することによって行ってもよい。また、前記工程(c)において、前記第1のハースを揺動させることにより前記高濃度固液混合物を排出してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の金属の製造方法によれば、分離槽に金属粉の濃度の高い固液混合物を供給することができるため、分離槽において金属粉を溶融塩ともに溶融させる際の溶融塩の量を減少させることができ、エネルギー効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の金属の製造方法は、上述の工程(a)〜(f)を備える金属の製造方法である。
【0025】
〈第1の実施形態〉
図1は、本発明の第1の実施形態に係る金属の製造方法に用いる装置の構成例を示す図である。図1に示すように、この装置においては、上方から順に、第1のハース10、第2のハース(分離槽)20、鋳型30が配置されている。また、装置の外観は図示しないチャンバーによって構成されており、チャンバーの内部はアルゴン等の不活性ガス雰囲気に保たれている。
【0026】
第1のハース10はスキマー11によって、内部が原料投入領域12と金属高濃度領域(Ti高濃度領域)13に区分されている。原料投入領域側の側壁16の上縁は、Ti高濃度領域側の側壁17の上縁よりも高く設定されており、双方の側壁16、17の上縁には液体等の流動物の排出のための溝(図示せず)が形成されている。
【0027】
原料投入領域12には、金属塩であるCaCl2と金属粉であるTi粉との混合物からなる原料1が投入される。原料投入領域12とTi高濃度領域13とは、スキマー11の下部に設けられた下層排出口14によって連通している。第1のハース10の上方には、首振り運動が可能であり、原料投入領域12およびTi高濃度領域13にプラズマ19aの照射が可能なプラズマトーチ19が配置されている。
【0028】
同様に、第2のハース20もスキマー21によって、内部が溶融塩流入領域22と溶融Ti領域23とに区分されており、両領域22、23はスキマー21の下部に設けられた連通口24によって連通している。溶融塩流入領域側の側壁26の上縁は、溶融Ti領域側の側壁27の上縁よりも高く設定されており、双方の側壁26、27の上縁には液体等の流動物の排出のための溝(図示せず)が形成されている。
【0029】
溶融塩流入領域22は、第1のハース10のTi高濃度領域13から排出された液体または固液混合物を受けることができる位置に配置されている。また、第2のハース20の上方には、首振り運動が可能であり、溶融塩流入領域22および溶融Ti領域23にプラズマ29aの照射が可能なプラズマトーチ29が配置されている。
【0030】
第1のハース10および第2のハース20としては例えば銅製の水冷ハースを使用することができ、スキマー11、21としては例えばY23(イットリア)やAl23(アルミナ)等のセラミックス製の板を使用することができる。
【0031】
次に第1のハース10における操作について説明する。原料投入領域12から原料1を投入し、プラズマトーチ19からプラズマ19aを照射して、CaCl2の融点以上、Tiの融点未満に加熱し、Ti粉とCaCl2の溶融塩の固液混合物を生成させる。
【0032】
そして、この固液混合物をCaCl2の融点(780℃)以上、Tiの融点(1680℃)未満に保持し、TiとCaCl2との比重差によってTi粉を沈降させ、上層(溶融塩2)と、下層(Ti粉の含有率の高められた高濃度固液混合物3)の上下2層に分離させる。この場合の保持温度は、800℃以上1000℃以下とすることができる。
【0033】
また、金属塩として、CaCl2にKCl等を混合したものを使用してもよく、その場合には金属塩の融点がCaCl2に比べて低下するため、保持温度を750℃以上1000℃以下とすればよい。
【0034】
そして、原料1の溶融が進行するにともない随時原料1を原料投入領域12に追加投入すると、追加した原料1も溶融する。そして、固液混合物は上下2層に分離した状態で原料投入領域12およびTi高濃度領域13において液面が上昇する。
【0035】
さらに、原料1を追加して、Ti高濃度領域側の側壁17の上縁よりも液面が高くなると、Ti高濃度領域13側の上層の溶融塩が第1のハース10から第2のハース20に排出され始める。上層の溶融塩が全て排出されると、Ti高濃度領域13は高濃度固液混合物3のみが占める状態となり、高濃度固液混合物3が第2のハース20に排出される。
【0036】
原料1中のTi濃度が2〜10%である場合、第1のハース10から排出される高濃度固液混合物3中のTi濃度は30〜60%に上昇する。以下、原料または固液混合物におけるTiの含有率(重量%)をTi濃度という。
【0037】
一方、原料投入領域12においても液面が上昇し、液面が原料投入領域側の側壁16の上縁よりも高くなると、溶融塩2が排出され始める。排出された溶融塩2は、TiCl4の還元反応に再利用することができる。
【0038】
原料1の追加は、少量ずつ連続して行ってもよいし、所定の時間をおいて行ってもよい。時間間隔が長くなる場合には、溶融塩2および高濃度固液混合物3は間欠的に第1のハース10から排出される。
【0039】
次に、溶融塩と金属を分離する分離槽である第2のハース20における操作について説明する。第1のハース10から第2のハース20の溶融塩流入領域22に流入した高濃度固液混合物3(最初に流入した少量の溶融塩を含む)にプラズマトーチ29からプラズマ29aを照射して、Tiの融点以上に加熱し、高濃度固液混合物3の全体を溶融状態とする。そして、この溶融物をTiの融点以上に保持し、TiとCaCl2との比重差によって溶融Ti5を沈降させ、上層(溶融塩4)と、下層(溶融Ti5)の上下2層に分離させる。
【0040】
そして、第1のハース10からの高濃度固液混合物3の流入が進行すると、溶融物は2層に分離した状態で溶融塩流入領域22と溶融Ti領域23において液面が上昇し、溶融Ti領域側の側壁27の上縁から鋳型30に溶融塩が排出され始める。溶融塩が全て排出されると、溶融Ti領域23は溶融Ti5のみが占める状態となり、溶融Ti5が鋳型30に排出され、Tiインゴット6が鋳造される。
【0041】
一方、溶融塩流入領域22においても液面が上昇し、液面が溶融塩流入領域側の側壁26の上縁よりも高くなると、溶融塩4が排出され始める。この溶融塩4も、TiCl4の還元反応に再利用することができる。
【0042】
図1には、第1のハース10のTi高濃度領域13および第2のハース20の溶融Ti領域23から溶融塩の排出が完了した後の定常状態が示されている。定常状態においては、第1のハース10では、Ti高濃度領域13から高濃度固液混合物3、原料投入領域12から溶融塩2が排出され、第2のハース20では、溶融Ti領域23から溶融Ti5、溶融塩流入領域22から溶融塩4が排出される。
【0043】
このように、本発明の製造方法によれば、原料に含まれるTiとCaCl2とを分離するにあたって、まず第1のハース10で、CaCl2の融点以上、Tiの融点未満の比較的低温でTi濃度を高めた高濃度固液混合物を生成させ、Ti濃度の高いまま分離槽である第2のハース20へ移送することができる。これに続いて、第2のハース20では、CaCl2が減少した高濃度固液混合物3の全体を、Tiの融点以上の高温で溶融させ、溶融Ti5と溶融塩4とを分離する。
【0044】
したがって、1個のハースでTiを含む原料の全体を高温で溶融させてTiを分離する従来の方法と比べて、Tiの融点以上に加熱するCaCl2の量を減少させることができる。このため、原料に含まれるTiとCaCl2を分離するのに必要なエネルギーを大きく低減することができるとともに、装置を囲繞するチャンバーの内部でのCaCl2の蒸発量を低減し、チャンバー内部の汚染や、排気系の損傷を低減することもできる。
【0045】
図1に示す定常状態では、Tiの方がCaCl2よりも比重が大きいことから、第1のハース10では原料投入領域12側の液面の方がTi高濃度領域13側よりも高い状態、第2のハース20では溶融塩流入領域22側の液面の方が溶融Ti領域23側よりも高い状態で安定する。
【0046】
そのため、原料投入領域側の側壁16の上縁をTi高濃度領域側の側壁17の上縁よりも高く設定することおよび溶融塩流入領域側の側壁26の上縁を溶融Ti領域側の側壁27の上縁よりも高く設定することができる。これにより、原料投入領域12および溶融塩流入領域22における上層(溶融塩2、4)の深さを確保し、それぞれ排出口から上層と下層との境界までの距離を大きくすることができ、Ti粉又は溶融Tiをより多く沈降させることができるため、排出される溶融塩2、4中のTi含有量を少なくすることができる。
【0047】
〈第2の実施形態〉
図2は、本発明の第2の実施形態に係る金属の製造方法に用いる装置の構成例を示す図である。第2の実施形態は第1のハースにおいて高濃度固液混合物を溶融させる点が異なる以外は第1の実施形態と同様であり、図において実質的に同一の部分については同一の符号を付している。
【0048】
本実施形態の定常状態では、第1のハース10の原料投入領域12においては、第1の実施形態と同様に、原料1の溶融した固液混合物はCaCl2の融点以上Tiの融点未満に保持され、上層(溶融塩2)と、下層(高濃度固液混合物3)の上下2層に分離している。そして、下層の高濃度固液混合物3は、スキマー11の下部に設けられた下層排出口14からTi高濃度領域13に流入している。
【0049】
Ti高濃度領域13では、高濃度固液混合物3の液面へのプラズマ19aの照射により、液面近傍はTiの融点以上に保持され、高濃度固液混合物3中のTi粉が溶融する。そのため、Ti高濃度領域13のスキマー11近傍では、原料投入領域12から流入した高濃度固液混合物3が露出し、Ti高濃度領域側の側壁17の近傍では、溶融塩4からなる上層と、この露出した高濃度固液混合物3中のTi粉が溶融した溶融Ti5が沈降した下層の上下2層に分離する。
【0050】
上述の、プラズマトーチ19を用いた液面等の温度調整は、プラズマトーチ19の首振り速度を調整し、各領域の液面等の近傍でのプラズマトーチ19の滞在時間を調整することにより実現可能である。
【0051】
そして、原料投入領域12への原料1の追加により、Ti高濃度領域13における液面が上昇すると、Ti高濃度領域側の側壁17の上縁から溶融塩4および溶融Ti5が第2のハース20に排出される。
【0052】
第2のハース20において、第1のハース10から溶融塩流入領域22に流入した溶融塩4および溶融Ti5を、プラズマ29aによって引き続きTiの融点以上に加熱、保持すると、TiとCaCl2との比重差によって溶融Ti5が沈降し、上層(溶融塩4)と、下層(溶融Ti5)の上下2層に分離する。そして、第1の実施形態と同様に、第2のハース20の溶融塩流入領域22から溶融塩4が排出され、溶融Ti5は鋳型30に排出され、Tiインゴット6が鋳造される。
【0053】
このように、第1のハース10のTi高濃度領域13において、高濃度固液混合物3の液面近傍をTiの融点以上に保持することにより、高濃度固液混合物3の流動性が悪く第2のハース20に排出されにくい場合でも、溶融塩4と溶融Ti5として溶融させ、排出することができる。
【0054】
〈第3の実施形態〉
図3は、本発明の第3の実施形態に係る金属の製造方法に用いる装置の構成例および動作を示す図である。第3の実施形態は、第1の実施形態と比べ、第1のハースが揺動可能である点が異なる以外は同様であり、図3では第1のハースのみを示すとともに実質的に第1の実施形態と同一の部分については同一の符号を付す。
【0055】
本実施形態では、第1のハース10は下面に設けられた支軸18によって、原料投入領域12側が上昇するとTi高濃度領域13側が下降し、原料投入領域12側が下降するとTi高濃度領域13側が上昇するように揺動可能に支持されている。
【0056】
図3(a)は、定常状態において、溶融塩2および高濃度固液混合物3の排出が停止した状態、同図(b)は、第1のハース10の原料投入領域12側を下降させ、溶融塩2を排出している状態、同図(c)は、さらに原料投入領域12側を下降させ、第1のハース10から溶融塩2の排出を完了した状態、同図(d)は、第1のハース10のTi高濃度領域13側を下降させ、高濃度固液混合物3を排出している状態を示す図である。
【0057】
図3(a)に示す水平な状態から、同図(b)に示すように、第1のハース10の原料投入領域12を下降させ、溶融塩2を排出させる。このとき、高濃度固液混合物3を巻き上げないようにすることおよびスキマー11の下端からTi高濃度領域13に溶融塩2が移行しないようすることに注意する。
【0058】
そして、図3(c)に示すように、さらに原料投入領域12側を下降させ、所定量の溶融塩2の排出が完了すると、同図(d)に示すようにTi高濃度領域13側を下降させ、高濃度固液混合物3を排出させる。
【0059】
図3(c)に示す状態から同図(d)に示す状態に移行する間の、第1のハース10を水平に戻した際には、スキマー11の下端から液面が離れない量の高濃度固液混合物3を残すようにするのが望ましい。これは、スキマー11の下端から液面が離れると、原料投入領域12側の溶融塩2がTi高濃度領域13側に移行し、高濃度固液混合物3中のTi濃度を低下させるとともに、新たに追加した原料が溶融した際に生成する溶融塩2がTi高濃度領域13側にも移行するからである。
【0060】
高濃度固液混合物3の排出を完了した後は、第1のハース10を再び図3(a)に示すように水平に戻し、原料投入領域12から原料1を投入する。この一連の揺動動作の間、溶融塩2および高濃度固液混合物3の温度はCaCl2の融点以上、Tiの融点未満に保持する。
【0061】
このように第1のハース10を揺動させることによって、高濃度固液混合物3の流動性が悪い場合でも、強制的に第2のハース20に排出させることができる。
【0062】
揺動させる場合に、図3(b)および(c)に示す原料投入領域12側の下降を省略し、同図(a)の状態から直接同図(d)に示すようにTi高濃度領域13側を下降させてもよい。しかし、原料投入領域12側の溶融塩2がTi高濃度領域13側に移行するのを抑制するため、高濃度固液混合物3の排出に先立って、原料投入領域12の下降による溶融塩2の排出を行うことが望ましい。
【0063】
また、このような揺動は、第1のハース10のみならず第2のハース20で行ってもよい。これにより、溶融Ti5の流動性が悪い場合でも、第2のハース20から鋳型30に排出することができる。
【実施例】
【0064】
本発明の金属の製造方法の効果を確認するため、下記の製造実験を行い、その結果を評価した。
【0065】
1.製造条件
図1に示す製造装置を用いて、原料を溶融塩とTiに分離し、Tiのインゴットを鋳造した。表1は、用いた製造装置の条件である。チャンバー内雰囲気はアルゴン雰囲気とし、第1のハースと第2のハースとは同じものを用いた。
【0066】
表2は、原料組成、重量ならびに第1のハースおよび第2のハースにおける溶融電流量および溶融時間の条件である。原料は、Ti粉を2重量%とCaCl2を98重量%含有する混合物とし、3000g用いた。
【0067】
溶融電流とは、プラズマトーチに流す電流である。第1のハースにおける溶融電流は、比較例では、原料全体が溶融するように設定し、本発明例では、原料のうちCaCl2のみが溶融し、Ti粉と溶融塩との固液混合物が生成するように設定した。第2のハースにおける溶融電流は、比較例、本発明例とも、原料全体が溶融するように設定した。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
2.試験結果
上記条件で行ったTiインゴットの鋳造について、表3に示すように、第1のハースでのCaCl2の蒸発量、高濃度固液混合物中のTi濃度、Tiインゴットの鋳造の可否および使用総エネルギー量を指標として評価を行った。使用総エネルギー量とは、第1のハースに原料の投入を開始してからインゴットの鋳造が完了するまでの間に、第1のハース用のプラズマトーチと第2のハース用のプラズマトーチで使用したエネルギー量の合計である。第1のハースでのCaCl2の蒸発量および使用総エネルギー量については、比較例を1とした相対量で示した。
【0071】
【表3】

【0072】
表3に示すように、比較例、本発明例ともに、Tiインゴットの鋳造は可能であった。さらに本発明例では、比較例よりも第1のハースでの溶融電流量を少なく設定したため、第1のハースでのCaCl2の蒸発量および使用エネルギー量を比較例と比べて低い値とすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の金属の製造方法は、第1のハースにおいて、金属塩のみが溶融し、金属粉が溶融しない温度に原料を保持して生成した固液混合物において、溶融塩を除去して金属粉濃度を上昇させた後、第2のハースで固液混合物の全体を溶融させるため、金属粉の融点以上に加熱する溶融塩を減少させることができるため、原料から金属を分離する際のエネルギー効率を向上させることができる。
【0074】
したがって、本発明の金属の製造方法によれば、金属粉が溶融塩と混合した状態で得られる、溶融塩中で金属の塩化物等を還元することにより、例えば金属Tiの製造において有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る金属の製造方法に用いる装置の構成例を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る金属の製造方法に用いる装置の構成例を示す図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る金属の製造方法に用いる装置の構成例および動作を示す図であり、(a)は、定常状態において、溶融塩および高濃度固液混合物の排出が停止した状態、(b)は、第1のハースの原料投入領域側を下降させ、溶融塩を排出している状態、(c)は、さらに原料投入領域12側を下降させ、第1のハースから溶融塩の排出を完了した状態、(d)は、第1のハースのTi高濃度領域側を下降させ、高濃度固液混合物を排出している状態を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1 原料
2 溶融塩
3 高濃度固液混合物
4 溶融塩
5 溶融Ti
6 Tiインゴット
10 第1のハース
11 スキマー
12 原料投入領域
13 金属高濃度領域(Ti高濃度領域)
14 下層排出口
16 側壁(原料投入領域側)
17 側壁(Ti高濃度領域側)
18 支軸
19 プラズマトーチ
20 第2のハース(分離槽)
21 スキマー
22 溶融塩流入領域
23 溶融Ti領域
24 連通口
26 側壁(溶融塩流入領域側)
27 側壁(溶融Ti領域側)
29 プラズマトーチ
30 鋳型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(f)の工程を備える金属の製造方法。
(a)スキマーによって区分され、上部に上層排出口、前記スキマーの下部に下層排出口を有する原料投入領域を備える第1のハースの前記原料投入領域に、金属塩と前記金属塩よりも融点の高い金属からなる金属粉との混合物を供給する工程、
(b)前記第1のハースの原料投入領域中の混合物を、プラズマを用いて前記金属塩の融点以上前記金属の融点未満に加熱、保持し、前記金属塩と前記金属との比重差によって、前記金属塩が溶融した溶融塩からなる上層と、前記溶融塩と前記金属粉が混合し、前記混合物よりも前記金属粉の濃度の高まった高濃度固液混合物からなる下層の2層を形成する工程、
(c)前記上層の溶融金属塩を前記上層排出口から排出し、前記下層の高濃度固液混合物を前記下層排出口から排出する工程、
(d)前記下層排出口から排出された前記高濃度固液混合物を、前記金属の融点以上に加熱して、前記高濃度固液混合物中の前記金属粉を溶融させ、液体混合物とする工程、
(e)前記液体混合物を前記金属の融点以上に保持し、比重差によって前記溶融塩からなる上層と前記金属粉が溶融した溶融金属からなる下層を形成する工程、および
(f)前記溶融塩から分離した前記溶融金属を凝固させる工程。
【請求項2】
前記金属塩がCaCl2であり、前記金属がTiであることを特徴とする請求項1に記載の金属の製造方法。
【請求項3】
前記第1のハースが、前記スキマーによって、前記原料投入領域と、金属高濃度領域とに区分されるとともに、前記原料投入領域および前記金属高濃度領域が前記スキマーの下方に設けられた前記下層排出口によって連通され、前記金属高濃度領域に、前記高濃度固液混合物が排出されることを特徴とする請求項1または2に記載の金属の製造方法。
【請求項4】
前記工程(c)において、前記下層の高濃度固液混合物を第2のハースに排出し、
前記工程(d)および前記工程(e)を、前記第2のハースにおいて、プラズマを用いて前記高濃度固液混合物を加熱することによって行うことを特徴とする請求項1または2に記載の金属の製造方法。
【請求項5】
前記工程(c)において、前記下層の高濃度固液混合物を前記金属高濃度領域に排出し、
前記工程(d)および前記工程(e)を前記金属高濃度領域において、プラズマを用いて前記高濃度固液混合物を加熱することによって行うことを特徴とする請求項3に記載の金属の製造方法。
【請求項6】
前記工程(c)において、前記第1のハースを揺動させることにより前記高濃度固液混合物を排出することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の金属の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−299098(P2009−299098A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151912(P2008−151912)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(397064944)株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ (133)
【Fターム(参考)】